(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】リチウム二次電池の活性金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20241022BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20241022BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20241022BHJP
C22B 5/12 20060101ALI20241022BHJP
C22B 23/02 20060101ALI20241022BHJP
C22B 47/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
H01M10/54
C22B26/12
C22B7/00 C
C22B5/12
C22B23/02
C22B47/00
(21)【出願番号】P 2022548614
(86)(22)【出願日】2021-01-25
(86)【国際出願番号】 KR2021000968
(87)【国際公開番号】W WO2021162277
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】10-2020-0015869
(32)【優先日】2020-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ホン スク ジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム ヒョン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ソン スン レル
(72)【発明者】
【氏名】ハ ドン ウク
(72)【発明者】
【氏名】キム ジ ミン
(72)【発明者】
【氏名】パク ジ ユン
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/011765(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0052739(US,A1)
【文献】特開2018-179692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
C22B 26/12
C22B 7/00
C22B 5/12
C22B 23/02
C22B 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池の廃正極からリチウム-遷移金属酸化物を含む正極活物質混合物を準備するステップと、
前記正極活物質混合物を還元性反応ガスと反応させ、下記式1で定義され、0.24~1.6の範囲の遷移金属還元度を有する予備前駆体混合物を形成するステップと、
前記予備前駆体混合物からリチウム前駆体を回収するステップとを含む、リチウム二次電池の活性金属の回収方法。
[式1]
遷移金属還元度=(MeO相分率+リチウム-遷移金属酸化物相分率)/(Me相分率)
(式1中、MeはNiおよびCoを含み、MeO相分率、リチウム-遷移金属酸化物相分率およびMe相分率は、前記予備前駆体混合物のX線回折(XRD)分析ピークに対するリートベルト(Rietveld)結晶構造解釈によって測定される。)
【請求項2】
前記リチウム-遷移金属酸化物は、下記化学式1で表される、請求項1に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
[化学式1]
Li
xNi
aCo
bMn
cO
y
(化学式1中、0<x≦1.1、2≦y≦2.02、0<a<1、0<b<1、0<c<1、0<a+b+c≦1である。)
【請求項3】
前記還元性反応ガスは水素およびキャリアガスを含み、前記還元性反応ガス中の水素の濃度は10~40体積%である、請求項1に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【請求項4】
前記還元性反応ガスとの反応温度は400~600℃である、請求項1に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【請求項5】
前記予備前駆体混合物は、予備リチウム前駆体粒子および遷移金属含有粒子を含み、
前記遷移金属含有粒子は、Ni、Co、NiO、CoOおよびMnOを含む、請求項1に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【請求項6】
