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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】鋳型の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22C 1/00 20060101AFI20241022BHJP
   B22C 9/02 20060101ALI20241022BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241022BHJP
   B22C 1/10 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
B22C1/00 A
B22C9/02 103C
B33Y10/00
B22C1/10 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021054923
(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公開番号】P2022152231
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】竹下 幸佑
(72)【発明者】
【氏名】永井 康弘
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-203248(JP,A)
【文献】特開2006-212642(JP,A)
【文献】特開平08-174144(JP,A)
【文献】特開昭52-011127(JP,A)
【文献】特開2020-116884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/00-3/02
B22C 9/02
B33Y 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性粒状材料と、有機粘結剤とを含む混合物の硬化物である鋳型前駆体に、コロイダルシリカ及び水ガラスを別々に含浸させる含浸工程と、
前記鋳型前駆体に含浸させた前記水ガラスを硬化させる硬化工程と、
を含む、鋳型の製造方法。
【請求項2】
前記硬化工程の後に焼成工程をさらに含む、請求項1に記載の鋳型の製造方法。
【請求項3】
前記鋳型前駆体を三次元積層造形により製造する、請求項1又は2に記載の鋳型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳造用鋳型(以下、単に「鋳型」ともいう。)には普通鋳型と特殊鋳型とがあり、普通鋳型には生型と乾燥型がある。一方、特殊鋳型には熱硬化鋳型、自硬性鋳型、ガス硬化鋳型がある。
鋳型の材料には珪砂などの耐火性粒状材料が用いられるが、耐火性粒状材料だけでは乾燥すると崩れやすいため粘結剤を加えて崩れにくくしている。
普通鋳型にはベントナイトなどの粘土が粘結剤として用いられる。一方、特殊鋳型にはフェノール樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂などの有機粘結剤や、水ガラスなどの無機粘結剤が用いられる。
【0003】
例えば特許文献1、2には、有機粘結剤で造型した鋳型に、無機粘結剤として特定のモル比(SiOとNaOのモル比)の水ガラスを含浸させた後に焼成する鋳型の製造方法が開示されている。
特許文献3には、有機粘結剤で造型した鋳型に、塩化ナトリウム等の水溶性無機塩を含浸させ後に焼成する鋳型の製造方法が開示されている。
特許文献4には、耐火成形基材の薄層を形成する工程と、薄層の所定の場所に水ガラスとバインダとを印刷する工程とを繰り返す三次元積層造形により鋳型を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平3-248740号公報
【文献】特開2018-158377号公報
【文献】特開2020-22981号公報
【文献】特表2017-538585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~4に記載の方法の場合、鋳型の耐熱性が不充分となる場合がある。鋳型は鉄、銅、アルミニウム等の金属を高温で溶かした液体(溶湯)が注湯され高温に曝されるため、鋳型の耐熱性が低いと焼き付きや照らされ等の鋳造欠陥が発生したり、変形したりすることがある。そのため、鋳型には高温に曝されても充分な強度を発現できる耐熱性が求められる。
本発明は、耐熱性に優れる鋳型を製造できる鋳型の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 耐火性粒状材料と、有機粘結剤とを含む混合物の硬化物である鋳型前駆体に、コロイダルシリカ及び水ガラスを別々に含浸させる含浸工程と、
前記鋳型前駆体に含浸させた前記水ガラスを硬化させる硬化工程と、
を含む、鋳型の製造方法。
[2] 前記硬化工程の後に焼成工程をさらに含む、前記[1]の鋳型の製造方法。
[3] 前記鋳型前駆体を三次元積層造形により製造する、前記[1]又は[2]の鋳型の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐熱性に優れる鋳型を製造できる鋳型の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例17で製造した鋳型前駆体を模式的に示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)は側面図である。
図2】実施例17で得られたテストピース(焼成体)の写真である。
図3】比較例11で得られたテストピース(焼成体)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[鋳型の製造方法]
以下、本発明の鋳型の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の鋳型の製造方法では、鋳型前駆体にコロイダルシリカ及び水ガラスを別々に含浸させた後に(含浸工程)、水ガラスを硬化させて(硬化工程)、鋳型を得る。
本実施形態の鋳型の製造方法は、硬化工程の後に、以下に示す焼成工程をさらに含んでいてもよい。
なお、本明細書において、硬化工程により得られる鋳型と、焼成工程により得られる鋳型とを区別するために、硬化工程により得られる鋳型を「硬化体」ともいい、焼成工程により得られる鋳型を「焼成体」ともいう。
【0010】
<鋳型前駆体>
鋳型前駆体は、耐火性粒状材料と、有機粘結剤とを含む混合物の硬化物である。
鋳型前駆体を製造するに際して、耐火性粒状材料及び有機粘結剤に加えて、硬化剤を併用することが好ましい。
鋳型前駆体は、必要に応じて耐火性粒状材料、有機粘結剤及び硬化剤以外の成分(任意成分)を含んでいてもよい。
【0011】
(耐火性粒状材料)
耐火性粒状材料としては、珪砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、非晶質シリカ、アルミナ砂、ムライト砂等の天然砂;人工砂などの従来公知のものを使用できる。また、使用済みの耐火性粒状材料を回収したもの(回収砂)や再生処理したもの(再生砂)なども使用できる。これら耐火性粒状材料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
耐火性粒状材料の平均粒子径は50~600μmが好ましく、60~550μmがより好ましく、75~500μmがさらに好ましい。耐火性粒状材料の平均粒子径が上記下限値以上であれば、強度の高い鋳型が得られる。耐火性粒状材料の平均粒子径が上記上限値以下であれば、該鋳型を用いて鋳造される鋳物の表面性にも優れる。特に、耐火性粒状材料の平均粒子径が300μm以下であれば、三次元積層造形により鋳型前駆体を製造する場合に好適であり、面相度に優れた鋳型が得られる。
