(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】段差構造を有するコンクリート構造物の施工方法および型枠ユニット
(51)【国際特許分類】
E04G 13/06 20060101AFI20241022BHJP
E04B 1/16 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
E04G13/06 A
E04B1/16 C
(21)【出願番号】P 2021041412
(22)【出願日】2021-03-15
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】595138155
【氏名又は名称】ダイセルミライズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】町谷 行啓
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-111323(JP,A)
【文献】特開2014-196652(JP,A)
【文献】特開2021-006697(JP,A)
【文献】特開平09-004226(JP,A)
【文献】登録実用新案第3017084(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B1/00-1/36
2/86
E04G9/00-19/00
25/00-25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1上面と、前記第1上面より上方に位置する第2上面と、前記第1上面および前記第2上面の間の立ち上がり側面と、を含む段差構造を有するコンクリート構造物の施工方法であって、
前記コンクリート構造物を構築するコンクリート原料が充填されるコンクリート充填予定区域を画定する複数の型枠パネルを組み付ける型枠組み付け工程と、
前記コンクリート充填予定区域において前記第1上面が形成される高さに対応する第1高さまでコンクリート原料を打設する第1コンクリート打設工程と、
前記コンクリート充填予定区域において前記第2上面が形成される高さに対応する第2高さまでコンクリート原料を打設する第2コンクリート打設工程と、
を備え、
前記型枠組み付け工程は、前記立ち上がり側面の形成予定位置に側面用取り外し型枠パネルおよび側面用埋設型枠パネルを含むハイブリッド型枠パネルを組み付けることを含み、
前記側面用取り外し型枠パネルは、その下端位置が前記第1高さより上方に位置するように組み付けられ、
前記側面用埋設型枠パネルは、前記側面用取り外し型枠パネルの堰板面に添わせて固定されると共に前記側面用埋設型枠パネルの下端位置が前記第1高さより下方に位置するように当該側面用埋設型枠パネルの下部領域が前記側面用取り外し型枠パネルから下方に突出するように組み付けられる、
段差構造を有するコンクリート構造物の施工方法。
【請求項2】
前記型枠組み付け工程において、固定具の当接用端面を前記側面用埋設型枠パネルの前記堰板面に当接させた状態で、前記側面用取り外し型枠パネルの外面側から当該側面用取り外し型枠パネルおよび前記側面用埋設型枠パネルを貫通するネジ止め部材を前記固定具の前記当接用端面にネジ止めすることによって前記側面用埋設型枠パネルを前記側面用取り外し型枠パネルに固定する、
請求項1に記載の段差構造を有するコンクリート構造物の施工方法。
【請求項3】
更に、前記型枠組み付け工程において、一端側が他の型枠パネル又は前記コンクリート充填予定区域に配置される鉄筋若しくは鉄骨に連結される棒状接続部材の他端側を前記固定具に対して連結する、
請求項2に記載の段差構造を有するコンクリート構造物の施工方法。
【請求項4】
前記側面用埋設型枠パネルは繊維強化セメント板である、請求項1から3の何れか一項に記載の段差構造を有するコンクリート構造物の施工方法。
【請求項5】
コンクリート構造物の施工に適用され、第1上面と、前記第1上面より上方に位置する第2上面と、前記第1上面および前記第2上面の間の立ち上がり側面とを含む段差構造を構築するための型枠ユニットであって、
前記立ち上がり側面の形成予定位置に組み付けられる、側面用取り外し型枠パネルおよび側面用埋設型枠パネルを含むハイブリッド型枠パネルを備え、
前記側面用取り外し型枠パネルは、その下端位置が、前記第1上面が形成される高さに対応する第1高さより上方に位置するように組み付けられ、
前記側面用埋設型枠パネルは、その下部領域が前記側面用取り外し型枠パネルから下方に突出すると共に下端位置が前記第1高さより下方に位置するように前記側面用取り外し型枠パネルの堰板面に添わせて固定される、
段差構造を構築するための型枠ユニット。
【請求項6】
前記側面用埋設型枠パネルを前記側面用取り外し型枠パネルに固定する固定ユニットを更に備え、
前記固定ユニットは、前記側面用埋設型枠パネルの堰板面に当接可能な当接用端面を有する固定具と、前記側面用取り外し型枠パネルの外面側から当該側面用取り外し型枠パネルおよび前記側面用埋設型枠パネルを貫通した状態で前記固定具の前記当接用端面をネジ止めするネジ止め部材と、を有する、
請求項5に記載の段差構造を構築するための型枠ユニット。
【請求項7】
前記固定ユニットは、一端側が他の型枠パネル又は前記コンクリート構造物を構築するコンクリート原料が充填されるコンクリート充填予定区域に配置される鉄筋若しくは鉄骨に連結されると共に他端側が前記固定具に対して連結される棒状接続部材を、更に有する、
請求項6に記載の段差構造を構築するための型枠ユニット。
【請求項8】
前記側面用埋設型枠パネルは繊維強化セメント板である、請求項5から7の何れか一項に記載の段差構造を構築するための型枠ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、段差構造を有するコンクリート構造物の施工方法および型枠ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
施工現場でコンクリートを打設することによってコンクリート構造物を構築する現場打ち施工においては、通常、コンクリート構造物の外形を画定するための複数の型枠パネルを組み付け、当該型枠パネルで囲まれた区域(コンクリート打設予定区域)内にコンクリート原料を打設(充填)することによってコンクリート構造物が構築される。
【0003】
現場打ち施工に適用される型枠パネルには、一般に、ベニヤ合板等といった木製型枠パネルが使用され、コンクリート構造物の施工後に、当該コンクリート構造物から型枠パネルが取り外される。
【0004】
ところで、第1上面と、第1上面より上方に位置する第2上面と、第1上面および第2上面の間の立ち上がり側面とを含む段差構造を有するコンクリート構造物を構築する際、従来においては、立ち上がり側面を形成するための側面用取り外し型枠パネルの下端を第1上面が形成される高さ位置より上位に位置する態様で、当該側面用取り外しパネルの組み付けを行う必要があった。
