IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 寧徳新能源科技有限公司の特許一覧

<>
  • 特許-負極及びその製造方法 図1
  • 特許-負極及びその製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】負極及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1393 20100101AFI20241022BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241022BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20241022BHJP
【FI】
H01M4/1393
H01M4/62 Z
H01M4/587
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022519826
(86)(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-30
(86)【国際出願番号】 CN2019128441
(87)【国際公開番号】W WO2021128091
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-03-29
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】王 可飛
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/185381(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/153469(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106848202(CN,A)
【文献】特表2019-535110(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109037676(CN,A)
【文献】特表2015-523699(JP,A)
【文献】特許第6152177(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/02-62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極の製造方法であって、
前記負極の製造方法は、
負極活物質、分散剤、バインダーおよび溶媒を混合して混合液を得た後、前記混合液にSi-C及びSi-O結合を有する助剤を添加し、均一に混合して負極スラリーを得、前記助剤は、ポリエーテルシロキサンを含み、又は、
負極活物質および分散剤を混合した後、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤と溶媒との混合物を添加して、混合液を得た後、前記混合液に、前記分散剤およびバインダーを添加し、均一に混合して負極スラリーを得る、
混合ステップS1と、
S1で調製された前記負極スラリーを負極集電体上に塗布し、塗布速度が10m/分~100m/分であり、初期極片を得る塗布ステップS2と、
S2で得られた前記初期極片を真空乾燥装置に入れて乾燥させ、乾燥温度が80℃~150℃であり、前記負極を得る乾燥ステップS3と、を含み、
前記負極活物質は、人造黒鉛であり
前記溶媒は、脱イオン水であり、
前記分散剤は、カルボキシメチルセルロースであり
前記バインダーは、スチレン-ブタジエンゴムである、負極の製造方法。
【請求項2】
前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤は、
(a)酸化電位が4.5V以上、且つ還元電位が0.5V以下であることと、
(b)前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤を0.1%含む水溶液の表面張力が30mN/m以下であることと、
のうちの少なくとも一つの特徴を有する、請求項1に記載の負極の製造方法。
【請求項3】
前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤は、複合シリコーンポリエーテル複合体及びポリエーテル変性トリシロキサンのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の負極の製造方法。
【請求項4】
前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤は、トリシロキサン界面活性剤、シリコーン界面活性剤、ジヒドロキシポリジメチルシロキサン、N-β-アミノエチル-Y-アミノプロピルジメトキシメチルシラン又はメチルシリコーンオイルポリジメチルシロキサンから選択される、請求項1に記載の負極の製造方法。
【請求項5】
前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤の添加量は3000ppm以下である、請求項1に記載の負極の製造方法。
【請求項6】
S1、S2又はS3のいずれかのステップにおいて、機械的振動又は超音波振動の少なくとも一方である振動処理を同時に行う、請求項1に記載の負極の製造方法。
【請求項7】
S1、S2又はS3のいずれかのステップの後に、機械的振動又は超音波振動中の少なくとも一方である振動処理を行う、請求項1に記載の負極の製造方法。
【請求項8】
前記振動処理の振動周波数が100Hz~800Hzであり、振幅が0.01mm~0.5mmであり、振動時間が1分~5分である、請求項6又は7に記載の負極の製造方法。
【請求項9】
前記振動処理は複数回行われ、且つ少なくとも1回の前記振動処理の振動周波数は前回の振動処理の振動周波数よりも小さい、請求項6又は7に記載の負極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵分野に関し、具体的に、負極及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
