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特許7575067セプタムおよびヘッドスペースガスクロマトグラフ分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】セプタムおよびヘッドスペースガスクロマトグラフ分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/18 20060101AFI20241022BHJP
   B32B 25/08 20060101ALI20241022BHJP
   B32B 25/20 20060101ALI20241022BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20241022BHJP
   G01N 30/04 20060101ALI20241022BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
G01N30/18 A
B32B25/08
B32B25/20
B32B27/34
G01N30/04 A
G01N30/06 G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021059092
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022155724
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2024-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】布施 泰朗
(72)【発明者】
【氏名】初 雪
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-154130(JP,A)
【文献】特開2011-106869(JP,A)
【文献】特開2018-027681(JP,A)
【文献】国際公開第2014/038019(WO,A1)
【文献】布施泰朗、他,ヘッドスペースGC/MSを用いた大気PM2.5捕集試料中多環芳香族炭化水素分析法の最適化,日本分析化学会、第69年会講演要旨,2020年,p.134
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
B32B 27/34
G01N 1/00-1/44
B65D 39/00-55/16
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドスペースガスクロマトグラフ分析に使用されるバイアル瓶の開口部を封止するセプタムであって、
シリコーンゴムから形成された板状の本体部と、
芳香族ポリイミドから形成され、前記本体部の厚さ方向における少なくとも一面側に設けられた被覆層と、を備え、
前記被覆層における前記本体部側とは反対側の一面は、親水性化されることにより親水性化部分が形成され、
前記親水性化部分は、下記構造式で表される高分子から形成されている
セプタム。
【化1】
【請求項2】
分析対象物質を含む試料が投入されたバイアル瓶の内側を窒素雰囲気に置換するステップと、
前記バイアル瓶の内側が窒素雰囲気の状態で、シリコーンゴムから形成された板状の本体部と、芳香族ポリイミドから形成され、前記本体部の厚さ方向における少なくとも一面側に設けられるとともに、前記本体部側とは反対側の一面が親水性化され親水性化部分が形成されている被覆層と、を備えるセプタムにより、前記被覆層が前記バイアル瓶の内側に露出するように、前記バイアル瓶の開口部を封止するステップと、
前記試料に含まれる分析対象物質を気化させるステップと、
前記バイアル瓶内に存在する気化した前記分析対象物質を分析するステップと、を含み、
前記親水性化部分は、下記構造式で表される高分子から形成されている
ヘッドスペースガスクロマトグラフ分析方法。
【化2】
【請求項3】
前記試料は、前記分析対象物質が溶解されたトルエン溶液を含む、
請求項2に記載のヘッドスペースガスクロマトグラフ分析方法。
【請求項4】
前記分析対象物質を気化させるステップでは、前記試料が投入された前記バイアル瓶を300℃以上の温度で維持する、