【0005】
しかしながら、このように側面用取り外し型枠パネルが組み付けられた状態でコンクリート打設が行われると、第1上面と当該側面用取り外し型枠パネルとの隙間からフレッシュコンクリートが漏出することとなる。そして、側面用取り外し型枠パネルの下方からはみ出したフレッシュコンクリートが硬化すると、段差構造における第1上面と立ち上がり側面とによって形成される所期の入隅形状と比較して余分な傾斜部が形成されることとなる。その結果、所期の入隅形状を形成するために、上記はみ出しに起因する余剰部分を削り取る作業(はつり作業)が発生し、更には、硬化コンクリートのはつり箇所を補修する作業も発生する場合があった。
【0006】
一方、上述したフレッシュコンクリートのはみ出しを防止するため、側面用取り外し型枠パネルと第1上面との隙間を狭くして組み付けると、側面用取り外し型枠パネルにおける下部領域がコンクリートに埋め込まれてしまい、この場合には側面用取り外し型枠パネルの取り外し(脱型)に手間が掛かる。また、硬化コンクリートから側面用取り外し型枠パネルを取り外しても、パネル片が硬化コンクリートからきれいに除去できずに取り残されることもあり、その場合にはパネル片を硬化コンクリートから削り取った上で、当該削り取り箇所を補修する必要がある。
【0007】
これに対して、特許文献1における
図8、
図9などには、厚みが3~10mmの繊維強化セメント板によって形成される埋設パネルを段差構造における立ち上がり側面の形成予定位置に、当該埋設パネルの下端が第1上面よりも低い位置に配置されるように組み付けてコンクリート打設を行う、コンクリート構造物の施工方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の施工方法においては、段差構造における第1上面から立ち上がる立ち上がり部のコンクリートを打設する際のコンクリート側圧が大きい場合、そのコンクリート側圧に起因して立ち上がり側面に組み付けられた埋設パネルに割れ(クラックも含む)などの損傷が生じたり、埋設パネルに歪みなどが生じる虞があった。
【0010】
本開示の技術は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、段差構造を有するコンクリート構造物の施工に要する作業・時間・コストを低減し、且つ段差構造構築時におけるコンクリート側圧が大きい場合においても埋設パネルの損傷や歪みなどの不具合が生じることを抑制可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る技術は、第1上面と、前記第1上面より上方に位置する第2上面と、前記第1上面および前記第2上面の間の立ち上がり側面と、を含む段差構造を有するコンクリート構造物の施工方法であって、前記コンクリート構造物を構築するコンクリート原料が充填されるコンクリート充填予定区域を画定する複数の型枠パネルを組み付ける型枠組み付け工程と、前記コンクリート充填予定区域において前記第1上面が形成される高さに対応する第1高さまでコンクリート原料を打設する第1コンクリート打設工程と、前記コンクリート充填予定区域において前記第2上面が形成される高さに対応する第2高さまでコンクリート原料を打設する第2コンクリート打設工程と、を備え、前記型枠組み付け工程は、前記立ち上がり側面の形成予定位置に側面用取り外し型枠パネルおよび側面用埋設型枠パネルを含むハイブリッド型枠パネルを組み付けることを含み、前記側面用取り外し型枠パネルは、その下端位置が前記第1高さより上方に位置するように組み付けられ、前記側面用埋設型枠パネルは、前記側面用取り外し型枠パネルの堰板面に添わせて固定されると共に前記側面用埋設型枠パネルの下端位置が前記第1高さより下方に位置するように当該側面用埋設型枠パネルの下部領域が前記側面用取り外し型枠パネルから下方に突出するように組み付けられる。
【0012】
コンクリート構造物の施工方法は、前記型枠組み付け工程において、固定具の当接用端面を前記側面用埋設型枠パネルの前記堰板面に当接させた状態で、前記側面用取り外し型枠パネルの外面側から当該側面用取り外し型枠パネルおよび前記側面用埋設型枠パネルを貫通するネジ止め部材を前記固定具の前記当接用端面にネジ止めすることによって前記側面用埋設型枠パネルを前記側面用取り外し型枠パネルに固定してもよい。
【0013】
コンクリート構造物の施工方法は、更に、前記型枠組み付け工程において、一端側が他の型枠パネル又は前記コンクリート充填予定区域に配置される鉄筋若しくは鉄骨に連結される棒状接続部材の他端側を前記固定具に対して連結してもよい。
【0014】
また、前記側面用埋設型枠パネルは繊維強化セメント板であってもよい。
【0015】
また、本開示に係る技術は、コンクリート構造物の施工に適用され、第1上面と、前記第1上面より上方に位置する第2上面と、前記第1上面および前記第2上面の間の立ち上がり側面とを含む段差構造を構築するための型枠ユニットとして特定することもできる。すなわち、段差構造を構築するための型枠ユニットは、前記立ち上がり側面の形成予定位置に組み付けられる、側面用取り外し型枠パネルおよび側面用埋設型枠パネルを含むハイブリッド型枠パネルを備え、前記側面用取り外し型枠パネルは、その下端位置が、前記第1上面が形成される高さに対応する第1高さより上方に位置するように組み付けられ、前記側面用埋設型枠パネルは、その下部領域が前記側面用取り外し型枠パネルから下方に突出すると共に下端位置が前記第1高さより下方に位置するように前記側面用取り外し型枠パネルの堰板面に添わせて固定される。
【0016】
型枠ユニットは、前記側面用埋設型枠パネルを前記側面用取り外し型枠パネルに固定する固定ユニットを更に備え、前記固定ユニットは、前記側面用埋設型枠パネルの堰板面に当接可能な当接用端面を有する固定具と、前記側面用取り外し型枠パネルの外面側から当該側面用取り外し型枠パネルおよび前記側面用埋設型枠パネルを貫通した状態で前記固定具の前記当接用端面をネジ止めするネジ止め部材と、を有していてもよい。
【0017】
また、前記固定ユニットは、一端側が他の型枠パネル又は前記コンクリート構造物を構築するコンクリート原料が充填されるコンクリート充填予定区域に配置される鉄筋若しくは鉄骨に連結されると共に他端側が前記固定具に対して連結される棒状接続部材を、更に有していてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、段差構造を有するコンクリート構造物の施工に要する作業・時間・コストを低減し、且つ段差構造構築時におけるコンクリート側圧が大きい場合においても埋設パネルの損傷や歪みなどの不具合が生じることを抑制可能な技術を提供できる。
を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る段差構造を有するコンクリート構造物を説明する図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係るコンクリート打設用型枠の平面的配置例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係るコンクリート打設用型枠の概略斜視図である。