耐火性粒状材料の平均粒子径は、動的光散乱法により測定した耐火性粒状材料の体積累計50%のメディアン径である。
【0013】
(有機粘結剤)
有機粘結剤としては、シェルモールド法で鋳型を製造する際に用いられる粘結剤、アミンコールドボックス法で鋳型を製造する際に用いられる粘結剤、アルカリフェノール樹脂、酸硬化性粘結剤などが挙げられる。これら有機粘結剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、酸硬化性粘結剤が好ましい。
【0014】
シェルモールド法で鋳型を製造する際に用いられる粘結剤としては、例えばノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂などが挙げられる。
ノボラック型フェノール樹脂は、酸性触媒の存在下でフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られたものであり、通常、固体である。
フェノール類としては、例えばフェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,3-キシレノール、3,5-キシレノール、m-エチルフェノール、m-プロピルフェノール、m-ブチルフェノール、p-ブチルフェノール、o-ブチルフェノール、レゾルシノール、ハイドロキノン、カテコール、3-メトキシフェノール、4-メトキシフェノール、3-メチルカテコール、4-メチルカテコール、メチルハイドロキノン、2-メチルレゾルシノール、2,3-ジメチルハイドロキノン、2,5-ジメチルレゾルシノール、2-エトキシフェノール、4-エトキシフェノール、4-エチルレゾルシノール、3-エトキシ-4-メトキシフェノール、2-プロペニルフェノール、2-イソプロピルフェノール、3-イソプロピルフェノール、4-イソプロピルフェノール、3,4,5-トリメチルフェノール、2-イソプロポキシフェノール、4-ピロポキシフェノール、2-アリルフェノール、3,4,5-トリメトキシフェノール、4-イソプロピル-3-メチルフェノール、ピロガロール、フロログリシノール、1,2,4-ベンゼントリオール、5-イソプロピル-3-メチルフェノール、4-ブトキシフェノール、4-t-ブチルカテコール、t-ブチルハイドロキノン、4-t-ペンチルフェノール、2-t-ブチル-5-メチルフェノール、2-フェニルフェノール、3-フェニルフェノール、4-フェニルフェノール、3-フェノキシフェノール、4-フェノキシフェノール、4-へキシルオキシフェノール、4-ヘキサノイルレゾルシノール、3,5-ジイソプロピルカテコール、4-ヘキシルレゾルシノール、4-ヘプチルオキシフェノール、3,5-ジ-t-ブチルフェノール、3,5-ジ-t-ブチルカテコール、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、ジ-sec-ブチルフェノール、4-クミルフェノール、ノニルフェノール、2-シクロペンチルフェノール、4-シクロペンチルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどが挙げられる。これらフェノール類は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
アルデヒド類としては、例えばホルムアルデヒド、トリオキサン、フルフラール、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、メチルヘミホルマール、エチルへミホルマール、プロピルへミホルマール、サリチルアルデヒド、グリオキザール、ブチルヘミホルマール、フェニルへミホルマール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、α-フェニルプロピルアルデヒド、β-フェニルプロピルアルデヒド、o-ヒドロキシベンズアルデヒド、m-ヒドロキシベンズアルデヒド、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、o-クロロベンズアルデヒド、o-ニトロベンズアルデヒド、m-ニトロベンズアルデヒド、p-ニトロベンズアルデヒド、o―メチルベンズアルデヒド、m-メチルベンズアルデヒド、p-メチルベンズアルデヒド、p-エチルベンズアルデヒド、p-n-ブチルベンズアルデヒドなどが挙げられる。これらアルデヒド類は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
酸性触媒としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸、蟻酸、酢酸、蓚酸、酪酸、乳酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、硼酸などが挙げられる。これら酸性触媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、塩化亜鉛もしくは酢酸亜鉛などの金属塩を使用したり、酸性触媒と組み合わせて使用したりしてもよい。
【0016】
なお、ノボラック型フェノール樹脂には、鋳型強度の改善を目的として、製造過程シランカップリング剤が配合される場合がある。製造過程でシランカップリング剤が配合されない場合は、ノボラック型フェノール樹脂とシランカップリング剤とを併用してもよい。
シランカップリング剤としては、後述の酸硬化性樹脂の説明において例示されるシランカップリング剤が挙げられる。
【0017】
レゾール型フェノール樹脂は、塩基性触媒の存在下でフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られたものである。
フェノール類及びアルデヒド類としては、ノボラック型フェノール樹脂の説明において先に例示したフェノール類及びアルデヒド類などが挙げられる。
塩基性触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、ヘキサミン、アミンなどが挙げられる。これら塩基性触媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
レゾール型フェノール樹脂は、通常、水等の溶媒に分散された状態で得られる(以下、この状態のレゾール型フェノール樹脂を「液状レゾール型フェノール樹脂」という。)。
レゾール型フェノール樹脂は、液状で用いてもよいし、液状レゾール型フェノール樹脂を脱水処理などして溶媒を除去し、常温で乾燥させて固形状にして用いてもよい。
なお、レゾール型フェノール樹脂にも、鋳型強度の改善を目的として、製造過程シランカップリング剤が配合される場合がある。製造過程でシランカップリング剤が配合されない場合は、レゾール型フェノール樹脂とシランカップリング剤とを併用してもよい。
【0019】
アミンコールドボックス法で鋳型を製造する際に用いられる粘結剤としては、例えば有機溶剤を溶媒とするフェノール樹脂溶液とポリイソシアネート溶液とから構成される二液性粘結剤などが挙げられる。
【0020】
アルカリフェノール樹脂は、アルカリ金属の水酸化物の存在下、常法により、フェノール類及びビスフェノール類よりなる群から選択される1種以上(以下、「フェノール系化合物」という。)と、アルデヒド類とを水系で反応させることで得られる。
フェノール類及びアルデヒド類としては、ノボラック型フェノール樹脂の説明において先に例示したフェノール類及びアルデヒド類などが挙げられる。
