(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】透明ポリイミドフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20241022BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20241022BHJP
C08K 5/521 20060101ALI20241022BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
C08L79/08
C08K5/521
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2021526970
(86)(22)【出願日】2020-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2020024386
(87)【国際公開番号】W WO2020262295
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-05-01
(31)【優先権主張番号】P 2019116415
(32)【優先日】2019-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 高史
(72)【発明者】
【氏名】小川 紘平
(72)【発明者】
【氏名】宮本 正広
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-108761(JP,A)
【文献】特開2016-062965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00- 5/02
5/12- 5/22
C08G73/00- 73/26
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドおよびリン酸エステルを含
む透明ポリイミドフィルムであって、
前記ポリイミドが、一般式(1)の繰り返し単位を含み、
【化3】
一般式(1)において、
Xは任意の4価の有機基であり、
Yは2価の有機基であり、フルオロアルキル基、スルホン基、フルオレン構造および脂環式構造からなる群から選択される1種以上を含み、
前記リン酸エステルが、一般式(2)で表される正リン酸エステル、または一般式(3)で表される縮合リン酸エステルであり、
【化1】
一般式(2)において、R
1
~R
3
は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基であり、
一般式(3)において、nは1以上の整数であり、R
4
およびR
5
は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基であり、Zは少なくとも1つの芳香環を含む2価の有機基であり、
前記ポリイミド100質量部に対する
前記リン酸エステルの含有量が5~100質量部である、
透明ポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記透明ポリイミドフィルムの引張弾性率Eと、リン酸エステルを含まない前記ポリイミド単独のフィルムの引張弾性率E’との比E/E’が0.80以上であり、
前記透明ポリイミドフィルムの厚み方向複屈折Δnと、リン酸エステルを含まない前記ポリイミド単独のフィルムの厚み方向複屈折Δn’との比Δn/Δn’が0.90未満である、
請求項1に記載の透明ポリイミドフィルム。
【請求項3】
E/E’が0.95以上である、請求項
2に記載の透明ポリイミドフィルム。
【請求項4】
前記ポリイミド100質量部に対する
前記リン酸エステルの含有量が15~100質量部である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の透明ポリイミドフィルム。
【請求項5】
前記リン酸エステルが、前記一般式(3)で表される縮合リン酸エステルであり、
前記有機基Zが、下記Z-1~Z-6のいずれかである、請求項
1~4のいずれか1項に記載の透明ポリイミドフィルム:
【化2】
R
7~R
16は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~6の分枝を有していてもよい鎖状アルキル基であり、1つのベンゼン環上に2以上の置換基が結合していてもよい。
【請求項6】
前記リン酸エステルが、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸クレジルジフェニル、レゾルシノールビスジフェニルホスフェート、ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート、およびレゾルシノールビス(ジ2,6-キシレニルホスフェート)からなる群から選択される1種以上である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の透明ポリイミドフィルム。
【請求項7】
前記ポリイミドは、前記一般式(
1)において、前記有機基Xが、フルオロアルキル基、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、スルホン基、脂環式構造、および炭素数2以上の直鎖脂肪族基からなる群から選択される1種以上
を含む、請求項
1~6のいずれか1項に記載の透明ポリイミドフィルム。
【請求項8】
厚みが5μm以上100μm以下であり、
ヘイズが1.5%以下であり、
黄色度が3.0以下であり、
引張弾性率Eが3.0GPa以上である、
請求項1~
7のいずれか1項に記載の透明ポリイミドフィルム。
【請求項9】
厚み方向複屈折Δnが、0.050以下である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の透明ポリイミドフィルム。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の透明ポリイミドフィルムを製造する方法であって、
溶媒可溶性のポリイミド樹脂およびリン酸エステルを、前記ポリイミド樹脂に対する溶解性を示す有機溶媒に溶解してポリイミド溶液を調製し、
前記ポリイミド溶液を基材に塗布し、前記有機溶媒を除去する、
透明ポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明ポリイミドフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクスデバイスの急速な進歩に伴い、デバイスの薄型化や軽量化、さらにはフレキシブル化が要求されている。特に、高い耐熱性や、高温での寸法安定性、高機械強度が求められる用途では、基板やカバーウィンドウ等に用いられているガラスの代替材料としてポリイミドフィルムの適用が検討されている。
