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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】水性表面処理剤および表面処理金属
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/08 20060101AFI20241022BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20241022BHJP
   H01M 50/105 20210101ALI20241022BHJP
   H01M 50/119 20210101ALI20241022BHJP
   H01M 50/124 20210101ALI20241022BHJP
   H01M 50/145 20210101ALI20241022BHJP
【FI】
C23C22/08
B32B15/08 F
H01M50/105
H01M50/119
H01M50/124
H01M50/145
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022202492
(22)【出願日】2022-12-19
(65)【公開番号】P2024087592
(43)【公開日】2024-07-01
【審査請求日】2024-03-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 朗
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翔大
(72)【発明者】
【氏名】和田 優子
(72)【発明者】
【氏名】大洞 綾子
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-76783(JP,A)
【文献】特開2002-69660(JP,A)
【文献】国際公開第2023/037926(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C22/00-22/86
B32B1/00-43/00
H01M50/105
H01M50/119
H01M50/124
H01M50/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の表面処理に用いられる水性表面処理剤であって、
三価クロム化合物(A)と、水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)と、多官能エポキシ化合物(C)と、リン酸化合物(D)と、を含み、
前記水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)は、重量平均分子量が30,000以上1,000,000以下であり、固形分酸価が500mgKOH/g以上780mgKOH/g以下であり、
全固形分質量に対する前記三価クロム化合物(A)に含まれる三価クロムの質量の比が3%以上15%以下であり、
全固形分質量に対する前記多官能エポキシ化合物(C)の固形分質量の比が1%以上15%以下であり、
全固形分質量に対する前記リン酸化合物(D)の固形分質量の比が5%以上25%以下である、水性表面処理剤。
【請求項2】
前記水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)は、固形分水酸基価が20mgKOH/g以下である、請求項1に記載の水性表面処理剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水性表面処理剤で金属を表面処理することにより形成される皮膜を有する、表面処理金属。
【請求項4】
前記金属は、アルミニウムもしくはアルミニウム合金、鉄もしくは鉄合金、または、銅もしくは銅合金である、請求項3に記載の表面処理金属。
【請求項5】
前記金属は、めっき処理されている、請求項3に記載の表面処理金属。
【請求項6】
前記皮膜を有する金属がラミネート加工されている、請求項3に記載の表面処理金属。
【請求項7】
電池用外装材である、請求項6に記載の表面処理金属。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性表面処理剤および表面処理金属に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属を保護し、意匠を施すために、金属にラミネートフィルムを接着させることにより、金属をラミネート加工している。
【0003】
ラミネート加工されている金属の美観や耐食性を維持するためには、ラミネートフィルムの密着性を向上させることが重要であり、例えば、アルミニウム箔の一方の面または両方の面に化成処理層を形成する方法が知られている。
【0004】
一方、ラミネートフィルムは、加工性、耐食性、バリア性等に優れることに加え、金属にラミネート加工する際に、揮発性有機化合物が発生しにくいため、ラミネート加工されている金属は、例えば、電池用外装材に適用されている(特許文献1参照)。ここで、化成処理層は、三価クロム化合物と、ポリカルボン酸系ポリマーと、オキサゾリン基を有する化合物と、リン化合物と、を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-52298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、ラミネート加工されている金属を電池用外装材に適用する場合には、耐電解液性を向上させることが望まれている。特に、金属をヒートラミネート加工する場合に、耐電解液性を向上させることが望まれている。
【0007】
本発明は、金属をラミネート加工する場合に、耐電解液性を向上させることが可能な水性表面処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)金属の表面処理に用いられる水性表面処理剤であって、三価クロム化合物(A)と、水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)と、多官能エポキシ化合物(C)と、リン酸化合物(D)と、を含み、前記水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)は、重量平均分子量が30,000以上1,000,000以下であり、固形分酸価が500mgKOH/g以上780mgKOH/g以下であり、全固形分質量に対する前記三価クロム化合物(A)に含まれる三価クロムの質量の比が3%以上15%以下であり、全固形分質量に対する前記多官能エポキシ化合物(C)の固形分質量の比が1%以上15%以下であり、全固形分質量に対する前記リン酸化合物(D)の固形分質量の比が5%以上25%以下である、水性表面処理剤。
