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  • 特許-蒸留装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】蒸留装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 3/14 20060101AFI20241022BHJP
   B01D 3/42 20060101ALI20241022BHJP
   C07C 7/04 20060101ALI20241022BHJP
   C07C 9/08 20060101ALN20241022BHJP
   C07C 7/00 20060101ALN20241022BHJP
【FI】
B01D3/14 Z
B01D3/42
C07C7/04
C07C9/08
C07C7/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020164680
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056759
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390036663
【氏名又は名称】木村化工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】重 洋一
(72)【発明者】
【氏名】池田 博史
(72)【発明者】
【氏名】竹森 勇
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特許第6612936(JP,B2)
【文献】特開昭60-168501(JP,A)
【文献】特開昭60-125201(JP,A)
【文献】特開2015-221411(JP,A)
【文献】特開2014-061484(JP,A)
【文献】特公昭49-039653(JP,B1)
【文献】特開昭51-134379(JP,A)
【文献】特表2013-518821(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111302922(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 3/00-3/42
C07B 61/00
C07C 7/04
C07C 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧下における沸点が20℃以下である低沸点成分を、大気圧下における沸点が40℃を超える高沸点成分よりも少ない割合で含有する原料液の蒸留を行う第1蒸留塔と、
前記第1蒸留塔の、温度が105℃以上195℃以下の塔底液を再加熱するリボイラと、
前記第1蒸留塔の塔頂から取り出される第1塔頂ベーパを、熱回収コンデンサ用循環水により冷却して、第1凝縮液と、前記第1凝縮液よりも前記低沸点成分を高い割合で含む第1ベーパとに分離する一方、前記熱回収コンデンサ用循環水を前記第1塔頂ベーパの有する熱エネルギーにより蒸発させて、温度が102℃以上192℃未満の蒸気を発生させるように構成された熱回収コンデンサと、
前記熱回収コンデンサで発生させた、温度が102℃以上192℃未満の前記蒸気を電力により圧縮し、温度レベルを上げて、前記リボイラに、温度が110℃以上200℃未満で、かつ前記熱回収コンデンサで発生させた前記蒸気よりも温度が8℃以上98℃以下の範囲で高い圧縮蒸気として供給するように構成された蒸気圧縮機と、
前記熱回収コンデンサにおける不凝縮分である前記第1ベーパを、下記第2凝縮液と気液接触させて蒸留する第2蒸留塔と、
前記第2蒸留塔の塔頂から取り出される第2塔頂ベーパを、コンデンサ用循環チラー水により冷却して、第2凝縮液と、前記低沸点成分を主成分とする留出ガスに分離するコンデンサと、
前記熱回収コンデンサにおける前記第1凝縮液を、前記第1蒸留塔用の還流液として前記第1蒸留塔に還流させる第1還流路と、
前記コンデンサにおける前記第2凝縮液の一部を、前記第2蒸留塔用の還流液として前記第2蒸留塔に還流させる第2還流路とを備え、
