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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】ひずみゲージ
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/16 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
G01B7/16 R
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021094590
(22)【出願日】2021-06-04
(65)【公開番号】P2022186395
(43)【公開日】2022-12-15
【審査請求日】2024-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】浅川 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】北村 厚
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-113411(JP,A)
【文献】特開2019-086420(JP,A)
【文献】特開2019-090720(JP,A)
【文献】特表2013-511621(JP,A)
【文献】特開昭52-91478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
G01L 1/00-1/26
25/00
G01G 1/00-23/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する基材と、
前記基材上に、Cr、CrN、及びCrNを含む膜から形成された複数の抵抗体と、を有し、
各々の前記抵抗体は、グリッド方向を同一方向に向けて配置されて互いに並列に接続され、
並列に接続された前記抵抗体の抵抗値は、160Ω以上600Ω以下である、ひずみゲージ。
【請求項2】
並列に接続された前記抵抗体の抵抗値は、210Ω以上400Ω以下である、請求項1に記載のひずみゲージ。
【請求項3】
前記基材は、第1基材、及び第2基材を含み、
複数の前記抵抗体は、前記第1基材上に形成された第1抵抗体、及び前記第2基材上に形成された第2抵抗体、を含み、
前記第2基材は、前記第1抵抗体を被覆して前記第1基材上に積層され、
前記第1抵抗体と前記第2抵抗体は、前記第2基材を貫通するスルーホールにより互いに並列に接続されている、請求項1又は2に記載のひずみゲージ。
【請求項4】
各々の前記抵抗体の幅が10μm以上100μm以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項5】
ゲージ率が10以上である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項6】
各々の前記抵抗体に含まれるCrN及びCrNの割合は、20重量%以下である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項7】
前記CrN及び前記CrN中の前記CrNの割合は、80重量%以上90重量%未満である、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のひずみゲージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひずみゲージに関する。
【背景技術】
【0002】
基材上に抵抗体を備え、測定対象物に貼り付けて、測定対象物の特性を検出するひずみゲージが知られている。ひずみゲージは、例えば、材料のひずみを検出するセンサや、周囲温度を検出するセンサ等のセンサ用途として使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-221696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ひずみゲージはセンサ用途に用いる以外に、はかり用途に用いる場合もあり、その場合には、センサ用途よりも厳しいクリープに関する規格を満足する必要がある。そのため、センサ用途に使用できるひずみゲージであっても、はかり用途には使用できない場合があった。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、はかり用途に使用可能なひずみゲージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本ひずみゲージは、可撓性を有する基材と、前記基材上に、Cr、CrN、及びCrNを含む膜から形成された複数の抵抗体と、を有し、各々の前記抵抗体は、グリッド方向を同一方向に向けて配置されて互いに並列に接続され、並列に接続された前記抵抗体の抵抗値は、160Ω以上600Ω以下である。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、はかり用途に使用可能なひずみゲージを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図2】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)である。