【0009】
(2)前記水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)は、固形分水酸基価が20mgKOH/g以下である、(1)に記載の水性表面処理剤。
【0010】
(3)(1)または(2)に記載の水性表面処理剤で金属を表面処理することにより形成される皮膜を有する、表面処理金属。
【0011】
(4)前記金属は、アルミニウムもしくはアルミニウム合金、鉄もしくは鉄合金、または、銅もしくは銅合金である、(3)に記載の表面処理金属。
【0012】
(5)前記金属は、めっき処理されている、(3)または(4)に記載の表面処理金属。
【0013】
(6)前記皮膜を有する金属がラミネート加工されている、(3)から(5)のいずれか一項に記載の表面処理金属。
【0014】
(7)電池用外装材である、(6)に記載の表面処理金属。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属をラミネート加工する場合に、耐電解液性を向上させることが可能な水性表面処理剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0017】
[水性表面処理剤]
本実施形態の水性表面処理剤は、金属の表面処理に用いられる。
【0018】
金属としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、ニッケル等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。すなわち、金属は、合金であってもよい。合金成分としては、例えば、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄、ケイ素、マンガン、クロム、チタン、モリブデン等を含んでいてもよい。これらの中でも、加工性および密着性の観点から、アルミニウムもしくはアルミニウム合金、鉄もしくは鉄合金、または、銅もしくは銅合金が好ましく、アルミニウムまたはアルミニウム合金がさらに好ましい。
【0019】
アルミニウム合金としては、例えば、Al-Cu系合金、Al-Mn系合金、Al-Si系合金、Al-Mg系合金、Al-Mg-Si系合金、Al-Zn-Mg系合金、アルミダイカスト(ADC材)等が挙げられる。電池用外装材用のアルミニウム合金としては、8079材等が挙げられ、飲料・食品缶ボディー用のアルミニウム合金としては、3004材、3104材、3005材等が挙げられ、飲料・食品缶蓋材用のアルミニウム合金としては、5052材、5182材等が挙げられ、乾電池容器用のアルミニウム合金としては、1050材、1100材、1200材等が挙げられ、電極材用のアルミニウム合金としては、8021材等が挙げられる。
【0020】
鉄合金としては、例えば、SPCC、SPCD、SPCE等の冷間圧延鋼板、ステンレス鋼(SUS)等が挙げられる。SUSとしては、例えば、SUS304、SUS301、SUS316等のオーステナイト系ステンレス鋼、SUS430等のフェライト系ステンレス鋼、SUS410等のマルテンサイト系ステンレス鋼等が挙げられる。
【0021】
銅合金としては、例えば、黄銅等が挙げられる。亜鉛合金としては、例えば、Zn-Al系合金等が挙げられる。ニッケル合金としては、例えば、Ni-P合金等が挙げられる。
【0022】
表面処理される金属は、めっき処理されていてもよい。めっき種としては、例えば、ニッケル、亜鉛、クロム、鉄、スズ、銅、銀、白金、金等の金属が挙げられ、二種以上の金属を併用してもよい。めっき方法としては、例えば、電気めっき、無電解めっき、溶融めっき、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等が挙げられる。めっき処理されている金属としては、例えば、Niめっき鋼材、Niめっき銅材、Znめっき鋼材、Zn-Niめっき鋼材等が挙げられる。めっき処理される金属母材としては、例えば、SPCC、SPCD、SPCE等の冷間圧延鋼板、銅板等が挙げられる。
【0023】
本実施形態の水性表面処理剤は、三価クロム化合物(A)と、水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)と、多官能エポキシ化合物(C)と、リン酸化合物(D)と、を含む。ここで、本実施形態の水性表面処理剤は、六価クロム化合物を含まない六価クロムフリー水性表面処理剤であることが好ましい。
【0024】
本実施形態の水性表面処理剤は、六価クロムを含んでいてもよい。この場合、本実施形態の水性表面処理剤中の六価クロムの含有量は、例えば、0.04質量%未満、0.02質量%未満、0.01質量%未満、0.001質量%未満、0.0001質量%未満、0.00001質量%未満または0.000001質量%未満である。本実施形態の水性表面処理剤中の六価クロムの含有量は、最小限に抑えられる、すなわち、微量であることが好ましく、0質量%であることが最も好ましい。本実施形態の水性表面処理剤で金属を表面処理することにより形成される皮膜は、六価クロムを実質的に含まないことが好ましく、六価クロムを含まないことが最も好ましい。
【0025】
本実施形態の水性表面処理剤で金属を表面処理した後、ラミネート加工すると、耐電解液性が向上する。耐電解液性が向上する理由は、不明であるが、例えば、以下のような理由が推測される。金属の表面に形成される皮膜と、ラミネートフィルムとが、接着層を介して接着するとき、皮膜に含まれる多官能エポキシ化合物(C)の加水分解により生成する水酸基と、接着層の形成に使用される接着剤に含まれる樹脂とが化学架橋または物理架橋する。その結果、電解液の侵入および浸透が抑制され、皮膜と接着層との密着性を長期間維持することができる。
【0026】
水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)の重量平均分子量は、30,000以上1,000,000以下であり、50000以上800000以下であることがさらに好ましい。水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)の重量平均分子量が30,000未満であると、金属にラミネート加工する場合に、ラミネートフィルムの密着性が低下し、1,000,000を超えると、水性表面処理剤の貯蔵安定性が低下する。