請求項2または3に記載のヘッドスペースガスクロマトグラフ分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セプタムおよびヘッドスペースガスクロマトグラフ分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドスペースガスクロマトグラフ分析に用いられるバイアル瓶の開口部を封止するためのセプタムとして、芳香族ポリイミドフィルムとヒドロキシル化反応硬化シリコーンゴム層とが積層されてなる積層シートから形成されたセプタムが提案されている(例えば特許文献1参照)。このセプタムは、芳香族ポリイミドフィルムがバイアル瓶の内側に露出する状態でバイアル瓶の開口部を封止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-154130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたセプタムを用いて分析を行うと、バイアル瓶中に存在する分析対象物質が、セプタムの芳香族ポリイミドフィルムの表面で吸着或いは分解が起こり、分析対象物質の分析感度が低下してしまう虞がある。
【0005】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、ヘッドスペースガスクロマトグラフ分析における分析感度を向上させることができるセプタムおよびガスクロマトグラフ分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るセプタムは、
ヘッドスペースガスクロマトグラフ分析に使用されるバイアル瓶の開口部を封止するセプタムであって、
シリコーンゴムから形成された板状の本体部と、
芳香族ポリイミドから形成され、前記本体部の厚さ方向における少なくとも一面側に設けられた被覆層と、を備え、
前記被覆層における前記本体部側とは反対側の一面は、親水性化されることにより親水性化部分が形成され、
前記親水性化部分は、下記構造式で表される高分子から形成されている
【化1】
【0007】
他の観点から見た本発明に係るヘッドスペースガスクロマトグラフ分析方法は、
分析対象物質を含む試料が投入されたバイアル瓶の内側を窒素雰囲気に置換するステップと、
前記バイアル瓶の内側が窒素雰囲気の状態で、シリコーンゴムから形成された板状の本体部と、芳香族ポリイミドから形成され、前記本体部の厚さ方向における少なくとも一面側に設けられるとともに、前記本体部側とは反対側の一面が親水性化され親水性化部分が形成されている被覆層と、を備えるセプタムにより、前記被覆層が前記バイアル瓶の内側に露出するように、前記バイアル瓶の開口部を封止するステップと、
前記試料に含まれる分析対象物質を気化させるステップと、
前記バイアル瓶内に存在する気化した前記分析対象物質を分析するステップと、を含み、
前記親水性化部分は、下記構造式で表される高分子から形成されている
【化2】
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るセプタムは、芳香族ポリイミドから形成された被覆層における本体部側とは反対側の一面は、親水性化されている。これにより、バイアル瓶中に存在する分析対象物質の被覆層の表面への吸着或いは分解が阻害されるので、分析対象物質の損失が抑制され、その分、分析感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係るセプタムおよびバイアル瓶を用いたヘッドスペースガスクロマトグラフ分析装置の概略図である。
図2】実施の形態に係るセプタムおよびバイアル瓶の概略断面図である。
図3】実施の形態に係るセプタムを示し、(A)は斜視図であり、(B)は断面図である。
図4】実施の形態に係るセプタムおよびバイアル瓶を用いたヘッドスペースガスクロマトグラフ分析装置の動作説明図であり、(A)はバイアル瓶内を加圧する動作を示す図であり、(B)はバイアル瓶のヘッドスペース内の分析対象物質をロードする動作を示す図である。
図5】実施の形態に係るセプタムおよびバイアル瓶を用いたヘッドスペースガスクロマトグラフ分析装置が分析対象物質をカラムへ注入する動作を示す動作説明図である。
図6】(A)は比較例1に係るクロマトグラムを示す図であり、(B)は実施例1に係るクロマトグラムを示す図である。
図7】実施例1乃至4に係る各PAHsの相対検出強度を示す図である。
図8】実施例1と比較例2、3に係る各PAHsの相対検出強度を示す図である。
図9】実施例1と比較例4に係る各PAHsの相対検出強度を示す図である。
図10】実施例1、5乃至7に係る各PAHsの相対検出強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態に係るヘッドスペースガスクロマトグラフ分析方法は、分析対象物質を含む試料が投入されたバイアル瓶の内側を窒素雰囲気に置換するステップと、バイアル瓶の内側が窒素雰囲気の状態でセプタムによりバイアル瓶の開口部を封止するステップと、試料に含まれる分析対象物質を気化させるステップと、バイアル瓶内に存在する気化した分析対象物質を分析するステップと、を含む。ここで、セプタムは、シリコーンゴムから形成された本体部と、芳香族ポリイミドから形成され、シリコーンゴム層の厚さ方向における少なくとも一面側に設けられた被覆層と、を備える。そして、被覆層における本体部側とは反対側の一面が、親水性化されており、セプタムは、被覆層がバイアル瓶の内側に露出するように、バイアル瓶の開口部を封止する。ここで、分析対象物質は、例えば多環芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons 以下、「PAHs」と称する。)である。
