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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂および積層体
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/672 20060101AFI20241022BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C08G63/672
B32B27/36
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020149200
(22)【出願日】2020-09-04
(65)【公開番号】P2022043746
(43)【公開日】2022-03-16
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北口 貴之
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-212228(JP,A)
【文献】特開2012-214558(JP,A)
【文献】特開2013-249443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63、C09J、C09D
B32B27
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂を構成する酸成分として、全酸成分に対し芳香族ジカルボン酸が85~100モル%であり、グリコール成分として、ポリテトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールをそれぞれ含有し、全グリコール成分に対しポリテトラメチレングリコールが20モル%以上、ネオペンチルグリコールが40モル%未満である共重合ポリエステル樹脂。
【請求項2】
ガラス転移温度が-45℃以下である請求項1記載の共重合ポリエステル樹脂。
【請求項3】
全グリコール成分に対し、1,4-シクロヘキサンジメタノールが40モル%未満である請求項1または2記載の共重合ポリエステル樹脂。
【請求項4】
請求項1~いずれか記載の共重合ポリエステル樹脂と、硬化剤とを含有する共重合ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
硬化剤がイソシアネート系硬化剤である請求項記載の共重合ポリエステル樹脂組物。
【請求項6】
請求項または記載の共重合ポリエステル樹脂組成物よりなる塗膜。
【請求項7】
請求項に記載の塗膜を有する積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温粘着性と耐湿熱性に優れる共重合ポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル樹脂は、耐熱性、耐薬品性、耐久性、機械的強度に優れており、フ
ィルム、ペットボトル、繊維、トナー、電機部品など、幅広い用途で用いられている。ま
た、ポリエステル樹脂は、接着性にも優れておりホットメルトの接着剤や、硬化剤などを
用いて熱で反応させる熱硬化タイプの接着剤としても利用されている。
【0003】
これらの接着剤においては、優れた接着性や耐久性等の接着特性を発揮させるため、室
温よりもかなり高いガラス転移温度や融点を有しており、また、かなり高密度に架橋させ
ており、室温付近では非常に硬い状態となっている。このため、上記のような接着剤では
、接着させる際には加熱装置が必要であり、コストが高くなるといった問題があった。
【0004】
一方、ポリエステル樹脂を粘着剤として使用することが試みられている。例えば、特許
文献1では、ポリエステル樹脂を主成分とする粘着剤組成物において、特定炭素数の脂肪族ジカルボン酸成分を特定量導入したポリエステル樹脂を用いることで、機械的強度と柔軟性の両立を図り、耐熱性と粘着性を向上させている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたような粘着剤組成物では、さらなる低温条件下での粘着性や、湿潤環境下で用いる耐湿熱性が不足した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-249443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような問題点を解決し、溶剤溶解性に優れるため粘着剤として使用する
ことができ、かつ低温粘着性、耐湿熱性のいずれにも優れる共重合ポリエステル樹脂を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)ポリエステル樹脂を構成する酸成分として、全酸成分に対し芳香族ジカルボン酸が85~100モル%であり、グリコール成分として、ポリアルキレングリコール、ネオペンチルグリコール、脂環族グリコールをそれぞれ含有し、全グリコール成分に対しポリアルキレングリコールが20モル%以上、ネオペンチルグリコールが40モル%未満である共重合ポリエステル樹脂。
