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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】ベビーカー
(51)【国際特許分類】
   B62B 9/10 20060101AFI20241022BHJP
   B62B 7/08 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
B62B9/10 Z
B62B7/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020126607
(22)【出願日】2020-07-27
(65)【公開番号】P2022023575
(43)【公開日】2022-02-08
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000112288
【氏名又は名称】ピジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 賢一郎
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-083549(JP,U)
【文献】実開昭62-095067(JP,U)
【文献】特開2004-299494(JP,A)
【文献】特開2017-095087(JP,A)
【文献】特開昭62-026159(JP,A)
【文献】特開2002-036923(JP,A)
【文献】特開平07-002117(JP,A)
【文献】特開2008-174011(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0216108(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101659273(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62B 9/10
B62B 7/04
B60N 2/32
A47D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベビーカーであって、
乳幼児が着座するシートを支持するシートフレームと、
前輪を有して前記シートフレームの前部を支持し、前記前輪が接地して前記ベビーカーが走行可能な状態となる第1位置と、前記シートの底面に沿うように折り畳まれる第2位置と、の間で、前記シートフレームに対して回動可能な前脚と、
後輪を有して前記シートフレームの後部を支持する後脚と、
を備え、
前記前脚前記後脚の外側を回動して折り畳まれた前記第2位置では、前記ベビーカーの運行者が着席している状態で、前記シートが前記運行者の両脚の上に重なるようにして前記運行者の腰付近まで進出して使用可能である、
ベビーカー。
【請求項2】
請求項1に記載のベビーカーであって、
前記前輪のトレッド幅は、前記後輪のトレッド幅より大きい、
ベビーカー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のベビーカーであって、
前記前脚を前記第1位置に向かって回動するように付勢する付勢部材と、
前記前脚の回動をロックする回動ロック部と、を更に備え、
前記回動ロック部は、
前記第1位置及び前記第2位置にて前記前脚の回動をロックするギアを有し、
前記ギアは、第2の付勢部材によって前記ギアの軸方向に付勢されるとともに前記回動ロック部内において前記軸方向に移動可能であり、前記回動ロック部内での位置に応じて前記前脚の回動のロックを解除する、
ベビーカー。
【請求項4】
請求項3に記載のベビーカーであって、
前記ギアは、前記ギアの付勢方向の反対側に向けて前記ギアを押して移動させるためのボタンが接続される、
ベビーカー。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のベビーカーであって、
前記ギアは、前記ギアの付勢方向の反対側に向けて前記ギアを引いて移動させるためのワイヤが接続される、
ベビーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベビーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
電車やバス等の公共交通機関にベビーカーを乗せることは、ベビーカーが占有するスペースの大きさから周囲の乗客に対して気が引けることがあるが、混雑時であってもベビーカーとともに公共交通機関に乗車しなければならない場合もある。
【0003】
