(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】チタンめっき用電解質及びチタンめっき用電解質を用いたチタンめっき部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 3/66 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
C25D3/66
(21)【出願番号】P 2022504968
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2020041457
(87)【国際公開番号】W WO2021176769
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2020036786
(32)【優先日】2020-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】境田 英彰
(72)【発明者】
【氏名】沼田 昂真
(72)【発明者】
【氏名】真嶋 正利
(72)【発明者】
【氏名】野平 俊之
(72)【発明者】
【氏名】安田 幸司
(72)【発明者】
【氏名】法川 勇太郎
(72)【発明者】
【氏名】鵜木 亮
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/038476(WO,A1)
【文献】特開昭51-138511(JP,A)
【文献】特開昭52-120925(JP,A)
【文献】特開2006-299338(JP,A)
【文献】特開2015-193899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属イオンと、
フッ化物イオン及び塩化物イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のハロゲン化物イオンと、
チタニウムイオンと、
酸化物イオンとを含むチタンめっき用電解質であって、
前記酸化物イオンの含有割合が前記チタンめっき用電解質に含まれるアニオン及びカチオンの全量に対して、0.1mol%以上1mol%以下であ
り、
亜鉛を含まない、チタンめっき用電解質。
【請求項2】
前記ハロゲン化物イオンは、前記塩化物イオンを含み、
前記塩化物イオンの含有割合が前記チタンめっき用電解質に含まれるアニオンの全量に対して、0.1mol%以上99.9mol%以下である、請求項1に記載のチタンめっき用電解質。
【請求項3】
前記ハロゲン化物イオンは、前記フッ化物イオンを含み、
前記フッ化物イオンの含有割合が前記チタンめっき用電解質に含まれるアニオンの全量に対して、0.1mol%以上99.9mol%以下である、請求項1又は請求項2に記載のチタンめっき用電解質。
【請求項4】
前記チタニウムイオンの含有割合は、前記チタンめっき用電解質に含まれるカチオンの全量に対して、0.1mol%以上20mol%以下である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のチタンめっき用電解質。
【請求項5】
導電性の表面を有する基材を準備する工程と、
前記基材を、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のチタンめっき用電解質に浸漬する工程であって、前記チタンめっき用電解質は溶融している、工程と、
前記基材と前記基材に対応するアノードとの間に電圧を印加して、前記基材の前記導電性の表面上にチタンめっき膜を形成する工程と、
を含むチタンめっき部材の製造方法。
【請求項6】
前記基材における前記導電性の表面は、ニッケル、鉄、銅、モリブデン、タングステン、カーボン及びステンレス鋼からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項5に記載のチタンめっき部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、チタンめっき用電解質及びチタンめっき用電解質を用いたチタンめっき部材の製造方法に関する。本出願は、2020年3月4日に出願した日本特許出願である特願2020-036786号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
チタン(Ti)は、耐腐食性、耐熱性及び比強度に優れた特性を有する金属である。しかし、チタンは生産コストが高く、製錬及び加工が難しい。そのため、チタンの広範な利用が妨げられている。現在、チタン及びチタン化合物の高耐食性及び高強度等の特性を利用する方法のひとつとして、CVD(Chemical Vapor Deposition)又はPVD(Physical Vapor Deposition)等を用いた乾式成膜法が一部工業化されている。しかし、上記乾式成膜法は、複雑な形状の基板には成膜が難しい傾向がある。上記乾式成膜法に代わるチタン成膜法として、溶融塩中でチタンを電析させる方法が提案されている(例えば、国際公開第2018/216320号(特願2017-100757号)(特許文献1)、国際公開第2017/159324号(特許文献2))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/216320号
【文献】国際公開第2017/159324号