(2)ガラス転移温度が-45℃以下である(1)の共重合ポリエステル樹脂。
(3)ポリアルキレングリコールがポリテトラメチレングリコールである(1)または(2)の共重合ポリエステル樹脂。
(4)全グリコール成分に対し、脂環族グリコールが40モル%未満である(1)~(3)の共重合ポリエステル樹脂。
(5)脂環族グリコールが1,4-シクロヘキサンジメタノールである(1)~(4)の共重合ポリエステル樹脂。
(6)(1)~(5)の共重合ポリエステル樹脂と、硬化剤とを含有する共重合ポリエステル樹脂組成物。
(7)硬化剤がイソシアネート系硬化剤である(6)の共重合ポリエステル樹脂組成物。
(8)(6)または(7)の共重合ポリエステル樹脂組成物よりなる塗膜。
(9)(8)の塗膜を有する積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、特定構造を有するポリエステル樹脂としているため、ポリエステル樹脂が本来有している粘着特性を損なうことなく、優れた低温粘着性と耐湿熱性を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
<ポリエステル>
本発明の共重合ポリエステル樹脂(以下、共重合ポリエステル樹脂(A)と称することがある。)は、構成原料として、多価カルボン酸成分とグリコール成分を共重合することにより得られるものである。
【0012】
本発明で用いる共重合ポリエステル樹脂(A)は、多価カルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸を必要とし、全多価カルボン酸成分に対して芳香族ジカルボン酸が85モル%以上含有するものである。酸成分中における芳香族ジカルボン酸の含有量は、85モル%以上であることが必要であり、中でもモル90%以上が好ましく、さらには95~100モル%であることが好ましい。かかる含有割合が低すぎると、ポリエステル樹脂の凝集力が低下し、耐湿熱性や保持力が劣るものとなる。芳香族ジカルボン酸としては、基材への粘着力、耐湿熱性の観点からテレフタル酸が好ましく、また、溶剤溶解性の観点からイソフタル酸が好ましい。
【0013】
共重合ポリエステル樹脂(A)を構成する多価カルボン酸成分として、テレフタル酸やイソフタル酸以外に用いることのできる多価カルボン酸成分としては、特に制限はされないが、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’-ジカルボキシビフェニル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-ヒドロキシ-イソフタル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、1,3,4-ベンゼントリカルボン酸、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、シュウ酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルネンジカルボン酸などや、またはその無水物が挙げられる。なかでも、耐湿熱性の観点から、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸を含有することが好ましい。
【0014】
共重合ポリエステル樹脂(A)を構成するグリコール成分としては、ポリアルキレングリコール、ネオペンチルグリコール、脂環族グリコールをそれぞれ必要とし、全グリコール成分に対するポリアルキレングリコールの含有量が20モル%以上であり、ネオペンチルグリコールの含有量が40モル%未満のものである。グリコール成分中におけるポリアルキレングリコールの含有量は、20モル%以上であることが必要であり、中でも20~60モル%が好ましく、さらには30~50モル%であることが好ましい。含有量が20モル%未満では低温粘着性やタック性が劣るものとなる。またネオペンチルグリコールの含有量は、40モル%未満であることが必要であり、中でも10~40モル%であることが好ましく、さらには20~30モル%であることが好ましい。含有量が40モル%以上では耐湿熱性や保持力が劣るものとなる。
【0015】
脂環族グリコールは含有する必要性がある。脂環族グリコールを含有しないと、耐湿熱性が劣る。脂環族グリコールの含有量は、40モル%未満であることが好ましく、5~40モル%であることが好ましく、15~35モル%であることがより好ましく、20~30モル%であることがさらに好ましい。含有量が40モル%以上では低温粘着性やタック性が劣る傾向があり、5モル%未満では耐湿熱性が劣ることがある。
【0016】
本発明で用いることのできるポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリヘキシレングリコール、ポリノナンジオール、ポリ(3-メチル-1,5-ペンタン)ジオール等が挙げられるが、これらの中でも粘着力や低温粘着性の点でポリテトラメチレングリコールが好ましい。また脂環族グリコールとしては、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、トリシクロデカンジメタノール、スピログリコール等が挙げられるが、これらの中でも工業的に入手しやすい点で1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸が好ましく、1,4-シクロヘキサンジメタノールであることが特に好ましい。