【0011】
実施の形態に係るヘッドスペースガスクロマトグラフ分析方法では、例えば図1に示すようなガスクロマトグラフ質量分析(以下、「GCMS」と称する。)装置100と、ヘッドスペースサンプラ200と、を備えるGCMSシステムを使用する。GCMS装置100は、質量分析部6と、質量分析部6に接続されたカラム7と、ガスクロマトグラフ5と、を備える。質量分析部6は、イオン化部(図示せず)と、分析部(図示せず)と、を有し、イオン化部は、熱電子を放出するフィラメントを有し、分析対象物質にフィラメントから放出される熱電子を衝突させることでイオン化する電子イオン化法により分析対象物質をイオン化する。分析部は、例えば四重極型質量分析計であり、イオン化した分析対象物質が通過する領域の周囲に配置された4つの電極に印加する電圧を変化させながら、分析対象物質の質量を計測する。
【0012】
カラム7は、例えばキャピラリカラムであり、一端部が質量分析部6に接続され他端がヘッドスペースサンプラ200に接続されている。カラム7としては、例えば固定相がジフェニルおよびジメチルポリシロキサンを含むものを採用することができる。ガスクロマトグラフ5は、温度調節部51が設けられ、内側にカラム7を収納する。ガスクロマトグラフ5は、内側の温度を例えば320℃で維持する。
【0013】
ヘッドスペースサンプラ200は、バイアル瓶11内の分析対象物質をバイアル瓶11外へ取り出すためのプローブPRと、六方弁2と、加圧ガス供給源31と、キャリアガス供給源32と、ガス回収部33と、排気弁PV1と、恒温槽4と、を備える。プローブPRは、先端部がニードル状であり、後述するセプタム13に差し込むことができる。
【0014】
六方弁2は、6つのポートP21、P22、P23、P24、P25、P26と、内部流路PA1、PA2、PA3が形成されたロータ21と、を有し、ロータ21が回転することにより、ポートP21、P22、P23、P24、P25、P26と内部流路PA1、PA2、PA3との接続状態が変化する。
【0015】
六方弁2のポートP21は、加圧ガス供給管L31を介して加圧ガス供給源31に接続されている。六方弁2のポートP22は、分析対象物質を貯留するためのループ管L21の一端部に接続されている。六方弁2のポートP23は、キャリアガス供給管L321を介してキャリアガス供給源32に接続されている。六方弁2のポートP24は、搬送管L322を介してGCMS装置100に接続されている。六方弁2のポートP25は、前述のループ管L21の他端部に接続されている。六方弁2のポートP26は、サンプル管L11を介してプローブPRの基端部に接続されている。
【0016】
加圧ガス供給管L31には、開閉弁SV1と、フィルタFと、が介挿されている。また、加圧ガス供給管L31におけるフィルタFと六方弁2との間には、一端部が排気弁PV1に接続された排気管L33の他端部が接続されている。排気管L33には、開閉弁SV2が介挿されている。更に、キャリアガス供給管L321には、一端部がガス回収部33に接続され、搬送管L322を流れるガスの一部を回収するためのガス回収管L324の他端部が接続されている。加圧ガス供給源31は、加圧ガス供給管L31内の圧力が一定の圧力になるように加圧ガス供給管L31へ供給するガスの量を調節する圧力コントローラ311を有する。フィルタFは、加圧ガスに含まれる不純物を除去する。また、キャリアガス供給源32は、キャリアガス供給管L321へ供給するガスの流量を調節する流量コントローラ321を有する。ガス回収部33は、ガス回収管L324を介して搬送管L322から回収するガスの流量を調節する流量コントローラ331を有する。
【0017】
六方弁2は、6つのポートP21、P22、P23、P24、P25、P26と、内部流路PA1、PA2、PA3が形成されたロータ21と、を有し、ロータ21が回転することにより、ポートP21、P22、P23、P24、P25、P26と内部流路PA1、PA2、PA3との接続状態が変化する。
【0018】
恒温槽4は、温度調節部41が設けられ、内側にバイアル瓶11、プローブPR、六方弁2およびループ管L21を収納する。恒温槽4は、内側の温度を例えば300℃で維持する。
【0019】
