(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】歯科用組成物のための抗菌性ナノゲルおよび加水分解的に安定な抗菌性ナノゲルのための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
C08F 220/34 20060101AFI20241022BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20241022BHJP
C07C 233/61 20060101ALI20241022BHJP
C08F 2/38 20060101ALI20241022BHJP
C08F 4/04 20060101ALI20241022BHJP
C08F 220/56 20060101ALI20241022BHJP
C08F 226/02 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C08F220/34
A61K6/887
C07C233/61
C08F2/38
C08F4/04
C08F220/56
C08F226/02
(21)【出願番号】P 2021527069
(86)(22)【出願日】2019-08-29
(86)【国際出願番号】 US2019048779
(87)【国際公開番号】W WO2020106348
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-08-01
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517264281
【氏名又は名称】デンツプライ シロナ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ジン,シャオミン
(72)【発明者】
【氏名】シュフラー,クリスチアン
(72)【発明者】
【氏名】クリー,ホアキム
(72)【発明者】
【氏名】ル,フイ
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-009725(JP,A)
【文献】国際公開第2017/144180(WO,A1)
【文献】特表2012-526817(JP,A)
【文献】特表2016-536397(JP,A)
【文献】特開2008-007697(JP,A)
【文献】特表2014-531423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
C08F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(i)イミダゾリウム、ピリジニウム、アンモニウムもしくはスルホニウム基のうちの少なくとも1つおよび(ii)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する、重合可能な抗菌性モノマー、
(b)少なくとも1つの(メタ)アクリレートもしくは(メタ)アクリルアミド基を有する、少なくとも1種の重合可能な樹脂モノマー、
(c)少なくとも1種の連鎖移動剤、および
(d)開始剤
を含むモノマー混合物から得られる重合可能な抗菌性ナノゲルであって
、
前記少なくとも1種の連鎖移動剤はチオール化合物であり、
前記重合可能な抗菌性モノマーは、式II:
【化1】
の化合物を含み、
式中、
Mはビニルエーテル、ビニルエステル、ビニルアミン、アリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレートもしくはメタクリレート部分であり、
Yは1~4個の炭素を有する、アルキレン、オキシアルキレンもしくはチオアルキレンであるか、または、カーボネート、カルボキシレート、エステル基または直接結合であり、
WはO、NR
4または直接結合であり、
R
1は2~18個の炭素を有する二価の炭化水素ラジカルであり、
R
2およびR
3は、独立して、同じもしくは異なる、1~4個の炭素を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキレンであり、
R
4は1~4個の炭素を有するアルキルまたはR
2Mであり、
Rは4~16個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキルであり、
Xは対イオン部分であり、かつ
nは0~1の整数である、
重合可能な抗菌性ナノゲル。
【請求項2】
前記少なくとも1つの(メタ)アクリレートもしくはメタクリルアミド基を有する重合可能な樹脂モノマーは、モノ、ジ、トリおよびテトラ官能性モノマーからなる群から選択される、請求項1に記載の重合可能な抗菌性ナノゲル。
【請求項3】
前記重合可能な樹脂モノマーは、2,2’-ビス[4-(3-メタクリロキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)-フェニル]プロパン(Bis-GMA)、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(TEGDMA)、ウレタンジメタクリレート(UDMA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、C
1~C
20アルキル(メタ)アクリレート、芳香族メタクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリルアミドからなる群から選択される、請求項1に記載の重合可能な抗菌性ナノゲル。
【請求項4】
nは1である、請求項1に記載の重合可能な抗菌性ナノゲル。
【請求項5】
前記重合可能な抗菌性モノマーは前記モノマー混合物のモル全体に対して5~45モル%の範囲で存在する、請求項4に記載の重合可能な抗菌性ナノゲル。
【請求項6】
nは0である、請求項1に記載の重合可能な抗菌性ナノゲル。
【請求項7】
前記重合可能な抗菌性モノマーは前記モノマー混合物のモル全体に対して5~95モル%の範囲で存在する、請求項6に記載の重合可能な抗菌性ナノゲル。
【請求項8】
前記重合可能な抗菌性モノマーの前記少なくとも1つのエチレン性不飽和基はメタクリレート基であり、かつ前記重合可能な樹脂モノマーの前記少なくとも1つの(メタ)アクリレート基は、前記重合可能な抗菌性モノマーのメタクリレート基と前記重合可能な樹脂モノマーの前記メタクリレート基との組み合わせが前記モノマー混合物のモル全体に対して50~90モル%の範囲で存在するようなメタクリレート基である、請求項1に記載の重合可能な抗菌性ナノゲル。
【請求項9】
前記重合可能な樹脂モノマーはC
1~C
20アルキル(メタ)アクリレートである、請求項8に記載の重合可能な抗菌性ナノゲル。
【請求項10】
前記重合可能な樹脂モノマーは芳香族メタクリレートである、請求項8に記載の重合可能な抗菌性ナノゲル。
【請求項11】
前記重合可能な樹脂モノマーはヒドロキシルアルキルアクリレート、ヒドロキシルアルキルメタクリレート、ヒドロキシルアルキルアクリルアミドまたはヒドロキシルアルキル(メタ)アクリルアミドである、請求項8に記載の重合可能な抗菌性ナノゲル。
【請求項12】
前記連鎖移動剤は1-ドデカンチオールである、請求項1に記載の重合可能な抗菌性ナノゲル。
【請求項13】
前記開始剤はアゾビスイソブチロニトリルである、請求項1に記載の重合可能な抗菌性ナノゲル。
【請求項14】
前記開始剤は前記モノマー混合物中の前記エチレン性不飽和基全体の0.5~2.0wt/wtの濃度で存在する、請求項1に記載の重合可能な抗菌性ナノゲル。
【請求項15】
前記連鎖移動剤は前記モノマー混合物中の前記エチレン性不飽和基全体の25~35%モル/モルの濃度で存在する、請求項1に記載の重合可能な抗菌性ナノゲル。
【請求項16】
前記重合可能な抗菌性モノマーは、以下の式III:
【化2】
のアミドを含み、
式中、
Mはアリル、アクリルアミドもしくはメタクリルアミド部分であり、
R
1は2~18個の炭素を有する二価の炭化水素ラジカルであり、
R
2は、独立して、同じもしくは異なる、1~4個の炭素を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキレンであり、
R
4は1~4個の炭素を有するアルキルまたはR
2Mであり、
Rは4~16個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキルであり、かつ
Xは対イオン部分である、
請求項1に記載の重合可能な抗菌性ナノゲル。
【請求項17】
前記重合可能な抗菌性ナノゲルは、水溶性であり、かつ水溶液中で1.0~3.0の範囲のpHおよび最大30℃の温度で分解しない、請求項16に記載の重合可能な抗菌性ナノゲル。
【請求項18】
非対称ポリアクリルアミドを含有し水溶性かつ水溶液中で1.0~3.0の範囲のpHおよび最大30℃の温度で分解しない重合可能なモノマーを形成する方法であって、
以下の式:
【化3】
の非対称ポリアクリルアミドを、
以下の式:
【化4】
の一置換の非対称ポリアクリルアミドを得るために選択される条件下においてマイケルドナーの存在下で反応させる工程であって、
式中、
Mはアクリルアミドもしくはメタクリルアミド部分であり、
R
2は、独立して、同じもしくは異なる、1~4個の炭素を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキレンであり、
R
4は1~4個の炭素を有するアルキルまたはR
2Mであり、
前記マイケルドナーはイミダゾールである工程を含む方法。
【請求項19】
前記非対称ポリアクリルアミドを前記マイケルドナーと反応させる前記工程の後に前記一置換の非対称ポリアクリルアミドモノマーの前記イミダゾールをイミダゾリウムに転換させる工程をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記一置換の非対称ポリアクリルアミドモノマーの前記イミダゾールをイミダゾリウムに転換する前記工程は、前記一置換の非対称ポリアクリルアミドモノマーをRXと反応させることを含み、
式中、
Rは4~16個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキルであり、かつ
Xはハロゲンである、
請求項19に記載の方法。
【請求項21】
以下の式III:
【化5】
の、非対称ポリアクリルアミドを含有し水溶性かつ溶液中で1.0~3.0の範囲のpHおよび最大30℃の温度で分解しない重合可能な抗菌性モノマーを形成する方法であって、
(a)以下の式:
【化6】
の非対称ポリアクリルアミドを以下の式:
【化7】
の一置換の非対称ポリアクリルアミドを得るために選択される条件下においてマイケルドナーの存在下で反応させる工程であって、
前記マイケルドナーはイミダゾールである工程と、
(b)以下の式III:
【化8】
の前記重合可能な抗菌性モノマーを得るために、前記一置換の非対称ポリアクリルアミドモノマーをRXと反応させて、前記一置換の非対称ポリアクリルアミドモノマーのイミダゾールをイミダゾリウムに転換させる工程であって、
式中、
Mはアクリルアミドもしくはメタクリルアミド部分であり、
R
1は2~18個の炭素を有する二価の炭化水素ラジカルであり、
R
2は、独立して、同じもしくは異なる、1~4個の炭素を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキレンであり、
R
4は1~4個の炭素を有するアルキルまたはR
2Mであり、
Rは4~16個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキルであり、かつ
Xはハロゲンである
工程と
を含む方法。
【請求項22】
(a)マイクロ波反応器において溶媒の存在下で、(i)イミダゾリウム、ピリジニウム、アンモニウムもしくはスルホニウム基のうちの少なくとも1つおよび少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有する重合可能な抗菌性モノマー、(ii)少なくとも1つの(メタ)アクリレートもしくは(メタ)アクリルアミド基を有する少なくとも1種の重合可能な樹脂モノマー、(iii)少なくとも1種の連鎖移動剤および(iv)開始剤を1つに合わせる工程、
(b)重合反応を開始する工程、および
(c)重合後に前記溶媒から重合可能な抗菌性ナノゲルを回収する工程
を含む、前記重合可能な抗菌性ナノゲルを調製する方法であって
、
前記重合可能な抗菌性モノマーは、式II:
【化9】
の化合物を含み、
式中、
Mはビニルエーテル、ビニルエステル、ビニルアミン、アリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレートもしくはメタクリレート部分であり、