【0027】
なお、水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)の重量平均分子量は、ポリエチレンオキサイドを標準物質として、GPC法により決定される分子量である。
【0028】
水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)の固形分酸価は、500mgKOH/g以上780mgKOH/g以下であり、600mgKOH/g以上780mgKOH/g以下であることが好ましく、700mgKOH/g以上780mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)の固形分酸価が500mgKOH/g未満であると、金属にラミネート加工する場合に、耐電解液性が低下し、780mgKOH/gを超えると、金属にラミネート加工する場合に、耐電解液性が低下する。
【0029】
本明細書および特許請求の範囲において、水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)の固形分酸価および後述する固形分水酸基価は、JIS K 0070に準じて測定することができる。水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)の固形分酸価および固形分水酸基価は、重合に用いるモノマー組成物を構成する各モノマーの種類および仕込み比を調整することで、所望の値に制御できる。
【0030】
本実施形態の水性表面処理剤の全固形分質量に対する三価クロム化合物(A)に含まれる三価クロムの質量の比は、3%以上15%以下であり、5%以上12%以下であることが好ましい。水性表面処理剤の固形分質量に対する三価クロム化合物(A)に含まれる三価クロムの質量の比が3%未満である場合または15%を超える場合は、金属にラミネート加工する場合に、耐電解液性が低下する。
【0031】
本実施形態の水性表面処理剤の全固形分質量に対する多官能エポキシ化合物(C)の固形分質量の比は、1%以上15%以下であり、3%以上10%以下であることが好ましい。水性表面処理剤の全固形分質量に対する多官能エポキシ化合物(C)の固形分質量の比が1%未満である場合または15%を超える場合は、金属にラミネート加工する場合に、耐電解液性が低下する。
【0032】
本実施形態の水性表面処理剤の多官能エポキシ化合物(C)に対する三価クロム化合物(A)に含まれる三価クロムの質量の比は、0.1以上20以下であることが好ましく、0.4以上15以下であることがより好ましい。水性表面処理剤の多官能エポキシ化合物(C)に対する三価クロム化合物(A)に含まれる三価クロムの質量の比が0.1以上であると、金属にラミネート加工する場合に、耐電解液性が向上する。これは、耐フッ酸性が向上しているためであると推測される。一方、水性表面処理剤の多官能エポキシ化合物(C)に対する三価クロム化合物(A)に含まれる三価クロムの質量の比が20以下であると、金属にラミネート加工する場合に、耐電解液性が向上する。これは、皮膜と金属との密着性が向上したり、皮膜とラミネートフィルムや接着層との密着性が向上したりするためであると推測される。
【0033】
本実施形態の水性表面処理剤の全固形分質量に対するリン酸化合物(D)の固形分質量の比は、5%以上25%以下であり、10%以上20%以下であることが好ましい。水性表面処理剤の全固形分質量に対する多官能エポキシ化合物(C)の固形分質量の比が5%未満である場合または25%を超える場合は、金属にラミネート加工する場合に、耐電解液性が低下する。
【0034】
三価クロム化合物(A)としては、特に限定されないが、例えば、フッ化クロム(III)、硝酸クロム(III)、リン酸クロム(III)、酢酸クロム(III)、塩化クロム(III)、硫酸クロム(III)、シュウ酸クロム(III)、ギ酸クロム(III)、水酸化クロム(III)、酸化クロム(III)、臭化クロム(III)、ヨウ化クロム(III)等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0035】
三価クロム化合物(A)の市販品としては、例えば、リン酸クロム2M(日本化学工業製)等が挙げられる。
【0036】
水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)は、例えば、カルボキシル基を有するモノマー由来の構成単位を含む。
【0037】
カルボキシル基を有するモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、(メタ)アクリル酸二量体、(メタ)アクリル酸のε-カプロラクトン付加物等が挙げられる。上記以外のカルボキシル基を有するモノマーとしては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和二塩基酸及びそのハーフエステル、ハーフアミド、ハーフチオエステル等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0038】
水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)は、金属をラミネート加工する場合の耐電解液性の観点から、ポリ(メタ)アクリル酸であることが好ましく、ポリアクリル酸であることがさらに好ましい。
【0039】
ポリアクリル酸の市販品としては、ジュリマーAC-10L、AC-10H、AC-20L、SH-5(以上、東亞合成製)等が挙げられる。
【0040】
水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)は、水酸基を有するモノマー由来の構成単位をさらに含んでいてもよい。
【0041】
水酸基を有するモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アリルアルコール、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)アクリルアミド、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクトン付加物等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0042】