図3】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)である。
図4】クリープ量及びクリープリカバリー量の測定方法について説明する図である。
図5】抵抗値とクリープ量及びクリープリカバリー量の検討結果を示す図である。
図6】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
〈第1実施形態〉
図1は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。図2は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)であり、図1のA-A線に沿う断面を示している。図3は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)であり、図1のB-B線に沿う断面を示している。
【0011】
図1図3を参照すると、ひずみゲージ1は、第1層1上に第2層1及び第3層1が順次積層された3層構造である。第1層1、第2層1、及び第3層1の各々に、ひずみを検出するための抵抗体がグリッド方向を同一方向に向けて配置されている。以下、詳しく説明する。
【0012】
第1層1は、基材10と、基材10の上面10a上に形成された抵抗体30及び配線40とを有する。第2層1は、基材10と、基材10の上面10b上に形成された抵抗体30及び配線40とを有する。基材10は、抵抗体30を被覆して基材10上に積層されている。第3層1は、基材10と、基材10の上面10c上に形成された抵抗体30、配線40、及び電極50とを有する。基材10は、抵抗体30を被覆して基材10上に積層されている。第3層1上には、必要に応じ、カバー層60が形成される。なお、図1図3では、便宜上、カバー層60の外縁のみを破線で示している。
【0013】
なお、本実施形態では、便宜上、ひずみゲージ1において、各基材の抵抗体が設けられている側を上側又は一方の側、抵抗体が設けられていない側を下側又は他方の側とする。また、各基材の抵抗体が設けられている側の面を一方の面又は上面、抵抗体が設けられていない側の面を他方の面又は下面とする。ただし、ひずみゲージ1は天地逆の状態で用いることができ、又は任意の角度で配置できる。また、平面視とは対象物を基材10の上面10cの法線方向から視ることを指し、平面形状とは対象物を基材10の上面10cの法線方向から視た形状を指すものとする。
【0014】
なお、抵抗体30及び30の平面形状は図示されていないが、抵抗体30と同様である。抵抗体30及び30は、例えば、抵抗体30と平面視で重複する位置に形成される。また、配線40及び40の平面形状は図示されていないが、配線40と同様である。配線40及び40は、例えば、配線40と平面視で重複する位置に形成される。
【0015】
基材10は、抵抗体30等を形成するためのベース層となる部材であり、可撓性を有する。基材10の膜厚は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、5μm~500μm程度とすることができる。特に、基材10の膜厚が5μm~200μmであると、ひずみの伝達性、環境に対する寸法安定性の点で好ましく、10μm以上であると絶縁性の点で更に好ましい。
【0016】
基材10は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、LCP(液晶ポリマー)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成できる。なお、フィルムとは、膜厚が500μm以下程度であり、可撓性を有する部材を指す。
【0017】
ここで、『絶縁樹脂フィルムから形成する』とは、基材10が絶縁樹脂フィルム中にフィラーや不純物等を含有することを妨げるものではない。基材10は、例えば、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成しても構わない。
【0018】
基材10の樹脂以外の材料としては、例えば、SiO、ZrO(YSZも含む)、Si、Si、Al(サファイヤも含む)、ZnO、ペロブスカイト系セラミックス(CaTiO、BaTiO)等の結晶性材料が挙げられ、更に、それ以外に非晶質のガラス等が挙げられる。また、基材10の材料として、アルミニウム、アルミニウム合金(ジュラルミン)、チタン等の金属を用いてもよい。この場合、金属製の基材10上に、例えば、絶縁膜が形成される。
【0019】
抵抗体30は、基材10上に所定のパターンで形成された薄膜であり、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。抵抗体30は、基材10の上面10cに直接形成されてもよいし、基材10の上面10cに他の層を介して形成されてもよい。なお、図1では、便宜上、抵抗体30を濃い梨地模様で示している。
