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特許7575244容量加速度計の閉ループ動作のための方法、および容量加速度計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】容量加速度計の閉ループ動作のための方法、および容量加速度計
(51)【国際特許分類】
   G01P 15/13 20060101AFI20241022BHJP
   G01P 15/125 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
G01P15/13 B
G01P15/125 V
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020179305
(22)【出願日】2020-10-27
(65)【公開番号】P2021071479
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-05-02
(31)【優先権主張番号】1915903.7
(32)【優先日】2019-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508296554
【氏名又は名称】アトランティック・イナーシャル・システムズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Atlantic Inertial Systems Limited
【住所又は居所原語表記】Clittaford Road,Southway,Plymouth,Devon PL6 6DE,United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー ポール フェル
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン タウンゼンド
【審査官】藤澤 和浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-293565(JP,A)
【文献】特表2017-509886(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0334439(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 15/00 ~ 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容量加速度計の閉ループ動作のための方法であって、前記容量加速度計が、
印加加速度に応答して検知軸に沿って移動可能なプルーフマスと、
第1及び第2の固定容量電極であって、ゼロの印加加速度下で前記第1及び第2の固定容量電極のそれぞれと前記プルーフマスとの間にギャップが画定された状態で前記検知軸に沿って前記プルーフマスの両側に対称的に配置された前記第1及び第2の固定容量電極とを備え、
前記方法が、
第1の駆動信号Vを前記第1の固定容量電極に、さらに第2の駆動信号Vを前記第2の固定容量電極に印加することであって、前記第1及び第2の駆動信号が、それぞれ、ゼロと最大値Vrefとの間で振幅が変動する周期的波形を有する、前記印加することと、
前記印加加速度の慣性力のバランスをとって前記プルーフマスをヌル位置に維持するために前記プルーフマスに対して正味の静電復元力を提供するように、前記プルーフマスの変位を検知し、一定の周波数fmod及び可変のマーク/スペース比を用いて前記第1及び第2の駆動信号にパルス幅変調を適用することとを含み、
電圧オフセットVref/2を前記プルーフマスに印加することと、
前記第1及び第2の駆動信号のいずれか一方がVrefまたはゼロにあるときに他方の駆動電圧がVref/2になるように変動する波形を前記第1及び第2の駆動信号が有するように前記パルス幅変調を適用することとを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記第1及び第2の駆動信号が、第1の半サイクルにおいてVref/2とVrefとの間をステップし、第2の半サイクルにおいてVref/2とゼロとの間でステップする波形を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1及び第2の駆動信号が、前記第1の半サイクルにおいて単一の矩形波パルスを含み、前記第2の半サイクルにおいて、前記第1の半サイクルにおける前記単一の矩形波パルスに対してVref/2に関して反転された単一の矩形波パルスを含む波形を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
電圧オフセットVref/2を前記プルーフマスに印加することが、前記第1及び第2の固定容量電極の間の電気的接続の中間に対して前記プルーフマスを参照することを含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記プルーフマスにおける出力信号をサンプリングすることによって前記プルーフマスの変位を検知することと、