【0003】
一般的なポリイミドは、黄色または褐色に着色しており、有機溶媒に対する溶解性を示さない。有機溶媒に不溶のポリイミドのフィルム化には、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸溶液を基材上に塗布し、加熱により溶媒を除去すると共に、ポリアミド酸を脱水環化してイミド化する方法(熱イミド化)が採用されている。一方、特許文献1~3では、脂環式構造の導入、屈曲構造の導入、フッ素置換基の導入等により、ポリイミドに可視光の透明性および可溶性を付与できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-144603号公報
【文献】特開2016-132686号公報
【文献】WO2017/175869号国際公開パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~3に記載のポリイミド樹脂は、有機溶媒にも可溶であるため、ポリイミド樹脂を有機溶媒に溶解したポリイミド溶液から透明ポリイミドフィルムを作製可能である。溶液成膜により作製したフィルムは一般に複屈折が小さいが、ポリイミドはフィルムの面内に分子が配向しやすいため、厚み方向のレターデーションRthが大きくなりやすい。Rthが大きいフィルムは、複屈折の影響により、斜め方向から視認した際に、虹ムラや色調のシフトが観察されやすく、カバーフィルム等のディスプレイ材料として使用すると、視認性低下の要因となり得る。
【0006】
樹脂フィルムの複屈折を低減する方法として、レターデーション調整剤を添加する方法が知られている。レターデーション調整剤は、一般に可塑剤的に作用するものであり、分子の配向を緩和することにより、複屈折を低減する作用を有している。可塑剤的に作用するレターデーション調整剤を使用すると、フィルムの複屈折が低減すると同時に、機械強度が低下する傾向がある。
【0007】
カバーフィルム等のディスプレイ最表面に配置される部材は、低複屈折であるとともに、機械強度が要求されるため、可塑剤的に作用する添加剤により複屈折を低下させると、光学的な課題を解決できたとしても、機械強度が不足する傾向がある。すなわち、低複屈折化と高機械強度化には一般にトレードオフの関係にある。これらに鑑み、本発明は、複屈折が小さく、かつ十分な機械強度を有する透明ポリイミドフィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが検討の結果、リン酸エステルを配合することにより、ポリイミドフィルムの引張弾性率の低下を抑制しつつ、複屈折を低減可能であることを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明の一実施形態は、ポリイミドおよびリン酸エステルを含む透明ポリイミドフィルムである。ポリイミドフィルムは、例えば、溶媒可溶性のポリイミド樹脂およびリン酸エステルを、ポリイミド樹脂に対する溶解性を示す有機溶媒に溶解してポリイミド溶液を調製し、ポリイミド溶液を基材に塗布し、前記有機溶媒を除去することにより得られる。
【0010】
ポリイミドは、一般式(1)の繰り返し単位を含むポリマーである。
【0011】
【0012】
一般式(1)において、Xは任意の4価の有機基であり、酸二無水物残基である。Yは任意の2価の有機基であり、ジアミン残基である。有機基Xは、フルオロアルキル基、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、スルホン基、脂環式構造、または炭素数2以上の直鎖脂肪族基を含むものが好ましい。有機基Yは、フルオロアルキル基、スルホン基、フルオレン構造、または脂環式構造を含むものが好ましい。
【0013】
ポリイミドフィルムにおけるリン酸エステルの含有量は、ポリイミド100質量部に対して3質量部以上であり、5~100質量部が好ましく、15~100質量部がより好ましい。
【0014】
リン酸エステルとしては、一般式(2)で表される正リン酸エステル、および一般式(3)で表される縮合リン酸エステルが挙げられる。
【0015】
【0016】
一般式(2)におけるR1~R3、ならびに一般式(3)におけるR4およびR5は、それぞれ独立に任意の置換基である。R1~R5の具体例としては、置換基を有していてもよいアリール基、炭素数1~20の分枝を有していてもよい脂肪族基、およびポリ(オキシアルキレン)アルキル基が挙げられる。中でも、R1~R5は、置換基を有していてもよいアリール基であることが好ましい。
【0017】
一般式(3)において、nは1以上の整数であり、Zは少なくとも1つの芳香環を含む2価の有機基である。2価の有機基Zとしては、下記Z-1~Z-6が挙げられる。
【0018】
【0019】
R7~R16は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~6の分枝を有していてもよい鎖状アルキル基であり、1つのベンゼン環上に2以上の置換基が結合していてもよい。
【0020】
正リン酸エステルの具体例としては、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸クレジルジフェニル等が挙げられる。縮合リン酸エステルの具体例としては、レゾルシノールビスジフェニルホスフェート、ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジ2,6-キシレニルホスフェート)等が挙げられる。
【0021】
リン酸エステルを含むポリイミドフィルムの引張弾性率Eと、リン酸エステルを含まないポリイミド単独のフィルムの引張弾性率E’との比E/E’は、0.80以上が好ましく、0.90以上がより好ましい。リン酸エステルを含むポリイミドフィルムの厚み方向複屈折Δnと、リン酸エステルを含まないポリイミド単独のフィルムの厚み方向複屈折Δn’との比Δn/Δn’は、0.90未満が好ましく、0.80未満がより好ましい。ポリイミドフィルムの厚み方向複屈折Δnは、0.050以下が好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、機械強度を低下させることなく、複屈折が低減された透明ポリイミドフィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態は、ポリイミドとリン酸エステルを含む透明ポリイミドフィルムである。
【0024】
[ポリイミド]
ポリイミドは、下記の一般式(1)で表される繰り返し単位を有する。
【0025】
【0026】
