(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】ニッケル粒子およびその利用
(51)【国際特許分類】
B22F 1/102 20220101AFI20241022BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20241022BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20241022BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20241022BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20241022BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20241022BHJP
H01B 5/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
B22F1/102
B22F1/00 M
B22F9/00 B
C22C1/04 B
H01B1/00 E
H01B1/22 A
H01B5/00 E
(21)【出願番号】P 2022046168
(22)【出願日】2022-03-23
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】角田 航介
(72)【発明者】
【氏名】スリヤマス アデイ バグス
(72)【発明者】
【氏名】櫻場 俊徳
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-072091(JP,A)
【文献】特開2017-179551(JP,A)
【文献】特開2021-031738(JP,A)
【文献】国際公開第2017/204238(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0172767(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00,1/102,9/00
C22C 1/04
H01B 1/00,1/22,5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを主構成元素とするニッケル粒子であって、
前記ニッケル粒子の表面には、アミン化合物と、ニトリル化合物および/またはアミド化合物と、が付着しており、
ここで、GCMS分析に基づく、前記アミン化合物と、前記ニトリル化合物および/または前記アミド化合物と、の全重量を100重量%としたとき、前記アミン化合物は40重量%以上
65重量%以下付着している、ニッケル粒子。
【請求項2】
前記ニッケル粒子のCV値は0.2以下である、請求項1に記載のニッケル粒子。
【請求項3】
前記ニッケル粒子の平均粒子径は150nm以下である、請求項1または2に記載のニッケル粒子。
【請求項4】
前記ニッケル粒子の表面には、2種類以上のアミン化合物が付着している、請求項1~3のいずれか一項に記載のニッケル粒子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のニッケル粒子を含む、粉体材料。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載のニッケル粒子と、
該ニッケル粒子を分散させる媒体と、
を含む、導電性ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ニッケル粒子およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品(例えば、積層セラミックコンデンサ:MLCC)のさらなる小型化が要求されている。例えば、MLCCの小型化に際しては、該MLCCが備える内部電極を薄層化する必要があり、かかる内部電極の形成に用いられる導電性ペーストは、粒径の小さな(典型的には、平均粒子径が150nm以下程度の)導電性粒子を含むことが好ましいとされている。下記特許文献1では、MLCCの内部電極形成用の導電性ペーストに好適に用いられるニッケル粒子に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者の検討によると、上述したような粒径の小さなニッケル粒子を含む導電性ペーストにおいて、該導電性ペースト中のニッケル粒子どうしが凝集し易いことが分かった。したがって、かかる構成の導電性ペーストにおいて、ニッケル粒子の分散性のさらなる向上が要求されている。
【0005】