バイアル瓶11は、図2に示すように、有底筒状であり、内側に分析対象物質を含む試料SPを収納する。バイアル瓶11は、例えば第1級加水分解性クラスのホウケイ酸ガラスから形成されている。なお、バイアル瓶11を形成するガラスの種類はこれに限定されるものではない。試料SPは、バイアル瓶11の開口部11aには、中央部に開口部12aが形成されたキャップ12とセプタム13とが装着されている。
【0020】
セプタム13は、図3(A)および(B)に示すように、シリコーンゴムから円板状に形成された本体部131と、芳香族ポリイミドから形成され、本体部131の厚さ方向における一面側に設けられた被覆層132と、を備える。ここで、被覆層132の厚さは、例えば10μm以上200μm以下に設定され、本体部131の厚さは、1.2mm以上5mm以下に設定される。また、本体部131を形成するシリコーンゴムとしては、例えば環状ジメチルシロキサンとヒュームドシリカとを含有するヒドロシリル化反応硬化シリコーンゴム、或いは、有機官能性オルガノアルコキシシランもしくはその部分加水分解縮合物を含有するヒドロシリル化反応硬化シリコーンゴムを採用することができる。或いは、本体部131が、これら2種類のヒドロキシル化反応硬化シリコーンゴムから形成された層の積層構造を有するものであってもよい。また、有機官能性オルガノアルコキシシランとしては、1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基を2個または3個有するアルケニル官能性オルガノアルコキシシランと、1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基を2個または3個有する(メタ)アクリル官能性オルガノアルコキシシランと、1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基を2個または3個有するエポキシ官能性オルガノアルコキシシランとからなる群から選択される1種ないし3種の有機官能性オルガノアルコキシシランであってもよいし、或いは、これらの有機官能性オルガノアルコキシシランと有機チタン化合物触媒、または、これらの有機官能性オルガノアルコキシシラン2種ないし3種の共部分加水分解縮合物であってもよい。また、本体部131を形成するシリコーンゴムは、架橋剤として両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサンコポリマを含有するヒドロシリル化反応硬化性シリコーンゴム組成物の硬化物であってもよい。また、このシリコーンゴムは、少なくとも3個のヒドロシリル基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサンと分子鎖両末端がヒドロジメチルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(重合度10以下)を含有するヒドロシリル化反応硬化性シリコーンゴム組成物の硬化物であってもよい。
【0021】
被覆層132における本体部131側とは反対側の一面は、親水性化されており、親水性化部分133が形成されている。
【0022】
次に、本実施の形態に係るGCMSシステムを使用したヘッドスペースガスクロマトグラフ分析方法について説明する。まず、バイアル瓶11内に分析対象物質を含む試料SPを投入する。ここで、試料SPは、例えば分析対象物質であるPM2.5を捕集した石英濾紙である。次に、試料SPが投入されたバイアル瓶11の内側に窒素を充填させることによりバイアル瓶11の内側を窒素雰囲気に置換する。続いて、図2に示すように、セプタム13およびキャップ12をバイアル瓶11の開口部11aに装着して、セプタム13によりバイアル瓶11の開口部11aが封止された状態にする。ここで、セプタム13は、その被覆層132がバイアル瓶11の内側に露出するようにバイアル瓶11の開口部11aを封止する。
【0023】
その後、ヘッドスペースサンプラ200のプローブPRの先端部をキャップ12の開口部12aからセプタム13に突き刺して、図4(A)に示すようにプローブPRの先端部をバイアル瓶11の内側に配置するとともに、バイアル瓶11を恒温槽4内に配置する。次に、六方弁2のロータ21を、ポートP21、P22同士が内部流路PA1を介して接続され、ポートP23、P24同士が内部流路PA2を介して接続され、ポートP25、P26同士が内部流路PA3を介して接続された状態にする。そして、ヘッドスペースサンプラ200をバイアル瓶11内へ加圧用ガスを供給することによりバイアル瓶11内を加圧するバイアル加圧モードに設定する。具体的には、ヘッドスペースサンプラ200が、開閉弁SV2を閉状態に維持した状態で、開閉弁SV1を開状態にする。そうすると、加圧ガス供給源31の圧力コントローラ311から加圧ガス供給管L31へ供給される加圧用ガスは、破線矢印で示すように、ポートP21、内部流路PA1、ポートP22、ループ管L21、ポートP25、内部流路PA3、ポートP26、サンプル管L11、プローブPRを順に経由してバイアル瓶11内へ供給される。