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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】湯面レベル制御装置および該方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/18 20060101AFI20241022BHJP
   G05B 11/32 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
B22D11/18 B
G05B11/32 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021089564
(22)【出願日】2021-05-27
(65)【公開番号】P2022077954
(43)【公開日】2022-05-24
【審査請求日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2020188935
(32)【優先日】2020-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】村上 晃
(72)【発明者】
【氏名】杉原 崇彦
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-200830(JP,A)
【文献】特開2001-129647(JP,A)
【文献】特開2000-322106(JP,A)
【文献】特開平09-136150(JP,A)
【文献】特開平02-160154(JP,A)
【文献】特開2013-103269(JP,A)
【文献】特開2018-086666(JP,A)
【文献】特開2000-312957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00-11/22
G05B 11/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造機のタンディッシュから鋳型に供給される溶鋼量を調整するバルブを、フィードバック制御を用いて制御することによって、前記連続鋳造機の湯面レベルを制御する湯面レベル制御装置であって、
前記湯面レベルと、前記バルブのバルブ開度または操作量と、前記湯面レベルに関わる前記連続鋳造機の伝達関数とに基づいて、前記湯面レベルに印加される外乱を打ち消すための振幅、周期および位相を持つ正弦波成分から成るフィードフォワード補償量を求めるFF補償部と、
前記フィードバック制御を用いて制御する際に、前記フィードバック制御のフィードバック補償量に、前記FF補償部で求めたフィードフォワード補償量を加算する加算部とを備え、
前記湯面レベルと前記バルブのバルブ開度または操作量とが、時間領域における、所定の時間間隔で時系列に並ぶ複数の各値である場合、前記FF補償部は、前記時間領域における前記湯面レベルと前記バルブのバルブ開度または操作量との各値を、前記連続鋳造機で生成される鋳片の長尺方向に座標軸を持つ空間領域での各値に変換し、かつ、前記伝達関数を時間周波数領域から空間周波数領域に変換してから、前記フィードフォワード補償量を求める、
湯面レベル制御装置。
【請求項2】
前記FF補償部は、互いに異なる複数の周波数について複数の前記正弦波成分を求め、前記複数の正弦波成分の中から、ピークを持つ第1正弦波成分での第1位相、前記第1正弦波成分に対する低周波側の第2正弦波成分での第2位相、および、前記第1正弦波成分に対する高周波側の第3正弦波成分での第3位相それぞれについて、前記外乱の打ち消し量を求め、前記第1ないし第3位相の中から、最も前記外乱を打ち消す位相を前記フィードバック補償量の位相として選択する、
請求項1記載の湯面レベル制御装置。
【請求項3】
前記バルブの操作量におけるレートの絶対値が所定の第1閾値より大きい場合には、前記フィードバック制御のゲインを現在値より小さく変更し、前記バルブの操作量におけるレートの絶対値が前記第1閾値より小さい正の所定の第2閾値より小さい場合には、前記フィードバック制御のゲインを現在値より大きく変更するゲインタイプ変更部をさらに備える、
請求項1または請求項に記載の湯面レベル制御装置。
【請求項4】
制御対象のモデル化誤差の位相差がπ/3である時間周波数より低周波側であり、かつ、鋳型内湯面の表面波の時間周波数より低周波側である時間周波数領域で、フィードフォワード補償を行う、
請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の湯面レベル制御装置。
【請求項5】
連続鋳造機のタンディッシュから鋳型に供給される溶鋼量を調整するバルブを、フィードバック制御を用いて制御することによって、前記連続鋳造機の湯面レベルを制御する湯面レベル制御方法であって、
前記湯面レベルと、前記バルブのバルブ開度または操作量と、前記湯面レベルに関わる前記連続鋳造機の伝達関数とに基づいて、前記湯面レベルに印加される外乱を打ち消すための振幅、周期および位相を持つ正弦波成分から成るフィードフォワード補償量を求めるFF補償工程と、
前記フィードバック制御を用いて制御する際に、前記フィードバック制御のフィードバック補償量に、前記FF補償工程で求めたフィードフォワード補償量を加算する加算工程とを備え、
前記湯面レベルと前記バルブのバルブ開度または操作量とが、時間領域における、所定の時間間隔で時系列に並ぶ複数の各値である場合、前記FF補償工程は、前記時間領域における前記湯面レベルと前記バルブのバルブ開度または操作量との各値を、前記連続鋳造機で生成される鋳片の長尺方向に座標軸を持つ空間領域での各値に変換し、かつ、前記伝達関数を時間周波数領域から空間周波数領域に変換してから、前記フィードフォワード補償量を求める、
湯面レベル制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造機における鋳型内の湯面レベルを制御する湯面レベル制御装置および湯面レベル制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼を連続的に凝固させることによって、一定の形の半製品である鋼片を製造する連続鋳造機では、いわゆるバルジングと呼ばれる現象が生じる。このバルジングは、凝固殻が内部の溶鋼の静圧によって外側に膨らみ、この膨らみが鋳造中の鋳片が引き抜かれる際に凹み、このような膨らみと凹むとが周期的に繰り返す現象である。このバルジングによって凝固殻中の溶鋼の表面(湯面)が上下する(湯面レベルが変動する)。このため、バルジングによる湯面レベル変動を抑制し、鋳型内の湯面レベルを一定に保持することは、鋳片(鋼片)の品質を良好に保つ上で、重要である。この湯面レベルを一定に保持する技術は、例えば、特許文献1および特許文献2に開示されている。
【0003】
この特許文献1に開示された連続鋳造機のモールド湯面レベル制御装置は、金属溶湯の連続鋳造機でモールド内の湯面レベルを測定し、湯面レベル測定値と湯面レベル目標値との偏差を用いて求めた開度指令に従って前記モールドへの注湯手段の開度を、湯面レベルを前記湯面レベル目標値に保つべく制御する装置であって、前記湯面レベル測定値と前記湯面レベル目標値とに基づいて、前記注湯手段の開度を調節する開度制御部と、前記湯面レベル測定値と前記注湯手段の開度実績とに基づいて、前記金属溶湯を前記モールドに注湯するときの外乱を推定して外乱量推定値を算出する外乱推定部と、前記外乱推定部より算出された前記外乱量推定値と、前記連続鋳造機の鋳造速度とに基づいて、非定常バルジングの変動周期を算出するバルジング可視化監視部と、を備え、前記バルジング可視化監視部は、前記外乱量推定値と前記鋳造速度とを取得するデータ取得部と、前記データ取得部により所定期間において取得された前記外乱量推定値の時系列データを、前記鋳造速度の積分値である鋳造長に基づくオーバーサンプリング前データに変換し、前記鋳造長に基づくオーバーサンプリング前データをオーバーサンプリングしてオーバーサンプリング後データを生成するオーバーサンプリング部と、前記鋳造長に基づくオーバーサンプリング後データについて高速フーリエ変換解析を行い、非定常バルジングの発生する非定常バルジング発生ロールピッチの距離周波数スペクトルを算出するFFT処理部と、前記距離周波数スペクトルのピークを検出して前記非定常バルジング発生ロールピッチを算出し、前記非定常バルジング発生ロールピッチと前記鋳造速度とに基づいて前記非定常バルジングの変動周期を算出するピーク検出部と、を備える。
【0004】
このような特許文献1に開示された連続鋳造機のモールド湯面レベル制御装置は、外乱推定部(外乱推定オブザーバ)で外乱を推定している。この推定の段階では、前記外乱の推定が鋳造長に基づいておらず、外乱推定オブザーバでは、外乱推定オブザーバ自体に動特性があることから、推定される外乱には位相遅れが生じてしまう。このため、外乱の鋳片長に基づく周波数(または周期)、振幅および位相のうち、前記周波数(または周期)が正確に得られたとしても、位相が遅れ、振幅が小さくなってしまい、位相と振幅とを正確に得ることができない。
【0005】
一方、前記特許文献2に開示された連続鋳造機の湯面レベル制御装置は、連続鋳造機の鋳型内の湯面レベルを検出し、検出した湯面レベルと予め定めた目標レベルとの偏差を求め、求めた偏差により溶湯の前記鋳型への入口の開度の変更量を演算し、演算した変更量に従って前記開度を変更し、前記湯面レベルを前記目標レベルに保つべく制御する装置であって、湯面レベルに含まれる周期性レベル変動の周波数を検知する周波数検知部と、該周波数検知部にて検知した周波数で信号を発振する発振器と、前記周期性レベル変動を相殺するような位相および振幅を演算する位相・振幅演算部と、前記発振器が発振して前記位相・振幅演算部が演算した位相および振幅を有する信号を前記演算した変更量に加算して開度の変更量を補正する加算器とを備える。
【0006】
このような特許文献2に開示された連続鋳造機の湯面レベル制御装置は、フィードバック制御とは別の信号を加算しているため、フィードバック制御では制御が難しい高周波の外乱や複数の周波数の外乱を抑制できる可能性がある。しかしながら、前記特許文献2では、「湯面レベルの信号に含まれる」変動の周波数のみを検知しているため、操作量の変動の周波数、または、流量調節器の開度の変動の周波数は、含まれていない。したがって、仮に外乱が抑制され、振動性のレベル変動が無くなった場合、前記特許文献2に開示された連続鋳造機の湯面レベル制御装置を適用することができない。また、操作量により生じるレベル変動を、外乱に起因したレベル変動と認識する可能性がある。すなわち、操作量の影響が考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-143414号公報
【文献】特開2002-059249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来、湯面レベルの制御には、次の問題がある。1つ目の問題は、フィードバック制御の限界である。湯面レベルの制御における制御対象は、積分系であるため、位相が90度遅れてしまう。このため、フィードック制御では、バルジングにより生じる湯面レベルの変動の周波数において、位相を進め、ゲインを高くする必要がある。これは、特定周波数の外乱を抑制可能であるが、安定性を確保するために、制御帯域を狭くしてしまうことが確認されている。このため、複数周波数の外乱が印加したり、周波数が変化したり、高周波の外乱が印加したりした場合、その対応が難しい。
【0009】
この対策は、2つ、考えられる。まず、1つ目の対策は、制御帯域を犠牲にして狭くし、低周波側の外乱は、抑制し難くなるが、特定周波数の外乱を抑制する方法である。2つ目の対策は、特定周波数の外乱抑制には限界があるが、制御帯域を広く確保して低周波側の外乱を抑制する方法である。
【0010】
この2つ目の対策(方法)では、複数の周波数の外乱が印加しても、周波数が変化しても、高周波の外乱が印加しても、主に低周波側の外乱を抑制することで、湯面レベルの変動を小さく保つことができた。しかしながら、バルジングにより発生する外乱を零近くまで抑制することができず、近年の品質の厳格化および生産能力の確保への対応が望まれる。
【0011】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、フィードバック制御の広い制御帯域を維持しつつ、周期的なバルジング外乱を抑制できる湯面レベル制御装置および湯面レベル制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる湯面レベル制御装置は、連続鋳造機のタンディッシュから鋳型に供給される溶鋼量を調整するバルブを、フィードバック制御を用いて制御することによって、前記連続鋳造機の湯面レベルを制御する装置であって、前記湯面レベルと、前記バルブのバルブ開度または操作量と、前記湯面レベルに関わる前記連続鋳造機の伝達関数とに基づいて、前記湯面レベルに印加される外乱を打ち消すための振幅、周期および位相を持つ正弦波成分から成るフィードフォワード補償量を求めるFF補償部と、前記フィードバック制御を用いて制御する際に、前記フィードバック制御のフィードバック補償量に、前記FF補償部で求めたフィードフォワード補償量を加算する加算部とを備える。
