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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】油圧クラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 25/0638 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
F16D25/0638
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021035781
(22)【出願日】2021-03-05
(65)【公開番号】P2022135764
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2024-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122770
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】恩田 昌彦
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第4261455(US,A)
【文献】中国特許出願公開第110701207(CN,A)
【文献】特開2020-193663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/00-39/00,48/00-48/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に、軸方向に沿って、複数のドライブプレート及びドリブンプレートが交互に配設されたクラッチドラムと、
円筒状に形成されるとともに、側面に径方向に貫通孔が形成され、前記クラッチドラムを貫通するように前記クラッチドラムに回動不能に取り付けられ、一方の端部がオイルを供給・排出する第1油路と連通し、他方の端部が前記クラッチドラムの内側に形成された油圧室と連通する第1円筒状部材と、
円筒状に形成されるとともに、側面に径方向に貫通孔が形成され、前記第1円筒状部材の内側に、かつ、前記第1円筒状部材と同軸上に、外周面が前記第1円筒状部材の内周面と接しつつ回動自在に配設された第2円筒状部材と、
前記クラッチドラムの内部に形成され、前記第1円筒状部材の貫通孔と、前記ドライブプレートとドリブンプレートとの間とを連通する第2油路と、
前記第1油路、昇圧されたオイルを供給する第3油路、及び、オイルを排出する第4油路と接続され、前記油圧室にオイルを供給するときには、前記第1油路と前記第3油路とを連通し、前記油圧室からオイルを排出するときには、前記第1油路と前記第4油路とを連通する切替弁と、を備え、
前記第2円筒状部材には、内周面に、回動軸に対して傾斜して設けられ、前記油圧室にオイルが供給されるときには、一方の方向に前記第2円筒状部材を回動させて、前記第2円筒状部材の貫通孔と前記第1円筒状部材の貫通孔とをずらす力を前記第2円筒状部材に付与し、前記油圧室からオイルが排出されるときには、他方の方向に前記第2円筒状部材を回動させて、前記第2円筒状部材の貫通孔と前記第1円筒状部材の貫通孔とを連通する力を前記第2円筒状部材に付与する傾斜板が形成されていることを特徴とする油圧クラッチ。
【請求項2】
前記第4油路に設けられ、油圧が所定圧よりも高い場合に開弁し、油圧が所定圧以下の場合に閉弁する排出弁を備えることを特徴とする請求項1に記載の油圧クラッチ。
【請求項3】
前記第2円筒状部材が前記一方の方向に回動した場合には、前記第2円筒状部材の貫通孔と前記第1円筒状部材の貫通孔とがずれた位置で、前記第2円筒状部材の回動を止め、前記第2円筒状部材が前記他方の方向に回動した場合には、前記第2円筒状部材の貫通孔と前記第1円筒状部材の貫通孔とが連通する位置で、前記第2円筒状部材の回動を止める回り止めを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の油圧クラッチ。
【請求項4】
内部に、軸方向に沿って、複数のドライブプレート及びドリブンプレートが交互に配設されたクラッチドラムと、