ビスフェノール類としては、例えばビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールC、ビスフェノールS、ビスフェノールZなどが挙げられる。
フェノール系化合物としては、フェノール類及びビスフェノール類のいずれか一方を単独で用いてもよいし、フェノール類及びビスフェノール類を混合して用いてもよい。
【0021】
アルカリ金属の水酸化物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどが挙げられる。これらの中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。これらアルカリ金属の水酸化物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
酸硬化性樹脂としては、フルフリルアルコール、フラン樹脂などが挙げられる。また、先に例示したレゾール型フェノール樹脂を酸硬化性樹脂として用いてもよい。
これらの中でも、フルフリルアルコール、フラン樹脂が好ましく、フルフリルアルコールがより好ましい。
【0023】
フラン樹脂は、フルフリルアルコール、尿素、ホルムアルデヒド等を主原料としている樹脂で、酸触媒により脱水反応しながら重縮合し、硬化するものである。
フラン樹脂としては、フルフリルアルコール又はフルフリルアルコールと尿素のいずれかとアルデヒド類との縮合物又は共縮合物の1種又は2種以上、並びにフルフリルアルコールとの混合物を主成分とし、必要に応じてフェノール類及びビスフェノール類の少なくとも一方とを含むものを用いることが好ましい。
フェノール類及びアルデヒド類としては、ノボラック型フェノール樹脂の説明において先に例示したフェノール類及びアルデヒド類などが挙げられる。
【0024】
フラン樹脂の特に好ましい態様として以下の2つが挙げられる。なお、以下における(共)縮合物とは、縮合物及び共縮合物の少なくとも一方を意味する。
i)尿素、フルフリルアルコール及びアルデヒド類を縮合させて得られる(共)縮合物(a)と、フルフリルアルコールと、必要に応じてフェノール類及びビスフェノール類の少なくとも一方との混合物。
ii)尿素とアルデヒド類の縮合物と、フルフリルアルコールと、必要に応じてフェノール類及びビスフェノール類の少なくとも一方との混合物。
【0025】
なお、フラン樹脂として、上述した以外にも、例えば2,5-ビス(ヒドロキシメチル)フラン、フェノール類及びビスフェノール類からなる群より選ばれる1種以上と、フルフリルアルコールとの混合物;尿素とアルデヒド類との縮合物と、フルフリルアルコールと、2,5-ビス(ヒドロキシメチル)フランとの混合物などを用いることもできる。
【0026】
酸硬化性樹脂には、鋳型の強度を高める目的で、シランカップリング剤が含まれていてもよい。
シランカップリング剤としては、例えばN-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0027】
酸硬化性樹脂がシランカップリング剤を含む場合、シランカップリング剤の含有量は、酸硬化性樹脂の固形分の総質量に対して、0.01~3質量%が好ましく、0.1~2質量%がより好ましい。シランカップリング剤の含有量が上記下限値以上であれば、鋳型の強度を向上させる効果が充分得られる。鋳型の強度向上効果は、シランカップリング剤の含有量が増えるほど得られやすくなる傾向にあるが、増えすぎても効果は頭打ちになるだけである。よって、シランカップリング剤の含有量は3質量%以下が好ましい。
なお、酸硬化性樹脂の固形分とは、100℃での不揮発分を示す。
【0028】
酸硬化性樹脂には、硬化速度を速める目的で、硬化促進剤が含まれていてもよい。
硬化促進剤としては、レゾルシノール、ホルマリン、フルフラールなどが挙げられる。これらの中でも、鋳型造型時に発生するホルムアルデヒドを低減する効果も得られる点で、レゾルシノールが好ましい。
酸硬化性樹脂が硬化促進剤を含む場合、硬化促進剤の含有量は、酸硬化性樹脂の固形分の総質量に対して、1~20質量%が好ましく、2~15質量%がより好ましい。硬化促進剤の含有量が上記下限値以上であれば、硬化速度が充分に速まる。硬化速度は、硬化促進剤の含有量が増えるほど得られやすくなる傾向にあるが、増えすぎても効果は頭打ちになるだけである。よって、硬化促進剤の含有量は20質量%以下が好ましい。
なお、ホルムアルデヒドを低減する観点では、レゾルシノール以外にも尿素、没食子酸、ピロガロールを用いてもよい。
【0029】
(硬化剤)
硬化剤としては、有機粘結剤の種類や硬化方法に応じて、公知の硬化剤の中から選択して用いればよい。
例えば、有機粘結剤としてシェルモールド法で鋳型を製造する際に用いられる粘結剤を用いる場合、硬化剤としては、ヘキサメチレンテトラミンが好ましい。
有機粘結剤としてアミンコールドボックス法で鋳型を製造する際に用いられる粘結剤を用いる場合、硬化剤としては、トリエチルアミン、ジエチルアミン等のアミンガスが好ましい。これら硬化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
有機粘結剤としてアルカリフェノール樹脂を用いる場合、硬化剤としては、自硬性鋳型造型法においてはギ酸メチル、ギ酸エチル、トリアセチン、ジアセチン、モノアセチン、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノアセテート、γ-ブチロラクトン、プロピオラクトン、ε-カプロラクトンなどが好ましい。ガス硬化鋳型造型法においては、揮発性が高いエステル類が好ましく、ギ酸メチルなどがより好ましい。
有機粘結剤として酸硬化性樹脂を用いる場合、硬化剤としては、硫酸、リン酸、塩酸などの無機酸;有機スルホン酸(例えばキシレンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸等)、カルボン酸(例えばギ酸、酢酸、シュウ酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、マロン酸、コハク酸、安息香酸等)などの有機酸が好ましい。
これら硬化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
なお、硬化剤は水溶液の状態で、すなわち硬化剤水溶液として用いることができる。
硬化剤水溶液の総質量に対する硬化剤の含有量は、20~75質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましい。
硬化剤水溶液の総質量に対する水の含有量は、25~80質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましい。
硬化剤水溶液には、水以外の溶媒(他の溶媒)が含まれていてもよく、他の溶媒としてはメタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール類が挙げられる。
【0031】
(任意成分)
任意成分としては、例えばシランカップリング剤、滑剤、崩壊剤、硬化促進剤などが挙げられる。
シランカップリング剤としては、酸硬化性樹脂の説明において先に例示したシランカップリング剤が挙げられる。
滑剤としては、例えば脂肪酸アミド、ステアリン酸カルシウムなどが挙げられる。
崩壊剤としては、例えば硝酸塩などが挙げられる。
硬化促進剤としては、例えば安息香酸、サリチル酸などが挙げられる。
【0032】
(鋳型前駆体の製造方法)
鋳型前駆体は、例えば下記方法(I)、方法(II)により得られる。
