(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】立坑掘削装置、立坑掘削装置スライド機構及び立坑掘削方法
(51)【国際特許分類】
E21B 7/20 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
E21B7/20
(21)【出願番号】P 2020170906
(22)【出願日】2020-10-09
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000140694
【氏名又は名称】株式会社加藤建設
(73)【特許権者】
【識別番号】599112113
【氏名又は名称】株式会社東亜利根ボーリング
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 茂
(72)【発明者】
【氏名】濱田 良幸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 達也
(72)【発明者】
【氏名】内山 敬二
(72)【発明者】
【氏名】徳永 進
(72)【発明者】
【氏名】大塚 一弘
(72)【発明者】
【氏名】中澤 宏介
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-132088(JP,A)
【文献】実開昭56-110193(JP,U)
【文献】特開2016-094736(JP,A)
【文献】実開平06-074691(JP,U)
【文献】特開昭54-009406(JP,A)
【文献】特開2019-052453(JP,A)
【文献】特開平10-176478(JP,A)
【文献】特開平08-041896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立坑となるケーソン躯体の刃先下を含む地盤を前記ケーソン躯体の内径よりも大径に掘削する立坑掘削装置であって、
円環状の架台の径方向に掛け渡され、かつ前記架台の中心を回転中心として前記架台の周方向に回転可能に設けられたレールと、
前記レールに沿って移動可能な移動体に昇降可能に吊り下げられ、前記ケーソン躯体の内側において水平方向及び鉛直方向に移動可能に設けられたハウジングと、
前記ハウジングの下端部に前記ハウジングよりも外側に突出して設けられ、前記ハウジングに内蔵されたアクチュエータによって駆動されることで、前記ケーソン躯体の内側において前記ハウジングの幅方向に延びる溝穴を形成するカッターと、
前記ハウジングの外側に前記ケーソン躯体に対し前記径方向に対向して設けられ、前記幅方向に直交する方向へ伸縮可能なアーム部と、前記アーム部の先端部に転動可能に設けられたローラと、を有するスライド機構と、
を備え、
前記スライド機構は、前記カッターが前記ケーソン躯体の刃先よりも下方に位置した状態で、前記掘削に伴い発生する前記幅方向の推進力に基づき、前記ローラが前記ケーソン躯体の内側面を転動することによって、前記ハウジングを前記ケーソン躯体に近接する方向へスライドさせることを特徴とする立坑掘削装置。
【請求項2】
請求項1に記載の立坑掘削装置であって、
前記ハウジングは、前記架台の外側へ臨むように鉛直方向上側へ延設された排出管を有し、前記排出管を介して前記カッターにより掘削された土砂を外部に排出することを特徴とする立坑掘削装置。
【請求項3】
請求項2に記載の立坑掘削装置であって、
前記ハウジングは、油圧モータにより駆動される排泥ポンプを内蔵していて、前記排泥ポンプによって、前記カッターにより掘削された土砂を前記排出管へ圧送することを特徴とする立坑掘削装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の立坑掘削装置であって、
前記アーム部は、油圧シリンダによって駆動されることを特徴とする立坑掘削装置。
【請求項5】
請求項
1に記載の立坑掘削装置であって、
前記スライド機構は、前記掘削に伴い平面視における前記ケーソン躯体の内側面の接線方向に作用する前記推進力に基づき、前記カッターが前記ケーソン躯体の刃先下に入り込むと共に、前記ローラが前記ケーソン躯体の内側面を転動することにより、前記ケーソン躯体の刃先下において前記溝穴を前記周方向に沿って円環状に形成することを特徴とする立坑掘削装置。
【請求項6】
請求項
1又は5に記載の立坑掘削装置であって、
前記スライド機構は、前記アーム部を伸縮させることにより、前記ケーソン躯体の刃先下の掘削量を調整することを特徴とする立坑掘削装置。
【請求項7】
ケーソン躯体の鉛直上側に設けられた円環状の架台の径方向に掛け渡され、かつ前記架台の中心を回転中心として前記架台の周方向に回転可能に設けられたレールと、
前記レールに沿って移動可能な移動体に昇降可能に吊り下げられ、前記ケーソン躯体の内側において水平方向及び鉛直方向に移動可能に設けられたハウジングと、
前記ハウジングの下端部に前記ハウジングよりも外側に突出して設けられ、前記ハウジングに内蔵されたアクチュエータによって駆動されることで、前記ケーソン躯体の内側の地盤に前記ハウジングの幅方向に延びる溝穴を形成するカッターと、
を備えた立坑掘削装置に用いる立坑掘削装置スライド機構であって、
前記ハウジングの外側に前記ケーソン躯体に対し前記径方向に対向して設けられ、前記幅方向に直交する方向に伸縮可能なアーム部と、前記アーム部の先端部に転動可能に設けられたローラと、を有し、
前記カッターが前記ケーソン躯体の刃先よりも下方に位置した状態で、前記カッターによる掘削に伴い発生する前記幅方向の推進力に基づき、前記ローラが前記ケーソン躯体の内側面を転動することによって、前記ハウジングを前記ケーソン躯体に近接する方向へスライドさせることを特徴とする立坑掘削装置スライド機構。
【請求項8】
請求項
7に記載の立坑掘削装置スライド機構であって、
前記掘削に伴い平面視における前記ケーソン躯体の内側面の接線方向に作用する前記推進力に基づき、前記カッターが前記ケーソン躯体の刃先下に入り込むと共に、前記ローラが前記ケーソン躯体の内側面を転動することにより、前記ケーソン躯体の刃先下において前記溝穴を前記周方向に沿って円環状に形成することを特徴とする立坑掘削装置スライド機構。
【請求項9】
請求項
7又は8に記載の立坑掘削装置スライド機構であって、
前記アーム部を伸縮させることにより、前記ケーソン躯体の刃先下の掘削量を調整することを特徴とする立坑掘削装置スライド機構。
【請求項10】
ケーソン躯体の鉛直上側に設けられた円環状の架台の径方向に掛け渡され、かつ前記架台の中心を回転中心として前記架台の周方向に回転可能に設けられたレールと、
前記レールに沿って移動可能な移動体に昇降可能に吊り下げられ、前記ケーソン躯体の内側において水平方向及び鉛直方向に移動可能に設けられたハウジングと、
前記ハウジングの下端部に前記ハウジングよりも外側に突出して設けられ、前記ハウジングに内蔵されたアクチュエータによって駆動されることで、前記ケーソン躯体の内側の地盤に前記ハウジングの幅方向に延びる溝穴を形成するカッターと、
前記ハウジングの外側に前記ケーソン躯体に対し前記径方向に対向して設けられ、前記幅方向に直交する方向に伸縮可能なアーム部と、前記アーム部の先端部に転動可能に設けられたローラと、を有し、前記カッターによる掘削に伴い発生する前記幅方向の推進力に基づき、前記ハウジングを前記ケーソン躯体に近接する方向へスライドさせるスライド機構と、
を備えた立坑掘削装置による立坑掘削方法であって、
前記ハウジングを下降させて、前記カッターを介して前記地盤を鉛直方向に掘削する鉛直掘削工程と、
前記鉛直掘削工程の後、前記カッターが前記ケーソン躯体の刃先よりも下方に位置した状態で、前記カッターによる掘削に伴い発生する前記幅方向の推進力に基づき、前記ローラが前記ケーソン躯体の内側面を転動することにより、水平方向において前記ハウジングを前記ケーソン躯体に近接する方向へスライドさせ、前記カッターを介して前記ケーソン躯体の刃先下を掘削する水平掘削工程と、
を有することを特徴とする立坑掘削方法。
【請求項11】
請求項
10に記載の立坑掘削方法であって、
前記水平掘削工程では、前記ケーソン躯体の刃先下において前記溝穴が前記周方向に連続して形成されることを特徴とする立坑掘削方法。
【請求項12】
請求項
10又は11に記載の立坑掘削方法であって、
前記鉛直掘削工程又は前記水平掘削工程と並行して、前記架台の外側に配置されたクレーンから吊り下げられたクラムシェルにより、前記鉛直掘削工程を実施していない領域の揚土を行うことを特徴とする立坑掘削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧入式オープンケーソン工法等に用いる立坑掘削装置、立坑掘削装置スライド機構及び立坑掘削方法に関し、とりわけケーソン躯体の圧入・沈設による立坑の構築に際しケーソン躯体の刃先下を拡径するかたちで地盤を掘削するのに好適な立坑掘削装置、立坑掘削装置スライド機構及び立坑掘削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーソン躯体の刃先下を掘削可能な従来の立坑掘削装置として、例えば以下の特許文献1、2に記載されたものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載の立坑掘削装置は、拡縮径可能な掘削翼を備え、この掘削翼を拡径させることをもってケーソン躯体の刃先下を拡径状に掘削可能としたものである。