技術の発展及び携帯装置に対する需要の増加に伴い、電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)に対する需要が著しく増加している。安全性が高く、寿命に優れた電気化学装置が検討されている。
【0003】
電気化学装置の負極の調製過程中に、負極活物質、分散剤、バインダー及び導電剤などを溶媒に溶解させて負極スラリーを形成する。しかしながら、負極活物質、分散剤、バインダー及び導電剤などを均一に分散させることは一般に困難であり、負極スラリーの表面張力が不均一となる。表面張力の差は、ハジキ、凹み又は縮辺現象を引き起こし、それらは負極の見掛け特性及び電気化学装置の特性に悪影響を与え、製品の安全性及び良品率に影響を与え、さらに生産コストを上昇させる。
【0004】
この実情に鑑みて、改良された負極及びその製造方法を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明の実施例は、関連分野に存在する少なくとも1つの問題をある程度で解決することを目的として、負極及びその製造方法を提供する。
【0006】
本発明の一態様によれば、本発明はSi-C及びSi-O結合を有する助剤を添加するステップを含む負極の製造方法を提供する。
【0007】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤と溶媒とを混合する。
【0008】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤は、バインダーの添加後に添加される。
【0009】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記方法は、
負極活物質、分散剤、バインダー、溶媒及び前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤を均一に混合して負極スラリーを得る混合ステップS1と、
S1で調製された前記負極スラリーを負極集電体上に塗布し、塗布速度が10m/分~100m/分であり、初期極片を得る塗布ステップS2と、
S2で得られた前記初期極片を真空乾燥装置に入れて乾燥させ、乾燥温度が80℃~150℃であり、前記負極を得る乾燥ステップS3と、を含む。
【0010】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤は、
(a)酸化電位が4.5V以上、且つ還元電位が0.5V以下であることと、
(b)前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤を0.1%含む水溶液の表面張力が30mN/m以下であることと、
のうちの少なくとも1つの特徴を有する。
【0011】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤は、ポリエーテルシロキサンを含む。
【0012】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤は、複合シリコーンポリエーテル複合体、ポリエーテル変性トリシロキサン及びポリエーテル変性シリコーンポリエーテルシロキサンのうちの少なくとも1つを含む。
【0013】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極活物質は、天然黒鉛、人造黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、ケイ素-酸素材料(Silicon-Oxygen material)、ケイ素‐炭素材料(Silicon-Carbon material)、シリコン及びスズ合金のうちの少なくとも1つを含む。
【0014】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記溶媒は、脱イオン水又はN-メチルピロリドンである。
【0015】
本発明のいくつかの実施例によれば、S1、S2又はS3のいずれかのステップにおいて、機械的振動又は超音波振動の少なくとも一方である振動処理を同時に行う。
【0016】
本発明のいくつかの実施例によれば、S1、S2又はS3のいずれかのステップの後に、機械的振動又は超音波振動の少なくとも一方である振動処理を行う。
【0017】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記振動処理の、振動周波数が100Hz~800Hzであり、振幅が0.01mm~0.5mmであり、振動時間が1分~5分である。
【0018】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記振動処理は複数回行われ、且つ、少なくとも1回の前記振動処理の振動周波数は前回の振動処理の振動周波数よりも小さい。
【0019】
本発明の更なる一態様によれば、本発明は、本発明の負極の製造方法によって得られた負極を提供する。
【0020】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極中の前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤の含有量が500ppm以下であり、好ましくは300ppm以下である。
【0021】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極は、Si-C及びSi-O結合を有する助剤を添加せずに調製された負極と比較して、表面のジエチルカーボネートに対する接触角が10%以上減少している。
【0022】
本発明の更なる一態様によれば、本発明は、正極、負極、セパレータ及び電解液を含む電気化学装置であって、前記負極は本発明の負極の製造方法により得られたものであり、あるいは前記負極は本発明の負極である電気化学装置を提供する。
【0023】
本発明の更なる一態様によれば、本発明は、本発明の電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【0024】
本発明の実施例の他の態様および利点は、以下の内容において部分的に述べられて示され、または本発明の実施例の実施によって説明される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
