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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】高張力鋼のスラブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/00 20060101AFI20241022BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241022BHJP
   C22C 38/04 20060101ALI20241022BHJP
   B22D 11/12 20060101ALI20241022BHJP
   B22D 11/124 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C21D9/00 101W
C22C38/00 301A
C22C38/04
B22D11/12 C
B22D11/12 Z
B22D11/124 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021155953
(22)【出願日】2021-09-24
(65)【公開番号】P2023047054
(43)【公開日】2023-04-05
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】藪内 惇
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 康人
(72)【発明者】
【氏名】村上 俊夫
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-139210(JP,A)
【文献】特開2008-238259(JP,A)
【文献】特開平01-157770(JP,A)
【文献】特開平09-024401(JP,A)
【文献】特開2020-139209(JP,A)
【文献】特開2019-167560(JP,A)
【文献】特開2023-001702(JP,A)
【文献】特開2007-083274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00
C22C 38/00
C22C 38/04
B22D 11/12
B22D 11/124
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素含有率が0.16mass%以上0.35mass%以下、ケイ素含有率が1.0mass%以上2.5mass%以下、マンガン含有率が1.2mass%以上4.0mass%以下の高張力鋼のスラブを鋳造し、
スラブが鋳造機の最終ロールを通過してから50分以内に、切断されたスラブを積むとともに、積まれた前記スラブの上および下に別の鋳造機で鋳造された別スラブを配置した状態とし、前記状態を8時間以上維持するとともに、前記状態を維持している間、前記別スラブを除き、内部割れの長さが23mm以下のスラブについて、スラブの上面と下面の冷却速度差が0.5℃/min.以下となるようにし、内部割れの長さが23mmより長く50mm以下であるスラブについて、スラブの上面と下面の冷却速度差が0.25℃/min.以下となるようにし、
その後、スラブに存在する表面欠陥の深さを測定し、表面欠陥の深さが、その後の加熱時および/または圧延時に生じる表面応力σc(MPa)を基に下記式から算出した臨界欠陥深さc(m)を超えるとき、その表面欠陥を除く処理を行うことを特徴とする高張力鋼のスラブの製造方法。
【数A】
ここで、Kcは破壊靭性値である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高張力鋼のスラブを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、強度を高めることを目的として、鋼に、炭素(C)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ホウ素(B)等が添加されている。これらが添加されることにより、鋼を鋳造後、冷却した際、割れ(以下、「置き割れ」と称する)が発生しやすい。
【0003】
鋼の強度をさらに高めるため、炭素(C)の添加量を多くすることがある。しかし、炭素(C)の添加量が多くなるにつれて、置き割れの発生頻度が高くなる。特許文献1には、炭素(C)の添加量が多い鋼種でも、置き割れの発生を抑制可能な方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-139209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの研究から、炭素(C)の添加量が多い鋼種では、置き割れが発生しやすい上に、圧延時に穴が空いたり、ヘゲが発生したりしやすいことがわかった。炭素(C)の添加量が多い鋼種では、置き割れの発生を抑制できることに加え、圧延時に穴やヘゲが発生することが抑制できることが望ましい。
【0006】
本発明は、置き割れが発生しやすい鋼種でも、置き割れの発生を抑制可能であり、かつ、圧延時に穴やヘゲが発生することを抑制可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示される高張力鋼のスラブの製造方法は、炭素含有率が0.16mass%以上0.35mass%以下、ケイ素含有率が1.0mass%以上2.5mass%以下、マンガン含有率が1.2mass%以上4.0mass%以下の高張力鋼のスラブを鋳造し、
