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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】光コム距離計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/32 20200101AFI20241022BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20241022BHJP
   G01B 9/02002 20220101ALI20241022BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
G01S17/32
G01C3/06 120Q
G01B9/02002
G01B11/00 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022181589
(22)【出願日】2022-11-14
(65)【公開番号】P2024070944
(43)【公開日】2024-05-24
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】503249810
【氏名又は名称】株式会社OptoComb
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】興梠 元伸
(72)【発明者】
【氏名】今井 一宏
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-014549(JP,A)
【文献】国際公開第2019/017392(WO,A1)
【文献】特開2011-027649(JP,A)
【文献】特開2017-173173(JP,A)
【文献】特開2021-032566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48-G01S 7/51
G01S 17/00-G01S 17/95
G01C 3/00-G01C 3/32
G01B 9/00-G01B 9/10
G01B 11/00-G01B 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ周期的に強度又は位相が変調され、互いに変調周期が異なる測定光と参照光を出射する光源部と、
上記光源部から出射された測定光と参照光を重ね合わせる基準干渉計と、
上記測定光を測定対象物に照射して、該測定対象物により反射されて戻ってきた測定光と上記参照光を重ね合わせる測定干渉計と、
上記基準干渉計により測定光と参照光を重ね合わせて得られる干渉光を受光する基準光検出器と、
上記測定干渉計により上記測定光と参照光を重ね合わせて得られる干渉光を受光する測定光検出器と、
上記測定光検出器による干渉光の検出出力として得られる測定干渉信号に含まれる上記測定対象物の奥行き方向に存在する複数の反射面による各反射信号の上記基準光検出器による干渉光の検出出力として得られる基準干渉信号に対する遅れ時間から上記複数の反射面までの距離を算出する信号処理部とを備え、
上記信号処理部は、上記測定干渉信号から、反射由来の信号部分を反射信号として抽出する反射信号抽出処理と、抽出した各反射信号と上記基準干渉信号を高速フーリエ変換して、各反射信号と上記基準干渉信号間の同じ次数の周波数成分の位相差を求める位相計算処理を行うことを特徴とする光コム距離計測装置
【請求項2】
上記信号処理部は、上記反射信号抽出処理において、上記基準干渉信号と上記測定干渉信号の相互相関関数を計算して得られる相関信号包絡線のピーク検出により各反射信号を抽出することを特徴とする請求項に記載の光コム距離計測装置。
【請求項3】
上記信号処理部は、上記反射信号抽出処理において、予め設定された反射信号波形を抽出するための時間窓関数を移動させて、上記測定干渉信号波形から反射信号波形を抽出し、抽出された反射信号波形のピーク検出により各反射信号を抽出することを特徴とする請求項に記載の光コム距離計測装置。
【請求項4】
