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特許7575197電波吸収体用インピーダンス整合膜、電波吸収体用インピーダンス整合膜付フィルム、電波吸収体、及び電波吸収体用積層体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】電波吸収体用インピーダンス整合膜、電波吸収体用インピーダンス整合膜付フィルム、電波吸収体、及び電波吸収体用積層体
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20241022BHJP
   H01Q 17/00 20060101ALI20241022BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20241022BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H01Q17/00
B32B9/00 A
B32B15/08 D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020059170
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2020167414
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2019067027
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】中西 陽介
(72)【発明者】
【氏名】待永 広宣
(72)【発明者】
【氏名】芝原 奨
【審査官】三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/182002(WO,A1)
【文献】特開2018-056562(JP,A)
【文献】特開2018-098367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
H01Q 17/00
B32B 9/00
B32B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素と、非金属元素とを含み、
10~200nmの厚みを有し、
200Ω/□以上のシート抵抗を有し、
酸素原子の原子数基準の含有率が50%未満であり、
前記非金属元素の原子数基準の含有量が24~67%である、
電波吸収体用インピーダンス整合膜。
【請求項2】
0.4×10-3Ω・cm以上の比抵抗を有する、請求項1に記載の電波吸収体用インピーダンス整合膜。
【請求項3】
前記非金属元素は、B、C、N、O、F、Si、S、及びGeからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素である、請求項1又は2に記載の電波吸収体用インピーダンス整合膜。
【請求項4】
前記金属元素は、Ni、Cr、Ti、W、Mo、Cu、Al、Sn、Pd、Ta、Rh、Au、Mg、Fe、Mn、Co、及びVからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電波吸収体用インピーダンス整合膜。
【請求項5】
前記金属元素は、Ni、Cr、Mo、及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素である、請求項1~4のいずれか1項に記載の電波吸収体用インピーダンス整合膜。
【請求項6】
Ni、Cr、Mo、及びTiの原子数基準の含有率の合計が10%以上である、請求項5に記載の電波吸収体用インピーダンス整合膜。
【請求項7】
600Ω/□以下のシート抵抗を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の電波吸収体用インピーダンス整合膜。
【請求項8】
8.0×10-3Ω・cm以下の比抵抗を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の電波吸収体用インピーダンス整合膜。
【請求項9】
基材と、
請求項1~8のいずれか1項に記載の電波吸収体用インピーダンス整合膜と、を備えた、
電波吸収体用インピーダンス整合膜付フィルム。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電波吸収体用インピーダンス整合膜と、
電波を反射する導電体と、
前記電波吸収体用インピーダンス整合膜の厚み方向において前記電波吸収体用インピーダンス整合膜と前記導電体との間に配置されている誘電体層と、を備えた、
電波吸収体。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電波吸収体用インピーダンス整合膜と、
前記電波吸収体用インピーダンス整合膜の厚み方向において前記電波吸収体用インピーダンス整合膜に接触して配置されている誘電体層と、を備えた、
電波吸収体用積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波吸収体用インピーダンス整合膜、電波吸収体用インピーダンス整合膜付フィルム、電波吸収体、及び電波吸収体用積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電波吸収体用抵抗被膜に合金を用いて電波吸収体表面のインピーダンスを空気の特性インピーダンスに合わせるインピーダンス整合を図る技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、モリブデンを5重量%以上含有する合金からなるλ/4型電波吸収体用抵抗皮膜が提案されている。このλ/4型電波吸収体用抵抗皮膜において、合金のニッケル含有量及びクロム含有量の調節により、5~6nmの膜厚で表面抵抗値が所定の範囲に調整されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-56562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1において、25℃における抵抗皮膜の表面抵抗値の時間的な変化が測定されている。一方、特許文献1において、高温環境(例えば、80℃の環境)に曝されたときの抵抗皮膜の表面抵抗値の時間的な変化は評価されていない。