ポリイミドは、一般に、下記の式(A)で表されるテトラカルボン酸二無水物(以下、単に「酸二無水物」と記載する場合がある)と、下記の式(B)で表されるジアミンとの反応により得られるポリアミド酸を脱水環化することにより得られる。すなわち、ポリイミドは酸二無水物由来構造とジアミン由来構造とを有する。
【0027】
【0028】
一般式(1)において、Xはテトラカルボン酸二無水物の残基である。テトラカルボン酸二無水物の残基とは、一般式(A)の化合物(テトラカルボン酸二無水物)における2つの酸無水物基(-CO-O-CO-)以外の部分であり、4価の有機基である。テトラカルボン酸二無水物は、Xに結合する4つのカルボニル基のうちの2つずつが対をなし、Xおよび酸素原子とともに五員環を形成している。一般式(1)において、Yはジアミンの残基である。ジアミンの残基とは、一般式(B)の化合物における2つのアミノ基(-NH2)以外の部分であり、2価の有機基である。
【0029】
(酸二無水物)
透明ポリイミドの原料となる酸二無水物の例としては、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,1’-ビシクロヘキサン3,3’,4,4’-テトラカルボン酸‐3,4,3’,4’-二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3-ビス[(3,4-ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、1,4-ビス[(3,4-ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、2,2-ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、2,2-ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、4,4’-ビス[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、4,4’-ビス[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、2,2-ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}-1,1,1,3,3,3-プロパン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)1,4-フェニレン、ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’-ジイルが挙げられる。
【0030】
透明ポリイミドの原料としての酸二無水物は、残基Xとして、フルオロアルキル基、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、スルホン基、脂環式構造、および炭素数2以上の直鎖脂肪族基のいずれかを含むものが好ましい。フルオロアルキル基としては、パーフルオロアルキル基が好ましく、中でもトリフルオロメチル基が好ましい。
【0031】
特に、ポリイミドフィルムの複屈折を小さくする観点からは、Xが、下記X-1~4のいずれか、または下記X-7~13のいずれかである酸二無水物が好ましい。ポリイミド樹脂の有機溶媒への溶解性を高めるとともにポリイミドフィルムの弾性率を高める観点からは、Xが下記X-5である酸二無水物(ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’-ジイル)、またはXが下記X-6である酸二無水物(ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)1,4-フェニレン)が好ましい。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
ポリイミドの原料として、複数種の酸二無水物を併用してもよい。すなわち、ポリイミドは、複数種の酸二無水物残基Xを含んでいてもよい。例えば、Xが上記X-1~4のいずれかである酸二無水物と、Xが上記X-5またはX-6である酸二無水物とを併用することにより、ポリイミド樹脂が有機溶媒への溶解性に優れ、かつ高弾性率、低複屈折であるポリイミドフィルムが得られる。有機溶媒への可溶性や透明性を損なわない範囲で、上記以外の酸二無水物を併用してもよい。
【0036】
(ジアミン)
透明ポリイミドの原料となるジアミンの例としては、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ジ(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、1,4-ジアミノ-2-フルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3-ジフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,5-ジフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,6-ジフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,5-トリフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,5,6-テトラフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2-(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,5,6-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン、2-フルオロベンジジン、3-フルオロベンジジン、2,3-ジフルオロベンジジン、2,5-ジフルオロベンジジン、2,6-ジフルオロベンジジン、2,3,5-トリフルオロベンジジン、2,3,6-トリフルオロベンジジン、2,3,5,6-テトラフルオロベンジジン、2,2’-ジフルオロベンジジン、3,3’-ジフルオロベンジジン、2,3’-ジフルオロベンジジン、2,2’,3-トリフルオロベンジジン、2,3,3’-トリフルオロベンジジン、2,2’,5-トリフルオロベンジジン、2,2’,6-トリフルオロベンジジン、2,3’,5-トリフルオロベンジジン、2,3’,6,-トリフルオロベンジジン、2,2’,3,3’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,5,5’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,6,6’