【0013】
このような湯面レベル制御装置は、外乱を打ち消すために、振幅および周期だけでなく、位相も求めているので、フィードフォワード補償により外乱による湯面レベルの変動を抑制できる。上記湯面レベル制御装置は、フィードバック補償量にフィードフォワード補償量を加算するので、フィードバック制御に影響し難いため、フィードバック制御の帯域を広いまま維持できる。したがって、上記湯面レベル制御装置は、フィードバック制御の広い制御帯域を維持しつつ、周期的なバルジング外乱を抑制できる。
【0014】
他の一態様では、上述の湯面レベル制御装置において、前記湯面レベルと前記バルブのバルブ開度または操作量とが、時間領域における、所定の時間間隔で時系列に並ぶ複数の各値である場合、前記FF補償部は、前記時間領域における前記湯面レベルと前記バルブのバルブ開度または操作量との各値を、前記連続鋳造機で生成される鋳片の長尺方向に座標軸を持つ空間領域での各値に変換し、かつ、前記伝達関数を時間周波数領域から空間周波数領域に変換してから、前記フィードフォワード補償量を求める。
【0015】
鋳造速度が変更した場合、時間領域では、鋳片上での各値の間隔も変更され、影響を受ける。上記湯面レベル制御装置は、時間周波数領域から空間周波数領域に変更するので、このような影響を受けること無く、フィードフォワード補償量を適切に求めることができ、湯面レベルを適切に制御できる。
【0016】
他の一態様では、これら上述の湯面レベル制御装置において、前記FF補償部は、互いに異なる複数の周波数について複数の前記正弦波成分を求め、前記複数の正弦波成分の中から、ピークを持つ第1正弦波成分での第1位相、前記第1正弦波成分に対する低周波側の第2正弦波成分での第2位相、および、前記第1正弦波成分に対する高周波側の第3正弦波成分での第3位相それぞれについて、前記外乱の打ち消し量を求め、前記第1ないし第3位相の中から、最も前記外乱を打ち消す位相を前記フィードフォワード補償量の位相として選択する。
【0017】
フィードフォワード補償量が、ピークを持つ第1正弦波成分から成ってよいが、第1正弦波成分が、外乱を打ち消す望ましい位相に対して逆位相になる場合も有り得る。上記湯面レベル制御装置は、第1ないし第3正弦波成分における第1ないし第3位相の中から、最も前記外乱を打ち消す位相を前記フィードフォワード補償量の位相として選択するので、より適切な位相を選択できる。複数の周波数の外乱が印加する場合であっても、上記湯面レベル制御装置は、対応できる。例えば、ピークが隣接する場合、位相も隣接するピークの周波数近傍で大きく変化するが、外乱を打ち消す位相を、前記外乱の打ち消し量を求めて判断することで、上記湯面レベル制御装置は、適切な位相を選択できる。
【0018】
他の一態様では、これら上述の湯面レベル制御装置において、前記バルブの操作量におけるレートの絶対値が所定の第1閾値より大きい場合には、前記フィードバック制御のゲインを現在値より小さく変更し、前記バルブの操作量におけるレートの絶対値が前記第1閾値より小さい正の所定の第2閾値より小さい場合には、前記フィードバック制御のゲインを現在値より大きく変更するゲインタイプ変更部をさらに備える。
【0019】
このような湯面レベル制御装置は、前記バルブの操作量におけるレートの絶対値に応じた適切なゲインでフィードバック制御を実施でき、バルブを駆動するアクチュエータのレートリミット内(動作速度内)で湯面レベルを制御できる。また、上記湯面レベル制御装置は、モデル化誤差等による制御系の不安定化を防止できる。
【0020】
他の一態様では、これら上述の湯面レベル制御装置において、制御対象のモデル化誤差の位相差がπ/3である時間周波数より低周波側であり、かつ、鋳型内湯面の表面波の時間周波数より低周波側である時間周波数領域で、フィードフォワード補償を行う。
【0021】
このような湯面レベル制御装置は、フィードフォワード補償が、モデル化誤差に対して、ロバスト性を持つ。
【0022】
本発明の一態様にかかる湯面レベル制御方法は、連続鋳造機のタンディッシュから鋳型に供給される溶鋼量を調整するバルブを、フィードバック制御を用いて制御することによって、前記連続鋳造機の湯面レベルを制御する方法であって、前記湯面レベルと、前記バルブのバルブ開度または操作量と、前記湯面レベルに関わる前記連続鋳造機の伝達関数とに基づいて、前記湯面レベルに印加される外乱を打ち消すための振幅、周期および位相を持つ正弦波成分から成るフィードフォワード補償量を求めるFF補償工程と、前記フィードバック制御を用いて制御する際に、前記フィードバック制御のフィードバック補償量に、前記FF補償工程で求めたフィードフォワード補償量を加算する加算工程とを備える。
【0023】
このような湯面レベル制御方法は、外乱を打ち消すために、振幅および周期だけでなく、位相も求めているので、フィードフォワード補償により外乱による湯面レベルの変動を抑制できる。上記湯面レベル制御方法は、フィードバック補償量にフィードフォワード補償量を加算するので、フィードバック制御に影響し難いため、フィードバック制御の帯域を広いまま維持できる。したがって、上記湯面レベル制御方法は、フィードバック制御の広い制御帯域を維持しつつ、周期的なバルジング外乱を抑制できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明にかかる湯面レベル制御装置および湯面レベル制御方法は、フィードバック制御の広い制御帯域を維持しつつ、周期的なバルジング外乱を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態における連続鋳造機の構成を示す模式図である。
図2】湯面レベルの制御に関する前記連続鋳造機のブロック図である。
図3図2に示すFB補償器の構成を示すブロック図である。
図4】PID制御部および2次のフィルタ部を備えるFB補償器において、混合感度問題を解くことによって求められた前記FB補償器のボード線図と周波数整形結果とを示すグラフである。
図5】H∞コントローラにおいて、混合感度問題を解くことによって求められた前記H∞コントローラのボード線図と周波数整形結果とを示すグラフである。
図6】K/A別およびゲインタイプ別の、前記FB補償器における各パラメータを示すルックアップテーブルである。
図7】一例として、前記FB補償器における各パラメータKの補間手法を説明するための図である。
図8】時間領域から空間領域への変換を説明するための図である。
図9】一例として、未知の外乱を操作量のところまで逆算した値(外乱操作量相当値)のシミュレーション結果を示す図である。
図10】高周波の外乱のフィードフォワード補償量を低減するためのゲインを示す図である。
図11】実施形態における湯面レベル制御装置の動作を示すフローチャートである。
図12図11に示すフィードフォワード補償量の演算処理を示すフローチャートである。
図13】等速な鋳造速度な場合におけるシミュレーション結果を示す図である。
図14】可変な鋳造速度な場合におけるシミュレーション結果を示す図である。
図15】比較例におけるシミュレーション結果を示す図である。
図16】モデル化誤差を考慮した場合におけるシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の1または複数の実施形態が説明される。しかしながら、発明の範囲は、開示された実施形態に限定されない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0027】
実施形態における湯面レベル制御装置は、連続鋳造機のタンディッシュから鋳型に供給される溶鋼量を調整するバルブを、フィードバック制御を用いて制御することによって、前記連続鋳造機の湯面レベルを制御する装置である。そして、本実施形態では、この湯面レベル制御装置は、さらに、前記湯面レベルと、前記バルブのバルブ開度または操作量と、前記湯面レベルに関わる前記連続鋳造機の伝達関数とに基づいて、前記湯面レベルに印加される外乱を打ち消すための振幅、周期および位相を持つ正弦波成分から成るフィードフォワード補償量を求めるFF補償部と、前記フィードバック制御を用いて制御する際に、前記フィードバック制御のフィードバック補償量に、前記FF補償部で求めたフィードフォワード補償量を加算する加算部とを備える。すなわち、実施形態における湯面レベル制御装置は、フィードバック補償量に、外乱を打ち消すためのフィードフォワード補償量を加えて湯面レベルを制御する。このような湯面レベル制御装置について、以下、より具体的に説明する。
【0028】
図1は、実施形態における連続鋳造機の構成を示す模式図である。図2は、湯面レベルの制御に関する前記連続鋳造機のブロック図である。
【0029】
実施形態における湯面レベル制御装置CTによって湯面レベルが制御される連続鋳造機CMは、例えば、図1に示すように、タンディッシュTDと、鋳型MDと、複数組のロールRLとを備え、この順で上流側から下流側へ配設されている。
【0030】
タンディッシュTDは、図略の取鍋から溶鋼が流れ込み、前記溶鋼から所定の介在物を除去する装置である。前記介在物は、浮上して分離することで除去される。前記取鍋は、成分を微調整された二次精錬後の溶鋼が注がれ、前記溶鋼を貯留する装置であり、最上部に配設される。なお、前記取鍋でも、介在物の一部が浮上分離で除去される。タンディッシュTDは、前記取鍋の次段に配設される。
【0031】
タンディッシュTDには、その底部に貫通孔が形成され、前記貫通孔には、前記溶鋼を鋳型MDに案内するノズルNZが取り付けられている。ノズルNZには、タンディッシュTDから鋳型MDに供給される溶鋼量を調整するバルブVLが取り付けられている。バルブVLは、例えばスライドバルブ等である。バルブVLには、バルブVLを駆動するアクチュエータACが設けられている。アクチュエータACは、例えばステッピングシリンダ等である。なお、図1に示す例では、バルブVLが用いられているが、溶鋼の流量を調整でき、伝達関数が得られる他の装置、例えば、ストッパ等であってもよい。
【0032】
鋳型MDは、タンディッシュTDからノズルNZを介して前記溶鋼が流れ込み、前記溶鋼を冷やして所定の形の鋳片Obを形成する装置である。鋳型MDは、水冷されており、鋳型MDに接触した溶鋼は、その外側から凝固されて相対的に薄肉の凝固殻(凝固シェル)を形成し、前記所定の形の鋳片Obに形成される。鋳型MDは、タンディッシュTDの次段に配設される。
【0033】
鋳型MDの付近には、鋳型内における溶鋼の表面の高さ(湯面レベル)を測定するレベル測定部1が設けられている。レベル測定部1は、例えば渦流センサ等である。なお、湯面レベルの制御では、鉛直上向きを正とした高さの値が湯面レベルとして用いられる。レベル測定部1は、測定結果の湯面レベルを制御量y(y(s))として湯面レベル制御装置CTへ出力する。湯面レベル制御装置CTは、この湯面レベル(制御量y)等に基づいて、後述のように、操作量u(u(s))を生成し、この操作量uをアクチュエータACに出力する。アクチュエータACは、この操作量uに応じたバルブ開度v(v(s))になるようにバルブVLを駆動する。これによって、ノズルNZを流れる溶鋼の流路における断面積が調整され、タンディッシュTDから鋳型MDに供給される溶鋼量が調整され、湯面レベルが制御される。
【0034】
ロール(ローラ)RLは、鋳型MDから鋳片Obを可変の速度(鋳造速度)で引き抜きつつ、前記鋳片Obを支持する装置である。ロールRLは、鋳片Obの両面それぞれに接するように配設された2個1組で、鋳型MDの次段に、上流側から下流側へ沿って所定の間隔を空けて複数配設される。前記所定の間隔は、等間隔であってよく、あるいは、上流側より下流側の方が広い等の不等間隔であってよい。複数組のロールRLは、鋳造方向(引き抜き方向)が垂直方向から水平方向へ向くように、配設される。複数組のロールRLは、1または複数の駆動ロールと複数の従動ロールとを備えて構成される。
【0035】
なお、連続鋳造機CMは、タンディッシュ内溶鋼質量を求めるためのセンサや、鋳型幅を求めるためのセンサや、鋳造速度を求めるためのセンサ等、公知の各種のセンサ(不図示)もさらに備えている。
【0036】
このような連続鋳造機CMでバルジングが発生すると、その周期は、(バルジングが発生している場所のロールピッチ)/(鋳造速度)であることが確認されている。したがって、時間領域では、バルジングの周期[s]は、鋳造速度に反比例する。一方、鋳片固定の空間領域では、周期[m]は、ロールピッチの値となり、鋳造速度には依存しなくなる。
【0037】
湯面レベルの制御に関する連続鋳造機CMは、ブロック図では、例えば、図2に示すように、湯面レベル制御装置CTと、アクチュエータACと、バルブVL、鋳型MDおよびレベル測定部1を纏めたブロックVL_MD_1とを備え、湯面レベル制御装置CTは、減算器10と、FB補償器11と、FF補償器12と、加算器13とを備える。
【0038】