【0006】
このような事情を踏まえて、本発明は、高温環境に曝されたときにインピーダンス整合の観点からシート抵抗の変化を抑制するのに有利な新規の電波吸収体用インピーダンス整合膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
金属元素と、非金属元素とを含み、
10~200nmの厚みを有し、
200Ω/□以上のシート抵抗を有し、
酸素原子の原子数基準の含有率が50%未満である、
電波吸収体用インピーダンス整合膜を提供する。
【0008】
また、本発明は、
基材と、
上記の電波吸収体用インピーダンス整合膜と、を備えた、
電波吸収体用インピーダンス整合膜付フィルムを提供する。
【0009】
また、本発明は、
上記の電波吸収体用インピーダンス整合膜と、
電波を反射する導電体と、
前記電波吸収体用インピーダンス整合膜の厚み方向において前記電波吸収体用インピーダンス整合膜と前記導電体との間に配置されている誘電体層と、を備えた、
電波吸収体を提供する。
【0010】
また、本発明は、
上記の電波吸収体用インピーダンス整合膜と、
前記電波吸収体用インピーダンス整合膜の厚み方向において前記電波吸収体用インピーダンス整合膜に接触して配置されている、誘電体層と、を備えた、
電波吸収体用積層体を提供する。
【発明の効果】
【0011】
上記の電波吸収体用インピーダンス整合膜は、高温環境に曝されたときにインピーダンス整合の観点からシート抵抗の変化を抑制するのに有利である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明に係る電波吸収体用インピーダンス整合膜の一例を示す断面図である。
図2A図2Aは、本発明に係る電波吸収体の一例を示す断面図である。
図2B図2Bは、図2Aに示す電波吸収体の変形例を示す断面図である。
図2C図2Cは、図2Aに示す電波吸収体の別の変形例を示す断面図である。
図3図3は、本発明に係る電波吸収体の別の一例を示す断面図である。
図4A図4Aは、本発明に係る電波吸収体のさらに別の一例を示す断面図である。
図4B図4Bは、本発明に係る電波吸収体用積層体の一例を示す断面図である。
図5A図5Aは、本発明に係る電波吸収体のさらに別の一例を示す断面図である。
図5B図5Bは、本発明に係る電波吸収体用積層体の別の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、以下の実施形態には限定されない。
【0014】
図1に示す通り、電波吸収体用インピーダンス整合膜10は、例えば、電波吸収体用インピーダンス整合膜付フィルム15によって提供される。電波吸収体用インピーダンス整合膜10は、抵抗被膜である。電波吸収体用インピーダンス整合膜付フィルム15は、基材22と、電波吸収体用インピーダンス整合膜10と、を備えている。電波吸収体用インピーダンス整合膜10は、例えば、基材22の一方の主面上に成膜されている。
【0015】
インピーダンス整合膜10は、金属元素と、非金属元素とを含む。加えて、インピーダンス整合膜10は、10~200nmの厚みを有し、200Ω/□以上のシート抵抗を有する。さらに、インピーダンス整合膜10は、原子数基準の酸素原子の含有率が50%未満である。このため、酸化インジウムスズ(ITO)膜は、インピーダンス整合膜10には含まれない。なお、本明細書において、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、テルル等の半金属元素は、非金属元素として取り扱われる。インピーダンス整合膜10は、例えば、その前面から見込んだインピーダンスが平面波の特性インピーダンスと等しくなるように調整された抵抗被膜である。
【0016】
インピーダンス整合膜10は、10~200nmの厚みを有するので、高温環境(例えば、80℃)に曝されたときに、インピーダンス整合の観点から所望のシート抵抗を保ちやすい。なぜなら、高温環境においてインピーダンス整合膜の表面付近が変質しても、インピーダンス整合膜10において変質した部分が占める体積は小さいからである。一方、特許文献1に記載のλ/4型電波吸収体用抵抗皮膜は、例えば5~6nmの膜厚を有する。この抵抗皮膜は薄いので、高温環境において抵抗皮膜の表面付近が変質すると、抵抗皮膜において変質した部分が占める体積が大きく、インピーダンス整合のための抵抗皮膜の特性に対する影響が大きい。このため、特許文献1に記載の技術は、高温環境に曝されたときにインピーダンス整合の観点から抵抗皮膜のシート抵抗の変化を抑制するために有利であるとは言い難い。
【0017】
インピーダンス整合膜10の厚みは、11nm以上であってもよく、13nm以上であってもよく、15nm以上であってもよい。
【0018】
インピーダンス整合膜10の厚みは200nm以下である。これにより、インピーダンス整合膜10の反りを抑制でき、インピーダンス整合膜10においてクラックが発生しにくい。インピーダンス整合膜10の厚みは、180nm以下であってもよく、160nm以下であってもよく、150nm以下であってもよい。
【0019】
インピーダンス整合膜10は200Ω/□以上のシート抵抗を有するので、インピーダンス整合膜10を用いて提供される電波吸収体が所望の電波吸収性能を発揮しやすい。
【0020】
インピーダンス整合膜10のシート抵抗は、220Ω/□以上であってもよく、250Ω/□以上であってもよく、280Ω/□以上であってもよい。
【0021】