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係るチタンめっき用電解質は、
リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属イオンと、
フッ化物イオン及び塩化物イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のハロゲン化物イオンと、
チタニウムイオンと、
酸化物イオンとを含むチタンめっき用電解質であって、
上記酸化物イオンの含有割合が上記チタンめっき用電解質に含まれるアニオン及びカチオンの全量に対して、0.1mol%以上1mol%以下である。
【0005】
本開示の一態様に係るチタンめっき部材の製造方法は、
導電性の表面を有する基材を準備する工程と、
上記基材を、上記チタンめっき用電解質に浸漬する工程であって、上記チタンめっき用電解質は溶融している、工程と、
上記基材と上記基材に対応するアノードとの間に電圧を印加して、上記基材の上記導電性の表面上にチタンめっき膜を形成する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、チタンめっき部材を製造するための手順を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、溶融塩チタンめっき液組成物に基材を浸漬した状態の一例を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、チタンめっき部材の表面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
溶融塩中でチタンを電析させる方法は、上記乾式成膜法と比較して、表面が平滑なチタンめっき膜を形成させることが可能であるが、チタンめっきが施された部材(以下、「チタンめっき部材」という場合がある。)の用途に適したチタンめっき膜を形成させる等、改良の余地がまだ残されている。
【0008】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、チタンめっき用電解質及びチタンめっき用電解質を用いたチタンめっき部材の製造方法を提供することを目的とする。とりわけ、本開示は、電気分解用の電極の製造に適したチタンめっき用電解質及びチタンめっき用電解質を用いたチタンめっき部材の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示によれば、チタンめっき用電解質及びチタンめっき用電解質を用いたチタンめっき部材の製造方法を提供することが可能になる。とりわけ、本開示によれば、電気分解用の電極の製造に適したチタンめっき用電解質及びチタンめっき用電解質を用いたチタンめっき部材の製造方法を提供することが可能になる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
[1]本開示の一態様に係るチタンめっき用電解質は、
リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属イオンと、
フッ化物イオン及び塩化物イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のハロゲン化物イオンと、
チタニウムイオンと、
酸化物イオンとを含むチタンめっき用電解質であって、
上記酸化物イオンの含有割合が上記チタンめっき用電解質に含まれるアニオン及びカチオンの全量に対して、0.1mol%以上1mol%以下である。
本開示の一態様に係るチタンめっき用電解質は、上述のような構成を備えることで、とりわけ電気分解用の電極の製造に適したチタンめっき用電解質となる。すなわち、上記チタンめっき用電解質の溶融塩をチタンめっきにおけるめっき浴として用いることで、電気分解用の電極の製造に適したチタンめっきを行うことができる。
【0011】
[2]上記ハロゲン化物イオンは、上記塩化物イオンを含み、
上記塩化物イオンの含有割合が上記チタンめっき用電解質に含まれるアニオンの全量に対して、0.1mol%以上99.9mol%以下であることが好ましい。このように規定することで、上記チタンめっき用電解質の融点を所望の温度に調整することが可能になる。
【0012】
[3]上記ハロゲン化物イオンは、上記フッ化物イオンを含み、
上記フッ化物イオンの含有割合が上記チタンめっき用電解質に含まれるアニオンの全量に対して、0.1mol%以上99.9mol%以下であることが好ましい。このように規定することで、上記チタンめっき用電解質の融点を所望の温度に調整することが可能になる。
【0013】
[4]上記チタニウムイオンの含有割合は、上記チタンめっき用電解質に含まれるカチオンの全量に対して、0.1mol%以上20mol%以下であることが好ましい。このように規定することで、適切なめっき効率でチタンめっきを行うことが可能になる。
【0014】
[5]本開示の一態様に係るチタンめっき部材の製造方法は、
導電性の表面を有する基材を準備する工程と、
上記基材を、上記[1]~[4]のいずれかに記載のチタンめっき用電解質に浸漬する工程であって、上記チタンめっき用電解質は溶融している、工程と、
上記基材と上記基材に対応するアノードとの間に電圧を印加して、上記基材の上記導電性の表面上にチタンめっき膜を形成する工程と、を含む。