上記信号処理部は、上記反射信号抽出処理において、上記基準干渉信号と上記測定干渉信号の相互相関関数を計算して得られる相関信号包絡線のピーク検出により反射信号の大まかな位置を検出し、検出された位置近傍の測定干渉信号波形から、予め設定された反射信号波形を抽出するための時間窓関数を用いて反射信号波形を抽出し、抽出された反射信号波形のピーク検出により各反射信号を抽出することを特徴とする請求項に記載の光コム距離計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物の奥行き方向に存在する複数の反射面までの各距離を測定する光コム距離計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガラス板、レンズなどの透明乃至半透明な被測定物について、その板厚寸法や面形状を光学的に非接触で測定する装置では、光ビームを被測定物に照射して、上記被測定物の表面と裏面により反射された表面反射光と裏面反射光を個別の光検出器により検出することにより、各光検出器における検出光の時間差として計測することによりガラス板厚を測定するようにしていた(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1の開示技術では、被測定物に光ビームを投射して、上記被測定物の表面で反射した表面反射光の光路を検出する手段と、上記被測定物の裏面で反射した裏面反射光の光路を検出する手段とが設けられている。
【0004】
また、特許文献2の開示技術では、照射光学系の光軸に平行にかつ実質的に一定速度で移動するレーザー光を被測定ガラス板に照射し、その表面反射光と裏面反射光を受光光軸上の少なくとも2つの異なる位置に設けた受光器における検出光の時間差として検出し、該時間差並びに測定光学系とガラス板の距離とから、ガラス板の厚さを算出している。
【0005】
本件発明者等は、それぞれ周期的に強度又は位相が変調され、互いに変調周期が異なる干渉性のある参照光と測定光をパルス出射する2つの光コム発生器を備え、基準面に照射される参照光パルスと測定面に照射される測定光パルスとの干渉光を参照光検出器により検出するとともに、上記基準面により反射された参照光パルスと上記測定面により反射された測定光パルスとの干渉光を測定光検出器により検出して、上記参照光検出器と測定光検出器により得られる2つ干渉信号の時間差から、上記基準面までの距離と上記測定面までの距離の差を求めることにより、高精度で、しかも短時間に測距測定を行うことの可能な光コム距離計を先に提案している(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
また、測定面までの距離の基準点位置を基準光路により規定して、長距離測定を高精度で、しかも短時間に行うことができるようにした光コム距離計を先に提案している(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭59-54910号公報
【文献】特開平6-174432号公報
【文献】特許第5231883号公報
【文献】特開2020-12641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献1や特許文献2によれば、透明乃至半透明な被測定物の板厚を光学的に非接触で測定することができるが、被測定物の表面と裏面により反射された表面反射光と裏面反射光を個別の光検出器により検出する測定光学系を備える必要がある。
【0009】
また、本件発明者等が先に提案している光コム距離計では、測定面までの距離を高精度で、しかも短時間に測距測定を行うことができるのであるが、1つの測定点は1つ反射面からの反射であることを仮定した信号処理を行うことにより、測定対象物により反射される表面反射光に基づいて測定面までの距離を計算していたので、多重反射があると正しく距離を計算することができず、透明乃至半透明な被測定物の板厚を測定することはできない。
【0010】
本発明の目的は、上述のごとき従来の実情に鑑み、光コム距離計を改良して、測定対象物の奥行き方向に存在する複数の反射面までの距離を高精度で、しかも短時間に測定することができるようにしたコム距離計測装置を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下に説明される実施の形態の説明から一層明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、光コム干渉計の信号処理アルゴリズムを奥行き方向に存在する複数の反射面に対応するように拡張することによって、複数の反射面までの距離を算出する信号処理を行う。
【0013】
