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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】樹脂焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/165 20170101AFI20241022BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20241022BHJP
   B29C 64/188 20170101ALI20241022BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241022BHJP
   B33Y 40/20 20200101ALI20241022BHJP
【FI】
B29C64/165
B29C64/153
B29C64/188
B33Y10/00
B33Y40/20
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021045304
(22)【出願日】2021-03-18
(65)【公開番号】P2022144352
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2024-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000175766
【氏名又は名称】三恵技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512209689
【氏名又は名称】SOLIZE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【弁理士】
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 和雄
(72)【発明者】
【氏名】池野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】西本 悟
(72)【発明者】
【氏名】猪俣 孝
(72)【発明者】
【氏名】増田 崚汰
(72)【発明者】
【氏名】務台 光平
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-283683(JP,A)
【文献】国際公開第2016/208671(WO,A1)
【文献】米国特許第5908499(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/153
B29C 64/165
B29C 64/188
B33Y 10/00
B33Y 40/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂の樹脂粉末にインクを塗布して焼結させる樹脂焼結体の製造方法であって、
表面に不均一な着色領域を有する全体が焼結済みの中間樹脂焼結体を、硫酸と無水クロム酸を含有する処理液に浸漬する工程を備えることを特徴とする樹脂焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記処理液に浸漬する工程において、前記処理液における前記無水クロム酸の濃度が300g/L以上であり、浸漬する時間が5分以上であることを特徴する請求項1に記載の樹脂焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記表面処理液の温度を70℃以上に維持して前記中間樹脂焼結体を前記表面処理液に浸漬する工程を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記表面処理液の前記硫酸の濃度を184g/L~368g/L、前記無水クロム酸の濃度を300g/L~500g/Lとして前記表面処理液に浸漬する工程を行うことを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の樹脂焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂がポリアミド12であることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の樹脂焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記中間樹脂焼結体を、マルチジェットフュージョン方式の付加製造により熱可塑性樹脂の樹脂粉末の層にインクを塗布して焼結させて形成することを特徴とする請求項1~5の何れかに記載の樹脂焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂の樹脂粉末を焼結して樹脂焼結体を形成する樹脂焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂の樹脂粉末を焼結して樹脂焼結体を形成する技術として、3Dプリンターの付加製造を用いて樹脂粉末を焼結するMJF方式(マルチジェットフュージョン方式)が知られている。