(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】真空蒸発式造水装置を制御する制御装置、制御方法及び制御プログラム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/02 20230101AFI20241022BHJP
C02F 1/04 20230101ALI20241022BHJP
B63J 1/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C02F1/02 F
C02F1/04 A
B63J1/00
(21)【出願番号】P 2023195196
(22)【出願日】2023-11-16
(62)【分割の表示】P 2020029140の分割
【原出願日】2020-02-25
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000143972
【氏名又は名称】株式会社ササクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 充志
(72)【発明者】
【氏名】竹内 高穂
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-306807(JP,A)
【文献】特公昭59-019878(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00- 1/78
B01D 1/00- 8/00
B63B 1/00-85/00
B63J 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水から淡水を製造する真空蒸発式造水装置を制御する制御装置であって、
前記真空蒸発式造水装置の運転状態に関する情報を取得する運転状態取得部と、
前記運転状態取得部によって取得された前記情報に基づいて、前記淡水の造水量
が所定量になるように自動調整する調整部と、
を備え
、
前記真空蒸発式造水装置は、
第1の蒸気によって加熱された温水によって原料海水を加熱して第2の蒸気を生成する加熱器と、
前記加熱器で発生した第2の蒸気を冷却用海水により冷却して淡水を生成する凝縮器と、
を備え、
前記運転状態取得部は、前記海水の温度及び前記第1の蒸気の圧力を前記情報として取得し、
前記調整部は、前記海水の温度に基づいて、前記造水量が前記所定量となる前記第1の蒸気の圧力を算出し、前記運転状態取得部によって取得される前記第1の蒸気の圧力が、前記算出された圧力となるように調整する制御装置。
【請求項2】
海水から淡水を製造する真空蒸発式造水装置を制御する制御方法であって、
前記真空蒸発式造水装置の運転状態に関する情報を取得する運転状態取得工程と、
前記運転状態取得工程において取得された前記情報に基づいて、前記淡水の造水量
が所定量になるように自動調整する調整工程と、
を備え
、
前記真空蒸発式造水装置は、
第1の蒸気によって加熱された温水によって原料海水を加熱して第2の蒸気を生成する加熱器と、
前記加熱器で発生した第2の蒸気を冷却用海水により冷却して淡水を生成する凝縮器と、
を備え、
前記運転状態取得工程では、前記海水の温度及び前記第1の蒸気の圧力を前記情報として取得し、
前記調整工程では、前記海水の温度に基づいて、前記造水量が前記所定量となる前記第1の蒸気の圧力を算出し、前記運転状態取得工程で取得される前記第1の蒸気の圧力が、前記算出された圧力となるように調整する制御方法。
【請求項3】
海水から淡水を製造する真空蒸発式造水装置を制御する制御装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、
前記真空蒸発式造水装置の運転状態に関する情報を取得する運転状態取得部、および、
前記運転状態取得部によって取得された前記情報に基づいて、前記淡水の造水量
が所定量になるように自動調整する調整部、
としてコンピュータを機能させ
、
前記真空蒸発式造水装置は、
第1の蒸気によって加熱された温水によって原料海水を加熱して第2の蒸気を生成する加熱器と、
前記加熱器で発生した第2の蒸気を冷却用海水により冷却して淡水を生成する凝縮器と、
を備え、
前記運転状態取得部は、前記海水の温度及び前記第1の蒸気の圧力を前記情報として取得し、
