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特許7575163アスリートのオーバートレーニングの予防又は処置に用いる化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】アスリートのオーバートレーニングの予防又は処置に用いる化合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/22 20060101AFI20241022BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20241022BHJP
   A61P 5/38 20060101ALI20241022BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20241022BHJP
【FI】
A61K31/22
A61P21/00
A61P5/38
A23L33/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021518512
(86)(22)【出願日】2019-10-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 GB2019052797
(87)【国際公開番号】W WO2020070506
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】1816196.8
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519462942
【氏名又は名称】ティーデルタス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,キーラン
(72)【発明者】
【氏名】ヘスペル,ピーター
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】HOLDWORTH, D.A., et al.,Medicine and science in sports and exercise,2017年,Vol. 49,No. 9,pp.1789-1795.
【文献】KREHER, J.B., et al.,Sports health,2012年,Vol. 4,No. 2,pp.128-138.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体のオーバートレーニング症候群の予防又は処置に用いるための組成物であって、前記組成物は以下の:
【化1】
で表される(R)-3-ヒドロキシ酪酸(R)-1,3-ブタンジオールモノエステル 、又は製薬上許容されるその塩若しくは溶媒和物を含む、組成物。
【請求項2】
被験体のオーバートレーニング症候群に関連する1又はそれ以上の生理学的、心理学的、免疫学的又は生化学的変化を予防又は処置するために用いる、請求項1に記載の組成物であって、ここで、前記生理学的な変化は、パフォーマンス低下、筋肉の質量、痛み及び硬直、体重減少及び心拍数変化からなる群から選択される1又はそれ以上の変化であり、前記心理学的な変化は、不安感及び落ち着きのなさからなる群から選択される1又はそれ以上の変化であり、前記免疫学的な変化は感染に対する感受性増加であり、かつ、前記生化学的な変化はコルチゾール増加及び遊離テストステロン濃度低下からなる群から選択される1又はそれ以上の変化である、組成物。
【請求項3】
さらに、被験者のオーバートレーニング症候群に関連するノルアドレナリンレベルの上昇を低減、遅延又は抑制するための、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
オーバートレーニング症候群の症状の発症を、少なくとも1日遅延させるための、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
オーバートレーニング症候群に伴う体力損失を低減するための、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
さらに、骨塩含有量を増加又は維持するための、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
被験体は、アスリート又は持久力が必要なアスリートである、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物及び場合によっては、1又はそれ以上の製薬上許容される賦形剤を含む、オーバートレーニング症候群の防止又は処置するための、医薬組成物。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物、並びに、場合によっては、さらに、水及び、香味剤、タンパク質、炭水化物、糖質、脂肪、繊維、ビタミンとミネラルを1又はそれ以上含む、オーバートレーニング症候群の防止又は処置に用いるための、栄養組成物。
【請求項10】
さらに、中鎖トリグリセリドを含む、請求項9に記載の栄養組成物であって、前記中鎖トリグリセリドは、式CHRa-CHRb-CHRc(式中、Ra、Rb及びRcは、炭素原子が5~12個の脂肪酸である)を有する、栄養組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体におけるオーバートレーニングの効果の処置、及び具体的には、予防のための化合物、及びオーバートレーニングに関連する状態の処置に関する。本発明はまた、オーバートレーニングに関連する状態を発症するリスクを回避又は低減するための、被験体の予防的処置に関する。
【背景技術】
【0002】
オーバートレーニングは、個体がその能力を超えた激しい運動から回復して、パフォーマンスが低下する場合に生じる。オーバートレーニングは、ウェイトトレーニングの一般的な問題であるが、ランナーや他のアスリートも経験する。特定の状態は、オーバートレーニング症候群(OTS)として知られている。
【0003】
OTSは、神経ホルモン軸に対するびまん性の効果を伴う全身性の炎症過程であり、宿主の免疫学及び心理学に影響を及ぼす。オーバートレーニングの主な症状は、以下の4つのカテゴリー:
・生化学的-コルチゾール増加及び遊離テストステロン濃度低下;
・免疫学的-感染に対する感受性増加;
・生理学的-パフォーマンス低下、筋肉の質量、痛み及び硬直、体重減少、心拍数変化;
・心理学的-不安感、落ち着きのなさ
に分類しうる。
【0004】
一般に、アスリートはパフォーマンス向上のため、トレーニングを行う。パフォーマンス向上は、トレーニング負荷の増加により達成される。負荷の増加は、トレーニング期間に挿入された休息及び回復期間を介してのみ許容される。オーバーリーチングは、数日~数週間の回復が必要なパフォーマンスの低下につながるトレーニング負荷の蓄積であると考えられる。オーバーリーチング後に適当な休息をとることで、最終的にはパフォーマンスの向上につながる。
【0005】
