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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】偏光板、光学機器及び偏光板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20241022BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20241022BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B1/115
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020007241
(22)【出願日】2020-01-21
(65)【公開番号】P2021113936
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-10-21
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100141999
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 敬一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】武田 吐夢
(72)【発明者】
【氏名】高橋 浩幸
【合議体】
【審判長】神谷 健一
【審判官】廣田 健介
【審判官】河原 正
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-216957(JP,A)
【文献】国際公開第2006/038501(WO,A1)
【文献】特開2005-208519(JP,A)
【文献】特開2019-91026(JP,A)
【文献】特開2011-186149(JP,A)
【文献】特開2006-95601(JP,A)
【文献】特開平10-123301(JP,A)
【文献】特開平1-197701(JP,A)
【文献】特開2003-193231(JP,A)
【文献】辻内順平、外8名編、「最新 光学技術ハンドブック」、株式会社朝倉書店発行、2006年4月20日、534頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B5/30
G02B1/10-1/18
B32B1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤグリッド構造を有する偏光板であって、
透明基板と、
前記透明基板の第1面から突出する複数の凸部と、
前記透明基板の前記第1面と反対の第2面に積層された反射防止層と、を備え、
前記複数の凸部は、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで周期的に配列し、
それぞれの凸部は、第1方向に延在し、前記第1面から順に反射層と誘電体層と吸収層とからなり
前記反射層の膜厚は、100nm以上300nm以下のAlであり、
前記誘電体層の膜厚は、1nm以上500nm以下のSiO であり、
前記吸収層の膜厚は、5nm以上50nm以下のFeSiであり、
前記反射防止層は、低屈折率層と高屈折率層とが交互に9層積層されており
前記反射防止層は、イオンビームアシスト蒸着膜又はイオンビームスパッタリング膜であり、
250℃の温度下で1000時間経過後のコントラスト低下率が40%未満である、偏光板。
【請求項2】
前記反射防止層は、JIS R3255に準拠したスクラッチ速度10μm/秒のマイクロスクラッチ試験において、剥離荷重が33mN以上である、請求項1に記載の偏光板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の偏光板を備える、光学機器。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のワイヤグリッド構造を有する偏光板の製造方法であって、
透明基板の一面に高屈折率層と低屈折率層を交互にイオンビームアシスト蒸着法又はイオンビームスパッタリング法で成膜し、反射防止層を積層する工程と、
前記透明基板の前記反射防止層が積層された面と反対側の面に、反射層と誘電体層と吸収層とを順に積層し、積層体を形成する工程と、