筒状に形成されるとともに、側面に貫通孔が形成され、前記クラッチドラムを貫通するように取り付けられ、一方の端部が昇圧されたオイルを供給する油路と連通し、他方の端部が前記クラッチドラムの内側に形成された油圧室と連通する筒状部材と、
前記クラッチドラムの内部に形成され、前記筒状部材の貫通孔と、前記ドライブプレートとドリブンプレートとの間とを連通する第2油路と、
前記油圧室にオイルが供給されるときには、前記油圧室と前記油路とを連通するとともに、前記油圧室と前記第2油路との連通を遮断し、前記油圧室からオイルが排出されるときには、前記油圧室と前記第2油路とを連通するとともに、前記油圧室と前記油路との連通を遮断するように切り替える切替部材と、を備えることを特徴とする油圧クラッチ。
【請求項5】
前記クラッチドラムとの間に前記油圧室を画成するピストンに対して、前記油圧クラッチを解放する方向に付勢力を付与するリターンスプリングを備えることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の油圧クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、自動車等の動力伝達装置では、駆動側の回転部材と、被駆動側の回転部材との間において、駆動力の伝達と遮断とを行う油圧クラッチ(湿式多板クラッチ)が広く用いられている。油圧クラッチでは、駆動側に設けられたドライブプレートと、被駆動側に設けられたドリブンプレートとが交互に配列されており、例えば、油圧を印加してピストンを駆動し、ドライブプレートとドリブンプレートとを圧着することにより、駆動力を伝達する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、油圧クラッチが解放される際(ドライブプレートとドリブンプレートとが切り離される際)に、ピストンがリターンスプリングによって押し戻されたとしても、ドライブプレートとドリブンプレートとの間に、例えばオイルの分子間力等の力が作用して、ドライブプレートとドリブンプレートとがすぐに切り離されない(引き剥がされない)ことがある。そして、その間(ドライブプレートとドリブンプレートとが完全に切り離されるまでの間)、連れ回りによる摩擦トルク、すなわち、引きずりトルク(ドラッグトルク)が発生し、例えば、燃料消費率(燃費)の悪化などを招くおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-197867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、クラッチ解放時に、ドライブプレートとドリブンプレートとの切り離し(引き剥がし)を促進することができ、クラッチ解放時の引きずりトルク(ドラッグトルク)を低減することが可能な油圧クラッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の油圧クラッチは、内部に、軸方向に沿って、複数のドライブプレート及びドリブンプレートが交互に配設されたクラッチドラムと、円筒状に形成されるとともに、側面に径方向に貫通孔が形成され、クラッチドラムを貫通するようにクラッチドラムに回動不能に取り付けられ、一方の端部がオイルを供給・排出する第1油路と連通し、他方の端部がクラッチドラムの内側に形成された油圧室と連通する第1円筒状部材と、円筒状に形成されるとともに、側面に径方向に貫通孔が形成され、第1円筒状部材の内側に、かつ、第1円筒状部材と同軸上に、外周面が第1円筒状部材の内周面と接しつつ回動自在に配設された第2円筒状部材と、クラッチドラムの内部に形成され、第1円筒状部材の貫通孔と、ドライブプレートとドリブンプレートとの間とを連通する第2油路と、第1油路、昇圧されたオイルを供給する第3油路、及び、オイルを排出する第4油路と接続され、油圧室にオイルを供給するときには、第1油路と第3油路とを連通し、油圧室からオイルを排出するときには、第1油路と第4油路とを連通する切替弁とを備え、第2円筒状部材には、内周面に、回動軸に対して傾斜して設けられ、油圧室にオイルが供給されるときには、一方の方向に第2円筒状部材を回動させて、第2円筒状部材の貫通孔と第1円筒状部材の貫通孔とをずらす力を第2円筒状部材に付与し、油圧室からオイルが排出されるときには、