スラブが鋳造機の最終ロールを通過してから50分以内に、切断されたスラブを積むとともに、積まれた前記スラブの上および下に別の鋳造機で鋳造された別スラブを配置した状態とし、前記状態を8時間以上維持するとともに、前記状態を維持している間、前記別スラブを除き、内部割れの長さが23mm以下のスラブについて、スラブの上面と下面の冷却速度差が0.5℃/min.以下となるようにし、内部割れの長さが23mmより長く50mm以下であるスラブについて、スラブの上面と下面の冷却速度差が0.25℃/min.以下となるようにし、
その後、スラブに存在する表面欠陥の深さを測定し、表面欠陥の深さが、その後の加熱時および/または圧延時に生じる表面応力σc(MPa)を基に下記式から予め算出した臨界欠陥深さc(m)を超えるとき、その表面欠陥を除く処理を行う。
【数A】
ここで、Kcは破壊靭性値である。
【発明の効果】
【0008】
上述した方法によると、置き割れが発生しやすい鋼種でも、置き割れの発生を抑制でき、かつ、圧延時に穴やヘゲが発生することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】切断されたスラブXの斜視図である。
図2図1のIIの切断面を示す図である。
図3】破壊靭性試験の結果を示す図である。
図4】応力(内部応力と外部応力の合計)と内部割れ長さとの関係を示す図である。
図5】応力と内部割れ長さとの関係を示す図である。
図6】スラブの温度とスラブが連続鋳造機の最終ロールを通過してからの時間との関係を示す図である。
図7】スラブを積んだ状態を示す模式図である。
図8】スラブが反った状態の例を示す模式図である。
図9】スラブの反り量の求め方を説明するための模式図である。
図10】外部応力の求め方を説明するための模式図である。
図11】実験結果を示す図である。
図12】外部応力とスラブ長さの関係を示す図である。
図13】反り量を示す図である。
図14】応力と内部割れ長さとの関係を示す図である。
図15】表面欠陥深さと表面応力との関係を示す図である。
図16】実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0011】
本実施形態で対象とする高張力鋼は、以下の組成を有する。
炭素(C)含有率:0.16mass%以上0.35mass%以下
ケイ素(Si)含有率:1.0mass%以上2.5mass%以下
マンガン(Mn)含有率:1.2mass%以上4.0mass%以下
【0012】
本実施形態で対象とする高張力鋼の炭素含有率の上限は、一般的な高張力鋼の炭素含有率の上限より高い。本実施形態では、一般的な高張力鋼より高強度な鋼も対象としている。
【0013】
上述した組成の高張力鋼のスラブを鋳造機で鋳造する。スラブのサイズは、例えば、厚さ230mm以上270mm以下、幅800mm以上1,400mm以下である。鋳造後、スラブを所定の長さに切断する。
【0014】
〔置き割れ〕
本発明者らは、鋳造後、切断したスラブを冷却した際、置き割れが発生する原因について研究した。その結果、以下のことがわかった。
【0015】
図1に、切断されたスラブの一例(スラブX)を示している。図1に示す幅方向、厚さ方向および長手方向は、互いに直交している。スラブXを冷却した際、スラブXに内部応力が発生する。内部応力の大きさを、スラブXの幅方向、厚さ方向および長手方向で比較したところ、長手方向の応力が最も大きいことがわかっている。また、この長手方向の応力が、置き割れを引き起こす主な応力であることがわかっている。
【0016】
図2に、スラブXの長手方向に沿った切断面の一例を示している。図2に示す切断面は、図1のIIの切断面である。図2に示すように、スラブXに、内部割れが発生することがある。内部割れは、内部応力が最も大きいスラブ長手方向に直交する方向に発生する。内部割れに応力が作用することにより、内部割れを起点に置き割れが発生する。
【0017】
スラブXを冷却した際に生じる内部応力は、熱膨張・収縮による熱応力によるものと、変態膨張・収縮による変態応力によるものとの双方が作用した結果、発生する。熱応力は、スラブXの表面温度と内部温度の差によって生じ、水冷や空冷などにより冷却速度を制御することによって制御可能である。
【0018】
本実施形態で対象とする高張力鋼は、従来の鋼より炭素含有率が高い鋼も対象とするため、熱応力を低減するだけでは、置き割れの発生を抑制できない場合があることがわかった。そこで、熱応力だけでなく、変態応力に着目した。
【0019】
変態応力は、スラブの表面側と内部側の変態発生のタイミングの差、および、変態後の材料の強度(組織)によって変わる。冷却時のスラブの組織がオーステナイト組織からフェライト組織、パーライト組織又はこれら両方が存在する組織に変態する場合、変態応力は小さい。しかし、スラブの組織が、ベイナイト組織やマルテンサイト組織に変わる場合、変態応力が大きくなる。
【0020】
本実施形態で対象とする高張力鋼では、スラブが500℃以上700℃以下のときに変態(フェライト組織やパーライト組織への変態)を発生させると変態応力が低減する場合があることがわかった。このことから、スラブが500℃以上700℃以下のときに冷却速度を制御することにより、変態応力を低減できると考えられる。変態応力を低減できれば、熱応力と変態応力の合計である内部応力が小さくなるため、スラブを室温まで冷却した際、置き割れを発生させる室温時の内部(残留)応力を低減できる。したがって、この温度範囲で冷却速度を制御することが重要である。一方、上記温度範囲より高温域では、スラブの組織が変態しないため、変態応力が発生しない。また、上記温度範囲より低温域で変態を発生させるとベイナイト組織やマルテンサイト組織が発生し、材料の強度が上がるため、変態応力が大きくなる。
【0021】
上記より、本実施形態で対象とする高張力鋼では、スラブを鋳造後、スラブの温度が700℃になってから500℃に至るまで(500℃以上700℃以下のとき)の間のスラブの冷却速度を制御することが、置き割れの発生を抑制に重要であると考えられる。なお、スラブの温度が500℃未満のときの冷却速度および700℃を超えるときの冷却速度は、熱応力の変化には寄与するものの、寄与の程度は小さく、置き割れの直接原因にはならない。