【0004】
特許文献2に記載の立坑掘削装置は、クローラークレーンによって吊り下げられた水中掘削機を備え、ケーソン躯体の内側に沿って吊り下ろした水中掘削機をもってケーソン躯体の刃先下を掘削可能としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許6197140号公報
【文献】特許3999868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の立坑掘削装置の場合、以下のような技術的課題を招来してしまっていた。
【0007】
前記特許文献1に記載の立坑掘削装置は、掘削翼を拡径させてケーソン躯体の刃先下を掘削する構造を有している。このため、立坑の外径の大きさに伴い、掘削翼の回転トルクが増大してしまう。その結果、掘削翼を回転させる掘削駆動装置の大型化を招来し、また、掘削翼の回転トルクが立坑の外径に依存することにより、汎用性の観点からも課題を残していた。
【0008】
一方、前記特許文献2に記載の立坑掘削装置は、クローラークレーンにより吊り下げた水中掘削機をもってケーソン躯体の刃先下を掘削する構造を有している。このため、立坑の外径の大きさによっては、水中掘削機のバックホウの延伸量(立坑の径方向の延伸量)に限界があり、立坑の中央部の掘削が困難となる問題があった。
【0009】
本発明は、かかる技術的課題に着目して案出されたもので、立坑(ケーソン躯体)の外径にかかわらず、掘削駆動装置の大型化を伴わずにケーソン躯体の刃先下を掘削することができる立坑掘削装置、立坑掘削装置スライド機構及び立坑掘削方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る立坑掘削装置は、その一態様として、立坑となるケーソン躯体の刃先下を含む地盤を前記ケーソン躯体の内径よりも大径に掘削する立坑掘削装置であって、円環状の架台の径方向に掛け渡され、かつ前記架台の中心を回転中心として前記架台の周方向に回転可能に設けられたレールと、前記レールに沿って移動可能な移動体に昇降可能に吊り下げられ、前記ケーソン躯体の内側において水平方向及び鉛直方向に移動可能に設けられたハウジングと、前記ハウジングの下端部に前記ハウジングよりも外側に突出して設けられ、前記ハウジングに内蔵されたアクチュエータによって駆動されることで、前記ケーソン躯体の内側において前記径方向に延びる溝穴を形成するカッターと、前記ハウジングの外側に設けられ、前記ハウジングの幅方向の一方側に伸長可能なアーム部を有し、前記アーム部を介して前記ハウジングを前記幅方向の他方側へスライドさせるスライド機構と、を備え、前記スライド機構は、前記カッターが前記ケーソン躯体の刃先よりも下方に位置した状態で、前記アーム部が伸長して前記ケーソン躯体の内側と前記径方向に対向する前記溝穴の内壁を押圧することによって発生する反力に基づき、前記ハウジングを前記ケーソン躯体に近接する方向へスライドさせることが望ましい。
【0011】
このように、本発明によれば、アーム部がケーソン躯体の内側と径方向に対向する溝穴の内壁を押圧することによって発生する反力を利用してハウジングをケーソン躯体側にスライドさせることで、ハウジングの外側に突出したカッターにより、ケーソン躯体の刃先下を掘削することができる。
【0012】
そして、かかる掘削にあたり、本発明では、架台の径方向に懸架され、かつ架台の周方向に回転可能に設けられたレールに沿ってハウジングを移動させることにより、水平方向においてケーソン躯体の内側の地盤を自在に掘削可能となる。これにより、ケーソン躯体の外径が大型化した場合でも、カッターや、カッターを駆動するアクチュエータ、さらにはアクチュエータを収容するハウジングなどの大型化を招来せず、また、水平方向における特定の領域の掘削を犠牲にすることなく、ケーソン躯体の刃先下を含む地盤を自在に掘削することができる。
【0013】
また、本発明の場合、径方向に延びる溝穴を周方向に複数形成するかたちでケーソン躯体の刃先下を掘削することになるため、前記溝穴の周方向間に残存する地盤によって適度にケーソン躯体を維持することができる。これにより、掘削後におけるケーソン躯体の良好な圧入作業にも供する。
【0014】
また、前記立坑掘削装置の別の態様として、前記ハウジングは、前記架台の外側へ臨むように鉛直方向上側へ延設された排出管を有し、前記排出管を介して前記カッターにより掘削された土砂を外部に排出することが望ましい。
【0015】
このように、ハウジングに排出管を延設してなる排土(揚土)機構を備えることにより、カッターにより掘削された土砂をグラブバケット等で外部に排出する必要がなくなる。これにより、掘削作業を円滑に、かつ効率的に行うことができる。特に、前記グラブバケット等による揚土作業は、溝穴の深さが増大するにつれて前記グラブバケットの昇降に時間を要し、効率が悪くなる一方、本発明では、掘削と揚土とを同時に並行して行うことが可能となり、円滑かつ効率的な掘削作業に供する。
【0016】
また、前記立坑掘削装置のさらに別の態様として、前記ハウジングは、油圧モータにより駆動される排泥ポンプを内蔵していて、前記排泥ポンプによって、前記カッターにより掘削された土砂を前記排出管へ圧送することが望ましい。
【0017】
このように、排泥ポンプにより土砂を圧送して揚土作業を行うことで、前記グラブバケットを昇降させて揚土作業を行う場合と比べて、揚土作業を効率的に行うことが可能となり、円滑かつ効率的な掘削作業に供する。
【0018】
また、前記立坑掘削装置のさらに別の態様として、前記アーム部は、油圧シリンダによって駆動されることが望ましい。
【0019】
このように、スライド機構を油圧シリンダによって駆動することで、揚土に係る排泥ポンプと駆動源を共通化することが可能となる。これにより、立坑掘削装置のシステム構成の簡素化が図られ、当該掘削装置の構造の簡素化や低廉化に寄与することができる。
【0020】
また、前記立坑掘削装置のさらに別の態様として、前記アーム部の両端部に、鉛直方向に平行なガイドフレームが設けられていることが望ましい。
【0021】
このように、アーム部の両端部に、鉛直方向に平行なガイドフレームを設けたことで、当該ガイドフレームによってハウジングの昇降移動が円滑化され、鉛直方向の円滑な掘削に供する。
【0022】
また、別の観点から、本発明に係る立坑掘削装置は、その一態様として、立坑となるケーソン躯体の刃先下を含む地盤を前記ケーソン躯体の内径よりも大径に掘削する立坑掘削装置であって、円環状の架台の径方向に掛け渡され、かつ前記架台の中心を回転中心として前記架台の周方向に回転可能に設けられたレールと、前記レールに沿って移動可能な移動体に昇降可能に吊り下げられ、前記ケーソン躯体の内側において水平方向及び鉛直方向に移動可能に設けられたハウジングと、前記ハウジングの下端部に前記ハウジングよりも外側に突出して設けられ、前記ハウジングに内蔵されたアクチュエータによって駆動されることで、前記ケーソン躯体の内側において前記ハウジングの幅方向に延びる溝穴を形成するカッターと、前記ハウジングの外側に前記ケーソン躯体に対し前記径方向に対向して設けられ、前記幅方向に直交する方向へ伸縮可能なアーム部と、前記アーム部の先端部に転動可能に設けられたローラと、を有するスライド機構と、を備え、前記スライド機構は、前記カッターが前記ケーソン躯体の刃先よりも下方に位置した状態で、前記掘削に伴い発生する前記幅方向の推進力に基づき、前記ローラが前記ケーソン躯体の内側面を転動することによって、前記ハウジングを前記ケーソン躯体に近接する方向へスライドさせることが望ましい。
【0023】
このように、本発明によれば、カッターによる掘削に伴って発生するハウジングの幅方向の推進力を利用してハウジングをケーソン躯体側にスライドさせることで、ハウジングの外側に突出したカッターにより、ケーソン躯体の刃先下を掘削することができる。
【0024】
そして、かかる掘削にあたり、本発明では、架台の径方向に懸架され、かつ架台の周方向に回転可能に設けられたレールに沿ってハウジングを移動させることにより、水平方向においてケーソン躯体の刃先下を自在に掘削可能となる。これにより、ケーソン躯体の外径が大型化した場合であっても、カッターや、カッターを駆動するアクチュエータ、さらにはアクチュエータを収容するハウジングなどの大型化を招来せず、また、水平方向における特定の領域の掘削を犠牲にすることなく、ケーソン躯体の刃先下を含む地盤を自在に掘削することができる。
【0025】