Yは1~4個の炭素を有する、アルキレン、オキシアルキレンもしくはチオアルキレンであるか、または、カーボネート、カルボキシレート、エステル基または直接結合であり、
WはO、NR
4または直接結合であり、
R
1は2~18個の炭素を有する二価の炭化水素ラジカルであり、
R
2およびR
3は、独立して、同じもしくは異なる、1~4個の炭素を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキレンであり、
R
4は1~4個の炭素を有するアルキルまたはR
2Mであり、
Rは4~16個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキルであり、
Xは対イオン部分であり、かつ
nは0~1の整数である、
方法。
【請求項23】
前記溶媒はメチルエチルケトンまたはトルエンである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記溶媒はメチルエチルケトンである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
抗菌性ナノゲル改質された樹脂マトリックスおよび充填剤粒子を含む抗菌性歯科用複合材であって、
前記抗菌性ナノゲル改質された樹脂マトリックスは、請求項1~17のいずれか一項に記載の重合可能な抗菌性ナノゲル、重合可能な樹脂、開始剤および安定化剤を含む、
抗菌性歯科用複合材。
【請求項26】
前記抗菌性ナノゲル改質された樹脂マトリックス
が、前記
抗菌性歯科用複合材の総重量に対して0.5~10.0重量%の濃度で前記
抗菌性歯科用複合材中に存在する、請求項25に記載の抗菌性歯科用複合材。
【請求項27】
前記充填剤粒子
が、前記
抗菌性歯科用複合材の総重量に対して30~90重量%の濃度で前記
抗菌性歯科用複合材中に存在する、請求項25に記載の抗菌性歯科用複合材。
【請求項28】
黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を示す、請求項25に記載の抗菌性
歯科用複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、重合可能な抗菌性ナノゲルおよび加水分解的に安定な抗菌性ナノゲル組成物、そのような組成物を調製する方法ならびに樹脂モノマー、セメント、接着剤および複合製剤などの歯科用製品への添加剤としての重合可能な抗菌性ナノゲルならびに加水分解的に安定な抗菌性ナノゲルの使用に関する。本開示は加水分解的に安定な抗菌性モノマーを形成するための方法および組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤などのナノゲル改質された歯科材料は、基本的なモノマー製剤を変えることなく材料の疎水性特性を制御するための解決法としてStansburyら(Journal of Dental Research(2012),91(2),179-184)によって紹介された。様々なナノゲルがIBMA/UDMA、HEMA/Bis-GMAおよびHEMA/TEGDMAなどのモノマーをベースにしてStansburyらによって合成された。より疎水性の高いIBMA/UDMAナノゲルはより高いバルク機械的性質という結果を示したが、最良の象牙質接着強度値および貯蔵時の向上した強度値はBis-GMA/HEMAをベースとした両親媒性ナノゲルにより得られた。ナノゲル改質されたモノマーおよび複合材における重合収縮および応力の制御も反応性ナノゲルの使用によって達成された。
【0003】
米国特許第9,138,383号は、モノビニルモノマー、ジビニルモノマー、連鎖移動剤およびイニファーターを含むモノマー混合物の重合によって生成された可溶性ナノゲルポリマーを開示した。
【0004】
米国特許第9,845,415号は、(i)少なくとも1種のモノビニルモノマー、少なくとも1種のジビニルモノマー、二官能性連鎖移動剤および開始剤を含むモノマー混合物を1つに合わせる工程と、(ii)前記混合物を重合させて水分散性ナノゲルを形成する工程とを含むプロセスであって、前記少なくとも1種のモノビニルモノマーはポリエトキシ(10)エチルメタクリレート(E10 HEMA)を含むことを特徴とするプロセスにより生成される水分散性ナノゲルを開示した。
【0005】
さらに修復歯科学では、クロルヘキシジン、銀イオン、亜鉛イオンおよびフッ化物などの様々な抗菌/抗微生物薬の組み込みにより、抗菌/抗微生物効果を有する歯科用組成物を創出するための広範囲な試みがなされてきた。そのような低分子化合物はある種の即時有効性を示したが、それらの長期有効性、審美性、潜在的毒性および、溶出性による製剤化された歯科用組成物の機械的強度への影響に関して議論が交わされている。他方、低分子量の抗菌/抗微生物薬に関連するそれらの問題に対処するために、銀ナノ粒子および重合性第四級アンモニウム塩(QAS)ナノ粒子などの固体の抗菌/抗微生物薬も開発された。色、光学的不透明度および機械的強度などの問題も存在する。最近では重合可能な抗菌性/抗微生物性樹脂が開発されたが、それらの最適以下の有効性は比較的高い負荷レベルを必要とし、それらのほとんどが濃度の増加により製剤化された歯科用組成物における機械的性質に対して悪影響を示した。
【0006】
米国特許出願公開第2010/0256242号は、その第四級部位に結合された第四級アンモニウム基を含む重合可能な生物医学的組成物を開示した。
【0007】
米国特許第5,494,987号は、第四級アンモニウムドデシルピリジニウム(MDPB)からなる歯科用途のための抗微生物活性を有するエチレン性不飽和モノマーを有する重合可能な抗微生物性組成物を開示した。
【0008】
米国特許第6,710,181号および第7,094,845号は、樹脂と金属またはガラスとの接着を高めるためにイミダゾールベースのシランおよびモノカルボン酸塩を開示した。
【0009】
米国特許第7,553,881号は、抗微生物効果のための第四級アンモニウム塩をベースとした重合可能なマクロマーをベースとした歯科用組成物を開示した。
【0010】
米国特許第8,747,831号は、歯科用組成物および重合可能な抗菌性/抗微生物性樹脂を調製する方法ならびに製剤化された歯科用組成物におけるそのような生体活性樹脂の使用を開示した。
【0011】
米国特許出願公開第2017/0143594号は、重合可能な抗菌性/抗微生物性モノマーを含む方法および歯科矯正用セメント組成物ならびにそのような新規な生体活性樹脂から製剤化された高性能歯科矯正用セメントを開示した。
【発明の概要】
【0012】
重合可能な抗菌性ナノゲルおよび加水分解的に安定な抗菌性ナノゲルを歯科用製品に導入することにより、製剤化された歯科用製品の機械的完全性を損うことなく抗菌活性、非溶出性、低用量負荷を有する接着剤、複合材およびセメントなどの歯科用製品を開発することへの関心は尽きない。
【0013】
本開示は、重合可能な抗菌性ナノゲルおよび加水分解的に安定な抗菌性ナノゲル組成物、そのような組成物を調製する方法ならびに樹脂モノマー、セメント、接着剤および複合製剤などの歯科用製品への添加剤としての重合可能な抗菌性ナノゲルおよび加水分解的に安定な抗菌性ナノゲルの使用を提供する。本開示は加水分解的に安定な抗菌性モノマーを形成するための方法および組成物にも関する。
【0014】
本開示の第1の態様では、本重合可能な抗菌性ナノゲルは、
(a)イミダゾリウム、ピリジニウム、アンモニウムもしくはスルホニウム基のうちの少なくとも1つおよび少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する、重合可能な抗菌性モノマー、
(b)少なくとも1つの(メタ)アクリレートもしくは(メタ)アクリルアミド基を有する、少なくとも1種の重合可能な樹脂モノマー、
(c)少なくとも1種の連鎖移動剤、および
(d)開始剤
を含むモノマー混合物から得られる。
【0015】
より具体的には、本明細書に開示されている重合可能な抗菌性ナノゲルは、式I:
【化1】
の化合物に示されている重合可能な抗菌性モノマーを含むそのような重合可能な抗菌性ナノゲルを得る方法に関連しており、
式中、
Mはビニルエーテル、ビニルエステル、ビニルアミン、アリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレートもしくはメタクリレート部分であり、
YおよびZは、独立して、同じもしくは異なる、1~4個の炭素を有する、アルキレン、オキシアルキレン、アミノアルキレンもしくはチオアルキレンであるか、または、アリーレン、カーボネート、カルボキシレート、エステル基、アミドまたは直接結合であり、
R
1は2~18個の炭素を有する二価の炭化水素ラジカルであり、
R
2およびR
3は、独立して、同じもしくは異なる、1~4個の炭素を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキレンまたは直接結合であり、
Bはイミダゾリウム、ピリジニウム、アンモニウムもしくはスルホニウム基であり、
Rは4~16個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキルまたは直接結合であり、
Xは対イオン部分であり、かつ
nは0~4の整数である。
【0016】
本明細書に開示されている重合可能な抗菌性ナノゲルの一実施形態では、重合可能な抗菌性モノマーは、式II:
【化2】
の化合物を含み、
式中、
Mはビニルエーテル、ビニルエステル、ビニルアミン、アリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレートもしくはメタクリレート部分であり、
Yは1~4個の炭素を有する、アルキレン、オキシアルキレンもしくはチオアルキレンであるか、または、カーボネート、カルボキシレート、エステル基または直接結合であり、
WはO、NR
4または直接結合であり、
R
1は2~18個の炭素を有する二価の炭化水素ラジカルであり、
R
2およびR
3は、独立して、同じもしくは異なる、1~4個の炭素を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキレンであり、
R
4は1~4個の炭素を有するアルキルまたはR
2Mであり、
Rは4~16個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキルであり、
Xは対イオン部分であり、かつ
nは0~1の整数である。
【0017】
特定の一実施形態では、重合可能な抗菌性モノマーは、式III:
【化3】
の化合物を含み、
式中、
Mはアリル、アクリルアミドもしくはメタクリルアミド部分であり、
R
1は2~18個の炭素を有する二価の炭化水素ラジカルであり、
R
2は、独立して、同じもしくは異なる、1~4個の炭素を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキレンであり、
R
4は1~4個の炭素を有するアルキルまたはR
2Mであり、
Rは4~16個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキルであり、かつ
Xは対イオン部分である。
【0018】
本明細書に開示されている重合可能な抗菌性ナノゲルの別の実施形態では、少なくとも1つの(メタ)アクリレートもしくはメタクリルアミド基を有する重合可能な樹脂モノマーは、単官能性、二官能性、三官能性もしくは四官能性モノマーからなる群から選択される。
【0019】
本明細書に開示されている重合可能な抗菌性ナノゲルのさらに別の実施形態では、少なくとも1種の連鎖移動剤は1-ドデカンチオールである。
【0020】
本明細書に開示されている重合可能な抗菌性ナノゲルのなおさらなる実施形態では、開始剤はアゾビスイソブチロニトリルである。
【0021】
本開示の第2の態様では、非対称ポリアクリルアミドを含有する加水分解的に安定かつ水溶性の重合可能な抗菌性モノマーを形成する方法が提供される。本方法は、
(a)以下の式:
【化4】
の非対称ポリアクリルアミドを以下の式:
【化5】
の一置換の非対称ポリアクリルアミドを得るために選択される条件下においてマイケルドナーの存在下で反応させる工程であって、
マイケルドナーはイミダゾールである工程と、
(b)以下の式III:
【化6】
の非対称ポリアクリルアミドを含有する加水分解的に安定かつ水溶性の重合可能な抗菌性モノマーを得るために、一置換の非対称ポリアクリルアミドモノマーをRXと反応させて、一置換の非対称ポリアクリルアミドモノマーのイミダゾールをイミダゾリウムに転換させる工程であって、
式中、
Mはアリル、アクリルアミドもしくはメタクリルアミド部分であり、