しかしながら、オーバーリーチングが極端で、さらにストレス要因が重なると、オーバートレーニング症候群(OTS)が生じる場合がある。OTSは、抑うつ気分、中枢性疲労、及びその結果生じる神経ホルモンの変化を含む、全身性炎症及びそれに伴う中枢神経系への影響により引き起こされる場合がある。
【0006】
OTSには、以下の:
-自律神経系:副交感神経優位型はオーバートレーニング症候群の多くの症状をおこす;
-中枢性疲労:脳でトリプトファン摂取が高まると、中枢性セロトニン及び気分障害が高まる;
-グルタミン:グルタミンが減少すると、免疫機能障害と感染症に対する感受性が亢進する;
-視床下部:視床下部とホルモン軸の調節不全により、オーバートレーニング症候群の多くの症状が誘発される;
-酸化ストレス:過剰な酸化ストレスは、筋肉を損傷し、かつ疲労につながる;
を含む様々な仮説がある。
これらの仮説はいずれも妥当のようであるが、個々のOTSのすべての症状を説明するものではない。
【0007】
これまで、オーバートレーニングの治療はしばしば適当な休息に基づく。運動強度を高める前に運動量を増やすことによる、相対的休息がより適当であると主張する研究者もいる。オーバートレーニング症候群の予防、診断、治療に関する現在の一連の知識は、非特許文献1で考察されている。被験体のオーバートレーニングの効果を予防し、処置する新しい効果的な方法が必要である。
【0008】
本発明は、外因性ケトン体前駆体を利用する。用語「ケトン体」は、一般に、3つの内因性化合物、すなわち、D-β-ヒドロキシブチレート、アセト酢酸及びアセトンを包含することが理解される。D-β-ヒドロキシブチレートは、(R)-3-ヒドロキシブチレートとしても知られ、以下では当該用語が用いられる。ケトン体は、食物摂取量が少ない時期に脂肪酸から肝臓で産生される。
【0009】
運動生理学における最近の進歩により、トレーニング及び競技中の十分な栄養の重要性に対する理解が深まった。高炭水化物食及び高脂肪食は、アスリート及び健常かつ活動的でないボランティアを対象とした複数の試験で比較され、炭水化物摂取量の多い食事を利用すると、最大運動能力が全般的に改善される。長時間の激しい運動中に骨格筋グリコーゲンが急速に枯渇し、ケトン体の代謝効率が上昇するため、運動前、運動中、運動後にケトン体を用いることが提唱されている。生理的ケトーシスを制御する、すなわち飢餓又は低炭水化物、低タンパク質、高脂肪ケトン体食を達成する従来技術は、炭水化物摂取を制限するため、エルゴゲン効果を達成できなかった。最近、外因性ケトンエステル(R)‐3‐ヒドロキシブチル(R)‐3‐ヒドロキシブチレートが開発されたが、これにより長期絶食期間及び血清ケトンレベルを高めるための炭水化物摂取を減少させる必要がない。このケトンエステルの迅速摂取は、酸化的呼吸に対する燃料競合を変化させて、エリートサイクリストの持久力を改善することが示された(非特許文献2)。
【0010】
食餌性外因性ケトン体は、運動能力を急激に向上させるだけでなく、トレーニング適応性を高め、長期間にわたり能力を向上させうる。最近、ケトンは運動後の筋肉タンパク質合成の刺激を介した急性筋修復の追加刺激と考えられることが示された(非特許文献3)。
【0011】
ケトン体及びケトン体エステルは、血清コレステロール及び/又はトリグリセリドレベルを低下させることが示された。例えば、特許文献1は、ラットにおける血漿β-ヒドロキシブチレート濃度を2倍にするケトン食を開示する。当該ケトン食を給餌したラットの総血清コレステロール、HDL及びLDLレベルは有意に低かった。
【0012】
ケトン体及びケトン体エステルはまた、筋肉障害又は疲労の治療、及び放射線被曝に対する保護等の様々な他の用途があることが示された。当該化合物のいくつかは、運動後の筋肉回復にも効果があることが示された。例えば、特許文献2は、ケトン体エステルが解糖を低下させることにより骨格筋グリコーゲンを高めうることを教唆する。オーバートレーニングに対する影響は示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】国際公開第2009/089144号
【文献】国際公開第2015/018913号
【非特許文献】
【0014】
【文献】Meeusen etal the Official Journal of the American College of Sports Medicine, 2012,pages 186-205.
【文献】Cox et al; Cell Metab 24: 256-268, 2016
【文献】Vandoorne etal; Front. Physiol 2017; Vol. 8: Article 310
【発明の概要】
【0015】
本発明は、第1態様では、被験体のオーバートレーニングの予防又は処置に用いる化合物であって、以下の:
(i)(R)-3-ヒドロキシブチレート;
(ii)(R)-3-ヒドロキシブチレートエステル
(iii)(R)-3-ヒドロキシブチレート部分のオリゴマー化により得られるオリゴマー;
から選択される化合物、又は製薬上許容されるその塩若しくは溶媒和物を提供する。
【0016】
また、本発明の第2態様では、本発明の第1態様で定義される化合物、及び場合によっては、1又はそれ以上の製薬上許容される賦形剤を含む、被験体のオーバートレーニングを防止又は処置する医薬組成物を提供する。
【0017】
本発明の第3態様では、本発明の第1態様で定義される化合物並びに、場合によっては、さらに、水及び、香味剤、タンパク質、炭水化物、糖質、脂肪、繊維、ビタミンとミネラルの1又はそれ以上、を含む、オーバートレーニングの防止又は処置に用いる栄養組成物を提供する。
【0018】
本発明の第4態様では、被験体のオーバートレーニングの防止又は処置に用いる薬剤の製造に用いる、本発明の第1態様で定義される化合物、又は本発明の第2又は第3の態様による組成物の使用を提供する。
【0019】
本発明の第5態様では、本発明の第1態様で定義される化合物、又は本発明の第2又は第3の態様による組成物を、それが必要な被験体に投与することを含む、被験体のオーバートレーニングを防止又は処置する方法を提供する。
【0020】
本明細書で定義される化合物は、被験体に対するケトンの外因性供給源を提供し、オーバートレーニングの予防及び処置において有効であることが示される。本発明で用いられる化合物は、オーバートレーニングにより誘発される筋骨格系及びホルモンの調節障害の予防及び処置について明らかな有益な効果を提供し、筋損傷から保護しうる。一回の一連の激しい運動での筋肉の衰弱を軽減させるケトンエステルの使用は特許文献2により知られていたが、ケトンエステルが、オーバートレーニングの予防又は処置、特にOTSの減少に常に作用ことは予想されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】運動前6、13及び20日前、運動直後及び25gのケトンエステル摂取の30分後のケトン((R)-3-ヒドロキシブチレート)レベルを示す。
図2】30分間のシミュレートされたサイクリングタイムトライアルにおけるプラセボ飲料(図2B)と比較した、平均パワー(図2A)及びパワー増加率(%)を示す。
図3】3週間の一連のオーバートレーニング負荷期間の終了時(18日目)に、2時間の最大下の定負荷運動を開始した直後の30分間の平均パワーを示す。
