IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国際航業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-変位境界線抽出システム 図1
  • 特許-変位境界線抽出システム 図2
  • 特許-変位境界線抽出システム 図3
  • 特許-変位境界線抽出システム 図4
  • 特許-変位境界線抽出システム 図5
  • 特許-変位境界線抽出システム 図6
  • 特許-変位境界線抽出システム 図7
  • 特許-変位境界線抽出システム 図8
  • 特許-変位境界線抽出システム 図9
  • 特許-変位境界線抽出システム 図10
  • 特許-変位境界線抽出システム 図11
  • 特許-変位境界線抽出システム 図12
  • 特許-変位境界線抽出システム 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】変位境界線抽出システム
(51)【国際特許分類】
   G01C 7/02 20060101AFI20241022BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20241022BHJP
   G06T 7/11 20170101ALI20241022BHJP
【FI】
G01C7/02
G01C15/00 103Z
G06T7/11
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023119599
(22)【出願日】2023-07-24
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390023249
【氏名又は名称】国際航業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】室井 翔太
(72)【発明者】
【氏名】村木 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】向山 栄
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-157049(JP,A)
【文献】特開2017-156251(JP,A)
【文献】特開2010-266419(JP,A)
【文献】特開2020-165746(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113375563(CN,A)
【文献】特開2017-207438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 7/00 - 7/06
G01C 11/00 - 11/36
G01C 15/00
G06T 7/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の対象領域で異なる時期に得られた第1地形モデルと第2地形モデルに基づいて、水平変位の方向の変化境界である変位境界線を抽出するシステムであって、
前記第1地形モデルと前記第2地形モデルを構成するメッシュにそれぞれ地形量を算出するとともに、それぞれの該メッシュで該地形量に応じた画素値を付与する画素値設定手段と、
前記第1地形モデルに対して複数の前記メッシュからなる検索領域を設定するとともに、前記第2地形モデルに対して該検索領域よりも大きな走査領域を設定したうえで、該検索領域で該走査領域を走査しながら前記画素値に基づく相互相関係数を求める相互相関係数算出手段と、
前記走査領域のうち最大の前記相互相関係数を示す対応領域を検出するとともに、該対応領域と前記検索領域の座標に基づいて前記水平変位を求める水平変位算出手段と、
周辺の前記メッシュよりも前記水平変位が小さい変位候補メッシュを抽出するとともに、連続して配置される複数の該変位候補メッシュに基づいて変位候補線分を設定する変位候補線分設定手段と、
周辺の前記メッシュよりも前記相互相関係数が小さい相関候補メッシュを抽出するとともに、連続して配置される複数の該相関候補メッシュに基づいて相関候補線分を設定する相関候補線分設定手段と、
前記変位候補線分に基づいて、前記変位境界線を設定する変位境界線設定手段と、を備え、
前記検索領域を移動させながら設定することによって、前記相互相関係数算出手段が前記相互相関係数を求めるとともに、前記水平変位算出手段が前記水平変位を求め、
前記変位候補線分設定手段は、前記水平変位の分布に基づいて前記変位候補メッシュを抽出し、
前記相関候補線分設定手段は、前記相互相関係数の分布に基づいて前記相関候補メッシュを抽出し、
前記変位境界線設定手段は、前記変位候補線分と前記相関候補線分との離隔が、あらかじめ定められた離隔閾値を下回るときに、前記変位境界線を設定する、
ことを特徴とする変位境界線抽出システム。
【請求項2】
前記変位境界線設定手段は、前記変位候補線分の長さがあらかじめ定められた変位延長閾値を上回るときに、前記変位境界線を設定する、
ことを特徴とする請求項1記載の変位境界線抽出システム。
【請求項3】
前記変位候補線分に対して斜交する水平軸である変位横断軸を設定する横断軸設定手段と、
前記変位横断軸に沿って前記水平変位を配置した変位分布図を作成する分布図作成手段と、
前記変位分布図のうち前記水平変位があらかじめ定められた変位区間許容値を下回る変位特異区間を抽出する特異区間抽出手段と、をさらに備え、
前記変位境界線設定手段は、前記変位特異区間の長さがあらかじめ定められた区間許容値に含まれるときに、前記変位境界線を設定し、
前記区間許容値は、前記検索領域を構成する前記メッシュのサイズに応じて設定される、
ことを特徴とする請求項1記載の変位境界線抽出システム。
【請求項4】
前記横断軸設定手段は、前記相関候補線分に対して斜交する水平軸である相関横断軸を設定し、
前記分布図作成手段は、前記相関横断軸に沿って前記相互相関係数を配置した相関分布図を作成し、