水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)の固形分水酸基価は、20mgKOH/g以下であることが好ましく、10mgKOH/g以下であることがより好ましく、0mgKOH/gであることがさらに好ましい。水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)の固形分水酸基価が20mgKOH/g以下であると、金属にラミネート加工する場合に、耐電解液性が向上することに加え、水性表面処理剤の貯蔵安定性が向上する。
【0043】
水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)は、上記以外のモノマー(他のモノマー)由来の構成単位をさらに含んでいてもよい。
【0044】
他のモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、1-メチルエチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、ジヒドロジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレン(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記以外の他のモノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルケトン、t-ブチルスチレン、p-クロロスチレン、ビニルナフタレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ブタジエン、イソプレン等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0045】
水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)は、例えば、カルボキシル基を有するモノマーを含むモノマー組成物を、必要に応じて、重合開始剤を用いて、ラジカル重合することにより得られる。
【0046】
ラジカル重合方法としては、特に限定されないが、例えば、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法等が挙げられる。
【0047】
重合温度は、特に限定されないが、例えば、60℃以上160℃以下である。また、重合時間は、特に限定されないが、例えば、2時間以上10時間以下である。
【0048】
重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス-2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン塩酸塩、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム等が挙げられる。
【0049】
水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)における酸基および水酸基は、アクリル樹脂を変性させることにより生成または付加したものであってもよい。
【0050】
本実施形態の水性表面処理剤の全固形分質量に対する水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)の固形分質量の比は、特に限定されないが、例えば、15%以上63%以下である。
【0051】
多官能エポキシ化合物(C)は、エポキシ基を複数有する水溶性または水分散性の低分子化合物である。多官能エポキシ化合物(C)の分子量は、特に限定されないが、例えば、100以上1000以下である。多官能エポキシ化合物が有するエポキシ基の個数は、特に限定されないが、例えば、2以上4以下である。
【0052】
多官能エポキシ化合物(C)としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、プロピレンレングリコールジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0053】
多官能エポキシ化合物(C)の市販品としては、例えば、デナコールEX-614B、デナコールEX-313(以上、ナガセケムテックス製)、SR-HBA(阪本薬品工業製)等が挙げられる。
【0054】
リン酸化合物(D)としては、特に限定されないが、例えば、リン酸、縮合リン酸、リン酸塩、縮合リン酸塩等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、リン酸が好ましい。縮合リン酸としては、例えば、ピロリン酸、トリポリリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ウルトラリン酸等が挙げられる。リン酸塩または縮合リン酸塩における塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0055】
本実施形態の水性表面処理剤中の水の含有量は、特に限定されないが、例えば、50質量%以上99.9質量%以下である。
【0056】
本実施形態の水性表面処理剤のpHは、特に限定されないが、例えば、1以上4以下である。
【0057】
本実施形態の水性表面処理剤は、固形分濃度や乾燥速度を調整するために、必要に応じて、水と混和する有機溶媒をさらに含んでいてもよい。水と混和する有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;N,N’-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノへキシルエーテル等のエーテル系溶媒;1-メチル-2-ピロリドン、1-エチル-2-ピロリドン等のピロリドン系溶媒等が挙げられる。
【0058】
本実施形態の水性表面処理剤は、必要に応じて、表面調整剤、消泡剤、可塑剤、酸化防止剤、抗菌剤、着色剤等の公知の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0059】
表面調整剤としては、例えば、ノニオン性又はカチオン性の界面活性剤、ポリアセチレングリコールのポリエチレンオキサイド又はポリプロピレンオキサイドの付加物、アセチレングリコール化合物等が挙げられる。
【0060】
消泡剤としては、例えば、鉱油系消泡剤、脂肪酸系消泡剤、シリコーン系消泡剤等が挙げられる。
【0061】