前記圧縮蒸気の温度が110℃以上200℃未満、前記熱回収コンデンサで発生させた前記蒸気の温度が102℃以上192℃未満、前記圧縮蒸気の温度が前記熱回収コンデンサで発生させた前記蒸気の温度よりも8℃以上98℃以下の範囲で高く、かつ、前記第1蒸留塔の前記塔底液の温度が105℃以上195℃以下という条件が確保される操作圧となるように、系内の圧力制御が行われるように構成されていること
を特徴とする蒸留装置。
【請求項2】
前記圧縮蒸気の温度が110℃以上200℃未満、
前記熱回収コンデンサ用循環水の温度が102℃以上192℃未満、
前記圧縮蒸気の温度が、前記熱回収コンデンサで発生させた前記蒸気の温度よりも20℃以上60℃以下の範囲で高く、かつ、
前記第1蒸留塔の塔底液の温度が105℃以上195℃以下となるように構成されていること
を特徴とする請求項1記載の蒸留装置。
【請求項3】
前記第1蒸留塔に供給される前記原料液に含まれる前記低沸点成分の濃度が0.1wt%以上20wt%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の蒸留装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留装置に関し、詳しくは、大気圧下における沸点が20℃以下である低沸点成分を、大気圧下における沸点が40℃を超える高沸点成分よりも少ない割合で含有する原料液を、エネルギー効率よく蒸留して、高沸点成分と低沸点成分とを分離するための蒸留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸留操作は、通常では蒸気を使用する為、高エネルギー消費型の装置として長年その省エネルギー化が課題とされていた。
【0003】
近年には、汎用ヒートポンプで蒸留塔の塔頂から取り出されるベーパを冷却するためのコンデンサにおいて用いられたコンデンサ用循環水(冷却水)から熱を回収し、リボイラの加熱源とする省エネルギー型の蒸留装置が開発されている。
【0004】
しかし、上記コンデンサ用循環水(冷却水)から、汎用ヒートポンプで熱を回収し、リボイラの加熱源とする方法では、必ずしも十分な省エネルギー効果を得ることができない場合も少なくないのが実情である。
【0005】
また、最近では、蒸留塔の中間部に熱回収コンデンサを設け、この熱回収コンデンサ用の冷却水(熱回収コンデンサで用いられて昇温した冷却水)から、ヒートポンプで熱を汲み上げて、リボイラ(ボトムリボイラ)の熱源として用いることで、ヒートポンプの効率を最大限に発揮させるようにした蒸留装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
そして、この特許文献1の蒸留装置によれば、ヒートポンプを効率よく稼働させて、省エネルギー性に優れた蒸留装置を実現することが可能になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6612936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1の蒸留装置においては、上述のように、蒸留塔の中間部に設けた熱回収コンデンサ用の冷却水(熱回収コンデンサで用いられて昇温した冷却水)を熱源水とし、この熱源水からヒートポンプにより熱を汲み上げて、ボトムリボイラの熱源として用いるようにしているが、蒸留塔の塔底温度が高くなると、ヒートポンプの圧縮度が高くなり、得られるCOP(成績係数)が小さくなる。
【0009】
さらに、蒸留塔の塔底温度が100℃近くにまで上昇すると、熱回収コンデンサ用の冷却水を熱源水とするヒートポンプでは、上記リボイラ(ボトムリボイラ)の熱源として用いることができるような温度にまで温度レベルを上げることができなくなり、蒸留装置を適正に稼働させることができなくなってしまうという課題がある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであり、大気圧下における沸点が20℃以下である低沸点成分を、大気圧下における沸点が40℃を超える高沸点成分よりも少ない割合で含有する原料液を、エネルギー効率よく蒸留して、高沸点成分と低沸点成分とを分離することが可能な蒸留装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の蒸留装置は、
