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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/06 20060101AFI20241022BHJP
   C10M 135/18 20060101ALI20241022BHJP
   C10M 137/10 20060101ALI20241022BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20241022BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20241022BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20241022BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20241022BHJP
【FI】
C10M169/06
C10M135/18
C10M137/10 A
C10N10:02
C10N10:12
C10N30:06
C10N40:02
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021053042
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022150443
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】591213173
【氏名又は名称】住鉱潤滑剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】渡部 泰希
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-501292(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0016194(US,A1)
【文献】特開平08-041485(JP,A)
【文献】特開平08-120289(JP,A)
【文献】特開平10-273691(JP,A)
【文献】特表2001-520301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、増ちょう剤とを含むベースグリースに、
モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)と、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)とが配合され、
前記ZnDTP(亜鉛換算量)に対する前記MoDTC(モリブデン換算量)の配合割合が重量比で0.5~2.0であり、
前記ZnDTPの配合量が亜鉛換算量で3000ppm以上である
グリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩擦性を有するとともに耐摩耗性に優れたグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
グリースは、主にすべり軸受けやころがり軸受け(ベアリング)、あるいは接触面が動くために潤滑剤の膜を付着した状態に保つのが難しい摺動面に用いられる。通常、グリースは、潤滑油基油に、増ちょう剤や必要に応じて添加剤を配合して調製されている。
【0003】
近年、自動車や電気機器等の機械技術の進歩に伴い、各種機器は小型軽量化、高出力化、ロングライフ化の傾向あり、運転条件が過酷になってきている。これに伴い、各種機器に使用されるグリースも潤滑性等の要求性能が高まっている。
【0004】
グリースの潤滑性の改善のため、基油、増ちょう剤、添加剤の選択が種々提案されている。例えば、耐摩擦性、耐摩耗性を向上させることを目的として、リン酸エステル、ジチオリン酸亜鉛等の摩耗防止剤や、モリブデン化合物等の摩擦制御剤、長鎖脂肪酸エステル、脂肪酸アミド等の油性向上剤、有機硫黄、有機ハロゲン化合物等の極圧剤などが一般的に使用されている。
【0005】
しかしながら、例えば、上述したジチオリン酸亜鉛等の亜鉛化合物は、耐摩耗性の付与に優れているものの摩擦低減効果との両立はできない。また、摩擦制御剤であるモリブデン化合物は、摩擦低減効果は高いものの、摩耗を防止する効果は小さく、またスラッジの原因物質となる問題があった。
【0006】
また、本発明者による研究の結果、摩擦制御剤であるMoDTP(モリブデンジチオカーバメート)と、摩耗防止剤であるZnDTP(ジアルキルジチオリン酸)とを併用すると、塗布面におけるMo膜、Zn膜の形成が阻害される場合があることがわかった。運転条件が過酷化してますますの性能向上が求められる中、耐摩擦性と耐摩耗性とを両立させたグリース組成物の開発にはまだ課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-101122号公報
【文献】特開2016-044265号公報
【文献】特開2006-45264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、耐摩擦性を有するとともに耐摩耗性にも優れたグリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、グリース組成物において、添加剤として配合するMoDTPとZnDTPとの配合割合を特定の範囲とすることによって、耐摩擦性と耐摩耗性とを両立させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1)本発明の第1の発明は、基油と、増ちょう剤とを含むベースグリースに、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)と、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)とが配合され、前記ZnDTP(亜鉛換算量)に対する前記MoDTC(モリブデン換算量)の配合割合が重量比で0.5~2.0である、グリース組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐摩擦性を有するとともに耐摩耗性にも優れたグリース組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更が可能である。
【0013】
≪1.グリース組成物≫