図4】90秒の全量等速スプリントの間のピーク心拍数を示す。図4Aは絶対値を示し、図4Bは、心拍数の試験前に対する低下を示す。
図5】30分間の試験開始5分間に測定した最大下心拍数の前試験値と比較した相違である。
図6】3週間のトレーニング期間前後のDXAスキャニングの結果を示し、図6Aは脂肪率を、図6Bは骨塩量の変化を、図6Cは除脂肪量の変化を、各々試験前と比較したものである。
図7】ケトン群とプラセボ群の食物摂取量を示す。エネルギー摂取量は、3週間のトレーニング期間の開始時(前試験)、中期(中間期)及び終了時(後試験)で各々2日間にわたり測定した。
図8】空腹時血漿試料中のレプチン濃度の経時変化を示した。
図9】3週間のオーバーリーチ/オーバートレーニング期間前及び期間中の、尿中の夜間総アドレナリン(図9(a))及びノルアドレナリン(図9(b))の排泄を示す。
図10】ケトンエステル群とプラセボ群の週当たりの仕事量(kJ)を示す。
図11】ケトンエステル及びケトン基の各トレーニングセッションのワークを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の化合物は、被験体の体内における(R)-3-ヒドロキシブチレートの供給源を提供する。つまり、当該化合物は、(R)-3-ヒドロキシブチレートそれ自体、又は体内で分解されて(R)-3-ヒドロキシブチレートを生成しうる、(R)-3-ヒドロキシブチレートの前駆体、例えば、そのエステル又はオリゴマーでありうる。
(R)-3-ヒドロキシブチレートはケトン体であり、K N Frayn「代謝調節:ヒトの展望」による特定される。
【0023】
国際公開第2004/108740号は、ケトン体を被験体に直接投与して、高レベルのケトン体を達成しうることを開示する。しかし、特定の状況下では、直接投与は困難で危険であり、エステルを用いるのが好ましい代替法として提案されている。ケトンエステルの製造は、例えば、(R)-3-ヒドロキシブチル(R)-3-ヒドロキシブチレートを製造する方法を記載する国際公開第2014/140308号に開示された。
【0024】
(R)-3-ヒドロキシブチレートのエステルは、エチル-(R)-3-ヒドロキシブチレートとアルコールとのエステル交換反応により生成しうる。この反応は酵素を触媒しうる。例えば、(R)-3-ヒドロキシブチレートエステル及び(R)-1,3-ブタンジオールのエチルエステルを、穏和な減圧下、固定化リパーゼの存在下でともに反応させて、得られたエタノール副生成物を除去しうる。
【0025】
本発明の好ましい実施形態では、(R)-3-ヒドロキシブチレートエステルは以下の、一般式I:
【0026】
【化1】
(式中、
- Rは、C-Cアルキル基であり、アルキル基には5個までの-OR置換基があり、
- ここで、Rは、水素、若しくはC-Cアルキルを表すか、若しくは-ORは(R)-3-ヒドロキシブチレート部分を表し;又は
- Rは、アルコールHORに由来する部分であり、ここで、前記アルコールは糖である)
で表される化合物である。
【0027】
通常、ゼロ、1つ又は2つの-OR基は、(R)-3-ヒドロキシブチレート部分を表す。好ましくは、ゼロ又は1つの-OR基のみが(R)-3-ヒドロキシブチレート部分を表す。
【0028】
本発明の好ましい化合物はエステルであり、特に上記式Iで概説される。当該R部分は対応するアルコールHO-Rから誘導される。アルコールHO-Rは、例えば、モノアルコール、ジオール、ポリオール、又は糖でありうる。
【0029】
好ましくは、式Iにおいて、Rは、0,1,2,3,4又は5個の-OR置換基で置換されたC-Cアルキル基である。最も好ましくは、Rは、1、2又は3個-OR置換基、典型的には1又は2個の-OR置換基で置換されたC-Cアルキル基である。
好ましくは、Rは、Hである。
【0030】
好ましくは、Rは、式-CH-CH(OH)-CH(OH)又は-CH-CH-CH(OH)-CHである。この場合、Rは、ブタンジオール及びグリセロールに各々対応するアルコールHO-Rから誘導される部分である。ブタンジオールはラセミ体の1,3ブタンジオールである。最も好ましくは、アルコールHO-Rは、R-1,3ブタンジオールに対応する。この場合、基Rは、以下の式:
【0031】
【化2】
で表される。
【0032】
好ましくは、本発明の化合物はモノエステルであり、すなわち、アルコールHO-Rが1を超えるペンダントヒドロキシルを含む場合、これらのうちの1つのみが反応してヒドロキシブチレート部分を形成する。部分エステルは、アルコールHO-Rが、2又はそれ以上のペンダントヒドロキシルを含むが、当該化合物は、これらの全てが反応してヒドロキシブチレート部分を形成するわけではない。
【0033】
本発明の特に好ましい化合物は、(R)-3-ヒドロキシブチレート(R)-1,3-ブタンジオールモノエステル、別名(R)-3-ヒドロキシブチル(R)-3-ヒドロキシブチレートで以下の式:
【0034】
【化3】
で表される。
【0035】
本発明のさらなる好ましい化合物は、(R)-3-ヒドロキシブチレート-グリセロール部分エステル、つまり、(R)-3-ヒドロキシブチレート-グリセロールのモノエステル又はジエステルである。
【0036】
本発明の異なる実施形態では、Rは、アルコールHORに由来し、ここで、当該アルコールは糖である。当該糖は、アルトロース、アラビノース、デキストロース、エリトロース、フルクトース、ガラクトース、グルコース、グロース、アイドース、ラクトース、リキソース、マンノース、リボース、リブロース、スクロース、タロース、トレオース、及びキシロースから選択されうる。
【0037】
がポリオールであるアルコールHORから誘導される場合、当該ポリオールは、グリセロール、リビトール及びキシリトールから選択されうる。
【0038】
本発明の他の実施形態では、本発明の化合物は以下の式II:
【0039】
【化4】
(式中、
- Rは、本発明の第1態様で定義される通りであり、
- nは2~100の整数である)
で表される。
【0040】
好ましくは、nは、2~50、例えば、2~20、2~10又は2~5である。当該オリゴマーは、例えば、ただ、2,3,4又は5反復単位(n=2,3,4又は5)を含みうる。当該オリゴマーは、本質的に直鎖状又は環状でありうる。
【0041】
本発明の化合物が、上記式に加えてキラル中心を含む場合、当該化合物は、ラセミ混合物又は純粋なエナンチオマー形態として存在しうる。
【0042】
本発明の化合物は、生理学的に適合可能な塩として存在しうる。例えば、そのナトリウム、カリウム、カルシウム又はマグネシウム塩を用いうる。
【0043】
発明者らは、(R)-3-ヒドロキシブチレート-R-1,3-ブタンジオールモノエステル及び(R)-3-ヒドロキシブチレート-グリセロール部分エステルが、血中の(R)-3-ヒドロキシブチレートの循環レベルを高めることを見出した。さらに、当該エステルは、意外にも高レベルで腸において摂取され、それにより、飲料摂取時の(R)-3-ヒドロキシブチレートの血中濃度は高くなりうる。
【0044】
従って、好ましい実施形態では、本発明は、ヒドロキシブチレートエステル又は部分エステル、例えば、(R)-3-ヒドロキシブチレートブタン-1,3-ジオールモノエステル及び(R)-3-ヒドロキシブチレートグリセロール部分エステルを提供し、被験体におけるオーバートレーニングの防止又は処置に用いられる。