湯面レベル制御装置CTは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、入出力インターフェースおよびこれら周辺回路を備えたコンピュータ(PLC(Programmable Logic Controller)等を含む)を備えて構成され、これら減算器10、FB補償器11、FF補償器12および加算器13は、所定のプログラムの実行により前記CPUに機能的に構成される。前記メモリは、例えば不揮発性の記憶素子であるROM(Read Only Memory)、書き換え可能な不揮発性の記憶素子であるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)およびプログラムの実行中に生じるデータ等を記憶するいわゆる前記CPUのワーキングメモリとなるRAM(Random Access Memory)等を含む。前記入出力インターフェースは、各種センサや、湯面レベル制御装置CTより上位の装置等との間で所定のデータを入出力する。
【0039】
減算器10は、湯面レベルの目標値と制御量y(s)とが入力され、これら目標値と制御量y(s)との偏差(差)を求め、この求めた偏差をFB補償器11へ出力する。
【0040】
FB補償器11は、減算器10から入力された偏差に応じたフィードバック補償量を後述のように求め、この求めたフィードバック補償量を加算器13へ出力する。
【0041】
FF補償器12は、湯面レベルと、バルブVLのバルブ開度と、前記湯面レベルに関わる連続鋳造機CMの伝達関数とに基づいて、前記湯面レベルに印加される外乱を打ち消すための振幅、周期および位相を持つ正弦波成分から成るフィードフォワード補償量を後述のように求め、この求めたフィードフォワード補償量を加算器13へ出力する。
【0042】
加算器13は、フィードバック制御を用いて制御する際に、FB補償器11から入力された前記フィードバック制御のフィードバック補償量に、FF補償部12で求めたフィードフォワード補償量を加算し、この加算結果をアクチュエータAC、本実施形態ではステッピングシリンダACへ出力する。
【0043】
アクチュエータACの一例としてのステッピングシリンダACは、この操作量u(s)に応じたバルブ開度v(s)になるようにバルブVL、本実施形態ではスライドバルブVLを駆動する。これによって、ノズルNZを流れる溶鋼の流路における断面積が調整され、タンディッシュDTから鋳型MDに供給される溶鋼量が調整され、湯面レベルが制御される。この湯面レベルは、レベル測定部1によって測定される。この際に、湯面レベルに外乱d(s)が印加(重畳)されると、外乱d(s)に影響された湯面レベルがレベル測定部1によって制御量y(s)として測定される。この測定した制御量y(s)は、湯面レベル制御装置CTの減算器10に入力される。ここで、外乱d(s)は、本来、レベル測定部1の前に印加されるが、図2では、レベル測定部1を通った後の値を外乱d(s)としている。
【0044】
このような湯面レベルの制御に関する連続鋳造機CMのブロック図において、アクチュエータAC、バルブVL、鋳型MDおよびレベル測定部1から成る制御対象のブロックにおける伝達関数P(s)は、次式1のように表される。
【0045】
【数1】
【0046】
ここで、TSCは、ステッピングシリンダACの時定数(アクチュエータACの時定数)であり、LSCは、ステッピングシリンダACのむだ時間(アクチュエータACのむだ時間)であり、Kは、流量係数[m/s](バルブ開度の変化[m]に対する溶鋼の単位時間当たりの流入量[m/s])であり、Aは、鋳型MDの断面積であり、TCDは、レベル測定部1、本実施形態では渦流センサ1の時定数であり、LCDは、レベル測定部1(渦流センサ1)のむだ時間である。一例として、ここでは、TSC=0.2[s]、TCD=0.3[s]、LSC=0.1[s]、LCD=0.12[s]とする。もちろん、TSC、TCD、LSCおよびLCDの各値は、連続鋳造機CMに応じて変更される。流量係数Kおよび鋳型MDの断面積Aは、鋳造条件により変化し、その範囲は、一例として、0.6<K/A<2.1である。K/Aは、タンディッシュ内溶鋼質量、鋳型幅および鋳造速度から公知の演算手法によって求めることができる。前記演算手法は、例えば、「村上晃、西田吉晴、三木尚司、松浦徹、中尾勝、“連続鋳造機湯面レベルH∞制御”、システム制御情報学会論文誌、Vol.10、No.11、pp607-615、1997」(文献1)に開示されている。
【0047】
既知外乱である、鋳造速度変化、タンディッシュ溶鋼質量変化、鋳型幅変化に対し、フィードフォワード補償が用いられている。必要に応じて、湯面レベルSVの変更を考慮することも可能である。具体的な手法は、特開2014-200830号公報に開示されている。鋳造速度変更等の非定常時においても、既知外乱に対し、レベル変動が抑制できる。なお、この既知外乱のフィードフォワード補償量は、操作量の一部として加算されることになるが、以降の実施形態の説明における図面および数式において、記載が省略されている。
【0048】
バルブ開度v(s)から湯面レベルy(s)までの伝達関数Pv2l(s)は、次式2のように表される。
【0049】
【数2】
【0050】
一方、上述のように、レベル測定部1(渦流センサ1)を通った後の値を外乱d(s)としているので、湯面レベルy(s)は、次式3のように表され、式変形により、外乱d(s)は、次式4となる。
【0051】
【数3】
【0052】
【数4】
【0053】
未知の外乱d(s)を操作量u(s)のところまで逆算した値(以下、適宜「外乱操作量相当値」と呼称する)u(s)は、次式5のように表される。
【0054】
【数5】
【0055】
この未知の外乱を打ち消すための補償量(フィードフォワード補償量)ffdist(s)は、基本的に、外乱操作量相当値u(s)の符号を反転した次式6で表される。FF補償器12は、このフィードフォワード補償量ffdist(s)を求めるものである。
【0056】
【数6】
【0057】
ここで、操作量u(s)とは、ステッピングシリンダAC等を制御する位置型の湯面レベル制御装置CTの出力に相当する値を意味し、フィードバック補償量やフィードフォワード補償量等の補償量を足し合わせたものとする。湯面レベル制御装置CTが速度型である場合では、フィードバック補償のレート、フィードフォワード補償等の補償のレートを足し合わせたものを、積分または加算した値となる。
【0058】
なお、バルブ開度v(s)の代わりに操作量u(s)が用いられ、伝達関数Pv2l(s)の代わりに、伝達関数P(s)が用いられてもよい。
【0059】
以下、FB補償器11で求めるフィードバック補償量およびFF補償器12で求めるフィードフォワード補償量について、より具体的に説明する。
【0060】
(フィードバック補償量の演算)
図3は、図2に示すFB補償器の構成を示すブロック図である。図4は、PID制御部および2次のフィルタ部を備えるFB補償器において、混合感度問題を解くことによって求められた前記FB補償器のボード線図と周波数整形結果を示すグラフである。なお、本例では、文献1の加法的な不確かさに対する混合感度問題が用いられている。図5は、H∞コントローラにおいて、混合感度問題を解くことによって求められた前記H∞コントローラのボード線図と周波数整形結果とを示すグラフである。
【0061】
FB補償器11は、例えば、図3に示すように、PID制御部111と、フィルタ部112とを備える。
【0062】
PID制御部111は、減算器10から入力された目標値と制御量y(s)との偏差に基づいて、少なくともP制御を含むPID制御を実行するものである。より具体的には、PID制御部111は、P制御、PI制御、PD制御およびPID制御のうちのいずれかを実行する。PID制御部111は、その出力をフィルタ部112へ出力する。なお、PID制御部111は、比例先行型、微分先行型等であってもよい。さらに、PID制御部111は、不完全微分を備えていてもよいし、ノイズ除去用のフィルタを備えていてもよい。制御を行う周波数は、例えば、ディジタル制御では、周波数0からナイキスト周波数までとなる。
【0063】
フィルタ部112は、ゲインおよび位相を調整するものである。フィルタ部112として、例えば、1次のフィルタ(1次の有理式で表されるフィルタ)や、2次のフィルタ(2次の有理式で表されるフィルタ)等が挙げられる。フィルタ部112は、その出力をフィードバック補償量として加算器13へ出力する。
【0064】
一例として、フィルタ部112が2次のフィルタである場合では、FB補償器11の伝達関数K(s)は、次式F1で表される。
【0065】
【数7】
【0066】
伝達関数K(s)は、式F1に示すPID制御部111の伝達関数KPID(s)と、2次のフィルタ部112の伝達関数とにより構成される。PID制御部111のパラメータは3個(K、T、T)であり、フィルタ部112のパラメータは4個(a、a、b、b)である。FB補償器11は、線形式ではなく、ロバスト安定性と外乱抑制性とのバランスを考慮して、これらの7個のパラメータを例えば混合感度問題を最適化手法で解くことで次のように求める。
【0067】
混合感度問題を最適化手法で解くとは、例えば、混合感度問題を構成する重み関数に含まれる、所定の変数で示される評価関数、の最小値を、混合感度問題等の制約条件の下で、求めることである。
【0068】
周波数をfmin(=0.001)[Hz]から、fmax(=10)[Hz]まで、対数的に等間隔なNω(=200)点の、周波数の変数f(i=1,・・・,Nω)が設定される。ここで、ディジタル制御を行う場合、制御される周波数は、0からナイキスト周波数であるが、本例では、サンプリング周期を0.1[s]とする。したがって、周波数は、0[Hz]からナイキスト周波数の5[Hz]までとなる。下限の周波数は、対数的には0にできないことから、小さな値0.001[Hz]とする。上限の周波数は、ナイキスト周波数近傍で大きい値の10[Hz]とする。周波数fは、2πを乗じることによって、角周波数の変数ω(i=1,・・・,Nω)に変換される。
【0069】
最小化すべき評価関数Jは、変数KW1Hを用いて次式F2のように設定した。式F2の評価関数Jは、次式F3および式F4で表される混合感度問題の重み関数W1H(s)、W2H(s)のゲインを可能な限り大きくして、外乱抑制の周波数帯域を最大化する関数である。
【0070】
【数8】
【0071】
【数9】
【0072】
【数10】
【0073】
各角周波数での制約条件として、混合感度問題のノルム制約は、次式F5のように表される。ただし、σ()は、最大特異値を示す。この式F5は、最適化計算時の精度を担保するため、dBに変換され、次式F6の制約条件となる。
【0074】
【数11】
【0075】
【数12】
【0076】
なお、添え字の「H」は、ハイゲインタイプを意味し、後で、ミドルゲインタイプの「M」と、ローゲインタイプの「L」についても、同様の計算が行われる。
【0077】
また、式F3および式F4を、式F5または式F6に代入する際に、W1H(s)がW(s)に代入され、W2H(s)がW(s)に代入される。後述のミドルゲインタイプおよびローゲインタイプについても、同様の計算が行われる。
【0078】
ここで、PID制御部111のパラメータは、ネガティブフィードバックにするために、それぞれ、K>0、T>0、TD≧0が必須となる。この最適化問題は、非凸で、局所解に陥る場合もあるため、収束し易くするために、各変数に次式F7のような制約条件が設定された。なお、K>0、T>0、TD≧0の制約以外の制約は、局所解に陥る場合を避けるために便宜的に設けたものであり、必須ではない。例えば、本例の多スタート局所探索法では、最適化時に試す初期値の数を増すことによって、便宜的な制約なしで、最適解が求められ得る。
【0079】
【数13】
【0080】
なお、制約条件式F7における最後の2式は、フィルタ部112の減衰係数に制限を加えるものである。すなわち、最後の2式は、零点や極が振動的になり難く、かつ、虚軸に近づき難い領域で最適値を探索するために設定されている。
【0081】
最適化手法には、例えば、多スタート局所探索法が用いられ、初期値は、複数点で試行され、局所解に陥らないような初期値からの最適化結果が採用された。前記初期値は、KW1H=0.1、K=0.2、T=17.6、T=1.0、a=1.0、a=1.0、b=1.0、b=1.0である。ここでは、K/Aは、0.6とした(K/A=0.6)。
【0082】
最適化問題は、式F2の評価関数Jを、式F6および式F7の制約条件の下、最小値を求めることになる。公用の非線形最適化手法(例えば、The MathWorks、Inc.の「Optimization Toolbox」(登録商標)のfmincon関数)を用いることによって、KW1H=0.559485、K=1.031486、T=17.579967、T=0.0、a=0.604110、a=0.229163、b=0.495033、b=0.074074の結果が得られた。
【0083】
PID制御部111は、微分時間Tが0であり、実質的にPI制御となっている。この結果を用いたFB補償器11のボード線図および周波数整形結果が図4に示されている。一方、対比するため、混合感度問題を解くことによって求められたH∞コントローラのボード線図と周波数整形結果とが図5に示されている。このH∞コントローラの算出方法は、例えば、前記文献1に開示されている。図4図5との対比から、FB補償器11は、ほぼH∞コントローラと同性能であることが分かる。