前記調整部は、前記海水の温度に基づいて、前記造水量が前記所定量となる前記第1の蒸気の圧力を算出し、前記運転状態取得部によって取得される前記第1の蒸気の圧力が、前記算出された圧力となるように調整する制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水から淡水を製造する真空蒸発式造水装置を制御する制御装置、制御方法及び制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、海上を運行する船舶においては、海から汲み上げた海水を高真空下で蒸発させて淡水を製造する真空蒸発式造水装置が用いられている。真空蒸発式造水装置としては、船舶に搭載したボイラーからの蒸気またはディーゼル機関やその他からの廃熱を熱源として利用するタイプが広く普及している(例えば、特許文献1)。この種の真空蒸発式造水装置は、一般に、供給される原料海水をディーゼル機関の冷却などに用いられた温水との熱交換により加熱して蒸発させる加熱器と、減圧手段により内部が減圧(真空)状態に保持され、発生した蒸気を凝縮して淡水化する密閉型の容器本体とを備えている。容器本体内には、複数の伝熱管を有する復水器が内蔵されており、蒸気を伝熱管の内部を流れる冷却用海水との熱交換により冷却・凝縮させることで淡水化している。また、復水器から排出される冷却用海水の一部が、原料海水として加熱器に供給されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、真空蒸発式造水装置の運転調整は、船舶のクルー等によって行われている。しかし近年、機関室の省人化やクルーの技術低下により、運転調整が上手くいかず、造水量不足や過造水などのミスオペを起こす事例が増えている。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、真空蒸発式造水装置の運転調整を自動的に行う制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、海水から淡水を製造する真空蒸発式造水装置を制御する制御装置であって、前記真空蒸発式造水装置の運転状態に関する情報を取得する運転状態取得部と、前記運転状態取得部によって取得された前記情報に基づいて、前記淡水の造水量および塩分濃度の少なくとも何れかを自動調整する調整部と、を備える制御装置によって達成される。
【0007】
本発明の好ましい実施態様においては、前記調整部は、前記造水量が所定量になるように調整することを特徴としている。
【0008】
本発明の好ましい実施態様においては、前記調整部は、前記塩分濃度が所定濃度を超えないように調整することを特徴としている。
【0009】
上記実施態様において、前記真空蒸発式造水装置は、船舶の内燃機関を冷却するジャケット冷却水によって原料海水を加熱して蒸気を生成する加熱器と、前記加熱器で発生した蒸気を冷却用海水により冷却して淡水を生成する凝縮器と、を備えるものであってもよい。
【0010】
この実施態様においては、前記運転状態取得部は、前記海水の温度、前記ジャケット冷却水の流量及び温度を前記情報として取得し、前記調整部は、前記海水の温度及び前記ジャケット冷却水の温度に基づいて、前記造水量が所定量になるように調整することを特徴としている。
【0011】
この実施態様においては、前記調整部は、前記造水量が前記所定量となる前記ジャケット冷却水の流量を算出し、前記運転状態取得部によって取得される前記ジャケット冷却水の流量が、前記算出された流量となるように調整することが好ましい。
【0012】
この実施態様においては、前記真空蒸発式造水装置は、前記加熱器で発生した蒸気から液滴を捕捉する気水分離手段をさらに備え、前記運転状態取得部は、前記気水分離手段を通過する前記蒸気の密度及び流速を前記情報として取得し、前記調整部は、前記蒸気の密度及び流速に基づいて、前記塩分濃度が所定濃度を超えないように調整することを特徴としている。
【0013】
この実施態様においては、前記蒸気の密度をρ、前記蒸気の流速をvとすると、前記調整部は、ρv2が、塩分濃度が前記所定濃度となる限界値を超えないように調整することが好ましい。
【0014】
本発明の上記目的は、海水から淡水を製造する真空蒸発式造水装置を制御する制御方法であって、前記真空蒸発式造水装置の運転状態に関する情報を取得する運転状態取得工程と、前記運転状態取得工程において取得された前記情報に基づいて、前記淡水の造水量および塩分濃度の少なくとも何れかを自動調整する調整工程と、を備える制御方法によって達成される。
【0015】