前記特異区間抽出手段は、前記相関分布図のうち前記相互相関係数があらかじめ定められた相関区間許容値を下回る相関特異区間を抽出し、
前記変位境界線設定手段は、前記変位特異区間と前記相関特異区間の長さがそれぞれあらかじめ定められた前記区間許容値に含まれるときに、前記変位境界線を設定する、
ことを特徴とする請求項3記載の変位境界線抽出システム。
【請求項5】
前記変位境界線設定手段によって設定された前記変位境界線を境界として、前記対象領域を第1対象領域と第2対象領域に区分する領域区分手段を、さらに備えた、
ことを特徴とする請求項1記載の変位境界線抽出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、地形変位の算出に関する技術であり、より具体的には、水平変位が生じた領域のうちその水平変位の方向が大きく異なる境界を抽出することができる変位境界線抽出システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
地表面を形成する地形は、地殻変動に伴い微小ながら刻々と変化している。その変化速度は通常極めて緩慢であるが、大地震などに伴って急速に地形が変化し、場合によっては大規模な土砂の移動を引き起こすこともある。また、豪雨や地震により地すべりが活動を始めるとこれに応じて地表面も変動し始め、最終的にはその地すべりによって大量の土塊が移動し周辺に甚大な被害を与えることもある。
【0003】
これまで、繰り返し自然災害により甚大な被害を被ってきたが、地形の変動を追跡把握することによって、このような災害を未然に防ぎ、あるいは被害を軽減させることができる場合もある。また、一旦災害が発生した際に、災害前と災害後の地形を比較することで、被害個所の特定や災害要因を推定し、二次災害の可能性を判断することが可能となり、ひいては応急対策や復旧にとっても非常に有効な手段となる。
【0004】
しかしながら、2時期で計測された地形を比較することによってその変化を把握することは容易なことではない。 例えば、航空レーザ計測による点群データに基づいてDEM(Digital Elevation Model)やDSM(Digital Surface Model)といった地形モデルを作成し、この地形モデルを2時期で対比することでその変化を把握することが考えられる。ところがこの場合、同じ位置(例えば、メッシュ)における高さの変化を求めることができるものの、単にメッシュどうしを比較するだけでは水平方向の変化を把握することはできない。もちろん特徴ある構造物などは2時期で追跡し得る可能性があるが、部分的な特徴があまり見られない自然地形を2時期間で照らし合わせることは極めて困難である。
【0005】
そこで特許文献1では、メッシュごとの地形量に基づいて地形モデルをいわば画像化し、その画像を2時期で比較することによって水平方向の変化を把握することができる技術を開示している。
【0006】
【文献】特許第4545219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示される技術によれば、2時期の地形が画像化されるため部分的な地形変化が明瞭になり、自然地形であっても容易に2時期間で照らし合わせることができる。さらに地形モデルを作成した効果で、3次元(平面方向と高さ方向)の変位ベクトルを求めることもできる。
【0008】
ところで、地形にせん断変形が生じることで線状の亀裂などが発生することがある。この場合、亀裂が境界線となり、この境界線を挟んで逆向きの水平変位が発生することになる。例えば、地形によるせん断変形の結果、東西方向に延びる亀裂が生じたケースでは、その北側の領域で東向きの水平変位が生じると、その南側の領域では西向きの水平変位が生じるわけである。
【0009】
特許文献1の技術では、地形は概ね一様に変化することを前提としているため、上記のように極端に水平変位の向きが異なる領域では、2時期の地形の照合が難しいという側面があった。換言すれば、地形のせん断変形に伴う亀裂など、水平変位の向きが異なる境界線を抽出するためには、特許文献1の技術には改善すべき点があった。
【0010】
本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち水平変位の向きが異なる境界線を抽出することができる変位境界線抽出システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、水平変位の向きが異なる領域では地形の照合が難しいため、周囲よりも小さい変位量が算出されるとともに、2時期の照合の度合い(例えば、相互相関係数など)も低下するが、その特徴を逆用することによって境界線を抽出する、という点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0012】
本願発明の変位境界線抽出システムは、同一の対象領域において2時期で得られた地形モデル(第1地形モデルと第2地形モデル)に基づいて「変位境界線(水平変位の方向の変化境界)」を抽出するシステムであって、画素値設定手段と相互相関係数算出手段、水平変位算出手段、変位候補線分設定手段、相関候補線分設定手段、変位境界線設定手段を備えたものである。このうち画素値設定手段は、第1地形モデルと第2地形モデルを構成するメッシュにそれぞれ地形量を算出するとともに、メッシュごとに地形量に応じた画素値を付与する手段である。相互相関係数算出手段は、第1地形モデルに対して複数のメッシュからなる検索領域を設定するとともに、第2地形モデルに対して検索領域よりも大きな走査領域を設定したうえで、検索領域で走査領域を走査しながら画素値に基づく相互相関係数を求める手段である。水平変位算出手段は、走査領域のうち最大の相互相関係数を示す「対応領域」を検出するとともに、対応領域と検索領域の座標に基づいて水平変位を求める手段である。変位候補線分設定手段は、周辺のメッシュよりも水平変位が小さい「変位候補メッシュ」を抽出するとともに、連続して配置される複数の変位候補メッシュに基づいて「変位候補線分」を設定する手段である。相関候補線分設定手段は、周辺のメッシュよりも相互相関係数が小さい「相関候補メッシュ」を抽出するとともに、連続して配置される複数の相関候補メッシュに基づいて「相関候補線分」を設定する手段である。変位境界線設定手段は、変位候補線分に基づいて変位境界線を設定する手段である。なお検索領域を移動させながら設定することによって、相互相関係数算出手段が相互相関係数を求めるとともに、水平変位算出手段が水平変位を求める。また変位候補線分設定手段は、水平変位の分布に基づいて変位候補メッシュを抽出し、相関候補線分設定手段は、相互相関係数の分布に基づいて相関候補メッシュを抽出する。そして変位境界線設定手段が、変位候補線分と相関候補線分との離隔があらかじめ定められた「離隔閾値」を下回るときに変位境界線を設定する。