以下では、本発明の実施例を説明するために、本発明の実施例または先行技術を説明するための必要な図面を概略に説明する。以下に説明される図面は、本発明の実施例の一部にすぎないことは自明である。当業者にとって、創造的労力をかけない前提で、依然としてこれらの図面に例示される構造により他の実施例の図面を得ることができる。
【0026】
図1図1は、比較例1の負極の表面外観図である。
図2図2は、実施例2の負極の表面外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。本発明の実施例は、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0028】
本明細書で使用されている下記した用語は、別に断らない限り、以下に示される意味を持つ。
【0029】
発明を実施するための形態及び請求の範囲において、「うちの少なくとも一つ」という用語又はその他の類似な用語によって接続された項のリストは、リストされた項の任意の組み合わせを意味することができる。例えば、項A及びBがリストされている場合、用語「A及びBのうちの少なくとも一つ」は、Aのみ、Bのみ、又はA及びBを意味する。別の実例では、項A、B、及びCがリストされている場合、用語「A、B、及びCのうちの少なくとも一つ」は、Aのみ;又はBのみ;Cのみ;AとB(Cを除く);AとC(Bを除く);BとC(Aを除く);又はAとBとCのすべてを意味する。項Aは、単一の素子または複数の素子を含み得る。項Bは、単一の素子又は複数の素子を含み得る。項Cは、単一の素子又は複数の素子を含み得る。「うちの少なくとも一種」という用語は、「うちの少なくとも一つ」という用語と同様な意味を持つ。
【0030】
負極の調製過程において、一般的には、負極活物質、分散剤、バインダー及び導電剤などを溶媒に溶解して負極スラリーを形成し、次に負極スラリーを負極集電体上に塗布して、乾燥などのステップを経て負極を形成する。負極活物質と溶媒との相溶性が悪いため、分散剤が十分に機能し難くなることが多く、負極活物質、分散剤、バインダー及び導電剤などを溶媒中に均一に分散させることが困難となり、負極スラリーを十分に均一にすることができない。不均一な負極スラリーは、不均一な表面張力をもたらす。表面張力の差は、ハジキ、凹み又は縮辺現象(図1に示す)を引き起こし、それらは負極の見掛け特性及び電気化学装置の特性に悪影響を与え、製品の安全性及び良品率に影響を与え、さらに生産コストを上昇させる。
【0031】
本発明は、特定の製造方法によって、負極活物質と溶媒との間の相溶性を改善し、さらに負極スラリーの表面張力を改善し、負極表面のハジキ、凹み又は縮辺現象(図2に示す)を減少させ、負極の品質を向上させ、電気化学装置の特性を改善する。
【0032】
1、負極の製造方法
一つの実施例において、本発明は、Si-C及びSi-O結合を有する助剤を添加するステップを含む負極の製造方法を提供する。
【0033】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記方法は以下のステップを含む。
【0034】
S1:混合ステップ
このステップでは、負極活物質、分散剤、バインダー、溶媒及び前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤を均一に混合して負極スラリーを得る。
【0035】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤と溶媒とを混合する。
【0036】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤は、バインダーの添加後に添加される。
【0037】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極活物質は、天然黒鉛、人造黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、ケイ素-酸素材料、ケイ素‐炭素材料、シリコン合金及びスズ合金のうちの少なくとも1つを含む。
【0038】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記溶媒は、脱イオン水又はN-メチルピロリドンである。
【0039】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記分散剤は、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース誘導体、アルギン酸、アルギン酸誘導体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸誘導体、ポリアミド酸、ポリアミド酸誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール誘導体、澱粉、澱粉誘導体、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース誘導体のうちの少なくとも1つを含む。
【0040】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記バインダーは、スチレン-ブタジエンゴム、ポリアクリル酸エステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体及びフッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体のうちの少なくとも1つを含む。
【0041】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤は、
(c)酸化電位が4.5V以上、且つ還元電位が0.5V以下であることと、
(d)前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤を0.1%含む水溶液の表面張力が30mN/m以下であることと、のうちの少なくとも1つの特徴を有する。
【0042】
