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特許7575101マクロライド系抗生物質耐性変異菌の検出方法
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  • 特許-マクロライド系抗生物質耐性変異菌の検出方法 図1
  • 特許-マクロライド系抗生物質耐性変異菌の検出方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】マクロライド系抗生物質耐性変異菌の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/689 20180101AFI20241022BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20241022BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20241022BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C12Q1/689 Z ZNA
C12Q1/04
C12Q1/686 Z
C12N15/09 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021533103
(86)(22)【出願日】2020-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2020027721
(87)【国際公開番号】W WO2021010446
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2019131682
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】524200276
【氏名又は名称】田中 悠平
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 悠平
(72)【発明者】
【氏名】尾内 一信
(72)【発明者】
【氏名】宮田 一平
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107254524(CN,A)
【文献】特開2014-042459(JP,A)
【文献】国際公開第2013/136818(WO,A1)
【文献】特開2016-059338(JP,A)
【文献】DRUM, M et al.,Variants of a Thermus aquaticus DNA Polymerase with Increased Selectivity for Applications in Allele- and Methylation-Specific Amplification,PLOS ONE,2014年,Vol. 9, No. 5,pp. 1-11,e96640
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3’末端における1塩基の違いを有するプライマーを認識し、ミスマッチペアがある場合は増幅効率が著しく低下するDNAポリメラーゼを使用して、マクロライド系抗生物質耐性変異菌の23SrRNAドメインV領域のマクロライド系抗生物質が結合する2つのアデニンの点変異をPCR増幅による増幅反応を検出することを含む、マクロライド系抗生物質耐性変異菌の検出方法であって、
マクロライド系抗生物質耐性変異菌が肺炎マイコプラズマの薬剤耐性菌であり、23SrRNAドメインV領域のマクロライド系抗生物質が結合する2つのアデニンが肺炎マイコプラズマ(標準株M129; NCBI ReferenceSequence:NC_000912.1)の23SrRNAドメインV領域の2063位と2064位であり、
PCR増幅において、肺炎マイコプラズマの23SrRNA配列の2063位および2064位のアデニンの変異を検出するためのリバースプライマー:
・5’-GTAAAGCTTCACGGGGTCTC -3’に示される配列を3’側に含む20~35塩基長のプライマー、
・5’-TAAAGCTTCACGGGGTCTTT -3’に示される配列を3’側に含む20~35塩基長のプライマー、および
・5’-TAAAGCTTCACGGGGTCTTC -3’に示される配列を3’側に含む20~35塩基長のプライマー
を使用する、方法、または、
マクロライド系抗生物質耐性変異菌が百日咳菌の薬剤耐性菌であり、23SrRNAドメインV領域のマクロライド系抗生物質が結合する2つのアデニンが百日咳菌(標準株 Tohama I;NCBIReference Sequence:NC_002929.2)の23SrRNAドメインV領域の2037位と2038位であり、
PCR増幅において、百日咳菌の23SrRNA配列の2037位と2038位のアデニンの変異を検出するためのリバースプライマー:
・配列番号5~11のいずれか1つに示される配列を3’側に含む20~35塩基長のプライマー、
・配列番号12~18のいずれか1つに示される配列を3’側に含む20~35塩基長のプライマー、および
・配列番号19~25のいずれか1つに示される配列を3’側に含む20~35塩基長のプライマー
を使用する、方法
【請求項2】
DNAポリメラーゼがHiDi DNAポリメラーゼ(登録商標)である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
肺炎マイコプラズマの23SrRNA配列の2063位および2064位のアデニンの変異を検出するためのリバースプライマーが
・5’-GCTACAGTAAAGCTTCACGGGGTCTC-3’(配列番号1)に示される配列からなるプライマー、
・5’-TTAAGCTACAGTAAAGCTTCACGGGGTCTTT-3’(配列番号2)に示される配列からなるプライマー、および
・5’-TTAAGCTACAGTAAAGCTTCACGGGGTCTTC-3’(配列番号3)に示される配列からなるプライマー
である、請求項に記載の方法。
【請求項4】
百日咳菌の23SrRNA配列の2037位と2038位のアデニンの変異を検出するためのリバースプライマーが、配列番号5~11のいずれか1つの塩基配列からなるプライマー、配列番号12~18のいずれか1つの塩基配列からなるプライマー、および配列番号19~25のいずれか1つの塩基配列からなるプライマーである、請求項に記載の方法。
【請求項5】
サーマルサイクラーの条件が(1)98℃、1分、1サイクル後、(2)98℃、10秒、(3)72℃~56℃、15秒、(4)72℃、30秒の(2)~(4)からなるサイクルを合計36サイクル行い、その後(5)72℃、1分、1サイクルを行うものであって、(3)の工程は常に15秒で行われるが、1サイクル目の温度は72℃で開始し、16サイクル目の57℃まで毎サイクル1℃下げ、17サイクル目~36サイクル目を56℃で行うものである、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
肺炎マイコプラズマのマクロライド系抗生物質耐性変異菌検出キットであって、
配列番号1~3に示される塩基配列からなるリバースプライマーと配列番号4に示される塩基配列からなるフォワードプライマーを含むプライマーセットを含む、キット。
【請求項7】
百日咳菌のマクロライド系抗生物質耐性変異菌検出キットであって、