本開示は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、導電性ペーストの分散性を好適に向上させることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を実現するべく、本開示は、ニッケルを主構成元素とするニッケル粒子を提供する。上記ニッケル粒子の表面には、アミン化合物と、ニトリル化合物および/またはアミド化合物と、が付着しており、ここで、GCMS分析に基づく、上記アミン化合物と、上記ニトリル化合物および/または上記アミド化合物と、の全重量を100重量%としたとき、上記アミン化合物は40重量%以上付着している。詳細については後述するが、かかる構成のニッケル粒子によると、導電性ペーストの分散性を好適に向上させることができる。
【0007】
ここで開示されるニッケル粒子の好ましい一態様では、上記CuNiコアシェル粒子のCV値は0.2以下である。例えばCV値が0.2以下であるCuNiコアシェル粒子において、導電性ペーストの分散性がより好適に向上し得るため、好ましい。
【0008】
ここで開示されるニッケル粒子の好ましい一態様では、上記CuNiコアシェル粒子の平均粒子径は150nm以下である。上述したように、平均粒子径が150nm以下である粒子は、例えば小型化されたMLCCの内部電極の形成に好適に用いることができるため、好ましい。
【0009】
ここで開示されるニッケル粒子の一態様では、上記ニッケル粒子の表面には、2種類以上のアミン化合物が付着している。
【0010】
また、本開示は、他の側面として、ここで開示されるいずれかのニッケル粒子を含む、粉体材料を提供する。ここで開示されるニッケル粒子を含む粉体材料を用いることで、分散性に優れた導電性ペーストを得ることができる。
【0011】
また、本開示は、他の側面として、ここで開示されるいずれかのニッケル粒子と、該ニッケル粒子を分散させる媒体と、を含む、導電性ペーストを提供する。ここで開示されるニッケル粒子を含む導電性ペーストは分散性に優れるため、好ましく用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係るニッケル粒子の製造方法の手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の好適な実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本開示の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本開示は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の実施形態は、ここで開示される技術をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。なお、本明細書および特許請求の範囲において、所定の数値範囲をA~B(A、Bは任意の数値)と記すときは、A以上B以下の意味である。したがって、Aを上回り且つBを下回る場合を包含する。
【0014】
また、本明細書ならびに特許請求の範囲において「ニッケル粒子」という場合は、特に1粒単位を指している場合を除いて、多数の微粒子の集団(即ち、particles)を意味している。日本語では、単数か複数かが曖昧なため、「ニッケル粒子」の意味を明確にするために上記のように規定する。また、本明細書ならびに特許請求の範囲において「導電性ペースト」とは、スラリー状組成物、インク状組成物を包含する概念であり得る。
【0015】
1.ニッケル粒子
ここで開示されるニッケル粒子は、ニッケル(Ni)を主構成元素とするニッケル粒子である。かかるニッケル粒子の表面には、アミン化合物と、ニトリル化合物および/またはアミド化合物とが付着している。そして、GCMS分析(ガスクロマトグラフィー質量分析)に基づく、アミン化合物と、ニトリル化合物および/またはアミド化合物と、の全重量を100重量%としたとき、アミン化合物は40重量%以上付着していることを特徴とする。
【0016】
上記の構成とすることにより、ここで開示される技術による効果が達成される理由としては、特に限定して解釈されるものではないが、以下が考えられる。即ち、例えばニッケル粒子の製造において、ニッケルイオン(Ni2+)が金属ニッケル(Ni)に還元される際には、以下の式(I)(Rは、水素または炭化水素基を示す)に示す反応によって、還元剤として添加されたアミン化合物の一部からニトリル化合物が生成し得る。
【0017】
【0018】