【0013】
本願発明の変位境界線抽出システムは、変位候補線分の長さがあらかじめ定められた「変位延長閾値」を上回るときに変位境界線を設定するものとすることもできる。
【0014】
本願発明の変位境界線抽出システムは、横断軸設定手段と分布図作成手段、特異区間抽出手段をさらに備えたものとすることもできる。この横断軸設定手段は、変位候補線分に対して斜交する水平軸である「変位横断軸」を設定する手段であり、分布図作成手段は、変位横断軸に沿って水平変位を配置した「変位分布図」を作成する手段、特異区間抽出手段は、変位分布図のうち水平変位があらかじめ定められた「変位区間許容値」を下回る「変位特異区間」を抽出する手段である。この場合、変位境界線設定手段は、変位特異区間の長さがあらかじめ定められた「区間許容値」に含まれるときに変位境界線を設定する。なお区間許容値は、検索領域を構成するメッシュのサイズに応じて設定される。
【0015】
本願発明の変位境界線抽出システムは、変位特異区間と「相関特異区間」の長さがそれぞれあらかじめ定められた区間許容値に含まれるときに変位境界線を設定するものとすることもできる。この場合、横断軸設定手段は、相関候補線分に対して斜交する水平軸である「相関横断軸」を設定し、分布図作成手段は、相関横断軸に沿って相互相関係数を配置した「相関分布図」を作成し、特異区間抽出手段は、相関分布図のうち相互相関係数があらかじめ定められた「相関区間閾値」を下回る「相関特異区間」を抽出する。
【0016】
本願発明の変位境界線抽出システムは、領域区分手段をさらに備えたものとすることもできる。この領域区分手段は、変位境界線設定手段によって設定された変位境界線を境界としたうえで、対象領域を第1対象領域と第2対象領域に区分する手段である。この場合、第1対象領域における第1地形モデルと第2地形モデルを比較して水平変位を求めるとともに、第2対象領域における第1地形モデルと第2地形モデルを比較して水平変位を求める。
【発明の効果】
【0017】
本願発明の変位境界線抽出システムには、次のような効果がある。
(1)目印となる測量杭や対空標識、特徴ある構造物などに頼ることなく、2時期の地形モデルを利用するだけで「変位境界線」を抽出することができる。
(2)2時期の変化を把握したい対象地を変位境界線で2つの領域に分けたうえで、特許文献1の技術を用いて解析することによって、それぞれ適切な変化を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】左右に延びる変位境界線抽が生じている領域を示す平面図。
図2】本願発明の変位境界線抽出システムの主な構成を示すブロック図。
図3】(a)は複数のメッシュによって構成される検索領域を模式的に示すモデル図、(b)は複数のメッシュによって構成される走査領域を模式的に示すモデル図。
図4】対応領域に検索領域を重ねて示すモデル図。
図5】水平変位や相互相関係数の等値線を模式的に示すモデル図。
図6】相互相関係数の分布図。
図7】変位候補線分と相関候補線分との離隔を説明するモデル図。
図8】(a)は変位候補線分に対して垂直に設定された変位横断軸を模式的に示すモデル図、(b)は相関候補線分に対して浅い交差角で設定された相関横断軸を模式的に示すモデル図。
図9】変位分布図と変位特異区間を模式的に示すグラフ図。
図10】相関分布図と相関特異区間を模式的に示すグラフ図。
図11】変位境界線を境界として設定された「第1対象領域」と「第2対象領域」を示す平面図。
図12】本願発明の変位境界線抽出システムのうち「地形量の算出」から「変位候補線分の設定」までの主な処理の流れを示すフロー図。
図13】本願発明の変位境界線抽出システムのうち「相関候補メッシュ抽出」から「対象領域の分割」までの主な処理の流れを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本願発明の変位境界線抽出システムの実施形態の一例を、図に基づいて説明する。本願発明の変位境界線抽出システムは、水平変位の方向が大きく異なる変化境界(以下、「変位境界線」という。)を抽出するものである。この変位境界線は、断層に伴うせん断変形などの現象によって形成されることがある。例えば図1に示す平面図では、概ね上半分の領域では右側方向への変位が生じ、概ね下半分の領域では左側方向への変位が生じており、その結果、左右に延びる変位境界線が生じている。
【0020】
図2は、本願発明の変位境界線抽出システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明の変位境界線抽出システム100は、画素値設定手段101と相互相関係数算出手段102、水平変位算出手段103、変位候補線分設定手段104、相関候補線分設定手段105、変位境界線設定手段106を含んで構成され、さらに横断軸設定手段107や分布図作成手段108、特異区間抽出手段109、領域区分手段110、地形モデル記憶手段111などを含んで構成することもできる。
【0021】