R
1は2~18個の炭素を有する二価の炭化水素ラジカルであり、
R
2は、独立して、同じもしくは異なる、1~4個の炭素を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキレンであり、
R
4は1~4個の炭素を有するアルキルまたはR
2Mであり、
Rは4~16個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキルであり、かつ
Xは対イオン部分である
工程と
を含む。
【0022】
本開示の第3の態様では、重合可能な抗菌性ナノゲルを調製する方法が提供される。本方法は、
(a)マイクロ波反応器において溶媒の存在下で、イミダゾリウム、ピリジニウム、アンモニウムもしくはスルホニウム基のうちの少なくとも1つおよび少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有する重合可能な抗菌性モノマー、少なくとも1つの(メタ)アクリレートもしくは(メタ)アクリルアミド基を有する少なくとも1種の重合可能な樹脂モノマー、少なくとも1種の連鎖移動剤および開始剤を1つに合わせる工程と、
(b)重合反応を開始する工程と、
(c)重合後に溶媒から本重合可能な抗菌性ナノゲルを回収する工程と
を含む。
【0023】
メチルエチルケトンを溶媒として使用した場合にナノゲルからマクロゲルが形成されなかったので、本明細書に開示されている方法において有用な溶媒はナノゲル形成において重要な役割を担う。そのようなマクロゲルの形成は樹脂マトリックス中での本ナノゲルの自己再分散性にとって重大である。トルエンを溶媒として使用した場合に異なる結果が達成された。
【0024】
本明細書に記載されているナノゲルから得られた接着剤、セメントおよび複合材を含む製剤化された歯科用組成物は、向上した抗菌効果ならびに向上した結合強度および著しく減少した重合収縮/応力などの機械的性質を示した。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】ジ(メタクリロキシエチル)トリメチル-1,6-ヘキサエチレンジウレタン(UDMA)/2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート(POEMA)、すなわちアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用い、かつ連鎖移動剤としての1-ドデカンチオール(DDT)で媒介される熱フリーラジカル重合による従来の重合可能なナノゲルの重合および構造を示す。
【
図2】黄色ブドウ球菌に対する本開示に係る複合材の抗菌活性を示す表1を示す。
【
図3】黄色ブドウ球菌に対する本開示に係る複合材の抗菌活性を示す表2を示す。
【
図4】加水分解的に安定なイミダゾール由来のアクリルアミド前駆体(XJ10-123)の
1H NMRスペクトルを示す。
【
図5】加水分解的に安定なイミダゾール由来のアクリルアミド前駆体(XJ10-123)の13C NMRスペクトルを示す。
【
図6】加水分解的に安定なC12B-イミダゾリウムアクリルアミド(XJ10-118)の13C NMRスペクトルを示す。
【
図7】加水分解的に安定なC12B-イミダゾリウムアクリルアミド(XJ10-118)の
1H NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本開示の上記態様ならびに他の態様、特徴および利点を添付の図を参照しながら様々な実施形態に関して以下に説明する。
【0027】
本開示で使用される用語のいくつかを以下に定義する。
【0028】
「アルキル」という用語は、特に定めがない限り、1~18個の炭素原子を有するモノラジカルの分岐鎖状もしくは非分岐鎖状飽和炭化水素鎖を指す。この用語は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、n-デシル、ドデシルおよびテトラデシルなどの基によって例示することができる。アルキル基はアルケニル、アルコキシおよびヒドロキシルから選択される1つ以上の置換基でさらに置換されていてもよい。
【0029】
「アルキレン」という用語は、特に定めがない限り、1~4個の炭素原子を有する直鎖状の飽和二価の炭化水素ラジカルまたは3~4個の炭素原子を有する分岐鎖状の飽和二価の炭化水素ラジカル、例えば、メチレン、エチレン、2,2-ジメチルエチレン、プロピレン、2-メチルプロピレンおよびブチレンなど、好ましくはメチレン、エチレンまたはプロピレンを指す。
【0030】
「オキシアルキレン」という用語は、アルキレン-O--基(アルキレンは上に記載されているとおりである)を指す。
【0031】
「アミノアルキレン」という用語は、アミノラジカルで置換されたアルキレンラジカルを指す。「低級アミノアルキレン」ラジカルがより好ましい。そのようなラジカルの例としてはアミノメチレンおよびアミノエチレンなどが挙げられる。
【0032】
「チオアルキレン」という用語は--S-で置換されたアルキレンラジカルを指す。そのようなラジカルの例としては、メチレンチオ、エチレンチオ、n-プロピレンチオ、i-プロピレンチオ、n-ブチレンチオ、i-ブチレンチオ、s-ブチレンチオおよびt-ブチレンチオが挙げられる。
【0033】
「アリーレン」という用語は「アリール」の二価部分である。「アリール」という用語は、C5~C10員環の芳香族、複素環式、縮合芳香族、縮合複素環式、二芳香族または二複素環式の環系を指す。広く定義される「アリール」は本明細書で使用される場合、0~4個のヘテロ原子を含んでいてもよい、5、6、7、8、9および10員環の単環芳香族基、例えばベンゼン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジンおよびピリミジンなどを含む。環構造中にヘテロ原子を有するそれらの「アリール」基を「アリール」または「複素環」または「ヘテロ芳香族」と呼ぶ場合もある。芳香族環は1つ以上の環位置において、限定されるものではないが、ハロゲン、アジド、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、アミノ(または四級化アミノ)、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホン酸、リン酸、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、スルホンアミド、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、芳香族もしくはヘテロ芳香族部分、--CF3、--CNおよびそれらの組み合わせなどの1つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0034】
「アリール」という用語は、その2つ以上の炭素が2つの隣接している環(すなわち、「縮合環」)に共通している二環以上の環を有する多環式の環系も含み、ここでは当該環の少なくとも1つは芳香族であり、例えば1つ以上の他の環式環はシクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリールおよび/または複素環であってもよい。複素環の例としては、限定されるものではないが、ベンゾイミダゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフラニル、ベンゾチオフェニル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾオキサゾリニル、ベンゾチアゾリル、ベンゾトリアゾリル、ベンゾテトラゾリル、ベンゾイソオキサゾリル、ベンゾイソチアゾリル、ベンゾイミダゾリニル、カルバゾリル、4aHカルバゾリル、カルボリニル、クロマニル、クロメニル、シンノリニル、デカヒドロキノリニル、2H,6H-1,5,2-ジチアジニル、ジヒドロフロ[2,3b]テトラヒドロフラン、フラニル、フラザニル、イミダゾリジニル、イミダゾリニル、イミダゾリル、1H-インダゾリル、インドレニル、インドリニル、インドリジニル、インドリル、3H-インドリル、イサチノイル、イソベンゾフラニル、イソクロマニル、イソインダゾリル、イソインドリニル、イソインドリル、イソキノリニル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、メチレンジオキシフェニル、モルホリニル、ナフチリジニル、オクタヒドロイソキノリニル、オキサジアゾリル、1,2,3-オキサジアゾリル、1,2,4-オキサジアゾリル、1,2,5-オキサジアゾリル、1,3,4-オキサジアゾリル、オキサゾリジニル、オキサゾリル、オキシインドリル、ピリミジニル、フェナントリジニル、フェナントロリニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサチニル、フェノキサジニル、フタラジニル、ピペラジニル、ピペリジニル、ピペリドニル、4-ピペリドニル、ピペロニル、プテリジニル、プリニル、ピラニル、ピラジニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリドオキサゾール、ピリドイミダゾール、ピリドチアゾール、ピリジニル、ピリジル、ピリミジニル、ピロリジニル、ピロリニル、2H-ピロリル、ピロリル、キナゾリニル、キノリニル、4H-キノリジニル、キノキサリニル、キヌクリジニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロイソキノリニル、テトラヒドロキノリニル、テトラゾリル、6H-1,2,5-チアジアジニル、1,2,3-チアジアゾリル、1,2,4-チアジアゾリル、1,2,5-チアジアゾリル、1,3,4-チアジアゾリル、チアントレニル、チアゾリル、チエニル、チエノチアゾリル、チエノオキサゾリル、チエノイミダゾリル、チオフェニルおよびキサンテニルが挙げられる。
【0035】
「(メタ)アクリレート」という用語は本開示の文脈では、アクリレートおよび対応するメタクリレートを指すことが意図されている。
【0036】
「(メタ)アクリルアミド」という用語は本開示の文脈では、アクリルアミドおよびメタクリルアミドを含むことが意図されている。
【0037】
「二価の炭化水素ラジカル」という用語は、エチレン、メチルメチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレンおよびオクタデシレンなどのアルキレンラジカル、ビニレン、アリレンおよびブタジエニレンなどのアルキレンラジカル、シクロブチレン、シクロペンチレンおよびシクロヘキシレンなどのシクロアルキレンラジカル、シクロペンテニレンおよびシクロヘキセニレンなどのシクロアルケニレンラジカル、フェニレンおよびキセニレン(xenylene)などのアリーレンラジカル、ベンジレンなどのアラルキレンラジカル、およびトリレンなどのアルカリレンラジカルなどの2~18個の炭素原子を有する二価の炭化水素ラジカルを指す。
【0038】
「対イオン部分」という用語はそれが会合されている物質とは反対の電荷を有するイオンを指す。対イオン部分の例としては、限定されるものではないが、塩化物、臭化物、ヨウ化物、水酸化物、カルボン酸、アミノ酸、リン酸、硫酸または硝酸が挙げられる。
【0039】
「ナノゲル」という用語はさらに重合できるおよび/または重合できない可溶性もしくは分散性の高分岐ポリマークラスターを指す。
【0040】
「加水分解的に安定な」という用語は、水溶液中の本開示のモノマー/前駆体またはナノゲル/樹脂が約1.0~約3.0の範囲のpHおよび最大30℃の温度で実質的に分解しないことを意味する。
【0041】
UDMA/IBMAをベースとするナノゲルを再現する間に、ナノゲル形成のバッチプロセスに関していくつかの潜在的問題に遭遇した。言い換えると当該技術分野で知られているスケールアッププロセスは、使用可能なナノゲル化合物の生成に成功しなかった。例えばバッチサイズを大きくした場合に重合速度の急速な上昇が観察され、かつ大きいバッチサイズで試みた場合にUDMA/IBMAでは限られた共重合、より低い収率、粒径および粒子溶解性の制御の難しさなどの全てが観察された。
【0042】
本開示の目的は、妥当なコストで良好に制御された品質を有するナノゲルを生成するために、バッチ処理中に明らかとなった問題に対処するために最適化された反応プロセスを開発することにある。本開示の別の目的は、抗菌性樹脂をナノゲルに組み込むことにより重合可能な抗菌性ナノゲル樹脂を調製する実現可能性を調査することにある。
【0043】
