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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20241022BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20241022BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20241022BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241022BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241022BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20241022BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241022BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20241022BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20241022BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20241022BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K39/395 U
A61K31/519
A61P37/06
A61P43/00 111
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P17/00
A61P43/00 121
A61P1/04
A61P21/00
A61P25/02
A61P9/00
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2023528486
(86)(22)【出願日】2021-11-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2021081047
(87)【国際公開番号】W WO2022101173
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】102020129648.7
(32)【優先日】2020-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】523173368
【氏名又は名称】レオポルド エムテーイクス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Leopold MTX GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】カール シュクリナー
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-521690(JP,A)
【文献】特表2012-504110(JP,A)
【文献】特表2002-537356(JP,A)
【文献】特表2008-531699(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0252437(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 39/00-39/44
A61K 38/00-38/58
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩もしくは水和物と、薬学的に許容される溶媒とを含む医薬組成物であって、前記組成物が、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩もしくは水和物と組み合わせて、前記溶媒に少なくとも部分的に溶解している少なくとも1つの薬学的に活性なバイオ医薬品をさらに含み、
前記薬学的に活性なバイオ医薬品が、アダリムマブ、エタネルセプト、アバタセプト、インフリキシマブ、ゴリムマブ、リツキシマブ、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする、医薬組成物。
【請求項2】
前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩もしくは水和物が、前記溶媒中に、2.5ミリグラム/ミリリットル~100ミリグラム/ミリリットルの濃度で、または5ミリグラム/ミリリットル~50ミリグラム/ミリリットルの濃度で存在することを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩もしくは水和物が、前記溶媒中に、5ミリグラム/ミリリットル~25ミリグラム/ミリリットルの濃度で、または25ミリグラム/ミリリットル~50ミリグラム/ミリリットルの濃度で存在することを特徴とする、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記薬学的に活性なバイオ医薬品が、前記溶媒中に、1ミリグラム/ミリリットル~150ミリグラム/ミリリットルの濃度で、または5ミリグラム/ミリリットル~100ミリグラム/ミリリットルの濃度で存在することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記薬学的に活性なバイオ医薬品が、前記溶媒中に、20ミリグラム/ミリリットル~50ミリグラム/ミリリットルの濃度で、または25ミリグラム/ミリリットル~100ミリグラム/ミリリットルの濃度で存在することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
対象における自己免疫炎症性疾患の治療における使用のための請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記治療が、前記対象自身によって行われる前記医薬組成物の皮下または筋肉内投与を含むことを特徴とする、請求項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項8】
前記治療が、単回用量プレフィルドシリンジによる投与、または単回用量の複数回投与用に構成されたペン型注射器による投与を含むことを特徴とする、請求項またはに記載の使用のための医薬組成物。
【請求項9】
前記治療が、前記医薬組成物の局所投与を含むことを特徴とする、請求項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項10】
