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特許7575256接合レンズ、およびそれを備えた光学系、および光学機器、および接合レンズの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】接合レンズ、およびそれを備えた光学系、および光学機器、および接合レンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/00 20060101AFI20241022BHJP
   G02B 1/111 20150101ALI20241022BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20241022BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
G02B5/00 B
G02B1/111
G02B1/115
G02B3/00
G02B3/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020202240
(22)【出願日】2020-12-04
(65)【公開番号】P2022089661
(43)【公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山下 直城
(72)【発明者】
【氏名】盛 貴仁
【審査官】沖村 美由
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-117472(JP,A)
【文献】特開平11-064607(JP,A)
【文献】特開2012-252307(JP,A)
【文献】特開2020-024331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B5/00-5/136
G02B1/10-1/18
G02B3/00-3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の非光学有効領域に第1の遮光膜が形成された第1の光学素子と、
基材の非光学有効領域に第2の遮光膜が形成された第2の光学素子と、
前記第1の光学素子および前記第2の光学素子の光学有効領域同士を貼り合せる接着層と、を備えた接合レンズであって、
前記第1の遮光膜は、前記第1の光学素子の前記非光学有効領域のみに形成されており、
前記第2の遮光膜は、前記第2の光学素子の前記非光学有効領域のみに形成されており、
前記非光学有効領域とはコバ面であり、
前記接着層は、前記第1の遮光膜と前記第2の遮光膜との間から露呈しており、
前記第1の遮光膜の表面上と、前記第2の遮光膜の表面上とに、前記接着層が露呈している、
接合レンズ。
【請求項2】
(i)前記接合レンズの光学有効領域、(ii)前記第1の遮光膜と前記第2の遮光膜、および、(iii)前記接着層の前記露呈している部分、からなる群より選ばれる少なくとも1つは、屈折率が1.15~1.35の低屈折率層により覆われている、
請求項1に記載の接合レンズ。
【請求項3】
前記低屈折率層が、SiO、MgF、および、Alからなる群から選ばれる、
請求項2に記載の接合レンズ。
【請求項4】
前記低屈折率層は、シリカから成る外殻部と、当該外殻部に囲まれた中空部とを備えたバルーン構造を有する中空シリカ粒子がバインダにより結着されると共に、当該中空シリカ粒子の中空部以外の空隙部が存在する層であり、
前記中空シリカ粒子の平均粒径は、5nm以上100nm以下である、
請求項2または3に記載の接合レンズ。
【請求項5】
前記低屈折率層は、前記中空シリカ粒子と、前記バインダの成分として樹脂材料または金属アルコキシドとを用いて形成された層である、
請求項4に記載の接合レンズ。
【請求項6】
前記接合レンズの光学有効領域に、屈折率が1.35~2.5の透明材料から成る薄膜を一層以上積層した下地層を備えており、
前記下地層上に、前記低屈折率層が積層されている、
請求項2から5の何れか1項に記載の接合レンズ。
【請求項7】
前記下地層は、真空蒸着法、スパッタ法、または、ALD法により作製された膜である、
請求項6に記載の接合レンズ。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載の接合レンズを備えた、
光学系。
【請求項9】
請求項1から7の何れか1項に記載の接合レンズと、
前記接合レンズによって集光された光を受光する受光素子と、
を備えた、
光学機器。
【請求項10】
基材の非光学有効領域に第1の遮光膜が形成された第1の光学素子と、基材の非光学有効領域に第2の遮光膜が形成された第2の光学素子との光学有効領域同士を、接着層を介して貼り合せる貼り合せ工程を含み、
前記第1の遮光膜は、前記第1の光学素子の前記非光学有効領域のみに形成されており、
前記第2の遮光膜は、前記第2の光学素子の前記非光学有効領域のみに形成されており、
前記非光学有効領域とはコバ面であり、
前記貼り合せ工程では、前記第1の遮光膜の表面上と、前記第2の遮光膜の表面上とに、前記接着層を露呈させる、
接合レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラ等の撮像装置に用いられる接合レンズ、およびそれを備えた光学系、および光学機器、および接合レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラなどの撮像装置には、色収差を補正するため、有機系の接合接着剤により屈折率の異なる複数のガラスレンズを貼り合わせた接合レンズが広く用いられている。また、撮像装置に用いられるレンズには、ゴーストやフレアなどの原因となる内部反射を低減するため、非光学有効領域(コバ部)に黒色で不透明な遮光層(墨塗膜)が形成されている。接合レンズにおいても、同様の目的で、コバ部へ墨塗膜が形成される。例えば、特許文献1に開示された接合レンズには、凸レンズと凹レンズとによって挟圧されて延展された接着剤の外周端部に、カーボンブラックが混合された無溶剤系のエポキシ樹脂が塗布されている。また、特許文献2には、第1の光学要素と第2の光学要素とを、樹脂を含む第3光学要素によって接合した接合レンズにおいて、第3光学要素における第1、2の光学要素に接していない面を遮光膜が覆っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-108642号公報
【文献】特開2020-24331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、遮光膜(墨塗膜)は塗布後に高温で熱硬化させる必要がある。一方、接合レンズは、ガラスレンズと、接合接着剤の層との線膨張係数の差に起因して接合界面が剥がれやすい。そのため、接合レンズに塗布される遮光膜は、単体レンズの遮光膜を熱硬化させる場合よりも低い温度で熱硬化させる。しかしながら、遮光膜を低温で硬化させた場合、高温で硬化する場合に比べて、以下のような課題がある。
【0005】
まず、低温硬化では、遮光膜に含まれる溶剤の揮発が十分でない。そのため、遮光膜が接している接合接着剤の層に溶剤が浸潤して変質(変色)を生じ、接合レンズの光学性能および機能を著しく劣化させる場合がある。
【0006】
また、低温硬化では、高温処理に比べ遮光膜が硬化しにくい。そのため、遮光膜を形成した接合レンズをイソプロピルアルコール等の洗浄液で洗浄すると、洗浄液中に遮光膜に含まれる染料が溶出し、遮光膜としての性能劣化を招く。また、高温処理に比べ硬化が進行しにくいため、接合レンズとの密着性が充分でなく、超音波洗浄等で遮光膜が剥がれる可能性がある。
【0007】
また、高温高湿環境下などで、樹脂を含む接合接着剤の層に吸湿された水分は、レンズに接していない端部から放出される。しかしながら、遮光膜が当該端部に形成されることで、水分の放出が阻害され、当該端部で水分が過飽和状態となって接合接着剤の層とレンズとの界面に結露が発生し白化し、光学性能が低下する。
【0008】