補償信号を前記出力信号に加えることであって、前記補償信号が、一定の周波数fmodを用いた同一のパルス幅変調を有し、かつ前記補償信号が前記出力信号と逆位相にある、前記加えることとをさらに含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ゼロの印加加速度下で、前記第1及び第2の固定容量電極のそれぞれと前記プルーフマスとの間の前記ギャップの容量に実質的に一致した容量を有する補償コンデンサの両端に前記補償信号を印加することをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記印加加速度を示す信号を出力することをさらに含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記容量加速度計がシリコンMEMS構造を備える、及び/または前記プルーフマスが実質的に平面である、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記プルーフマスが、印加加速度に応答して前記検知軸に沿った平面内で直線的に移動可能となるように可撓性支持脚によって固定基板に取り付けられ、前記第1及び第2の固定容量電極が、同一平面内で前記固定基板内に形成される、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記プルーフマスが、前記プルーフマスから延び、前記検知軸に対して実質的に垂直であり、かつ前記検知軸に沿って離間された第1及び第2の組の可動容量電極指を含み、
前記第1及び第2の固定容量電極が、それぞれ、前記検知軸に対して実質的に垂直に延び、かつ前記検知軸に沿って離間された第1及び第2の組の固定容量電極指を含み、
前記第1の組の固定容量電極指が、隣接する固定容量電極指の間の中線から前記検知軸に沿った一方向において第1のオフセットで前記第1の組の可動容量電極指と互いに嵌合するように配置され、前記第2の組の固定容量電極指が、隣接する固定容量電極指の間の中線から前記検知軸に沿った反対方向において第2のオフセットで前記第2の組の可動容量電極指と互いに嵌合するように配置される、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
印加加速度に応答して検知軸に沿って移動可能なプルーフマスと、
第1及び第2の固定容量電極であって、ゼロの印加加速度下で前記第1及び第2の固定容量電極のそれぞれと前記プルーフマスとの間にギャップが画定された状態で前記検知軸に沿って前記プルーフマスの両側に対称的に配置された前記第1及び第2の固定容量電極と、
第1の駆動信号Vを前記第1の固定容量電極に、さらに第2の駆動信号Vを前記第2の固定容量電極に印加するように配置されたパルス幅変調信号発生器であって、前記第1及び第2の駆動信号が、それぞれ、ゼロと最大値Vrefとの間で振幅が変動する周期的波形を有する、前記パルス幅変調信号発生器と、
前記印加加速度の慣性力のバランスをとって前記プルーフマスをヌル位置に維持するために前記プルーフマスに対して正味の静電復元力を提供するように、前記プルーフマスの変位から得られた信号を検出し、一定の周波数fmodにて可変のマーク/スペース比を用いて前記第1及び第2の駆動信号を印加するように前記パルス幅変調信号発生器を制御するように配置された閉ループ回路とを備え、
電圧オフセットVref/2が前記プルーフマスに印加され、
前記第1及び第2の駆動信号が、前記第1及び第2の駆動信号のいずれか一方がVrefまたはゼロにあるときに他方の駆動電圧がVref/2にあるように変動する波形を有することを特徴とする、容量加速度計。
【請求項12】
前記プルーフマスが、前記第1及び第2の固定容量電極の間の電気的接続の中間に対して参照される、請求項11に記載の容量加速度計。
【請求項13】
前記プルーフマスにおける出力信号をサンプリングするように配置されたプリアンプであって、前記パルス幅変調信号発生器が、前記プリアンプが前記出力信号に加えるために前記プリアンプに補償信号を入力するように配置され、前記補償信号が、一定の周波数fmodを用いた同一のパルス幅変調を有し、前記補償信号が前記出力信号と逆位相にある、前記プリアンプをさらに備える、請求項11または12に記載の容量加速度計。
【請求項14】
前記パルス幅変調信号発生器と前記プリアンプとの間に接続された補償コンデンサであって、ゼロの印加加速度下で前記第1及び第2の固定容量電極のそれぞれと前記プルーフマスとの間の前記ギャップの容量に実質的に一致した容量を有する前記補償コンデンサをさらに備える、請求項13に記載の容量加速度計。
【請求項15】
シリコンMEMS構造を備える、及び/または
前記プルーフマスが、印加加速度に応答して前記検知軸に沿った平面内で直線的に移動可能となるように可撓性支持脚によって固定基板に取り付けられ、前記第1及び第2の固定容量電極が、同一平面内で前記固定基板内に形成される、及び/または
前記プルーフマスが実質的に平面である、及び/または
前記プルーフマスが、前記プルーフマスから延び、前記検知軸に対して実質的に垂直であり、かつ前記検知軸に沿って離間された第1及び第2の組の可動容量電極指を含み、
前記第1及び第2の固定容量電極が、それぞれ、前記検知軸に対して実質的に垂直に延び、かつ前記検知軸に沿って離間された第1及び第2の組の固定容量電極指を含み、
前記第1の組の固定容量電極指が、隣接する固定容量電極指の間の中線から前記検知軸に沿った一方向において第1のオフセットで前記第1の組の可動容量電極指と互いに嵌合するように配置され、前記第2の組の固定容量電極指が、隣接する固定容量電極指の間の中線から前記検知軸に沿った反対方向において第2のオフセットで前記第2の組の可動容量電極指と互いに嵌合するように配置される、請求項11~14のいずれかに記載の容量加速度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、容量加速度計及びその制御方式に関し、特に、容量加速度計の閉ループ動作のための改善された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加速度計は、動き及び/または振動による加速力を測定するために広く使用されている電気機械デバイスである。容量加速度計は、地震検知、振動検知、慣性検知、及び傾斜検知を含む用途において利用され得る。容量加速度計は、通常、マイクロ電気機械システム(MEMS)として実装され、シリコンなどの半導体材料から製造され得る。容量加速度のための通常のMEMS検知構造は、支持体に移動可能に取り付けられたプルーフマスを含み、プルーフマスから延びる一組の電極指は、1つ以上の組の固定電極指と互いに嵌合して差動コンデンサを形成するようになっている。検知構造の電極は、適切な駆動及びピックオフ電子回路に接続されている。