【0017】
共重合ポリエステル樹脂(A)を構成するグリコール成分として、ポリアルキレングリコール、ネオペンチルグリコール、脂環族グリコール以外に用いることのできるグリコール成分としては、特に制限はされないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、2,2-ブチルエチルプロパンジオール、1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,3プロパンジオール、3-メチル-1,5ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオールなどが挙げられる。中でも、溶剤溶解性の観点から、2,2-ブチルエチルプロパンジオール、1,2-プロパンジオール、または2-メチル-1,3プロパンジオールを含有することが好ましい。
【0018】
主鎖であるポリエステルポリマーに含まれるモノマーとして、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、多価カルボン酸成分およびグリコール成分以外のモノマー成分(他のモノマー成分)が用いられてもよい。なお、ポリエステルポリマーにおいて、他のモノマー成分の共重合割合は、ポリエステルポリマーに含まれる全モノマー成分に対して50モル%未満であることが好ましい。
【0019】
他のモノマー成分として、例えば、テトラヒドロフタル酸、乳酸、オキシラン、グリコール酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシイソ酪酸、2-ヒドロキシ-2-メチル酪酸、2-ヒドロキシ吉草酸、3-ヒドロキシ吉草酸、4-ヒドロキシ吉草酸、5-ヒドロキシ吉草酸、6-ヒドロキシカプロン酸、10-ヒドロキシステアリン酸、4-(β-ヒドロキシ)エトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトンなどの脂肪族ラクトンなどが挙げられる。
【0020】
また、他のモノマー成分として、モノカルボン酸、モノアルコールなどが用いられてもよい。モノカルボン酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、p-tert-ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸、4-ヒドロキシフェニルステアリン酸などが挙げられる。モノアルコールとしては、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、2-フェノキシエタノールなどが挙げられる。
【0021】
本発明の共重合ポリエステル樹脂(A)は、必要に応じて、また本発明の効果を損なわない範囲において、リン酸等の熱安定剤、ヒンダードフェノール化合物のような酸化防止剤、タルクやシリカ等の結晶核剤、滑剤、酸化チタン等の顔料、充填剤、帯電防止剤、発泡剤、架橋剤等の従来公知の添加剤を含有していてもよい。また、難燃性を付与するため、臭素系難燃剤、金属水酸化物、三酸化アンチモン等の金属酸化物、リン酸塩、硼酸塩、金属硫化物、アンモニウム塩、有機窒素系難燃剤、ケイ素系難燃剤、リン系難燃剤等を含有していてもよい。
【0022】
本発明の共重合ポリエステル樹脂(A)の数平均分子量は、5000~35000であることが好ましく、8000~30000であることがより好ましく、10000~25000であることがさらに好ましい。数平均分子量が5000未満であると、粘着力が劣ることがある。数平均分子量が35000を超えると、得られるポリエステル樹脂の溶融粘度、溶液粘度が高くなり取扱性が劣ることがある。
【0023】
本発明において共重合ポリエステル樹脂(A)の分子量を制御する方法としては、重縮合時のポリエステル溶融物を所定の溶融粘度で重合を終了する方法や、一旦分子量の高いポリエステルを製造した後、解重合剤を添加する方法、さらに単官能カルボン酸や単官能アルコールを予め添加する方法などが挙げられる。本発明では、上記のいかなる方法によって分子量を制御してもよいが、3官能以上の成分がポリエステルの末端だけではなく、分子鎖の中に配列していることが好ましい。なお、解重合剤としてアルコール成分を用いる場合は、ポリエステル末端に水酸基を付与することができ、酸成分を用いる場合は、ポリエステル末端に酸価を付与することができる。このような解重合剤成分としては、エチレングリコール、ブタンジオール、セバシン酸、アジピン酸、トリメチロールプロパン、無水トリメリット酸、ピロメリット酸などが挙げられるが、ガラス基材との密着の観点から酸成分による解重合が好ましい。この場合、酸成分の添加量としては0.1~15モル%であることが好ましく、0.5~12モル%であることがより好ましく、1。0~8モル%であることがさらに好ましい。酸成分の添加量が0.1モル%未満では、酸価が低く、ガラスに対する密着性の向上が期待できないことがある。一方、15モル%を超えると耐湿熱性が劣ることがある。