特許文献1には、折り畳んだ状態のベビーカーを両肩に背負えるように、リュック式の左右一対の携帯用の肩ベルトを備えたベビーカーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-264531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、乳幼児をベビーカーから降ろさなければ、ベビーカーを折り畳んで両肩に背負うことができない。乳幼児をベビーカーから降ろすと、ベビーカーの運行者が乳幼児を抱きかかえる必要があるため、ベビーカーの管理を含めて運行者の負荷が増加する。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、乳幼児がベビーカーに乗った状態でも占有スペースを減少可能なベビーカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、ベビーカーであって、乳幼児が着座するシートを支持するシートフレームと、前輪を有して前記シートフレームの前部を支持し、前記前輪が接地して前記ベビーカーが走行可能な状態となる第1位置と、前記シートの底面に沿うように折り畳まれる第2位置と、の間で、前記シートフレームに対して回動可能な前脚と、後輪を有してシートフレームの後部を支持する後脚と、を備え、前脚後脚の外側を回動して折り畳まれた第2位置では、ベビーカーの運行者が着席している状態で、シートが運行者の両脚の上に重なるようにして運行者の腰付近まで進出して使用可能である。
【発明の効果】
【0008】
上記の態様では、シートフレームの前部を支持する前脚は、前輪が接地してベビーカーが走行可能な状態となる第1位置と、シートの底面に沿うように折り畳まれる第2位置と、の間で回動可能である。そのため、前脚を第2位置に回動させることで、着席しているベビーカーの運行者の両脚の上にシートが重なるようにベビーカーを置くことができる。したがって、乳幼児がベビーカーに乗った状態でも占有スペースを減少可能なベビーカーが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るベビーカーの斜視図である。
図2】付勢部材の側面図である。
図3】前脚の側面図である。
図4】回動ロック部の分解図である。
図5】内側からみた第1ケースの側面図である。
図6A】ベビーカーの占有スペースを減少させる前の状態を説明する側面図である。
図6B】ベビーカーの占有スペースを減少させた状態を説明する側面図である。
図7】ベビーカーの占有スペースを減少させた状態を説明する正面図である。
図8】運行者が前脚を第1位置へ回動させた状態を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るベビーカー1について説明する。
【0011】
まず、図1を参照して、ベビーカー1の構成について説明する。図1は、ベビーカー1の斜視図である。ベビーカー1を説明する方向については、ベビーカー1に着座する乳幼児からみて右手を右とし、同様に乳幼児からみて後方を後及び背面側とする。また、ベビーカー1の平面視での外周部(具体的には、ベビーカー1の前後長及び横幅の範囲)を境として、外側と内側とにわけている。
【0012】
図1に示すように、ベビーカー1は、シート10と、シート10を支持するシートフレーム20と、シートフレーム20を支持する前輪フレーム30及び後輪フレーム50と、を備える。
【0013】
ベビーカー1は、電車等の座席に着席しているベビーカー1の運行者(一般的には、保護者)と前輪フレーム30(前脚32)とが互いに向かい合わせの状態にあるとき、前脚32が破線で示すように後方へ回動することで、運行者の腰近くまでシート10及びシートフレーム20を進出させることができる。
【0014】
シート10は、乳幼児が着座するためのものであり、クッション部10a及び背もたれ10bを含む。図示は省略するが、シート10は、乳幼児を拘束して落下等から保護するためのシートベルトを有する。
【0015】
シートフレーム20は、フレーム本体21と、ベビーカー1を運行するためのハンドル22と、一対のアームレスト24と、乳幼児の前方を保護するフロントガード25と、を備える。
【0016】
フレーム本体21は、シート10のクッション部10aと当接する座面フレーム21aと、座面フレーム21aの背面側から起立する左右一対の背面フレーム21bと、を含む。左右の背面フレーム21bの間は、何も設けられずに空隙であってもよいし、シート10の背もたれ10bを後方から保護する保護部材が取り付けられてもよい。また、フレーム本体21は、中実でも中空でもよく、一部が中空であってもよい。
【0017】
ハンドル22は、横方向に延びる握部の両端部が斜め下方向へと曲がり、フレーム本体21の背面フレーム21bに接続される。ハンドル22は、回動ロック部40による前脚32の回動のロックを解除するために操作されるレバー23を備える。ハンドル22は、背面フレーム21bと一体であってもよい。
【0018】