方法(I):耐火性粒状材料と、有機粘結剤と、必要に応じて任意成分とを含む混合物(以下、「混合物(A)」ともいう。)を鋳型造型用型に充填し、有機粘結剤を硬化させて鋳型前駆体を製造する方法。
方法(II):三次元積層造形により鋳型前駆体を製造する方法。
【0033】
<<方法(I)>>
方法(I)において、混合物(A)は、例えば耐火性粒状材料と、有機粘結剤と、必要に応じて任成成分とを混合することで製造できる。こうして得られた混合物(A)を「混練砂」ともいう。
混合物(A)における有機粘結剤の含有量は、耐火性粒状材料100質量部に対して、0.1~5質量部が好ましく、0.5~3.5質量部がより好ましい。有機粘結剤の含有量が上記下限値以上であれば、後述の硬化工程までの間、充分な強度を維持できる。有機粘結剤の含有量が上記上限値以下であれば、注湯後の鋳型を解体しやすい。加えて、注湯時における酸硬化性粘結剤の熱分解によるガスの発生量を低減できる。
【0034】
有機粘結剤を硬化させる方法としては、熱硬化、常温硬化、ガス硬化などが挙げられる。ここで、「常温硬化」とは、外部からの加熱やガスの通気などを行わなくても常温で硬化することである。
有機粘結剤を熱硬化又は常温硬化により硬化させる場合、すなわち、熱硬化鋳型造型法や自硬性鋳型造型法により鋳型を製造する場合、混合物(A)は硬化剤を含むことが好ましい。以下、硬化剤を含む混合物(A)を特に「混合物(A1)」ともいう。
混合物(A1)における硬化剤の含有量は、耐火性粒状材料100質量部に対して0.1~0.5質量部が好ましく、0.2~0.4質量部がより好ましい。硬化剤の含有量が上記範囲内であれば、強度がより高い鋳型が得られやすい。
【0035】
混合物(A1)は、例えば耐火性粒状材料と、有機粘結剤と、硬化剤水溶液と、必要に応じて任意成分とを混合して、製造できる。
また、例えば耐火性粒状材料を所定の温度に加熱しておき、加熱した耐火性粒状材料に硬化剤水溶液を添加して被覆砂を製造し、得られた被覆砂と、有機粘結剤と、必要に応じて任意成分とを混合して、混合物(A1)を製造してもよい。耐火性粒状材料の加熱温度は、硬化剤水溶液に含まれる溶媒の沸点より高い温度が好ましく、通常は、100~150℃である。
【0036】
有機粘結剤をガス硬化により硬化させる場合、すなわち、ガス硬化鋳型造型法により鋳型を製造する場合、混合物(A)を鋳型造型用型に充填し、ガス状の硬化剤を通気させて有機粘結剤を硬化させる。
ガス状の硬化剤の通気流量及び通気時間は、通常のガス硬化鋳型造型法における通気流量及び通気時間の範囲内であれば、特に制限されない。
【0037】
有機粘結剤を熱硬化、常温硬化、ガス硬化などの方法で硬化させることで、混合物(A)の硬化物からなる鋳型前駆体が得られる。
得られた鋳型前駆体は鋳型造型用型から取り出しておく。鋳型前駆体は有機粘結剤の硬化物によってその形状を維持できるので、鋳型造型用型から取り出しても崩れにくい。
【0038】
<<方法(II)>>
方法(II)の場合、耐火性粒状材料と、硬化剤と、必要に応じて任意成分とを含む混合物(以下、「混合物(B)」ともいう。)を層状に敷き詰める工程(以下、「工程(a)」ともいう。)と、層状に敷き詰められた混合物(B)を目的の3次元積層造形物に対応して結合するように、前記層状に敷き詰められた被覆砂に有機粘結剤を選択的に射出して硬化させる工程(以下、「工程(b)」ともいう。)とを、目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返すことで、鋳型前駆体を製造する。
方法(II)で用いる有機粘結剤としては、酸硬化性樹脂が好ましい。
【0039】
混合物(B)は、例えば耐火性粒状材料と、硬化剤と、必要に応じて任意成分とを混合して、製造できる。
また、例えば耐火性粒状材料を所定の温度に加熱しておき、加熱した耐火性粒状材料に硬化剤水溶液を添加して被覆砂を製造し、これを混合物(B)として用いてもよいし、必要に応じて被覆砂と任意成分とを混合したものを混合物(B)として用いてもよい。
【0040】
工程(a)及び工程(b)は、例えば印刷造形法を用いた3次元積層装置を用い、以下のようにして行われる。
3次元積層装置としては、ブレード機構と、印刷ノズルヘッド機構と、造形テーブル機構とを備えるものが好ましい。さらに、各機構の動作を造形対象物の3次元データを用いて制御する制御部を備えていることが好ましい。
ブレード機構は、リコータを含み、金属ケースの底面又は有機粘結剤で結合済みの造形部の上層に、被覆砂を所定の厚みで積層するものである。
印刷ノズルヘッド機構は、積層された被覆砂に対して有機粘結剤による印刷を行い、被覆砂を結合することによって1層毎の造形を行うものである。
造形テーブル機構は、1層の造形が終了すると1層分の距離だけ下降して、所定の厚みでの積層造形を実現するものである。
【0041】
まず、印刷造形法を用いた3次元積層装置を用い、リコータを有するブレード機構により混合物(B)を3次元積層装置に設置された金属ケースの底面に積層する(工程(a))。ついで、積層した混合物(B)の上に、目的の3次元積層造形物(3次元積層造形鋳型)の形状を3DCAD設計して得られたデータに基づいて印刷ノズルヘッド機構により印刷ノズルヘッドを走査させて、有機粘結剤を印刷(射出)する(工程(b))。金属ケースの底面は造形テーブルとなっており、上下に可動することができる。有機粘結剤を印刷した後、金属ケースの底面(造形テーブル)を1層分降下させ、先と同様にして混合物(B)を積層し(工程(a))、その上に有機粘結剤を印刷する(工程(b))。これら積層と印刷の操作を、目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返す。1層の厚さは、100~500μmが好ましく、200~300μmがより好ましい。
【0042】
有機粘結剤を印刷する際の塗布量は固形分換算で、その印刷領域における1層分の混合物(B)中の耐火性粒状材料100質量部に対して、0.4質量部以上が好ましく、0.4~4.6質量部がより好ましく、0.5~4質量部がさらに好ましく、0.6~3質量部が特に好ましく、0.7~2質量部が最も好ましい。
【0043】
方法(II)で得られる鋳型前駆体は、混合物(B)の粉末の中で埋もれながら造形される。よって、有機粘結剤が印刷されていない領域(非印刷領域)の混合物(B)をブラシや掃除機等で除去して、鋳型前駆体を取り出す。鋳型前駆体は有機粘結剤の硬化物によってその形状を維持できるので、鋳型前駆体を取り出しても崩れにくい。
なお、本明細書において、方法(II)で得られる鋳型前駆体を「三次元積層造形物」ともいう。
【0044】
<含浸工程>
含浸工程は、鋳型前駆体にコロイダルシリカ及び水ガラスを別々に含浸させる工程である。
コロイダルシリカは、シリカ粒子(SiO)が水又は有機溶媒に分散した分散液である。
コロイダルシリカとしては特に限定されず、従来公知のものを使用でき、例えばコロイダルシリカとしては、例えば酸性を示す水性コロイダルシリカ、アルカリ性を示す水性コロイダルシリカ、カチオン性コロイダルシリカなどが挙げられる。
【0045】
酸性を示す水性コロイダルシリカとしては、例えば日産化学株式会社製の商品名:スノーテックスOXS(SiO固形分10質量%)、スノーテックスOS(SiO固形分20質量%)、スノーテックスO(SiO固形分20質量%)、スノーテックスO-40(SiO固形分40質量%)、スノーテックスOL(SiO固形分20質量%)、スノーテックスOYL(SiO固形分20質量%)、スノーテックスOUP(SiO固形分15質量%)などが挙げられる。