【0003】
開ループ構成では、電子回路は、正弦波信号または矩形波信号であり得る任意の適切な波形を用いて固定電極指を駆動するように配置されているため、プルーフマスが加速下で移動すると、ピックオフ電圧信号が出力に現れる。WO2004/076340は、開ループ加速度計の実施例を提供する。開ループ構成では、プルーフマス上で検出されたAC信号を使用して、印加加速度を示す信号を生成することができる。単一の固定電極からのプルーフマス上の検出信号の振幅は、V/d2に比例して変動する。式中、Vは電極とプルーフマスとの間の差動電圧であり、dはギャップサイズである。従って、信号レベルはギャップと共に2次的に変動し、ギャップは、印加加速度と共に線形的に変動する。これにより、非線形のスケールファクタが与えられる。このスケールファクタは、高性能を実現するためには、後で補正する必要がある。信号応答が非線形であることにより、振動整流誤差が大きくなる場合がある。また、ギャップサイズが小さい(通常は数ミクロン)ため、動きが制限され、従ってデバイスの動作ダイナミックレンジが制限される。開ループ加速度計では、帯域幅、線形性及びダイナミックレンジの点で性能が制限される可能性がある。
【0004】
開ループ動作のために設計された加速度計検知構造は、力のバランスを実現するために駆動電子回路を使用して可変静電力を電極に提供することにより、閉ループ構成でも使用することができる。閉ループモードでは、プルーフマスは、静電力を印加することによって常に固定位置に維持される。次いで、印加された力によって出力が与えられる。US7267006は、駆動信号のパルス幅変調(PWM)を使用した閉ループ電子制御方式の実施例を提供する。このような閉ループ構成では、電子回路は、同位相及び逆位相のAC矩形波電圧信号を用いて固定電極指のペアを駆動するように配置される。駆動信号は、ゼロと最大値Vrefとの間で振幅が変動する波形を有する。この振幅は、通常、70gのダイナミックレンジを実現するのに必要な力を与えるためには30Vである。印加加速度に応じてPWM駆動方式のマーク:スペース比を調整することにより、各駆動信号の平均DC電圧及び従ってフィードバック力を変化させることができる。従って、マーク:スペース比を使用して、印加加速度レベルと共に線形的に変動する出力信号を発生させることができる。この設計によって高ダイナミックレンジ、良好な線形性、高帯域幅及び低振動整流誤差が与えられることが実証されている。
【0005】
多くの容量センサの性能を低下させる可能性がある既知の問題は誘電体帯電である。この誘電体帯電は、DCオフセット電圧の存在下で発生する可能性がある。この影響には、電界勾配の存在下での帯電種(電子及びイオン)の移動によって電極板表面上の薄い誘電体層が帯電することが含まれる。高い電界勾配は、固定電極と可動電極との間の差動電圧に起因して存在する。これらの電極は、US7267006に記載されたような閉ループ型加速度計の場合に特に大きい。この種類のデバイスのプルーフマス及び電極構造は、通常、ディープ反応性イオンエッチング技術を使用してバルク結晶シリコンから作製される。このような技術は、通常、シリコン表面をエッチングによって露出させた後に、かつデバイスの封止の前に自然に成長する電極表面上の自然酸化物の薄い表面層を生成する。ナトリウム及びリチウムなどの帯電種は、シリコンのプルーフマス及び電極構造をカプセル化する上下のガラスウェーハ層の陽極接合に起因して存在する。電極上の誘電体表面層におけるこれらの電荷の蓄積は、電圧Vrefの一部が誘電体層にわたって低下し、ギャップdの実効電圧が変化することを意味する。従って、これにより、対応する変化がトランスデューサのゲインに生じ、これは、デバイスの性能に悪影響を及ぼすことになる。
【0006】
誘電体帯電は、一定の動作条件下でバイアスとスケールファクタとの両方において緩やかなシフトを生じさせることが知られている。電荷の移動が緩やかであるという性質は、電荷が高周波AC電圧変調には応答せず、固定電圧勾配の存在下で移動することを意味する。これらの影響は、通常、イオン移動度が増加する高温でより急速に発生し、時間の経過と共に定常状態に達する傾向がある。しかしながら、電圧が一旦除去されると電荷は消失し、デバイスが一旦オフに切り替わるとバイアス及びスケールファクタのシフトは元の開始レベルに戻る方向に緩和することが明らかになっている。ただし、その後デバイスの電源を再度投入したときには、影響が再発する。これは、このようなデバイスの性能に対する重大な制限を表している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の目的は、上記で概説した1つ以上の短所を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1の態様によれば、容量加速度計の閉ループ動作のための方法が提供され、容量加速度計は、
印加加速度に応答して検知軸に沿って移動可能なプルーフマスと、
第1及び第2の固定容量電極であって、ゼロの印加加速度下で第1及び第2の固定容量電極のそれぞれとプルーフマスとの間にギャップが画定された状態で検知軸に沿ってプルーフマスの両側に対称的に配置された第1及び第2の固定容量電極とを備え、
方法は、
第1の駆動信号V1を第1の固定容量電極に、さらに第2の駆動信号V2を第2の固定容量電極に印加することであって、第1及び第2の駆動信号が、それぞれ、ゼロと最大値Vrefとの間で振幅が変動する周期的波形を有する、印加することと、
印加加速度の慣性力のバランスをとってプルーフマスをヌル位置に維持するためにプルーフマスに対して正味の静電復元力を提供するように、プルーフマスの変位を検知し、一定の周波数fmod及び可変のマーク/スペース比を用いて第1及び第2の駆動信号にパルス幅変調を適用することと、
電圧オフセットVref/2をプルーフマスに印加することと、