【
図5】
図5は、実施形態1に係る段差用型枠ユニットの斜視図である。
【
図6】
図6は、実施形態1に係る段差用型枠ユニットの分解斜視図である。
【
図7】
図7は、実施形態1に係る側面用埋設型枠パネルおよび側面用取り外し型枠パネル6連結部周辺の構造を説明する図である。
【
図8】
図8は、実施形態1に係る固定具の斜視図である。
【
図9】
図9は、段差用型枠ユニットを用いたコンクリート構造物の施工手順を説明する図である。
【
図10】
図10は、第1コンクリート打設工程が完了した状況を示す図である。
【
図11】
図11は、第2コンクリート打設工程が完了した状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本開示の実施形態に係る型枠ユニット及びこれを用いた施工方法について説明する。なお、実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、請求の範囲によってのみ限定される。
【0021】
<実施形態1>
《コンクリート構造物》
図1は、実施形態1に係る段差用型枠ユニットによって形成される段差構造100を有するコンクリート構造物200を説明する図である。コンクリート構造物200は、コンクリートを含む構造物であり、例えば鉄筋コンクリート構造物、鉄骨コンクリート構造物、鉄筋鉄骨コンクリート構造物、無筋コンクリート構造物等が例示できる。
図1に示す例では、コンクリート構造物200は、鉄筋15と、当該鉄筋15を被覆するコンクリート
を含む鉄筋コンクリート構造物として示されている。
【0022】
コンクリート構造物200の段差構造100は、第1上面101、当該第1上面101より上方に位置する第2上面102、第1上面101および第2上面102の間の立ち上がり側面103によって画定される段差構造である。
図1に示すコンクリート構造物200は、床スラブ110と、当該床スラブ110から上方に向かって立設する立ち上がり壁120を含んで構成されるコンクリート構造物200が例示されている。但し、コンクリート構造物200は、段差構造100を含んでいる限りにおいてその種類、用途などは限定されない。また、
図1において、符号130は、コンクリート構造物200の下方に構築された下地であり、例えば、捨て(均し)コンクリート等が例示できる。また、符号7は、後述する段差用型枠ユニットに含まれる側面用埋設型枠パネルである。
【0023】
《段差用型枠ユニット》
次に、コンクリート構造物200を構築するための段差用型枠ユニット1を含むコンクリート打設用型枠1000の配置例を説明する。
図2は、実施形態1に係るコンクリート打設用型枠1000の平面的配置例を示す図である。
図3は、実施形態1に係るコンクリート打設用型枠1000の概略斜視図である。
図4は、
図2のA-A断面の概略構造を示す図である。ここで、符号R1は、コンクリート構造物200を構築するためのコンクリート原料が充填されるコンクリート充填予定区域である。
【0024】
符号21~24は取り外し型枠パネルである。取り外し型枠パネル21~24は、例えばベニヤ合板等といった木製型枠パネルである。取り外し型枠パネル21~24は、コンクリート充填予定区域R1側に向けて堰板面F1が設置されて、コンクリート充填予定区域R1の外側に向けて外面F2が設置されている。取り外し型枠パネル21~24は、コンクリート構造物200の構築後に、当該コンクリート構造物200における硬化コンクリートの表面から取り外される。取り外し型枠パネル21~24は、例えば、捨て(均し)コンクリート等の下地130に対して自立して配置されている。例えば、取り外し型枠パネル21~24は、コンクリート釘等によって下地130に固定された敷桟上に載置された状態で固定されている。
【0025】
ここで、符号3はセパレータである。セパレータ3は、互いに対向する取り外し型枠パネル21,22同士、取り外し型枠パネル23,24同士の間隔を所定の寸法に保持するための棒鋼である。セパレータ3の両端部にはネジ切り部が形成されておいる。セパレータ3のネジ切り部は、各取り外し型枠パネル21~24の所定位置に形成されたセパレータ用孔に挿通され、各取り外し型枠パネル21~24の外面F2側において型枠固定用の公知のフォームタイ(登録商標)10に締結されている。このフォームタイ10と各取り外し型枠パネル21~24における外面F2との間には、いわゆる単管パイプや端太材(角材)等が挟持されることで各取り外し型枠パネル21~24の組み付けが補強される。
図3に例示するフォームタイ10は、クサビ部材11を装着可能なクサビ穴(図示省略)を有し、クサビ穴に装着したクサビ部材11と外面F2との間に端太材12が挟持されている。また、各取り外し型枠パネル21~24の縁部には、桟木と呼ばれる小角材によって補強されているが、当該桟木の図示は省略している。また、セパレータ3を配置する位置、数、間隔等については特に限定されない。
図3においては、セパレータ3の図示を省略している。また、
図2において、フォームタイ10、クサビ部材11、端太材12等の図示を省略している。
【0026】
図2~
図4に示す段差用型枠ユニット1は、
図1で説明した段差構造100を構築するための型枠ユニットであり、ハイブリッド型枠パネル4および固定ユニット5等を含んで構成されている。ハイブリッド型枠パネル4は、段差構造100における立ち上がり側面103の形成予定位置に組み付けられる堰板であり、側面用取り外し型枠パネル6および
側面用埋設型枠パネル7を含む。本実施形態においては、取り外し型枠パネル21~24、およびハイブリッド型枠パネル4によってコンクリート充填予定区域R1が画定(形成)される。コンクリート充填予定区域R1は、コンクリート原料の打設時において、そのコンクリート天端の位置が第1高さL1に設定されている第1充填予定区域R11と、コンクリート天端の位置が第2高さL2に設定されている第2充填予定区域R12とを含む。この第1高さL1は、段差構造100における第1上面111が形成される高さに対応している。第2高さL2は、段差構造100における第2上面121が形成される高さに対応している。
【0027】
また、
図4に示すように、コンクリート充填予定区域R1において、鉄筋15が格子状に組み立てられた状態で設定されている。なお、
図2および
図3においては、鉄筋15の図示を省略している。コンクリート構造物200は、コンクリート充填予定区域R1に打設(充填)されるコンクリート原料が硬化することによって構築される。その際、第1充填予定区域R11においては第1高さL1までコンクリート原料が充填され、第2充填予定区域R12において第2高さL2までコンクリート原料が充填される。
【0028】
図5は、実施形態1に係る段差用型枠ユニット1の斜視図である。
