(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】高い直線光透過率を有するジルコニア焼結体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/486 20060101AFI20241022BHJP
A61C 5/70 20170101ALI20241022BHJP
A61C 13/083 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C04B35/486
A61C5/70
A61C13/083
(21)【出願番号】P 2022209178
(22)【出願日】2022-12-27
(62)【分割の表示】P 2021503651の分割
【原出願日】2020-03-05
【審査請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2019040981
(32)【優先日】2019-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】工藤 恭敬
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/026809(WO,A1)
【文献】特開2019-026594(JP,A)
【文献】国際公開第2019/026810(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/026811(WO,A1)
【文献】特開2011-073907(JP,A)
【文献】特開2010-150064(JP,A)
【文献】特開2016-117618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/486
A61C 5/70
A61C 5/77
A61C 13/083
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリアを2.0~9.0mol%含み、平均一次粒子径が
5nm以上30nm以下で、かつ100nmを超える粒径を有する粒子が0.35質量%以下であるジルコニア粒子からなり、
重合性単量体及びその重合体の合計含有量が5質量%以下であり、厚さ1.5mmにおけるΔL
*(W-B)が5以上である、ジルコニア成形体。
【請求項2】
常圧下、900~1200℃で焼結した後の3点曲げ強さが500MPa以上である、請求項1に記載のジルコニア成形体。
【請求項3】
常圧下、900~1200℃で焼結した後の厚さ0.5mmにおける波長700nmの光の透過率が40%以上である、請求項1または2に記載のジルコニア成形体。
【請求項4】
常圧下、900~1200℃で焼結した後、180℃熱水中に5時間浸漬させた後の正方晶系および立方晶系に対する単斜晶系の割合が5%以下である、請求項1~3のいずれかに記載のジルコニア成形体。
【請求項5】
200~800℃で焼結した後の厚さ1.5mmにおけるΔL
*(W-B)が5以上である、請求項1~4のいずれかに記載のジルコニア成形体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のジルコニア成形体を用いる、ジルコニア仮焼体の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載のジルコニア成形体を200~800℃で仮焼する工程を含む、請求項
6に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載のジルコニア成形体を用いる、ジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項9】
該ジルコニア成形体を常圧下、900~1200℃で焼結する工程を含む、請求項
8に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い直線光透過率を有するジルコニア焼結体などに関する。
【背景技術】
【0002】
イットリアを含むジルコニア焼結体が、近年、歯科用補綴物等の歯科材料の用途に使用されている。これらの歯科用補綴物は、多くの場合、ジルコニア粒子をプレス成形したりジルコニア粒子を含むスラリーや組成物を用いて成形したりするなどして円盤状や角柱状等の所望の形状を有するジルコニア成形体とし、次いでこれを仮焼して仮焼体(ミルブランク)とし、これを目的とする歯科用補綴物の形状に切削(ミリング)した上で、さらに焼結することにより製造されている。
【0003】
これまでに、ジルコニア焼結体の結晶粒径を小さく均一にすることで直線光透過率が向上することが確認されている(例えば、特許文献1などを参照)。ジルコニア焼結体の結晶粒径を小さく均一にするためには、熱間静水圧プレス(HIP)処理を必要とする。しかし、HIP処理に用いられるHIP装置は高圧ガス製造機器に分類される特殊な装置であるため、簡便に直線光透過率の高いジルコニア焼結体が得られるとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、HIP装置を使用することなく、強度と透光性が共に優れ、かつ直線光透過率が優れたジルコニア焼結体、このようなジルコニア焼結体を与えることのできるジルコニア成形体およびジルコニア仮焼体、ならびに、これらを簡便に製造することのできる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、平均粒径が60nm以下で、かつ100nmを超える粒径を有する粒子が0.5質量%以下であるジルコニア粒子から得られ、厚さ1.5mmにおけるΔL*(W-B)が5以上であるジルコニア成形体を常圧下で焼結させることで、HIP装置を用いることなく直線光透過率が優れたジルコニア焼結体が得られることを見出した。そしてこのようなジルコニア焼結体が歯科用補綴物等の歯科材料などとして特に好適であり、中でも、歯頸部に使用される歯科用補綴物のみならず、臼歯咬合面や前歯切端部に使用される歯科用補綴物としても極めて有用であることを見出した。本発明者らはこれらの知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔19〕に関する。
〔1〕イットリアを2.0~9.0mol%含み、平均一次粒子径が60nm以下で、かつ100nmを超える粒径を有する粒子が0.5質量%以下であるジルコニア粒子からなり、厚さ1.5mmにおけるΔL*(W-B)が5以上である、ジルコニア成形体。
〔2〕常圧下、900~1200℃で焼結した後の3点曲げ強さが500MPa以上である、〔1〕に記載のジルコニア成形体。
〔3〕常圧下、900~1200℃で焼結した後の厚さ0.5mmにおける波長700nmの光の透過率が40%以上である、〔1〕または〔2〕に記載のジルコニア成形体。
〔4〕常圧下、900~1200℃で焼結した後、180℃熱水中に5時間浸漬させた後の正方晶系および立方晶系に対する単斜晶系の割合が5%以下である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のジルコニア成形体。
〔5〕200~800℃で焼結した後の厚さ1.5mmにおけるΔL*(W-B)が5以上である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のジルコニア成形体。
〔6〕イットリアを2.0~9.0mol%含み、厚さ1.5mmにおけるΔL*(W-B)が5以上である、ジルコニア仮焼体。
〔7〕常圧下、900~1200℃で焼結した後の3点曲げ強さが500MPa以上である、〔6〕に記載のジルコニア仮焼体。
〔8〕常圧下、900~1200℃で焼結した後の厚さ0.5mmにおける波長700nmの光の透過率が40%以上である、〔6〕または〔7〕に記載のジルコニア仮焼体。
〔9〕常圧下、900~1200℃で焼結した後、180℃熱水中に5時間浸漬させた後の正方晶系および立方晶系に対する単斜晶系の割合が5%以下である、〔6〕~〔8〕のいずれかに記載のジルコニア仮焼体。
〔10〕〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のジルコニア成形体を用いる、ジルコニア仮焼体の製造方法。
〔11〕〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のジルコニア成形体を200~800℃で仮焼する工程を含む、〔10〕に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
〔12〕蛍光剤と、2.0~9.0mol%のイットリアを含み、厚さ1.0mmにおける直線光透過率が1%以上である、ジルコニア焼結体。
〔13〕3点曲げ強さが500MPa以上である、〔12〕に記載のジルコニア焼結体。
〔14〕厚さ0.5mmにおける波長700nmの光の透過率が40%以上である、〔12〕または〔13〕に記載のジルコニア焼結体。
〔15〕180℃熱水中に5時間浸漬させた後の正方晶系および立方晶系に対する単斜晶系の割合が5%以下である、〔12〕~〔14〕のいずれかに記載のジルコニア焼結体。
〔16〕〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のジルコニア成形体を用いる、ジルコニア焼結体の製造方法。
〔17〕該ジルコニア成形体を常圧下、900~1200℃で焼結する工程を含む、〔16〕に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
〔18〕〔6〕~〔9〕のいずれかに記載のジルコニア仮焼体を用いる、ジルコニア焼結体の製造方法。
〔19〕該ジルコニア仮焼体を常圧下、900~1200℃で焼結する工程を含む、〔18〕に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、HIP装置を用いることなく、強度と透光性が共に優れ、直線光透過率が優れたジルコニア焼結体、このようなジルコニア焼結体を与えることのできるジルコニア成形体およびジルコニア仮焼体、ならびに、これらを簡便に製造することのできる製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、イットリア(Y2O3)を2.0~9.0mol%含み、平均一次粒子径が60nm以下で、かつ100nmを超える粒径を有する粒子が0.5質量%以下であるジルコニア粒子からなり、厚さ1.5mmにおけるΔL*(W-B)が5以上である、ジルコニア成形体を含む。該ジルコニア成形体を用いることにより、強度と透光性が共に優れ、直線光透過率が優れたジルコニア焼結体を得ることができる。また、本発明は、イットリアを2.0~9.0mol%含み、厚さ1.5mmにおけるΔL*(W-B)が5以上である、ジルコニア仮焼体を含む。該ジルコニア仮焼体を用いることによっても、該ジルコニア焼結体を得ることができる。以下、本発明の実施形態として、まずジルコニア焼結体について説明する。本発明のジルコニア焼結体は、蛍光剤と、2.0~9.0mol%のイットリアを含み、厚さ1.0mmにおける直線光透過率が1%以上である。なお、以下の記載は本発明を限定するものではない。
【0010】
〔ジルコニア焼結体〕
本発明のジルコニア焼結体は蛍光剤を含む。ジルコニア焼結体が蛍光剤を含むことにより蛍光性を有する。蛍光剤の種類に特に制限はなく、いずれかの波長の光で蛍光を発することのできるもののうちの1種または2種以上を用いることができる。このような蛍光剤としては金属元素を含むものが挙げられる。当該金属元素としては、例えば、Ga、Bi、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Tmなどが挙げられる。蛍光剤はこれらの金属元素のうちの1種を単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。これらの金属元素の中でも、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、Ga、Bi、Eu、Gd、Tmが好ましく、Bi、Euがより好ましい。本発明のジルコニア焼結体を製造する際に使用される蛍光剤としては、例えば、上記金属元素の酸化物、水酸化物、酢酸塩、硝酸塩などが挙げられる。また蛍光剤は、Y2SiO5:Ce、Y2SiO5:Tb、(Y,Gd,Eu)BO3、Y2O3:Eu、YAG:Ce、ZnGa2O4:Zn、BaMgAl10O17:Euなどであってもよい。
【0011】
ジルコニア焼結体における蛍光剤の含有率に特に制限はなく、蛍光剤の種類やジルコニア焼結体の用途などに応じて適宜調整することができるが、歯科用補綴物として好ましく使用できるなどの観点から、ジルコニア焼結体に含まれるジルコニアの質量に対して、蛍光剤に含まれる金属元素の酸化物換算で、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましく、また、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。当該含有率が上記下限以上であることにより、ヒトの天然歯と比較しても蛍光性に劣ることがなく、また、当該含有率が上記上限以下であることにより、透光性や強度の低下を抑制することができる。
【0012】
本発明のジルコニア焼結体は着色剤を含んでいてもよい。ジルコニア焼結体が着色剤を含むことにより着色されたジルコニア焼結体となる。着色剤の種類に特に制限はなく、セラミックスを着色するために一般的に使用される公知の顔料や、公知の歯科用の液体着色剤などを用いることができる。着色剤としては金属元素を含むものなどが挙げられ、具体的には、鉄、バナジウム、プラセオジム、エルビウム、クロム、ニッケル、マンガン等の金属元素を含む酸化物、複合酸化物、塩などが挙げられる。また市販されている着色剤を用いることもでき、例えば、Zirkonzahn社製のPrettau Colour Liquidなどを用いることもできる。ジルコニア焼結体は1種の着色剤を含んでいてもよいし、2種以上の着色剤を含んでいてもよい。
【0013】
ジルコニア焼結体における着色剤の含有率に特に制限はなく、着色剤の種類やジルコニア焼結体の用途などに応じて適宜調整することができるが、歯科用補綴物として好ましく使用できるなどの観点から、ジルコニア焼結体に含まれるジルコニアの質量に対して、着色剤に含まれる金属元素の酸化物換算で、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましく、また、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下、さらには0.05質量%以下であってもよい。
【0014】
本発明によれば直線光透過率が優れたジルコニア焼結体が得られる。当該ジルコニア焼結体における透光性の調整のため、本発明のジルコニア焼結体は透光性調整剤を含んでいてもよい。具体的な透光性調整剤としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、二酸化ケイ素、ジルコン、リチウムシリケート、リチウムジシリケートなどが挙げられる。ジルコニア焼結体は1種の透光性調整剤を含んでいてもよいし、2種以上の透光性調整剤を含んでいてもよい。
【0015】