大気圧下における沸点が20℃以下である低沸点成分を、大気圧下における沸点が40℃を超える高沸点成分よりも少ない割合で含有する原料液の蒸留を行う第1蒸留塔と、
前記第1蒸留塔の、温度が105℃以上195℃以下の塔底液を再加熱するリボイラと、
前記第1蒸留塔の塔頂から取り出される第1塔頂ベーパを、熱回収コンデンサ用循環水により冷却して、第1凝縮液と、前記第1凝縮液よりも前記低沸点成分を高い割合で含む第1ベーパとに分離する一方、前記熱回収コンデンサ用循環水を前記第1塔頂ベーパの有する熱エネルギーにより蒸発させて、温度が102℃以上192℃未満の蒸気を発生させるように構成された熱回収コンデンサと、
前記熱回収コンデンサで発生させた、温度が102℃以上192℃未満の前記蒸気を電力により圧縮し、温度レベルを上げて、前記リボイラに、温度が110℃以上200℃未満で、かつ前記熱回収コンデンサ用循環水よりも温度が8℃以上98℃以下の範囲で高い圧縮蒸気として供給するように構成された蒸気圧縮機と、
前記熱回収コンデンサにおける不凝縮分である前記第1ベーパを、下記第2凝縮液と気液接触させて蒸留する第2蒸留塔と、
前記第2蒸留塔の塔頂から取り出される第2塔頂ベーパを、コンデンサ用循環チラー水により冷却して、第2凝縮液と、前記低沸点成分を主成分とする留出ガスに分離するコンデンサと、
前記熱回収コンデンサにおける前記第1凝縮液を、前記第1蒸留塔用の還流液として前記第1蒸留塔に還流させる第1還流路と、
前記コンデンサにおける前記第2凝縮液の一部を、前記第2蒸留塔用の還流液として前記第2蒸留塔に還流させる第2還流路とを備え、
前記圧縮蒸気の温度が110℃以上200℃未満、前記熱回収コンデンサで発生させた前記蒸気の温度が102℃以上192℃未満、前記圧縮蒸気の温度が前記熱回収コンデンサで発生させた前記蒸気の温度よりも8℃以上98℃以下の範囲で高く、かつ、前記第1蒸留塔の前記塔底液の温度が105℃以上195℃以下という条件が確保される操作圧となるように、系内の圧力制御が行われるように構成されていること
を特徴としている。
【0012】
本発明の蒸留装置においては、
前記圧縮蒸気の温度が110℃以上200℃未満、
前記熱回収コンデンサ用循環水の温度が102℃以上192℃未満、
前記圧縮蒸気の温度が、前記熱回収コンデンサで発生させた前記蒸気の温度よりも20℃以上60℃以下の範囲で高く、かつ、
前記第1蒸留塔の塔底液の温度が105℃以上195℃以下となるように構成されていること
が好ましい。
【0013】
また、前記第1蒸留塔に供給される前記原料液に含まれる前記低沸点成分の濃度が0.1wt%以上20wt%以下となるようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の蒸留装置は、上述のように構成されており、熱回収コンデンサにおいて、第1塔頂ベーパを熱回収コンデンサ用循環水により冷却して、第1凝縮液と、第1凝縮液よりも低沸点成分を高い割合で含む第1ベーパとに分離する一方、熱回収コンデンサ用循環水を蒸発させて、温度が102℃以上192℃未満の蒸気を発生させ、蒸気圧縮機において、熱回収コンデンサで発生させた前記蒸気を電力により圧縮し、温度レベルを上げて、リボイラに、110℃以上200℃未満で、かつ、熱回収コンデンサ用循環水よりも温度が8℃以上98℃以下の範囲で高い圧縮蒸気として供給できるようにするとともに、圧縮蒸気の温度が110℃以上200℃未満、熱回収コンデンサで発生させた前記蒸気の温度が102℃以上192℃未満、圧縮蒸気の温度が熱回収コンデンサで発生させた前記蒸気の温度よりも8℃以上98℃以下の範囲で高く、かつ、第1蒸留塔の塔底液の温度が105℃以上195℃以下という条件が確保される操作圧となるように、系内の圧力制御が行われるように構成されているので、熱回収コンデンサを、ボイラのような蒸気発生装置として機能させることが可能になり、発生させた蒸気を例えば汎用のスクリュー式の蒸気圧縮機により断熱圧縮して、塔底温度以上にまで温度レベルを上げて、第1蒸留塔のリボイラにおける加熱源として有効に用いることが可能になる。
【0015】