【0022】
本発明者らはさらに研究を進めたところ、以下の知見を得た。
本実施形態が対象とする高張力鋼では、鋳造後、冷却した後、反りが発生することがわかった。反りを矯正するとき、外部応力が発生する。この外部応力が、置き割れの起点に作用することがわかった。
【0023】
上記より、本実施形態が対象とする高張力鋼では、置き割れの起点に、内部応力が作用することに加え、外部応力が作用することがわかった。そして、置き割れの起点に作用した内部応力と外部応力が、置き割れの発生の原因になることがわかった。これらから、スラブに発生する内部応力に加え、外部応力も小さくし、内部応力と外部応力の合計を小さくすることで、置き割れの発生を抑制できると考えた。そして、置き割れが発生しない応力(内部応力と外部応力の合計)の限界値があると考え、この限界値を調べるため以下の実験を行った。
【0024】
垂直曲げ型連続鋳造機(機長39.0m、曲げ半径8.8m)により、表1に示す鋼種のスラブを鋳造した。表1に示す鋼種A、Bは、本実施形態で対象とする高張力鋼である。表2に鋳造条件を示している。スラブを鋳造後、スラブからサンプルを採取し、ISO12737の金属材料-平面ひずみ破壊じん(靱)性試験方法に準じて、破壊靱性試験を実施した。
【表1】
【表2】
【0025】
図3に、破壊靭性試験の結果を示している。図3の縦軸は室温における破壊応力であり、図3の横軸は破壊の起点(切り欠き長さ)である。図3に示す曲線は破壊靱性の特性を示している。曲線の上側ではスラブが破壊するが、曲線上およびその下側ではスラブが破壊しないことがわかった。
【0026】
破壊靱性試験におけるサンプルの破壊、破壊の起点(切り欠き長さ)および破壊応力はそれぞれ、スラブの置き割れ、置き割れの起点となる内部割れ(内部割れ長さ)およびスラブにかかる応力と考えることができる。この「スラブにかかる応力」を、内部応力と外部応力の合計と考えた。
【0027】
破壊靱性試験におけるサンプルの破壊、破壊の起点(切り欠き長さ)および破壊応力をそれぞれスラブの置き割れ、内部割れ(内部割れ長さ)およびスラブにかかる応力(内部応力と外部応力の合計)に置き換えると、図4に示す図が得られた。図4の縦軸は応力(内部応力と外部応力の合計)δであり、図4の横軸は内部割れ長さLである。図4に示す曲線は、置き割れが発生しない最大応力と考えることができる。曲線の上側の範囲は、「置き割れが発生する範囲」であり、曲線上および曲線の下側の範囲は、「置き割れが発生しない範囲」である。
【0028】
上述した破壊靭性試験から破壊靭性値Kc(MPa√m)を求めた。破壊靭性値Kc(MPa√m)、切り欠き長さa(m)および応力拡大係数の補正係数Fから、破壊限界応力σcは式(1)で表される。
【数1】
ここで、πは円周率である。
置き割れの起点が内部欠陥(内部割れ)のため、応力拡大係数の補正係数Fは式(2)によって表される。
【数2】
上記(1)式において、「破壊限界応力σc」を「置き割れが発生しない最大応力σc」と考え、「切り欠き長さa」を「内部割れ長さa」と考えると、式(1)および式(2)から、置き割れが発生しない最大応力σcは、式(3)で表される。
【数3】
式(3)によって表される最大応力σcが、置き割れが発生しない内部応力と外部応力の合計の限界値である。
【0029】
図5に、横軸を「応力」とし、縦軸を「内部割れ長さ」としたときの式(3)を示している。式(3)の曲線は置き割れが発生しない限界値であり、式(3)の曲線の上側は、つまり内部応力と外部応力の合計が曲線を超えると「置き割れが発生する範囲」であり、式(3)の曲線上および式(3)の曲線の下側は、つまり内部応力と外部応力の合計が曲線を超えないと「置き割れが発生しない範囲」である。
【0030】
上記より、スラブを鋳造した後、スラブの温度が700℃になってから500℃に至るまでの間(500℃以上700℃以下のとき)、スラブに発生する内部応力と外部応力の合計が図5に示す「置き割れが発生しない範囲」に存在するように冷却を制御すれば、置き割れの発生を抑制できると考えられる。
【0031】
上記知見を確認するため、以下の実験を行った。
【0032】
先ず、スラブを鋳造後、スラブの温度が700℃に至るまでの時間を調べるため、以下の実験を行った。
【0033】
垂直曲げ型連続鋳造機(機長39.0m、曲げ半径8.8m)により、表1に示す鋼種Bのスラブ(厚さ230mm×幅1230mm)を鋳造した。鋳片引き抜き開始時は、0.2m/min.で、約100秒間、鋳片を引き抜いた。その後、0.12m/min.2の加速度で目標鋳造速度まで順次増速させた。鋳造速度を1.3m/min.とし、比水量を1.0g/kg-steelとした。スラブが連続鋳造機の最終ロールを通過した後、スラブの表面温度を測定した。連続鋳造機の最終ロールとは、鋳造経路に沿って連続鋳造機の鋳型から最も遠い位置に配置されたロールである。
【0034】
上述したように、置き割れは、内部割れを起点に発生することがわかっている。内部割れは、図2に示すようにスラブの内部(軸心近く)に存在する欠陥で、特に、厚みtのスラブにおいて、表面から厚み方向にt/4程度の位置に多く発生することがわかっている。そこで、内部割れが発生しやすい位置付近のスラブ軸心温度が700℃に至る温度を調べた。スラブ軸心とは、スラブの幅方向中央、厚さ方向中央、且つ長手方向中央の位置である。
【0035】
スラブの軸心温度は、スラブ(鋼)の熱伝達係数を用いて、スラブ表面温度を境界条件に計算した。本実験では、CASTEM(伝熱凝固計算)を使用した。本実験では、スラブの表面温度を測定し、その表面温度(測定値)に合うようCASTEM内の熱伝達係数をフィッティングして、軸心温度を計算した。
【0036】