第1及び第2の駆動信号のいずれか一方がVrefまたはゼロのときに他方の駆動電圧がVref/2になるように変動する波形を第1及び第2の駆動信号が有するようにパルス幅変調を適用することとを含む。
【0009】
以下でさらに説明するように、プルーフマスをVref/2にオフセットすることにより、第1及び第2の駆動信号は、プルーフマスに対して相対的に±Vref/2だけ変動し、従って従来技術で見られた問題の平均DCオフセットが排除される。力は電圧の2乗として変動するため、正味の静電復元力の極性は変化しない。従来技術のように鏡像ではなく、Vref/2にステップする波形を有する第1及び第2の駆動信号により、パルス幅変調のマーク:スペース比を変えることによって平均力が依然として調整可能であることが保証される。従って、印加加速度の慣性力をバランスさせてプルーフマスをヌル位置に維持することができる。本明細書に開示したような方法は、高性能を維持しつつ誘電体帯電の影響を実質的に排除する、修正された閉ループ方式を提供する。
【0010】
少なくともいくつかの実施例では、第1及び第2の駆動信号の周期的波形は、他方の駆動信号がVrefまたはゼロにあるときにVref/2にステップする波形シーケンスを含む、実質的に矩形波形であってもよい。他の実施例では、第1及び第2の駆動信号は、このようなシーケンスを有する任意の他の適切な波形、例えば、矩形波形の代わりに三角波形または台形波形を含んでもよい。他の実施例では、第1及び第2の駆動信号は、正弦波ベースの波形を含んでもよい。いくつかの実施例では、正弦波ベースの波形シーケンスは、第1及び第2の駆動信号のいずれか一方が、半正弦波部分の間、Vref/2とVrefとの間で、またはVref/2とゼロとの間で変動しているとき、他の駆動電圧がVref/2にあるように、順に交番する半正弦波を含んでもよい。
【0011】
波形形状に関係なく、第1及び第2の駆動信号は特定の波形シーケンスを有する。印加加速度がゼロであるいくつかの実施例では、第2の駆動信号V2は、1/4サイクルシフトを伴う第1の駆動信号V1の鏡像である。1/4サイクルシフトにより、駆動信号の振幅が、Vrefにステップアップするか、またはゼロにステップダウンする前の少なくとも1/4サイクルの間、常にVref/2に留まることが保証される。これは50:50のマーク:スペース比に対応する。
【0012】
1つ以上の実施例では、追加または代替として、第1及び第2の駆動信号は、第1の半サイクルにおいてVref/2とVrefとの間をステップし、第2の半サイクルにおいてVref/2とゼロとの間でステップする波形を有する。この波形シーケンスは、マーク:スペース比に関わりなく適用され得る。
【0013】
1つ以上の実施例では、追加または代替として、第1及び第2の駆動信号は、第1の半サイクルにおいて単一の矩形波パルスを含み、第2の半サイクルにおいて、第1の半サイクルにおける単一の矩形波パルスに対してVref/2に関して反転された単一の矩形波パルスを含む波形を有する。この波形シーケンスは、マーク:スペース比に関わりなく適用され得る。
【0014】
1つ以上の実施例では、追加または代替として、電圧オフセットVref/2をプルーフマスに印加することは、第1及び第2の組の固定容量電極指の間の電気的接続の中間に対してプルーフマスを参照することを含む。
【0015】
1つ以上の実施例では、追加または代替として、方法は、
プルーフマスにおける出力信号をサンプリングすることによってプルーフマスの変位を検知することと、
補償信号を出力信号に加えることであって、補償信号が、一定の周波数fmodを用いた同一のパルス幅変調を有し、かつ補償信号が出力信号と逆位相にある、加えることとをさらに含む。
【0016】
追加として、方法は、
ゼロの印加加速度下で、第1及び第2の固定容量電極のそれぞれとプルーフマスとの間のギャップの容量に実質的に一致した容量を有する補償コンデンサの両端に補償信号を印加することをさらに含んでもよい。ゼロの印加加速度下で、第1及び第2の固定容量電極のそれぞれとプルーフマスとの間のギャップは、理想的には同一である、すなわち、プルーフマスは、第1及び第2の固定容量電極の間の中央に位置することが理解されよう。当然のことながら、製造公差により、このような理想的な状況からの若干のずれが生じる場合がある。
【0017】
1つ以上の実施例では、追加または代替として、方法は、
印加加速度を示す信号を出力することをさらに含む。
【0018】
1つ以上の実施例では、追加または代替として、容量加速度計はシリコンMEMS構造を備える。
【0019】
1つ以上の実施例では、追加または代替として、プルーフマスは実質的に平面である。
【0020】
1つ以上の実施例では、追加または代替として、プルーフマスは、印加加速度に応答して検知軸に沿った平面内で直線的に移動可能となるように可撓性支持脚によって固定基板に取り付けられ、第1及び第2の固定容量電極は、同一平面内で固定基板内に形成される。
【0021】
1つ以上の実施例では、追加または代替として、プルーフマスは、プルーフマスから延び、検知軸に対して実質的に垂直であり、かつ検知軸に沿って離間された第1及び第2の組の可動容量電極指を含み、第1及び第2の固定容量電極は、それぞれ、検知軸に対して実質的に垂直に延び、かつ検知軸に沿って離間された第1及び第2の組の固定容量電極指を含み、第1の組の固定容量電極指は、隣接する固定容量電極指の間の中線から検知軸に沿った一方向において第1のオフセットで第1の組の可動容量電極指と互いに嵌合するように配置され、第2の組の固定容量電極指は、隣接する固定容量電極指の間の中線から検知軸に沿った反対方向において第2のオフセットで第2の組の可動容量電極指と互いに嵌合するように配置される。
【0022】
本開示の第2の態様によれば、
印加加速度に応答して検知軸に沿って移動可能なプルーフマスと、