また、前記立坑掘削装置の別の態様として、前記スライド機構は、前記掘削に伴い平面視における前記ケーソン躯体の内側面の接線方向に作用する前記推進力に基づき、前記カッターが前記ケーソン躯体の刃先下に入り込むと共に、前記ローラが前記ケーソン躯体の内側面を転動することにより、前記ケーソン躯体の刃先下において前記溝穴を前記周方向に沿って円環状に形成することが望ましい。
【0026】
このように、周方向に連続する円環状の溝穴を形成することによりケーソン躯体の刃先下を掘削するため、例えば放射状などケーソン躯体の刃先下を断片的に掘削する場合と比べて、ケーソン躯体の刃先下をより効率的に掘削することができ、ケーソン躯体の圧入・沈設に係る地盤掘削時間の短縮化を図ることができる。
【0027】
また、前記立坑掘削装置のさらに別の態様として、前記スライド機構は、前記アーム部を伸縮させることにより、前記ケーソン躯体の刃先下の掘削量を調整することが望ましい。
【0028】
このように、アーム部を伸縮させてハウジングのスライド量を調整することにより、前記溝穴の径方向外側に残存する地盤によってケーソン躯体を維持することが可能となる。これにより、掘削後におけるケーソン躯体の良好な圧入作業にも供する。
【0029】
また、本発明に係る立坑掘削装置スライド機構は、その一態様として、ケーソン躯体の鉛直上側に設けられた円環状の架台の径方向に掛け渡され、かつ前記架台の中心を回転中心として前記架台の周方向に回転可能に設けられたレールと、前記レールに沿って移動可能な移動体に昇降可能に吊り下げられ、前記ケーソン躯体の内側において水平方向及び鉛直方向に移動可能に設けられたハウジングと、前記ハウジングの下端部に前記ハウジングよりも外側に突出して設けられ、前記ハウジングに内蔵されたアクチュエータによって駆動されることで、前記ケーソン躯体の内側の地盤に前記径方向に延びる溝穴を形成するカッターと、を備えた立坑掘削装置に用いる立坑掘削装置スライド機構であって、前記ハウジングの外側に設けられ、前記ハウジングの幅方向の一方側に可能なアーム部を有し、前記カッターが前記ケーソン躯体の刃先よりも下方に位置した状態で、前記アーム部が伸長して前記ケーソン躯体の内側と前記径方向に対向する前記溝穴の内壁を押圧することによって発生する反力に基づき、前記ハウジングを前記ケーソン躯体に近接する方向へスライドさせることが望ましい。
【0030】
このように、架台に懸架されたレールに沿って移動可能な移動体に吊り下げられた立坑掘削装置に、ケーソン躯体の内側と対向する溝穴の内壁を押圧することにより発生する反力に基づきハウジングをケーソン躯体に近接する方向へスライドさせるスライド機構を付加することによっても、ケーソン躯体の大径化に基づくハウジングの大型化や、掘削困難な領域を招来することなく、ケーソン躯体の刃先下を掘削することができる。
【0031】
また、別の観点から、本発明に係る立坑掘削装置スライド機構は、その一態様として、ケーソン躯体の鉛直上側に設けられた円環状の架台の径方向に掛け渡され、かつ前記架台の中心を回転中心として前記架台の周方向に回転可能に設けられたレールと、前記レールに沿って移動可能な移動体に昇降可能に吊り下げられ、前記ケーソン躯体の内側において水平方向及び鉛直方向に移動可能に設けられたハウジングと、前記ハウジングの下端部に前記ハウジングよりも外側に突出して設けられ、前記ハウジングに内蔵されたアクチュエータによって駆動されることで、前記ケーソン躯体の内側の地盤に前記ハウジングの幅方向に延びる溝穴を形成するカッターと、を備えた立坑掘削装置に用いる立坑掘削装置スライド機構であって、前記ハウジングの外側に前記ケーソン躯体に対し前記径方向に対向して設けられ、前記幅方向に直交する方向に伸縮可能なアーム部と、前記アーム部の先端部に転動可能に設けられたローラと、を有し、前記カッターが前記ケーソン躯体の刃先よりも下方に位置した状態で、前記カッターによる掘削に伴い発生する前記幅方向の推進力に基づき、前記ローラが前記ケーソン躯体の内側面を転動することによって、前記ハウジングを前記ケーソン躯体に近接する方向へスライドさせることが望ましい。
【0032】
このように、架台に懸架されたレールに沿って移動可能な移動体に吊り下げられた立坑掘削装置に、カッターによる掘削に伴い発生する幅方向の推進力に基づきアーム部を収縮させてローラがケーソン躯体の内側面を転動することでハウジングをケーソン躯体に近接する方向へスライドさせるスライド機構を付加することによっても、ケーソン躯体の大径化に基づくハウジングの大型化や、掘削困難な領域を招来することなく、ケーソン躯体の刃先下を掘削することができる。
【0033】
また、本発明に係る立坑掘削方法は、その一態様として、ケーソン躯体の鉛直上側に設けられた円環状の架台の径方向に掛け渡され、かつ前記架台の中心を回転中心として前記架台の周方向に回転可能に設けられたレールと、前記レールに沿って移動可能な移動体に昇降可能に吊り下げられ、前記ケーソン躯体の内側において水平方向及び鉛直方向に移動可能に設けられたハウジングと、前記ハウジングの下端部に前記ハウジングよりも外側に突出して設けられ、前記ハウジングに内蔵されたアクチュエータによって駆動されることで、前記ケーソン躯体の内側の地盤に前記径方向に延びる溝穴を形成するカッターと、前記ハウジングの外側に設けられ、前記ハウジングの幅方向の一方側に伸長可能なアーム部を有し、前記アーム部を介して前記ハウジングを前記幅方向の他方側へスライドさせるスライド機構と、を備えた立坑掘削装置による立坑掘削方法であって、前記ハウジングを下降させて、前記カッターを介して前記地盤を鉛直方向に掘削する鉛直掘削工程と、前記鉛直掘削工程の後、前記カッターが前記ケーソン躯体の刃先よりも下方に位置した状態で、前記アーム部を伸長させ、前記アーム部を介して前記ケーソン躯体の内側と前記径方向に対向する前記溝穴の内壁を押圧することにより発生する反力に基づき、水平方向において前記ハウジングを前記ケーソン躯体に近接する方向へスライドさせ、前記カッターを介して前記ケーソン躯体の刃先下を掘削する水平掘削工程と、を有することが望ましい。
【0034】
このように、鉛直掘削工程後、スライド機構を介してハウジングをケーソン躯体側へスライドさせることで、ハウジングの外側に突出したカッターにより、ケーソン躯体の刃先下を掘削することができる。また、その際、架台の径方向に懸架され、かつ周方向に回転可能に設けられたレールに沿ってハウジングを移動させることで、ケーソン躯体の内側の地盤を自在に掘削することが可能となる。これにより、ケーソン躯体の外径が大型化した場合でも、カッターや、カッターを駆動するアクチュエータ、さらにはアクチュエータを収容するハウジングなどの大型化を招来せず、また、水平方向における特定の領域の掘削を犠牲にすることなく、ケーソン躯体の刃先下を含む地盤を自在に掘削することができる。
【0035】
また、別の観点から、本発明に係る立坑掘削方法は、その一態様として、ケーソン躯体の鉛直上側に設けられた円環状の架台の径方向に掛け渡され、かつ前記架台の中心を回転中心として前記架台の周方向に回転可能に設けられたレールと、前記レールに沿って移動可能な移動体に昇降可能に吊り下げられ、前記ケーソン躯体の内側において水平方向及び鉛直方向に移動可能に設けられたハウジングと、前記ハウジングの下端部に前記ハウジングよりも外側に突出して設けられ、前記ハウジングに内蔵されたアクチュエータによって駆動されることで、前記ケーソン躯体の内側の地盤に前記ハウジングの幅方向に延びる溝穴を形成するカッターと、前記ハウジングの外側に前記ケーソン躯体に対し前記径方向に対向して設けられ、前記幅方向に直交する方向に伸縮可能なアーム部と、前記アーム部の先端部に転動可能に設けられたローラと、を有し、前記カッターによる掘削に伴い発生する前記幅方向の推進力に基づき、前記ハウジングを前記ケーソン躯体に近接する方向へスライドさせるスライド機構と、を備えた立坑掘削装置による立坑掘削方法であって、前記ハウジングを下降させて、前記カッターを介して前記地盤を鉛直方向に掘削する鉛直掘削工程と、前記鉛直掘削工程の後、前記カッターが前記ケーソン躯体の刃先よりも下方に位置した状態で、前記カッターによる掘削に伴い発生する前記幅方向の推進力に基づき、前記ローラが前記ケーソン躯体の内側面を転動することにより、水平方向において前記ハウジングを前記ケーソン躯体に近接する方向へスライドさせ、前記カッターを介して前記ケーソン躯体の刃先下を掘削する水平掘削工程と、を有することが望ましい。
【0036】
このように、鉛直掘削工程後、スライド機構を介してハウジングをケーソン躯体側へスライドさせることで、ハウジングの外側に突出したカッターにより、ケーソン躯体の刃先下を掘削することができる。また、その際、架台の径方向に懸架され、かつ周方向に回転可能に設けられたレールに沿ってハウジングを移動させることで、ケーソン躯体の内側の地盤を自在に掘削することが可能となる。これにより、ケーソン躯体の外径が大型化した場合でも、カッターや、カッターを駆動するアクチュエータ、さらにはアクチュエータを収容するハウジングなどの大型化を招来せず、また、水平方向における特定の領域の掘削を犠牲にすることなく、ケーソン躯体の刃先下を含む地盤を自在に掘削することができる。