加水分解的に安定なモノマーとして加水分解的に安定な樹脂および加水分解的に安定な抗菌性ナノゲル樹脂を有することも非常に望ましい。重合可能なアクリルアミド樹脂はその加水分解安定性で知られており、N-置換アクリルアミド樹脂もその向上した水溶性で知られている。
【0044】
特に荷電ナノゲルから得られる重合可能な抗菌性ナノゲル樹脂および加水分解的に安定な抗菌性ナノゲルは、広域の口腔細菌、特に初期口腔バイオフィルム定着菌群および後期口腔バイオフィルム定着菌群すなわち齲食原性細菌の助けとなる細菌を死滅させるのに非常に有効であることが望ましい。さらにその非溶出特徴はそのような新しい重合可能な抗菌性ナノゲル樹脂のためにさらに高められ、これにより製剤化された歯科用製品の機械的完全性を損なうことなく低用量負荷を保証する。
【0045】
重合可能な抗菌性ナノゲルおよび加水分解的に安定な抗菌性ナノゲルならびにそのような重合可能な抗菌性ナノゲルおよび加水分解的に安定な抗菌性ナノゲルを樹脂モノマー、セメント、接着剤および複合製剤などの歯科用製品への添加剤として調製および使用する方法が本明細書に開示されている。
【0046】
重合可能な抗菌性ナノゲル
本開示の一態様では、(a)イミダゾリウム、ピリジニウム、アンモニウムもしくはスルホニウム基のうちの少なくとも1つおよび少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する重合可能な抗菌性モノマー、(b)少なくとも1つの(メタ)アクリレートもしくは(メタ)アクリルアミド基を有する少なくとも1種の重合可能な樹脂モノマー、(c)少なくとも1種の連鎖移動剤、および(d)開始剤を含むモノマー混合物から得られる重合可能な抗菌性ナノゲルが提供される。
【0047】
本明細書に開示されている重合可能な抗菌性ナノゲルの一実施形態では、重合可能な抗菌性モノマーは、式I:
【化7】
の化合物を含み、
式中、
Mはビニルエーテル、ビニルエステル、ビニルアミン、アリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレートもしくはメタクリレート部分であり、
YおよびZは、独立して、同じもしくは異なる、1~4個の炭素を有する、アルキレン、オキシアルキレン、アミノアルキレンもしくはチオアルキレンであるか、または、アリーレン、カーボネート、カルボキシレート、エステル基、アミドまたは直接結合であり、
R
1は2~18個の炭素を有する二価の炭化水素ラジカルであり、
R
2およびR
3は、独立して、同じもしくは異なる、1~4個の炭素を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキレンまたは直接結合であり、
Bはイミダゾリウム、ピリジニウム、アンモニウムもしくはスルホニウム基であり、
Rは4~16個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキルまたは直接結合であり、
Xは対イオン部分であり、かつ
nは0~4の整数である。
【0048】
本明細書に開示されている重合可能な抗菌性ナノゲルの特定の実施形態では、重合可能な抗菌性モノマーは、式II:
【化8】
の化合物を含み、
式中、
Mはビニルエーテル、ビニルエステル、ビニルアミン、アリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレートもしくはメタクリレート部分であり、
Yは1~4個の炭素を有する、アルキレン、オキシアルキレンもしくはチオアルキレンであるか、または、カーボネート、カルボキシレート、エステル基または直接結合であり、
WはO、NR
4または直接結合であり、
R
1は2~18個の炭素を有する二価の炭化水素ラジカルであり、
R
2およびR
3は、独立して、同じもしくは異なる、1~4個の炭素を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキレンであり、
R
4は1~4個の炭素を有するアルキルまたはR
2Mであり、
Rは4~16個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキルであり、
Xは対イオン部分であり、かつ
nは0~1の整数である。
【0049】
本重合可能な抗菌性ナノゲルの特定の実施形態では、重合可能な抗菌性モノマーはnが1である式IIの化合物である。
【0050】
本重合可能な抗菌性ナノゲルの特定の実施形態では、nが1である式IIの化合物の重合可能な抗菌性モノマーは、以下の式:
【化9】
のジメタクリレートである。
【0051】
本重合可能な抗菌性ナノゲルの一実施形態では、重合可能な抗菌性モノマーはnが1である式IIの化合物であり、かつ重合可能な抗菌性モノマーは、当該モノマー混合物のモル全体に対して5~45モル%の濃度範囲または当該モノマー混合物のモル全体に対して10~30モル%の範囲で存在する。
【0052】
本重合可能な抗菌性ナノゲルの特定の実施形態では、重合可能な抗菌性モノマーはnが0である式IIの化合物である。
【0053】
本重合可能な抗菌性ナノゲルの特定の実施形態では、nが0である式IIの化合物の重合可能な抗菌性モノマーは、以下の式:
【化10】
を有するモノメタクリレートである。
【0054】
本重合可能な抗菌性ナノゲルの一実施形態では、重合可能な抗菌性モノマーはnが0である式IIの化合物であり、かつ重合可能な抗菌性モノマーは、当該モノマー混合物のモル全体に対して5~95モル%の濃度範囲または当該モノマー混合物のモル全体に対して10~70モル%の範囲で存在する。
【0055】
加水分解的に安定な重合可能な樹脂および抗菌性モノマー
本開示の一態様は、一置換の非対称ポリアクリルアミドを得るためのマイケルアクセプターとしての非対称ポリアクリルアミドへの、チオール、アミン、イミダゾールなどのマイケルドナーの選択的付加を伴う、それぞれ加水分解的に安定な樹脂および水溶性の重合可能な樹脂として重合可能な樹脂を調製する方法開発に関する。
【0056】
いくつかの実施形態では、加水分解的に安定な非対称ポリアクリルアミド由来の重合可能な樹脂、および非対称ポリアクリルアミドを含有する重合可能なモノマーは同義で使用される。
【0057】
加水分解的に安定な非対称ポリアクリルアミド由来の重合可能な樹脂のための方法開発の特定の実施形態では、非対称ポリアクリルアミドは、以下の一般式:
【化11】
の化合物であり、
式中、
Mはアリル、アクリルアミドもしくはメタクリルアミド部分であり、
R
2は、独立して、同じもしくは異なる、1~4個の炭素を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキレンであり、
R
4は1~4個の炭素を有するアルキルまたはR
2Mである。
【0058】
より具体的な実施形態では、非対称ポリアクリルアミドは、
【化12】
から選択される。
【0059】
加水分解的に安定な非対称ポリアクリルアミド由来の重合可能な樹脂のための方法開発の特定の実施形態では、一置換の非対称ポリアクリルアミドは以下の式:
【化13】
の化合物であり、
式中、
Mはアリル、アクリルアミドもしくはメタクリルアミド部分であり、
R
2は、独立して、同じもしくは異なる、1~4個の炭素を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキレンであり、
R
4は1~4個の炭素を有するアルキルまたはR
2Mである。
【0060】
驚くべきことにマイケルドナー、例えばイミダゾールまたはチオールに対する非対称ポリアクリルアミドにおいて、N-一置換アクリルアミドに対してN-非置換アクリルアミドの反応性には有意差が存在することを発見した。N-置換アクリルアミドに対するマイケルドナーの優先的付加により高選択的マイケル付加を容易に達成できることを発見した。
【0061】
イミダゾールまたはチオールを、以下に示すようにN-置換アクリルアミドに選択的に付加することができた。
【化14】
【化15】
【0062】
加水分解的に安定な非対称ポリアクリルアミド由来の重合可能な樹脂は水または水と別の1種以上の有機溶媒との混合物に可溶性である。いくつかの実施形態では、有機水溶性溶媒はエタノール、プロパノール、ブタノール、アセトンおよび/またはメチルエチルケトンと混合された水である。
【0063】
「加水分解的に安定な非対称ポリアクリルアミド由来の重合可能な樹脂」という用語は水溶液中の本開示のモノマー/樹脂を意味し、約1.0~約3.0の範囲のpHおよび最大30℃の温度で実質的に分解しない。
【0064】
いくつかの実施形態では、加水分解的に安定な非対称ポリアクリルアミド由来の重合可能な樹脂は、微生物/細菌を死滅させる能力のためにイミダゾリウムから選択される少なくとも1つの部分を含有する。
【0065】
特定の実施形態では、イミダゾリウム部分を含有する加水分解的に安定な非対称ポリアクリルアミド由来の重合可能な樹脂は、重合可能な抗菌性ナノゲルのための重合可能な抗菌性モノマーである。
【0066】
本重合可能な抗菌性ナノゲルの例示的な一実施形態では、nが0であり、Yが直接結合であり、かつWがNR
4である式IIの化合物の重合可能な抗菌性モノマーは、式III:
【化16】
のアミドであり、
式中、
Mはアリル、アクリルアミドもしくはメタクリルアミド部分であり、
R
1は2~18個の炭素を有する二価の炭化水素ラジカルであり、
R
2は、独立して、同じもしくは異なる、1~4個の炭素を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキレンであり、
R
4は1~4個の炭素を有するアルキルまたはR
2Mであり、
Rは4~16個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキルであり、かつ
Xは対イオン部分である。
【0067】
式IIIの化合物の例としては、以下の式:
【化17】
のアクリルアミドが挙げられる。
【0068】
非対称ポリアクリルアミドを含有する加水分解的に安定かつ水溶性の重合可能な抗菌性モノマーを形成する方法の一実施形態では、本方法は、
a)非対称ポリアクリルアミドを、一置換の非対称ポリアクリルアミドを得るために選択される条件下においてマイケルドナーの存在下で反応させる工程であって、
マイケルドナーはイミダゾールである工程と、
(b)一置換の非対称ポリアクリルアミドモノマーのイミダゾールをイミダゾリウムに転換させて、以下の式:
【化18】
の非対称ポリアクリルアミドを含有する加水分解的に安定かつ水溶性の重合可能な抗菌性モノマーを得る工程であって、
式中、
Mはアリル、アクリルアミドもしくはメタクリルアミド部分であり、
R
1は2~18個の炭素を有する二価の炭化水素ラジカルであり、
R
2は、独立して、同じもしくは異なる、1~4個の炭素を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキレンであり、
Rは4~16個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキルであり、かつ
R
4は1~4個の炭素を有するアルキルまたはR
2Mである
工程と
を含む。
【0069】
非対称ポリアクリルアミドを含有する加水分解的に安定かつ水溶性の重合可能な抗菌性モノマーを形成する方法の特定の実施形態では、非対称ポリアクリルアミドは以下の一般式:
【化19】
の化合物であり、
式中、
Mはアリル、アクリルアミドもしくはメタクリルアミド部分であり、
R
2は、独立して、同じもしくは異なる、1~4個の炭素を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキレンであり、かつ
R
4は1~4個の炭素を有するアルキルまたはR
2Mである。
【0070】
非対称ポリアクリルアミドを含有する加水分解的に安定かつ水溶性の重合可能な抗菌性モノマーを形成する方法の特定の実施形態では、一置換の非対称ポリアクリルアミドモノマーは以下の式:
【化20】
の化合物であり、
式中、
Mはアリル、アクリルアミドもしくはメタクリルアミド部分であり、
R
2は、独立して、同じもしくは異なる、1~4個の炭素を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキレンであり、かつ
R
4は1~4個の炭素を有するアルキルまたはR
2Mである。
【0071】
非対称ポリアクリルアミドを含有する加水分解的に安定かつ水溶性の重合可能な抗菌性モノマーを形成する方法の特定の実施形態では、一置換の非対称ポリアクリルアミドモノマーのイミダゾールをイミダゾリウムに転換させる工程は、一置換の非対称ポリアクリルアミドモノマーをRX(式中、Rは4~16個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐鎖状アルキルであり、かつXは対イオン部分である)と反応させることを含む。