すなわち、本発明は、光コム距離計測装置であって、それぞれ周期的に強度又は位相が変調され、互いに変調周期が異なる測定光と参照光を出射する光源部と、上記光源部から出射された測定光と参照光を重ね合わせる基準干渉計と、上記測定光を測定対象物に照射して、該測定対象物により反射されて戻ってきた測定光と上記参照光を重ね合わせる測定干渉計と、上記基準干渉計により測定光と参照光を重ね合わせて得られる干渉光を受光する基準光検出器と、上記測定干渉計により上記測定光と参照光を重ね合わせて得られる干渉光を受光する測定光検出器と、上記測定光検出器による干渉光の検出出力として得られる測定干渉信号に含まれる上記測定対象物の奥行き方向に存在する複数の反射面による各反射信号の上記基準光検出器による干渉光の検出出力として得られる基準干渉信号に対する遅れ時間から上記複数の反射面までの距離を算出する信号処理部とを備え、上記信号処理部は、上記測定干渉信号から、反射由来の信号部分を反射信号として抽出する反射信号抽出処理と、抽出した各反射信号と上記基準干渉信号を高速フーリエ変換して、各反射信号と上記基準干渉信号間の同じ次数の周波数成分の位相差を求める位相計算処理を行うことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る光コム距離計測装置において、上記信号処理部は、上記反射信号抽出処理において、上記基準干渉信号と上記測定干渉信号の相互相関関数を計算して得られる相関信号包絡線のピーク検出により各反射信号を抽出するものとすることができる。
【0016】
また、本発明に係る光コム距離計測装置において、上記信号処理部は、上記反射信号抽出処理において、予め設定された反射信号波形を抽出するための時間窓関数を移動させて、上記測定干渉信号波形から反射信号波形を抽出し、抽出された反射信号波形のピーク検出により各反射信号を抽出するものとすることができる。
【0017】
さらに、本発明に係る光コム距離計測装置において、上記信号処理部は、上記反射信号抽出処理において、上記基準干渉信号と上記測定干渉信号の相互相関関数を計算して得られる相関信号包絡線のピーク検出により反射信号の大まかな位置を検出し、検出された位置近傍の測定干渉信号波形から、予め設定された反射信号波形を抽出するための時間窓関数を用いて反射信号波形を抽出し、抽出された反射信号波形のピーク検出により各反射信号を抽出するものとすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る光コム距離計測装置では、信号処理部において、測定干渉信号に含まれる測定対象物の奥行き方向に存在する複数の反射面による各反射信号を抽出し、抽出した各反射信号の基準干渉信号に対する遅れ時間から上記複数の反射面までの距離を算出することができる。
【0019】
したがって、本発明では、測定対象物の奥行き方向に存在する複数の反射面までの距離を高精度で、しかも短時間に測定することができる光コム距離計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明を適用した光コム距離計測装置の構成例を示すブロック図である。
図2図2は、上記光コム距離計測装置において、信号処理部により実行される距離算出処理の手順を示すフローチャートである。
図3図3は、測定対象物が半透明の基板とした場合に、上記測定対象物により反射されて戻ってくる測定光による測定信号波形に含まれる上記測定対象物による表面反射光信号波形と裏面反射光信号波形と参照光による基準信号波形を示す波形図である。
図4図4は、上記信号処理部により実行される距離算出処理における相互相関関数による反射信号抽出処理の手順を示すフローチャートである。
図5図5、は上記相互相関関数による反射信号抽出処理の説明に供する表面反射光信号波形と裏面反射光信号波形と基準信号波形を示す波形図である。
図6図6は、上記信号処理部により実行される距離算出処理における時間窓関数を用いた反射信号抽出処理の手順を示すフローチャートである。
図7図7は、上記時間窓関数を用いた反射信号抽出処理の説明に供する表面反射光信号波形と裏面反射光信号波形と基準信号波形を示す波形図である。
図8図8は、上記信号処理部により実行される距離算出処理における位相計算処理の手順を示すフローチャートである。
図9図9は、測定対象物による反射光の説明に供する波形図であり、(A)は不透明な測定対象物による表面反射光の信号波形を示し、(B)は半透明な測定対象物による表面反射光や裏面反射光成分を含む反射光の信号波形を示す。
図10図10は、上記光コム距離計測装置において、光源部の2つ光コム発生器に供給される駆動信号の状態遷移を示す状態遷移図である。