【0037】
また、前記立坑掘削方法の別の態様として、前記鉛直掘削工程は、前記ケーソン躯体の内側近傍を放射状に掘削する外周掘削工程と、前記ケーソン躯体の中央部近傍を交差状に掘削する中央掘削工程と、を有し、前記水平掘削工程は、前記溝穴ごとにそれぞれ前記外周掘削工程に連続して実施されることが望ましい。
【0038】
このように、外周掘削工程では、放射状に形成される溝穴の周方向間に残存した地盤によりケーソン躯体を維持できるため、その後のケーソン躯体の圧入作業を容易に行うことができる。一方、中央掘削工程では、交差状に掘削することにより、ケーソン躯体の内側の中央部においても、より広い範囲について効率的に掘削を行うことができる。
【0039】
また、前記立坑掘削方法の他の別の態様として、前記水平掘削工程では、前記ケーソン躯体の刃先下において前記溝穴が前記周方向に連続して形成されることが望ましい。
【0040】
このように、水平掘削工程では、周方向に連続する円環状の溝穴を形成することによりケーソン躯体の刃先下を掘削するため、例えば放射状などケーソン躯体の刃先下を断片的に掘削する場合と比べて、ケーソン躯体の刃先下をより効率的に掘削することができ、ケーソン躯体の圧入・沈設に係る地盤掘削時間の短縮化を図ることができる。
【0041】
また、前記立坑掘削方法のさらに別の態様として、前記鉛直掘削工程又は前記水平掘削工程と並行して、前記架台の外側に配置されたクレーンから吊り下げられたクラムシェルにより、前記鉛直掘削工程を実施していない領域の揚土を行うことが望ましい。
【0042】
カッターで掘削しない領域についてはクラムシェルによって揚土を行う必要があるところ、上述のように鉛直掘削工程ないし水平掘削工程と並行して前記クラムシェルによる揚土を行うことで、掘削作業及び揚土作業をより効率的に短時間で行うことができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、架台の径方向に懸架され、かつ回転可能なレールに沿って移動可能に吊り下げられたハウジングを径方向へスライドさせてケーソン躯体の刃先下の掘削を行う構成としたため、ケーソン躯体の外径が大型化した場合でも、カッターの駆動に係るアクチュエータなどハウジングの大型化を必要とせず、また、水平方向における特定の領域の掘削を犠牲にすることなく、ケーソン躯体の内側の地盤を自在に掘削することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】本発明に係る立坑掘削装置の全体斜視図である。
【
図2】本発明に係る立坑掘削装置の要部斜視図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る立坑掘削装置の要部正面図である。
【
図4】
図3に示す立坑掘削装置の鉛直掘削の態様を示し、(a)は断面視における掘削状態を示す概略図、(b)は平面視における掘削範囲を示す概略図である。
【
図5】
図3に示す立坑掘削装置の水平掘削の態様を示し、(a)は断面視における掘削状態を示す概略図、(b)は平面視における掘削範囲を示す概略図である。
【
図6】本発明の第1実施形態に係る立坑掘削装置による掘削パターンの一例を示し、外周掘削と中央掘削を併用する態様を表した平面視概略図である。
【
図7】本発明の第1実施形態に係る立坑掘削装置による掘削パターンの他例を示し、外周掘削と中央掘削を併合した態様を表した平面視概略図である。
【
図8】本発明の第1実施形態に係る立坑掘削方法の第1工程を示し、(a)は地盤の断面視概略図、(b)は地盤の平面視概略図である。
【
図9】本発明の第1実施形態に係る立坑掘削方法の第2工程を示し、(a)は地盤の断面視概略図、(b)は地盤の平面視概略図である。
【
図10】本発明の第1実施形態に係る立坑掘削方法の第3工程を示し、(a)は地盤の断面視概略図、(b)は地盤の平面視概略図である。
【
図11】本発明の第1実施形態に係る立坑掘削方法の第4工程を示し、(a)は地盤の断面視概略図、(b)は地盤の平面視概略図である。
【
図12】本発明の第1実施形態に係る立坑掘削方法の第5工程を示し、(a)は地盤の断面視概略図、(b)は地盤の平面視概略図である。
【
図13】本発明の第1実施形態に係る立坑掘削方法の第6工程を示し、(a)は地盤の断面視概略図、(b)は地盤の平面視概略図である。
【
図14】本発明の第1実施形態に係る立坑掘削方法の第7工程を示し、(a)は地盤の断面視概略図、(b)は地盤の平面視概略図である。
【
図15】本発明の第1実施形態の変形例に係る立坑掘削方法の第1工程を示し、(a)は地盤の断面視概略図、(b)は地盤の平面視概略図である。
【
図16】本発明の第1実施形態の変形例に係る立坑掘削方法の第2工程を示し、(a)は地盤の断面視概略図、(b)は地盤の平面視概略図である。
【
図17】本発明の第1実施形態の変形例に係る立坑掘削方法の第3工程を示し、(a)は地盤の断面視概略図、(b)は地盤の平面視概略図である。
【
図18】本発明の第1実施形態の変形例に係る立坑掘削方法の第4工程を示し、(a)は地盤の断面視概略図、(b)は地盤の平面視概略図である。
【
図19】本発明の第1実施形態の変形例に係る立坑掘削方法の第5工程を示し、(a)は地盤の断面視概略図、(b)は地盤の平面視概略図である。
【
図20】本発明の第1実施形態の変形例に係る立坑掘削方法の第6工程を示し、(a)は地盤の断面視概略図、(b)は地盤の平面視概略図である。
【
図21】本発明の第1実施形態の変形例に係る立坑掘削方法の第7工程を示し、(a)は地盤の断面視概略図、(b)は地盤の平面視概略図である。
【
図22】本発明の第1実施形態の変形例に係る立坑掘削方法の第8工程を示し、(a)は地盤の断面視概略図、(b)は地盤の平面視概略図である。
【
図23】本発明の第1実施形態の変形例に係る立坑掘削方法の第9工程を示し、(a)は地盤の断面視概略図、(b)は地盤の平面視概略図である。
【
図24】本発明の第2実施形態に係る立坑掘削装置の要部斜視図である。
【
図25】
図24に示す立坑掘削装置の鉛直掘削の態様を示し、(a)は断面視における掘削状態を示す概略図、(b)は平面視における掘削範囲を示す概略図である。
【
図26】
図24に示す立坑掘削装置の水平掘削の態様を示し、(a)は断面視における掘削状態を示す概略図、(b)は平面視における掘削範囲を示す概略図である。
【
図27】本発明の第2実施形態に係る立坑掘削装置による掘削態様の一例を表した平面視概略図である。
【
図28】本発明の第2実施形態に係る立坑掘削装置による掘削態様の他例を表した平面視概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下に、本発明に係る立坑掘削装置、立坑掘削装置スライド機構及び立坑掘削方法の実施形態を、図面に基づいて詳述する。
【0046】
〔第1実施形態〕
図1~
図14は、本発明の第1実施形態に係る立坑掘削装置、立坑掘削装置スライド機構及び立坑掘削方法を示す。なお、各図の説明においては、架台の中心を通る中心軸線Aに直交する方向を「径方向」、中心軸線A周りの方向を「周方向」として説明する。
【0047】
(立坑掘削装置の説明)
図1は、本実施形態に係る立坑掘削装置の全体を表した斜視図を示している。
図2、
図3は、
図1に示す立坑掘削装置の要部を拡大して表示した図であって、
図2はカッター及びスライド機構を備えたハウジングの斜視図であり、
図3は同ハウジングの正面図を示している。
【0048】
図1に示すように、立坑掘削装置は、立坑であるケーソン躯体1の内周側において水平方向に移動可能に設けられ、かつ鉛直方向に昇降可能に設けられたハウジング2と、このハウジング2の下端部に設けられ、付設されたアクチュエータ(図示外)によって回転駆動されるカッター3と、ハウジング2をケーソン躯体1に近接する方向へスライドさせるスライド機構4と、を備えている。
【0049】
ハウジング2は、ケーソン躯体1の圧入・沈設を行う円環状の架台5の上端部に径方向に沿って掛け渡され、かつ架台5の周方向に回転可能に設けられたレール6に沿って移動可能な移動体7の下端部に、吊り下げ配置されている。すなわち、ハウジング2は、架台5の径方向中心を回転中心としてレール6が周方向に回転し、移動体7がレール6に沿って架台5の径方向に移動することで、ケーソン躯体1の内周側において水平方向に自在に移動可能となっている。このような構成から、ハウジング2が移動体7を介してレール6に沿って移動しながらカッター3が地盤を掘削することで、地盤に対して水平方向に延びる溝穴(図示外)が形成される。一方で、ハウジング2は、移動体7に吊り下げ状態に支持されると共に、鉛直方向に昇降可能に構成されていて、下降に伴いカッター3が地盤を掘削することにより、地盤に対して鉛直方向に延びる溝穴(図示外)が形成される。
【0050】
ここで、架台5は、中央部が円形に開口する円環状を呈し、ケーソン躯体1を沈設する縦穴P(
図4、