本発明の上記目的は、海水から淡水を製造する真空蒸発式造水装置を制御する制御装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記真空蒸発式造水装置の運転状態に関する情報を取得する運転状態取得部、および、前記運転状態取得部によって取得された前記情報に基づいて、前記淡水の造水量および塩分濃度の少なくとも何れかを自動調整する調整部、としてコンピュータを機能させるための制御プログラムによって達成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、真空蒸発式造水装置の運転調整を自動的に行う制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る造水システムのブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る造水装置の概略構成図である。
【
図3】
図2に示す造水装置の内部構成を示す断面図である。
【
図4】造水量が所定量であるときの、海水温度とジャケット冷却水の流量及び温度との関係の一例を示すグラフである。
【
図6】造水量が所定量であるときの、海水温度とスチームインジェクタに供給される蒸気圧力との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る造水システムのブロック図である。当該造水システムは、真空蒸発式造水装置(以下、「造水装置」と称する)1と、造水装置1を制御する制御装置100とを備えている。
【0020】
[造水装置の構成]
図2は、造水装置1の概略構成図であり、
図3は、造水装置1の内部構成を示す断面図である。
【0021】
造水装置1は、加熱器2と、気水分離手段4、復水器5及び予熱器6を有する凝縮器3とを備えている。なお、
図3中において、符号P1は海から海水を汲み上げるためのエゼクタポンプであり、エゼクタポンプP1で汲み上げられた海水は、海水ライン8を通って凝縮器3に取り付けられた水エゼクタ7に供給された後、復水器5に、造水装置1による造水用の冷却水として供給される。水エゼクタ7は、凝縮器3内を減圧(真空)状態に保持する減圧手段を構成している。海水ライン8には、海水の温度を検出するための温度検出器90が設けられている。
【0022】
加熱器2は、上下に配置された円筒状の上部管20及び下部管21と、上部管20内に設けられる複数の加熱管22とを備えている。上部管20と下部管21とは、ボルト27A及びナット27Bの締め付けにより接続及び固定されている。複数の加熱管22は、上部管20内を上下方向に延びるように配備されており、その両端部が上部管20の上壁面および下壁面に固定されている。下部管21には、原料海水導入口23が設けられており、原料海水供給ライン24から下部管21の内部に原料海水が導入されることで、各加熱管22に原料海水が導入される。上部管20の側壁面には、円筒状の温水導入管25及び温水排出管26が上下に接続されている。ディーゼル機関70の冷却などに用いられたジャケット冷却水などの温水は、温水供給ライン71を通じて温水導入管25から上部管20内に導入される。各加熱管22に導入された原料海水は、温水導入管25から上部管20内に導入された温水との熱交換により加熱されて蒸発し、蒸気となって凝縮器3内に供給される。原料海水と熱交換された上部管20内の温水は、温水排出管26から温水排出ライン72を通じて、ジャケット水冷却器73に送られる。
【0023】
温水供給ライン71には、流量調整弁80及び流量調整用三方弁81が設けられており、温水排出ライン72には、流量調整弁82が設けられている。温水供給ライン71と温水排出ライン72とは、接続ライン74,75を介して接続されており、接続ライン75には、流量調整弁83が設けられている。流量調整用三方弁81は、温水供給ライン71及び接続ライン74の両方の流量を調整できる。また、温水供給ライン71には、温水の流量を検出するための流量計91と、温水の入口温度を検出するための温度検出器92とが設けられている。温水排出ライン72には、温水の出口温度を検出するための温度検出器96が設けられている。
【0024】
凝縮器3は、加熱器2の上部管20及び下部管21よりも大径の円筒状のケーシング30を備えており、ケーシング30の下端部に加熱器2の上部管20がボルト28A及びナット28Bの締め付けにより接続及び固定されている。このように、加熱器2は、凝縮器3につり下げ状態で着脱可能に支持されており、ケーシング30の内部は、加熱器2から供給された蒸気が流れる蒸気流路となっている。ケーシング30の上部には、復水器5及び予熱器6の外殻をなす円筒状の水平管31がケーシング30を貫通するようにして設けられている。水平管31の両端部には、それぞれ第1のヘッダー32及び第2のヘッダー33が接続されている。
【0025】
ケーシング30の下部には、蒸気から液滴を捕捉する気水分離手段4が設けられている。本実施形態では、気水分離手段4は、気水分離板40と、細い糸条によって形成された