第1及び第2の固定容量電極であって、ゼロの印加加速度下で第1及び第2の固定容量電極のそれぞれとプルーフマスとの間にギャップが画定された状態で検知軸に沿ってプルーフマスの両側に対称的に配置された第1及び第2の固定容量電極と、
第1の駆動信号V1を第1の固定容量電極に、さらに第2の駆動信号V2を第2の固定容量電極に印加するように配置されたパルス幅変調信号発生器であって、第1及び第2の駆動信号が、それぞれ、ゼロと最大値Vrefとの間で振幅が変動する周期的波形を有する、パルス幅変調信号発生器と、
印加加速度の慣性力のバランスをとってプルーフマスをヌル位置に維持するためにプルーフマスに対して正味の静電復元力を提供するように、プルーフマスの変位から得られた信号を検出し、一定の周波数fmodにて可変のマーク/スペース比を用いて第1及び第2の駆動信号を印加するようにパルス幅変調信号発生器を制御するように配置された閉ループ回路とを備え、
電圧オフセットVref/2がプルーフマスに印加され、
第1及び第2の駆動信号が、第1及び第2の駆動信号のいずれか一方がVrefまたはゼロにあるときに他方の駆動電圧がVref/2にあるように変動する波形を有する、容量加速度計が提供される。
【0023】
1つ以上の実施例では、プルーフマスは、第1及び第2の固定容量電極の間の電気的接続の中間に対して参照される。
【0024】
1つ以上の実施例では、追加または代替として、容量加速度計は、プルーフマスにおける出力信号をサンプリングするように配置されたプリアンプであって、パルス幅変調信号発生器が、プリアンプが出力信号に加えるためにプリアンプに補償信号を入力するように配置され、補償信号が、一定の周波数fmodを用いた同一のパルス幅変調を有し、補償信号が出力信号と逆位相にある、プリアンプをさらに備える。
【0025】
少なくともいくつかの実施例では、容量加速度計は、パルス幅変調信号発生器とプリアンプとの間に接続された補償コンデンサであって、ゼロの印加加速度下で第1及び第2の固定容量電極のそれぞれとプルーフマスとの間のギャップの容量に実質的に一致した容量を有する補償コンデンサをさらに備える。
【0026】
1つ以上の実施例では、追加または代替として、容量加速度計はシリコンMEMS構造を備える。
【0027】
1つ以上の実施例では、追加または代替として、プルーフマスは、印加加速度に応答して検知軸に沿った平面内で直線的に移動可能となるように可撓性支持脚によって固定基板に取り付けられ、第1及び第2の固定容量電極は、同一平面内で固定基板内に形成される。
【0028】
1つ以上の実施例では、追加または代替として、プルーフマスは実質的に平面である。
【0029】
1つ以上の実施例では、追加または代替として、プルーフマスは、プルーフマスから延び、検知軸に対して実質的に垂直であり、かつ検知軸に沿って離間された第1及び第2の組の可動容量電極指を含み、第1及び第2の固定容量電極は、それぞれ、検知軸に対して実質的に垂直に延び、かつ検知軸に沿って離間された第1及び第2の組の固定容量電極指を含み、第1の組の固定容量電極指は、隣接する固定容量電極指の間の中線から検知軸に沿った一方向において第1のオフセットで第1の組の可動容量電極指と互いに嵌合するように配置され、第2の組の固定容量電極指は、隣接する固定容量電極指の間の中線から検知軸に沿った反対方向において第2のオフセットで第2の組の可動容量電極指と互いに嵌合するように配置される。
【0030】
1つ以上の非限定的な実施例について、添付の図面を参照して以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】従来技術による閉ループ容量加速度計のための既知の電子制御方式を模式的に示す。
図2】従来技術による、ゼロの印加加速度条件下で50:50のマーク:スペース比の場合の、電極1及び2についての印加電圧波形及び得られた静電力を示す。
図3】従来技術による、正の印加加速度条件下で25:75のマーク:スペース比の場合の、電極1及び2についての印加電圧波形及び得られた静電力を示す。
図4】プルーフマスがVref/2に対して参照される、ゼロの印加加速度条件下で50:50のマーク:スペース比の場合の、電極1及び2についての印加電圧波形及び得られた静電力を示す。
図5】本開示の実施例による、ゼロの印加加速度条件下で50:50のマーク:スペース比の場合の、電極1及び2についての印加電圧波形及び得られた静電力を示す。
図6】本開示の実施例による、正の印加加速度条件下で25:75のマーク:スペース比の場合の、電極1及び2についての印加電圧波形及び得られた静電力を示す。
図7】本開示の実施例による閉ループ容量加速度計の電子制御方式を模式的に示す。
図8】従来技術による、正、ゼロ及び負の印加加速度条件下の開ループ加速度計についての、プリアンプ電圧出力信号及びサンプリングポイントを示す。
図9】従来技術による、正、ゼロ及び負の印加加速度条件下の閉ループ加速度計についての、プリアンプ電圧出力信号及びサンプリングポイントを示す。
図10】本開示の実施例による、正、ゼロ及び負の印加加速度条件下の開ループ加速度計についての、プリアンプ電圧出力信号及びサンプリングポイントを示す。
図11】本開示のさらなる実施例による閉ループ容量加速度計についての代替の電子制御方式を模式的に示す。
図12】本開示の実施例による、正の印加加速度条件下の開ループ加速度計についての、補償信号の印加前と印加後との両方の、プリアンプ電圧出力信号及びサンプリングポイントを示す。
図13】本開示のさらなる実施例による、正、ゼロ及び負の印加加速度条件下の閉ループ加速度計についての、プリアンプ電圧出力信号及びサンプリングポイントを示す。
図14】容量加速度計における例示的な電極配置の模式的表現である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1には、US7267006によって例示された従来技術による閉ループ容量加速度計の既知の電子制御方式が概略的に見られ、その内容は参照によってここで組み込まれる。パルス幅変調(PWM)信号発生器は、一定の固定参照電圧Vrefを受け取り、相補的な第1及び第2の駆動電圧V1及びV2を電極1及び電極2に供給する。電極1及び2は、通常、当技術分野において周知であるように、プルーフマスの可動容量電極指と互いに嵌合する第1及び第2の組の固定容量電極指の形態をとる。
