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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】光電変換素子及び化合物
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20241022BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20241022BHJP
   H10K 30/86 20230101ALI20241022BHJP
   H10K 85/50 20230101ALI20241022BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20241022BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K30/86
H10K85/50
H10K85/60
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2023546962
(86)(22)【出願日】2022-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2022033514
(87)【国際公開番号】W WO2023038050
(87)【国際公開日】2023-03-16
【審査請求日】2024-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2021148447
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 太陽光発電主力電源化推進技術開発/太陽光発電の新市場創造技術開発委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519259342
【氏名又は名称】株式会社エネコートテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【弁理士】
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100227019
【弁理士】
【氏名又は名称】安 修央
(72)【発明者】
【氏名】若宮 淳志
(72)【発明者】
【氏名】チョン ミンアン
(72)【発明者】
【氏名】三木 真湖
(72)【発明者】
【氏名】堀内 保
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-174940(JP,A)
【文献】LI, Erpeng et al.,Synergistic Coassembly of Highly Wettable and Uniform Hole-Extraction Monolyers for Scaling-up Perovskite Solar Cells,ADVANCED FUNCTIONAL MATERIALS,2019年12月18日,Vol.30,Article no.1909509(1-9 of 9)
【文献】BAI, Lubing et al.,Diarylfluorene-based nano-molecules as dopant-free hole-transporting materials without post-treatment process for flexible p-i-n type perovskite solar cells,Nano Energy,2018年01月04日,Vol.46,pp.241-248
【文献】SIMOKAITIENE, Jurate et al.,Interfacial versus Bulk Properties of Hole-Transporting Materials for Perovskite Solar Cells: Isomeric Triphenylamine-Based Enamines versus Spiro-OMeTAD,APPLIED MATERIALS & INTERFACES,2021年04月29日,Vol.13,pp.21320-21330
【文献】CHEN, Yonghong et al.,Water-soluble pH neutral triazatruxene-based small molecules as hole injection materials for solution-processable organic light-emitting diodes,Journal of Materials Chemistry C,2019年,Vol.7,pp.7900-7905
【文献】ROSS, Marcel et al.,Co-Evaporated p-i-n Perovskite Solar Cells beyond 20% Efficiency: Impact of Substrate Temperature and Hole-Transport Layer,APPLIED MATERIALS & INTERFACES,2020年07月31日,Vol.12,pp.39261-39272
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-99/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極、正孔輸送層、光電変換層、電子輸送層、及び第2の電極が、前記順序で積層され、
前記光電変換層は、ペロブスカイト構造を含み、
前記正孔輸送層は、イオン化ポテンシャルが-5.4eV~-5.7eVの範囲であり、
前記正孔輸送層が、下記化学式(I)で表される化合物及びその塩の少なくとも一方を含むことを特徴とする光電変換素子。
【化I】
前記化学式(I)において、
Arは、芳香環を含む構造であり、前記芳香環を構成する原子中にヘテロ原子を含んでいても含んでいなくてもよく、
Arは、-L-X以外の置換基を有していても有していなくてもよく、
-L-Xは、1つでも複数でもよく、複数の場合は、各L及び各Xは、互いに同一であっても異なっていてもよく、
各Lは、ArとXとを結合する原子団であるか、又は共有結合であり、
各Xは、それぞれ、前記第1の電極との間で電荷を授受可能な基であり、
各Xが、それぞれ、ホスホン酸基(-P=O(OH))、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SOH)、ボロン酸基(-B(OH))、又はトリハロゲン化シリル基(-SiX、ただしXはハロ基)、トリアルコキシシリル基(-Si(OR)、ただしRはアルキル基)である。
【請求項2】
第1の電極、正孔輸送層、光電変換層、電子輸送層、及び第2の電極が、前記順序で積層され、
前記光電変換層は、ペロブスカイト構造を含み、
前記正孔輸送層は、イオン化ポテンシャルが-5.4eV~-5.7eVの範囲であり、
前記正孔輸送層が、下記化学式(I)で表される化合物及びその塩の少なくとも一方を含むとともに、さらに、共吸着剤を含むことを特徴とする光電変換素子。
【化I】
前記化学式(I)において、
Arは、芳香環を含む構造であり、前記芳香環を構成する原子中にヘテロ原子を含んでいても含んでいなくてもよく、
Arは、-L-X以外の置換基を有していても有していなくてもよく、
-L-Xは、1つでも複数でもよく、複数の場合は、各L及び各Xは、互いに同一であっても異なっていてもよく、
各Lは、ArとXとを結合する原子団であるか、又は共有結合であり、
各Xは、それぞれ、前記第1の電極との間で電荷を授受可能な基である。
【請求項3】
前記化学式(I)において、
各Xが、それぞれ、ホスホン酸基(-P=O(OH))、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SOH)、ボロン酸基(-B(OH))、又はトリハロゲン化シリル基(-SiX、ただしXはハロ基)、トリアルコキシシリル基(-Si(OR)、ただしRはアルキル基)である請求項2記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記共吸着剤が、下記化学式(II)で表される化合物である請求項2記載の光電変換素子。
【化II】
前記化学式(II)において、
は、アルキル基、アルコキシ基、又はアリール基、又はヘテロ環であり、Lの水素原子の少なくとも1つ以上がXで置換されており、X以外の置換基を有していても有してなくてもよく、
は、前記第1の電極との間で電荷を授受可能な基であり、1つでも複数でもよく、複数の場合は同一でも異なっていてもよい。
【請求項5】
前記化学式(II)において、
各Xが、それぞれ、ホスホン酸基(-P=O(OH))、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SOH)、ボロン酸基(-B(OH))、トリハロゲン化シリル基(-SiX、ただしXはハロ基)、又はトリアルコキシシリル基(-Si(OR)、ただしRはアルキル基)、である請求項4記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記共吸着剤の分子量が2,000以下である請求項2記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記化学式(I)において、前記Arが、下記化学式(I-1)で表される請求項2記載の光電変換素子。
【化I-1】
前記化学式(I-1)中、
Ar11は、環状構造を含む原子団であり、前記環状構造は、芳香環でも非芳香環でもよく、単環でも縮合環でもスピロ環でもよく、環を構成する原子中にヘテロ原子を含んでいても含んでいなくてもよく、
Ar12は、芳香環であり、環を構成する原子中にヘテロ原子を含んでいても含んでいなくてもよく、
Ar12は、1つ以上の原子をAr11と共有してAr11と一体化していてもよく、
Ar12は、1つでも複数でもよく、複数の場合は互いに同一でも異なっていてもよい。
【請求項8】
前記化学式(I-1)において、前記Ar11が、下記化学式(a1)~(a10)のいずれかで表される請求項記載の光電変換素子。
【化a1-a10】
【請求項9】
前記化学式(I-1)において、前記各Ar12が、それぞれ下記化学式(b)で表される請求項記載の光電変換素子。
【化b】
前記化学式(b)において、
炭素原子C及びCは、前記化学式(I-1)中の前記Ar11における前記環状構造を構成する原子の一部を兼ねており、
前記Rは、水素原子、前記化学式(I)中のX、又は置換基であり、前記置換基は水素原子を含んでいても含んでいなくてもよく、前記置換基中の水素原子の少なくとも一つは、前記化学式(I)中のXで置換されていてもよく、
前記各R11は、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子若しくは置換基であるか、又は、隣接する2つのR11は、それらが結合するベンゼン環と一体となって縮合環を形成していてもよく、
前記各R11は、さらに置換基を有していても有していなくてもよい。
【請求項10】
前記化学式(b)が、下記化学式(b1)~(b7)のいずれかで表される請求項記載の光電変換素子。
【化b1-b7】
前記化学式(b1)~(b7)において、C、C及びRは、それぞれ、前記化学式(b)と同じである。
【請求項11】
前記化学式(I)で表される化合物が、下記化学式A-1~A-23のいずれかで表される化合物である請求項2記載の光電変換素子。
【化A1A4】
【化A5A8】
【化A9A12】
【化A13A16】
【化A17A20】
【化A21A23】
前記化学式A-1~A-23において、
前記各Rは、それぞれ、水素原子であるか、前記化学式(I)中のXであるか、又は、前記化学式(I)中のXでさらに置換された置換基であり、互いに同一でも異なっていてもよく、
前記各Rのうち少なくとも1つは、前記化学式(I)中のXであるか、又は、前記化学式(I)中のXでさらに置換された置換基であり、
前記Rは、置換基であり、1つでも複数でも存在しなくてもよく、複数の場合は、各Rは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【請求項12】
前記化学式(I)で表される化合物が、下記化学式4PATAT、1-legged-3PATAT、1-legged-3PATAT-H、2-legged-3PATAT、4PATTI-C3、又は4PATTI-C4で表される化合物である請求項2記載の光電変換素子。
【化4PATAT】
【化3PATAT1】
【化3PATATH】
【化3PATAT2】
【化4PATTI-C3】
【化4PATTI-C4】
【請求項13】
前記光電変換層が、有機無機ペロブスカイト化合物を含む請求項1記載の光電変換素子。
【請求項14】
前記有機無機ペロブスカイト化合物が、スズ及び鉛の少なくとも一方を含む請求項13記載の光電変換素子。
【請求項15】
太陽電池である請求項1記載の光電変換素子。
【請求項16】
下記化学式(I)で表されることを特徴とする化合物又はその塩。ただし、スルホン酸塩及び下記化学式MeO-2PACzで表される化合物を除く。
【化I】
前記化学式(I)において、
Arは、下記化学式(I-1)で表され
Arは、-L-X以外の置換基を有していても有していなくてもよく、
-L-Xは、1つでも複数でもよく、複数の場合は、各L及び各Xは、互いに同一であっても異なっていてもよく、
各Lは、ArとXとを結合する原子団であるか、又は共有結合であり、
各Xは、それぞれ、電極との間で電荷を授受可能な基であり、それぞれ、ホスホン酸基(-P=O(OH))、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SOH)、ボロン酸基(-B(OH))、トリハロゲン化シリル基(-SiX、ただしXはハロ基)、又はトリアルコキシシリル基(-Si(OR)、ただしRはアルキル基)であり、