【0024】
本発明の共重合ポリエステル樹脂(A)は、ガラス転移温度が-45℃ 以下であることが好ましく、-50℃~-100℃であることがより好ましく、-60℃~-90℃であることがさらに好ましい。ガラス転移温度が-45℃を超えると、粘着力、タック性のいずれにも劣ることがある。
【0025】
<硬化剤>
本発明における硬化剤としては、公知のものを用いることができる。硬化剤を含有することで、得られる粘着剤の粘着力と耐湿熱性をバランスよく高めることができる。用いることのできる硬化剤は、上記共重合ポリエステル樹脂(A)が有する官能基、または共重合ポリエステル樹脂(A)が反応して形成される官能基(例えば、カルボキシル基やその無水物、水酸基、エポキシ基、イソシアネート基など)との反応性を有する化合物であれば、特に限定されるものではないが、低温での反応性の観点からは、イソシアネート系硬化剤を用いることが特に好ましい。
【0026】
前記イソシアネート系硬化剤としては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートが挙げられる。上記イソシアネート系硬化剤中、凝集力、粘着力の観点から、芳香族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートが好ましい。さらに芳香族ジイソシアネートの中でもトリレンジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートの中でもイソホロンジイソシアネートおよびこれらを2価または3価の多価アルコールと反応させたアダクト体、ビュレット体、イソシアヌレート体が特に好ましい。
【0027】
硬化剤の含有量は、共重合ポリエステル樹脂(A)に対し1~10質量部であることが好ましく、2~9質量部であることがより好ましく、3~8質量部であることがさらに好ましい。硬化剤(C)の含有量が1質量部未満では、硬化性が不十分であるため耐湿熱性、保持力が劣ることがある。一方、10質量部を超えると粘着力、タック性が不十分となることがある。
【0028】
次に、本発明の共重合ポリエステル樹脂(A)の製造方法について説明する。
まず、多価カルボン酸およびグリコールなどのモノマーの組み合わせを適宜選択し、これらを公知の重合法で重合して、共重合ポリエステル樹脂(A)を得ることができる。つまり、原料モノマーを反応缶に投入した後、エステル化反応をおこなった後、公知の方法で所望の分子量に達するまで重縮合させることにより、共重合ポリエステル樹脂(A)を製造することができる。エステル化反応は、例えば、180℃以上の温度において4時間以上行なわれる。
【0029】
重縮合反応は、一般的には、130Pa以下の減圧下、220~280℃の温度下で、重合触媒を用いて行なわれる。重合触媒は、テトラブチルチタネ-トなどのチタン化合物、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム、酢酸亜鉛などの金属の酢酸塩、三酸化アンチモン、ヒドロキシブチルスズオキサイド、オクチル酸スズなどの有機スズ化合物などが挙げられる。なお、重合触媒の使用量は、少量では反応が遅く、過多では得られる共重合ポリエステル樹脂(A)の色調が低下するため、酸成分1モルに対し、0.1~20×10-4モルであることが好ましい。
【0030】
本発明の共重合ポリエステル樹脂(A)は溶剤に溶解して使用することが好ましいものであるが、溶剤としては有機溶剤が好ましい。有機溶剤としては、特に限定はされず、例えば、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ソルベッソなどの芳香族系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコールなどのアルコール系溶剤、酢酸エチル、酢酸ノルマルブチルなどのエステル系溶剤、セロソルブアセテート、メトキシアセテートなどのアセテート系溶剤などが挙げられる。これらの溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0031】
上述のように、共重合ポリエステル樹脂(A)を有機溶剤に溶解することによって粘着剤とすることができる。前記接着剤の固形分濃度は、5~60質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましく、20~40質量%であることがさらに好ましい。固形分濃度が5質量%未満であると、後述のように基材に接着剤を塗工した際に、十分な塗工量で塗布することができない。一方、60質量%を超えると接着剤の溶液粘度が高くなり過ぎるため、基材に接着剤を塗工した際に、厚さ精度が低下する。
【0032】
本発明のポリエステル樹脂(A)には、必要に応じて、粘着付与樹脂を組み合わせることができる。
【0033】
前記粘着付与樹脂としては、特に限定されるものではなく、従来公知のものを使用する
ことができ、例えば、テルペン系粘着付与樹脂、フェノール系粘着付与樹脂、ロジン系粘