【0033】
プリアンプは、プルーフマスにおける出力信号をサンプリングするように配置される。図1に示すように、プリアンプは、プルーフマスからの入力が「仮想接地」となるように構成される。ここで、「接地」の電圧は0Vであり、これは、抵抗器などのDCバイアス素子によって実現される。次いで、プリアンプは、プルーフマスのDCバイアス電圧を強制的に参照電圧Vrefと同じにするが、プルーフマスの移動に応答してプリアンプによって周期的信号がピックアップされる。次いで、これらの周期的なピックオフ信号は、復調され、ループフィルタを通過した後、閉ループ動作でパルス幅変調(PWM)信号発生器にフィードバックされる。
【0034】
図2は、第1及び第2の駆動信号が、ゼロと最大値Vrefとの間で振幅が変動する標準的な矩形波形を有することを示す。この振幅は、通常、70gのダイナミックレンジを実現するのに必要な力を与えるには30Vである。ゼロの印加加速度の場合、プルーフマス電極と2つの固定電極のそれぞれとの間のギャップdが名目上等しいとき、波形は、マーク:スペース比が50:50の矩形波からなる。得られた力Fは、各電極について次の式で与えられる。
【0035】
【数1】
【0036】
式中、Cはギャップ容量であり、Vは電圧である。50:50のマーク:スペース波形の平均電圧レベルは、破線で示したように、Vref/2に等しい。従って、対応する平均力は、同じようにピーク値の半分になり、同様に図2に破線で示されている。固定電極がプルーフマスの反対側に位置しているため、力は反対方向に作用し、従ってプルーフマスに作用する正味の力はゼロになる。これらの波形は、臨界的に減衰するプルーフマスの機械的共振周波数と比較して非常に高い周波数(例えば、100kHz程度のfmod)にて都合よく変調され、従って、この周波数では大きい動きは発生しない。
【0037】
加速度計に加速度が印加されると、プルーフマスの変位によって発生した信号が、PWM信号のマーク:スペース比を調整する制御ループ内にフィードバックされる。これにより、固定電極とプルーフマスとの間の力が差動的に変化して、ヌル位置に戻るようにプルーフマスが駆動される。正味の力は次のように与えられる。
【0038】
【数2】
【0039】
式中、d1及びd2は、それぞれ電極1及び電極2のコンデンサギャップを指し、w1及びw2は、固定電極に印加される2つの波形のパルス幅(すなわち、電圧がVrefにある)である。25:75のマークスペース比の元となる、例示的な正の加速度についての波形及び得られた力を図3に示す。電極1に印加されたパルス幅が減少すると、平均電圧が減少するために平均力が減少するが、電極2については平均電圧及び平均力が増加する。プルーフマスに対する正味の平均力は、電極1と電極2との間の差動力によって与えられる。各駆動信号によって生成される個々の平均力は非線形であるが、2つが共に働くことで非線形性がキャンセルされ、マーク:スペース比に関して線形的に変動する正味の力が生成される。
【0040】
このような従来技術の容量加速度計では、固定電極とプルーフマスとの間の平均DC電圧が大きいことに起因して誘電体帯電が起きる。これらの電圧レベルも、印加加速度レベルに応じて変動するため、帯電特性が変化する。図1の制御方式では、Vrefに30Vの電圧レベルを印加すると、固定電極のそれぞれとプルーフマスとの間の平均DCオフセットが15Vになり、0gが印加されたときでも、大きい反力がプルーフマスに対して発生する。平均電圧オフセットは、適用されるgレベルに応じて変動するが、実際のどの用途でも、通常、大きいオフセットが常に存在する。
【0041】
しかしながら、出願人は、固定電極とプルーフマスとの間の平均電圧オフセットを除去することにより、このような誘電体帯電を実質的に排除できることを認めた。これは、プルーフマスの電圧レベルを最初にVref/2にオフセットすることによって実現され得る。従って、電圧波形は、プルーフマスと固定電極との間に平均ゼロのオフセットを与えるようにプルーフマスの電圧レベルの周りで対称的に変動する。これにより、電荷移動の原動力となる電圧勾配が排除され、問題のスケールファクタ及びバイアスのドリフトが排除される。
【0042】
しかしながら、出願人は、図1~3の既知の制御方式においてプルーフマス電圧を単にオフセットするのでは、閉ループ動作の必要な力フィードバックが実現できないことに気付いた。図4は、プルーフマス電圧を単にオフセットしたときの効果を示す。平均DC電圧が排除されると共に、V2として変動する力が整流され、従って、正及び負のパルスが同じ極性の同一の力を生成することが分かる。従って、マーク:スペース比を変えても平均力に変化が引き起こされないため、力フィードバックを適用することができない。
【0043】
本開示による実施例では、駆動信号波形は、図5に示すように、パルス幅変調を適用することによって平均力を調整できるように修正される。電極1の電圧波形V1は、第1の半サイクルにおいてVref/2とVrefとの間をステップして(プルーフマス電圧に関して)正のパルスで第1の「マーク」を与え、第2の半サイクルにおいてVref/2とゼロとの間をステップして(プルーフマス電圧に関して)第2の負のパルスを与える。これらのパルスは、Vref/2の電圧レベルにある「スペース」によって分離される。プルーフマスに対して相対的な電圧は、V1及びV2のプロットの右側に与えられている。プルーフマスから見た±15Vの電圧変化全体は、従来の制御方式において印加されていた30Vの範囲と同じであるが、ここでは、破線で示されているように平均ゼロ電圧が存在する。従来技術の波形(図2)を本開示の実施例の波形(図5)と比較すると、同一のタイムスケールについて、本開示の波形の周波数fmodは、従来技術の周波数の半分になる。図5に示す、得られた力の時間的形態は、正及び負の電圧サイクルの整流により、2×fmodになり、図2の時間的形態と本質的に同一である。