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,3,3’,6,6’-ヘキサフルオロベンジジン、2,2’,3,3’,5,5’、6,6’-オクタフルオロベンジジン、2-(トリフルオロメチル)ベンジジン、3-(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,6-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,6-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,5,6-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,3’-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,6-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’,6,-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,3,3’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,5,5’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,6,6’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン2,2-ジ(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,1-ジ(3-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ジ(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1-(3-アミノフェニル)-1-(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ピリジン、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、6,6’-ビス(3-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン、6,6’-ビス(4-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(4-アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2-アミノエチル)エーテル、ビス(3-アミノプロピル)エーテル、ビス(2-アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(2-アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(3-アミノプロトキシ)エチル]エーテル、1,2-ビス(アミノメトキシ)エタン、1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン、1,2-ビス[2-(アミノメトキシ)エトキシ]エタン、1,2-ビス[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]エタン、エチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、1,3-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、1,4-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロへキシル)メタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、9,9’-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9’-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンが挙げられる。
【0037】
透明ポリイミドの原料としてのジアミンは、残基Yとして、フルオロアルキル基、スルホン基、フルオレン構造および脂環式構造のいずれかを含むものが好ましい。フルオロアルキル基としては、パーフルオロアルキル基が好ましく、中でもトリフルオロメチル基が好ましい。
【0038】
特に、ポリイミドフィルムの複屈折を小さくする観点からは、Yが、下記Y-1~5のいずれかであるジアミンが好ましい。ポリイミドフィルムの透明性および弾性率を高める観点からは、Yが下記Y-6であるジアミン(2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン)が好ましい。
【0039】
【0040】
ポリイミドの原料として、複数種のジアミンを併用してもよい。すなわち、ポリイミドは、複数種のジアミン残基Yを含んでいてもよい。例えば、Yが上記Y-1~5のいずれかであるジアミンと、YがY-6であるジアミンとを併用することにより、ポリイミド樹脂が有機溶媒への溶解性に優れ、かつ高透明、高弾性率、低複屈折であるポリイミドフィルムが得られる。有機溶媒への可溶性や透明性を損なわない範囲で、上記以外のジアミンを併用してもよい。
【0041】
<ポリイミドの製造方法>
前述の通り、ポリイミド前駆体としてのポリアミド酸を脱水環化することにより、ポリイミドが得られる。
【0042】
溶媒中で酸二無水物とジアミンとを反応させることにより、ポリアミド酸溶液が得られる。例えば、酸二無水物とジアミンとを、略等モル量(95:100~105:100のモル比)で有機溶媒中に溶解させ、酸二無水物とジアミンとの重合が完了するまで攪拌することによりポリアミド酸溶液が得られる。酸二無水物およびジアミンのいずれかが過剰になると、ポリアミド酸およびポリイミドの分子量が十分に大きくならず、ポリイミドフィルムの機械強度が低下する場合がある。
【0043】
重合に際しては、酸二無水物の開環を抑制するため、ジアミンに酸二無水物を加える方法が好ましい。複数種のジアミンや複数種の酸二無水物を添加する場合は、一度に添加してもよく、複数回に分けて添加してもよい。モノマーの添加順序を調整することにより、ポリイミドの諸物性を制御することもできる。ポリアミド酸溶液の固形分濃度(反応溶液におけるジアミンおよび酸二無水物の仕込み濃度)は、通常5~35重量%程度であり、10~30重量%が好ましい。
【0044】