【0084】
このように求められるFB補償器11は、連続鋳造機CMの変化に適応させるため、その制御特性が連続的に変化するように予め複数、設計され、前記メモリに記憶される。例えば、K/Aを0.6から2.1まで0.1ずつで変化させ、各FB補償器11が求められる。K/Aに応じて、順に1(1.0)から16(16.0)まで、実数の番号が付与され、FB補償器番号と呼ぶこととする。K/A=0.6のとき、FB補償器番号は、1(1.0)となり、K/A=2.1のとき、FB補償器番号は、16(16.0)となる。上述の例では、K/A=0.6でハイゲインタイプのFB補償器11が求められたが、ハイゲインタイプのFB補償器11よりも、ゲインが低いタイプであるミドルゲインタイプのFB補償器11も求められ、さらに、ミドルゲインタイプのFB補償器11よりも、ゲインが低いタイプであるローゲインタイプのFB補償器11も求められる。したがって、FB補償器11は、K/Aで16種類あり、ゲインタイプで3種類あり、よって、総計48個の種類となる。これが次表1で示されている。この表1では、ハイゲインタイプは、「H」で表され、ミドルゲインタイプは、「M」で表され、ローゲインタイプは、「L」で表されている。
【0085】
【表1】
【0086】
上述の結果は、H1のFB補償器11であるので、残余のH2ないしH16の各FB補償器11が同様に求められる。
【0087】
ミドルゲインタイプのFB補償器11は、上述の式F2ないし式F4に代え、次式F8ないし式F10を用いることで、同様に、求められる。式F8の評価関数Jは、TW1Mを可能な限り小さくし、結果として、式F9の重み関数W1M(s)のゲインを大きくすることで、外乱抑制の周波数帯域を最大化する評価関数としている。式F9および式F10を、式F5または式F6に代入する際に、W1M(s)がW(s)に代入され、W2M(s)がW(s)に代入される。
【0088】
【数14】
【0089】
【数15】
【0090】
【数16】
【0091】
ローゲインタイプのFB補償器11は、上述の式F2ないし式F4に代え、次式F11ないし式F13を用いることで、同様に、求められる。式F11の評価関数Jは、TW1Lを可能な限り小さくし、結果として、式F12の重み関数W1L(s)のゲインを大きくすることで、外乱抑制の周波数帯域を最大化する評価関数としている。式F12および式F13を、式F5または式F6に代入する際に、W1L(s)がW(s)に代入され、W2L(s)がW(s)に代入される。
【0092】
【数17】
【0093】
【数18】
【0094】
【数19】
【0095】
図6は、K/A別およびゲインタイプ別の、前記FB補償器における各パラメータを示すルックアップテーブルである。図6Aは、K/A別およびゲインタイプ別のパラメータKの各値を示すルックアップテーブルである。最左列は、FB補償器番号を示している。図6B以降も、同様である。図6Bは、K/A別およびゲインタイプ別のパラメータTの各値を示すルックアップテーブルである。図6Cは、K/A別およびゲインタイプ別のパラメータbの各値を示すルックアップテーブルである。図6Dは、K/A別およびゲインタイプ別のパラメータbの各値を示すルックアップテーブルである。図6Eは、K/A別およびゲインタイプ別のパラメータaの各値を示すルックアップテーブルである。図6Fは、K/A別およびゲインタイプ別のパラメータaの各値を示すルックアップテーブルである。なお、Tは、0.0であるので省略されている。
【0096】
このように求められた48種類のFB補償器11の各パラメータK、T、a、a、b、bがルックアップテーブルの形式で図6に示されている。例えば、M2のFB補償器11は、K=0.435、T=11.608、a=0.49、a=0.159、b=0.517、b=0.078となる。この図6に示すルックアップテーブルは、湯面レベル制御装置CTの前記メモリに記憶される。
【0097】
FB補償器11は、本実施形態では、図2に示すように、FB補償器11より上位系のシステム(上位系システム)SYによって、K/Aの数値およびゲインタイプの数値が与えられることで、FB補償器11が特定され、構成される。このため、ハイゲインタイプHは、1.0で定義され、ミドルゲインタイプMは、2.0で定義され、ローゲインタイプLは、3.0で定義され、ゲインタイプが1.0から3.0まで連続的に変化できるようにされている。
【0098】
なお、上位系システムSYは、湯面レベル制御装置CT内に構成されるシステムであってよく、湯面レベル制御装置CTの外部に構成されるシステムであってよい。図2に示す例では、上位系システムSYは、湯面レベル制御装置CTの内部に構成されるシステムである。そして、本実施形態では、この上位系システムSYは、バルブVLの操作量におけるレートの絶対値が所定の第1閾値より大きい場合には、フィードバック制御のゲインを現在値より小さく変更し、前記バルブVLの操作量におけるレートの絶対値が前記第1閾値より小さい正の所定の第2閾値より小さい場合には、前記フィードバック制御のゲインを現在値より大きく変更する。この上位系システムSYは、ゲインタイプ変更部の一例に相当する。
【0099】
図6に示すルックアップテーブルは、0.1間隔のK/Aで構成されているため、上位系システムSYから与えられたK/Aの数値およびゲインタイプの数値が図6に示すルックアップテーブルに無い場合には、上位系システムSYから与えられたK/Aの数値およびゲインタイプの数値に対応するFB補償器11は、図6に示すルックアップテーブルから補間によって生成される。この補間には、例えば、The MathWorks,Inc.の「Simulink」(登録商標)の「n-D Lookup Table」ブロックを用いることができる。このブロックの設定として、テーブルの次元数に「2」が設定され、内挿法として「線形の点と勾配」が設定される。原理的に同様な手法としては、次のように、補間が実行される。
【0100】
図7は、一例として、前記FB補償器における各パラメータKの補間手法を説明するための図である。例えば、ゲインタイプが1.4であり、K/Aが0.72であるとする。ゲインタイプ=1.4は、図7に示すように、0.4:0.6の比率でゲインタイプ1(すなわち、ハイゲインタイプH)とゲインタイプ2(すなわち、ミドルゲインタイプM)との間にある。K/A=0.72は、0.02:0.08=0.2:0.8の比率でFB補償器番号2のFB補償器11(*2)とFB補償器番号3のFB補償器11(*3)のFB補償器11との間にある(*はH、M、Lのいずれかを示す)。この場合において、求めるべきKの値は、図7に示すように、H2(ゲインタイプ=1、K/A=0.7)の0.928、H3(ゲインタイプ=1、K/A=0.8)の0.845、M2(ゲインタイプ=2、K/A=0.7)の0.435、M3(ゲインタイプ=2、K/A=0.8)の0.396の間にある。
【0101】
まず、TMP1が、H2とM2とを0.4:0.6に内分する点に求められる。この点でのKの値は、(0.4・0.435+0.6・0.928)=0.731である。次に、TMP2が、H3とM3とを0.4:0.6に内分する点に求められる。この点でのKの値は、(0.4・0.396+0.6・0.845)=0.665である。そして、RESULTが、TMP1とTMP2とを0.2:0.8に内分する点に求められる。この点でのKの値は、(0.2・0.665+0.8・0.731)=0.718とである。このRESULTの値が、補間により得られたKの値である。他のパラメータT、a、a、b、bも、同様に補間によって求めることができる。なお、このときのFB補償器番号は、2.2となる。
【0102】
これにより、K/Aの実数値とゲインタイプの実数値とに基づき、制御特性を連続的に変化させたFB補償器11が形成できる。そして、湯面レベルの偏差(目標値と制御量yとの差)から、フィードバック補償量が求められる。
【0103】
(フィードフォワード補償量の演算)
図8は、時間領域から空間領域への変換を説明するための図である。フィードフォワード補償量は、湯面レベル(制御量y)と、バルブVLのバルブ開度v(または操作量u)と、前記湯面レベルに関わる連続鋳造機CMの伝達関数とに基づいて求められるが、湯面レベルyとバルブ開度v(または操作量u)は、所定の時間間隔でサンプリングされるので、時間領域における、所定の時間間隔で時系列に並ぶ複数の各値となり、現在を0とし、過去何秒前であったかを示す過去の時刻t’(t’≧0。例えば、1.0[s]前なら、t’=1.0。)の関数になっている。例えば、図8Aに示すように、時刻0[s]の湯面レベルyとバルブ開度v(または操作量u)との各値は、現在の湯面での値であり、過去の時刻t’ [s]の湯面レベルyとバルブ開度v(または操作量u)との各値は、鋳片Obにおける、現在の湯面からx’だけ離れた位置での値である。なお、以下、バルブ開度vの場合について説明するが、操作量uの場合も同様に説明できる。鋳造速度が一定であれば、湯面レベルyとバルブ開度vとの各値は、鋳片Ob上で等間隔に並ぶため、この時間領域でフィードフォワード補償量を求めることができる。しかしながら、鋳造速度は、可変であるので、FF補償器12は、図8Cに示すように、まず、時間領域における湯面レベルとバルブVLのバルブ開度vとの各値を、連続鋳造機CMで生成される鋳片Obの長尺方向に座標軸を持つ空間領域での各値に変換する。バルジングは、空間領域で、ほぼ一定の周波数あるいは周期で生じていると考えられるからである。
【0104】
より具体的には、まず、時間領域での湯面レベルyとバルブ開度vとの各値と、鋳片Ob上の位置とが対応付けられる。例えば、時刻t’での鋳片Ob上の位置x’(t’)は、現在の時刻0から過去の時刻t’ (t’≧0)に向かって鋳造速度Vc(t)(ここでのtは、過去t[s]前の時刻を意味する。t≧0)を積分することによって求められる(x’(t’)=∫Vc(t)dt、積分∫は、0からt’まで)。Vc(t)≧0であるので、x’(t’)≧0となる。
【0105】
次に、図8Bに示すように、現在の湯面の位置X’(0)を座標原点とする、鋳片Obの長尺方向に沿った座標軸X’上で等間隔となるような鋳片Ob上のN点の各位置X’(i)(i=0,1,・・・,N-1)と、時間領域での湯面レベルyとバルブ開度vとの各値とが対応付けられる。鋳造速度Vc、サンプリング周期および過去何点までのデータをメモリに蓄積するか、の関係で、位置X’ (i)(i=0,1,・・・,N-1)に対応する、時間領域での湯面レベルyとバルブ開度vとの各値が存在しない場合があるので、この場合では、内挿または外挿によって、位置X’ (i)(i=0,1,・・・,N-1)に対応する、空間領域での湯面レベルY’(i)(i=0,1,・・・,N-1)とバルブ開度V’ (i)(i=0,1,・・・,N-1)との各値が求められる。
【0106】
具体的には、次の通りである。単調増加である位置X’(i)のときの、過去何秒前かを表す時刻tX’i’(tX’i’≧0)は、内挿または外挿により、x’(tX’i’)=X’(i)として、求めることができる。この時刻tX’i’は、サンプリング周期の整数倍と一致するとは限らず、実数倍となる。時刻t’と湯面レベルyおよびバルブ開度vとの関係は既知であるので、得られたtX’i’を用いて、湯面レベルy(tX’i’)とバルブ開度v(tX’i’)とを、内挿または外挿により、求めることができる。これらが、Y’(i)、V’(i)となる。
【0107】
なお、ここで、内挿は、例えば、線形補間を用いることができる。
【0108】
外挿が必要な場合とは、例えば、等速の場合では、Vc・サンプリング周期・蓄積データ点数が、空間座標での距離の最大値となるが、この最大値の値が、X’(N-1)より小さい場合である。例えば、X’(1000)に対応するt’は存在するが、X’(1001)以降に対応するt’が存在しないときは、X’(1001)以降に対応するt’として、X’(1000)に対応するt’を用いればよい。これにより、Y’(1001)以降や、V’(1001)以降の値を、外挿により求めることができる。
【0109】
次に、このままでもよいが、時間が逆でわかり難くなっていることに対処する。そこで、取り扱いを簡単化するため、図8Cに示すように、座標軸X’の正負が変換される。具体的には、X(i)=X’(N-1-i)(i=0,1,・・・,N-1)となる。例えば、座標軸X’は、時刻N-1[s]前の鋳片Ob上の位置X’(N-1)=X(0)を座標原点とする座標軸Xとなる。
【0110】
軸が変更されたため、湯面レベルとバルブ開度についても、Y(i)=Y’(N-1-i)(i=0,1,・・・,N-1)、V(i)=V’(N-1-i)(i=0,1,・・・,N-1)と変更される。
【0111】
なお、この座標軸の正負の逆転は、簡単化のためであり、必須ではない。ただし、正負を逆転しない場合、本実施例とは、以降の計算の座標が異なることとなる。
【0112】