本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてされたものであり、遮光膜に起因する接合レンズの光学的な不良の発生を防止する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る接合レンズは、基材の非光学有効領域に第1の遮光膜が形成された第1の光学素子と、基材の非光学有効領域に第2の遮光膜が形成された第2の光学素子と、前記第1の光学素子および前記第2の光学素子の光学有効領域同士を貼り合せる接着層と、を備えた接合レンズであって、前記接着層は、前記第1の遮光膜と前記第2の遮光膜との間から露呈している。
【0010】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光学系は、前記接合レンズを備えている。
【0011】
また、前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光学機器は、前記接合レンズと、前記接合レンズによって集光された光を受光する受光素子とを備えている。
【0012】
前記の構成によれば、遮光膜に起因する接合レンズの光学的な不良の発生を防止する技術を提供することができる。
【0013】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る接合レンズの製造方法は、基材の非光学有効領域に第1の遮光膜が形成された第1の光学素子と、基材の非光学有効領域に第2の遮光膜が形成された第2の光学素子との光学有効領域同士を、接着層を介して貼り合せる貼り合せ工程を含む。
【0014】
前記の構成によれば、遮光膜に起因する接合レンズの光学的な不良の発生を防止する技術を提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、遮光膜に起因する接合レンズの光学的な不良の発生を防止する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る接合レンズの構成を示す断面図である。
図2図1に示す接合レンズの第1の光学素子の構成を示す断面図である。
図3図1に示す接合レンズの第2の光学素子の構成を示す断面図である。
図4図1中にAで示す領域を拡大した部分拡大図である。
図5】本発明の一実施形態に光学系としてのズームレンズの構成を示す断面図である。
図6】本発明の一実施形態に光学機器としての撮像装置の構成を示す図である。
図7図2に示す態様の変形例を示す部分拡大図である。
図8】本発明の他の実施形態に係る接合レンズの構成を示す断面図である。
図9図8に示す接合レンズの第1の光学素子の構成を示す断面図である。
図10図8に示す接合レンズの第2の光学素子の構成を示す断面図である。
図11図8に示す接合レンズの低屈折率層の構成を示す断面図である。
図12図1に示す接合レンズおよび図8に示す接合レンズの反射低減効果を示すグラフ図である。
図13】比較構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、図1から図6を用いて説明する。
【0018】
1.接合レンズ
図1は、本実施形態の接合レンズ50の断面図である。接合レンズ50は、レンズ、プリズム(色分解プリズム、色合成プリズム等)、偏光ビームスプリッター(PBS)、カットフィルタ(赤外線用、紫外線用等)などの撮像光学系、投影光学系等の種々の光学系を構成する種々の光学素子に適用することができ、光学素子の種類に限定があるものではない。
【0019】
接合レンズ50は、第1の光学素子10と、第2の光学素子20とが、接着層30を介して貼り合わされている。
【0020】
(1)第1の光学素子10
第1の光学素子10は、基材11と、第1の遮光膜12とを備える。なお、第1の光学素子10は、これ以外の層を具備していてもよい。
【0021】
<基材11>
基材11は、ガラス製であってもよいし、プラスチック製であってもよく、光学材料を用いて形成されたものであればその材質に特に限定はない。基材11には、凹メニスカスレンズを採用することができるが、これに限らない。
【0022】
基材11は、結像に寄与する有効光束を通過させる光学有効領域11a、11bと、その外側の非光学有効領域11cとを有する。ここで、光学有効領域11a、11bは、基材11の光学面のうち有効光束を通過させたときの光路の最大径と、光学面とが交わる領域を指す。図1においては、凸面側に光学有効領域11aが設けられており、凹面側に光学有効領域11bが設けられている。また、非光学有効領域11cは、一般にコバ面またはコバ部と称される領域に該当する。なお、図1に示す光学有効領域11a、11bおよび非光学有効領域11cの形状、範囲等は一例に過ぎず、接合レンズ50の光学的特性およびその具体的な形状等に応じて、光学有効領域および非光学有効領域の形状、範囲等は適宜変化する。
【0023】
<第1の遮光膜12>
第1の遮光膜12は、基材11の非光学有効領域11cに形成されている。第1の遮光膜12は、入射光に対して不透明な層である。第1の遮光膜12は、入射光に対して不透明な膜とすることができれば、どのような構成であってもよいが、例えば、入射光を吸収してエネルギーに変換する物質(以下、光吸収物質)を含む吸光膜とすることができる。光吸収物質として、具体的には、接合レンズ50が使用する光の波長域が400nm~800nm程度の可視光域~近赤外域である場合、カーボン、黒色顔料、黒色染料などの可視光域及び近赤外域の波長の光の吸収率が高い物質を用いることができる。これらの光吸収物質をエポキシ樹脂等のバインダ成分(樹脂成分)と共に溶剤に溶解または分散させた塗布液を調製し、この塗布液を非光学有効領域11cの表面に塗布して塗膜を形成し、その後、乾燥等の工程を経ることにより第1の遮光膜12を形成することができる。また、レンズやレンズ鏡筒内に、いわゆる墨塗りを施す際に用いる市販の内面反射防止塗料を塗布液として用いることができ、その塗膜を第1の遮光膜12とすることも可能である。
【0024】
第1の遮光膜12の平均吸光係数βは、1.0×10-1以上であることが好ましい。更に、内面反射の防止効果がより高くなるという観点から、当該吸光係数βは1.0×10-1以上であることがより好ましい。
【0025】
第1の遮光膜12の屈折率は、基材11の屈折率との差が小さいことが好ましい。具体的には、基材11の屈折率は、一般に、1.4~2.1程度であることから、第1の遮光膜12の屈折率は1.4~1.8であることが好ましい。ここで、第1の遮光膜12の屈折率は、第1の遮光膜12を構成する各成分(光吸収物質等及びバインダ成分)の屈折率およびその配合比率により決まる。第1の遮光膜12のバインダ成分の比率が高くなると、第1の遮光膜12の屈折率および吸光係数は低下するが、その強度は向上する。一方、第1の遮光膜12のバインダ成分の比率が低くなると、第1の遮光膜12の屈折率および吸光係数は高くなるが、その強度は低下する。
【0026】
(2)第2の光学素子20
第2の光学素子20は、基材21と、第2の遮光膜22とを備える。
【0027】
<基材21>
基材21は、ガラス製であってもよいし、プラスチック製であってもよく、光学材料を用いて形成されたものであればその材質に特に限定はない。基材21には、両凸レンズを採用することができるが、これに限らない。
【0028】
基材21は、結像に寄与する有効光束を通過させる光学有効領域21a、21bと、その外側の非光学有効領域21cとを有する。ここで、光学有効領域21a、21bは、基材21の光学面のうち有効光束を通過させたときの光路の最大径と、光学面とが交わる領域を指す。図1においては、第1の光学素子10の側に光学有効領域21aが設けられており、その反対側に光学有効領域21bが設けられている。また、非光学有効領域21cは、一般にコバ面またはコバ部と称される領域に該当する。なお、図1に示す光学有効領域21a、21bおよび非光学有効領域21cの形状、範囲等は一例に過ぎず、接合レンズ50の光学的特性およびその具体的な形状等に応じて、光学有効領域および非光学有効領域の形状、範囲等は適宜変化する。
【0029】
<第2の遮光膜22>