これにより、バイアル瓶11内の圧力が、圧力コントローラ311により設定された圧力に加圧される。このとき、恒温槽4内の温度が例えば300℃で維持され、試料SPから気化した分析対象物質Gがバイアル瓶11内に存在する。また、キャリアガス供給源32の流量コントローラ321からキャリアガス供給管L321へ供給されるキャリアガスは、二点鎖線矢印に示すように、六方弁2のポートP23、内部流路PA2、ポートP24、搬送管L322を順に経由してGCMS装置100へ供給される。また、ガス回収部33は、二点鎖線矢印に示すように、搬送管L322を流れるガスの一部を、ガス回収管L324を介して回収する。
【0024】
次に、ヘッドスペースサンプラ200をバイアル瓶11内に存在する分析対象物質をループ管L21へ導入するロードモードに設定する。具体的には、図4(B)に示すように、開閉弁SV1を閉状態にするとともに、開閉弁SV2を開状態にする。そうすると、バイアル瓶11内の分析対象物質Gが、実線矢印で示すように、プローブPR、サンプル管L11、ポートP26、内部流路PA3、ポートP25、ループ管L21、ポートP22、内部流路PA1、ポートP21、排気管L33を順に経由して排気弁PV1に至る経路を流れる。これにより、ループ管L21内に分析対象物質Gの一部が貯留する。
【0025】
その後、ヘッドスペースサンプラ200をループ管L21内に存在する分析対象物質GをGCMS装置100へ注入する注入モードに設定する。具体的には、図5の矢印AR1に示すように、六方弁2のロータ21を60度だけ回転させることにより、ポートP26、P21同士が内部流路PA1を介して接続され、ポートP22、P23同士が内部流路PA2を介して接続され、ポートP24、P25同士が内部流路PA3を介して接続された状態にする。この場合、キャリアガス供給源32の流量コントローラ321からキャリアガス供給管L321へ供給されるキャリアガスは、二点鎖線矢印に示すように、六方弁2のポートP23、内部流路PA2、ポートP22、ループ管L21、ポートP25、内部流路PA3、ポートP24、搬送管L322を順に経由してGCMS装置100へ至る経路を流れる。これにより、ループ管L21内に貯留されていた分析対象物質GがキャリアガスによりGCMS装置100へ搬送される。これにより、GCMS装置100において分析対象物質Gの分析が実行される。また、バイアル瓶11内の分析対象物質Gは、実線矢印で示すように、プローブPR、サンプル管L11、ポートP26、内部流路PA1、ポートP21、排気管L33を順に経由して排気弁PV1に至る経路を流れる。
【0026】
次に、本実施の形態に係るセプタム13の製造方法について説明する。まず、芳香族ポリイミドフィルムに対して親水性化処理を施す。具体的には、芳香族ポリイミドフィルムを濃度3.0Mの炭酸ナトリウム(NaCO)水溶液に3乃至5時間浸漬させる。これにより、下記構造式で表される高分子からなる親水性化部分が形成される。
【0027】
【化3】
【0028】
次に、親水性化部分が形成された芳香族ポリイミドフィルムを、固体状の熱硬化性のシリコーンゴム組成物に密接させた状態で、加圧しながら加熱する。これにより、シリコーンゴムから形成されたシリコーンゴム層と、シリコーンゴム層の厚さ方向における一面側に積層された親水性化部分が形成された芳香族ポリイミドフィルムと、からなる積層シートを得る。その後、この積層シートを打ち抜くことによりセプタム13を得る。
【0029】
以上説明したように、本実施の形態に係るセプタム13は、芳香族ポリイミドから形成された被覆層132における本体部131側とは反対側の一面が、親水性化され親水性化部分133が形成されている。これにより、バイアル瓶11中に存在する分析対象物質Gの被覆層132の表面への吸着或いは分解が阻害されるので、分析対象物質Gの損失が抑制され、その分、分析感度を向上させることができる。
【0030】
また、本実施の形態に係るヘッドスペースガスクロマトグラフ分析方法では、試料SPをバイアル瓶11に投入した後、バイアル瓶11内を窒素雰囲気に置換する。これにより、空気に含まれる酸素によるバイアル瓶11内に存在する分析対象物質Gの酸化を抑制することができるので、分析感度を向上させることができる。
【0031】
更に、本実施の形態に係るヘッドスペースガスクロマトグラフ分析方法で使用する試料SPは、分析対象物質が溶解されたトルエン溶液を含む。これにより、試料SPから放出されるPAHs分子は、気相においてトルエンとπ-π相互作用することにより分子全体がトルエン分子により覆われた状態となる。従って、PHAs分子の吸着或いは分解に寄与する化学種のPHAs分子への接触がトルエン分子により阻害されるので、PAHs分子の吸着或いは分解が抑制され、分析感度を高めることができる。