いくつかの実施例において、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤の酸化電位が4.5V以上、且つ還元電位が0.5V以下である。いくつかの実施例において、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤の酸化電位が5V以上、且つ還元電位が0.3V以下である。上記した酸化/還元電位を有する助剤は、電気化学的特性が安定しており、電気化学装置のサイクル及び高温貯蔵特性の改善に寄与する。
【0043】
いくつかの実施例において、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤を0.1wt%含む水溶液の表面張力が30mN/m以下である。いくつかの実施例において、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤を0.1wt%含む水溶液の表面張力が25mN/m以下である。いくつかの実施例において、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤を0.1wt%含む水溶液の表面張力が20mN/m以下である。いくつかの実施例において、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤を0.1wt%含む水溶液の表面張力が15mN/m以下である。いくつかの実施例において、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤を0.1wt%含む水溶液の表面張力が10mN/m以下である。Si-C及びSi-O結合を有する助剤の表面張力が上記した範囲内にあると、負極合剤層の界面が良好となる。
【0044】
前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤の表面張力は以下の方法で測定することができる。JC2000D3E型接触角測定装置を用いて固形分(solid content)が1%の助剤の水溶液を測定し、各サンプを少なくとも3回測定し、少なくとも3つのデータを選択し、平均値を算出し、助剤の表面張力を得る。
【0045】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤は、ポリエーテルシロキサンを含む。
【0046】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤は、複合シリコーンポリエーテル複合体、ポリエーテル変性トリシロキサン及びポリエーテル変性シリコーンポリエーテルシロキサンのうちの少なくとも1つを含む。
【0047】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤の添加量が3000ppm以下である。いくつかの実施例において、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤の添加量が2500ppm以下である。いくつかの実施例において、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤の添加量が2000ppm以下である。いくつかの実施例において、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤の添加量が1500ppm以下である。いくつかの実施例において、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤の添加量が1000ppm以下である。いくつかの実施例において、前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤の添加量が500ppm以下である。Si-C及びSi-O結合を有する助剤の添加量が上記した範囲内にあると、負極スラリーの表面張力を効果的に低下させることができる。
【0048】
このステップにおいて添加される負極活物質、分散剤、バインダー、溶媒、およびSi-C及びSi-O結合を有する助剤の割合は、負極スラリーの調製過程中に採用できる公知の割合であれば特に限定されない。
【0049】
S2:塗布ステップ
このステップでは、S1で調製された前記負極スラリーを負極集電体上に塗布し、塗布速度が10m/分~100m/分であり、初期極片を得る。
【0050】
S3:乾燥ステップ
このステップでは、S2で得られた前記初期極片を真空乾燥装置に入れて乾燥させ、乾燥温度が80℃~150℃であり、前記負極を得る。
【0051】
本発明のいくつかの実施例によれば、S1、S2又はS3のいずれかのステップにおいて、機械的振動又は超音波振動の少なくとも一方である振動処理を同時に行う。本発明のいくつかの実施例によれば、S1、S2又はS3のいずれかのステップの後に、機械的振動又は超音波振動の少なくとも一方である振動処理を行う。振動処理は、密度の違いによる負極スラリーの不均一を効果的に防止することができる。
【0052】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記振動処理の振動周波数が100Hz~800Hzであり、振幅が0.01mm~0.5mmであり、振動時間が1分~5分である。
【0053】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記振動処理は複数回行われ、且つ少なくとも1回の前記振動処理の振動周波数は前回の振動処理の振動周波数よりも小さい。
【0054】
2、負極
もう一つの実施例では、本発明は、本発明の負極の製造方法によって得られた負極を提供する。
【0055】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極中の前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤の含有量が500ppm以下である。いくつかの実施例において、前記負極中の前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤の含有量が400ppm以下である。いくつかの実施例において、前記負極中の前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤の含有量が300ppm以下である。いくつかの実施例において、前記負極中の前記Si-C及びSi-O結合を有する助剤の含有量が200ppm以下である。