図6は、実施形態1に係る段差用型枠ユニット1の分解斜視図である。側面用取り外し型枠パネル6は、コンクリート構造物200の構築後において、段差構造100における立ち上がり側面103から取り外される型枠パネルである。側面用取り外し型枠パネル6は、例えば取り外し型枠パネル21~24と同様、ベニヤ合板等といった木製型枠パネルである。
【0029】
一方、側面用埋設型枠パネル7は、コンクリート構造物200の段差構造100を構築する際に、コンクリートに埋め込まれ、段差構造100における立ち上がり側面103に存置される型枠パネルである。側面用埋設型枠パネル7は、例えば、平板状の繊維強化セメント板である。側面用埋設型枠パネル7に用いる繊維強化セメント板としては、例えば、スレートボード、珪酸カルシウム板、スラグ石膏板等が挙げられる。スレートボードは、主原料として、例えば、セメント、繊維(但し石綿を除く)、及び混和材を含む。珪酸カルシウム板は、主原料として、例えば、石灰質原料、珪酸質原料、繊維(但し石綿を除く)、及び混和材を含む。スラグ石膏板は、主原料として、例えば、スラグ、石膏、繊維(但し石綿を除く)、及び混和材を含む。これら繊維強化セメント板については、JIS
A 5430に規格が定められている。耐水性の観点からは、側面用埋設型枠パネル7を形成する繊維強化セメント板としては、スレートボード及び珪酸カルシウム板が好ましい。また、スレートボードの市販品としては、例えば、エーアンドエーマテリアル株式会社製の「セルフレックス」が挙げられる。珪酸カルシウム板の市販品としては、例えば、エーアンドエーマテリアル株式会社製の「ハイラックM」が挙げられる。スラグ石膏板の市販品としては、例えば、吉野石膏株式会社製の「タイガーボード」が挙げられる。
【0030】
以下では、各パネル6,7の長辺方向を幅方向とし、短辺方向を上下方向としてハイブリッド型枠パネル4を説明する。
【0031】
ここで、符号61は、側面用取り外し型枠パネル6における外面である。符号62は、側面用取り外し型枠パネル6における外面61とは反対側に位置する内面によって形成される堰板面である。側面用取り外し型枠パネル6は、コンクリート構造物200の構築時に組み付けられる際に、堰板面62をコンクリート充填予定区域R1(第2充填予定区域R12)の内側に向けて設置され、外面61をコンクリート充填予定区域R1(第2充填予定区域R12)の外側に向けて設置される。また、符号63は、側面用取り外し型枠パネル6の上端縁である。符号64は、側面用取り外し型枠パネル6の下端縁である。符号65は、側面用取り外し型枠パネル6の左端縁である。符号66は、側面用取り外し型枠パネル6の右端縁である。
【0032】
また、符号71は、側面用埋設型枠パネル7における化粧面である。符号72は、側面用埋設型枠パネル7における化粧面71とは反対側に位置する内面によって形成される堰板面である。側面用埋設型枠パネル7は、固定ユニット5によって側面用取り外し型枠パネル6に対して固定される際、化粧面71が側面用取り外し型枠パネル6の堰板面62に添わせた状態で固定される。そのため、固定ユニット5によって一体化された側面用取り外し型枠パネル6および側面用埋設型枠パネル7によって形成されるハイブリッド型枠パネル4が所定位置に組み付けられる際、側面用取り外し型枠パネル6の堰板面62および側面用埋設型枠パネル7の堰板面72がコンクリート充填予定区域R1(第2充填予定区域R12)の内側に向けて設置されることとなる。また、符号73は、側面用埋設型枠パネル7の上端縁である。符号74は、側面用埋設型枠パネル7の下端縁である。符号75は、側面用埋設型枠パネル7の左端縁である。符号76は、側面用埋設型枠パネル7の右端縁である。
【0033】
次に、側面用埋設型枠パネル7を側面用取り外し型枠パネル6と一体に固定する固定ユニット5の詳細について説明する。
図7は、実施形態1に係る側面用埋設型枠パネル7および側面用取り外し型枠パネル6の連結部周辺の構造を説明する図である。側面用埋設型枠パネル7は、その化粧面71を側面用取り外し型枠パネル6における堰板面62に添わした状態で、側面用取り外し型枠パネル6の下部領域に固定される。固定ユニット5は、固定具8および当該固定具8をネジ止めするネジ止め部材9等を含んでいる。
【0034】
図8は、実施形態1に係る固定具8の斜視図である。固定具8は、側面用埋設型枠パネル7の堰板面72に当接可能な当接用端面81を有し、この当接用端面81を堰板面72に当てがった状態で側面用取り外し型枠パネル6および側面用埋設型枠パネル7にネジ止めされる部材である。
【0035】
固定具8の構造は特定の態様に限定されないが、
図8に示す例では、筒状の本体82と、本体82の一端に設けられたパネル当接用フランジ83とを備えている。パネル当接用フランジ83において、本体82と接続される方とは反対側の端面が上述した当接用端面81として形成されている。符号84は、固定具8の前端面であり、当接用端面81とは反対側に位置する方の端面である。
図7および
図8に示すように、固定具8には、前端面84から当接用端面81に亘って軸方向に貫通するネジ孔部85が形成されている。ネジ孔部85の一端には、当接用端面81に開口する第1挿入口851が形成されている。また、ネジ孔部85の他端には、前端面84に開口する第2挿入口852が形成されている。固定具8としては、例えば、コンドーテック株式会社から販売されている商品名「断熱パット」や、三協テック株式会社から販売されている商品名「断熱コン(KPコン)」など、市販品を適宜使用することができる。
【0036】
固定具8は、第1挿入口851からネジ止め部材9のネジ軸部91を挿入させ、ネジ孔部85にネジ軸部91を螺合させることができる。ネジ止め部材9のネジ軸部91は、例えば寸切ボルト(「長ネジボルト」、「全ネジボルト」という場合がある)によって形成することができる。なお、符号92は、ネジ止め部材9のネジ頭部である。
【0037】
更に、本実施形態における固定ユニット5は、固定具8に連結される棒状接続部材13と、この棒状接続部材13を他の型枠パネル又はコンクリート充填予定区域R1に配置される鉄筋15若しくは鉄骨等といった不動部材に連結する連結金具16と、を含んでいる。棒状接続部材13のうち、少なくとも固定具8と連結される一端側には、固定具8のネジ孔部85に螺合可能なネジ切り部が形成されている。固定具8は、第2挿入口852から棒状接続部材13の一端側を挿入させ、棒状接続部材13に形成されたネジ切り部をネジ孔部85に螺合させることで棒状接続部材13と接続される。なお、固定具8は、ネジ
止め部材9のネジ軸部91を螺合させるネジ孔部と、棒状接続部材13を螺合させるネジ孔部が別個に設けられていてもよい。また、固定具8は、1つのパーツで構成されていてもよいし、2つ以上のパーツで構成されていてもよい。
【0038】
また、