アルカリ性を示す水性コロイダルシリカとしては、例えば日産化学株式会社製の商品名:スノーテックスXS(SiO固形分20質量%)、スノーテックス30(SiO固形分30質量%)、スノーテックス50-T(SiO固形分48質量%)、スノーテックス30L(SiO固形分30質量%)、スノーテックスUP(SiO固形分20質量%)、スノーテックスNXS(SiO固形分15質量%)、スノーテックスNS(SiO固形分20質量%)、スノーテックスN(SiO固形分20質量%)、スノーテックスN-40(SiO固形分40質量%)などが挙げられる。
カチオン性コロイダルシリカとしては、例えば日産化学株式会社製の商品名:スノーテックスAK(SiO固形分20質量%)、スノーテックスAK-L(SiO固形分20質量%)、スノーテックスAK-YL(SiO固形分30質量%)などが挙げられる。
有機溶媒に分散したコロイダルシリカとしては、例えば日産化学株式会社製の商品名:オルガノシリカゾルIPA-ST(SiO固形分30質量%、溶媒イソプロピルアルコール)、メタノールシリカゾル(SiO固形分30質量%、溶媒メチルアルコール)などが挙げられる。
これらコロイダルシリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
コロイダルシリカの含浸方法としては特に制限されないが、例えばコロイダルシリカに鋳型前駆体を浸漬する方法(どぶ漬け法);流し塗り(ぶっかけ)法、スプレー法、刷毛塗り法等により、コロイダルシリカを鋳型前駆体に塗布する方法などが挙げられる。
【0047】
コロイダルシリカの含浸量は、1~10質量%が好ましく、2~8質量%がより好ましく、3~7質量%がさらに好ましい。コロイダルシリカの含浸量が上記下限値以上でれば、鋳型全体としてのSiOとM(M=KO又はNaO)のモル比(SiO/M)が充分に高まり、鋳型の耐熱性がより向上する。コロイダルシリカの含浸量が上記上限値以下でれば、モル比を高め過ぎずに、鋳型の強度を維持できる。
以下、本明細書において鋳型全体としてのSiOとM(M=KO又はNaO)のモル比(SiO/M)を「鋳型のモル比」ともいう。
コロイダルシリカの含浸量の求め方の詳細は、後述する実施例において説明する。
【0048】
水ガラスとしては特に限定されず、従来公知のものを使用できる。例えば珪酸ナトリウム(具体的にはJIS K 1408:1966に記載されている1号、2号、3号やメタ珪酸ナトリウム(1種、2種))、珪酸カリウムや、これらの混合物を用いることができる。
また、水ガラスにおけるSiOとM(M=KO又はNaO)のモル比(SiO/M)は、1.9~4.0が好ましく、2.0~3.5がより好ましく、2.0~3.2がさらに好ましく、2.0以上3.1未満が特に好ましく、2.1~3.0が最も好ましい。水ガラスのモル比が上記下限値以上であれば、充分な硬化速度が得られる。水ガラスのモル比が上記上限値以下であれば、水ガラスが析出しにくく、鋳型前駆体に水ガラスが充分に含浸する。
【0049】
水ガラスの含浸方法としては特に制限されないが、コロイダルシリカの含浸方法と同様の方法が挙げられる。
水ガラスの含浸量は、1~10質量%が好ましく、2~8質量%がより好ましく、3~7質量%がさらに好ましい。水ガラスの含浸量が上記下限値以上でれば、鋳型のモル比が充分に高まり、鋳型の耐熱性がより向上する。水ガラスの含浸量が上記上限値以下でれば、鋳型中のアルカリ金属量を抑制し、鋳型のモル比の低下を防ぐことができる。
水ガラスの含浸量の求め方の詳細は、後述する実施例において説明する。
【0050】
鋳型前駆体へのコロイダルシリカ及び水ガラスの含浸順序としては特に制限されない。
鋳型前駆体へのコロイダルシリカの含浸工程を「工程(α)」とし、鋳型前駆体への水ガラスの含浸工程を「工程(β)」としたときに、工程(α)の後に工程(β)を行ってもよいし、工程(β)の後に工程(α)を行ってもよい。また、工程(α)と工程(β)とを繰り返し行ってもよい。
鋳型のモル比がより高まり、鋳型の耐熱性がより向上する観点では、工程(α)の後に工程(β)を行うことが好ましい。
【0051】
また、工程(α)と工程(β)との間、又は工程(β)と工程(α)の間で乾燥工程を行ってもよい。特に、工程(α)の後に工程(β)を行う場合は、耐火性粒状材料にコロイダルシリカが充分に付着しやすくなるとともに、水ガラスの鋳型表面への析出を抑制できる観点から、工程(α)と工程(β)との間に乾燥工程を行うことが好ましい。
工程(α)と工程(β)との間に乾燥工程を行う場合、乾燥温度は100~200℃が好ましく、110~150℃がより好ましく、120~130℃がさらに好ましい。乾燥温度が上記下限値以上であれば、コロイダルシリカに含まれる溶媒の除去、及び鋳型中の粘結剤の硬化をより高めることができる。乾燥温度が上記上限値以下であれば、鋳型中の粘結剤の分解を抑制することができる。乾燥時間は特に制限されず、鋳型の形状や大きさに応じて適宜決定すればよい。
工程(β)と工程(α)との間に乾燥工程を行う場合、乾燥温度は100~200℃が好ましく、110~150℃がより好ましく、120~130℃がさらに好ましい。乾燥温度が上記下限値以上であれば、水ガラスに含まれる溶媒の除去、及び鋳型中の粘結剤の硬化をより高めることができる。乾燥温度が上記上限値以下であれば、鋳型中の粘結剤の分解を抑制することができる。乾燥時間は特に制限されず、鋳型の形状や大きさに応じて適宜決定すればよい。
乾燥工程を行う場合は、乾燥工程の後、鋳型前駆体を室温(25℃)まで冷却した後に工程(α)又は工程(β)を行うことが好ましい。
【0052】
<硬化工程>
硬化工程は、鋳型前駆体に含浸させた水ガラスを硬化させる工程である。
硬化温度は、100~300℃が好ましく、100~250℃がより好ましく、100~200℃がさらに好ましい。硬化温度が上記下限値以上であれば、水ガラスが短時間で充分に硬化する。乾燥温度が上記上限値以下であれば、鋳型中の粘結剤の分解を抑制でき、常温時の強度が優れる。なお、上述した乾燥工程を行う場合、硬化温度は乾燥温度よりも高いことが好ましい。
硬化時間は特に制限されず、鋳型の形状や大きさに応じて適宜決定すればよい。
【0053】
硬化工程後の鋳型のモル比は4~10が好ましく、5~9がより好ましく、6~8がさらに好ましい。鋳型のモル比が上記下限値以上であれば、鋳型の耐熱性がより向上する。その結果、鋳型が高温に曝されても耐えられる程度の強度を維持しつつ、鋳型の形状を良好に維持できる。特に鋳型が複雑な形状であっても、その形状を良好に維持できる。鋳型のモル比が高くなるほど、耐熱性も高まる傾向にあるが、モル比が高くなりすぎると、無機粘結剤としての接着力は逆に低下し、強度が低下することがある。鋳型のモル比が上記範囲内であれば、鋳型の耐熱性と強度のバランスに優れる。
特に、前駆体鋳型を方法(ii)で製造した場合、硬化工程後の鋳型のモル比は5~9が好ましく、5.5~7がより好ましい。
鋳型のモル比の求め方の詳細は、後述する実施例において説明する。
【0054】
水ガラスの硬化の後に室温(25℃)まで冷却し(冷却工程)、鋳型(硬化体)を得る。
冷却方法としては公知の方法を採用でき、例えば室温で自然冷却する方法、送風を利用して強制冷却する方法などが挙げられる。
【0055】
硬化工程で得られた鋳型(硬化体)には、有機粘結剤の硬化物と、無機粘結剤の硬化物(主に水ガラスの硬化物)が含まれているが、有機粘結剤及びその硬化物は注湯時に熱分解することがある。有機粘結剤及びその硬化物が熱分解するとガス(熱分解ガス)が発生し、鋳物に欠陥が生じたり、臭気による作業環境が悪化したりする場合がある。
そこで、鋳型から有機粘結剤及びその硬化物を消失させたい場合には、後述の焼成工程を行うことが好ましい。
なお、硬化工程の後に焼成工程を行う場合は、硬化工程と焼成工程の間に冷却工程を設けなくてもよい。
【0056】
<焼成工程>
焼成工程は、硬化工程で得られた鋳型(硬化体)を焼成する工程である。