図6に、縦軸を「スラブの温度」とし、横軸を「スラブが連続鋳造機の最終ロールを通過してからの時間」としたグラフにおいて、スラブの軸心温度を「〇」で示している。また、図6に、スラブの軸心温度(〇)の下限を示す曲線Aを示している。参考に、スラブの表面温度を「◆」で示している。また、スラブの表面温度(◆)の下限を示す曲線Bを示している。
【0037】
曲線Aにおいて、スラブの軸心温度が700℃に至るのは、スラブが鋳造機の最終ロールを通過してから50分付近である。曲線Aはスラブの軸心温度(〇)の下限を示す線であり、実際の軸心温度は、曲線Aより高い温度であると考えられる。そのため、実際の軸心温度が700℃に至るのも、スラブが鋳造機の最終ロールを通過してから50分経過してからと考えられる。
【0038】
上記より、スラブの軸心温度が700℃に至るまでの時間は、スラブが鋳造機の最終ロールを通過してから50分以上経過してからであることがわかった。
【0039】
スラブが鋳造機の最終ロールを通過してから50分以上経過した後、スラブの温度が700℃以下になる。スラブの温度が700℃以下になってから500℃になるまでの間、スラブに発生する内部応力と外部応力の合計が図5に示す「置き割れが発生しない範囲」に存在するようにすることにより、置き割れの発生を抑制できる。
【0040】
上記知見を基に、鋳造機の最終ロールを通過してから50分以上経過してからの冷却状態が異なるスラブを比較して、図5に示す知見を確認する実験を行った。
【0041】
垂直曲げ型連続鋳造機(機長39.0m、曲げ半径8.8m)により、表1の鋼種Bのスラブ(厚さ230mm×幅1230mm)を鋳造した。鋳片引き抜き開始時は、0.2m/min.で、約100秒間、鋳片を引き抜いた。その後、0.12m/min.2の加速度で目標鋳造速度まで順次増速させた。表2に鋳造速度および比水量を示している。鋳造後、スラブを所定の長さ(5.5~11.0m)に切断した。
【0042】
上述した実験から、スラブが連続鋳造機の最終ロールを通過してから50分を経過した後、スラブの軸心温度が700℃に至ることがわかったため、スラブが連続鋳造機の最終ロールを通過してから50分以内に、表3に示す冷却状態になるようにスラブを段積みした。表3に示す冷却状態で96時間放置してスラブを室温になるまで冷却させてから、表3に示す段積み位置のスラブに置き割れが発生しているか(スラブ折損の有無)を確認した。表3に結果を示している。
【0043】
【表3】
【0044】
以下に、表3に示す項目を説明する。
【0045】
<冷却状態>
図7に示すように、切断された8枚のスラブを広面同士が重なるように積んだ。スラブの広面とは、スラブの幅方向および長手方向にほぼ水平な面である。本実験では、広面がほぼ同じ大きさのスラブを段積みした。全てのスラブの幅方向および長手方向の中心が同一鉛直線状に配置されるように、8枚のスラブを積んだ(8枚積み)。この状態で、スラブを室温で96時間放置した。この状態でスラブを室温で96時間放置して、スラブが室温となった。
【0046】
表3の「冷却速度」、「スラブ上面-下面の冷却速度差」、「内部割れ長さL」、「置き割れ発生の有無」、「内部応力」、「反り量」および「外部応力」は、8枚積みされたスラブのうち下記のスラブのものである。
No.1:最上段のスラブ
No.2:2段目スラブ
No.3:から3段目のスラブ
【0047】
<冷却速度>
図7に示すように、スラブを段積みした後、No.1~3のスラブ上面およびスラブ下面にK型熱電対をセットし、スラブの「上面の冷却速度」と「下面の冷却速度」を96時間測定した。置き割れは、スラブの長手方向中心かつ幅方向中心で発生することが多い。また、後述する内部応力の計算でも、スラブの長手方向中心かつ幅方向中心で応力が最も大きいことがわかっている。そのため、No.1の場合、図7の拡大図に示すように、K型熱電対を、スラブ上面の長手方向中心かつ幅方向中心(C1)と、スラブ下面の長手方向中心かつ幅方向中心(C2)とに配置し、C1の「上面の冷却速度」とC2の「下面の冷却速度」を測定した。No.2およびNo.3でも同様に、K型熱電対を、スラブ上面の長手方向中心かつ幅方向中心(C1)と、スラブ下面の長手方向中心かつ幅方向中心(C2)とに配置し、C1の「上面の冷却速度」とC2の「下面の冷却速度」を測定した。
【0048】
<スラブ上面-下面の冷却速度差>
表3に示す「スラブ上面-下面の冷却速度差」は、スラブの「上面の冷却速度」と「下面の冷却速度」の差の絶対値である。
【0049】
には示していないが、CASTEM(伝熱凝固計算)を用いてスラブの軸心冷却速度を計算した。計算には、表3に示す成分のスラブサンプルの各種試験により採取した物性値(比熱、凝固潜熱、熱伝導度、密度等)に基づき、表3に示す連続鋳造機の冷却条件(鋳造速度、比水量)と鋳造後の冷却条件を元に、境界条件として、鋳片表面とミスト、大気、ロールそれぞれの熱伝達係数を温度の関数として与えた。また、連続鋳造機の最終ロールを通過した直後のスラブ表面温度および、鋳造後の冷却時におけるスラブ表面温度を測定し、計算によって得られた表面温度履歴が実測値に合うようにスラブ表面の熱伝達係数を補正した。また、後述する内部応力の解析において、スラブの幅方向中央、厚さ方向中央、且つ長手方向中央の位置(軸心)で内部応力が最大となったことから、冷却速度として、スラブの幅方向中央、厚さ方向中央、且つ長手方向中央の位置(軸心)の冷却速度を求めた。No.1の軸心冷却速度は0.7℃/min.であり、No.2およびNo.3の軸心冷却速度は0.44℃/min.であった。
【0050】
<内部割れ長さL>
鋳造後、所定の長さに切断したスラブを、幅方向中央で長手方向に沿って切断した(図1および図2参照)。切断面からサンプルを採取し、サンプルに酸を塗布した。酸により腐食した部分のスラブ厚さ方向の長さを測定し、内部割れ長さLとした。腐食した部分が複数存在するときは、腐食した部分の長さが最も長いものを、内部割れ長さLとした。なお、本方法での検出下限は10mmである。10mm未満の長さの割れは全て10mmとして取り扱った。また、デンドライト樹間でミクロ偏析が大きい部分(10mm未満)と内部割れを見分けることが困難であるため、ミクロ偏析が大きい部分も10mmの割れとして取り扱った。