本開示の一態様に係るチタンめっき部材の製造方法は、上述のような構成を備えることで電気分解用の電極の製造に適しためっきを行うことができる。
【0015】
[6]上記基材における上記導電性の表面は、ニッケル、鉄、銅、モリブデン、タングステン、カーボン及びステンレス鋼からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。このように規定することで、強度が高いチタンめっきを含むチタンめっき部材を製造することができる。
【0016】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す。)について説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。本明細書において「A~Z」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上Z以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Zにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とZの単位とは同じである。
【0017】
≪チタンめっき用電解質≫
本実施形態に係るチタンめっき用電解質は、
リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属イオンと、
フッ化物イオン及び塩化物イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のハロゲン化物イオンと、
チタニウムイオンと、
酸化物イオンとを含むチタンめっき用電解質であって、
上記酸化物イオンの含有割合が上記チタンめっき用電解質に含まれるアニオン及びカチオンの全量に対して、0.1mol%以上1mol%以下である。
【0018】
本実施形態において「チタンめっき用電解質」とは、チタンめっきを行う際にめっき浴(溶融塩浴)として用いる電解質を意味する。上記チタンめっき用電解質は、保管のとき等、めっき浴として用いる場面以外のときにおいて、固体状態であってもよいし、液体状態(すなわち、溶融塩の状態)であってもよい。本実施形態において「電解質」とは、溶媒中に溶解した際に陽イオン及び陰イオンに電離する物質(いわゆる、狭義の電解質)と当該溶媒とを含む概念である。上記チタンめっき用電解質は、上記少なくとも1種のアルカリ金属イオンと、上記少なくとも1種のハロゲン化物イオンと、上記チタニウムイオンと、上記酸化物イオンとを含む。ここで、上記アルカリ金属イオン及び上記ハロゲン化物イオンは、溶媒として上記チタンめっき用電解質に含まれていると把握することができる。なお、チタニウムイオンは、上記の狭義の電解質が陽イオン及び陰イオンに電離した場合の陽イオンに相当するものと把握することもできる。
【0019】
<アルカリ金属イオン>
本実施形態において、チタンめっき用電解質に含まれるアルカリ金属イオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種である。当該アルカリ金属イオンは、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。本実施形態の一側面において、上記アルカリ金属イオンは、リチウムイオンを含んでいてもよいし、リチウムイオン及びカリウムイオンを含んでいてもよい。
【0020】
リチウムイオンの供給源としては、特に制限されないが、例えば、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等が挙げられる。本実施形態において、リチウムイオンの含有割合は、チタンめっき用電解質に含まれるカチオンの全量に対して、0.1mol%以上99.9mol%以下であることが好ましく、1mol%以上99mol%以下であることがより好ましい。上記チタンめっき用電解質中におけるリチウムイオンの含有割合は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)分析法によって測定することが可能である。
【0021】
ナトリウムイオンの供給源としては、特に制限されないが、例えば、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム等が挙げられる。本実施形態において、ナトリウムイオンの含有割合は、チタンめっき用電解質に含まれるカチオンの全量に対して、0.1mol%以上99.9mol%以下であることが好ましく、1mol%以上99mol%以下であることがより好ましい。上記チタンめっき用電解質中におけるナトリウムイオンの含有割合は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)分析法によって測定することが可能である。
【0022】
カリウムイオンの供給源としては、特に制限されないが、例えば、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム等が挙げられる。本実施形態において、カリウムイオンの含有割合は、チタンめっき用電解質に含まれるカチオンの全量に対して、0.1mol%以上99.9mol%以下であることが好ましく、1mol%以上99mol%以下であることがより好ましい。上記チタンめっき用電解質中におけるカリウムイオンの含有割合は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)分析法によって測定することが可能である。