目の細かな網体を多層積層したメッシュセパレータ41とにより構成されている。ケーシング30内における水平管31の上端中央部には、蒸気を水平管31内に導入するための開口34が形成されている。気水分離手段4の内部には、蒸気の圧力を計測するための蒸気圧力計93と、蒸気の温度を計測するための蒸気温度計94とが設けられている。
【0026】
復水器5は、凝縮器3内に供給された蒸気を冷却して淡水を生成するためのものであり、内部に複数の伝熱管50を備えている。各伝熱管50は、水平方向に延びるように配備されており、その両端部が水平管31の左壁面及び右壁面に固定され、第1及び第2の両ヘッダー32,33の内部と連通している。復水器5を構成する伝熱管50の上方には、予熱器6を構成する複数の伝熱管60が設けられている。この複数の伝熱管60も、水平方向に延びるように配備されており、その両端部が水平管31の左壁面及び右壁面に固定され、第1及び第2の両ヘッダー32,33の内部と連通している。
【0027】
第1及び第2の両ヘッダー32,33内は、それぞれ仕切り板35,36により、上方の予熱用ヘッダー室32B,33Bと下方の凝縮用ヘッダー室32A,32Bとに区画されている。第1のヘッダー32の凝縮用ヘッダー32Aには、蒸気を冷却・凝縮するための冷却用海水を導入する冷却水入口37が設けられている。冷却水入口37には、水エゼクタ7が接続されており、エゼクタポンプP1からの海水が冷却水として導入される。第1のヘッダー32の凝縮用ヘッダー32Aに導入された冷却用海水が、各伝熱管50内を、他方の第2のヘッダー33の凝縮用ヘッダー33Aに向かって流れると、水平管31内に供給された蒸気が冷却用海水との熱交換によって冷却されることで凝縮する。凝縮により生成された淡水は、水平管31の下端部に設けられた淡水出口38を介して淡水送出ライン52より取り出され、蒸留水ポンプP2により清水タンク(図示せず)に送られる。淡水送出ライン52には、淡水の流量を計測するための流量計95が設けられている。第2のヘッダー33の凝縮用ヘッダー33Aには、各伝熱管50からの冷却用海水を排出する冷却水出口39が設けられており、冷却水出口39から排出された冷却用海水は、例えば冷却用海水排出ライン51を通じて船舶外などに排出される。
【0028】
第2のヘッダーの仕切り板36には、復水器5から排出された冷却用海水の一部を導入する原料海水入口45が設けられている。復水器5から排出された冷却用海水の一部は、原料海水入口45を介して、第2のヘッダー33の予熱用ヘッダー室33Bに導入される。そして、予熱器6を構成する各伝熱管60内を、他方の第1のヘッダー32の予熱用ヘッダー室32Bに向かって流れる。このとき、冷却用海水は、各伝熱管60内を流れる際に、水平管31内に供給された蒸気との熱交換により加熱される。第1のヘッダー32の予熱用ヘッダー室32Bには、冷却用海水を排出する原料海水出口29が設けられている。原料海水出口29から排出された冷却用海水は、原料海水供給ライン24を介して加熱器2の下部管21内に原料海水として供給される。
【0029】
水平管31のケーシング30外における上端部には、ガス抜き口42及びガス注入口44が設けられているとともに、ケーシング30の下端部には、ブライン出口43が設けられている。ガス抜き口42は、抽気ライン46を介して水エゼクタ7に接続されており、水平管31の内部の不凝縮性ガスが水エゼクタ7により吸引されて、水平管31やケーシング30内が大気圧より低い減圧(真空)状態に保持されることで、水平管31やケーシング30内では、減圧(真空)状態で原料海水の蒸発・凝縮が行われる。抽気ライン46の流量は、流量調整弁84によって調整することができる。ガス注入口44は、注入ライン47に接続されており、必要に応じて、水平管31やケーシング30内を加圧することができる。注入ライン47の流量は、流量調整弁85によって調整することができる。また、ブライン出口43は、ブライン排出ライン48を介して水エゼクタ7に接続されており、ケーシング30内において蒸発した後のブライン(海水)がブライン出口43から水エゼクタ7によって吸引された後、船舶外に排出される。
【0030】
[制御装置の構成]
図1に示す制御装置100は、有線または無線によって造水装置1と通信可能に接続されている。本実施形態では、制御装置100は、船舶内に設けられているが、船舶外(例えば陸上)に設けられてもよい。また、制御装置100は、汎用のコンピュータで構成してもよいし、制御盤などの専用のコンピュータで構成してもよい。あるいは、制御装置100は、造水装置1と一体的に構成することもできる。
【0031】
