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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】磁気センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/02 20060101AFI20241022BHJP
   H10N 50/80 20230101ALI20241022BHJP
【FI】
G01R33/02 A
G01R33/02 V
H10N50/80 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021043227
(22)【出願日】2021-03-17
(65)【公開番号】P2022142942
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 郁人
(72)【発明者】
【氏名】林 承彬
(72)【発明者】
【氏名】笠島 多聞
(72)【発明者】
【氏名】亀野 誠
(72)【発明者】
【氏名】原川 修
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-187084(JP,A)
【文献】特開2020-187085(JP,A)
【文献】特開2020-134419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/02
H10N 50/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感磁素子が形成された素子形成面を有するセンサチップと、
検出対象となる磁束を前記感磁素子に集めるよう、前記素子形成面に対して垂直な第1の方向に延在し、前記第1の方向における一端が前記センサチップの前記素子形成面と向かい合う第1の外部磁性体と、
前記第1の方向に延在し、前記第1の方向における一端が磁気ギャップを介して前記第1の外部磁性体の前記第1の方向における他端と向かい合う第2の外部磁性体と、
記磁気ギャップと重なる磁性体層と、駆動電圧に応じて前記磁性体層と前記磁気ギャップの距離を変化させる圧電構造体とを含む可変磁路構造体と、を備えることを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記第1の外部磁性体の前記第1の方向における前記他端と、前記第2の外部磁性体の前記第1の方向における前記一端が、非磁性樹脂によって接続されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記可変磁路構造体は、MEMSチップに集積されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記MEMSチップは、前記磁性体層及び前記圧電構造体と重なる位置において、MEMS基板が除去され、或いは、MEMS基板の厚みが選択的に低減された構造を有することを特徴とする請求項3に記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記センサチップ、前記第1の外部磁性体、前記第2の外部磁性体及び前記MEMSチップが搭載された回路基板をさらに備え、
前記MEMSチップは、前記駆動電圧が供給される端子電極をさらに含み、
前記第1及び第2の外部磁性体は、前記端子電極が露出するよう、前記端子電極と重なる位置に切り欠きが設けられていることを特徴とする請求項3又は4に記載の磁気センサ。
【請求項6】
前記磁気ギャップの延在方向における前記磁性体層の長さは、前記磁気ギャップの前記延在方向における長さよりも長く、これにより前記磁気ギャップの全体が前記磁性体層で覆われていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の磁気センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気センサに関し、特に、磁路を機械的に変位させることによって1/fノイズを低減した磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、感磁素子を用いた磁気センサは様々な分野で利用されているが、極めて微弱な磁界を検出するためには、S/N比の高い磁気センサが必要となる。ここで、磁気センサのS/N比を低下させる要因として、1/fノイズが挙げられる。1/fノイズは、測定対象となる磁界の周波数成分が低いほど顕著となることから、例えば1kHz以下といった低周波領域の磁界を高感度に検出するためには、1/fノイズを低減させることが重要となる。
【0003】