アームレスト24は、乳幼児の側方を保護するとともに、乳幼児の肘置きとなる。左右のアームレスト24の前方端部には、乳幼児の前方を保護するとともにベビーカー1の持ち手となるフロントガード25が取り付けられる。フロントガード25は、左のアームレスト24からも右のアームレスト24からも着脱自在である。
【0019】
前輪フレーム30は、前輪31が取り付けられた左右の前脚32と、左右の前脚32を繋ぐステー33と、前脚32の回動をロックする左右の回動ロック部40と、を備える。
【0020】
前脚32は、付勢部材43(図2参照)により前方へ回動する方向(図1の矢印の方向)に付勢される。前脚32への付勢の詳細は後述する。
【0021】
前輪フレーム30は、例えば、回動ロック部40の第1ケース41又は第2ケース46(図4参照)の一部がシートフレーム20に固定されてシートフレーム20を支持する。図1に示すように、前輪31が接地してベビーカー1が走行可能な前脚32の回動位置を第1位置とする。
【0022】
回動ロック部40は、第1位置と後述する第2位置とにおいて前脚32の回動をロックする。このため、ベビーカー1が走行している場合に、前輪31にかかる抵抗によって不意に前脚32が第1位置から後方に回動することがなく、ベビーカー1が安定して走行することができる。回動ロック部40は、回動ロック部40のロック状態を解除するためのボタン42を備える。
【0023】
後輪フレーム50は、後輪51が取り付けられた左右の後脚52を備える。
【0024】
後脚52は、例えば、後輪51が取り付けられた端部の反対側の端部がアームレスト24に取り付けられてシートフレーム20を支持する。後脚52は、後脚52の中間部より上方の取り付け部53がシートフレーム20に取り付けられており、これによりシートフレーム20を支持する。
【0025】
ベビーカー1は、左右のボタン42が押されて左右の回動ロック部40のロック状態が解除され、付勢部材43により前脚32に付勢された前脚32を前方へ回動させるための力よりも大きな回動力が前脚32に加わることでステー33を中心軸として前脚32が後方へ回動する。後方へ回動した前脚32は、シート10又はシートフレーム20の底面と略平行になる。図1に破線で示すように、前脚32がシート10又はシートフレーム20の底面に沿うように折り畳まれる位置を第2位置とする。前輪31のトレッド幅W1は、例えば、後輪51のトレッド幅W2より大きく、前脚32は、後脚52の外側を回動する。
【0026】
次に、図2から図5を参照して、前脚32に対する付勢と前脚32の回動のロックについて説明する。図2は、付勢部材43の側面図である。図3は、前脚32の側面図である。図4は、回動ロック部40の分解図である。図5は、内側からみた第1ケース41の側面図である。
【0027】
図2に示す付勢部材43は、前脚32を前方へ回動する方向へ付勢するための部材である。付勢部材43は、例えば、トーションバネである。
【0028】
付勢部材43は、コイル部43aを中心として、第1アーム43bと第2アーム43cとを備える。
【0029】
コイル部43aは、図3に示す第1ケース41の内側に組み込まれ、第1アーム43bは、図3に示すフレーム本体21の座面フレーム21aの裏面に固定される。第2アーム43cは、図3に破線で示す前脚32の内側の空隙をうめるための充填部材32aに設けられる長孔に挿し込まれて前脚32に固定される。充填部材32aは、中空の前脚32の内側において、例えば、前脚32の外側よりリベットで固定されるほか、前脚32の内側に対して接着剤で固定されてもよい。
【0030】
付勢部材43の弾性力により、前脚32はステー33を中心軸として前方へ回動する方向へと付勢される。そのため、回動のロックが解除された前脚32は、第2位置から第1位置へと自動的に回動する。
【0031】
なお、付勢部材43は、トーションバネではなく、オイルダンパやエアダンパであってもよい。エアダンパは伸長速度が速いため、付勢部材43にエアダンパを採用すると前脚32を第2位置から第1位置へと素早く回動させることができる。また、オイルダンパはエアダンパよりもゆっくりと伸長するため、付勢部材43にオイルダンパを採用すると、前脚32をゆっくりと回動させることができる。付勢部材43は、前述のようなトーションバネの構造に拘わらず別のバネ構造としてもよく、バネに拘らず、動力シリンダー等のアクチュエータを採用してもよい。
【0032】
次に、図4を参照して、回動ロック部40について説明する。
【0033】
回動ロック部40は、内蔵するギア44により、第1位置にある前脚32を回動しないようにロックするとともに、第2位置にある前脚32を回動しないようにロックする。
【0034】
回動ロック部40の筐体である第1ケース41は、前脚32(ここでは右側の前脚32)と接続されて一体化しており、第2ケース46は、ステー33と接続される。第1ケース41は、内側の側面に開口41aを備え、外側の側面にボタン42が挿入されるボタン孔41bを有する外面41cを備える。第2ケース46は、外側の側面に開口46aを備え、内側の側面に底面46bを備える。そして、開口41aと開口46aとを向かい合わせにして、第1ケース41は、第2ケース46に対して相対回転可能に取り付けられる。