図11図11は、上記信号処理部により実行される距離算出処理における絶対距離算出処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、共通の構成要素については、共通の指示符号を図中に付して説明する。また、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能であることは言うまでもない。
【0022】
図1は、本発明を適用した光コム距離計測装置100の構成例を示すブロック図である。
【0023】
この光コム距離計測装置100は、それぞれ周期的に強度又は位相が変調され、互いに変調周期が異なる測定光S1と参照光S2を出射する光源部10と、上記光源部10から出射された測定光S1と参照光S2を重ね合わせる基準干渉計21と、上記測定光S1を測定対象物1に照射して、該測定対象物1により反射されて戻ってきた測定光S1’と上記参照光S2を重ね合わせる測定干渉計22と、上記基準干渉計21により測定光S1と参照光S2を重ね合わせて得られる干渉光を受光する基準光検出器31と、上記測定準干渉計22により上記測定光S1’と参照光S2を重ね合わせて得られる干渉光を受光する測定光検出器32と、上記基準光検出器31による干渉光の検出出力として得られる基準干渉信号と上記測定光検出器32による干渉光の検出出力として得られる測定干渉信号との時間差から上記測定対象物1までの距離を算出する信号処理部40とを備える。
【0024】
この光コム距離計測装置100における光コム発生部10は、1つのレーザー光源11と、このレーザー光源11から出射されたレーザー光がビームスプリッタ12により2つのレーザー光に分岐されて、一方のレーザー光が入射される第1の光コム発生器13と、他方のレーザー光が周波数シフタ14を介して入射される第2の光コム発生器15からなる。
【0025】
上記第1の光コム発生器13と第2の光コム発生器15は、互いに位相同期され異なる周波数fm+Δfmと周波数fmで発振する図示しない発振器により駆動され、それぞれ周期的に強度又は位相が変調され、互いに変調周期が異なる測定光S1と参照光S2を出射する。
【0026】
ここで、上記周波数シフタ14により所定の光周波数シフトが与えられたレーザー光が上記第2の光コム発生器15に入射されることにより、上記第1の光コム発生器13と第2の光コム発生器15から出射される測定光S1と参照光S2は、キャリア周波数間のビート周波数が直流信号ではなく、上記所定の光周波数の交流信号になる結果、キャリア周波数の高周波側サイドバンドのビート信号と低周波側サイドバンドのビート信号がビート信号のキャリア周波数間のビート周波数を挟んで相対する周波数領域に発生するため位相比較に都合が良い。
【0027】
上記基準干渉計21は、上記第1の光コム発生器13から出射された測定光S1が入射される第1のビームスプリッタ21Aと、上記第2の光コム発生器15出射された参照光S2が入射される第2のビームスプリッタ21Bを備え、上記第1のビームスプリッタ21Aにより測定光S1が反射されて上記第2のビームスプリッタ21Bに入射されることにより、上記測定光S1と参照光S2を重ね合わせて得られる干渉光を基準光検出器31に入射させる。
【0028】
また、上記測定干渉計22は、上記第1の光コム発生器13から出射された測定光S1が上記基準干渉計21の第1のビームスプリッタ21Aを通過して入射される第1のビームスプリッタ22Aと、上記第2の光コム発生器15出射された参照光S2が上記基準干渉計21の第2のビームスプリッタ21Bを通過して入射される第2のビームスプリッタ22Bを備え、上記第1のビームスプリッタ22Aを通過した測定光S1を測定対象物1に照射し、上記測定対象物1により反射されて戻ってきた測定光S1’が上記第1のビームスプリッタ22Aにより反射されて上記第2のビームスプリッタ22Bに入射されることにより、上記測定光S1’と参照光S2を重ね合わせて得られる干渉光を測定光検出器32に入射させる。
【0029】
上記基準光検出器31は、上記基準干渉計21を介して入射される上記測定光S1と参照光S2を重ね合わせた干渉光を受光することにより、上記干渉光の検出出力として得られる基準干渉信号を上記信号処理部40に供給する。
【0030】
また、上記測定光検出器32は、上記測定干渉計22を介して入射される上記測定光S1’と参照光S2を重ね合わせた干渉光を受光することにより、上記干渉光の検出出力として得られる測定干渉信号を上記信号処理部40に供給する。
【0031】
そして、上記信号処理部40は、上記基準光検出器31による干渉光の検出出力として得られる基準干渉信号と上記測定光検出器32による干渉光の検出出力として得られる測定干渉信号について、図2のフローチャートに示す手順に従って、上記測定対象物1までの距離を算出する処理を行う。