【化I-1】
前記化学式(I-1)中、
Ar 11 は、環状構造を含む原子団であり、前記環状構造は、芳香環でも非芳香環でもよく、単環でも縮合環でもスピロ環でもよく、環を構成する原子中にヘテロ原子を含んでいても含んでいなくてもよく、
Ar 12 は、芳香環であり、環を構成する原子中にヘテロ原子を含んでいても含んでいなくてもよく、
Ar 12 は、1つ以上の原子をAr 11 と共有してAr 11 と一体化していてもよく、
Ar 12 は、1つでも複数でもよく、複数の場合は互いに同一でも異なっていてもよく、
前記各Ar 12 は、それぞれ下記化学式(b)で表され、
【化b】
前記化学式(b)において、
炭素原子C 及びC は、前記化学式(I-1)中の前記Ar 11 における前記環状構造を構成する原子の一部を兼ねており、
前記R は、水素原子、前記化学式(I)中のX 、又は置換基であり、前記置換基は水素原子を含んでいても含んでいなくてもよく、前記置換基中の水素原子の少なくとも一つは、前記化学式(I)中のX で置換されていてもよく、
前記各R 11 は、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子若しくは置換基であるか、又は、隣接する2つのR 11 は、それらが結合するベンゼン環と一体となって縮合環を形成していてもよく、
前記各R 11 は、さらに置換基を有していても有していなくてもよい。
【化MeO-2PACz】
【請求項17】
前記化学式(I-1)において、前記Ar11が、下記化学式(a1)~(a10)のいずれかで表される請求項16記載の化合物又はその塩。
【化a1-a10】
【請求項18】
前記化学式(b)が、下記化学式(b1)~(b7)のいずれかで表される請求項16記載の化合物又はその塩。
【化b1-b7】
前記化学式(b1)~(b7)において、C、C及びRは、それぞれ、前記化学式(b)と同じである。
【請求項19】
前記化学式(I)で表される化合物が、下記化学式A-1~A-23のいずれかで表される化合物である請求項16記載の化合物又はその塩。
【化A1A4】
【化A5A8】
【化A9A12】
【化A13A16】
【化A17A20】
【化A21A23】
前記化学式A-1~A-23において、
前記各Rは、それぞれ、水素原子であるか、前記化学式(I)中のXであるか、又は、前記化学式(I)中のXでさらに置換された置換基であり、互いに同一でも異なっていてもよく、
前記各Rのうち少なくとも1つは、前記化学式(I)中のXであるか、又は、前記化学式(I)中のXでさらに置換された置換基であり、
前記Rは、置換基であり、1つでも複数でも存在しなくてもよく、複数の場合は、各Rは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【請求項20】
前記化学式(I)で表される化合物が、下記化学式4PATAT、1-legged-3PATAT、1-legged-3PATAT-H、2-legged-3PATAT、4PATTI-C3、又は4PATTI-C4で表される化合物である請求項16記載の化合物又はその塩。
【化4PATAT】
【化3PATAT1】
【化3PATATH】
【化3PATAT2】
【化4PATTI-C3】
【化4PATTI-C4】
【請求項21】
前記化学式(I)中のXが、電極との間で電荷を授受可能な基に代えて、電極との間で電荷を授受可能な基の少なくとも一つの水素原子をさらなる置換基で置換した基である請求項16記載の化合物又はその塩。
【請求項22】
前記化学式(I)において、
各Xが、それぞれ、ホスホン酸エステル基(-P=O(OR))、カルボキン酸エステル基(-COOR)、スルホン酸エステル基(-SOR)、又はボロン酸エステル基(-B(OR))であり、ただし、前記各X中のRは、それぞれ置換基であり、複数の場合は互いに同一でも異なっていてもよい、請求項21記載の化合物又はその塩。
【請求項23】
前記化学式(I)中の前記各X中における置換基Rが、それぞれ、アルキル基、又はハロゲン原子である請求項22記載の化合物又はその塩。
【請求項24】
前記化学式(I)で表される化合物が、下記化学式4PAE-TAT、1-legged-3PAE-TAT-H、1-legged-3PAEE-TAT、2-legged-3PAH-TAT、4PATTI-C3、又は4PATTI-C4で表される化合物である請求項21記載の化合物又はその塩。
【化4PAETAT】
【化3PAETAT】
【化3PAETAT1】
【化3PAHTAT2】
【化4PATTI-C3】
【化4PATTI-C4】
【請求項25】
第1の電極、正孔輸送層、光電変換層、電子輸送層、及び第2の電極が、前記順序で積層され、
前記光電変換層は、ペロブスカイト構造を含み、
前記正孔輸送層は、請求項16記載の化合物又はその塩を含むことを特徴とする光電変換素子。
【請求項26】
太陽電池である請求項25記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子及び化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンエネルギーとして、太陽光発電が注目を浴びており、太陽電池の開発が進んでいる。その一つとして、低コストで製造可能な次世代型の太陽電池として、ペロブスカイト材料を光吸収層に用いた太陽電池が急速に注目を集めている。例えば、非特許文献1では、ペロブスカイト材料を光吸収層に用いた溶液型の太陽電池が報告されている。また、非特許文献2には、固体型のペロブスカイト型太陽電池が高効率を示すことも報告されている。
【0003】
ペロブスカイト型太陽電池の基本構造としては、電極の上に、電子輸送層、光吸収層(ペロブスカイト層)、正孔輸送層(ホール輸送層とも言う)及び裏面電極をこの順に積層する順型構造、電極の上に、正孔輸送層、光吸収層、電子輸送層及び裏面電極を個の順に積層する逆型構造が知られている。電子輸送層とペロブスカイト層との間に多孔質形状からなる電子輸送層を備えることもある。このうち、正孔輸送層には、一般的には、有機半導体の正孔輸送性材料が用いられている(例えば、非特許文献3~10)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Journal of the American Chemical Society, 2009, 131, 6050-6051.
【文献】Science, 2012, 388, 643-647.
【文献】ACS Appl. Mater. Interfaces, 2017, 9, 24778-24787.
【文献】Energy Environ. Sci., 2014, 7, 1454-1460.
【文献】J. Mater. Chem. A, 2014, 2, 6305-6309.
【文献】J. Mater. Chem. A, 2015, 3, 12139-12144.
【文献】J. Mater. Chem. A, 2018, 6, 7950-7958.
【文献】ACS Appl. Mater. Interfaces, 2015, 7, 11107-11116.
【文献】Energy & Environmental Science 2014, 7, 2963-2967.
【文献】Adv. Energy Mater., 2018, 8, 1801892.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のペロブスカイト型太陽電池は、その光電変換効率が十分とは言えない。太陽電池の光電変換効率を改善するためには、特に、正孔輸送層の特性の改善が重要である。正孔輸送層に用いる正孔輸送性材料としては、例えば、これまでに、トラクセン化合物(非特許文献3)、ジケトピロロピロール化合物(非特許文献4)、チオフェン化合物(非特許文献5、6)、ジチエノピロール(非特許文献7)等が報告されている。しかし、ペロブスカイト型太陽電池として有用と言えるほどの光電変換効率を発揮することができる化合物はほとんど報告されていない。そこで、色素増感型太陽電池用の正孔輸送材料として開発されたSpiro-OMeTAD([2,2',7,7'-テトラキス(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミノ)-9,9'-スピロビフルオレン])が提案されているが、耐熱性が低いことが知られている(非特許文献8)。また、PTAA(ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン])とよばれるトリフェニルアミン骨格をもつポリマー材料も耐光性が低いことが知られている。さらに、これらの材料をpバッファ層用の正孔輸送材料として用いる場合、添加物としてLiTFSI塩(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)を加えて導電性を改良する必要があり、これが素子の劣化の原因の一つになってしまうと考えられる(非特許文献9)。また、近年、ホスホン酸を有するカルバゾール型の正孔輸送材料が報告された(非特許文献10)。この化合物は透明電極として用いられているインジウムスズ化合物(ITO)と反応し、透明電極上で単分子層を形成するものである。この化合物は、20%を超える光電変換効率が報告されており、非常に有効な化合物であるが、一方で、V1036という化合物をITOに吸着した状態でのイオン化ポテンシャル(IP)が-4.98eVであり、容易に酸化されやすい(すなわち耐久性が低い)。このような現状から、特に正孔輸送層が優れた光電変換特性を示し、かつ高い耐久性を有する材料が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、正孔輸送層が優れた光電変換特性を示し、かつ高い耐久性を有する光電変換素子、及び化合物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の第1の光電変換素子は、
第1の電極、正孔輸送層、光電変換層、電子輸送層、及び第2の電極が、前記順序で積層され、
前記光電変換層は、ペロブスカイト構造を含み、
前記正孔輸送層は、イオン化ポテンシャルが-5.4eV~-5.7eVの範囲であることを特徴とする。
【0008】
本発明の第2の光電変換素子は、
第1の電極、正孔輸送層、光電変換層、電子輸送層、及び第2の電極が、前記順序で積層され、
前記光電変換層は、ペロブスカイト構造を含み、
前記正孔輸送層は、下記化学式(I)で表される化合物を含むことを特徴とする。
【化I】
前記化学式(I)において、
Arは、芳香環を含む構造であり、前記芳香環を構成する原子中にヘテロ原子を含んでいても含んでいなくてもよく、
Arは、-L-X以外の置換基を有していても有していなくてもよく、
-L-Xは、1つでも複数でもよく、複数の場合は、各L及び各Xは、互いに同一であっても異なっていてもよく、
各Lは、ArとXとを結合する原子団であるか、又は共有結合であり、
各Xは、それぞれ、前記第1の電極との間で電荷を授受可能な基である。
【0009】
本発明の化合物は、下記化学式(I)で表されることを特徴とする。
【化I】
前記化学式(I)において、
Arは、芳香環を含む構造であり、前記芳香環を構成する原子中にヘテロ原子を含んでいても含んでいなくてもよく、
Arは、-L-X以外の置換基を有していても有していなくてもよく、
-L-Xは、1つでも複数でもよく、複数の場合は、各L及び各Xは、互いに同一であっても異なっていてもよく、
各Lは、ArとXとを結合する原子団であるか、又は共有結合であり、
各Xは、それぞれ、電極との間で電荷を授受可能な基である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、正孔輸送層が優れた光電変換特性を示し、かつ高い耐久性を有する光電変換素子、及び化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の光電変換素子における構成の一例を示す断面図である。
図2図2は、実施例で製造した化合物のHNMRチャートである。
図3図3は、実施例で製造した別の化合物のHNMRチャートである。
図4図4は、実施例で製造したさらに別の化合物のHNMRチャートである。
図5図5は、実施例で製造したさらに別の化合物のHNMRチャートである。
図6図6は、実施例で製造したさらに別の化合物のHNMRチャートである。
図7図7は、実施例で製造したさらに別の化合物のHNMRチャートである。
図8図8は、実施例で製造したさらに別の化合物のHNMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明について、例を挙げてさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。
【0013】
以下において「本発明の光電変換素子」という場合は、特に断らない限り、「本発明の第1の光電変換素子」及び「本発明の第2の光電変換素子」の両方を含む。
【0014】
本発明の第1の光電変換素子は、例えば、前記正孔輸送層が、下記化学式(I)で表される化合物を含んでいてもよい。
【0015】
【化I】
【0016】
前記化学式(I)において、
Arは、芳香環を含む構造であり、前記芳香環を構成する原子中にヘテロ原子を含んでいても含んでいなくてもよく、
Arは、-L-X以外の置換基を有していても有していなくてもよく、
-L-Xは、1つでも複数でもよく、複数の場合は、各L及び各Xは、互いに同一であっても異なっていてもよく、
各Lは、ArとXとを結合する原子団であるか、又は共有結合であり、
各Xは、それぞれ、前記第1の電極との間で電荷を授受可能な基である。
-L-Xの数は、特に限定されないが、例えば、1~4の範囲でもよい。
【0017】
本発明の光電変換素子は、例えば、
前記化学式(I)において、