前記積層体を加工し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで周期的に配列する複数の凸部を形成する工程と、を有する、偏光板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板、光学機器及び偏光板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は、液晶ディスプレイ等に用いられている。近年、使用帯域の光の波長より短い周期で反射層が配列したワイヤグリッド偏光板に注目が集まっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、基板上に、反射防止層とワイヤグリッドとを順に有する偏光板が記載されている。
【0004】
また例えば、特許文献2には、ワイヤグリッドが形成される側の面とその反対側の面の基板上に反射防止コーティングが施されたワイヤグリッドポラライザが記載されている。
【0005】
また例えば、特許文献3には、ワイヤグリッドが形成される側の面とは反対側の面の基板上に反射防止層を有する偏光素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-38537号公報
【文献】特開2005-242080号公報
【文献】特開2010-60587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の液晶プロジェクタ等の高輝度化、高精細化が求められている。高光度な強い光の環境下に対しても耐久性を有し、かつ、高い透過率特性を有する偏光板が求められている。
【0008】
特許文献1に記載の偏光板が有する反射防止層は、中空粒子と溶剤やバインダーからなり、高温度環境下で反射防止層に残存する有機物が分解することで、特性が低下する場合がある。特許文献2及び3に記載の偏光子が有する反射防止層は、詳細な記載が無く、耐久性が十分でない場合がある。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、信頼性に優れた偏光板及び光学機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0011】
第1の態様にかかる偏光板は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板であって、透明基板と、前記透明基板の第1面から突出する複数の凸部と、前記透明基板の前記第1面と反対の第2面に積層された反射防止層と、を備え、前記複数の凸部は、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで周期的に配列し、それぞれの凸部は、第1方向に延在し、前記第1面から順に反射層と誘電体層と吸収層とを備え、前記反射防止層は、交互に積層された高屈折率層と低屈折率層とを有し、前記反射防止層は、イオンビームアシスト蒸着膜又はイオンビームスパッタリング膜である。
【0012】
第2の態様にかかる偏光板は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板であって、透明基板と、前記透明基板の第1面から突出する複数の凸部と、前記透明基板の前記第1面と反対の第2面に積層された反射防止層と、を備え、前記複数の凸部は、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで周期的に配列し、それぞれの凸部は、第1方向に延在し、前記第1面から順に反射層と誘電体層と吸収層とを備え、前記反射防止層は、交互に積層された高屈折率層と低屈折率層とを有し、250℃の温度下で1000時間経過後のコントラスト低下率が40%未満である。
【0013】
第3の態様にかかる偏光板は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板であって、透明基板と、前記透明基板の第1面から突出する複数の凸部と、前記透明基板の前記第1面と反対の第2面に積層された反射防止層と、を備え、前記複数の凸部は、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで周期的に配列し、それぞれの凸部は、第1方向に延在し、前記第1面から順に反射層と誘電体層と吸収層とを備え、前記反射防止層は、交互に積層された高屈折率層と低屈折率層とを有し、前記反射防止層は、JIS R3255に準拠したスクラッチ速度10μm/秒のマイクロスクラッチ試験において、剥離荷重が33mN以上である。
【0014】
第4の態様にかかる光学機器は、上記態様にかかる偏光板を備える。
【0015】