第2の遮光膜22は、基材21の非光学有効領域21cに形成されている。第2の遮光膜22は、第1の遮光膜12と同じ構成であってもよいし、あるいは、上述した第1の遮光膜12に適用可能な膜の材料の中で、第1の遮光膜12と異なる材料からなる遮光膜であってもよい。
【0030】
(3)接着層30
接着層30は、第1の光学素子10の光学有効領域11bと、第2の光学素子20の光学有効領域21aとを貼り合せて接合するために用いる接合接着剤から形成される。接着層30は、第1の遮光膜12と第2の遮光膜22との間から露呈している。換言すれば、接着層30は、第1の光学素子10および第2の光学素子20の何れにも接していない端面を有する。すなわち、この端面は、第1の遮光膜12および第2の遮光膜22の何れによっても覆われておらず、その他の遮光膜にも覆われていない。接着層30は、第1の光学素子10と第2の光学素子20とによって挟圧されて延展されていることで、第1の遮光膜12と第2の遮光膜22との間から露呈している。より詳細には、図4に示すように、接着層30は、第1の遮光膜12の表面12a上と、第2の遮光膜22の表面22a上とに露呈している。
【0031】
接着層30は、ガラス製のレンズの貼り合せに用いられる接着剤が硬化した層である。接着剤には、光学的に透明であることに加えて、接着力が高く、硬化速度が速いことが求められ、アクリル系、エポキシ系、ポリエン・ポリチオール系の硬化接着剤を好適に用いることができる。これらの接着剤には硬化開始剤が添加され、熱あるいは紫外線によって硬化させることができる。
【0032】
第1の光学素子と第2の光学素子20とを接着層30を介して貼り合せる方法(貼り合せ工程)は、例えば、第1の光学素子10および第2の光学素子20の何れかの面に、接着層30となる接着剤を塗膜し、光学素子10,20同士を貼り合せればよい。
【0033】
なお、第1の光学素子10の基材11の光学有効領域11a,11b、および第2の光学素子20の基材21の光学有効領域21a,21bは、屈折率が異なる材料との界面であり、屈折面である。これらの界面で互いに接する材料の屈折率差が大きい場合には、光の反射が生じるため、必要に応じて屈折率差を緩和する反射防止膜(不図示)が設けられる。反射防止膜については、後述する。
【0034】
3.ズームレンズ(光学系)
次に、本実施形態の接合レンズを具備する光学系の一態様であるズームレンズについて、図5を用いて説明する。図5は、ズームレンズ500の断面図である。
【0035】
ズームレンズ500は、複数のレンズ群を有し、そのうちの1つのレンズ群または複数のレンズ群に、上述の接合レンズ50が搭載されている。ズームレンズ500は、図5に示すように、物体側から、第1のレンズL1を有する第1のレンズ群G1と、第2~4のレンズL2~L4を有する第2のレンズ群G2と、第5~8のレンズL5~L8を有する第3のレンズ群G3を備える。このズームレンズ500において、第2のレンズL2が上述の第1の光学素子10に相当し、第3のレンズL3が上述の第2の光学素子20に相当する接合レンズ50が搭載された第2のレンズ群G2を有している。
【0036】
なお、本実施形態では、光学系の一例としてズームレンズを挙げたが、光学系は、これに限らない。また、光学系には、本実施形態の接合レンズを1個具備しているが、複数具備していてもよい。例えば、本実施形態の接合レンズを具備した単焦点レンズであってもよい。
【0037】
4.撮像装置(光学機器)
次に、本実施形態の接合レンズ50を具備するズームレンズ500を、光学機器の一形態である撮像装置に適用した例を示す。図6は、本実施形態のズームレンズ500を備えた撮像装置600の一例を示す図である。
【0038】
図6に示すように、撮像装置600は、ズームレンズ500を収容したレンズ鏡筒部601と、固体撮像素子603(受光素子)を備えたカメラ本体602と、により構成される。ズームレンズ500は、図示しないメカ機構の駆動によって変倍等が実行される。固体撮像素子603としては、たとえば、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの光電変換素子を用いることができる。撮像装置600において、ズームレンズ500の物体側から入射した光が最終的に固体撮像素子603の撮像面に結像する。そして、固体撮像素子603は受像した光を光電変換して電気信号として出力する。この出力信号が図示しない信号処理回路によって演算処理され、物体像に対応したデジタル画像が生成される。デジタル画像は、たとえばHDD(Hard Disk Drive)やメモリカード、光ディスク、磁気テープなどの記録媒体に記録することが可能である。撮像装置600の具体例としては、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、一眼レフカメラ、ミラーレス一眼カメラ等があるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
5.本実施形態の効果
本実施形態の接合レンズ50によれば、遮光膜に起因する接合レンズの光学的な不良の発生を防止した接合レンズを実現できる。
【0040】
具体的には、接合レンズ50は、接着層30が、第1の遮光膜12および第2の遮光膜22の何れによっても覆われていない。すなわち、接着層30が形成される前に、第1の遮光膜12および第2の遮光膜22(以下、単に遮光膜と記載する場合がある)は、それぞれの光学素子に形成されている。すなわち、非光学有効領域11c,21cに遮光膜(第1の遮光膜12および第2の遮光膜22)を形成する際に、接着層30のことを考慮して低温で当該遮光膜(第1の遮光膜12および第2の遮光膜22)を熱硬化させる必要はなく、高温で熱硬化させることができる。このため、第1の遮光膜12および第2の遮光膜22の溶剤を十分に揮発させることができる。これにより、光学素子10,20同士の間に形成される接着層30に当該溶剤が浸潤することがない。したがって、浸潤に伴って生じ得る接着層の変質(変色)が生じず、光学性能および機能の劣化が生じない。
【0041】
また、第1の遮光膜12および第2の遮光膜22を十分に硬化させることができるため、接合レンズ50をイソプロピルアルコール等の洗浄液で洗浄しても、洗浄液中に、第1の遮光膜12および第2の遮光膜22に含まれる染料が溶出することがなく、第1の遮光膜12および第2の遮光膜22としての性能劣化を生じない。また、第1の遮光膜12および第2の遮光膜22を十分に硬化させることができるため、第1の遮光膜12および第2の遮光膜22と光学素子の基材11,21との密着性を担保できる。そのため、超音波洗浄等による第1の遮光膜12および第2の遮光膜22の、基材11,21からの剥離が生じない。
【0042】
また、接着層30が第1の遮光膜12と第2の遮光膜22との間から露呈しているため、高温高湿環境下などで接着層30に吸湿された水分を放出することができる。このため、接着層30で水分が過飽和状態となって接着層30と第1の光学素子10および第2の光学素子20との界面に結露が発生して白化する事態を回避することができ、良好な光学性能を実現することができる。
【0043】
また、本実施形態の接合レンズ50は、第1の光学素子10の基材11の非光学有効領域11cに形成された第1の遮光膜12の表面12a(図4)上と、第2の光学素子20の基材21の非光学有効領域21cに形成された第2の遮光膜22の表面22a(図4)上とに、接着層30が露呈している。これにより、接着層30が比較的広く露呈された状態を実現することができることから、先述した水分の放出を効率よく行うことができる。
【0044】
また、本実施形態の接合レンズ50は、第1の光学素子10の基材11の光学有効領域11aに、反射防止膜(不図示)が形成されていてもよい。この反射防止膜は、後述する実施形態2の下地層13aと同じ透明材料から構成することができる。
【0045】
また、本実施形態の接合レンズ50は、第2の光学素子20の基材21の光学有効領域21bにも、反射防止膜(不図示)が形成されていてもよい。この反射防止膜は、後述する実施形態2の下地層23bと同じ透明材料から構成することができる。
【0046】