他方の方向に第2円筒状部材を回動させて、第2円筒状部材の貫通孔と第1円筒状部材の貫通孔とを連通する力を第2円筒状部材に付与する傾斜板が形成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様の油圧クラッチは、内部に、軸方向に沿って、複数のドライブプレート及びドリブンプレートが交互に配設されたクラッチドラムと、筒状に形成されるとともに、側面に貫通孔が形成され、クラッチドラムを貫通するように取り付けられ、一方の端部が昇圧されたオイルを供給する油路と連通し、他方の端部が前記クラッチドラムの内側に形成された油圧室と連通する筒状部材と、クラッチドラムの内部に形成され、筒状部材の貫通孔と、ドライブプレートとドリブンプレートとの間とを連通する第2油路と、油圧室にオイルが供給されるときには、油圧室と油路とを連通するとともに、油圧室と第2油路との連通を遮断し、油圧室からオイルが排出されるときには、油圧室と第2油路とを連通するとともに、油圧室と油路との連通を遮断するように切り替える切替部材とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、クラッチ解放時に、ドライブプレートとドリブンプレートとの切り離し(引き剥がし)を促進することができ、クラッチ解放時の引きずりトルク(ドラッグトルク)を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る油圧クラッチの構成(解放状態)を示す図である。
図2】第2円筒状部材が組み込まれた第1円筒状部材を示す図である。
図3】第1円筒状部材と第2円筒状部材とを分解した図である。
図4】オイルが流れる方向と第2円筒状部材の回動方向との関係を説明するための図である。
図5】オイル供給時(クラッチ締結時)の油圧クラッチの要部の状態を示す図である。
図6】オイル排出時(クラッチ解放時)の油圧クラッチの要部の状態を示す図(その1)である。
図7】オイル排出時(クラッチ解放時)の油圧クラッチの要部の状態を示す図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0011】
まず、図1図4を併せて用いて、実施形態に係る油圧クラッチ(湿式多板クラッチ)1の構成について説明する。図1は、油圧クラッチ1の構成(解放状態)を示す図である。図2は、第2円筒状部材30が組み込まれた第1円筒状部材20を示す図である。図3は、第1円筒状部材20と第2円筒状部材30とを分解(分離)した図である。図4は、オイルが流れる方向と第2円筒状部材30の回動方向との関係を説明するための図である。
【0012】
油圧クラッチ(湿式多板クラッチ)1は、例えば、自動車等の動力伝達装置(自動変速機やトランスファ等)に用いられて、駆動側の回転部材と被駆動側の回転部材との間で駆動力の伝達と遮断とを行う。
【0013】
クラッチドラム10の内部には、軸方向に沿って、複数のドライブプレート11及びドリブンプレート12(クラッチプレート)が交互に配設されている。より詳細には、駆動側の回転部材にドライブプレート11が取り付けられ、クラッチドラム10(被駆動側の回転部材)にドリブンプレート12が取り付けられている。
【0014】
また、クラッチドラム10の内部には、端部がドリブンプレート12に当接されたピストン15が配置されている。そして、クラッチドラム10とピストン15とによって油圧室17が画成されている。
【0015】
ピストン15は、軸線方向に摺動可能に設けられており、油圧室17に供給される油圧に応じた押圧力(すなわち、油圧と受圧面積(軸線に対して垂直な面の面積)との乗算値により定まる押圧力)をドリブンプレート12(クラッチプレート)に付与する。また、ピストン15には、ピストン15に対して、油圧クラッチ1を解放する方向(図1下方向)に付勢力を付与するリターンスプリング19が配設されている。
【0016】
クラッチドラム10には、第1円筒状部材(特許請求の範囲に記載の筒状部材に相当)20が、例えば圧入等により、回動不能に取り付けられている。また、第1円筒状部材20は、クラッチドラム10を貫通するように、クラッチドラム10に取り付けられている。第1円筒状部材20は、円筒状(中空の円筒管状)に形成されるとともに、側面に径方向(すなわち軸線に対して垂直な方向)に貫通孔(横穴)21が形成されている。そして、第1円筒状部材20は、一方の端部がオイルを供給・排出する第1油路61と連通し、他方の端部がクラッチドラム10の内側に形成された油圧室17と連通している。