図6に示すように、側面用取り外し型枠パネル6の下部領域には、各ネジ止め部材9のネジ軸部91を挿通可能な複数の取付孔67が設けられている。また、側面用埋設型枠パネル7には、各ネジ止め部材9のネジ軸部91を挿通可能な複数の取付孔77が設けられている。側面用取り外し型枠パネル6の取付孔67および側面用埋設型枠パネル7の取付孔77は、固定具8に対応する数だけ設けられている。
【0039】
固定ユニット5を用いて側面用埋設型枠パネル7を側面用取り外し型枠パネル6に固定する際、各固定具8における当接用端面81を側面用取り外し型枠パネル6の堰板面62に当接させた状態でネジ止め部材9のネジ軸部91を各固定具8におけるネジ孔部85に螺合させる。その際、各ネジ止め部材9のネジ軸部91を、側面用取り外し型枠パネル6の外面61側から取付孔67、取付孔77に挿通させた後、固定具8の当接用端面81に形成された第1挿入口851から挿入したネジ軸部91をネジ孔部85に螺合することで固定具8とネジ止め部材9が締結される。
【0040】
固定具8と共に側面用埋設型枠パネル7を側面用取り外し型枠パネル6に固定するネジ止め部材9におけるネジ軸部91は、側面用取り外し型枠パネル6および側面用埋設型枠パネル7を重ね合わせた際の厚さよりも長い軸方向寸法を有する。ネジ止め部材9は公知のネジを使用することができ、例えば六角ボルト、六角穴付ボルト、座金組み込み六角ボルト、アイボルト、蝶ボルト、ナベ小ネジ、皿小ネジ、トラス小ネジ、バインド小ネジ、セルフタッピングネジ、ドリルネジ、ドリルタッピングネジ、ピアスネジ、建材用ネジ、ALCネジ、および木ネジ等を使用してもよい。また、ネジ止め部材9としては、例えば、型枠固定用として公知の各種フォームタイのメスネジ部に寸切りネジの一部をネジ込ませて残部を露出させたものを使用してもよい。市販のフォームタイとしては、例えば、ナット付タイプ、くさびタイプ、ネジタイプ等、適宜のタイプのフォームタイを使用することができる。固定ユニット5のネジ止め部材9は、固定具8と共に側面用埋設型枠パネル7を側面用取り外し型枠パネル6に固定することができれば、種々の構成を採用することができる。
【0041】
次に、
図9は、段差用型枠ユニット1を用いたコンクリート構造物200の施工(構築)手順を説明する図である。コンクリート構造物200が鉄筋コンクリート構造である場合、まず、ステップS1において、捨て(均し)コンクリート等の下地130に墨出し後、コンクリート構造物200の構築予定位置における下地130上に鉄筋15を配筋する(配筋工程)。次に、ステップS2において、コンクリート原料が充填されるコンクリート充填予定区域R1を画定する複数の型枠パネル、すなわち取り外し型枠パネル21~24およびハイブリッド型枠パネル4を所定の組み付け位置に組み付ける(型枠組み付け工程)。
図2~
図4は、型枠組み付け工程が完了した状況を示している。
【0042】
型枠組み付け工程においては、
図4に示すように立ち上がり側面103の形成予定位置にハイブリッド型枠パネル4が組み付けられる。上記のように、ハイブリッド型枠パネル4における側面用埋設型枠パネル7は、固定ユニット5を用いて側面用取り外し型枠パネル6の下部領域に固定される。その際、
図4、
図5、
図7等に示すように、側面用埋設型枠パネル7は、その化粧面71を側面用取り外し型枠パネル6の堰板面62に添わせて固定される。また、
図4および
図7に示すように、ハイブリッド型枠パネル4における側面用取り外し型枠パネル6は、その下端縁64の位置(下端位置)が第1高さL1より上方に位置するように組み付けられる。更に、側面用埋設型枠パネル7は、その下端縁74の位置(下端位置)が第1高さL1より下方に位置付けられるように、側面用埋設型枠パネ
ル7の下部領域が側面用取り外し型枠パネル6の下端縁64から下方に突出するように組み付けられる。なお、コンクリート構造物200における段差構造100の第1上面101が傾斜している場合には、立ち上がり側面103の形成予定位置における第1高さL1よりも側面用取り外し型枠パネル6の下端位置が上方に位置し、立ち上がり側面103の形成予定位置における第1高さL1よりも側面用埋設型枠パネル7の下端位置が下方に位置するようにハイブリッド型枠パネル4が組み付けられる。
【0043】
なお、側面用埋設型枠パネル7を側面用取り外し型枠パネル6に固定する際、固定具8を設置する数、設置間隔は特に限定されない。また、
図5に示す例では、ハイブリッド型枠パネル4の幅方向に沿って固定具8を一列に並ぶように設置しているが、側面用埋設型枠パネル7を側面用取り外し型枠パネル6に強固に固定できれば、固定具8の配置パターンは特に限定されない。
【0044】
また、型枠組み付け工程においては、他の型枠パネル又はコンクリート充填予定区域R1に配置される鉄筋若しくは鉄骨および固定具8を、棒状接続部材13を介して接続する。例えば、
図4および
図7に示すように、棒状接続部材13の一端側を固定具8に連結し、棒状接続部材13の他端側を第2充填予定区域R12に組み立てられた鉄筋15に連結する。その際、棒状接続部材13の一端側を固定具8の第2挿入口852から挿入させ、棒状接続部材13に形成されたネジ切り部をネジ孔部85に螺合させる。一方、棒状接続部材13の他端側を、第2充填予定区域R12に組み立てられた鉄筋15に対して連結金具16を介して連結する。
【0045】
連結金具16としては、例えば、岡部株式会社から販売されている商品名「セパグリップ」、共栄製作所株式会社から販売されている商品名「エスケーユニバ」および「ドマスター」、日本仮設株式会社から販売されている商品名「テツカブト(ナット付)」、株式会社国元商会から販売されている商品名「KSガッツ」、乾産業株式会社から販売されている商品名「セパジメ」、コンドーテック株式会社から販売されている商品名「ワイヤクリップ KMクリップ」等、セパレータの取付金物等を使用することができる。また、棒状接続部材13としては、寸切ボルトに限られず、端部にネジ切り部を有するセパレータのような棒鋼であってもよい。また、棒状接続部材13は、連結金具16を介さず、鉄筋15に対して直接溶接してもよい。
【0046】
上記のように、一端側がコンクリート充填予定区域R1に配置される鉄筋15に連結される棒状接続部材13の他端側を固定具8に対して連結することで、ハイブリッド型枠パネル4の強固な組み付けに寄与することができる。また、棒状接続部材13の他端側を鉄筋15に連結する代わりに、他の型枠パネルに連結してもよい。ここでいう他の型枠パネルとは、固定具8が取り付けられるハイブリッド型枠パネル4以外の何れかの型枠パネルを指す。この場合、棒状接続部材としてはセパレータを好適に用いることができる。
【0047】
図2に示す配置例では、ハイブリッド型枠パネル4に対向して配置される取り外し型枠パネル21と固定具8とを棒状接続部材としてのセパレータを介して好適に接続することができる。すなわち、セパレータの一端側を固定具8の第2挿入口852から挿入させると共にネジ孔部85に螺着し、セパレータの他端側を取り外し型枠パネル21のセパレータ用孔に挿通させ、当該セパレータの他端側をフォームタイ10と連結させてもよい。これによっても、ハイブリッド型枠パネル4の強固な組み付けに寄与することができる。