【0072】
具体的な一実施形態では、一置換の非対称ポリアクリルアミドモノマーのイミダゾールをイミダゾリウムに転換させる工程は、以下の反応を含む。
【化21】
【0073】
重合可能な樹脂モノマー
本重合可能な抗菌性ナノゲルの特定の実施形態では、少なくとも1つの(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミド基を有する重合可能な樹脂モノマーは、単官能性、二官能性、三官能性もしくは四官能性モノマーからなる群から選択される。
【0074】
単官能性(メタ)アクリレートモノマーの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートおよびイソボルニル(メタ)アクリレートなどのC1~C20アルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0075】
二官能性(メタ)アクリレートモノマーの例としては、限定されるものではないが、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-[3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ]フェニル]プロパン(Bis-GMA)、2,2-ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル]プロパン、1,2-ビス[3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ]エタン、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、および[2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート(一般にウレタンジメタクリレートまたはUDMAとして知られている)が挙げられる。
【0076】
三官能性(メタ)アクリレートモノマーの例としては、限定されるものではないが、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0077】
四官能性(メタ)アクリレートの例はペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートである。
【0078】
メタクリルアミドモノマーの例としては、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-メチルエチル(メタ)アクリルアミドおよびN,N-メチレン-ビス(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0079】
アクリルアミドモノマーの例としては、限定されるものではないが、N-ブチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミドおよびN,N-ジベンジルアクリルアミドが挙げられる。
【0080】
本明細書に開示されている重合可能な抗菌性ナノゲルの特定の実施形態では、重合可能なモノマーとしては、限定されるものではないが、2,2’-ビス[4-(3-メタクリロキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)-フェニル]プロパン(Bis-GMA)、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(TEGDMA)、ウレタンジメタクリレート(UDMA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、C1~C20アルキル(メタ)アクリレート、芳香族メタクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0081】
本重合可能な抗菌性ナノゲルの一実施形態では、重合可能な抗菌性モノマーの少なくとも1つのエチレン性不飽和基はメタクリレート基であり、かつ重合可能な樹脂モノマーの少なくとも1つの(メタ)アクリレート基は、重合可能な抗菌性モノマーのメタクリレート基と重合可能な樹脂モノマーのメタクリレート基との組み合わせが当該モノマー混合物のモル全体に対して50~90モル%、より好ましくは当該モノマー混合物のモル全体に対して60~80モル%の範囲で存在するようなメタクリレート基である。
【0082】
本重合可能な抗菌性ナノゲルの特定の実施形態では、重合可能な樹脂モノマーはC1~C20アルキル(メタ)アクリレートである。
【0083】
C1~C20アルキル(メタ)アクリレートの例としては、限定されるものではないが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートおよびイソボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0084】
本重合可能な抗菌性ナノゲルのより具体的な実施形態では、C1~C20アルキル(メタ)アクリレートはイソボルニルメタクリレートである。
【0085】
本重合可能な抗菌性ナノゲルの特定の実施形態では、重合可能な樹脂モノマーは芳香族(メタ)アクリレートである。
【0086】
芳香族(メタ)アクリレートの例としては、限定されるものではないが、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンゾイル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-フェニルエチル(メタ)アクリレート、3-フェニルプロピル(メタ)アクリレート、4-フェニルブチル(メタ)アクリレート、4-メチルフェニル(メタ)アクリレート、4-メチルベンジル(メタ)アクリレートおよび2-(4-メトキシフェニル)エチルメタクリレートを挙げることができる。
【0087】
本重合可能な抗菌性ナノゲルのより具体的な実施形態では、芳香族(メタ)アクリレートは、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレートおよびベンゾイル(メタ)アクリレートからなる群から選択される。
【0088】
本重合可能な抗菌性ナノゲルの特定の実施形態では、重合可能な樹脂モノマーは、ヒドロキシルアルキルアクリレート、ヒドロキシルアルキルメタクリレート、ヒドロキシルアルキルアクリルアミドまたはヒドロキシルアルキル(メタ)アクリルアミドである。
【0089】
ヒドロキシアルキルメタクリレートの例としては、限定されるものではないが、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEMA)、ポリエトキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートおよび10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0090】
ヒドロキシアルキルアクリルアミドの例としては、限定されるものではないが、ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル)アクリルアミド、N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミドまたはそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0091】
ヒドロキシルアルキルメタクリルアミドの例としては、限定されるものではないが、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドおよびN,N-ビス-(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミドを挙げることができる。
【0092】
本明細書に開示されている重合可能な抗菌性ナノゲルの特定の実施形態では、連鎖移動剤を含めてもよい。
【0093】
連鎖移動剤を使用して、マクロゲル形成を遅らせる、より短いポリマー鎖を得てもよい。連鎖移動剤は、プロピルメルカプタン、ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、1-ドデカンチオール、メルカプトエタノールおよびそれらの組み合わせなどの様々なチオール化合物から選択されてもよい。
【0094】
本重合可能な抗菌性ナノゲルの特定の一実施形態では、連鎖移動剤は1-ドデカンチオールであってもよい。
【0095】
連鎖移動剤の量は、当該モノマー混合物中の(メタ)アクリレート全体の10~50%(モル/モル)で存在してもよい。特定の一実施形態では、連鎖移動剤の量は当該モノマー混合物中のエチレン性不飽和基全体の25~35%(モル/モル)で存在してもよい。
【0096】
本重合可能な抗菌性ナノゲルの特定の実施形態では、開始剤を含めてもよい。
【0097】
当該モノマーの重合はアゾ化合物または有機過酸化物などの熱開始剤の熱的に誘導される分解によって開始してもよい。
【0098】
一実施形態では、アゾ開始剤は、アゾビス(イソブチロニトリル)、アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)である。特定の一実施形態では、開始剤はアゾビス(イソブチロニトリル)である。
【0099】
一実施形態では、有機過酸化物はジクミルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、tert-ブチルペルオキシベンゾエート、tert-ブチルペルオキシネオデカノエート、tert-ブチルペルオキシピバレート、tert-ブチルペルオキシイソブチレート、イソノナノイルペルオキシド(Cat K)、ジデカノイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ジミリスチルペルオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネートおよびジセチルペルオキシジカーボネートからなる群から選択されてもよい。
【0100】
また当該モノマーの重合はレドックス開始剤系により開始してもよい。
【0101】
一実施形態では、レドックス開始剤はベンゾイルペルオキシドと第三級アミンであってもよく、例えばベンゾイルペルオキシドと4-N,N’-ジメチルアミノ安息香酸エチル(EDAB)、過酸化水素と第一鉄塩、メタ重亜硫酸ナトリウムなどの他の還元剤を含む過硫酸塩(過硫酸カリウム)と過酸化物(t―ブチルヒドロペルオキシド)開始剤もレドックス開始剤系として使用してもよい。さらにアルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、酸、アミンおよびアミドのような数多くの還元剤を、フリーラジカル重合のために一般に単電子移動反応に関与するための酸化金属イオンと組み合わせて使用してもよい。主にこの目的のために使用される金属イオンは、Mn(III)(およびMn(VII))、Ce(IV)、V(V)、Co(III)、Cr(VI)およびFe(III)からなる群から選択される。
【0102】
熱開始剤は当該モノマー混合物中の(メタクリレート)全体の0.01~7%w/w、より具体的には当該モノマー混合物のエチレン性不飽和基全体の0.2~5%w/w、より具体的には0.5~2.0%w/wの量で存在してもよい。
【0103】
本開示の一態様には、本重合可能な抗菌性ナノゲルを調製する方法について記載されている。
【0104】
重合性の抗菌性ナノゲルは、レドックス開始剤系および周囲温度での光誘導ラジカル重合または正確な温度制御を有するマイクロ波合成によって調製してもよい。
【0105】
一実施形態では、重合性の抗菌性ナノゲルは正確な温度制御を有するマイクロ波反応器内で調製してもよい。一実施形態では、当該モノマーを100℃の温度で混合する。
【0106】
イミダゾリウム、ピリジニウム、アンモニウムもしくはスルホニウム基のうちの少なくとも1つおよび少なくとも1つの(メタ)アクリレート基を有する重合可能な抗菌性モノマー、少なくとも1つの(メタ)アクリレートもしくは(メタ)アクリルアミド基を有する少なくとも1種の重合可能な樹脂モノマー、少なくとも1種の連鎖移動剤および開始剤の混合物を溶媒の存在下でマイクロ波反応器の中に置いた。
【0107】