これにより、時間領域における湯面レベルyとバルブVLのバルブ開度vとの各値が、連続鋳造機CMで生成される鋳片Obの長尺方向に座標軸Xを持つ空間領域での各値に変換される。例えば、N=1024(=210)の場合、現在から過去への過去実績データである、時間領域での湯面レベルyとバルブ開度vとの各値から、座標軸Xでの位置X={X,X,X,・・・,X1021,X1022,X1023}、空間領域での湯面レベルY={Y,Y,Y,・・・,Y1021,Y1022,Y1023}、空間領域でのバルブ開度V={V,V,V,・・・,V1021,V1022,V1023}が求められる。ここで、簡単化のため、数値が変数に置き換えられている。なお、この例では、N=1024としたが、これに限らず、例えば、512や2048等の適宜な個数であってよい。
【0113】
湯面レベルYおよびバルブVLのバルブ開度Vは、平衡点からの偏差を用い、湯面レベルY[m]およびバルブ開度V[m](本実施形態ではバルブVLがスライドバルブVLであるので、バルブ開度Vの単位は[m]となる)の各成分は、0で初期化する。これにより、鋳造速度が非常に遅い場合に、1024点のデータが得られない場合においても本手法を用いることが可能となる。湯面レベルYの前記平衡点として、湯面レベルYの目標値であるSV(Setting Value)そのものを、用いることができる。バルブ開度Vの前記平衡点として、バルブ開度Vの測定値に、例えば、時定数が10[s]のローパスフィルタを適用した後の値を、用いることができる。
【0114】
そして、FF補償器12は、湯面レベルY[m]およびバルブ開度V[m]それぞれを高速フーリエ変換(FFT)することにより、湯面レベルY[m]およびバルブ開度V[m]それぞれの各周波数特性を求める。FFTの手法は、例えば、「“C言語 ディジタル信号処理”、秋月、松山、吉江著、1989年、培風館、pp.121~127」(文献2)に開示されている。また、The MathWorks,Inc.の「Matlab」(登録商標)のfft関数を用いることもできる。
【0115】
離散化された周波数f[1/m]は、座標軸Xを持つ空間領域で△X=0.004[m]間隔の1024個のデータの場合、f={(i/1024)・(1/0.004)}={f,f,f,・・・,f1021,f1022,f1023}となり(i=0,1,・・・,1023)、離散化された周期L[m]は、L={(1024/i)・0.004}={L,L,L,・・・,L1021,L1022,L1023}となる(i=0,1,・・・,1023)。ここでも、上述と同様に、簡単化のため、数値が変数に置き換えられている。以下も同様である。なお、空間領域の間隔である△Xは、周波数分解能およびFFTの点数を考慮して、0.004[m]としているが、他の値でもよい。
【0116】
湯面レベルY[m]およびバルブ開度V[m]それぞれのFFTの各結果は、これら周波数f、または、周期Lに対応した各値となり、湯面レベルY[m]のFFTの結果は、YFFT={YFFT0,YFFT1,YFFT2,・・・,YFFT1021,YFFT1022,YFFT1023}となり、バルブ開度V[m]のFFTの結果は、VFFT={VFFT0,VFFT1,VFFT2,・・・,VFFT1021,VFFT1022,VFFT1023}となる。
【0117】
各要素は、複素数であり、YFFTi(i=1,2,・・・,510,511)は、YFFT(1024-i)と共役の関係にある。VFFTiも同様である。なお、直流成分を0にするため、YFFT0=0とされ、VFFT0=0とされる。なお、511は、N/2-1で計算される値である。
【0118】
ここで、本実施形態では、4つの第1ないし第4領域がある。前記第1領域は、時間領域(振幅[m]、周波数[Hz]または周期[s]、位相[rad])である。前記第2領域は、時間周波数領域(振幅[m]、周波数[Hz]または周期[s]、位相[rad])である。前記第3領域は、空間領域(振幅[m]、周波数[1/m]または周期[m]、位相[rad])である。そして、前記第4領域は、空間周波数領域(振幅[m]、周波数[1/m]または周期[m]、位相[rad])である。前記第1領域の時間領域は、そのFFTによって、前記第2領域の時間周波数領域に変換される。よって、前記第2領域の時間周波数領域は、その逆フーリエ変換(逆FFT)によって、前記第1領域の時間領域に変換される。前記第3領域の空間領域は、そのFFTによって、前記第4領域の空間周波数領域に変換される。よって、前記第4領域の空間周波数領域は、その逆FFTによって、前記第3領域の空間領域に変換される。
【0119】
図8は、第1の時間領域を、第3の空間領域に変換したこととなる。
【0120】
続いて、FF補償器12は、湯面レベルyに関わる連続鋳造機CMの伝達関数P(s)、Pv2l(s)を前記時間周波数領域から前記空間周波数領域に変換する。すなわち、同じ周波数f={f,f,f,・・・,f1021,f1022,f1023}での、周波数応答(複素数)が求められる。
【0121】
より具体的には、次のように、周波数応答(複素数)が求められる。湯面レベルYFFTおよびバルブ開度VFFTの周波数の単位は、空間周波数領域での[1/m]となっているので、上述の周波数fあるいは周期Lでの伝達関数の値を求める際に、工夫が必要である。基準となる鋳造速度をVc_nとおき、次のように変換した周波数ftfを用いる。
tf={(i/1024)・(Vc_n/0.004)}={ftf0,ftf1,ftf2,・・・,ftf1021,ftf1022,ftf1023}[Hz]となる(i=0,1,・・・,1023)。
【0122】
上述から、N=1024は、FFTの点数であり、△X=0.004[m]は、座標軸Xを持つ空間領域でのデータ間隔である。なお、時間領域をFFTで変換した時間周波数領域における周波数は、{(i/1024)・(1/△t)}[Hz](i=0,1,・・・,1023)であるので、上式は、サンプリング周期を仮想的に、△t=0.004/Vc_nに変更したことに相当する。
【0123】
c_nは、現在の値、鋳片Obが過去一定の距離を進む間の平均値等に適宜に設定できるが、ここでは、現在の値とする。すなわち、これは、現在の鋳造速度Vcが、過去の時間で、一定に維持されていた、とみなすことに相当する。
【0124】
ωtfi=2πftfi(i=0,1,・・・,1023)として、i=0~512に対して、P(jωtfi)およびPv2l(jωtfi)それぞれに代入し、i=513~1023に対しては、1024-iの値と共役の値であることを用い、Ptf={Ptf0,Ptf1,Ptf2,・・・,Ptf1021,Ptf1022,Ptf1023}、Pv2ltf={Pv2ltf0,Pv2ltf1,Pv2ltf2,・・・,Pv2ltf1021,Pv2ltf1022,Pv2ltf1023}が得られる。各成分は、複素数である。ここまでで、伝達関数について、一般にs=jωと置換する時間周波数領域から変更して、s=jωtfと置換することで、空間周波数領域への変更がされたこととなる。そして、Ptf、Pv2ltfの周波数応答が求められたこととなる。ここで、離散化された周波数および離散化された周期は、上述のfおよびLと同じ値となっており、空間周波数領域内での演算が可能となる。なお、512は、N/2で計算される値である。
【0125】
そして、FF補償器12は、前記湯面レベルに印加される外乱を打ち消すための振幅、周期および位相を持つ正弦波成分から成るフィードフォワード補償量を求める。
【0126】
より具体的には、このように各周波数の周波数特性および周波数応答が求められたので、式4を用いて、まず、外乱DFFTが求められる。すなわち、DFFT={YFFTi-Pv2ltfi・VFFTi}={DFFT0,DFFT1,DFFT2,・・・,DFFT1021,DFFT1022,DFFT1023}となる。i=0~512は、式4から求め、i=513~1023は、1024-iの値と共役の値を採用する。定常成分や低周波成分を除くため、本例では、座標軸Xを持つ空間領域で、周期1.0[m]以上に相当する周波数に対応する値は、強制的に0とする。
【0127】
続いて、式5を用いて、前記外乱操作量相当値UDFFTが求められる。すなわち、UDFFT={DFFTi/Ptfi}={UDFFT0,UDFFT1,UDFFT2,・・・,UDFFT1021,UDFFT1022,UDFFT1023}となる。上述のように、外乱操作量相当値UDFFTの符号を反転することにより、基本的に、外乱のフィードフォワード補償量が求められる。
【0128】
なお、上述のように、バルブ開度の代わりに操作量が用いられてよく、この場合、伝達関数Pv2l(s)の代わりに、伝達関数P(s)が用いられる。
【0129】
続いて、UDFFTの各成分の振幅ampUDFFTiと位相phaseUDFFTiとが次式7および式8のように求められる。
【0130】
【数20】
【0131】
【数21】
【0132】
これにより、各周波数での、前記外乱操作量相当値、および、その振幅と周波数とが求められる。
【0133】
続いて、これら512点(N/2)のUDFFTiの成分の値の中から、振幅のピークを選ぶことによって、フィードフォワード補償量の、周波数、振幅および位相が決定される。
【0134】
512点のUDFFTiの成分の値の中から、例えば、次の条件を満たす周波数が選択される。
・離散化された周期L[m]が、0.1~1.0[m]の範囲にある。
・振幅が1.0[mm](=0.001[m])以上である。
・前後を含めた7点の離散周波数で最大の振幅を持つ。
【0135】
これにより、振幅にピークを持つ、外乱操作量相当値の周波数、振幅および位相が求められる。なお、ピークは、0個の場合もあるし、複数個ある場合もある。
【0136】
このように得られた周波数、振幅および位相をそのまま用いてフィードフォワード補償することが考えられるが、得られる位相が約π[rad]ずれる場合があることや、周波数が離散的にしか得られていないことから、現実には、難しい。
【0137】
図9は、一例として、未知の外乱を操作量のところまで逆算した値(外乱操作量相当値)のシミュレーション結果を示す図である。前記外乱操作量相当値は、フィードフォワード補償量の基となる。図9Aは、シミュレーション結果の数値を示し、図9Bは、図9Aに数値で表された振幅のグラフを示し、図9Cは、図9Aに数値で表された位相のグラフを示す。図9Bおよび図9Cの各横軸は、iであり、図9Bの縦軸は、振幅であり、図9Cの縦軸は、位相である。図9は、鋳造速度が等速であって、外乱のフィードフォワード補償がある場合のシミュレーション結果であり、図9には、図13のシミュレーションの、時刻が200[s]のときの、FFTの離散周波数、計算された式7のFFTの離散周期、UDFFTの各成分における振幅と位相が、0から30までの一部で示されている。
【0138】
位相のずれは、振幅のピークの前後の周波数で位相が約π[rad]変化する。これには、ピークの周波数の高周波側で位相がπ[rad]変化する場合と、ピークの周波数の低周波側で位相が約π[rad]変化する場合とがある。図9では、1つめのuの振幅のピークは、i=12にあり、高周波側i=12とi=13との間で位相が変化している。2つ目の振幅のピークは、i=25にあり、低周波側i=25とi=24との間で位相が変化している。位相が約π[rad]ずれると、変動が増幅されてしまうので、適切な位相を選択する必要がある。
【0139】
一方、離散的な周波数では、フィードフォワード補償量に誤差が生じ得るので、周波数の精度を高める必要がある。
【0140】
そこで、外乱操作量相当値の振幅の各ピークにおける周波数、振幅および位相は、次のように求められる。なお、ここでは、簡単のため、図9の1つ目のピーク(i=12)の場合について説明するが、ピークが複数ある場合も同様である。
【0141】
まず、FF補償器12は、空間周波数領域で、フィードフォワード補償量の周波数(外乱操作量相当値の周波数)fpeakを求める。より具体的には、ピークの周波数に隣接する周波数のうち、振幅が大きい周波数が選択され、周波数fpeakは、ピークの周波数と前記選択した周波数とを、ピークの振幅と前記選択した周波数の振幅とで加重平均することによって求められる。上述の例では、ピークの周波数f12(=2.92969[1/m]、その振幅=0.00386[m])と、これに隣接する周波数f11、f13のうち、振幅が大きい周波数f13(=3.17383[1/m]、その振幅=0.00290[m])が選択され、その加重平均により、周波数fpeak=((0.00386・2.92969+0.00290・3.17383)/(0.00386+0.00290))=3.03[1/m]となる。これにより、離散的な周波数そのものの値に限られず、より正確な周波数を求めることができる。
【0142】
続いて、FF補償器12は、空間周波数領域で、フィードフォワード補償量の振幅(外乱操作量相当値の振幅)amppeakを、振幅の最大値そのままで求める。上述の例では、ピークの周波数f12での振幅amppeak=0.00386となる。なお、この値は、操作量uの場所での振幅であり、この値にフィルタが掛けられ、さらに、制御対象のゲインを乗じたものが、外乱dの場所での振幅となる。このため、この振幅amppeak=0.00386は、後述の外乱dの振幅0.001[m]とは異なっている。
【0143】