【0048】
また、コンクリート構造物200が鉄骨コンクリート構造物や鉄筋鉄骨コンクリート構造物である場合には、コンクリート充填予定区域R1(第2充填予定区域R12)に配置された鉄骨に対して、棒状接続部材(例えば、寸切ボルト)の他端側を直接溶接によって接合し、或いは連結金具16を介して接合してもよい。これによっても、ハイブリッド型
枠パネル4の強固な組み付けに寄与することができる。
【0049】
次に、ステップS3において、コンクリート充填予定区域R1に対して、第1高さL1までコンクリート原料を打設する(第1コンクリート打設工程)。
図10は、第1コンクリート打設工程が完了した状況を示す図である。
図10に示す符号C1は、第1コンクリート打設工程において第1高さL1までコンクリート充填予定区域R1に充填されたコンクリート原料である。次に、ステップS4において、コンクリート充填予定区域R1に対して、第2高さL2までコンクリート原料を打設する(第2コンクリート打設工程)。
図11は、第2コンクリート打設工程が完了した状況を示す図である。
図11に示す符号C2は、第2コンクリート打設工程において第2高さL2までコンクリート充填予定区域R1に充填されたコンクリート原料である。
【0050】
ここで、第1コンクリート打設工程および第2コンクリート打設工程は連続的に行ってもよい。すなわち、コンクリート充填予定区域R1に対して充填されるコンクリート原料C1を第1高さL1まで打設した後、それに継続して第2高さL2までコンクリート原料C2を打設してもよい。上記第1コンクリート打設工程および第2コンクリート打設工程では、突き棒、棒状バイブレータ等を使用したコンクリート原料C1,C2の締固めや、コテ等よるコンクリート天端の表面仕上げを必要に応じて適切に行う。そして、ステップS5において所定の養生期間を経てコンクリートを硬化させた後、取り外し型枠パネル21~24、およびハイブリッド型枠パネル4の側面用取り外し型枠パネル6を脱型する(養生、脱型工程)。これにより、
図1に示した段差構造100を有するコンクリート構造物200を構築することができる。なお、上述した型枠組み付け工程において、第1高さL1より上方に配置される側面用取り外し型枠パネル6の下端位置と当該第1高さL1との差は、少なくとも数ミリメートル以上確保されていることが好ましい。これにより、第1コンクリート打設工程において第1高さL1まで打設されたコンクリート原料C1の天端と側面用取り外し型枠パネル6における下端縁64との間に、コンクリート天端の表面仕上げを行うためのコテを入れる隙間を確保することができる。上記のように第1高さL1まで打設されたコンクリート原料C1の天端と側面用取り外し型枠パネル6における下端縁64との間に仕上用のコテを入れる隙間を確保することは、コンクリート原料C1のコンクリート天端(すなわち第1上面101)に傾斜を付けて仕上げる際においてて特に有用である。
【0051】
以上のように、本実施形態に係る段差用型枠ユニット1およびこれを用いた施工方法によれば、型枠組み付け工程において、ハイブリッド型枠パネル4における側面用取り外し型枠パネル6の下端位置が第1高さL1より上方に位置するように組み付けられる。そのため、第1コンクリート打設工程において、第1充填予定区域R11に第1高さL1までコンクリート原料C1を打設する際、側面用取り外し型枠パネル6がコンクリート原料C1に埋没することを抑制できる(
図10を参照)。したがって、脱型工程において、側面用取り外し型枠パネル6を容易に脱型することができる。したがって、硬化後のコンクリート表面から側面用取り外し型枠パネル6を取り外す際に、側面用取り外し型枠パネル6のパネル片がコンクリート表面からきれいに除去できずに取り残されることがなく、当該パネル片のはつり作業やその後の補修作業も発生しない。
【0052】
また、型枠組み付け工程において、ハイブリッド型枠パネル4における側面用埋設型枠パネル7は、その下端位置が第1高さL1より下方に位置付けられるように組み付けられる。これによれば、第1コンクリート打設工程において、側面用埋設型枠パネル7の下部領域をコンクリート原料C1に埋没させることができる(
図10を参照)。そのため、第2コンクリート打設工程において、第2充填予定区域R12におけるコンクリート原料C2を第1高さL1から第2高さL2まで嵩上げする際、第2充填予定区域R12側から第1充填予定区域R11側にコンクリート原料C2が漏出する(はみ出す)ことを抑制でき
る。その結果、段差構造100における第1上面101と立ち上がり側面103とによって形成される所期の入隅形状と比較して余分な傾斜部が形成されることを好適に抑制できる。これにより、段差構造100において所期の入隅形状をきれいに形成することができ、従来のようにコンクリート原料C2の漏出(はみ出し)に起因する余剰部分のはつり作業や、その後の補修作業が発生することを抑制できる。よって、段差構造100を有するコンクリート構造物200の施工に要する作業・時間・コストを低減することができる。
【0053】
ここで、側面用埋設型枠パネル7のうち、側面用取り外し型枠パネル6の堰板面62に添って配置される領域を「パネル重複領域」と呼び、側面用取り外し型枠パネル6の下端から下方に突出する領域を「突出領域」と呼ぶ。本実施形態におけるハイブリッド型枠パネル4によれば、段差構造100に係る立ち上がり壁120の構築時(すなわち、第2コンクリート打設工程)において打設されるコンクリート原料C2のコンクリート側圧を側面用埋設型枠パネル7単体によって受ける領域は上記突出領域に限定される。すなわち、側面用埋設型枠パネル7のパネル重複領域は、その外側に、コンクリート側圧に十分抵抗し得る強度および厚さに設計された側面用取り外し型枠パネル6が組み付けられるため、コンクリート原料C2のコンクリート側圧を側面用取り外し型枠パネル6によって受け止めることができる。また、ハイブリッド型枠パネル4のうち、側面用埋設型枠パネル7の上端縁73より上方の領域は、側面用取り外し型枠パネル6によってコンクリート側圧を受け止めることができる。
【0054】
以上のように、本実施形態によれば、立ち上がり側面103の形成予定位置に埋込パネルのみを組み付ける工法に比べて、立ち上がり壁120の構築時(すなわち、第2コンクリート打設工程)において打設されるコンクリート原料C2のコンクリート側圧を側面用埋設型枠パネル7単体で抵抗する領域を小さくすることができる。その結果、コンクリート原料C2の打設時におけるコンクリート側圧が大きい場合においても、側面用埋設型枠パネル7に割れ(クラックも含む)などの損傷が生じたり、側面用埋設型枠パネル7に歪み、変形などが生じることを好適に抑制できる。すなわち、本実施形態に係る段差用型枠ユニット1およびこれを用いた施工方法によれば、段差構造100を有するコンクリート構造物200の施工に要する作業・時間・コストを低減し、しかも、段差構造100の構築時におけるコンクリート側圧が大きい場合においても側面用埋設型枠パネル7の損傷や歪みなどの不具合が生じることを抑制することが可能となる。