また、ニッケル塩に付着しているカルボン酸とアミン化合物の一部とが、ニッケル粒子を触媒として反応することによって、アミド化合物が生成し得る。例えば、ニッケル粒子の表面に、アミン化合物、ニトリル化合物、アミド化合物(特に、アミン化合物)が付着している場合、これらの化合物は分散剤としての役割を果たすとされている。一方、本発明者の検討によると、従来の方法によってニッケル粒子を合成した場合、合成後のニッケル粒子の表面にはアミン化合物が付着しておらず(付着していたとしても充分量付着しておらず)、主としてニトリル化合物および/またはアミド化合物が付着していることが分かった。そして、このような状態で分散処理を行って導電性ペーストを調製した場合、凝集粒子が大量に発生することが分かった。そこで、本発明者が鋭意検討した結果、合成後のニッケル粒子に対してアミン化合物を添加し、加熱撹拌を行うことで、ニッケル粒子の表面にアミン化合物を好適に付着させることができることが分かった。さらに、本発明者の検討によると、GCMS分析に基づく、アミン化合物と、ニトリル化合物および/またはアミド化合物と、の全重量を100重量%としたとき、アミン化合物が40重量%以上表面に付着しているニッケル粒子によると、分散処理を行って導電性ペーストを調製した場合においても、凝集粒子の発生を好適に抑制できることを見出し、本開示を完成するに至った。なお、上記説明は、実験結果に基づく本発明者の考察であり、ここで開示される技術は、上記メカニズムに限定して解釈されるものではない。以下、各構成成分について説明する。
【0019】
ニッケル粒子は、ニッケルを主構成元素とする粒子である。ここで、本明細書および特許請求の範囲において「ニッケルを主構成元素とする」とは、ニッケル粒子を構成する成分のうち、モル%基準で最も多く含まれる成分がニッケルであることを意味する。ニッケル粒子は、該ニッケル粒子に含まれる全ての金属元素の物質量を100モル%としたとき、例えば50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、あるいは95モル%以上(100モル%であってもよい)、ニッケルを含む粒子であることが好ましい。ニッケル粒子は、不可避的な不純物としての種々の金属元素(例えば、金(Au),白金(Pt),銀(Ag),パラジウム(Pd),銅(Cu))や非金属元素(例えば、水素(H)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、リン(P))等を含んでいてもよい。また、ニッケル粒子としては、例えば、ニッケル合金や、内部(コア)がニッケル以外の金属から構成され、該コアの表面の少なくとも一部を被覆するシェルがニッケルから構成されるコアシェル粒子を用いることもできる。コアシェル粒子とする場合、上記ニッケル以外の金属としては、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)等が挙げられる。コアシェル粒子は、ここでいう「ニッケル粒子」の典型的な例である。また、かかるニッケル合金としては、ニッケルと、上記ニッケル以外の金属で挙げた金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属との合金が挙げられる。なお、ニッケル粒子は、上述したようなもののなかから1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0020】
ここで、ニッケル粒子がコアシェル粒子である場合、コア粒子の形状は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されず、球形状であってもよいし、非球形状であってもよい。なお、取り扱い易さの観点から、コア粒子は球形状であることが好ましい。また、コア粒子の平均粒子径は、概ね1nm~100nm程度(例えば10nm~50nm程度)であり得る。そして、ニッケルシェルの厚みは、概ね1nm~100nm程度(例えば10nm~50nm程度)であり得る。かかるニッケルシェルの厚みは、例えばコアシェル粒子の断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察することで求めることができる。ニッケルシェルの厚みは、例えば該ニッケルシェルの厚みを無作為的に5点測定したときの平均値として算出することができる。また、ニッケル粒子の全重量を100重量%としたとき、ニッケルシェルが占める重量割合は、典型的には0.5~95重量%程度(例えば50~95重量%程度)とすることができる。ただし、ニッケルシェルの重量割合はこれらに限定されるものではない。
【0021】
なお、本明細書および特許請求の範囲において「平均粒子径」とは、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)に基づく個数基準の粒度分布において、粒径の小さい側から積算値50%に相当する粒径(以下、「D50」ともいう)を意味し得る。かかる測定は、例えば、市販の装置である株式会社日立ハイテクノロジーズ製のS-4700を用いて実施することができる。
【0022】
ここで開示されるニッケル粒子の表面には、アミン化合物と、ニトリル化合物および/またはアミド化合物と、が付着している。そして、GCMS分析に基づく、アミン化合物と、ニトリル化合物および/またはアミド化合物と、の全重量を100重量%としたとき、アミン化合物は40重量%以上付着していることを特徴とする。ニッケル粒子の表面における、アミン化合物、ニトリル化合物、およびアミド化合物の付着量は、GCMS分析に基づいて作成された検量線を用いて算出することができる。詳細に関しては、後述の実施例を参照されたい。上述したように、本発明者は、かかる構成のニッケル粒子によると、導電性ペーストの分散性が好適に向上できることを見出した。