【0032】
また、本実施の形態に係るヘッドスペースガスクロマトグラフ分析方法では、恒温槽4内の温度を300℃以上にすることにより、試料SPが投入されたバイアル瓶11を300℃以上の温度で維持して試料SPに含まれる分析対象物質を気化させる。これにより、試料SPからの分析対象物質の脱離が効率良く進行するので、その分、分析感度を高めることができる。
【0033】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は前述の実施の形態の構成に限
定されるものではない。例えば、セプタムの被覆層132が、本体部131の厚さ方向における両面側に設けられていてもよい。そして、本体部131の厚さ方向における両面側それぞれの被覆層132のうち、少なくとも一方の表面が親水性化されていてもよい。
【0034】
実施の形態では、ヘッドスペースサンプラ200が、ループ管L21を用いたいわゆるループ法によりバイアル瓶11内に存在する分析対象物質を取り出してGCMS装置100へ搬送する例について説明した。但し、ヘッドスペースサンプラ200は、ループ法を用いた構成に限定されるものではなく、例えばいわゆる圧力バランス法によりバイアル瓶11内に存在する分析対象物質を取り出してGCMS装置100へ搬送するものであってもよい。
【0035】
実施の形態では、バイアル瓶11が有底筒状であり上端部に開口部11aを有する例について説明したが、バイアル瓶11の形状はこれに限定されるものではなく、例えば開口部11aが側壁に設けられた構成であってもよい。
【実施例
【0036】
本発明に係るセプタムおよびヘッドスペースガスクロマトグラフ分析方法について、実施例に基づいて説明する。実施例1および比較例1乃至10に係る試料は、溶質としてPAHsを濃度1.0μg/mLだけ含む溶液を3μLだけ石英濾紙に含浸させることにより作製した。石英濾紙としては、石英ファイバフィルタ(東京濾紙社製)を採用した。PAHsとしては、二環芳香族炭化水素であるナフタレン、三環芳香族炭化水素であるアセナフチレン、アセナフテン、フルオレン、フェナントレン、アントラセン、四環芳香族炭化水素であるフルオランテン、ピレン、ベンズ[a]アントラセン、クリセン、五環芳香族炭化水素であるベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[k]フルオランテン、ベンゾ[a]ピレン、ジベンゾ[a,j]アントラセン、六環芳香族炭化水素であるインデノ[1,2,3-c,d]ピレン、ベンゾ[ghi]ペリレンを採用した。
【0037】
GCMSシステムとしては、GCMS装置が、GC/MS QP-2010 Ultra(島津製作所製)であり、ヘッドスペースサンプラ200が、HS-20(島津製作所製)であるものを使用した。また、カラム7としては、キャピラリカラムSH-Rxi-5Sil MS(長さ30m、内径0.25mm、固定相の厚さ0.25μm:島津製作所製)を採用した。更に、カラム7におけるガスの線速度を35cm/sec、スプリット比、即ち、GCMS装置100へ供給されるガス流量とガス回収部33に回収されるガス流量との比率を1:4に設定した。また、実施例1および比較例1乃至10において、ヘッドスペースサンプラ200がバイアル加圧モードの場合における加圧ガスの圧力は、150kPaに設定し、加圧時間は1.1minに設定した。恒温槽4での保温時間は2.5minに設定した。更に、ヘッドスペースサンプラ200がロードモードで維持する時間は、0.6minに設定した。また、GCMS装置100のガスクロマトグラフ5内の温度シーケンスは、初期温度の90℃で1minだけ維持した後、15℃/minの昇温速度で320℃まで昇温し、最後に320℃で8minだけ維持するシーケンスに設定した。
【0038】
実施例1および比較例1乃至10に係る添加溶媒、セプタム13、バイアル瓶11内の雰囲気および恒温槽4内の温度は、下記表1の通りである。
【0039】
【表1】
【0040】
ここで、「溶媒」の欄は、分析対象物質であるPAHsを溶解させる溶媒の種類を示す。「セプタム」の欄における「PI」は、実施の形態で説明したセプタム13における被覆層132が芳香族ポリイミドから形成され、その表面が親水性化処理されていないものを示す。また、「PTFE」は、実施の形態で説明したセプタム13における被覆層132がポリテトラフルオロエチレンから形成され、その表面が親水性化処理されていないものを示す。更に、「ATーPI」は、実施の形態で説明したセプタム13を示す。
【0041】