【0055】
ここで、側面用埋設型枠パネル7の突出領域は、上記のように立ち上がり壁120の構築時(すなわち、第2コンクリート打設工程)において打設されるコンクリート原料C2のコンクリート側圧を側面用埋設型枠パネル7単体で抵抗する領域となる。したがって、側面用埋設型枠パネル7の突出領域の高さ寸法(以下、「突出幅寸法」という)が過度に大きくならない方が好ましい。一方、側面用埋設型枠パネル7の突出領域における突出幅寸法が過度に小さい場合には、第1コンクリート打設工程で打設されるコンクリート原料C1に側面用取り外し型枠パネル6の下部領域が埋没し易くなったり、或いは、第1高さL1まで打設されたコンクリート原料C1の天端と側面用取り外し型枠パネル6における下端縁64との間に仕上用のコテを入れる隙間が十分に確保しにくくなったりすることが想定される。
【0056】
そこで、ハイブリッド型枠パネル4における側面用埋設型枠パネル7の突出領域の突出幅寸法は、30mm以上150mm以下にすると好ましく、50mm以上100mm以下にすると更に好ましい。これにより、第1コンクリート打設工程で打設されるコンクリート原料C1に側面用取り外し型枠パネル6の下部領域が埋没したり、コンクリート原料C1の天端と側面用取り外し型枠パネル6における下端縁64との間に仕上用のコテを入れる隙間が確保しにくくなるような不都合を好適に抑制しつつ、第2コンクリート打設工程において打設されるコンクリート原料C2のコンクリート側圧に起因する側面用埋設型枠
パネル7の損傷や歪みなどの不都合を好適に抑制することができる。
【0057】
また、側面用埋設型枠パネル7は、そのパネル重複領域が固定ユニット5を介して側面用取り外し型枠パネル6に対して固定される領域である。そのため、側面用埋設型枠パネル7におけるパネル重複領域の高さ寸法(以下、「パネル重複幅寸法」という)が過度に小さいと、側面用埋設型枠パネル7のパネル重複領域を側面用取り外し型枠パネル6の堰板面62に密着した状態で固定しにくくなったり、側面用取り外し型枠パネル6に対して側面用埋設型枠パネル7を強固に固定することが難しくなったりする虞がある。また、側面用埋設型枠パネル7におけるパネル重複幅寸法が過度に小さいと、第2コンクリート打設工程において打設されるコンクリート原料C2のコンクリート側圧を側面用埋設型枠パネル7の突出領域が受けた際に、固定具8の緩み易くなるとも考えられる。そこで、側面用埋設型枠パネル7におけるパネル重複幅寸法は、80mm以上にすると好ましく、100mm以上にすると更に好ましい。これにより、上述した不都合が起こることを好適に抑制できる。
【0058】
なお、側面用埋設型枠パネル7のパネル重複領域が大きくなることに起因して技術的な不都合は起こらないため、基本的にはパネル重複領域の上限は特に規定する必要は無い。但し、ハイブリッド型枠パネル4の側面用埋設型枠パネル7は段差構造100の構築後においても立ち上がり側面103に存置されるため、側面用埋設型枠パネル7を第2高さL2よりも高い位置まで配置してしまうと、側面用取り外し型枠パネル6の脱型後において立ち上がり側面103の上端と第2上面102との間に段差が生じる原因となってしまうとも考えられる。その観点においては、側面用埋設型枠パネル7は、その上端縁73が第2高さL2以下の高さに位置付けられるように組み付けられることが好ましい。なお、本実施形態に係るハイブリッド型枠パネル4は、側面用取り外し型枠パネル6に固定される側面用埋設型枠パネル7の上下寸法に応じて、ハイブリッド型枠パネル4の上下方向に沿って固定具8が複数段に亘って配置されていてもよい。その場合、固定具8は格子状に配置されていてもよいし、千鳥状に配置されていてもよい。すなわち、固定具8の配置パターンは特に限定されない。また、ハイブリッド型枠パネル4において、側面用取り外し型枠パネル6の堰板面62に対して複数枚の側面用埋設型枠パネル7が複数段に亘って固定されていてもよい。この場合、ハイブリッド型枠パネル4を組み付ける際、最上段に配置される側面用埋設型枠パネル7の上端縁73が第2高さL2以下の高さに位置付けられるようにすることが好ましい。
【0059】
また、側面用埋設型枠パネル7の化粧面71は、平坦面であってもよいし、凹凸面であってもよい。側面用埋設型枠パネル7の化粧面71が凹凸面である場合、側面用取り外し型枠パネル6の堰板面62と側面用埋設型枠パネル7のパネル重複領域における化粧面71との隙間に、第2コンクリート打設工程において打設されるコンクリート原料C2が入り込む可能性も考えられる。そこで、本実施形態においては、側面用取り外し型枠パネル6の堰板面62と側面用埋設型枠パネル7のパネル重複領域における化粧面71との隙間にコンクリート付着防止用シートを挟み込んだ状態で側面用埋設型枠パネル7を側面用取り外し型枠パネル6に固定してもよい。これにより、第2コンクリート打設工程において、側面用取り外し型枠パネル6の堰板面62と側面用埋設型枠パネル7のパネル重複領域における化粧面71との隙間にコンクリート原料C2が入り込む(染み込む)ことが抑制され、化粧面71にコンクリートが付着することを抑制できる。なお、上記コンクリート付着防止用シートの種類、材料等は特に限定されないが、例えばエラストマーシートが一例として挙げられる。また、側面用取り外し型枠パネル6の堰板面62と側面用埋設型枠パネル7のパネル重複領域における化粧面71との間に配置されたコンクリート付着防止用シートは、側面用取り外し型枠パネル6の脱型時、或いは脱型後に側面用埋設型枠パネル7の化粧面71から剥がすことが可能である。
【0060】
また、本実施形態に係る段差用型枠ユニット1は、側面用埋設型枠パネル7の堰板面72に当接可能な当接用端面81を有する固定具8と、側面用取り外し型枠パネル6の外面61側から当該側面用取り外し型枠パネル6および側面用埋設型枠パネル7を貫通した状態で固定具8の当接用端面81をネジ止めするネジ止め部材9とを有する固定ユニット5を備える。このような固定具8およびネジ止め部材9の組み合わせによって、側面用取り外し型枠パネル6および側面用埋設型枠パネル7を好適に一体に固定することができる。また、コンクリート構造物200の構築後において、固定具8に螺着されているネジ止め部材9を取り外すだけで側面用取り外し型枠パネル6を容易に脱型することができる。
【0061】
また、側面用埋設型枠パネル7の厚さは特に限定されないが、好ましくは3mm以上、より好ましくは5mm以上、更に好ましくは6mm以上である。このような構成は、側面用埋設型枠パネル7の強度の確保の観点から好ましく、ひいては、側面用埋設型枠パネル7の運搬時及び組付け作業時、並びにコンクリート打設の際の、側面用埋設型枠パネル7の破損や撓みを抑制する観点から好ましい。また、側面用埋設型枠パネル7の厚さは、好ましくは30mm以下、より好ましくは20mm以下、更に好ましくは10mm以下である。このような構成は、側面用埋設型枠パネル7の軽量化の観点から好ましく、ひいては、側面用埋設型枠パネル7の製造コスト及び運搬コストの抑制、並びに、側面用埋設型枠パネル7の組み付け作業のしやすさの観点から好ましい。