【0051】
<置き割れ発生の有無>
表3に示す冷却状態を96時間維持してスラブが室温になってから、スラブに置き割れが発生しているか(スラブ折損の有無)を確認した。また、表3のNo.1~No.3以外のスラブ(最下段を除く)についても置き割れが発生しているか(スラブ折損の有無)を確認したところ、表3のNo.1~No.3以外のスラブ(最下段を除く)に置き割れが発生しないことが確認できた。
【0052】
<内部応力>
スラブを表3に示す冷却状態で維持したときの内部応力を求めた。本実験では、汎用ソフトウェアのABAQUSを用いて、数値解析により、内部応力を求めた。内部応力を求めるとき、予めスラブの軸心温度の算出に使用したCASTEMで計算された鋳片の温度分布を与え、その温度と冷却速度に応じた物性値(応力-歪関係、線膨張係数)を逐次与えることで、鋳片内の応力分布を計算した。この解析により、内部応力は、スラブの幅方向、厚さ方向、および長手方向のうち長手方向の内部応力が最大となることがわかった。また、スラブの幅方向、厚さ方向、および長手方向の内部応力はそれぞれ幅方向中央、厚さ方向中央、および長手方向中央で最大となることがわかった。
【0053】
<反り量>
スラブは、上面-下面の冷却速度差が生じることにより反ることがわかった。スラブを表3に示す冷却状態で放置し室温になってから、以下の方法により、スラブの長手方向の反り量を求めた。
図8の上図に示すように、スラブが長手方向に対して上側に凸となるように沿った場合、スラブ下面の中心からスラブ下面の長手方向両端を結ぶ直線までの最短距離を反り量(最大値)x1とした。
図8の下図に示すように、スラブが下側に凸となるように沿った場合、スラブ下面の長手方向一端からスラブ下面の中心の接線までの最短距離を反り量(最大値)x2とした。反り量の最大値x(x1またはx2)は、図9に示すように、スラブの反り半径(スラブが反った部分の半径)R、角度θ、スラブ長さlから、以下の式で表される。
【数4】
【0054】
<外部応力>
本実験では、スラブを室温まで冷却した後、スラブの反りを矯正する力を外部応力とした。以下の方法で、外部応力を算出した。
図10に示す厚みtのスラブでは、内周側から厚みt/4の位置で外部応力が最も大きくなることがわかっている。スラブ厚み中心を基準としたとき、内周側から厚みt/4の位置の半径R1は、以下の式で表される。
1=R- t/4 ・・・(a)
ここで、Rは、スラブ厚み中心の半径である。
内周側から厚みt/4の位置のスラブ長さl1は、以下の式で表される。
1=R1×θ ・・・(b)
スラブの反りを矯正した際に、内周側から厚みt/4の位置に生じる歪ε1は、以下の式で表される。
【数5】
ここで、lは、スラブ厚み中心のスラブ長さである。
歪ε1を生じさせる応力σを外部応力と考えると、外部応力σは、ヤング率をEとした場合、以下の式で表される。
σ=ε1E ・・・(d)
本実験で対象とする鋼種のヤング率Eは204GPaである。
【0055】
図11に、図5のグラフにNo.1~3をプロットしたものを示している。図11に示すように、置き割れが発生したNo.1は、式(3)の曲線を超え、「置き割れが発生する範囲」に存在する。置き割れが発生しなかったNo.2およびNo.3は、「置き割れが発生しない範囲」に存在する。
【0056】
上記実験から、式(3)の曲線を超える範囲は「置き割れが発生する範囲」であり、式(3)の曲線を超えない範囲は「置き割れが発生しない範囲」であることを確認できた。
【0057】
上記より、スラブを鋳造し、スラブが連続鋳造機の最終ロールを通過してから50分経過した後、スラブの温度が700℃から500℃に至るまでの間(500℃以上700℃以下の範囲において)、内部応力と外部応力の合計が図5に示す「置き割れが発生しない範囲」になるようにすることで、置き割れの発生を抑制できることがわかった。
【0058】
次に、内部応力と外部応力の合計が図5に示す「置き割れが発生しない範囲」になるようにする方法について検討した。
【0059】
図12に、縦軸を「外部応力」とし、横軸を「スラブの長さ」とし、反り量(x)を変えたときの外部応力とスラブ長さとの関係を示している。「外部応力」は、図10に示すように、スラブの内周側から厚みt/4の位置の外部応力であり、上記(d)式から算出したものである。「スラブの長さ」は、図10に示すスラブの厚み方向中心の長手方向長さ(l)である。図12に示すように、反り量(x)が小さいほど、外部応力が小さい。同じ反り量(x)では、スラブ長さが長くなるほど、外部応力が小さい。
【0060】
図13に、表のNo.1~No.3の反り量を示している。図13には、試験数10の反り量の最大の反り量を「max」と示し、試験数10の反り量の平均値を「ave」と示している。図13から、置き割れが発生していないNo.2およびNo.3において、最も大きい反り量は20mmであった。図12から、反り量が20mm(x=20mm)のとき、外部応力は最大約50MPaである。表3から、反り量が20mmであるNo.2では、外部応力が50MPaであり、この外部応力は、図12に示す反り量が20mm(x=20mm)のときの最大外部応力(約50MPa)であった。
【0061】
なお、No.3のスラブ(上から3段目のスラブ)の反り量は0mmであった(図13)。表3から、No.3のスラブの反り量は0mmであり、このときの外部応力は0MPaであった。上から3段目より下のスラブは、上から3段目のスラブと冷却状態がほぼ同じまたは上から3段目のスラブより冷却されにくいため、上から3段目のスラブ(No.3)と同じ反り量(0mm)、同じ外部応力(0MPa)であると推測される。
【0062】
なお、最下段のスラブは、他の段積み位置のスラブとは異なる冷却状態となり、後述するように、内部応力が大きいため、置き割れが発生する可能性が高いと考えられる。