【0017】
第1円筒状部材20の内側には、第2円筒状部材30が、第1円筒状部材20と同軸上に、かつ、その外周面が第1円筒状部材20の内周面と接しつつ回動自在に配設されている。第2円筒状部材30は、円筒状(中空の円筒管状)に形成されるとともに、側面に径方向(すなわち軸線に対して垂直な方向)に貫通孔(横穴)31が形成されている。ここで、第1円筒状部材20と第2円筒状部材30とは、軸方向の長さが同じに形成されている。また、第1円筒状部材20の端部から貫通孔21の中心までの長さと、第2円筒状部材30の端部から貫通孔31の中心までの長さとは同じに設定されている。さらに、第1円筒状部材20の貫通孔21、及び、第2円筒状部材30の貫通孔31それぞれは、断面が円形に、かつ、径(直径)が同じに形成されている。
【0018】
第2円筒状部材30には、その内周面に、回動軸に対して傾斜して設けられ、油圧室17にオイルが供給されるとき(一方の端部から他方の端部に向けてオイルが流れるとき(図4の左側の図を参照))には、一方の方向に第2円筒状部材30を回動させて、第2円筒状部材30の貫通孔31と第1円筒状部材20の貫通孔21とをずらす力を第2円筒状部材30に付与し、油圧室17からオイルが排出されるとき(他方の端部から一方の端部に向けてオイルが流れるとき(図4の右側の図を参照))には、他方の方向(逆の方向)に第2円筒状部材30を回動させて、第2円筒状部材30の貫通孔31と第1円筒状部材20の貫通孔21と連通する力を第2円筒状部材30に付与する傾斜板(羽根状の板)32が形成されている。なお、第2円筒状部材30には、複数(図3の例では2枚)の傾斜板32が形成されている。
【0019】
また、第1円筒状部材20及び第2円筒状部材30には、第2円筒状部材30が一方の方向に回動した場合(図4の左側の図を参照)には、第2円筒状部材30の貫通孔31と第1円筒状部材20の貫通孔21とがずれた位置で、第2円筒状部材30の回動を止め、第2円筒状部材30が他方の方向に回動した場合(図4の右側の図を参照)には、第2円筒状部材30の貫通孔31と第1円筒状部材20の貫通孔21とが連通する位置で、第2円筒状部材30の回動を止める回り止め(ストッパ)35が設けられている。
【0020】
より具体的には、回り止め35は、例えば、図2に示されるように、第1円筒状部材20の上端部に、第1円筒状部材20の内周面に沿って、半周程度にわたり形成された溝部と、該溝部に嵌まるように、第2円筒状部材30の上端部に、径方向外側に突設された凸部とからなる。そのため、第2円筒状部材30は、凸部が、第1円筒状部材20の溝部に沿って可動できる範囲で回動可能とされる。一方、第2円筒状部材30の回動は、凸部の側面が、第1円筒状部材20の溝部の一方の端面、又は、他方の端面と当たることにより止められる。
【0021】
また、クラッチドラム10の内部には、第1円筒状部材20の貫通孔21と、複数のドライブプレート11とドリブンプレート12(クラッチプレート)との間とを連通し、複数のドライブプレート11とドリブンプレート12との間からオイルを吐出する第2油路62が形成されている。第2油路62は、複数のドライブプレート11とドリブンプレート12との間(クラッチプレート間)それぞれに、複数形成されている。
【0022】
上述した第1油路61には、第1油路61の連通先を切替える切替弁40が接続されている。より詳細には、切替弁40は、第1油路61、オイルポンプ(図示省略)により昇圧され、コントロールバルブ70により調圧されたオイルを供給する第3油路63(特許請求の範囲に記載の油路に相当)、並びに、オイルを排出する第4油路64と接続された三方弁401、及び、三方弁401を駆動するソレノイド402を有して構成されている。そして、切替弁40は、三方弁401を駆動することにより、油圧室17にオイルを供給するときには、第1油路61と第3油路63とを連通し、油圧室17からオイルを排出するときには、第1油路61と第4油路64とを連通する。なお、第2円筒状部材30及び切替弁40は、特許請求の範囲に記載の切替部材に相当する。切替弁40(ソレノイド402)は、例えば、TCU(トランスミッション・コントロールユニット)等によって制御される。