【0020】
抵抗体30は、複数の細長状部が長手方向を同一方向(図1のA-A線の方向)に向けて所定間隔で配置され、隣接する細長状部の端部が互い違いに連結されて、全体としてジグザグに折り返す構造である。複数の細長状部の長手方向がグリッド方向となり、グリッド方向と垂直な方向がグリッド幅方向(図1のB-B線の方向)となる。
【0021】
グリッド幅方向の最も外側に位置する2つの細長状部の長手方向の一端部は、グリッド幅方向に屈曲し、抵抗体30のグリッド幅方向の各々の終端30及び30を形成する。抵抗体30のグリッド幅方向の各々の終端30及び30は、配線40を介して、電極50と電気的に接続されている。言い換えれば、配線40は、抵抗体30のグリッド幅方向の各々の終端30及び30と各々の電極50とを電気的に接続している。
【0022】
抵抗体30は、例えば、Cr(クロム)を含む材料、Ni(ニッケル)を含む材料、又はCrとNiの両方を含む材料から形成できる。すなわち、抵抗体30は、CrとNiの少なくとも一方を含む材料から形成できる。Crを含む材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Niを含む材料としては、例えば、Cu-Ni(銅ニッケル)が挙げられる。CrとNiの両方を含む材料としては、例えば、Ni-Cr(ニッケルクロム)が挙げられる。
【0023】
ここで、Cr混相膜とは、Cr、CrN、CrN等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでもよい。
【0024】
抵抗体30の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、0.05μm~2μm程度とすることができる。特に、抵抗体30の厚さが0.1μm以上であると、抵抗体30を構成する結晶の結晶性(例えば、α-Crの結晶性)が向上する点で好ましい。また、抵抗体30の厚さが1μm以下であると、抵抗体30を構成する膜の内部応力に起因する膜のクラックや基材10からの反りを低減できる点で更に好ましい。
【0025】
抵抗体30の幅は、横感度を生じ難くすることと、断線対策を考慮すると、10μm以上100μm以下が好ましく、10μm以上70μm以下がより好ましく、10μm以上50μm以下がさらに好ましい。
【0026】
例えば、抵抗体30がCr混相膜である場合、安定な結晶相であるα-Cr(アルファクロム)を主成分とすることで、ゲージ特性の安定性を向上できる。また、抵抗体30がα-Crを主成分とすることで、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。ここで、主成分とは、対象物質が抵抗体を構成する全物質の50重量%以上を占めることを意味するが、ゲージ特性を向上する観点から、抵抗体30はα-Crを80重量%以上含むことが好ましく、90重量%以上含むことが更に好ましい。なお、α-Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
【0027】
また、抵抗体30がCr混相膜である場合、Cr混相膜に含まれるCrN及びCrNは20重量%以下であることが好ましい。Cr混相膜に含まれるCrN及びCrNが20重量%以下であることで、ゲージ率の低下を抑制できる。
【0028】
また、CrN及びCrN中のCrNの割合は80重量%以上90重量%未満であることが好ましく、90重量%以上95重量%未満であることが更に好ましい。CrN及びCrN中のCrNの割合が90重量%以上95重量%未満であることで、半導体的な性質を有するCrNにより、TCRの低下(負のTCR)が一層顕著となる。更に、セラミックス化を低減することで、脆性破壊の低減がなされる。
【0029】
一方で、膜中に微量のNもしくは原子状のNが混入、存在した場合、外的環境(例えば高温環境下)によりそれらが膜外へ抜け出ることで、膜応力の変化を生ずる。化学的に安定なCrNの創出により上記不安定なNを発生させることがなく、安定なひずみゲージを得ることができる。
【0030】
配線40は、基材10上に形成され、抵抗体30及び電極50と電気的に接続されている。配線40は直線状には限定されず、任意のパターンとすることができる。また、配線40は、任意の幅及び任意の長さとすることができる。なお、図1では、便宜上、配線40及び電極50を抵抗体30よりも薄い梨地模様で示している。
【0031】
電極50は、基材10上に形成され、配線40を介して抵抗体30と電気的に接続されており、例えば、配線40よりも拡幅して略矩形状に形成されている。電極50は、抵抗体30、30、及び30の、ひずみにより生じる抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極であり、例えば、外部接続用のリード線等が接合される。
【0032】
なお、抵抗体30と配線40と電極50とは便宜上別符号としているが、これらは同一工程において同一材料により一体に形成できる。従って、抵抗体30と配線40と電極50とは、厚さが略同一である。
【0033】