変位境界線抽出システム100を構成する各手段(特に、画素値設定手段101~領域区分手段110)は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。すなわち、所定のプログラムによってコンピュータ装置に演算処理を実行させることで、それぞれの手段特有の処理を行うわけである。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリを具備しており、さらにマウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを含むものもあり、例えばパーソナルコンピュータ(PC)やサーバなどによって構成することができる。
【0022】
また地形モデル記憶手段111は、汎用的コンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータ)の記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバに構築することもできる。データベースサーバに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由で保存するクラウドサーバとすることもできる。
【0023】
以下、本願発明の変位境界線抽出システム100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0024】
(地形モデル記憶手段)
地形モデル記憶手段111は、地形モデルを記憶する手段である。航空レーザ計測や空中写真測量などによって地盤等を計測すると、3次元座標を具備する多数の計測点データ(以下、「3次元点群」という。)が得られる。ここで「地形モデル」とは、この3次元点群に基づいて生成されるモデルであり、例えばDSM(Digital Surface Model)やDEM(Digital Elevation Model)などが知られている。通常、地形モデルは、計測対象の平面範囲を複数分割した小領域(以下、「メッシュ」という。)によって構成される。このメッシュは、例えば直交するグリッドに区切られて形成される区画であり、それぞれのメッシュは標高が付与された代表点を備えている。航空レーザ計測によって得られる3次元点群はランダムデータ(平面的に不規則な配置のデータ)で構成されるため、それぞれのメッシュの代表点に標高を与えるには幾何計算されることが多い。その計算方法としては、ランダムデータから形成される不整三角網によって高さを求めるTINによる手法や、最も近いレーザ計測点を採用する最近傍法(Nearest Neighbor)による手法、逆距離加重法(IDW:Inverse Distance Weighting)、Kriging法、平均法などを挙げることができる。
【0025】
地形モデル記憶手段111には、同一の対象領域で異なる時期に得られた2以上の地形モデルが記憶されている。そして本願発明の変位境界線抽出システム100は、地形モデル記憶手段111に記憶されている2つの地形モデルを読み出して各処理を実行する。便宜上ここでは、2つの地形モデルのうち一方を「第1地形モデル」と、他方を「第2地形モデル」ということとする。なお、計測時期が早い方(つまり、古い方)を第1地形モデルとすることもできるし、計測時期が遅い方(つまり、新しい方)を第1地形モデルとしてもよい。
【0026】
(画素値設定手段)
画素値設定手段101は、地形モデルを構成する各メッシュに「画素値」を付与する手段である。ここで画素値とは、コンピュータで扱うことができる「色モデル」で設定される値、あるいはグレースケールで設定される値である。なお色モデルとしては、赤(Red)・緑(Green)・青(Blue)の3色を基本色とするRGBや、シアン(Cyan)・マゼンタ(Magenta)・イエロー(Yellow)・ブラック(Key color)の4色を基本色とするCMYK、黄・赤・青・緑・黒・白の6色を基本色とするNCSやオストワルト表色系などを挙げることができる。以下、画素値設定手段101がメッシュごとに画素値を付与する手順について説明する。
【0027】
まず、地形モデル記憶手段111から第1地形モデルと第2地形モデルを読み出す。次いで、第1地形モデルと第2地形モデルを構成するメッシュごとに「地形量」を算出する。ここで地形量とは、地形の特徴を表すいわば指標であり、メッシュの代表点や元のランダムデータなどに基づいて算出される。例えば地形量としては、標高値、ラプラシアン値、地上開度値、地下開度値、傾斜量、あるいはこれらの組み合わせなどを採用することができる。
【0028】
ラプラシアン値は傾斜の変化率を表すラプラシアン図を描画するために利用され、このラプラシアン図はくぼんだ地形で正値、突出した地形で負値となり、地形の変化が大きいところで絶対値が大きくなるといった特徴がある。地上開度値は開度図を描画するために利用され、この地上開度図は着目する地点から一定距離内で見える空の広さを表すもので、突出した山頂や尾根が強調されるといった特徴がある。地下開度値は開度図を描画するために利用され、この地下開度図は地表面から地下を見渡したときに一定距離内における地下の広さを表すもので、くぼ地や谷地が強調されるといった特徴がある。傾斜量は傾斜量図を描画するために利用され、この傾斜量図は地形の傾斜の度合いを示すもので、傾斜が大きいほど大きな傾斜値を示し逆に緩やかな傾斜であるほど小さな傾斜値を示す。
【0029】
第1地形モデルと第2地形モデルを構成する各メッシュでそれぞれ地形量が算出されると、この地形量に基づいて画像を作成する。便宜上ここでは、地形量に基づいて作成される画像のことを「地形画像」ということとし、特に第1地形モデルから作成されるものを「第1地形画像」と、第2地形モデルから作成されるものを「第2地形画像」ということとする。具体的には、第1地形モデルを構成する各メッシュに対してそれぞれ地形量に応じた画素値を付与することによって第1地形画像を作成するとともに、第2地形モデルを構成する各メッシュに対してそれぞれ地形量に応じた画素値を付与することによって第2地形画像を作成する。なお地形画像を作成するには、画素(ピクセル)が設定されたうえでその画素に対して画素値が付与されるが、便宜上ここでは1メッシュを1画素とする例で説明する。もちろん、複数のメッシュによって1画素を構成する仕様とすることもできる。