下から2段目のスラブは、上から2段目のスラブと同様な冷却状態(例えば、表3に示すスラブ上面-下面の冷却速度差が同等)であると考えられるが、下から2段目のスラブの上には多数のスラブが配置されているため、上から2段目のスラブより反りにくい。そのため、下から2段目のスラブの反り量は、上か2段目のスラブの反り量より小さいと考えられる。また、下から2段目のスラブに発生する外部応力は、上か2段目のスラブの外部応力(50MPa)より小さいと考えられる。
【0063】
上記より、置き割れが発生しないスラブの最大反り量は20mmであり、このときの外部応力は50MPaであると考えられる。
【0064】
内部応力については、表3から、最上段のスラブ(No.1)の内部応力は198MPaと大きいが、上から2段目のスラブおよび3段目のスラブ(No.2、No.3)の内部応力は125MPaであった。上から4段目から、下から2段目までのスラブは、上から2段目および3段目のスラブと冷却状態が同じまたはそれより冷却されにくいと考えられるため、上から4段目から、下から2段目までのスラブに発生する内部応力は125MPa以下であると推測される。
【0065】
なお、最下段のスラブは、その下にスラブが配置されていないため、冷却されやすい。そのため最下段のスラブの内部応力は大きい。実際に、最下段のスラブの内部応力を計算したところ、310MPaであった。
【0066】
上記より、置き割れが発生しないスラブの最大内部応力は125MPaであると考えられる。
【0067】
以上より、置き割れが発生しないスラブの最大反り量(x)は20mm以下あり、このときスラブに発生する最大応力は内部応力(125MPa)と外部応力(50MPa)の合計175MPaである。図14に、図5に示す式(3)と、「置き割れが発生する範囲」と、「置き割れが発生しない範囲」とを示している。図14に示す「置き割れが発生しない範囲」で応力が175MPaとなるのは、内部割れ長さが約23mmのときである。このことから、内部割れ長さが23mm以下のとき、反り量が20mm以下であると、置き割れが発生しないと考えられる。反り量が20mm以下となるのは、言い換えると、最大内部応力は175MPa以下となるのは、表3から、スラブ上面-下面の冷却速度差が0.50℃/min.以下のときであると考えられる。
【0068】
また、置き割れが発生しないスラブのうち(最下段を除く)上から3段目以降のスラブ(No.3)は反り量が0mmであり、このとき、スラブに発生する最大応力は、内部応力(125MPa)と外部応力(0MPa)の合計125MPaである。図14に示す「置き割れが発生しない範囲」で応力が125MPaとなるのは、内部割れ長さが50mm付近のときである。このことから、内部割れ長さが50mm以下のとき、反り量が0mm以下であると、置き割れが発生しないと考えられる。反り量が0mm以下となるのは、言い換えると、最大内部応力は125MPa以下となるのは、表3から、スラブ上面-下面の冷却速度差が0.25℃/min.以下のときであると考えられる。
【0069】
上記より、スラブの内部割れ長さが23mm以下であるとき、スラブが連続鋳造機の最終ロールを通過してから50分を経過した後、スラブ上面-下面の冷却速度差が0.50℃/min.以下となるように冷却する。これにより、反り量が20mm以下となり、置き割れが発生しないようになる。
また、スラブの内部割れ長さが23mmより大きく50mm以下であるとき、スラブが連続鋳造機の最終ロールを通過してから50分を経過した後、スラブ上面-下面の冷却速度差が0.25/min.以下となるように冷却する。これにより、反り量が0mmとなり、置き割れが発生しないようになる。
【0070】
スラブ上面-下面の冷却温度差が0.5℃/min.以下となるようにする方法、言い換えると、スラブの反り量が20mm以内になるようにする方法は、特に限定されない。例えば、上記実験のように、スラブが鋳造機の最終ロールを通過してから50分以内に、切断された複数枚のスラブを積むとともに、積まれたスラブの上および下に別の鋳造機で鋳造された別スラブを配置する(段積み)。これにより、最上段および最下段を除くスラブで、スラブ上面-下面の冷却温度差が0.5℃/min.以下となり、スラブの反り量が20mm以内となる。
【0071】
段積みの条件は特に限定されないが、好適な条件として、例えば、広面の大きさがほぼ同じスラブおよび別スラブを段積みすることが挙げられる。また、全てのスラブを、幅方向中央および長手方向中央が鉛直線上に位置するように段積みする等が挙げられる。なお、最上段および最下段を含む全てのスラブの広面の大きさが異なっていてもよい。また、最上段および最下段を含む全てのスラブが幅方向中央および長手方向中央の位置が鉛直線上から多少ずれていてもよい。また、少なくとも最上段と最下段を除くスラブについて、スラブの一方の広面と他方の広面の合計面積に対する、一方の広面がその上に配置されたスラブと接触する面積および他方の広面がその下に配置されたスラブと接触する面積の合計の比率が60%以上となるようにしてもよい。これにより、当該比率が60%以上となったスラブで、スラブ上面-下面の冷却温度差が0.5℃/min.以下となり、冷却後のスラブの反り量が20mm以内となることがわかった。段積みするスラブの枚数は最上段および最下段を含め3枚以上であれば特に限定されない。
【0072】
最上段および最下段の別スラブの条件は、特に限定されない。例えば、最上段および最下段の別スラブを、別の鋳造機の最終ロールを通過してから4時間以内に、本実施形態のスラブの上および下に配置しておくことが好ましい。この場合、上記で例示した方法で段積みをしたとき、最上段および最下段を除くスラブで、スラブ上面-下面の冷却温度差が0.5℃/min.以下となり、スラブの反り量が20mm以内となることがわかった。別スラブの鋼種は特に限定されない。
【0073】