なお、第1の光学素子10の基材11の光学有効領域11b、および第2の光学素子20の基材21の光学有効領域21aにも、反射防止膜(不図示)が形成されていてもよいが、接着層30の接合樹脂と、基材11,21との屈折率が近い場合は、設ける必要はない。光学有効領域11bおよび光学有効領域21aにも反射防止膜を設ける場合には、後述する実施形態2の下地層13a,23bと同じ透明材料から構成された反射防止膜を形成することができる。
【0047】
〔変形例2〕
上述の実施形態では、接着層30が、第1の遮光膜12の表面12a上と、第2の遮光膜22の表面22a上とに露呈している(図4)。しかしながら、これに限らず、接着層30が第1の遮光膜12と第2の遮光膜22との間から露呈していればよい。例えば、図7に示す変形例の構成であってもよい。
【0048】
図7の態様は、接着層30が、第1の遮光膜12の表面12a上と、第2の遮光膜22の表面22a上とに露呈していない点で、図4の態様と異なる。図7の態様であっても、接着層30は、遮光膜に覆われていない露呈部分を有することから、実施形態1の接着層30と同等の作用効果を奏し、遮光膜に起因する接合レンズの光学的な不良の発生を防止した接合レンズを実現できる。
【0049】
なお、図7に示す接着層30の態様と、図4に示す接着層30の態様とは、例えば、接着層30を構成する接着剤の塗布量の違いによって決まる。そのほか、図4に示すように接着層30が第1の遮光膜12の表面12a上と、第2の遮光膜22の表面22a上とに露呈している状態となった後に、表面12aおよび表面22a上に露呈している部分を拭き取る工程を含むことによって図7の態様となる。
【0050】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0051】
1.接合レンズ
図8は、本実施形態の接合レンズ50Aの断面図である。接合レンズ50Aは、第1の光学素子10Aおよび第2の光学素子20Aの各基材11,21に積層されている層構成が、上述の実施形態1の接合レンズ50の各基材11,21に積層されている層構成と異なっている点において、相違している。更に、本実施形態の接合レンズ50Aは、低屈折率層40によって覆われている点において、上述の実施形態1の接合レンズ50と相違している。
【0052】
(1)第1の光学素子10A
図9は、第1の光学素子10Aの断面図である。本実施形態の第1の光学素子10Aは、基材11の光学有効領域11aに下地層13aが形成されている点において、実施形態1の第1の光学素子10と相違する。なお、上述の実施形態1の第1の光学素子10の基材11の光学有効領域11aに反射防止膜が形成されている場合には、本実施形態の第1の光学素子10Aでは、この反射防止膜に代えて、下地層13aが形成されている。
【0053】
なお、基材11の光学有効領域11bには、接合面反射防止コートとしての下地層13bが形成されていてもよい。接合面反射防止コートとしては、以下に説明する下地層13aにおいて使用する透明材料を用いることができる。
【0054】
<下地層13a>
下地層13aは、反射防止膜として機能する。以下、下地層13aの層構成と、材料について説明する。
【0055】
(a)層構成
下地層13aは、それぞれ屈折率が1.35~2.5の透明材料から成る薄膜(以下、サブ層)を1層以上積層した単層膜又は多層膜であってもよい。ここで、サブ層とは、下地層13aを構成する物理的な一層の薄膜を指す。例えば、下地層13aを少なくとも1層以上のサブ層を積層した構成とし、各々のサブ層をそれぞれ光学干渉層として機能させることにより、当該反射防止膜の反射率を極めて低くすることができる。
【0056】
下地層13aを単層膜とする場合であっても、多層膜とする場合であっても、各層の光学設計(屈折率、光学膜厚の設計)は、通常の反射防止膜を設計する場合と同様にマトリクス法により行うことができる。下地層13aを構成するサブ層の積層数を増やすことにより、より高い反射防止性能をもつ反射防止膜を得ることができる。
【0057】
(b)透明材料
下地層13aの各サブ層を構成する上記透明材料は、屈折率が1.35~2.5の透明無機材料、オルガノシラン及び有機樹脂のうちいずれか一種以上とすることができる。
【0058】
透明無機材料として、例えば、無機酸化物および無機弗化物を挙げることができる。
【0059】
無機酸化物としては、例えば、Al、ZrO+Al、SiO、MgO、La+Al、Y、In+SnO、LaTi、SnO、Ta、HfO、ZrO、CeO、WO、ZrO+TiO、Ta、Ta+ZrO、Ta+TiO、Ti、Ti、TiPr11+TiO、TiO、TiO、Nb、TiO+La、Pr11+TiO、SiO、SiO、CeO、を挙げることができる。
【0060】
無機弗化物としては、例えば、MgF、AlF、NaSiF、HSiF、NaF、CaF、NaAlF、YF等を上げることができる。
【0061】
さらに、透明無機材料として、上記無機酸化物及び無機弗化物以外にも、SiN、SiC、ZnS等を用いることができる。
【0062】
次に、オルガノシランとして、例えば、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、メチルハイドロジェンシリコーン等のストレートシリコーンを挙げることができる。また、オルガノシランとして、これらのストレートシリコーンの他、各種変性シリコーンを用いてもよい。変性シリコーンとして、例えば、ポリエーテル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、カルビーノ変性シリコーン、メタクリル変性シリコーン、長鎖アルキル変性シリコーン等の官能基が片末端、或いは両末端、側鎖に修飾された変性シリコーンを用いることができる。更に、これらのストレートシリコーン及び/又は変性シリコーンを適宜組み合わせて反応させて重合したものも用いることもできる。
【0063】
そして、有機樹脂として、例えば、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、液晶ポリマー等或いはこれらの単量体化合物を挙げることができる。
【0064】
但し、下地層13aを多層膜とする場合、当該下地層の最表面に配置されるサブ層は、無機酸化物、無機弗化物、オルガノシラン及び有機樹脂のうちいずれか一種であることが好ましい。下地層13aの最表層をこれらの材料のうちいずれか一種からなる層とすることにより、当該下地層13aの表面に第1の遮光膜12を積層したとき、また、下地層13aの表面に後述する低屈折率層40を積層したときに、これらの密着性が良好になるためである。
【0065】
(c)膜厚
より広帯域、且つ、より低反射の反射防止膜を得るには、各サブ層の光学膜厚を150nm以下とすることが好ましい。各サブ層の光学膜厚が150nmを超える場合、必要のないリップルの多い設計となり当該反射防止膜の平均反射率を低く保つことができないため、好ましくない。
【0066】
(d)成膜方法
下地層13a(各サブ層)を成膜する際には、真空成膜法あるいは湿式成膜法を採用することが好ましい。真空成膜法として、物理蒸着法及び化学蒸着法のいずれも好適に用いることができる。物理蒸着法としては、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法を挙げることができる。また、化学蒸着法としては、CVD法(プラズマCVD法を含む)、原子層堆積法(ALD法)を挙げることができる。これらの中でも、特に、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法を好適に採用することができる。湿式成膜法としては、例えば、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコーティング法、スクリーン印刷法等がある。これらの方法を採用することにより、1nm以上150nm以下の範囲の物理膜厚の下地層13a(若しくはサブ層)を精度よく成膜することができる。
【0067】
<第1の遮光膜12>