【0056】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極は、Si-C及びSi-O結合を有する助剤を添加せずに調製された負極(接触角70°超え)と比較して、表面のジエチルカーボネートに対する接触角が10%以上減少している。
【0057】
接触角とは、負極合剤層上にジエチルカーボネートの液滴を滴下してから10秒以内に測定した接触角である。ジエチルカーボネートは一般的に使用される電解液溶媒である。接触角の測定指標としてジエチルカーボネートを使用することで、負極合剤層への電解液の濡れ性を検査することができる。負極の表面のジエチルカーボネートに対する接触角が小さくなることは、負極合剤層への電解液の濡れ性が向上し、且つ負極合剤層の保液性が向上することを示している。
【0058】
接触角は、Kyowa Interface Science Co.,Ltd製の自動接触角計などを用いて測定することができる。接触角θは、例えば、θ/2法により求めることができる。当該θ/2法において、液滴のベースラインと、液滴の頂点及び1つの端点を通る直線とをなす角度をθ′としたとき、接触角θ=2θ′である。そのため、接触角θは、液滴のベースラインの2つの端点の間の距離2rと液滴の高さhを用いてθ′を測定することにより算出することができる。このとき、液滴は重力の影響を受けない程度の量で滴下する必要がある。接触角測定に用いる非水溶媒としては、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、又はメチルイソプロピルカーボネートなどの一般的に使用される電解液溶媒を用いることができる。
【0059】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極活物質層の非水溶媒に対する接触角は60°以下である。いくつかの実施例において、接触角測定法により測定される前記負極活物質層の非水溶媒に対する接触角が50°以下である。いくつかの実施例において、接触角測定法により測定される前記負極活物質層の非水溶媒に対する接触角が30°以下である。負極活物質層の非水溶媒に対する接触角が上記のような範囲内にあると、負極活物質層の界面の欠陥が少なくなり、電気化学装置の充放電サイクルにおける安定性が良好となり、電気化学装置のサイクル特性を確保することができる。
【0060】
3、正極
正極、セパレータ及び電解液は、電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)に用いられる公知の正極、セパレータ及び電解液であれば特に限定されない。
【0061】
本発明の実施例に使用できる正極は、正極集電体と、正極集電体上に設けられた正極活物質層とを有する。正極活物質の種類は、電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)に用いられる公知の正極活物質であれば特に限定されない。例えば、電気化学装置に高いエネルギー密度を付与することができるリチウム含有化合物を使用することができる。前記リチウム含有化合物は、リチウム遷移金属複合酸化物及びリチウム遷移金属りん酸化合物のうちの一種または複数種を含む。前記リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムと、一種または複数種の遷移金属元素を含む酸化物とを含む。前記リチウム遷移金属りん酸化合物は、リチウムと、一種または複数種の遷移金属元素とを含むリン酸塩化合物である。前記遷移金属元素は、Co、Ni、Mn及びFeのうちの一種または複数種を含み、これらの元素は電気化学装置の高電圧化を可能にする。前記リチウム含有化合物は、化学式LixM1O又はLiyM2POで示される化合物であって、式中、M1及びM2は一種または複数種の遷移金属元素を表し、x及びyの値は充電/放電状態に応じて変化し、典型的には、0.05≦x≦1.10及び0.05≦y≦1.10の範囲にある。いくつかの実施例において、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、LiCoO、LiNiO、及びLiNi1-zMzO(ここで、Mは、Co、Mn、Fe、Al、V、Sn、Mg、Ti、Sr、Ca、Zr、Mo、Tc、Ru、Ta、W、Re、Yb、Cu、Zn、Ba、B、Cr、Si、Ga、P、Sb及びNbのうちの一種または複数種から選択され、且つzは0.005<z<0.5を満たす)で表されるリチウムニッケル系遷移金属複合酸化物を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、前記リチウム遷移金属りん酸化合物は、LiFePO及び式LiFe1-uMnPO(ここで、u<1)で表される化合物を含むが、これらに限定されない。これらの化合物を正極の活物質として用いることにより、得られる電気化学装置は、高い電池容量及び優れたサイクル特性を有する。
【0062】
4、電解液
電解液の種類は、電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)に用いられる公知の電解液であれば特に限定されない。
【0063】
前記電解液は、先行技術で既知の任意の、電解液の溶媒として用いられる非水溶媒を含む。前記非水溶媒は、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、リン含有有機溶媒、硫黄含有有機溶媒及び芳香族フッ素含有溶媒のうちの一種または多種を含むが、これらに限定されない。
【0064】
前記環状カーボネートの実例は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)及びブチレンカーボネートのうちの一種または多種を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、前記環状カーボネートは、3~6個の炭素原子を有する。
【0065】