ポリアミド酸の重合に使用する有機溶媒は、ジアミンおよび酸二無水物と反応せず、ポリアミド酸を溶解させ得る溶媒であれば、特に限定されない。有機溶媒としては、メチル尿素、N,N-ジメチルエチルウレア等のウレア系溶媒、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、テトラメチルスルフォン等のスルホキシドあるいはスルホン系溶媒、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、γ-ブチロラクトン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化アルキル系溶媒、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、p-クレゾールメチルエーテル等のエーテル系溶媒が挙げられる。通常これらの溶媒を単独でまたは必要に応じて2種以上を適宜組み合わせて用いる。ポリアミド酸の溶解性および重合反応性の観点から、DMAc、DMF、NMP等が好ましい。
【0045】
ポリアミド酸の脱水環化によりポリイミドが得られる。ポリアミド酸溶液からポリイミドフィルムを作製する方法としては、ポリアミド酸溶液を膜状に形成した後、加熱によりイミド化してポリイミドフィルムを得る方法;および、ポリアミド酸溶液に脱水剤、イミド化触媒等を添加し、溶液中でイミド化を進行させた後、ポリイミド溶液を膜状に形成してポリイミドフィルムを得る方法が挙げられる。イミド化のために高温での加熱を必要とせず、透明性の高いポリイミドフィルムが得られやすいことから、後者の方法が好ましい。
【0046】
溶液でのイミド化において、イミド化の進行を促進するために、ポリアミド酸溶液を加熱してもよい。ポリアミド酸のイミド化により得られたポリイミド樹脂が含まれる溶液と貧溶媒とを混合して、ポリイミド樹脂を固形物として析出させて回収し、フィルムの製膜に使用する溶媒にポリイミド樹脂を溶解することにより、ポリイミドフィルム作製用のポリイミド樹脂溶液が得られる。一旦、ポリイミド樹脂を固形物として析出させることにより、ポリアミド酸の重合時に発生した不純物や、残存脱水剤およびイミド化触媒等を貧溶媒で洗浄・除去することが可能であり、ポリイミドの着色や黄色度の上昇等を防止できる。また、一旦ポリイミド樹脂を析出させる方法は、ポリイミドフィルムの製膜条件に適した溶媒を適用できる点においても好ましい。
【0047】
[リン酸エステル]
後に詳述するように、リン酸エステルを含むポリイミドフィルムは、リン酸エステルを含まないポリイミドフィルムに比べて、複屈折が小さくなる傾向がある。リン酸エステルは、一般式(2)で表される正リン酸エステル、または一般式(3)で表される縮合リン酸エステルである。
【0048】
【0049】
一般式(2)におけるR1~R3、ならびに一般式(3)におけるR4およびR5は、それぞれ独立に、任意の1価の有機基であり、好ましくは、置換基を有していてもよいアリール基、炭素数1~20の分枝を有していてもよい脂肪族基、またはポリ(オキシアルキレン)アルキル基である。
【0050】
一般式(3)におけるZは、任意の2価の有機基であり、好ましくは少なくとも1つの方向環を含む。一般式(3)におけるnは1以上の整数である。一般式(3)で表される縮合リン酸エステルは、nの数が異なる化合物の混合物であってもよい。
【0051】
リン酸エステルは、上記のポリイミドと相溶するものであれば、その種類は特に限定されない。ポリイミドフィルムの作製時の加熱によるリン酸エステルの揮発を抑制する観点から、リン酸エステルの沸点は200℃以上が好ましく、220℃以上がより好ましく、250℃以上がさらに好ましく、280℃以上が特に好ましい。
【0052】
揮発性低減の観点から、一般式(2)で表される正リン酸エステルは、置換基R1~R3の少なくとも1つが置換基を有していてもよいアリール基であることが好ましく、R1~R3の全てが置換基を有していてもよいアリール基である全芳香族リン酸エステルが特に好ましい。
【0053】
全芳香族の正リン酸エステルの具体例としては、リン酸トリフェニル(TPP)、リン酸トリクレジル(TCP)、リン酸トリキシレニル(TXP)、リン酸クレジルジフェニル(CDP)、クレジル2,6-キシレニルホスフェート(例えば、大八化学工業製「PX-110」)等が挙げられる。
【0054】
揮発性低減の観点から、一般式(3)で表される縮合リン酸エステルは、置換基R4およびR5の少なくとも一方が置換基を有していてもよいアリール基であることが好ましく、R4およびR5の両方が置換基を有していてもよいアリール基であることが特に好ましい。
【0055】
一般式(3)における2価の置換基Zの具体例としては、下記Z-1~Z-6が挙げられる。
【0056】
【0057】
Z-1~Z-6におけるR7~R16は、それぞれ独立に、水素原子または任意の置換基(1価の有機基)である。Z-1~Z-6において、1つのベンゼン環上に、2以上の置換基が結合していてもよい。R6~R16が1価の有機基である場合、その具体例としては、炭素数1~6の分枝を有していてもよい鎖状アルキル基が挙げられる。
【0058】
全芳香族の縮合リン酸エステルの具体例としては、レゾシノ-ルビスジフェニルホスフェート(例えば、大八化学工業製「CR-733S」、ADEKA製「アデカスタブ PFR」)、ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート(例えば、大八化学工業製「CR-741」、ADEKA製「アデカスタブ FP-600」)レゾルシノールビスジ2,6-キシレニルホスフェート(例えば、大八化学工業製「PX-200」)等が挙げられる。
【0059】
上記の他、リン酸エステルの市販品として、大八化学工業製「DAIGUARD-1000」、「DAIGUARD-580」,「DAIGUARD-880」、「DAIGUARD-850」、および「DAIGUARD-540」、STEPAN Company製「POLYSTEP」シリーズおよび「STEPFAC」シリーズ等が挙げられる。
【0060】
[ポリイミドフィルム]
前述のように、ポリイミドフィルムの製造方法としては、ポリアミド酸溶液を膜状に形成した後、加熱によりイミド化してポリイミドフィルムを得る方法;および、単離したポリイミド樹脂を、ポリイミド樹脂に対する有機溶媒に溶解してポリイミド溶液を調製し、ポリアミド酸溶液を基板上に塗布して、有機溶媒を除去する方法が挙げられる。
【0061】
リン酸エステルを含むポリイミドフィルムを作製する場合、いずれの段階でリン酸エステルを添加してもよい。例えば、ポリアミド酸の重合時やポリアミド酸をイミド化する際に、溶液中にリン酸エステルを添加してもよい。また、単離したポリイミド樹脂を有機溶媒に溶解してポリイミド溶液を調製する際に、リン酸エステルを添加してもよい。リン酸エステルの揮発を抑制するとともに、ポリイミドフィルムの透明性を高める観点から、ポリイミド樹脂とリン酸エステルを有機溶媒に溶解してポリイミド溶液を調製し、膜状に塗布したポリイミド溶液から有機溶媒を除去する方法が好ましい。