【0023】
本実施形態において、アルカリ金属イオンの含有割合は、チタンめっき用電解質に含まれるカチオンの全量に対して、80mol%以上99.9mol%以下であることが好ましく、88mol%以上99.5mol%以下であることがより好ましい。ここで、複数種のアルカリ金属イオンが上記チタンめっき用電解質に含まれている場合、上記アルカリ金属イオンの含有割合は、それぞれの元素における含有割合の総和を意味する。上記チタンめっき用電解質中におけるアルカリ金属イオンの含有割合は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)分析法によって測定することが可能である。
【0024】
<チタニウムイオン>
チタニウムイオンとしては、例えば、チタン(II)イオン、チタン(III)イオン等が挙げられる。本実施形態において、チタニウムイオンは、チタン(III)イオンを含むことが好ましい。ここで、元素記号又は元素名と共にかっこ書きのローマ数字が示される場合、当該ローマ数字は、その直前の元素の価数を示す。例えば、チタン(II)イオンは、「Ti2+」を意味する。チタン(III)イオンは、「Ti3+」を意味する。チタン(IV)イオンは、「Ti4+」を意味する。
【0025】
チタン(III)イオンの供給源としては、特に制限されないが、例えば、三塩化チタン(III)(TiCl3)、ヘキサフルオロチタン(III)酸リチウム(Li3TiF6)、ヘキサフルオロチタン(III)酸カリウム(K3TiF6)等が挙げられる。
【0026】
また、チタン(III)イオンは、下記式(1)で示される均化反応によってチタンめっき用電解質前駆体の溶融塩中においてチタン(IV)イオンを還元することによって得てもよい。
3Ti4+ +Ti金属 → 4Ti3+ 式(1)
【0027】
上記チタン(IV)イオンの供給源としては、特に制限されないが、例えば、ヘキサフルオロチタン(IV)酸(H2TiF6)、ヘキサフルオロチタン(IV)酸カリウム(K2TiF6)、ヘキサフルオロチタン(IV)酸アンモニウム((NH4)2TiF6)、ヘキサフルオロチタン(IV)酸ナトリウム(Na2TiF6)、シュウ酸チタンカリウム2水和物(K2TiO(C2O4)2・2H2O)、四塩化チタン(IV)(TiCl4)等が挙げられる。
【0028】
上記均化反応において用いられるチタン金属の形状としては、特に制限されないが、例えば、スポンジ状、粉末状等が挙げられる。
【0029】
上記チタンめっき用電解質中におけるチタニウムイオンの含有割合は特に制限されず、めっきを行う条件によって適宜設定できる。チタニウムイオンの含有割合は、例えば、チタンめっき用電解質に含まれるカチオンの全量に対して、0.1mol%以上20mol%以下であってもよいし、0.5mol%以上12mol%以下であってもよい。
【0030】
本実施形態の一側面において、チタニウムイオンがチタン(III)イオンを含む場合、チタン(III)イオンの含有割合は、例えば、チタンめっき用電解質に含まれるカチオンの全量に対して、0.1mol%以上20mol%以下であってもよいし、0.5mol%以上12mol%以下であってもよい。上記チタンめっき用電解質中におけるチタン(III)イオンの含有割合は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)分析法によって測定することが可能である。
【0031】
<その他のカチオン>
上記チタンめっき用電解質は、本実施形態の効果が奏される限りにおいて、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びチタニウムイオン以外のカチオンを含んでいてもよい。リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びチタニウムイオン以外のカチオンとしては、例えば、ケイ素イオン、マグネシウムイオン等が挙げられる。
【0032】
<ハロゲン化物イオン>
本実施形態において、チタンめっき用電解質に含まれるハロゲン化物イオンは、フッ化物イオン及び塩化物イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種である。当該ハロゲン化物イオンは、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。本実施形態の一側面において、上記ハロゲン化物イオンは、塩化物イオンを含んでいてもよいし、塩化物イオン及びフッ化物イオンを含んでいてもよい。
【0033】
フッ化物イオンの供給源としては、特に制限されないが、例えば、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化マグネシウム等が挙げられる。本実施形態において、フッ化物イオンの含有割合は、チタンめっき用電解質に含まれるアニオンの全量%に対して、0.1mol%以上99.9mol%以下であることが好ましく、10mol%以上50mol%以下であることがより好ましく、30mol%以上45mol%以下であることが更に好ましい。上記チタンめっき用電解質中におけるフッ化物イオンの含有割合は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)分析法によって測定することが可能である。