ジルコニア焼結体における透光性調整剤の含有率に特に制限はなく、透光性調整剤の種類やジルコニア焼結体の用途などに応じて適宜調整することができるが、歯科用補綴物として好ましく使用できるなどの観点から、ジルコニア焼結体に含まれるジルコニアの質量に対して0.1質量%以下であることが好ましい。
【0016】
本発明のジルコニア焼結体はイットリアを2.0~9.0mol%含む。ジルコニア焼結体におけるイットリアの含有率が2.0mol%未満の場合には十分な透光性が得られない。また、ジルコニア焼結体におけるイットリアの含有率が9.0mol%を超える場合には強度が低下する。透光性および強度により優れたジルコニア焼結体が得られることなどから、ジルコニア焼結体におけるイットリアの含有率は、3.0mol%以上であることが好ましく、4.0mol%以上であることがより好ましく、また、8.0mol%以下であることが好ましく、7.0mol%以下であることがより好ましい。なお、ジルコニア焼結体におけるイットリアの含有率は、ジルコニアとイットリアの合計モル数に対するイットリアのモル数の割合(mol%)を意味する。
【0017】
本発明のジルコニア焼結体における結晶粒径は180nm以下であることが好ましい。結晶粒径が180nmを超える場合には十分な透光性が得られないおそれがある。透光性により優れたジルコニア焼結体が得られることなどから、結晶粒径は140nm以下であることが好ましく、120nm以下であることがより好ましく、110nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であってもよい。結晶粒径の下限に特に制限はないが、結晶粒径は、例えば、50nm以上、さらには70nm以上とすることができる。なお、ジルコニア焼結体における結晶粒径は、ジルコニア焼結体断面の電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)写真を撮影し、その撮影画像にある任意の粒子を10個選択し、各々の円相当径(同一面積の真円の直径)の平均値として求めることができる。
【0018】
本発明のジルコニア焼結体は強度に優れる。本発明のジルコニア焼結体の3点曲げ強さは、500MPa以上であり、600MPa以上であることが好ましく、650MPa以上であることがより好ましく、700MPa以上であることがさらに好ましく、800MPa以上であることが特に好ましい。本発明のジルコニア焼結体がこのような3点曲げ強さを有することで、例えば歯科用補綴物として用いた際に口腔内での破折などを抑制することができる。当該3点曲げ強さの上限に特に制限はないが、当該3点曲げ強さは、例えば、1500MPa以下、さらには1000MPa以下とすることができる。なお、ジルコニア焼結体の3点曲げ強さは、ISO 6872:2015に準拠して測定することができる。
【0019】
本発明のジルコニア焼結体は透光性に優れる。本発明のジルコニア焼結体は、厚さ0.5mmにおける波長700nmの光の透過率が40%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましく、46%以上、48%以上、50%以上、さらには52%以上であってもよい。当該透過率が上記のような範囲内であることにより、例えば歯科用補綴物として用いる場合に、切端部分に求められる透光性を満足しやすくなる。当該透過率の上限に特に制限はないが、当該透過率は、例えば、60%以下、さらには57%以下とすることができる。なお、ジルコニア焼結体の厚さ0.5mmにおける波長700nmの光の透過率は、分光光度計を用いて測定すればよく、例えば、分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、「日立分光光度計 U-3900H形」)を用い、光源より発生した光を試料に透過および散乱させ、積分球を利用して測定することができる。当該測定においては、一旦、300~750nmの波長領域で透過率を測定した上で、波長700nmの光についての透過率を求めてもよい。測定に使用される試料としては、両面を鏡面研磨加工した直径15mm×厚さ0.5mmの円盤状のジルコニア焼結体を用いることができる。
【0020】
本発明のジルコニア焼結体は直線光透過率に優れる。本発明のジルコニア焼結体は、厚さ1.0mmにおける直線光透過率が1%以上であることが重要であり、3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、7%以上であることがさらに好ましく、さらには10%以上であってもよい。当該直線光透過率が上記のような範囲内であることにより、例えば歯科用補綴物として用いる場合に、切端部分に求められる透光性を満足しやすくなる。当該直線光透過率の上限に特に制限はないが、当該直線光透過率は、例えば、60%以下、さらには50%以下とすることができる。なお、ジルコニア焼結体の厚さ1.0mmにおける直線光透過率は、濁度計を用いて測定すればよく、例えば、濁度計(日本電色工業株式会社製、「Haze Meter NDH 4000」)を用い、光源より発生した光を試料に透過および散乱させ、積分球を利用して測定することができる。当該測定においては、直線光透過率はISO 13468-1:1996およびJIS K 7361-1:1997に準じて測定することが好ましく、ヘイズはISO 14782-1:1999およびJIS K 7136:2000に準じて測定することが好ましい。測定に使用される試料としては、両面を鏡面研磨加工した直径15mm×厚さ1.0mmの円盤状のジルコニア焼結体を用いることができる。
【0021】
本発明のジルコニア焼結体の主結晶相は正方晶系および立方晶系のいずれであってもよいが、立方晶系の割合が高い方が好ましい。本発明のジルコニア焼結体において、30%以上が立方晶系であることが好ましく、50%以上が立方晶系であることがより好ましい。ジルコニア焼結体における立方晶系の割合は結晶相の解析によって求めることができる。具体的には、ジルコニア焼結体の表面を鏡面加工した部分について、X線回折(XRD;X-Ray Diffraction)測定を行い、以下の式により求めることができる。
fc = 100 × Ic/(Im+It+Ic)
ここで、fcはジルコニア焼結体における立方晶系の割合(%)を表し、Imは2θ=28°付近のピーク(単斜晶系の(11-1)面に基づくピーク)の高さを表し、Itは2θ=30°付近のピーク(正方晶系の(111)面に基づくピーク)の高さを表し、Icは2θ=30°付近のピーク(立方晶系の(111)面に基づくピーク)の高さを表す。なお、2θ=30°付近のピークが、正方晶系の(111)面および立方晶系の(111)面の混相に基づくピークとして現れ、正方晶系の(111)面に基づくピークと立方晶系の(111)面に基づくピークとの分離が困難な場合には、リートベルト法を採用するなどして正方晶系と立方晶系の比を求めた上で、これを当該混相に基づくピークの高さ(It+c)に乗じることにより、ItおよびIcを求めることができる。
【0022】
本発明のジルコニア焼結体は、180℃熱水中に5時間浸漬させた後の正方晶系および立方晶系に対する単斜晶系の割合が5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。当該割合が上記範囲内であることにより、例えば歯科用補綴物として用いる場合に、体積の経年変化を抑制できて破壊を防止することができる。当該割合は、ジルコニア焼結体の表面を鏡面加工し、これを180℃の熱水中に5時間浸漬させた後、上記部分について、X線回折(XRD)測定を行い、以下の式により求めることができる。
fm = 100 × Im/(It+c)
ここで、fmはジルコニア焼結体における、180℃熱水中に5時間浸漬させた後の正方晶系および立方晶系に対する単斜晶系の割合(%)を表し、Imは2θ=28°付近のピーク(単斜晶系の(11-1)面に基づくピーク)の高さを表し、It+cは2θ=30°付近のピーク(正方晶系の(111)面および立方晶系の(111)面の混相に基づくピーク)の高さを表す。なお、2θ=30°付近のピークが、正方晶系の(111)面に基づくピークと立方晶系の(111)面に基づくピークとに分離して現れ、上記It+cを特定するのが困難な場合には、正方晶系の(111)面に基づくピークの高さ(It)と立方晶系の(111)面に基づくピークの高さ(Ic)との和を上記It+cとすることができる。
【0023】
本発明のジルコニア焼結体の製造方法は、後述する本発明のジルコニア成形体を用いることを特徴とし、該ジルコニア成形体を常圧下、900~1200℃で焼結する工程を含む製造方法が好ましい。また、後述する本発明のジルコニア仮焼体を用いてもよく、該ジルコニア仮焼体を常圧下、900~1200℃で焼結する工程を含む製造方法が好ましい。このような製造方法により、強度と透光性が共に優れ、直線光透過率が優れた本発明のジルコニア焼結体を容易に製造することができる。
【0024】
〔ジルコニア成形体〕
本発明のジルコニア成形体は、イットリアを2.0~9.0mol%含み、平均一次粒子径が60nm以下で、かつ100nmを超える粒径を有する粒子が0.5質量%以下であるジルコニア粒子からなり、厚さ1.5mmにおけるΔL*(W-B)が5以上であることを特徴とする。該ジルコニア成形体を用いることにより、強度と透光性が共に優れ、直線光透過率が優れたジルコニア焼結体を得ることができる。
【0025】
本発明のジルコニア成形体は高い透光性を有しており、このようなジルコニア成形体から直線光透過率の高いジルコニア焼結体および直線光透過率の高いジルコニア焼結体を作製可能なジルコニア仮焼体を作製することができる。具体的には、本発明のジルコニア成形体は、厚さ1.5mmにおけるΔL*(W-B)が5以上であることが重要であり、8以上であることが好ましく、さらには10以上であってもよい。ΔL*(W-B)は、白背景での明度(L*)と、黒背景での明度(L*)との差を意味する。具体的には、白背景でのL*値(JIS Z 8781-4:2013 測色-第4部:CIE 1976 L*a*b*色空間)と、黒背景でのL*値の差を意味する。白背景とは、JIS K 5600-4-1:1999第4部第1節に記載の隠ぺい率試験紙の白部を意味し、黒背景とは、前記隠ぺい率試験紙の黒部を意味する。当該ΔL*(W-B)が上記のような範囲内であることにより、常圧下で焼結した際に直線光透過率の高いジルコニア焼結体が得られる。当該ΔL*(W-B)の上限に特に制限はないが、例えば、30以下、審美性の点から、さらには25以下とすることができる。なお、ジルコニア成形体の厚さ1.5mmにおけるΔL*(W-B)は分光測色計を用いて測定でき、例えば、分光測色計(コニカミノルタジャパン株式会社製、「CM-3610A」、幾何条件c(di:8°、de:8°)、拡散照明:8°受光、測定モードSCI、測定径/照明径=φ8mm/φ11mm)を用い、測定し、コニカミノルタ株式会社製色彩管理ソフトウェア「SpectraMagic NX ver.2.5」を使用して算出することができる。当該測定においては、光源はF11を用いることで求めることができる。測定に使用される試料としては、直径20mm×厚さ1.5mmの円盤状のジルコニア成形体を用いることができる。
【0026】
ジルコニア焼結体に蛍光剤を含ませる場合には、ジルコニア成形体において蛍光剤を含むことが好ましい。本発明のジルコニア成形体における蛍光剤の含有率は、得られるジルコニア焼結体における蛍光剤の含有率などに応じて適宜調整することができる。ジルコニア成形体に含まれる蛍光剤の具体的な含有率は、ジルコニア成形体に含まれるジルコニアの質量に対して、蛍光剤に含まれる金属元素の酸化物換算で、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましく、また、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
ジルコニア焼結体に着色剤を含ませる場合には、ジルコニア成形体において着色剤を含むことが好ましい。本発明のジルコニア成形体における着色剤の含有率は、得られるジルコニア焼結体における着色剤の含有率などに応じて適宜調整することができる。ジルコニア成形体に含まれる着色剤の具体的な含有率は、ジルコニア成形体に含まれるジルコニアの質量に対して、着色剤に含まれる金属元素の酸化物換算で、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましく、また、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下、さらには0.05質量%以下であってもよい。
【0028】
ジルコニア焼結体に透光性調整剤を含ませる場合には、ジルコニア成形体において透光性調整剤を含むことが好ましい。本発明のジルコニア成形体における透光性調整剤の含有率は、得られるジルコニア焼結体における透光性調整剤の含有率などに応じて適宜調整することができる。ジルコニア成形体に含まれる透光性調整剤の具体的な含有率は、ジルコニア成形体に含まれるジルコニアの質量に対して0.1質量%以下であることが好ましい。
【0029】
本発明のジルコニア成形体に含まれるイットリアの含有率は、2.0~9.0mol%の範囲内で、得られるジルコニア焼結体におけるイットリアの含有率と同じものとすればよく、ジルコニア成形体におけるイットリアの具体的な含有率は、2.0mol%以上であり、3.0mol%以上であることが好ましく、4.0mol%以上であることがより好ましく、また、9.0mol%以下であり、8.0mol%以下であることが好ましく、7.0mol%以下であることがより好ましい。なお、ジルコニア成形体におけるイットリアの含有率は、ジルコニアとイットリアの合計モル数に対するイットリアのモル数の割合(mol%)を意味する。
【0030】
本発明のジルコニア成形体の密度に特に制限はなく、ジルコニア成形体の製造方法などによっても異なるが、緻密なジルコニア焼結体を得ることができることなどから、当該密度は、3.0g/cm3以上であることが好ましく、3.2g/cm3以上であることがより好ましく、3.4g/cm3以上であることがさらに好ましい。当該密度の上限に特に制限はないが、例えば、6.0g/cm3以下、さらには5.8g/cm3以下とすることができる。
【0031】
本発明のジルコニア成形体の形状に特に制限はなく、用途に応じて所望の形状とすることができるが、歯科用補綴物等の歯科材料を製造するためのミルブランクとして使用するジルコニア仮焼体を得る場合における取り扱い性などを考慮すると、円盤状、角柱状(直方体状等)などが好ましい。なお、後述するように、ジルコニア成形体の製造において、光造形法などを採用すれば最終的に得られるジルコニア焼結体における所望の形状に対応した形状をジルコニア成形体に付与することができるが、本発明はこのような所望の形状を有するジルコニア成形体も包含する。また、ジルコニア成形体は単層構造であってもよいが、多層構造であってもよい。多層構造とすることで最終的に得られるジルコニア焼結体を多層構造とすることができ、その透光性などの物性を局所的に変化させることができる。
【0032】
本発明のジルコニア成形体は、取り扱い性の観点などから、その2軸曲げ強さが、2~10MPaの範囲内であることが好ましく、5~8MPaの範囲内であることがより好ましい。なお、ジルコニア成形体の2軸曲げ強さは、JIS T 6526:2018に準拠して測定することができる。
【0033】