このMJF方式では、ポリアミド12等のポリアミドの樹脂粉末の層を形成し、樹脂粉末の層に、例えば光吸収性のインクのようなインクを含む融合を促進する融合剤と、気化熱の作用により融合を防止する融合改質剤を所望箇所に塗布する。そして、融合剤と融合改質剤が塗布された樹脂粉末の層毎に光への曝露か加熱によって融合し、樹脂焼結体を形成している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-89348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、MJF方式により、樹脂粉末の層にインクを塗布して焼結する工程を繰り返して樹脂焼結体を形成する場合、内部ではインクによる良好な着色が得られるものの、融合剤と融合改質剤の境界付近の外表面では、着色されていない樹脂粉末が各層の焼結部分に取り込まれてしまうため、融合剤と融合改質剤の境界付近で形成される最外層の表面においては、均一な着色が得られないという問題がある。また、最外層の焼結層の表面には、樹脂粉末の凹凸が残るため、平滑性にも劣るという問題もある。
【0005】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、熱可塑性樹脂の樹脂粉末を焼結して樹脂焼結体を製造する際に、表面の不均一な着色領域を無くし、樹脂焼結体の表面を均一且つ十分に必要な着色が施された状態にすることができると共に、樹脂焼結体の表面を見栄えの良い平滑な状態にすることができる樹脂焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の樹脂焼結体の製造方法は、熱可塑性樹脂の樹脂粉末にインクを塗布して焼結させる樹脂焼結体の製造方法であって、表面に不均一な着色領域を有する全体が焼結済みの中間樹脂焼結体を、硫酸と無水クロム酸を含有する処理液に浸漬する工程を備えることを特徴とする。前記処理液に浸漬する工程においては、前記処理液における前記無水クロム酸の濃度を300g/L以上とし、浸漬する時間を5分以上とすると好適である。
これによれば、中間樹脂焼結体の表面を必要な範囲で確実にエッチングし、インクで均一に着色されていない中間樹脂焼結体の表面部分を除去して、樹脂焼結体の表面を均一且つ十分に必要な着色が施された状態にすることができると共に、樹脂焼結体の表面を見栄えの良い平滑な状態にすることができる。また、表面処理液に浸漬する処理により、中間樹脂焼結体や樹脂焼結体の形状に拘束されずに、均一なエッチングを行うことができ、汎用性に優れる。
【0007】
本発明の樹脂焼結体の製造方法は、前記表面処理液の温度を70℃以上に維持して前記中間樹脂焼結体を前記表面処理液に浸漬する工程を行うことを特徴とする。
これによれば、均一且つ十分な着色が施され且つ見栄えの良い平滑な状態の表面を有し、外観に優れる樹脂焼結体を確実に得ることができる。また、より短時間で、均一且つ十分な着色が施され且つ見栄えの良い平滑な状態の表面を有する樹脂焼結体を得ることができ、製造効率を高めることができる。
【0008】
本発明の樹脂焼結体の製造方法は、前記表面処理液の前記硫酸の濃度を184g/L~368g/L、前記無水クロム酸の濃度を300g/L~500g/Lとして前記表面処理液に浸漬する工程を行うことを特徴とする。
これによれば、均一且つ十分な着色が施され且つ見栄えの良い平滑な状態の表面を有し、外観に優れる樹脂焼結体を確実に得ることができる。
【0009】
本発明の樹脂焼結体の製造方法は、前記熱可塑性樹脂がポリアミド12であることを特徴とする。
これによれば、均一且つ十分な着色が施され且つ見栄えの良い平滑な状態の表面を有し、外観に優れるポリアミド12の樹脂焼結体を確実に得ることができる。
【0010】
本発明の樹脂焼結体の製造方法は、前記中間樹脂焼結体を、マルチジェットフュージョン方式の付加製造により熱可塑性樹脂の樹脂粉末の層にインクを塗布して焼結させて形成することを特徴とする。