インピーダンス整合膜10のシート抵抗の上限は特定の値に限定されない。インピーダンス整合膜10のシート抵抗は、電波吸収体の他の構成の特性によって変動し得る。電波吸収体の一例において、インピーダンス整合膜10のシート抵抗は、例えば、600Ω/□以下である。インピーダンス整合膜10のシート抵抗は、580Ω/□以下であってもよく、550Ω/□以下であってもよく、520Ω/□以下であってもよい。例えば、電波吸収体が誘電損失材料及び磁性損失材料等の損失材料を含んでいない場合、インピーダンス整合膜10のシート抵抗の上限は、このような範囲に調整されうる。電波吸収体の別の一例において、インピーダンス整合膜10のシート抵抗は、例えば、10MΩ(メガオーム)/□以下であり、8MΩ/□以下であってもよく、5MΩ/□以下であってもよく、3MΩ/□以下であってもよい。例えば、電波吸収体が誘電損失材料又は磁性損失材料等の損失材料を含んでいる場合、インピーダンス整合膜10のシート抵抗の上限は、このような範囲に調整されうる。
【0022】
インピーダンス整合膜10は、例えば、0.40×10-3Ω・cm以上の比抵抗を有する。これにより、インピーダンス整合膜10は、10~200nmの厚みを有しつつ、インピーダンス整合の観点から所望のシート抵抗を有しやすい。
【0023】
インピーダンス整合膜10の比抵抗は、0.44×10-3Ω・cm以上であってもよく、0.50×10-3Ω・cm以上であってもよく、0.56×10-3Ω・cm以上であってもよい。
【0024】
インピーダンス整合膜10の比抵抗の上限は特定の値に限定されない。インピーダンス整合膜10の比抵抗は、電波吸収体の他の構成の特性によって変動し得る。電波吸収体の一例において、インピーダンス整合膜10の比抵抗は、例えば、8.0×10-3Ω・cm以下である。インピーダンス整合膜10の比抵抗は、7.7×10-3Ω・cm以下であってもよく、7.3×10-3Ω・cm以下であってもよく、7×10-3Ω・cm以下であってもよい。例えば、電波吸収体が誘電損失材料及び磁性損失材料等の損失材料を含んでいない場合、インピーダンス整合膜10のシート抵抗の上限は、このような範囲に調整されうる。電波吸収体の別の一例において、インピーダンス整合膜10の比抵抗は、例えば、150Ω・cm以下であり、100Ω・cm以下であってもよく、80Ω・cm以下であってもよく、50Ω・cm以下であってもよい。例えば、電波吸収体が誘電損失材料又は磁性損失材料等の損失材料を含んでいる場合、インピーダンス整合膜10のシート抵抗の上限は、このような範囲に調整されうる。
【0025】
インピーダンス整合膜10において、下記の式(1)により決定される、シート抵抗変化率Csは、例えば、30%以下である。式(1)において、Ri[Ω/□]は、インピーダンス整合膜10の初期のシート抵抗であり、Rt[Ω/□]は、インピーダンス整合膜10の環境温度を80℃で24時間保った後のインピーダンス整合膜10のシート抵抗である。インピーダンス整合膜10においてシート抵抗変化率Csが30%以下であれば、電波吸収体が高温環境に曝されてもその電波吸収性能が保たれやすい。シート抵抗変化率Csが0%であることが最も望ましい。
Cs[%]=100×|Rt-Ri|/Ri 式(1)
【0026】
インピーダンス整合膜10におけるシート抵抗変化率Csは、28%以下であってもよく、25%以下であってもよく、23%以下でありうる。
【0027】
インピーダンス整合膜10に含まれる非金属元素は、インピーダンス整合膜10が10~200nmの厚みを有し、かつ、200Ω/□以上のシート抵抗を有する限り、特定の元素に限定されない。インピーダンス整合膜10に含まれる非金属元素は、例えば、B、C、N、O、F、Si、S、及びGeからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素である。この場合、インピーダンス整合膜10は、高温環境に曝されたときに、より確実に、インピーダンス整合の観点から所望のシート抵抗を保ちやすい。
【0028】
インピーダンス整合膜10に含まれる金属元素は、インピーダンス整合膜10が10~200nmの厚みを有し、かつ、200Ω/□以上のシート抵抗を有する限り、特定の元素に限定されない。インピーダンス整合膜10に含まれる金属元素は、例えば、Ni、Cr、Ti、W、Mo、Cu、Al、Sn、Pd、Ta、Rh、Au、Mg、Fe、Mn、Co、及びVからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素である。この場合、インピーダンス整合膜10は、高温環境に曝されたときに、より確実に、インピーダンス整合の観点から所望のシート抵抗を保ちやすい。
【0029】
インピーダンス整合膜10に含まれる金属元素は、Ni、Cr、Mo、及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素であってもよい。この場合、インピーダンス整合膜10は、高温環境に曝されたときに、より確実に、インピーダンス整合の観点から所望のシート抵抗を保ちやすい。
【0030】
インピーダンス整合膜10に含まれる金属元素の原子数基準の含有率は、特定の値に限定されない。その含有率は、0%を超えており、5%以上であってもよく、10%以上であってもよく、15%以上であってもよく、20%以上であってもよい。インピーダンス整合膜10に含まれる金属元素の原子数基準の含有率は、例えば90%以下であり、85%以下であってもよく、80%以下であってもよく、75%以下であってもよく、70%以下であってもよい。
【0031】
インピーダンス整合膜10に含まれる金属元素がNi、Cr、Mo、及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含む場合、Ni、Cr、Mo、及びTiの原子数基準の含有率の合計は、例えば、10%以上である。この場合、インピーダンス整合膜10は、高温環境に曝されたときに、より確実に、インピーダンス整合の観点から所望のシート抵抗を保ちやすい。
【0032】
インピーダンス整合膜10において、Ni、Cr、Mo、及びTiの原子数基準の含有率の合計は、11%以上であってもよく、13%以上であってもよく、15%以上であってもよい。インピーダンス整合膜10において、Ni、Cr、Mo、及びTiの原子数基準の含有率の合計は、例えば、90%以下であり、85%以下であってもよく、80%以下であってもよく、75%以下であってもよく、70%以下であってもよい。