各Xが、それぞれ、ホスホン酸基(-P=O(OH))、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SOH)、ボロン酸基(-B(OH))、トリハロゲン化シリル基(-SiX、ただしXはハロ基)、又はトリアルコキシシリル基(-Si(OR)、ただしRはアルキル基)であってもよい。
【0018】
本発明の光電変換素子は、例えば、前記化学式(I)において、前記Arが、下記化学式(I-1)で表されてもよい。
【0019】
【化I-1】
【0020】
前記化学式(I-1)中、
Ar11は、環状構造を含む原子団であり、前記環状構造は、芳香環でも非芳香環でもよく、単環でも縮合環でもスピロ環でもよく、環を構成する原子中にヘテロ原子を含んでいても含んでいなくてもよく、
Ar12は、芳香環であり、環を構成する原子中にヘテロ原子を含んでいても含んでいなくてもよく、
Ar12は、1つ以上の原子をAr11と共有してAr11と一体化していてもよく、
Ar12は、1つでも複数でもよく、複数の場合は互いに同一でも異なっていてもよい。
Ar12の数は特に限定されないが、例えば、1~4の範囲でもよい。
【0021】
本発明の光電変換素子は、例えば、前記化学式(I-1)において、前記Ar11が、下記化学式(a1)~(a10)のいずれかで表されてもよい。
【0022】
【化a1-a10】
【0023】
本発明の光電変換素子は、例えば、前記化学式(I-1)において、前記各Ar12が、それぞれ下記化学式(b)で表されてもよい。
【0024】
【化b】
【0025】
前記化学式(b)において、
炭素原子C及びCは、前記化学式(I-1)中の前記Ar11における前記環状構造を構成する原子の一部を兼ねており、
前記Rは、水素原子、前記化学式(I)中のX、又は置換基であり、前記置換基は水素原子を含んでいても含んでいなくてもよく、前記置換基中の水素原子の少なくとも一つは、前記化学式(I)中のXで置換されていてもよく、
前記各R11は、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子若しくは置換基であるか、又は、隣接する2つのR11は、それらが結合するベンゼン環と一体となって縮合環を形成していてもよく、
前記各R11は、さらに置換基を有していても有していなくてもよい。
【0026】
本発明の光電変換素子は、例えば、前記化学式(b)が、下記化学式(b1)~(b7)のいずれかで表されてもよい。
【0027】
【化b1-b7】
前記化学式(b1)~(b7)において、C、C及びRは、それぞれ、前記化学式(b)と同じである。
【0028】
本発明の光電変換素子は、例えば、前記化学式(I)で表される化合物が、下記化学式A-1~A-23のいずれかで表される化合物であってもよい。
【0029】
【化A1A4】
【0030】
【化A5A8】
【0031】
【化A9A12】
【0032】
【化A13A16】
【0033】
【化A17A20】
【0034】
【化A21A23】
【0035】
前記化学式A-1~A-23において、
前記各Rは、それぞれ、水素原子であるか、前記化学式(I)中のXであるか、又は、前記化学式(I)中のXでさらに置換された置換基であり、互いに同一でも異なっていてもよく、
前記各Rのうち少なくとも1つは、前記化学式(I)中のXであるか、又は、前記化学式(I)中のXでさらに置換された置換基であり、
前記Rは、置換基であり、1つでも複数でも存在しなくてもよく、複数の場合は、各Rは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0036】
前記化学式A-1~A-23において、Rが、前記化学式(I)中のXでさらに置換された置換基である場合は、Xの数は、1でも複数でもよい。また、Rが、前記化学式(I)中のXでさらに置換された置換基である場合は、例えば、前記化学式(I)中のXでさらに置換されたアルキル基又はアルコキシ基であってもよい。
【0037】
前記化学式A-1~A-23において、前記置換基Rの数は特に限定されない。また、前記置換基Rは、例えば、それぞれ、アルキル基、アルコキシ基、又はハロ基(ハロゲン原子)であってもよい。
【0038】
本発明の光電変換素子は、例えば、前記化学式(I)で表される化合物が、下記化学式4PATAT、1-legged-3PATAT、1-legged-3PATAT-H、2-legged-3PATAT、4PATTI-C3、又は4PATTI-C4で表される化合物であってもよい。
【0039】
【化4PATAT】
【0040】
【化3PATAT1】
【0041】
【化3PATATH】
【0042】
【化3PATAT2】
【化4PATTI-C3】
【化4PATTI-C4】
【0043】
本発明の光電変換素子は、例えば、前記正孔輸送層が、さらに、共吸着剤を含んでいてもよい。
【0044】
本発明の光電変換素子は、例えば、前記共吸着剤が、下記化学式(II)で表される化合物であってもよい。
【0045】
【化II】
【0046】
前記化学式(II)において、
は、アルキル基、アルコキシ基、又はアリール基、又はヘテロ環であり、Lの水素原子の少なくとも1つ以上がXで置換されており、X以外の置換基を有していても有してなくてもよく、
は、前記第1の電極との間で電荷を授受可能な基であり、1つでも複数でもよく、複数の場合は同一でも異なっていてもよい。
【0047】
本発明の光電変換素子は、例えば、
前記化学式(II)において、
各Xが、それぞれ、ホスホン酸基(-P=O(OH))、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SOH)、ボロン酸基(-B(OH))、トリハロゲン化シリル基(-SiX、ただしXはハロ基)、又はトリアルコキシシリル基(-Si(OR)、ただしRはアルキル基)であってもよい。
【0048】
本発明の光電変換素子は、例えば、前記共吸着剤の分子量が2,000以下であってもよい。
【0049】
本発明の光電変換素子は、例えば、前記光電変換層が、有機無機ペロブスカイト化合物を含んでいてもよい。
【0050】
本発明の光電変換素子は、例えば、前記有機無機ペロブスカイト化合物が、スズ及び鉛の少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0051】
本発明の光電変換素子は、例えば、太陽電池であってもよい。
【0052】
本発明の化合物は、例えば、前記化学式(I)において、-L-Xの数が、1~4の範囲でもよい。
【0053】
本発明の化合物は、例えば、
前記化学式(I)において、
各Xが、それぞれ、ホスホン酸基(-P=O(OH))、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SOH)、ボロン酸基(-B(OH))、トリハロゲン化シリル基(-SiX、ただしXはハロ基)、又はトリアルコキシシリル基(-Si(OR)、ただしRはアルキル基)であってもよい。
【0054】
本発明の化合物は、例えば、
前記化学式(I)において、前記Arが、下記化学式(I-1)で表されてもよい。
【0055】
【化I-1】
【0056】
前記化学式(I-1)中、
Ar11は、環状構造を含む原子団であり、前記環状構造は、芳香環でも非芳香環でもよく、単環でも縮合環でもスピロ環でもよく、環を構成する原子中にヘテロ原子を含んでいても含んでいなくてもよく、
Ar12は、芳香環であり、環を構成する原子中にヘテロ原子を含んでいても含んでいなくてもよく、
Ar12は、1つ以上の原子をAr11と共有してAr11と一体化していてもよく、
Ar12は、1つでも複数でもよく、複数の場合は互いに同一でも異なっていてもよい。
Ar12の数は、特に限定されないが、例えば、1~4の範囲でもよい。
【0057】
本発明の化合物は、例えば、
前記化学式(I-1)において、前記Ar11が、下記化学式(a1)~(a10)のいずれかで表されてもよい。
【0058】
【化a1-a10】
【0059】
本発明の化合物は、例えば、
前記化学式(I-1)において、前記各Ar12が、それぞれ下記化学式(b)で表されてもよい。
【0060】
【化b】
【0061】
前記化学式(b)において、
炭素原子C及びCは、前記化学式(I-1)中の前記Ar11における前記環状構造を構成する原子の一部を兼ねており、
前記Rは、水素原子、前記化学式(I)中のX、又は置換基であり、前記置換基は水素原子を含んでいても含んでいなくてもよく、前記置換基中の水素原子の少なくとも一つは、前記化学式(I)中のXで置換されていてもよく、
前記各R11は、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子若しくは置換基であるか、又は、隣接する2つのR11は、それらが結合するベンゼン環と一体となって縮合環を形成していてもよく、
前記各R11は、さらに置換基を有していても有していなくてもよい。
【0062】
本発明の化合物は、例えば、
前記化学式(b)が、下記化学式(b1)~(b7)のいずれかで表されてもよい。
【0063】
【化b1-b7】
前記化学式(b1)~(b7)において、C、C及びRは、それぞれ、前記化学式(b)と同じである。
【0064】
本発明の化合物は、例えば、
前記化学式(I)で表される化合物が、下記化学式A-1~A-23のいずれかで表される化合物であってもよい。
【0065】
【化A1A4】
【0066】
【化A5A8】
【0067】
【化A9A12】
【0068】
【化A13A16】
【0069】
【化A17A20】
【0070】
【化A21A23】
【0071】
前記化学式A-1~A-23において、
前記各Rは、それぞれ、水素原子であるか、前記化学式(I)中のXであるか、又は、前記化学式(I)中のXでさらに置換された置換基であり、互いに同一でも異なっていてもよく、
前記各Rのうち少なくとも1つは、前記化学式(I)中のXであるか、又は、前記化学式(I)中のXでさらに置換された置換基であり、
前記Rは、置換基であり、1つでも複数でも存在しなくてもよく、複数の場合は、各Rは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0072】
前記化学式A-1~A-23において、Rが、前記化学式(I)中のXでさらに置換された置換基である場合は、Xの数は、1でも複数でもよい。また、Rが、前記化学式(I)中のXでさらに置換された置換基である場合は、例えば、前記化学式(I)中のXでさらに置換されたアルキル基又はアルコキシ基であってもよい。
【0073】
前記化学式A-1~A-23において、前記置換基Rの数は特に限定されない。また、前記置換基Rは、例えば、それぞれ、アルキル基、アルコキシ基、又はハロ基(ハロゲン原子)であってもよい。
【0074】
本発明の化合物は、例えば、
前記化学式(I)で表される化合物が、下記化学式4PATAT、1-legged-3PATAT、1-legged-3PATAT-H、2-legged-3PATAT、4PATTI-C3、又は4PATTI-C4で表される化合物であってもよい。
【0075】
【化4PATAT】
【0076】
【化3PATAT1】
【0077】
【化3PATATH】
【0078】
【化3PATAT2】
【化4PATTI-C3】
【化4PATTI-C4】
【0079】
本発明の化合物は、例えば、前記化学式(I)中のXが、電極との間で電荷を授受可能な基に代えて、電極との間で電荷を授受可能な基の少なくとも一つの水素原子をさらなる置換基で置換した基であってもよい。前記置換基は、例えば、アルキル基、又はハロゲン原子であってもよく、複数の場合は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0080】
本発明の化合物は、例えば、
前記化学式(I)において、
各Xが、それぞれ、ホスホン酸エステル基(-P=O(OR))、カルボン酸エステル基(-COOR)、スルホン酸エステル基(-SOR)、又はボロン酸エステル基(-B(OR))であってもよい。ただし、前記各X中のRは、それぞれ置換基であり、複数の場合は互いに同一でも異なっていてもよい。この場合において、前記化学式(I)中の前記各X中における置換基Rが、それぞれ、例えば、アルキル基、又はハロゲン原子であってもよい。
【0081】
本発明の化合物は、例えば、
前記化学式(I)で表される化合物が、下記化学式4PAE-TAT、1-legged-3PAE-TAT-H、1-legged-3PAEE-TAT、2-legged-3PAH-TAT、4PATTI-C3、又は4PATTI-C4で表される化合物であってもよい。
【0082】
【化4PAETAT】
【0083】
【化3PAETAT】
【0084】
【化3PAETAT1】
【0085】
【化3PAHTAT2】
【化4PATTI-C3】
【化4PATTI-C4】
【0086】
本発明において、鎖状の基又は原子団(例えば、アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基等の炭化水素基)は、特に断らない限り、直鎖状でも分枝状でも良く、その炭素数は、特に限定されないが、例えば、1~40、1~32、1~24、1~18、1~12、1~6、または1~2(不飽和炭化水素基の場合は2以上)であっても良い。また、本発明において、環状の基又は原子団(例えば、芳香環、芳香族基等であり、例えば、アリール基、ヘテロアリール基等)の環員数(環を構成する原子の数)は、特に限定されないが、例えば、5~32、5~24、6~18、6~12、または6~10であっても良い。また、置換基等に異性体が存在する場合は、特に断らない限り、どの異性体でも良く、例えば、単に「ナフチル基」という場合は、1-ナフチル基でも2-ナフチル基でも良い。
【0087】