第5の態様にかかる偏光板の製造方法は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板の製造方法であって、透明基板の一面に高屈折率層と低屈折率層を交互にイオンビームアシスト蒸着法又はイオンビームスパッタリング法で成膜し、反射防止層を積層する工程と、前記透明基板の前記反射防止層が積層された面と反対側の面に、反射層と誘電体層と吸収層とを順に積層し、積層体を形成する工程と、前記積層体を加工し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで周期的に配列する複数の凸部を形成する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0016】
上記態様にかかる偏光板及び光学機器によれば、信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態にかかる偏光板の斜視図である。
図2】第1実施形態にかかる偏光板の断面図である。
図3】第1実施形態にかかる偏光板の特徴部分の断面図である。
図4】反射防止層の断面写真である。
図5】反射防止層の濡れ性の時間変化を示す図である。
図6】偏光板の吸収軸透過率を示す図である。
図7】偏光板の透過軸透過率を示す図である。
図8】偏光板の耐熱試験の結果を示す図である。
図9】比較例1にかかる偏光板のスクラッチ試験の結果を示す図である。
図10】実施例1にかかる偏光板のスクラッチ試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0019】
「偏光板」
図1は、第1実施形態にかかる偏光板100の斜視図である。偏光板100は、透明基板10と複数の凸部20と反射防止層30とを備える。複数の凸部20は、透明基板10の第1面10Aから突出する。反射防止層30は、透明基板10の第2面10Bに積層されている。第2面10Bは、透明基板10の第1面10Aと反対側の面である。
【0020】
ここで方向について定義する。透明基板10が広がる面内をXY面内とし、凸部20が延びる方向をY方向とする。Y方向と直交する方向をX方向とする。X方向及びY方向と直交する方向をZ方向とする。Y方向は、第1方向の一例である。
【0021】
偏光板100は、凸部20が延びるY方向に平行な電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰し、Y方向に垂直な電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過する。偏光板100は、Y方向が吸収軸であり、X方向が透過軸である。偏光板100は、透過、反射、干渉及び光学異方性による偏光波の選択的光吸収の4つの作用によりTE波を減衰させ、TM波を透過させる。
【0022】
(透明基板)
透明基板10は、偏光板100の使用帯域の波長の光に対して透明性を有する。「透明性を有する」とは、使用帯域の波長の光を100%透過する必要はなく、偏光板としての機能を保持可能な程度に透過できればよい。透明基板10の平均厚みは、0.3mm以上1mm以下であることが好ましい。
【0023】
透明基板10の屈折率は、例えば、1.1以上2.2以下である。透明基板10は、例えば、ガラス、水晶、サファイア等である。透明基板10として用いられるガラス材料の成分組成は特に制限されない。
【0024】
例えばケイ酸塩ガラスは、光学ガラスとして広く流通し、安価である。また石英ガラス(屈折率1.46)、ソーダ石灰ガラス(屈折率1.51)は、コストが安く、透過性に優れる。これに対し水晶、サファイアは、熱伝導性に優れる。透明基板10の材料は、偏光板100に求められる性能に応じて適宜選択できる。例えば、プロジェクタの光学エンジン用の偏光板は、強い光が照射されるため、耐光性及び放熱性が要求される。プロジェクタ用途の透明基板10には、水晶又はサファイアを用いることが好ましい。
【0025】
透明基板10が水晶やサファイア等の光学活性の結晶の場合、後述する凸部20が延びる方向を結晶の光学軸に対して平行又は垂直方向とすると、光学特性が向上する。光学軸はその方向に進む光の常光線と異常光線との屈折率の差が最小となる方向軸である。
【0026】
(凸部)
凸部20は、透明基板10からZ方向に突出し、Y方向に延びる。凸部20は、X方向に周期的に配列している。隣接する凸部20のX方向のピッチPは、偏光板100の使用帯域の波長の光より短い。例えばピッチPは、100nm以上200nm以下である。ピッチPがこの範囲内であれば、凸部20の作製が容易になり、凸部20の機械的安定性、及び、光学特性の安定性が高まる。
【0027】