【0030】
(相互相関係数算出手段)
相互相関係数算出手段102は、「検索領域」で「走査領域」を走査しながら画素値に基づく「相互相関係数」を求める手段である。以下、相互相関係数算出手段102が相互相関係数を算出する手順について説明する。
【0031】
まず相互相関係数算出手段102は、第1地形モデル(第1地形画像)に対して検索領域を設定するとともに、第2地形モデル(第2地形画像)に対して走査領域を設定する。上記したとおり、第1地形モデルと第2地形モデルのうち、古い方を第1地形モデルとすることもできるし、新しい方を第1地形モデルすることもできる。つまり、古い地形モデルに検索領域を設定するとともに新しい地形モデルに走査領域を設定することもできるし、新しい地形モデルに検索領域を設定するとともに古い地形モデルに走査領域を設定することもできる。
【0032】
検索領域と走査領域は、図3に示すようにそれぞれ複数のメッシュによって構成されるものである。ただし、この図に示すように走査領域は、検索領域よりも大きな領域とされる。図3(a)は複数のメッシュによって構成される検索領域を模式的に示すモデル図であり、図3(b)は複数のメッシュによって構成される走査領域を模式的に示すモデル図である。そして検索領域は、走査領域の範囲内で設定され、しかも走査領域を網羅するように移動させながら(図3(a)の矢印)複数個所で設定される。このとき、例えば1メッシュ(1画素)ごとに移動させながら(ずらしながら)、複数の検索領域を設定するとよい。一方の走査領域は、移動することなくその範囲は固定されている。ただし走査領域は、1箇所で設定することもできるし、2以上の箇所で設定することもできる。
【0033】
検索領域と走査領域が設定されると、第1地形画像のうち検索領域に係る部分的な画像(以下、「検索画像」という。)を切り出す。次いで、その検索画像で、第2地形画像のうち走査領域に係る部分的な画像(以下、「走査画像」という。)に対して画像照合(マッチング)していく。具体的には、図3(b)の矢印で示すように、走査画像を網羅するように検索画像で走査(スキャン)しながら、検索画像と走査画像を照合していく。このとき、例えば1メッシュ(1画素)ごとに移動させながら(ずらしながら)走査していくとよい。そして、その照合した結果を相互相関係数として算出していく。検索画像は走査領域内を移動していくことから、移動したその位置でその都度走査画像と照合され、つまり移動するたびに相互相関係数が算出される。また、上記したとおり検索画像も移動しながら複数個所で設定されることから、設定される検索画像ごとに走査画像を操作しながら相互相関係数が算出されることになる。例えば、走査領域を網羅するように16の箇所で検索画像が設定される場合、検索画像は16の位置で走査画像と照合されることとなり、つまりこの場合は16×16の相互相関係数が算出される。
【0034】
相互相関係数は、画素値に基づいて算出される値であって、検索画像と走査画像との類似度を示すいわば指標値である。この相互相関係数を算出するにあたっては、検索画像と走査画像との類似度を表すことができれば、従来用いられている種々の手法を用いることができ、例えば粒子画像流速測定法(PIV:Particle Image Velocimetry)における相互相関法によって算出することができる。
【0035】
相互相関係数は、検索画像と走査画像との類似度として求められ、複数の検索画像ごとに求められる。つまり、1の検索領域に対して1種類の相互相関係数が求められるため、検索領域を構成する全てのメッシュにその相互相関係数を付与することができる。一方、検索領域は移動しながら設定されることから、同一のメッシュであっても異なる検索領域を構成することがあり、1のメッシュに対して複数の相互相関係数が付与されることになる。この場合、複数の相互相関係数に基づく統計値(平均値や中央値、最頻値、標準偏差など)を、当該メッシュの相互相関係数として設定するとよい。
【0036】
(水平変位算出手段)
水平変位算出手段103は、走査領域のうち最大の相互相関係数(以下、単に「最大相互相関係数」という。)を示す「対応領域」を検出するとともに、その対応領域と検索領域の座標に基づいて水平変位を求める手段である。以下、水平変位算出手段103が水平変位を求める手順について説明する。
【0037】
まず水平変位算出手段103は、設定された検索領域(検索画像)ごとに最大相互相関係数を選出し、走査領域(走査画像)のうち最大相互相関係数に係る範囲を「対応領域」として検出する。したがって対応領域は、図4に示すように検索領域と同じ大きさの領域となるが、その位置は異なることがある。なお、図4では便宜的に検索領域を第2地形画像(走査画像)に重ねて表示している。また、設定された検索領域ごとに最大相互相関係数が選出されることから、対応領域は検索領域の設定数だけ検出される。例えば、16の箇所で検索画像が設定される場合、16の位置で最大相互相関係数が選出され、すなわち16の位置で対応領域が検出される。
【0038】
検索領域ごとに対応領域を検出すると、図4に示すように検索領域と対応領域に基づいて「変位ベクトル」を求めるとともに、変位ベクトルの大きさである水平変位を求める。なお、第1地形モデルや第2地形モデルは3次元点群によって構成されていることから、2次元(平面上)のベクトルとして変位ベクトルを求めることもできるし、3次元(空間上)のベクトルとして変位ベクトルを求めることもできる。
【0039】
図4に示すように、1組の検索領域と対応領域に基づいて1種類の変位ベクトルが求められるため、検索領域を構成する全てのメッシュにその変位ベクトル(つまり、水平変位)を付与することができる。一方、検索領域は移動しながら設定されることから、同一のメッシュであっても異なる検索領域を構成することがあり、1のメッシュに対して複数の水平変位が付与されることになる。この場合、複数の水平変位に基づく統計値(平均値や中央値、最頻値、標準偏差など)を、当該メッシュの水平変位として設定するとよい。