【0035】
回動ロック部40の筐体内部には、付勢部材43と、ギア44と、前脚32及び第1ケース41が回動できないロック状態となるようにギア44を付勢する付勢部材(第2の付勢部材)45と、が収容される。ギア44は、回動ロック部40の内部をギア44の軸方向に沿って移動可能であり、付勢部材45は、第2ケース46から第1ケース41の方向にギア44を付勢する。
【0036】
第1ケース41は、付勢部材43のコイル部43a(図2参照)を収容し、第1アーム43bが通過する孔又は開口(図示省略)が外周部41dに設けられる。また、第1ケース41は、前脚32との接合部において、前脚32の中空部に対応する位置に第2アーム43cが通過する孔又は開口(図示省略)が設けられている。これにより、回動ロック部40のロック状態が解除された場合には、第1ケース41は、コイル部43aを中心に前脚32とともに回転する。第1ケース41の内側の構造については、図5において説明する。
【0037】
第2ケース46は、ギア44及び付勢部材45を収容する。第2ケース46は、外周部46dにギア44の歯44aが通過するための切り欠き46cが設けられ、底面46bにワイヤ26を通過させるワイヤ孔46eが設けられる。ワイヤ26は、シートフレーム20内を通過するか、又はシートフレーム20に沿って配設される。ワイヤ26の一端は、ギア44に接続され、他端は、レバー23(図1参照)に接続される。
【0038】
ギア44は、例えば、円柱状の部材であり、外周面に少なくとも1つの歯44aが設けられる。ギア44は、歯44aが第1ケース41の切り欠き41h、41i(図5参照)に嵌まることで前脚32の回動をロックする。ギア44の一側面には、ボタン42が設けられ、また、ボタン42とは反対側のギア44の側面には、ワイヤ26が接続される。つまり、第1ケース41及び第2ケース46の内部をギア44の軸方向に沿ってギア44が移動可能なように付勢部材45が設けられ、ボタン42は、ギア44を付勢方向の反対の方向に移動させるために設けられる。また、ワイヤ26は、ギア44を付勢方向の反対の方向に移動させるためにギア44に接続される。
【0039】
ギア44は、第1ケース41と第2ケース46とに約半分ずつ収容されている場合、第1ケース41の回転を(つまり、前脚32の回動を)ロックする。そして、ボタン42が押されるかワイヤ26が引かれた場合は、ギア44の軸方向に沿ってギア44が第1ケース41からステー33側へと移動し、第1ケース41の回転のロックが解除される。
【0040】
次に、図5を参照して、第1ケース41の内部の構造について説明する。
【0041】
第1ケース41の内側の空間は、大きく分けると付勢部材43のコイル部43aを収容するためのコイル収容部41fと、ギア44を収容するためのギア収容部41gとに分かれる。開口41aは、コイル収容部41fの開口部と、ギア収容部41gの開口部とを含む。
【0042】
図5において黒塗りの部分は、外面41cから立ち上がる外周部41dと内周部41eであり、第2ケース46の外周部46dと当接する部分である。内周部41eは、コイル収容部41fとギア収容部41gとを仕切るとともに、ギア44の歯44aが係合する第1切り欠き41h、第2切り欠き41i、及び破線で表すガイド部41jが設けられる。第1切り欠き41h及び第2切り欠き41iは、ギア44の歯44aが係合する第1ケース41の被係合部となる。ガイド部41jは、ギア44の歯44aを摺動可能に案内する。
【0043】
ギア44は、常に歯44aの一部が第2ケース46の切り欠き46cに係合していることからギア44自体は回転せず、第1ケース41がギア44に対して回転することで、歯44aが第1切り欠き41h又は第2切り欠き41iに係合する。ギア44の歯44aの係合位置と前脚32の第1位置、第2位置との関係は、歯44aが第1切り欠き41hと係合している場合に、前脚32は第1位置となる。歯44aが第2切り欠き41iと係合している場合に、前脚32は第2位置となる。このように第1ケース41がギア44に対して回転することで、歯44aは、第1切り欠き41hから第2切り欠き41iまでの間を摺動可能である。このため、前脚32は、第1位置よりも前方には回動できず、また、第2位置よりも後方には回動できない。
【0044】
第1ケース41がギア44に対して回転する際、歯44aとガイド部41jとが接触状態にあり、両者間に当該回転にともなう摩擦力が発生する。そのため、ガイド部41jの面形状を工夫することで、当該摩擦力を軽減することができる。このような摩擦力の調整効果を得るための例として、ガイド部41jを第1切り欠き41hから第2切り欠き41iに向けて下り傾斜又は上り傾斜に形成することや、第1ケース41の内側(図5の紙面手前方向)又は外側(図5の紙面奥方向)に向かって傾斜させてもよい。