【0045】
特に有利には、(R)-3-ヒドロキシブチル-(R)-3-ヒドロキシブチレートであり、血中(R)-3-ヒドロキシブチレートを大幅に上昇させるには、当該物質の経口摂取量は、ラセミ体ケトンよりも少量でよい。身体運動の前又は運動中に物質を摂取する被験体は、(例えば、大量の液体の摂取、又は苦い/嫌悪的香味による)身体的不快感のリスクなく、より容易に適当なケトンを摂取することで、生理学的に有益な反応を提供しうる。血中(R)-3-ヒドロキシブチレート濃度が高いことによっても、ケトン塩よりも長期間にわたって(R)-3-ヒドロキシブチレート濃度を上昇させうる。投与回数が少なくても、(R)-3-ヒドロキシブチレートレベルの上昇が維持される。これにより、投与計画に対する被験体のコンプライアンスも容易となる。
【0046】
本発明は、被験体、特にオーバートレーニング症候群に罹患した被験体におけるオーバートレーニングの予防、処置及び回復に関する。オーバートレーニングの防止は、本発明が、既にオーバートレーニングに罹患しているが、必ずしも当該症状が顕在化されていない被験体の処置に関連するという点で、オーバートレーニングを処置するサブセットとみなしうる。
【0047】
本発明で用いられる化合物は、被験体に投与して、被験体におけるオーバートレーニングの開始を抑制又は遅延させうる。例えば、当該化合物は、化合物を投与しない被験体と比較して、少なくとも1日、好ましくは少なくとも2,3,4,5又は6日、より好ましくは少なくとも1週間、通常少なくとも2週間又は少なくとも3週間、被験体におけるオーバートレーニング症状の発症を遅延しうる。化合物は、オーバートレーニングの症状の強度を遅延、及び/又は軽減しうる。当該有益な効果は、本発明の化合物の投与に伴い、トレーニング過負荷の持続時間が長くなるほど高まる。
【0048】
本明細書で特定される化合物はまた、オーバートレーニングに通常関連する持久力の損失の軽減に用いうる。例えば、当該化合物は、長時間の持久力トレーニングにおける被験体のパワーを高め、オーバートレーニングに関連するパワーの損失を軽減しうることが示される。
【0049】
本発明の化合物を被験体へ投与すると、被験体におけるオーバートレーニングの効果を処置しうる。これは、被験体のオーバートレーニングに関連する生理学的、心理学的、免疫学的又は生化学的変化のいずれかを意味する。
【0050】
例えば、オーバートレーニングの徴候を示し始めている被験体は、激しい運動中に心拍数のピークがより低く示される場合がある。本発明の化合物によれば、ピーク心拍数の当該低下を軽減しうることが示された。同様に、オーバートレーニングが進むにつれて、最大下の心拍数を低下させうる。本発明の化合物は、この最大下の心拍数の低下を軽減させることが示された。
【0051】
さらに、本発明の化合物は、極度のトレーニング負荷にもかかわらず、骨塩化を高めうることが示された。従って、本発明の化合物は、オーバートレーニングの予防又は処置中に骨量を増加又は維持するのに用いうる。
【0052】
「オーバートレーニング」とは、トレーニング中に数日から数週間、アンダーパフォーマンスを呈した被験体をいう。当該被験体は、通常、身体の能力を超えた激しい運動から回復する。オーバートレーニングは、軽微か又は極端である。スペクトルの小さな端では、当該被験体は、例えば、一時的なパフォーマンスの低下(休息後のパフォーマンスの改善)につながるトレーニングの増加に起因する短期的オーバーリーチである、「機能的オーバーリーチ」等のオーバーリーチを経験する場合がある。
【0053】
あるいは、当該被験体は、パフォーマンス低下(完全回復は、休息後もなお続く)がより長引くことが原因であり、心理学的及び/又は神経内分泌学的症状の亢進を伴う、長時間のオーバーリーチングである「非機能的オーバーリーチング」を経験する場合がある。
【0054】
スペクトルのより極端な端では、被験体はオーバートレーニング症候群(OTS)を呈しうる。当該オーバートレーニング症候群は、極度の非機能的オーバーリーチと一致するが、(1)パフォーマンス低下(>2ヵ月)がより長引き、(2)症状及び適応障害(心理学的、神経学的、内分泌学的、免疫学的システム)がより重症、(3)疾患では説明できないさらなるストレス因子をともなう。
【0055】
OTSの診断は臨床的であり、病歴を通じて行われるが、(1)回復の数週間から数ヵ月間にもかかわらず、能力低下が持続すること、(2)気分障害、(3)能力低下の徴候/症状の欠如、又はその他の可能性のある原因の診断がないこと、が示されるべきである。
【0056】
レプチン、アディポネクチン及びグレリン等のホルモン、並びにインターロイキン-6及び腫瘍壊死因子-α等のホルモンは、オーバートレーニングのモニタリングの可能性として最近研究されている(von Duvillard S.et al.;Metabolism.2011;60:335-50)。ホルモンレプチンのレベルは、通常、被験体がオーバートレーニングされた状態になると低下する。本明細書に記載の化合物の投与により、オーバートレーニングに関連するレプチンレベルの低下を軽減され、遅延され、又は阻害されうる。例えば、本明細書で特定される化合物の投与により、オーバートレーニングした被験体において、当該被験体におけるレプチンレベルが、その基底レベルの50%、好ましくは40%又は30%、より好ましくは20%、15%又は10%、最も好ましくは5%以内に確実にとどまりうる。また、オーバートレーニングからの回復中に、レプチン濃度が確実により速やかに基底レベルに回復しうる。
【0057】
被験体の基底レベルは、被験体がオーバートレーニング状態になる前に測定された被験体の平均血漿レプチン測定値をいう。男性の通常の血漿レプチン測定値は2.65~20.7ng/mLである。女性の通常の血漿レプチン測定値は4.7~46ng/mLである。
【0058】
ノルアドレナリンレベルは、被験体がオーバートレーニング状態になると、被験体の基底レベルから上昇することが見出された。本明細書に記載の化合物の投与により、オーバートレーニングに関連するノルアドレナリンレベルの増加が軽減され、遅延され、又は阻害されうる。例えば、本明細書で特定される化合物の投与により、オーバートレーニングされた被験体において、当該被験体におけるノルアドレナリンレベルが、その基底レベルの50%、好ましくは40%又は30%、より好ましくは20%、15%又は10%、最も好ましくは5%以内に確実にとどまりうる。また、ノルアドレナリンの投与により、オーバートレーニングからの回復中に、ノルアドレナリンのレベルが確実により迅速に基底レベルに回復しうる。
【0059】
被験体の基底レベルは、被験体がオーバートレーニング状態になる前に測定された被験体の平均夜間尿ノルアドレナリン測定値をいう。通常の尿中ノルアドレナリン測定値は170μg/24時間未満(1005nmol/日未満)である。
【0060】
本発明の化合物はまた、トレーニング適応を刺激しうる。化合物はトレーニング量/質を高める一方で、同時にオーバーリーチを阻害し、最終的にトレーニング適応性を高め、パフォーマンスを向上させる。
【0061】