第1の遮光膜12は、実施形態1の第1の遮光膜12と同じく、基材11の非光学有効領域11cに形成されている。なお、本実施形態では、基材11の光学有効領域11bに形成された上述の下地層13bが、非光学有効領域11cにも僅かに形成されている(図9)。そのため、第1の遮光膜12は、基材11の非光学有効領域11cにおいて、その僅かに形成された下地層13bの表面上と、基材11の表面とに設けられている。また、遮光膜12は、下地層13aの表面上に僅かに形成されていても良い。
【0068】
(2)第2の光学素子20A
図10は、第2の光学素子20Aの断面図である。本実施形態の第2の光学素子20Aは、基材21の光学有効領域21bに下地層23bが形成されている点において、実施形態1の第2の光学素子20と相違する。なお、上述の実施形態1の第2の光学素子20の基材21の光学有効領域21bに反射防止膜が形成されている場合には、本実施形態の第2の光学素子20Aでは、この反射防止膜に代えて、下地層23bが形成されている。
【0069】
<下地層23b>
下地層23bは、下地層13aと同じく反射防止膜として機能する。下地層23bの詳細は、上述にした下地層13aの詳細と同じである。なお、下地層23bは、下地層13aと同一材料から構成してもよいし、異なる材料から構成してもよい。
【0070】
なお、本実施形態の第2の光学素子20Aは、基材21の光学有効領域21aに下地層23aが形成されていてもよい。この下地層23aは、基材11の光学有効領域11bに設けられている下地層13bと同様の接合面反射防止コートである。しかしながら、基材21の屈折率が接着層30に用いられる接着剤の屈折率と近い値であり、これらの界面での反射率が十分に小さい場合には、下地層23aは不要である。
【0071】
<第2の遮光膜22>
第2の遮光膜22は、実施形態1の第2の遮光膜22と同じく、基材21の非光学有効領域21cに形成されている。また、遮光膜22は、下地層23aと、下地層23bの表面上に僅かに形成されていても良い。
【0072】
(3)接着層30
図8に示すように、本実施形態の接合レンズ50は、上述の第1の光学素子10Aと第2の光学素子20Aとが、接着層30を介して貼り合せることによって接合されている。本実施形態においても、実施形態1と同じく、接着層30は、第1の遮光膜12と、第2の遮光膜22との間から露呈している。
【0073】
(4)低屈折率層40
低屈折率層40は、上述の第1の光学素子10Aと第2の光学素子20Aとが接着層30によって接合した構造の表面全体を覆う。すなわち、低屈折率層40は、図8に示すように、下地層13aの表面と、第1の遮光膜12の表面と、接着層30の露呈している表面と、第2の遮光膜22の表面と、下地層23bの表面とを覆う。
【0074】
低屈折率層40は、屈折率が1.15~1.35の層であり、光学干渉作用により入射した光の反射を抑制する反射防止膜として機能する。そのため、低屈折率層40が、基材11,21の光学有効領域に形成された下地層13a、23bと積層していることにより、広い波長範囲の光が入射した場合であっても、反射防止膜の反射率を低く維持することができる。また、低屈折率層40が、第1の遮光膜12および第2の遮光膜22に積層されていることにより、反射防止膜の反射率を低く維持することができる。
【0075】
低屈折率層40は、例えば、中空シリカ粒子、多孔質シリカ(ナノポーラスシリカ)等の粒子内に空隙を有する低屈折率材料をバインダにより結着した層、或いは、上記範囲内の屈折率を有するSiO、MgF、および、Alからなる群等の材料からなる層とすることができる。本実施形態では、特に、低屈折率層40を、図11に模式的に例示するように、中空シリカ粒子401がバインダ402(結着材)により互いに結着された中空シリカ層とすることが好ましい。以下、低屈折率層40が中空シリカ層であるものとして、低屈折率層40の構成を具体的に説明する。
【0076】
(a)中空シリカ粒子401
まず、中空シリカ粒子401について説明する。本件発明において、中空シリカ粒子401とは、シリカから成る外殻内に中空部を備えたコアシェル構造(バルーン構造)を有するシリカの一次粒子を指す。また、一次粒子とはこのシリカの粒子が他の粒子と凝集していない状態にあるものを指す。具体的には、図11に模式的に示すように、シリカから成る外殻部401aと、この外殻部401aに周囲が完全に囲まれた中空部401bとから構成されたシリカ粒子を指す。低屈折率層40の層構成材料として、このコアシェル構造を有する中空シリカ粒子401を主たる材料として採用することにより、低屈折率層40の屈折率をシリカ自体の屈折率(1.48)よりも低減することができる。また、シリカ粒子内に細孔を多数有する上記多孔質シリカの集合体から構成された多孔質シリカ層等と比較した場合、本実施形態では、中空部401bが外殻部401aにより完全に包囲された中空シリカを用いるため、シリカ粒子自体の強度が高く、耐久性に優れた膜を得ることができる。更に、中空シリカ粒子401の内部に液体等が侵入しないため、湿式成膜法により成膜する場合であっても、シリカ内部の中空部401bが樹脂材料等により充填される恐れがなく、材料自体の空隙率を維持して、屈折率が増加するのを防止することができる。
【0077】
中空シリカ粒子401の平均粒径D50は、5nm以上100nm以下であることが好ましい。中空シリカ粒子401の平均粒径D50が5nm未満である場合、低屈折率層40内に中空シリカ粒子401の中空部401b以外の空隙部403を設けることが困難になる。一方、中空シリカ粒子401の平均粒径D50が100nmを超える場合、光の散乱(ヘイズ)が発生する場合があり好ましくない。さらに、中空シリカ粒子401の平均粒径D50が100nmを超える場合、低屈折率層40の物理膜厚を数nm単位で精密に制御することが極めて困難になる。
【0078】
(b)バインダ402
次に、バインダ402について説明する。図11に示すように、低屈折率層40は、中空シリカ粒子401がバインダ402により互いに結着されて層を成している。この際、中空シリカ粒子401の外表面がバインダ402により被覆されると共に、この中空シリカ粒子401の外表面を被覆したバインダ402により中空シリカ粒子401が互いに結着されていることが好ましい。
【0079】
バインダ402としては、樹脂材料又は金属アルコキシドを採用することができる。樹脂材料としては、例えば、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、液晶ポリマー等あるいはこれらの単量体化合物を挙げることができる。これらの樹脂材料は紫外線硬化性、常温硬化性、又は熱硬化性の化合物であることが好ましく、特に紫外線硬化性又は常温硬化性の化合物であることが好ましい。具体的な層形成方法として、例えば、これらの材料と、中空シリカ粒子401とを混合して、必要に応じて重合開始剤や架橋剤等を添加し、溶剤等により適切な濃度に希釈して塗工液を調製し、ディップコート法、スピンコート法、スプレー法、ロールコーティング法、スクリーン印刷法等の湿式法を採用することができる。これらの方法により低屈折率層40を積層する層(下地層13a、第1の遮光膜12、第2の遮光膜22、接着層30、下地層23b)の表面に塗工液を適切な厚みとなるように塗布し、その後、紫外線照射、或いは熱処理を施すことなどにより重合架橋して、溶媒を揮発させること等により低屈折率層40を形成することができる。
【0080】
また、金属アルコキシドを溶媒に溶解または懸濁して、ゾルを形成し加水分解・重合によりゲルが生成される材料であることが好ましく、例えば、アルコキシシラン又はシルセスキオキサン等の加水分解・重合によりシリカゲルが生成される材料を用いることが好ましい。これらの材料と、中空シリカ粒子401とを、溶媒に溶解又は懸濁してゾルゲル剤を調製し、低屈折率層40を積層する層(下地層13a、第1の遮光膜12、第2の遮光膜22、接着層30、下地層23b)の表面にゾルゲル剤をスプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、フローコート法、バーコート法等により塗布し、加水分解により中空シリカ粒子401を含むゲルを作成し、溶媒を揮発させること等により、低屈折率層40を形成することができる。