なお、本例では用いていないが、振幅は、他の方法で求めることもできる。具体的には、ピークとその前後の周波数での3つの振幅の2乗和の平方根を取る方法である。ピークの周波数はf12(=2.92969[1/m]、その振幅=0.00386[m])、その前後の周波数は、f11(=2.68555[1/m]、その振幅=0.00104[m])、f13(=3.17383[1/m]、その振幅=0.00290[m])である。このときの振幅は、√(0.00386+0.00104+0.00290)=0.00494と求められる。外乱が単周期の正弦波であり、定常部の場合は、この方法で振幅を正確に求められることを確認している。しかし、複数の正弦波からなる外乱が印加したり、非定常であったりする場合の制御シミュレーションにより、ロバスト性が低下しやすいことが判明している。そこで、本例では、代わりに、上述の、小さめの値となるピークの振幅の値そのものを用いており、安定して制御できることを確認している。
【0144】
ここで、この振幅amppeakは、非定常部や、突発的な外乱が印加した場合等に、変化し易いため、本実施形態では、さらに、時定数(例えば5[s]等)のローパスフィルタが適用され、その適用結果が振幅amppeakとして用いられている。これにより、外乱操作量相当値の、周波数、振幅、位相が頻繁に変化することを防ぐことができる。このため、この例では、振幅amppeak=0.00386より小さくなり、振幅amppeak=0.00378となっている。
【0145】
続いて、FF補償器12は、空間周波数領域で、フィードフォワード補償量の位相を求める。より具体的には、外乱操作量相当値において、ピークの周波数およびこれに隣接する2個の周波数での3個の位相それぞれについて、外乱を打ち消す量が、座標軸Xでの空間領域での内積を求めることによって求められ、最も外乱を打ち蹴る位相が選択される。
【0146】
より詳しくは、次のように求められる。まず、ピークの周波数番号がjとされ、これに低周波数側で隣接する周波数がpreとされ、これに高周波数側で隣接する周波数がpostとされる。上述の例では、j=12、pre=11、post=13である。
【0147】
まず、ピークの周波数jの場合について説明すると、(-uの、外乱dの印加場所(P(s)の後段)での位相)は、2π・(周波数)・(N点の鋳片長中心からの距離)+π+(uの位相)+(P(s)の位相遅れ)となる。ここで、πを加算しているのは、符号を反転しているためである。外乱のフィードフォワード補償量である-uが、外乱dの印加場所に到達したときの、座標軸Xの位置X(i)(i=0,1,・・・,N-1)での波の振幅ff_at_djは、制御対象のゲインを無視すると、次式9のように表される。
【0148】
【数22】
【0149】
ここで、制御対象のゲインが正(プラス)であり、周波数j、周波数preおよび周波数postで共通に計算されることから、計算量の削減のため、制御対象のゲインが無視される。そして、操作量uの場所では、高周波成分の値が大きく、正確に評価し難いことから、外乱dの印加場所で内積が求められる。これは、連続鋳造機CMが基本的に積分器であり、操作量uの場所では、外乱を微分した値に相当するからである。
【0150】
続いて、前記内積を求めるために、外乱DFFTを逆FFTすることによって、外乱dが求められる。すなわち、d=ifft(DFFT)={d,d,d,・・・,d1021,d1022,d1023}である。各成分は、座標軸X上の位置X(i)(i=0,1,・・・,N-1)での外乱の振幅を表す。逆FFTの手法は、前記文献2の127頁ないし130頁に開示されている。また、The MathWorks,Inc.の「Matlab」(登録商標)のfft関数を用いることもできる。なお、虚数成分は、無視できるほど小さくなり、外乱dとして、実数成分のみが取り出され、外乱dの各要素は、実数となる。
【0151】
そして、振幅ff_at_djと、この空間領域の外乱dとの内積IPが次式10で求められる。すなわち、i=0~1023で、それぞれ成分の積が求められ、それらの総和が求められる。
【0152】
【数23】
【0153】
周波数preの場合について、同様に、座標軸Xの位置X(i)(i=0,1,・・・,N-1)での波の振幅ff_at_dpreが求められ、外乱dとの内積IPpreが求められる。周波数postの場合について、同様に、座標軸Xの位置X(i)(i=0,1,・・・,N-1)での波の振幅ff_at_dpostが求められ、外乱dとの内積IPpostが求められる。
【0154】
内積IPが最小かつ負ならば、外乱dを最も打ち消すと考えられるので、これら内積IP、内積IPpreおよび内積IPpost、のうち、最小かつ負である内積IPの位相を外乱のフィードフォワード補償量の位相phasepeakとする。すなわち、内積IPが最小かつ負ならば、外乱のフィードフォワード補償量の位相phasepeak=phaseUDFFTjである。内積IPoreが最小かつ負ならば、外乱のフィードフォワード補償量の位相phasepeak=phaseUDFFTpreである。内積IPpostが最小かつ負ならば、外乱のフィードフォワード補償量の位相phasepeak=phaseUDFFTpostである。これら3通り以外の場合は、外乱を打ち消さないので、振幅が0とされ、結果として、このピークの外乱のフィードフォワード補償自体が実施されない。上述の例ではphasepeak=phaseUDFFTj=-0.02916である。
【0155】
これにより、適切な位相が選択できる。なお、鋳造速度Vcが変化したり、制御対象の特性が変化したりする非定常な場合でも、この手法は、用いることができる。
【0156】
以上により、1個のピーク(周波数j=12のピーク)について、周波数fpeak、振幅amppeakおよび位相phasepeakが求められる。ピークが他にある場合は、そのピークについて、同様に、周波数fpeak、振幅amppeakおよび位相phasepeakが求められる。
【0157】
なお、本例では用いていないが、位相は、他の方法で求めることもできる。具体的には、外乱操作量相当値の振幅のピークのiが奇数の場合には、そのピークの位相にπを加算した結果を、位相として用いるという方法である。外乱操作量相当値の振幅のピークのiが偶数の場合には、ピークの位相そのものを用いる。例えば、図9Bの場合、1つめのピークはi=12であり、偶数であるので、そのままの位相-0.02916を採用する。一方、2つめのピークは、i=25であり、奇数であるので、πを加算し、位相は2.83821+π=5.9798となる。外乱が単周期の正弦波であり、定常部の場合は、この方法で位相を求められることを確認している。しかし、非定常部においては、まれに、πずれた位相となるときがあることが判明している。このときは、外乱を増幅するので好ましくない。そこで、本例では、代わりに、上述の、内積により位相を選択する方法を用いており、非定常部においても、適切な位相を選択できることを確認している。
【0158】
そして、FF補償器12は、空間周波数領域での、各ピークに対応した、外乱のフィードフォワード補償量における周波数、振幅および位相から、時間領域での、次サンプリング周期におけるフィードフォワード補償量のレートまたはフォードフォワード補償量そのものを求める。
【0159】
より具体的には、時間領域での次のサンプリング周期で出力する外乱のフィードフォワード補償量は、座標軸Xの空間領域で「現在の鋳造速度Vc・サンプリング周期」を進めた場所での値となる。湯面レベル制御装置CTが速度型である場合、1つのピークに対する外乱のフィードフォワード補償量のレートdff/dt[m/s](dffの時間微分)は、次式11で表される。
【0160】
【数24】
【0161】
ここで、gaintmp1は、高周波の補償量を計算するサンプリング周期に掛けるゲインであり、例えば、図10に示す折れ線のグラフで表される。図10は、高周波の外乱のフィードフォワード補償量を低減するためのゲインを示す図である。図10の横軸は、周期[m]であり、その縦軸は、ゲインである。図10に示すgaintmp1は、周期が0[m]から0.33[m]まではゲインが0から1.0まで比例で増加し、周期0.33[m]以上でゲインが1.0で飽和する特性を持つ。したがって、外乱の周期が0.33[m]以上の場合、ゲインが1で、1サンプリング周期後に必要な外乱のフィードフォワード補償量がそのまま用いられる。上述の例の1つ目のピークがこれに該当する。
【0162】
湯面レベル制御装置CTが速度型である場合には、外乱のフィードフォワード補償量のレートに、ゲインが乗算される。フィードフォワード補償量のレートは、周期に比例して小さくなる。結果として、フィードフォワード補償量も、周期に比例して小さくなる。これは、高周波になればなるほど位相の変化に対するロバスト性がなくなり、フィードフォワード補償の位相のずれが生じ易くなるため、フィードフォワード補償量が制約されるものである。なお、上述の例の2つ目のピークがこれに該当する。
【0163】
位置型のサンプリングk+1回目の外乱のフィードフォワード補償量ffk+1は、サンプリングk回目のフィードフォワード補償量ffを用いることによって、次式12のように表される。なお、台形積分等他の方法が用いられてもよい。
【0164】
【数25】
【0165】
上述では、1のピークについて説明したが、複数のピークがある場合には、各ピークについて同様に計算し、すべてのピークに対する外乱のフィードフォワード補償量のレートまたは補償量そのものを総和することによって、最終的な外乱のフィードフォワード補償量のレートである式11、または、最終的な外乱のフィードフォワード補償量である式12が求められる。
【0166】
次に、本実施形態の動作について説明する。図11は、実施形態における湯面レベル制御装置の動作を示すフローチャートである。図12は、図11に示すフィードフォワード補償量の演算処理を示すフローチャートである。
【0167】
このような構成の湯面レベル制御装置CTは、その電源が投入されると、必要な各部の初期化を実行し、その稼働を始め、湯面レベル制御装置CTを構成する前記コンピュータには、そのプログラムの実行により、上位系システムSY、減算器10、FB補償器11、FF補償器12および加算器13が機能的に構成される。
【0168】
図11において、サンプリング周期△tごとに到来するサンプリングタイミングになると、湯面レベル制御装置CTは、上位系システムSYによって、所定の鋳造状態を取得し、FB補償器番号を決定する(S1)。前記鋳造状態は、本実施形態では、K/Aを求めるために、タンディッシュ内溶鋼質量、鋳型幅および鋳造速度を含み、湯面レベルを制御するために、湯面レベルおよびバルブ開度を含む。上位系システムSYは、これらタンディッシュ内溶鋼質量、鋳型幅および鋳造速度から、上述のように公知の演算手法によってK/Aを求める。そして、上位系システムSYは、前回のサンプリングタイミングで実行された湯面レベル制御における後述の処理S5で調整されたゲインタイプであって、前記求めたK/Aに応じたFB補償器番号を選択して決定し、この決定したFB補償器番号をFB補償器11へ出力する。なお、起動後の最初のサンプリングタイミングでは、ハイゲインタイプ、ミドルゲインタイプおよびローゲインタイプのいずれであってもよいが、例えば、ミドルゲインタイプであって前記求めたK/Aに応じたFB補償器番号が選択され決定される。
【0169】
次に、湯面レベル制御装置CTは、FB補償器11によって、上位系システムSYから入力されたゲインタイプおよび決定されたFB補償器番号に応じたパラメータK、T、T(=0.0)、a、a、b、bを、前記メモリに記憶された前記ルックアップテーブルに基づいて決定し、フィードバック補償量(FB補償量)を求める(S2)。
【0170】
次に、湯面レベル制御装置CTは、FF補償器12によって、湯面レベルyと、バルブVLのバルブ開度v(または操作量u)と、前記湯面レベルに関わる連続鋳造機CMの伝達関数とに基づいて、前記湯面レベルに印加される外乱を打ち消すための振幅、周期および位相を持つ正弦波成分から成るフィードフォワード補償量(FF補償量)を求める(S3)。
【0171】
この処理S3では、より具体的には、図12において、まず、FF補償器12は、時間領域における湯面レベルyとバルブVLのバルブ開度vとの各値y、vを、連続鋳造機CMで生成される鋳片Obの長尺方向に座標軸Xを持つ空間領域での各値Y、Vに変換する(S31)。
【0172】
次に、FF補償器12は、湯面レベルYおよびバルブ開度VそれぞれをFFTすることにより、湯面レベルYおよびバルブ開度Vそれぞれの空間周波数領域での各周波数特性を求める(S32)。
【0173】
次に、FF補償器12は、湯面レベルyに関わる連続鋳造機CMの伝達関数P(s)、Pv2l(s)を前記時間周波数領域から前記空間周波数領域に変換し、前記伝達関数P(s)、Pv2l(s)の空間周波数領域での周波数応答を求める。そして、FF補償器12は、湯面レベルYおよびバルブ開度Vそれぞれの空間周波数領域での各周波数特性と、連続鋳造機の伝達関数P(s)、Pv2l(s)の空間周波数領域での周波数応答とから、未知の外乱を操作量のところまで逆算した値である外乱操作量相当値を求める(S33)。
【0174】
次に、FF補償器12は、空間周波数領域での外乱操作量相当値における振幅のピークを選定する(S34)。
【0175】