焼成工程を行うことで、硬化体に含まれる有機粘結剤及びその硬化物が熱分解してガス化し、熱分解ガスとして鋳型から除去される。
焼成工程で得られた鋳型(焼成体)には、無機粘結剤の硬化物(主に水ガラスの硬化物)が含まれる。
【0057】
焼成温度は、硬化体に含まれる有機粘結剤の種類に応じて決定すればよいが、有機粘結剤の分解温度以上が好ましく、コロイダルシリカ及び水ガラスの分解温度未満が好ましい。
具体的には、焼成温度は350~1000℃が好ましく、400~800℃がより好ましい。焼成温度が上記下限値以上であれば、有機粘結剤及びその硬化物が充分に熱分解する。焼成温度が上記限上値以下であれば、コロイダルシリカ及び水ガラスや、水ガラス等の硬化物が熱分解しにくい。
焼成時間は、硬化体に含まれる有機粘結剤及びその硬化物が充分に熱分解する時間であれば特に制限されず、鋳型の形状や大きさに応じて適宜決定すればよい。
硬化体の焼成方法としては公知の方法を採用でき、例えば電気炉、オーブンを用いる方法などが挙げられる。
【0058】
硬化体の焼成の後に室温(25℃)まで冷却し(冷却工程)、鋳型(焼成体)を得る。
冷却方法としては公知の方法を採用でき、例えば室温で自然冷却する方法、送風を利用して強制冷却する方法などが挙げられる。
【0059】
<作用効果>
上述したように、従来、有機粘結剤で造型した鋳型(鋳型前駆体)に水ガラスを含浸させて鋳型を製造したり、水ガラスを用い、三次元積層造形により鋳型を製造したりする方法が知られている。水ガラスのモル比が高いと析出が生じるため、水ガラスの含浸性が低下する傾向にあることから、モル比の低い水ガラスを使用することが一般的である。
しかし、モル比の低い水ガラスは低融点であることから、モル比の低い水ガラスを用いて製造した鋳型は耐熱性が低く、注湯時の温度が高い鋳物を鋳造する場合には不向きである。鋳型の耐熱性が低いと焼き付きや照らされ等の鋳造欠陥や変形が発生することがある。
【0060】
本実施形態の鋳型の製造方法によれば、有機粘結剤で作製した鋳型前駆体にコロイダルシリカと水ガラスを別々に含浸させるので、鋳型のモル比が高まり、耐熱性に優れる鋳型を製造でき、鋳型が高温に曝されても耐えられる程度の強度を維持しつつ、鋳型の形状を良好に維持できる。また、モル比の高い水ガラスを用いる必要がないため、鋳型前駆体に水ガラスを充分に含浸できる。
【0061】
なお、耐火性粒状材料と粘結剤とを混合して混練砂を鋳型造型用型に充填して鋳型を製造する方法であれば、粘結剤としてモル比の高い水ガラスを使用することもできる。しかし、この方法は、複雑な形状の鋳型を製造するには不向きである。
しかし、本実施形態の鋳型の製造方法であれば、鋳型前駆体を三次元積層造形により製造することも可能であり、複雑な形状の鋳型であっても容易に製造できる。
【0062】
また、本実施形態の鋳型の製造方法であれば、硬化工程における硬化温度を必要以上に高くする必要がなく、例えば100~300℃程度の比較的低い温度で、水ガラスは充分に硬化する。そのため、硬化工程の間に鋳型前駆体中の有機粘結剤及びその硬化物が熱分解しにくく、有機粘結剤及びその硬化物が熱分解する前に無機粘結剤である水ガラスの粘結力が充分に発揮され、複雑な形状の鋳型であっても変形しにくく、寸法精度の良好な鋳型が得られやすい。
しかも、硬化工程の後に焼成工程を行えば、鋳型から有機粘結剤及びその硬化物が充分に除去されるので、鋳造時に有機粘結剤及びその硬化物の熱分解ガスが発生しにくい。そのため、鋳造時の作業環境が良好であり、かつ熱分解ガスに起因する鋳物の欠陥を抑制できる。
【実施例
【0063】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各例で用いた材料を以下に示す。また、各種測定方法は以下の通りである。
【0064】
[使用材料]
耐火性粒状材料として、焼結法により得られた人工砂(Al-SiOを95質量%含むもの、伊藤忠セラテック株式会社製の商品名「CB-X#1450」、粒子径53~150μm)を用いた。
【0065】
有機粘結剤として、以下に示すものを用いた。
・有機粘結剤(i):フルフリルアルコールを87.8質量部と、ビスフェノールAを10.0質量部と、レゾルシノールを2.0質量部と、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランを0.2質量部との混合物であるフラン系バインダ。
・有機粘結剤(ii):フルフリルアルコールを89.8質量部と、レゾルシノールを10.0質量部と、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランを0.2質量部との混合物であるフラン系バインダ。
【0066】
硬化剤として、以下に示すものを用いた。
・硬化剤(iii):キシレンスルホン酸55質量部と、硫酸10質量部と、水35質量部との混合物である硬化剤水溶液。
・硬化剤(iv):キシレンスルホン酸60質量部と、水40質量部との混合物である硬化剤水溶液。
【0067】
コロイダルシリカとして、平均粒子径が9nmのシリカ粒子が水に分散した分散液(日産化学株式会社製、商品名「スノーテックスOS」、SiO固形分20質量%)を用いた。
【0068】
水ガラスとして、以下に示すものを用いた。
・水ガラス(v):富士化学工業株式会社製の珪酸ナトリウム水溶液(モル比(SiO/NaO):2.1)に水を添加し、25℃での比重が1.242となるように調整した水溶液。
・水ガラス(vi):富士化学工業株式会社製の珪酸ナトリウム水溶液(モル比(SiO/NaO):2.3)に水を添加し、25℃での比重が1.214となるように調整した水溶液。
・水ガラス(vii):富士化学工業株式会社製の珪酸ナトリウム水溶液(モル比(SiO/NaO):2.5)に水を添加し、25℃での比重が1.210となるように調整した水溶液。
・水ガラス(viii):富士化学工業株式会社製の珪酸ナトリウム水溶液(モル比(SiO/NaO):2.7)に水を添加し、25℃での比重が1.206となるように調整した水溶液。
・水ガラス(ix):富士化学工業株式会社製の珪酸ナトリウム水溶液(モル比(SiO/NaO):3.2)に水を添加し、25℃での比重が1.174となるように調整した水溶液。
【0069】
[算出方法]
<コロイダルシリカの含浸量の算出>
コロイダルシリカを含浸する直前の鋳型前駆体の質量(W)を測定した。コロイダルシリカを含浸させ、加熱処理した後の鋳型前駆体の質量(W)を測定した。下記式(1)よりコロイダルシリカの含浸量(S)を求めた。
コロイダルシリカの含浸量[質量%]=(W-W)/W×100 ・・・(1)
【0070】
<水ガラスの含浸量の算出>
水ガラスを含浸する前の直鋳型前駆体の質量(W)を測定した。水ガラスを含浸させ、加熱処理した後の鋳型前駆体の質量(W)を測定した。下記式(2)より水ガラスの含浸量(G)を求めた。
水ガラスの含浸量[質量%]=(W-W)/W×100 ・・・(2)
【0071】
<コロイダルシリカ及び水ガラスの総含浸量の算出>
工程(α)と工程(β)との間、又は工程(β)と工程(α)の間で乾燥工程を行わずに鋳型を製造した場合は、以下のようにコロイダルシリカ及び水ガラスの総含浸量として算出した。
コロイダルシリカ及び水ガラスを含浸する直前の鋳型前駆体の質量(W)を測定した。コロイダルシリカ及び水ガラスの一方を含浸させた後、残りの一方を含浸させ、加熱処理した後の鋳型前駆体の質量(W)を測定した。下記式(3)よりコロイダルシリカの含浸量を求めた。
総含浸量[質量%]=(W-W)/W×100 ・・・(3)
【0072】
<鋳型のモル比の算出>