配列番号5~11のいずれか1つの塩基配列からなるプライマー、配列番号12~18のいずれか1つの塩基配列からなるプライマー、および配列番号19~25のいずれか1つの塩基配列からなるプライマーのリバースプライマーと、配列番号26~29のいずれか1つの塩基配列からなるフォワードプライマーを含むプライマーセットを含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロライド系抗生物質耐性変異菌の検出方法に関する。特に、本発明は、マクロライド系抗生物質耐性変異菌の23SrRNAドメインV領域のマクロライド系抗生物質が結合する2つのアデニンの点変異をPCR増幅による増幅反応を検出することを含む、マクロライド系抗生物質耐性変異菌の検出方法に関する。本発明は、特に、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)の薬剤耐性菌の検出方法に関し、肺炎マイコプラズマの23SrRNAドメインV領域の2063位と2064位のアデニンの点変異を検出することを含む、肺炎マイコプラズマの薬剤耐性菌の検出方法に関する。また、本発明は、特に、百日咳菌(Bordetella pertussis)のマクロライド耐性菌の検出方法に関し、百日咳菌の23SrRNAのドメインV領域の2037位と2038位のアデニンの点変異を検出することを含む、百日咳菌のマクロライド耐性菌の検出方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
マクロライド系抗生物質は、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)、キャンピロバクター・ジェジュニ菌(Campylobacter jejuni)、クラミジア・トラコマチス菌(Chlamydia trachomatis)、Mycobacterium aviumMycobacterium intracellulare等による感染症に対する治療において第一選択薬または主要選択薬として位置づけられている。
【0003】
マクロライド系抗生物質は23SrRNAのドメインVに結合することによりその機能を阻害し、タンパク質の合成を抑制して抗生物質として働く。このマクロライド系抗生物質がドメインVに結合するうえで重要な部位が、塩基番号が大腸菌では2058位と2059位の隣接する2つのアデニンであり、これらの部位に塩基置換やメチル化の変異が生ずるとその立体構造に変化が生じ、マクロライド系抗生物質はドメインVに結合できなくなり、タンパク質合成を阻害できず、その菌は臨床的に問題となる程度のマクロライド系抗生物質に対する耐性を獲得することになる。したがって、これらの部位を検出でき、かつ、塩基置換が生じているか否かがわかれば、菌検出および薬剤耐性の判別ができる。
【0004】
マクロライド系抗生物質が結合する23SrRNAのドメインVの隣接する2つのアデニンは最も良く研究されている大腸菌においては2058位と2059位であるが、肺炎マイコプラズマ(標準株M129; NCBI ReferenceSequence:NC_000912.1)では2063位と2064位、百日咳菌(標準株 Tohama I; NCBI Reference Sequence:NC_002929.2)では2037位と2038位、ヘリコバクター・ピロリ菌(標準株 Helicobacter pylori 26695;NCBI Reference Sequence: NC_000915.1)では2146位と2147位(Accession番号U27270の配列を標準として2142位と2143位とする文献もある)、キャンピロバクター・ジェジュニ菌 (標準株Campylobacter jejuni subsp.jejuni;NCBI Reference Sequence:NC_002163.1)では2074位と2075位、クラミジア・トラコマチス菌 (標準株Chlamydia trachomatis D/UW-3/CX;NCBI Reference Sequence:NC_000117.1)では2038位と2039位、Mycobacterium avium(標準株Mycobacterium avium 104;NCBI Reference Sequence: NC_008595.1)では2279位と2280位、Mycobacterium intracellulare(標準株Mycobacterium intracellulare ATCC 13950; NCBI Reference Sequence:NC_016946.1)では2266位と2267位が、マクロライド系抗生物質が結合する23SrRNAのドメインVの隣接する2つのアデニンの位置と対応する。したがって、これらの部位を検出でき、かつ、塩基置換が生じているか否かがわかれば、菌検出および薬剤耐性の判別ができる。
【0005】
マクロライド系抗生物質耐性変異菌である肺炎マイコプラズマの薬剤耐性菌で最も重要な機構は、23SrRNAの機能部位であるドメインV領域の2063位と2064位のアデニンの点変異である。従来の点突然変異の検出法は、(1)PCR-RFLP法、(2)シークエンス法、(3)Qprobe法が知られている。いずれの方法においても変異を含む塩基配列が用いられており、(1)PCR-RFLP法では、NestedPCR法により増幅した産物を制限酵素で処理後、その切断パターンを電気泳動により確認する。(2)シークエンス法では、PCR法により増幅し、増幅産物のDNA塩基配列をBLASTを用いて、標準株の塩基配列と比較する。(3)Qprobe法では、PCR法で増幅後、温度変化によりクエンチングプローブ(quenching probe)を変異部位に結合および解離させ、蛍光発光時のTm値の差を利用して変異有無を確認する。
【0006】
DNAポリメラーゼに特徴があるPCR法による肺炎マイコプラズマの薬剤耐性菌の従来の検出方法としては、特許文献1および非特許文献1が知られている。
特許文献1は、肺炎マイコプラズマの23SrRNAのA2063G変異(2063位のアデニン(A)がグアニン(G)に置換された変異)を検出する方法に関し、3’末端を加硫したプライマーと、Q5High-FidelityDNAポリメラーゼを使用する。Q5High-FidelityDNAポリメラーゼは、NewEnglandBiolabs(NEB)によって導入された正確性と増幅性が高いGC含有量に依存しないことを特徴とするDNAポリメラーゼ-である。
【0007】
非特許文献1は、肺炎マイコプラズマの23SrRNA遺伝子突然変異部位(主に2063、2064および2617位)をアッセイするために開発された、High-FidelityDNAポリメラーゼおよび3’ホスホロチオエート修飾特異的プライマーを用いた検出方法に関する。
【0008】
特許文献1および非特許文献1に記載のいずれのHigh-FidelityDNAポリメラーゼも、3’末端における1塩基の違いを有するプライマーを認識し、ミスマッチペアがある場合は増幅効率が著しく低下するDNAポリメラーゼとは異なる。また、特許文献1および非特許文献1に記載のプライマーは特殊な修飾が必要となり、特許文献1および非特許文献1に記載の方法は、肺炎マイコプラズマの薬剤耐性菌を安価で簡便に検出するものとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】CN107254524A
【非特許文献】