【0045】
次に、図6Aから図8を参照して、ベビーカー1の前脚32の回動のさせ方について説明する。図6Aは、ベビーカー1の占有スペースを減少させる前の状態を説明する側面図であり、図6Bは、ベビーカー1の占有スペースを減少させた状態を説明する側面図である。ベビーカー1は、乳幼児が乗車したまま占有スペースを減少させることができるが、図6A図6Bともに説明の便宜のため乳幼児を省略して図示する。図7は、ベビーカー1の占有スペースを減少させた状態を説明する正面図であり、図8は、運行者80が前脚32を第1位置へ回動させる状態を説明する斜視図である。
【0046】
図6Aに示すように、占有スペースを減少させる前のベビーカー1は、前後方向について、前輪31の先端位置(図6AにおけるFの位置)からハンドル22の位置(同Rの位置)までの長さL1を占有する。ここで、ベビーカー1を運行する運行者80は、イス90に着席したまま左右のボタン42を内側へと押し込むことができる。ボタン42が内側へ押し込まれると、回動ロック部40のロックが解除されるため、前脚32は回動が可能な状態となる。そのため、運行者80は、アームレスト24等のベビーカー1の任意の場所を保持してベビーカー1を手前に引き寄せることができる。
【0047】
運行者80がベビーカー1を手前に引き寄せると、まずイス90の足元の部分に前輪31が当接し、続いてイス90の座面の角91に前脚32が当接することで前脚32は徐々に後方へと回動する。前脚32が回動を始めるとギア44の歯44aがガイド部41j(図5参照)を摺動して回動ロック部40のロックが解除された状態が継続するため、運行者80は、ボタン42を押す操作を終了することができる。
【0048】
そして、ベビーカー1を手前に引き寄せる過程において、前脚32が第2位置へと回動すると、付勢部材45(図4参照)の弾性力によりギア44の歯44aが第2切り欠き41i(図5参照)に係合する。これにより、第2位置において前脚32の回動が自動的にロックされる。イス90の角91への当接だけでは前脚32を第2位置に回動させられない場合は、運行者80の手により前脚32を第2位置へ回動させる。
【0049】
図6Bに示すように、占有スペースを減少させた状態のベビーカー1は、ハンドル22の位置(図6BにおいてR’の位置)が運行者80側へと大きく移動するため、RとR’との間の距離であるL2の長さ分の占有スペースが減少する。
【0050】
占有スペースを減少させるにあたっては、ベビーカー1は、運行者80の両脚の上に重なるようにして運行者80の腰付近まで進出することができる。この状態では、前輪31に替わって運行者80の両脚や運行者80の手によってベビーカー1が支持される。なお前脚32が第2位置にある時、ベビーカー1の前方を支持するために、運行者80の両脚の外側においてイス90の座面に達する一対の支持部材(図示省略)が回動ロック部40又はシートフレーム20(図1参照)に設けられてもよい。
【0051】
距離L2の空間は、大人1人が余裕をもって立つことができる空間である。運行者80は、混雑時の電車等にベビーカー1とともに乗車しても、L2分の占有スペースを減少させることで周囲への配慮を示すことができる。このため、混雑時であっても運行者80は肩身の狭い思いをせずにベビーカー1とともに電車等に乗車して着席することができる。
【0052】
図7に示すように、占有スペースを減少させた状態では、運行者80と乳幼児とが対面し、両者の距離が近くなるため、運行者80は乳幼児の世話が容易となる。また、乳幼児はベビーカー1に乗ったまま運行者80の顔を間近に見ることができるため安心する。このため、ベビーカー1は、電車内等において乳幼児が泣くことを抑制でき、他の乗客にストレスを与えることを低下させることができる。このほか、ベビーカー1に乗ったままの乳幼児と運行者80との距離が近いため、乳幼児と運行者との声が自然と小さくなり、他の乗客の迷惑となりにくい。
【0053】
次に、運行者80が着席した状態から立ち上がって前脚32を第2位置から第1位置へ回動させる流れを説明する。
【0054】
運行者80が立ち上がる場合は、図7に矢印で示すように、運行者80はアームレスト24やフロントガード25等のベビーカー1の任意の場所を保持しながら、体を左右のどちらかに移動させることが好適である。ベビーカー1を後方へと移動させずに体を横に移動させることは、乗車車両が揺れる等によって運行者80によるベビーカー1の支持が失われても、イス90によってベビーカー1が前方より支持されて安全なためである。ここで、運行者80が立ち上がる場合は、運行者80とは別の者がハンドル22を持って後方からベビーカー1を支持することも好適な態様のひとつである。
【0055】
そして、図8に示すように、ベビーカー1を支えたまま運行者80が立ち上がり、フロントガード25とハンドル22とを保持しつつレバー23を操作すると、回動ロック部40のロックが解除されて前脚32が第1位置へ回動する。この時、付勢部材43(図4参照)による弾性力と、ギア44の歯44aとの摩擦力を軽減させるガイド部41j(図5参照)とにより、前脚32は、第2位置から第1位置に向かってスムーズに回動する。