鋳型(テストピース)のモル比(SiO/NaO)を下記式(4)より求めた。なお、下記式(4)中のMは下記式(5)より求め、下記式(4)中のMは下記式(6)より求めた。
SiO/NaO=M/M ・・・(4)
[mol]=(G/100)/(60.1×N+62.0) ・・・(5)
[mol]=(M×N)+{(S/100)/60.1} ・・・(6)
なお、式(5)及び式(6)中の「N」は鋳型前駆体に含浸させた水ガラスのモル比であり、「G」は水ガラスの含浸量であり、「S」はコロイダルシリカの含浸量である。
【0073】
[測定方法]
<曲げ強さの測定>
各実施例および比較例で得られたテストピースの曲げ強さをJACT試験法SM-1に記載の測定方法を用いて測定した。
【0074】
<ガス発生量の測定>
鋳型を1000℃の雰囲気下で5分間加熱処理し、鋳物を作製する際と同様の雰囲気に鋳型を曝した。加熱処理時におけるガス発生量をJACT試験法M-5「ガス発生量測定法」に従って測定した。
【0075】
[実施例1]
<鋳型前駆体の製造>
耐火性粒状材料100質量部と硬化剤(iii)0.3質量部とをミキサーに投入し、1分間撹拌した。引き続き、有機粘結剤(i)1.5質量部を添加して、さらに1分間撹拌し、混合物(A1-1)を得た。
得られた混合物(A1-1)を、直ちに温度25℃、湿度50%の条件下、縦10mm、横60mm、高さ10mmの直方体の型が形成された鋳型前駆体作製用の木型に充填して硬化させ、硬化開始から3時間経過後に木型から、縦10mm、横60mm、高さ10mmの直方体状の鋳型前駆体を取り出し(抜型時間3時間)、温度25℃、湿度50%の条件下、硬化開始から24時間放置した。
【0076】
<テストピースの製造>
放置後の鋳型前駆体にコロイダルシリカを室温(25℃)で60秒含浸させた後(工程(α))、120℃で1時間、加熱処理した(乾燥工程)。乾燥工程後の鋳型前駆体を室温(25℃)まで冷却し、水ガラス(v)を室温(25℃)で60秒含浸させた後(工程(β))、200℃で1時間、加熱処理した(硬化工程)。硬化工程後の鋳型前駆体を室温(25℃)まで冷却し、テストピース(硬化体)を得た。
なお、工程(α)はコロイダルシリカに鋳型前駆体を浸漬する方法により行い、工程(β)は水ガラスに鋳型前駆体を浸漬する方法により行った。
コロイダルシリカ及び水ガラスの含浸量と、鋳型としてテストピース(硬化体)のモル比を算出した。結果を表1に示す。
得られたテストピース(硬化体)の曲げ強さ及びガス発生量を測定した。結果を表1に示す。
別途、テストピース(硬化体)を800℃に設定した電気炉内で5分間、加熱処理した。電気炉から取り出した直後のテストピースの曲げ強さを測定した。結果を表1に示す。
【0077】
[実施例2~5]
表1に示す種類の水ガラスを用いた以外は、実施例1と同様にしてテストピース(硬化体)を製造し、各種測定等を行った。結果を表1に示す。
【0078】
[比較例1]
実施例1と同様にして鋳型前駆体を製造した。
放置後の鋳型前駆体を120℃で1時間、加熱処理したものをテストピースとして用い、各種測定等を行った。結果を表2に示す。
【0079】
[比較例2]
工程(β)及び硬化工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてテストピースを製造し、各種測定等を行った。結果を表2に示す。
【0080】
[比較例3~7]
表1に示す種類の水ガラスを用い、かつ工程(α)及び乾燥工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてテストピースを製造し、各種測定等を行った。結果を表2に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
表1の結果より、実施例1~5で得られたテストピース(硬化体)は、800℃の高温で加熱処理しても曲げ強さが高く、高温に曝されても耐えられる程度の耐熱性を有していた。また、800℃の高温で加熱処理しても形状の変化は認められなかった。
対して、表2の結果より、比較例1、2で得られたテストピースは、800℃の高温で加熱処理すると電気炉から取り出した際に崩壊したため、曲げ強さは測定できず、耐熱性に劣っていた。
比較例3~7で得られたテストピースは、800℃の高温で加熱処理すると電気炉から取り出した際に変形したため、曲げ強さは測定できず、耐熱性に劣っていた。
【0084】
[実施例6~10]
表3に示す種類の水ガラスを用いた以外は、実施例1と同様にしてテストピース(硬化体)を製造した。
得られたテストピース(硬化体)を800℃に設定した電気炉内で1時間、加熱処理した(焼成工程)。電気炉内の温度が32℃になるまで放冷し、その間、焼成工程後の鋳型前駆体を電気炉内にて放置した後、電気炉内から取り出し、さらに室温(25℃)まで冷却し、テストピース(焼成体)を得た。
コロイダルシリカ及び水ガラスの含浸量と、鋳型としてテストピース(焼成体)のモル比を算出した。結果を表3に示す。
得られたテストピース(焼成体)の曲げ強さ及びガス発生量を測定した。結果を表3に示す。
別途、テストピース(焼成体)を800℃に設定した電気炉内で5分間、加熱処理した。電気炉から取り出した直後のテストピースの曲げ強さを測定した。結果を表3に示す。
【0085】
[比較例8]
表3に示す種類の水ガラスを用い、かつ工程(α)及び乾燥工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてテストピース(硬化体)を製造した。
得られたテストピース(硬化体)を800℃に設定した電気炉内で1時間、加熱処理した(焼成工程)。電気炉内の温度が32℃になるまで放冷し、その間、焼成工程後の鋳型前駆体を電気炉内にて放置した後、電気炉内から取り出し、さらに室温(25℃)まで冷却し、テストピース(焼成体)を得た。
コロイダルシリカ及び水ガラスの含浸量と、鋳型としてテストピース(焼成体)のモル比を算出した。結果を表3に示す。
得られたテストピース(焼成体)の曲げ強さ及びガス発生量を測定した。結果を表3に示す。
別途、テストピース(焼成体)を800℃に設定した電気炉内で5分間、加熱処理した。電気炉から取り出した直後のテストピースの曲げ強さを測定した。結果を表3に示す。
【0086】
【表3】
【0087】
表3の結果より、実施例6~10で得られたテストピース(焼成体)は、800℃の高温で加熱処理しても曲げ強さが高く、高温に曝されても耐えられる程度の耐熱性を有していた。また、800℃の高温で加熱処理しても形状の変化は認められなかった。加えて、実施例6~10で得られたテストピース(焼成体)は、ガスの発生量も少なかった。
対して、比較例8で得られたテストピースは、800℃の高温で加熱処理した後の曲げ強さが実施例6~10で得られたテストピースに比べて低く、耐熱性に劣っていた。
【0088】
[実施例11]
表4に示す種類の水ガラスを用いた以外は、実施例1と同様にしてテストピース(硬化体)を製造し、各種測定等を行った。結果を表4に示す。
【0089】
[実施例12]
表4に示す種類の水ガラスを用い、かつ工程(α)と工程(β)の順序を入れ替えた以外は、実施例1と同様にしてテストピース(硬化体)を製造し、各種測定等を行った。結果を表4に示す。
【0090】
[実施例13]
表4に示す種類の水ガラスを用い、かつ工程(α)と工程(β)の間の乾燥工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてテストピース(硬化体)を製造し、各種測定等を行った。結果を表4に示す。
【0091】
[実施例14]