図5参照)の内径よりも大きな外径に設定されると共に、当該縦穴Pの内径よりも小さい内径に設定されていて、ケーソン躯体1の鉛直上側に配置されている。そして、この架台5には、上端側にレール6が懸架されると共に、下端側にケーソン躯体1が配置されていて、当該架台5によりレール6を移動可能に支持しつつ、当該架台5を介してケーソン躯体1の圧入・沈設を行う。また、レール6の懸架に際し、架台5の上端面には、架台5の周方向に沿って円環状に形成された環状レール溝50が設けられている。すなわち、レール6の長手方向端部に設けられたレール車輪60が環状レール溝50上を転動することにより、レール6が環状レール溝50に沿って架台5の周方向に回転移動可能となっている。
【0051】
レール6は、水平方向において互いに平行に配置された一対のレールである第1レール61及び第2レール62によって構成される。第1レール61及び第2レール62の上面には、それぞれ長手方向に沿って直線状に延びる一対のレール溝である第1レール溝61a及び第2レール溝62aが設けられている。すなわち、移動体7の幅方向両側部に設けられた移動体車輪70が第1レール溝61a及び第2レール溝62a上を転動することで、移動体7が第1レール溝61a及び第2レール溝62aに沿って直線状に進退移動可能となっている。また、第1レール61及び第2レール62の長手方向の一端部には、後述する油圧機器(油圧モータOM、油圧シリンダOCなど)の作動に供する油圧ユニットHUが載置されている。
【0052】
移動体7は、平面視ほぼ凹字状をなす台車であって、当該移動体7の幅方向の両側下部には、レール6の第1、第2レール溝61a,62a上を転動可能な移動体車輪70が設けられている。また、移動体7の上部には、鉛直方向に延びるガイドポスト8が立設されている。ガイドポスト8には、図示外の油圧シリンダの伸縮に伴って鉛直方向に移動可能なスライダ80が設けられていて、このスライダ80に後述する排出管9が図示外の治具を介して接続されている。かかる構成から、ハウジング2は、後述する排出管9を介してスライダ80に接続され、このスライダ80を介してガイドポスト8に昇降可能に支持されている。なお、スライダ80は、後述する鉛直掘削時のハウジング2の下降移動に供し、当該スライダ80を下降させることによって、後述する鉛直掘削時のハウジング2の下降移動が可能となっている。
【0053】
図1~
図3に示すように、ハウジング2には、カッター3により掘削された土砂の排出に供する排泥機構が設けられている。この排泥機構は、カッター3によって掘削された土砂を吸い上げる排泥ポンプSPと、この排泥ポンプSPによって吸い上げられた土砂を外部へ導く排出管9と、で構成される。
【0054】
排泥ポンプSPは、ハウジング2の内部に収容されていて、同軸状に配置された油圧モータOMによって回転駆動される。すなわち、この排泥ポンプSPが回転駆動されることで、カッター3によって掘削された土砂が、ハウジング2の下端部に設けられた吸入口90より吸い込まれて、排出管9へと導かれる。
【0055】
排出管9は、円筒状をなす金属製の配管によって形成されたものであって、一端側が排泥ポンプSPに接続されると共に、他端側がガイドポスト8のスライダ80に接続されていて、ハウジング2の上端部から鉛直上側に延設されている(
図1参照)。また、排出管9は、他端部(スライダ80と接続される側の端部)が概ね直角に曲折されていて、架台5の径方向外側に向かって水平方向に開口している。
【0056】
なお、本実施形態では、排出管9は所定の間隔(例えば1mないし2m)に分割され、かつ着脱可能に設けられた複数の配管により構成されていて、この分割された配管を継ぎ足すことで、掘削開始地点までハウジング2を下降移動させ、また、この継ぎ足された配管を取り除くことで、ハウジング2をレール6側へ上昇移動させる構成となっている。
【0057】
カッター3は、ハウジング2の幅方向(X方向)に並列に配置された一対のカッターである第1カッター31と第2カッター32とによって構成される。第1カッター31及び第2カッター32は、ハウジング2の幅方向(X方向)において対称(中心軸線Aに対し対称)に配置されたドラムカッターであって、それぞれ内部に配置された油圧モータOMにより回転駆動される円筒状の第1基部311及び第2基部321と、この第1、第2基部311,321の外周に沿って設けられた複数の刃部312,322と、で構成される。
【0058】
なお、本実施形態では、第1カッター31と第2カッター32は、
図3中の矢印に示すように、それぞれ内向きに土砂を内側に巻き込むように相互に反対方向に回転駆動され、この第1、第2カッター31,32の回転によって巻き上げられた土砂がハウジング2の下部に設けられた吸入口90から吸い込まれ、排出管9を介して外部へと排出される。
【0059】
また、第1カッター31及び第2カッター32は、カッター3全体としての投影面積がハウジング2の投影面積よりも大きく、平面視においてハウジング2よりも外側に突出するように構成されている。具体的には、カッター3は、ハウジング2の幅方向(X方向)に並列に配置された第1カッター31と第2カッター32の直径の合計(
図2中のCX寸法)がハウジング2の幅方向(X方向)の寸法よりも大きくなるように、かつ第1、第2カッター31,32の軸方向寸法(
図2中のCY寸法)がハウジング2の奥行方向(Y方向)の寸法よりも大きくなるように構成されている。
【0060】
また、ハウジング2の外側には、ハウジング2を幅方向(X方向)に沿ってスライド可能とするスライド機構4が設けられている。このスライド機構4は、ハウジングの奥行方向(Y方向)においてハウジング2を挟んで両側に設けられた、第1アーム部41及び第2アーム部42からなる一対のアーム部40によって構成される。
【0061】
そして、第1アーム部41及び第2アーム部42とハウジング2との間には、それぞれ周知の油圧シリンダOCが介装されている。各油圧シリンダOCは、それぞれ基端部がハウジング2の外側部に固定され、先端部(可動側の端部)が第1アーム部41及び第2アーム部42の一端部、すなわちハウジング2の幅方向(X方向)一方側の端部に接続されている。かかる構成により、各油圧シリンダOCが伸長することにより、第1アーム部41及び第2アーム部42がハウジング2の幅方向(X方向)の一方側、具体的には縦穴Pの径方向内側に向かってスライド可能となっている。すなわち、各油圧シリンダOCが収縮した原点位置では、
図3に示すように、第1、第2アーム部41,42のスライド量はそれぞれ最小(ゼロ)となり、この原点位置から各油圧シリンダOCが伸長した分だけ、当該各油圧シリンダOCの伸長に伴い第1、第2アーム部41,42のスライド量がそれぞれ増大する構成となっている。
【0062】
さらに、アーム部40の両端部、すなわち第1アーム部41及び第2アーム部42の両端部には、第1アーム部41と第2アーム部42とに跨って一対のガイドフレーム43,43が設けられている。この一対のガイドフレーム43,43は、それぞれ概ね矩形枠状を呈し、ハウジング2の高さ方向(Z方向)に沿って設けられた一対の縦梁部43a,43aと、ハウジング2の奥行方向(Y方向)に沿って設けられ、一対の縦梁部43a,43aの両端部を繋いで連結する一対の横梁部43b,43bと、で構成される。
【0063】
一対の縦梁部43a,43aは、それぞれ鉛直方向に相当するハウジング2の高さ方向(Z方向)に沿って平行に設けられている。また、この一対の縦梁部43a,43aは、横梁部43b,43bよりも幅方向(X方向)の外側に突出するように設けられていて、後述する溝穴S(S1,S2)の内壁やケーソン躯体1の内側に摺接することにより、ハウジング2の昇降移動を案内可能となっている。
【0064】
また、一対の縦梁部43a,43aの下端部には、それぞれ鉛直方向下側に向かってガイドフレーム43,43の厚さTを漸次減少させてなる第1テーパ部43c,43cが設けられている。すなわち、かかる第1テーパ部43c、43cが設けられていることで、後述する溝穴S(S1,S2)においてハウジング2を下降させる際、溝穴S(S1,S2)の内壁ないしケーソン躯体1の内側面とガイドフレーム43,43との引っ掛かりが抑制可能となっている。
【0065】
また、一対の縦梁部43a,43aの上端部には、それぞれ鉛直方向上側に向かってガイドフレーム43,43の厚さTを漸次減少させてなる第2テーパ部43d,43dが設けられている。すなわち、かかる第2テーパ部43d、43dが設けられていることで、後述する溝穴S(S1,S2)においてハウジング2を上昇させる際、溝穴S(S1,S2)の内壁ないしケーソン躯体1の内側面とガイドフレーム43,43との引っ掛かりが抑制可能となっている。
【0066】
一対の横梁部43b,43bは、それぞれハウジング2の奥行方向(Y方向)に沿って平行に設けられている。また、この一対の横梁部43b,43bは、縦梁部43a,43aに対して幅方向(X方向)の内側にオフセットして設けられていて、後述する溝穴S(S1,S2)の内壁やケーソン躯体1の内側に摺接しない構成となっている。