また、スラブ上面-下面の冷却温度差が0.25℃/min.以下となるようにする方法、言い換えると、スラブの反り量が0mm以内になるようにする方法は、特に限定されない。例えば、上述したスラブ上面-下面の冷却温度差が0.5℃/min.以下となるようにする方法、および、スラブの反り量が20mm以内になるようにする方法で例示した方法と同様な方法が挙げられる。これにより、最上段のスラブ、上から2段目のスラブ、最下段のスラブおよび下から2段目のスラブを除くスラブについて、スラブが鋳造機の最終ロールを通過してから50分以降に、スラブ上面-下面の冷却温度差が0.25℃/min.以下となり、冷却後のスラブの反り量が0mm以内となる。また、最上段と最下段を除く少なくともスラブについて、スラブの一方の広面と他方の広面の合計面積に対する、一方の広面がその上に配置されたスラブと接触する面積および他方の広面がその下に配置されたスラブと接触する面積の合計の比率が60%以上となるようにしてもよい。これにより、最上段のスラブ、上から2段目のスラブ、最下段のスラブおよび下から2段目のスラブを除くスラブで、スラブ上面-下面の冷却温度差が0.25℃/min.以下となり、冷却後のスラブの反り量が0mmとなることがわかっている。別スラブの条件について、特に限定されないが、例えば上記と同様な条件を採用することができる。例として、最上段および最下段の別スラブを、別の鋳造機の最終ロールを通過してから4時間以内に、最上段および最下段として配置することが好ましい。この場合、上記で例示した方法で段積みをしたとき、最上段のスラブ、上から2段目のスラブ、最下段のスラブおよび下から2段目のスラブを除くスラブで、スラブ上面-下面の冷却温度差が0.25℃/min.以下となり、冷却後のスラブの反り量が0mmとなることがわかった。
【0074】
なお、上記実験では、表に示す冷却状態(スラブを段積みした状態)を96時間維持した。しかし、スラブを段積みした状態は、96時間より短くてもよい。本発明者らは、上記実験において、表のNo.1~3のスラブの軸心冷却速度を算出した。No.1(最上段)のスラブの軸心冷却速度は0.7℃/min.であり、No.2(上から2段目)およびNo.3(上から3段目)のスラブの軸心冷却速度は0.44℃/min.であった。このことから、最上段と最下段を除くスラブの軸心冷却速度は0.44℃/min.程度であると考えられる。軸心冷却速度が0.44℃/min.であるとき、スラブの軸心温度が700℃から500℃に至るまでに、(700-500)/0.44=455分(<8時間)かかる。したがって、スラブを段積みした状態を8時間以上維持するとよい。
【0075】
以上より、本実施形態で対象とする高張力鋼のスラブを鋳造後、以下の方法で冷却する。
スラブが鋳造機の最終ロールを通過してから50分以内に、切断されたスラブを積むとともに、積まれた前記スラブの上および下に別の鋳造機で鋳造された別スラブを配置した状態とする。この状態を8時間以上維持するとともに、この状態を維持している間、内部割れの長さが23mm以下のスラブについて、スラブの上面と下面の冷却速度差が0.5℃/min.以下となるようにし、内部割れの長さが23mmより長く50mm以下であるスラブについて、スラブの上面と下面の冷却速度差が0.25℃/min.以下となるようにする。
【0076】
例えば、スラブを上記で例示した方法で段積みするとき、内部割れの長さが23mm以下のスラブを、最上段(別スラブ)および最下段(別スラブ)以外の位置に配置する。スラブを上記で例示した方法で段積みするとき、内部割れの長さが23mmより長く50mm以下のスラブを、最上段(別スラブ)、上から2段目、最下段(別スラブ)および下から2段目以外の位置に配置する。
【0077】
上記により、本実施形態で対象とする高張力鋼のスラブに置き割れが発生しないようにすることができる。
【0078】
なお、上記実験では、「内部割れ長さ」として、鋳造後のスラブの切断面で測定した実測値を採用したが、実測値でなく、例えば、スラブの鋳造条件(鋳造速度、比水量、スラブサイズ、ロールスタンドの使用状況等)を基に推測される内部割れ長さを採用してもよい。また、「内部割れ長さL」として推測された長さが存在する場合、その長さを推測するために用いた鋳造条件と同じ鋳造条件でスラブを鋳造するとき、そのスラブの「内部割れ長さL」を、すでに存在する推測された長さとしてもよい。例えば、「内部割れ長さL」の実測値が存在する場合、その実測値が得られた鋳造条件と同じ鋳造条件でスラブを鋳造するとき、そのスラブの「内部割れ長さL」を上記実測値としてもよい。なお、「内部割れ長さL」を実測値とする場合、複数の内部割れが発生した場合、最も長い内部割れ長さを「内部割れ長さ」として採用する。
【0079】
〔穴あき、ヘゲ〕
本実施形態で対象とする高張力鋼のスラブでは、上記方法により置き割れの発生を抑制できることがわかったが、その後、スラブを圧延したとき、製品に穴が空いたり、ヘゲが発生したりしやすいことがわかった。そこで、圧延時に穴が空いたり、ヘゲが発生したりすることを抑制する方法を検討した。
【0080】
圧延時に生じる穴あきやヘゲは、スラブの加熱時および/または圧延時に生じた表面応力により、表面欠陥(き裂)が深さ方向に進展することで生じると考えられる。上述した置き割れの検討で採用した破壊限界応力σcを表す式(1)を用いて、以下の検討を行った。
【0081】
破壊限界応力σcは式(1)で表される。
【数1】
穴あき・ヘゲの起点が表面欠陥のため、応力拡大係数の補正係数Fは、式(4)によって表される。
【数6】
上記(1)式において、「破壊限界応力σc」を「穴あきやヘゲが発生しない最大表面応力σc」と考え、「切り欠き長さa」を「穴あきやヘゲが発生しない表面欠陥深さc」と考えると、式(1)および式(4)から、穴あきやヘゲが発生しない最大表面欠陥深さcは、式(5)で表される。
【数7】
式(5)によって表される最大表面欠陥深さcが、穴あきやヘゲが発生しない表面欠陥深さの限界値である。