【0010】
【文献】Liu,Yan etal., ZhongguoRenshouGonghuanbingXuebao(2015),31(5), 479-484
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
マクロライド系抗生物質耐性変異菌の検出、特に、肺炎マイコプラズマまたは百日咳菌の薬剤耐性菌の検出においては菌検出および薬剤耐性判別を安価で正確にかつ短時間でできる方法が望まれている。肺炎マイコプラズマを診断するための標準的臨床検査法には、培養法、血清学的方法および遺伝子検査法がある。このうち、血清学的方法は、菌検出の感度が鈍く非特異的であり、なおかつ薬剤耐性の有無を判別することができないという問題点を有する。
【0012】
遺伝子検査法に関して、PCR-RFLP法は、塩基配列増幅を2回、さらに制限酵素処理が必要であり、工程が多く煩雑であるという欠点がある。シークエンス法は、塩基配列をシークエンスおよび解析する時間と手間がかかるという欠点がある。Qprobe法は、蛍光色素で標識され、単独で蛍光を示しハイブリッド形成により蛍光が減少するプローブを用意する必要があり、また高価なリアルタイムPCR蛍光検出システムを必要とするという欠点がある。また、ターゲット部位が既知の変異以外の場合、正しく認識されない可能性がある。例えば、Qprobe法を用いて23SrRNAの変異を検出する装置(全自動遺伝子解析装置GENECUBE(登録商標)、本体価格1,600万円)および研究試薬(ジーンキューブ(登録商標)テストピロリ23SrRNA、96キット/15万円)が存在し高価である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以下からなる:
1. 3’末端における1塩基の違いを有するプライマーを認識し、ミスマッチペアがある場合は増幅効率が著しく低下するDNAポリメラーゼを使用して、マクロライド系抗生物質耐性変異菌の23SrRNAドメインV領域のマクロライド系抗生物質が結合する2つのアデニンの点変異をPCR増幅による増幅反応を検出することを含む、マクロライド系抗生物質耐性変異菌の検出方法。
2. マクロライド系抗生物質耐性変異菌が肺炎マイコプラズマの薬剤耐性菌であり、23SrRNAドメインV領域のマクロライド系抗生物質が結合する2つのアデニンが肺炎マイコプラズマ(標準株M129; NCBI Reference Sequence:NC_000912.1)の23SrRNAドメインV領域の2063位と2064位である、前項1に記載の方法。
3. マクロライド系抗生物質耐性変異菌が百日咳菌の薬剤耐性菌であり、23SrRNAドメインV領域のマクロライド系抗生物質が結合する2つのアデニンが百日咳菌(標準株 Tohama I;NCBI Reference Sequence:NC_002929.2)の23SrRNAドメインV領域の2037位と2038位である、前項1に記載の方法。
4. DNAポリメラーゼがHiDi DNAポリメラーゼ(登録商標)である、前項1または2に記載の方法。
5. PCR増幅において、肺炎マイコプラズマの23SrRNA配列の2063位および2064位のアデニンの変異を検出するためのリバースプライマー:
・5’-GTAAAGCTTCACGGGGTCTC -3’に示される配列を3’側に含む20~35塩基長のプライマー、
・5’-TAAAGCTTCACGGGGTCTTT -3’に示される配列を3’側に含む20~35塩基長のプライマー、および
・5’-TAAAGCTTCACGGGGTCTTC -3’に示される配列を3’側に含む20~35塩基長のプライマー
を使用する、前項2または4に記載の方法。
6. リバースプライマーが
・5’- GCTACAGTAAAGCTTCACGGGGTCTC-3’(配列番号1)に示される配列からなるプライマー、
・5’-TTAAGCTACAGTAAAGCTTCACGGGGTCTTT -3’(配列番号2)に示される配列からなるプライマー、および
・5’-TTAAGCTACAGTAAAGCTTCACGGGGTCTTC -3’(配列番号3)に示される配列からなるプライマー
である、前項5に記載の方法。
7. PCR増幅において、百日咳菌の23SrRNA配列の2037位と2038位のアデニンの変異を検出するためのリバースプライマー:
・配列番号5~11のいずれか1つに示される配列を3’側に含む20~35塩基長のプライマー、
・配列番号12~18のいずれか1つに示される配列を3’側に含む20~35塩基長のプライマー、および
・配列番号19~25のいずれか1つに示される配列を3’側に含む20~35塩基長のプライマー
を使用する、前項3または4に記載の方法。
8. リバースプライマーが、配列番号5~11のいずれか1つの塩基配列からなるプライマー、配列番号12~18のいずれか1つの塩基配列からなるプライマー、および配列番号19~25のいずれか1つの塩基配列からなるプライマーである、前項7に記載の方法。
9. サーマルサイクラーの条件が(1)98℃、1分、1サイクル後、(2)98℃、10秒、(3)72℃~56℃、15秒、(4)72℃、30秒の(2)~(4)からなるサイクルを合計36サイクル行い、その後(5)72℃、1分、1サイクルを行うものであって、(3)の工程は常に15秒で行われるが、1サイクル目の温度は72℃で開始し、16サイクル目の57℃まで毎サイクル1℃下げ、17サイクル目~36サイクル目を56℃で行うものである、前項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、PCR法を行える実験室環境において、マクロライド系抗生物質耐性変異菌を安価で正確に短時間で簡便に検出することができる。特に、本発明で使用する肺炎マイコプラズマ薬剤耐性菌検出用プライマーと3’末端における1塩基の違いを有するプライマーを認識し、ミスマッチペアがある場合は増幅効率が著しく低下するDNAポリメラーゼにより、肺炎マイコプラズマのマクロライド系抗生物質に対する耐性遺伝子変異の弁別が可能であり、肺炎マイコプラズマのマクロライド系抗生物質に対する耐性変異菌の有無が判定できる。また、百日咳菌薬剤耐性菌検出用プライマーと3’末端における1塩基の違いを有するプライマーを認識し、ミスマッチペアがある場合は増幅効率が著しく低下するDNAポリメラーゼにより、百日咳菌のマクロライド系抗生物質に対する耐性変異菌の有無が判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は23SrRNAの変異を含む塩基配列と肺炎マイコプラズマ薬剤耐性菌検出用プライマーおよびHiDi DNAポリメラーゼ(登録商標)を使用しPCRを行った結果を示す。増幅されたPCR産物を2%アガロースゲルで135V、20分電気泳動したところ、250bpに特異的増幅産物が確認された。(実施例1)
図2図2は23SrRNAの変異を含む塩基配列と百日咳菌薬剤耐性菌検出用プライマーおよびHiDi DNAポリメラーゼ(登録商標)を使用しPCRを行った結果を示す。増幅されたPCR産物を2%アガロースゲルで100V、30分電気泳動したところ、0.33kbpに特異的増幅産物が確認された。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0017】