配線40及び電極50上に、抵抗体30よりも低抵抗の材料から形成された導電層を積層してもよい。積層する導電層の材料は、抵抗体30よりも低抵抗の材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。例えば、抵抗体30がCr混相膜である場合、Cu、Ni、Al、Ag、Au、Pt等、又は、これら何れかの金属の合金、これら何れかの金属の化合物、あるいは、これら何れかの金属、合金、化合物を適宜積層した積層膜が挙げられる。導電層の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、3μm~5μm程度とすることができる。
【0034】
このように、配線40及び電極50上に、抵抗体30よりも低抵抗の材料から形成された導電層を積層すると、配線40は抵抗体30よりも抵抗が低くなるため、配線40が抵抗体として機能してしまうことを抑制できる。その結果、抵抗体30によるひずみ検出精度を向上できる。
【0035】
言い換えれば、抵抗体30よりも低抵抗な配線40を設けることで、ひずみゲージ1の実質的な受感部を抵抗体30が形成された局所領域に制限できる。そのため、抵抗体30によるひずみ検出精度を向上できる。
【0036】
特に、抵抗体30としてCr混相膜を用いたゲージ率10以上の高感度なひずみゲージにおいて、配線40を抵抗体30よりも低抵抗化して実質的な受感部を抵抗体30が形成された局所領域に制限することは、ひずみ検出精度の向上に顕著な効果を発揮する。また、配線40を抵抗体30よりも低抵抗化することは、横感度を低減する効果も奏する。
【0037】
以上では、第3層1の基材10、抵抗体30、配線40、及び電極50について説明したが、第1層1の基材10、抵抗体30、及び配線40、並びに、第2層1の基材10、抵抗体30、及び配線40についても、第3層1の基材10、抵抗体30、及び配線40と同様である。ただし、第1層1及び第2層1には、電極50に相当する部分は設けられていない。
【0038】
抵抗体30を被覆し電極50を露出するように基材10の上面10cにカバー層60を設けても構わない。カバー層60を設けることで、抵抗体30に機械的な損傷等が生じることを防止できる。また、カバー層60を設けることで、抵抗体30を湿気等から保護することができる。なお、カバー層60は、電極50を除く部分の全体を覆うように設けてもよい。
【0039】
カバー層60は、例えば、PI樹脂、エポキシ樹脂、PEEK樹脂、PEN樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、複合樹脂(例えば、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂)等の絶縁樹脂から形成することができる。カバー層60は、フィラーや顔料を含有しても構わない。カバー層60の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、2μm~30μm程度とすることができる。
【0040】
[低抵抗化]
ひずみゲージ1において、配線40と配線40と配線40は、2つの電極50の各々の近傍に設けられた2つのスルーホール70により互いに接続されている。これにより、抵抗体30と抵抗体30と抵抗体30は互いに並列に接続される。抵抗体30と抵抗体30と抵抗体30は、例えば、ほぼ同じ抵抗値になるように形成され、それぞれが並列に接続されている。その結果、全体の抵抗値は、抵抗体30と抵抗体30と抵抗体30の各々に対して約1/3に低減されている。一対の電極50間の抵抗値は、並列に接続された抵抗体30と抵抗体30と抵抗体30の抵抗値となる。
【0041】
スルーホール70は、少なくとも基材10及び10を貫通する貫通孔内に設けられている。スルーホール70は、抵抗体30等と同一材料を用いて形成してもよいし、銅等の低抵抗な材料から形成してもよい。また、抵抗体30と抵抗体30と抵抗体30が並列に接続できれば、スルーホール70の位置は任意としてよい。例えば、配線40及び40を設けずに、各層の各抵抗体の終端の近傍にスルーホール70を設けて抵抗体30、30、及び30を並列に接続してもよい。また、基材10上及び基材10上に電極50に相当するダミーの電極を形成し、電極50と各々のダミーの電極とをスルーホール70で接続してもよい。また、抵抗体30と抵抗体30と抵抗体30が並列に接続できれば、スルーホールの個数は任意としてよい。例えば、スルーホールの抵抗値が問題となる場合には、スルーホールの個数を適宜増やせばよい。
【0042】
ひずみゲージ1をはかり用途に用いる場合には、クリープに関する規格を満足する必要がある。クリープに関する規格とは、例えば、OIML R60に基づく精度等級C1(以降、C1規格とする)や、OIML R60に基づく精度等級C2(以降、C2規格とする)が挙げられる。
【0043】
C1規格では、クリープ量及びクリープリカバリー量を±0.0735%以下にする必要がある。また、C2規格では、クリープ量及びクリープリカバリー量を±0.0368%以下にする必要がある。なお、ひずみゲージ1をセンサ用途に用いる場合には、クリープ量及びクリープリカバリー量の規格は±0.5%程度である。
【0044】