図6(A)および(B)は、それぞれ、比較例1および実施例1に係るクロマトグラムを示す、図6(A)に示すクロマトグラムでは、各PAHsに対応するピークが不鮮明であるのに対して、図6(B)に示すクロマトグラムでは、各PAHsに対応するピークが鮮明に現れていることが判る。なお、図6(B)において、「Nap」は、ナフタレン、「Acy」は、アセナフチレン、「Ace」は、アセナフテン、「Fle」は、フルオレン、「Phe」は、フェナントレン、「Ant」は、アントラセンを示す。また、「Fla」は、フルオランテン、「Pyr」は、ピレン、「BaA」は、ベンズ[a]アントラセン、「Chr」は、クリセン、「BbF」は、ベンゾ[b]フルオランテン、「BkF」は、ベンゾ[k]フルオランテン、「BaP」は、ベンゾ[a]ピレン、「DaA」は、ジベンゾ[a,j]アントラセンを示す。更に、「IP」は、インデノ[1,2,3-c,d]ピレン、「BgP」は、ベンゾ[ghi]ペリレンを示す。以下、各図において同じである。
【0042】
図7は、実施例1乃至4それぞれについて、各PAHsに対応する相対検出強度を比較した図である。図7から、特に分子量の大きいPAHsについて、実施例1に係る相対検出強度度が、実施例2乃至4に係る相対検出強度に比べて大きくなっていることが判る。これは、試料SPにトルエンが含まれる場合、PAHs分子が、気相においてトルエン分子との間でπ-π相互作用して分子全体がトルエン分子により覆われた集合体を形成することにより、PAHsの分解に寄与する化学種のPAHs分子への接触が阻害されていることに起因していると考えられる。
【0043】
図8は、実施例1、比較例2および比較例3それぞれについて、各PAHsに対応する相対検出強度を比較した図である。図8から、特に分子量の大きいPAHsについて、実施例1に係る相対検出強度が、比較例2および3に係る相対検出強度に比べて大きくなっていることが判る。ここで、PAHs分子は、前述のように、気相において分子全体がトルエン分子により覆われた集合体を形成し、表面が親油性になっていると考えられる。そして、比較例2、3に係るセプタム13の場合、その被覆層131の表面が親水性化されておらず、トルエンで覆われたPAHs分子が吸着或いは分解し易くなっていると考えられる。このため、セプタム13の被覆層131に吸着したPAHs分子がその後吸着或いは分解してしまいその結果バイアル瓶11中に存在するPAHs分子が低減してしまうと考えられる。一方、実施例1に係るセプタム13の場合、被覆層132の表面に親水性化部分133が形成されている。このため、トルエンで覆われたPAHs分子の被覆層132の表面への吸着或いは分解が阻害され、PAHs分子の損失が抑制されていると考えられる。
【0044】
図9は、実施例1および比較例4それぞれについて、各PAHsに対応する相対検出強度を比較した図である。図9から、全てのPAHsについて、実施例1に係る相対検出強度が、比較例4に係る相対検出強度に比べて大きくなっていることが判る。これは、バイアル瓶11内が空気で充填された状態で処理を行うと、バイアル瓶11内の空気中に含まれる酸素によりPAHsが酸化されてしまい、その結果、バイアル瓶11内に存在するPAHsが減少してしまうことを反映していると考えられる。このことから、バイアル瓶11内に試料SPを投入した後、バイアル瓶11内に存在する空気を窒素に置換することが分析感度向上の観点から有効であることが判る。
【0045】
図10は、実施例1、5乃至7それぞれについて、各PAHsに対応するクロマトグラムの相対検出強度を比較した図である。図10から、特に分子量の大きいPAHsについて、実施例1に係る相対検出強度が、実施例5乃至7に係る相対検出強度に比べて大きくなっていることが判る。このことから、ヘッドスペースサンプラ200の恒温槽4内の温度は300℃以上が好ましいことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、ヘッドスペースガスクロマトグラフ分析に好適である。
【符号の説明】
【0047】
2:六方弁、4:恒温槽、5:ガスクロマトグラフ、6:質量分析部、7:カラム、11:バイアル瓶、11a,12a:開口部、12:キャップ、13:セプタム、21:ロータ、31:加圧ガス供給源、32:キャリアガス供給源、33:ガス回収部、41,51:温度調節部、100:GCMS装置、131:本体部、132:被覆層、133:親水性化部分、200:ヘッドスペースサンプラ、311:圧力コントローラ、321:流量コントローラ、F:フィルタ、G:分析対象物質、L11:サンプル管、L21:ループ管、L31:加圧ガス供給管、L33:排気管、L321:キャリアガス供給管、L322:搬送管、L324:ガス回収管、P21,P22,P23,P24,P25,P26:ポート、PA1,PA2,PA3:内部流路、PR:プローブ、PV1:排気弁、SP:試料、SV1,SV2:開閉弁
図1
図2
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図7
図8
図9
図10