前記予備リチウム前駆体粒子は、リチウム水酸化物、リチウム酸化物またはリチウム炭酸化物のうちの少なくとも一つを含む、請求項5に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【請求項7】
前記リチウム前駆体を回収するステップは、前記予備リチウム前駆体粒子を水洗処理するステップを含む、請求項5に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【請求項8】
前記遷移金属含有粒子を選択的に酸溶液で処理し、酸塩形態の遷移金属前駆体を回収するステップをさらに含む、請求項5に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【請求項9】
前記予備前駆体混合物の遷移金属還元度は0.24~1.0である、請求項1に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【請求項10】
前記予備前駆体混合物を形成するステップは、前記正極活物質混合物を流動層反応器内で前記還元性反応ガスと反応させることを含む、請求項1に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の活性金属の回収方法に関する。より詳細には、リチウム二次電池の廃正極から活性金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池はカムコーダー、携帯電話、ノートパソコンなどの携帯用電子通信機器およびハイブリッド自動車、電気自動車などの車両の動力源として広く適用および開発されている。二次電池としては、リチウム二次電池が、動作電圧および単位重量当たりのエネルギー密度が高く、充電速度および軽量化に有利な点で積極的に開発及び適用されてきた。
【0003】
前記リチウム二次電池の正極用活物質としては、リチウム金属酸化物を用いることができる。前記リチウム金属酸化物は、さらに、ニッケル、コバルト、マンガンなどの遷移金属を共に含有することができる。
【0004】
前記正極用活物質に前述した高コストの有価金属が用いられることにより、正極材の製造に製造コストの20%以上がかかっている。また、近年、環境保護への関心が高まることによって、正極用活物質のリサイクル方法の研究が進められている。
【0005】
従来は硫酸のような強酸に廃正極活物質を浸出させて有価金属を順次回収する方法が活用されていたが、前記のような湿式工程の場合は、再生選択性、再生時間などの面で不利であり、環境汚染を引き起こすことがある。そのため、乾式ベースの反応を活用して有価金属を回収する方法が研究されている。
【0006】
例えば、乾式還元反応によってリチウムを再生または回収する方法が研究されており、リチウム回収率を増加させるための反応設備、反応条件の精密なコントロールが必要である。
【0007】
例えば、韓国特許第10-0709268号では、廃マンガン電池及びアルカリ電池のリサイクル装置及び方法を開示しているが、高選択性、高収率で有価金属を再生するための乾式ベースの方法は提示していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、高効率および高純度でリチウム二次電池の活性金属を回収する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態によるリチウム二次電池の活性金属の回収方法では、リチウム二次電池の廃正極からリチウム-遷移金属酸化物を含む正極活物質混合物を準備する。前記正極活物質混合物を還元性反応ガスと反応させ、下記式1で定義され、0.24~1.6の範囲の遷移金属還元度を有する予備前駆体混合物を形成する。前記予備前駆体混合物からリチウム前駆体を回収する。
【0010】
[式1]
遷移金属還元度=(MeO相(Phase)分率+リチウム-遷移金属酸化物相分率)/(Me相分率)
【0011】
(式1中、MeはNi及びCoを含み、MeO相(Phase)分率及びMe相分率は、前記予備前駆体混合物のX線回折(XRD)分析ピークに対するリートベルト(Rietveld)結晶構造解析によって測定される。)
【0012】
いくつかの実施形態では、前記リチウム-遷移金属酸化物は、下記化学式1で表すことができる。
【0013】
[化学式1]
LixNiaCobMncOy
【0014】
(化学式1中、0<x≦1.1、2≦y≦2.02、0<a<1、0<b<1、0<c<1、0<a+b+c≦1である。)
【0015】