図1に示すように、制御装置100は、運転状態取得部110と調整部120とを備えている。運転状態取得部110および調整部120の各部は、論理回路等によってハードウェア的に実現してもよいし、CPU等を用いてソフトウェア的に実現してもよい。前記各部をソフトウェア的に実現する場合、制御装置100の記憶装置に記憶されている制御プログラムを、CPUが主記憶装置に読み出して実行することにより前記各部を実現することができる。当該制御プログラムは、インターネット等の通信ネットワークを介して制御装置100にダウンロードしてもよいし、CD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体に制御プログラムを記録しておき、当該記憶媒体を介して制御装置100にインストールしてもよい。
【0032】
運転状態取得部110は、造水装置1の運転状態に関する情報を取得する(運転状態取得工程)。本実施形態では、運転状態取得部110は、造水装置1の温度検出器90、流量計91、温度検出器92、蒸気圧力計93、蒸気温度計94、流量計95及び温度検出器96からの各検出値を前記情報として取得する。
【0033】
調整部120は、運転状態取得部110によって取得された前記情報に基づいて、淡水の造水量および塩分濃度を自動調整する(調整工程)。具体的には、調整部120は、淡水の造水量が所定量になるように調整する機能と、淡水の塩分濃度が所定濃度を超えないように調整する機能とを有している。これらの機能を実現するために、調整部120は、造水量調整部121と塩分濃度調整部122とを備えている。
【0034】
[造水量の調整]
造水量調整部121は、造水量が所定量になるように調整するための機能ブロックである。本実施形態において「造水量」とは、造水装置1によって製造される淡水の単位時間あたりの製造量を意味する。前記所定量は、船舶の規模等に応じて適宜設定される。本実施形態では、造水量調整部121は、以下のように造水量を所定量に保つように調整している。
【0035】
図4は、造水量が所定量であるときの、海水温度T
cinとジャケット冷却水の流量Q
h(m
3/h)及び温度T
hin(℃)との関係の一例を示すグラフである。この関係を示す情報が、制御装置100の図示しない記憶部に記憶されている。なお、T
hin=10、20及び32℃の場合の曲線のみ示されているが、実際には、想定されるあらゆる温度(例えばT
hin=0~40℃において1℃ごと)について、流量Q
hと温度T
hinとの関係を示す情報が記憶されている。
【0036】
流量Qhと温度Thinとは、以下の式で表すことができる。
Qh=f(Thin)・f(Tcin)・f(F)
ここで、Fは、加熱器2の汚れによる影響係数であり、加熱器2の汚れ度合は、流量計91、温度検出器92、蒸気温度計94及び温度検出器96からの検出値により判断される。
【0037】
運転状態取得部110は、造水装置1の温度検出器90、流量計91及び温度検出器9
2から、海水温度T
cin、ジャケット冷却水の流量Q
h及び温度T
hinをそれぞれ取得し、これらの情報を調整部120に入力する。造水量調整部121は、海水温度T
cin及びジャケット冷却水の温度T
hinに基づいて、造水量が前記所定量となるジャケット冷却水の流量Q
hを算出する。具体的には、造水量調整部121は、海水温度T
cinに応じて、造水量を所定量とするためのジャケット冷却水の流量Q
hと温度T
hinとの関係を満たす曲線を選択する。例えば、海水温度T
cinが32℃の場合、造水量調整部121は、
図4において、実線で示される曲線を選択する。続いて、造水量調整部121は、ジャケット冷却水の温度T
hinに基づき、選択した曲線上において、温度T
hinに対応する流量Q
hを算出する。例えば、T
hin=T1である場合、造水量調整部121は、T1に対応する流量Q1を算出する。
【0038】
流量Q1が運転状態取得部110によって取得される実際の流量Qhと異なる場合、造水量調整部121は、Qh=Q1となるように調整する。具体的には、造水量調整部121は、造水装置1の流量調整弁80、流量調整用三方弁81、流量調整弁82及び流量調整弁83の少なくとも何れかに制御信号を送り、各弁の弁開度を調整することにより、Qh=Q1となるように調整する。このようにして、造水量調整部121は、造水量が所定量になるように調整することができる。
【0039】
なお、造水量調整部121による造水量の調整方法は、特に限定されない。例えば、運転状態取得部110が流量計95の計測値を取得し、造水量調整部121は、この計測値が上記所定量になるように、ジャケット冷却水の流量Qhを調整してもよい。
【0040】
また、「造水量が所定量になる」とは、造水量が所定量と厳密に一致することに限定されるものではなく、所定量から若干異なってもよい(例えば±1%)。
【0041】
[塩分濃度の調整]