可塑剤としては、例えば、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等が挙げられる。
【0062】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。具体的には、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-s-ブチルフェノール、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、トコフェロール、2,6-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシメチルフェノール、n-オクタデシル-β-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、2,6-ジ-t-ブチル-4-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル、プロピルガレート、オクチルガレート、ラウリルガレート、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、2,2’-ジヒドロキシ-3,3’-ビス(α-メチルシクロヘキシル)-5,5’-ジメチルジフェニルメタン、2,2’-メチレンビス(6-α-メチルベンジル-p-クレゾール)、2,2’-エチリデンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-ブチリデンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、トリエチレングリコールビス[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2-t-ブチル-4-メチル-6-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタラート、3,9-ビス[2-{3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’-チオビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2-チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4-ビス(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、N,N’-ヘキサメチレンビス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナミド、N,N’-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、カルシウム(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルモノエチルホスフォネート)、アルキル化ビスフェノール、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス[{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]イソシアヌレート、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)酪酸]エチレン、トリフェニルホスファイト、ジフェニルノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノおよびジノニルフェニル)ホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ジフェニルモノトリデシルホスファイト、2,2’-エチリデンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェノール)フルオロホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、フェニルジトリデシルホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリイソデシルホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、ジブチルハイドロゲンホスファイト、トリラウリルトリチオホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、4,4’-イソプロピリデンジフェノールアルキル(C12~C15)ホスファイト、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル)ジトリデシルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、環状ネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニルホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジ-トリデシルホスファイト-5-t-ブチルフェニル)ブタン、テトラフェニルテトラトリデシルペンタエリスリトールテトラホスファイト、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、3,4,5,6-ジベンゾ-1,2-オキサホスファン-2-オキシド、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル、水素添加ビスフェノールAホスファイトポリマー、3,3’-チオジプロピオン酸ジラウリル(DLTTDP)、3,3’-チオジプロピオン酸ジトリデシル、3,3’-チオジプロピオン酸ジミリスチル(DMTDP)、3,3’-チオジプロピオン酸ジステアリル(DSTDP)、3,3’-チオジプロピオン酸ラウリルステアリル、ペンタエリスリトールテトラキス(β-ラウリルチオプロピオネート)、ステアリルチオプロピオンアミド、ビス[2-メチル-4-(3-n-アルキル(C12~C14)チオプロピオニルオキシ)-5-t-ブチルフェニル]スルフィド、ジオクタデシルジスルフィド、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプト-6-メチルベンズイミダゾール、1,1’-チオビス(2-ナフトール)等が挙げられる。
【0063】