本発明のジルコニア成形体は、常圧下、900~1200℃で2時間焼結した後(ジルコニア焼結体にした後)の結晶粒径が180nm以下であることが好ましい。これにより透光性に優れた本発明のジルコニア焼結体を容易に製造することができる。透光性により優れたジルコニア焼結体が得られることなどから、当該結晶粒径は140nm以下であることがより好ましく、120nm以下であることがさらに好ましく、110nm以下であることがよりさらに好ましく、100nm以下であってもよい。当該結晶粒径の下限に特に制限はないが、当該結晶粒径は、例えば、50nm以上、さらには70nm以上とすることができる。なお当該結晶粒径の測定方法は、ジルコニア焼結体における結晶粒径の説明として上述したとおりである。
【0034】
本発明のジルコニア成形体は、常圧下、900~1200℃で焼結した後(ジルコニア焼結体にした後)の3点曲げ強さが500MPa以上であることが好ましい。これにより強度に優れた本発明のジルコニア焼結体を容易に製造することができる。強度により優れたジルコニア焼結体が得られることなどから、当該3点曲げ強さは600MPa以上であることがより好ましく、650MPa以上であることがさらに好ましく、700MPa以上であることがよりさらに好ましく、800MPa以上であることが特に好ましい。当該3点曲げ強さの上限に特に制限はないが、当該3点曲げ強さは、例えば、1500MPa以下、さらには1000MPa以下とすることができる。なお、当該3点曲げ強さの測定方法は、ジルコニア焼結体における3点曲げ強さの説明として上述したとおりである。
【0035】
本発明のジルコニア成形体は、常圧下、900~1200℃で焼結した後(ジルコニア焼結体にした後)の厚さ0.5mmにおける波長700nmの光の透過率が40%以上であることが好ましい。これにより透光性に優れた本発明のジルコニア焼結体を容易に製造することができる。透光性により優れたジルコニア焼結体が得られることなどから、当該透過率は、45%以上であることがより好ましく、46%以上であることがさらに好ましく、48%以上であることがよりさらに好ましく、50%以上であることが特に好ましく、さらには52%以上であってもよい。当該透過率の上限に特に制限はないが、当該透過率は、例えば、60%以下、さらには57%以下とすることができる。なお、当該透過率の測定方法は、ジルコニア焼結体における厚さ0.5mmにおける波長700nmの光の透過率の説明として上述したとおりである。
【0036】
本発明のジルコニア成形体は、常圧下、900~1200℃で焼結した後(ジルコニア焼結体にした後)の厚さ1.0mmにおける直線光透過率が1%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましく、5%以上がさらに好ましく、7%以上がよりさらに好ましく、さらには10%以上であってもよい。当該直線光透過率が上記のような範囲内であることにより、例えば歯科用補綴物として用いる場合に、切端部分に求められる透光性を満足しやすくなる。当該直線光透過率の上限に特に制限はないが、当該直線光透過率は、例えば、60%以下、さらには50%以下とすることができる。なお、当該直線光透過率の測定方法は、ジルコニア焼結体における厚さ1.0mmにおける直線光透過率の説明として上述したとおりである。
【0037】
〔ジルコニア成形体の製造方法〕
本発明のジルコニア成形体の製造方法は、本発明の効果を奏する限り特に制限はないが、透光性および強度が共に優れ、直線光透過率に優れた本発明のジルコニア焼結体を容易に得ることができることから、ジルコニア粒子を成形する成形工程を有する方法であることが好ましい。
【0038】
使用されるジルコニア粒子に含まれるイットリアの含有率は、得られるジルコニア成形体、ひいてはジルコニア仮焼体およびジルコニア焼結体におけるイットリアの含有率と同じものとすることが好ましく、ジルコニア粒子におけるイットリアの具体的な含有率は、2.0mol%以上であることが好ましく、3.0mol%以上であることがより好ましく、4.0mol%以上であることがさらに好ましく、また、9.0mol%以下であることが好ましく、8.0mol%以下であることがより好ましく、7.0mol%以下であることがさらに好ましい。なお、ジルコニア粒子におけるイットリアの含有率は、ジルコニアとイットリアの合計モル数に対するイットリアのモル数の割合(mol%)を意味する。
【0039】
使用されるジルコニア粒子は、平均一次粒子径が60nm以下で、かつ粒度分布として、ジルコニア粒子の総量に対して、100nmを超える粒径を有するジルコニア粒子が0.5質量%以下であることが重要である。これにより、本発明のジルコニア成形体、ひいては本発明のジルコニア仮焼体およびジルコニア焼結体を容易に得ることができる。本発明のジルコニア成形体、ひいては本発明のジルコニア仮焼体およびジルコニア焼結体の製造の容易さなどの観点から、得られるジルコニア成形体に含まれるジルコニア粒子の平均一次粒子径は、50nm以下が好ましく、30nm以下であることがより好ましく、20nm以下であることがさらに好ましく、10nm以下であってもよく、また、1nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましい。本発明のジルコニア成形体、ひいては本発明のジルコニア仮焼体およびジルコニア焼結体の製造の容易さ、所望の直線光透過率が容易に得られることなどの観点から、100nmを超える粒径を有するジルコニア粒子は0.3質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましく、0.05質量%以下であってもよい。なお、ジルコニア粒子の平均一次粒子径は、例えば、ジルコニア粒子(一次粒子)を透過型電子顕微鏡(TEM)にて写真撮影し、得られた画像上で任意の粒子100個について各粒子の粒子径(最大径)を測定し、それらの平均値として求めることができる。100nmを超える粒径を有するジルコニア粒子の含有率は、例えばゼータ電位測定装置(例えばリアルタイムゼータ電位・ナノ粒子径測定装置(ベックマン・コールター株式会社製、商品名「DelsaMax PRO」)、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子株式会社製、商品名「ELSZ-2000ZS」))などによって測定することができる。例えば、粒子を分級する前後のジルコニア粒子の量を両方測定し、測定値の差分(質量%)が100nmを超える粒径を有するジルコニア粒子に相当する。
【0040】
ジルコニア粒子の調製方法に特に制限はなく、例えば、粗粒子を粉砕して微粉化するブレークダウンプロセス、原子ないしイオンから核生成と成長過程により合成するビルディングアッププロセスなどを採用することができる。このうち、高純度の微細なジルコニア粒子を得るためには、ビルディングアッププロセスが好ましい。
【0041】
ブレークダウンプロセスは、例えば、ボールミルやビーズミルなどで粉砕することにより行うことができる。この際、微小サイズの粉砕メディアを使用することが好ましく、例えば、100μm以下の粉砕メディアを使用することが好ましい。また、所望のΔL*(W-B)および直線光透過率が得られる点から、粗粒子を粉砕後、得られたジルコニア粒子を分級することが好ましい。分級には、公知の方法および装置を使用でき、例えば、多孔質膜(100nmの孔径を有するメンブレンフィルター等)、分級装置(湿式分級装置、乾式分級装置)等が挙げられる。
【0042】
一方、ビルディングアッププロセスとしては、例えば、蒸気圧の高い金属イオンの酸素酸塩または有機金属化合物を気化させながら熱分解して酸化物を析出させる気相熱分解法;蒸気圧の高い金属化合物の気体と反応ガスとの気相化学反応により合成を行う気相反応法;原料を加熱し気化させ、所定圧力の不活性ガス中で急冷することにより蒸気を微粒子状に凝縮させる蒸発濃縮法;融液を小液滴として冷却固化して粉末とする融液法;溶媒を蒸発させ液中濃度を高め過飽和状態にして析出させる溶媒蒸発法;沈殿剤との反応や加水分解により溶質濃度を過飽和状態とし、核生成と成長過程を経て酸化物や水酸化物等の難溶性化合物を析出させる沈殿法などが挙げられる。
【0043】
沈殿法はさらに、化学反応により沈殿剤を溶液内で生成させ、沈殿剤濃度の局所的不均一をなくす均一沈殿法;液中に共存する複数の金属イオンを沈殿剤の添加によって同時に沈殿させる共沈法;金属塩溶液、金属アルコキシド等のアルコール溶液から加水分解によって酸化物または水酸化物を得る加水分解法;高温高圧の流体から酸化物または水酸化物を得るソルボサーマル合成法などに細別され、ソルボサーマル合成法は、水を溶媒として用いる水熱合成法、水や二酸化炭素等の超臨界流体を溶媒として用いる超臨界合成法などにさらに細別される。
【0044】
いずれのビルディングアッププロセスについても、より微細なジルコニア粒子を得るために析出速度を速めることが好ましい。また、所望のΔL*(W-B)および直線光透過率が得られる点から、得られたジルコニア粒子を分級することが好ましい。分級には、公知の方法および装置を使用でき、例えば、多孔質膜(100nmの孔径を有するメンブレンフィルター等)、分級装置(湿式分級装置、乾式分級装置)等が挙げられる。
【0045】
ビルディングアッププロセスにおけるジルコニウム源としては、例えば、硝酸塩、酢酸塩、塩化物、アルコキシドなどを用いることができ、具体的には、オキシ塩化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硝酸ジルコニルなどを用いることができる。
【0046】
また、ジルコニア粒子に含まれるイットリアの含有率を上記範囲とするためにジルコニア粒子の製造過程でイットリアを配合することができ、例えばジルコニア粒子にイットリアを固溶させてもよい。イットリウム源としては、例えば、硝酸塩、酢酸塩、塩化物、アルコキシドなどを用いることができ、具体的には、塩化イットリウム、酢酸イットリウム、硝酸イットリウムなどを用いることができる。
【0047】
ジルコニア粒子は、必要に応じて、酸性基を有する有機化合物;飽和脂肪酸アミド、不飽和脂肪酸アミド、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド等の脂肪酸アミド;シランカップリング剤(有機ケイ素化合物)、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物等の有機金属化合物などの公知の表面処理剤で予め表面処理されていてもよい。ジルコニア粒子を表面処理すると、後述するような、分散媒が25℃における表面張力が50mN/m以下の液体を含むスラリーを用いてジルコニア粒子および蛍光剤を含む粉末を調製する場合にこのような液体との混和性を調整したり、また、後述するような、ジルコニア粒子、蛍光剤および重合性単量体を含む組成物を重合させる工程を有する方法によりジルコニア成形体を製造する場合などにおいて、ジルコニア粒子と重合性単量体との混和性を調整したりすることができる。上記の表面処理剤の中でも、25℃における表面張力が50mN/m以下の液体との混和性に優れ、また、ジルコニア粒子と重合性単量体との化学結合性を高めて得られるジルコニア成形体の強度を向上させることができることなどから、酸性基を有する有機化合物が好ましい。
【0048】
酸性基を有する有機化合物としては、例えば、リン酸基、カルボン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基等の酸性基を少なくとも1個有する有機化合物が挙げられ、これらの中でも、リン酸基を少なくとも1個有するリン酸基含有有機化合物、カルボン酸基を少なくとも1個有するカルボン酸基含有有機化合物が好ましく、リン酸基含有有機化合物がより好ましい。ジルコニア粒子は1種の表面処理剤で表面処理されていてもよいし、2種以上の表面処理剤で表面処理されていてもよい。ジルコニア粒子を2種以上の表面処理剤で表面処理する場合には、それによる表面処理層は、2種以上の表面処理剤の混合物の表面処理層であってもよいし、複数の表面処理層を積層した複層構造の表面処理層であってもよい。
【0049】
リン酸基含有有機化合物としては、例えば、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシ-(1-ヒドロキシメチル)エチル〕ハイドロジェンホスフェート、およびこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0050】
カルボン酸基含有有機化合物としては、例えば、コハク酸、シュウ酸、オクタン酸、デカン酸、ステアリン酸、ポリアクリル酸、4-メチルオクタン酸、ネオデカン酸、ピバリン酸、2,2-ジメチル酪酸、3,3-ジメチル酪酸、2,2-ジメチル吉草酸、2,2-ジエチル酪酸、3,3-ジエチル酪酸、ナフテン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイルグリシン、N-(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、O-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-o-アミノ安息香酸、p-ビニル安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、N-(メタ)アクリロイル-4-アミノサリチル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレエート、2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(通称「MEEAA」)、2-(2-メトキシエトキシ)酢酸(通称「MEAA」)、コハク酸モノ[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]エステル、マレイン酸モノ[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]エステル、グルタル酸モノ[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]エステル、マロン酸、グルタル酸、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキサン-1,1-ジカルボン酸、9-(メタ)アクリロイルオキシノナン-1,1-ジカルボン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシデカン-1,1-ジカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデカン-1,1-ジカルボン酸、12-(メタ)アクリロイルオキシドデカン-1,1-ジカルボン酸、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデカン-1,1-ジカルボン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-3’-(メタ)アクリロイルオキシ-2’-(3,4-ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0051】
また、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基等の、上記以外の酸性基を少なくとも1個有する有機化合物としては、例えば、国際公開第2012/042911号などに記載のものを用いることができる。