すなわち、本発明の蒸留装置においては、蒸留塔として、第1蒸留塔と第2蒸留塔を備えた構成とし、蒸留装置の系内を加圧状態に保持することで、第2蒸留塔の塔頂ベーパの温度が、汎用チラー装置で所定の温度に冷却されたチラー水により冷却可能な温度になるようにする一方、第1蒸留塔の塔頂ベーパから熱回収を行うための熱回収コンデンサを配設し、この熱回収コンデンサ用循環水(冷却水)が100℃以上の高温にまで加熱されるように構成して、熱回収コンデンサ用循環水(冷却水)を蒸発させるとともに、蒸発した蒸気(加圧蒸気)を、蒸気圧縮機で断熱圧縮して温度レベルを上げ、リボイラの加熱源として用いるようにしている。言い換えると、本発明の蒸留装置においては、熱回収コンデンサを、ボイラのような蒸気発生装置として機能させるとともに、発生させた蒸気を例えば汎用のスクリュー式の蒸気圧縮機により断熱圧縮して、塔底温度以上にまで温度レベルを上げて、第1蒸留塔のリボイラにおける加熱源として有効に用いることができるようにしているので、省エネルギー効率の高い蒸留を行うことが可能になる。
【0016】
また、本発明の蒸留装置においては、熱回収コンデンサで蒸発し、蒸気圧縮機で圧縮されてリボイラの加熱源として用いられることにより凝縮した水(熱回収コンデンサ用循環水(冷却水))を、熱回収コンデンサに供給して、冷却水として循環使用するようにしている。このように、水を加熱冷却媒体とすることで、炭化水素系の物質を加熱冷却媒体として用いる場合に比べて、蒸気圧縮機の機種選定の自由度をはじめとして、設計の自由度が向上し、蒸留装置の製造コストの低減を図ることが可能になる。
【0017】
また、本発明の蒸留装置においては、上述のように水を加熱冷却媒体として用いるようにしているので、原料液に含まれる低沸点成分および高沸点成分(通常は可燃物質である炭化水素などの有機物)の蒸気を直接に断熱圧縮する場合(すなわち、自己蒸気圧縮型の蒸留装置として構成した場合)と比較して、タービンの羽根などの回転物の接触事故などによる火花の発生や、それに起因する爆発事故のリスクを減らすことが可能になり、安全性を向上させることができる。
【0018】
さらに、水蒸気は、炭化水素ガスと比較して、比容積(m3/kg)が小さく、かつ、蒸発潜熱が3~5倍程度大きいことから、蒸気圧縮機を小型にすることが可能になる。
【0019】
また、加熱冷却媒体として用いられている水蒸気は炭化水素ガスと比較して比熱が大きく、かつスーパーヒートが小さい点でも、蒸気圧縮機により圧縮して熱回収を行うための媒体として優れている。
【0020】
さらに、リボイラで凝縮した水は、再び熱回収コンデンサに送られ、蒸気とするため、水が無限循環する結果となる。このように、水を加熱冷却媒体にすることで、蒸気圧縮機の選択の自由度が大きくなり、設備コストの低減を図ることが可能になる。
【0021】
なお、本発明では、第1蒸留塔の塔頂ベーパである第1塔頂ベーパを熱回収コンデンサに導いて熱回収するようにしているが、第1蒸留塔と第2蒸留塔を一つの蒸留塔として構成した場合における第1蒸留塔と第2蒸留塔の間の位置(蒸留塔中間部)からベーパを抜き出して熱回収コンデンサに導くように構成することも可能である。
【0022】
なお、本発明において、原料液を、低沸点成分の割合が高沸点成分の割合よりも少ない原料液に限定するようにしているのは、低沸点成分の割合が高沸点成分の割合よりも少ない原料液での蒸留では、蒸留塔内の熱需要が回収部に集中するため、中間段に熱回収コンデンサを追加し、還流することで塔頂にあるコンデンサでの還流量を削減し、チラーの動力を削減するとともに、熱回収コンデンサで発生した蒸気を蒸気圧縮機で断熱圧縮し、リボイラの加熱源とすることが可能になることによる。逆に低沸点成分の割合が高沸点成分の割合よりも多い原料液の場合には、蒸留塔内の熱需要が濃縮部に集中するため、本発明を適用することができないことによる。
なお、本発明においては、原料液の低沸点成分の割合が高沸点成分の割合よりもより少ないほど省エネルギー効果は高くなる。
【0023】
また、圧縮蒸気の温度が110℃以上200℃未満、熱回収コンデンサ用循環水の温度が102℃以上192℃未満、圧縮蒸気の温度が、熱回収コンデンサで発生させた蒸気の温度よりも20℃以上60℃以下の範囲で高く、かつ、第1蒸留塔の塔底液の温度が105℃以上195℃以下となるように構成した場合、蒸気圧縮機への付加をさらに低減して、より省エネルギー性に優れた蒸留装置を提供することができる。