これによれば、マルチジェットフュージョン方式の付加製造により熱可塑性樹脂の樹脂粉末の層にインクを塗布して焼結させる樹脂焼結体について、均一且つ十分な着色が施され且つ見栄えの良い平滑な状態の表面を有する樹脂焼結体を確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂焼結体の製造方法によれば、樹脂焼結体の表面を均一且つ十分に必要な着色が施された状態にすることができると共に、樹脂焼結体の表面を見栄えの良い平滑な状態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)~(c)は本発明による実施形態の樹脂焼結体の中間樹脂焼結体を形成する製造工程を示す模式工程説明図。
図2】(a)、(b)は実施形態における中間樹脂焼結体から樹脂焼結体を形成する製造工程を示す模式工程説明図。
図3】実施例と比較例における表面処理液の無水クロム酸の濃度と明度との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態の樹脂焼結体の製造方法〕
本発明による実施形態の樹脂焼結体の製造方法は、MJF方式(マルチジェットフュージョン方式)の3Dプリンターの付加製造を用いて樹脂焼結体を製造する方法であり、熱可塑性樹脂の樹脂粉末の層を形成し、樹脂粉末の層に着色するインクを含む融合を促進する融合剤と、気化熱の作用により融合を防止する融合改質剤を所望箇所に塗布する。そして、融合剤と融合改質剤が塗布された樹脂粉末の層毎に加熱するか、赤外線若しくは近赤外線の光源又はハロゲン光源による光への曝露によって樹脂粉末の層を融合、焼結し、樹脂粉末の層にインクを塗布して焼結する工程を繰り返して複数層の樹脂粉末の層で構成される樹脂焼結体を形成するものである。尚、使用する熱可塑性樹脂の樹脂粉末の素材は適用可能な範囲で適宜であり、例えばポリアミド11、ポリアミド12、ポリプロピレンとすると好適であり、特にポリアミド12を用いるとより好適である。
【0014】
例えば図1(a)に示すように、熱可塑性樹脂の樹脂粉末2の層を形成し、樹脂粉末2の層にインク3を含む融合剤と融合改質剤を塗布してインク3で樹脂粉末2を着色し、この着色した層を加熱又は光への曝露によって融合、焼結し、焼結層41mを形成する。この際、焼結層41mの内部ではインク3で樹脂粉末2を着色できるが、融合剤と融合改質剤の境界付近に相当する焼結層41mの外表面(図示では傾斜面)では、未着色の樹脂粉末2が焼結層41mの熱によって焼結層41mの着色された部分に取り込まれてしまい、着色が均一でない領域が生ずる。尚、図1、後述する図2では樹脂粉末2の形状を模式的に球形とし、焼結した後も樹脂粉末2の形状を一部残して模式的に示しているが、実際には、着色されて焼結した樹脂粉末2は溶融して隙間なく密着した状態となる。
【0015】
その後、図1(b)に示すように、焼結層41mの上側に積層するようにして、熱可塑性樹脂の樹脂粉末2の層を形成し、樹脂粉末2の層にインク3を含む融合剤と融合改質剤を塗布してインク3で樹脂粉末2を着色し、この着色した層を加熱又は光への曝露によって融合、焼結し、焼結層42mを形成する。この場合にも、融合剤と融合改質剤の境界付近に相当する焼結層42mの外表面(図示では傾斜面)では、未着色の樹脂粉末2が焼結層42mの熱によって焼結層42mの着色された部分に取り込まれてしまい、着色が均一でない領域が生ずる。
【0016】
同様に、焼結層42mの上側に積層するようにして焼結層43mを形成する場合にも、融合剤と融合改質剤の境界付近に相当する焼結層43mの外表面(図示では傾斜面)では、未着色の樹脂粉末2が焼結層43mの着色された部分に取り込まれてしまい、着色が均一でない領域が生ずる(図1(c)参照)。即ち、焼結層41m、42m、43mから構成される中間品である全体が焼結済みの中間樹脂焼結体1mでは、図示の傾斜面に相当する外表面の全体に亘って、未着色の樹脂粉末2の取り込み、残存により不均一な着色領域が形成された状態となる。また、中間樹脂焼結体1mの図示の傾斜面に相当する外表面は、焼結された樹脂粉末2の凹凸がそのまま残存し、平滑性にも劣った状態となる。尚、MJF方式の3Dプリンターではポリアミド12等の樹脂粉末を溶融時の粉面の温度、および、融合剤と融合改質剤の散布量は複雑な制御を要することから使用者の利便性を高めるために自動制御されていると推測される。そのため使用者が樹脂焼結体の状態を意図的に改善することは困難である。
【0017】