【0052】
飽和脂肪酸アミドとしては、例えば、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミドなどが挙げられる。不飽和脂肪酸アミドとしては、例えば、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどが挙げられる。飽和脂肪酸ビスアミドとしては、例えば、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミドなどが挙げられる。不飽和脂肪酸ビスアミドとしては、例えば、エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ジオレイルセバシン酸アミドなどが挙げられる。
【0053】
シランカップリング剤(有機ケイ素化合物)としては、例えば、R1
nSiX4-nで表される化合物などが挙げられる(式中、R1は炭素数1~12の置換または無置換の炭化水素基であり、Xは炭素数1~4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子または水素原子であり、nは0~3の整数であり、ただし、R1およびXが複数存在する場合は、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい)。
【0054】
シランカップリング剤(有機ケイ素化合物)の具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチル-3,3,3-トリフルオロプロピルジメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメチルシラノール、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、トリメチルブロモシラン、ジエチルシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12、例、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等〕、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリエトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12、例、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等〕などが挙げられる。なお、本明細書において「(メタ)アクリロイル」との表記は、メタクリロイルとアクリロイルの両者を包含する意味で用いられる。
【0055】
これらの中でも、官能基を有するシランカップリング剤が好ましく、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12〕、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリエトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12〕、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
【0056】
有機チタン化合物としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラn-ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネートなどが挙げられる。
【0057】
有機ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムn-ブトキシド、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニルアセテートなどが挙げられる。
【0058】
有機アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウム有機酸塩キレート化合物などが挙げられる。
【0059】
表面処理の具体的な方法に特に制限はなく、公知の方法を採用することができ、例えば、ジルコニア粒子を激しく撹拌しながら上記の表面処理剤をスプレー添加する方法や、適当な溶剤にジルコニア粒子と上記の表面処理剤とを分散または溶解させた後、溶剤を除去する方法などを採用することができる。溶剤は後述するような25℃における表面張力が50mN/m以下の液体を含む分散媒であってもよい。また、ジルコニア粒子と上記の表面処理剤とを分散または溶解させた後、還流や高温高圧処理(オートクレーブ処理等)をしてもよい。
【0060】
本発明において、ジルコニア粒子を成形する成形工程を有する方法によりジルコニア成形体を製造する場合における当該成形工程の種類に特に制限はないが、本発明のジルコニア成形体、ひいては本発明のジルコニア仮焼体およびジルコニア焼結体を容易に得ることができることなどから、当該成形工程は、
(i)ジルコニア粒子を含むスラリーをスリップキャスティングする工程;
(ii)ジルコニア粒子を含むスラリーをゲルキャスティングする工程;
(iii)ジルコニア粒子を含む粉末をプレス成形する工程;
(iv)ジルコニア粒子および樹脂を含む組成物を成形する工程;および
(v)ジルコニア粒子および重合性単量体を含む組成物を重合させる工程;
のうちの少なくともいずれかであることが好ましい。
【0061】
・ジルコニア粒子を含むスラリー
ジルコニア粒子を含むスラリーの調製方法に特に制限はなく、例えば、上記したブレークダウンプロセスやビルディングアッププロセスを経て得られるものであってもよいし、市販のものであってもよい。
【0062】
ジルコニア成形体、ひいてはジルコニア仮焼体およびジルコニア焼結体に着色剤および/または透光性調整剤を含ませる場合においては、ジルコニア粒子および蛍光剤を含むスラリーにこのような着色剤および/または透光性調整剤を含ませてもよい。この場合、着色剤および/または透光性調整剤は、それぞれ、溶液や分散体などの液体状態でジルコニア粒子を含むスラリーと混合することが好ましい。
【0063】
・ジルコニア粒子を含む粉末
ジルコニア粒子を含む粉末の調製方法に特に制限はなく、より均一で物性に優れたジルコニア焼結体を得ることができることなどから、上記したジルコニア粒子を含むスラリーを乾燥させることによって得ることが好ましい。ここで乾燥に供される当該スラリーは、蛍光剤および/または着色剤および/または透光性調整剤をさらに含んでいてもよい。
【0064】
当該乾燥の方法に特に制限はなく、例えば、噴霧乾燥(スプレードライ)、超臨界乾燥、凍結乾燥、熱風乾燥、減圧乾燥などを採用することができる。このうち、乾燥時に粒子同士の凝集を抑制することができてより緻密なジルコニア焼結体を得ることができることなどから、噴霧乾燥、超臨界乾燥および凍結乾燥のうちのいずれかが好ましく、噴霧乾燥および超臨界乾燥のうちのいずれかがより好ましく、噴霧乾燥がさらに好ましい。
【0065】
乾燥に供されるジルコニア粒子を含むスラリーは、分散媒が水であるスラリーであってもよいが、乾燥時に粒子同士の凝集を抑制することができてより緻密なジルコニア焼結体を得ることができることなどから、有機溶剤など、水以外の分散媒のスラリーであることが好ましい。
【0066】
有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、グリセリン等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(通称「PGMEA」)等の変性エーテル類(好ましくはエーテル変性エーテル類および/またはエステル変性エーテル類、より好ましくはエーテル変性アルキレングリコール類および/またはエステル変性アルキレングリコール類)を含む);酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;ヘキサン、トルエン等の炭化水素;クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素などが挙げられる。これらの有機溶剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、生体に対する安全性と、除去の容易さの双方を勘案すると、有機溶剤は水溶性有機溶剤であることが好ましく、具体的には、エタノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、2-エトキシエタノール、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アセトン、テトラヒドロフランがより好ましい。
【0067】
また特に噴霧乾燥を採用する場合において、乾燥に供されるジルコニア粒子および蛍光剤を含むスラリーの分散媒が、25℃における表面張力が50mN/m以下の液体を含むと、乾燥時に粒子同士の凝集を抑制することができてより緻密なジルコニア焼結体を得ることができることから好ましい。このような観点から、上記液体の表面張力は、40mN/m以下であることが好ましく、30mN/m以下であることがより好ましい。
【0068】
25℃における表面張力は、例えば、Handbook of Chemistry and phisicsに記載の値を使用することができ、これに記載のない液体については、国際公開第2014/126034号に記載の値を使用することができる。これらのいずれにも記載のない液体については、公知の測定方法によって求めることができ、例えば、吊輪法、Wilhelmy法などで測定することができる。25℃における表面張力は、協和界面科学株式会社製の自動表面張力計「CBVP-Z」、または、KSV INSTRUMENTS LTD社製の「SIGMA702」を用いて測定することが好ましい。
【0069】
上記液体としては上記表面張力を有する有機溶剤を使用することができる。当該有機溶剤としては、上記したもののうち上記表面張力を有するものを用いることができるが、乾燥時に粒子同士の凝集を抑制することができてより緻密なジルコニア焼結体を得ることができることなどから、メタノール、エタノール、2-メトキシエタノール、1,4-ジオキサン、2-エトキシエタノールおよび2-(2-エトキシエトキシ)エタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、メタノール、エタノール、2-エトキシエタノールおよび2-(2-エトキシエトキシ)エタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0070】
分散媒における上記液体の含有率は、乾燥時に粒子同士の凝集を抑制することができてより緻密なジルコニア焼結体を得ることができることなどから、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。
【0071】
水以外の分散媒のスラリーは、分散媒が水であるスラリーに対して、分散媒を置換することにより得ることができる。分散媒の置換方法に特に制限はなく、例えば、分散媒が水であるスラリーに水以外の分散媒(有機溶剤等)を添加した後、水を留去する方法を採用することができる。水の留去においては、水以外の分散媒の一部または全部が共に留去されてもよい。当該水以外の分散媒の添加および水の留去は複数回繰り返してもよい。また、分散媒が水であるスラリーに水以外の分散媒を添加した後、分散質を沈殿させる方法を採用することもできる。さらに、分散媒が水であるスラリーに対して、分散媒を特定の有機溶剤で置換した後、さらに別の有機溶剤で置換してもよい。
なお、蛍光剤は、分散媒を置換した後に添加してもよいが、より均一で物性に優れたジルコニア焼結体を得ることができることなどから、分散媒を置換する前に添加することが好ましい。同様に、スラリーに着色剤および/または透光性調整剤を含ませる場合には、分散媒を置換した後に添加してもよいが、より均一で物性に優れたジルコニア焼結体を得ることができることなどから、分散媒を置換する前に添加することが好ましい。
【0072】
乾燥に供されるジルコニア粒子を含むスラリーは、還流処理、水熱処理等の熱や圧力による分散処理が施されたものであってもよい。また、乾燥工程に供されるジルコニア粒子を含むスラリーは、ロールミル、コロイドミル、高圧噴射式分散機、超音波分散機、振動ミル、遊星ミル、ビーズミル等による機械的分散処理が施されたものであってもよい。上記各処理は、1つのみを採用してもよいし、2種以上を採用してもよい。
【0073】
乾燥に供されるジルコニア粒子を含むスラリーは、バインダー、可塑剤、分散剤、乳化剤、消泡剤、pH調整剤、潤滑剤などの他の成分のうちの1種または2種以上をさらに含んでいてもよい。このような他の成分(特にバインダー、分散剤、消泡剤など)を含むことにより、乾燥時に粒子同士の凝集を抑制することができてより緻密なジルコニア焼結体を得ることができる場合がある。
【0074】
バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリル系バインダー、ワックス系バインダー、ポリビニルブチラール、ポリメタクリル酸メチル、エチルセルロースなどが挙げられる。
【0075】
可塑剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジブチルフタル酸などが挙げられる。
【0076】
分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム(クエン酸三アンモニウム等)、ポリアクリル酸アンモニウム、アクリル共重合体樹脂、アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸、ベントナイト、カルボキシメチルセルロース、アニオン系界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル等のポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル等など)、非イオン系界面活性剤、オレイングリセリド、アミン塩型界面活性剤、オリゴ糖アルコールなどが挙げられる。
【0077】
乳化剤としては、例えば、アルキルエーテル、フェニルエーテル、ソルビタン誘導体、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0078】
消泡剤としては、例えば、アルコール、ポリエーテル、ポリエチレングリコール、シリコーン、ワックスなどが挙げられる。
【0079】
pH調整剤としては、例えば、アンモニア、アンモニウム塩(水酸化テトラメチルアンモニウム等の水酸化アンモニウムを含む)、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられる。
【0080】
潤滑剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキレートエーテル、ワックスなどが挙げられる。
【0081】
乾燥に供されるジルコニア粒子を含むスラリーにおける水分量は、乾燥時に粒子同士の凝集を抑制することができてより緻密なジルコニア焼結体を得ることができることなどから、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。当該水分量は、カールフィッシャー水分量計を用いて測定することができる。