【0062】
また、側面用埋設型枠パネル7の堰板面72は接着改良面として形成されていてもよい。この接着改良面は、例えば硬化コンクリートとの接合に適した面であり、硬化コンクリートとの接着性を向上させるための処理が施された面である。接着改良面を設けることで硬化コンクリートとの接合高度を高めることができ、側面用埋設型枠パネル7が硬化コンクリートの表面から剥離しにくくすることができる。側面用埋設型枠パネル7の接着改良面は、例えば、モルタル硬化物層表面、凹凸成形面、機械的粗化面、または、これらの組み合わせであってもよい。側面用埋設型枠パネル7の量産化や経済性の観点からは、側板パネル2の接着改良面としてはモルタル硬化物層表面が好ましい。
【0063】
側面用埋設型枠パネル7におけるモルタル硬化物層表面は、上述の繊維強化セメント板における表面にモルタルを塗布した後に硬化させることによって形成することができる。当該モルタルとしては、例えば、ポリマーセメントモルタル、エポキシ樹脂モルタル、カチオン系モルタル等が挙げられる。
【0064】
ポリマーセメントモルタルは、例えば、セメントと、細骨材と、水と、ポリマーディスパージョンまたは再乳化形粉末樹脂との混合物であるモルタルである。ポリマーディスパージョンとしては、エチレン酢酸ビニル樹脂(EVA)及びアクリル樹脂等が挙げられる。ポリマーディスパージョンとして用いることが可能なエチレン酢酸ビニル樹脂の市販品としては、例えば、ダイセルミライズ株式会社製の「セルマイティ10」が挙げられる。ポリマーディスパージョンとして用いることが可能なアクリル樹脂の市販品としては、例えば、旭化成株式会社製の「スーパーペトロック400」等が挙げられる。
【0065】
カチオン系モルタルは、例えば、セメントと、細骨材と、水と、カチオン系ポリマーディスパージョンまたはカチオン系再乳化形粉末樹脂との混合物であるモルタルである。カチオン系ポリマーディスパージョンとしては、カチオン系スチレンブタジエンゴム、カチオン系アクリル樹脂等が挙げられる。カチオン系ポリマーディスパージョンとして用いることが可能なカチオン系スチレンブタジエンゴムの市販品としては、ダイセルミライズ株式会社製の「セルタル」等が挙げられる。カチオン系ポリマーディスパージョンとして用いることが可能なカチオン系アクリル樹脂の市販品としては、ダイセルミライズ株式会社製の「セルカチオン」等が挙げられる。
【0066】
エポキシ樹脂モルタルは、例えば、エポキシ樹脂と細骨材との混合物であるモルタルである。エポキシ樹脂モルタルの市販品としては、例えばコニシ株式会社製の「Kモルタル」等が挙げられる。
【0067】
上述のモルタル中の細骨材としては、例えば、珪砂、川砂、黒曜石パーライト、真珠岩パーライト、炭酸カルシウム粉等が挙げられる。モルタル中には、一種類の細骨材が含まれていてもよいし、二種類以上の細骨材が含まれていてもよい。
【0068】
側面用埋設型枠パネル7における接着改良面がモルタル硬化物層表面である場合、そのモルタル硬化物層の厚さは、コンクリートに対する高い接着強度を確保するという観点からは、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1mm以上、更に好ましくは1.5mm以上である。また、側面用埋設型枠パネル7に関する軽量化及び作業性の改善の観点や、側面用埋設型枠パネル7の製造コスト及び運搬コストの抑制の観点からは、当該モルタル硬化物層の厚さは、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下、更に好ましくは3mm以下である。
【0069】
側面用埋設型枠パネル7における接着改良面が凹凸成形面である場合、例えば、側面用埋設型枠パネル7を形成するための繊維強化セメント板の作製過程で、所定の凹凸形状を有する型板等など型部材を使用して繊維強化セメント板をプレス成形または押出成形することにより、凹凸成形面を形成することができる。
【0070】
側面用埋設型枠パネル7における接着改良面が機械的粗化面である場合、例えば、側板パネル2を形成するための繊維強化セメント板の表面に対してサンディングまたはチッピングなど機械的な粗面化処理を行って当該表面を目粗しすることにより、機械的粗化面を形成することができる。
【0071】
以上のような側面用埋設型枠パネル7としては、ダイセルミライズ株式会社製の「セル・ケコミパネル」、「セル・スリムステップボード」等を好適に用いることができる。
【0072】
また、固定具8は、
図8の態様に限定されない。
図12は、固定具8の変形例を示す図である。
図12(a)に示す固定具8は、パネル当接用フランジ83にネジ孔部85とは別の第2ネジ孔部86が設けられている。この態様においては、例えば、固定具8に棒状接続部材13を接続するためにネジ孔部85が用いられ、固定具8にネジ止め部材9をネジ止めするために第2ネジ孔部86が用いられる。
図12(a)に示す例では、複数の第2ネジ孔部86がパネル当接用フランジ83の周方向に間隔をおいて配置されているが、第2ネジ孔部86の数や配置パターンは特に限定されない。また、
図12(a)に示す例では、パネル当接用フランジ83を厚さ方向に貫通する貫通孔として第2ネジ孔部86が形成されているが、第2ネジ孔部86は当接用端面81側に開口する非貫通孔として構成されていてもよい。また、棒状接続部材13をネジ止めするために用いるネジ孔部85は、固定具8を軸方向に貫通する貫通孔として形成されている必要は無く、本体82の前端面84に開口する非貫通孔として形成されていてもよい。
【0073】
また、
図12(b)に示すように、固定具8のパネル当接用フランジ83に第2ネジ孔部86が設けられていない場合には、パネル当接用フランジ83の当接用端面81に側面用埋設型枠パネル7の堰板面72に当接した状態で、先端が尖ったネジ(例えば、セルフタッピングネジ、ドリルネジ、ドリルタッピングネジ、ピアスネジ、建材用ネジ、ALCネジ、木ネジ等)によって形成されたネジ止め部材9をパネル当接用フランジ83の当接用端面81にネジ止めしてもよい。この場合、ネジ止め部材9を構成する、先端が尖ったネジが、固定具8のパネル当接用フランジ83にネジ止めし易いように、当接用端面81に開口する下穴を設けておいてもよい。
【0074】
以上、本開示に係る型枠ユニット、およびこれを用いた段差構造を有するコンクリート構造物の施工方法の実施形態について説明したが、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0075】
1 :段差用型枠ユニット
4 :ハイブリッド型枠パネル
5 :固定ユニット
6 :側面用取り外し型枠パネル
7 :側面用埋設型枠パネル
8 :固定具
9 :ネジ止め部材
100 :段差構造
101 :第1上面
102 :第2上面
103 :立ち上がり側面
200 :コンクリート構造物