【0081】
溶媒の揮発は、常温での放置による自然乾燥でもよいし、乾燥機、ホットプレート、電気炉などを用いた加熱乾燥をしてもよい。乾燥条件は、レンズに影響を与えず、且つ、低屈折率層40内の有機溶媒をある程度蒸発させることのできる、温度と時間とする。接合レンズ50を構成する第1の光学素子10との光学素子20とを接着層30を介して貼り合せるために接着層30を硬化させる際、接着層30の樹脂内部に硬化収縮による応力が残留し、乾燥時の熱の影響により樹脂内の応力が解放し面変形が生じる場合がある。そのため乾燥温度としては100℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは40℃以下の室温等で乾燥させることが好ましい。
【0082】
(c)空隙部403
本実施形態において、低屈折率層40内には図11に示すように互いに結着されたシリカ粒子401間に空隙部403が設けられることが好ましい。低屈折率層40内に、中空シリカ粒子401の内部に存在する中空部401bと共に、当該中空シリカ粒子401間に、バインダ402により囲まれた空隙部403を設けることにより、低屈折率層40内の空隙率を増加させ、当該低屈折率層40の屈折率をシリカ自体の屈折率よりも更に低くすることができ、反射防止性能のより高い層とすることができる。また、本実施形態のように、空隙部403をバインダ等により充填しなくとも、当該中空シリカ粒子401の外表面を被覆するバインダ402を介して中空シリカ粒子401同士を結着させることにより、中空シリカ粒子401同士の密着性を向上することができ、且つ、個々の中空シリカ粒子401と、低屈折率層40を積層する層(下地層13a、第1の遮光膜12、第2の遮光膜22、接着層30、下地層23b)との密着性を向上することができる。また、中空シリカ粒子401自体はシリカからなる外殻部401aにより囲まれているため、低屈折率層40の外表面を樹脂等により被覆しなくとも、耐擦傷性や耐久性に優れた層とすることができる。
【0083】
(d)中空シリカ粒子401およびバインダ402の体積率
ここで、低屈折率層40において中空シリカ粒子401及びバインダ402が層内に占める体積は、30体積%以上99体積%以下であることが好ましい。ここでいう中空シリカ粒子401が占める体積とは、低屈折率層40において、中空シリカ粒子401の外殻部401aと、この中空部401bに囲まれる中空部401bとを含む中空シリカ球の全体積を意味する。低屈折率層40において中空シリカ粒子401およびバインダ402が占める体積が30体積%未満である場合、低屈折率層40の耐久性や耐擦傷性が低下するため好ましくない。一方、低屈折率層40において中空シリカ粒子401が占める体積が99体積%を超える場合、低屈折率層中の前述した空隙部403の体積が小さくなり低屈折率層40の屈折率が所望の特性に及ばなくなるという観点から、低屈折率層40において中空シリカ粒子401が占める体積は90体積%以下であることがより好ましい。
【0084】
(e)屈折率
低屈折率層40の屈折率は、上述したとおり1.15以上1.35以下であることが求められる。低屈折率層40の屈折率が1.15未満の場合、中空シリカ層から成る低屈折率層40の場合、層内の空隙率が高くなり過ぎ、低屈折率層40の耐久性等が低下するため、好ましくない。当該観点から、低屈折率層40の屈折率は1.17以上であることがより好ましい。一方、低屈折率層40の屈折率が1.35を超える場合は、設計中心波長における反射率が高くなるため好ましくない。従って、当該観点から、低屈折率層40の屈折率は上記範囲内において低い方が好ましく、1.32以下であることがより好ましく、1.30以下であることがさらに好ましい。
【0085】
(f)膜厚
低屈折率層40の物理膜厚は、80nm以上240nm以下の範囲内であることが好ましい。低屈折率層40の物理膜厚が80nm未満である場合や240nmを超える場合、可視光域および近赤外域の波長の光に対して位相変化を適切な値とすることが困難になり、低屈折率層40の反射防止性能が低下する恐れがあるため、好ましくない。
【0086】
2.本実施形態の作用効果
本実施形態の構成によれば、上述の実施形態1の構成が奏する作用効果に加えて、接着層30上に低屈折率層40を形成することで、接着層30における、第1の遮光膜12と第2の遮光膜22との間から露呈している表面に入射した光の反射を低減させることができる。この反射の低減に関し、図12を用いて説明する。
【0087】
図12は、本実施形態の接合レンズ50Aと、実施形態1の接合レンズ50(図1)とを用いて、接着層30における、第1の遮光膜12と第2の遮光膜22との間から露呈している表面に光が入射したときの、光の反射率を示している。図12では、実施形態1の接合レンズ50の反射率のデータを実線で示し、本実施形態2の接合レンズ50Aの反射率のデータを破線で示す。
【0088】
図12に示すように、本実施形態の接合レンズ50Aは、接着層30における、第1の遮光膜12と第2の遮光膜22との間から露呈している表面に光が入射したときの、光の反射率を効果的に低減させていることがわかる。
【0089】
なお、低屈折率層40は、少なくとも接着層30を覆っていれば上述の効果を奏する。しかしながら、接着層30のみならず、下地層13a,23b、第1の遮光膜12、第2の遮光膜22にも低屈折率層40を形成することにより、広い波長範囲の光が入射した場合であっても、反射防止膜の反射率を低く維持することができる。
【0090】
なお、本実施形態の接合レンズ50Aには、上述した層以外の層を具備してもよい。例えば、低屈折率層40の表面に、機能層を備えても良い。機能層は、低屈折率層40の反射防止性能に光学的な影響を与えない透明な極薄い膜であって、各種の機能を有する層を指す。そのような機能層としては、例えば、低屈折率層40の表面の硬度、耐擦傷性、耐熱性、耐候性、耐溶剤性、撥水性、撥油性、防曇性、親水性、耐防汚性、導電性等の向上等の各種機能を有する層が挙げられる。
【0091】
また、他の層としては、第1の遮光膜12および第2の遮光膜22と、低屈折率層40との間に、これらの密着性を向上するための密着層を設けることも可能である。
【0092】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0093】
〔まとめ〕
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る接合レンズ50、50´、50Aは、基材11の非光学有効領域11cに第1の遮光膜12が形成された第1の光学素子10と、基材12の非光学有効領域12cに第2の遮光膜22が形成された第2の光学素子20と、前記第1の光学素子10および前記第2の光学素子20の光学有効領域同士を貼り合せる接着層30と、を備えた接合レンズ50、50´、50Aであって、前記接着層30は、前記第1の遮光膜と前記第2の遮光膜との間から露呈している。
【0094】
前記の構成によれば、遮光膜に起因する接合レンズの光学的な不良の発生を防止する技術を提供することができる。
【0095】
具体的には、接着層30が、第1の遮光膜12と第2の遮光膜22との間から露呈しており、第1の遮光膜12および第2の遮光膜22の何れによっても覆われていない部分(露呈部分)を有している。すなわち、接着層30が形成される前に、第1の遮光膜12および第2の遮光膜22(以下、単に遮光膜と記載する場合がある)は、それぞれの光学素子に形成されている。すなわち、非光学有効領域11c,21cに遮光膜(第1の遮光膜12および第2の遮光膜22)を形成する際に、接着層30のことを考慮して低温で当該遮光膜(第1の遮光膜12および第2の遮光膜22)を熱硬化させる必要はなく、高温で熱硬化させることができる。このため、第1の遮光膜12および第2の遮光膜22の溶剤を十分に揮発させることができる。これにより、光学素子10,20同士の間に形成される接着層30に当該溶剤が浸潤することがない。したがって、浸潤に伴って生じ得る接着層の変質(変色)が生じず、光学性能および機能の劣化が生じない。
【0096】