【0040】
(変位候補線分設定手段)
変位候補線分設定手段104は、周辺のメッシュよりも水平変位が小さい「変位候補メッシュ」を抽出するとともに、連続して配置される複数の変位候補メッシュに基づいて「変位候補線分」を設定する手段である。以下、変位候補線分設定手段104が変位候補線分を設定する手順について説明する。
【0041】
既述したとおり特許文献1の技術(以下、「3DGIV手法」という。)は、変位境界線の周辺領域において2時期の地形の照合が難しいという側面があった。そのため、本来であればその周辺と同様の水平変位が生じているにもかかわらず、実際よりは小さな水平変位が解析値として出力される傾向があった。そこで、その傾向をいわば逆用することによって、変位境界線となる候補を検出することとした。具体的には、周辺のメッシュよりも水平変位が小さいメッシュを「変位候補メッシュ」として抽出するとともに、その変位候補メッシュが連続する線分を「変位候補線分」として設定するわけである。
【0042】
変位候補メッシュを抽出するにあたっては、閾値を設定したうえで抽出することができる。例えば、走査領域を構成するメッシュに係る水平変位の統計値(平均値や中央値、最頻値、標準偏差など)を求めるとともに、その統計値に所定の係数を乗じた値を閾値として設定し、この閾値を下回る水平変位に係るメッシュを変位候補メッシュとして抽出することができる。
【0043】
あるいは、水平変位の分布に基づいて変位候補メッシュを抽出することができる。つまり、等高線において稜線(尾根線)や谷線を設定する要領で、変位候補メッシュを抽出するわけである。具体的には、図5に示すように水平変位の等値線(コンタ)を生成し、この等値線を利用して変位候補メッシュを抽出して変位候補線分BLDを設定する。
【0044】
(相関候補線分設定手段)
相関候補線分設定手段105は、周辺のメッシュよりも相互相関係数が小さい「相関候補メッシュ」を抽出するとともに、連続して配置される複数の相関候補メッシュに基づいて「相関候補線分」を設定する手段である。以下、相関候補線分設定手段105が相関候補線分を設定する手順について説明する。
【0045】
既述したとおり3DGIV手法は、変位境界線の周辺領域において2時期の地形の照合が難しいという側面があった。そのため、本来であればその周辺と同様の相互相関係数が得られるはずであるにもかかわらず、実際には図6に示すように周辺より小さな相互相関係数が解析値として出力される傾向があった。図6は、相互相関係数の分布を示す図であり、濃いほど大きな相互相関係数であることを示し、淡いほど小さな相互相関係数であることを示している。そこで、その傾向をいわば逆用することによって、変位境界線となる候補を検出することとした。具体的には、周辺のメッシュよりも相互相関係数が小さいメッシュを「相関候補メッシュ」として抽出するとともに、その相関候補メッシュが連続する線分を「相関候補線分」として設定するわけである。
【0046】
相関候補メッシュを抽出するにあたっては、閾値を設定したうえで抽出することができる。例えば、走査領域を構成するメッシュに係る相互相関係数の統計値(平均値や中央値、最頻値、標準偏差など)を求めるとともに、その統計値に所定の係数を乗じた値を閾値として設定し、この閾値を下回る相互相関係数に係るメッシュを相関候補メッシュとして抽出することができる。
【0047】
あるいは、相互相関係数の分布に基づいて相関候補メッシュを抽出することができる。つまり、等高線において稜線(尾根線)や谷線を設定する要領で、相関候補メッシュを抽出するわけである。具体的には、図5に示すように相互相関係数の等値線(コンタ)を生成し、この等値線を利用して相関候補メッシュを抽出して相関候補線分BLCを設定する。
【0048】
(変位境界線設定手段)
変位境界線設定手段106は、変位候補線分BLDに基づいて「変位境界線」を設定する手段であり、いわば対象領域における「変位境界線」を決定する手段である。例えば変位境界線設定手段106は、変位候補線分BLDをそのまま変位境界線として設定することもできるし、変位候補線分BLDを円滑処理(スムージング)することによって変位境界線を設定することもできる。
【0049】
ところで、ここまで説明した処理を実行すると、変位候補線分設定手段104によって複数の変位候補線分BLDが設定され、相関候補線分設定手段105によって複数の相関候補線分BLCが設定されることもある。もちろん、これら全ての変位候補線分BLDに基づいて変位境界線を設定することもできるが、通常は対象領域で多くの変位境界線が生じることは稀である。そこで本願発明の変位境界線抽出システム100は、所定の条件が満たされたとき、変位境界線設定手段106が変位境界線を設定することとした。以下、相関候補線分設定手段105が変位境界線を設定する条件(以下、単に「設定条件」という。)について説明する。
【0050】
設定条件としては、「接近条件」と「線分長条件」、「特異区間条件」を挙げることができる。なお、接近条件のみによって相関候補線分設定手段105が変位境界線を設定する仕様にすることもできるし、接近条件と線分長条件、特異区間条件を組み合わせることによって相関候補線分設定手段105が変位境界線を設定する仕様にすることもできる。このうち接近条件は、変位候補線分BLDと相関候補線分BLCがある程度接近していることを条件とするものである。本願発明の変位境界線抽出システム100は、変位境界線を抽出するため、水平変位に基づいて変位候補線分BLDを設定するとともに、相互相関係数に基づいて相関候補線分BLCを設定するが、本来これらは一致するはずである。しかしながら計測精度や解析誤差などが原因で、変位候補線分BLDと相関候補線分BLCは必ずしも一致しない。とはいえ、同一の変位境界線を示すのであれば、変位候補線分BLDと相関候補線分BLCは相当程度に接近しているはずであり、つまり両者の離隔は小さいはずである。
【0051】