本発明は、3’末端における1塩基の違いを有するプライマーを認識し、ミスマッチペアがある場合は増幅効率が著しく低下するDNAポリメラーゼを使用して、マクロライド系抗生物質耐性変異菌の23SrRNAドメインV領域のマクロライド系抗生物質が結合する2つのアデニンの点変異をPCR増幅による増幅反応を検出することを含む、マクロライド系抗生物質耐性変異菌の検出方法を提供する。
一実施態様において、本発明は、HiDi DNAポリメラーゼ(登録商標)を使用して、肺炎マイコプラズマ(標準株M129; NCBI Reference Sequence:NC_000912.1)の23SrRNAドメインV領域の2063位と2064位のアデニンの点変異を検出することを含む、肺炎マイコプラズマの薬剤耐性菌の検出方法を提供する。
別の実施態様において、本発明は、HiDi DNAポリメラーゼ(登録商標)を使用して、百日咳菌(標準株 Tohama I;NCBI Reference Sequence:NC_002929.2)の23SrRNAドメインV領域の2037位と2038位のアデニンの点変異を検出することを含む、百日咳菌の薬剤耐性菌の検出方法を提供する。
本明細書において、マクロライド系抗生物質が結合する23SrRNAのドメインVの隣接する2つのアデニン(例えば、大腸菌においては2058位または2059位、肺炎マイコプラズマにおいては2063位と2064位、百日咳菌においては2037位と2038位)において、例えば、大腸菌においては2058位のアデニン(A)がグアニン(G)に置換された点変異をGA、大腸菌においては2059位のアデニン(A)がグアニン(G)に置換された点変異をAG、大腸菌においては2058位および2059位のアデニン(A)が無変異の場合AAともいう。
【0018】
DNAポリメラーゼは、プライマーの3’末端から、5’から3’の方向に娘DNA分子を伸長する。DNAポリメラーゼの複製の忠実度は、重合の精度をいい、DNAポリメラーゼが、テンプレートに相補的なDNAを合成する場合、正しいヌクレオチドと正しくないヌクレオチドとを区別する能力をいう。DNAポリメラーゼの複製の忠実度が高くなればなるほど、DNAポリメラーゼが、DNA合成間の成長鎖にヌクレオチドを誤って取り込むことが少なくなる。
【0019】
増大した複製の忠実度を有するDNAポリメラーゼには、例えば、PhusionDNAポリメラーゼやピロコッカスフリオサス(Pfu)DNAポリメラーゼなどが挙げられる。
【0020】
3’末端における1塩基の違いを有するプライマーを認識し、完全一致しない場合増幅率が著しく低下するDNAポリメラーゼには、HiDi DNAポリメラーゼ(登録商標)が含まれる。
【0021】
3’末端における1塩基の違いを有するプライマーを認識し、完全一致しない場合増幅率が著しく低下するDNAポリメラーゼとは、プライマーが鋳型となるDNAとプライマー/鋳型複合体を形成するときに、プライマーの3’末端に位置する1塩基が鋳型DNAの対応する位置に存在する1塩基とグアニン(G)/シトシン(C)またはアデニン(A)/チミン(T)の塩基対を認識するDNAポリメラーゼであり、G/CまたはA/Tの塩基対を形成しない、すなわち、ミスマッチペアが生じる場合にDNAポリメラーゼによる増幅率が低下することを意味する。
【0022】
HiDi DNAポリメラーゼ(登録商標)(High Discrimination TaqDNAPolymerase)は、TaqDNAポリメラーゼのKlenow断片をもとに遺伝子改変された、高度に選択的なDNAポリメラーゼの変異体である(M. Drum et al., PLoS One. 2014 May6;9(5):e96640)。例えば、対立遺伝子特異的PCRまたはメチル化特異的PCRにおいて、高い識別が要求されるアッセイのために選択され得る。多くのDNAポリメラーゼはミスマッチプライマー/鋳型複合体を許容するが、HiDi DNAポリメラーゼ(登録商標)はそれらを効率的に識別し、完全にマッチしたプライマー対の場合にのみ特異的増幅産物を生成する。HiDi DNAポリメラーゼ(登録商標)は3’末端における1塩基の違いを有するプライマーを認識し、完全一致しない場合増幅率が著しく低下する。
【0023】
好ましい態様において、本発明のDNAポリメラーゼはHiDi DNAポリメラーゼ(登録商標)である。
【0024】
本明細書において「プライマー」は、DNA分子の増幅または重合間にヌクレオチドモノマーの共有結合により伸長される、1本鎖オリゴヌクレオチドをいう。プライマーは好ましくは15~40塩基長、より好ましくは20~35塩基長である。例えば、プライマーの3’末端は遊離3’-OH基を提供して、そこにさらなるヌクレオチドが3’→5’ホスホジエステル結合を確立するDNAポリメラーゼによって結合され得る。
【0025】
本明細書において、「肺炎マイコプラズマ薬剤耐性菌検出用プライマー」は肺炎マイコプラズマのマクロライド系抗生物質に対する薬剤耐性菌がコードする核酸分子を検出するために使用されるプライマーであり、肺炎マイコプラズマ(標準株M129; NCBI Reference Sequence:NC_000912.1)の23SrRNAドメインV領域の2063位と2064位のアデニンの点変異を検出するために使用されるプライマーである。肺炎マイコプラズマ薬剤耐性菌検出用プライマーの一態様としては、好ましくは、5’- GTAAAGCTTCACGGGGTCTC -3’に示される配列を3’側に含む20~35塩基長のAG検出用プライマー、5’- TAAAGCTTCACGGGGTCTTT -3’に示される配列を3’側に含む20~35塩基長のAA検出用プライマー、および5’- TAAAGCTTCACGGGGTCTTC -3’に示される配列を3’側に含む20~35塩基長のGA検出用プライマーと5’- CTGCCCAGTGCTGGAAGGTT-3’に示される配列を5’側に含む20~40塩基長のプライマー塩基配列からなるフォワードプライマーを含むセットである。より好ましくは、プライマーは配列番号1~3に示される塩基配列からなるリバースプライマーと配列番号4に示される塩基配列からなるフォワードプライマーを含むセットである。
【0026】
本明細書において、「百日咳菌薬剤耐性菌検出用プライマー」は百日咳菌のマクロライド系抗生物質に対する薬剤耐性菌がコードする核酸分子を検出するために使用されるプライマーであり、百日咳菌(標準株 Tohama I; NCBI Reference Sequence:NC_002929.2)の23SrRNAドメインV領域の2037位と2038位のアデニンの点変異を検出するために使用されるプライマーである。百日咳菌薬剤耐性菌検出用プライマーの一態様としては、好ましくは、配列番号5~11のいずれか1つのAA検出用プライマー、配列番号12~18のいずれか1つのAG検出用プライマー、および配列番号19~25のいずれか1つのGA検出用プライマーを3'側に含む20~35塩基長のリバースプライマーと、配列番号26~29のいずれか1つの塩基配列を5'側に含む20~40塩基長のプライマー塩基配列からなるフォワードプライマーを含むセットである。より好ましくは、配列番号5~11のいずれか1つの塩基配列からなるプライマー、配列番号12~18のいずれか1つの塩基配列からなるプライマー、および配列番号19~25のいずれか1つの塩基配列からなるプライマーのリバースプライマーと、配列番号26~29のいずれか1つの塩基配列からなるフォワードプライマーを含むセットである。さらにより好ましくは、5~11のいずれか1つの塩基配列からなるプライマー、配列番号12、13、15、16のいずれか1つの塩基配列からなるプライマー、および配列番号20、22、23のいずれか1つの塩基配列からなるプライマーのリバースプライマーと、配列番号27~29のいずれか1つの塩基配列からなるフォワードプライマーを含むセットである。最も好ましくは、配列番号6の塩基配列からなるプライマー、配列番号13の塩基配列からなるプライマー、および配列番号20の塩基配列からなるプライマーのリバースプライマーと、配列番号29の塩基配列からなるフォワードプライマーを含むセットである。