いくつかの実施形態では、前記還元性反応ガスは水素およびキャリアガスを含み、前記還元性反応ガス中の水素の濃度は10~40体積%であってもよい。
【0016】
いくつかの実施形態では、前記還元性反応ガスとの反応温度は400~600℃であってもよい。
【0017】
いくつかの実施形態では、前記予備前駆体混合物は、予備リチウム前駆体粒子および遷移金属含有粒子を含み、前記遷移金属含有粒子は、Ni、Co、NiO、CoOおよびMnOを含むことができる。
【0018】
いくつかの実施形態では、前記予備リチウム前駆体粒子は、リチウム水酸化物、リチウム酸化物またはリチウム炭酸化物のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0019】
いくつかの実施形態では、前記リチウム前駆体の回収において、前記予備リチウム前駆体粒子を水洗処理することができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、前記遷移金属含有粒子を選択的に酸溶液で処理し、酸塩の形態の遷移金属前駆体を回収することができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、前記予備前駆体混合物の遷移金属還元度は0.24~1.0であってもよい。
【0022】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質混合物を流動層反応器内で前記還元性反応ガスと反応させ、前記予備前駆体混合物を形成することができる。
【発明の効果】
【0023】
前述の例示的な実施形態によると、廃正極活物質から、乾式還元工程を活用した乾式ベースの工程により、リチウム前駆体を回収することができる。これにより、湿式ベースの工程からもたらされる付加工程なしに高純度でリチウム前駆体を得ることができる。
【0024】
例示的な実施形態によると、前記乾式還元工程後の遷移金属相の分率に対する遷移金属酸化物相の分率の割合を調整することにより、リチウム回収のための適切な還元度を実現することができる。これにより、リチウム遷移金属酸化物からリチウムを効率よく抽出しながら金属の凝集を防止し、所望のリチウム前駆体の回収率を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、例示的な実施形態によるリチウム二次電池の活性金属の回収方法を説明するための概略的なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態は、リチウム二次電池から乾式還元反応によって高純度、高収率で活性金属を回収する方法を提供するものである。
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態をより具体的に説明する。但し、これらの実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、本発明を制限するものではない。
【0028】
本明細書で使用される用語「前駆体」は、電極活物質に含まれる特定の金属を提供するために、前記特定の金属を含む化合物を包括的に指すものとして使用される。
【0029】
図1は、例示的な実施形態によるリチウム二次電池の活性金属の回収方法を説明するための概略的なフローチャートである。説明の都合上、
図1では、工程の流れと共に反応器の模式図を併せて示している。
【0030】
図1を参照すると、リチウム二次電池の廃正極から正極活物質混合物(例えば、廃正極活物質混合物)を準備することができる(例えば、S10工程)。
【0031】
前記リチウム二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在する分離膜とを含む電極組立体を含むことができる。前記の正極および負極は、それぞれ正極集電体および負極集電体上にコーティングされた正極活物質層および負極活物質層を含むことができる。
【0032】
例えば、前記正極活物質層に含まれる正極活物質は、リチウムおよび遷移金属を含有する酸化物を含むことができる。
【0033】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質は、下記化学式1で表される化合物を含むことができる。
【0034】
[化学式1]
LixM1aM2bM3cOy
【0035】
化学式1中、M1、M2及びM3は、Ni、Co、Mn、Na、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Ge、Sr、Ag、Ba、Zr、Nb、Mo、Al、GaまたはBから選択される遷移金属であってもよい。化学式1中、0<x≦1.1、2≦y≦2.02、0<a<1、0<b<1、0<c<1、0<a+b+c≦1であってもよい。