【0032】
すなわち、上記信号処理部40は、先ず最初の入力処理工程ST1において、上記基準光検出器31による干渉光の検出出力として得られる基準干渉信号と上記測定光検出器32による干渉光の検出出力として得られる測定干渉信号から、上記参照光S2による測定信号波形データと、上記測定対象物1により反射されて戻ってきた測定光S1’による測定信号波形データと、上記第1の光コム発生器13と第2の光コム発生器15におけるレーザー光の変調周波数Fmデータを取り込む。
【0033】
次の反射信号抽出処理工程ST2では、上記入力処理工程ST1において取り込まれた各波形データに基づいて、図4図6のフローチャートに示す手順に従って、上記測定対象物1による反射信号を抽出する。
【0034】
次の位相計算処理工程ST3では、上記反射信号抽出処理工程ST2において取り込まれた反射信号について、図8のフローチャートに示す手順に従って、位相計算を行う。
【0035】
次の判定工程ST4では、上記反射信号抽出処理工程ST2に戻って次の反射信号を抽出するか否かの判定を行い、抽出する場合すなわち判定結果が「YES」の場合には反射信号抽出処理工程ST2に戻り、抽出しない場合すなわち判定結果が「NO」の場合には次の判定工程ST5に移って、この光コム距離計測装置100に設定されている出力モードの判定処理を行う。
【0036】
そして、この光コム距離計測装置100に設定されている出力モードが相対距離モードである場合には、次の相対距離出力工程ST6に移って、上記位相計算処理工程ST3において計算された位相情報に基づいて、上記測定対象物1の奥行き方向に存在する複数の反射面までの相対距離データを出力する。
【0037】
また、この光コム距離計測装置100に設定されている出力モードが絶対距離モードである場合には、次の絶対距離算出処理工程ST7に移って、上記測定対象物1の奥行き方向に存在する複数の反射面までの絶対距離を算出する。
【0038】
次の絶対距離出力工程ST8では、上記絶対距離算出処理工程ST7による計算結果として得られる上記測定対象物1の各反射面までの絶対距離を示す絶対距離データを出力する。
【0039】
ここで、上記測定対象物1が例えば半透明の基板とした場合、上記測定対象物1により反射されて戻ってくる測定光S1’による測定信号波形は、上記測定対象物1による表面反射光信号波形Aと裏面反射光信号波形Bを含み、図3に示すように、表面反射光信号波形と裏面反射光信号波形は、参照光S2による基準信号波形Cに対して、時間遅れT1、T2を持ったものになっている。
【0040】
図4のフローチャートは、上記反射信号抽出処理工程S2において実行される、 相互相関関数による反射信号抽出処理の手順を示している。
【0041】
上記信号処理部40は、上記反射信号抽出処理工程S2において、上記基準干渉信号と上記測定干渉信号の相互相関関数を計算して得られる相関信号包絡線のピーク検出により各反射信号を抽出する。
【0042】
すなわち、この相互相関関数による反射信号抽出処理では、先ず参照信号と測定信号の相互相関関数を計算する(処理工程ST21)。
【0043】
次に、反射信号の存在を確認するために、上記処理工程ST21により計算された相互相関関数で示される相関信号の包絡線のピークを検出する(処理工程ST22)。
【0044】
そして、上記処理工程ST22により検出された相関信号の包絡線のピークが規定値を超えている場合には、反射信号が存在していると見なして(処理工程ST23)、相関信号のピークから反射信号の発生時刻を計算することにより、図5に示すように、反射信号を検出する(処理工程ST24)。上記規定値は、雑音レベル、鏡面反射の信号レベルなどから決定される。
【0045】
すなわち、参照信号、測定信号は反射が一点の場合、同一の包絡線波形を持っており、測定する距離に応じた時間だけ遅延した波形となる。参照信号、測定信号が、交流信号である場合、相互相関波形には、交流成分に由来する振動波形が含まれる。ここで、精度よく遅延時間を求めるには、交流成分由来の振動に影響されず干渉信号包絡線波形のピークや重心を求める必要がある。交流信号である場合、ヒルベルト変換により搬送波の位相がπ/2だけずれた波形を求めておいて元の波形との二乗和を計算して包絡線の振幅を求めるなどAM信号の復調方法と同様の手法を取ることができる。また相互相関関数から相関の大きさの絶対値が極値を持つ時刻をAM信号の復調方法と同様の手法により算出してもよい。
【0046】