【0082】
上記各乾燥方法における乾燥条件に特に制限はなく、公知の乾燥条件を適宜採用することができる。なお、分散媒として有機溶剤を使用する場合には、乾燥時の爆発のリスクを下げるために、不燃性の気体の存在下に乾燥を行うことが好ましく、窒素の存在下に乾燥を行うことがより好ましい。
【0083】
超臨界乾燥する場合における超臨界流体に特に制限はなく、例えば、水、二酸化炭素などを用いることができるが、粒子同士の凝集を抑制することができてより緻密なジルコニア焼結体を得ることができることなどから、超臨界流体は二酸化炭素であることが好ましい。
【0084】
・ジルコニア粒子および樹脂を含む組成物
ジルコニア粒子および樹脂を含む組成物の調製方法に特に制限はなく、例えば、上記のジルコニア粒子を含む粉末と樹脂とを混合することにより得ることができる。
【0085】
・ジルコニア粒子および重合性単量体を含む組成物
ジルコニア粒子および重合性単量体を含む組成物の調製方法に特に制限はなく、例えば、上記のジルコニア粒子を含む粉末と重合性単量体とを混合することにより得ることができる。
【0086】
(i)スリップキャスティング
ジルコニア粒子を含むスラリーをスリップキャスティングする工程を有する方法によりジルコニア成形体を製造する場合において、スリップキャスティングの具体的な方法に特に制限はなく、例えば、ジルコニア粒子を含むスラリーを型に流し込んだ後に乾燥させる方法を採用することができる。
【0087】
使用されるジルコニア粒子を含むスラリーにおける分散媒の含有率は、スラリーの型への流し込みが容易であると共に、乾燥に多大な時間がかかるのを防止することができ、型の使用回数も増加させることができることなどから、80質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0088】
スラリーの型への流し込みは常圧下に行ってもよいが、加圧条件下で行うことが生産効率の観点から好ましい。スリップキャスティングに使用される型の種類に特に制限はなく、例えば、石膏、樹脂、セラミックス等からなる多孔質型などを用いることができる。樹脂やセラミックスからなる多孔質型は耐久性の点で優れる。
【0089】
スリップキャスティングに使用される上記ジルコニア粒子を含むスラリーは、上記したような、バインダー、可塑剤、分散剤、乳化剤、消泡剤、pH調整剤、潤滑剤などの他の成分のうちの1種または2種以上をさらに含んでいてもよい。
【0090】
(ii)ゲルキャスティング
ジルコニア粒子を含むスラリーをゲルキャスティングする工程を有する方法によりジルコニア成形体を製造する場合において、ゲルキャスティングの具体的な方法に特に制限はなく、例えば、ジルコニア粒子および蛍光剤を含むスラリーを型内でゲル化させるなどして賦形された湿潤体を得た後に、これを乾燥させる方法を採用することができる。
【0091】
使用されるジルコニア粒子を含むスラリーにおける分散媒の含有率は、乾燥に多大な時間がかかるのを防止することができ、乾燥時におけるクラックの発生も抑制できることなどから、80質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0092】
上記ゲル化は、例えば、ゲル化剤の添加によって行ってもよいし、重合性単量体を添加後にこれを重合することによって行ってもよい。使用される型の種類に特に制限はなく、例えば、石膏、樹脂、セラミックス等からなる多孔質型や、金属、樹脂等からなる無孔質型などを用いることができる。
【0093】
ゲル化剤の種類に制限はなく、例えば水溶性ゲル化剤を用いることができ、具体的には、アガロース、ゼラチンなどを好ましく用いることができる。ゲル化剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。ゲル化剤の使用量は、焼結時のクラック発生を抑制するなどの観点から、ゲル化剤が配合された後のスラリーの質量に基づいて、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0094】
また重合性単量体の種類に特に制限はなく、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。重合性単量体は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0095】
重合性単量体の使用量は、焼結時のクラック発生を抑制するなどの観点から、重合性単量体が配合された後のスラリーの質量に基づいて、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0096】
重合性単量体の重合によってゲル化を行う場合において、当該重合は重合開始剤を用いて行うことが好ましい。重合開始剤の種類に特に制限はないが、光重合開始剤が特に好ましい。光重合開始剤としては、一般工業界で使用されている光重合開始剤から適宜選択して使用することができ、中でも歯科用途に用いられている光重合開始剤が好ましい。
【0097】
具体的な光重合開始剤としては、例えば、(ビス)アシルホスフィンオキシド類(塩を含む)、チオキサントン類(第4級アンモニウム塩等の塩を含む)、ケタール類、α-ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物、α-アミノケトン系化合物などが挙げられる。光重合開始剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの光重合開始剤の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキシド類およびα-ジケトン類からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これにより、紫外領域(近紫外領域を含む)および可視光領域の双方で重合(ゲル化)を行うことができ、特に、Arレーザー、He-Cdレーザー等のレーザー;ハロゲンランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、発光ダイオード(LED)、水銀灯、蛍光灯等の照明等のいずれの光源を用いても十分に重合(ゲル化)を行うことができる。
【0098】
上記(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、アシルホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(通称「TPO」)、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジ(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネート、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドのナトリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドのカリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドのアンモニウム塩などが挙げられる。
【0099】
上記(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、ビスアシルホスフィンオキシド類としては、例えば、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,3,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシドなどが挙げられる。さらに、特開2000-159621号公報に記載されている化合物などを用いることもできる。
【0100】
これらの(ビス)アシルホスフィンオキシド類の中でも、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドのナトリウム塩が好ましい。
【0101】
α-ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ベンジル、カンファーキノン、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナントレンキノン、4,4’-オキシベンジル、アセナフテンキノンなどが挙げられる。これらの中でも、特に可視光領域の光源を使用する場合などにおいて、カンファーキノンが好ましい。
【0102】
ゲルキャスティングに使用される上記ジルコニア粒子を含むスラリーについても、スリップキャスティングに使用されるスラリーと同様、上記したような、バインダー、可塑剤、分散剤、乳化剤、消泡剤、pH調整剤、潤滑剤などの他の成分のうちの1種または2種以上をさらに含んでいてもよい。
【0103】
賦形された湿潤体を乾燥させる際の乾燥方法に特に制限はなく、例えば、自然乾燥、熱風乾燥、真空乾燥、誘電加熱乾燥、誘導加熱乾燥、恒温恒湿乾燥などが挙げられる。これらは1種のみ採用してもよいし、2種以上を採用してもよい。これらの中でも乾燥時におけるクラックの発生を抑制できることなどから、自然乾燥、誘電加熱乾燥、誘導加熱乾燥、恒温恒湿乾燥が好ましい。
【0104】
(iii)プレス成形
ジルコニア粒子を含む粉末をプレス成形する工程を有する方法によりジルコニア成形体を製造する場合において、プレス成形の具体的な方法に特に制限はなく、公知のプレス成形機を用いて行うことができる。プレス成形の具体的な方法としては、例えば、一軸プレスなどが挙げられる。また、得られるジルコニア成形体の密度を上げるため、一軸プレスした後に冷間等方圧加圧(CIP)処理をさらに施すことが好ましい。
【0105】
プレス成形に使用される上記ジルコニア粒子を含む粉末は、上記したような、バインダー、可塑剤、分散剤、乳化剤、消泡剤、pH調整剤、潤滑剤などの他の成分のうちの1種または2種以上をさらに含んでいてもよい。これらの成分は粉末を調製する際に配合されてもよい。
【0106】
(iv)樹脂を含む組成物の成形
ジルコニア粒子および樹脂を含む組成物を成形する工程を有する方法によりジルコニア成形体を製造する場合において、当該組成物を成形するための具体的な方法に特に制限はなく、例えば、射出成形、注型成形、押出成形などを採用することができる。また、当該組成物を熱溶解法(FDM)で造形する方法、インクジェット法、粉末/バインダー積層法等の積層造形法(3Dプリンティング等)を採用してもよい。これらの成形方法の中でも、射出成形および注型成形が好ましく、射出成形がより好ましい。
【0107】
上記樹脂の種類に特に制限はなくバインダーとして機能するものを好ましく用いることができる。当該樹脂の具体例としては、例えば、パラフィンワックス、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、アタクチックポリプロピレン、メタクリル樹脂、ステアリン酸等の脂肪酸などが挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0108】
上記ジルコニア粒子および樹脂を含む組成物は、上記したような、可塑剤、分散剤、乳化剤、消泡剤、pH調整剤、潤滑剤などの他の成分のうちの1種または2種以上をさらに含んでいてもよい。
【0109】
(v)重合性単量体を含む組成物の重合
ジルコニア粒子および重合性単量体を含む組成物を重合させることにより、当該組成物中の重合性単量体が重合して組成物を硬化させることができる。当該重合させる工程を有する方法によりジルコニア成形体を製造する場合において、その具体的な方法に特に制限はなく、例えば、(a)ジルコニア粒子および重合性単量体を含む組成物を型内で重合させる方法;(b)ジルコニア粒子および重合性単量体を含む組成物を用いる光造形(ステレオリソグラフィー;SLA)法などを採用することができる。これらの中でも、(b)の光造形法が好ましい。光造形法によれば、最終的に得られるジルコニア焼結体における所望の形状に対応した形状をジルコニア成形体を製造する時点で付与することができる。そのため、特に本発明のジルコニア焼結体を歯科用補綴物等の歯科材料として用いる場合などにおいて、当該光造形法が好適な場合がある。
【0110】
上記ジルコニア粒子および重合性単量体を含む組成物における重合性単量体の種類に特に制限はなく、単官能性の(メタ)アクリレート、単官能性の(メタ)アクリルアミド等の単官能性の重合性単量体、および、二官能性の芳香族化合物、二官能性の脂肪族化合物、三官能性以上の化合物等の多官能性の重合性単量体のうちのいずれであってもよい。重合性単量体は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。これらの中でも、特に光造形法を採用する場合などにおいて、多官能性の重合性単量体を用いることが好ましい。
【0111】
単官能性の(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリレート;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等の芳香族基含有(メタ)アクリレート;2,3-ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン等の官能基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0112】
単官能性の(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-ヘキシル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-2-エチルヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0113】
これらの単官能性の重合性単量体の中でも、重合性が優れる点で、(メタ)アクリルアミドが好ましく、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドがより好ましい。
【0114】
二官能性の芳香族化合物としては、例えば、2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称「Bis-GMA」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、1,4-ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテートなどが挙げられる。これらの中でも、重合性や得られるジルコニア成形体の強度が優れる点で、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称「Bis-GMA」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパンが好ましい。2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパンの中でも、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数が2.6である化合物(通称「D-2.6E」))が好ましい。