隣接する凸部20のピッチPは、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡により平均値として計測できる。例えば、任意の4か所において隣接する凸部20のX方向の距離を測定し、その算術平均によりピッチPが求められる。複数の凸部20のうち任意の4か所の計測値を平均化する測定方法を、電子顕微鏡法と称する。
【0028】
凸部20は、透明基板10に対して突出する。凸部20は、例えばZ方向を主方向として突出する。凸部20のX方向の平均幅は、例えば、ピッチPの20%以上50%以下である。凸部20の平均幅とは、凸部20をZ方向に10分割した各点における幅の平均値を意味する。凸部20の高さは、例えば、250nm以上400nm以下である。また凸部20の高さを平均幅で割ったアスペクト比は、例えば、5以上13.3以下である。
【0029】
図2は、第1実施形態にかかる偏光板100の断面図である。図2は、偏光板100をXZ平面で切断した断面図である。凸部20は、第1面10Aから順に反射層22、誘電体層24、吸収層26を備える。
【0030】
偏光板100に対して第1面10A側から入射した光は、吸収層26及び誘電体層24を通過する際に、一部が吸収されて減衰する。吸収層26及び誘電体層24を透過した光のうちTM(P波)は、反射層22を透過する。これに対し、吸収層26及び誘電体層24を透過した光のうちTE(S波)は、反射層22で反射する。反射したTE波は、吸収層26及び誘電体層24を通過する際に、一部が吸収され、一部が再度反射し反射層22に戻る。反射層22で反射されたTE波は、吸収層26及び誘電体層24を通過する際に干渉して減衰する。偏光板100は、上記のようなTE波の選択的減衰により偏光特性を示す。
【0031】
<反射層>
反射層22は、透明基板10の第1面10A上にある。透明基板10と反射層22との間には、別の層が挿入されていてもよい。反射層22は、透明基板10に対してZ方向に突出し、Y方向に帯状に延びる。反射層22は、TE波(S波)を反射し、TM波(P波)を透過する。反射層22の高さは、例えば、100nm以上300nm以下である。
【0032】
反射層22は、使用帯域の波長の光に対して反射性を有する材料を含む。反射層22は、例えば、Al、Ag、Cu、Mo、Cr、Ti、Ni、W、Fe、Si、Ge、Ta等の単体金属又はこれらの合金を含む。反射層22は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる。反射層22は、金属に限られず、着色等により表面反射率を高めた無機膜又は樹脂膜でもよい。
【0033】
反射層は、例えば蒸着法、スパッタリング法により高密度に成膜できる。反射層は、構成材料の異なる2層以上の層からなってもよい。
【0034】
<誘電体層>
誘電体層24は、例えば、反射層22上に積層されている。誘電体層24は、必ずしも反射層22と接している必要はなく、誘電体層24と反射層22の間に別の層が存在してもよい。誘電体層24は、Y方向に帯状に延びる。
【0035】
誘電体層24の膜厚は、吸収層26で反射する偏光波に応じて決まる。誘電体層24の膜厚は、吸収層26で反射した偏光波の位相と反射層22で反射した偏光波の位相とが、半波長分だけずれる厚さである。誘電体層24の膜厚は、例えば、1nm以上500nm以下である。当該範囲内であれば、反射した2つの偏光波の位相の関係を調整でき、干渉効果を高めることができる。誘電体層24の膜厚は、上述の電子顕微鏡法を用いて求められる。
【0036】
誘電体層24は、例えば、金属酸化物、フッ化マグネシウム(MgF)、氷晶石、ゲルマニウム、ケイ素、窒化ボロン、炭素又はこれらの組合わせを含む。金属酸化物は、例えば、SiO等のSi酸化物、Al、酸化ベリリウム、酸化ビスマス、酸化ボロン、酸化タンタル等である。誘電体層24は、例えば、Si酸化物又はTi酸化物である。
【0037】
誘電体層24の屈折率は、例えば、1.0より大きく2.5以下である。反射層22の光学特性は、周囲の屈折率(例えば、誘電体層24の屈折率)によっても影響を受けるため、誘電体層24の屈折率を調整することで、偏光特性を制御できる。
【0038】
誘電体層24は、例えば、蒸着法、スパッタリング法、化学気相成長(CVD)法、原子層堆積(ALD)法で成膜できる。誘電体層24は、2層以上でもよい。
【0039】
<吸収層>
吸収層26は、例えば、誘電体層24上に積層されている。吸収層26は、Y方向に帯状に延びる。吸収層26の膜厚は、例えば5nm以上50nm以下である。吸収層26の膜厚は、上述の電子顕微鏡法で測定できる。
【0040】