本発明において、「置換基」は、特に限定されないが、例えば、アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、アラルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、ヒドロキシ基(-OH)、メルカプト基(-SH)、アルキルチオ基(-SR、Rはアルキル基)、スルホ基、ニトロ基、ジアゾ基、シアノ基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
【0088】
また、本発明において、化合物に互変異性体または立体異性体(例:幾何異性体、配座異性体および光学異性体)等の異性体が存在する場合は、特に断らない限り、いずれの異性体も本発明に用いることができる。また、本発明において、化合物が塩を形成し得る場合は、特に断らない限り、前記塩も本発明に用いることができる。前記塩は、酸付加塩でも良いが、塩基付加塩でも良い。さらに、前記酸付加塩を形成する酸は無機酸でも有機酸でも良く、前記塩基付加塩を形成する塩基は無機塩基でも有機塩基でも良い。前記無機酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜フッ素酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜フッ素酸、亜塩素酸、亜臭素酸、亜ヨウ素酸、フッ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過フッ素酸、過塩素酸、過臭素酸、および過ヨウ素酸等があげられる。前記有機酸も特に限定されないが、例えば、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p-ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸および酢酸等があげられる。前記無機塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩等があげられ、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウム等があげられる。前記有機塩基も特に限定されないが、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミンおよびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等があげられる。これらの塩の製造方法も特に限定されず、例えば、前記化合物に、前記のような酸や塩基を公知の方法により適宜付加させる等の方法で製造することができる。
【0089】
以下、本発明について、さらに例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の例に限定されない。
【0090】
[光電変換素子]
本発明の第1の光電変換素子は、前述のとおり、
第1の電極、正孔輸送層、光電変換層、電子輸送層、及び第2の電極が、前記順序で積層され、
前記光電変換層は、ペロブスカイト構造を含み、
前記正孔輸送層は、イオン化ポテンシャルが-5.4eV~-5.7eVの範囲であることを特徴とする。
【0091】
本発明の第2の光電変換素子は、前述のとおり、
第1の電極、正孔輸送層、光電変換層、電子輸送層、及び第2の電極が、前記順序で積層され、
前記光電変換層は、ペロブスカイト構造を含み、
前記正孔輸送層は、下記化学式(I)で表される化合物を含むことを特徴とする。下記化学式(I)中のAr、L及びXについては、前述のとおりである。-L-Xの数は、特に限定されないが、例えば、1~4の範囲でもよい。
【化I】
【0092】
本発明の光電変換素子は、前述のとおり、前記第1の電極、前記正孔輸送層、前記光電変換層、前記電子輸送層、及び前記第2の電極が前記順序で積層されている。本発明の光電変換素子は、前記第1の電極、前記正孔輸送層、前記光電変換層、前記電子輸送層、及び前記第2の電極以外の他の構成要素を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。例えば、前記第1の電極と前記正孔輸送層とは、それらの間に他の構成要素が存在せず直接積層されていてもよいし、それらの間に他の構成要素が存在していてもよい。同様に、前記正孔輸送層と前記光電変換層とは、それらの間に他の構成要素が存在せず直接積層されていてもよいし、それらの間に他の構成要素が存在していてもよい。同様に、前記光電変換層と前記電子輸送層とは、それらの間に他の構成要素が存在せず直接積層されていてもよいし、それらの間に他の構成要素が存在していてもよい。同様に、前記電子輸送層と前記第2の電極とは、それらの間に他の構成要素が存在せず直接積層されていてもよいし、それらの間に他の構成要素が存在していてもよい。
【0093】
本発明の光電変換素子における各構成要素は、前記正孔輸送層のイオン化ポテンシャルが-5.4eV~-5.7eVの範囲である(本発明の第1の光電変換素子)か、又は、前記正孔輸送層が前記化学式(I)で表される化合物を含む(本発明の第2の光電変換素子)こと以外は特に限定されず、例えば、一般的な光電変換素子(例えば、一般的な提要電池)と同様又はそれに準じてもよい。本発明の第1の光電変換素子において、前記正孔輸送層は、イオン化ポテンシャルが-5.4eV~-5.7eVであること以外は特に限定されず、例えば、前記化学式(I)で表される化合物を含んでいてもよいし含んでいなくてもよい。本発明の第2の光電変換素子において、前記正孔輸送層は、前記化学式(I)で表される化合物を含むこと以外は特に限定されず、例えば、イオン化ポテンシャルが-5.4eV~-5.7eVの範囲内であってもよいし、範囲外であってもよい。
【0094】
以下、本発明の光電変換素子の構成及び各構成要素について、例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、本発明の光電変換素子は以下の例に限定されない。なお、以下においては、主に、本発明の光電変換素子が太陽電池である場合について説明する。
【0095】
図1の断面図に、本発明の光電変換素子の構成の一例を示す。なお、図1は、説明の便宜のため、適宜省略、誇張等をして模式的に描いている。図示のとおり、この光電変換素子10は、支持体(基板、基材などとも言う)11上に、第1の電極12、正孔輸送層13、光電変換層14、電子輸送層15、及び第2の電極16が、前記順序で積層されている。
【0096】
[支持体11]
支持体11は、特に限定されず、例えば、一般的な太陽電池等の光電変換素子に使用可能な基板を適宜用いてもよい。前記基板としては、例えば、ガラス、プラスチック板、プラスチック膜、無機結晶体等が挙げられる。また、これらの基板表面の一部又は全部の上に,金属膜,半導体膜,導電性膜及び絶縁性膜の少なくとも1種の膜が形成されている基板も、支持体11として好適に用いることができる。支持体11の大きさ、厚み等も特に限定されず、例えば、一般的な太陽電池等の光電変換素子と同様又はそれに準じてもよい。
【0097】
[第1の電極12]
第1の電極12は、例えば、正孔輸送層13を支持するとともに、光電変換層14から正孔を取り出す機能を有する層である。また、第1の電極12は、例えば、カソード(正極)として働く層である。
【0098】
第1の電極12は、例えば、支持体11上に直接形成してもよい。第1の電極12は、例えば、導電体から形成された透明電極であってもよい。前記透明電極はとしては、特に限定されないが、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)膜、不純物ドープの酸化インジウム(In)膜、不純物ドープの酸化亜鉛(ZnO)膜、フッ素ドープ二酸化スズ(FTO)膜、これらの二種以上を積層して形成された積層膜、金、銀、銅、アルミニウム、タングステン、チタン、クロム、ニッケル、及びコバルトなどが挙げられる。これらは単独でも2種類以上の混合であっても、また、単層でも積層であっても構わない。また、これらの膜は、例えば拡散防止層として機能するものであってもよい。第1の電極12の厚みは特に制限されないが、例えば、シート抵抗が5~15Ω/□(単位面積当たり)となるように調整することが好ましい。第1の電極12の形成方法は特に限定されないが、例えば、形成する材料に応じ、公知の成膜方法により得ることができる。また、第1の電極12の形状も特に限定されないが、例えば、膜状であっても、メッシュ状のような格子状に形成されていても構わない。支持体11上に第1の電極12を形成する方法は特に限定されないが、例えば、公知の方法でもよく、例えば、真空蒸着やスパッタリング等の真空製膜が好ましい。また第1の電極12はパターニングされたものを用いてもよい。パターニング方法としては、という二限定されないが、例えば、レーザーやエッチング液に浸す方法、真空製膜時にマスクを用いてパターニングする方法等が挙げられ、本発明においては何れの方法であっても構わない。また、第1の電極12は、電気的抵抗値を下げる目的で、金属配線などを併用してもよい。前記金属配線(金属リード線)の材質としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、銅、銀、金、白金、ニッケルなどが挙げられる。前記金属リード線は、例えば、蒸着、スパッタリング、圧着などで第1の基板に形成し、その上にITOやFTOの層を設ける、あるいはITOやFTOの上に設けることにより併用することが可能である。
【0099】
[正孔輸送層13]
正孔輸送層13は、前述のとおり、イオン化ポテンシャルが-5.4eV~-5.7eVの範囲である(本発明の第1の光電変換素子)か、又は、前記化学式(I)で表される化合物を含む(本発明の第2の光電変換素子)。これ以外は、正孔輸送層13は特に限定されず、例えば、一般的な光電変換素子(例えば、一般的な提要電池)の正孔輸送層と同様又はそれに準じてもよい。
【0100】
正孔輸送層13が酸素と反応して変質することを抑制又は防止する(すなわち、正孔輸送層13の耐久性の向上の)観点から、正孔輸送層13のイオン化ポテンシャルが-5.4eV以下であることが好ましい。また、光電変換層14に用いるペロブスカイト化合物とのレベルマッチングの不整合を抑制又は防止する(すなわち、光電変換効率の向上の)観点から、正孔輸送層13のイオン化ポテンシャルが-5.7eV以上であることが好ましい。
【0101】
正孔輸送層13のイオン化ポテンシャルを-5.4eV~-5.7eVの範囲内とするためには、例えば、前記化学式(I)で表される化合物を用いることができる。
【0102】
前記化学式(I)については、例えば前述のとおりである。前記化学式(I)中の前記Lの例としては、前述の他に、例えば、1,1-メチレン基、1,2-エチレン基などの2価のアルキレン基、ジエトキシエタンなどの2価のアルコキシ基等を挙げることができ、これらは、前記X以外の置換基を有していてもよいし有していなくてもよい。
【0103】
前記化学式(I)中の前記Xの例としては、前述のとおり、ホスホン酸基(-P=O(OH))、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SOH)、ボロン酸基(-B(OH))、トリハロゲン化シリル基(-SiX、ただしXはハロ基)、又はトリアルコキシシリル基(-Si(OR)、ただしRはアルキル基)等を挙げることができる。これらの中で、第1の電極12(例えば透明電極)と強固に結合し得る観点から、ホスホン酸基、トリハロゲン化シリル基、トリアルコキシシリル基が好ましい。
【0104】
前記化学式(I)で表される化合物は、例えば、透明導電膜上に単分子層を形成する正孔(ホール)輸送化合物として用いることができる。前記透明導電膜は、例えば、透明電極である前記第1の電極であり、前記透明電極は、例えば、前述のとおりITO等である。前記化学式(I)で表される化合物は、例えば前述のとおり、イオン化ポテンシャルが-5.4eV以下であることで、酸素と反応しにくく、安定にデバイス(素子)を作製することができて、高い耐久性の光電変換素子を得ることができる。
【0105】
正孔輸送層13の形成方法は特に限定されないが、例えば、前記化学式(I)で表される化合物を第1の電極12に吸着させて単分子層を形成させることにより、正孔輸送層13を形成することができる。前記化学式(I)で表される化合物を第1の電極12に吸着させて単分子層を形成させる方法は、特に限定されないが、例えば、前記化学式(I)で表される化合物を溶媒に溶解し、第1の電極12と接触させ結合させればよい。前記化学式(I)で表される化合物と第1の電極12との結合は、特に限定されず、物理的な結合であっても化学的な結合であっても構わない。前記結合の種類も特に限定されず、例えば、水素結合、エステル結合、キレート結合などの何れであっても構わない。前記化学式(I)で表される化合物を溶解させるための前記溶媒も、特に限定されず、例えば、水及び有機溶媒の一方でもよいし、両方でもよい。前記溶媒としては、より具体的には、例えば、水、メタノール、エタノール、2-プロパノールなどのアルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸イソブチル、γ-ブチロラクトンなどのエステル類、テトラヒドロフラン、チオフェンなどのヘテロ環類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、ジエチルスルホン、スルホランなどのスルホン類、アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリルなどのニトリル類、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼンなどの芳香族化合物類、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒、クロロフロロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボンなどのフッ素系溶媒を挙げることができ、単独で用いても2種類以上の混合で用いても構わない。