【0115】
二官能性の脂肪族化合物としては、例えば、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2-エチル-1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)などが挙げられる。これらの中でも、重合性や得られるジルコニア成形体の強度が優れる点で、トリエチレングリコールジメタクリレート(通称「TEGDMA」)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレートが好ましい。
【0116】
三官能性以上の化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラ(メタ)アクリロイルオキシメチル-4-オキサヘプタンなどが挙げられる。これらの中でも、重合性や得られるジルコニア成形体の強度が優れる点で、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラアクリロイルオキシメチル-4-オキサヘプタンが好ましい。
【0117】
上記(a)および(b)のいずれの方法においても、組成物の重合は重合開始剤を用いて行うことが好ましく、当該組成物は重合開始剤をさらに含むことが好ましい。重合開始剤の種類に特に制限はないが、光重合開始剤が特に好ましい。光重合開始剤としては、一般工業界で使用されている光重合開始剤から適宜選択して使用することができ、中でも歯科用途に用いられている光重合開始剤が好ましい。光重合開始剤の具体例は、ゲルキャスティングの説明において上記したものと同様であり、ここでは重複する説明を省略する。
【0118】
上記ジルコニア粒子および重合性単量体を含む組成物は、上記したような、可塑剤、分散剤、乳化剤、消泡剤、pH調整剤、潤滑剤などの他の成分のうちの1種または2種以上をさらに含んでいてもよい。
【0119】
ジルコニア粒子および重合性単量体を含む組成物を用いる光造形法によってジルコニア成形体を製造する場合において光造形法の具体的な方法に特に制限はなく、公知の方法を適宜採用して光造形することができる。例えば、光造形装置を用い、液状の組成物を紫外線、レーザー等で光重合することで所望の形状を有する各層を順次形成していくことによって目的とするジルコニア成形体を得る方法などを採用することができる。
【0120】
光造形法によってジルコニア成形体を得る場合、ジルコニア粒子および重合性単量体を含む組成物におけるジルコニア粒子の含有率は、後の焼結性の観点などからは可及的に多いほうが好ましく、具体的には、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。一方で、光造形法では、その積層成形の原理から、当該組成物の粘度がある一定の範囲内にあることが望ましく、そのため、上記組成物におけるジルコニア粒子の含有率は、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましく、60質量%以下であることが特に好ましい。当該組成物の粘度の調整は、容器の下側から該容器の底面を通して光を照射することにより層を硬化させてジルコニア成形体を一層ずつ順次形成していく規制液面法を実施する場合に、硬化した層を一層分だけ上昇させて、当該硬化した層の下面と容器の底面との間に次の層を形成するための組成物を円滑に流入させるために特に重要になることがある。
【0121】
上記組成物の具体的な粘度としては、25℃での粘度として、20,000mPa・s以下であることが好ましく、10,000mPa・s以下であることがより好ましく、5,000mPa・s以下であることがさらに好ましく、また、100mPa・s以上であることが好ましい。当該組成物において、ジルコニア粒子の含有率が高いほど粘度が上昇する傾向があるため、用いる光造形装置の性能などに合わせて、光造形する際の速度と得られるジルコニア成形体の精度とのバランスなども勘案しながら、上記組成物におけるジルコニア粒子の含有率と粘度とのバランスを適宜調整することが好ましい。なお、当該粘度は、E型粘度計を用いて測定することができる。
【0122】
本発明のジルコニア成形体の製造方法において、ジルコニア成形体の密度をさらに向上させるため、ジルコニア成形体に加湿処理を施した後、CIP処理を施してもよい。プレス成形を行う場合はプレス成形前のジルコニア粒子を含む粉末に加湿処理を施した後、プレス成形を行ってもよい。加湿処理の方法は公知の方法を何ら制限なく用いることができ、霧吹き等で水を吹きかけることや、恒湿器や恒温恒湿器を用いて処理してよい。加湿処理による水分増加量は、含まれるジルコニア粒子の粒子径などにもよるが、湿潤前粉末および成形体の質量に対して、2質量%を超えることが好ましく、3質量%を超えることがより好ましく、4質量%を超えることがさらに好ましく、5質量%を超えることが特に好ましく、また、15質量%以下であることが好ましく、13質量%以下であることがより好ましく、11質量%以下であることがさらに好ましい。なお、加湿処理による水分増加量は、湿潤粉末および成形体の質量から湿潤前粉末および成形体の質量を差し引いた値を、湿潤前粉末および成形体の質量で除すことにより百分率として求めることができる。
【0123】
〔ジルコニア仮焼体〕
本発明のジルコニア仮焼体は、イットリアを2.0~9.0mol%含み、厚さ1.5mmにおけるΔL*(W-B)が5以上であることを特徴とする。該ジルコニア仮焼体を用いることにより、強度と透光性が共に優れ、直線光透過率が優れたジルコニア焼結体を得ることができる。
【0124】
本発明のジルコニア焼結体に蛍光剤を含ませる場合には、ジルコニア仮焼体においてこのような蛍光剤を含むことが好ましい。本発明のジルコニア仮焼体における蛍光剤の含有率は、得られるジルコニア焼結体における蛍光剤の含有率などに応じて適宜調整することができる。ジルコニア仮焼体に含まれる蛍光剤の具体的な含有率は、ジルコニア仮焼体に含まれるジルコニアの質量に対して、蛍光剤に含まれる金属元素の酸化物換算で、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましく、また、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0125】
ジルコニア焼結体に着色剤を含ませる場合には、ジルコニア仮焼体においてこのような着色剤を含むことが好ましい。本発明のジルコニア仮焼体における着色剤の含有率は、得られるジルコニア焼結体における着色剤の含有率などに応じて適宜調整することができる。ジルコニア仮焼体に含まれる着色剤の具体的な含有率は、ジルコニア仮焼体に含まれるジルコニアの質量に対して、着色剤に含まれる金属元素の酸化物換算で、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましく、また、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下、さらには0.05質量%以下であってもよい。
【0126】
ジルコニア焼結体に透光性調整剤を含ませる場合には、ジルコニア仮焼体においてこのような透光性調整剤を含むことが好ましい。本発明のジルコニア仮焼体における透光性調整剤の含有率は、得られるジルコニア焼結体における透光性調整剤の含有率などに応じて適宜調整することができる。ジルコニア仮焼体に含まれる透光性調整剤の具体的な含有率は、ジルコニア仮焼体に含まれるジルコニアの質量に対して0.1質量%以下であることが好ましい。
【0127】
本発明のジルコニア仮焼体に含まれるイットリアの含有率は、2.0~9.0mol%の範囲内で、得られるジルコニア焼結体におけるイットリアの含有率と同じものとすればよく、ジルコニア仮焼体におけるイットリアの具体的な含有率は、2.0mol%以上であり、3.0mol%以上であることが好ましく、4.0mol%以上であることがより好ましく、また、9.0mol%以下であり、8.0mol%以下であることが好ましく、7.0mol%以下であることがより好ましい。なお、ジルコニア仮焼体におけるイットリアの含有率は、ジルコニアとイットリアの合計モル数に対するイットリアのモル数の割合(mol%)を意味する。
【0128】
本発明のジルコニア仮焼体の密度に特に制限はなく、その製造に使用されるジルコニア成形体の製造方法などによっても異なるが、3.0~6.0g/m3の範囲内であることが好ましく、3.2~5.8g/m3の範囲内であることがより好ましい。
【0129】
本発明のジルコニア仮焼体の形状に特に制限はなく、用途に応じて所望の形状とすることができるが、歯科用補綴物等の歯科材料を製造するためのミルブランクとして使用する場合における取り扱い性などを考慮すると、円盤状、角柱状(直方体状等)などが好ましい。なお、後述するように、ジルコニア仮焼体をジルコニア焼結体とする前に、切削(ミリング)によって用途に応じた所望の形状とすることができるが、本発明はこのような切削(ミリング)後の所望の形状を有するジルコニア仮焼体も包含する。また、ジルコニア仮焼体は単層構造であってもよいが、多層構造であってもよい。多層構造とすることで最終的に得られるジルコニア焼結体を多層構造とすることができ、その透光性などの物性を局所的に変化させることができる。
【0130】
本発明のジルコニア仮焼体の3点曲げ強さは、切削加工機を用いた加工時に加工物の形状を保持することができ、また切削自体も容易に行うことができるなどの観点から、10~70MPaの範囲内であることが好ましく、20~60MPaの範囲内であることがより好ましい。なお、ジルコニア仮焼体の3点曲げ強さは、5mm×40mm×10mmの試料について、万能試験機を用いてスパン長(支点間距離)30mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分の条件で測定することができる。
【0131】
本発明のジルコニア仮焼体は、常圧下、900~1200℃で2時間焼結した後(ジルコニア焼結体にした後)の結晶粒径が180nm以下であることが好ましい。これにより透光性に優れた本発明のジルコニア焼結体を容易に製造することができる。透光性により優れたジルコニア焼結体が得られることなどから、当該結晶粒径は140nm以下であることがより好ましく、120nm以下であることがさらに好ましく、115nm以下であることがよりさらに好ましく、110nm以下であってもよい。当該結晶粒径の下限に特に制限はないが、当該結晶粒径は、例えば、50nm以上、さらには100nm以上とすることができる。なお当該結晶粒径の測定方法は、ジルコニア焼結体における結晶粒径の説明として上述したとおりである。
【0132】
本発明のジルコニア仮焼体は、厚さ1.5mmにおけるΔL*(W-B)が5以上であり、7以上であることが好ましく、さらには10以上であってもよい。当該ΔL*(W-B)が上記のような範囲内であることにより、常圧下で焼結した際に直線光透過率の高いジルコニア焼結体が得られる。当該ΔL*(W-B)の上限に特に制限はないが、例えば、30以下、さらには25以下とすることができる。なお、ジルコニア仮焼体の厚さ1.5mmにおけるΔL*(W-B)は分光測色計を用いて測定すればよく、例えば、分光測色計(コニカミノルタジャパン株式会社製、「CM-3610A」)を用い、測定することができる。当該測定においては、光源はF11を用い、反射光を測定することで求めることができる。測定に使用される試料としては、直径20mm×厚さ1.5mmの円盤状のジルコニア仮焼体を用いることができる。
【0133】
本発明のジルコニア仮焼体は、常圧下、900~1200℃で焼結した後(ジルコニア焼結体にした後)の3点曲げ強さが500MPa以上であることが好ましい。これにより、強度に優れた本発明のジルコニア焼結体を容易に製造することができる。強度により優れたジルコニア焼結体が得られることなどから、当該3点曲げ強さは600MPa以上であることがより好ましく、650MPa以上であることがさらに好ましく、700MPa以上であることがよりさらに好ましく、800MPa以上であることが特に好ましい。当該3点曲げ強さの上限に特に制限はないが、当該3点曲げ強さは、例えば、1500MPa以下、さらには1000MPa以下とすることができる。なお、当該3点曲げ強さの測定方法は、ジルコニア焼結体における3点曲げ強さの説明として上述したとおりである。
【0134】
本発明のジルコニア仮焼体は、常圧下、900~1200℃で焼結した後(ジルコニア焼結体にした後)の厚さ0.5mmにおける波長700nmの光の透過率が40%以上であることが好ましい。これにより透光性に優れた本発明のジルコニア焼結体を容易に製造することができる。透光性により優れたジルコニア焼結体が得られることなどから、当該透過率は、45%以上であることがより好ましく、46%以上であることがさらに好ましく、48%以上であることがよりさらに好ましく、50%以上であることが特に好ましく、さらには52%以上であってもよい。当該透過率の上限に特に制限はないが、当該透過率は、例えば、60%以下、さらには57%以下とすることができる。なお、当該透過率の測定方法は、ジルコニア焼結体における厚さ0.5mmにおける波長700nmの光の透過率の説明として上述したとおりである。
【0135】
本発明のジルコニア仮焼体は、常圧下、900~1200℃で焼結した後(ジルコニア焼結体にした後)の厚さ1.0mmにおける直線光透過率が1%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましく、5%以上であることがさらに好ましく、7%以上であることがよりさらに好ましく、さらには10%以上であってもよい。当該直線光透過率が上記のような範囲内であることにより、例えば歯科用補綴物として用いる場合に、切端部分に求められる透光性を満足しやすくなる。当該直線光透過率の上限に特に制限はないが、当該直線光透過率は、例えば、60%以下、さらには50%以下とすることができる。なお、当該直線光透過率の測定方法は、ジルコニア焼結体における厚さ1.0mmにおける直線光透過率の説明として上述したとおりである。
【0136】
〔ジルコニア仮焼体の製造方法〕
本発明のジルコニア仮焼体の製造方法は、例えば、本発明のジルコニア成形体を用いることを特徴とし、該ジルコニア成形体を200~800℃で仮焼する工程を含む製造方法が好ましい。仮焼温度は、目的とするジルコニア仮焼体が容易に得られるなどの観点から、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることがさらに好ましく、また、800℃以下であることが好ましく、700℃以下であることがより好ましく、600℃以下であることがさらに好ましい。仮焼温度が上記下限以上であることにより、有機物の残渣の発生を効果的に抑制することができる。また、仮焼温度が上記上限以下であることにより、焼結が過剰に進行して切削加工機での切削(ミリング)が困難になるのを抑制することができる。
【0137】
本発明のジルコニア成形体を仮焼する際の昇温速度に特に制限はないが、0.1℃/分以上であることが好ましく、0.2℃/分以上であることがより好ましく、0.5℃/分以上であることがさらに好ましく、また、50℃/分以下であることが好ましく、30℃/分以下であることがより好ましく、20℃/分以下であることがさらに好ましい。昇温速度が上記下限以上であることにより生産性が向上する。また、昇温速度が上記上限以下であることにより、ジルコニア成形体やジルコニア仮焼体における内部と外部の体積差を抑制でき、また、ジルコニア成形体が有機物を含む場合に当該有機物の急激な分解を抑制できてクラックや破壊を抑制することができる。