磁気センサにおいて1/fノイズを低減させる方法としては、特許文献1及び2に記載されているように、圧電体層を用いて磁路を機械的に変位させることによって、測定対象となる磁界を振幅変調する方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1に記載された磁気センサは、センサチップの素子形成面上に機械的駆動部が接着された構造を有している。機械的駆動部は、磁性体層と圧電体層が積層された構造を有しており、圧電体層に駆動電圧を印加することによって磁性体層からなる磁路を変位させている。また、特許文献2に記載された磁気センサは、磁束を集める外部磁性体に圧電体層を付加した構造を有しており、駆動電圧によって外部磁性体自体を変形させている。特許文献1及び2に記載された磁気センサによれば、圧電体層に周波数の高い駆動電圧を印加することによって、測定対象となる磁界が振幅変調されることから、1/fノイズを低減することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-067331号公報
【文献】特開2020-106309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された磁気センサは、センサチップの素子形成面上に機械的駆動部が接着されていることから、機械的駆動部の動作によってセンサチップにストレスが加わるおそれがあった。また、特許文献2に記載された磁気センサは、外部磁性体自体を変位させていることから、駆動周波数を高めることが容易ではなかった。
【0007】
したがって、本発明は、センサチップにストレスを与えることなく、高い周波数で磁路を機械的に変位させることにより1/fノイズを低減することが可能な磁気センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による磁気センサは、感磁素子を有するセンサチップと、検出対象となる磁束を感磁素子に集める外部磁性体と、外部磁性体に設けられた磁気ギャップと重なる磁性体層及び駆動電圧に応じて磁性体層と磁気ギャップの距離を変化させる圧電構造体を含む可変磁路構造体とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、可変磁路構造体を外部磁性体に設けられた磁気ギャップと重なる位置に配置していることから、センサチップにストレスが加わることがない。しかも、外部磁性体自体を変位させる必要がないことから、高い周波数で磁路を機械的に変位させることが可能となる。
【0010】
本発明において、外部磁性体は、一端がセンサチップと向かい合う第1の外部磁性体と、一端が磁気ギャップを介して第1の外部磁性体の他端と向かい合う第2の外部磁性体とを有していても構わない。これによれば、第2の外部磁性体から第1の外部磁性体に流れる磁束を可変磁路構造体によって振幅変調することが可能となる。
【0011】
本発明において、可変磁路構造体はMEMSチップに集積されていても構わない。これによれば、部品点数を少なくすることが可能となる。この場合、MEMSチップは、磁性体層及び圧電構造体と重なる位置において、MEMS基板が除去され、或いは、MEMS基板の厚みが選択的に低減された構造を有していても構わない。これによれば、磁性体層の変位量を大きくすることが可能となる。
【0012】
本発明による磁気センサは、センサチップ、外部磁性体及びMEMSチップが搭載された回路基板をさらに備え、MEMSチップは駆動電圧が供給される端子電極をさらに含み、外部磁性体は、端子電極が露出するよう、端子電極と重なる位置に切り欠きが設けられていても構わない。これによれば、外部磁性体によって遮られることなく、MEMSチップに駆動電圧を供給することが可能となる。
【0013】
本発明において、磁気ギャップの延在方向における磁性体層の長さは、磁気ギャップの延在方向における長さよりも長く、これにより磁気ギャップの全体が磁性体層で覆われていても構わない。これによれば、磁性体層を磁気ギャップに近づけた状態における磁気抵抗を小さくすることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明によれば、センサチップにストレスを与えることなく、高い周波数で磁路を機械的に変位させることにより1/fノイズを低減することが可能な磁気センサを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態による磁気センサ1の外観を示す略斜視図である。
図2図2は、磁気センサ1の略分解斜視図である。
図3図3は、センサチップ20の略平面図である。
図4図4は、図3のA-A線に沿った略断面図である。
図5図5は、MEMSチップ40を主面側から見た構造を示す略斜視図である。
図6図6は、MEMSチップ40を裏面側から見た構造を示す略斜視図である。
図7図7は、MEMSチップ40に含まれる絶縁層42を除去した状態を示す略斜視図である。