本抗菌性ナノゲルの調製で使用される溶媒は不活性溶媒でなければならない。好適な溶媒はモノマーが溶解するもの、例えばメチルエチルケトンまたはジメチルスルホキシドなどの双極性非プロトン性溶媒、アセトン、2-ブタノンまたはシクロヘキサノンなどのケトン、トルエンおよびキシレンなどの炭化水素、ジオキサンまたはテトラヒドロフランなどのエーテルである。一態様では、特定のナノゲル調製物は別のものよりも効率的に調製することができる。例えば本ナノゲルの向上した溶解性はトルエンではなくメチルエチルケトン中で達成され(表3を参照)、それは樹脂マトリックス中でのそのようなナノゲルの再分散性にとって重大である。
【0108】
反応温度は例えば65℃~85℃などの20~120℃であってもよい。反応時間は約5~15分の範囲であってもよい。
【0109】
歯科用組成物:樹脂モノマー、セメント、接着剤、複合製剤への添加剤
本明細書に開示されている歯科用組成物は、(a)重合可能な抗菌性ナノゲル、(b)重合可能な樹脂、(c)開始剤、(d)充填剤粒子、(e)安定化剤および(f)他の添加剤からなっていてもよい。
【0110】
歯科用組成物の一実施形態では、本重合可能な抗菌性ナノゲルは歯科用組成物の0.5重量%~約90重量%の量で存在してもよい。
【0111】
重合可能な樹脂
歯科用組成物の一実施形態では、重合可能な樹脂は歯科用組成物の10重量%~約95重量%の量で存在してもよい。
【0112】
重合可能な樹脂は、アクリレート、メタクリレート、エチレン性不飽和化合物、カルボキシル基含有不飽和モノマー、(メタ)アクリル酸のC2~8ヒドロキシルアルキルエステル、(メタ)アクリル酸のC1~24アルキルエステルまたはシクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸のC2~18アルコキシアルキルエステル、オレフィンまたはジエン化合物、モノエステル/ジエステル、モノエーテル、付加物、TPH樹脂、SDR樹脂および/またはBPA非含有樹脂からなる群から選択されてもよい。
【0113】
具体的なアクリレート樹脂の例としては、限定されるものではないが、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、グリシジルアクリレート、グリセロールモノおよびジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、モノ、ジ、トリアクリレート、ペンタエリスリトールのモノ、ジ、トリおよびテトラアクリレートおよびジペンタエリスリトール、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、2,2’-ビス[3(4-フェノキシ)-2-ヒドロキシプロパン-1-アクリレート]プロパン、2,2’-ビス(4-アクリロキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス[4(2-ヒドロキシ-3-アクリロキシ-フェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、ならびにジペンタエリスリトールペンタアクリレートエステルが挙げられる。
【0114】
具体的な従来のメタクリレート樹脂の例としては、限定されるものではないが、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ビスフェノールA(2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロポキシ)フェニル]プロパン)のジグリシジルメタクリレート(Bis-GMA)、グリセロールモノおよびジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールおよびジペンタエリスリトールのモノ、ジ、トリおよびテトラメタクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ホスフェート(Bis-MEP)、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、2,2’-ビス(4-メタクリロキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス[4(2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシ-フェニル)]プロパン、2,2’-ビス(4-メタクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-メタクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、ならびに2,2’-ビス[3(4-フェノキシ)-2-ヒドロキシプロパン-1-メタクリレート]プロパンを挙げることができる。
【0115】
エチレン性不飽和化合物の例としては、限定されるものではないが、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性アクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性メタクリル酸エステル、ハロゲンおよびヒドロキシ含有メタクリル酸エステルおよびそれらの組み合わせを挙げることができる。そのようなフリーラジカル重合可能な化合物としては、n-、-、sec-もしくはt-ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、アリル(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,2,4-ブタントリオールトリ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ビス[1-(2-アクリロキシ)]-p-エトキシフェニルジメチルメタン、ビス[1-(3-アクリロキシ-2-ヒドロキシ)]-p-プロポキシフェニルジメチルメタン、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリスヒドロキシエチル-イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、メチレンビス-(メタ)アクリルアミドおよびジアセトン(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド(すなわち、アクリルアミドおよびメタクリルアミド)、ウレタン(メタ)アクリレート、ウレタン改質Bis-GMAジメタクリレート樹脂、ポリエチレングリコールのビス-(メタ)アクリレートならびに塩素、臭素、フッ素およびヒドロキシル基含有モノマー、例えば3-クロロ-2-ヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0116】
カルボキシル基含有不飽和モノマーの例としては、限定されるものではないが、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸およびフマル酸などを挙げることができる。
【0117】
(メタ)アクリル酸のC2~8ヒドロキシルアルキルエステルの例としては、限定されるものではないが、2-ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートおよびヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0118】
(メタ)アクリル酸のC2~18アルコキシアルキルエステルの例としては、限定されるものではないが、メトキシブチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレートおよびエトキシブチルメタクリレートを挙げることができる。
【0119】
オレフィンまたはジエン化合物としては、限定されるものではないが、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブテン、イソプレン、クロロプロペン、フッ素含有オレフィンおよび塩化ビニルを挙げることができる。
【0120】
モノエステルの例としては、ポリエーテルポリオール(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールまたはポリブチレングリコール)と不飽和カルボン酸(好ましくはメタクリル酸)とのモノエステル、酸無水物基含有不飽和化合物(例えば、無水マレイン酸またはイタコン酸無水物)とグリコール(例えば、エチレングリコール、1,6-ヘキサンジオールまたはネオペンチルグリコール)とのモノエステルまたはジエステルを挙げることができる。
【0121】
モノエーテルの例としては、ポリエーテルポリオール(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールまたはポリブチレングリコール)とヒドロキシル基含有不飽和モノマー(例えば、2-ヒドロキシルメタクリレート)とのモノエーテルを挙げることができる。
【0122】
付加物の例としては、限定されるものではないが、不飽和カルボン酸とモノエポキシ化合物との付加物、グリシジル(メタ)アクリレート(好ましくはメタクリレート)と一塩基酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、p-t-ブチル安息香酸または脂肪酸)との付加物を挙げることができる。
【0123】
開始剤
ラジカル重合などの連鎖重合では開始剤を使用して熱または光による開始を調節することが多い。
【0124】
熱重合開始剤は熱に曝露するとラジカルまたはカチオンを生成する化合物である。例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)などのアゾ化合物およびベンゾイルペルオキシド(BPO)などの有機過酸化物は周知の熱ラジカル開始剤であり、ベンゼンスルホン酸エステルおよびアルキルスルホニウム塩が熱カチオン開始剤として開発されている。有機および無機化合物を使用して重合を開始するラジカルを生成することができる。ラジカルは熱または周囲の酸化還元条件により生成してもよい。いくつかの開始剤の分解速度はpHおよびアミンの存在により変わる。
【0125】
さらなるフリーラジカル開始剤としては有機光開始剤を挙げることができる。好適な光開始剤としてはI型およびII型が挙げられる。それらは独立して、あるいは異なる光開始剤+さらなる共開始剤の混合物として使用することができる。好適な光増感剤としては、カンファーキノン、ベンジル、フリル、3,3,6,6-テトラメチルシクロヘキサンジオン、フェナントラキノンおよび他の環式α-ジケトンなどの約300nm~約800nm(約400nm~約500nmなど)の範囲内の一部の光を吸収するモノケトンおよびジケトン(例えばα-ジケトン)を挙げることができる。いくつかの実施形態では、開始剤はカンファーキノンである。電子ドナー化合物の例としては、促進剤としての置換アミン、例えば4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチルが挙げられる。
【0126】
フリーラジカル光重合可能な組成物を重合させるための他の好適な光開始剤としては、典型的には約380nm~約1200nmの機能的波長範囲を有するホスフィンオキシドのクラスを挙げることができる。いくつかの実施形態では、約380nm~約450nmの機能的波長範囲を有するホスフィンオキシドフリーラジカル開始剤はアシルおよびビスアシルホスフィンオキシドである。
【0127】
約380nm~約450nm超の波長範囲で照射した場合にフリーラジカル反応を開始することができる市販されているホスフィンオキシド光開始剤としては、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IRGACURE 184)、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(IRGACURE 651)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IRGACURE 819)、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(IRGACURE 2959)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタノン(IRGACURE 369)、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン(IRGACURE 907)、および2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(DAROCUR 1173)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IRGACURE 819)、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィンオキシド(CGI 403)、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシドと2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンとの25:75(重量で)混合物(IRGACURE 1700)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドと2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンとの1:1(重量で)混合物(DAROCUR 4265)、および2,4,6-トリメチルベンジルフェニルホスフィン酸エチル(LUCIRIN LR8893X)を挙げることができる。