【0036】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質は、ニッケル、コバルトおよびマンガンを含むNCM系リチウム酸化物であってもよい。
【0037】
前記廃リチウム二次電池から前記正極を分離して廃正極を回収することができる。前記廃正極は、前述のように正極集電体(例えば、アルミニウム(Al))および正極活物質層を含み、前記正極活物質層は、前述の正極活物質に加えて、導電材及び結合剤を共に含むことができる。
【0038】
前記導電材は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブなどの炭素系物質を含むことができる。前記結合剤は、例えば、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニリデンフルオリド(polyvinylidenefluoride,PVDF)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)などの樹脂物質を含むことができる。
【0039】
例示的な実施形態によると、回収された前記廃正極を粉砕して正極活物質混合物を生成することができる。これにより、前記正極活物質混合物は、粉末状に製造することができる。
【0040】
前記正極活物質混合物は、前述のようにリチウム-遷移金属酸化物の粉末を含み、例えばNCM系リチウム酸化物粉末(例えば、Li(NCM)O2)を含むことができる。この場合、NCM系リチウム酸化物粉末では、下記化学式1中のM1、M2及びM3はそれぞれNi、Co、Mnであってもよい。
【0041】
本出願で使用される用語「正極活物質混合物」は、前記廃正極から正極集電体が実質的に除去された後、後述する還元性反応処理に投入される原料物質を指すことができる。一実施形態では、前記正極活物質混合物は、前記NCM系リチウム酸化物のような正極活物質粒子を含むことができる。一実施形態では、前記正極活物質混合物は、前記結合剤または前記導電材に由来する成分を一部含むこともできる。一実施形態では、前記正極活物質混合物は、前記正極活物質粒子で実質的に構成されてもよい。
【0042】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質混合物の平均粒径(D50)は5~100μmであってもよい。前記範囲内では、前記正極活物質混合物に含まれる正極集電体、導電材及び結合剤から、回収対象であるLi(NCM)O2のようなリチウム-遷移金属酸化物を容易に分離することができる。
【0043】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質混合物を後述する還元性反応器に投入する前に熱処理を行うことができる。前記熱処理により、前記廃正極活物質混合物に含まれる前記導電材および結合剤のような不純物を除去または低減し、前記リチウム-遷移金属酸化物を高純度で前記還元性反応器内に投入することができる。
【0044】
前記熱処理の温度は、例えば約100~500℃、好ましくは約350~450℃であってもよい。前記範囲内では、実質的に前記不純物が除去され、リチウム-遷移金属酸化物の分解、損傷を防止することができる。
【0045】
例えば、S20工程では、前記正極活物質混合物を還元性反応器100内で反応させ、予備前駆体混合物80を形成することができる。
【0046】
図1に示すように、還元性反応器100は、反応器本体130、反応器下部110、および反応器上部150に区分できる。反応器本体130は、ヒーターなどの加熱手段を含むか、または加熱手段と一体化することができる。
【0047】
前記正極活物質混合物は、供給流路106a,106bを介して反応器本体130内に供給することができる。前記正極活物質混合物は、反応器上部150に接続された第1の供給流路106aを介して滴下するか、または反応器本体130の底部に接続された第2の供給流路106bを介して投入することができる。一実施形態では、第1及び第2の供給流路106a,106bを共に使用して前記廃正極活物質混合物を供給することもできる。
【0048】
例えば、反応器本体130と反応器下部110との間に支持部120を配置し、前記廃正極活物質混合物の粉末を定着させることができる。支持部120は、後述する還元性反応ガス及び/又はキャリアガスを通過させる気孔または噴射口を含むことができる。
【0049】