吸収層26は、光学定数の消衰定数が零でない光吸収作用をもつ物質を1種以上有する。吸収層26は、例えば、金属材料又は半導体材料を含む。吸収層26に用いる材料は、使用帯域の光の波長範囲によって適宜選択される。
【0041】
吸収層26に金属材料が用いられる場合、金属材料は、例えば、Ta、Al、Ag、Cu、Au、Mo、Cr、Ti、W、Ni、Fe、Sn等の単体金属又はこれらのうち1種以上の元素を含む合金である。また吸収層26に半導体材料が用いられる場合は、半導体材料は、例えば、Si、Ge、Te、ZnO、シリサイド材料である。シリサイド材料は、例えば、β-FeSi、MgSi、NiSi、BaSi、CrSi、TaSi等である。これらの材料を吸収層26に用いた偏光板100は、可視光域に対して高い消光比を有する。また吸収層26は、例えば、Fe又はTaとSiとを含む。
【0042】
吸収層26が半導体材料の場合、光の吸収作用に半導体のバンドギャップエネルギーが寄与する。半導体材料のバンドギャップエネルギーは、例えば、使用帯域の波長をエネルギー換算した値以下である。例えば、使用帯域が可視光域の場合、波長400nm以上における吸収エネルギーにあたる3.1eV以下のバンドギャップエネルギーを有する半導体材料を吸収層26に用いる。
【0043】
吸収層26は、1層に限られず2層以上で構成されていてもよい。吸収層26が2層以上の場合は、それぞれの層の材料は異なるものでもよい。吸収層26は、蒸着、スパッタリング法等の方法により成膜できる。
【0044】
(反射防止層)
反射防止層30は、透明基板10の凸部20が形成された第1面10Aと反対側の第2面10Bに積層されている。図3は、第1実施形態にかかる偏光板100の特徴部分の断面図である。図3は、偏光板100の反射防止層30を拡大した断面図である。
【0045】
反射防止層30は、光の干渉を利用して反射を防止する。反射防止層30は、低屈折率層31と高屈折率層32とが交互に積層されている。低屈折率層31は、隣り合う層より屈折率が低い。高屈折率層32は、隣り合う層より屈折率が高い。低屈折率層31は、例えば、1.0より大きく、透明基板10より屈折率が低い。高屈折率層32は、例えば、低屈折率層31より屈折率が高い。低屈折率層31及び高屈折率層32のそれぞれの膜厚は、使用帯域の光の波長範囲等によって適宜選択される。低屈折率層31及び高屈折率層32の各層の膜厚は、例えば、1nm以上500nm以下である。低屈折率層31及び高屈折率層32の各層の膜厚は、異なっていてよい。
【0046】
低屈折率層31及び高屈折率層32は、誘電体層である。低屈折率層31及び高屈折率層32は、例えば、Si酸化物、Ti酸化物、Zr酸化物、Al酸化物、Nb酸化物、Ta酸化物、Bi酸化物、Be酸化物等の酸化物、フッ化マグネシウム、氷晶石、ゲルマニウム、ケイ素、炭素である。例えば低屈折率層31がSiOであり、高屈折率層32がTiO、NbOである。
【0047】
反射防止層30は、例えば、イオンビームアシスト蒸着膜又はイオンビームスパッタリング膜である。イオンビームアシスト蒸着膜は、イオンビームアシスト蒸着(IAD)法で成膜された膜である。イオンビームスパッタリング膜は、イオンビームスパッタリング(IBS)法で成膜された膜である。
【0048】
図4は、反射防止層の断面写真である。図4(a)は、イオンビームアシスト蒸着法で成膜された反射防止層30であり、図4(b)は真空蒸着法で成膜された反射防止層である。黒色部はTiO層32A、白色部はSiO層31A、グレー部は透明基板10である。
【0049】
図4(b)に示すように、真空蒸着法で成膜された反射防止層は、Z方向に複数の白線が確認でき、粒界のようなものも確認できる。また層内の所々に他の部分の見た目の異なる変質層が確認された。変質層は、おそらく、製造過程の水分又は熱の影響を受けたものと考えられる。またエネルギー分散型X線分析の結果、真空蒸着法で成膜された反射防止層は、各層の界面における酸素分布は不明瞭であった。また電子エネルギー損失分光法(EELS)で評価した結果、真空蒸着法で成膜された反射防止層のうちTiO層32Aは、アナターゼ型の結晶構造のTiOを含む多結晶から構成されていた。
【0050】
これに対し、イオンビームアシスト蒸着法で成膜された反射防止層30は、均質であり、粒界が確認できず、緻密である。またイオンビームアシスト蒸着法で成膜された反射防止層30は、界面の平滑性が真空蒸着法で成膜された反射防止層より高い。またエネルギー分散型X線分析の結果、イオンビームアシスト蒸着法で成膜された反射防止層30は、各層の界面においても、酸素濃度の違いが確認され、酸素分布が明瞭だった。
【0051】
(保護層、撥水層)