本発明の被験体は、通常、アスリートである。当該被験体は、通常、上記で定義した「オーバートレーニング」段階に達しており、オーバートレーニング症候群に罹患している場合がある。当該アスリートは、十分な休息を取らず、激しい運動又はトレーニング(例えば、ランニング、サイクリング、水泳及び/又は体重トレーニング)の過負荷の結果として、オーバートレーニングに罹患した可能性がある。
【0062】
通常、被験体は、数週間、例えば、少なくとも1、2、3、4、5又は6週間、トレーニングを受けて、オーバートレーニングの段階に到達したであろう。
【0063】
オーバートレーニングの開始を防止又は遅延させるため、被験体は、予防的方法で本発明の化合物を摂取しうる。これは、オーバートレーニングの症状が現れる前に、被験体が定期的に(例えば、毎朝、又は就寝前に)化合物を摂取しうることを意味する。被験体は、1日に1又はそれ以上、例えば1日に2回又は3回、化合物を摂取しうる。あるいは、被験体は、炭水化物及び/又はタンパク質系飲料と共に、又はそれなしで、各トレーニングセッションの前、中、及び/又は後に、化合物を摂取しうる。
【0064】
本発明の異なる実施形態では、本発明の化合物は、上記のように、オーバートレーニングの症状が発現し始めたときに摂取される。
【0065】
好適には、本発明の化合物、好ましくは(R)-3-ヒドロキシブチレート(R)-1,3-ブタンジオールモノエステルは、少なくとも100mg/kg体重/日のレベルのケトンで摂取される。望ましくは、ケトン体又はケトン体エステルは、少なくとも0.1mM、好ましくは少なくとも0.2mM、より好ましくは少なくとも1mM、そして最適には少なくとも2mMの血漿ケトンレベルを提供するのに十分なレベルで摂取される。好適には、ケトン体又はケトン体エステルは、血漿ケトンレベルが20mMを超えず、好適には10mM又は8mMを超えず、5mMを超えないレベルで摂取される。
【0066】
血漿ケトン濃度は患者の体重に依存し、体重1kg当たり少なくとも300mgの(R)-3-ヒドロキシブチレート(R)-1,3-ブタンジオールモノエステルを経口投与すると、(R)-3-ヒドロキシブチレートの血漿濃度は約1.5mMとなり、500mg/kgで投与すると、少なくとも3mM (R)-3-ヒドロキシブチレートが得られることがわかった。被験体の1g/kg体重の投与量において、血液(R)-3-ヒドロキシブチレート濃度は、好適には少なくとも4mM、好ましくは5mMである。被験体の体重1.5g/kgのモノエステルの経口投与において、血液(R)-3-ヒドロキシブチレート濃度は、好適には少なくとも7mM、好ましくは少なくとも8mM、特に少なくとも9mMである。投与方式は、複数の飲料を別々に摂取することを含む。
【0067】
(R)-3-ヒドロキシブチレートの血中濃度は、市販の試験キットで測定でき、例えば、(R)-3-ヒドロキシブチレートは、ハンドヘルドモニター及び試薬ストリップ(Precision Xtra,Abbott Diabetes Care,UK)を用いて全血で測定しうる。
【0068】
本発明の化合物は、健康な被験体を処置して、オーバートレーニングの効果の軽減に用いられうる。
【0069】
本発明に用いる化合物は、栄養組成物と共に含まれうる。適当には、栄養組成物は、水及び(R)-3-ヒドロキシブチレートの供給源を含む。好ましくは、組成物は、(R)-3-ヒドロキシブチレートのエステル、香味剤、及び場合によっては、タンパク質、炭水化物、糖、脂肪、繊維、ビタミン及びミネラルの1又はそれ以上を含む。適当には、フレーバーは、フルーツ系フレーバーを含みうる。一実施形態では、当該フレーバーは、例えば、コーヒー、チョコレート、及びクランベリー等適度に苦い。苦味は、例えばグレープフルーツ、ラズベリー及びクランベリー等のフルーツ系フレーバー等の他のフレーバーと組み合わせうる。
【0070】
本発明に用いる化合物は、好ましくは、1又はそれ以上の炭水化物及び/又はタンパク質及び/又はアミノ酸と共に投与される。
【0071】
本発明に用いる組成物は、本明細書で特定される化合物の異性体の混合物を含んでよい。
【0072】
当該組成物は、適当に官能的に許容しうる。「官能的に許容可能」とは、組成物が、味、色、感触及び臭気の感覚特性が許容可能であるべきことを意味する。
【0073】
当該組成物は、中鎖トリグリセリド(MCT)を含みうる。存在する場合、中鎖トリグリセリドは、好ましくは、式CHRa-CHRb-CHRc(式中、Ra、Rb及びRcは、炭素原子が5~12個の脂肪酸である)を有する中鎖トリグリセリドを含む。適当には、Ra、Rb、及びRcは、tri-C6:0 MCTsとして6炭素骨格(tri-C6:0)を含む脂肪酸であり、胃腸管から極めて速やかに吸収されることが報告されている。
【0074】
本発明の組成物は、L-カルニチン又はL-カルニチン誘導体を含みうる。L-カルニチン誘導体の例としては、デカノイルカミチン、ヘキサノイルカルニチン、カプロイルカルニチン、ラウロイルカルニチン、オクタノイルカルニチン、ステアロイルカルニチン、ミリストイルカルニチン、アセチル-L-カルニチン、O-アセチル-L-カルニチン、及びパルミトイル-L-カルニチンが挙げられる。カルニチンが用いられる場合、本発明の組成物は、i)ケトン体、好ましくはケトンモノエステル、より好ましくは(R)-3-ヒドロキシブチレートモノエステル、及びii)L-カルニチン又はL-カルニチンの誘導体、及び場合によっては、MCTがあげられる。
【0075】
L-カルニチンの適当な投与量は、例えば、1日当たり2000mgのL-カルニチン-酒石酸塩の2部であろう。L-カルニチンは、炭水化物及び/又はタンパク質と共に投与されうる。L-カルニチンは、比較的長期間、例えば、6ヶ月以上投与されうる。
【0076】
MCT及びL-カルニチン又はその誘導体を用いる場合、適当には、MCTをカルニチンで乳化する。好ましくは、10~500gの乳化MCTを10~2000mgのカルニチン、例えば、50gのモノグリセリド及びジグリセリドと500mgのL-カルニチンと併用した50gのMCT(95%トリC8:0)と混合する。好ましくは、(R)-3-ヒドロキシブチレートの供給源のレベルは、MCTのレベルよりも高い。
【0077】
本発明による組成物は、固体、例えば粉末、錠剤、バー、菓子製品、又は顆粒、液体、例えば飲料、ゲル、カプセル、又はいかなる他の通常の製品形態を含む、いかなる適当な形態で提供しうる。当該組成物は、食品、食品サプリメント、食物サプリメント、機能性食品又は栄養補助食品又はそれらの成分でありうる。
【0078】
当該組成物を添加剤として組み込みうる食品の例としては、スナックバー、シリアル、菓子及びヨーグルトを含むプロバイオティック製剤があげられる。飲料の例としては、軟飲料、アルコール飲料、エネルギー飲料、ドライドリンクミックス、栄養飲料及び注入用ハーブティー、又は水中煎剤用のハーブブレンドがあげられる。
【0079】
栄養補助食品とは、食品成分、食品サプリメント又は食品であり、医療又は健康上の利益をもたらすと考えられ、疾病の予防及び処置があげられる。一般に、栄養補助食品は、特に、消費者に健康上の利益をもたらすように適合される。当該栄養補助食品は、ビタミン、ミネラル、ハーブ又は植物化学物質等の微量栄養素を、通常、対応する通常の食品に含まれるよりも高いレベルで含む。当該レベルは、通常、単一の食事として、又は食事レジメンの一部として、又は栄養療法のコースの一部として、栄養補助食品の意図された健康上の利益を最適化するように選択される。