【0034】
塩化物イオンの供給源としては、特に制限されないが、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。本実施形態において、塩化物イオンの含有割合は、チタンめっき用電解質に含まれるアニオンの全量に対して、0.1mol%以上99.9mol%以下であることが好ましく、50mol%以上99.9mol%以下であることがより好ましく、55mol%以上70mol%以下であることが更に好ましい。上記チタンめっき用電解質中における塩化物イオンの含有割合は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)分析法によって測定することが可能である。
【0035】
本実施形態の一側面において、ハロゲン化物イオンがフッ化物イオン及び塩化物イオンを含む場合、フッ化物イオン及び塩化物イオンの合計の含有割合は、チタンめっき用電解質に含まれるアニオンの全量に対して、90mol%以上99.9mol%以下であることが好ましく、90mol%以上99mol%以下であることがより好ましく、95mol%以上97mol%以下であることが更に好ましい。フッ化物イオン及び塩化物イオンの合計の含有割合は、例えば、ICP分析法によって測定することが可能である。
【0036】
上記フッ化物イオンと上記塩化物イオンとのモル比F-:Cl-は、30:70~50:50であることが好ましく、30:70~45:55であることがより好ましい。上記モル比F-:Cl-は、例えば、イオンクロマトグラフィー(IC)法、ICP分析法によって測定することが可能である。
【0037】
<酸化物イオン>
酸化物イオンとしては、例えば、O2-、O3-等が挙げられる。本実施形態において、酸化物イオンは、O2-を含むことが好ましい。
【0038】
酸化物イオンの供給源としては、特に制限されないが、例えば、酸化リチウム(Li2O)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化チタン(TiO2)等が挙げられる。
【0039】
酸化物イオンの含有割合が上記チタンめっき用電解質に含まれるアニオン及びカチオンの全量に対して、0.1mol%以上1mol%以下であり、0.15mol%以上0.8mol%以下であることが好ましく、0.2mol%以上0.5mol%以下であることがより好ましい。上記チタンめっき用電解質中における酸化物イオンの含有割合は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)分析法によって測定することが可能である。
【0040】
酸化物イオンが上述の含有割合でチタンめっき用電解質に含まれることによって、当該チタンめっき用電解質の溶融塩をめっき浴として用いてチタンめっきを行った場合に、めっき浴中に含まれるチタニウムイオンと上記酸化物イオンとが結合して酸化チタンの微粒子が生成されると本発明者らは考えている。生成された酸化チタンの微粒子は、成膜中のチタンめっきに取り込まれ、チタンめっき膜の表面に凹凸が付与されると考えられる。その結果、チタンめっき膜の表面積が、平滑なチタンめっき膜と比較して大きくなると考えられる。このようなチタンめっき膜を電気分解(電解)の電極に施すと電極の表面積が増大するため、電解における電圧が下がり電解の効率が向上する。すなわち、上記チタンめっき用電解質は、電気分解用の電極の製造に適したものとなる。
【0041】
<その他のアニオン>
上記チタンめっき用電解質は、本実施形態の効果が奏される限りにおいて、フッ化物イオン、塩化物イオン及び酸化物イオン以外のアニオンを含んでいてもよい。フッ化物イオン、塩化物イオン及び酸化物イオン以外のアニオンとしては、例えば、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等が挙げられる。
【0042】
本実施形態の一側面において、リチウムイオン、フッ化物イオン及び塩化物イオンの供給源として、フッ化リチウム及び塩化リチウムを用いる場合、上記フッ化リチウム及び上記塩化リチウムの合計の含有割合は、チタンめっき用電解質の全量を基準として、90mol%以上99mol%以下であることが好ましく、95mol%以上97mol%以下であることがより好ましい。上記フッ化リチウム及び上記塩化リチウムの合計の含有割合は、例えば、ICP分析法によって測定することが可能である。
【0043】
上記フッ化リチウムと上記塩化リチウムとのモル比LiF:LiClは、30:70~50:50であることが好ましく、30:70~45:55であることがより好ましい。上記モル比LiF:LiClは、例えば、イオンクロマトグラフィー(IC)法、ICP分析法によって測定することが可能である。
【0044】
≪チタンめっき部材の製造方法(1)≫
本実施形態の一側面に係るチタンめっき部材の製造方法は、
導電性の表面を有する基材を準備する工程(S10)と、
上記基材を、上記チタンめっき用電解質に浸漬する工程であって、上記チタンめっき用電解質は溶融している、工程(S20)と、
上記基材と上記基材に対応するアノードとの間に電圧を印加して、上記基材の上記導電性の表面上にチタンめっき膜を形成する工程(S30)と、を含む(
図1参照)。
【0045】
<導電性の表面を有する基材を準備する工程(S10)>