【0027】
オリゴヌクレオチドは、ヌクレオチドの5炭糖の3’位と近接ヌクレオチドの5炭糖の5’位との間がホスホジエステル結合により結合したヌクレオチドの共有結合配列を含む、合成分子または天然分子をいう。オリゴヌクレオチドはプライマーおよびプローブとして使用することができる。
【0028】
本明細書中で使用する「ヌクレオチド」は、塩基-糖-リン酸の組み合わせをいう。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオシド3リン酸(例えば、dATP、dCTP、dITP、dUTP、dGTP、dTTP、またはそれらの誘導体)を含む。本明細書中で使用するヌクレオチドはまた、ジデオキシリボヌクレオシド3リン酸(ddNTP)およびそれらの誘導体をいう。ジデオキシリボヌクレオシド3リン酸の例示される例は、ddATP、ddCTP、ddGTP、ddITP、およびddTTPを含むが、それらに限定されない。本発明によれば、「ヌクレオチド」は、非標識であり得るか、または周知の技術により検出可能に標識され得る。検出可能な標識は、例えば、放射性同位体、蛍光標識、化学発光標識、生物発光標識、および酵素標識を含む。
【0029】
肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)は、自己増殖に宿主細胞を必要とせず、一部の抗生物質が有効なことから細菌に分類される。一方、肺炎マイコプラズマは、細菌の特徴である細胞壁を有しておらず、そのため細菌感染症治療の第一選択として使われ細菌の細胞壁を障害して菌を殺す作用を有するβ-ラクタム系の抗生物質(ペニシリン系、セフェム系等)に耐性を示し、タンパク質合成阻害剤であるマクロライド系抗生物質(エリスロマイシン(EM)、クラリスロマイシン(CAM)、アジスロマイシン(AZM)等)が有効とされる。
【0030】
本明細書において、「マクロライド系抗生物質耐性変異菌」は、遺伝子変異によりマクロライド系抗生物質に耐性を獲得した細菌をいう。マクロライド系抗生物質耐性変異菌には、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)、キャンピロバクター・ジェジュニ菌(Campylobacter jejuni)、クラミジア・トラコマチス菌(Chlamydia trachomatis)、Mycobacterium aviumMycobacterium intracellulareのマクロライド系抗生物質に対する薬剤耐性菌が含まれる。マクロライド系抗生物質耐性変異菌の発生は23SrRNA遺伝子変異と深い相関関係があることが明らかになっている。本明細書において「肺炎マイコプラズマ薬剤耐性菌」は、マクロライド系抗生物質に対して薬剤耐性をもつ肺炎マイコプラズマをいう。
【0031】
マクロライド系抗生物質が結合する23SrRNAのドメインVの隣接する2つのアデニンは最も良く研究されている大腸菌においては2058位と2059位であるが、肺炎マイコプラズマ(標準株M129; NCBI Reference Sequence:NC_000912.1)では2063位と2064位、百日咳菌(標準株 Tohama I; NCBI Reference Sequence:NC_002929.2)では2037位と2038位、ヘリコバクター・ピロリ菌(標準株 Helicobacter pylori 26695;NCBI Reference Sequence: NC_000915.1)では2146位と2147位(Accession番号U27270の配列を標準として2142位と2143位とする文献もある)、キャンピロバクター・ジェジュニ菌 (標準株Campylobacter jejunisubsp.jejuni;NCBI Reference Sequence:NC_002163.1)では2074位と2075位、クラミジア・トラコマチス菌 (標準株Chlamydia trachomatis D/UW-3/CX;NCBI Reference Sequence:NC_000117.1)では2038位と2039位、Mycobacterium avium(標準株Mycobacterium avium 104;NCBI Reference Sequence: NC_008595.1)では2279位と2280位、Mycobacterium intracellulare(標準株Mycobacterium intracellulare ATCC 13950; NCBI Reference Sequence:NC_016946.1)では2266位と2267位が、マクロライド系抗生物質が結合する23SrRNAのドメインVの隣接する2つのアデニンの位置と対応する。本発明で使用される肺炎マイコプラズマ薬剤耐性菌検出用プライマーまたは百日咳菌薬剤耐性菌検出用プライマーを上記マクロライド系抗生物質耐性変異菌の23SrRNAのドメインVの隣接する2つのアデニンの位置と対応するものに変更することで上記マクロライド系抗生物質耐性変異菌の検出が可能となる。
【0032】
すなわち、本発明によれば、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)または百日咳菌(Bordetella pertussis)以外にも、マクロライド系抗生物質が第一選択薬または主要選択薬として位置づけられているヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)、キャンピロバクター・ジェジュニ菌(Campylobacter jejuni)、クラミジア・トラコマチス菌(Chlamydia trachomatis)、Mycobacterium aviumMycobacterium intracellulareの23SrRNA遺伝子変異を調べることによりマクロライド系抗生物質耐性変異菌の有無を検出することができる。
【0033】
本明細書中で使用する「増幅」は、DNAポリメラーゼを使用してヌクレオチド配列のコピー数を増大するための任意のインビトロ法をいう。核酸増幅は、ヌクレオチドのDNA分子またはプライマーへの取り込みをもたらし、それによりDNAテンプレートに相補的な新たなDNA分子を形成する。形成されたDNA分子およびそのテンプレートは、さらなるDNA分子を合成するためのテンプレートとして使用され得る。本明細書中で使用するように、1回の増幅反応は、多くの回数のDNA複製からなる。DNA増幅反応は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を含む。1回のPCRは、通常、テンプレートDNA分子の熱変性、プライマーのアニーリング、プライマーの伸長工程を含む20~100回の「サイクル」のDNA分子の変性および合成からなり得る。DNAポリメラーゼの特性、PCR緩衝液の種類、テンプレートDNAの複雑性、プライマーの融解温度(Tm)等がPCRの反応条件として挙げられる。
【0034】