【0033】
基材22は、例えば、インピーダンス整合膜10を支持する支持体としての役割を果たす。インピーダンス整合膜10は、例えば、所定のターゲット材を用いたスパッタリングによって基材22の一方の主面上に成膜される。この場合、例えば、金属元素と非金属元素とを含む所定のターゲット材が用いられる。ターゲット材の組成に加えて、スパッタリングにおいて基材22の周囲に供給されるガスの体積流量に対する酸素ガス等の活性ガスの体積流量の比等の所定の条件を調整することによって、酸素原子の原子数基準の含有率が50%未満であるように、インピーダンス整合膜10を形成できる。インピーダンス整合膜10は、場合によっては、イオンプレーティング又はコーティング(例えば、バーコーティング)等の方法を用いて成膜されてもよい。
【0034】
図2Aに示す通り、インピーダンス整合膜10を用いて、電波吸収体1aを提供できる。電波吸収体1aは、インピーダンス整合膜10と、導電体30と、誘電体層20とを備えている。導電体30は、電波を反射する。誘電体層20は、インピーダンス整合膜10の厚み方向においてインピーダンス整合膜10と導電体30との間に配置されている。
【0035】
電波吸収体1aは、例えば、λ/4型の電波吸収体である。電波吸収体1aに吸収対象とする波長λOの電波が入射すると、インピーダンス整合膜10の表面での反射(表面反射)による電波と、導電体30における反射(裏面反射)による電波とが干渉するように、電波吸収体1aが設計されている。λ/4型の電波吸収体においては、下記の式(2)に示す通り、誘電体層の厚みt及び誘電体層の比誘電率εrによって吸収対象の電波の波長λOが決定される。すなわち、誘電体層の比誘電率及び厚みを適宜調節することにより、吸収対象の波長の電波を設定できる。式(2)においてsqrt(εr)は、比誘電率εrの平方根を意味する。
λO=4t×sqrt(εr) 式(2)
【0036】
電波吸収体1aが上記のインピーダンス整合膜10を備えていることにより、電波吸収体1aは、高温環境に曝されても所望の電波吸収性能を保ちやすい。
【0037】
電波吸収体の設計において、例えば、伝送理論を用いてインピーダンス整合膜10の前面から見込んだインピーダンスが平面波の特性インピーダンスと等しくなるように、インピーダンス整合膜10のシート抵抗が定められる。電波吸収体において、インピーダンス整合膜10に求められるシート抵抗は、電波吸収体に入射する電波の想定される入射角度によって変動しうる。
【0038】
導電体30は、吸収対象の電波を反射できる限り特に限定されないが、所定の導電性を有する。図2Aに示す通り、導電体30は、例えば層状に形成されている。この場合、導電体30は、インピーダンス整合膜10のシート抵抗よりも低いシート抵抗を有する。導電体30は、層状以外の形状を有していてもよい。
【0039】
導電体30は、例えば、酸化インジウムスズを含んでいる。この場合、導電体30が高い透明性を有しやすい。
【0040】
導電体30の酸化インジウムスズにおける酸化スズの含有量は、例えば、5~15質量%である。この場合、アニール処理によって安定的な多結晶状態の酸化インジウムスズで導電体30を形成できる。その結果、電波吸収体1aは高温環境に長期間曝されたときに所望の電波吸収性能をより確実に発揮しやすい。
【0041】
導電体30は、アルミニウム、銅、鉄、アルミニウム合金、銅合金、及び鉄合金からなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。この場合、導電体30の厚みを低減しつつ所望の導電性を実現しやすい。
【0042】
導電体30の厚みは、特定の厚みに限定されない。例えば、導電体30が酸化インジウムスズである場合、導電体30は、例えば20~200nmの厚みを有し、望ましくは50~150nmの厚みを有する。これにより、電波吸収体1aが所望の電波吸収性能を発揮できるとともに、導電体30においてクラックが発生しにくい。
【0043】
導電体30がアルミニウム、銅、鉄、アルミニウム合金、銅合金、鉄合金からなる群より選ばれる少なくとも1つである場合、導電体30は、例えば30nm~100μmの厚みを有し、望ましくは50nm~50μmの厚みを有する。
【0044】
誘電体層20は、例えば、2.0~20.0の比誘電率を有する。この場合、誘電体層20の厚みを調整しやすく、電波吸収体1aの電波吸収性能の調整が容易である。誘電体層20の比誘電率は、例えば、空洞共振法に従って測定される10GHzにおける比誘電率である。
【0045】
誘電体層20は、例えば、所定の高分子によって形成されている。誘電体層20は、例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1つの高分子を含む。この場合、誘電体層20の厚みを調整しやすく、かつ、電波吸収体1aの製造コストを低く保つことができる。誘電体層20は、例えば、所定の樹脂組成物を熱プレスすることによって作製できる。
【0046】
誘電体層20は、単一の層として形成されていてもよいし、同一又は異なる材料でできた複数の層によって形成されていてもよい。誘電体層20がn個の層(nは2以上の整数)を有する場合、誘電体層20の比誘電率は、例えば、以下の様にして決定される。各層の比誘電率εiを測定する(iは、1~nの整数)。次に、測定された各層の比誘電率εiにその層の厚みtiの誘電体層20の全体Tに対する厚みの割合を乗じて、εi×(ti/T)を求める。すべての層に対するεi×(ti/T)を加算することによって、誘電体層20の比誘電率を決定できる。
【0047】
図2Aに示す通り、誘電体層20は、例えば、第一層21、第二層22、及び第三層23を備えている。第一層21は、第二層22と第三層23との間に配置されている。第一層21は、例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1つの高分子を含む。
【0048】