抗菌剤としては、例えば、ジンクピリチオン、2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾール、1,2-ベンズイソチアゾリン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、N-(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、N,N-ジメチル-N’-フェニル-N’-(フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、2-ベンズイミダゾールカルバミン酸メチル、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジスルフィド、N-(トリクロロメチルチオ)-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシイミド、メタホウ酸バリウム、イソチオシアン酸アリル;ポリオキシアルキレントリアルキルアンモニウム、有機シリコーン第4級アンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩;トリ-n-ブチルテトラデシルホスホニウムクロリド等の第4級ホスホニウム塩;ポリフェノール系抗菌剤、フェニルアミド系抗菌剤、ビクアニド系抗菌剤等が挙げられる。
【0064】
着色剤としては、例えば、キナクリドン系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、ジケトピロロピロール系、イソインドリノン系、縮合アゾ系、ベンズイミダゾロン系、モノアゾ系、不溶性アゾ系、ナフトール系、フラバンスロン系、アンスラピリミジン系、キノフタロン系、ピランスロン系、ピラゾロン系、チオインジゴ系、アンスアンスロン系、ジオキサジン系、フタロシアニン系、インダンスロン系等の有機顔料;ニッケルジオキシンイエロー、銅アゾメチンイエロー等の金属錯体;酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛等の金属酸化物;硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の金属塩;カーボンブラック、アルミニウム、雲母等の無機顔料等の顔料、アゾ系、キノリン系、スチルベン系、チアゾール系、インジゴイド系、アントラキノン系、オキサジン系等の染料等が挙げられる。
【0065】
[表面処理金属]
本実施形態の表面処理金属は、本実施形態の水性表面処理剤で金属を表面処理することにより形成される皮膜を有する。
【0066】
金属の形状としては、特に限定されないが、例えば、箔状、板状等が挙げられる。箔状または板状の金属を使用する場合は、本実施形態の水性表面処理剤で片面を表面処理してもよいし、本実施形態の水性表面処理剤で両面を表面処理してもよい。また、本実施形態の水性表面処理剤で両面を表面処理する場合は、同一の水性表面処理剤で両面を表面処理してもよいし、異なる水性表面処理剤で両面を表面処理してもよい。
【0067】
本実施形態の表面処理金属は、皮膜を有する金属がラミネート加工されていてもよい。すなわち、金属が表面処理されて形成された皮膜にラミネートフィルムが接着していてもよい。箔状または板状の金属を使用する場合は、ラミネートフィルムが片面に接着していてもよいし、ラミネートフィルムが両面に接着していてもよい。また、ラミネートフィルムが両面に接着している場合は、同一のラミネートフィルムが両面に接着していてもよいし、異なるラミネートフィルムが両面に接着していてもよい。
【0068】
ラミネートフィルムを構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンイソフタレート系樹脂、共重合ポリエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ナイロン系樹脂、フェノール系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリメタキシリレンアジバミド系樹脂等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0069】
なお、ラミネートフィルムは、一軸延伸されていてもよいし、二軸延伸されていてもよい。
【0070】
ラミネートフィルムとしては、単層フィルムを使用してもよいし、多層フィルムを使用してもよい。多層フィルムは、接着剤を介して、複数のフィルムが積層されていてもよいし、接着剤を介さずに、複数のフィルムが積層されていてもよい。接着剤は、1液硬化型接着剤であってもよく、2液硬化型接着剤であってもよい。接着剤を構成する樹脂成分としては、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、アミノ系樹脂、ゴム、シリコーン系樹脂が挙げられる。接着剤を介さずに、複数のフィルムを積層する方法としては、特に限定されないが、例えば、共押出法、サンドラミ法、サーマルラミネート法等が挙げられる。
【0071】
本実施形態の表面処理金属は、皮膜およびラミネートフィルム以外の層(以下、他の層という)を有していてもよい。他の層は、皮膜とラミネートフィルムの間に存在していてもよいし、ラミネートフィルムの上に存在していてもよい。また、本実施形態の表面処理金属は、皮膜を有する金属にラミネートフィルムが接着せず、皮膜の上に他の層が存在していてもよい。
【0072】
他の層としては、特に限定されないが、例えば、接着層、塗膜、ハードコート層、防汚層、防眩層、意匠層、印刷層、偏光板、着色層、液晶層、導光板、透明導電膜、スペーサー等の公知の層が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0073】
接着層は、一液系の接着剤により形成されていてもよいし、二液系の接着剤により形成されていてもよい。
【0074】