偏光板100は、透明基板10、凸部20及び反射防止層30の他に、他の構成要素を有してもよい。例えば、偏光板100は、光の入射面側に保護層を有してもよい。保護層は、偏光板100の耐熱性等の信頼性を高める。また例えば、凸部20の表面に、撥水膜を有してもよい。撥水膜は、例えば、パーフルオロデシルトリエトキシシラン(FDTS)等のフッ素系シラン化合物からなる。撥水膜は、例えば、CVD法、ALD法で成膜できる。撥水膜は、偏光板100の耐湿性等の信頼性を高める。
【0052】
「偏光板の製造方法」
本実施形態に係る偏光板100の製造方法は、反射防止層30を形成する工程と、凸部の基となる積層体を積層する工程と、積層体を凸部20に加工する工程と、を有する。
【0053】
まず透明基板10の第2面10Bに、低屈折率層31と高屈折率層32とを交互に積層する。低屈折率層31及び高屈折率層32は、イオンビームアシスト蒸着法又はイオンビームスパッタリング法で成膜される。低屈折率層31及び高屈折率層32の層数は、適宜変更できる。低屈折率層31及び高屈折率層32のそれぞれの膜厚は、使用帯域の光の波長範囲等によって適宜選択される。低屈折率層31と高屈折率層32とが交互に積層されることで、第2面10Bに反射防止層30が形成される。
【0054】
次いで、透明基板10の第1面10Aに、成膜工程では、反射層となる層、誘電体層となる層、吸収層となる層を順に積層し、積層体を形成する。これらの層は、例えば、スパッタリング法又は蒸着法で形成される。
【0055】
最後に、積層体を加工する。積層体の加工は、例えば、フォトリソグラフィー法、ナノインプリント法等を用いる。例えば、積層体の一面に、一次元格子状にマスクパターンをレジストで形成する。レジストが形成されていない部分を選択的にエッチングすることで、凸部20が形成される。エッチングは、例えば、ドライエッチングで行う。さらに、凸部20を形成した後に、保護層、撥水層をその上に形成してもよい。
【0056】
本実施形態に係る偏光板100は、信頼性に優れる。信頼性等は、例えば、耐湿性、耐熱性、耐擦傷性である。
【0057】
図5は、実施例1と比較例1の反射防止層の濡れ性の時間変化を示す図である。横軸は、反射防止層の表面をOでプラズマ処理してからの経過時間であり、縦軸はθ/2法により算出した水の接触角である。実施例1は図4aに示すイオンビームアシスト蒸着法で作製した反射防止層であり、比較例1は図4bに示す真空蒸着法で作製した反射防止層である。いずれの反射防止層も、SiOとTiOとが交互に9層積層されている。
【0058】
濡れ性の評価は、反射防止層の表面をOでプラズマ処理し、所定の時間経過した後に水を滴下し、滴下された水の接触角で評価した。Oによるプラズマ処理は、反射防止層の初期の表面状態を一致させるために行った。
【0059】
実施例1及び比較例1は、Oプラズマ処理の直後は、いずれも濡れ性が高かった。Oプラズマ処理により反射防止層の表面が活性化され、親水基が露出したためと考えられる。比較例1の反射防止層は、時間経過後にも濡れ性に変化はなかった。これに対し、実施例1の反射防止層は、時間経過とともに濡れ性が低下し、撥水性が高まった。実施例1に係る反射防止層は、300時間経過後の水の接触角が20度以上であった。これは、Oプラズマ処理から時間が経過すると共にOプラズマ処理の効果が低下し、水の接触角が反射防止層の表面の状態の影響を受けたためと考えられる。実施例1に係る反射防止層は、イオンビームアシスト蒸着法で作製されたことで緻密であり、平滑性が高い。
【0060】
実施例1にかかる反射防止層は、比較例1にかかる反射防止層より撥水性に優れるため、実施例1の偏光板は比較例1の偏光板より耐湿性に優れる。
【0061】
図6及び図7は、実施例1と比較例1の反射防止層を各々有する偏光板の光学特性を示す図である。各偏光板は、透明基板の、反射防止層を有する面とは反対の面に、凸部として透明基板側から高さ250nmのAlからなる反射層、膜厚5nmのSiOからなる誘電体層、膜厚25nmのFeSiからなる吸収層を有する。図6は実施例1と比較例1の反射防止層を各々有する偏光板の吸収軸透過率の結果を示す。図6の横軸は波長で、縦軸は吸収軸透過率である。図7は実施例1と比較例1の反射防止層を各々有する偏光板の透過軸透過率の結果を示す。図7の横軸は波長で、縦軸は透過軸透過率である。
【0062】