【0067】
図4は、立坑掘削装置の鉛直掘削の態様を示し、(a)は断面視における掘削状態を示す概略図、(b)は平面視における掘削範囲を示す概略図である。
図5は、立坑掘削装置の水平掘削の態様を示し、(a)は断面視における掘削状態を示す概略図、(b)は平面視における掘削範囲を示す概略図である。
【0068】
図4、
図5に示すように、立坑掘削装置による掘削態様は、主として、
図4に示す鉛直掘削と、
図5に示す水平掘削と、に分類され、これらの掘削態様を組み合わせることによって、ケーソン躯体1の刃先下の掘削が行われる。以下では、
図4に示す鉛直掘削と、
図5に示す水平掘削について、それぞれ具体的に説明する。
【0069】
鉛直掘削工程では、
図4に示すように、ケーソン躯体1の内側の地盤Gに対し、ハウジング2の幅方向(X方向)においてケーソン躯体1の内側面と対向する任意の水平方向位置にて、第1カッター31と第2カッター32を互いに反対方向に回転させた状態でハウジング2を下降させる。これにより、
図4に斜線で示すように、ケーソン躯体1の内側面に沿って当該ケーソン躯体1の内側が鉛直方向に掘削されると共に、この掘削された土砂が図示外の排泥ポンプにより吸い上げられ、排出管9を介して排出される。
【0070】
なお、当該鉛直掘削では、各油圧シリンダOCはそれぞれ収縮した状態を維持しており、アーム部40(第1、第2アーム部41,42)の両端部に設けられたガイドフレーム43,43が溝穴Sの内壁及びケーソン躯体1の内側に摺接することにより、ガイドフレーム43,43を介して鉛直掘削に伴うハウジング2の下降移動が案内されることとなる。
【0071】
水平掘削工程では、
図5に示すように、前記鉛直掘削によってカッター3がケーソン躯体1の刃先よりも下方に位置した状態で、各油圧シリンダOCを伸長させて、アーム部40(第1、第2アーム部41,42)を縦穴Pの径方向内側へスライドさせる。すなわち、各油圧シリンダOCの油圧に基づき、第1、第2アーム部41,42を介してケーソン躯体1の内側と対向する溝穴Sの内壁を押圧し、これによって発生する反力に基づいてハウジング2を縦穴Pの径方向外側、すなわちケーソン躯体1の内側に近接する方向へスライドさせる。その結果、
図5中に斜線で示すように、ケーソン躯体1の刃先下に入り込んだ第1カッター31により、ケーソン躯体1の刃先下部Saが掘削される。
【0072】
図6は、本実施形態に係る立坑掘削装置による掘削パターンの一態様を示し、外周掘削と中央掘削を併用する態様を表した平面視概略図を示している。また、
図7は、本実施形態に係る立坑掘削装置による掘削パターンの他の態様を示し、外周掘削と中央掘削を併合した態様を表した平面視概略図を示している。
【0073】
前記立坑掘削装置による立坑掘削方法の一態様としては、例えば
図6に示すように、ケーソン躯体1の内側の地盤Gに当該ケーソン躯体1の内周に沿って所定の周方向間隔をあけて複数の放射状の溝穴S1を掘削してなる外周掘削と、縦穴Pの中央部分の地盤Gに十字に交差する交差状の溝穴S2を掘削してなる中央掘削と、を併用する態様が考えられる。なお、前記外周掘削における溝穴S1の周方向間隔については、ケーソン躯体1の維持に必要な間隔であって、その後の圧入作業を良好に行い得る適切な間隔とすることが望ましい。
【0074】
また、前記立坑掘削装置による他の立坑掘削方法として、例えば
図7に示すように、ケーソン躯体1の内側の地盤Gに、縦穴Pの径方向に沿って十字に交差する交差状の溝穴S3を掘削すると共に、この交差状の溝穴S3の周方向間に径方向に沿って複数(本実施形態では90°間隔で4つ)の溝穴S4を掘削する、前記外周掘削と前記中央掘削を併合したような態様が考えられる。なお、かかる態様においても、溝穴S3と溝穴S4の周方向間隔は、
図6に示す態様と同様に、ケーソン躯体1の維持に必要な間隔であって、その後の圧入作業を良好に行い得る適切な間隔とすることが望ましい。
【0075】
(立坑掘削方法の説明)
図8~
図14は、本発明の第1実施形態に係る立坑掘削方法の工程を表したものであって、(a)は地盤の断面視の概略図、(b)は地盤の平面視の概略図を示している。なお、
図8は第1工程、
図9は第2工程、
図10は第3工程、
図11は第4工程、
図12は第5工程、
図13は第6工程、
図14は第7工程を示している。
【0076】
まず、
図8に示すように、ケーソン躯体1の内側の地盤Gのうち比較的軟質な地盤である軟質層(
図8にSAで示す領域)について、架台5の外側に配置された図示外のクレーンから吊り下げられたクラムシェルCSによって掘削を行い、この掘削した土砂を地上へと持ち上げる(揚土作業)。
【0077】
その後、軟質層よりも硬質な地盤である硬質層(
図8にHAで示す領域)について、鉛直掘削を行う(鉛直掘削工程)。具体的には、
図9に示すように、水平方向の任意の位置(
図9(b)参照)で立坑掘削装置のハウジング2を下降させて、カッター3を介して地盤Gを鉛直方向に掘削し、溝穴S1を形成する。
【0078】
続いて、前記鉛直掘削においてカッター3(第1、第2カッター31,32)がケーソン躯体1の刃先よりも下方の位置まで進入したところで、ハウジング2を水平方向にスライドさせることによって水平掘削を行う(水平掘削工程)。具体的には、
図10(a)に示すように、油圧シリンダOCを伸長させることによってスライド機構4のアーム部40(第1、第2アーム部41,42)を縦穴Pの径方向内側へスライドさせ、当該アーム部40の先端部に設けられたガイドフレーム43を介してケーソン躯体1と径方向に対向する溝穴S1の内壁を押圧することにより発生する反力に基づき、ハウジング2をケーソン躯体1に近接する方向へスライドさせる。これにより、ケーソン躯体1と対向するハウジング2の幅方向(X方向)の端部より外側へ突出する第1カッター31を介して、ケーソン躯体1の刃先下部S1aを掘削する。
【0079】
前記水平掘削工程が完了した後、油圧シリンダOCを収縮させることによりスライド機構4を原点復帰させ、スライド機構4のスライド状態を解除した後、ハウジング2を上昇させる。その後、架台5の周方向に沿ってレール6を回転させて、ハウジング2をケーソン躯体1の内側に沿って未掘削の領域まで移動させた後、前述したような鉛直掘削及び水平掘削を繰り返す。こうして、
図11(b)に示すように、ケーソン躯体1の刃先下部S1aを含む当該ケーソン躯体1の内側近傍に複数の溝穴S1を放射状に掘削することで、外周掘削工程が完了する。
【0080】
続いて、前記外周掘削工程が完了した後、縦穴Pの中央部分に円柱状に残存する地盤Gを交差状に掘削する。具体的には、
図12に示すように、前記外周掘削工程の完了後、ハウジング2を上昇させ、移動体7を中央部へ移動させる。そして、再びハウジング2を下降させて、縦穴Pの中央部の地盤Gに直線状の溝穴S2aを掘削する。この溝穴S2aの掘削が完了すると、ハウジング2を上昇させ、レール6を90°回転させた後、再びハウジング2を下降させて、溝穴S2aに直交する直線状の溝穴S2bを掘削する。こうして、
図12(b)に示すように、ケーソン躯体1の中央部近傍に溝穴S2a,S2bを交差状に掘削する中央掘削工程が完了する。
【0081】
続いて、前記中央掘削工程が完了した後、
図13に示すように、ハウジング2を上昇させてレール6の端部まで移動させて、縦穴Pの中央部近傍において再びクラムシェルCSを下降させる。これにより、クラムシェルCSでもって縦穴Pの中央部近傍に残存する地盤G(
図13(b)に示す斜線部)を掘削し、揚土を行う。なお、このクラムシェルCSによる掘削及び揚土については、本実施形態のように、前記鉛直掘削工程ないし前記水平掘削工程が完了した後に行うことに限定されるものではなく、例えば前記鉛直掘削工程ないし前記水平掘削工程と並行して前記鉛直掘削工程を実施していない領域の揚土を行うことも可能である。
【0082】
続いて、前記クラムシェルCSによる揚土作業が完了した後、
図14に示すように、クラムシェルCSを上昇させて退避させ(図示外)、刃先下部S1aにケーソン躯体1を圧入して沈設することにより、立坑掘削が完了する。
【0083】
(立坑掘削装置の作用効果)
以下、本実施形態に係る掘削装置の特徴的な作用効果について具体的に説明する。
【0084】
本実施形態では、鉛直掘削後、スライド機構4を介してハウジング2をケーソン躯体1側へスライドさせて水平掘削を行う。このように、スライド機構4のアーム部40により、ケーソン躯体1の内側と径方向に対向する溝穴S(S1)の内壁を押圧して発生する反力に基づき、ハウジング2をケーソン躯体1側へスライドさせることで、ハウジング2の外側に突出したカッター3(第1カッター31)によってケーソン躯体1の刃先下部Sa(S1a)を掘削することができる。
【0085】