図8図8は、MEMSチップ40と外部磁性体31,32の位置関係を示す模式的な斜視図である。
図9図9は、MEMSチップ40に駆動電圧が印加されていない状態を説明するための模式的な断面図である。
図10図10は、MEMSチップ40に駆動電圧を印加した状態を説明するための模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態による磁気センサ1の外観を示す略斜視図である。また、図2は、磁気センサ1の略分解斜視図である。
【0018】
図1及び図2に示すように、本実施形態による磁気センサ1は、回路基板10と、回路基板10のxz面を構成する表面11に搭載されたセンサチップ20、外部磁性体31~33及びMEMSチップ40とを備えている。センサチップ20は、xy面を構成する素子形成面21及び裏面22と、yz面を構成する側面23,24と、xz面を構成する側面25,26とを有しており、側面26が回路基板10の表面11と向かい合うよう、回路基板10に搭載されている。センサチップ20の素子形成面21上には、後述する感磁素子及び磁性体層M1~M3が形成されている。このように、本実施形態においては、回路基板10の表面11とセンサチップ20の素子形成面21が垂直である。但し、本発明おいて両者が完全に垂直であることは必須でなく、垂直に対して所定の傾きを有していても構わない。
【0019】
外部磁性体31~33は、センサチップ20に磁束を集める役割を果たし、いずれもフェライトなどの高透磁率材料によって構成される。このうち、外部磁性体31,32はz方向を長手方向とする棒状体であり、磁気ギャップGzを介して一直線状に配置されている。磁気ギャップGzの幅方向はz方向であり、延在方向はy方向である。磁気ギャップGzは、幅方向及び延在方向に対して垂直なx方向からMEMSチップ40で覆われている。MEMSチップ40の構造については後述する。磁気ギャップGzは空間であっても構わないし、樹脂などの非磁性部材で満たされていても構わない。つまり、外部磁性体31の先端と外部磁性体32の先端を非磁性樹脂によって接続した構造であっても構わない。これによれば、部品点数が削減されるとともに、磁気ギャップGzのギャップ幅を固定することができる。
【0020】
外部磁性体31のz方向における一端は、磁性体層M1の一部を覆うよう、素子形成面21のx方向における略中央部に位置決めされている。外部磁性体31のz方向における他端は磁気ギャップGzを介して外部磁性体32のz方向における一端と向かい合う。外部磁性体32のz方向における他端は開放されており、この部分が磁界の検出ヘッドとして用いられる。外部磁性体33は、z方向を長手方向とする棒状形状を有しており、磁性体層M2,M3の一部を覆うとともに、センサチップ20の裏面22及び側面23,24を覆っている。かかる構成により、z方向の磁界が選択的に集磁され、集磁された磁界がセンサチップ20に印加されることになる。
【0021】
図3はセンサチップ20の略平面図であり、図4図3のA-A線に沿った略断面図である。
【0022】
図3及び図4に示すように、センサチップ20の素子形成面21には、4つの感磁素子R1~R4が形成されている。感磁素子R1~R4は、磁束の向きによって電気抵抗が変化する素子であれば特に限定されず、例えばMR素子などを用いることができる。感磁素子R1~R4の固定磁化方向は、互いに同じ向き(例えばx方向におけるプラス側)に揃えられている。感磁素子R1~R4は絶縁層27で覆われており、絶縁層27の表面には、パーマロイなどからなる磁性体層M1~M3が形成されている。磁性体層M1~M3は絶縁層28で覆われている。そして、磁性体層M1~M3のうち、y方向における一方側(図3における上側)に位置する部分を磁性体層M11,M21,M31と定義し、y方向における他方側(図3における下側)に位置する部分を磁性体層M12,M22,M32と定義した場合、平面視で(z方向から見て)、感磁素子R1は磁性体層M11と磁性体層M21の間に位置し、感磁素子R2は磁性体層M12と磁性体層M22の間に位置し、感磁素子R3は磁性体層M11と磁性体層M31の間に位置し、感磁素子R4は磁性体層M12と磁性体層M32の間に位置している。これにより、磁気ギャップG1~G4を通過する磁界が感磁素子R1~R4に印加される。ここで、感磁素子R1,R2に印加される磁界の向きと、感磁素子R3,R4に印加される磁界の向きは、互いに180°異なることから、感磁素子R1~R4をブリッジ接続することにより、外部磁性体31を介して印加される磁束の向き及び強度を検出することができる。
【0023】