【0106】
前記化学式(I)で表される化合物を第1の電極12に吸着させて単分子層を形成させる具体的な方法は、特に限定されないが、例えば、ディッピング法、スプレー法、スピンコ-ト法、バーコート法など既知の方法を挙げることができる。吸着する際の温度は、特に限定されないが、-20℃~100℃が好ましく、0℃~50℃がより好ましい。吸着する時間も特に限定されないが、例えば、1秒~48時間が好ましく、10秒~1時間がより好ましい。
【0107】
また、前記吸着処理後は、例えば、洗浄を行ってもよいし、行わなくてもよい。前記洗浄の方法も特に限定されないが、例えば、公知の方法を適宜用いてもよい。
【0108】
前記吸着処理後、又は前記洗浄後には、加熱処理を行ってもよいし、行わなくてもよい。前記加熱処理の温度は、50℃~150℃が好ましく、70℃~120℃がより好ましい。加熱処理時間は1秒~48時間が好ましく、10秒~1時間がより好ましい。また、この加熱処理は、例えば、大気下で行なってもよいし、真空中で行なってもよい。
【0109】
前記化学式(I)で表される化合物を第1の電極12に吸着させる際には、例えば、共吸着剤を併用してもよいし、併用しなくてもよい。前記共吸着剤は、例えば、前記化学式(I)で表される化合物だけでは電極表面を完全に被覆できない場合や、前記化学式(I)で表される化合物同士の相互作用を阻害する目的で添加することができる。
【0110】
前記共吸着剤は、特に限定されないが、例えば、前述のとおり、前記化学式(II)で表される化合物を用いることができる。前記化学式(II)中の前記L及び前記Xについては、例えば、前述のとおりである。
【0111】
前記化学式(II)で表される化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、n-ブチルホスホン酸、n-ヘキシルホスホン酸、n-デシルホスホン酸、n-オクタデシルホスホン酸、2-エチルヘキシルホスホン酸、メトキシメチルホスホン酸、3-アクリロイルオキシプロピルホスホン酸、11-ヒドロキシウンデシルホスホン酸、1H,1H,2H,2H-パーフルオロホスホン酸などのホスホン酸化合物、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、ノナン酸、フルオロ酢酸、α-クロロプロピオン酸、グリオキシル酸などを挙げることができ、これらは単独で用いても2種類以上の混合で用いても構わない。
【0112】
前記化学式(II)で表される化合物の分子量は、特に限定されないが、例えば、前述のとおり2,000以下であってもよく、例えば、1,500以下であってもよく、例えば、500以上であってもよい。分子量が小さい方が、電極(例えばITO)の上で層を形成する際に被覆率が高くなるため分子量は小さい方が好ましい。
【0113】
前記共吸着剤を第1の電極12に吸着させる方法は、特に限定されないが、前記化学式(I)で表される化合物と同様に、溶媒に溶解してから吸着させる方法が好ましい。前記溶媒も特に限定されないが、例えば、前記化学式(I)で表される化合物について例示した前述の溶媒と同様でもよい。また、前記共吸着剤は、前記化学式(I)で表される化合物を一度基板に吸着した後に、前記共吸着剤を溶解した溶媒に第1の電極12を浸漬して吸着させてもよいし、前記化学式(I)で表される化合物と一緒に有機溶媒に混合して溶解したものを用いてもよい。
【0114】
[光電変換層14]
光電変換層14は、特に限定されず、例えば、一般的な太陽電池等の光電変換素子に用いられる光電変換層と同様でもよい。光電変換層14は、例えば、ペロブスカイト化合物を含む。前記ペロブスカイト化合物は、例えば、下記化学式(III)で表される化合物であってもよい。

XαYβZγ...(III)
【0115】
前記化学式(III)において、α:β:γの比率は3:1:1であり、β及びγは1より大きい整数を表す。Xはハロゲンイオン、Yはアミノ基を有する有機化合物、Zは金属イオンを表す。ペロブスカイト層は、電子輸送層に隣接して配置されることが好ましい。なお、α:β:γの比率は、例えば、3:1.05:0.95のように、必ずしも3:1:1である必要はない。
【0116】
前記化学式(III)におけるXとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲンイオンが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0117】
前記化学式(III)におけるYとしては、メチルアミン、エチルアミン、n-ブチルアミン、ホルムアミジンなどのアルキルアミン化合物イオン(アミノ基を有する有機化合物)や、有機に限らず、セシウム、カリウム、ルビジウムなどのアルカリ金属イオンが挙げられる。アルキルアミン化合物イオンやアルカリ金属イオンは、それぞれ1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、有機(アルキルアミン化合物イオン)と無機(アルカリ金属イオン)とを併用することもでき、例えば、セシウムイオンとホルムアミジンを併用してもよい。
【0118】
前記化学式(III)におけるZとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、鉛、インジウム、アンチモン、スズ、銅、ビスマス等の金属などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。特に鉛この中でも、特に鉛とスズの併用が好ましい。また、ペロブスカイト層は、ハロゲン化金属からなる層と有機カチオン分子が並んだ層が、交互に積層した層状ペロブスカイト構造を示すことが好ましい。ペロブスカイト層は、アルカリ金属を含有してもよい。ペロブスカイト層がアルカリ金属を少なくとも含有すると、出力が高くなる点で有利である。アルカリ金属としては、例えば、セシウム、ルビジウム、カリウムなどが挙げられる。これらの中でも、セシウムが好ましい。
【0119】
光電変換層14は、前述のとおり、ペロブスカイト化合物から形成されたペロブスカイト層であってもよい。このようなペロブスカイト層を形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ハロゲン化金属及びハロゲン化アルキルアミンを、溶解又は分散させた溶液を塗布した後に乾燥する方法などが挙げられる。
【0120】
また、ペロブスカイト層を形成する方法としては、例えば、ハロゲン化金属を溶解又は
分散させた溶液を塗布、乾燥した後、ハロゲン化アルキルアミンを溶解させた溶液中に浸
して、ペロブスカイト化合物を形成する二段階析出法などが挙げられる。
【0121】
ペロブスカイト層を形成する方法としては、他に、例えば、ハロゲン化金属及びハロゲン化アルキルアミンを溶解又は分散した溶液を塗布しながら、ペロブスカイト化合物にとっての貧溶媒(溶解度が小さい溶媒)を加えて結晶を析出させる方法などが挙げられる。
【0122】
ペロブスカイト層を形成する方法としては、他に、例えば、メチルアミンなどが充満
したガス中において、ハロゲン化金属を蒸着する方法等も挙げられる。
【0123】
ペロブスカイト層を形成する方法としては、ハロゲン化金属及びハロゲン化アルキルアミンを溶解又は分散した溶液を塗布しながら、ペロブスカイト化合物にとっての貧溶媒を加えて結晶を析出させる方法が特に好ましい。これらの溶液を塗布する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、浸漬法、スピンコート法、スプレー法、ディップ法、ローラ法、エアーナイフ法などが挙げられる。また、溶液を塗布する方法としては、例えば、二酸化炭素などを用いた超臨界流体中で析出させる方法であってもよい。上述の貧溶媒を加えて結晶を析出させる方法として、使用される貧溶媒としては、n-ヘキサン、n-オクタンなどの炭化水素類、メタノール、エタノール、2-プロパノールなどのアルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸イソブチル、γ-ブチロラクトンなどのエステル類、アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリルなどのニトリル類、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼンなどの芳香族炭化水素化合物類、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒、クロロフロロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボンなどのフッ素系溶媒を挙げることができる。
【0124】
光電輸送層14(例えば光吸収層であり、例えばペロブスカイト層)の厚みは、特に限定されないが、欠陥や剥離による性能劣化をより抑制する観点から、50~1200nmが好ましく、200~600nmがより好ましい。
【0125】
[電子輸送層15]
電子輸送層15に用いられる材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、半導体材料が好ましい。前記半導体材料としては、特に制限はなく、公知のものを用いることができ、例えば、単体半導体、化合物半導体、有機n型半導体などを挙げることができる。
【0126】
前記単体半導体としては、特に限定されないが、例えば、シリコン、ゲルマニウムなどが挙げられる。
【0127】
前記化合物半導体としては、特に限定されないが、例えば、金属のカルコゲニド、具体的には、チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、タンタル等の酸化物;カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン、ビスマス等の硫化物;カドミウム、鉛等のセレン化物;カドミウム等のテルル化物などが挙げられる。他の化合物半導体としては亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化物、ガリウム砒素、銅-インジウム-セレン化物、銅-インジウム-硫化物等が挙げられる。
【0128】
前記有機n型半導体としては、特に限定されないが、例えば、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボキシジイミド化合物、ナフタレンジイミド-ビチオフェン共重合体、ベンゾビスイミダゾベンゾフェナントロリン重合体、C60、C70、PCBM([6,6]-フェニル-C61-酪酸メチルエステル)などのフレーラン化合物、カルボニルブリッジ-ビチアゾール化合物、ALq3(トリス(8-キノリノラト)アルミニウム)、トリフェニレンビピリジル化合物、シロール化合物、オキサジアゾール化合物などを挙げることができる。
【0129】
電子輸送層15に用いられる前述の材料の中でも、特に有機n型半導体が好ましい。
【0130】
電子輸送層15の形成に用いられる材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、半導体材料の結晶型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、単結晶でも多結晶でもよく、非晶質でも構わない。
【0131】
電子輸送層15の膜厚としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5nm~1000nmが好ましく、10nm~700nmがより好ましい。
【0132】
電子輸送層15の形成方法としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、真空中で薄膜を形成する方法(真空製膜法)、湿式製膜法などが挙げられる。真空製膜法としては、例えば、スパッタリング法、パルスレーザーデポジッション法(PLD法)、イオンビームスパッタ法、イオンアシスト法、イオンプレーティング法、真空蒸着法、アトミックレイヤーデポジッション法(ALD法)、化学気相成長法(CVD法)などが挙げられる。湿式製膜法としては、電子輸送材料を溶解した溶媒を塗布して形成する方法や、酸化物半導体の場合、ゾル-ゲル法が挙げられる。ゾル-ゲル法は、溶液から、加水分解や重合・縮合などの化学反応を経てゲルを作製し、その後、加熱処理によって緻密化を促進させる方法である。ゾル-ゲル法を用いた場合、ゾル溶液の塗布方法としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ディップ法、スプレー法、ワイヤーバー法、スピンコート法、ローラーコート法、ブレードコート法、グラビアコート法、また、湿式印刷方法として、凸版、オフセット、グラビア、凹版、ゴム版、スクリーン印刷などが挙げられる。また、ゾル溶液を塗布した後の加熱処理の際の温度としては、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。
【0133】
電子輸送層15を形成後、第2の電極16との間に電子注入層(ホールブロッキング層)を形成しても構わない。電子注入層に用いられる材料としては、BCP(バソクプロイン)を挙げることができ、セシウムをドープしても構わない。電子注入層は1nm~100nmが好ましく、3nm~20nmがより好ましい。
【0134】
[第2の電極16]
第2の電極16(例えば裏面電極であってもよい)は、例えば、電子輸送層を介して光電変換層14から電子を取り出す機能を有する層である。また、第2の電極16は、例えば、アノード(負極)として働く層である。
【0135】
第2の電極16は、電子輸送層(電子注入層とも言う)15上に直接形成してもよい。また、第2の電極16の材質は、特に限定されず、例えば、第1の電極12と同様の材質を用いることができる。第2の電極16としては、その形状、構造、大きさについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。第2の電極16の材質としては、金属、炭素化合物、導電性金属酸化物、導電性高分子などが挙げられる。