表4に示す種類の水ガラスを用い、かつ工程(α)と工程(β)の順序を入れ替え、さらに工程(β)と工程(α)の間の乾燥工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてテストピース(硬化体)を製造し、各種測定等を行った。結果を表4に示す。
【0092】
【表4】
【0093】
表4の結果より、実施例11~14で得られたテストピース(硬化体)は、800℃の高温で加熱処理しても曲げ強さが高く、高温に曝されても耐えられる程度の耐熱性を有していた。
特に、実施例11、13で得られたテストピース(硬化体)は、800℃の高温で加熱処理しても形状の変化は認められなかった。
なお、実施例12、14で得られたテストピース(硬化体)は、800℃の高温で加熱処理すると形状の変化が若干、認められたが、実用上、問題のない程度であった。
また、実施例13で得られたテストピース(硬化体)は、表面に析出物が若干、認められたが、実用上、問題のない程度であった。
【0094】
[実施例15]
<鋳型前駆体の製造>
耐火性粒状材料100質量部を120℃に加熱した。次いで、加熱した耐火性粒状材料に硬化剤(iv)を0.5質量部添加し、3分間撹拌して混合物(B-1)を得た。
印刷造形法を用いた三次元積層造形装置(シーメット株式会社製の製品名「砂型積層造形装置 SCM-800」)を用い、リコータを有するブレード機構により混合物(B-1)を三次元積層造形装置に設置された金属ケースの底面に積層した(工程(a))。このとき、リコータのシャッター開口度を49.5°に設定した。
次いで、積層した混合物(B-1)の上に、鋳型前駆体の形状を3DCAD設計して得られたデータに基づいて印刷ノズルヘッドを走査させて、一層分の混合物(B-1)中の耐火性粒状材料100質量部に対して2.0質量部となる吐出量で有機粘結剤(ii)を印刷した(工程(b))。有機粘結剤(ii)を印刷した後、金属ケースの底面(造形テーブル)を一層分(280μm)降下させ、先と同様にして混合物(B-1)を積層し(工程(a))、その上に一層分の混合物(B-1)中の耐火性粒状材料100質量部に対して2.0質量部となる吐出量で有機粘結剤(ii)を印刷した(工程(b))。これら工程(a)と工程(b)を繰り返し行った後、有機粘結剤(ii)の非印刷部分の混合物(B-1)をブラシで除去し、縦10mm、横60mm、高さ10mmの直方体状の鋳型前駆体を得た。
【0095】
<テストピースの製造>
鋳型前駆体にコロイダルシリカを室温(25℃)で60秒含浸させた後(工程(α))、120℃で1時間、加熱処理した(乾燥工程)。乾燥工程後の鋳型前駆体を室温(25℃)まで冷却し、水ガラス(v)を室温(25℃)で60秒含浸させた後(工程(β))、200℃で1時間、加熱処理した(硬化工程)。硬化工程後の鋳型前駆体を室温(25℃)まで冷却し、テストピース(硬化体)を得た。
なお、工程(α)はコロイダルシリカに鋳型前駆体を浸漬する方法により行い、工程(β)は水ガラスに鋳型前駆体を浸漬する方法により行った。
コロイダルシリカ及び水ガラスの含浸量と、鋳型としてテストピース(硬化体)のモル比を算出した。結果を表5に示す。
得られたテストピース(硬化体)の曲げ強さ及びガス発生量を測定した。結果を表5に示す。
別途、テストピース(硬化体)を800℃に設定した電気炉内で5分間、加熱処理した。電気炉から取り出した直後のテストピースの曲げ強さを測定した。結果を表5に示す。
【0096】
[実施例16]
実施例15と同様にしてテストピース(硬化体)を製造した。
得られたテストピース(硬化体)を800℃に設定した電気炉内で1時間、加熱処理した(焼成工程)。電気炉内の温度が32℃になるまで放冷し、その間、焼成工程後の鋳型前駆体を電気炉内にて放置した後、電気炉内から取り出し、さらに室温(25℃)まで冷却し、テストピース(焼成体)を得た。
コロイダルシリカ及び水ガラスの含浸量と、鋳型としてテストピース(焼成体)のモル比を算出した。結果を表5に示す。
得られたテストピース(焼成体)の曲げ強さ及びガス発生量を測定した。結果を表5に示す。
別途、テストピース(焼成体)を800℃に設定した電気炉内で5分間、加熱処理した。電気炉から取り出した直後のテストピースの曲げ強さを測定した。結果を表5に示す。
【0097】
[比較例9]
実施例15と同様にして鋳型前駆体を製造した。
鋳型前駆体を120℃で1時間、加熱処理したものをテストピースとして用い、各種測定等を行った。結果を表5に示す。
【0098】
[比較例10]
工程(α)及び乾燥工程を行わなかった以外は、実施例15と同様にしてテストピースを製造し、各種測定等を行った。結果を表5に示す。
【0099】
【表5】
【0100】
表5の結果より、実施例15で得られたテストピース(硬化体)、及び実施例16で得られたテストピース(焼成体)は、800℃の高温で加熱処理しても曲げ強さが高く、高温に曝されても耐えられる程度の耐熱性を有していた。また、800℃の高温で加熱処理しても形状の変化は認められなかった。特に、実施例16で得られたテストピース(焼成体)は、ガスの発生量も少なかった。
対して、比較例9で得られたテストピースは、800℃の高温で加熱処理すると電気炉から取り出した際に崩壊したため、曲げ強さは測定できず、耐熱性に劣っていた。
比較例10で得られたテストピースは、800℃の高温で加熱処理すると電気炉から取り出した際に変形したため、曲げ強さは測定できず、耐熱性に劣っていた。
【0101】
[実施例17]
鋳型前駆体の形状が図1に示す形状となるように3DCAD設計した以外は、実施例15と同様にして鋳型前駆体を製造した。
得られた鋳型前駆体を用い、乾燥工程における乾燥時間を3.5時間に変更し、硬化工程における硬化時間を2.5時間に変更した以外は実施例15と同様にしてテストピース(硬化体)を製造した。
得られたテストピース(硬化体)を800℃に設定した電気炉内で1時間、加熱処理した(焼成工程)。電気炉内の温度が32℃になるまで放冷し、その間、焼成工程後の鋳型前駆体を電気炉内にて放置した後、電気炉内から取り出し、さらに室温(25℃)まで冷却し、テストピース(焼成体)を得た。
コロイダルシリカ及び水ガラスの含浸量と、鋳型としてテストピース(焼成体)のモル比を算出した。結果を表6に示す。
また、得られたテストピース(焼成体)の写真を図2に示す。図2中の距離R2を測定したところ、18.39mmであった。図1中の距離R1(20mm)と、図2中の距離R2(18.39mm)との差(R1-R2)は1.61mmであり、これを変形量とした。
【0102】
[比較例11]
鋳型前駆体の形状が図1に示す形状となるように3DCAD設計した以外は、実施例15と同様にして鋳型前駆体を製造した。
得られた鋳型前駆体を用い、硬化工程における硬化時間を2.5時間に変更し、かつ工程(α)及び乾燥工程を行わなかった以外は実施例15と同様にしてテストピース(硬化体)を製造した。
得られたテストピース(硬化体)を800℃に設定した電気炉内で1時間、加熱処理した(焼成工程)。電気炉内の温度が32℃になるまで放冷し、その間、焼成工程後の鋳型前駆体を電気炉内にて放置した後、電気炉内から取り出し、さらに室温(25℃)まで冷却し、テストピース(焼成体)を得た。
コロイダルシリカ及び水ガラスの含浸量と、鋳型としてテストピース(焼成体)のモル比を算出した。結果を表6に示す。
また、得られたテストピース(焼成体)の写真を図3に示す。
【0103】
【表6】
【0104】
図2に示すように、実施例17で得られたテストピース(硬化体)は、複雑な形状でありながら、800℃の高温で加熱処理しても、最も変形した箇所における変形量は1.61mmであり、変形しにくかった。
対して、図3に示すように、比較例11で得られたテストピース(硬化体)は、800℃の高温で加熱処理すると、その形状が大きく変形し、耐熱性に劣っていた。
図1
図2
図3