発明者らが鋭意検討したところ、クリープは一対の電極50間に接続される抵抗体の抵抗値に対する依存性が高く、C1規格やC2規格を満足するためには、一対の電極50間に接続される抵抗体の抵抗値を比較的低抵抗にする必要があるとの知見に至った。
【0045】
そこで、発明者らは、クリープ量及びクリープリカバリー量を低減するために必要な、一対の電極50間に接続される抵抗体の抵抗値について検討した。具体的には、一対の電極50間に接続される抵抗体の抵抗値を変えた複数のひずみゲージ1を作製し、各々のひずみゲージ1をSUS304製の起歪体上に貼り付け、クリープ量及びクリープリカバリー量を測定した。なお、基材10、10、及び10としては、膜厚25μmのポリイミド樹脂製のフィルムを用いた。また、抵抗体30、30、及び30には、Cr混相膜を用いた。
【0046】
クリープ量及びクリープリカバリー量は、ひずみゲージ1において、抵抗体30、30、及び30が設けられた面の弾性変形の量(ひずみ量)が時間経過と共に変化する量であるため、一対の電極50間の出力に基づいて算出したひずみ電圧をモニタすることで測定できる。図4を参照して、詳しく説明する。
【0047】
図4は、クリープ量及びクリープリカバリー量の測定方法について説明する図である。図4において、横軸は時間、縦軸はひずみ電圧[mV]である。
【0048】
まず、測定装置に電源を投入して10秒後に、起歪体に貼り付けられたひずみゲージ1に150%荷重を10秒間かけ、その後、除荷する。除荷後、20分が経過したら、起歪体に貼り付けられたひずみゲージ1に100%荷重を20分間かけ、その後、除荷する。そして、除荷後20分経過するのを待つ。
【0049】
ひずみ電圧は、例えば、図4に示すように変化する。図4において、150%荷重を除荷後20分経過した時点と、100%荷重をかけた直後の時点のひずみ電圧の差の絶対値Bを測定する。また、100%荷重をかけた直後の時点と、100%荷重をかけ始めてから20分経過した時点のひずみ電圧の差の絶対値ΔAを測定する。このとき、ΔA/Bがクリープ量となる。次に、100%荷重を除荷した直後の時点と、100%荷重を除荷後20分経過した時点のひずみ電圧の差の絶対値ΔCを測定する。このとき、ΔC/Bがクリープリカバリー量となる。
【0050】
なお、100%荷重とは3kgであり、150%荷重とは100%荷重の1.5倍の荷重である。
【0051】
図5は、抵抗値とクリープ量及びクリープリカバリー量の検討結果を示す図であり、一対の電極50間に接続される抵抗体の抵抗値を変えた複数のひずみゲージ1のクリープ量及びクリープリカバリー量を図4の測定方法で測定した結果をまとめたものである。
【0052】
図5に示すように、一対の電極50間に接続される抵抗体の抵抗値が160Ω以上600Ω以下であれば、C1規格のクリープ量及びクリープリカバリー量を満足できる。また、図5に示すように、一対の電極50間に接続される抵抗体の抵抗値が210Ω以上400Ω以下であれば、C2規格のクリープ量及びクリープリカバリー量を満足できる。すなわち、一対の電極50間に接続される抵抗体の抵抗値を所定範囲内に制御することで、クリープ量及びクリープリカバリー量が改善するため、ひずみゲージ1をはかり用途に使用可能となる。
【0053】
C1規格又はC2規格を満足できる抵抗値にするために、抵抗体の幅を広くする方法も考えられるが、特に、抵抗体としてCr混相膜を用いたゲージ率10以上の高感度なひずみゲージの場合は、抵抗体の幅を広くすると高感度であるために横感度の影響が発生するので好適ではない。一方、ひずみゲージ1のように、複数の抵抗体を互いに並列に接続することで低抵抗化すれば、横感度の問題を顕在化させることなく、C1規格又はC2規格を満足できる抵抗値を実現できる。
【0054】
なお、上記の例では、ひずみゲージ1を、第1層1上に第2層1及び第3層1が順次積層された3層構造としたが、これには限定されず、ひずみゲージ1は2層構造としてもよいし、4層以上の構造としてもよい。
【0055】
また、低抵抗化は、必ずしも複数の抵抗体を積層し、各々の抵抗体をスルーホールにより互いに並列に接続する方法には限定されない。例えば、1つの基材の上面に、グリッド方向を同一方向に向けて複数の抵抗体を配置し、基材の上面に設けた配線で各々の抵抗体を互いに並列に接続して低抵抗化してもよい。ただし、1つの基材の上面に複数の抵抗体を配置する場合は、基材の上面の面積が大きくなるため、微細な測定箇所への設置には、複数の抵抗体を積層して各々の抵抗体をスルーホールにより互いに並列に接続する構造の方が有利である。
【0056】
[ひずみゲージの製造方法]
ここで、ひずみゲージ1の製造方法について説明する。ひずみゲージ1を製造するためには、まず、基材10を準備し、基材10の上面10aに金属層(便宜上、金属層Aとする)を形成する。金属層Aは、最終的にパターニングされて抵抗体30及び配線40となる層である。従って、金属層Aの材料や厚さは、前述の抵抗体30及び配線40の材料や厚さと同様である。
【0057】
金属層Aは、例えば、金属層Aを形成可能な原料をターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により成膜できる。金属層Aは、マグネトロンスパッタ法に代えて、反応性スパッタ法や蒸着法、アークイオンプレーティング法、パルスレーザー堆積法等を用いて成膜してもよい。