【0023】
上記アミン化合物の種類は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されない。アミン化合物としては、例えば第2級、第3級のアミノ基を含有しないモノアミン化合物である場合が好ましい。かかるアミン化合物の一例としては、n-プロピルアミン、n-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-へプチルアミン、n-オクチルアミン、n-ドデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等の直鎖構造のアミン化合物;2-エチルヘキシルアミン等の分岐構造のアミン化合物;シクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、シクロへプチルアミン、シクロオクチルアミン等の環状構造のアミン化合物;等が挙げられる。また、アミン化合物の炭素数は、6以上であることが好ましく、7以上、8以上であることがより好ましい。なお、ニッケル粒子には、上述したアミン化合物が1種類付着していてもよいし、2種類以上が付着していてもよい。あるいは、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて、上述したアミン化合物に加えて、さらに上述したアミン化合物以外のアミン化合物が付着していてもよい。ここで開示されるニッケル粒子の一態様では、ニッケル粒子の表面に、2種類以上のアミン化合物が付着している。かかる構成のニッケル粒子を合成する方法の一例としては、後述するステップS1とS3とで異なるアミン化合物を用いる方法が挙げられる。ニッケル粒子の表面に付着しているアミン化合物は、例えば熱分解GCMSスペクトルによって同定することができる。
【0024】
上述したように、ニトリル化合物は、例えばニッケルイオン(Ni2+)が金属ニッケルに還元される際に、還元剤として添加されたアミン化合物の一部から生成し得る。かかるニトリル化合物の種類としては、例えば上記アミン化合物から上記式(I)に基づいて生成するニトリル化合物が挙げられる。なお、ニッケル粒子には、上述したニトリル化合物が1種類付着していてもよいし、2種類以上が付着していてもよい。あるいは、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて、上述したニトリル化合物に加えて、さらに上述したニトリル化合物以外のニトリル化合物が付着していてもよい。ニッケル粒子の表面に付着しているニトリル化合物は、例えば熱分解GCMSスペクトルによって同定することができる。
【0025】
上述したように、アミド化合物は、例えばニッケル塩に付着しているカルボン酸とアミン化合物とが、ニッケル粒子を触媒として反応することによって生成し得る。かかるアミド化合物の種類としては、例えば上記アミン化合物と、ニッケル塩に付着しているカルボン酸(例えば、ギ酸やカルボン酸)とのアミド化合物が挙げられる。なお、ニッケル粒子には、上述したアミド化合物が1種類付着していてもよいし、2種類以上が付着していてもよい。あるいは、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて、上述したアミド化合物に加えて、さらに上述したアミド化合物以外のアミド化合物が付着していてもよい。ニッケル粒子の表面に付着しているアミド化合物は、例えば熱分解GCMSスペクトルによって同定することができる。
【0026】
ここで開示されるニッケル粒子は、GCMS分析に基づく、アミン化合物と、ニトリル化合物および/またはアミド化合物と、の全重量を100重量%としたとき、アミン化合物は40重量%以上付着していることを特徴とする。上述したように、かかる構成のニッケル粒子によると、導電性ペーストの分散性を好適に向上させることができる。ここで、アミン化合物の付着量は、例えば45重量%以上、50重量%以上、55重量%以上、60重量%以上であることがより好ましい。また、アミン化合物の付着量の上限は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、概ね90重量%以下であり、例えば80重量%以下、70重量%以下、65重量%以下とすることができる。
【0027】
また、ニッケル粒子の表面におけるニトリル化合物の付着量は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されず、概ね0~50重量%程度(例えば20~45重量%程度)とすることができる。そして、ニッケル粒子の表面におけるアミド化合物の付着量は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されず、概ね0~20重量%程度(例えば5~15重量%程度)とすることができる。