電波吸収体1aにおいて、第二層22は、インピーダンス整合膜10にとっての基材を兼ねている。第二層22は、例えば、インピーダンス整合膜10よりも導電体30に近い位置に配置されている。図2Bに示す通り、第二層22は、インピーダンス整合膜10よりも導電体30から遠い位置に配置されていてもよい。この場合、第一層21及び第三層23によって誘電体層20が構成される。この場合、第二層22によって、インピーダンス整合膜10及び誘電体層20が保護され、電波吸収体1aが高い耐久性を有する。この場合、例えば、インピーダンス整合膜10が第一層21に接触していてもよい。第二層22は、例えば、インピーダンス整合膜10の厚みを高精度に調節するための補助材としての役割も果たす。第二層22の材料は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、又はシクロオレフィンポリマー(COP)である。なかでも、良好な耐熱性と、寸法安定性と、製造コストとのバランスの観点から、第二層22の材料は、望ましくはPETである。
【0049】
基材22は、例えば10~150μmの厚みを有し、望ましくは15~100μmの厚みを有する。これにより、基材22の曲げ剛性が低く、かつ、インピーダンス整合膜10を形成する場合に基材22において皺の発生又は変形を抑制できる。
【0050】
電波吸収体1aにおいて、第三層23は、例えば、層状の導電体30を支持している。この場合、層状の導電体30は、例えば、金属箔又は合金箔である。層状の導電体30は、例えば、スパッタリング、イオンプレーティング、又はコーティング(例えば、バーコーティング)等の方法を用いて第三層23上に成膜することによって作製されてもよい。第三層23は、例えば、電波吸収体1aにおいて、層状の導電体30よりもインピーダンス整合膜10に近い位置に配置されており、誘電体層20の一部を構成している。なお、図2Cに示す通り、第三層23は、層状の導電体30よりもインピーダンス整合膜10から遠い位置に配置されていてもよい。この場合、例えば、層状の導電体30が第一層21に接触している。
【0051】
第三層23の材料として、例えば、第二層22の材料として例示された材料を使用できる。第三層23の材料は、第二層22の材料と同一であってもよいし、異なっていてもよい。良好な耐熱性と、寸法安定性と、製造コストとのバランスの観点から、第三層23の材料は、望ましくはPETである。
【0052】
第三層23は、例えば10~150μmの厚みを有し、望ましくは15~100μmの厚みを有する。これにより、第三層23の曲げ剛性が低く、かつ、層状の導電体30を形成する場合に第三層23において皺の発生又は変形を抑制できる。なお、第三層23は、場合によっては省略可能である。
【0053】
第一層21は、複数の層によって構成されていてもよい。特に、図2B又は図2Cに示す通り、インピーダンス整合膜10及び層状の導電体30の少なくとも1つに第一層21が接触している場合に、第一層21は複数の層によって構成されうる。
【0054】
第一層21は、粘着性を有していてよいし、粘着性を有していなくてもよい。第一層21が粘着性を有する場合、第一層21の両主面の少なくとも一方に粘着層が接して配置されてもよいし、その両主面に接するように粘着層が配置されていなくてもよい。第一層21が粘着性を有しない場合、望ましくは、第一層21の両主面に接して粘着層が配置される。なお、誘電体層20が第二層22を含む場合、第二層22が粘着性を有しなくても、第二層22の両主面に接するように粘着層が配置されなくてもよい。この場合、第二層22の一方の主面に接して粘着層が配置されうる。誘電体層20が第三層23を含む場合、第三層23が粘着性を有しなくても、第三層23の両主面に接して粘着層が配置されなくてもよい。第三層23の少なくとも一方の主面に接して粘着層が配置されうる。
【0055】
電波吸収体1aは、所望の波長の電波を吸収するように設計されている。電波吸収体1aが吸収可能な電波の種類は特に限定されない。電波吸収体1aが吸収可能な電波は、例えば、特定の周波数帯域のミリ波又はサブミリ波でありうる。
【0056】
電波吸収体1aは、誘電損失材料及び磁性損失材料の少なくとも1つを含んでいてもよい。換言すると、電波吸収体1aは、誘電損失型の電波吸収体であってもよいし、磁性損失型の電波吸収体であってもよい。この場合、インピーダンス整合膜10に求められるシート抵抗は高くなりやすい。誘電体層20が、誘電損失材料及び磁性損失材料の少なくとも1つを含んでいてもよい。また、インピーダンス整合膜10をなす材料は磁性体であってもよい。
【0057】
電波吸収体1aは、様々な観点から変更可能である。例えば、電波吸収体1aは、図3に示す電波吸収体1b、図4Aに示す電波吸収体1c、又は図5Aに示す電波吸収体1dのように変更されてもよい。電波吸収体1b、1c、及び1dは、特に説明する部分を除き、電波吸収体1aと同様に構成されている。電波吸収体1aの構成要素と同一又は対応する電波吸収体1b、1c、及び1dの構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。電波吸収体1aに関する説明は、技術的に矛盾しない限り電波吸収体1b、1c、及び1dにも当てはまる。
【0058】
図3に示す通り、電波吸収体1bは、粘着層40aをさらに備えている。電波吸収体1bにおいて、導電体30は、誘電体層20と粘着層40aとの間に配置されている。
【0059】
例えば、所定の物品に粘着層40aを接触させて電波吸収体1bを押し当てることによって、電波吸収体1bを物品に貼り付けることができる。これにより、電波吸収体付物品を得ることができる。
【0060】
粘着層40aは、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、又はウレタン系粘着剤を含んでいる。電波吸収体1bは、セパレータ(図示省略)をさらに備えていてもよい。この場合、セパレータは、粘着層40aを覆っている。セパレータは、典型的には、粘着層40aを覆っているときに粘着層40aの粘着力を保つことができ、かつ、粘着層40aから容易に剥離できるフィルムである。セパレータは、例えば、PET等のポリエステル樹脂製のフィルムである。セパレータを剥離することによって粘着層40aが露出し、電波吸収体1bを物品に貼り付けることができる。