更に、このように未着色の樹脂粉末2を取り込んで不均一な着色となり、焼結された樹脂粉末2の凹凸がそのまま残存する状態の領域は、融合剤と融合改質剤の境界付近となる領域の全体に亘って発生し、図1の例の傾斜面に限定されずに、樹脂焼結体の製品の全表面について発生する。即ち、MJF方式の付加製造では、樹脂焼結体の造形の際に、最下層の樹脂粉末2とその直ぐ上層の樹脂粉末2との間が融合剤と融合改質剤の境界となり、最上層の樹脂粉末2とその直ぐ下層の樹脂粉末2との間が融合剤と融合改質剤の境界となるため、樹脂焼結体の製品の下面と上面にも不均一な着色で焼結された樹脂粉末2の凹凸がそのまま残存する状態の領域が生ずる。また、MJF方式の付加製造において、作業効率上、上に積み重ねるように多数個の樹脂焼結体を多段で造形する場合にも、中段の製品における最下層の樹脂粉末2とその直ぐ上層の樹脂粉末2との間、最上層の樹脂粉末2とその直ぐ下層の樹脂粉末2との間がそれぞれ融合剤と融合改質剤の境界となるため、中段の樹脂焼結体の製品の下面と上面にも不均一な着色で焼結された樹脂粉末2の凹凸がそのまま残存する状態の領域が生ずる。
【0018】
本実施形態の樹脂焼結体の製造方法では、このように形成された中間樹脂焼結体1mを、硫酸と無水クロム酸を含有し、無水クロム酸の濃度が300g/L以上である表面の処理液のエッチング浴に浸漬する工程を行う。この浸漬工程において、処理時間の短縮化、製造効率の向上の観点からは表面処理液の温度は70℃以上に維持して行うことが好ましく、処理時間の一層の短縮化、製造効率の一層の向上の観点からは80℃以上に維持して行うとより好適である。また、樹脂焼結体1の表面10の十分な着色と平滑性の効果の確実性を高める観点からは、浸漬する表面処理液の硫酸の濃度は184g/L~368g/Lとすると好適であり、又、無水クロム酸の濃度は300g/L~500G/Lとすると好適である。
【0019】
また、表面処理液に浸漬する時間は5分以上であれば一定の効果を得ることが可能であるが、外観性の一層の向上の観点からは、表面処理液が70℃以上の場合には20分以上浸漬すると高い効果を確実に得ることができて好適であり、又、表面処理液が80℃以上の場合には10分以上浸漬すると高い効果を確実に得ることができて好適である。
【0020】
中間樹脂焼結体1mを上述の表面処理液に浸漬する工程を行ってエッチング浴から引き揚げると、完成品の樹脂焼結体1となる(図2参照)。この樹脂焼結体1では、例えば焼結層41m、42m、43mに取り込まれた未着色の樹脂粉末2が除去され、表面10が不均一な着色領域が無い状態、均一且つ十分に必要な着色が施された状態になっている。更に、樹脂焼結体1の表面10はエッチングによって見栄えの良い平滑な状態になっている。
【0021】
本実施形態の樹脂焼結体の製造方法によれば、マルチジェットフュージョン方式の付加製造により熱可塑性樹脂の樹脂粉末2の層にインク3を塗布して焼結させる樹脂焼結体1について、中間樹脂焼結体1mの表面を必要な範囲で確実にエッチングし、インク3で均一に着色されていない中間樹脂焼結体1mの表面部分を除去する。そして、樹脂焼結体1の表面10を均一且つ十分に必要な着色が施された状態にすることができると共に、樹脂焼結体1の表面10を見栄えの良い平滑な状態にし、外観性に優れる樹脂焼結体1を得ることができる。また、表面処理液に浸漬する処理により、中間樹脂焼結体1mや樹脂焼結体1の形状に拘束されずに、均一なエッチングを行うことができ、汎用性に優れる。
【0022】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記変形例や追記した内容も含まれる。
【0023】
例えば本発明の樹脂焼結体の製造方法の適用対象は、マルチジェットフュージョン方式の付加製造により熱可塑性樹脂の樹脂粉末の層にインクを塗布して焼結させて形成する樹脂焼結体に限定されず、熱可塑性樹脂の樹脂粉末にインクを塗布して焼結させる適宜の樹脂焼結体に適用することが可能である。また、本発明が適用対象となる樹脂焼結体の形状は適宜であり、略板状の樹脂焼結体や、各種の立体形状の樹脂焼結体に対して適用することが可能である。また、表面処理液の温度が70℃未満である場合や、表面処理液の硫酸の濃度が184g/L未満である場合にも、樹脂焼結体の表面における着色の均一性と平滑性の向上の効果が得られる範囲で本発明に含まれる。
【0024】
〔実施例と比較例〕
次に、本発明の樹脂焼結体の製造方法を用いて製造した樹脂焼結体の実施例と比較例について説明する。表1に実施例1-8、表2に実施例9-13と比較例1-3を示す。
【0025】