前記鎖状カーボネートの実例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネートなどのうちの一種または多種を含むが、これらに限定されない。フッ素で置換された鎖状カーボネートの実例は、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロメチル)カーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート、ビス(2-フルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2-ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、2-フルオロエチルメチルカーボネート、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート及び2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネートなどのうちの一種または多種を含むが、これらに限定されない。
【0066】
前記環状カルボン酸エステルの実例は、γ-ブチロラクトン及びγ-バレロラクトンのうちの一種または多種を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、環状カルボン酸エステルの水素原子の一部は、フッ素で置換されてもよい。
【0067】
前記鎖状カルボン酸エステルの実例は酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸sec?ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t?ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、ピバリン酸メチル及びピバリン酸エチルなどのうちの一種または多種を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、鎖状カルボン酸エステルの水素原子の一部は、フッ素で置換されてもよい。いくつかの実施例において、フッ素で置換された鎖状カルボン酸エステルの実例は、トリフルオロ酢酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル、トリフルオロ酢酸プロピル、トリフルオロ酢酸ブチル及びトリフルオロ酢酸2,2,2-トリフルオロエチルなどを含むが、これらに限定されない。
【0068】
前記環状エーテルの実例は、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、2-メチル1,3-ジオキソラン、4-メチル1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン及びジメトキシプロパンのうちの一種または多種を含むが、これらに限定されない。
【0069】
前記鎖状エーテルの実例は、ジメトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン、1,2-ジメトキシエタン、ジエトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、エトキシメトキシメタン、1,1-エトキシメトキシエタン及び1,2-エトキシメトキシエタンなどのうちの一種または多種を含むが、これらに限定されない。
【0070】
前記リン含有有機溶媒の実例は、りん酸トリメチル、りん酸トリエチル、りん酸ジメチルエチル、りん酸メチルジエチル、りん酸エチレンメチル、りん酸エチレンエチル、りん酸トリフェニル、亜りん酸トリメチル、亜りん酸トリエチル、亜りん酸トリフェニル、りん酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)及びりん酸トリス(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)などのうちの一種または多種を含むが、これらに限定されない。
【0071】
前記硫黄含有有機溶媒の実例は、スルホラン、2-メチルスルホラン、3-メチルスルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、エチルメチルスルホン、メチルプロピルスルホン、ジメチルスルホキシド、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、エタンスルホン酸メチル、エタンスルホン酸エチル、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル及び硫酸ジブチルのうちの一種または多種を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、硫黄含有有機溶媒の水素原子の一部は、フッ素で置換されてもよい。
【0072】
前記芳香族フッ素含有溶媒は、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼン、テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン及びトリフルオロメチルベンゼンのうちの一種または多種を含むが、これらに限定されない。
【0073】
いくつかの実施例において、本発明の電解液に用いられる溶媒は、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状カルボン酸エステル及び鎖状カルボン酸エステルのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの実施例において、本発明の電解液に用いられる溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酢酸n-プロピル及び酢酸エチルのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの実施例において、本発明の電解液に用いられる溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル及びγ-ブチロラクトンのうちの少なくとも1つを含む。
【0074】