【0028】
ニッケル表面におけるアミン化合物、ニトリル化合物、およびアミド化合物の付着量は、例えば以下の方法によって容易に変化させることができる。ニッケル表面におけるアミン化合物の付着量は、例えば合成後のニッケル粒子に対して添加するアミン化合物の量や加熱処理の条件(加熱時間や加熱温度等)を調整することによって、変化させることができる。典型的には、アミン化合物の添加量、加熱時間・加熱温度を増大させることによって、ニッケル粒子表面におけるアミン化合物の付着量を増大させることができる。また、ニッケル表面におけるニトリル化合物やアミド化合物の付着量は、例えば上記式(I)に示す還元反応の条件(反応時間や反応温度等)を調整することによって、変化させることができる。典型的には、上記式(I)に示す還元反応の反応時間・反応温度を増大させることによって、ニッケル粒子表面におけるニトリル化合物やアミド化合物の付着量を増大させることができる。ただし、これらに限定されることを意図したものではない。
【0029】
ニッケル粒子の平均粒子径は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されない。ニッケル粒子の平均粒子径の下限は、概ね10nm以上であり、粒子どうしの凝集を制御し易くするという観点から、20nm以上が好ましく、30nm以上、40nm以上がより好ましい。一方、ニッケル粒子の上限は、概ね200nm以下であり、例えば小型化されたMLCCの内部電極の形成に用いるという観点から、150nm以下が好ましく、100nm以下(例えば60nm以下や50nm以下)がより好ましい。
【0030】
ニッケル粒子のCV値は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されない。ここで、かかるCV値(変動係数)は、ニッケル粒子の平均粒子径に対する標準偏差σの比(標準偏差σ/平均粒子径)を意味し、CV値が小さい程、粒子が均一であるということができる。また、CV値が小さい(換言すると、粒子が均一である)ニッケル粒子によると、粒子どうしの凝集を好適に抑制することができるため、好ましいとされている。ニッケル粒子のCV値は、概ね0.5以下であり、粒子どうしの凝集を好適に抑制するという観点から、0.2以下が好ましく、0.18以下、0.15以下がより好ましい。
【0031】
ニッケル粒子の結晶構造は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されない。ここで、ニッケル粒子の結晶構造としては、fcc(face-centered cubic:面心立方格子構造)やhcp(hexagonal close-packed:六方細密結晶充填構造)が挙げられる。ニッケル粒子の結晶構造は、安定性等の観点から、少なくとも一部がfccであることが好ましく、全体がfccであることがより好ましい。なお、かかる結晶構造は、例えばXRD(X-ray Diffractiion:X線回折)に基づくピーク解析によって確認することができる。
【0032】
2.ニッケル粒子の製造方法
続いて、ここで開示されるニッケル粒子の製造方法の好適な一例について説明する。ここで開示されるニッケル粒子の製造方法は、合成後のニッケル粒子に対してアミン化合物を添加し、加熱処理を行うことを特徴とする(ステップS3を参照)。これによって、ニッケル粒子表面におけるアミン化合物の付着量を、好適に増大させることができる。アミン化合物を後入れで添加する前までの工程は、従来と同様であってよい。なお、以下ではニッケル粒子として、銅から構成されるコア粒子と、該コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆するニッケルシェルとからなる銅-ニッケルコアシェル粒子(CuNiコアシェル粒子)を製造する方法について説明する。なお、以下の説明は、CuNiコアシェル粒子の製造方法を以下の製造方法に限定することを意図したものではない。以下、適宜
図1を参照しつつ説明する。
【0033】
図1は、一実施形態に係るニッケル粒子(ここでは、CuNiコアシェル粒子)の製造方法の手順を示す大まかなフロー図である。
図1に示すように、ニッケル種粒子の作製(ステップS1);ニッケル粒子の作製(ステップS2);アミン化合物の添加(ステップS3);ニッケル粒子の回収(ステップS4)を含む。以下、各ステップについて説明する。
【0034】
はじめに、ステップS1では、ニッケル種粒子(以下、単に「種粒子」ともいう)の作製を行う。ここで、種粒子とは、ニッケルの成長の核として機能し得るものである。かかる種粒子は、例えばニッケル塩および銅塩を原料として、アミン化合物存在下、加熱による湿式還元を行うことによって合成することができる。かかる方法によると、銅とニッケルとの標準電位の相違から、先ず核となる銅粒子が生成し、続いて銅粒子の表面にニッケル被膜が生成することによって、種粒子を得ることができる。
【0035】