【0136】
前記金属としては、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウムなどが挙げられる。
【0137】
前記炭素化合物としては、例えば、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェンなどが挙げられる。
【0138】
前記導電性金属酸化物としては、例えば、ITO、FTO、ATOなどが挙げられる。
【0139】
前記導電性高分子としては、例えば、ポリチオフェン、ポリアニリンなどが挙げられる。
【0140】
第2の電極16の形成に用いられる材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0141】
第2の電極16は、用いられる材料の種類や正孔輸送層13の種類により、適宜電子輸送層15上に塗布、ラミネート、真空蒸着、CVD、貼り合わせなどの方法を用いることにより形成可能である。
【0142】
また、本発明の光電変換素子においては、第1の電極12及び第2の電極16の少なくとも一方は実質的に透明であることが好ましい。本発明の光電変換素子を使用する際には、電極を透明にして、入射光を電極側から入射させることが好ましい。この場合、裏面電極(透明電極と反対側の電極であり、例えば、前記第2の電極)には光を反射させる材料を使用することが好ましく、金属、導電性酸化物を蒸着したガラス、プラスチック、金属薄膜などが好ましく用いられる。また、入射光側の電極に反射防止層を設けることも有効な手段である。
【0143】
さらに、本発明の光電変換素子の構成は、図1の構成に限定されない。例えば、支持体11が、図1とは逆側(図1で第2の電極16の上側)に配置されており、支持体11上に、第2の電極16、電子輸送層15、光電変換層14、正孔輸送層13、及び第1の電極12が、前記順序で積層されていてもよい。また、例えば、前述のとおり、支持体11、第1の電極12、正孔輸送層13、光電変換層14、電子輸送層15、及び第2の電極16の各層間に、他の構成要素が存在していてもよいし存在していなくてもよい。また、第1の電極12が透明電極で第2の電極16が裏面電極である例について説明したが、本発明の光電変換素子はこれに限定されない。例えば、本発明の光電変換素子において、逆に、第1の電極が裏面電極で第2の電極が透明電極であってもよい。
【0144】
[封止]
本発明の光電変換素子(例えば太陽電池)は、水や酸素からデバイス(本発明の光電変換素子)を守るために封止することが好ましい。封止の構造は特に限定されないが、例えば、一般的な光電変換素子(例えば太陽電池)と同様でもよく、具体的には、例えば、本発明の光電変換素子の外周部のみに封止材を塗布してガラスやフィルムで覆ってもよく、本発明の光電変換素子の全面に封止材を塗布してガラスやフィルムで覆ってもよく、本発明の光電変換素子の全面に封止材を塗布したのみでもよい。
【0145】
封止部材の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例
えば、エポキシ樹脂やアクリル樹脂を用い、硬化させることが好ましいが、硬化していなくても、一部だけが硬化していても構わない。
【0146】
前記エポキシ樹脂は、特に限定されないが、例えば、水分散系、無溶剤系、固体系、加熱硬化型、硬化剤混合型、紫外線硬化型などが挙げられ、これらの中でも熱硬化型及び紫外線硬化型が好ましく、紫外線硬化型がより好ましい。なお、紫外線硬化型であっても、加熱を行うことは可能であり、紫外線硬化した後であっても加熱を行うことが好ましい。エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ノボラック型、環状脂肪族型、長鎖脂肪族型、グリシジルアミン型、グリシジルエーテル型、グリシジルエステル型などが挙げられ、これらは、単独で使用しても、2種以上の併用であってもよい。また、エポキシ樹脂には、必要に応じて硬化剤や各種添加剤を混合することが好ましい。既に市販されているエポキシ樹脂組成物を、本発明において使用することができる。中でも、太陽電池や有機EL素子用途向けに開発、市販されているエポキシ樹脂組成物もあり、本発明において特に有効に使用できる。市販されているエポキシ樹脂組成物としては、例えば、TB3118、TB3114、TB3124、TB3125F(株式会社スリーボンド製)、WorldRock5910、WorldRock5920、WorldRock8723(協立化学産業株式会社製)、WB90US(P)、WB90US-HV(モレスコ社製)等が挙げられる。
【0147】
前記アクリル樹脂としては、特に限定されないが、例えば、太陽電池や有機EL素子用途向けに開発、市販されているものを有効に使用できる。市販されているアクリル樹脂組成物としては、例えば、TB3035B、TB3035C(株式会社スリーボンド製)等が挙げられる。
【0148】
前記硬化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、アミン系、酸無水物系、ポリアミド系、その他の硬化剤などが挙げられる。アミン系硬化剤としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ポリアミンなどが挙げられ、酸無水物系硬化剤としては、無水フタル酸、テトラ及びヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ピロメリット酸、無水ヘット酸、ドデセニル無水コハク酸などが挙げられる。その他の硬化剤としては、イミダゾール類、ポリメルカプタンなどが挙げられる。これらは単独で使用しても、2種以上の併用であってもよい。
【0149】
前記添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、充填材(フィラー)、ギャップ剤、重合開始剤、乾燥剤(吸湿剤)、硬化促進剤、カップリング剤、可とう化剤、着色剤、難燃助剤、酸化防止剤、有機溶剤などが挙げられる。これらの中でも、充填材、ギャップ剤、硬化促進剤、重合開始剤、乾燥剤(吸湿剤)が好ましく、充填材及び重合開始剤がより好ましい。添加剤として充填材を含有することにより、水分や酸素の浸入を抑制し、更には硬化時の体積収縮の低減、硬化時あるいは加熱時のアウトガス量の低減、機械的強度の向上、熱伝導性や流動性の制御などの効果を得ることができる。そのため、添加剤として充填材を含むことは、様々な環境で安定した出力を維持する上で非常に有効である。
【0150】
また、光電変換素子の出力特性やその耐久性に関しては、侵入する水分や酸素の影響だけでなく、封止部材の硬化時あるいは加熱時に発生するアウトガスの影響が無視できない。特に、加熱時に発生するアウトガスの影響は、高温環境保管における出力特性に大きな影響を及ぼす。封止部材に充填材やギャップ剤、乾燥剤を含有させることにより、これら自身が水分や酸素の浸入を抑制できるほか、封止部材の使用量を低減できることにより、アウトガスを低減させる効果を得ることができる。封止部材に充填材やギャップ剤、乾燥剤を含有させることは、硬化時だけでなく、光電変換素子を高温環境で保存する際にも有効である。
【0151】
前記充填材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結晶性あるいは不定形のシリカ、タルクなどのケイ酸塩鉱物、アルミナ、窒化アルミ、窒化珪素、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム等の無機系充填材などが挙げられる。これらの中でも、特にハイドロタルサイトが好ましい。また、これらは、単独で使用しても、2種以上の併用であってもよい。
【0152】
前記充填材の平均一次粒径は、特に限定されないが、0.1μm以上10μm以下が好ましく、1μm以上5μm以下がより好ましい。前記充填材の平均一次粒径が上記の好ましい範囲内であると、水分や酸素の侵入を抑制する効果を十分に得ることができ、粘度が適正となり、基板との密着性や脱泡性が向上し、封止部の幅の制御や作業性に対しても有効である。
【0153】
前記充填材の含有量としては、封止部材全体(100質量部)に対し、10質量部以上90質量部以下が好ましく、20質量部以上70質量部以下がより好ましい。前記充填材の含有量が上記の好ましい範囲内であることにより、水分や酸素の浸入抑制効果が十分に得られ、粘度も適正となり、密着性や作業性も良好となる。
【0154】
前記ギャップ剤は、ギャップ制御剤あるいはスペーサー剤とも称される。添加剤としてギャップ材を含むことにより、封止部のギャップを制御することが可能になる。例えば、第1の基板又は第1の電極の上に、封止部材を付与し、その上に第2の基板を載せて封止を行う場合、封止部材がギャップ剤を混合していることにより、封止部のギャップがギャップ剤のサイズに揃うため、容易に封止部のギャップを制御することができる。
【0155】
前記ギャップ剤としては、特に限定されないが、例えば、粒状でかつ粒径が均一であり、耐溶剤性や耐熱性が高いものが好ましく、目的に応じて適宜選択することができる。前記ギャップ剤としては、エポキシ樹脂と親和性が高く、粒子形状が球形であるものが好ましい。具体的には、ガラスビーズ、シリカ微粒子、有機樹脂微粒子などが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。ギャップ剤の粒径としては、設定する封止部のギャップに合わせて選択可能であるが、1μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上50μm以下がより好ましい。
【0156】
前記重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、熱や光を用いて重合を開始させる重合開始剤が挙げられ、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱重合開始剤、光重合開始剤などが挙げられる。熱重合開始剤は、加熱によってラジカルやカチオンなどの活性種を発生する化合物であり、2,2’-アゾビスブチロニトリル(AIBN)のようなアゾ化合物や、過酸化ベンゾイル(BPO)などの過酸化物などが挙げられる。熱カチオン重合開始剤としては、ベンゼンスルホン酸エステルやアルキルスルホニウム塩等が用いられる。光重合開始剤は、エポキシ樹脂の場合光カチオン重合開始剤が好ましく用いられる。エポキシ樹脂に光カチオン重合開始剤を混合し、光照射を行うと光カチオン重合開始剤が分解して、酸を発生し、酸がエポキシ樹脂の重合を引き起こし、硬化反応が進行する。光カチオン重合開始剤は、硬化時の体積収縮が少なく、酸素阻害を受けず、貯蔵安定性が高いといった効果を有する。
【0157】
前記光カチオン重合開始剤としては、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、メタセロン化合物、シラノール・アルミニウム錯体などが挙げられる。また、重合開始剤として、光を照射することにより酸を発生する機能を有する光酸発生剤も使用できる。光酸発生剤は、カチオン重合を開始する酸として作用し、カチオン部とアニオン部からなるイオン性のスルホニウム塩系やヨードニウム塩系などのオニウム塩などが挙げられる。これらは、単独で使用しても、2種以上の併用であってもよい。
【0158】
前記重合開始剤の添加量としては、特に限定されず、使用する材料によって異なる場合があるが、封止部材全体(100質量部)に対し、0.5質量部以上10質量部以下が好ましく、1質量部以上5質量部以下がより好ましい。添加量が上記の好ましい範囲内であることにより、硬化が適正に進み、未硬化物の残存を低減することができ、またアウトガスが過剰になるのを防止できる。
【0159】
前記乾燥剤(吸湿剤とも称される)は、水分を物理的あるいは化学的に吸着、吸湿する機能を有する材料であり、封止部材に含有させることにより、耐湿性を更に高め、アウトガスの影響を低減できる。前記乾燥剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、粒子状であるものが好ましく、例えば、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、シリカゲル、モレキュラーシーブ、ゼオライトなどの無機吸水材料が挙げられる。これらの中でも、吸湿量が多いゼオライトが好ましい。これらは、単独で使用しても、2種以上の併用であってもよい。
【0160】
前記硬化促進剤(硬化触媒とも称される)は、硬化速度を速める材料であり、主に熱硬化型のエポキシ樹脂に用いられる。前記硬化促進剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、DBU(1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7)やDBN(1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)-ノネン-5)等の三級アミンあるいは三級アミン塩、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾールや2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール系、トリフェニルホスフィンやテトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等のホスフィンあるいはホスホニウム塩などが挙げられる。これらは、単独で使用しても、2種以上の併用であってもよい。
【0161】