【0080】
本発明の化合物は、通常、食品又は栄養補助食品として処方される。
【0081】
固体形態の場合、組成物は、本発明の化合物を少なくとも5質量%含み、好ましくはエステル、より好ましくは組成物の少なくとも10質量%かつ95質量%までのエステルである。例えば、当該組成物を液体と共に用いて液体組成物を製造することを意図した乾燥粉末である場合、乾燥組成物の15~30質量%のレベルが好適でありうるが、固体バー又は生成物形態は、組成物の30~95質量%、特に50~95質量%を好適に含む。
【0082】
当該組成物が固体形態である場合、当該組成物は、さらに、以下の成分:
-希釈剤、例えばラクトース、デキストロース、サッカロース、セルロース、トウモロコシデンプン又はジャガイモデンプン;
- シリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸カルシウム及び/又はポリエチレングリコール等の潤滑剤;
- デンプン、アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はポリビニルピロリドン等の結合剤;
- デンプン、アルギン酸、アルギン酸塩又はデンプングリコール酸ナトリウム等の崩壊剤;
-発泡剤;
-染料;
-フレーバー;
-湿潤剤、例えば、レシチン、ポリソルベート、ラウリル硫酸塩;及び/又は
-担体;
の1又はそれ以上をさらに含みうる。
【0083】
当該組成物が液体形態である場合、当該組成物は、好適には、少なくとも1質量%、例えば液体組成物の3~40質量%のレベルで本発明の化合物を含むが、当該組成物が、所望の血中ケトンレベルに達するように、単回用量又は複数低回数用量と意図されるかどうかに応じて、例えば組成物の50質量%まで、本発明の化合物を含みうる。
【0084】
液体形態の組成物は、ともに適当にブレンドされるいくつかの液体成分を含んでよく、又は場合によっては、液体成分と混合されるか又は液体成分に溶解される液体及び固体成分を含んでよい。一実施形態では、ケトンを含む乾燥組成物は、好適な液体、例えば水、フルーツジュース、ヨーグルト又はミルクで、好ましくは乾燥組成物対液体の比1:1~1:10、より好ましくは1:3~1:7で希釈される。
【0085】
当該組成物は、必要な場合、即使用形態の液体製品として、又は使用時に希釈するのに適した濃縮物又はペーストとして提供しうる。液体組成物と共に用いる希釈剤は、好ましくは、ミルク、フルーツジュース又は水である。
【0086】
必要であれば、カプセル化材料及びヒトの安全な消費に適する使用量である場合、当該組成物はカプセル化形態で提供されうる。
【0087】
本発明は、さらに、本発明の第1態様による化合物、好ましくはエステル、又は本発明による組成物、及び、ケトンモニター及び場合によっては、オーバートレーニングを防止又は処置する投薬計画を含む単位体重あたりの消費する製品のレベルに関する説明書を含む、キットを提供する。適当には、使用者は製品を消費し、次いで、血漿ケトンレベルを定期的に試験して、所望の血漿ケトンレベルに到達するため、又は維持するためにケトンのさらなる摂取が必要かどうかを決定しうる。
【0088】
本発明の一態様は、医薬組成物において上記で定義された本発明の化合物を、場合によっては、1又はそれ以上の製薬上許容される賦形剤と共に、提供する。
【0089】
本発明の化合物は、製薬上許容される塩として存在しうる。本明細書で用いる場合、製薬上許容される塩は、製薬上許容される酸又は塩基との塩である。製薬上許容される酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、二リン酸、臭化水素酸又は硝酸等の無機酸と、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、コハク酸、酒石酸、安息香酸、酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸又はp-トルエンスルホン酸等の有機酸がともにあげられる。製薬上許容される塩基としては、アルカリ金属(例えば、ナトリウム又はカリウム)及びアルカリ土類金属(例えば、カルシウム又はマグネシウム)水酸化物及びアルキルアミン、アラルキルアミン及び複素環アミン等の有機塩基があげられる。
【0090】
本発明の化合物は溶媒和物として存在しうる。用語「溶媒和物」は、溶質の1又はそれ以上の分子、即ち、本発明の化合物又はその製薬上許容される塩、及び溶媒の1又はそれ以上の分子により形成される複合体又は凝集体をいう。当該溶媒和物は、通常、実質的に固定されたモル比の溶質及び溶媒を有する結晶性固体である。代表的な溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸等があげられる。溶媒が水の場合、生成した溶媒和物は水和物である。
【0091】
本発明の化合物はキラル中心を含む。従って、それらは、ラセミ混合物、エナンチオマー、又は1又はそれ以上の立体異性体に富む混合物の形態で用いうる。本発明の範囲は、本発明の化合物のラセミ体、並びに個々のエナンチオマー、及び立体異性体に富む混合物を包含する。
【0092】
用語「又はその製薬上許容可能な塩又は溶媒和物」は、本発明の化合物の製薬上許容されうる塩の溶媒和物等の塩及び溶媒和物の全ての変形を含むことを意図することが理解されるであろう。
【0093】
本発明の医薬組成物は、1又はそれ以上の製薬上許容される希釈剤、賦形剤又は場合によっては、担体と混合される本発明の化合物を含む。たとえ本発明の化合物(それらの製薬上許容される塩、エステル及び製薬上許容される溶媒和物を含む)を単独で投与しうるとしても、それらは、一般に、特にヒトの処置のため、医薬的担体、賦形剤又は希釈剤と混合して投与される。医薬組成物は、ヒト及び獣医学におけるヒト又は動物に用いうる。
【0094】
本明細書に記載される医薬組成物の異なる形態のための適当な賦形剤の例は、「医薬品添加物ハンドブック、第2版、(1994)、編集:A Wade及びPJ Weller」に見出しうる。
【0095】
本発明の組成物(医薬及び栄養的)は、製薬上許容される吸着剤を含みうる。好適には、当該吸着体は、吸着体内又は吸着体上に本発明の化合物を吸着する。有利には、消費者は、化合物の香味(味が忌避でありうる)は、吸着剤なしで同じ組成物を消費した場合に経験するよりも、その経験度が低いより。好ましくは、前記吸着体は、本発明の化合物を保持しうる格子又はボイドを含む。食品に使用又は使用が公知のいかなる吸着剤を用いうる。好適な吸着剤の例としては、ポリマーヒドロゲル、例えば架橋ポリカルボキシレートホモポリマー又はコポリマーのポリマー、包接化合物、環状オリゴ糖、例えばシクロデキストリン、及び乳粉末があげられる。当該吸着体は、特定の処方によりいかなる所望のレベルで存在してよく、組成物の5質量%~80質量%、例えば、10質量%~50質量%でありうる。
【0096】
通常、本発明の被験体は、哺乳動物、例えば、ヒトである。