本発明の実施例の電解液に用いられる電解質は、例えば、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiSbF、LiSOF、LiN(FSOなどの無機リチウム塩;例えば、LiCFSO、LiN(FSO)(CFSO)、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウム環状1,3-ヘキサフルオロプロパンジスルホンイミド、リチウム環状1,2-テトラフルオロエタンジスルホンイミド、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CFSO、LiPF(CSO、LiBF(CF、LiBF(C、LiBF(CFSO、LiBF(CSOなどのフッ素含有有機リチウム塩;例えば、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェートなどのジカルボン酸含有錯体リチウム塩を含むが、これらに限定されない。なお、上記した電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、いくつかの実施例において、電解質は、LiPF及びLiBFの組み合わせを含む。いくつかの実施例において、電解質は、LiPF又はLiBFなどの無機リチウム塩と、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSOなどのフッ素含有有機リチウム塩との組み合わせを含む。いくつかの実施例において、電解質の濃度は、0.8~3mol/Lの範囲内、例えば、0.8~2.5mol/Lの範囲内、0.8~2mol/Lの範囲内、1~2mol/Lの範囲内にあり、又は、例えば、1mol/L、1.15mol/L、1.2mol/L、1.5mol/L、2mol/L又は2.5mol/Lである。
【0075】
5、セパレータ
セパレータの種類は、電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)に用いられる公知のセパレータであれば特に限定されない。
【0076】
本発明の実施例に使用できるセパレータは、本発明の電解液に対して安定な材料から形成された重合体又は無機物などを含む。例えば、セパレータは、基材層及び表面処理層を含んでもよい。基材層は多孔質構造を有する不織布、膜又は複合膜であり、基材層の材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレングリコールテレフタレート及びポリイミドのうちの少なくとも1つを含む。具体的に、ポリプロピレン多孔質膜、ポリエチレン多孔質膜、ポリプロピレン不織布、ポリエチレン不織布又はポリプロピレン-ポリエチレン-ポリプロピレン多孔質複合膜を選択して使用することができる。
【0077】
基材層の少なくとも一つの表面上に表面処理層が設けられる。表面処理層は、重合体層又は無機物層であってもよく、重合体と無機物とを混合して得られた層であってもよい。
【0078】
無機物層は無機粒子及びバインダーを含み、無機粒子は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化スズ、酸化セリウム、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、炭化ケイ素、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び硫酸バリウムのうちの一種又は複数種の組み合わせを含む。バインダーは、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリメタクリル酸メチル、ポリテトラフルオロエチレン及びポリヘキサフルオロプロピレンのうちの一種または複数の種類の組み合わせを含む。
【0079】
重合体層は、重合体を含み、重合体の材料は、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、アクリル酸エステル重合体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリフッ化ビニリデン及びポリ(ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)のうちの少なくとも1つを含む。
【0080】
6、電気化学装置
本発明の電気化学装置は、電気化学反応が生起できる任意の装置を含み、その具体的な実例は、全種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池またはキャパシタを含む。特に、その電気化学装置は、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウム重合体二次電池又はリチウムイオン重合体二次電池を含むリチウム二次電池である。いくつかの実施例において、本発明の電気化学装置は、金属イオンを吸蔵や放出可能な正極活物質を有する正極極片、本発明の実施例に記載の負極、電解液、及び正極と負極の間に設けられるセパレータを含む。
【0081】
7、電子装置
本発明の電気化学装置の使用は、特に制限はなく、先行技術で公知の任意の電子装置に使用してもい。いくつかの実施例において、本発明の電気化学装置は、ノートパソコン、ペン入力型パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー機、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、ポータブルCDプレーヤー、ミニCD、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、補助自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、電動工具、ストロボ、カメラ、家庭用大型蓄電池及びリチウムイオンキャパシタなどに利用されるが、これらに限定されない。
【0082】
以下では、例としてリチウムイオン電池を挙げ、具体的な実施例を参照してリチウムイオン電池の調製について説明し、当業者は、本発明に記載さらている製造方法が単なる例示であり、他のいかなる好適な製造方法が本発明の範囲内にあることを理解すべきである。
【0083】
実施例