【0024】
また、第1蒸留塔に供給される原料液に含まれる低沸点成分の濃度が0.1wt%以上20wt%以下となるように構成した場合、さらにエネルギー効率よく蒸留を行って、高沸点成分と低沸点成分とを効率よく分離することが可能な蒸留装置を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態にかかる蒸留装置の構成を示すフローシートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【0027】
なお、本実施形態では、低沸点成分であるプロパンを2wt%、高沸点成分であるベンゼンを98wt%含有する原料液を蒸留してプロパンとベンゼンを分離するための蒸留装置を例にとって説明する。
【0028】
本実施形態にかかる蒸留装置100は、熱圧縮機を用いて省エネルギー性の向上を図った蒸留装置である。
【0029】
図1に示すように、本実施形態にかかる蒸留装置100は、大気圧下における沸点が-42℃の低沸点成分であるプロパン2wt%と、大気圧下における沸点が80.1℃の高沸点成分であるベンゼン98wt%を含有する原料液(供給液)の蒸留を行う第1蒸留塔1と、第1蒸留塔の塔底液を再加熱するリボイラ1aを備えている。なお、本実施形態では、第1蒸留塔1として、泡鍾塔が用いられている。
【0030】
また、本実施形態にかかる蒸留装置100では、リボイラ1aとして、液膜降下式の熱交換器が用いられている。
【0031】
なお、本実施形態にかかる蒸留装置100では、原料液は、予熱器41において第1蒸留塔の塔底液(163℃)と熱交換させることにより150℃に予熱された後、第1蒸留塔1に供給されるように構成されている。なお、予熱器41としては、多管型熱交換器が用いられている。
【0032】
また、本実施形態にかかる蒸留装置100は、第1蒸留塔1の塔頂から取り出される123℃の第1塔頂ベーパを、熱回収コンデンサ用循環水(冷却水)により冷却する熱回収コンデンサ11を備えている。
【0033】
この熱回収コンデンサ11は、熱回収コンデンサ用循環水(冷却水)により第1塔頂ベーパ(123℃)を冷却して、第1凝縮液と、第1凝縮液よりも低沸点成分であるプロパンを高い割合で含む第1ベーパとに分離するとともに、熱回収コンデンサ用循環水を第1塔頂ベーパの有する熱エネルギーにより蒸発させて、温度が119℃の蒸気を発生させることができるように構成されている。
【0034】
なお、本実施形態にかかる蒸留装置100では、熱回収コンデンサ11として、液膜降下式の熱交換器が用いられている。
【0035】
熱回収コンデンサ11における第1凝縮液は、第1還流路31を経て、第1蒸留塔用の還流液として第1蒸留塔1の塔頂に還流されるように構成されている。
【0036】
さらに、蒸留装置100は、熱回収コンデンサ11で発生させた、温度が102℃以上192℃未満(本実施形態では119℃)の蒸気を電力により圧縮する蒸気圧縮機20を備えている。
【0037】
この蒸気圧縮機20は、上述の、熱回収コンデンサ11で発生させた、温度が102℃以上192℃未満(本実施形態では119℃)の蒸気を、温度レベルを上げて、リボイラ1aに、温度が110℃以上200℃未満(本実施形態では167℃)で、かつ熱回収コンデンサ用循環水よりも温度が8℃以上98℃以下の範囲で高い(本実施形態では167℃-119℃=48℃高い)圧縮蒸気として供給することができるように構成されている。
【0038】
蒸気圧縮機20としては、汎用のスクリュー式蒸気圧縮機が用いられている。本実施形態の蒸留装置100では、上述のように昇温幅が48℃と、それほど大きくならないように構成されており、圧縮の程度をそれほど大きくする必要がなくなるため、汎用のスクリュー式蒸気圧縮機を用いることが可能になり、設備コストの増大を抑制することができる。
【0039】
なお、圧縮蒸気の温度が、熱回収コンデンサ11で発生させた蒸気の温度よりも20℃以上60℃以下の範囲で高くなるように構成した場合、蒸気圧縮機20への付加をさらに低減して、より省エネルギー性に優れた蒸留装置を提供することができる。
【0040】
なお、熱回収コンデンサ11で発生させた蒸気は、セパレータ21を経て、蒸気圧縮機20に供給されるように構成されている。