次に、FF補償器12は、処理S34で選定した1または複数のピークそれぞれについて、空間周波数領域で、フィードフォワード補償量の周波数(外乱操作量相当値の周波数)fpeakを求める(S35)。
【0176】
次に、FF補償器12は、処理S34で選定した1または複数のピークそれぞれについて、フィードフォワード補償量の振幅(外乱操作量相当値の振幅)amppeakを求める(S36)。
【0177】
次に、FF補償器12は、処理S34で選定した1または複数のピークそれぞれについて、空間周波数領域で、フィードフォワード補償量の位相phasepeakを求める(S37)。なお、上述したように、外乱を打ち消す位相が見つからない場合には、そのピークの振幅が0とされ、前記ピークの外乱のフィードフォワード補償自体が実施されない。
【0178】
そして、FF補償器12は、空間周波数領域での、各ピークに対応した、外乱のフィードフォワード補償量における周波数、振幅および位相から、時間領域での、次サンプリング周期におけるフィードフォワード補償量のレートまたはフォードフォワード補償量そのものを求め(S38)、この処理S3を終了する。
【0179】
図12に示す各処理S31ないしS38が終了すると、図11に戻って、次に、湯面レベル制御装置CTは、加算器13によって、処理S2でFB補償器11によって求めたフィードバック補償量と、処理S3でFF補償器12によって求めたフィードフォワード補償量と加算する(S4)。
【0180】
次に、湯面レベル制御装置CTは、上位系システムSYによって、ゲインタイプを調整する(S5)。より具体的には、上位系システムSYは、操作量におけるレートの絶対値が所定の第1閾値より大きい場合には、フィードバック制御のゲインを現在値より小さく変更し、前記操作量におけるレートの絶対値が前記第1閾値より小さい正の所定の第2閾値より小さい場合には、前記フィードバック制御のゲインを現在値より大きく変更する。より詳しくは、本実施形態では、上述のように、ハイゲインタイプHは、1.0で定義され、ミドルゲインタイプMは、2.0で定義され、ローゲインタイプLは、3.0で定義されているので、湯面レベル制御装置CTが速度型である場合、上位系システムSYは、前記絶対値が前記第1閾値より大きい場合には、現在のゲインタイプの数値に、予め設定された第1所定値(例えば0.01や0.02等)を加算する。これによって、ゲインタイプが現在のゲインタイプよりローゲインタイプ側へ変更され、アクチュエータAC(本実施形態ではステッピングシリンダAC)のレートリミット(動作速度限界)によるレート(動作速度)の飽和が回避できる。上位系システムSYは、前記絶対値が前記第2閾値より小さい場合には、現在のゲインタイプの数値に、予め設定された第2所定値(例えば0.01や0.02等)を減算する。これによって、ゲインタイプが現在のゲインタイプよりハイゲインタイプ側へ変更される。前記第1閾値は、アクチュエータACのレートリミット以下で、複数のサンプルから、予め適宜に設定される。前記第2閾値は、前記第1閾値より小さい正の値で、複数のサンプルから、予め適宜に設定される。前記第1および第2所定値は、互いに同値であってよく、あるいは、互いに異値であってよい。
【0181】
次に、湯面レベル制御装置CTは、アクチュエータAC(本実施形態ではステッピングシリンダAC)に処理S4で求めた加算結果を出力する(S6)。アクチュエータAC(本実施形態ではステッピングシリンダAC)は、湯面レベル制御装置CTから入力された加算結果に応じてバルブVL(本実施形態ではスライドバルブVL)を駆動する。これによって、今般のサンプリングタイミングでの湯面レベルが制御される。
【0182】
そして、湯面レベル制御装置CTは、湯面レベルの制御の終了か否かを判定する(S7)。この判定の結果、例えば電源のオフや湯面レベルの制御終了の入力等によって、湯面レベルの制御の終了である場合(Yes)には、湯面レベル制御装置CTは、湯面レベルの制御を終了し、一方、前記判定の結果、湯面レベルの制御の終了ではない場合(No)には、湯面レベル制御装置CTは、処理を処理S1に戻す。
【0183】
湯面レベル制御装置CTは、このような動作によって湯面レベルを制御している。
【0184】
次に、シミュレーション結果について説明する。図13は、等速な鋳造速度な場合におけるシミュレーション結果を示す図である。図14は、可変な鋳造速度な場合におけるシミュレーション結果を示す図である。図15は、比較例におけるシミュレーション結果を示す図である。図13A図14Aおよび図15Aは、鋳造速度を示し、各横軸は、時間[s]であり、各縦軸は、鋳造速度[m/s]である。図13B図14Bおよび図15Bは、外乱を示し、各横軸は、時間[s]であり、各縦軸は、外乱[m]である。図13C図14Cおよび図15Cは、湯面レベルを示し、各横軸は、時間[s]であり、各縦軸は、湯面レベル[m]である。図13D図14Dおよび図15Dは、スライドバルブの開度を示し、各横軸は、時間[s]であり、各縦軸は、開度[m]である。図13E図14Eおよび図15Eは、FB補償器11の種類を示し、各横軸は、時間[s]であり、各左縦軸は、ゲインタイプであり、各右縦軸は、FB補償器番号である。図13F図14Fおよび図15Fは、FB補償器のパラメータK、T、a、a、b、bを示し、各横軸は、時間[s]であり、各左縦軸は、パラメータK、a、a、b、bであり、各右縦軸は、パラメータTである。図13G図14Gおよび図15Gは、フィードバック補償量を示し、各横軸は、時間[s]であり、各縦軸は、フィードバック補償量(FB補償量)[m]である。図13Hおよび図14Hは、位置型での外乱のフィードフォワード補償量を示し、各横軸は、時間[s]であり、各縦軸は、外乱のフィードフォワード補償量(外乱のFF補償量)[m]である。なお、上述のように、鋳造速度変化等の既知外乱に対するフィードフォワード補償量については、記載が省略されている。図13Iおよび図14Iは、外乱のフィードフォワード補償量(外乱のFF補償量)の成分の周期を示し、各横軸は、時間[s]であり、各縦軸は、外乱のFF補償量の成分の周期[m]である。図13Jおよび図14Jは、外乱のフィードフォワード補償量(外乱のFF補償量)の成分の振幅を示し、各横軸は、時間[s]であり、各縦軸は、外乱のFF補償量の成分の振幅[m]である。図13Kおよび図14Kは、外乱のフィードフォワード補償量(外乱のFF補償量)の成分の位相を示し、各横軸は、時間[s]であり、各縦軸は、外乱のFF補償量の成分の位相[rad]である。
【0185】
比較例の湯面レベル制御装置は、図2に示す実施形態における湯面レベル制御装置CTから、FF補償器12および加算器13を除いて構成されている。すなわち、比較例の湯面レベル制御装置は、上位系システムSY、減算器10およびFB補償器11を備えて構成され、上位系システムSYによるゲインタイプの調整の機能も備えている。
【0186】
シミュレーションでは、タンディッシュ内溶鋼質量は、40.0×10[kg]とされ、鋳型幅は、1.80[m]とされ、鋳造速度は、図13に示す場合および図15に示す場合では、0.02[m/s]で一定(等速)とされ(図13Aおよび図15A参照)、図14に示す場合では、0[s]から150[s]まで0.02[m/s]で一定(等速)とされ、150[s]から160[s]までの間に0.02[m/s]から0.01[m/s]へ変化し、その後、0.01[m/s]で一定(等速)とされる(図14A参照)。バルジングによる外乱として湯面レベルに加わる外乱は、座標軸Xでの空間領域において、周期0.33[m]および振幅0.010[m]の第1波と周期0.165[m]および振幅0.0025[m]の第2波とを重畳することによって形成している(図13B図14Bおよび図15B参照)。もちろん、この外乱は、実施形態における湯面レベル制御装置CTおよび比較例の湯面レベル制御装置では、測定されない(観測できない)。実施形態における湯面レベル制御装置CTは、上述のように、逆算することになる。
【0187】
このようなシミュレーション条件の下、比較例の湯面レベル制御装置では、図15Cに示すように、湯面レベルPV(Prosess Variable)は、外乱(バルジングによる外乱)に起因して大きく変動しており、比較例の湯面レベル制御装置は、外乱(バルジングによる外乱)を抑制し難いことが分かる。なお、湯面レベルPVは、測定値であり、湯面レベルSVは、目標値である。比較例の湯面レベル制御装置では、図15Eに示すように、シミュレーション開始直後では、アクチュエータACのレートリミットで飽和し難いと判定され、ゲインタイプは、ミドルゲインタイプ2.0からハイゲインタイプ1.0へ連続的に調整されている。FB補償器番号は、上述のように、タンディッシュ内溶鋼質量、鋳型幅および鋳造速度の鋳造状態(鋳造条件)が一定であるため、一定である。一方、FB補償器11のパラメータは、ゲインタイプの変化に伴って、図15Fに示すように、変化している。このようにパラメータが変化しても、図15Cに示すように、湯面レベルPVは、変動しているものの定常状態を保ち、この状態で安定している。
【0188】
これに対し、鋳造速度等速の場合における実施形態の湯面レベル制御装置CTでは、図13Cに示すように、湯面レベルPVは、外乱があっても徐々に小さい変動に変化しており、FF補償器12が湯面レベルの制御に有効に作用していることが分かる。図13Dおよび図15Dとを比較すると、バルブ開度は、振幅が比較例の場合とほぼ同じであるが、位相遅れが比較例の場合に較べて小さくなっていることが分かる。これにより図13Cに示すように湯面レベルの変動が徐々に小さくなっているものと考えられる。ゲインタイプ、FB補償器番号およびFB補償器11のパラメータは、図13Eおよび図13Fに示すように、比較例の場合とほぼ同じである。図13Gに示すように、フィードバック補償量は、徐々に減少している一方、図13Hに示すように、フィードフォワード補償量は、徐々に増加している。よって、フィードフォワード補償量が外乱(バルジングによる外乱)を打ち消すように徐々に増加し、それに応じてフィードバック補償量が徐々に減少していると考えられる。図13Iに示すように、フィードフォワード補償量の各成分の各周期は、座標軸Xでの空間領域において、0.330[m]および0.165[m]となっており、正確に推定(逆算)できている。図13Jに示すように、フィードフォワード補償量の各成分の各振幅は、それぞれ、連続的に変化している。また、図13Kに示すように、フィードフォワード補償量の各成分の各位相は、前半の120[s]以前の非定常の部分では、適切な位相を、一時的に非連続に選択しつつ、レベル変動を抑制している。そして、後半の120[s]以降の、ほぼ定常な部分では、位相を連続的に変化させながらレベル変動を抑制している。
【0189】
一方、鋳造速度可変の場合における実施形態の湯面レベル制御装置CTでは、外乱は、上述のように、座標軸Xでの空間領域において定義された第1および第2波から形成されるが。鋳造速度が上述のように変化するので、時間領域では、図14Bに示すように、その周期が変化している。図14Cに示すように、湯面レベルPVは、鋳造速度変化があっても徐々に小さい変動に変化しており、FF補償器12が湯面レベルの制御に有効に作用していることが分かる。特に、鋳造速度減速後において、湯面レベルPVは、その変動が小さく抑制されている。上述のように、鋳造速度変化に対するフィードフォワード補償が実行されるため、鋳造速度減速時に湯面レベルPVが急上昇する状況にはなっていない。外乱のフィードフォワード補償等により、湯面レベルPVの変動が徐々に減少していることがわかる。また、鋳造速度が小さいほど、フィードバック制御が効き易いことも影響している。図14Dに示すように、バルブ開度は、鋳造速度減速時に小さくなり、バルブVLが閉方向に駆動されることが分かる。ゲインタイプ、FB補償器番号およびFB補償器11のパラメータは、図14Eおよび図14Fに示すように、鋳造速度減速前では、比較例の場合とほぼ同じであるが、鋳造速度減速の際に、鋳属速度の変化に伴いK/Aも変化するため、FB補償器番号およびFB補償器11のパラメータも変化し、鋳造速度減速後、変化後のFB補償器番号およびFB補償器11のパラメータで一定となっている。FB補償器番号が変化しても湯面レベルPVの変動は、抑制されており、湯面レベルの制御は、安定なままである。図14Gに示すように、フィードバック補償量は、鋳造速度減速前後のそれぞれにおいて、徐々に減少している一方、図14Hに示すように、フィードフォワード補償量は、徐々に増加している。よって、フィードフォワード補償量が外乱(バルジングによる外乱)を打ち消すように徐々に増加し、それに応じてフィードバック補償量が徐々に減少していると考えられる。フィードフォワード制御量は、鋳造速度減速後、時間領域での周期が伸びていること(長くなっていること)が分かる。図14Iに示すように、フィードフォワード補償量の各成分の各周期は、座標軸Xでの空間領域において、0.330[m]および0.165[m]となっており、正確に推定(逆算)できている。鋳造速度が変化しても、前記時間領域を前記空間領域に変換しているので、鋳造速度の変化に影響されないことが確認できる。図14Jに示すように、フィードフォワード補償量の各成分の各振幅は、鋳造速度減速の前後で制御対象の伝達関数が変化するため、鋳造速度減速の前後で変化している。図14Kに示すように、フィードフォワード補償量の各成分の各位相については、鋳造速度減速後、時間領域での位相の時間変化率が、小さくなっている。これは、鋳造速度が小さくなり、外乱の時間領域での周期が長くなったことに対応している。