反応器下部110に接続された反応ガス流路102を介して反応器本体130内に前記正極活物質混合物を予備前駆体に変換するための還元性反応ガスを供給することができる。例示的な実施形態によると、前記還元性反応ガスは、水素(H2)を含むことができる。前記還元性反応ガスは、窒素(N2)、アルゴン(Ar)のようなキャリアガスをさらに含むことができる。
【0050】
前記還元性反応ガスが還元性反応器100の下部から供給されて前記正極活物質混合物と接触するので、前記正極活物質混合物が反応器上部150に移動しながら、または反応器本体130内に滞留しながら前記還元性反応ガスと反応し、前記予備前駆体に変換され得る。
【0051】
いくつかの実施形態では、前記還元性反応ガスが注入され、反応器本体130内で流動層が形成され得る。そのため、還元性反応器100は、流動層反応器であってもよい。前記流動層内で正極活物質混合物と還元性反応ガスとが接触し、上昇、滞留、下降を繰り返すことによって反応接触時間が増加し、粒子の分散が増進して均一なサイズの予備前駆体混合物80が得られる。
【0052】
しかし、本発明のコンセプトは、必ずしも流動層反応に限定されるものではない。例えば、バッチ(batch)式反応器または管型反応器内に正極活物質混合物を予めロードした後、還元性反応ガスを供給する固定式反応を行ってもよい。
【0053】
前記還元性反応ガスが還元性反応器100の下部から供給されて前記正極活物質混合物と接触するので、前記正極活物質混合物が反応器上部150に移動して反応領域が広がり、前記予備前駆体に変換され得る。
【0054】
いくつかの実施形態では、前記リチウム-遷移金属酸化物が前記還元性反応ガスによって還元され、例えば、リチウム水酸化物(LiOH)、リチウム酸化物(例えば、LiO2)を含む予備リチウム前駆体、および遷移金属または遷移金属酸化物が生成され得る。例えば、還元性反応により、前記リチウム酸化物とともに、Ni、Co、NiO、CoOおよびMnOが生成され得る。
【0055】
例えば、還元工程が進行するにつれて、Li(NCM)O2の結晶構造が崩壊し、Liが前記結晶構造から離脱し得る。前記結晶構造からNiOおよびCoOが生成し、還元工程が続くにつれて、NiおよびCo相が共に生成され得る。
【0056】
これにより、反応器本体130内では、予備リチウム前駆体粒子60および遷移金属含有粒子70(例えば、前記遷移金属または遷移金属酸化物)を含む予備前駆体混合物80が形成され得る。予備リチウム前駆体粒子60は、例えば、リチウム水酸化物(LiOH)、リチウム酸化物(LiO2)及び/又はリチウム炭酸化物(リチウムカーボネート)(LI2CO3)を含むことができる。
【0057】
遷移金属含有粒子70は、前述のようにNi、Co、NiO、CoOおよびMnOを含むことができる。
【0058】
例示的な実施形態によると、予備前駆体混合物80のX線回折分析(XRD)によって測定され、下記式1によって定義される遷移金属還元度は、0.24~1.6であってもよい。
【0059】
[式1]
遷移金属還元度=(MeO相(Phase)分率+リチウム-遷移金属酸化物相分率)/(Me相分率)
【0060】
前記式1中、MeはNi及びCoを含む。例えば、MeO相は、還元工程によって生成された予備前駆体混合物中のNiOおよびCoO相のモル分率であってもよい。Me相は、還元工程によって生成された予備前駆体混合物中のNiおよびCoのモル分率であってもよい。
【0061】
式1に示すリチウム-遷移金属酸化物相分率は、例えば、前述の還元工程による非反応または非崩壊のリチウム-遷移金属酸化物の分率を表すことができる。前記リチウム-遷移金属酸化物は、NCM系リチウム酸化物を表すことができ、下記化学式1-1で表すことができる。
【0062】
[化学式1-1]
LixNiaCobMncOy
【0063】
(化学式1-1中、0<x≦1.1、2≦y≦2.02、0<a<1、0<b<1、0<c<1、0<a+b+c≦1である。)
【0064】
前記の分率は、XRD分析から得られたピークに対するリートベルト(Rietveld)法による結晶構造解析によって得られる。
【0065】
前記遷移金属還元度が0.24未満であると、遷移金属が過度に還元され、金属凝集体が発生しすぎることがある。そのため、反応器本体130内における十分な流動層の生成が阻害され、前記金属凝集体が反応器本体130の内壁にくっついて予備リチウム前駆体粒子60の生成を阻害することがある。
【0066】
前記遷移金属還元度が1.6を超えると、リチウム-遷移金属化合物の結晶構造の崩壊が十分に誘導されないことがある。そのため、Liイオンの離脱が十分に発生せず、リチウム前駆体回収率が低下することがある。