着付与樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環族系石油樹
脂、キシレン樹脂、エポキシ系粘着付与樹脂、ポリアミド系粘着付与樹脂、ケトン系粘着
付与樹脂、エラストマー系粘着付与樹脂などが挙げられ、特に植物由来のロジン系やテル
ペン系粘着付与樹脂を用いることが好ましい。これらは、1 種または2 種以上を組み合わせて使用できる。
【0034】
前記テルペン系樹脂として、具体的には、α-ピネン重合体、β-ピネン重合体、ジペンテン重合体や、これらをフェノール変性、芳香族変性、水素添加変性、炭化水素変性したテルペン系樹脂を使用することができる。
【0035】
前記フェノール系粘着付与樹脂としては、具体的には、フェノール、m-クレゾール、
3,5-キシレノール、p-アルキルフェノール、レゾルシンなどの各種フェノール類と
、ホルムアルデヒドとの縮合物を使用することができる。更に、前記フェノール類とホル
ムアルデヒドを、アルカリ触媒下で付加反応させて得られるレゾールや、前記フェノー
ル類とホルムアルデヒドとを、酸触媒下で縮合反応させて得られるノボラック、未変性や
変性ロジンやこれらの誘導体などのロジン類に、フェノールを酸触媒下で付加させ、熱重
合することにより得られるロジン変性フェノール樹脂などを使用することができる。
【0036】
前記ロジン系粘着付与樹脂としては、具体的には、ガムロジン、ウッドロジン、トール
油ロジンなどの未変性ロジン(生ロジン)や、これらを水添化、不均化、重合、その他の化
学的に修飾された変性ロジン、これらの誘導体を使用することができる。
【0037】
前記粘着付与樹脂の添加量は、ポリエステル樹脂(A)に対して、10~100重量部が好ましく、15~80重量部であることがより好ましく、20~60重量部であることがさらに好ましい。添加量が10重量部未満であると、粘着力の向上など添加による効果が得られず、100重量部を超えると、樹脂の凝集力が低下し、保持力や粘着力の低下を引き起こす場合がある。
【0038】
また本発明のポリエステル樹脂(A)には、必要に応じて、酸化防止剤、加水分解抑制剤、顔料などを添加することができる。酸化防止剤としては、特に限定さればいが、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤が挙げられる。また加水分解抑制剤としては、イソシアネート由来のカルボジイミドが挙げられる。また顔料としては、二酸化チタン、酸化亜鉛などが挙げられる。
【0039】
本発明において粘着剤を、例えば、各種の基材に対してコーティングし、必要に応じて乾燥させて有機溶媒の除去をおこなうことで、基材上に本発明の塗膜を形成することができる。
【0040】
本発明において粘着剤がコーティングされる対象である基材としては、特に限定されるものではないが、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ1,4-シクロヘキサンジメタノールテレフタレート(PCT)から選ばれるポリエステル基材、ポリカーボネート系基材、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)から選ばれるフッ素系基材、あるいはアクリル系基材、環状オレフィン(COC)、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン系基材、ポリ塩化ビニル系基材、ポリスチレン系基材、ポリ塩化ビニリデン系基材、エチレン-酢酸ビニル共重合体系基材、ポリビニルアルコ-ル系基材、ポリ酢酸ビニル系基材、アセタ-ル系基材、ポリアミド系基材、ポリアリレート系基材から選択され、それらの基材は同一でも異なっていてもよい。
【0041】
本発明において粘着剤を基材にコーティングする方法としては、特に限定されるものではなく、リバースロールコート法、グラビアコート法、ダイコート法、コンマコート法またはスプレーコート法などの公知の方法を用いることができる。
【0042】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、粘着特性に優れるため、各種接着、粘着用途での使用が可能である。特に、優れた低温粘着性と耐湿熱性を有するものであるため、基材に塗布して粘着、接着テープとして用いたり、電気、電子部品の実装等で用いることができる。また、建材等屋外使用においても好適に用いることができる。
【実施例
【0043】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0044】
1.評価方法
(1)共重合ポリエステル樹脂の構成
NMR測定装置(日本電子社製JNM-LA400型)にて、1H-NMR測定を行い、得られたチャートの共重合成分のピークの積分強度から樹脂組成を求めた。なお、測定溶媒としては、重水素化トリフルオロ酢酸を用いた。
【0045】
(2)共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度