【0056】
そして、前脚32が第1位置に回動すると、付勢部材45によって付勢されるギア44の歯44a(図4参照)が第1切り欠き41h(図5参照)に係合して前脚32の回動がロックされる。前脚32が第1位置に回動した際に、歯44aと第1切り欠き41hとの当接音及びギア44と第1ケース41との当接音が発生するため、第1位置において前脚32の回動がロックされてベビーカー1の運行が可能であることを運行者80に認識させる一助となる。
【0057】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0058】
ベビーカー1は、シート10を支持するシートフレーム20と、前輪31を有してシートフレーム20の前部を支持し、前輪31が接地してベビーカー1が走行可能な状態となる第1位置と、シートフレーム20の底面に沿うように折り畳まれる第2位置と、の間で、シートフレーム20に対して回動可能な前脚32と、後輪51を有してシートフレーム20の後部を支持する後脚52と、を備える。
【0059】
この構成によれば、シートフレーム20の前部を支持する前脚32は、前輪31が接地してベビーカー1が走行可能な状態となる第1位置と、シートフレーム20の底面に沿うように折り畳まれる第2位置と、の間で回動可能である。そのため、前脚32を第2位置に回動させることで、ベビーカー1の運行者が着席している状態で、両脚の上にシートが位置するようにベビーカー1を置くことができる。したがって、乳幼児がベビーカー1に乗った状態でも占有スペースを減少可能なベビーカー1が提供される。
【0060】
そして、ベビーカー1のシート10が運行者80の両脚の上に重なることで、ベビーカー1に乗る乳幼児と運行者80とが対面して通常よりも近くなり、運行者80は乳幼児の世話が容易となる。また、乳幼児は、ベビーカー1に乗ったままであり、運行者80の顔を間近に見ることができるため、乳幼児に安心感を与えることができる。
【0061】
また、ベビーカー1は、前脚32を第1位置に向かって回動するように付勢する付勢部材43と、前脚32の回動をロックする回動ロック部40と、を更に備え、回動ロック部40は、第1位置及び第2位置にて前脚32の回動をロックするギア44を有し、ギア44は、第2の付勢部材45によってギア44の軸方向に付勢されるとともに回動ロック部40内において軸方向に移動可能であり、回動ロック部40内での位置に応じて前脚32の回動のロックを解除する。
【0062】
この構成によれば、回動ロック部40内でのギア44の位置に応じて前脚32の回動をロックしたり、回動のロックを解除したりすることができるため、簡易な構造によって、前脚32の回動のロック及び回動のロックの解除が可能である。また、付勢部材43により、前脚32が第1位置に向かって回動するように付勢されるため、第2位置にある前脚32を第1位置に回動させる場合に、第2位置にて前脚32の回動のロックを解除すると自動で前脚32が第1位置へ回動する。特に、前脚32が第2位置にある場合は、前脚32に代わって運行者80がベビーカー1を支える必要があるため、前脚32を第1位置に回動させるにあたり、付勢部材43により前脚32が自動で回動することは運行者80の負荷を軽減する。
【0063】
また、ベビーカー1は、ギア44にギア44の付勢方向の反対側に向けてギア44を押して移動させるためのボタン42が接続される。
【0064】
この構成によれば、運行者80がボタン42を押すことでギア44を移動させて前脚32の回動のロックを解除することができる。ボタン42も回動ロック部40に設けられることから、回動ロック部40とは別にボタン42の設置場所を設ける必要がなく省スペースとなる。
【0065】
また、ベビーカー1は、ギア44の付勢方向の反対側に向けてギア44を引いて移動させるためのワイヤ26が接続される。
【0066】
この構成によれば、運行者80がワイヤ26を引くことでギア44を移動させて前脚32の回動のロックを解除することができる。そして、ワイヤ26を引くためのレバー23をハンドル22等の運行者80が操作し易い場所に設けることで、着席していた運行者80が立ち上がった後に前脚32を第1位置へ回動させることが容易となる。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0068】
1 ベビーカー
10 シート
20 シートフレーム
26 ワイヤ
30 前輪フレーム
40 回動ロック部
41 第1ケース
42 ボタン
43 付勢部材
45 付勢部材(第2の付勢部材)
46 第2ケース
50 後輪フレーム
80 運行者
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8