PCRは通常サーマルサイクラーを使用して行われる。本明細書において、サーマルサイクラーの条件とは、サーマルサイクラーで使用されるPCRの温度および時間の設定条件をいう。非特異的なPCR増幅産物を減らし、特異的な増幅を促進させるTouchdownPCRを行う一実施態様において、サーマルサイクラーの条件は(1)98℃、1分、1サイクル後、(2)98℃、10秒、(3)72℃~56℃、15秒、(4)72℃、30秒の(2)~(4)からなるサイクルを合計36サイクル行い、その後(5)72℃、1分、1サイクルを行うものであって、(3)の工程は常に15秒で行われるが、1サイクル目の温度は72℃で開始し、16サイクル目の57℃まで毎サイクル1℃下げ、17サイクル目~36サイクル目を56℃で行われる。これに限定されない当業者に既知の条件でサーマルサイクラーの条件を設定することができる。例えば、TouchdownPCRを行わない場合には、上記(3)の工程の温度は通常のPCRで用いられる40℃~70℃の範囲、好ましくは50℃~70℃の範囲、最も好ましくは60℃で一定にすることができる。当該工程は、温度が低いほど、意図しない配列も増幅されやすく、温度が高いほどアニールの効率が下がる、すなわち、増幅効率が低下する。
【0035】
PCRは、DNAポリメラーゼおよびデオキシリボヌクレオシド三リン酸を使用して標的DNAテンプレートを増幅するプロセスである。このようなPCRにおいて、2つのプライマー(一方のプライマーは、増幅されるDNA分子の第1鎖の3’末端に相補的であり、他方のプライマーは、増幅されるDNA分子の第2鎖の3’末端に相補的である)が、それらのそれぞれのDNA鎖にハイブリダイズされる。ハイブリダイゼーション後、DNAポリメラーゼは、デオキシリボヌクレオシド三リン酸の存在下で、増幅されるDNA分子の、第1鎖に相補的な第3のDNA分子の合成および第2鎖に相補的な第4のDNA分子の合成を可能にする。この合成は、2つの2本鎖DNA分子をもたらす。次いで、このような2本鎖DNA分子は、DNAポリメラーゼ、プライマー、およびデオキシリボヌクレオシド三リン酸を提供することにより、さらなるDNA分子の合成のためのDNAテンプレートとして使用され得る。
【0036】
本発明における被検核酸は、例えば、1本鎖でもよいし、2本鎖でもよい。2本鎖の場合は、例えば、被検核酸とプローブとをハイブリダイズさせてハイブリッド体を形成するために、加熱により前記2本鎖を1本鎖に解離させる工程を含むことが好ましい。
【0037】
「増幅反応を検出すること」には、PCRによる増幅産物をゲル中で電気泳動しゲル中の核酸を染色して核酸の塩基長に応じたバンドとして検出することを含む増幅産物として検出することや、リアルタイムPCRにより蛍光プローブを検出することが含まれる。
リアルタイムPCRの蛍光の検出方法には、二本鎖DNAに結合する蛍光色素を使用するインターカレーター法、遺伝子産物に特異的に結合する蛍光プローブを使用する加水分解プローブ法、HybProbe法等が知られている。
インターカレーター法は、二本鎖DNAに結合する蛍光色素をあらゆる配列に対して利用することができ汎用性が高い。
加水分解プローブ法は、検出する目的のPCR増幅産物と相補的な塩基配列を含む加水分解プローブを使用する方法であり、加水分解プローブは標的核酸特異なオリゴヌクレオチドの5’末端に蛍光色素、3’末端にクエンチャーを標識したプローブであり、PCR酵素の5’-3’エキソヌクレアーゼ活性で加水分解されることで、蛍光シグナルが発せられ、それを検出することで核酸の微量検出や定量を行うことができる。
HybProbe法は、検出する目的のPCR増幅産物と相補的な塩基配列を含む3’末端に蛍光色素で標識されたプローブと5’末端にライトサイクラー(登録商標)Redで標識しかつ3’末端をリン酸化したプローブの2つのプローブが近接してハイブリダイズすることにより蛍光物質間に蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)が起こり、蛍光シグナルが発せられ、それを検出することで核酸の検出や定量を行うことができる。
本発明の肺炎マイコプラズマ薬剤耐性菌検出用プライマーをマクロライド系抗生物質が結合する23SrRNAのドメインVの隣接する2つのアデニンの変異を検出できるようにプローブを設計変更することができ、それによりリアルタイムPCRの蛍光の検出方法により23SrRNA遺伝子変異を調べることによりマクロライド系抗生物質耐性変異菌の有無を検出することができる。
【0038】
被検核酸の種類としては、特に制限されないが、例えば、DNAや、トータルRNA、mRNA等のRNA等があげられる。また、前記被検核酸は、例えば、肺炎マイコプラズマの培養試料、カテーテル洗浄液、生体試料等の試料に含まれる核酸があげられる。これらの試料はそのまま用いてもよいし、適当な溶液で希釈したものを用いてもよい。適当な溶液としては、水、生理食塩水、緩衝液、アルカリ性水溶液、酸性水溶液、核酸抽出試薬、界面活性剤、有機溶媒などが挙げられる。
【0039】
生体試料としては、特に制限されないが、例えば、膿、髄液、胸水、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、喀痰、気管支洗浄液、組織切片、血液(全血)などが挙げられる。試料の採取方法、DNAやRNA等の核酸の調製方法等は、制限されず、従来公知の方法が採用できる。
【0040】
本発明によれば、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)の23SrRNA配列の2063位および2064位のアデニンを3’末端に配置した3種類のリバースプライマー(野生株、A2063G、A2064Gに対応するプライマー:配列番号1~3)を準備し、HiDi DNAポリメラーゼ(登録商標)を含む3’末端における1塩基の違いを有するプライマーを認識し、完全一致しない場合は増幅効率が著しく低下するDNAポリメラーゼを使用して被験者から得られた被検核酸に対してPCR法を行うことで、点突然変異のうち最も多くを占めるA2063G(2063位のアデニン(A)がグアニン(G)に置換された変異)、A2064G(2064位のアデニン(A)がグアニン(G)に置換された変異)を、単一のPCR条件で弁別することができる。
【0041】
本発明によれば、百日咳菌(Bordetella pertussis)の23SrRNA配列の2037位および2038位のアデニンを3’末端に配置した3種類のリバースプライマー(配列番号5~11のいずれか1つの塩基配列からなるプライマー、配列番号12~18のいずれか1つの塩基配列からなるプライマー、および配列番号19~25のいずれか1つの塩基配列からなるプライマー)を準備し、HiDi DNAポリメラーゼ(登録商標)を含む3’末端における1塩基の違いを有するプライマーを認識し、完全一致しない場合は増幅効率が著しく低下するDNAポリメラーゼを使用して被験者から得られた被検核酸に対してPCR法を行うことで、点突然変異のうち最も多くを占めるA2037G(2037位のアデニン(A)がグアニン(G)に置換された変異)、A2038G(2038位のアデニン(A)がグアニン(G)に置換された変異)、2037位と2038位がそれぞれアデニン(A)およびアデニン(A)である無変異を、単一のPCR条件で弁別することができる。
【0042】