また、第1の遮光膜12および第2の遮光膜22を十分に硬化させることができるため、接合レンズ50をイソプロピルアルコール等の洗浄液で洗浄しても、洗浄液中に、第1の遮光膜12および第2の遮光膜22に含まれる染料が溶出することがなく、第1の遮光膜12および第2の遮光膜22としての性能劣化を生じない。また、第1の遮光膜12および第2の遮光膜22を十分に硬化させることができるため、第1の遮光膜12および第2の遮光膜22と光学素子の基材11,21との密着性を担保できる。そのため、超音波洗浄等による第1の遮光膜12および第2の遮光膜22の、基材11,21からの剥離が生じない。
【0097】
また、接着層30が第1の遮光膜12と第2の遮光膜22との間から露呈しているため、高温高湿環境下などで接着層30に吸湿された水分を放出することができる。このため、接着層30で水分が過飽和状態となって接着層30と第1の光学素子10および第2の光学素子20との界面に結露が発生して白化する事態を回避することができ、良好な光学性能を実現することができる。
【0098】
また、前記接合レンズ50、50´、50Aは、前記第1の光学素子の前記非光学有効領域に形成された前記第1の遮光膜の表面上と、前記第2の光学素子の前記非光学有効領域に形成された前記第2の遮光膜の表面上とに、前記接着層が露呈している。
【0099】
前記の構成によれば、接着層が遮光膜の表面上にも伸展していて比較的広く露呈された状態を実現することができる。これにより、接着層30が比較的広く露呈された状態を実現することができることから、先述した水分の放出を効率よく行うことができる。
【0100】
また、前記接合レンズ50Aは、(i)前記接合レンズの光学有効領域(光学有効領域11a、21b)、(ii)前記第1の遮光膜12と前記第2の遮光膜22、および、(iii)前記接着層30の前記露呈している部分、からなる群より選ばれる少なくとも1つは、屈折率が1.15~1.35の低屈折率層40により覆われている。
【0101】
前記の構成によれば、前記低屈折率層40は、光学干渉作用により入射した光の反射を抑制する反射防止膜として機能する。そのため、接合レンズの光透過率を向上させることができ、高い光学性能を有した接合レンズ50Aを実現することができる。
【0102】
また、前記第1の遮光膜12と前記第2の遮光膜22に入射した光の一部は反射して有害光になる場合があるが、当該遮光膜12,22を前記低屈折率層40によって覆うことにより、反射を防止することができる。
【0103】
また、接着層30の露呈部分に入射した光が反射して有害光になる場合があるが、当該部分を前記低屈折率層40によって覆うことにより、反射を防止することができる。
【0104】
また、前記接合レンズ50Aは、前記低屈折率層40が、SiO、MgF、および、Alからなる群から選ばれる。
【0105】
前記の構成によれば、低屈折率層40をその下の層に強固に密着させることができる。
【0106】
また、前記接合レンズ50Aは、前記低屈折率層40が、シリカから成る外殻部と、当該外殻部に囲まれた中空部とを備えたバルーン構造を有する中空シリカ粒子401がバインダ402により結着されると共に、当該中空シリカ粒子の中空部以外の空隙部が存在する層であり、前記中空シリカ粒子の平均粒径は、5nm以上100nm以下である。
【0107】
前記の構成によれば、低屈折率層の構成成分として、中空部を有する中空シリカ粒子を主たる成分として採用することにより、低屈折率層40の屈折率をシリカ自体の屈折率(1.48)よりも低減させることができる。
【0108】
また、外殻部により周囲が完全に包囲された中空シリカ粒子401をバインダ402により結着した層とすることにより、低屈折率層40をその下の層に強固に密着させることができる。これにより、耐擦傷性や耐久性に優れた反射防止膜(低屈折率層40)の実現に寄与することができる。
【0109】
また、前記接合レンズ50Aは、前記低屈折率層40が、前記中空シリカ粒子401と、前記バインダ402の成分として樹脂材料または金属アルコキシドとを用いて形成された層である。
【0110】
前記の構成によれば、熱処理を行うことなく低屈折率層を形成することが可能である。そのため、第1、2の光学素子の基材の熱膨張変形を防止し、良好な接合レンズ50Aを実現することができる。
【0111】
また、前記接合レンズの光学有効領域(光学有効領域11a、21b)に、屈折率が1.35~2.5の透明材料から成る薄膜を一層以上積層した下地層13a,23bを備えており、前記下地層上に、前記低屈折率層が積層されている。
【0112】
前記の構成によれば、前記下地層13a,23bを備えているため、下地層を設けず前記低屈折率層を設けた構成に比べて、反射防止性能を高めることができ、ゴーストやフレアの原因となる有害光(迷光)の発生を抑制することができる。
【0113】
また、前記接合レンズ50Aは、前記下地層13a,23bが、真空蒸着法、スパッタ法、または、ALD法により作製された膜である。
【0114】
前記の構成によれば、下地層13a,23bが精度よく成膜された接合レンズを提供することができる。
【0115】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光学系(ズームレンズ500)は、前記接合レンズ50を備えている。
【0116】
前記の構成によれば、光学性能の低下を抑制し、かつ洗浄工程への耐性および環境変化への耐性を有する接合レンズを具備するため、優れた光学性能を有した光学系(ズームレンズ500)を提供することができる。
【0117】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光学機器(撮像装置600)は、前記接合レンズ50,50´,50Aと、前記接合レンズによって集光された光を受光する受光素子(固体撮像素子603)とを備えている。
【0118】
前記の構成によれば、光学性能の低下を抑制し、かつ洗浄工程への耐性および環境変化への耐性を有する接合レンズにより集光した光を用いることができるため、優れた光学性能を有した光学機器(撮像装置600)を実現することができる。
【0119】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る接合レンズの製造方法は、基材の非光学有効領域に第1の遮光膜が形成された第1の光学素子と、基材の非光学有効領域に第2の遮光膜が形成された第2の光学素子との光学有効領域同士を、接着層を介して貼り合せる貼り合せ工程を含む。
【0120】
前記の構成によれば、本発明の一態様の接合レンズと同様に、遮光膜に起因する接合レンズの光学的な不良の発生を防止する技術を提供することができる。
【実施例
【0121】
〔実施例1〕
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0122】
図1に示す接合レンズ50を作製した。基材11として、d線(波長587.56nm)での屈折率(以下ndと表記する)が1.613の株式会社オハラ製S-NBM51を用いた。基材21として、ndが1.497の株式会社オハラ製S-FPL51を用いた。
【0123】
次いで、基材11の光学有効領域11aに、反射防止膜として、Al層と、ZrO+TiO層と、MgF層と、からなる誘電体多層膜を形成した。各層の膜厚は、表1に示す。基材21の光学有効領域21bにも、反射防止膜として、Al層と、ZrO+TiO層と、MgF層と、からなる誘電体多層膜を形成した。各層の膜厚は、表1に示す。また、基材11の光学有効領域11bに、反射防止膜として、SiO層と、Al層と、からなる誘電体多層膜を形成した。各層の膜厚は、表2に示す。一方、基材21の光学有効領域21aには、特に膜は形成しなかった。これは、基材21の屈折率が接合に用いられる接着剤の屈折率と近い値であり、界面での反射率が十分に小さいためである。それぞれの反射防止膜は、真空蒸着法にて形成した。
【0124】
更に、基材11の非光学有効領域11cに、キヤノン化成株式会社製の遮光塗料GT-7IIを、基材端面で5~10μmになるように塗布し、200℃、1時間で乾燥・硬化させ、第1の遮光膜12(墨塗膜)を形成した。こうして、第1の光学素子10を得た。