【0128】
歯科用組成物の一実施形態では、開始剤は歯科用組成物の0.001重量%~約5重量%の量で存在してもよい。
【0129】
充填剤
本開示の歯科用組成物は充填剤を含んでいてもよい。
【0130】
好適な充填剤粒子の例としては、限定されるものではないが、ケイ酸ストロンチウム、ホウケイ酸ストロンチウム、ケイ酸バリウム、ホウケイ酸バリウム、フルオロアルミノホウケイ酸バリウムガラス、アルミノホウケイ酸バリウム、ケイ酸カルシウム、カルシウムアルミノナトリウムフルオロリンケイ酸、ケイ酸ランタン、ケイ酸アルミノおよび上記充填剤の少なくとも1つを含む組み合わせが挙げられる。充填剤粒子は、窒化ケイ素、二酸化チタン、フュームドシリカ、コロイド状シリカ、石英、カオリンセラミックス、カルシウムヒドロキシアパタイト、ジルコニアおよびそれらの混合物をさらに含んでもよい。フュームドシリカの例としては、DeGussa社製のOX-50(40nmの平均粒径を有する)、DeGussa社製のAerosil R-972(16nmの平均粒径を有する)、DeGussa社製のAerosil 9200(20nmの平均粒径を有する)、Aerosil 90、Aerosil 150、Aerosil 200、Aerosil 300、Aerosil 380、Aerosil R711、Aerosil R7200およびAerosil R8200などの他のAerosilフュームドシリカならびにCabot社製のCab-O-Sil M5、Cab-O-Sil TS-720、Cab-O-Sil TS-610が挙げられる。
【0131】
本明細書に開示されている組成物に使用される充填剤粒子は有機化合物と混合する前に表面処理されていてもよい。シランカップリング剤または他の化合物を用いる表面処理は、充填剤粒子を有機樹脂マトリックス中により均一に分散させるのを可能にし、かつ物理的および機械的性質も向上させるため有益である。好適なシランカップリング剤としては、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン、スチリルエチルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランおよびそれらの混合物が挙げられる。
【0132】
充填剤粒子は約0.002ミクロン~約25ミクロンの粒径を有していてもよい。一実施形態では、充填剤はフルオロアルミノホウケイ酸バリウムガラス(BAFG、約1ミクロンの平均粒径を有する)などのミクロンサイズのX線不透過性充填剤とDeGussa社製のOX-50(約40nmの平均粒径を有する)などのフュームドシリカなどのナノ充填剤粒子との混合物を含んでもよい。ミクロンサイズのガラス粒子の濃度は抗菌性歯科用組成物の約50重量%~約75重量%の範囲であってもよく、ナノサイズ充填剤粒子は抗菌性歯科用組成物の約1重量%~約20重量%の範囲であってもよい。
【0133】
本開示の歯科用組成物は複合材であってもよく、かつ約30~約90重量%の量で充填剤材料を含んでいてもよい。
【0134】
本開示の歯科用組成物は接着剤であってもよく、かつ約50~約65重量%の量で充填剤を含んでいてもよい。
【0135】
本開示の歯科用組成物はシーラントであってもよく、かつ約10~約50重量%の量で充填剤を含んでいてもよい。
【0136】
本開示に係る歯科用組成物はセメントであってもよく、かつ約50~約90重量%の量で充填剤を含んでいてもよい。
【0137】
充填剤は、抗菌性歯科用組成物の約45重量%~約85重量%または約60重量%~約80重量%などの、抗菌性歯科用組成物の約40重量%~約85重量%の量で存在してもよい。
【0138】
製剤化された組成物には、紫外線安定化剤、蛍光剤、乳白剤(opalescent agent)、顔料、粘度調整剤、フッ化物放出剤および重合阻害剤などのさらなる添加剤が任意に含められるであろう。フリーラジカル系のための典型的な重合阻害剤としては、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、第三級ブチルヒドロキノン(TBHQ)、ヒドロキノン、フェノールおよびブチルヒドロキシアニリンなどを挙げることができる。阻害剤は当該組成物中のフリーラジカルを捕捉し、かつ当該組成物の貯蔵寿命安定性を引き延ばすためのフリーラジカルスカベンジャーとして機能する。重合阻害剤は、存在する場合、抗菌性歯科用組成物の約0.005重量%~約1.1重量%または約0.01重量%~約0.08重量%などの、抗菌性歯科用組成物の約0.001重量%~約1.5重量%の量で存在してもよい。当該組成物は1種以上の重合阻害剤を含んでいてもよい。
【0139】
歯科用複合材としてのナノゲルの使用
抗菌性ナノゲル改質された樹脂マトリックスと充填剤粒子とを混合することにより抗菌性歯科用複合材を製剤化してもよい。
【0140】
抗菌性歯科用複合材の特定の実施形態では、抗菌性ナノゲル改質された樹脂マトリックスは、重合可能な抗菌性ナノゲル、重合可能な樹脂、開始剤および安定化剤を含む。本重合可能な抗菌性ナノゲルは、イミダゾリウム、ピリジニウム、アンモニウムもしくはスルホニウム基のうちの少なくとも1つおよび少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する重合可能な抗菌性モノマー、少なくとも1つの(メタ)アクリレートもしくは(メタ)アクリルアミド基を有する少なくとも1種の重合可能な樹脂モノマー、少なくとも1種の連鎖移動剤および開始剤を含む混合物から得てもよい。
【0141】
抗菌性歯科用複合材の一実施形態では、抗細菌性ナノゲル改質された樹脂マトリックスは、当該複合材の総重量に対して0.5~10.0重量%の濃度で、当該複合材の総重量に対して0.8~7重量%の濃度または1~3重量%の濃度で当該複合材中に存在する。
【0142】
本明細書に開示されている抗菌性歯科用複合材組成物は、歯科用組成物に使用するのに好適な1種以上の充填剤粒子をさらに含む。充填剤粒子は本明細書に記載されている組成物には重大な成分である。本明細書に記載されている組成物に使用するのに好適な充填剤は、当該複合材に高い強度、弾性率、硬度、低い熱膨張および重合収縮などの所望の物理的および硬化特性を与え、かつ貯蔵または輸送中ならびに予定していた貯蔵寿命に達する前に組成物中で樹脂マトリックスの有機化合物のいずれかにより充填剤粒子間で有害反応が生じないような安定な貯蔵寿命も与える。
【0143】
好適な充填剤粒子の例としては、限定されるものではないが、BABG/999117、EG9726/907645、Can-O-Sil TS720/431350、ケイ酸ストロンチウム、ホウケイ酸ストロンチウム、ケイ酸バリウム、ホウケイ酸バリウム、フルオロアルミノホウケイ酸バリウムガラス、アルミノホウケイ酸バリウム、ケイ酸カルシウム、カルシウムアルミノナトリウムフルオロリンケイ酸、ケイ酸ランタン、ケイ酸アルミノおよび上記充填剤の少なくとも1つを含む組み合わせが挙げられる。充填剤粒子は窒化ケイ素、二酸化チタン、フュームドシリカ、コロイド状シリカ、石英、カオリンセラミックス、カルシウムヒドロキシアパタイト、ジルコニアおよびそれらの混合物をさらに含んでもよい。フュームドシリカの例としては、DeGussa社製のOX-50(40nmの平均粒径を有する)、DeGussa社製のAerosil R-972(16nmの平均粒径を有する)、DeGussa社製のAerosil 9200(20nmの平均粒径を有する)、Aerosil 90、Aerosil 150、Aerosil 200、Aerosil 300、Aerosil 380、Aerosil R711、Aerosil R7200およびAerosil R8200などの他のAerosilフュームドシリカならびにCabot社製のCab-O-Sil M5、Cab-O-Sil TS-720、Cab-O-Sil TS-610が挙げられる。
【0144】
充填剤粒子は約10nm~約50ミクロンの粒径を有していてもよい。
【0145】
抗菌性歯科用複合材の一実施形態では、充填剤粒子は当該複合材の総重量に対して約30重量%~約70重量%または約75~約95重量%などの、当該複合材の総重量に対して約20重量%~約95重量%の濃度で存在してもよい。
【0146】
抗菌性歯科用複合材の特定の実施形態では、抗菌性ナノゲル改質された樹脂マトリックスは、約0.5重量%~約10重量%の本重合可能な抗菌性ナノゲル、約10重量%~約95重量%の重合可能な樹脂および約0.001重量%~約5重量%の光開始剤または熱/レドックス開始剤の少なくとも1つを含む。
【0147】
抗菌性歯科用複合材の特定の実施形態では、安定化剤はブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を含む。
【0148】
抗菌性歯科用複合材の特定の実施形態では、光開始剤はカンファーキノン/EDABを含む。
【0149】
本開示の実施形態は、抗菌性樹脂組成物ZL1-077、TPH樹脂/999446などの重合可能な樹脂、カンファーキノン、EDABおよびBHTからなっていてもよい抗菌性樹脂マトリックスを提供する。
【実施例】
【0150】
実験手順
以下の略語を使用する場合がある。
UDMA:ジ(メタクリロキシエチル)トリメチル-1,6-ヘキサエチレンジウレタン
【化22】
IBMA:イソボルニルメタクリレート
【化23】
POEMA:2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート
HEMA:ヒドロキシルエチルメタクリレート
E-BPAD:
【化24】
FFM3:
【化25】
XJ10-123:
【化26】
ABR-CまたはXJ9-28:
【化27】
ABR-EまたはXJ8-160:
【化28】
ABR-HS3/XJ10-118
【化29】
【0151】
実験方法:
NMR分析:300MHzのNMR(Varian社)を使用して構造を解明し、かつ反応処理を監視した。
【0152】
ISO4049に従って曲げ強度および弾性率を試験し、片側のみの各スポットについて、800mw/cm2で20秒間の13mmの光ガイドを備えたSpectrum 800を用いた3回の重なり合ったスポット硬化により2×2×25mmの試料を硬化させた。硬化させた試料(6~10)を脱イオン水中に入れ、37℃で24時間貯蔵し、次いで室温での試験前にやすりをかけた。
【0153】
ISO4049が圧縮強度について明記していないため、実際には水性セメントに関するISO9917に従って圧縮強度および弾性率を試験した。φ4×6mmのガラスを試料の調製(6)のための型として使用する。それをそれぞれ20秒で上および下の両方から800mw/cm2のSpectrum 800により硬化させた。硬化させた試料(6~10)を脱イオン水中に入れ、37℃で24時間貯蔵し、次いで室温での試験前にやすりをかけた。
【0154】
硬化の前後での密度の変化から重合収縮を計算し、これを室温でヘリウムピクノメーターにより測定した。この試験では新しいKN/CK収縮試験プロトコルに従い、φ10×2mmのテフロン型からの3つの丸い円板試料を使用した。それをマイラーフィルム間でプレスし、かつそれぞれ上側および下側から800mw/cm2で20秒間Spectrum 800を用いて硬化させた。硬化させた試料を密度の測定前に2~3時間または24時間室温で貯蔵した。
【0155】
NIST/ADAのテンションメーターにより収縮応力を測定した。2.25mmの厚さを有する試料(1.33のcファクター)を550mw/cm2でDENTSPLY/Cauk社のQHLライトで60秒間硬化させた。60分後の総応力を使用して異なる材料をランク付けした。
【0156】
Thermo Scientific社のEvolution160 UV-Vis分光計を用いてUV-Vis分光法を行った。25~200ミクロンの薄いフィルムを特別に作製したステージを有する溶融シリカプレート上に直接流延した。