但し、本発明において、各感磁素子R1~R4を2つの磁性体層間に配置することは必須でなく、2つの磁性体層からなる磁気ギャップG1~G4の近傍、つまり、磁気ギャップG1~G4によって形成される磁路上に各感磁素子R1~R4が配置されていれば足りる。また、磁気ギャップG1~G4の幅が感磁素子R1~R4の幅よりも広い必要はなく、磁気ギャップG1~G4の幅が感磁素子R1~R4よりも狭くても構わない。
【0024】
図3及び図4において、符号31aで示す領域は外部磁性体31によって覆われる領域を示し、符号33a,33bで示す領域は外部磁性体33によって覆われる領域を示している。図3及び図4に示すように、外部磁性体31は磁性体層M1を覆い、外部磁性体33は磁性体層M2,M3を覆う。
【0025】
図5は、MEMSチップ40を主面側から見た構造を示す略斜視図であり、図6は、MEMSチップ40を裏面側から見た構造を示す略斜視図である。また、図7は、MEMSチップ40に含まれる絶縁層42を除去した状態を示す略斜視図である。
【0026】
図5図7に示すように、MEMSチップ40は、シリコンなどからなるMEMS基板41を有する。MEMS基板41は、yz面を構成する主面41aと、主面41aとは反対側に位置する裏面41bと、裏面41bから主面41aに貫通する貫通孔41cを有している。貫通孔41cを設ける代わりに、貫通孔41cに対応する位置においてMEMS基板41の厚みを選択的に薄くしたメンブレン構造を採用しても構わない。
【0027】
MEMS基板41の主面41aには、2つの圧電構造体43a,43bが設けられている。圧電構造体43a,43bの一部はMEMS基板41に支持されているものの、残りの部分は貫通孔41cと重なる位置に配置されている。圧電構造体43a,43bは、PZTなどの圧電材料からなる圧電体層と、その両面に形成された電極層からなる。一方の電極層は、基板41の主面41aに設けられた配線パターン46を介して端子電極48に接続され、他方の電極層は、基板41の主面41aに設けられた配線パターン47を介して端子電極49に接続される。これにより、端子電極48,49間に駆動電圧を印加すると、圧電構造体43a,43bに含まれるPZTなどの圧電材料が変形する。上述の通り、圧電構造体43a,43bの一部は貫通孔41c(或いはメンブレン部)と重なる位置に配置されていることから、駆動電圧によって圧電構造体43a,43bがx方向に変位する。
【0028】
MEMS基板41の主面41aは、絶縁層42によって覆われている。絶縁層42には、複数のスリット42a~42dが設けられている。スリット42a,42bはz方向に延在し、スリット42c,42dはy方向に延在する。そして、これらスリット42a~42dに囲まれ、x方向から見て圧電構造体43a,43bに挟まれた領域には、磁性体層44が配置されている。磁性体層44は、パーマロイなどの高透磁率材料からなる金属箔であり、その表面は保護膜45で覆われている。磁性体層44は、複数のスリット42a~42dが設けられた絶縁層42によって弾性支持される。かかる構成により、端子電極48,49間に駆動電圧を印加することによって圧電構造体43a,43bを変形させると、磁性体層44のx方向における位置が変位する。
【0029】
MEMSチップ40は、半導体プロセスを用いてMEMS基板41の主面41aに圧電構造体43a,43b、配線パターン46,47、絶縁層42、磁性体層44などを形成した後、裏面41b側から基板41をエッチングして貫通孔41c(或いはメンブレン部)を形成することによって作製可能である。半導体プロセスにおいては、MEMSチップ40が高温に晒されることがあるが、MEMSチップ40はセンサチップ20とは別チップであることから、感磁素子R1~R4が高温に晒されることはない。
【0030】
図8は、MEMSチップ40と外部磁性体31,32の位置関係を示す模式的な斜視図である。
【0031】
図8に示すように、MEMSチップ40は、磁性体層44が磁気ギャップGzとx方向に重なるよう、回路基板10の表面11に搭載される。ここで、磁気ギャップGzのy方向における幅をL1とし、磁性体層44のy方向における幅をL2とした場合、L1<L2であり、且つ、磁気ギャップGzの全体が磁性体層44で覆われていることが好ましい。これによれば、磁性体層44を磁路とする磁気ギャップGzの磁気抵抗が小さくなる。
【0032】
また、外部磁性体31,32は、磁気ギャップGzが形成される部分においてx方向における厚みが薄くなるとともに、y方向における幅が狭くなっている。これにより、磁気ギャップGzの断面積が小さくなることから、磁気ギャップGzを通過する磁束の磁束密度が高められる。特に、y方向における幅を狭くするための切り欠き31b,32bを回路基板10側に設け、これによって端子電極48,49及びこれらに接続されたハンダ50を露出させれば、外部磁性体31,32によって遮られることなく、MEMSチップ40に駆動電圧を供給することが可能となる。
【0033】