【0138】
本発明のジルコニア成形体を仮焼する際の仮焼時間に特に制限はないが、目的とするジルコニア仮焼体を生産性よく効率的に安定して得ることができることなどから、仮焼時間は、0.5時間以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましく、2時間以上であることがさらに好ましく、また、10時間以下であることが好ましく、8時間以下であることがより好ましく、6時間以下であることがさらに好ましい。
【0139】
本発明における仮焼は仮焼炉を用いて行うことができる。仮焼炉の種類に特に制限はなく、例えば、一般工業界で用いられる電気炉および脱脂炉などを用いることができる。
【0140】
本発明のジルコニア仮焼体は、ジルコニア焼結体とする前に、切削(ミリング)によって用途に応じた所望の形状とすることができる。特に本発明のジルコニア焼結体は、蛍光剤を含むにもかかわらず、透光性および強度が共に優れることから、歯科用補綴物等の歯科材料などとして特に好適であり、このような用途に使用されるジルコニア焼結体を得るために、それに対応する形状になるようにジルコニア仮焼体を切削(ミリング)することができる。切削(ミリング)の仕方に特に制限はなく、例えば公知のミリング装置を用いて行うことができる。
【0141】
〔ジルコニア焼結体の製造方法〕
上記のとおり、本発明のジルコニア焼結体は、本発明のジルコニア成形体を常圧下で焼結することにより製造することができ、また、本発明のジルコニア仮焼体を常圧下で焼結することにより製造することもできる。
【0142】
本発明のジルコニア成形体を焼結する場合、および本発明のジルコニア仮焼体を焼結する場合のいずれにおいても、焼結温度は、目的とするジルコニア焼結体が容易に得られるなどの観点から、900℃以上であることが好ましく、1000℃以上であることがより好ましく、1050℃以上であることがさらに好ましく、また、目的とするジルコニア焼結体が容易に得られるなどの観点から、1200℃以下であることが好ましく、1150℃以下であることがより好ましく、1120℃以下であることがさらに好ましい。焼結温度が上記下限以上であることにより、焼結を十分に進行させることができ、緻密な焼結体を容易に得ることができる。また、焼結温度が上記上限以下であることにより、結晶粒径が本発明の好適な範囲内にあるジルコニア焼結体を容易に得ることができ、また蛍光剤の失活を抑制することができる。
【0143】
本発明のジルコニア成形体を焼結する場合、および本発明のジルコニア仮焼体を焼結する場合のいずれにおいても、焼結時間に特に制限はないが、目的とするジルコニア焼結体を生産性よく効率的に安定して得ることができることなどから、焼結時間は、5分以上であることが好ましく、15分以上であることがより好ましく、30分以上であることがさらに好ましく、また、6時間以下であることが好ましく、4時間以下であることがより好ましく、2時間以下であることがさらに好ましい。
【0144】
本発明における焼結は焼結炉を用いて行うことができる。焼結炉の種類に特に制限はなく、例えば、一般工業界で用いられる電気炉および脱脂炉などを用いることができる。特に歯科材料用途で用いる場合は、従来の歯科用ジルコニア用焼結炉以外にも、焼結温度が比較的低い歯科用ポーセレンファーネスを用いることもできる。
【0145】
本発明のジルコニア焼結体は、HIP処理なしでも容易に製造することができるが、上記常圧下での焼結後にHIP処理を行うことでさらなる透光性および強度の向上が可能である。
【0146】
〔ジルコニア焼結体の用途〕
本発明のジルコニア焼結体の用途に特に制限はないが、本発明のジルコニア焼結体は、透光性および強度が共に優れ、直線光透過率に優れることから、歯科用補綴物等の歯科材料などとして特に好適であり、中でも、歯頸部に使用される歯科用補綴物のみならず、臼歯咬合面や前歯切端部に使用される歯科用補綴物としても極めて有用である。本発明のジルコニア焼結体は、特に前歯切端部に使用される歯科用補綴物として使用することが好ましい。
【実施例】
【0147】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等によって限定されるものではない。なお、各物性の測定方法は以下のとおりである。
【0148】
(1)ジルコニア粒子の平均一次粒子径
ジルコニア粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)にて写真撮影し、得られた画像上で任意の粒子100個について各粒子の粒子径(最大径)を測定し、それらの平均値をジルコニア粒子の平均一次粒子径とした。
【0149】
(2)100nmを超える粒径を有する粒子の割合
ジルコニア粒子をメタノールに分散させ、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA-950)を用いて測定した。
【0150】
(3)結晶粒径
ジルコニア焼結体における結晶粒径は、ジルコニア焼結体断面の電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)写真を撮影し、その撮影画像にある任意の粒子を10個選択し、各々の円相当径(同一面積の真円の直径)の平均値として求めた。
【0151】
(4)3点曲げ強さ
ジルコニア焼結体の3点曲げ強さは、ISO 6872:2015に準拠して測定した。
各実施例および比較例の板状のジルコニア焼結体から4mm×1.2mm×15mmの試料を作製して、該試料について万能試験機を用いて、支点間距離12mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分の条件で測定を行った。
【0152】
(5)光の透過率(波長700nm、0.5mm厚)
ジルコニア焼結体の厚さ0.5mmにおける波長700nmの光の透過率は、分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、「日立分光光度計 U-3900H形」)を用い、光源より発生した光を試料に透過および散乱させ、積分球を利用して測定した。当該測定においては、一旦、300~750nmの波長領域で透過率を測定した上で、波長700nmの光についての透過率を求めた。測定には、両面を鏡面研磨加工した直径15mm×厚さ0.5mmの円盤状のジルコニア焼結体を試料として用いた。
【0153】
(6)直線光透過率(1.0mm厚)
ジルコニア焼結体の厚さ1.0mmにおける直線光透過率は、濁度計(日本電色工業株式会社製、「Haze Meter NDH 4000」)を用い、光源より発生した光を試料に透過および散乱させ、積分球を利用して測定した。当該測定においては、直線光透過率はISO 13468-1:1996およびJIS K 7361-1:1997に準じて測定し、ヘイズはISO 14782-1:1999およびJIS K 7136:2000に準じて測定し、直線光透過率を測定した。測定には、両面を鏡面研磨加工した直径15mm×厚さ1.0mmの円盤状のジルコニア焼結体を試料として用いた。
【0154】
(7)立方晶系の割合
ジルコニア焼結体における立方晶系の割合は結晶相の解析によって求めた。具体的には、ジルコニア焼結体の表面を鏡面加工した部分について、X線回折(XRD)測定を行い、以下の式から求めた。
fc = 100 × Ic/(Im+It+Ic)
ここで、fcはジルコニア焼結体における立方晶系の割合(%)を表し、Imは2θ=28°付近のピーク(単斜晶系の(11-1)面に基づくピーク)の高さを表し、Itは2θ=30°付近のピーク(正方晶系の(111)面に基づくピーク)の高さを表し、Icは2θ=30°付近のピーク(立方晶系の(111)面に基づくピーク)の高さを表す。測定には、各実施例および比較例の円盤状のジルコニア焼結体を試料として用いた。
【0155】
(8)熱水処理後の単斜晶系の割合
ジルコニア焼結体の、180℃熱水中に5時間浸漬させた後の正方晶系および立方晶系に対する単斜晶系の割合は、ジルコニア焼結体の表面を鏡面加工し、これを180℃の熱水中に5時間浸漬させた後、上記部分について、X線回折(XRD)測定を行い、以下の式から求めた。
fm = 100 × Im/(It+c)
ここで、fmはジルコニア焼結体における、180℃熱水中に5時間浸漬させた後の正方晶系および立方晶系に対する単斜晶系の割合(%)を表し、Imは2θ=28°付近のピーク(単斜晶系の(11-1)面に基づくピーク)の高さを表し、It+cは2θ=30°付近のピーク(正方晶系の(111)面および立方晶系の(111)面の混相に基づくピーク)の高さを表す。測定には、各実施例および比較例の円盤状のジルコニア焼結体を試料として用いた。
【0156】
(9)ジルコニア焼結体の外観
ジルコニア焼結体の外観(色)は目視にて評価した。
【0157】
(10)ジルコニア焼結体の蛍光性
ジルコニア焼結体の蛍光性はUV光下における蛍光の有無を目視にて評価した。
【0158】
(11)ジルコニア成形体およびジルコニア仮焼体のΔL*(W-B)
ジルコニア成形体およびジルコニア仮焼体の厚さ1.5mmにおけるΔL*(W-B)は分光測色計を用いて測定した。具体的には、分光測色計(コニカミノルタジャパン株式会社製、「CM-3610A」)を用いて測定し、コニカミノルタ株式会社製色彩管理ソフトウェア「SpectraMagic NX ver.2.5」を使用して算出した。当該測定においては、光源はF11を用い、反射光を測定することで求めた。測定には、直径20mm×厚さ1.5mmの円盤状のジルコニア成形体およびジルコニア仮焼体を試料として用いた。
【0159】
[実施例1]
0.62モル/Lのオキシ塩化ジルコニウムおよび0.038モル/Lの塩化イットリウムを含む混合水溶液1.0Lと、1.9モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液0.5Lをそれぞれ準備した。
沈殿槽内に純水1.0Lを注ぎ、さらに上記混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを同時に注ぎ、オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムを共沈させてスラリーを得た。これを濾過および洗浄した後、酢酸22.2gを当該スラリーに加え、200℃で3時間水熱処理した。得られたスラリーを100nmの孔径を有するメンブレンフィルターで遠心濾過し、固形分濃度(ジルコニアとイットリアの濃度)が5.0質量%となるように純水を加え、粗大粒子を取り除いたジルコニアスラリーを作製した。このジルコニアスラリーに含まれるジルコニア粒子の平均一次粒子径は17nmであり、100nmを超える粒径を有するジルコニア粒子は確認できなかった。
当該ジルコニアスラリーを成形用スラリーとして石膏型に流し込み、2週間室温にて放置した後、冷間等方圧加圧(CIP)処理(圧力170MPa)して密度を上げてジルコニア成形体を得た。石膏型はCIP前の成形体形状が25mm×25mm×5mmの板状および直径20mm×厚さ2.5mmの円盤状となるように作製した。なお石膏型は、石膏(「ノリタケデンタルプラスター」、クラレノリタケデンタル株式会社製)に混水率50質量%で水を混和して作製した。このジルコニア成形体を常圧下、500℃で2時間仮焼してジルコニア仮焼体を得た。さらに、このジルコニア仮焼体を常圧下、1100℃で2時間焼結してイットリアを3mol%含むジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体は白色であった。各測定結果を表1に示した。
また、上記と同様にして作製したジルコニア仮焼体に対して、ミリング装置(「カタナH-18」、クラレノリタケデンタル株式会社製)を用いて、上顎中切歯単冠形状および下顎第一大臼歯単冠形状のジルコニア仮焼体をそれぞれ切削し、これらを常圧下、1100℃で2時間焼結して、歯冠形状の歯科用補綴物をそれぞれ得た。
【0160】
[実施例2]
0.62モル/Lのオキシ塩化ジルコニウムおよび0.066モル/Lの塩化イットリウムを含む混合水溶液1.0Lを用いる以外は実施例1と同様にジルコニアスラリーを作製した。当該ジルコニアスラリーに含まれるジルコニア粒子の平均一次粒子径は18nmであり、100nmを超える粒径を有するジルコニア粒子は0.35質量%であった。
上記で得られたスラリーを成形用スラリーとして用いた以外は実施例1と同様にして、イットリアを5mol%含む、ジルコニア成形体、ジルコニア仮焼体およびジルコニア焼結体をそれぞれ得た。得られたジルコニア焼結体は白色であった。各測定結果を表1に示した。
【0161】
[実施例3]
0.62モル/Lのオキシ塩化ジルコニウムおよび0.108モル/Lの塩化イットリウムを含む混合水溶液1.0Lを用いる以外は実施例1と同様にジルコニアスラリーを作製した。当該ジルコニアスラリーに含まれるジルコニア粒子の平均一次粒子径は17nmであり、100nmを超える粒径を有するジルコニア粒子は0.15質量%であった。
上記で得られたスラリーを成形用スラリーとして用いた以外は実施例1と同様にして、イットリアを8mol%含む、ジルコニア成形体、ジルコニア仮焼体およびジルコニア焼結体をそれぞれ得た。得られたジルコニア焼結体は白色であった。各測定結果を表1に示した。
【0162】
[実施例4]
実施例2で調製したジルコニアスラリー(平均一次粒子径は18nm、100nmを超える粒径を有するジルコニア粒子は0.35質量%)に対して、硝酸ビスマスの希硝酸溶液を、ジルコニアの質量に対するビスマスの酸化物(Bi2O3)換算の含有率が0.02質量%となるように添加して、ジルコニア粒子、蛍光剤を含む成形用スラリーとした。
成形用スラリーとして上記で得られたものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、イットリアを5mol%含む、ジルコニア成形体、ジルコニア仮焼体およびジルコニア焼結体をそれぞれ得た。得られたジルコニア焼結体は白色であり、また蛍光性を有していた。各測定結果を表1に示した。
【0163】
[実施例5]
実施例2で調製したジルコニアスラリー(平均一次粒子径は18nm、100nmを超える粒径を有するジルコニア粒子は0.35質量%)に対して、硝酸ニッケル(II)水溶液を、ジルコニアの質量に対するニッケル(II)の酸化物(NiO)換算の含有率が0.02質量%となるように添加して、ジルコニア粒子、着色剤を含む成形用スラリーとした。
成形用スラリーとして上記で得られたものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、イットリアを5mol%含む、ジルコニア成形体、ジルコニア仮焼体およびジルコニア焼結体をそれぞれ得た。得られたジルコニア焼結体は赤色に着色していた。各測定結果を表1に示した。
【0164】
[比較例1]
ジルコニア粒子の粉末「TZ-3Y」(東ソー株式会社製、イットリア含有率:3mol%、平均一次粒子径:30nm)を一軸プレスにて25mm×25mm×5mmの板状および直径20mm×厚さ2.5mmの円盤状にそれぞれ成形し、これらを冷間等方圧加圧(CIP)処理(圧力170MPa)して密度を上げてジルコニア成形体を得た。これらのジルコニア成形体を常圧下、500℃で2時間仮焼してジルコニア仮焼体を得た。さらに、これらのジルコニア仮焼体を常圧下、1100℃で2時間焼結してイットリアを3mol%含むジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体は白色であった。各測定結果を表1に示した。