本工程では、導電性の表面を有する基材を準備する。「導電性の表面を有する基材」とは、電場の働きによって荷電粒子(電子、イオン等)がドリフトして電気を通すことが可能な表面を有する基材を意味する。本実施形態に係る導電性の表面は、溶融塩である上記チタンめっき用電解質の温度より高い融点を有する物質を含んでいてもよい。上記導電性の表面は、溶融塩である上記チタンめっき用電解質の温度より高い融点を有する物質からなっていてもよい。溶融塩である上記チタンめっき用電解質の温度より低い融点を有する物質を上記導電性の表面として用いると、後述する「基材の導電性の表面上にチタンめっき膜を形成する工程」において溶融塩である上記チタンめっき用電解質中に溶け出してしまい、上記基材のカソードとしての機能が低下する傾向がある。
【0046】
導電性の表面を有する基材は、例えば、その全体が導電性の物質からなる基材であってもよいし、絶縁体からなる基材前駆体の表面に導電性の物質が被覆されている基材であってもよい。本実施形態の一側面において、上記基材は、溶融塩である上記チタンめっき用電解質の温度より高い融点を有する物質を含んでいてもよい。上記基材は、溶融塩である上記チタンめっき用電解質の温度より高い融点を有する物質からなっていてもよい。
【0047】
上記基材における導電性の表面は、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、カーボン及びステンレス鋼からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、Ni、Fe、Cu、Mo、W、カーボン及びステンレス鋼からなる群より選ばれる少なくとも1種からなることがより好ましい。カーボンとしては、例えばグラッシーカーボン、グラファイト等が挙げられる。ステンレス鋼としては、例えばSUS304、SUS310S、SUS430等が挙げられる。
【0048】
また、上記基材の形状は特に限定されない。例えば、基材としては、板状、柱状、パイプ状、二次元網目状、三次元網目状等の種々の形状を有する基材を採用することができる。
【0049】
<基材をチタンめっき用電解質に浸漬する工程(S20)>
本工程では、準備した上記基材1を上記チタンめっき用電解質20に浸漬する。本実施形態の一側面において、本工程は、準備した上記基材10と上記基材10に対応するアノード30とを上記チタンめっき用電解質20に浸漬してもよい(
図2参照)。上記チタンめっき用電解質20は、溶融している。すなわち、本工程において上記チタンめっき用電解質20は溶融塩である。本実施形態の一側面において、上記チタンめっき用電解質20は、容器40に収容されていてもよい(
図2参照)。
【0050】
溶融塩である上記チタンめっき用電解質の温度は、上記チタンめっき用電解質の融点以上であり、上記導電性の表面を構成する物質の融点以下であることが好ましい。より具体的には、溶融塩である上記チタンめっき用電解質の温度は、500℃以上850℃以下であることがより好ましく、500℃以上750℃以下であることが更に好ましい。
【0051】
上記アノードは、溶融塩である上記チタンめっき用電解質の温度より高い融点を有する物質を含んでいてもよい。上記アノードは、溶融塩である上記チタンめっき用電解質の温度より高い融点を有する物質からなっていてもよい。上記アノードは、具体的には例えば、金属チタン、グラッシーカーボン、白金等を含むアノードが挙げられる。
【0052】
<基材の導電性の表面上にチタンめっき膜を形成する工程(S30)>
本工程は、上記基材と上記基材に対応するアノードとの間に電圧を印加して、上記基材の上記導電性の表面上にチタンめっき膜を形成する。また、上記チタンめっき膜を形成する工程(本工程)は、上記基材におけるカソード電位がLi+/Liの酸化還元電位を基準として0.85V~1.2Vとなるように、上記基材と上記アノードとの間に電圧を印加することが好ましい。
【0053】
具体的には、基材及びアノードを溶融塩である上記チタンめっき用電解質に浸漬した状態で、上記基材におけるカソード電位がLi+/Liの酸化還元電位を基準として0.85V~1.2Vとなるように、上記基材と上記アノードとの間に電圧を印加することによって通電し、上記チタンめっき用電解質の電解を行なうことが好ましい。これにより、カソードである基材の導電性の表面においてチタニウムイオンであるチタン(III)イオンが金属チタンに還元され、当該表面が金属チタンで被覆されることにより、チタンめっき膜が形成される。
【0054】
上記カソード電位の設定範囲としては、Li+/Liの酸化還元電位を基準として1V~1.2Vであることがより好ましく、1V~1.1Vであることが更に好ましい。上記カソード電位のモニターは例えば、電気化学測定装置(北斗電工株式会社製、商品名:HZ-7000)を用いて行うことができる。
【0055】
<その他の工程>
本実施形態に係るチタンめっき部材の製造方法は、上述した工程に加えてその他の工程を更に含んでいてもよい。その他の工程としては、例えば、溶融塩である上記チタンめっき用電解質に含まれる不純物を取り除く目的で行う予備電解を施す工程、チタンめっきが施された基板を洗浄する工程、洗浄後のチタンめっきが施された基板を乾燥する工程等が挙げられる。
【0056】
≪チタンめっき部材の製造方法(2)≫
本実施形態の他の側面に係るチタンめっき部材の製造方法は、
表面に金属元素を含む基材を準備する工程と、