【0041】
また、リボイラ1aには、167℃以上の蒸気が、補助蒸気として供給されるように構成されている。
【0042】
また、蒸留装置100は、熱回収コンデンサ11における不凝縮分である前記第1ベーパを、蒸留する第2蒸留塔2と、第2蒸留塔2の塔頂から取り出される、温度が21.7℃の第2塔頂ベーパを、チラーユニット55により冷却された、温度が7.4℃のコンデンサ用循環チラー水により冷却して、第2凝縮液と、プロパン(低沸点成分)を主成分とする留出ガスに分離するコンデンサ22を備えている。
【0043】
なお、本実施形態では、第2蒸留塔2として、第1蒸留塔1と同様に、泡鍾塔が採用されている。
なお、コンデンサ22としては、多管型熱交換器が用いられている。
【0044】
また、コンデンサ22で凝縮した第2凝縮液は、全量が第2還流路32を経て、第2蒸留塔2の塔頂に還流される。
【0045】
また、コンデンサ22で使用され温度が12.4℃に上昇したコンデンサ用循環チラー水は、チラーユニット55に戻されて7.4℃に冷却され、再びコンデンサ22に循環される。
【0046】
そして、この蒸留装置100においては、上述の蒸気圧縮機20で圧縮された圧縮蒸気の温度が110℃以上200℃未満(本実施形態では167℃)、熱回収コンデンサ11で発生させた蒸気の温度が102℃以上192℃未満(本実施形態では119℃)、圧縮蒸気の温度が熱回収コンデンサ11で発生させた蒸気の温度よりも8℃以上98℃以下の範囲で高く(本実施形態では167℃-119℃=48℃高く)、かつ、第1蒸留塔1の塔底液の温度が105℃以上195℃以下(本実施形態では163℃)という条件が確保される操作圧(本実施形態では0.63MPa)となるように、系内の圧力制御を行うことができるように構成されている。
【0047】
すなわち、本実施形態では、コンデンサ22で冷却して15.4℃の留出ガスを取り出すためのラインに圧力調整弁60が設けられており、系内の圧力が0.63MPaに維持されるように構成されている。
【0048】
なお、本実施形態では、0.63MPaの加圧状態となるように圧力が調整されている蒸留装置100の系内に、予熱器41を経て原料液を供給するための原料液供給ポンプを備えているが、図1では、原料液供給ポンプの図示を省略している。
【0049】
ただし、原料液が0.63MPa以上の加圧下で操作されている前工程から供給されるような場合には、特に原料液供給ポンプを設ける必要はない。
【0050】
上述のように構成された蒸留装置100においては、高沸点成分であるベンゼンを98wt%、低沸点成分であるプロパンを2wt%含有する、温度が100℃の原料液が、50000kg/hの割合で、予熱器41を経て、150℃に予熱された状態で第1蒸留塔1に供給される。
【0051】
そして、第1蒸留塔の塔底から、高沸点成分であるベンゼンを99.9999wt%、低沸点成分であるプロパンを0.0001wt%含有する、温度が163℃の缶出液が49000kg/hの割合で回収される。
【0052】
また、第2蒸留塔2の第2塔頂ベーパを冷却するコンデンサ22で凝縮しなかった不凝縮ガスとして、温度が15.4℃、圧力が0.63MPaの留出ガスが、1000kg/hの割合で回収される。留出ガスは、高沸点成分であるベンゼン0.01wt%と、低沸点成分であるプロパン99.99wt%とを含有している。
【0053】
次に、本実施形態にかかる蒸留装置100の特徴について、さらに詳しく説明する。
本実施形態における原料液(98wt%ベンゼン、2wt%プロパンの混合液)を、大気圧蒸留によって、塔頂のガス組成が99.99wt%プロパン、0.01wt%ベンゼンとなり、塔底の液組成が0.0001wt%プロパン、99.9999wt%ベンゼンとなるように蒸留する場合について考えると、圧損を考慮しない場合、塔頂温度が約-42℃(プロパンの沸点)、塔底温度が約80.1℃(ベンゼンの沸点)となり、温度差が122.1℃となり、塔頂温度が低すぎて、実際の蒸留装置としては、実現することは困難である。
【0054】