実施例1-13及び比較例1-3の各基材は、MJF方式(マルチジェットフュージョン方式)の3Dプリンター(HP Development Company,L.P.社製)を用い、熱可塑性樹脂の樹脂粉末としてポリアミド12の粉末、インクとしてカーボンブラック含有インクを用いて作成した。融合剤であるカーボンブラック含有インクの組成は水:70-80質量%、2-ピロリドン:20質量%未満、カーボンブラック7.5質量%未満とした。また、各基材は、融合剤と併用して、融合改質剤(水:80-90質量%、トリエチレングリコール:15質量%未満、2-ピロリドン:5質量%未満)を用いて作成した。
【0026】
MJF方式による樹脂焼結体の作成では、ポリアミド12の粉末の層を形成し、形成した層にカーボンブラック含有インクに相当する融合剤と融合改質剤を塗布し、加熱または曝露によって融合させて焼結する工程を繰り返し、複数層で構成される中間樹脂焼結体の基材を形成した。作成条件はポリアミド12粉末を80μmの厚さで敷き詰めた表層に、2000W以上のハロゲンランプ6本からなる可動式の光源を毎秒300mm以上の移動速度で照射した。粉面の温度はポリアミド12の結晶化温度約150℃以上に保つようにMJF方式の3Dプリンターで自動制御されているように推測されたが、詳細な温度は不明であった。また、融合剤と融合改質剤の散布量に関しても、MJF方式の3Dプリンターの自動制御による詳細な塗布量は不明であったが、使用量実績より各々最大で0.3g/mmを散布していることを確認した。又、各基材の状態は、同一の構造、形状、大きさのものとし、ポリアミド12粉末は平均の粒の大きさ60μmの破砕状の粒形状となっている。また、融合剤は比重1.1g/cmの黒色の液体、融合改質剤は比重1.0g/cmの無色透明な液体である。
【0027】
そして、実施例1-13及び比較例1、2の各基材を、酸化剤として無水クロム酸、強酸として硫酸を含有する表面処理液のエッチング浴に浸漬した。実施例1-13及び比較例1、2の無水クロム酸の濃度(酸化剤濃度)と硫酸の濃度(強酸濃度)は表1、表2に示した通りである。比較例3の基材は、無水クロム酸を含有せず表2の濃度で硫酸を含有する表面処理液のエッチング浴に浸漬した。また、実施例1-13及び比較例1-3の表面処理液のエッチング浴の温度と浸漬時間は表1、2に示した通りである。
【0028】
それぞれの表面処理液への浸漬の完了後、実施例1-13及び比較例1~3の各基材について、基材の表面(外表面)が意匠性に優れる黒色の状態に着色されているかを確認するため、各基材の表面(外表面)の直径8mmの領域の明度(L*)を分光測色計(CM-5:コニカミノルタ社製)で測定した。実施例1-13及び比較例1~3の明度(L*)を表1、表2に示す。実験結果は、意匠性に優れる黒色状態の合格基準として明度(L*):40以下を設定し、より望ましい黒色状態の基準として明度(L*):30以下を設定して判断した。
【0029】
無水クロム酸を含有しない表面処理液のエッチング浴に浸漬した表2の比較例3では明度(L*):57.53となり、合格基準の着色状態から大きく離れたものとなった。また、硫酸の濃度:368g/L、表面処理液のエッチング浴の温度:80℃、エッチング浴への浸漬時間:20分の同一条件で、無水クロム酸の濃度だけを変更した実施例1(無水クロム酸の濃度:400g/L)、実施例2(無水クロム酸の濃度:300g/L)、実施例3(無水クロム酸の濃度:500g/L)、比較例1(無水クロム酸の濃度:100g/L)、比較例2(無水クロム酸の濃度:200g/L)を比較したところ、表1、表2及び図2に示すように、無水クロム酸の濃度が300g/L以上で、より望ましい黒色状態の基準である明度(L*):30以下をクリアできる一方で、無水クロム酸の濃度が300g/L未満の比較例1、2では黒色状態の合格基準の明度(L*):40以下もクリアできない結果となった。
【0030】
また、無水クロム酸の濃度:400g/L、硫酸の濃度368g/Lの同一条件で、表面処理液のエッチング浴の温度と、エッチング浴への浸漬時間が異なる実施例6と実施例9の結果から、表面処理液のエッチング浴の温度が70℃の場合には20分以上の浸漬でより望ましい黒色状態の基準である明度(L*):30以下をクリアでき、表面処理液のエッチング浴の温度が80℃の場合には10分以上の浸漬でより望ましい黒色状態の基準である明度(L*):30以下をクリアできた。製造時間の短縮化の観点からは表面処理液のエッチング浴の温度は80℃以上にすることが好ましいことが分かる。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、熱可塑性樹脂の樹脂粉末を焼結して樹脂焼結体を製造する際に利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1…樹脂焼結体 10…表面 1m…中間樹脂焼結体 2…樹脂粉末 3…インク 41m、42m、43m…焼結層
図1
図2
図3