前記カップリング剤は、分子結合力を高める効果を有する材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シランカップリング剤などが挙げられる。具体的には、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、N-(2-(ビニルベンジルアミノ)エチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤などが挙げられる。これらは、単独で使用しても、2種以上の併用であってもよい。
【0162】
本発明においては、例えば、シート状接着剤を用いることができる。シート状接着剤とは、例えば、シート上に予め樹脂層を形成したもので、シートにはガラスやガスバリア性の高いフィルム等を用いることができる。また、封止樹脂のみでシートを形成していてもよい。シート状接着剤を、封止フィルム上に貼り付けることも可能である。封止フィルム上に、中空部を設けた構造にしてからデバイスと貼り合せることも可能である。
【0163】
前記封止フィルムを用いて封止する場合、光電変換デバイスを挟むように支持体と対向して配置される。封止フィルムの基材としては、その形状、構造、大きさ、種類については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。封止フィルムは、基材の表面に水分や酸素の通過を防ぐバリア層を形成しており、基材の一方の面だけでも両面に形成されていてもよい。
【0164】
前記バリア層は、例えば、金属酸化物、金属、高分子と金属アルコキシドより形成された混合物などを主成分とする材質で構成されていてもよい。前記金属酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、アルミニウム、などを挙げることができ、前記高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロースなどを挙げることができ、前記金属アルコキシドとしては、例えば、テトラエトキシシラン、トリイソプロポキシアルミニウム、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
【0165】
前記バリア層は、例えば、透明であっても不透明であっても構わない。また、バリア層は上記材料からの組合せによる単層であっても、複数の積層構造であっても構わない。バリア層の形成方法は、既知の方法を用いることができ、スパッタ法などの真空製膜、ディッピング法、ロールコーティング法、スクリーン印刷法、スプレー法、グラビア印刷法などの塗布方法を使用することができる。
【0166】
[配線]
本発明の光電変換素子(例えば太陽電池)は、光によって発生した電流を効率的に取り出すため、電極、及び裏面電極にリード線(配線)を接続することが好ましい。リード線は、例えば、前記第1の電極及び前記第2の電極と、はんだ、銀ペースト、グラファイトのような導電性材料を用いて接続される。導電性材料は単独でも2種以上の混合または積層構造で用いても構わない。また、リード線を取り付けた部位は、物理的な保護の観点から、アクリル系樹脂やエポキシ系樹脂で覆っても構わない。
【0167】
リード線は、電気回路における電源や電子部品などを電気的に接続するための電線の総称であり、例えば、ビニール線、エナメル線などを挙げることができる。
【0168】
[アプリケーション]
本発明の光電変換素子の用途及び使用方法は、特に限定されず、例えば、一般的な光電変換素子(例えば一般的な太陽電池)と同様の用途に広く用いることができる。本発明の光電変換素子(例えば太陽電池)は、例えば、発生した電流を制御する回路基盤等と組み合わせることにより電源装置へ応用することができる。電源装置を利用している機器類としては、例えば、電子卓上計算機やソーラー電波腕時計などが挙げられる。また、携帯電話、電子ペーパー、温湿度計等に本発明の太陽電池を電源装置として適用することも可能である。また、充電式や乾電池式の電気器具の連続使用時間を延ばすための補助電源や、二次電池と組み合わせることによって夜間使用などにも応用可能である。また、電池交換や電源配線等が不要な自立型電源としても利用可能である。
【実施例
【0169】
以下、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0170】
以下の実施例において、収率(%)は、特に断らない限り、物質量(モル)を基準とした収率(モル%)である。また、NMR(核磁気共鳴)スペクトルは、Bruker社製AV400Mを用いて測定した。
【0171】
[実施例A1:4-PATATの合成]
以下の合成例1~3の手順で、本発明の化合物(前記化学式(I)で表される化合物)の1種である4-PATATを合成(製造)した。
【0172】
合成例1 4-Br-TATの合成(製造)
【0173】
【化S1】
【0174】
前記スキーム1中の化合物TAT(345mg)とN,N-ジメチルフォルムアミド(DMF、3.5ml)を三口フラスコに入れ、アルゴンガス気流下、室温で攪拌しながら水素化ナトリウム(144mg)をゆっくりと加えた。10分後、1,4-ジブロモブタン(3.24g)を室温で攪拌しながら加え、更に1.5時間攪拌を続けた。その後、水を加えて反応を停止し、ジクロロメタンで3回抽出した。抽出した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した。それにより得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:n-ヘキサン/ジクロロメタン=2/1~1/1(体積比))で生成し、白色結晶の4Br-TAT(前記スキーム1中の化学式参照)を526mg得た。収率は、原料のTATを基準として70%であった。
【0175】
合成例2 4-PAE-TATの合成(製造)
【0176】
【化S2】
【0177】
4Br-TAT(400mg)、亜リン酸トリエチル(1.06g)を三口フラスコに入れ、アルゴンガス気流下、150℃で19.5時間加熱攪拌した。室温まで冷却した後、過剰の亜リン酸トリエチルを減圧下留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、無色オイル状の4PAE-TAT(前記スキーム2中の化学式参照)を597mg得た。収率は、原料の4Br-TATを基準として定量的であった。
【0178】
合成例3 4-PATATの合成(製造)
【0179】
【化S3】
【0180】
4PAE-TAT(500mg)、ジクロロメタン(15mL)を三口フラスコに入れ、室温で攪拌しながら、アルゴンガス気流下、臭化トリメチルシラン(0.821mg)をゆっくり加えた。15時間後、メタノール(10mL)を加えて更に2時間攪拌を続けた。反応液をゆっくりと留去し、得た残渣をジクロロメタン/メタノール=20/1(体積比)の溶媒で抽出し、淡青色結晶の4PATAT(前記スキーム3中の化学式参照)を302mg得た。収率は、原料の4PAE-TATを基準として74%であった。4PATATのH-NMR(DMSO-D、400MHz)スペクトルを図2に示す。
【0181】
[実施例A2:1-legged-3PATATの合成]
以下の合成例4~6の手順で、本発明の化合物(前記化学式(I)で表される化合物)の1種である1-legged-3PATATを合成(製造)した。
【0182】
合成例4 1-legged-3PAE-TATの合成(製造)
【0183】
【化S4】
【0184】
前記スキーム4中の化合物TAT(1.04g)、DMF(10ml)を三口フラスコに入れ、アルゴンガス気流下、室温で攪拌しながら水素化ナトリウム(144mg)をゆっくりと加えた。次いで、(3-ブロモプロピル)ホスホン酸ジエチル(3.90g)を滴下し、滴下終了後、65℃で加熱攪拌した。36時間後、反応を停止し、酢酸エチルで3回抽出した。抽出した有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/メタノール=100/1~50/1(体積比))で生成し、1-legged-3PAE-TAT(前記スキーム4中の化学式参照)を240mg得た。収率は、原料であるTATを基準として15%であった。1-legged-3PAE-TATのH-NMR(DMSO-D、400MHz)スペクトルを図3に示す。
【0185】
合成例5 1-legged-3PAEE-TATの合成(製造)
【0186】
【化S5】
【0187】
1-legged-3PAE-TAT(215mg)、ヨウ化エチル(0.141mg)、DMF(4.1mL)を三口フラスコに入れ、アルゴンガス気流下、室温、攪拌しながら水素化ナトリウム(43.4mg)をゆっくりと加えた。1.5時間攪拌を続け、水を加えて反応を停止し、酢酸エチルで抽出した。硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:トルエン)で精製し、茶色オイル状の1-legged-3PAEE-TAT(前記スキーム5中の化学式を参照)を147mg得た。収率は、原料の1-legged-3PAE-TATを基準として63%であった。
【0188】
合成例6 1-legged-3PATATの合成(製造)
【0189】
【化S6】
【0190】
1-legged-3PAEE-TAT(115mg)、ジクロロメタン(5.4mL)を三口フラスコに入れ、室温で攪拌しながら、アルゴンガス気流下、臭化トリメチルシラン(0.10mg)をゆっくり加えた。16時間後、メタノール(3.6mL)を加えて更に15時間攪拌を続けた。反応液をゆっくりと留去し、得た残渣をジクロロメタン/メタノール=20/1の溶媒(体積比)で抽出し、淡青色結晶の1-legged-3PATAT(前記スキーム6中の化学式参照)を93mg得た。収率は、原料の1-legged-3PAEE-TATを基準として89%であった。
【0191】
[実施例A3:1-legged-3PATAT-Hの合成]
以下の合成例7の手順で、本発明の化合物(前記化学式(I)で表される化合物)の1種である1-legged-3PATAT-Hを合成(製造)した。
【0192】
合成例7 1-legged-3PATAT-Hの合成
【0193】
【化S7】
【0194】
前記スキーム4で合成(製造)した1-legged-3PAE-TAT(150mg)、ジクロロメタン(3.2mL)を三口フラスコに入れ、室温で攪拌しながら、アルゴンガス気流下、臭化トリメチルシラン(0.052mg)をゆっくり加えた。22時間後、反応液をゆっくりと留去し、得た残渣をジクロロメタン/メタノール=10/1(体積比)の溶媒で抽出し、ジクロロメタンで洗浄し、淡青色結晶の1-legged-3PATAT-H(前記スキーム7中の化学式参照)を56.2mg得た。収率は、原料である1-legged-3PAE-TATを基準として42%であった。1-legged-3PATAT-HのH-NMR(DMSO-D、400MHz)スペクトルを図4に示す。また、1-legged-3PATAT-Hの質量分析をBruker社製TIMS-TOF(IMS-QTOF)にて測定した結果、m/z=466.1324[M]を得た。
【0195】
[実施例A4:2-legged-3PATATの合成]
以下の合成例8~9の手順で、本発明の化合物(前記化学式(I)で表される化合物)の1種である2-legged-3PATATを合成(製造)した。
【0196】
合成例8 2-legged-3PAH-TATの合成(製造)
【0197】
【化S8】
【0198】
TAT(345mg)、DMF(10ml)を三口フラスコに入れ、アルゴンガス気流下、室温で攪拌しながら水素化ナトリウム(48mg)をゆっくりと加えた。次いで、(3-ブロモプロピル)ホスホン酸ジエチル(0.57g)を滴下し、滴下終了後、70℃で加熱攪拌した。36時間後、反応を停止しし、ジクロロメタンで3回抽出した。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル/メタノール=1/1~10/1(体積比))で生成し、2-legged-3PAH-TAT(前記スキーム8中の化学式参照)を157mg得た。収率は、原料であるTATを基準として22%であった。2-legged-3PAH-TATのH-NMR(DMSO-D、400MHz)スペクトルを図5に示す。
【0199】
合成例9 2-legged-3PATATの合成(製造)
【0200】
【化S9】
【0201】
2-legged-3PAH-TAT(47mg)、ジクロロメタン(2.8mL)を三口フラスコに入れ、室温で攪拌しながら、アルゴンガス気流下、臭化トリメチルシラン(0.124mg)をゆっくり加えた。23時間後、反応液をゆっくりと留去し、得た残渣をジクロロメタン/メタノール=10/1(体積比)の溶媒で抽出し、ジクロロメタンで洗浄し、淡青色結晶の2-legged-3PATAT(前記スキーム9中の化学式参照)を15mg得た。収率は、原料である2-legged-3PAH-TATを基準として37%であった。2-legged-3PATATのH-NMR(DMSO-D、400MHz)スペクトルを図6に示す。また、2-legged-3PATATの質量分析をBruker社製TIMS-TOF(IMS-QTOF)にて測定した結果、m/z=588.1459[M]を得た。
【0202】
[実施例A5:4PATTI-C3の合成]
以下の合成例10~11の手順で、本発明の化合物(前記化学式(I)で表される化合物)の1種である、4PATTI-C3を合成(製造)した。
【0203】
合成例10 化合物1の合成(製造)
【0204】
【化S10】
【0205】