図1に示す塩分濃度調整部122は、造水装置1によって製造される淡水の塩分濃度が所定濃度を超えないように調整する機能ブロックである。前記所定濃度は、造水装置1に要求される性能に応じて、定格値として設定されている。本実施形態では、塩分濃度調整部122は、以下のように塩分濃度が所定濃度を超えないように調整している。
【0042】
淡水の塩分濃度は、気水分離手段4を通過する蒸気の密度ρ(kg/m2)及び流速v(m/s)によって決まる。制御装置100の図示しない記憶部には、淡水の塩分濃度が上述の所定濃度となるρv2の限界値が記憶されている。
【0043】
運転状態取得部110は、造水装置1の蒸気圧力計93及び流量計95から、蒸気の密度ρ及び流速vをそれぞれ取得する。具体的には、密度ρは、蒸気圧力計93の検出値から求められる。流速vは、流量計95で計測された淡水の流量を密度ρで割ることで体積流量を算出し、さらに凝縮器3内の断面積で割ることで求められる。なお、密度ρは、蒸気温度計94によって計測された蒸気の温度から求めることもできる。また、密度ρを蒸気密度計によって計測してもよい。
【0044】
運転状態取得部110は、密度ρ及び流速vを調整部120に入力する。塩分濃度調整部122は、ρv2を演算して、これを限界値と比較する。ρv2が限界値を超えている、または、限界値以下であっても限界値に近い(例えば限界値の95%)場合、塩分濃度調整部122は、以下の制御(1)~(3)の少なくとも何れかを行うことにより、ρv2を低下させる。
【0045】
(1)流量調整弁80、流量調整用三方弁81、流量調整弁82及び流量調整弁83の少なくとも何れかの弁開度を調整して、ジャケット冷却水の流量を減らし、造水量を低下さ
せる。
(2)流量調整弁85の弁開度を調整して、注入ライン47から水平管31内部にガスを注入し、蒸発温度を上げる。
(3)流量調整弁84の弁開度を調整して、抽気性能を低下させる。
ρv2が低下することにより、気水分離手段4を通過する塩分が減少し、淡水の塩分濃度が低下する。
【0046】
なお、気水分離手段4を通過する蒸気の密度及び流速を計測する代わりに、淡水の塩分濃度を計測し、計測される塩分濃度が所定濃度を超えないように、上記(1)~(3)の少なくとも何れかの制御を行ってもよい。
【0047】
[小括]
以上のように、本実施形態に係る制御装置100は、造水装置1の運転状態に関する情報を取得し、該情報に基づいて、淡水の造水量および塩分濃度を自動調整する。これにより、船舶のクルー等が造水装置1を運転調整する必要がなくなり、ミスオペのリスクを低減することができる。
【0048】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0049】
上記実施形態では、造水装置1がディーゼル機関やその他からの廃熱を熱源として利用する方式のものであったが、造水装置1の種類は特に限定されない。本発明は、例えば、蒸気を利用する方式(スチームインジェクタ方式)の造水装置にも適用できる。
【0050】
図5は、スチームインジェクタ方式の造水装置1’の概略構成図である。
図5において、
図2に示す造水装置1におけるものと同じ機能を有する部材については、同じ符号を付している。造水装置1’は、温水供給ライン71と、温水排出ライン72と、蒸気供給ライン76と、スチームインジェクタ77と、蒸気ドレン排出ライン78とを備えている。蒸気供給ライン76には、蒸気の流量を調整するための流量調整弁86と、蒸気の圧力を検出するための圧力計97とが設けられている。スチームインジェクタ77に蒸気を供給することで、温水供給ライン71及び温水排出ライン72に流れている温水の温度を上昇させることができる。
【0051】
造水装置1’を制御する制御装置では、
図6に示すように、造水量が所定量であるときの、海水温度T
cinと蒸気圧力pとの関係を示す情報があらかじめ記憶されている。そして、温度検出器90によって検出された海水温度がT2である場合、前記所定量に対応する蒸気圧力p1が算出され、圧力計97の検出値が算出された蒸気圧力p1となるように、流量調整弁86が調整される。
【0052】
また、造水装置1’が製造する淡水の塩分濃度の調整については、上記実施形態におけるものと同様であることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、上述の造水装置の他、プレート式造水装置や多重効用造水装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1,1’ 造水装置(真空蒸発式造水装置)
2 加熱器
3 凝縮器
4 気水分離手段
100 制御装置
110 運転状態取得部
120 調整部