【0067】
前記遷移金属還元度は、例えば、還元性反応ガスにおいて、水素の濃度、還元性反応ガスの流量、反応温度、還元反応時間などの工程条件によって微調整可能である。
【0068】
好ましい一実施形態では、前記式1によって定義される遷移金属還元度は、0.24~1.0であってもよい。
【0069】
一実施形態では、前記還元性反応ガス中の水素の濃度は、約10~40体積%(vol%)であってもよい。前述のように、前記還元性反応ガスは、水素とキャリアガスとの混合ガスであってもよく、前記水素の濃度は、前記混合ガスの全体積における水素の体積%であってもよい。
【0070】
還元反応の温度は約400~800℃の範囲で調整することができ、好ましくは約400~600℃、より好ましくは約400~500℃の範囲で調整することができる。
【0071】
前述の乾式還元工程によって得られた予備前駆体混合物80を後続の回収工程のために収集することができる。
【0072】
一実施形態では、ニッケル、コバルトまたはマンガンを含む遷移金属含有粒子70は、予備リチウム前駆体粒子60よりも相対的に重いので、予備リチウム前駆体粒子60を排出口160a,160bを介して先に収集することができる。
【0073】
一実施形態では、反応器上部150に接続された第1の排出口160aを介して予備リチウム前駆体粒子60を排出することができる。この場合には、重量勾配による予備リチウム前駆体粒子60の選択的回収を促進することができる。
【0074】
一実施形態では、反応器本体130に接続された第2の排出口160bを介して、予備リチウム前駆体粒子60および遷移金属含有粒子70を含む予備前駆体混合物80を収集することができる。この場合には、流動層形成領域から予備前駆体混合物80を直接回収し、収率を増加させることができる。
【0075】
一実施形態では、第1及び第2の排出口160a,160bを介して、共に予備前駆体混合物80を収集することができる。
【0076】
排出口160を介して収集された予備リチウム前駆体粒子60をリチウム前駆体として回収することができる(例えば、S30工程)。
【0077】
いくつかの実施形態では、予備リチウム前駆体粒子60を水洗処理することができる。前記水洗処理により、リチウム水酸化物(LiOH)形態の予備リチウム前駆体粒子は、実質的に水に溶解し、遷移金属前駆体から分離して優先して回収することができる。水に溶解したリチウム水酸化物の結晶化工程等により、リチウム水酸化物で実質的に構成されたリチウム前駆体を得ることができる。
【0078】
一実施形態では、リチウム酸化物およびリチウムカーボネートの形態の予備リチウム前駆体粒子は、実質的に前記水洗処理によって除去することができる。一実施形態では、リチウム酸化物およびリチウムカーボネートの形態の予備リチウム前駆体粒子は、前記水洗処理によって少なくとも部分的にリチウム水酸化物に変換することができる。
【0079】
いくつかの実施形態では、予備リチウム前駆体粒子60を一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)などの炭素含有ガスと反応させ、リチウム前駆体としてリチウムカーボネート(例えば、Li2CO3)を得ることができる。前記炭素含有ガスとの反応により、結晶化したリチウム前駆体を得ることができる。例えば、前記水洗処理中に炭素含有ガスを共に注入し、リチウムカーボネートを収集することができる。
【0080】
前記炭素含有ガスによる結晶化反応の温度は、例えば、約60~150℃の範囲であってもよい。前記温度の範囲では、結晶構造の損傷なしに高信頼性のリチウムカーボネートを生成することができる。
【0081】
前述のように、例示的な実施形態によると、廃正極からリチウム前駆体を連続した乾式工程によって回収することができる。
【0082】
比較例では、廃二次電池からリチウムまたは遷移金属を回収するために、強酸による浸出工程などの湿式工程を使用することができる。しかし、前記湿式工程の場合には、リチウムの選択的分離に限界がある。また、溶液の残留物を除去するための水洗工程が必要となり、溶液接触による水和物の生成などの副生物の生成が増加することがある。
【0083】
これに対して、本発明の実施形態によると、溶液の使用が排除された乾式還元性反応によってリチウム前駆体を収集するので、副生物が減少して収率が増加し、廃水処理を必要とせず、環境に優しい工程の設計が可能である。
【0084】
また、遷移金属還元度を調整してリチウムの抽出を促進し、金属の凝集を防止して高純度、高収率でリチウム前駆体を回収することができる。
【0085】