具体的には、先ずアミン化合物に対して、ニッケル塩を所定量(例えば、0.005~0.1モル当量程度)添加し、所定温度(例えば100~150℃程度)で所定時間(例えば60~120分程度)加熱することによって、ニッケル-アミン錯体を合成する。続いて、かかるニッケル-アミン錯体に対して銅塩を所定量(例えば、0.0005~0.01モル当量程度)添加し、所定温度(例えば50~100℃程度)で所定時間(例えば30~60分程度)加熱することによって、銅-アミン錯体を合成する。その後、窒素雰囲気下、所定温度(例えば150~200℃程度)で所定時間(例えば、10~30分程度)加熱することによって、種粒子(種粒子スラリー)を合成することができる。
【0036】
上記アミン化合物としては、例えば上記説明したアミン化合物を用いることができる。これらのアミン化合物としては、例えば市販のものを特に制限なく用いることができる。
【0037】
上記ニッケル塩としては、例えばカルボン酸ニッケル、塩化ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、水酸化ニッケル等が挙げられる。このなかでも、還元時の分解温度が比較的低いカルボン酸ニッケルを好ましく用いることができる。かかるカルボン酸ニッケルの一例としては、ギ酸ニッケルや酢酸ニッケルが挙げられる。カルボン酸ニッケルは、無水物であってもよいし、水和物であってもよい。かかる水和物としては、ギ酸ニッケル・二水和物や酢酸ニッケル・四水和物が挙げられる。ニッケル塩としては、例えば市販のものを特に制限なく用いることができる。
【0038】
上記銅塩としては、還元時の分解温度が比較的低いカルボン酸銅を好ましく用いることができる。かかるカルボン酸銅の一例としては、ギ酸銅や酢酸銅が挙げられる。かかるカルボン酸銅は、無水物であってもよいし、水和物であってもよい。かかる水和物としては、酢酸銅・四水和物が挙げられる。銅塩としては、例えば市販のものを特に制限なく用いることができる。
【0039】
次に、ステップS2では、ニッケル粒子の作製を行う。ステップS2では、ステップS1で得られた種粒子スラリーに対してニッケル塩を添加し、加熱による湿式還元を行う。これによって、種粒子を核としてNiシェルを成長させることができる。このように、種粒子を核としてNiシェルを成長させることによって、CV値の低い均一なニッケル粒子を得ることができるため、好ましい。
【0040】
具体的には、先ず、ステップS1で得られた種粒子スラリーに対して、ニッケル塩を所定量(例えば、1~45モル当量程度)添加し、所定温度(例えば100~150℃程度)で所定時間(60~120分程度)加熱することによって、ニッケル-アミン錯体を合成する。その後、窒素雰囲気下、所定温度(例えば150~200℃程度)で所定時間(30~60分間)加熱することによって、ニッケル粒子(ニッケル粒子スラリー)を合成する。ここで、ニッケル塩としては、例えばステップS1のニッケル塩の欄で説明したようなものを用いることができる。
【0041】
続いて、ステップS3では、アミン化合物の添加を行う。これによって、ニッケル粒子表面におけるアミン化合物の付着量を、好適に増大させることができる。
具体的には、ステップS2で得られたニッケル粒子スラリーの上澄み液を除去し、上記アミン化合物を添加する。その後、窒素雰囲気下、所定温度(例えば50~150℃程度)で所定時間(例えば30~60分程度)加熱することによって、ニッケル粒子(ニッケル粒子スラリー)を得ることができる。
【0042】
続いて、ステップS4では、ニッケル粒子の回収を行う。
具体的には、先ずステップS3で得られたニッケル粒子スラリーの上澄み液を除去する。続いて、適当な洗浄溶媒(例えば、イソボルニルアセテート等)を添加し、超音波洗浄機等によって分散させた後、上澄み液を除去する。かかる操作を複数回(例えば2~5回程度)繰り返した後、乾燥機にて所定温度(例えば100~150℃程度)で所定時間(例えば30~60分程度)乾燥させることによって、ニッケル粒子(粉体)を得ることができる。
【0043】
また、ここで開示されるニッケル粒子に加えて、さらに必要に応じてバインダ(例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アミン系樹脂、アルキド系樹脂、エチルセルロース等のセルロース系樹脂)、導電材、他の粉体材料(例えば、チタン酸バリウム)等を添加することによって、種々の用途の粉体材料を得ることができる。例えば、ニッケル粒子と、上述したような材料とを混合・粉砕することによって、粉体材料を得ることができる。かかる粉体材料には、上記のとおり、ニッケル粒子が含まれているため、該粉体材料を用いることで、導電性ペーストの分散性と、焼成後に得られる導電層の収縮率の低減とを好適に両立することができる。なお、粉体材料中のニッケル粒子の含有量は特に制限されないが、粉体材料の全体を100重量%としたとき、概ね50~95重量%程度(例えば、60~90重量%程度)であることが好ましい。