入力補償型示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製、DiamondDSC、検出範囲:-50℃~200℃)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定をおこない、得られた昇温曲線中の、低温側ベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大となるような点で引いた接線との交点の温度を求め、ガラス転移温度とした。
【0046】
(3)共重合ポリエステル樹脂の数平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件でポリスチレン換算の数平均分子量を測定した。
[送液ユニット]:島津製作所社製LC-10ADvp
[紫外-可視分光光度計]:島津製作所社製SPD-6AV、検出波長:254nm
[カラム]:Shodex社製KF-803 1本、Shodex社製KF-804 2本を直列に接続して使用
[溶媒]:テトラヒドロフラン
[測定温度]:40℃
【0047】
(4)共重合ポリエステル樹脂の酸価
JIS K-0070に準拠して、試料0.5gを25mlのジオキサンに溶解し、クレゾールレッドを指示薬として0.1N-KOHで滴定した。その滴定した値を用いて、ポリエステル樹脂1トン中に含まれる当量数を計算し、酸価を求めた。
【0048】
(5)共重合ポリエステル樹脂での芳香族濃度の計算方法
ここでいう芳香環濃度は樹脂組成から算出するものであり、ベンゼン核を一個(一当量)として計算し、例えばテレフタル酸には一個、ナフタレンジカルボン酸は二個としてポリエステル樹脂の繰り返し単位あたり芳香環がいくつあるか計算し、次に樹脂1トンあたり何個(何当量)の芳香環があるかを計算する。すなわち単位は樹脂1トンあたりの当量数で表すものとする。
【0049】
(6)粘着力
粘着フィルムを25mm幅に切り出し、粘着面とPC板、またはガラス板とを重ね合わせ、小型卓上テストラミネーター(テスター産業社製SA-1010)を用い、温度23℃、圧力13.5N/cm、速度1.0m/分の条件下で圧着させ、23℃にて24時間エージングしたものを試験片とした。この試験片において、小型卓上引張試験機(島津製作所社製EZ-SX)を用い、温度23℃、引張速度300mm/分、引張角度180度の条件下で粘着力を測定した。
<PC板に対する粘着力>
◎:20N/25mm以上
○:10N/20mm以上、20N/25mm未満
△:5N/25mm以上、10N/25mm未満
×:5N/15mm未満
<ガラス板に対する粘着力>
◎:15N/25mm以上である。
○:5N/25mm以上、15N/25mm未満
△:3N/25mm以上、5N/25mm未満
×:3N/25mm未満
【0050】
(7)保持力
粘着フィルムを25mm幅に切り出し、粘着面とステンレス板(SUS304)とを重ね合わせ、小型卓上テストラミネーター(テスター産業社製SA-1010)を用い、温度23℃、圧力13.5N/cm、速度1.0m/分、接着面積25mm×25mmの条件下で圧着させ、23℃にて24時間エージングしたものを試験片とした。この試験片において、23℃の条件で荷重を1kgかけ、1時間後のずれが生じた距離(mm)を測定した。
◎:ずれが1mm未満である。
○:ずれが1mm以上、4mm未満である。
△:ずれが4mm以上、6mm未満である。
×:ずれが6mm以上である。
【0051】
(8)タック性
粘着フィルムにおいて、ボールタックテスター(安田精機製作所社製)を用い、温度23℃、角度30°の条件下で、粘着層表面に高炭素クロム鋼球を転がし、静止した最大のボールナンバーを測定した。
◎:ボールナンバーが6以上である。
○:ボールナンバーが4または5である。
△:ボールナンバーが3である。
×:ボールナンバーが2以下である。
【0052】
(9)耐湿熱性
粘着フィルムを25mm幅に切り出し、粘着面とステンレス板(SUS304)とを重ね合わせ、(6)と同じ条件で試験片の作製および粘着力測定を行い、初期粘着力とした。また上記で得た試験片において、85℃×85%RH条件下、500時間処理を行い、処理後の試験片につき、(6)と同じ条件で粘着力を測定した。また、各々につき下記式より保持率を求め、下記基準で評価した。
保持率(%)=処理後粘着力/初期粘着力×100
◎:保持率が90%以上である。
○:保持率が80%以上、90%未満である。
△:保持率が70%以上、80%未満である。
×:保持率が70%未満である。
【0053】
(10)低温粘着性
粘着フィルムを25mm幅に切り出し、粘着面とステンレス板(SUS304)とを重ね合わせ、小型卓上テストラミネーター(テスター産業社製SA-1010)を用い、温度-15℃、圧力13.5N/cm、速度1.0m/分の条件下で圧着させ、-15℃にて24時間エージングしたものを試験片とした。この試験片において、小型卓上引張試験機(島津製作所社製EZ-SX)を用い温度-15℃、引張速度300mm/分、引張角度180度の条件下で粘着力を測定した。
◎:粘着力が10N/25mm以上である。
○:粘着力が8N/25mm以上、10N/25mm未満である。
△:粘着力が5N/25mm以上、8N/25mm未満である。
×:粘着力が5N/15mm未満である。
【0054】
2.ポリエステル樹脂の調製