なお、反射点が複数あれば複数のピークが発生する。それぞれそれで十分な精度の時刻が得られればそれでよい。精度が足りない場合は、さらに信号発生時刻を中心とした後述する窓関数を適用して狭い範囲の解析を行ってもよい。
【0047】
また、図6のフローチャートは、上記反射信号抽出処理工程S2において実行される、時間窓関数を用いた反射信号抽出処理の手順を示している。
【0048】
上記信号処理部40は、上記反射信号抽出処理工程S2において、予め設定された反射信号波形を抽出するための時間窓関数を移動させて、上記測定干渉信号波形から反射信号波形を抽出し、抽出された反射信号波形のピーク検出により各反射信号を抽出する。
【0049】
すなわち、この時間窓関数を用いた反射信号抽出処理では、波形全体の長さと比較して短い時間の波形のみ取り出すような窓関数を適用して、時間窓関数を移動させて、上記測定干渉信号波形から反射信号波形を抽出する(処理工程ST21A)。
【0050】
時間窓関数には、特定の時間帯のみ100%透過、そのほかの時間帯は振幅が0となるような矩形窓関数のほか、ガウス窓、ハン窓、ハミング窓など、信号の形状に応じて適切な窓関数を選択することができる。矩形窓関数は計算区間の端部で波形が不連続に打ち切られることがあるため、周波数成分にサイドローブが生じて、距離計算の誤差を生む場合がある。
【0051】
次に、反射信号の存在を確認するために、時間窓関数の範囲内で測定光S1’による測定信号波形の包絡線のピークを検出する(処理工程ST22A)。
【0052】
そして、上記処理工程ST22Aにより検出された測定信号波形の包絡線のピークが規定値を超えている場合には、反射信号が存在していると見なして(処理工程ST23A)、測定信号波形の包絡線のピークから反射信号の発生時刻を計算することにより、図7に示すように、反射信号を検出する(処理工程ST24A)。上記規定値は、雑音レベル、鏡面反射の信号レベルなどから決定される。
【0053】
ここで、上記信号処理部40は、上記相互相関関数による反射信号抽出処理と時間窓関数を用いた反射信号抽出処理を組み合わせて、上記反射信号抽出処理工程ST2において、上記基準干渉信号と上記測定干渉信号の相互相関関数を計算して得られる相関信号包絡線のピーク検出により反射信号の大まかな位置を検出し、検出された位置近傍の測定干渉信号波形から、予め設定された反射信号波形を抽出するための時間窓関数を用いて反射信号波形を抽出し、抽出された反射信号波形のピーク検出により各反射信号を抽出するようにしてもよい。
【0054】
また、図8は、位相計算処理工程ST3において実行される位相計算処理の手順を示すフローチャートである。
【0055】
上記信号処理部40は、位相計算処理工程ST3において、上記反射信号抽出処理工程ST2で抽出した各反射信号と上記基準干渉信号を高速フーリエ変換して、各反射信号と上記基準干渉信号間の同じ次数の周波数成分の位相差を求める位相計算を行う。
【0056】
すなわち、位相計算処理では、先ず、各反射信号と基準干渉信号を高速フーリエ変換する(処理工程ST31)。
【0057】
ここで、データポイント数が2の累乗以外の場合は、一般的に、離散フーリエ変換(DFT)と呼ばれる。ここでは、データ数によらず、サンプリングされた有限時間のデータを時間領域から周波数領域に変換する信号処理をFFTとしている。FFTの前処理として信号ピーク移動が行われる場合がある。計算区間をわずかにずらしてパルス状の信号の中央部を計算区間の中央に持ってくる。ピーク移動を行うと、計算区間の端部で波形が不連続に打ち切られることによって周波数成分にサイドローブが生じて、距離計算の誤差を生むことを最小限にできる。
【0058】
次に、信号波形、FFT後のスペクトル波形分布から波形データの有効、無効を判断する処理を行う(処理工程ST32)。
【0059】
そして、参照信号、測定信号それぞれについて、有効であると判定された波形データを用いて、FFTされた周波数成分の位相を計算する。参照信号、測定信号の間で同じ次数の周波数成分の位相差を求める。位相差の差を隣接モード間で計算する。隣接モード間の差の平均値が測定信号と参照信号の包絡線波形の位相差に一致する。位相を変調波の繰り返し角周波数で割ると遅延時間が求められる。遅延時間に光速度(299,792,458m/s)をかけると光学距離が求められる。さらに空気の屈折率で割ると測定対象物までの距離が求められる(処理工程ST33)。
【0060】