【0062】
ポリイミド樹脂(およびリン酸エステル)を溶解させる有機溶媒としては、ポリイミド樹脂を溶解可溶なものであれば特に限定されず、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸メチル、シクロヘキサノン、ジクロロメタン等が挙げられる。中でも、溶媒の乾燥除去が容易であり、ポリイミドフィルムの残存溶媒量を低減可能であることから、メチルエチルケトン、ジクロロメタン等が好ましい。
【0063】
リン酸エステルの量は、ポリイミド100質量部に対して、3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。リン酸エステルの添加量が多いほど、ポリイミドフィルムの複屈折が小さくなる傾向がある。一般に、樹脂フィルムの複屈折の低減に用いられる添加剤(レターデーション調整剤)は、可塑剤としても作用する傾向があり、レターデーションの低減に伴ってフィルムの引張弾性率等の機械強度が低下する傾向がある。これに対して、ポリイミド樹脂にリン酸エステルを添加した場合は、リン酸エステルが複屈折低減作用を有するにも関わらず、フィルムの引張弾性率が低下し難く、むしろ反可塑剤的に作用して引張弾性率が上昇する場合がある。そのため、リン酸エステルを含む透明ポリイミドフィルムは、リン酸エステルを含まないポリイミドフィルムに比べて低複屈折であり、かつリン酸エステルを含まないポリイミドフィルムと同等またはリン酸エステルを含まないポリイミドフィルムよりも高い引張弾性率を有し得る。
【0064】
また、リン酸エステルの添加に伴って、ポリイミドフィルムの黄色度が低減するとともに可視光短波長領域(400nm付近)の光透過率が上昇する傾向があり、着色が少なく透明性の高いポリイミドフィルムが得られる。
【0065】
ポリイミドフィルムの低複屈折率化および高透明化(着色低減)の観点からは、リン酸エステルの添加量が多いほど好ましい。ポリイミド100質量部に対するリン酸エステルの量は、10質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、20質量部以上、25質量部以上、または30質量部以上であってもよい。一般式(3)の縮合リン酸エステルは、一般式(2)の正リン酸エステルに比べて、少ない添加量でもポリイミドフィルムの複屈折が低減する傾向がある。
【0066】
リン酸エステルの添加量の上限は特に限定されないが、過度に大きい場合は、添加量増大に伴う複屈折低減効果が飽和する一方で、フィルムの白濁(ヘイズの上昇)、機械強度の低下、ブリードアウトによる汚染等の原因となり得る。一般式(2)の正リン酸エステルの量は、ポリイミド100質量部に対して200質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましく、80質量部以下がさらに好ましく、70質量部以下または60質量部以下であってもよい。一般式(3)の縮合リン酸エステルの量は、ポリイミド100質量部に対して99質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましく、80質量部以下がさらに好ましく、70質量部以下または60質量部以下であってもよい。
【0067】
ポリイミド溶液は、ポリイミドおよびリン酸エステルに加えて、添加剤(有機又は無機の低分子又は高分子化合物)を含んでいてもよい。添加剤としては、紫外線吸収剤、架橋剤、染料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、微粒子、増感剤等が挙げられる。微粒子には、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン等の有機微粒子、コロイダルシリカ、カーボン、層状珪酸塩等の無機微粒子等が含まれ、多孔質や中空構造であってもよい。
【0068】
ポリイミド溶液を基材に塗布する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、バーコーターやコンマコーターにより塗布することができる。ポリイミド溶液を塗布する基材としては、ガラス基板、SUS等の金属基板、金属ドラム、金属ベルト、プラスチックフィルム等を使用できる。生産性向上の観点から、基材として、金属ドラム、金属ベルト等の無端支持体、または長尺プラスチックフィルム等を用い、ロールトゥーロールによりフィルムを製造することが好ましい。プラスチックフィルムを基材として使用する場合、製膜ドープの溶媒に溶解しない材料を適宜選択すればよく、プラスチック材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリエチレンナフタレート等が用いられる。
【0069】
基材上にポリイミド溶液を塗布し、溶媒を乾燥除去することにより、透明ポリイミドフィルムが得られる。溶媒の乾燥時には加熱を行うことが好ましい。加熱温度は溶媒が除去でき、かつ得られる透明ポリイミドフィルムの着色を抑制できる温度であれば特に制限されず、室温~250℃程度で適宜に設定される。段階的に加熱温度を上昇させてもよい。中でも50℃~220℃がより好ましい。この範囲の温度であれば、ポリイミドの着色を抑制でき、リン酸エステルの揮発も抑制できる。溶媒の除去効率を高めるために、ある程度乾燥が進んだ後に、支持体からポリイミド膜を剥離して乾燥を行ってもよい。溶媒の除去を促進するために、減圧下で加熱を行ってもよい。
【0070】
ポリイミドフィルムの厚みは特に限定されず、用途に応じて適宜設定すればよい。ポリイミドフィルムの厚みは、例えば5μm以上である。自己支持性と可撓性とを両立し、かつ透明性の高いフィルムとする観点から、ポリイミドフィルムの厚みは20μm~100μmが好ましく、30μm~90μmがより好ましく、40μm~80μmがさらに好ましく、50μm~80μmが特に好ましい。ディスプレイのカバーフィルム用途としての透明ポリイミドフィルムの厚みは、50μm以上が好ましい。
【0071】
ポリイミドフィルムは、波長400nmにおける透過率が45%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることがさらに好ましい。ポリイミドフィルムの黄色度YIは、3.0以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、2.2以下または2.0以下であってもよい。前述のように、リン酸エステルを配合することにより、波長400nmにおける透過率が上昇し、黄色度が低下する傾向がある。ポリイミドフィルムのヘイズは、1.5%以下が好ましく、1.2%以下がより好ましく、1.0%以下、0.8%以下または0.7%以下であってもよい。