【0058】
ゲージ特性を安定化する観点から、金属層Aを成膜する前に、下地層として、基材10の上面10aに、例えば、コンベンショナルスパッタ法により所定の膜厚の機能層を真空成膜することが好ましい。
【0059】
本願において、機能層とは、少なくとも上層である金属層A(抵抗体30)の結晶成長を促進する機能を有する層を指す。機能層は、更に、基材10に含まれる酸素や水分による金属層Aの酸化を防止する機能や、基材10と金属層Aとの密着性を向上する機能を備えていることが好ましい。機能層は、更に、他の機能を備えていてもよい。
【0060】
、基材10を構成する絶縁樹脂フィルムは酸素や水分を含むため、特に金属層AがCrを含む場合、Crは自己酸化膜を形成するため、機能層が金属層Aの酸化を防止する機能を備えることは有効である。
【0061】
機能層の材料は、少なくとも上層である金属層A(抵抗体30)の結晶成長を促進する機能を有する材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ni(ニッケル)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Si(シリコン)、C(炭素)、Zn(亜鉛)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Fe(鉄)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)からなる群から選択される1種又は複数種の金属、この群の何れかの金属の合金、又は、この群の何れかの金属の化合物が挙げられる。
【0062】
上記の合金としては、例えば、FeCr、TiAl、FeNi、NiCr、CrCu等が挙げられる。また、上記の化合物としては、例えば、TiN、TaN、Si、TiO、Ta、SiO等が挙げられる。
【0063】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/20以下であることが好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを防止できる。
【0064】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/50以下であることがより好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを更に防止できる。
【0065】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/100以下であることが更に好ましい。このような範囲であると、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを一層防止できる。
【0066】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~1μmとすることが好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく容易に成膜できる。
【0067】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~0.8μmとすることがより好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく更に容易に成膜できる。
【0068】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~0.5μmとすることが更に好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく一層容易に成膜できる。
【0069】
なお、機能層の平面形状は、例えば、図1に示す抵抗体の平面形状と略同一にパターニングされている。しかし、機能層の平面形状は、抵抗体の平面形状と略同一である場合には限定されない。機能層が絶縁材料から形成される場合には、抵抗体の平面形状と同一形状にパターニングしなくてもよい。この場合、機能層は少なくとも抵抗体が形成されている領域にベタ状に形成されてもよい。あるいは、機能層は、基材10の上面全体にベタ状に形成されてもよい。
【0070】
また、機能層が絶縁材料から形成される場合に、機能層の厚さを50nm以上1μm以下となるように比較的厚く形成し、かつベタ状に形成することで、機能層の厚さと表面積が増加するため、抵抗体が発熱した際の熱を基材10側へ放熱できる。その結果、ひずみゲージ1において、抵抗体の自己発熱による測定精度の低下を抑制できる。
【0071】
機能層は、例えば、機能層を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にAr(アルゴン)ガスを導入したコンベンショナルスパッタ法により真空成膜できる。コンベンショナルスパッタ法を用いることにより、基材10の上面10aをArでエッチングしながら機能層が成膜されるため、機能層の成膜量を最小限にして密着性改善効果を得ることができる。