この光コム距離計測装置100において、上記信号処理部40は、上記反射信号抽出処理工程ST2から判定工程ST4の各処理を繰り返し行うことにより、上記測定対象物1の奥行き方向に存在する複数の反射面による各反射信号を検出して上記複数の反射面までの距離を算出して、相対距離出力工程ST6おいて、上記測定対象物1の奥行き方向に存在する複数の反射面までの相対距離データを出力することができる。
【0061】
ここで、 この光コム距離計測装置100では、図9の(A)に示すように、金属や鏡など不透明な測定対象物1による反射光には多重反射光成分が含まれないので、測定対象物1の表面反射光を検出して測定対象物1の表面反射面までの絶対距離を測定することができ、また、図9の(B)に示すように、ガラス板や半導体基板などの半透明な測定対象物1による反射光に含まれる表面反射光や裏面反射光成分を検出して測定対象物1の表面反射面や裏面反射面までの距離を分離して測定することができる。
【0062】
そして、この光コム距離計測装置100に設定されている出力モードが相対距離モードである場合に、上記位相計算処理工程ST3において計算された位相情報に基づいて、上記測定対象物1の奥行き方向に存在する複数の反射面までの相対距離データを出力する。
【0063】
ここで、この光コム距離計測装置100は、光コム発生部10に備えられた第1の光コム発生器13、第2の光コム発生器15から、それぞれ周期的に強度又は位相が変調された互いに変調状態の異なる測定光S1と参照光S2を出射することにより、原理的に測定対象物1までの距離を測定することができるのであるが、ここでは、基本周波数をf、距離判定に必要な基本周波数の偏移をΔf、光コム干渉を生成するための周波数差をΔfとし、第1の変調周波数Fm1=f=25000MHz、第2の変調周波数Fm2=f+Δf=25010MHz、第3の変調周波数Fm3=f+Δf=25000.5MHz、第4の変調周波数Fm4=f+Δf+Δf=25010.5MHzとして、次の表1に示すように、4種類の変調周波数Fm1~Fm4を巡回的に切り替えた、互いに変調状態が異なる2種類の変調周波数FmA,FmBの測定光S1と参照光S2を出力することにより、上記信号処理部40において、上記測定対象物1までの絶対距離を算出することができるようにしてある。
【0064】
【表1】
【0065】
表1は、#1~4の各選択状態における互いに変調状態が異なる2種類の光コムの変調周波数FmA,FmBと位相差を示している。
【0066】
図10は、光コム距離計測装置100において、光源部10の2つ光コム発生器13,15に供給される駆動信号の状態遷移を示す状態遷移図である。
【0067】
ここで、光コム距離計測装置100において、信号処理部40では、基準光検出器31により得られる基準干渉信号(参照信号)と測定光検出器32により得られる測定干渉信号(測定信号)について周波数解析を行い、光コムの中心周波数から数えたモード番号をNとして、参照信号と測定信号のN次モード同士の位相差を計算して光コム発生器から基準点までの光コム生成、伝送過程の光位相差を相殺した後、周波数軸で次数1あたりの位相差の増分を計算して信号パルスの位相差を求めることにより、基準点から測定面までの距離を算出する。
【0068】
なお、測定距離が変調周波数fの半波長を超えると物体光の周期性によりその半波長の整数倍の距離が不明となって一義的に距離を求められないので、表1に示す4通りの変調周波数に設定した基準光パルスと測定光パルスを用いて4回測定して、信号処理部40において、同じ処理を行うことにより得られる各位相差を用いて、半波長相当の多義性距離(L=c/2f c:光速)を超える距離を算出する。
【0069】
すなわち、表1に示す4通りの変調周波数が巡回的に選択設定される測定光S1と参照光S2により距離測定を行って得られる測定信号と参照信号の位相差は、変調周波数がfとf+Δfである設定#1の選択状態では-2πfTとなり、変調周波数がf+Δfとf+Δf+Δfである設定#2の選択状態では-2π(f+Δf)Tとなり、変調周波数がf+fとfである設定#3の選択状態では-2π(f+Δf)Tとなり、変調周波数がf+Δf+Δfとf+Δfである設定#4の選択状態では-2π(f+Δf+Δf)Tとなる。
【0070】
距離(L=c/2f c:光速)が長い場合、参照信号と測定信号の位相差(-2πfT)は、mを整数としてφ+2mπの形であり、計算によりφの部分だけが求められるが、整数値mは不明である。
【0071】
一方、設定#1の選択状態での参照信号と測定信号の位相差-2πfTと#2の設定での参照信号と測定信号の位相差-2π(f+Δf)Tの差は2πΔfTであり、また、設定#3の選択状態での参照信号と測定信号の位相差-2π(f+Δf)Tと設定#4の選択状態での参照信号と測定信号の位相差-2π(f+Δf+Δf)Tの差は2πΔfTであり、1/Δfの波長に相当する距離(Δf=10MHzであればLは15m)までならば、一義的に位相が決まる。