【0165】
[比較例2]
比較例1で作製したジルコニア成形体を常圧下、500℃で2時間仮焼してジルコニア仮焼体を得た。さらに、これらのジルコニア仮焼体を常圧下、1500℃で2時間焼結してイットリアを3mol%含むジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体は白色であった。各測定結果を表1に示した。
【0166】
[比較例3]
ジルコニア粒子の粉末「TZ-8YS」(東ソー株式会社製、イットリア含有率:8mol%、平均一次粒子径:300nm)を一軸プレスにて25mm×25mm×5mmの板状および直径20mm×厚さ2.5mmの円盤状にそれぞれ成形し、これらを冷間等方圧加圧(CIP)処理(圧力170MPa)して密度を上げてジルコニア成形体を得た。これらのジルコニア成形体を常圧下、500℃で2時間仮焼してジルコニア仮焼体を得た。さらに、これらのジルコニア仮焼体を常圧下、1500℃で2時間焼結してイットリアを8mol%含むジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体は白色であった。各測定結果を表1に示した。
【0167】
[比較例4]
0.62モル/Lのオキシ塩化ジルコニウムおよび0.066モル/Lの塩化イットリウムを含む混合水溶液1.0Lと、1.9モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液0.5Lをそれぞれ準備した。
沈殿槽内に純水1.0Lを注ぎ、さらに上記混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを同時に注ぎ、オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムを共沈させてスラリーを得た。
これを濾過および洗浄した後、酢酸22.2gを上記スラリーに加え、200℃で3時間水熱処理し、固形分濃度(ジルコニアとイットリアの濃度)が5.0質量%となるように純水を加えてジルコニアスラリーを作製した。このジルコニアスラリーに含まれるジルコニア粒子の平均一次粒子径は19nmであり、100nmを超える粒径を有するジルコニア粒子は5.3質量%であった。
上記で得られたジルコニアスラリーを成形用スラリーとして用いた以外は実施例1と同様にして、イットリアを5mol%含む、ジルコニア成形体、ジルコニア仮焼体およびジルコニア焼結体をそれぞれ得た。得られたジルコニア焼結体は白色であった。各測定結果を表1に示した。
【0168】
【0169】
[実施例6]
実施例2で調製したジルコニアスラリー(平均一次粒子径は18nm、100nmを超える粒径を有するジルコニア粒子は0.35質量%)に、pH調整剤として水酸化テトラメチルアンモニウムを添加し、分散剤としてクエン酸三アンモニウムを添加した。この混合物を加熱撹拌しながら、ゲル化剤としてアガロースを添加して、ジルコニア粒子、pH調整剤、分散剤およびゲル化剤を含む成形用スラリーを作製した。
この成形用スラリーをポリプロピレン製の型に流し込み、室温で16日間乾燥させてジルコニア成形体を得た。このジルコニア成形体を常圧下、500℃で2時間仮焼してジルコニア仮焼体を得た。さらに、このジルコニア仮焼体を常圧下、1100℃で2時間焼結してイットリアを5mol%含むジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体は白色であった。各測定結果を表2に示した。
【0170】
[実施例7]
実施例2で調製したジルコニアスラリー(平均一次粒子径は18nm、100nmを超える粒径を有するジルコニア粒子は0.35質量%)に対して、分散媒置換操作として、2-エトキシエタノール50質量部を加え、ロータリーエバポレーターを用いて総量100質量部になるように濃縮した。上記分散媒置換操作を4回繰り返して2-エトキシエタノール置換スラリーを得た。この2-エトキシエタノール置換スラリーの残存水分量をカールフィッシャー水分量計を用いて測定したところ0.05質量%であった。
この2-エトキシエタノール置換スラリーを送り量5mL/分、入口温度150℃、出口温度100℃の条件でスプレードライヤー(日本ビュッヒ株式会社製、B-290)を用いて乾燥して、ジルコニア粒子を含む粉末を得た。
【0171】
得られた粉末を一軸プレスにて25mm×25mm×5mmの板状および直径20mm×厚さ2.5mmの円盤状にそれぞれ成形し、これらを冷間等方圧加圧(CIP)処理(圧力170MPa)して密度を上げてジルコニア成形体を得た。これらのジルコニア成形体を常圧下、500℃で2時間仮焼してジルコニア仮焼体を得た。さらに、これらのジルコニア仮焼体を常圧下、1100℃で2時間焼結してイットリアを5mol%含むジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体は白色であった。各測定結果を表2に示した。
また、上記と同様にして作製したジルコニア仮焼体に対して、ミリング装置(「カタナH-18」、クラレノリタケデンタル株式会社製)を用いて、上顎中切歯単冠形状および下顎第一大臼歯単冠形状のジルコニア仮焼体をそれぞれ切削し、これらを常圧下、1100℃で2時間焼結して、歯冠形状の歯科用補綴物をそれぞれ得た。
【0172】
[実施例8]
実施例2で調製したジルコニアスラリー(平均一次粒子径は18nm、100nmを超える粒径を有するジルコニア粒子は0.35質量%)に対して、当該ジルコニアスラリーの9体積倍のイソプロパノールを加え、これを遠沈管に入れて十分に混合し、4000rpmで10分間遠心した。白色物の沈降を確認した上で上清を取り除き、これに再度イソプロパノールを加えて十分に混合し、4000rpmで10分間遠心した。白色物の沈降を確認した上で上清を取り除き、これにメタノールを加えることによって使用したジルコニアスラリーと同体積となるようにし、さらに十分に混合してメタノール置換スラリーを得た。このメタノール置換スラリーの残存水分量をカールフィッシャー水分量計を用いて測定したところ0.08質量%であった。
得られたメタノール置換スラリーを超臨界乾燥装置を用いて、以下の手順により超臨界乾燥した。すなわち、メタノール置換スラリーを圧力容器に入れ、圧力容器を超臨界二酸化炭素抽出装置につなぎ、圧漏れのないことを確認した。その後、圧力容器と予熱管を60℃に加温したウォーターバスに漬け、80℃まで昇温すると共に、25MPaまで加圧して、安定化のため10分間静置した。次に、二酸化炭素およびエントレーナーとしてのメタノールを所定条件下(温度:80℃、圧力:25MPa、二酸化炭素の流量:10mL/分、エントレーナー(メタノール)の流量:1.5mL/分)で導入し、2時間経過時点でメタノール導入を停止し、二酸化炭素のみの導入を続けた。二酸化炭素のみの導入が2時間経過した後、二酸化炭素の送液を停止し、温度を80℃に保持したまま圧力を約20分かけて25MPaから徐々に下げて常圧に戻した。圧力容器をウォーターバスから出して常温まで冷却し、開封して処理済み試料を回収し、ジルコニア粒子を含む粉末を得た。
粉末として上記で得られたものを用いたこと以外は実施例7と同様にして、イットリアを5mol%含む、ジルコニア成形体、ジルコニア仮焼体およびジルコニア焼結体をそれぞれ得た。得られたジルコニア焼結体は白色であった。各測定結果を表2に示した。
【0173】
[実施例9]
実施例2で調製したジルコニアスラリー(平均一次粒子径は18nm、100nmを超える粒径を有するジルコニア粒子は0.35質量%)に対して、当該ジルコニアスラリーの9体積倍のイソプロパノールを加え、これを遠沈管に入れて十分に混合し、4000rpmで10分間遠心した。白色物の沈降を確認した上で上清を取り除き、これに再度イソプロパノールを加えて十分に混合し、4000rpmで10分間遠心した。白色物の沈降を確認した上で上清を取り除き、これにtert-ブチルアルコールを加えることによって使用したジルコニアスラリーと同体積となるようにし、さらに十分に混合してtert-ブチルアルコール置換スラリーを得た。このtert-ブチルアルコール置換スラリーの残存水分量をカールフィッシャー水分量計を用いて測定したところ0.05質量%であった。
【0174】
得られたtert-ブチルアルコール置換スラリーをアルミ製バットに移し、それを別途用意したデュワー瓶中の液体窒素に浸漬することでtert-ブチルアルコール置換スラリーを凍結させた。凍結させたtert-ブチルアルコール置換スラリーを-40℃に予備冷却させた凍結乾燥機内に静置し、真空ポンプで凍結乾燥機内を130Pa以下まで減圧し、凍結乾燥機内の温度を-10℃に変更した。凍結乾燥機の内部温度はアルミ製バット内外に温度センサーを挿入し確認した。凍結乾燥機内の温度が-10℃で安定してから72時間後、アルミ製バット内外の温度差が5℃以内であることを確認し、凍結乾燥機内の温度を30℃に変更し、24時間放置後、凍結乾燥機内の減圧を解除し、ジルコニア粒子を含む粉末を得た。
粉末として上記で得られたものを用いたこと以外は実施例7と同様にして、イットリアを5mol%含む、ジルコニア成形体、ジルコニア仮焼体およびジルコニア焼結体をそれぞれ得た。得られたジルコニア焼結体は白色であった。各測定結果を表2に示した。
【0175】
[実施例10]
実施例1で調製したジルコニアスラリー(平均一次粒子径は17nm、100nmを超える粒径を有するジルコニア粒子は確認できなかった)に対して、硝酸ビスマスの希硝酸溶液を、ジルコニアの質量に対するビスマスの酸化物(Bi2O3)換算の含有率が0.02質量%となるように添加して、ジルコニア粒子、蛍光剤を含む成形用スラリーとした。
成形用スラリーとして上記で得られたものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、イットリアを3mol%含む、ジルコニア成形体、ジルコニア仮焼体およびジルコニア焼結体をそれぞれ得た。得られたジルコニア焼結体は白色であり、また蛍光性を有していた。各測定結果を表2に示した。
【0176】
[実施例11]
実施例3で調製したジルコニアスラリー(平均一次粒子径は17nm、100nmを超える粒径を有するジルコニア粒子は0.15質量%)に対して、硝酸ビスマスの希硝酸溶液を、ジルコニアの質量に対するビスマスの酸化物(Bi2O3)換算の含有率が0.02質量%となるように添加して、ジルコニア粒子、蛍光剤を含む成形用スラリーとした。
成形用スラリーとして上記で得られたものを用いたこと以外は実施例3と同様にして、イットリアを8mol%含む、ジルコニア成形体、ジルコニア仮焼体およびジルコニア焼結体をそれぞれ得た。得られたジルコニア焼結体は白色であり、また蛍光性を有していた。各測定結果を表2に示した。
【0177】
[実施例12]
実施例4で調製したジルコニアスラリー(平均一次粒子径は18nm、100nmを超える粒径を有するジルコニア粒子は0.35質量%、ジルコニアの質量に対するビスマスの酸化物(Bi2O3)換算の含有率が0.02質量%となるようにビスマスの希硝酸溶液を添加)に対して、pH調整剤として水酸化テトラメチルアンモニウムを添加し、分散剤としてクエン酸三アンモニウムを添加した。この混合物を加熱撹拌しながら、ゲル化剤としてアガロースを添加して、ジルコニア粒子、蛍光剤、pH調整剤、分散剤およびゲル化剤を含む成形用スラリーを作製した。
成形用スラリーとして上記で得られたものを用いたこと以外は実施例6と同様にして、イットリアを5mol%含む、ジルコニア成形体、ジルコニア仮焼体およびジルコニア焼結体をそれぞれ得た。得られたジルコニア焼結体は白色であり、また蛍光性を有していた。各測定結果を表2に示した。
【0178】
[実施例13]
実施例4で調製したジルコニアスラリー(平均一次粒子径は18nm、100nmを超える粒径を有するジルコニア粒子は0.35質量%、ジルコニアの質量に対するビスマスの酸化物(Bi2O3)換算の含有率が0.02質量%となるようにビスマスの希硝酸溶液を添加)に対して、分散媒置換操作として、2-エトキシエタノール50質量部を加え、ロータリーエバポレーターを用いて総量100質量部になるように濃縮した。上記分散媒置換操作を4回繰り返して2-エトキシエタノール置換スラリーを得た。この2-エトキシエタノール置換スラリーの残存水分量をカールフィッシャー水分量計を用いて測定したところ0.07質量%であった。
この2-エトキシエタノール置換スラリーを送り量5mL/分、入口温度150℃、出口温度100℃の条件でスプレードライヤー(日本ビュッヒ株式会社製、B-290)を用いて乾燥して、ジルコニア粒子と蛍光剤を含む粉末を得た。
【0179】
得られた粉末として上記粉末を用いた以外は実施例7に記載の方法と同様にして、イットリアを5mol%含む、ジルコニア成形体、ジルコニア仮焼体およびジルコニア焼結体をそれぞれ得た。得られたジルコニア焼結体は白色であり、また蛍光性を有していた。各測定結果を表2に示した。
また、上記と同様にして作製したジルコニア仮焼体に対して、ミリング装置(「カタナH-18」、クラレノリタケデンタル株式会社製)を用いて、上顎中切歯単冠形状および下顎第一大臼歯単冠形状のジルコニア仮焼体をそれぞれ切削し、これらを常圧下、1100℃で2時間焼結して、歯冠形状の歯科用補綴物をそれぞれ得た。得られた歯冠形状のジルコニア焼結体は蛍光性を有していた。
【0180】
[実施例14]
実施例4で調製したジルコニアスラリー(平均一次粒子径は18nm、100nmを超える粒径を有するジルコニア粒子は0.35質量%、ジルコニアの質量に対するビスマスの酸化物(Bi2O3)換算の含有率が0.02質量%となるようにビスマスの希硝酸溶液を添加)に対して、当該ジルコニアスラリーの9体積倍のイソプロパノールを加え、これを遠沈管に入れて十分に混合し、4000rpmで10分間遠心した。白色物の沈降を確認した上で上清を取り除き、これに再度イソプロパノールを加えて十分に混合し、4000rpmで10分間遠心した。白色物の沈降を確認した上で上清を取り除き、これにメタノールを加えることによって使用したジルコニアスラリーと同体積となるようにし、さらに十分に混合してメタノール置換スラリーを得た。このメタノール置換スラリーの残存水分量をカールフィッシャー水分量計を用いて測定したところ0.06質量%であった。
上記のメタノール置換スラリーを用いる以外は実施例8と同様にして、ジルコニア粒子と蛍光剤を含む粉末を得た。
【0181】
得られた粉末として上記粉末を用いた以外は実施例8に記載の方法と同様にして、イットリアを5mol%含む、ジルコニア成形体、ジルコニア仮焼体およびジルコニア焼結体をそれぞれ得た。得られたジルコニア焼結体は白色であり、また蛍光性を有していた。各測定結果を表2に示した。
また、上記と同様にして作製したジルコニア仮焼体に対して、ミリング装置(「カタナH-18」、クラレノリタケデンタル株式会社製)を用いて、上顎中切歯単冠形状および下顎第一大臼歯単冠形状のジルコニア仮焼体をそれぞれ切削し、これらを常圧下、1100℃で2時間焼結して、歯冠形状の歯科用補綴物をそれぞれ得た。得られた歯冠形状のジルコニア焼結体は蛍光性を有していた。
【0182】