【0125】
同様にして、基材21の非光学有効領域21cに、キヤノン化成株式会社製の遮光塗料GT-7IIを、基材端面で5~10μmになるように塗布し、200℃、1時間で乾燥・硬化させ、第2の遮光膜22(墨塗膜)を形成した。こうして、第2の光学素子20を得た。
【0126】
続いて、第1の光学素子10の光学有効領域11b側の表面と、第2の光学素子20の光学有効領域21a側の表面とを、接着層30で接合し、接合レンズ50を作製した。具体的には、基材11の光学有効領域11aを下向きに配置した状態で、光学有効領域11bに接着剤を塗布し、基材11の光学有効領域11bと基材21の光学有効領域21aとで、接着剤を挟圧しながら、光軸調整装置を用いて基材21を適正位置に配置し、UV光を照射して接着層30を硬化した。接着層30には、ポリエン・ポリチオール系接着剤OP-1080L(デンカ株式会社製)を使用した。OP-1080LのUV硬化後の屈折率、すなわち接着層30の屈折率は、1.52である。接着層30の厚さは約10μmとした。以上のようにして、図1に示す形態の接合レンズ50を作製し、実施例1とした。
【表1】
【表2】
【0127】
〔実施例2〕
図8に示す接合レンズ50Aを作製した。基材11として、d線(波長587.56nm)での屈折率(以下ndと表記する)が1.613の株式会社オハラ製S-NBM51を用いた。基材21として、ndが1.497の株式会社オハラ製S-FPL51を用いた。
【0128】
次いで、基材11の光学有効領域11aに、下地層13aとして、Al層と、ZrO+TiO層と、SiO層と、からなる誘電体多層膜を形成した。各層の膜厚は、表3に示す。また、基材21の光学有効領域21bにも、下地層23bとして、Al層と、ZrO+TiO層と、SiO層と、からなる誘電体多層膜を形成した。各層の膜厚は、表3に示す。また、基材11の光学有効領域11bに、下地層13bとして、SiO層と、Al層と、からなる誘電体多層膜を形成した。各層の膜厚は、表4に示す。一方、基材21の光学有効領域21aには、特に膜は形成しなかった。これは、基材21の屈折率が接合に用いられる接着剤の屈折率と近い値であり、界面での反射率が十分に小さいためである。それぞれの下地層および反射防止膜は、真空蒸着法にて形成した。
【0129】
基材11の非光学有効領域11cに、キヤノン化成株式会社製の遮光塗料GT-7IIを、基材端面で5~10μmになるように塗布し、200℃、1時間で乾燥・硬化させ、第1の遮光膜12(墨塗膜)を形成した。同様にして、基材21の非光学有効領域21cに、キヤノン化成株式会社製の遮光塗料GT-7IIを、基材端面で5~10μmになるように塗布し、200℃、1時間で乾燥・硬化させ、第2の遮光膜22(墨塗膜)を形成した。
【0130】
続いて、基材11の光学有効領域11bと、基材21の光学有効領域21aとを、接着層30で接合し、接合レンズ50を作製した。具体的には、基材11の光学有効領域11aを下向きに配置した状態で、光学有効領域11bに接着剤を塗布し、基材11の光学有効領域11bと基材21の光学有効領域21aとで、接着剤を挟圧しながら、光軸調整装置を用いて基材21を適正位置に配置し、UV光を照射して接着層30を硬化した後、コバ部にはみ出した余剰の接着剤を拭き取り除去した。接着層30には、ポリエン・ポリチオール系接着剤OP-1080L(デンカ株式会社製)を使用した。OP-1080LのUV硬化後の屈折率、すなわち接着層30の屈折率は、1.52である。接着層30の厚さは約10μmとした。
【0131】
更に、接合レンズ50Aの下地層13aおよび下地層23bの表面に酸素によるRIE処理(リアクテイブイオンエッチング処理)を施し、下地層13aおよび下地層23b表面の濡れ性を向上させた上で、下地層13aおよび下地層23bの表面に低屈折率層40を成膜した。低屈折率層40の成膜においては、粒径が約60nmの中空シリカ粒子と、バインダ成分としてのアクリル樹脂をプロピレングリコールモノメチルエーテルとプロピレングリコールを主成分とした溶剤に撹拌、溶解、調製した塗工液を用いて、ディップコート法により下地層13aおよび下地層23bへ同時に成膜した。その後、成膜した塗膜を、室温23℃のクリーンルーム雰囲気中で2時間放置した。これにより中空シリカ粒子がアクリル樹脂(バインダ)で結着して成る低屈折率層40を得た。以上のようにして、実施例2として、図8に示す形態の接合レンズを作製した。
【表3】
【表4】
【0132】
〔比較例〕
比較例として、図13に示す接合レンズ1000を作製した。接合レンズ1000は、基材1011,1021のそれぞれに遮光膜を形成しない一方で、反射防止膜(不図示)を基材1011,1012の光学有効領域1011a,1011b、1021bに形成した後、接着層1030を介して基材1011,1021を接合した。接着層1030には、ポリエン・ポリチオール系接着剤OP-1080L(デンカ株式会社製)を使用した。OP-1080LのUV硬化後の屈折率、すなわち接着層1030の屈折率は、1.52である。接着層1030の厚さは約10μmとした。
【0133】
続いて、接合した構造体の非光学有効領域に、キヤノン化成株式会社製の遮光塗料GT-7IIを、基材端面で3~5μmになるように塗布し、23℃の室温に24時間放置して乾燥・硬化させ、比較例用遮光膜1050を形成した。
【0134】
〔評価〕
1.評価方法
作製した接合レンズを、下記の方法に従って評価した。
【0135】
(1)高温試験
実施例および比較例で作製した接合レンズを、それぞれ、80℃の恒温槽に240h投入した後、目視で遮光膜の墨含有成分の接着層30(1030)への浸潤の発生状況を観察した。以下の基準で評価した。
○ : 接着層に変色が確認されなかった。
× : 接着層に変色(黄色)が確認された。
【0136】
(2)拭き試験
実施例1の接合レンズ50と、比較例の接合レンズ1000に対して、拭き試験を行った。
【0137】
拭き試験は、イソプロピルアルコールを含浸させた不織布(ポリエステルワイパー、アズワン株式会社)を用いて接合レンズの遮光膜の表面を50g荷重で拭いた後、ワイパー表面を目視で確認を行うことで墨塗膜の溶出評価を行った。
○ : 拭き後、ワイパーに変色が観察されなかった。
× : 拭き後、ワイパーが黒色あるいは黄色に変色した。
【0138】
(3)高湿高温試験
実施例および比較例で作製した接合レンズをそれぞれ、60℃、90RH%の恒温恒湿槽に240h投入した後、23℃、50RH%の環境に取り出し、取り出し後に目視で接合レンズの外周部における白化の発生状況を観察した。以下の基準で評価した。
○ : 接合レンズの外周部に白化が確認されなかった。
× : 接合レンズの外周部に白化が確認された。
【0139】
2.評価結果
実施例および比較例で作製した接合レンズについて、上述の(1)~(3)の評価を行った結果を、以下の表5に示す。
【表5】
【0140】
以上の結果から、本発明の一態様の接合レンズは、接着層の変質による光学性能の低下を抑制し、かつ洗浄工程への耐性および環境変化への耐性を有することが確認できた。
【0141】
なお、実施例1~2では、2つの光学素子を貼り合わせた接合レンズの例について説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明は、3つ以上の光学素子(レンズ)を貼り合せた接合レンズにも適用可能である。
【符号の説明】
【0142】
10、10A 第1の光学素子
11、21 基材
11a,11b 光学有効領域
11c,21c 非光学有効領域
12 第1の遮光膜
12a、22a 表面
13a,13b,23a,23b 下地層
20、20A 第2の光学素子
22 第2の遮光膜
30 接着層
40 低屈折率層
50、50´、50A 接合レンズ
401 中空シリカ粒子
401a 外殻部
401b 中空部
402 バインダ
403 空隙部
500 ズームレンズ(光学系)
600 撮像装置(光学機器)
603 固体撮像素子(受光素子)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13