【0072】
ポリイミドフィルムの引張弾性率Eは、3.0GPa以上が好ましく、3.5GPa以上がより好ましく、4.0GPa以上がさらに好ましく、4.5Ga以上または5.0GPa以上であってもよい。引張弾性率が高いフィルムは、JIS K5600の引っかき硬度が高い傾向があり、表示層とのカバーフィルムのように、最表面に配置される部材にも好適に使用できる。引張弾性率Eの上限は特に限定はないが、一般には10GPa以下である。
【0073】
ポリイミドフィルムの厚み方向複屈折Δnは、0.050以下が好ましく、0.040以下、0.030以下、または0.020以下であってもよい。斜め方向から視認した際の虹ムラや色調のシフト等の視認性低下を抑制する観点からは、Δnはできる限り小さいことが好ましい。厚み方向複屈折は、Δn=(Nx+Ny)/2-Nzで定義される値である。Nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、Nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、Nzは厚み方向の屈折率である。
【0074】
上記のように、リン酸エステルを配合することにより、引張弾性率Eをほとんど変化させることなく(または上昇させつつ)、複屈折を低減することが可能である。また、縮合リン酸エステル等の所定のリン酸エステルを用いた場合に、複屈折低減効果が大きくなる傾向がある。
【0075】
リン酸エステルの配合による複屈折低減効果は、同一のポリイミドを用いてリン酸エステル含まないポリイミドフィルム(ポリイミド単独のフィルム)を作製し、リン酸エステルを含むポリイミドフィルムの厚み方向複屈折Δnと、リン酸エステルを含まないポリイミド単独のフィルムの厚み方向複屈折Δn’との比Δn/Δn’に基づいて評価できる。Δn/Δn’が小さいほど、複屈折低減効果が大きいことを意味する。Δn/Δn’は、0.90未満が好ましく、0.80未満がより好ましく、0.70未満がさらに好ましく、0.60未満、0.50未満または0.40未満であってもよい。Δn/Δn’は小さいほど好ましいが、一般には0.01以上である。
【0076】
リン酸エステルを配合した場合において弾性率の低下が抑制されていることは、リン酸エステルを含むポリイミドフィルムの引張弾性率Eと、リン酸エステルを含まないポリイミド単独のフィルムの引張弾性率E’との比E/E’に基づいて評価できる。E/E’が1に近いほど、引張弾性率の低下が抑制されていることを意味し、E/E’が1より大きい場合は、リン酸エステルが反可塑剤的に作用していることを意味する。ポリイミドフィルムは、Δn/Δn’が上記の範囲であり、かつE/E’が0.8以上であることが好ましい。E/E’は、0.85以上がより好ましく、0.90以上がさらに好ましく、0.95以上が特に好ましい。E/E’は1以上であってもよく、1より大きくてもよい。E/E’は大きいほど好ましいが、一般には1.2以下である。
【0077】
上記のように、リン酸エステルは高濃度でポリイミドに配合した場合でも、高いE/E’が保持されるため、引張弾性率Eが高くかつ厚み方向複屈折Δnが小さいポリイミドフィルムが得られる。同等の配合量では、一般式(2)で表される正リン酸エステルに比べて、一般式(3)で表される縮合リン酸エステルの方が、複屈折低減効果が高い傾向がある。本発明の実施形態においては、リン酸エステルの種類に応じてその配合量を調整することにより、引張弾性率の比E/E’が大きく、かつ厚み方向複屈折の比Δn/Δn’が小さいポリイミドフィルムが得られる。
【0078】
前述のように、リン酸エステルを配合することにより、ポリイミドフィルムの複屈折の低減に加えて、透明性が上昇(着色が低減)する傾向がある。リン酸エステルの配合による透明性向上効果は、リン酸エステルを含むポリイミドフィルムの波長400nmにおける透過率Tと、リン酸エステルを含まないポリイミドフィルム単独のフィルムの波長400nmにおける透過率T’との比T/T’により評価可能であり、T/T’が大きいほど透明性向上効果が高いことを意味する。T/T’は1より大きいことが好ましく、1.05以上がより好ましく、1.10以上がさらに好ましく、1.15以上、1.20以上または1.25以上であってもよい。リン酸エステルの配合量の増大に伴ってT/T’が大きくなる傾向がある。ただし、リン酸エステルの配合量が過度に大きい場合は、ヘイズが上昇する場合がある。
【0079】
リン酸エステルを含むポリイミドフィルムの黄色度YIと、リン酸エステルを含まないポリイミドフィルム単独のフィルムの黄色度YI’との比YI/YI’からも、透明性向上効果を評価可能であり、YI/YI’が小さいほど透明性向上効果が高いことを意味する。YI/YI’は1より小さいことが好ましく、0.95以下がより好ましく、0.90以下がさらに好ましく、0.85以下、0.80以下、0.75以下または0.70以下であってもよい。
【0080】
[ポリイミドフィルムの用途]
本発明の実施形態の透明ポリイミドフィルムは、透明性が高く、複屈折が小さいことから、ディスプレイ材料として好適に用いられる。特に、機械的強度が高いポリイミドフィルムは、ディスプレイのカバーフィルム等の表面部材への適用が可能である。透明ポリイミドフィルムは、実用に際して、表面に帯電防止層、易接着層、ハードコート層、反射防止層等を設けてもよい。
【実施例】
【0081】
以下、ポリイミドフィルムの作製例に基づき、本発明について更に具体的に説明する。なお、本発明は下記の具体例に限定されるものではない。
【0082】
有機溶媒および化合物は、以下の略称により記載している。
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
3,3’-DDS:3,3’-ジアミノジフェニルスルホン
CBDA:1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
6FDA:2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
TMHQ:ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)1,4-フェニレン
TAHMBP:ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’-ジイル
【0083】
[製造例1~3:ポリイミド樹脂の作製]
<ポリアミド酸溶液の調製>
セパラブルフラスコにDMFを投入し、窒素雰囲気下で撹拌した。そこに、表1に示す比率でジアミンおよび酸二無水物を投入し、窒素雰囲気下で5~10時間撹拌することにより反応させて、固形分濃度18%のポリアミド酸溶液を得た。