そこで、あらかじめ閾値(以下、「離隔閾値」という。)を設定したうえで、変位候補線分BLDと相関候補線分BLCの離隔がこの離隔閾値を下回ることを条件(つまり、接近条件)として、変位境界線設定手段106が変位境界線を設定することとした。例えば図7に示すように、変位候補線分BLDと相関候補線分BLCとの間で複数の離隔を求め、これら離隔に基づく統計値(平均値や中央値、最頻値、標準偏差など)を代表値とし、あるいは最長(あるいは最短)の離隔を代表値としたうえで、その代表値と離隔閾値を照らし合わせることができる。あるいは、変位候補線分BLDと相関候補線分BLCによって囲まれた領域(図7では網掛した範囲)の面積を変位候補線分BLD(あるいは、相関候補線分BLC)で除した値を代表値としたうえで、その代表値と離隔閾値を照らし合わせることもできる。
【0052】
線分長条件は、変位境界線の基礎となる変位候補線分BLDの線分長がある程度の長さを有していることを条件とするものである。通常、自然界における変位境界線は相当の延長で形成される。したがって、変位候補線分BLDも相当の長さで設定されるはずであるが、計測精度や解析誤差などが原因で著しく短い変位候補線分BLDが設定されることもある。そこで、あらかじめ閾値(以下、「変位延長閾値」という。)を設定したうえで、図7に示す変位候補線分BLDの線分長LDがこの変位延長閾値を上回ることを条件(つまり、線分長条件)として、変位境界線設定手段106が変位境界線を設定することとした。さらに、図7に示す相関候補線分BLCの線分長LCが閾値を上回ることを条件とすることもできる。
【0053】
図8(a)に示すように変位候補線分BLDに対して斜交する水平軸(以下、「変位横断軸」という。)を設定し、図9に示すように変位横断軸に沿って水平変位を配置した分布図(以下、「変位分布図」という。)を考えたとき、変位横断軸に接近するほど徐々に水平変位が小さくなる。一方、変位横断軸から十分離れた位置では水平変位は概ね同じ値を示す。つまり変位分布図は、図9に示すように全体的には概ね一定の水平変位を示すものの、変位横断軸を中心とする所定区間(以下、「変位特異区間」という。)では下向きに窪んだ凹形状が形成される。なお本願発明の変位境界線抽出システム100においては、横断軸設定手段107によって変位横断軸が設定されるとともに、分布図作成手段108によって変位分布図が作成され、そして特異区間抽出手段109によって変位特異区間が抽出される。
【0054】
同様に、図8(b)に示すように相関候補線分BLCに対して斜交する水平軸(以下、「相関横断軸」という。)を設定し、図10に示すように相関横断軸に沿って相互相関係数を配置した分布図(以下、「相関分布図」という。)を考えたとき、相関横断軸に接近するほど徐々に相互相関係数が小さくなる。一方、相関横断軸から十分離れた位置では相互相関係数は概ね同じ値を示す。つまり相関分布図は、図1に示すように全体的には概ね一定の相互相関係数を示すものの、相関横断軸を中心とする所定区間(以下、「相関特異区間」という。)では下向きに窪んだ凹形状が形成される。なお本願発明の変位境界線抽出システム100では、横断軸設定手段107によって相関横断軸が設定されるとともに、分布図作成手段108によって相関分布図が作成され、そして特異区間抽出手段109によって相関特異区間が抽出される。
【0055】
変位横断軸や相関横断軸は、変位候補線分BLDや相関候補線分BLCに対して任意の角度で設定することができる。例えば、図8(a)では変位候補線分BLDに対して垂直に変位横断軸を設定しており、図8(b)では相関候補線分BLCに対して浅い交差角(鋭角)となるように相関横断軸を設定している。
【0056】
特異区間条件は、変位特異区間や相関特異区間が所定の区間長を有していることを条件とするものである。本願発明の発明者らは、変位候補線分BLDや相関候補線分BLCが変位境界線を示すとき、変位特異区間や相関特異区間の区間長が、検索領域のサイズと同等になることを見出した。例えば、検索領域が9×9のメッシュで構成されるとともに、1のメッシュ寸法が2cm×2cmとされている場合、変位特異区間や相関特異区間の区間長が「9×2cm(メッシュ寸法)」となるときに変位境界線を示すわけである。
【0057】
そこで、あらかじめ変位特異区間に係る許容値(以下、「変位区間許容値」という。)を設定したうえで、変位特異区間の区間長がこの変位区間許容値の範囲内にあることを条件(つまり、特異区間条件)として、変位境界線設定手段106が変位境界線を設定することとした。さらに、あらかじめ相関特異区間に係る許容値(以下、「相関区間許容値」という。)を設定したうえで、相関特異区間の区間長がこの相関区間許容値の範囲内にあることを条件とすることもできる。変位区間許容値や相関区間許容値は、例えばメッシュサイズ(メッシュ数×メッシュ寸法)などを基準長としたうえで、その基準長に第1の係数を乗じて最小長を設定するとともに、基準長に第2の係数を乗じて最大長を設定し、その最小長と最大長の範囲を許容値として設定することができる。なお第1の係数と第2の係数は、それぞれ1以上とすることもできるし、それぞれ1未満とすることもできる。
【0058】
(領域区分手段)
領域区分手段110は、図11に示すように、変位境界線設定手段106によって設定された変位境界線を境界として、対象領域を「第1対象領域」と「第2対象領域」に区分する手段である。既述したとおり3DGIV手法は、変位境界線の周辺領域において2時期の地形の照合が難しいという側面があった。2時期の変化を把握したい対象地を第1対象領域と第2対象領域に分けることができると、第1対象領域と第2対象領域それぞれにおいて個別に解析することができ、すなわち変位境界線を跨いで解析する必要がないため、3DGIV手法によって適切な変化を把握することができるわけである。
【0059】
領域区分手段110が対象領域を第1対象領域と第2対象領域に区分するにあたっては、座標等に基づいて自動的(機械的)に区分する仕様とすることもできるし、オペレータがポインティングデバイス(マウスやタッチパネル、ペンタブレット、タッチパッド、トラックパッド、トラックボールなど)やキーボードを利用してそれぞれ第1対象領域と第2対象領域を設定する仕様とすることもできる。