【0072】
ただし、これは、機能層の成膜方法の一例であり、他の方法により機能層を成膜してもよい。例えば、機能層の成膜の前にAr等を用いたプラズマ処理等により基材10の上面10aを活性化することで密着性改善効果を獲得し、その後マグネトロンスパッタ法により機能層を真空成膜する方法を用いてもよい。
【0073】
機能層の材料と金属層Aの材料との組み合わせは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、機能層としてTiを用い、金属層Aとしてα-Cr(アルファクロム)を主成分とするCr混相膜を成膜可能である。
【0074】
この場合、例えば、Cr混相膜を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にArガスを導入したマグネトロンスパッタ法により、金属層Aを成膜できる。あるいは、純Crをターゲットとし、チャンバ内にArガスと共に適量の窒素ガスを導入し、反応性スパッタ法により、金属層Aを成膜してもよい。この際、窒素ガスの導入量や圧力(窒素分圧)を変えることや加熱工程を設けて加熱温度を調整することで、Cr混相膜に含まれるCrN及びCrNの割合、並びにCrN及びCrN中のCrNの割合を調整できる。
【0075】
これらの方法では、Tiからなる機能層がきっかけでCr混相膜の成長面が規定され、安定な結晶構造であるα-Crを主成分とするCr混相膜を成膜できる。また、機能層を構成するTiがCr混相膜中に拡散することにより、ゲージ特性が向上する。例えば、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。なお、機能層がTiから形成されている場合、Cr混相膜にTiやTiN(窒化チタン)が含まれる場合がある。
【0076】
なお、金属層AがCr混相膜である場合、Tiからなる機能層は、金属層Aの結晶成長を促進する機能、基材10に含まれる酸素や水分による金属層Aの酸化を防止する機能、及び基材10と金属層Aとの密着性を向上する機能の全てを備えている。機能層として、Tiに代えてTa、Si、Al、Feを用いた場合も同様である。
【0077】
このように、金属層Aの下層に機能層を設けることにより、金属層Aの結晶成長を促進可能となり、安定な結晶相からなる金属層Aを作製できる。その結果、ひずみゲージ1において、ゲージ特性の安定性を向上できる。また、機能層を構成する材料が金属層Aに拡散することにより、ひずみゲージ1において、ゲージ特性を向上できる。
【0078】
次に、フォトリソグラフィによって金属層Aをパターニングし、抵抗体30及び配線40を形成する。これにより、第1層1が完成する。
【0079】
次に、上記と同様の方法で第2層1及び第3層1を作製する。ただし、第3層1の場合はでは、フォトリソグラフィによって金属層Aをパターニングする工程で、抵抗体30及び配線40に加え一対の電極50を形成する。
【0080】
次に、第1層1上に、第2層1及び第3層1を順次積層し、スルーホール70を形成するための貫通孔をレーザ加工法等により形成し、めっき法等によりスルーホール70を形成する。なお、第1層1が完成した後、引き続き第1層1上に基材10を積層して基材10上に抵抗体30及び配線40を形成し、さらに第2層1上に基材10を積層して基材10上に抵抗体30、配線40、及び電極50を形成してもよい。この場合、スルーホール70を形成するための貫通孔を設けた後に基材10上に抵抗体30、配線40、及び電極50を形成し、スルーホール70は抵抗体30等と同一材料により一体に形成してもよい。
【0081】
その後、必要に応じ、基材10の上面10cに、抵抗体30及び配線40を被覆し電極50を露出するカバー層60を設けることで、ひずみゲージ1が完成する。カバー層60は、例えば、基材10の上面10cに、抵抗体30及び配線40を被覆し電極50を露出するように半硬化状態の熱硬化性の絶縁樹脂フィルムをラミネートし、加熱して硬化させて作製できる。カバー層60は、基材10の上面10cに、抵抗体30及び配線40を被覆し電極50を露出するように液状又はペースト状の熱硬化性の絶縁樹脂を塗布し、加熱して硬化させて作製してもよい。
【0082】
なお、抵抗体30、30、及び30等の下地層として各基材の上面に機能層を設けた場合には、ひずみゲージ1は図6に示す断面形状となる。符号20、20、及び20で示す層が機能層である。機能層20、20、及び20を設けた場合のひずみゲージ1の平面形状は、例えば、図1と同様となる。ただし、前述のように、機能層20、20、及び20は、各基材の上面の一部又は全部にベタ状に形成される場合もある。
【0083】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0084】
1 ひずみゲージ、1 第1層、1 第2層、1 第3層、10,10,10 基材、10a,10b,10c 上面、20,20,20 機能層、30,30,30 抵抗体、30,30 終端、40,40,40 配線、50 電極、60 カバー層、70 スルーホール
図1
図2
図3
図4
図5
図6