【0061】
電波吸収体において、誘電体層20は、導電体30に対して粘着性を有していてもよい。例えば、図4Aに示す通り、電波吸収体1cにおいて、誘電体層20は、粘着層40bを含む複数の層を有する。粘着層40bは、導電体30に接触している。粘着層40bは、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、又はウレタン系粘着剤を含んでいる。粘着層40bは、例えば、第一層21と導電体30との間に配置されている。
【0062】
図4Aに示す通り、誘電体層20は、粘着層40cをさらに備えている。粘着層40cは、例えば、第二層22と接触している。粘着層40cがインピーダンス整合膜10と接触するように電波吸収体1cが変更されてもよい。粘着層40cは、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、又はウレタン系粘着剤を含んでいる。粘着層40cは、例えば、第一層21と第二層22との間に配置されている。
【0063】
電波吸収体1cは、例えば、図4Bに示す、電波吸収体用積層体50aを用いて作製されうる。電波吸収体用積層体50aは、インピーダンス整合膜10と、誘電体層20とを備える。誘電体層20は、インピーダンス整合膜10の厚み方向においてインピーダンス整合膜10に接触して配置されている。
【0064】
電波吸収体用積層体50aによれば、誘電体層20は、例えば、インピーダンス整合膜10から離れた主面において、粘着性を有する。この場合、例えば、導電体30に誘電体層20を接触させ、電波吸収体用積層体50aを導電体30に押し当てることによって、電波吸収体用積層体50aが導電体30に貼り付き、電波吸収体1cを作製できる。
【0065】
図4Bに示す通り、電波吸収体用積層体50aにおいて、誘電体層20は、例えば、粘着層40bを含む複数の層を有する。粘着層40bは、誘電体層20をなす複数の層においてインピーダンス整合膜10から最も離れて配置されている。
【0066】
電波吸収体用積層体50aは、セパレータ(図示省略)をさらに備えていてもよい。この場合、セパレータは、粘着層40bを覆っている。セパレータは、典型的には、粘着層40bを覆っているときに粘着層40bの粘着力を保つことができ、かつ、粘着層40bから容易に剥離できるフィルムである。セパレータは、例えば、PET等のポリエステル樹脂製のフィルムである。セパレータを剥離することによって粘着層40bが露出し、電波吸収体用積層体50aを導電体30に貼り付けることができる。
【0067】
図5Aに示す通り、電波吸収体1dにおいて、第一層21は、導電体30に接触している。第一層21は、例えば、導電体30に対して粘着性を有する。第一層21は、例えば、第二層22に接触している。第一層21は、例えば、第二層22に対して粘着性を有する。第一層21がインピーダンス整合膜10と接触するように電波吸収体1dが変更されてもよい。この場合、第一層21は、例えば、インピーダンス整合膜10に対して粘着性を有する。
【0068】
電波吸収体1dは、例えば、図5Bに示す、電波吸収体用積層体50bを用いて作製されうる。電波吸収体用積層体50bは、インピーダンス整合膜10と、誘電体層20とを備える。誘電体層20は、インピーダンス整合膜10の厚み方向においてインピーダンス整合膜10に接触して配置されている。
【0069】
電波吸収体用積層体50bにおいて、誘電体層20は、インピーダンス整合膜10から離れた主面において、粘着性を有する。例えば、第一層21が粘着性を有する。例えば、導電体30に第一層21を接触させて電波吸収体用積層体50bを導電体30に押し当てることによって、電波吸収体用積層体50bが導電体30に貼り付き、電波吸収体1dを作製できる。
【0070】
電波吸収体用積層体50bは、セパレータ(図示省略)をさらに備えていてもよい。この場合、セパレータは、誘電体層20の導電体30に接触すべき面を覆っている。セパレータは、典型的には、誘電体層20の導電体30に接触すべき面を覆っているときに誘電体層20の導電体30に接触すべき面の粘着力を保つことができ、かつ、誘電体層20から容易に剥離できるフィルムである。セパレータは、例えば、PET等のポリエステル樹脂製のフィルムである。セパレータを剥離することによって誘電体層20の導電体30に接触すべき面が露出し、電波吸収体用積層体50bを導電体30に貼り付けることができる。
【0071】
電波吸収体用積層体は、インピーダンス整合膜10と、誘電体層20とを備え、かつ、インピーダンス整合膜10の厚み方向において誘電体層20がインピーダンス整合膜10に接触して配置されている限り、特定の構成に限定されない。
【実施例
【0072】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。まず、実施例及び比較例に関する評価方法について説明する。
【0073】
[X線回折]
X線回折装置(リガク社製、製品名:RINT2200)を用いて、X線反射率法によって、各実施例及び比較例に係るインピーダンス整合膜付フィルムのインピーダンス整合膜の厚みを測定した。結果を表1に示す。
【0074】
[TEM-EDX]
集束イオンビーム(FIB)加工観察装置(日立ハイテクノロジーズ社製、FB-2200)を用いて、FIBマイクロサンプリング法によって、実施例及び比較例に係るインピーダンス整合膜からTEM-EDX用の試料を作製した。試料の厚みは80nmであった。TEM-EDX装置を用いて、試料の断面の特定の領域に対しEDXを行い、各元素の原子数基準の含有率を調べた。結果を表1に示す。TEM-EDX装置は、TEM(日本電子社製、製品名:JEM-2800)と、EDX装置(Thermo Fisher Scientific社製、製品名:NORAN System 7)とを組み合わせて構成されていた。EDXを行った領域は、インピーダンス整合膜の厚み方向における中央の位置において、厚み方向に対し垂直な方向に400nmの長さを有する領域であった。