TTI(23.0mg、50mmol)、炭酸セシウム(130mg、400mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(6.4mg、20mmol)をテトラヒドロフラン(1ml)に溶解し、ジエチル(3-ブロモプロピル)フォスフォネート(58mL、300mmol)を加え、80℃で1時間加熱攪拌した。室温まで冷却し、ジクロロメタンで抽出した有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧濃縮して得た黄色オイル状の混合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液酢酸エチル:メタノール1:1→1:2)で精製し、目的物である化合物1を47.5mg(41mmol、収率81%、黄色オイル状)得た。
【0206】
合成例11 4PATTI-C3の合成(製造)
【0207】
【化S11】
【0208】
化合物1(43.5mg、37mmol)をジクロロメタン(1ml)に溶解し、攪拌しながら臭化トリメチルシラン(63.3mL、489mmol)を滴下した。滴下後室温で15h攪拌し、更にメタノール(0.6mL)を加えて1h攪拌した。減圧濃縮して溶媒を留去し、残渣の固体をジクロロメタンで数回洗浄して目的物の4PATTI-C3(33mmol、収率87%、灰色結晶)を得た。4PATTI-C3の1H-NMR(DMSO-d6、400MHz)スペクトルを図7に示す。
【0209】
[実施例A6:4PATTI-C4の合成]
以下の合成例12~14の手順で、本発明の化合物(前記化学式(I)で表される化合物)の1種である、4PATTI-C4を合成(製造)した。
【0210】
合成例12 化合物2の合成(製造)
【0211】
【化S12】
【0212】
TTI(23.0g、50mmol)と炭酸セシウム(130mg、400mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(6.4mg、20mmol)をTHF(1ml)に溶解し、室温で10分攪拌した。次いで、1,4-ジブロモブタン(36mL、300mmol)を加え、80℃で1h加熱攪拌した。室温まで冷却し、水を加えて反応を停止し、ジクロロメタンで3回抽出した。分離した有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下溶媒を留去した。淡赤色オイル状の残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:n-ヘキサン単独→n-ヘキサン/ジクロロメタン=1/1)で精製し、目的物である化合物2(30.8mg、収率61%、白色結晶)を得た。
【0213】
合成例13 化合物3の合成(製造)
【0214】
【化S13】
【0215】
化合物2(30.8mg、31mmol)を亜リン酸トリエチル(0.5ml)と共に150℃で11h加熱攪拌した。室温まで冷却した後、減圧下、85℃に加熱して未反応の亜リン酸トリエチルを留去し、目的物である化合物3(39.4g、32mmol、収率:定量的、無色オイル状)を得た。
【0216】
合成例14 4PATTI-C4の合成(製造)
【0217】
【化S14】
【0218】
化合物3(38.4mg、31mmol)をジクロロメタン(0.8mL)に溶解し、室温で攪拌下、ブロモトリメチルシラン(53mL、409mmol)を滴下した。室温で攪拌を続け、15h後にMeOH(0.6mL)を加え、更に1h攪拌を継続した。減圧下濃縮して溶媒を留去し、残渣をジクロロメタンで数回洗浄し、目的物である4PATTI-C4(24.5mg、24mmol、収率79%、灰色結晶)を得た。4PATTI-C4の1H-NMR(DMSO-d6、400MHz)スペクトルを図8に示す。
【0219】
[実施例1]
以下のようにして、本発明の光電変換素子である太陽電池を作製(製造)した。
【0220】
合成例3で得た4PATATのDMF溶液(0.1mmol/L)を、ITOガラス基板(支持体であるガラス基板上に第1の電極が形成されたもの)のITO上に100μL乗せ、スピンコーター(3,000rpm、30秒)を用いて前記ITO(第1の電極)上に単分子層(正孔輸送層)を形成した。この単分子層(正孔輸送層)のイオン化ポテンシャル(分光計器製光電子分光測定装置BIP-KV-201-P5)を測定した結果、-5.45eVであった。次に、ヨウ化セシウム(0.738g)、ヨウ化ホルムアミジン(7.512g)、臭化メチルアミン(0.905g)、ヨウ化鉛(23.888g)、臭化鉛(1.022g)をDMF(40.0mL)とジメチルスルホキシド(DMSO、12.0mL)に溶解した溶液を、上記基板上にスピンコートを用いて製膜した。スピンコートは3000rpm、開始から30秒後にクロロベンゼン(0.3mL)を滴下した。その後、150℃で10分加熱し、ペロブスカイト層(光電変換層)を得た。次いで、C60を20nm(電子輸送層)、バソキュプロイン(BCP、8nm)(電子注入層)、Ag(100nm)(第2の電極)を真空蒸着で製膜し、光電変換素子を作製した。更に、ナガセケムテックス製XNR5516を前記光電変換素子外周部に塗布し、不活性ガス雰囲気下においてガラスと貼り合わせ、UVを照射して封止デバイスを作製した。
【0221】
実施例1で作製した封止デバイスの光電変換特性は、JISC8913:1998のシリコン結晶系太陽電池セルの出力測定方法に準拠した方法で測定した。AM1.5G相当のエアマスフィルターを組み合わせたソーラーシュミレーター(分光計器社製SMO-250III型)に、2次基準Si太陽電池で100mW/cmの光量に調整して測定用光源とし、ペロブスカイト型太陽電池セルの試験サンプル(実施例1で作製した封止デバイス)に光照射をしながら、ソースメーター(KeithleyInstrumentsInc.製、2400型汎用ソースメーター)を使用してI-Vカーブ特性を測定し、I-Vカーブ特性測定から得られた短絡電流(Isc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(FF)、そして、短絡電流密度(Jsc)、及び光電変換効率(PCE)を以下の式1及び式2を用いて算出した。結果を下記表1に示す。また、このデバイスを暗所、85℃の乾燥機に入れ、500時間の光電変換効率を測定した。その結果も表1に示す。
【0222】
式1:短絡電流密度(Jsc;mA/cm)=Isc(mA)/有効受光面S(cm2
式2:光電変換効率(PCE;%)=Voc(V)×Jsc(mA/cm2)×FF×100/100(mW/cm2
【0223】
[実施例2]
実施例1における4PATAT(0.1mmol/L)のDMF溶液を、4PATAT(0.1mmol/L)とn-ブチルホスホン酸(0.1mmol/L)のDMF溶液に変更した以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。結果を下記表1に示す。また、実施例1と同様にして測定したIP(イオン化ポテンシャル)は-5.41eVであった。
【0224】
[実施例3]
実施例1における4PATAT(0.1mmol/L)のDMF溶液を、1-legged-3PATAT(0.1mmol/L)のDMF溶液に変更した以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。結果を下記表1に示す。また、実施例1と同様にして測定したIPは-5.64eVであった。
【0225】
[実施例4]
実施例1における4PATAT(0.1mmol/L)のDMF溶液を、1-legged-3PATAT-H(0.1mmol/L)のDMF溶液に変更した以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。結果を下記表1に示す。また、実施例1と同様にして測定したIPは-5.68eVであった。
【0226】
[実施例5]
実施例1における4PATAT(0.1mmol/L)のDMF溶液を、2-legged-3PATAT(0.1mmol/L)のDMF溶液に変更した以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。結果を下記表1に示す。また、実施例1と同様にして測定したIPは-5.54eVであった。
【0227】
[実施例6]
実施例1における4PATAT(0.1mmol/L)のDMF溶液を、2-legged-3PATAT(0.1mmol/L)とn-ブチルホスホン酸(0.1mmol/L)のDMF溶液に変更した以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。結果を下記表1に示す。また、実施例1と同様にして測定したIPは-5.50eVであった。
【0228】
[実施例7]
実施例1における4PATAT(0.1mmol/L)のDMF溶液を、1-legged-3PATAT(0.1mmol/L)とn-ブチルホスホン酸(0.1mmol/L)のDMF溶液に変更した以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。結果を下記表1に示す。また、実施例1と同様にして測定したIPは-5.45eVであった。
【0229】
[実施例8]
実施例1における4PATAT(0.1mmol/L)のDMF溶液を、4PATTI-C3(0.1mmol/L)とn-ブチルホスホン酸(0.1mmol/L)のDMF溶液に変更した以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。結果を下記表2に示す。また、実施例1と同様にして測定したIP(イオン化ポテンシャル)は-5.57eVであった。
【0230】
[実施例9]
実施例1における4PATAT(0.1mmol/L)のDMF溶液を、4PATAT-C4(0.1mmol/L)とn-ブチルホスホン酸(0.1mmol/L)のDMF溶液に変更した以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。結果を下記表2に示す。また、実施例1と同様にして測定したIP(イオン化ポテンシャル)は-5.52eVであった。
【0231】
[比較例1]
実施例1における4PATAT(0.1mmol/L)のDMF溶液を、n-ブチルホスホン酸(0.1mmol/L)のDMF溶液に変更した以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。結果を下記表1に示す。また、実施例1と同様にして測定したIPは-5.48eVであった。
【0232】
[比較例2]
実施例1における4PATAT(0.1mmol/L)のDMF溶液を、[2-(9H-カルバゾール-9-イル)エチル]ホスホン酸(0.1mmol/L)のDMF溶液に変更した以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。結果を下記表1に示す。また、この化合物をITO基板に吸着した時のイオン化ポテンシャルは-5.91eVであった。
【0233】
[比較例3]
実施例1における4PATAT(0.1mmol/L)のDMF溶液を、[2-(3,6-Dimethoxy-9H-carbazol-9-yl)ethyl]phosphonic Acid(0.1mmol/L)のDMF溶液に変更した以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。結果を下記表1に示す。また、この化合物をITO基板に吸着した時のイオン化ポテンシャルは-5.25eVであった。
【0234】
【表1】
【0235】
【表2】
【0236】
前記表1及び表2より、本発明の化合物を正孔輸送層に用いた太陽電池(光電変換素子)は、初期特性だけでなく、耐熱性試験においても高い耐久性を有していることが確認された。一方、比較例1から、アルキルホスホン酸だけを用いた場合は、正孔輸送能力が足りず、初期特性が低いことが確認された。また、比較例2、3では、正孔輸送能力を有するカルバゾール骨格有している化合物を用いたことにより、初期特性は良好な値を得たが、化合物のイオン化ポテンシャルが本発明の範囲外であることから、耐熱性試験において顕著な劣化が見られた。これらの結果から、本発明の化合物が、優れた光電変換特性を示し、かつ高い耐久性を有し、正孔輸送性化合物として極めて優れていることが確認された。
【0237】
以上のとおり、本発明の正孔輸送材料を正孔輸送層に用いることにより、高性能で高耐久性の光電変換素子を得ることが可能であることが、本実施例により確認された。
【0238】
以上、実施形態及び実施例を用いて本発明を説明した。ただし、本発明は、以上において説明した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、必要に応じて、任意にかつ適宜に組み合わせ、変更し、又は選択して採用できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0239】
以上、説明したとおり、本発明によれば、正孔輸送層が優れた光電変換特性を示し、かつ高い耐久性を有する光電変換素子、及び化合物を提供することができる。本発明の光電変換素子は、例えば、太陽電池として有用である。本発明の光電変換素子の用途及び使用方法は特に限定されず、例えば、一般的な光電変換素子(例えば、一般的な太陽電池)と同様の用途及び使用方法で、広範な分野に適用可能である。また、本発明の化合物は、例えば、本発明の光電変換素子の正孔輸送層に用いることで、優れた光電変換特性を示し、かつ高い耐久性を有する光電変換素子を得ることができる。ただし、本発明の化合物の用途及び使用方法はこれに限定されず、任意の広範な分野に適用可能である。
【0240】
この出願は、2021年9月13日に出願された日本出願特願2021-148447を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0241】
10 光電変換素子
11 支持体
12 第1の電極
13 正孔輸送層
14 光電変換層
15 電子輸送層
16 第2の電極

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8