【0023】
第4油路64には、排出弁(リリーフバルブ)50が設けられている。排出弁50は、例えば、ボール501及びスプリング502を有して構成されており、油圧が所定圧よりも高い(油圧×ボール501の断面積>スプリング502のバネ力)の場合に開弁(オイルを排出)し、油圧が所定圧以下の場合に閉弁(オイルの排出を停止)する。
【0024】
次に、図5図7を併せて参照しつつ、油圧クラッチ1の動作について説明する。図5は、オイル供給時(クラッチ締結時)の油圧クラッチ1の要部の状態を示す図である。図6は、オイル排出時(クラッチ解放時)の油圧クラッチ1の要部の状態を示す図(その1)である。図7は、オイル排出時(クラッチ解放時)の油圧クラッチ1の要部の状態を示す図(その2)である。
【0025】
油圧室17にオイルが供給されるとき(クラッチ締結時)には、図5に示されるように、切替弁40が駆動されて、第1油路61と第3油路63とが連通され、オイルが、第2円筒状部材30を通り、油圧室17に供給される。そのときに、第2円筒状部材30の傾斜板32が、供給されるオイルの流れを受けて、第2円筒状部材30を一方の方向に回動し、第2円筒状部材30の貫通孔31と第1円筒状部材20の貫通孔21とをずらす。その結果、ドライブプレート11及びドリブンプレート12にオイルを供給する第2油路62が遮断される。よって、オイルは油圧室17のみに供給される。
【0026】
一方、油圧室17からオイルが排出されるとき(クラッチ解放時)には、図6に示されるように、切替弁40が駆動されて、第1油路61と第4油路64(排出弁50)とが連通されることにより、オイルの供給が停止されるとともに、排出弁50が一時的に開弁して、オイルが排出(ドレン)される。そのときに、第2円筒状部材30の傾斜板32が、排出されるオイルの流れを受けて、第2円筒状部材30を他方の方向(オイル供給時とは逆の方向)に回動する。
【0027】
その結果、図7に示されるように、第2円筒状部材30の貫通孔31と第1円筒状部材20の貫通孔21とが連通され、ドライブプレート11及びドリブンプレート12にオイルを供給する第2油路62が解放される。そして、排出されるオイルが双方の貫通孔21、31及び第2油路62を通ってドライブプレート11とドリブンプレート12との間から吐出される。そのため、排出弁50にかかる油圧が低下し、スプリング502のバネ荷重によってボール501が戻されることにより、排出弁50が閉弁する。よって、その後は、油圧室17から排出されるオイルが、すべて、ドライブプレート11とドリブンプレート12との間に供給される。その結果、ドライブプレート11とドリブンプレート12との切り離しが促進される。
【0028】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、第2円筒状部材30の内周面に、回動軸に対して傾斜して設けられ、オイル供給時(クラッチ締結時)には、一方の方向に第2円筒状部材30を回動させて、第2円筒状部材30の貫通孔31と第1円筒状部材20の貫通孔21とをずらす力を第2円筒状部材30に付与し、オイル排出時(クラッチ解放時)には、他方の方向に第2円筒状部材30を回動させて、第2円筒状部材30の貫通孔31と第1円筒状部材20の貫通孔21とを連通する力を第2円筒状部材30に付与する傾斜板32が形成されている。そのため、油圧室17にオイルが供給されるとき(クラッチ締結時)には、第2円筒状部材30が一方の方向に回動して、第2円筒状部材30の貫通孔31と第1円筒状部材20の貫通孔21とがずれ(第2油路62が遮断され)、第2円筒状部材30を通して油圧室17にオイルが供給される。
【0029】