調製例1
テレフタル酸83g(50モル%)、イソフタル酸83g(50モル%)、エチレングリコール17g(28モル%)、ネオペンチルグリコール52g(50モル%)、1,4-シクロヘキサンジメタノール36g(25モル%)、トリメチロールプロパン3g(2モル%)、分子量が1000であるポリテトラメチレングリコール300g(30モル%)を反応器に仕込み、系内を窒素に置換した。そして、これらの原料を1000rpmで撹拌しながら、反応器を250℃で加熱し、溶融させた。反応器内温度が250℃に到達してから、3時間エステル化反応を進行させた。3時間経過後、重合触媒としてテトラブチルチタネート0.2gを加え、系内を減圧した。系内が高真空(圧力:20Pa)に到達してから、さらに2時間重合反応を行って、共重合ポリエステル樹脂(A)を得た。その結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
なお、表1における略語は、それぞれ以下のものを示す。
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
DDA:1,12-ドデカンジオール
EG:エチレングリコール
NPG:ネオペンチルグリコール
CHDM:1,4-シクロヘキサンジメタノール
TCD:トリシクロデカンジメタノール
PTMG1000:ポリテトラメチレングリコール(分子量:1000)
PEG1000:ポリエチレングリコール(分子量:1000)
TMP:トリメチロールプロパン
【0057】
調製例2~23
使用するモノマーの種類と仕込み量、重合反応時間を表1のように変更した以外は、調製例1と同様に、共重合ポリエステル樹脂の重合を行った。調製例13、14については、重合反応が終了後、減圧を解除してから、解重合剤(イソフタル酸)を表1のように投入し、250℃で2時間解重合反応を行い、共重合ポリエステル樹脂を得た。
【0058】
実施例1
調整例1で得た共重合ポリエステル樹脂(A)を酢酸エチルで固形分濃度30%に溶解し樹脂溶液を作製した。二軸延伸PET フィルム(ユニチカ社製、厚さ75μm)のコロナ処理面に、卓上型コーティング装置(安田精機社製、フィルムアプリケーターNo.542-AB型、バーコータ装着)を用いて、乾燥後の膜厚が25μmとなるように樹脂溶液をコーティングし、熱風乾燥機で100℃、1分間乾燥した後、50℃で4日間エージング処理を行い、共重合ポリエステル樹脂塗膜が形成された積層体を得た。得られた積層体を用いて各種評価を行った。その結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
実施例2~15
共重合ポリエステル樹脂(B)~(O)を用いて、実施例1と同様に樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液を用いて、実施例1同様積層体を得て、各種評価を行った。その結果を表2に示す。
【0061】
比較例1~6
共重合ポリエステル樹脂(P)~(U)を用いて、実施例1と同様に樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液を用いて、実施例1同様積層体を得て、各種評価を行った。その結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
実施例16~22
共重合ポリエステル樹脂(A)、(B)、(C)、(E)、(F)、(I)、(N)について、各共重合ポリエステル樹脂を酢酸エチルで固形分濃度30%に溶解した後、共重合ポリエステル樹脂の固形分100質量部に対し、イソシアネート系硬化剤(東ソー社製コロネートL)を4質量部含有させた樹脂溶液を作製した。得られた樹脂溶液を用いて、実施例1同様積層体を得て、各種評価を行った、その結果を表4に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
実施例1~15では、所定の共重合ポリエステル樹脂を用いたため、粘着力、保持力、タックが良好であり、耐湿熱性、低温粘着性も優れていた。
【0066】
実施例16~22では、所定の共重合ポリエステル樹脂に対し、さらに、硬化剤を含有させたものであったため、共重合ポリエステル樹脂を単独で用いた場合よりも、粘着力、保持力が向上した。実施例17、18では、さらに耐湿熱性も向上した。
【0067】
比較例1では、芳香族ジカルボン酸の共重合比率が少なかったため、保持力、耐湿熱性が劣った。
【0068】
比較例2では、脂環族グリコールを含有しないものであったため、耐湿熱性が劣った。
【0069】
比較例3では、ネオペンチルグリコールの共重合比率が40モル%より多かったため、保持力、耐湿熱性が劣った。
【0070】
比較例4では、ポリアルキレングリコールの共重合比率が20モル%より少なかったため、タック性、低温粘着性が劣った。
【0071】
比較例5では、ポリテトラメチレングリコールの共重合比率が20モル%より少なく、またネオペンチルグリコールの共重合比率が40モル%より多かったため、保持力、タック性、耐湿熱性、低温粘着性が劣った。
【0072】
参考例1では、粘着力が不十分となり、耐湿熱性の評価はできなかった。