これに対し、蒸留塔の操作圧力(系内圧力)を例えば0.63MPa(加圧)にした場合、塔頂温度(第2蒸留塔2の塔頂温度)は21.7℃となり、汎用チラー水で冷却することができるので、実用性のある蒸留装置として実現することが可能になる。そして、この条件(0.63MPa)での塔底温度(第1蒸留塔1の塔頂温度)は163℃となる。
【0055】
このような考え方から、本実施形態にかかる蒸留装置100では、操作圧(系内圧力)は0.63MPaとしている。
【0056】
そして、上の実施形態でも説明しているように、設計条件を以下の通りとしている。
【0057】
(1)設計条件
(1-1)原料液(供給液)組成
高沸点成分:ベンゼン98wt%
低沸点成分:プロパン 2wt%
(1-2)原料液(供給液)供給量:50000kg/h
(1-3)操作圧(系内圧力):0.63MPa
(1-4)第1蒸留塔への原料液供給温度:150℃
(1-5)留出ガス(第2蒸留塔の留出ガス)組成
低沸点成分:プロパン99.99wt%
高沸点成分:ベンゼン 0.01wt%
(1-6)缶出液(第1蒸留塔塔底液)組成
高沸点成分:ベンゼン99.9999wt%
低沸点成分:プロパン 0.0001wt%
【0058】
(2)次に、上記実施形態にかかる蒸留装置の省エネルギー性について検討する。
ここでは、省エネルギー効果を確認するため、ボイラで発生させた蒸気をエネルギーとして用いる「従来の蒸気式の蒸留装置」と、上述の「本実施形態にかかる蒸留装置100」のそれぞれにおける消費エネルギーを求めた。
なお、消費エネルギーは、1次エネルギー換算で計算し評価した。
【0059】
(2-1)従来の蒸気式の蒸留装置のエネルギー消費量
・蒸気加熱量:1100kW
・チラー電力:135.9kW
・1次エネルギー(1次エネルギー換算係数:2.57として換算)
・1次エネルギー=1100kW+135.9kW×2.57
=1449.3kW
(2-2)本発明の実施形態にかかる蒸留装置のエネルギー消費量
・蒸気加熱量:336.2kW
・蒸気圧縮機電力:130.4kW
・チラー電力:20.8kW
・1次エネルギー(1次エネルギー換算係数:2.57として換算)
1次エネルギー=336.2kW+(130.4+20.8)kW×2.57=724.8kW
【0060】
以上のように、「従来の蒸気式の蒸留装置」における、1次エネルギー換算でのエネルギー消費量は1449.3kWであるのに対して、「本実施形態にかかる蒸留装置100」においては724.8kWとなる。
したがって、1次エネルギー削減率は、
{(1449.3-724.8)/1449.3}×100=50.0%
となり、「本実施形態にかかる蒸留装置100」によれば、消費エネルギーを「従来の蒸気式の蒸留装置」の消費エネルギーの1/2にまで削減できることがわかる。
【0061】
次に、これまでの説明と一部重複する部分もあるが、本実施形態にかかる蒸留装置100の特徴的構成について要約して説明する。
【0062】
上述したように、本実施形態にかかる蒸留装置100は、蒸留塔が第1蒸留塔1と、第2蒸留塔2の2つの蒸留塔に分離された2塔式の蒸留装置として構成されている。
【0063】
そして、第1蒸留塔1の塔頂ベーパ(第1塔頂ベーパ)は、熱回収コンデンサ11に送られて、熱回収コンデンサ用循環液により冷却され、凝縮液(第1凝縮液)は第1蒸留塔1の塔頂に還流される。
【0064】
一方、熱回収コンデンサ用循環液(冷却水)(の一部)は、第1塔頂ベーパの有する熱エネルギーにより蒸発し、蒸気圧縮機20に送られる。したがって、熱回収コンデンサ11は、熱回収蒸気側からみて蒸気発生器としての機能を果たすことになる。
【0065】
熱回収コンデンサ11に供給される第1塔頂ベーパの温度は123℃であり、熱回収コンデンサ11で発生する蒸気の温度は119℃となる。
【0066】
リボイラ1aの加熱には、蒸気圧縮機20から供給される蒸気777.8kWと、補助蒸気(ユーティリティー)として供給される蒸気336.2kW(535kg/h)の両方が使用されており、合計熱量合計は1114kWとなる。
【0067】
なお、熱回収コンデンサでの回収熱量は625kWであるのに対し、蒸気圧縮機20から供給される蒸気の熱量は777.8kWと大きな値となっているが、これは、蒸気圧縮機20に、デスーパーヒート水が供給されることと、リボイラでの凝縮水をドレンポンプでセパレータに送り、熱回収するように構成されていることによる(図1参照)。