一方、油圧室17からオイルが排出されるとき(クラッチ解放時)には、排出弁50が一時的に開弁して、オイルが排出(ドレン)されることにより、第2円筒状部材30が他方の方向に回動して、第2円筒状部材30の貫通孔31と第1円筒状部材20の貫通孔21とが連通し、オイルが双方の貫通孔21、31及び第2油路62を通ってドライブプレート11とドリブンプレート12との間から吐出される。なお、オイルが第2油路62を通ってドライブプレート11とドリブンプレート12との間から吐出されることにより、排出弁50にかかる油圧が低下し、排出弁50は閉弁する。このように、油圧クラッチ1の解放時に、排出されるオイルをドライブプレート11とドリブンプレート12との間に吐出することにより、ドライブプレート11とドリブンプレート12との切り離し(引き剥がし)を促進することができる。その結果、クラッチ解放時の引きずりトルク(ドラッグトルク)を低減することが可能となる。
【0030】
本実施形態によれば、第2円筒状部材30が一方の方向に回動した場合には、第2円筒状部材30の貫通孔31と第1円筒状部材20の貫通孔21とがずれた位置で第2円筒状部材30の回動を止め、第2円筒状部材30が他方の方向に回動した場合には、第2円筒状部材30の貫通孔31と第1円筒状部材20の貫通孔21とが連通する位置で第2円筒状部材30の回動を止める回り止め35を備えている。そのため、第2円筒状部材30の貫通孔31と第1円筒状部材20の貫通孔21との遮断および連通(すなわち、第2油路62の遮断および連通)の切替えを確実に行うことができる。
【0031】
本実施形態によれば、第2油路62が、複数のドライブプレート11とドリブンプレート12との間それぞれに、複数形成されている.そのため、クラッチ解放時に、複数の油路62から、複数のドライブプレート11とドリブンプレート12との間それぞれにオイルを吐出することにより、ドライブプレート11とドリブンプレート12との切り離し(引き剥がし)をより促進することができる。
【0032】
本実施形態によれば、第2円筒状部材30の内周面に、複数(2枚)の傾斜板32が形成されているため、第2円筒状部材30の回動(第2円筒状部材30の貫通孔31と第1円筒状部材20の貫通孔21との遮断および連通)を、より迅速に(応答性よく)行うことができる。
【0033】
本実施形態によれば、第1円筒状部材20の貫通孔21、及び、第2円筒状部材30の貫通孔31それぞれが、断面が円形に、かつ、径が同じに形成されている。そのため、第1円筒状部材20の貫通孔21、及び、第2円筒状部材30の貫通孔31それぞれを、比較的簡易に形成することができ、また、第2円筒状部材30の貫通孔31と第1円筒状部材20の貫通孔21との遮断および連通を適確に行うことができる。
【0034】
本実施形態によれば、第1円筒状部材20と第2円筒状部材30の軸方向の長さが同じに形成されているため、第1円筒状部材20と第2円筒状部材30とをコンパクトに組み付けることができる。
【0035】
本実施形態によれば、クラッチドラム10との間に油圧室17を画成するピストン15に対して、油圧クラッチ1を解放する方向に付勢力を付与するリターンスプリング19を備えている。そのため、油圧室17からオイルを排出することにより、リターンスプリング19の付勢力によってピストン15を押し戻し、油圧クラッチ1を解放することができる。
【0036】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、第2円筒状部材30の傾斜板32の形状や、数、配置などは上記実施形態には限られない。
【0037】
また、第1円筒状部材20、及び、第2円筒状部材30それぞれの貫通孔21、31の形状や、径、配置などは上記実施形態には限られない。例えば、貫通孔21、31の形状は円形でなくてもよい。
【0038】
なお、上記実施形態では、油圧が所定圧よりも高い場合に開弁し、油圧が所定圧以下の場合に閉弁する排出弁50を備える構成としたが、該排出弁50を備えない構成としてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 油圧クラッチ
10 クラッチドラム
11 ドライブプレート
12 ドリブンプレート
15 ピストン
17 油圧室
19 リターンスプリング
20 第1円筒状部材
21 貫通孔
30 第2円筒状部材
31 貫通孔
32 傾斜板
35 回り止め
40 切替弁
401 三方弁
402 ソレノイド
50 排出弁
501 ボール
502 スプリング
61 第1油路
62 第2油路
63 第3油路
64 第4油路
70 コントロールバルブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7