【0044】
また、ここで開示されるニッケル粒子を、適当な水系溶媒あるいは有機系溶媒からなる分散媒(媒体)に分散させることにより、種々の用途の分散体(導電性ペースト)を得ることができる。例えば、所定の有機溶媒にニッケル粒子を分散させ、さらに必要に応じてバインダ(粉体材料の説明において列挙したものを参照)、導電材、他の粉末材料、分散剤(例えば、カルボン酸系分散剤)、粘度調整剤等の成分を添加することによって、ペースト状に調製された組成物(導電性ペースト)を得ることができる。かかる導体ペーストには、上記のとおり、ニッケル粒子が含まれているため、優れた分散性と、焼成後に得られる導電層の収縮率の低減とを好適に両立することができる。
【0045】
なお、導電性ペーストに用いられる分散媒は、この種の導電性粉体材料を良好に分散させ得るものであればよく、従来公知の導電性ペーストの調製に用いられているものを特に制限なく使用することができる。有機系溶媒の一例としては、ミネラルスピリット等の石油系炭化水素(特に脂肪族炭化水素)、エチレングリコールやジエチレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ブチルカルビトール(BC)、イソボルニルアセテート、ターピネオール等の高沸点有機溶媒を1種類または2種以上を組み合わせたものを用いることができる。ここで、導電性ペースト中のニッケル粒子の含有量は特に制限されないが、導電性ペーストの全体を100重量%としたとき、概ね30~70重量%程度(例えば、40~60重量%程度)であることが好ましい。また、導電性ペースト中の分散媒の含有量は特に制限されないが、導電性ペーストの全体を100重量%としたとき、概ね30~70重量%程度(例えば、40~60重量%程度)であることが好ましい。かかる導電性ペーストの粘度は特に制限されないが、概ね10~100mPa・s程度(例えば、20~50mPa・s程度)であることが好ましい。かかる粘度は、例えば市販の粘度計によって測定することができる。
【0046】
上述したような技術は、例えば電子材料分野における利用により、電子部品の小型化や電極の薄層化等を実現することができる。
【0047】
以下、ここで開示されるニッケル粒子に関する試験例について説明するが、本開示をかかる試験例に限定することを意図したものではない。なお、以下では、ニッケル粒子の一例としてCuNiコアシェル粒子を用いた場合について説明する。
【0048】
<ニッケル粒子の合成>
先ず、例1~6に係るニッケル粒子の合成について説明する。
【0049】
(ニッケル種粒子スラリーの合成)
オレイルアミン(富士フィルム和光純薬社製品)319.2gに対して、ギ酸ニッケル・二水和物(富士フィルム和光純薬社製品,以下同様)1.7gを添加し、120℃で120分間加熱することによって、ギ酸ニッケル-オレイルアミン錯体を合成した。次に、かかるギ酸ニッケル-オレイルアミン錯体に対して、ギ酸銅・四水和物(富士フィルム和光純薬社製品,以下同様)を0.23g添加し、60℃で30分間加熱することによって、ギ酸銅-オレイルアミン錯体を合成した。その後、窒素雰囲気下、190℃で10分間加熱することによって、ニッケル種粒子スラリーを合成した。
【0050】
(ニッケル粒子スラリーの合成)
上記合成したニッケル種粒子スラリーに対して、酢酸ニッケル・四水和物(富士フィルム和光純薬社製品,以下同様)114.0gを添加し、135℃で120分間加熱することによって、酢酸ニッケル-オレイルアミン錯体を合成した。その後、窒素雰囲気下、200℃で30分間加熱することによって、ニッケル粒子スラリーを合成した。
【0051】
・例1に係るニッケル粒子スラリーの合成
上記合成したニッケル粒子スラリーの上澄み液を除去した。かかるスラリーに対して、オレイルアミン200mLを添加し、100℃で30分間加熱撹拌を行うことによって、例1に係るニッケル粒子スラリーを合成した。
【0052】
・例2に係るニッケル粒子スラリーの合成
上記合成したニッケル粒子スラリーの上澄み液を除去した。かかるスラリーに対して、オレイルアミン100mLを添加し、100℃で30分間加熱撹拌を行うことによって、例2に係るニッケル粒子スラリーを合成した。
【0053】
・例3に係るニッケル粒子スラリーの合成
上記合成したニッケル粒子スラリーの上澄み液を除去した。かかるスラリーに対して、オレイルアミン200mLを添加し、50℃で60分間加熱撹拌を行うことによって、例3に係るニッケル粒子スラリーを合成した。
【0054】
・例4に係るニッケル粒子スラリーの合成
上記合成したニッケル粒子スラリーの上澄み液を除去した。かかるスラリーに対して、2-エチルヘキシルアミン(富士フィルム和光純薬社製品)200mLを添加し、100℃で30分間加熱撹拌を行うことによって、例4に係るニッケル粒子スラリーを合成した。
【0055】
・例5に係るニッケル粒子スラリーの合成