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。しかしながら、本発明の実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0084】
一、リチウムイオン電池の調製
1、負極の調製
S1:混合ステップ
人造黒鉛、スチレン-ブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロースを質量比96%:3%:1%で脱イオン水と混合し、その添加順序は以下のとおりである。
手順1.人造黒鉛及びカルボキシメチルセルロース
手順2.脱イオン水
手順3.カルボキシメチルセルロース
手順4.スチレン-ブタジエンゴム
【0085】
以下により、実施例では、Si-C及びSi-O結合を有する助剤2000ppmを添加したが、比較例では、助剤を添加しないか、またはSi-C及びSi-O結合を有さない助剤2000ppmを添加した。本発明の実施例で使用されるSi-C及びSi-O結合を有する助剤は以下の表に示すとおりである。
【0086】
【0087】
各成分を均一に混合して負極スラリーを得た。
【0088】
S2:塗布ステップ
S1で調製された負極スラリーを12μmの銅箔上に10m/分~100m/分の塗布速度で塗布し、初期極片を得た。
【0089】
S3:乾燥ステップ
S2で得られた初期極片を真空乾燥装置に入れて80~150℃の乾燥温度で乾燥させ、負極を得た。
【0090】
2、正極の調製
コバルト酸リチウム(LiCoO)、導電材(Super-P)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を質量比95%:2%:3%でN-メチルピロリドン(NMP)と混合し、均一に撹拌して、正極スラリーを得た。当該正極スラリーを12μmのアルミ箔に塗布し、乾燥し、コールドプレスした後に、打ち抜き、タブを溶接して、正極を得た。
【0091】
3、電解液の調製
乾燥アルゴンガス雰囲気で、EC、PC及びDEC(重量比1:1:1)を混合し、LiPFを添加し、均一に混合して、電解液を得た。前記電解液中のLiPFの濃度は1.15mol/Lであった。
【0092】
4、セパレータの調製
ポリエチレン(PE)多孔質重合体膜をセパレータとした。
【0093】
5、リチウムイオン電池の調製
得られた正極、セパレータおよび負極を順に巻回し、外装箔に置き、注液口を残した。注液口から電解液を注入し、封止して、フォーメーション、試験容量などのプロセスを経て、リチウムイオン電池を得た。
【0094】
二、リチウムイオン電池の負極表面欠陥の測定方法
CCDスキャナを利用してコールドプレス後の極片を走査して撮影し、異なる位置の階調レベル差を利用して欠陥を識別した。面積0.2mm、階調レベル差が10より大きい箇所を極片の欠陥と見なし、欠陥数を統計する。
【0095】
三、測定結果
表1は、助剤及びその添加順序がリチウムイオン電池の負極表面の欠陥に与える影響を示す。
【0096】
【表1】
【0097】
比較例1に示すように、負極の調製時に、助剤を添加しなかったため、得られた負極表面の欠陥数が多かった。実施例1~5に示すように、負極の調製時に、Si-C及びSi-O結合を有する助剤を添加することにより、負極スラリーの表面張力を大幅に改善させることができ、負極表面の欠陥数を大幅に低減した。負極の調製時の助剤の添加については、Si-C及びSi-O結合を有する助剤と溶媒とを混合する場合、Si-C及びSi-O結合を有する助剤とバインダーとを混合する場合、及びバインダーの添加後にSi-C及びSi-O結合を有する助剤を添加する場合、負極表面の欠陥数が極めて少なくなった。図1及び図2はそれぞれ比較例1及び実施例2で得られた極片であり、図1において色差が顕著な位置(例えば、図1の黒丸で示される位置)が極片の欠陥箇所であり、図2において色差の斑点がほとんど見られない。
【0098】
表2は、異なる助剤がリチウムイオン電池の負極表面の欠陥に与える影響を示す。表2の実施例では、各助剤を手順2で脱イオン水と混合した。
【0099】
【表2】
【0100】
比較例2~4に示すように、負極の調製時に、通常の有机溶媒(例えば、Si-C和Si-O結合を有しないエタノール、アセトン又はエチレンカーボネート)を助剤として添加しても、負極表面の欠陥数はあまり改善されなかった。実施例2、6~9に示すように、負極の調製時に、Si-C及びSi-O結合を有する助剤を添加することにより、負極スラリーの表面張力を著しく低下させ、負極表面の欠陥数を著しく減少させることができる。
【0101】
表3は、塗布速度、乾燥温度及び振動処理がリチウムイオン電池の負極表面の欠陥に与える影響を示す。表3の実施例では、助剤1を手順2で脱イオン水と混合した。振動処理は、ステップS2の後に超音波処理を行う。
【0102】
【表3】
【0103】
結果から、塗布速度を10m/分~100m/分とし、且つ乾燥温度を80℃~150℃とすると、負極表面の欠陥数をより低減できることがわかった。塗布速度を20m/分~100m/分とし、且つ乾燥温度を80℃~150℃とすると、負極表面の欠陥数をより一層低減することができる。特に、振動処理を加えた場合に、より高い効果が得られる。
【0104】
明細書全体では、「実施例」、「一部の実施例」、「一つの実施例」、「他の例」、「例」、「具体例」、又は「いくつかの例」の引用については、本発明の少なくとも一つの実施例又は例は、当該実施例又は例に記載の特定の特徴、構造、材料又は特性を含むことを意味する。したがって、明細書全体の各場所に記載された、例えば「いくつかの実施例において」、「実施例において」、「一つの実施例において」、「他の例において」、「一つの例において」、「特定の例において」又は「例」は、必ずしも本発明における同じ実施例又は例を引用するわけではない。また、本明細書の特定の特徴、構造、材料、または特性は、一つまたは複数の実施例または例において、あらゆる好適な形態で組み合わせることができる。
【0105】
例示的な実施例が開示及び説明されたが、当業者は、上記した実施例が本発明を限定するものとして解釈されないこと、かつ、本発明の技術思想、原理、及び範囲から逸脱しない場合に実施例への改変、置換及び変更が可能であること、を理解すべきである。
図1
図2