いくつかの実施形態では、収集された遷移金属含有粒子70から遷移金属前駆体を得ることができる(例えば、S40工程)。
【0086】
例えば、予備リチウム前駆体粒子60を排出口160a,160bを介して収集した後、遷移金属含有粒子70を回収することができる。その後、遷移金属含有粒子70を酸溶液で処理し、各遷移金属の酸塩形態の前駆体を形成することができる。
【0087】
一実施形態では、予備リチウム前駆体粒子60と遷移金属含有粒子70を共に収集し、水洗工程を行うことができる。この場合、予備リチウム前駆体粒子60は、リチウム水酸化物のようなリチウム前駆体に変換されて溶解し、遷移金属含有粒子70は沈殿し得る。沈殿した遷移金属含有粒子70は、再び収集されて酸溶液で処理され得る。
【0088】
一実施形態では、前記酸溶液として硫酸を使用することができる。この場合には、前記遷移金属前駆体として、NiSO4、MnSO4、及びCoSO4をそれぞれ回収することができる。
【0089】
前述のように、リチウム前駆体は乾式工程によって収集した後、遷移金属前駆体は酸溶液を活用して選択的に抽出するので、各金属前駆体の純度及び選択比が向上し、湿式工程のロードが減少して、廃水及び副生物の増加を低減することができる。
【0090】
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例を提示するが、これらの実施例は本発明を例示するものに過ぎず、添付の特許請求の範囲を制限するものではない。これらの実施例に対し、本発明の範疇および技術思想の範囲内で種々の変更および修正を加えることが可能であることは当業者にとって明らかであり、これらの変形および修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然のことである。
【0091】
実施例1
廃リチウム二次電池から分離された正極材の1kgを450℃で1時間熱処理した。熱処理された前記正極材を小さな単位で切断し、ミリングにより粉砕処理し、Li-Ni-Co-Mn酸化物正極活物質試料を採取した。流動層反応器内に前記正極活物質試料の20gを投入し、反応器内の温度を455℃に維持したまま、反応器下部から水素20vol%/窒素80vol%の混合ガスを400mL/minの流量で4時間注入し、予備前駆体混合物を確保した。
【0092】
得られた予備前駆体混合物をXRD分析により遷移金属還元度を測定した後、前記予備前駆体混合物と水(19倍;重量基準)を共に入れて撹拌した。水に溶解したリチウムの濃度を分析し、最初の正極活物質試料におけるリチウム重量に対する水に溶解したリチウム重量の比から、リチウム回収率を測定した。
【0093】
実施例2
反応時間を3時間に変更した以外は、実施例1と同様にして工程を行った。
【0094】
実施例3
管型反応器内に実施例1と同様の正極活物質試料を2g投入した。反応器内の温度を450℃に維持し、水素40vol%/窒素60vol%の混合ガスを50mL/minの流量で3時間注入し、予備前駆体混合物を得た。その後、実施例1と同様の方法で遷移金属還元度およびリチウム回収率を測定した。
【0095】
実施例4
反応温度を430℃に調整し、水素20vol%/窒素80vol%の混合ガスを50mL/minの流量で5時間注入した以外は、実施例3と同様にして工程を行った。
【0096】
実施例5
水素15vol%/窒素80vol%の混合ガスを使用した以外は、実施例2と同様にして工程を行った。
【0097】
比較例1
反応温度を470℃、反応時間を3時間に変更した以外は、実施例1と同様にして工程を行った。
【0098】
比較例2
反応温度を450℃に維持し、水素12.5vol%/窒素87.5vol%の混合ガスを50mL/minの流量で5時間注入した以外は、実施例3と同様にして工程を行った。
【0099】
比較例3
反応温度を465℃に維持し、水素30vol%/窒素70vol%の混合ガスを30mL/minの流量で1.5時間注入した以外は、実施例3と同様にして工程を行った。
【0100】
比較例4
混合ガスの注入時間を1時間に変更した以外は、比較例3と同様にして工程を行った。
【0101】
実施例および比較例では、予備前駆体混合物のXRDピークに対するリートベルト解析(Rietveld refinement)により、それぞれ式1による遷移金属還元度を測定し、水と混合後のリチウム回収率を測定した。評価の結果は下記表1に示す通りである。
【0102】
【0103】
表1を参照すると、本発明の前述の実施形態による範囲内で遷移金属還元度が調整された場合には、比較例に比べて顕著に高いリチウム回収率が得られた。