上記合成したニッケル粒子スラリーの上澄み液を除去した。かかるスラリーに対して、オレイルアミン100mLを添加し、50℃で60分間加熱撹拌を行うことによって、例1に係るニッケル粒子スラリーを合成した。
【0056】
・例6に係るニッケル粒子スラリーの合成
上記合成したニッケル粒子スラリーの上澄み液を除去した。かかるスラリーを、例5に係るニッケル粒子スラリーとした。
【0057】
上記合成した各例に係るニッケル粒子スラリーの上澄み液を除去した。そして、イソボルニルアセテートを添加し、超音波洗浄機で分散させた後、上澄み液を除去した。かかる作業を3回繰り返した後、乾燥機にて120℃で60分間乾燥することによって、各例に係るニッケル粒子からなる粉体材料を得た。
【0058】
<評価試験>
【0059】
(1)ニッケル粒子の形質特性
電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM:株式会社日立ハイテクノロジーズ製のS-4700)を使用し、上記粉体材料中のニッケル粒子を観察した。具体的には、5万倍の視野のうちから5枚の画像を抽出し、ニッケル粒子を無作為的に200個抽出して、その投影面積を求めた。これと同じ面積を有する円の直径(Heywood径)を計測した。そして、個数基準の粒度分布における積算50%粒子径(D50)を、平均粒子径(nm)として算出した。また、平均粒子径の変動係数(CV)を算出した。ここで、CV値とは、ニッケル粒子の平均粒子径に対する標準偏差σの比(標準偏差σ/平均粒子径)を意味する。各例に係るニッケル粒子の平均粒子径は50nm程度、CV値は0.15程度であった。
【0060】
(2)ニッケル粒子表面の有機物分析
上記合成した各例に係るニッケル粒子500mgに対して、メタノール0.6mLを添加し、超音波洗浄機で超音波照射を1時間行った。そして、磁石で粒子を捕集した後の上澄み液を抽出液とし、GCMS装置(島津製作所社製のGCMS-QP-2010Ultra)で測定し、ニッケル粒子の表面に付着している有機物の分析を行った。具体的には、ニッケル粒子の表面に付着している有機物の同定と、該有機物の全重量を100重量%としたときのアミン化合物、ニトリル化合物、およびアミド化合物の付着量(重量%)の算出とを行った。なお、かかる付着量は、GCMSのピーク面積およびサンプル濃度に基づく検量線を用いて算出した。測定結果を表1の該当欄に示した。
【0061】
ここで、表1には記載していないが、例1~3,5,6に係るニッケル粒子の表面には、オレイルアミン、オレイロニトリル、オレイルアミンと酢酸(あるいはギ酸)とのアミド化合物が付着していることが確認された。また、例4に係るニッケル粒子の表面には、オレイルアミン,2-エチルヘキシルアミン、オレイロニトリル,2-エチルヘキシロニトリル、オレイルアミンと酢酸(あるいはギ酸)とのアミド化合物,2-エチルヘキシルアミンと酢酸(あるいはギ酸)とのアミド化合物が付着していることが確認された。
【0062】
(導電性ペーストの調製)
上記得られたニッケル粒子(粉体材料)と、市販のチタン酸バリウム粉末と、エチルセルロース樹脂と、カルボン酸系分散剤と、イソボルニルアセテートを調合し、3本ロールで分散させることによって、導電性ペーストとを調製した。なお、各原料の配合量は、導電性ペースト全体を100重量%としたとき、ニッケル粒子を45重量%、チタン酸バリウムを4.5重量%、エチルセルロース樹脂を2重量%、カルボン酸系分散剤を2重量%、残部をイソボルニルアセテートした。ここで、導電性ペーストの粘度は、25℃-100rpm(BrookfieldDV型粘度計で測定)における粘度が20~50mPa・s程度であった。
【0063】
(3)分散性の評価
上記得られた導電性ペーストを、基材上に膜厚2μmで塗膜し、120℃で5分間乾燥させた。次に、かかる塗膜について、光学顕微鏡(株式会社ニコンソリューションズ製のECLIPSE LV150)で合計3視野観察し、得られた観察画像から凝集粒子の有無を確認した。ここで、かかる凝集粒子は、光学顕微鏡観察において白い塊状体として観察される。そして、1視野当たりの凝集粒子が10個以下であったものを分散性「○」、10個超であったものを分散性「×」とした。評価結果を表1の該当欄に示した。
【0064】
【0065】
表1に示すように、ニッケルを主構成元素とするニッケル粒子であって、上記ニッケル粒子の表面には、アミン化合物と、ニトリル化合物および/またはアミド化合物と、が付着しており、GCMS分析に基づく、上記アミン化合物と、上記ニトリル化合物および/または上記アミド化合物と、の全重量を100重量%としたとき、上記アミン化合物は40重量%以上付着している例1~5に係るニッケル粒子(ニッケル粉末)を含む導電性ペーストは、分散性に優れることが確認された。一方、アミン化合物の付着量が上記範囲外である例6に係るニッケル粒子を含む導電性ペーストは、分散性に優れないことが確認された。
【0066】
以上、本開示の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。