一実施態様において、本発明は、マクロライド系抗生物質耐性変異菌、特に、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)または百日咳菌(Bordetella pertussis)の23SrRNA遺伝子検出キットを提供する。本発明の肺炎マイコプラズマのマクロライド系抗生物質耐性変異菌検出キットは、配列番号1~3に示される塩基配列からなるリバースプライマーと配列番号4に示される塩基配列からなるフォワードプライマーを含むプライマーセットを含み、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)の薬剤耐性菌検出に用いることが出来る。また、本発明の百日咳菌のマクロライド系抗生物質耐性変異菌検出キットは、配列番号5~11のいずれか1つの塩基配列からなるプライマー、配列番号12~18のいずれか1つの塩基配列からなるプライマー、および配列番号19~25のいずれか1つの塩基配列からなるプライマーのリバースプライマーと、配列番号26~29のいずれか1つの塩基配列からなるフォワードプライマーを含むセットを含み、百日咳菌(Bordetella pertussis)の薬剤耐性菌検出に用いることが出来る。本発明のキットは、核酸増幅反応および/または核酸増幅産物検出反応に必要な試薬を適宜含むことが好ましい。
【0043】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例の記載によって限定して解釈されるものではない。当業者であれば、本明細書の記載に基づき、本発明の技術的範囲を逸脱せずに、多くの変形及び修飾を実施することができる。また、特に記載のない場合には、以下の実施例は、例えば、Sambrook and Maniatis, in Molecular Cloning-ALaboratoryManual,ColdSpring Harbor Laboratory Press, New York,1989; Ausubel, F.M.etal.,Current ProtocolsinMolecularBiology,John Wiley&Sons,NewYork,N.Y,1995等に記載されている、当業者に公知の標準的な遺伝子工学及び分子生物学的技術に従い実施することが出来る。また、キットを使用する場合は、キットの説明書に従って行う。なお、本明細書中に引用された文献の記載内容は本明細書の開示、及び、内容の一部を構成するものである。
【実施例
【0044】
(実施例1 肺炎マイコプラズマのマクロライド系抗生物質耐性変異菌の検出)
被験者の咽頭拭い液を用いて、一般的な方法で被検核酸粗抽出を行った。輸送用培地に入った検体を使用した。懸濁した検体含有培地300μlを4℃、20000g、30分間で遠心し、沈渣をProteinase K添加Lysis Bufferで懸濁し、Thermal cyclerで55℃、60分→100℃、10分→4℃でインキュベートした。肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)の23SrRNAの野生型の2063位の塩基アデニン(A)が塩基グアニン(G)に突然変異したA2063G、2064位の塩基アデニン(A)が塩基グアニン(G)に突然変異したA2064Gを被検核酸から検出するために、
フォワード プライマー1種(1838-CTGCCCAGTGCTGGAAGGTTAAAGAAGGAGGTTAG-1872(配列番号4))およびリバースプライマー3種(リバースプライマー(1):GCTACAGTAAAGCTTCACGGGGTCTC(配列番号1)、リバースプライマー(2): TTAAGCTACAGTAAAGCTTCACGGGGTCTTT(配列番号2)、リバースプライマー(3):TTAAGCTACAGTAAAGCTTCACGGGGTCTTC(配列番号3))、HiDi DNAポリメラーゼ(登録商標)(funakoshi)を用い、最適化した条件でPCR反応を行った。すなわち、サーマルサイクラーを用いて以下の条件において非特異的なPCR増幅産物を減らし、特異的な増幅を促進させるTouchdownPCRを行った。(1)98℃、1分、1サイクル後、(2)98℃、10秒、(3)72℃~56℃、15秒、(4)72℃、30秒の(2)~(4)からなるサイクルを合計36サイクル行い、その後(5)72℃、1分、1サイクルを行い終了した。(3)のアニーリング工程は、常に15秒で行われるが、サイクルによって温度を変更または維持した。つまり、1サイクル目の温度は72℃で開始し、2サイクル目は71℃、3サイクル目は70℃・・・とサイクル毎に1℃下げ、16サイクル目の57℃まで同様にサイクル毎に1℃下げた。17サイクル目は56℃とし、以降18~36サイクル目も56℃で行った。
増幅されたPCR産物を2%アガロースゲルで135V、20分電気泳動し、特異的増幅産物(約250bp)が確認されたレーンを陽性とした(図1)。
【0045】
(実施例2 百日咳菌のマクロライド系抗生物質耐性変異菌の検出)
臨床検体から分離された百日咳菌(Bordetella pertussis)の菌株をQIAGEN社 QIAampDNA mini kitを用いて核酸抽出を行った。該核酸を精製し、百日咳菌の23SrRNA配列の塩基配列において変異が入る2つの塩基(2037位および2038位)の上流領域と下流領域を別個にPCRで増幅した。これらのPCR増幅産物をタカラバイオ社Gel and PCR clean up kitを用いて精製し、2003から2072の70塩基に相当するプライマーで「橋渡し」してつなぎ合わせた。精製に用いたプライマーは、以下のとおりである(ユーロフィンジェノミクス株式会社にプライマー合成を委託):
フォワード (BpSC-F-T7)
GATAATACGACTCACTATAGGGCATGAAGGGGTCGCAGAGAATCGG (配列番号30)
リバース (BpSC-A-Rev)
CCGTCTAGCCGCGGGTAGATTGCATCATCA(配列番号31)

フォワード (BpSC-B-Fwd)
AGACCCCATGAACCTTTACTGTAGCTTTGC(配列番号32)
リバース (BpSC-R-T3)
5’-GAAATTAACCCTCACTAAAGGGCCCAGCTCACGTACCTCTTTAAATGGCG-3’ (配列番号33)

そして、上記橋渡しの際に、
AA検出用では、2037位および2038位のいずれもアデニン(A)である70塩基プライマー(BpSC-AA)(TTTGTGATGATGCAATCTACCCGCGGCTAGACGGAAAGACCCCATGAACCTTTACTGTAGCTTTGCATTG:配列番号34)を用いた。
AG検出用では、2037位および2038位がそれぞれアデニン(A)およびグアニン(G)である70塩基プライマー(BpSC-AG)(TTTGTGATGATGCAATCTACCCGCGGCTAGACGGAGAGACCCCATGAACCTTTACTGTAGCTTTGCATTG:配列番号35)を用いた。
GA検出用では、2037位および2038位がそれぞれグアニン(G)およびアデニン(A)である70塩基プライマー(BpSC-GA)(TTTGTGATGATGCAATCTACCCGCGGCTAGACGGGAAGACCCCATGAACCTTTACTGTAGCTTTGCATTG:配列番号36)を用いた。
このように調製して得られたPCR産物を再度精製した核酸標品を10 copy/μLに調製し、被検核酸とした。
【0046】