【0075】
[比抵抗]
非接触式抵抗測定装置(ナプソン社製、製品名:NC-80MAP)を用いて、JIS Z 2316に準拠して、渦電流測定法によって各実施例及び比較例に係るインピーダンス整合膜の初期のシート抵抗Ri[Ω/□]を測定した。各実施例及び比較例において、上記のように測定したインピーダンス整合膜の厚みと、上記のように測定したインピーダンス整合膜の初期のシート抵抗Ri[Ω/□]とから、両者の積を求めることにより、比抵抗を決定した。結果を表1に示す。
【0076】
[加熱試験]
各実施例及び比較例に係るインピーダンス整合膜付フィルムを80℃の環境に24時間曝した。その後、非接触式抵抗測定装置(ナプソン社製、製品名:NC-80MAP)を用いて、JIS Z 2316に準拠して、渦電流測定法によって各実施例及び比較例に係るインピーダンス整合膜の加熱試験後のシート抵抗Rt[Ω/□]を測定した。この測定結果と、上記のように測定したインピーダンス整合膜の初期のシート抵抗Ri[Ω/□]とから、上記の式(1)に基づき、各実施例に係るインピーダンス整合膜のシート抵抗変化率Csを求めた。結果を表1に示す。
【0077】
[電波吸収性能]
JIS R 1679:2007を参考に、サンプルホルダーに固定された各実施例及び各比較例に係るサンプルに対し、60~90GHzの周波数の電波を0°の入射角度で入射させ、アンリツ社製のベクトルネットワークアナライザーを用いて、各周波数における反射減衰量を特定した。反射減衰量は、下記の式(3)に従って算出される値の絶対値|S|である。式(3)において、P0は、測定対象に電波を所定の入射角度で入射させた場合における送信電波の電力であり、Piは、その場合における受信電波の電力である。なお、各実施例及び各比較例に係るサンプルの代わりに、アルミニウム製の板材をサンプルホルダーに固定してこの板材に電波を垂直に入射させた場合の反射減衰量|S|を0dBとみなして各サンプルの反射減衰量|S|の基準として用いた。この板材は30cm平方の面寸法を有し、この板材の厚みは5mmであった。各サンプルに対し、反射減衰量|S|の最大値、その最大値を示す周波数(吸収ピーク周波数)を決定した。結果を表2に示す。反射減衰量|S|の最大値が10dB以上であれば良好な電波吸収性能を有すると評価できる。
S[dB]=10×log|Pi/P0| 式(3)
【0078】
<実施例1>
23μmの厚みを有するPETフィルムの上に、Cr(クロム)、Ti(チタン)、及びO(酸素)を含有するターゲット材を用い、アルゴンガスをPETフィルムの周囲に供給しながらスパッタリングを行い、実施例1に係るインピーダンス整合膜を形成した。このようにして、実施例1に係るインピーダンス整合膜付フィルムを得た。
【0079】
2.6の比誘電率を有するアクリル樹脂を560μmの厚みに成形して、アクリル樹脂層を得た。実施例1に係るインピーダンス整合膜付フィルムのインピーダンス整合膜がアクリル樹脂層に接触するように実施例1に係るインピーダンス整合膜付フィルムをアクリル樹脂層に重ねた。次に、7μmの厚みのAl(アルミニウム)膜の両面にPET層が形成された反射体付フィルムを得た。この反射体付フィルムにおいて、アルミニウム膜の一方の主面に形成されたPET層の厚みは25μmであり、アルミニウム膜の他方の主面に形成されたPET層の厚みは9μmであった。反射体付フィルムにおける25μmの厚みのPET層がアクリル樹脂層に接触するように反射体付フィルムをアクリル樹脂層に重ねた。このようにして、実施例1に係るサンプルを得た。
【0080】
<実施例2>
23μmの厚みを有するPETフィルムの上に、Cr(クロム)からなるターゲット材を用い、アルゴンガス及び窒素ガスをPETフィルムの周囲に供給しながらスパッタリングを行い、実施例2に係るインピーダンス整合膜を形成した。このようにして、実施例2に係るインピーダンス整合膜付フィルムを得た。スパッタリングにおいてチャンバー内にわずかに取り込まれた残留酸素の影響により、実施例2に係るインピーダンス整合膜において酸素が検出されたと考えられる。
【0081】
実施例1に係るインピーダンス整合膜の代わりに、実施例2に係るインピーダンス整合膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係るサンプルを作製した。
【0082】
<実施例3>
23μmの厚みを有するPETフィルムの上に、ハステロイC-276からなるターゲット材を用い、アルゴンガス及び窒素ガスをPETフィルムの周囲に供給しながらスパッタリングを行い、実施例3に係るインピーダンス整合膜を形成した。このようにして、実施例3に係るインピーダンス整合膜付フィルムを得た。ハステロイは、ヘインズ インターナショナル インコーポレーテッドの登録商標である。スパッタリングにおいてチャンバー内にわずかに取り込まれた残留酸素の影響により、実施例3に係るインピーダンス整合膜において酸素が検出されたと考えられる。
【0083】
実施例1に係るインピーダンス整合膜の代わりに、実施例3に係るインピーダンス整合膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係るサンプルを作製した。
【0084】
<実施例4>
23μmの厚みを有するPETフィルムの上に、Cu(銅)、Ni(ニッケル)、及びSi(シリコン)からなるターゲット材を用い、アルゴンガスをPETフィルムの周囲に供給しながらスパッタリングを行い、実施例4に係るインピーダンス整合膜を形成した。
【0085】
実施例1に係るインピーダンス整合膜の代わりに、実施例4に係るインピーダンス整合膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係るサンプルを作製した。
【0086】
<実施例5>
23μmの厚みを有するPETフィルムの上に、Cu(銅)、Ni(ニッケル)、及びSi(シリコン)からなるターゲット材を用い、アルゴンガスをPETフィルムの周囲に供給しながらスパッタリングを行い、実施例5に係るインピーダンス整合膜を形成した。