【0072】
そして、この位相をf/Δf倍して設定#1の選択状態での位相差との比較により整数mを判定することができる。
【0073】
さらに、表1の設定#1の選択状態での位相差-2πfTと設定#3の選択状態での位相差-2π(f+Δf)Tの差から2πΔfが得られる。
【0074】
ここで、f=25GHz、Δf=500kHz、Δf=10MHzとした場合、Δf=500kHzであるからL=300mまでの距離計測を行うことができる。
【0075】
ここで、f=2.5GHz、Δf=500kHz、Δf=10MHzとした場合、Δf=500kHzであるからL=300mまでの距離測定を行うことができる。
【0076】
この光コム距離計測装置100では、表1に示す4通りの変調周波数に巡回的に選択設定される設定#1、設定#2、設定#3、設定#4の測定光S1と参照光S2により距離測定を行って得られる測定信号と参照信号を用いて絶対距離計測が行われる。
【0077】
この光コム距離計測装置100に設定されている出力モードが絶対距離モードである場合に、上記信号処理部40は、絶対距離算出処理工程ST7において、図11のフローチャートに示す手順に従って上記測定対象物1の奥行き方向に存在する複数の反射面までの絶対距離を算出する。
【0078】
すなわち、絶対距離算出処理では、上記設定#1、設定#2、設定#3、設定#4の測定光S1と参照光S2により距離測定を行って得られる測定信号と参照信号について、先ず、各信号波形を示すデータを選択し(処理工程ST41)、選択された波形データが上記設定#1、設定#2、設定#3、設定#4の何れの設定状態の信号波形を示しているかの仕分けを行い(処理工程ST42)、仕分けされた波形データの次数計算を行い(処理工程ST43)、さらに、波形データの有効、無効を判断する処理を行い(処理工程ST44)、有効な波形データを用いて、参照信号、測定信号の間で同じ次数の周波数成分の位相差を求めて平均化する(処理工程ST45)ことにより、上記設定#1、設定#2、設定#3、設定#4の測定光S1と参照光S2により距離測定を行って得られる測定信号と参照信号の位相差から上記測定対象物1の表面反射面までの絶対距離を算出する。
【0079】
そして、この光コム距離計測装置100において、絶対距離出力工程ST8では、上記絶対距離算出処理工程ST7による計算結果として得られる上記測定対象物1の表面反射面までの絶対距離を示す絶対距離データを出力する。
【0080】
ここで、表1に示す4通りの変調周波数が巡回的に選択設定される測定光S1と参照光S2により距離測定を行って得られる測定信号と参照信号の位相差から上記測定対象物1の表面反射面までの絶対距離を算出する絶対距離算出処理は、1つの測定点は1つ反射面からの反射であることを仮定した信号処理を行うことにより、変調周波数の巡回的に選択設定による位相の変化分から半波長(25GHzであれば約6mm)の整数倍の次数および距離情報を得て、測定対象物1により反射される表面反射光に基づいて測定面までの絶対距離を計算するものであるが、同様な信号処理により、裏面反射光に基づいて裏面反射面までの絶対距離を計算することができ、上記測定対象物1の奥行き方向に複数の反射面が存在する場合、すなわち、反射点が多数存在する場合でも、原理的には、それぞれの周波数設定において反射信号の抽出から位相計算までを繰り返すことによって、複数の反射信号について、それぞれの位相を分離した状態で求めることができる。
【0081】
すなわち、この光コム距離計測装置100における信号処理部40は、上記絶対距離出力工程ST8により、複数の反射信号について、それぞれ独立に次数を求め多点の絶対距離を同時に算出することができる。
【0082】
また、この光コム距離計測装置100は、測定対象物1に照射する測定光で上記測定対象物1を走査する光学走査手段を備えることにより形状測定装置として機能し、半透明基板の表面形状と板厚とを分離して検出することができる。
【0083】
1 光源部、11 レーザー光源、12 ビームスプリッタ、13,15光コム発生器、14 周波数シフタ、22 基準干渉計、23 測定干渉計、31 基準干渉計、32 測定干渉計、40 信号処理部、100 光コム距離計測装置
図1
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図11