本実施の形態に係るグリース組成物は、基油と、増ちょう剤とを含むベースグリースに、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)と、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)とが配合されてなるものである。そして、グリース組成物中において、MoDTC(モリブデン換算量)に対するnDTP(亜鉛換算量)の配合割合が重量比で0.5~2.0であることを特徴としている。
【0014】
[基油]
基油(ベースオイル)は、グリースの主成分をなすものであり、後述する増ちょう剤と共にベースグリース(基グリース)を構成する。
【0015】
基油としては、特に限定されるものではなく、従来から一般的に使用されているものを用いることができる。例えば、鉱物油、エーテル油系合成油、エステル系合成油、及び炭化水素合成油等の潤滑油、又はそれらの合成油が挙げられる。その中でも、エステル油系合成油、炭化水素合成油を用いることが好ましい。エステル油系合成油としては、ポリオールエステル油、リン酸エステル油、ポリマーエステル油、芳香族エステル油、炭酸エステル油、ジエステル油、ポリグリコール油等が挙げられる。炭化水素系合成油としては、ポリα-オレフィン(PAO)等が挙げられる。
【0016】
基油としては、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、粘度の異なる2種類以上を併用して基油を構成するようにしてもよい。
【0017】
グリース組成物中の基油の含有量としては、特に限定されず、ベースグリースを構成する後述の増ちょう剤との配合割合を考慮して決定することができる。例えば、組成物中に50質量%以上の割合とすることができ、60質量%以上とすることが好ましく、70質量%以上とすることがより好ましい。なお、上限値は特に限定されず、後述する配合成分の効果を損なわせない範囲で設定すればよく、例えば95質量%以下程度とする。
【0018】
[増ちょう剤]
増ちょう剤は、グリースにおいて油を保持するために必要な材料であり、基油と共にベースグリースを構成する。増ちょう剤としては、特に限定されるものではなく従来から一般的に使用されているものを用いることができる。
【0019】
具体的に、増ちょう剤としては、石鹸系と非石鹸系との大別でき、石鹸系としては、例えばリチウム石鹸、リチウム複合石鹸、カルシウム石鹸、カルシウム複合石鹸、アルミニウム石鹸、アルミニウム複合石鹸が挙げられ、非石鹸系としては、例えばウレア、ナトリウムテレフタラート、フッ素樹脂、有機ベントナイト、シリカゲル等が挙げられる。これらの増ちょう剤は、1種単独で又は2種以上を併せて用いることができる。
【0020】
グリース組成物中の増ちょう剤の含有量としては、特に限定されず、ベースグリースを構成する上述の基油の配合割合を考慮して決定することができる。
【0021】
[モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)]
本実施の形態に係るグリース組成物は、モリブデンジチオカーバメート(以下、「MoDTC」と表記する)が配合されている。
【0022】
MoDTCは、有機モリブデン化合物であり、摩擦調整剤(低減剤)として作用する。MoDTCは、グリースを塗布した摩擦面における摩擦により、層状構造の結晶からなる二硫化モリブデン(MoS)の被膜を形成させ、その被膜により摩擦を低減する。
【0023】
具体的に、MoDTCとしては、硫化モリブデンジエチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化モリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジデシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカーバメート、硫化モリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジエチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカーバメート、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0024】
グリース組成物におけるMoDTCの配合量は、後述するジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)との重量比が特定の範囲内である限りにおいて特に限定されない。具体的には、モリブデン換算量で1000ppm以上であることが好ましく、2000ppm以上であることがより好ましく、3000ppm以上であることが特に好ましい。
【0025】
[ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)]
本実施の形態に係るグリース組成物は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(以下、「ZnDTP」と表記する)が配合されている。
【0026】
ZnDTPは、下記一般式で表される化合物であり、耐摩耗剤として作用する。ZnDTPは、グリースを塗布した摩擦面における摩擦により、リン酸亜鉛の被膜を形成させ、その被膜により摩耗を低減する。
【0027】
【化1】
【0028】
上記の一般式において、R~Rは炭化水素基(アルキル基)であり、同一であっても異なるものであってもよい。例えば、R~Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、第2級ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、4-メチルペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、ドコシル基、テトラコシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ドデシルフェニル基、テトラデシルフェニル基、ヘキサデシルフェニル基、オクタデシルフェニル基、ベンジル基が挙げられる。
【0029】
グリース組成物におけるZnDTPの配合量は、MoDTCとの重量比が特定の範囲内である限りにおいて特に限定されない。具体的には、亜鉛換算量で500ppm以上であることが好ましく、3000ppm以上であることがより好ましく、6000ppm以上であることが特に好ましい。
【0030】
[MoDTCとZnDTPとの重量比]
本実施の形態に係るグリース組成物は、ZnDTP(亜鉛換算量)に対するMoDTC(モリブデン換算量)の配合割合が重量比で0.5~2.0である。