図9は、MEMSチップ40に駆動電圧が印加されていない状態を説明するための模式的な断面図であり、図10は、MEMSチップ40に駆動電圧を印加した状態を説明するための模式的な断面図である。
【0034】
図9及び図10に示すように、MEMSチップ40は、外部磁性体31,32からなる磁気ギャップGzと磁性体層44がx方向に重なるよう、回路基板10に搭載される。具体的には、外部磁性体31,32の先端部分におけるyz面と磁性体層44が保護膜45を介して接触、或いは、極めて近接するよう、回路基板10にMEMSチップ40が搭載される。そして、MEMSチップ40に駆動電圧が印加されていない状態においては、図9に示す初期状態が保たれることから、外部磁性体31と外部磁性体32が磁性体層44を介して磁気的に結合する。これにより、磁気ギャップGzの磁気抵抗が小さくなることから、センサチップ20に設けられた感磁素子R1~R4には、検出対象となる磁界が効率よく印加される。
【0035】
これに対し、MEMSチップ40に駆動電圧を印加すると、図10に示すように、磁性体層44が+x方向に変位する。これにより、磁気ギャップGzと磁性体層44の間にはx方向の磁気ギャップGxが形成され、外部磁性体31と外部磁性体32の磁気的な結合度が大幅に低下する。つまり、磁気ギャップGzが大きな磁気抵抗として機能する。その結果、検出対象となる磁界に対するセンサチップ20の感度は大幅に低下する。このように、MEMSチップ40は、駆動電圧に応じて磁性体層44と磁気ギャップGzの距離Gxを変化させる可変磁路構造体を構成する。
【0036】
したがって、端子電極48,49を介して圧電構造体43a,43bに所定の周波数を有する駆動電圧を印加すれば、駆動電圧の周波数をサンプリング周波数として、感磁素子R1~R4の出力信号が振幅変調される。そして、振幅変調された出力信号を復調すれば、1/fノイズが低減された測定結果を得ることが可能となる。一例として、測定対象となる磁界の周波数成分が0.1Hz~1kHzといった低周波帯である場合、1/fノイズによってS/N比が低下するため、測定対象となる磁界が特に微弱である場合には測定困難となる。しかしながら、本実施形態による磁気センサを用いれば、出力信号を任意のサンプリング周波数にて振幅変調できることから、例えばサンプリング周波数を数kHzに設定することにより、1/fノイズの影響をほとんど除去することが可能となる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態による磁気センサは、外部磁性体31,32に流れる磁束を振幅変調するMEMSチップ40を備えていることから、1/fノイズを低減することが可能となる。しかも、MEMSチップ40はセンサチップ20とは別チップであることから、製造コストの増大や、高温プロセスによる感磁素子R1~R4の特性劣化を防止することができるだけでなく、MEMSチップ40の動作によってセンサチップ20にストレスが加わることがない。また、外部磁性体31,32自体を変位させる必要がないことから、駆動周波数を容易に高めることが可能となる。
【0038】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0039】
例えば、上記実施形態では、4つの感磁素子R1~R4をブリッジ接続しているが、センサチップ20に形成する感磁素子の数や接続方法については特に限定されない。
【0040】
また、上記実施形態では、センサチップ20に磁性体層M1~M3が設けられているが、本発明において磁性体層を用いることは必須でない。
【0041】
さらに、上記実施形態では、磁気ギャップGzがy方向に延在しているが、磁気ギャップGzがx方向に延在していても構わない。
【0042】
また、上記実施形態では、MEMSチップ40が可変磁路構造体を構成しているが、圧電構造体を用いて磁性体層44と磁気ギャップGzの距離を変化させるものであれば、可変磁路構造体の構成は問わない。
【符号の説明】
【0043】
1 磁気センサ
10 回路基板
11 回路基板の表面
20 センサチップ
21 素子形成面
22 センサチップの裏面
23~26 センサチップの側面
27,28 絶縁層
31~33 外部磁性体
31a,33a,33b 外部磁性体と重なる領域
31b,32b 切り欠き
40 MEMSチップ
41 MEMS基板
41a MEMS基板の主面
41b MEMS基板の裏面
41c 貫通孔
42 絶縁層
42a~42d スリット
43a,43b 圧電構造体
44 磁性体層
45 保護膜
46,47 配線パターン
48,49 端子電極
50 ハンダ
G1~G4,Gx,Gz 磁気ギャップ
M1~M3,M11,M21,M31,M12,M22,M32 磁性体層
R1~R4 感磁素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10