【0068】
リボイラ1aで凝縮した蒸気ドレンは、再度セパレータ21に供給され蒸気となる。
【0069】
なお、本実施形態にかかる蒸留装置100においては、図1に示すように、補助蒸気としてリボイラ1aに供給された熱量が過多となるので、熱回収コンデンサ循環ポンプからドレンの所定量が系外に排出されることで、熱収支がバランスするように構成されている。
【0070】
また、熱回収コンデンサ11で凝縮した第1塔頂ベーパの凝縮液(第1凝縮液)は還流液として第1蒸留塔1に戻り、熱回収コンデンサ11で凝縮しなかった219.8kWのベーパは、第2蒸留塔2の塔底に送られ、第2蒸留塔2での蒸留に供給されることになる。
【0071】
また、第2蒸留塔2の塔頂ベーパはコンデンサ22に送られ、コンデンサ22で凝縮した液は全量が第2蒸留塔用の還流液として第2蒸留塔に戻される。
【0072】
ここで、第1蒸留塔1に供給される熱量は、844.8kWであるのに対し、第2蒸留塔2に供給される熱量は、熱回収コンデンサ11で凝縮した残りの熱量219.8kWとなる。したがって、第2蒸留塔2を通過する気液量は第1蒸留塔1を通過する気液量よりも小さくなり、第2蒸留塔2を小型化することが可能になる。具体的には、第2蒸留塔2の塔径を第1蒸留塔1の約1/2とすることが可能になり、設備の小型化、設備コストの低減を図ることができる。
【0073】
また、コンデンサ22で凝縮しなかったベーパは、圧力が0.63MPaで、プロパン99.99wt%、ベンゼン0.01wt%を含む留出ガス(精製ガス)として、1000kg/hの割合で抜き出され、回収されることになる。
【0074】
一方、第1蒸留塔1の塔底液は、缶出液ポンプから99.9999wt%ベンゼン、プロパン0.0001wt%を含む缶出液として抜き出され、回収されることになる。
【0075】
本実施形態にかかる蒸留装置100は、上述のように構成されており、その結果として、所定の低沸点成分と高沸点成分を含有する原料液を、エネルギー効率よく蒸留して、高沸点成分と低沸点成分とを分離することができる。
【0076】
なお、本実施形態にかかる蒸留装置100では、第1蒸留塔1および第2蒸留塔2として、泡鍾塔を採用しているが、第1蒸留塔1および第2蒸留塔2の構成に特別の制約はなく、不規則充填物を使用した充填塔など、他の形式の蒸留塔を採用することも可能である。
【0077】
また、本実施形態にかかる蒸留装置100では、リボイラ1aおよび熱回収コンデンサ11に、液膜降下式の熱交換器を用いているが、本発明の蒸留装置においては、リボイラ1aおよび熱回収コンデンサ11の構成に特別の制約はなく、他の形式の熱交換器を用いることも可能である。
【0078】
さらに、本実施形態にかかる蒸留装置100では、コンデンサ22および予熱器41に、多管型熱交換器を用いているが、本発明の蒸留装置においては、コンデンサ22および予熱器41の構成に特別の制約はなく、他の形式の熱交換器を用いることも可能である。
【0079】
また、本実施形態にかかる蒸留装置100では、蒸気圧縮機20として、汎用のスクリュー式蒸気圧縮機を採用して、設備コストの増大を抑制するようにしているが、蒸気圧縮機20として他の形式の蒸気圧縮機を用いることも可能である。
【0080】
また、上記実施形態では、原料液が、高沸点成分としてベンゼン、低沸点成分としてプロパンを含むものである場合を例にとって説明したが、原料液はこれに限定されるもではなく、高沸点成分がトルエン、キシレンなどであり、低沸点成分が、ブタン、プロピレンなどである場合にも本願発明を適用することが可能である。
【0081】
本発明は、さらにその他の点においても上記実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲内において、応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 第1蒸留塔
2 第2蒸留塔
1a リボイラ
11 熱回収コンデンサ
20 蒸気圧縮機
21 セパレータ
22 コンデンサ
31 熱回収コンデンサの凝縮液を第1蒸留塔に還流させる第1還流路
32 コンデンサの凝縮液を第2蒸留塔に還流させる第2還流路
41 予熱器
55 チラーユニット
60 圧力調整弁
100 蒸留装置
図1