【0044】
図6は、マーク:スペース比を25:75に調整したときの効果を示す。ここで、正及び負のサイクルのパルス幅は同じように調整されて、ゼロの平均電圧を維持しつつ差動力を調整することができる。マークの時間は短くなるが、先と同様に、電極1の電圧波形V1は、第1の半サイクルにおいてVref/2とVrefとの間をステップして(プルーフマス電圧に関して)正のパルスで第1の「マーク」を与え、第2の半サイクルにおいてVref/2とゼロとの間をステップして(プルーフマス電圧に関して)第2の負のパルスを与える。25:75のマーク:スペース比により、電極1と電極2との間に差動力が生成され、従って、印加加速度の慣性力のバランスをとってプルーフマスをヌル位置に維持するためにプルーフマスに対して正味の静電復元力が生成される。プルーフマスに対して相対的な電圧は、V1及びV2のプロットの右側に与えられている。この場合も、得られた力の時間的形態は、図3に示したものと同一である。
【0045】
図5図6に見られた実施例では、平均駆動力Fは(Vref/2)2に比例するため、この制御方式は駆動力を1/4に低減する。これにより、より大きい電圧範囲が印加されない限り、所与の加速度計のg範囲全体が制限される。しかしながら、多くの高精度用途では、大きいg範囲は必要とされない。ただし、必要に応じて、Vrefの値を増加させることによってg範囲を増加させてもよい。
【0046】
図7は、容量加速度計の閉ループ動作、すなわち力フィードバック制御方式のための開示された方法を実装するための例示的な手段のブロック図を示す。パルス幅変調(PWM)信号発生器には、電圧Vref、Vref/2及び0Vが供給され、図5及び図6に示した電極電圧波形V1及びV2を電極1及び2にそれぞれ出力する。プルーフマスからの信号は、DCバイアス素子(例えば、抵抗器からなってもよい)を介して、Vref/2に対して参照されるプリアンプに印加される。このDCバイアス素子は、プルーフマス参照電圧を同一のレベルにオフセットする。これは、図1に示したような、プルーフマスが0Vに対して参照される従来技術とは異なる。プリアンプ出力は、復調され、ループフィルタに印加される。このループフィルタは、信号を積分し、マーク:スペース比を調整するようにPWM信号発生器を制御するために使用される出力を用いてシステムの動的応答を設定する。プリアンプ、復調器、ループフィルタ、及びPWM信号発生器へのフィードバックは、閉ループ回路10を形成する。
【0047】
本開示の実施例とUS7267006に記載された従来技術の制御方式との間には、プリアンプによって検出される信号及びその後の復調に着目すると、大きな差異が存在する。図1の以前の方式について、(開ループ加速度計構成の)プリアンプによって検出されたAC信号を図8に模式的に示す。例えば、正の加速度が印加されると、電極1の信号は、差動ギャップの変化によって電極2の信号よりも大きくなる。図8は、正、ゼロ及び負の印加加速度についての得られた信号を示す。駆動波形V1の立ち上がりエッジ及び立ち下がりエッジを使用して、既定の遅延の後に行われる信号サンプリングをトリガすることにより、入力波形から生じるあらゆる信号の過渡を回避する。サンプリングポイントは図8において十字で示されている。駆動波形V1上の対応するポイントは図2図3に示されている。遅延は、パルス幅の約5%に等しくなるように都合よく設定される。これは、例示的な100kHzの変調周波数fmodの場合、0.25マイクロ秒の遅延に相当する。サンプリング期間中にスイッチングが発生しないことを保証するために、5%:95%<マーク:スペース<95%:5%の制限が設定される。加速度信号は、サンプルAとサンプルBとのレベルの差から次のように導出される。
【0048】
加速度信号=(サンプルA-サンプルB)
閉ループ動作では、このAC信号を使用して、プリアンプへの入力にてヌルを実現するためにマーク:スペース比を調整する。従って、図8に示した波形は、プリアンプ出力が常にゼロに維持されるように修正される。ただし、サンプリングポイントは、駆動波形の立ち上がりエッジ及び立ち下がりエッジに従って変動する。駆動波形は、ここでは、可変のマーク:スペース比でパルス幅変調を受ける。閉ループ構成の場合のプリアンプ出力と対応するサンプルポイントを図9に示す。駆動波形V1上の対応するポイントは図2図3に示されており、図2(50:50)はゼロの加速度を表し、図3(25:75)は正及び負の加速度を表す。
【0049】
正、ゼロ及び負の印加加速度について、本開示の実施例のプリアンプによって測定された対応する開ループAC信号を図10に示す。印加加速度がゼロのときでも、大きいAC信号がfmodにて存在することが分かる。この実施態様では、正の加速度によって引き起こされるプルーフマスの変位により、サンプルAのレベルはサンプルBのレベルよりも小さい正の値を与える。次の2つのサンプルでは、サンプルCのレベルは、サンプルDのレベルよりも小さい負の値になる。加速度信号は、これらのサンプルを次のように合計することによって導出される。
【0050】
加速度信号=(サンプルA-サンプルB)-(サンプルC-サンプルD)
負の加速度の場合、得られた加速度信号の極性は反転する。このプロセスにより、大きいACバックグラウンド信号が存在するにもかかわらず、加速度信号を抽出することができる。換言すると、加速度信号は、バックグラウンド(ゼロ加速度)信号に重畳された比較的小さい摂動として現れる。開ループ加速度計の場合、これは、加速度の直接測定を提供するが、閉ループ動作では、この信号は、入力加速度信号がヌルになるようにマーク:スペース比を調整するために使用される。
【0051】