接着層の形成に使用できる接着剤を構成する樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、アミノ系樹脂、クロロプレンゴム系樹脂、ニトリルゴム系樹脂、スチレン-ブタジエンゴム系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ化エチレン-プロピレン共重合体系樹脂等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。併用する樹脂の組み合わせとしては、例えば、ポリウレタン系樹脂と変性ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂と酸変性ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂と金属変性ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂とポリエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂と酸変性ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂と金属変性ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。
【0075】
ポリオレフィン系樹脂は、酸変性ポリオレフィン系樹脂および金属変性ポリオレフィン系樹脂を含む。酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等の不飽和カルボン酸やその無水物で酸変性したポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。酸変性ポリプロピレン系樹脂の市販品としては、三井化学製のアドマー(NB508、NF518、LB548、QB510、QB550、LB458、NF528、LF128、LF308、NF308、NF548、NF558、SF600、SF700、SF731、SF715、SE800、NE060、NE065、NE090、XE070、HE040、QE060、QF500、QF551、QF570、NR106、NS101等)、三井化学製のユニストール(R-200X、R-303XE、E-200EM、A-200PM、A-201PM、H-100、H-200、XP01A、XP01B/11B、XP03F、XP04A等)、三菱化学製のモディック(P502、P512VB、P553A、P674V、P565、P555、P908H511、H503、H514、L502、L504、M142、M512、M522、M545、A543、F502、F573、F534A等)、ユニチカ製のアローベース(SB-1200、SE-1200、SD-1200、DA1010、DC-1010、YA-6010等)等が挙げられる。
【0076】
接着層の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、押出成形法、ディスパージョン法等が挙げられる。
【0077】
本実施形態の表面処理金属の用途としては、例えば、電池用外装材、食品用包装材、食品缶のボディーもしくは蓋材、飲料缶のボディーもしくは蓋材、アルミパウチ等の金属箔を含む軟包装材または表面保護材、電池用セパレーター、タブリード、コンデンサーケース、熱交換器、電子機器筐体、金属製建材、車両のボディー、エンジン部品もしくはシャーシ部品、航空機のボディー、主翼、フレーム、燃料タンク、エンジンタービン、エンジンファンもしくは部品、鉄道車両の車体、台車もしくは部品、船、ロケット部材、自転車部品、自動販売機、エレベーターのかご側板、調速機もしくは巻上機、エスカレーターのステップもしくはインテリアパネル、工作機械、射出成型機、産業用ロボットの構造部材もしくは駆動部材、半導体製造装置、ディスプレイ、潜水艦、信号、自動織機、トンネル掘削機、パイプライン、道路標識、発電機、ごみ焼却炉、排ガス処理装置、モーター、トランス、電子回路、電球、光電子増倍管、ゴルフクラブ、アンテナ、ボルト、ナット、ねじ等が挙げられる。これらの中でも、耐電解液性の観点から、電池用外装材が好ましく、リチウムイオン電池用外装材が特に好ましい。
【0078】
[表面処理方法]
本実施形態の表面処理方法は、本実施形態の水性表面処理剤で金属を表面処理することにより皮膜を形成する皮膜形成工程を含む。
【0079】
皮膜形成工程は、例えば、本実施形態の水性表面処理剤を金属の表面に塗布した後、乾燥させる。
【0080】
本実施形態の水性表面処理剤の塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、ロールコーター塗装、グラビアコーター塗装、リバースコーター塗装、スロットダイコーター塗装、リップコーター塗装、ナイフコーター塗装、ブレードコーター塗装、チャンバードクターコーター塗装、エアナイフコーター塗装、カーテンコート塗装、スピンコート塗装、刷毛塗り塗装、ローラー塗装、バーコーター塗装、ディップ塗装、アプリケーター塗装、スプレー塗装、流し塗り塗装等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0081】
本実施形態の水性表面処理剤の乾燥方法としては、特に限定されないが、例えば、オーブンを用いて乾燥させる方法、熱空気の強制的循環により乾燥させる方法、IHヒーター等を用いた電磁誘導加熱炉により乾燥させる方法等の加熱乾燥方法が挙げられる。加熱乾燥条件は、例えば、40℃以上230℃以下の温度で2秒以上180秒以下である。ここで、加熱乾燥時に設定する風量、風速等の条件は、任意に設定することができる。
【0082】
皮膜形成工程は、本実施形態の水性表面処理剤を金属の表面に塗布しながら、本実施形態の水性表面処理剤を乾燥させてもよい。例えば、本実施形態の水性表面処理剤を、予熱した金属の表面に塗布し、乾燥させてもよい。
【0083】
皮膜形成工程における乾燥後の皮膜の形成量は、0.1mg/m以上5000mg/m以下であることが好ましく、1mg/m以上500mg/m以下であることがさらに好ましい。
【0084】
本実施形態の表面処理方法は、皮膜を有する金属をラミネート加工するラミネート加工工程をさらに含んでいてもよい。
【0085】
皮膜を有する金属をラミネート加工する方法としては、特に限定されないが、例えば、ドライラミネート法、ヒートラミネート法、押出ラミネート法等が挙げられる。
【0086】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨の範囲内で、上記の実施形態を適宜変更してもよい。
【実施例
【0087】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0088】
[実施例1~20、比較例1~10]
三価クロム化合物(A)、水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)、多官能エポキシ化合物(C)、リン酸化合物(D)およびイオン交換水を混合し、水性表面処理剤を得た。