【0082】
図15に、縦軸を「表面欠陥深さ」とし、横軸を「表面応力」としたときの式(5)を示している。式(5)の曲線は「穴あき・ヘゲが発生しない表面応力の限界値」であり、「穴あき・ヘゲが発生しない最大表面欠陥深さ(臨界欠陥深さ)」でもある。式(5)の曲線の上側は、つまり表面欠陥深さが曲線を超えると「穴あき・ヘゲが発生する範囲」であり、式(5)の曲線上および式(5)の曲線の下側は、つまり表面欠陥深さが曲線を超えないと「穴あき・ヘゲが発生しない範囲」である。
【0083】
上記より、圧延前に「表面欠陥深さ」を測定し、圧延前の「表面欠陥深さ」が図15に示す式(5)の曲線を超え、「穴あき・ヘゲが発生する範囲」に存在する場合、圧延前にその深さの表面欠陥を取り除く処理(例えば、グラインダー手入れ)を行えば、その位置に穴あき・ヘゲが発生しないようにできると考えられる。具体的には、加熱および/または圧延時に生じる表面応力を算出し、算出した表面応力で「穴あき・ヘゲが発生しない最大表面欠陥深さ(臨界欠陥深さ)」を式(5)から求める。圧延前に、スラブの表面欠陥の深さを測定し、表面欠陥の深さ(測定値)が予め求めた「穴あき・ヘゲが発生しない最大表面欠陥深さ(臨界欠陥深さ)」を超える場合、図15に示す「穴あき・ヘゲが発生する範囲」に存在するため、圧延前にその深さの表面欠陥を取り除く処理(例えば、グラインダー手入れ)を行う。これにより、穴あき・ヘゲが発生しないようにすることができると考えられる。
【0084】
上記知見を確認するため、以下の実験を行った。
【0085】
垂直曲げ型連続鋳造機(機長39.0m、曲げ半径8.8m)により、表1の鋼種Aのスラブ(厚さ230mm×幅1230mm)を鋳造した。鋳片引き抜き開始時は、0.2m/min.で、約100秒間、鋳片を引き抜いた。その後、0.12m/min.2の加速度で目標鋳造速度まで順次増速させた。表4に鋳造速度および比水量を示している。鋳造後、スラブを所定の長さ(5.5~11.0m)に切断した。
【0086】
スラブが連続鋳造機の最終ロールを通過してから50分以内に、図7に示すように、切断された8枚のスラブを段積みした。8枚のスラブを段積みした状態で96時間放置してスラブが室温となった。上から2段目のスラブ(No.4)、上から3段目のスラブ(No.5)、および、上から4段目のスラブ(No.6)に表面欠陥が発生しているかを確認し、表面欠陥が発生している場合、超音波探傷試験により表面欠陥深さを測定した。表4に表面欠陥深さ(実測値)を示している。
【0087】
その後、スラブを圧延し、製品(コイル)に穴が空いたり、ヘゲが発生したりしたかを確認した。表に結果を示している。
【0088】
【表4】
【0089】
表4に示す「表面応力」は、内部応力の計算と同様な方法で算出したその後の加熱時および/または圧延時に生じる表面応力である。表4に示す「臨界欠陥深さc」は、「表面応力」と上記式(5)から求めた「穴あき・ヘゲが発生しない最大表面欠陥深さ(臨界欠陥深さ)」である。
【0090】
図16に、図15のグラフにNo.4~をプロットしたものを示している。図16に示すように、穴あき・ヘゲが発生したNo.4は、式(5)の曲線を超え、「穴あき・ヘゲが発生する範囲」に存在する。穴あき・ヘゲが発生しなかったNo.5およびNo.6は、「穴あき・ヘゲが発生しない範囲」に存在する。
【0091】
上記実験から、式(5)の曲線を超える範囲は「穴あき・ヘゲが発生する範囲」であり、式(5)の曲線を超えない範囲は「穴あき・ヘゲが発生しない範囲」であることを確認できた。
【0092】
上記より、圧延前に、スラブの「表面欠陥深さ」を測定し、「表面欠陥深さ」が、加熱時および/または圧延時の表面応力および式(5)から求めた「穴あき・ヘゲが発生しない最大表面欠陥深さ(臨界欠陥深さ)」を超える場合、図15に示す「穴あき・ヘゲが発生する範囲」に存在するため、圧延前にその深さの表面欠陥を取り除く処理(例えば、グラインダー手入れ)を行う。これにより、圧延時に穴あき・ヘゲが発生することを抑制できる。なお、測定した「表面欠陥深さ」が、「穴あき・ヘゲが発生しない最大表面欠陥深さ(臨界欠陥深さ)」以下である場合も、その深さの表面欠陥を除く処理を行ってもよい。また、測定した「表面欠陥深さ」が、「穴あき・ヘゲが発生しない最大表面欠陥深さ(臨界欠陥深さ)」以下である場合、その部位に穴あき・ヘゲが発生しないと考えられるため、その深さの表面欠陥を除く処理をしなくてもよい。
【0093】
なお、本実施形態で対象とする高張力鋼以外の鋼、例えば、炭素含有率がそれほど高くない従来の鋼では、式(5)で示される「穴あき・ヘゲが発生しない最大表面欠陥深さ(臨界欠陥深さ)」の曲線が、図15に示す曲線と全く異なることがわかった。炭素含有率がそれほど高くない従来の鋼では、本実施形態で対象とする高張力鋼の場合より「穴あき・ヘゲが発生しない最大表面欠陥深さ(臨界欠陥深さ)」が大きい。したがって、炭素含有率がそれほど高くない従来の鋼では、「穴あき・ヘゲが発生しない範囲」が図15に示す「穴あき・ヘゲが発生しない範囲」より広い。そのため、表面欠陥が多少深くても穴あきやヘゲが発生しないと考えられる。
【0094】
本実施形態で対象とする高張力鋼では、「穴あき・ヘゲが発生しない最大表面欠陥深さ(臨界欠陥深さ)」が小さく、図15に示すように、「穴あき・ヘゲが発生しない範囲」が狭い。このことから、置き割れが発生しやすい本実施形態の高張力鋼では、圧延前に「表面欠陥深さ」を測定し、測定した「表面欠陥深さ」を基に穴あき・ヘゲが発生するかを予測し、穴あき・ヘゲが発生すると考えられる場合、圧延前に表面欠陥を除く処理を行う上述した方法が有効である。
【0095】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0096】
X スラブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16