【0097】
通常、本発明の使用は、化合物を経口、非経口又は静脈内に投与することを含む。経口投与が好ましい。
【0098】
また、本発明は、本明細書で特定するように、実質的に純粋形態で、又は被験体におけるオーバートレーニングを予防又は処置する方法で用いる、1又はそれ以上の製薬上許容しうる希釈剤又は担体と共に化合物を提供する。
【0099】
本明細書で用いられる用語「実質的に純粋形態」は、通常、純度が、50%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上である化合物をいう。
【0100】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照して記載される。
【実施例
【0101】
運動誘発筋骨格系及びホルモン調節障害に対するケトン体の効果
被験体
健常男性被験体(n=24)を募集した。男性は年齢が18~30歳で、身体は健常、身体活動に定期的に関与し、その健康状態は医学的スクリーニングで確認された。
表1に、試験設計(A)及び訓練(B)の概要を示す。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
ランダム化プラセボ対照介入研究(ケトンエステル対プラセボ)を実施した。本研究では、3週間のトレーニング過負荷期間の間、試験前と試験後に実施した(表1A)。この3週間の間、被験体は各トレーニングセッション後及び睡眠の30分前にケトンエステル又は等カロリープラセボ(長鎖トリグリセリド)のいずれかを投与された。条件は、すべての実験が完了するまで、被験体及び治験責任医師の双方に盲検化した。
【0104】
試験開始3週間前、被験体は公認スポーツ医によるスポーツ医学スクリーニングを受けた。1週間後、被験体は3回の訓練セッション(表1B)に参加し、実験手順を熟知した。最初の訓練セッションでは、被験体は自転車エルゴメータ(Avantronic Cyclus II、ライプツィヒ、ドイツ)で最大増分VOmax試験を行った。初期ワーク負荷を60Wに設定し、随意疲労が生じるまで1分間に30Wずつ増加した。呼吸ガス交換を試験中に連続的に測定し(Cortex Metalyzer II,ライプツィヒ、ドイツ)、最高酸素摂取量(VOmax)として定義した30秒間で測定した最高酸素摂取量を測定した。2日後、被験体は48時間の間隔で2回目と3回目の訓練セッションに参加した。当該セッション各々で、自転車エルゴメータ上で30分のシミュレーションタイムトライアル(TT30分)を行った。アクティブ回復(サイクリング@50W)の15分後、被験体は、100 rev.min-1で固定した、30秒のオールアウトスプリント(W30s)を行った。後者のTT30分間で登録された平均パワー出力を実験セッションのTT30分間の初期ワーク負荷として用いた。被験体を、1:1(1 KE対1プラセボ)の層別単純無作為化法を用いて、2群のいずれかに割り付けた。層別無作為化法には、VOの最大値、平均パワー、並びに体重及び身長が用いられた。無作為化を実施して、二重盲検性を保証した。
【0105】
前試験
被験体には、試験前に少なくとも48時間は激しい身体活動を控えるよう指示した。試験前と試験後の間の初期筋肉グリコーゲン濃度の差を避けるため、被験体は詳細な食事指導を受けた。さらに、各実験セッション前の夕方、被験体は標準炭水化物富化食(~1500kcal、そのうち70E%炭水化物、20E%タンパク質、10E%脂肪)を摂取した。翌朝、実験室に到着すると、彼らは約750kcal(70%の炭水化物、20%のタンパク質、10%の脂肪)を含む標準炭水化物富化朝食を摂取した。朝食後、被験体は2時間休息した。
【0106】
最初の試験セッションでは、10分のウォーミングアップ(100Wで5分+150Wで5分)後、被験体はTT30分間を実施した。最初の5分間(t0-t5)のワーク負荷は、最後の訓練セッションでTT30分間に達成された平均パワー出力に等しく設定された。t5からt25まで、被験体は疲労の主観的知覚により、5分間隔でワーク負荷を調整した。t25からt30まで、TTの終わりまでに完全消耗を確立できるように、1分間の調整が許容された。TT終了直後、被験体(1)は15ポイントBorgスケールで自覚運動率をスコア化し、胃腸症状質問票に記入した。15分間の能動的回復(50Wのサイクリング)後、被験体はW30秒間を実施した。
【0107】
1日後、被験体は2回目の実験セッションのために実験室に戻った。当該セッションでは、VOmax試験を実施した。初期ワーク負荷を60Wに設定し、随意的な疲労又は歩調>65rpmを維持できなくなるまで、毎分30Wずつ増加させた。
【0108】
3週間のトレーニング過負荷期間
前試験後、参加者は3週間の監督下で完全制御運動トレーニングプログラムに登録された。トレーニングプログラムの各週は、朝のインターバルトレーニングと夕方の持久力トレーニングの6つのトレーニング日数で構成され、週に12回のトレーニングセッションを実施した(表2)。
【0109】
【表3】
各トレーニングセッションは、10分の標準ウォーミングアップ(100Wで5分+150Wで5分)で開始し、50Wで10分のクールダウンで終了した。表2に示すように、ウォーミングアップ後のトレーニングは、30秒の最大スプリントを含む高強度インターバルトレーニングセッション(HIIT)とその後の50Wでの4分間のアクティブ回復(月、水、金)、又は高強度ブロックでの5×6分間のサイクリング(85% VOmax)とその後の8分間のアクティブ回復(火、木、土)の高強度インターバルトレーニングセッションのいずれかであった。HIITセッションにおける最大スプリント数は、第1週の4から、第2週と第6週の5に増加した。持久力セッションは夕方に行い、最大65%のVOで150分間のサイクルで構成した。3週間のトレーニング期間中、被験体は治験実施計画書に規定された運動以外の運動を控えた。
【0110】
トレーニング過負荷期間の12日目に、午前中トレーニングセッションは、前試験の最初の実験セッションと同じ実験セッションに置換された。簡潔には、被験体は直ちにTT30分間を実施し、その後15ポイントのBorgスケール及び消化器症状質問票に記入した。15分間の能動的回復(50Wのサイクリング)後、被験体はW30秒間を実施した。
【0111】
後試験
3週間のトレーニング期間の最後のトレーニングセッションの1日後、被験体は前試験と同一の後試験に参加した。
【0112】
回復期のフォローアップセッション
試験後、被験体に1週間のトレーニング中止を指示した。この回復期間の3日後及び7日後に、試験前及び試験後に実施した多くの測定を繰り返した。
【0113】
ケトンとプラセボのサプリメント
各トレーニングセッションの直後及び睡眠の30分前、被験体には、炭水化物1g/kg体重と乳清タンパク質分離株0.35g/kg体重を含む回復飲料(6D Recovery Shake,Medix,Oudenaarde,Belgium)が与えられた。さらに、被験体には、炭水化物/タンパク質回復飲料とともに摂取される別飲料として、ケトンエステル飲料又は等カロリープラセボ(PL;長鎖トリグリセリド)0.35g/kg体重が投与された。ケトンエステルサプリメント(G;登録商標)は純粋なD-β-ヒドロキシブチレート-R 1,3ブタンジオールモノエステルを供給した。当該栄養補助食品は、以前に広範に試験されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0114】