実施例1と比較例1の反射防止層を各々有する偏光板とは、上述のように反射防止層の製造方法が異なるのみであり、透明基板10、凸部20は同じである。凸部20の形状が同じことは、実施例1と比較例1の反射防止層を各々有する偏光板の吸収軸透過率が略一致することから確認できる。実施例1と比較例1の反射防止層を各々有する偏光板の透過軸透過率の違いは、反射防止層の違いによるものである。図7に示すように、実施例1の反射防止層を有する偏光板は、可視光域全域において光学特性が比較例1の反射防止層を有する偏光板より優れる。
【0063】
また図8は、実施例1と比較例1の反射防止層を各々有する偏光板の耐熱試験の結果を示す。横軸は、評価時間であり、縦軸はコントラストの変化率である。耐熱試験は、偏光板を250℃に加熱されたクリーンオーブン内に放置し、放置前後のコントラストの違いで評価した。コントラストは、透過軸透過率を吸収軸透過率で割ることで算出される。評価は、入射光が可視光域の緑帯域(波長が520nm以上590nm以下)の場合を例として行った。
【0064】
図8に示すように、実施例1の反射防止層を有する偏光板のコントラストの低下率は、比較例1のコントラストの低下率より小さかった。実施例1の反射防止層を有する偏光板は、250℃の温度下で1000時間経過後のコントラスト低下率が40%未満であった。これは、実施例1に係る反射防止層は、イオンビームアシスト蒸着法で作製されたことで緻密であり、熱による影響を受けにくかったためと考えられる。熱による影響とは、内部に酸素が侵入することに伴う、過剰な酸化等である。
【0065】
図8では、入射光が可視光域の緑帯域(波長が520nm以上590nm以下)の場合を例として行ったが、入射光を可視光域の赤帯域(波長が600nm以上680nm以下)の場合、入射光を可視光域の青帯域(波長が430nm以上510nm以下)の場合も、コントラストの変化率が多少異なるが、同様の結果が得られた。すなわち、実施例1の反射防止層を有する偏光板は比較例1の反射防止層を有する偏光板より耐熱性に優れる。
【0066】
図9及び図10は、実施例1と比較例1の偏光板のスクラッチ試験の結果を示す図である。図9は比較例1の偏光板のスクラッチ試験の結果であり、図10は実施例1の偏光板のスクラッチ試験の結果である。図9及び図10の下方には、評価後の反射防止層の表面状態を示す。スクラッチ試験は、レスカCSR-2000(株式会社レスカ社製)で行った。
【0067】
スクラッチ試験は、偏光板の反射防止層の表面に触針を当てて測定した。スクラッチ試験は、JIS R-3255に準拠して行った。触針の励振振幅は100μmであり、励振周波数は45Hzであり、スクラッチ速度は10μm/secであり、初期荷重は0mN、最大荷重は75mN、測定時間60秒、スタイラス径15μmとした。センサ1は、水平方向の励振に対する触針の運動の遅れを積分処理したものであり、理論的な近似式において摩擦力に相当する。センサ2は、触針の垂直方向の振動加速度を示す。荷重は、薄膜に引加している荷重を示す。
【0068】
図9に示すように、比較例1に係る反射防止層は、33mNの印加荷重がかかった時点で、膜の剥離が生じた。すなわち、比較例1の反射防止層の剥離荷重は、33mNであった。これに対し、図10に示すように、実施例1に係る反射防止層は、75mNの印加荷重でも剥離が生じなかった。すなわち、実施例1の反射防止層を有する偏光板は比較例1の反射防止層を有する偏光板より耐擦傷性に優れる。
【0069】
「光学機器」
第2実施形態にかかる光学機器は、上記の第1実施形態にかかる偏光板100を備える。光学機器は、液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ、デジタルカメラ等が挙げられる。第1実施形態にかかる偏光板100は、信頼性に優れ、種々の用途に利用可能である。また偏光板100は無機材料により構成される。有機偏光板に比べて耐熱性が要求される液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ等に、偏光板100は特に適に用いられる。
【0070】
光学機器が複数の偏光板を備える場合、複数の偏光板のうち少なくとも一つが第1実施形態にかかる偏光板100であればよい。例えば、光学機器が液晶プロジェクタの場合は、液晶パネルの入射側及び出射側に偏光板は配置される。このうち一方の偏光板に、第1実施形態にかかる偏光板100を用いる。
【0071】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0072】
10 透明基板
10A 第1面
10B 第2面
20 凸部
22 反射層
24 誘電体層
26 吸収層
30 反射防止層
31 低屈折率層
32 高屈折率層
100 偏光板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10