さらに、かかる掘削にあたり、本実施形態では、架台5の径方向に懸架され、かつ架台5の周方向に回転可能に設けられたレール6に沿ってハウジング2を移動させることにより、水平方向においてケーソン躯体1の内側の地盤を自在に掘削することができる。これにより、ケーソン躯体1の外径が大型化した場合でも、カッター3やカッター3を駆動する油圧モータOM、油圧モータOMを収容するハウジング2など、立坑掘削装置の大型化を招来するおそれがない。
【0086】
また、本実施形態では、ハウジング2が、架台5に懸架されたレール6を走行する移動体7によって水平方向に移動可能に構成されていることから、水平方向における特定の領域の掘削を犠牲にすることなく、ケーソン躯体1の刃先下部Sa(S1a)を含む地盤を自在に掘削することができる。
【0087】
また、本実施形態では、径方向に延びる溝穴S(S1)を周方向に複数形成するかたちでケーソン躯体1の刃先下部Sa(S1a)を掘削する。このため、溝穴S(S1)の周方向間に残存する地盤により適度にケーソン躯体1を維持することができる。これにより、掘削後におけるケーソン躯体1の良好な圧入作業にも供する。
【0088】
また、本実施形態では、ハウジング2に排出管9を付設してなる排泥機構が設けられている。これにより、カッター3によって掘削された土砂を、グラブバケット等により外部に排出する必要がなく、掘削作業を円滑に、かつ効率的に行うことができる。
【0089】
とりわけ、前記グラブバケット等による揚土作業は、溝穴S(S1,S2)の深さが増大するにつれてグラブバケット等の昇降に時間を要し、効率が悪くなってしまう。これに対し、本実施形態では、ハウジング2に前記排泥機構が付設されていることから、掘削と揚土を同時に並行して行うことが可能となり、円滑かつ効率的な掘削作業に供する。
【0090】
また、本実施形態では、ハウジング2に排泥ポンプSPが内蔵されていて、排泥ポンプSPを介してカッター3によって掘削された土砂を排出管9へ圧送する構成となっている。このように、排泥ポンプSPによって土砂を圧送して揚土作業を行うことによって、前記グラブバケット等を昇降させて揚土作業を行う場合と比べて、揚土作業を効率的に行うことが可能となり、円滑かつ効率的な掘削作業に供する。
【0091】
また、本実施形態では、アーム部40(第1、第2アーム部41,42)が、油圧シリンダOCによって駆動されるため、油圧モータOMにより駆動される排泥ポンプSPと駆動源(油圧ユニットHU)を共通化することが可能となる。これにより、立坑掘削装置のシステム構成の簡素化が図られ、当該掘削装置の構造の簡素化や低廉化に寄与することができる。
【0092】
また、本実施形態では、アーム部40(第1、第2アーム部41,42)のスライド方向の両端部に、鉛直方向に平行なガイドフレーム43,43が設けられている。これにより、ガイドフレーム43,43によってハウジング2の昇降移動を円滑化することができ、鉛直方向の円滑な掘削に供する。
【0093】
また、本実施形態では、鉛直方向に延びるガイドフレーム43,43の下端部に、鉛直方向下側に向かってガイドフレーム43,43の厚さTを漸次減少させてなる第1テーパ部43c,43cが設けられている。これにより、ハウジング2を下降させて掘削を行う際、溝穴S(S1,S2)の内壁ないしケーソン躯体1の内側面とガイドフレーム43,43との引っ掛かりが抑制され、ハウジング2の滑らかな下降移動を確保することができる。
【0094】
また、本実施形態では、鉛直方向に延びるガイドフレーム43,43の上端部に、鉛直方向上側に向かってガイドフレーム43,43の厚さTを漸次減少させてなる第2テーパ部43d,43dが設けられている。これにより、ハウジング2を上昇させる際、溝穴S(S1,S2)の内壁ないしケーソン躯体1の内側面とガイドフレーム43,43との引っ掛かりが抑制され、ハウジング2の滑らかな上昇移動を確保することができる。
【0095】
また、本実施形態では、鉛直掘削工程が、ケーソン躯体1の内側近傍を放射状に掘削する外周掘削工程と、縦穴Pの中央部近傍を交差状に掘削する中央掘削工程と、によって構成されていて、水平掘削工程は、溝穴S(S1)ごとにそれぞれ外周掘削工程に連続して実施される。これにより、外周掘削工程では、放射状に形成される溝穴S(S1)の周方向間に残存した地盤によりケーソン躯体1を維持することが可能となり、その後のケーソン躯体1の圧入作業を容易に行うことができる。一方、中央掘削工程では、交差状に掘削することで、ケーソン躯体1の内側の中央部においても、より広い範囲について効率的に掘削を行うことができる。
【0096】
また、本実施形態では、地盤のうち比較的浅い領域に形成される軟質層(
図8にSAで示す領域)については、クラムシェルCSを用いた揚土作業により、効率的な掘削作業を行うことが可能となる。なお、軟質層は、比較的浅い領域に形成されることから、クラムシェルCSを昇降させることによる揚土作業としても、掘削にかかる時間を大きくロスするおそれもない。
【0097】
一方で、前記軟質層よりも深い領域に形成される硬質層(
図8にHAで示す領域)については、クラムシェルCSによる掘削が困難であり、また、クラムシェルCSを昇降させることによって行う揚土作業では当該クラムシェルCSの昇降に時間がかかるため、効率的でない。そこで、硬質層については、前記立坑掘削装置をもって鉛直掘削を行うことにより、容易かつ効率的に掘削作業を行うことができる。
【0098】
また、本実施形態では、鉛直掘削工程及び水平掘削工程後にクラムシェルCSによる揚土作業を行っているが、当該クラムシェルCSによる揚土作業は、鉛直掘削工程又は水平掘削工程と並行して鉛直掘削工程を実施していない領域の揚土を行うこととしてもよい。このように、鉛直掘削工程及び水平掘削工程と並行してクラムシェルCSによる揚土を行うことで、掘削作業及び揚土作業をより効率的に短時間で行えるメリットがある。
【0099】
(第1実施形態の変形例)
図15~
図21は、本発明の第1実施形態に係る立坑掘削方法の他例を示す。なお、
図15~
図21は、本発明の第1実施形態に係る立坑掘削方法の工程を表したものであって、(a)は地盤の断面視の概略図、(b)は地盤の平面視の概略図を示している。なお、
図15は第1工程、
図16は第2工程、
図17は第3工程、
図18は第4工程、
図19は第5工程、
図20は第6工程、
図21は第7工程を示している。
【0100】
まず、
図15に示すように、軟質層(
図15にSAで示す領域)について、架台5の外側に配置された図示外のクレーンに吊り下げられたクラムシェルCSによって掘削を行い、この掘削した土砂を地上へと持ち上げる(揚土作業)。
【0101】
その後、硬質層(
図15にHAで示す領域)について、
図16に示すように、水平方向の任意の位置(
図16(b)参照)で立坑掘削装置のハウジング2を下降させて、カッター3を介して地盤Gを鉛直方向に掘削し、溝穴S1を形成する(鉛直掘削工程)。
【0102】
続いて、前記鉛直掘削においてカッター3がケーソン躯体1の刃先よりも下方の位置まで進入したところで、
図17(a)に示すように、油圧シリンダOCを伸長させてスライド機構4のアーム部40を縦穴Pの径方向内側へとスライドさせて、ガイドフレーム43を介してケーソン躯体1と径方向に対向する溝穴S1の内壁を押圧することにより発生する反力に基づき、ハウジング2をケーソン躯体1に近接する方向へスライドさせる。これにより、ケーソン躯体1と対向するハウジング2の幅方向(X方向)の端部より外側へ突出する第1カッター31を介して、ケーソン躯体1の刃先下部S1aを掘削する。
【0103】
前記水平掘削工程が完了した後、油圧シリンダOCを収縮させることによりスライド機構4を原点復帰させ、スライド機構4のスライド状態を解除した後、ハウジング2を上昇させる。その後、架台5の周方向に沿ってレール6を回転させて、ハウジング2をケーソン躯体1の内側に沿って未掘削の領域まで移動させた後、前述したような鉛直掘削及び水平掘削を繰り返す。こうして、
図18(b)に示すように、ケーソン躯体1の刃先下を含む当該ケーソン躯体1の内側近傍に複数の溝穴S1を放射状に掘削することにより、外周掘削工程が完了する。
【0104】
続いて、前記外周掘削工程の後、
図19(a)に示すように、ハウジング2を上昇させてレール6の端部まで移動させ、前記中央掘削を行わずに、縦穴Pの中央部近傍に地盤Gを残存させたまま、先にケーソン躯体1の刃先下部S1aにケーソン躯体1を圧入して沈設する。その後、
図16に示す鉛直掘削、
図17~
図18に示す水平掘削、及び
図19に示すケーソン躯体1の圧入を繰り返し、
図20に示すように、ケーソン躯体1の圧入作業を先行して、当該ケーソン躯体1の沈設を完了させる。
【0105】
続いて、前記ケーソン躯体1の沈設後、縦穴Pの中央部に円柱状に残存する地盤Gを交差状に掘削する。具体的には、
図21に示すように、ケーソン躯体1の沈設が完了した後、ハウジング2を上昇させて、移動体7を中央部へ移動させる。そして、再びハウジング2を下降させて、縦穴Pの中央部に直線状の溝穴S2aを掘削する。この溝穴S2aの掘削が完了すると、ハウジング2を上昇させて、レール6を90°回転させた後、再びハウジング2を下降させて、溝穴S2aに直交する直線状の溝穴S2bを掘削する。こうして、