上記基材を上記チタンめっき用電解質に浸漬し無電解めっきを行う工程であって、上記チタンめっき用電解質は溶融している、工程とを含む。
【0057】
<基材を準備する工程>
本工程では、基材を準備する。上記基材は、その表面に金属元素を含む。「その表面に金属元素を含む」とは、構成元素として金属元素を含む物質をその表面に有することを意味する。金属元素を含む物質としては、例えば、金属単体、合金、セラミックス等が挙げられる。本実施形態に係る金属元素を含む物質は、上記チタンめっき用電解質の温度より高い融点を有してもよい。上記チタンめっき用電解質の温度より低い融点を有する物質を上記基材の表面に用いると、後述する「基材をチタンめっき用電解質に浸漬し無電解めっきを行う工程」において、上記基材の表面が上記チタンめっき用電解質中に溶け出してしまう傾向がある。
【0058】
<基材をチタンめっき用電解質に浸漬し無電解めっきを行う工程>
本工程では、準備した上記基材をチタンめっき用電解質に浸漬し無電解めっきを行う。上記チタンめっき用電解質は溶融している。
【0059】
上記チタンめっき用電解質は、その温度が上記チタンめっき用電解質の融点以上であり、上記基材の表面に含まれる上記金属元素を含む物質の融点以下であることが好ましい。より具体的には、上記チタンめっき用電解質は、その温度が500℃以上850℃以下であることがより好ましく、500℃以上750℃以下であることが更に好ましい。
【0060】
詳細なメカニズムは明らかにされていないが、本実施形態にかかるチタンめっき部材の製造方法では、下記式(2)又は下記式(3)で示される反応によって、基材の表面にチタン金属が析出して無電解めっきされると本発明者らは考えている。すなわち、本実施形態にかかるチタンめっき部材の製造方法では、基材に電流を流すことなく基材の表面にチタン金属を析出させることが可能である。
2Ti2+ → Ti4+ +Ti金属 式(2)
4Ti3+ → 3Ti4+ +Ti金属 式(3)
【0061】
上記基材をチタンめっき用電解質に浸漬する場合、上記基材の全部を上記チタンめっき用電解質に浸漬してもよい。また、上記基材の一部を上記チタンめっき用電解質に浸漬してもよい。
【0062】
上記基材をチタンめっき用電解質に浸漬する時間(以下、「浸漬時間」という場合がある。)は、特に制限されないが、例えば、10分間以上120分間以下であってもよいし、40分間以上100分間以下であってもよいし、60分間以上90分間以下であってもよい。このとき、浸漬時間が長いと、上述のTiと上記基材に由来する金属元素とを含む合金が生成されやすい傾向がある。
【0063】
<その他の工程>
本実施形態に係るチタンめっき部材の製造方法は、上述した工程に加えてその他の工程を更に含んでいてもよい。その他の工程としては、例えば、チタンめっき部材を洗浄する工程、洗浄後のチタンめっき部材を乾燥する工程等が挙げられる。
【0064】
このようにして製造されたチタンめっき部材は、高硬度を有し、表面積が大きく、かつ耐腐食性、耐摩耗性に優れた保護膜(チタンめっき膜)を有する部材である。そのため、電解分野、蓄電分野等、種々の分野において使用することができる。
【0065】
以上の説明は、以下に付記する特徴を含む。
(付記1)
リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属イオンと、
フッ化物イオン及び塩化物イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のハロゲン化物イオンと、
チタニウムイオンと、
酸化物イオンとを含むチタンめっき用電解質であって、
前記酸化物イオンの含有割合が前記チタンめっき用電解質に含まれるアニオン及びカチオンの全量に対して、0.1mol%以上1mol%以下である、チタンめっき用電解質。
(付記2)
前記アルカリ金属イオンは、前記リチウムイオンを含み、
前記リチウムイオンの含有割合が前記チタンめっき用電解質に含まれるカチオンの全量に対して、0mol%を超えて99.9mol%以下である、付記1に記載のチタンめっき用電解質。
(付記3)
前記アルカリ金属イオンは、前記ナトリウムイオンを含み、
前記ナトリウムイオンの含有割合が前記チタンめっき用電解質に含まれるカチオンの全量に対して、0mol%を超えて99.9mol%以下である、付記1又は付記2に記載のチタンめっき用電解質。
(付記4)
前記アルカリ金属イオンは、前記カリウムイオンを含み、
前記カリウムイオンの含有割合が前記チタンめっき用電解質に含まれるカチオンの全量に対して、0mol%を超えて99.9mol%以下である、付記1から付記3のいずれかに記載のチタンめっき用電解質。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
≪チタンめっき用電解質の作製≫
以下の作業は、大気雰囲気において全て行った。まず、K2TiF6の濃度が2mol%となるように、またLi2Oの濃度が表1に示される濃度となるように、表1に示される主浴を構成する塩、Li2O及びK2TiF6を混合した。このとき、上記主浴を構成する塩の合計の含有割合は、97.0~98mol%であった。その後、得られた混合物を550℃に加熱し、溶融塩のチタンめっき用電解質の前駆体を作製した。得られた前駆体に対して、チタン(III)イオン(チタニウムイオン)を生成するのに必要な量の2倍量のスポンジチタン(前駆体1gあたりに対し16mg)を添加し、十分に溶解させた。溶融塩中には溶解しきらなかったスポンジチタンが沈殿した状態で確認された。このようにして、溶融塩であるチタンめっき用電解質(試料No.1~10)を作製した。