【0089】
なお、比較例2においては、多官能エポキシ化合物(C)の代わりに、固形分10質量%のオキサゾリン基含有水溶性ポリマー(水溶液)として、エポクロスWS-300(日本触媒製)を使用し、水性表面処理剤の全固形分質量に対するオキサゾリン基含有水溶性ポリマーの固形分質量の比を5%とした。
【0090】
表1に、三価クロム化合物(A)、水溶性または水分散性アクリル樹脂(B)、多官能エポキシ化合物(C)、リン酸化合物(D)の種類および含有量を示す。
【0091】
ここで、表1における略号の定義を以下に示す。
A1:硝酸クロム(III)
A2:リン酸クロム2M(日本化学工業製)(Cr(H1.5PO
A3:フッ化クロム(III)三水和物
B1:固形分40質量%、重量平均分子量50,000、固形分酸価780mgKOH/g、固形分水酸基価0mgKOH/gのポリアクリル酸(水溶液)としての、ジュリマーAC-10L(東亞合成製)
B2:固形分20質量%、重量平均分子量800,000、固形分酸価780mgKOH/g、固形分水酸基価0mgKOH/gのポリアクリル酸(水溶液)としての、ジュリマーAC-10H(東亞合成製)
B3:固形分5質量%、重量平均分子量1,000,000、固形分酸価780mgKOH/g、固形分水酸基価0mgKOH/gのポリアクリル酸(水溶液)としての、ジュリマーSH-5(東亞合成製)
B4:固形分40質量%、重量平均分子量5,000、固形分酸価780mgKOH/g、固形分水酸基価0mgKOH/gのポリアクリル酸(水溶液)としての、アロンA-10SL(東亞合成製)
B5:固形分40質量%、重量平均分子量50,000、固形分酸価450mgKOH/g、固形分水酸基価0mgKOH/gのポリアクリル酸ナトリウム(水溶液)としての、B1の部分中和物
C1:グリセロールジグリシジルエーテルおよびグリセロールトリグリシジルエーテルの混合物としての、デナコールEX-313(ナガセケムテックス製)
C2:ソルビトールテトラグリシジルエーテルとしての、デナコールEX-614B(ナガセケムテックス製)
C3:水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテルとしての、SR-HBA(阪本薬品工業製)
D1:リン酸
【0092】
【表1】
【0093】
[一次防錆処理(皮膜の形成)]
水性表面処理剤で、板厚40μmの金属板(表2参照)を表面処理することにより皮膜を形成した。具体的には、サーフクリーナー330(日本ペイント・サーフケミカルズ製)の2質量%希釈液を用いて、65℃で3秒間金属板を脱脂した。次に、バーコーター(#6)を用いて、水性表面処理剤を塗布した後、熱風式オーブンを用いて、素材温度190℃以上で2分間乾燥させた。
【0094】
[ドライラミネート加工]
皮膜が形成された金属板をドライラミネート加工した。具体的には、溶剤系接着剤としての、2液型のポリウレタン系接着剤を、乾燥時の塗布量が3g/mとなるように、金属板の表面に形成された皮膜上に塗布した後、乾燥させ、接着層を形成した。次に、100℃、0.38MPaの条件で、接着層が形成された金属板にポリプロピレンフィルムを加熱圧着させた後、60℃で6日間熟成させた。
【0095】
[ヒートラミネート加工]
皮膜が形成された金属板をヒートラミネート加工した。具体的には、接着剤としての、マレイン酸変性ポリプロピレンディスパージョンを、乾燥時の塗布量が3g/mとなるように、金属板の表面に形成された皮膜上に塗布した後、乾燥させ、接着層を形成した。次に、190℃、0.38MPaの条件で、接着層が形成された金属板にポリプロピレンフィルムを加熱圧着させた。
【0096】
[ラミネートフィルムの密着性]
ラミネート加工された金属板を150mm×15mmのサイズに切断し、試験片を得た。次に、卓上形精密万能試験機オートグラフAGS-5KNX(島津製作所製)を用いて、試験片の金属板からポリプロピレンフィルムを剥離速度50mm/分で180°の角度で剥離する際の剥離強度を測定し、ラミネートフィルムの密着性を評価した。なお、ラミネートフィルムの密着性は、実使用上、剥離強度が10N/15mm以上であることが望ましい。
【0097】
[耐電解液性]
1MのLiPFがエチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/ジエチルカーボネート混合溶媒(体積比1/1/1)に溶解している電解液LBG-00015(キシダ化学製)にイオン交換水を1000ppm添加し、試験用電解液を得た。
【0098】
試験片を85℃の試験用電解液中に14日間浸漬した後、上記と同様にして、剥離強度を測定し、耐電解液性を評価した。なお、耐電解液性は、実使用上、剥離強度が8N/15mm以上であることが望ましい。
【0099】
表2に、ラミネート加工された金属板のラミネートフィルムの密着性および耐電解液性の評価結果を示す。
【0100】
ここで、表2における略号の定義を以下に示す。
Al板:アルミニウム合金板(8079材)
SUS板:ステンレス鋼板(SUS316)
Ni板:ニッケルメッキ鋼板
EG板:電気亜鉛めっき鋼板(母材:SPCC)
GI板:溶融亜鉛メッキ鋼板
SPC板:冷間圧延鋼板
Cu板:圧延銅箔
【0101】
【表2】
【0102】
表2から、実施例1~20の水性表面処理剤で金属板を表面処理すると、ラミネート加工された金属板のラミネートフィルムの密着性および耐電解液性が高いことがわかる。
【0103】
これに対して、比較例1、2、4の水性表面処理剤は、全固形分質量に対する多官能エポキシ化合物(C)の固形分質量の比が、それぞれ0%、0%、20%であるため、ラミネート加工された金属板の耐電解液性が低い。ここで、比較例1の水性表面処理剤は、ドライラミネート加工された金属板の耐電解液性が比較的高いが、ヒートラミネート加工された金属板の耐電解液性が低い。比較例3、7、8の水性表面処理剤は、全固形分質量に対するリン酸化合物(D)の固形分質量の比が、それぞれ0%、3%、30%であるため、ラミネート加工された金属板の耐電解液性が低い。比較例5、6の水性表面処理剤は、全固形分質量に対する三価クロム化合物(A)に含まれる三価クロムの質量の比が、それぞれ2%、18%であるため、ラミネート加工された金属板の耐電解液性が低い。比較例9の水性表面処理剤は、重量平均分子量が5,000であるポリアクリル酸を含むため、ラミネート加工された金属板の耐電解液性が低い。比較例10の水性表面処理剤は、固形分酸価が450mgKOH/gであるポリアクリル酸ナトリウムを含むため、ラミネート加工された金属板の耐電解液性が低い。