測定内容
血液試料
Venoject(登録商標)系を用いて腕静脈からBD Vacutainer(登録商標)チューブに血液試料(2×5ml)を採取した。試料は、試験前及び試験後のTT30分の直前及び2時間後、及びトレーニング過負荷期間中の1、4、8、11、15及び18日目の絶食状態で採取した。血漿を遠心分離で直ちに分離した。血清及び血漿試料を用いて、高感度ELISAキットを用いて化学マーカーを評価した。
【0115】
さらに、TT30分間の間、耳たぶの小穿刺により5分間隔で小型毛細血管血液試料(5μl)を採取した。当該微小試料を、血中乳酸濃度(Lactate Pro(登録商標)、Arkray、京都、日本)、血中グルコース及びβHB濃度(Lxグルコース又はLxβ‐ケトンストリップを有するGlucoMen Lxプラスメータ、Menarini Diagnostics、フィレンツェ、イタリア)について直ちに分析した。
【0116】
尿検体
全夜尿(10pm~8am)を、10ml塩酸で調製したフラスコに各実験セッションの前夜に採取した。尿量アウトプットを記録し、よく混合した試料のアリコートを、市販の酵素免疫測定法(ELISA)(BA E-5400、LDN、ノルドホーン、ドイツ)を用いてノルアドレナリン濃度を単回測定してアッセイするまで-80℃で保存した。
【0117】
結果
結果を添付の図に示した。
図1は、運動前、運動直後、及びケトンエステル又はプラセボ飲料の摂取後30分後に採取した血液試料中のケトン(β-ヒドロキシブチレート)レベルを示す。6、13及び20日目に試料を採取した。血中β-ヒドロキシブチレート濃度は、ケトンエステル飲料の摂取後に有意に高いことが示された。ケトンエステルの摂取は、運動30分後に血中(R)-3-ヒドロキシブチレートを常に約2~3mmol/Lに上昇させる。
【0118】
図2は、前試験、第1週目、第2週目、試験後3日、7日の各時点における30分間の試験成績を示した。図2Aは、30分間の試行の間の平均パワー(W)を示し、図2Bは、30分間の試行の間の、試験前の値からのパワーの増加を示す。平均パワーは、ケトンエステル群で、後試験及び1回の追跡では有意に高かった。3週間のトレーニング過負荷期間後の1週間の漸減後、パワー出力はケトンエステル群で~8%増加したが、プラセボ群では増加しなかった。
【0119】
図3は、トレーニング期間の18日目における120分間の定負荷持久力トレーニングの終了時の30分間の試行結果を示す。平均パワーは、ケトンエステル群がプラセボ群より有意に高かった。トレーニング前の成績は群間で同等であった。しかし、18日目にケトンエステルを摂取すると、プラセボ飲料と比較して平均パワーが約15%増加した。
【0120】
図4は、実験中の異なる時点における90秒の全量等速スプリントの間のピーク心拍数を示す。図4Aは絶対値を示し、図4Bは前試験値からの心拍数の減少(Δ)を示す。実験期間中、全被験体で最大心拍数の低下が認められ、特に第3週に顕著であった(被験体はオーバーリーチ/オーバートレーニングを受けていたことが示された)。しかし、最大心拍数の低下は、ケトンエステル飲料を摂取した被験体の方が有意に少なかった。プラセボ飲料と比較して、オーバーリーチ/オーバートレーニングの主な症状である最大心拍数の低下は、3週間のオーバートレーニング期間中のケトンエステル摂取により阻害された。
【0121】
図5は、試験前の心拍数に対する最大下の心拍数の変化を示す。これは、実験中に全被験体で低下したが、ケトン群では有意に少なかった。十分にトレーニングされた個人における与えられた最大下の仕事量に対する心拍数の低下は、オーバートレーニングの通常の症状である。プラセボ飲料と比較して、ケトンエステル摂取は、3週間のトレーニング過負荷期間中の最大下の心拍数の低下を阻害した。
【0122】
図6は、体脂肪率(%)(図6A)、骨塩量の変化(図6B)、除脂肪体重の変化(図6C)に関するDXAスキャンの結果を示す。予想されるように、全被験体の体脂肪率は、試験前後の状態から低下した。除脂肪体重は両群で同程度に増加した。興味深いことに、ケトンエステルを摂取した被験体では、試験後の骨塩量がプラセボと比較して増加した(図6B)。骨塩量の減少は、特に自転車や水泳等の体重のかからないスポーツにおいて、持久力トレーニング過負荷の通常の症状である。プラセボと比較して、ケトンエステル摂取により、3週間のトレーニング過負荷期間中の体脂肪及び除脂肪体重の変化は見られなかったが、骨塩量は増加した。
【0123】
図7は、トレーニングのエネルギー消費量が1週目から3週目にかけて増加した一方で、プラセボのエネルギー摂取量は安定していたため、ケトンエステルを投与された被験体は自発的にエネルギー摂取量が増加したことが示された。トレーニング負荷は3週間のトレーニング過負荷期間中に徐々に増加した。プラセボ群の被験体とは対照的に、ケトンエステル群の被験体は、トレーニングにおけるエネルギー消費の増加を補うため、毎日のエネルギー摂取量が自発的に増加した。
【0124】
図8は、レプチン濃度の経時変化を示す。レプチンは体重及びエネルギーバランスの制御において重要な役割を果たす。プラセボ群では、試験前から試験後にかけてレプチン濃度が有意に低下したが、ケトン群では一定であった。ケトンエステル群のレプチン濃度は、プラセボと比較して、前試験後の全ての時点で高かった。これは、ケトンエステルの摂取が、激しいトレーニング/オーバートレーニングのエピソード中のエネルギー消費にエネルギー摂取を容易に適合させうるホルモン環境の維持に寄与する可能性があることを示す。
【0125】
図9(b)は、3週間のオーバーリーチ/オーバートレーニング期間前及び期間中の尿中総夜間ノルアデレナリン排泄量を示す。ノルアドレナリン排泄量はプラセボ群で一貫して増加したが、ケトン群では基底値で安定した。このことは、オーバートレーニングプログラムが、ケトン体投与群ではなく、プラセボ群で交感神経系の緊張を増加させたことを示す。図9(a)はアドレナリンの結果を示し、同様のパターンを示す。
【0126】
図10は、ケトンエステル群とプラセボ群の週あたりのワークを示し、図11は、ケトンエステル群とケトン群の各トレーニングセッションのワークを示す。トレーニング負荷については、1週目と2週目ではプラセボ群とケトン群との間に差はなかったが、3週目までにトレーニング負荷は明らかにケトン群の方がプラセボ群より高かった。実際、各トレーニングセッション中の20日目以降のワーク負荷はケトン群の方が高かった。それにもかかわらず、ケトンエステル基はトレーニング期間の終わりまでオーバートレーニングが少なかった。このように、これらにより、疲労及びオーバーリーチの症状を軽減しつつ、より多くのトレーニングを行うことができた。


図1
図2
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図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11