【0190】
他に、フィードフォワード補償のロバスト性、すなわち、モデル化誤差が存在しても、レベル変動を増大させないことが必要である。そのためには、フィードフォワード補償の正弦波の周期を制限することが、特に有効である。以下、具体例を説明する。
【0191】
ステッピングシリンダの時定数TSC=0.2[s] 、むだ時間LSC=0.1[s]、渦流センサの時定数TCD=0.3[s]、むだ時間LCD=0.12[s]が、それぞれ、20%変動する場合、モデル化誤差の位相差に相当する時間は、およそ(0.2+0.1+0.3+0.12)×0.2=0.144[s]となる。
【0192】
ここで、或る正弦波を打ち消すために、同一振幅で位相が異なる正弦波を加えて打ち消す場合、元の正弦波と位相をπ(180度)ずらせる必要がある。位相のずれがπ±π/3の範囲を超えたときには、元の正弦波信号より振幅が大きくなり、増幅してしまう。ここで、π/3は、1周期の1/6に相当する。
【0193】
したがって、振幅が正確に推定されている場合、フィードフォワード補償を行う正弦波の周期は、0.144×6=0.864[s]より長い必要があり、この値がフィードフォワード補償を行う正弦波の周期の下限の条件の1つとなる。
【0194】
さらに、モデル化誤差として、鋳型内湯面の表面波が存在する。表面波の基本波は、鋳型幅である長辺の両端を腹とする定常波である。渦流センサは、鋳型の中心から外れたところに設置されているので、表面波を検出する。しかし、バルブ開度を操作するレベル制御は、湯面全体の平均的なレベルを制御することはできるが、表面波を制御することはできず、表面波の周期まで制御した場合には、スピルオーバにより、制御が不安定化し得る。
【0195】
ここで、表面波の基本波の周期は、√[2π・(2・鋳型幅)/重力加速度]と表され、本例では、1.5[s]となる。この値がフィードフォワード補償を行う正弦波の周期の下限の条件の1つとなる。
【0196】
上記2つの条件より、フィードフォワード補償を行う正弦波の周期の下限は、少なくとも1.5[s]となるが、余裕(マージン)を考慮して、本例では、フィードフォワード補償を行う正弦波の周期の下限を4.0[s]とすることとした。
【0197】
これにより、フィードフォワード補償が、時定数やむだ時間のモデル化誤差が存在しても、制御を不安定化することはない。また、フィードフォワード補償では、表面波の周期の操作量を出力しなくなり、表面波の周期の波を励起しないため、スピルオーバを生じず、制御を不安定化することはない。
【0198】
以下、図16のシミュレーション結果で説明する。図16は、モデル化誤差を考慮した場合におけるシミュレーション結果を示す図である。図16Aは、鋳造速度を示し、横軸は、時間[s]であり、各縦軸は、鋳造速度[m/s]である。図16Bは、外乱を示し、横軸は、時間[s]であり、縦軸は、外乱[m]である。図16Cは、湯面レベルを示し、横軸は、時間[s]であり、縦軸は、湯面レベル[m]である。図16Dは、スライドバルブの開度を示し、横軸は、時間[s]であり、縦軸は、開度[m]である。図16Eは、FB補償器11の種類を示し、横軸は、時間[s]であり、左縦軸は、ゲインタイプであり、右縦軸は、FB補償器番号である。図16Fは、FB補償器のパラメータK、T、a、a、b、bを示し、横軸は、時間[s]であり、左縦軸は、パラメータK、a、a、b、bであり、右縦軸は、パラメータTである。図16Gは、フィードバック補償量を示し、横軸は、時間[s]であり、縦軸は、フィードバック補償量(FB補償量)[m]である。図16Hは、位置型での外乱のフィードフォワード補償量を示し、横軸は、時間[s]であり、縦軸は、外乱のフィードフォワード補償量(外乱のFF補償量)[m]である。なお、上述のように、鋳造速度変化等の既知外乱に対するフィードフォワード補償量については、記載が省略されている。図16Iは、外乱のフィードフォワード補償量(外乱のFF補償量)の成分の周期を示し、横軸は、時間[s]であり、縦軸は、外乱のFF補償量の成分の周期[m]である。図16Jは、外乱のフィードフォワード補償量(外乱のFF補償量)の成分の振幅を示し、横軸は、時間[s]であり、縦軸は、外乱のFF補償量の成分の振幅[m]である。図16Kは、外乱のフィードフォワード補償量(外乱のFF補償量)の成分の位相を示し、横軸は、時間[s]であり、縦軸は、外乱のFF補償量の成分の位相[rad]である。
【0199】
図16は、モデル化誤差が存在する場合、すなわち、連続鋳造機のステッピングシリンダと渦流センサの時定数とむだ時間が20%増加し、本例では大きな振幅5[mm]の表面波が印加した場合に、周期4.0[s]以上の正弦波のみをフィードフォワード補償したシミュレーション結果である。
【0200】
図16Aに示すように、鋳造速度は、図13および図15と同様に、0.020[m/s]であり、タンディッシュ内溶鋼質量も、40.0×103[kg]、鋳型幅も1.80[m]である。
【0201】
図16Bに示すように、外乱は、図13ないし図15と同様に、周期0.33[m]および振幅0.010[m]の基本波である第1波と、周期0.165[m ]および振幅0.0025[m]の高調波である第2波とを重畳することによって形成され、さらに、上記のように、振幅5[mm]、周期1.5[s]の表面波が加算されている。
【0202】
図16Cに示すように、湯面レベルPVの振幅は、上記第1波と第2波とによるレベル変動が、減少し、安定に制御されている。ここで、想定したように、周期1.5[s]の表面波によるレベル変動は、励起されておらず、周期1.5[s]のレベル変動の振幅は、ほぼ一定のままである。したがって、フィードフォワード補償が、モデル化誤差に対してロバストとなっていることが分かる。このことは、後述の図16Iないし図16Kに示すように、周期1.5[s]の正弦波、すなわち、鋳片長さの空間領域では、1.5・0.020=0.03[m]の周期の正弦波が、フィードフォワード補償に含まれていないからである。
【0203】
なお、本例では、前述の条件(・離散化された周期L[m]が、0.1~1.0[m]の範囲にある。・振幅が1.0[mm](=0.001[m])以上である。・前後を含めた7点の離散周波数で最大の振幅を持つ。)で、周期L[m]が0.1~1.0[m]の範囲にあるとしており、鋳速が0.02[m/s]であることから、時間領域に換算すると、周期は、5~50[s]であり、前述の条件の方が厳しく、優先されている状態となっている。ただし、例えば、鋳速が0.04[m/s]であれば、 前述の条件の時間領域に換算した周期の条件は、2.5~25[s]となり、フィードフォワード補償のロバスト性の条件である「周期4.0[s]以上」の方が優先されることとなる。したがって、時間領域での周期(周波数)の制約は、不可欠である。
【0204】
図16Dは、バルブの開度を示す。
【0205】
図16Eのゲインタイプがローゲイン(L)(グラフの値では3.0)となっている。これは、表面波を大きめに設定したため、フィードバック補償による操作量のレートが所定の値を超える場合が多く、フィードバックゲインを下げる方向にゲインタイプが変更されていることを示している。すなわち、フィードバック制御の効きは弱くなっている。なお、FB補償器番号は、鋳造速度等の条件が一定のため、不変である。
【0206】
図16Fは、PI+フィルタのパラメータの変化を示す。ゲインタイプに応じて変更されていることが分かる。
【0207】
図16Gは、フィードバック補償量であり、図16Hは、フィードフォワード補償量である。フィードフォワード補償量の増加につれて、フィードバック補償量が減少していくことがわかる。また、フィードバック補償には、わずかに表面波の周期の成分が含まれるが、フィードフォワード補償では、表面波の周期の成分は含まれていない。
【0208】
図16Iないし図16Kは、それぞれ、フィードフォワード補償量の成分の正弦波の周期、振幅、位相を示しており、上述のように、表面波の周期の成分は含まれておらず、バルジング外乱の周期0.33[m]の基本波と、周期0.165[m]の高調波に対応する正弦波のみである。そして、表面波の周期の成分は、無いことから、表面波の周期の湯面レベル変動を励起しないことが分かる。
【0209】
以上より、フィードフォワード補償が、モデル化誤差に対してもロバストであることがわかる。すなわち、制御対象のモデル化誤差の位相差がπ/3である時間周波数より低周波側であり、かつ、鋳型内湯面の表面波の時間周波数より低周波側である時間周波数領域で、フィードフォワード補償を行うことにより、フィードフォワード補償が、モデル化誤差に対して、ロバスト性を持つことが分かる。上述の例では、前記制御対象のモデル化誤差の位相差がπ/3である時間周波数に相当する周期は、0.144[s]×6=0.864[s]であり、前記鋳型内湯面の表面波の時間周波数に相当する周期は、1.5[s]であり、したがって、時間周波数領域は、周期1.5[s]より、低周波側となる。上述のシミュレーションでは、余裕(マージン)を勘案して、周期4.0[s]より低周波側でフィードフォワード補償を行うようになっている。
【0210】
以上説明したように、実施形態における湯面レベル制御装置CTおよびこれに実装された湯面レベル制御方法は、外乱を打ち消すために、振幅および周期だけでなく、位相も求めているので、フィードフォワード補償により外乱による湯面レベルの変動を抑制できる。上記湯面レベル制御装置CTおよび湯面レベル制御方法は、フィードバック補償量にフィードフォワード補償量を加算するので、フィードバック制御の安定性に影響し難いため、フィードバック制御の帯域を広いまま維持できる。したがって、上記湯面レベル制御装置CTおよび湯面レベル制御方法は、フィードバック制御の広い制御帯域を維持しつつ、周期的なバルジング外乱を抑制できる。
【0211】
なお、特許文献1に開示された外乱推定オブザーバの場合は、フィルタを用いるので位相が遅れ、湯面レベルの変動を低減する効果が限定される。フィードバック補償で、バルジングの周期外乱に対応しようとすると、制御帯域が狭くなってしまう。
【0212】
鋳造速度が変更した場合、時間領域では、鋳片上での各値の間隔も変更され、影響を受ける。上記湯面レベル制御装置CTおよび湯面レベル制御方法は、前記時間領域を前記空間領域に変更するので、このような影響を受けること無く、フィードフォワード補償量を適切に求めることができ、湯面レベルを適切に制御できる。
【0213】
フィードフォワード補償量が、ピークを持つ第1正弦波成分(周波数jの成分)から成ってよいが、第1正弦波成分が、外乱を打ち消す望ましい位相に対して逆位相になる場合も有り得る。上記湯面レベル制御装置CTおよび湯面レベル制御方法は、第1ないし第3正弦波成分(周波数j、pre、postの各成分)における第1ないし第3位相の中から、最も前記外乱を打ち消す位相を前記フィードフォワード補償量の位相として選択するので、より適切な位相を選択できる。複数の周波数の外乱が印加する場合であっても、上記湯面レベル制御装置CTおよび湯面レベル制御方法は、対応できる。例えば、ピークが隣接する場合、位相も隣接するピークの周波数近傍で大きく変化するが、外乱を打ち消す位相を、前記外乱の打ち消し量を求めて判断することで、上記湯面レベル制御装置CTおよび湯面レベル制御方法は、適切な位相を選択できる。
【0214】
サンプリングタイミングでの一定の期間(時間、空間)で外乱を打ち消すか否かを判断するため、上記湯面レベル制御装置CTおよび湯面レベル制御方法は、外乱や制御対象が変化する非定常な場合でも、過敏な補償となり難い。
【0215】
上記湯面レベル制御装置CTおよび湯面レベル制御方法は、ゲインタイプを調整するので、バルブVLの操作量におけるレートの絶対値に応じた適切なゲインでフィードバック制御を実施でき、バルブを駆動するアクチュエータのレートリミット内(動作速度限界内)で湯面レベルを制御できる。すなわち、上記湯面レベル制御装置CTおよび湯面レベル制御方法は、不安定化しない範囲で、フィードバック制御の性能を可能な限り高くでき、制御を継続できる。
【0216】
したがって、上記湯面レベル制御装置CTおよび湯面レベル制御方法は、制御対象や外乱の変化に適応的に動作し、安定性が保たれ、制御帯域も広く維持され、フィードバック補償にフィードフォワード補償を併用し、外乱による湯面レベルの変動を、前記外乱に複数の周波数成分が含まれる場合であっても、抑制可能である。
【0217】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0218】
CT 湯面レベル制御装置
SY 上位系システム
CM 連続鋳造機
TD タンディッシュ
AC アクチュエータ
VL バルブ
MD 鋳型
RL ロール
1 レベル測定部
10 減算器
11 FB補償器
12 FF補償器
13 加算器
111 PID制御部
112 フィルタ部
図1
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