【0060】
(処理の流れ)
以下、図12図13を参照しながら、本願発明の変位境界線抽出システム100の主な処理について詳しく説明する。図12は本願発明の変位境界線抽出システム100のうち「地形量の算出」から「変位候補線分BLDの設定」までの主な処理の流れを示すフロー図であり、図13は本願発明の変位境界線抽出システム100のうち「相関候補メッシュ抽出」から「対象領域の分割」までの主な処理の流れを示すフロー図である。なお図12図13では、中央の列に実施する行為を示し、左列にはその行為に必要なものを、右列にはその行為から生ずるものを示している。
【0061】
本願発明の変位境界線抽出システム100によって変位境界線を抽出するにあたっては、図12に示すようにまず第1地形モデルと第2地形モデルを構成するメッシュごとに地形量を算出する(図12のStep201)。次いで、各メッシュに対してそれぞれ地形量に応じた画素値を付与することによって第1地形画像と第2地形画像を作成する(図12のStep202)。地形画像を作成すると、第1地形モデル(第1地形画像)に対して検索領域を設定するとともに(図12のStep203)、第2地形モデル(第2地形画像)に対して走査領域を設定する(図12のStep204)。
【0062】
検索領域と走査領域を設定すると、走査画像を網羅するように検索画像で走査(スキャン)しながら、検索画像と走査画像を照合していく(図12のStep205)とともに、それぞれ相互相関係数を算出していく(図12のStep206)。画像の照合(図12のStep205)と相互相関係数の算出(図12のStep206)は、走査画像を網羅するまで、しかも設定された全ての検索領域で実行されるまで繰り返し行う。そして、検索領域ごとに、走査領域のうち最大相互相関係数を示す対応領域を検出する(図12のStep207)とともに、その対応領域と検索領域の座標に基づいて水平変位を求める(図12のStep208)。
【0063】
水平変位が得られると、変位候補メッシュを抽出する(図12のStep209)とともに、連続して配置される複数の変位候補メッシュに基づいて変位候補線分BLDを設定し(図12のStep210)、また相関候補メッシュを抽出する(図13のStep211)とともに、連続して配置される複数の相関候補メッシュに基づいて相関候補線分BLCを設定する(図13のStep212)。
【0064】
変位候補線分BLDが得られると、この変位候補線分BLDに対して斜交する変位横断軸を設定する(図13のStep213)とともに、変位分布図を作成し(図13のStep214)、さらに変位特異区間を抽出する(図13のStep215)。また相関候補線分BLCが得られると、この相関候補線分BLCに対して斜交する相関横断軸を設定する(図13のStep216)とともに、相関分布図を作成し(図13のStep217)、さらに相関特異区間を抽出する(図13のStep218)。
【0065】
ここまでの処理が実行されると、接近条件を設定条件としたうえで、あるいは接近条件や線分長条件、特異区間条件を組み合わせたものを設定条件としたうえで、この設定条件を満たすことを条件として変位候補線分BLDに基づいて変位境界線を設定する(図13のStep219)。変位境界線が設定されると、この変位境界線を境界として対象領域を第1対象領域と第2対象領域に区分する(図13のStep220)。そして、第1対象領域と第2対象領域それぞれにおいて、個別に3DGIV手法による解析を行い、変位境界線の周辺を含む変位を求める。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本願発明の変位境界線抽出システムは、山地部の自然斜面や、盛土のり面、あるいは平坦な地盤など種々の地形に生じた変位境界線の発見に利用することができる。本願発明によれば、断層活動の活動状況や地すべりの活動状況を把握することで自然災害を未然に防ぎ、あるいは自然災害による被害を軽減させることを考えると、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献が期待できる発明といえる。
【符号の説明】
【0067】
100 本願発明の変位境界線抽出システム
101 (変位境界線抽出システムの)画素値設定手段
102 (変位境界線抽出システムの)相互相関係数算出手段
103 (変位境界線抽出システムの)水平変位算出手段
104 (変位境界線抽出システムの)変位候補線分設定手段
105 (変位境界線抽出システムの)相関候補線分設定手段
106 (変位境界線抽出システムの)変位境界線設定手段
107 (変位境界線抽出システムの)横断軸設定手段
108 (変位境界線抽出システムの)分布図作成手段
109 (変位境界線抽出システムの)特異区間抽出手段
110 (変位境界線抽出システムの)領域区分手段
111 (変位境界線抽出システムの)地形モデル記憶手段
BLD 変位候補線分
BLC 相関候補線分
LD 変位候補線分の線分長
LC 相関候補線分の線分長
【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち水平変位の向きが異なる境界線を抽出することができる変位境界線抽出システムを提供することである。
【解決手段】本願発明の変位境界線抽出システムは、同一の対象領域において2時期で得られた地形モデルに基づいて「変位境界線」を抽出するシステムであって、画素値設定手段と相互相関係数算出手段、水平変位算出手段、変位候補線分設定手段、相関候補線分設定手段、変位境界線設定手段を備えたものである。変位境界線設定手段は、変位候補線分と相関候補線分との離隔があらかじめ定められた「離隔閾値」を下回るときに変位境界線を設定する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13