【0084】
【0085】
<イミド化およびポリイミド樹脂の分離>
上記のポリアミド酸溶液に、およびイミド化触媒としてピリジン5.5gを添加し完全に分散させた後、無水酢酸8gを添加し、90℃で3時間攪拌した。室温まで冷却した溶液を攪拌しながら、100gの2-プロピルアルコール(以下「IPA」と記載)を2~3滴/秒の速度で滴下し、ポリイミドを析出させた。さらにIPA150gを添加し、30分程度撹拌後、桐山ロートを使用して吸引ろ過を行った。得られた固体を100gのIPAで洗浄した。洗浄作業を6回繰り返した後、120℃に設定した真空オーブンで12時間乾燥させて、ポリイミド樹脂1~3を得た。
【0086】
[参考例1~3:リン酸エステルを含まないポリイミドフィルムの作製]
<参考例1>
ポリイミド樹脂1を塩化メチレンに溶解し、固形分濃度11%のポリイミド溶液を調製した。ポリイミド溶液を無アルカリガラス板に塗布し、40℃で60分、70℃で30分、150℃で30分、170℃で30分、大気雰囲気下で加熱して溶媒を除去して、表2に示す厚みのポリイミドフィルムを得た。フィルムの膜厚は、長さゲージ(ハイデンハイン製「ND-CT2501」)を使用して測定した。
【0087】
<参考例2,3>
ポリイミド樹脂1に代えてポリイミド樹脂2,3を用いたこと以外は参考例1と同様にして、ポリイミドフィルムを作製した。
【0088】
[リン酸エステルを含むポリイミドフィルムの作製]
ポリイミド溶液の調製において、ポリイミド樹脂100質量部に対して、表2に示す種類および量のリン酸エステルを添加した。それ以外は、ポリイミドフィルム1A~1Lは参考例1と同様;ポリイミドフィルム2A~2Nは参考例2と同様、ポリイミドフィルム3Aは参考例3と同様にして、ポリイミド溶液を無アルカリガラス板上に塗布し、溶媒を除去することにより、フィルムを作製した。リン酸エステル1~8の詳細は下記の通りである。
【0089】
リン酸エステル1:リン酸トリフェニル(東京化成工業製)
リン酸エステル2:ノンハロゲン系正リン酸エステル(大八化学工業製「DAIGUARD-1000」
リン酸エステル3:レゾルシノールビスジフェニルホスフェート(大八化学工業製「CR-733S」)
リン酸エステル4:ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート(大八化学工業製「CR-741」
リン酸エステル5:リン酸トリクレジル(東京化成工業製)
リン酸エステル6:トリス(2-エチルヘキシル)リン酸(東京化成工業製)
リン酸エステル7:リン酸クレジルジフェニル(東京化成工業製)
リン酸エステル8:レゾルシノールビス(ジ2,6-キシレニルホスフェート)(大八化学工業製「PX-200」)
【0090】
[ポリイミドフィルムの評価]
<厚み方向複屈折(△n)>
ポリイミドフィルムを3cm角に切断し、王子計測機器製の自動複屈折計「KOBRA」を用い、平均屈折率を1.60として、波長590nmでの厚み位相差Rthと面内位相差Reを測定した。測定値から算出された三次元屈折率(面内方向の屈折率NxおよびNy、ならびに厚み方向の屈折率Nz)から、厚み方向複屈折△n=(Nx+Ny)/2-Nzを算出した。
【0091】
<引張弾性率>
島津製作所製の「AUTOGRAPH AGS-X」を用いて、次の条件で測定した。サンプル測定範囲:幅10mm、つかみ具間距離:100mm、引張速度:20.0mm/min、測定温度:23℃。サンプルは23℃/55%RHで1日静置して調湿したものを用いた。
【0092】
<黄色度(YI)>
3cm角サイズのサンプルを用い、スガ試験機製の分光測色計「SC-P」により測定した。
【0093】
<400nmにおける透過率>
日本分光社製の紫外可視分光光度計「V-560」を用いて、フィルムの300~800nmにおける光透過率を測定し、400nmの波長における光透過率を読み取った。
【0094】
<ヘイズ>
スガ試験機製のヘイズメーター「HZ-V3」を用いて、JIS K7136に記載の方法により測定した。
【0095】
上記のポリイミドフィルムの組成(ポリイミド樹脂の種類、リン酸エステルの種類および含有量)、ならびにポリイミドフィルムの評価結果を、表2に示す。表2における弾性率比は、リン酸エステルを含まない参考例のポリイミドフィルムの引張弾性率E’に対する、リン酸エステルを含むポリイミドフィルムの引張弾性率Eの比E/E’である。同様に、複屈折比、YI比および透過率比は、それぞれ、参考例に対する、厚み方向複屈折Δn、黄色度YIおよび波長400nmにおける透過率の比である。なお、フィルム1Jでは、著しい白濁が認められたため、厚み以外の評価は実施しなかった。
【0096】
【0097】
ポリイミド樹脂1を用いて作製したフィルム1A~1Lでは、フィルム1Jを除いて、著しいヘイズの上昇を生じることなく、参考例1に比べてフィルムの複屈折が低下しており、リン酸エステルの添加量の増大に伴って、複屈折が小さくなる傾向がみられた。40質量部のリン酸エステルを添加したフィルム1C,1F,1H,1Kの対比から、縮合リン酸エステルを用いたフィルム1H,1Kでは、リン酸エステルの添加による複屈折低減効果がより顕著であることが分かる。
【0098】
フィルム1Lでは、参考例1に比べて引張弾性率が約半分に低下していた。フィルム1A~1Hおよび1Kでは、リン酸エステルの添加により、引張弾性率を保持しながら、複屈折が低減していることが分かる。中でも、フィルム1A,1F,1G,1Hでは、弾性率比が1を上回っており、リン酸エステルが反可塑剤的に作用する傾向がみられた。また、リン酸エステルの添加に伴って、波長400nmの透過率が上昇し、黄色度が低下する傾向がみられた。
【0099】
ポリイミド樹脂2を用いて作製したフィルム2A~2N、およびポリイミド樹脂3を用いて作製したフィルム3Aにおいても、上記と同様の傾向が確認されたが、リン酸エステル6を用いたフィルム2Kでは、参考例2に比べて黄色度が増大しており、他の例に比べて弾性率が低くなっていた。これらの結果から、機械強度および透明性が高く、複屈折の小さいポリイミドフィルムを得るためには、芳香族リン酸エステルが適していると考えられる。
【0100】
フィルム2D~2Hでは、リン酸エステルの添加量の増大に伴って複屈折が低減する傾向がみられ、フィルム2Dおよび2Eでは、複屈折比が0.9より大きく、複屈折低減効果が十分ではなかった。リン酸エステルの添加量が3質量部のフィルム2Mも同様であった。
【0101】
以上の結果から、リン酸エステルを含めることにより、ポリイミドフィルムの弾性率を保持または向上させつつ、高透明化および低複屈折化が可能であり、リン酸エステルの種類および添加量を調整することにより、機械強度に優れかつ複屈折が極めて小さい透明ポリイミドフィルムが得られることが分かる。