図10に示したfmodの大きいAC波形は、加速によって引き起こされるより小さい信号変動に重畳される。この大きい信号をプリアンプに入力することは、飽和を回避するために適用され得るゲインがそれによって制限されるために問題となる場合がある。この制限は、プリアンプに入力される等しい振幅の逆位相補償信号を加算することによって解決することができる。これは、図11において模式的に示したように実装されてもよい。容量加速度計は、図7に関連して既に説明したものと基本的に同じである。ただし、この実施例では、(fmodの)矩形波補償信号が、Vref/2と-Vref/2との間で変動するPWM信号発生器によって追加的に生成されることを除く。これにより、補償信号のタイミング及び振幅が、電極1及び2に印加される駆動信号波形と正確に同期することが保証される。補償信号は、電極1及び2のギャップ容量と実質的に等しい値の容量を有する固定「補償」コンデンサCに印加され、次いで、コンデンサCからの信号はプリアンプ入力に印加される。このとき、プリアンプへの入力にて受け取られた補償信号は、実質的に等しい振幅であるが、プルーフマス電極からの信号入力とは反対の位相である。図12は、正の印加加速度の例示的な場合についての補償の効果を示す。未補償の信号は、大きいピーク間変動を示す。このピーク間変動において、印加加速度によるものは小さい成分に過ぎない。補償信号(破線)の印加後、変動は大幅に減少する。正確に一致した補償信号の場合、得られた出力信号には、印加加速度によって生じる成分のみが含まれる。
【0052】
閉ループモードで動作させたとき、かつ補償信号が印加された場合、図10に示した開ループの場合のプリアンプ出力波形は、図13に示すように修正される。これにより、プリアンプのゲインを、補償信号が存在しない場合よりも大幅に高く設定することができるため、測定分解能の大幅な向上が得られ、従って、加速度計の感度及びノイズ性能の大幅な向上が得られる。
【0053】
プルーフマス及び固定容量電極は、本明細書に概略的に開示されているように容量加速度計において任意の適切な配置を有し得る。例えば、プルーフマスは、振り子式またはヒンジ式構造で移動可能であってもよい。EP0338688は、シリコンカンチレバーの先端に形成された可動プルーフマス電極及び可動電極に対向するように配置された固定電極の適用可能な実施例を提供する。しかしながら、いくつかの好ましい実施例では、プルーフマスは、平面であり、第1及び第2の固定容量電極から延びる固定電極指と互いに嵌合する可動電極指を含む。このような互いに嵌合した、または櫛状の電極構造は、例えば、US6761069、US6631643またはUS7267006のいずれかに開示されているように、当技術分野において周知であり、これらのそれぞれの内容は、参照によってここで組み込まれる。
【0054】
容量加速度計101のための例示的な電極構造を図14において模式的に示す。これは、US7267006に記載されたものと同様である。この実施例では、プルーフマス102は、実質的に平面であり、印加加速度に応答して(両方向矢印で示したように)検知軸に沿った平面内で直線的に移動可能となるように可撓性支持脚114によって固定基板(図示せず)に取り付けられている。可撓性支持脚114は、プルーフマス102の本体から延び、アンカーポイント116にて固定基板に固定される。
【0055】
第1及び第2の固定容量電極104、106は、同一平面内で固定基板内に形成される。プルーフマス102は、プルーフマス102から延び、検知軸に対して実質的に垂直であり、かつ検知軸に沿って離間された第1及び第2の組の可動容量電極指108を含む。第1及び第2の固定容量電極104、106は、それぞれ、検知軸に対して実質的に垂直に延び、かつ検知軸に沿って離間された第1及び第2の組の固定容量電極指110、112を含むことも分かり得る。第1の組の固定容量電極指110は、隣接する固定容量電極指110の間の中線mから検知軸に沿った一方向において第1のオフセットで第1の組の可動容量電極指108aと互いに嵌合するように配置され、第2の組の固定容量電極指112は、隣接する固定容量電極指112との間の中線mから検知軸に沿った反対方向において第2のオフセットで第2の組の可動容量電極指108bと互いに嵌合するように配置される。
【0056】
プルーフマス102は、印加加速度に応答して検知電極に沿った方向において固定電極104、106に対して面内で移動することができる。2組の固定電極指110、112は、プルーフマスの指108a、108bから反対方向にオフセットされているため、どちらの方向の移動も測定することができる。これらのオフセットは、寸法が等しくてもよい。可動指108a、108bに対する第1の組の固定電極指110及び第2の組の固定電極指112のオフセットに差があると、駆動信号(例えば、電圧波形)が第1及び第2の組の固定電極指110、112に印加されたときに引力が生じる。
【0057】
開ループ動作では、印加加速度に応答したプルーフマス102の移動により、プルーフマスの指108a、108bと固定電極指110、112との間のオフセットに変化が生じる。この変化によって差動容量の変化が生じるため、これを使用して加速度を計算することができる。閉ループ動作では、互いに嵌合した電極指は、実際には互いに対して移動しない。第1及び第2の固定容量電極104、106に印加された第1及び第2の駆動信号にパルス幅変調(PWM)を適用すると、静電復元力がプルーフマスの指108a、108bに作用するため、加速下でプルーフマス102は図14に見られるヌル位置から移動せず、印加加速度の慣性力は正味の静電復元力によってバランスされている。
【0058】
本開示は、その1つ以上の特定の実施例を説明することによって示されているが、これらの態様に限定されないことが当業者によって理解されるであろう。添付の特許請求の範囲内で、多くの変更及び修正が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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