【0157】
加水分解的に安定な重合可能な樹脂(XJ10-123)の合成手順
モノイミダゾール-ビスアクリルアミド(XJ10-123/スキーム1)を以下に記載されているように一段階溶解法により非対称トリスアクリルアミド(FFM3)から調製した。
【0158】
機械撹拌器を備えた500ml三つ口丸底フラスコの中に、40.20g(0.1515モル)の非対称トリスアクリルアミド(FFM3、Fujifilm社製)を充填した。次いで、180gのメタノールおよび10.60gのイミダゾールをフラスコに添加した。全ての反応物が完全に溶解するまで反応混合物を撹拌した。その反応を室温の油浴中で19時間進行させた(アクリルアミドへのイミダゾール添加として)。0.155gの1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)を触媒として添加した。反応温度を40~50℃に上昇させ、かつ40~50℃でさらに2週間維持した。その反応を完了までNMRにより監視した。反応の完了後に、その生成物を二塩化メチレン中での炭酸カリウム水溶液による多回抽出により精製してXJ10-123を得た。NMRによりXJ10-123の構造を確認した(
図4)。その生成物をC13 NMRでも特性評価した(
図5)。
【0159】
加水分解的に安定なイミダゾリウムベースのモノマー(XJ10-118)の合成手順
加水分解的に安定な抗菌性モノマー(ABR-HS3、XJ10-118、スキーム3)をE-BPADのイミダゾール誘導体(モノイミダゾール-モノアクリルアミド、ABR-HS2、スキーム2)から調製することに成功した。
【0160】
モノイミダゾール-モノアクリルアミドすなわちABR-HS2は以下のとおり容易に調製することができた。非対称ビスアクリルアミドすなわちE-BPADをMCAT社製のn-エチル-プロピルジアミンおよび塩化アクリロイルから(スキーム4に示されているように)調製した。NMR分析によりその構造を確認した。
【化30】
【0161】
驚くべきことに、N-置換アクリルアミドへのマイケルドナーの優先的付加により高選択的マイケル付加を容易に達成できることを発見した。N-非置換アクリルアミドに対しては非常に少ない付加が生じる。例えばE-BPADをイミダゾールと反応させて、スキーム2に示されているようにモノイミダゾール-モノアクリルアミドを形成し、そこからモノイミダゾリウムベースのモノアクリルアミド(ABR-HS3)(スキーム3)をそれに応じて調製した。
【0162】
機械撹拌器を備えた250mlの三つ口丸底フラスコの中に21.039g(0.102モル)の非対称ビスアクリルアミド(E-BPAD、MCAT社製)を充填した。7.09gの粉砕イミダゾールをフラスコに添加した。全ての反応物が室温で完全に溶解して均質な液体になるまで反応混合物を撹拌した。その反応を室温での油浴中で90分間進行させた(アクリルアミドへのイミダゾール付加として)。0.094gの1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン(DBU)を触媒として添加した。反応温度を40~50℃に上昇させ、さらに5週間40~50℃に維持した。その反応を完了までNMRにより監視した。29.9gの1-ブロモドデカンをフラスコの中に添加して、40℃で3日間の次の工程反応に直接進行させた後にそれを止めた。室温に冷却し、かつ100gのヘキサンを反応混合物に添加することによりその反応を終了させた。ヘキサン溶液部分をデカントし、アセトンを残留物に添加した。この溶液から結晶が形成された。結晶を濾過し、乾燥させ、次いでアセトンから再結晶化させた。NMRによりXJ10-118の構造を確認し(
図7)、HPLCにより94%のその純度を確認した。13C NMRでもXJ10-118の構造を確認した(
図6)。
【0163】
マイクロ波反応器:Biotage Initiator plusを、アルミニウムクリンプトップに嵌め込まれるテフロンセプタムで蓋をすることにより密閉された25mlのバイアル中での可変な樹脂組成を有する抗菌性ナノゲルの合成のために使用した。反応温度は100℃に設定し、反応時間はそれぞれ5分、10分または15分に設定した。マイクロ波吸収レベルはあらゆるABR-C組成物のために高く設定した。得られた溶液を200mlのヘキサン中で直接沈殿させた。溶媒をデカントすることにより当該ナノゲルを単離した。単離したナノゲルを二塩化メチレンに再び溶解し、ロータリーエバポレーターよりそれを除去した。次いで最終ナノゲルをさらに8時間真空乾燥した。
【0164】
バッチ反応(従来の熱プロセス):イソボルニルメタクリレート(IBMA)およびウレタンジメタクリレート(UDMA)の溶液共重合(70/30のモル比)を、連鎖移動剤としての20モル%のメルカプトエタノール(ME)および20モル%の1-ドデカンチオール(DDT)を用いて行った。熱重合は75~80℃でそれぞれ2-ブタノン(MEK)またはトルエン中に1wt%の2,2-アゾビスイソブチロニトリルを使用した。2-イソシアナトエチルメタクリレート(IEM)との反応によりメタクリレート官能基をナノ粒子に再導入することができ、このようにして反応性ナノゲルが得られた。
【0165】
UDMA/POEMAは当該ナノゲル中に30/70(モル/モル)として存在し、開始剤としてのAIBNおよび連鎖移動剤としてのDDTも当該ナノゲル中に添加する(
図1)。
【0166】
UDMA/IBMAおよび/またはUDMA/POEMAをベースとしたナノゲルの様々な実験室バッチを再現することに成功したが、一貫して50~70%のより低い収率が達成され、表1および表2の実施例を参照されたい。さらに溶媒除去プロセス中に僅かなマクロゲルが当該ナノゲルと共に形成されることがあったが、初期の沈殿されたナノゲルは完全に溶解することができることが判明した。そのようなマクロゲルの存在は製剤化された樹脂混合物中に生じるあらゆるナノゲルの収率および溶解に悪影響を与えると思われる。
【表1】
【表2】
【0167】
従って、そのようなプロセスからのナノゲルの収率を高めるための努力を行った。さらに、特にUDMA/IBMAをベースとしたナノゲルをマイクロ波支援プロセスにより調製し、これにより収率に対する組成の効果の素早い評価が可能になる。例えば60分の従来の反応時間と比較して、マイクロ波反応器において反応を5~10分で完了させることができ、僅かにより高い収率も達成することができた。
【0168】
驚くべきことに、表1に示すように当該ナノゲルのモノマーがN荷電モノマーすなわちXJ8-160からなる場合に、ナノゲルの最も高い収率が達成されることが分かった。さらに研究により、UDMAを置き換えるためのジメタクリレートまたはIBMAを置き換えるためのモノメタクリレートのいずれかとしてのそのような荷電モノマーの独特な影響により、表1に示されている90%超の高い収率を得ることができることを確認し、これをさらなる反応から確認した(表3を参照)。
【表3】
【0169】
さらにこの研究の別の目的は、新しく開発された重合可能な抗菌性樹脂であるABR-Cをナノゲルの中に組み込むことにより抗菌性ナノゲルを調製する実現可能性を調査することにあった。従って、UDMA/IBMA(実施例19、実施例21、実施例22、実施例23および実施例24を参照)、UDMA/POEMA(実施例27、実施例28および実施例29を参照)、ABR-C/IBMA(実施例43、実施例44および実施例45を参照)、ABR-C/POEMA(実施例33、実施例35、実施例36、実施例37、実施例38、実施例39および実施例40を参照)などの様々なナノゲルをマイクロ波プロセスにより調製した(表3に示されている)。
【0170】
モノメタクリレートIBMAをPOEMAに変更することにより、より高い収率を容易に得ることができた。さらにジメタクリレートUDMAをABR-C(抗菌性ジメタクリレート樹脂)に変更した場合、特にそれがPOEMAと共重合されている場合により高い収率が得られる。表3の実施例によって実証されているように、MEK中のABR-C/POEMA(30/70)は、MEK中のABR-C/IBMAの58~62%およびトルエン中のABR-C/IBMAの51~65%とそれぞれ比較して68~95%のより高い収率を与える。
【0171】
ABR-Cおよび他のコモノマー樹脂をベースとした抗菌性ナノゲルを、ABR-CとPOEMAまたはIBMAとを共重合させることによりマイクロ波反応器において合成した。51~66%のUDMA/IBMA(30/70、実施例25および実施例26)に対してABR-C/POEMA(30/70、実施例40)またはABR-C/IBMA(30/70、実施例30)では68~95%の向上した収率が達成された。さらにトルエンではなくMEK中でそのようなナノゲル系の向上した溶解性が達成され、これは樹脂マトリックス中でのそのようなナノゲルのその自己再分散性にとって重大であった。
【0172】
そのようなN荷電モノマーを組み込むことにより収率の向上が達成されたが、異なる重合可能なイミダゾリウム樹脂、ジメタクリレート(XJ9-28)およびモノメタクリレート(XJ8-160)からなる新しいクラスのナノゲルをマイクロ波プロセスにより調製することに成功した。2種類の「荷電」ナノゲルによって際立ったレオロジー特性が実証された。
【表4】
【0173】
ナノゲル/ZL1-077(トルエン溶液から調製した実施例36)およびナノゲル/ZL1-111(MEKから調製した実施例40)を従来のTPH樹脂と共に製剤化し(複合材実施例3に対して実施例46)、次いでそれらを複合材ペースト(55%~70%の異なる充填剤負荷を有する複合材実施例1、複合材実施例2、複合材実施例3および複合材実施例4)(表7および表8を参照)にそれぞれ製剤化した。
図2および
図3に示されているように黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を試験した。明らかに、複合材実施例1および2ならびに複合材実施例3および4はどちらも対照の中性の複合材と比較して強い抗菌活性を実証することができた。
【表5】
【0174】
さらに、新しい抗菌性複合材である複合材実施例1および2をそのような抗菌性ナノゲル(実施例36)からそれぞれ72%および55%の充填剤と共に製剤化した。実施例36はTPH樹脂への溶解性が限られていることが分かった。実施例36の場合の13.85%wt/wtの負荷レベルであってもより長い混合時間が必要とされ、そのような抗菌性ナノゲルのTPH樹脂マトリックスからのさらなる相分離を回避するために、即時の複合材化合物プロセスを行った。適度な機械的性質が得られたが、24時間接触試験により非常に有効な抗菌活性が確認され、ここでは>99.9997%の黄色ブドウ球菌を死滅させた。驚くべきことに、複合材実施例2は複合材実施例1よりも黄色ブドウ球菌の死滅にあまり有効でないようにみえ、これはその限られた溶解性によるTPH樹脂中での実施例36の一貫していない分散に起因していると思われた。従って同様の複合材である複合材実施例3および複合材実施例4を、MEKで調製したABR-C/POEMA(30/70)ナノゲル(実施例40)を用いて、活性化された樹脂実施例47の同じバッチから製剤化した。実際には抗菌活性試験によって実証されているように、一貫し、かつ非常に有効な抗菌効果が得られ、>99.99989%の黄色ブドウ球菌を死滅させた。
【表6】
【表7】
【表8】
【0175】
増加した水吸収により適度な機械的性質が得られたが、24時間の接触試験によって非常に有効な抗菌活性が明らかに実証され、ここでは複合材実施例1および複合材実施例2の場合に>99.9997%の黄色ブドウ球菌を死滅させた。さらに重要なことには、一貫し、かつ非常に有効な抗菌効果によって明らかなように、MEKで調製したそのようなナノゲルの向上した溶解性により樹脂マトリックス中で良好な分散が生じ、複合材実施例3および複合材実施例4の場合に>99.99989%の黄色ブドウ球菌を死滅させた。
【0176】
1つ以上の実施形態を参照しながら本開示について説明してきたが、本開示の範囲から逸脱することなく様々な変更をなすことができ、かつそれらの要素の代わりに均等物を使用できることが当業者によって理解されるであろう。さらに特定の状況または材料を本開示の教示に適応させるために、その本質的な範囲から逸脱することなく多くの修飾をなすことができる。従って、本開示は本開示を実施するために考えらえる最良の実施形態として開示されている特定の実施形態に限定されず、かつ本開示は添付の特許請求の範囲に含まれる全ての実施形態を含むことが意図されている。さらに、詳細な説明において特定されている全ての数値は、正確な値および近似値の両方が明示的に特定されているかのように解釈されるものとする。