【0068】
≪チタンめっき部材の製造≫
次に得られた試料No.1~10のチタンめっき用電解質の溶融塩をめっき浴として用いて、以下の手順でチタンめっき部材を製造した。以下の工程は、Arガス(98.3%~100%)の雰囲気にて行った。なお、上記めっき浴は、炉内で十分乾燥させたものを用いた。まず、カソードとして株式会社ニラコ製のNi板である基材(縦30mm×横50mm×厚み0.5mm)を準備した(導電性の表面を有する基材を準備する工程)。その後、上記基材とアノードであるTi板とを上述の溶融塩である上記チタンめっき用電解質に浸漬した(基材をチタンめっき用電解質に浸漬する工程)。最後に以下の条件にて、カソードである基材とアノードとの間に電圧を印加して、上記基材の表面上にチタンめっき膜を形成した(基材の導電性の表面上にチタンめっき膜を形成する工程)。このときカソードである基材とアノードとの間に印加した電圧は、北斗電工株式会社製のHZ-7000装置を用いて測定した。このようにして、試料No.1~10のチタンめっき用電解質それぞれをめっき浴として用いて、対応する試料No.1~10のチタンめっき部材を作製した。
【0069】
(測定条件)
測定装置:HZ-7000(北斗電工株式会社製)
カソード:Ni板(株式会社ニラコ製)
アノード:Ti板(株式会社ニラコ製)
参照電極:白金疑似参照電極(株式会社ニラコ製)
温度 :550℃
電流密度:100mA/cm2
雰囲気 :Arガス(98.3%~100%)(残部は空気)
【0070】
≪チタンめっき部材の表面観察≫
試料No.1~10のチタンめっき部材の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した(例えば、
図3)。また、当該チタンめっき部材の表面をSEMに付帯のEDXを用いて分析し、当該チタンめっき部材の表面における元素分析を行った。その結果、当該チタンめっき部材の表面に、チタン元素及び酸素元素の存在が確認された。また、チタンめっき部材の表面におけるチタン元素を含む粒子のサイズは、100~200nm程度であった(例えば、
図3)。上記結果を踏まえると、チタンめっき部材の表面にチタンの酸化物からなる粒子がチタンめっき膜に含まれていることが示唆された。
【0071】
≪電解試験≫
以下の手順で、試料No.1~10のチタンめっき部材それぞれを陽極として用いた、食塩水の電解試験(電気分解試験)を行った。まず、陽極である上記チタンめっき部材と陰極であるNi板(株式会社ニラコ製)を、イオン交換膜を中央に配した角槽に装着した。その後、下記の電解条件にしたがって、食塩水の電気分解を行った。なお、イオン交換膜電解槽の電解面積は1dm2であり、隔膜として食塩電解用陽イオン交換膜を用いた。
【0072】
<電解条件>
陽極液として250±10g/L-NaCl、陰極液として30±0.1質量%-NaOH水溶液を用いた。電解温度は80~90℃とし、電流密度は5kA/m2とした。
【0073】
<評価>
各電解槽を用いて食塩水を電解する際のセル電圧を測定し、試料No.1~10それぞれの場合において測定された値から試料No.1の値を引いた値(電圧差)を評価に用いた。電圧差(V)はマイナスの値の場合を合格とした。得られた結果を表1に示す。ここで、試料No.1及び6は比較例に相当する。試料No.2~5及び試料No.7~10は実施例に相当する。
【0074】
【0075】
表1の結果から、酸化物イオン(O2-)の含有割合が0.1mol%以上1mol%以下であるチタンめっき用電解質を、溶融塩のめっき浴として用いてチタンめっきを行った場合、このめっき方法で得られたチタンめっき部材を陽極として用いて電解試験を行うと、電解電圧差が負の値を示し電解効率が向上していることが分かった。すなわち、酸化物イオンの含有割合が0.1mol%以上1mol%以下であるチタンめっき用電解質を、溶融塩のめっき浴として用いてチタンめっきを行うと、電気分解用の電極の製造に適しためっきを行えることが分かった。当該チタンめっき用電解質の溶融塩をめっき浴として用いてチタンめっきを行った場合、めっき浴中に含まれるチタニウムイオンと上記酸化物イオンとが結合して酸化チタンの微粒子が生成されると本発明者らは考えている。生成された酸化チタンの微粒子は、成膜中のチタンめっきに取り込まれ、チタンめっき膜の表面に凹凸が付与されると考えられる。その結果、平滑なチタンめっき膜と比較して、本実施例におけるチタンめっき膜の表面積が大きくなり、上述のように電解効率が向上していると考えられる。
【0076】
以上のように本発明の実施形態及び実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態及び各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0077】
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態及び実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0078】
10 基材、20 チタンめっき用電解質、30 アノード、40 容器