百日咳菌(Bordetella pertussis)の23SrRNAの2037位および2038位のアデニンの変異を被検核酸から検出するために、以下の検出用プライマー、およびHiDi DNAポリメラーゼ(登録商標)(funakoshi)を用い、最適化した条件でPCR反応を行った。
【0047】
百日咳菌のAA、AG、およびGA検出用プライマー(ユーロフィンジェノミクス株式会社にプライマー合成を委託)は以下のとおりである。

フォワード プライマー (4種)
BpFwd11 1730- CATGAAGGGGTCGCAGAGAATCG -1752(配列番号26)
BpFwd12 1731- ATGAAGGGGTCGCAGAGAATCGG -1753(配列番号27)
BpFwd13 1730- CATGAAGGGGTCGCAGAGAATCGG -1753(配列番号28)
BpFwd14 1729- GCATGAAGGGGTCGCAGAGAATCGG -1753(配列番号29)

リバースプライマー
・AA検出用プライマー(2037位および2038位がアデニン(A))
BpAA12 2067 5'-CAAAGCTACAGTAAAGGTTCATGGGGTCTTT-3' 2037 (配列番号5)
BpAA10 2065 AAGCTACAGTAAAGGTTCATGGGGTCTTT (配列番号6)
BpAA08 2063 GCTACAGTAAAGGTTCATGGGGTCTTT (配列番号7)
BpAA06 2061 TACAGTAAAGGTTCATGGGGTCTTT (配列番号8)
BpAA04 2059 CAGTAAAGGTTCATGGGGTCTTT (配列番号9)
BpAA02 2057 GTAAAGGTTCATGGGGTCTTT (配列番号10)
BpAA00 2055 AAAGGTTCATGGGGTCTTT (配列番号11)

・AG検出用プライマー(2038位変異)
BpAG12 2067 CAAAGCTACAGTAAAGGTTCATGGGGTCTC 2038 (配列番号12)
BpAG10 2065 AAGCTACAGTAAAGGTTCATGGGGTCTC (配列番号13)
BpAG08 2063 GCTACAGTAAAGGTTCATGGGGTCTC (配列番号14)
BpAG06 2061 TACAGTAAAGGTTCATGGGGTCTC (配列番号15)
BpAG04 2059 CAGTAAAGGTTCATGGGGTCTC (配列番号16)
BpAG02 2057 GTAAAGGTTCATGGGGTCTC (配列番号17)
BpAG00 2055 AAAGGTTCATGGGGTCTC (配列番号18)

・GA検出用プライマー(2037位変異)
BpGA12 2067 CAAAGCTACAGTAAAGGTTCATGGGGTCTTC 2037 (配列番号19)
BpGA10 2065 AAGCTACAGTAAAGGTTCATGGGGTCTTC (配列番号20)
BpGA08 2063 GCTACAGTAAAGGTTCATGGGGTCTTC (配列番号21)
BpGA06 2061 TACAGTAAAGGTTCATGGGGTCTTC (配列番号22)
BpGA04 2059 CAGTAAAGGTTCATGGGGTCTTC (配列番号23)
BpGA02 2057 GTAAAGGTTCATGGGGTCTTC (配列番号24)
BpGA00 2055 AAAGGTTCATGGGGTCTTC (配列番号25)
【0048】
すなわち、サーマルサイクラーを用いて以下の条件において非特異的なPCR増幅産物を減らし、特異的な増幅を促進させるTouchdownPCRを行った。(1)98℃、1分、1サイクル後、(2)98℃、10秒、(3)72℃~56℃、15秒、(4)72℃、30秒の(2)~(4)からなるサイクルを合計36サイクル行い、その後(5)72℃、1分、1サイクルを行い終了した。(3)のアニーリング工程は、常に15秒で行われるが、サイクルによって温度を変更または維持した。つまり、1サイクル目の温度は72℃で開始し、2サイクル目は71℃、3サイクル目は70℃・・・とサイクル毎に1℃下げ、16サイクル目の57℃まで同様にサイクル毎に1℃下げた。17サイクル目は56℃とし、以降18~36サイクル目も56℃で行った。
増幅されたPCR産物を2%アガロースゲルで100V、30分電気泳動し、特異的増幅産物(0.33kbp)の有無を確認した(図2)。
図2の説明は以下のとおりである:
Mのレーンは100bpラダーマーカーを示す。
レーン1~3は陰性対照(NTC, no template control: 鋳型なし)を示す。
レーン1、4、5、6は、フォワードプライマー(BpFwd14:GCATGAAGGGGTCGCAGAGAATCGG(配列番号29))とリバースプライマー(BpAA10:AAGCTACAGTAAAGGTTCATGGGGTCTTT(配列番号6))の組み合わせで、NTC/AA/AG/GAの対象標品を鋳型にPCR増幅を行った結果であり、AA配列のみに増幅産物(0.33kbp)が確認された。
レーン2、7、8、9は、フォワードプライマー(BpFwd14:GCATGAAGGGGTCGCAGAGAATCGG(配列番号29))とリバースプライマー(BpAG10:AAGCTACAGTAAAGGTTCATGGGGTCTC(配列番号13))の組み合わせで、NTC/AA/AG/GAの対象標品を鋳型にPCR増幅を行った結果であり、AG配列のみに増幅産物(0.33kbp)が確認された。
レーン3、10、11、12は、フォワードプライマー(BpFwd14:GCATGAAGGGGTCGCAGAGAATCGG(配列番号29))とリバースプライマー(BpGA10:AAGCTACAGTAAAGGTTCATGGGGTCTTC(配列番号20))の組み合わせで、NTC/AA/AG/GAの対象標品を鋳型にPCR増幅を行った結果であり、GA配列のみに増幅産物(0.33kbp)が確認された。
【0049】
ここに結果は示さないが、図2で使用したプライマーセット以外にも、5~11のいずれか1つの塩基配列からなるプライマー、配列番号12、13、15、16のいずれか1つの塩基配列からなるプライマー、および配列番号20、22、23のいずれか1つの塩基配列からなるプライマーのリバースプライマーと、配列番号27~29のいずれか1つの塩基配列からなるフォワードプライマーのプライマーセットを使用することにより、特異的増幅産物(0.33kbp)の有無を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、マクロライド系抗生物質耐性変異菌の検出が可能となる。特に、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)の薬剤耐性に重要な23SrRNAドメインV領域の2063位と2064位のアデニンの点変異および百日咳菌(Bordetella pertussis)の薬剤耐性に重要な23SrRNAドメインV領域の2037位と2038位のアデニンの点変異を検出することにより、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)および百日咳菌(Bordetella pertussis)のマクロライド系抗生物質に対する薬剤耐性菌を安価で正確に短時間で簡便に検出することができる。
図1
図2
【配列表】
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