図21(b)に示すように、ケーソン躯体1の中央部近傍に溝穴S2a,S2bを交差状に掘削する中央掘削工程が完了する。
【0106】
続いて、
図22(a)に示すように、ハウジング2を上昇させてレール6の端部まで移動させた後、縦穴Pの中央部近傍において再びクラムシェルCSを下降させて、当該クラムシェルCSにより縦穴Pの中央部近傍に残存する地盤Gを掘削し(
図23(b)に示す斜線部)、揚土を行う。その後、
図21に示す中央掘削工程及び
図22に示す揚土工程を繰り返して、当該クラムシェルCSによる揚土作業が完了した後、
図23に示すように、縦穴Pの中央部近傍の掘削が完了する。
【0107】
以上、本変形例のように、外周掘削工程とケーソン圧入工程を繰り返して、中央掘削前にケーソン躯体1の圧入作業を先行して完了させてもよく、かかる方法であっても、前記第1実施形態と同様に、ケーソン躯体1の外径が大型化した場合でも、カッター3やカッター3を駆動する油圧モータOM、さらには油圧モータOMを収容するハウジング2といった立坑掘削装置の大型化を招来せず、また、水平方向における特定の領域の掘削を犠牲にすることなく、ケーソン躯体1の刃先下を含む地盤を自在に掘削することができる。
【0108】
〔第2実施形態〕
図24~
図28は、本発明に係る立坑掘削装置、立坑掘削装置スライド機構及び立坑掘削方法の第2実施形態を示し、前記第1実施形態におけるスライド機構4の構成を変更したものである。なお、かかる変更点以外の基本的な構成については、前記第1実施形態と同様である。そのため、第1実施形態と同一の構成については、同一の符号を付すことによって、その説明を省略する。
【0109】
(立坑掘削装置の説明)
図24は、本発明の第2実施形態に係る立坑掘削装置の要部斜視図を示している。
【0110】
図24に示すように、本実施形態に係る立坑掘削装置では、スライド機構4が、ハウジング2の外側にケーソン躯体1に対し径方向に対向して設けられ、奥行方向(Y方向)に沿って伸縮可能な4つのアーム部40と、このアーム部40のそれぞれの先端部に転動可能に設けられたローラ44と、で構成されている。
【0111】
アーム部40は、鉛直方向において並列に配置され、かつケーソン躯体1に向かって水平方向に平行に延設された油圧シリンダによって構成されている。このアーム部40は、油圧ユニットHUからの油圧が作用することにより伸長する。
【0112】
ローラ44は、アーム部40の先端部にそれぞれ転動可能に設けられていて、ケーソン躯体1の内側面を転動することで、ハウジング2をケーソン躯体1の内側に沿って周方向へスライド可能となっている。
【0113】
図25は、本実施形態に係る立坑掘削装置の鉛直掘削の態様を示し、(a)は断面視における掘削状態を示す概略図、(b)は平面視における掘削範囲を示す概略図である。
図26は、本実施形態に係る立坑掘削装置の水平掘削の態様を示し、(a)は断面視における掘削状態を示す概略図、(b)は平面視における掘削範囲を示す概略図である。また、
図27は、
図26に示す水平掘削により掘削された状態を示す平面視の概略図である。
【0114】
鉛直掘削工程では、
図25に示すように、ハウジング2の奥行方向(Y方向)においてケーソン躯体1の内側面と対向する任意の水平方向位置で、地盤Gに対し第1カッター31と第2カッター32を互いに反対方向に回転させた状態でハウジング2を下降させる。これにより、
図25(b)に斜線で示すように、ケーソン躯体1の内側面に沿って当該ケーソン躯体1の内側近傍に平面視矩形状の溝穴Sが鉛直方向(Z方向)に掘削されると共に、この掘削された土砂がハウジング2に内蔵された図示外の排泥ポンプによって吸い上げられ、排出管9を介して排出される。なお、かかる鉛直掘削では、油圧シリンダOCは伸長した状態が維持されており、アーム部40の先端部に設けられたローラ44がそれぞれケーソン躯体1の内側面に摺接することにより、これらアーム部40及びローラ44を介して鉛直掘削に伴うハウジング2の下降移動が案内される。
【0115】
水平掘削工程では、
図26に示すように、前記鉛直掘削によってカッター3(第1、第2カッター31,32)がケーソン躯体1の刃先よりも下方に位置した状態で、第1カッター31と第2カッター32をハウジング2の進行方向に対応する方向へ同方向に回転させる。これにより、第1、第2カッター31,32による掘削に伴って発生する、平面視においてケーソン躯体1の内側面の接線方向に作用する幅方向(X方向)の推進力に基づき、アーム部40が収縮すると共に、ローラ44がケーソン躯体1の内側面を転動する。その結果、
図26(b)に斜線で示すように、ハウジング2が、ケーソン躯体1に近接する方向へスライドしながら当該ケーソン躯体1の内側に沿って回動し、ケーソン躯体1の刃先下に入り込んだカッター3(第1、第2カッター31,32)を介して、ケーソン躯体1の刃先下部Saが徐々に深く掘削される。このように、前記カッター3(第1、第2カッター31,32)の推進力に基づき、ハウジング2がケーソン躯体1の内側に沿って一周することで、
図27に示すように、溝穴Sが円環状に、周方向に連続して形成される。
【0116】
図28は、本実施形態に係る立坑掘削装置による水平掘削の他例を示す平面視の概略図である。
【0117】
本実施形態では、
図26に示すように、ローラ44がケーソン躯体1の内側面を転動することに伴いアーム部40が収縮する態様を例示して説明したが、ケーソン躯体1の刃先下を掘削するにあたって、必ずしもアーム部40を収縮させる必要はない。
【0118】
換言すれば、
図28に示すように、例えばアーム部40を最大に収縮させるなど、アーム部40の伸長量を一定にした状態であっても、ローラ44がケーソン躯体1の内側面に当接する前は、前記幅方向(X方向)の推進力に基づき、カッター3(第1、第2カッター31,32)がケーソン躯体1の刃先下へと入り込み、ローラ44がケーソン躯体1の内側面に当接した後は、当該ローラ44がケーソン躯体1の内側面を転動することにより、ケーソン躯体1の刃先下に入り込んだカッター3(第1、第2カッター31,32)を介して、ケーソン躯体1の刃先下部Saが掘削されることとなる。
【0119】
(立坑掘削装置の作用効果)
以上のように、本実施形態においても、鉛直掘削工程後、スライド機構4を介してハウジング2をケーソン躯体1側へスライドさせることによって、前記第1実施形態と同様、ハウジング2の外側に突出したカッター3(第1、第2カッター31,32)により、ケーソン躯体1の刃先下部Saを掘削することができる。
【0120】
さらに、かかるケーソン躯体1の刃先下部Saの掘削に際して、架台5の径方向に懸架され、かつ周方向に回転可能に設けられたレール6に沿ってハウジング2を移動させることにより、ケーソン躯体1の内側の地盤を自在に掘削することができる。これにより、ケーソン躯体1の外径が大型化した場合でも、カッター3やカッター3を駆動する油圧モータOM、さらには油圧モータOMを収容するハウジング2など、立坑掘削装置の大型化を招来せず、また、水平方向における特定の領域の掘削を犠牲にすることなく、ケーソン躯体1の刃先下部Saを含む地盤を自在に掘削することができる。
【0121】
また、本実施形態では、とりわけ、カッター3(第1、第2カッター31,32)による掘削に伴い発生する幅方向(X方向)の推進力に基づき、ローラ44がケーソン躯体1の内側面を転動して、水平方向においてハウジング2をケーソン躯体1に近接する方向へとスライドさせることにより、ケーソン躯体1の刃先下部Saをケーソン躯体1の周方向に沿って環状に形成することが可能となる。これにより、水平掘削において、前記第1実施形態のように複数の溝穴S1を放射状に掘削するなど、ケーソン躯体1の刃先下部Saを断片的に掘削する場合と比べて、水平掘削をより効率的に行うことが可能となり、ケーソン躯体1の圧入・沈設に係る地盤掘削時間の短縮化を図ることができる。
【0122】
また、本実施形態では、アーム部40を伸縮させてハウジング2のスライド量を調整することで、ケーソン躯体1の刃先下部Saの径方向外側に残存する地盤Gの径方向幅を調整することが可能となり、この残存する地盤Gによってケーソン躯体1を維持することができる。これにより、水平掘削後のケーソン躯体1の良好な圧入作業に供する。
【0123】
本発明は、前記実施形態において例示した構成に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適用対象の仕様等に応じて自由に変更することができる。
【符号の説明】
【0124】
1…ケーソン躯体
2…ハウジング
3…カッター
4…スライド機構
5…架台
6…レール
7…移動体
9…排出管
31…第1カッター
32…第2カッター
40…アーム部
41…第1アーム部
42…第2アーム部
43…ガイドフレーム
43a…縦梁部
43b…横梁部
44…ローラ
CS…クラムシェル
OC…油圧シリンダ
OM…油圧モータ(アクチュエータ)
SP…排泥ポンプ
P…縦穴
S…溝穴
Sa…刃先下部(刃先下)