【0031】
本発明者による検討の結果、MoDTCとZnDTPとの配合割合が、二硫化モリブデンの被膜(以下「Mo膜」ともいう)とリン酸亜鉛の被膜(以下「Zn膜」ともいう)のそれぞれの膜形成に影響を与えることがわかった。すなわち、グリース組成物において、ZnDTPに対してMoDTCの配合割合が大きすぎるとMo膜がZn膜の形成を阻害し、一方で、MoDTCに対してZnDTPの配合割合が大きすぎるとZn膜がMo膜の形成を阻害するとともに、意外にもZn膜自体の形成も十分に行われないことがわかった。このことから、グリース組成物を塗布する摩擦面において、摩耗を抑えながら低摩擦を実現するために、ZnDTPに対するMoDTCの配合割合を特定の範囲とすることが重要であることを見出した。
【0032】
具体的には、上述のように、ZnDTPに対するMoDTCの配合割合を重量比(以下「Mo/Zn比」ともいう)で0.5~2.0の範囲とする。Mo/Zn比が2.0よりも大きいと、Zn膜の形成が阻害されて摩耗を効果的に抑制することができない。また、Mo/Zn比が0.5未満であると、Mo膜の形成が阻害されて摩擦を効果的に低減できない。また、Zn膜自体の形成も十分に行われず、摩耗を抑制することができない。
【0033】
また、Mo/Zn比に関して、下限値は、0.7以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましい。また、上限値は、1.8以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。
【0034】
[その他]
本実施の形態に係るグリース組成物では、上述した各成分に加え、更に、潤滑油やグリースに一般的に用いられている各種添加剤、例えば、極圧剤、酸化防止剤、防錆剤、ポリマー添加剤等を必要に応じて配合することができる。また、上述した成分以外の摩擦調整剤、耐摩耗剤、及び固体潤滑剤等の添加剤を更に添加することもできる。これらの添加剤を含有させる場合の含有量は、それぞれ、グリース組成物の全量中、0.1質量%~10質量%程度の割合とすることが好ましい。
【0035】
なお、上述した添加剤は、基油と、増ちょう剤と共に、ベースグリースを構成する成分として含有させてもよいことは言うまでもない。
【0036】
≪2.グリース組成物の製造方法≫
本実施の形態に係るグリース組成物は、上述したように、基油と増ちょう剤とを含むベースグリースに、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)と、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)とが配合されてなり、MoDTC(モリブデン換算量)に対するnDTP(亜鉛換算量)の配合割合が重量比で0.5~2.0である。このグリース組成物は、従来のグリース組成物と同様に、周知の方法により製造することができる。
【0037】
具体的には、例えば、基油と、金属石鹸等の増ちょう剤とを混練してベースグリースを作製し、このベースグリースに、MoDTCとZnDTPとを所定の配合割合となるように添加して分散させ、さらに必要に応じて各種の添加剤を加えて混練することにより得ることができる。
【0038】
混練処理においては、例えば三本ロール、万能撹拌機、ホモジナイザー、コロイドミル等の周知の撹拌・分散処理装置を用いて行うことができる。なお、上述のように各成分を順に添加して混練することに限られず、各成分を同時に添加し混練してもよい。
【実施例
【0039】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
[グリース組成物の製造]
実施例、比較例において、下記表1に示す組成となるようにグリース組成物を製造した。具体的には、先ず、基油及び脂肪酸をビーカーに一定量秤量し、脂肪酸が溶融するまで撹拌しながら加熱した。アルカリを使用して1次及び2次けん化反応を生じさせ、完全に水分を除去した後、所定の温度まで昇温し、その後自然冷却してベースグリースを作製した。次に、作製したベースグリースと、MoDTCと、ZnDTPとを秤量し、撹拌処理及び分散処理を施してグリース組成物を製造した。撹拌は、万能撹拌機を用いて行った。また、分散処理は、三本ロールミルを用いて行った。なお、基油としては鉱物油及びポリアルファオレフィン(PAO)を用い、上述のようにして、リチウム複合石鹸を増ちょう剤として含有するベースグリースとした。
【0041】
[評価試験]
(SRV試験)
SRV試験機を用い、製造したグリース組成物に対して下記の試験条件で潤滑性試験を行った。この試験により、30分間の平均摩擦係数を測定した。また、形成された摩耗痕に基づいて摩耗痕径を測定した。
・試験器 :SRV試験機
・接触形態 :ボールオンディスク
・テストピース :ボール SUJ-2(φ10mm)
ディスク SUJ-2(φ24.0×7.9mm)
・グリース塗布量:80μm(膜厚)
・荷重 :80N
・振幅 :1.5mm
・振動数 :50Hz
・温度 :80℃
・時間 :180分
【0042】
[結果]
下記表1に、グリース組成物の組成を示すとともに、評価結果を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示す結果からわかるように、グリース組成物中のMoDTC(モリブデン換算量)とZnDTP(亜鉛換算量)の配合割合に関して、Mo/Znで表される重量比が0.5~2.0である実施例では、摩擦係数を有効に低減し、また摩耗痕も小さく摩耗を有効に抑制することができた。
【0045】
これに対して、Mo/Znを0.2とした比較例3では、実施例に比べて摩擦係数が大きくなったとともに、摩耗痕も大きくなった。また、Mo/Znを3.0とした比較例4では、摩擦係数は低く抑えられたものの、摩耗を抑制できず大きな摩耗痕が形成された。さらに、Mo/Znを4.0以上とした比較例5~7では、摩擦係数が大きくなったとともに、摩耗痕も大きくなった。これらの比較例の結果は、摩擦面においてMo膜とZn膜の形成が阻害されたことによると考えられる。
【0046】
ここで、比較例2では、MoDTCのみを配合したグリース組成物であったため、摩擦係数は低減されたものの、ZnDTPが配合されていないため摩耗は発生して大きな摩耗痕径が形成された。一方で、比較例3のグリース組成物は、ZnDTPを配合したものであるが、意外にも、摩耗痕径が比較例2と同等に大きくなり摩耗を有効に抑制できなかった。このことは、MoDTCの含有量が少なくMo/Znが0.5未満であったことにより、Zn膜の形成が十分に行われなかったためであると考えられる。