【0087】
実施例1に係るインピーダンス整合膜の代わりに、実施例5に係るインピーダンス整合膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係るサンプルを作製した。
【0088】
<実施例6>
23μmの厚みを有するPETフィルムの上に、Cu(銅)、Ti(チタン)、及びSi(シリコン)からなるターゲット材を用い、アルゴンガスをPETフィルムの周囲に供給しながらスパッタリングを行い、実施例6に係るインピーダンス整合膜を形成した。
【0089】
実施例1に係るインピーダンス整合膜の代わりに、実施例6に係るインピーダンス整合膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例6に係るサンプルを作製した。
【0090】
<実施例7>
23μmの厚みを有するPETフィルムの上に、Cu(銅)、Ti(チタン)、及びSi(シリコン)からなるターゲット材を用い、アルゴンガスをPETフィルムの周囲に供給しながらスパッタリングを行い、実施例7に係るインピーダンス整合膜を形成した。
【0091】
実施例1に係るインピーダンス整合膜の代わりに、実施例7に係るインピーダンス整合膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例7に係るサンプルを作製した。
【0092】
<実施例8>
23μmの厚みを有するPETフィルムの上に、Ti(チタン)及びMo(モリブデン)からなるターゲット材を用い、アルゴンガス及び窒素ガスをPETフィルムの周囲に供給しながらスパッタリングを行い、実施例8に係るインピーダンス整合膜を形成した。スパッタリングにおいてチャンバー内にわずかに取り込まれた残留酸素の影響により、実施例8に係るインピーダンス整合膜において酸素が検出されたと考えられる。
【0093】
実施例1に係るインピーダンス整合膜の代わりに、実施例8に係るインピーダンス整合膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例8に係るサンプルを作製した。
【0094】
<実施例9>
23μmの厚みを有するPETフィルムの上に、Ti(チタン)及びMo(モリブデン)からなるターゲット材を用い、アルゴンガス及び窒素ガスをPETフィルムの周囲に供給しながらスパッタリングを行い、実施例9に係るインピーダンス整合膜を形成した。スパッタリングにおいてチャンバー内にわずかに取り込まれた残留酸素の影響により、実施例9に係るインピーダンス整合膜において酸素が検出されたと考えられる。
【0095】
実施例1に係るインピーダンス整合膜の代わりに、実施例9に係るインピーダンス整合膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例9に係るサンプルを作製した。
【0096】
<実施例10>
23μmの厚みを有するPETフィルムの上に、Ti(チタン)及びMo(モリブデン)からなるターゲット材を用い、アルゴンガス及び窒素ガスをPETフィルムの周囲に供給しながらスパッタリングを行い、実施例10に係るインピーダンス整合膜を形成した。スパッタリングにおいてチャンバー内にわずかに取り込まれた残留酸素の影響により、実施例10に係るインピーダンス整合膜において酸素が検出されたと考えられる。
【0097】
実施例1に係るインピーダンス整合膜の代わりに、実施例10に係るインピーダンス整合膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例10に係るサンプルを作製した。
【0098】
<比較例1>
23μmの厚みを有するPETフィルムの上に、Fe(鉄)、Cr(クロム)、及びNi(ニッケル)を含有するターゲット材を用い、アルゴンガスをPETフィルムの周囲に供給しながらスパッタリングを行い、比較例1に係るインピーダンス整合膜を形成した。このようにして、比較例1に係るインピーダンス整合膜付フィルムを得た。
【0099】
実施例1に係るインピーダンス整合膜の代わりに、比較例1に係るインピーダンス整合膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係るサンプルを作製した。
【0100】
<比較例2>
23μmの厚みを有するPETフィルムの上に、Ti(チタン)及びMo(モリブデン)からなるターゲット材を用い、アルゴンガスをPETフィルムの周囲に供給しながらスパッタリングを行い、比較例2に係るインピーダンス整合膜を形成した。スパッタリングにおいてチャンバー内にわずかに取り込まれた残留窒素及び残留酸素の影響により、比較例2に係るインピーダンス整合膜において窒素及び酸素が検出されたと考えられる。
【0101】
実施例1に係るインピーダンス整合膜の代わりに、比較例2に係るインピーダンス整合膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係るサンプルを作製した。
【0102】
表1に示す通り、実施例1~10に係るインピーダンス整合膜のシート抵抗変化率Csは、20%以下であった。これに対し、比較例1及び2に係るインピーダンス整合膜のシート抵抗変化率Csは、それぞれ、63%及び59%であった。実施例1~10に係るインピーダンス整合膜のシート抵抗は、インピーダンス整合膜が高温環境に曝されても変化しにくいことが示唆された。
【0103】
表2に示す通り、実施例1~10に係るサンプルは、良好な電波吸収性能を発揮した。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【符号の説明】
【0106】
1a、1b、1c、1d 電波吸収体
10 電波吸収体用インピーダンス整合膜
15 電波吸収体用インピーダンス整合膜付フィルム
20 誘電体層
30 導電体
40b 粘着層
50a、50b 電波吸収体用積層体
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図5A
図5B