前記治療が、前記医薬組成物の病巣内または関節内投与を含むことを特徴とする、請求項またはに記載の使用のための医薬組成物。
【請求項11】
前記治療が、前記医薬組成物の経口投与を含むことを特徴とする、請求項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項12】
前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩もしくは水和物が、1週間あたり2.5ミリグラム~25ミリグラムの用量で投与されることを特徴とする、請求項11のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項13】
前記薬学的に活性なバイオ医薬品が、1週間あたり5mg~50mgの用量で投与されることを特徴とする、請求項10のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項14】
前記自己免疫炎症性疾患が、関節リウマチ、若年性関節炎、乾癬性関節炎、全身性エリテマトーデス、全身性硬化症、多発性硬化症、クローン病、強直性脊椎炎、潰瘍性大腸炎、リウマチ性多発筋痛症、血管炎、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする、請求項13のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項15】
前記炎症性疾患が関節リウマチであることを特徴とする、請求項13のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項16】
請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物を含有する流体リザーバを含むことを特徴とする、薬剤の皮下または筋肉内投与用の注射器具。
【請求項17】
単回用量の前記医薬組成物を含むプレフィルドシリンジであることを特徴とする、請求項16に記載の注射器具。
【請求項18】
前記医薬組成物の複数の単回用量を送達するように構成されたペン型注射器であることを特徴とする、請求項16に記載の注射器具。
【請求項19】
前記単回用量が、2.5ミリグラム~25ミリグラムもしくは5ミリグラム~50ミリグラムの前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩もしくは水和物、および/または、5ミリグラム~50ミリグラムの前記薬学的に活性なバイオ医薬品を含むことを特徴とする、請求項17または18に記載の注射器具。
【請求項20】
請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物を含むことを特徴とする、ペン型注射器用カートリッジ。
【請求項21】
ピアスバイアル、バイアル、輸液バッグ、ガラスアンプルおよびカートリッジからなる群から選択される無菌および/または密封された薬剤容器であって、前記薬剤容器は、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物を含むことを特徴とする、薬剤容器。
【請求項22】
請求項1619のいずれか一項に記載の注射器具、請求項20に記載のペン型注射器用カートリッジ、または請求項21に記載の薬剤容器を充填および/または提供するための、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物の使用。
【請求項23】
メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩もしくは水和物を提供するステップと、
少なくとも1つの薬学的に活性なバイオ医薬品を提供するステップと、
前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩もしくは水和物を、前記少なくとも1つの薬学的に活性なバイオ医薬品と共に、薬学的に許容される溶媒に少なくとも部分的に溶解するステップと
を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬学的に許容される溶媒中に、メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体と、薬学的に活性なバイオ医薬品とを含む医薬組成物に関する。本発明はさらに、炎症性自己免疫疾患の治療のための該医薬組成物の医学的使用、ならびに、かかる医薬組成物を含む医療用注射器具および薬剤容器に関する。
【背景技術】
【0002】
メトトレキサート(MTXと略される)は、医薬品有効成分N-{4-[(2,4-ジアミノ-6-プテリジニルメチル)メチルアミノ]-ベンゾイル}-L-グルタミン酸または(S)-2-{4-[(2,4-ジアミノプテリジン-6-イルメチル)メチルアミノ]ベンゾイルアミノ}-ペンタン二酸(IUPAC)の一般名である。メトトレキサートは、葉酸アンタゴニストであり、酵素ジヒドロ葉酸レダクターゼの競合的阻害剤である。メトトレキサートは、リウマチ性疾患などのさまざまな炎症性自己免疫疾患の基本療法として使用される。
【0003】
自己免疫炎症性疾患の治療のための治療オプションは、バイオ医薬品またはバイオロジクスとして知られる特異的な標的を持つ生物学的薬剤の開発によって拡大された。これらの中には、バイオロジクスが炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子-α(TNF-α)の特異的な中和を標的とする戦略がある。例として、ヒト抗TNF-αモノクローナル抗体アダリムマブ(商品名:ヒュミラ)、キメラ抗TNF-αモノクローナル抗体インフリキシマブ(商品名:レミケード)、および組換えp75 TNF受容体Fc融合タンパク質エタネルセプト(商品名:エンブレル)が挙げられる。他の戦略は、Bリンパ球抗原CD20(例:リツキシマブ、商品名:MabThera、Rituxan)、リンパ球活性化抗原CD80、またはCD86(例:アバタセプト、商品名:オレンシア)に特異的に結合するバイオロジクスを用いて、Tリンパ球またはBリンパ球の活性化を抑制することを目的とする。
【0004】
バイオロジクスはまた、腫瘍学、特にバイオ医薬品免疫チェックポイント阻害剤を用いた免疫療法における治療上のブレークスルーでもあり、進行した腫瘍疾患においても優れた結果を示す。免疫チェックポイント阻害剤は、通常、免疫チェックポイントに特異的に結合し、そのシグナル伝達、特に抗炎症シグナル伝達を阻害するモノクローナル抗体である。免疫チェックポイントは、免疫応答を調節するタンパク質で、免疫抑制性もしくは抗炎症性、または、免疫刺激性もしくは炎症誘発性(すなわち、炎症を促進する)の何れかである。免疫チェックポイントは、例えば、抗原特異的T細胞活性化またはT細胞エフェクター機能の強さおよび強度を共刺激(すなわち、ポジティブに制御)または共抑制(すなわち、ネガティブに制御)することによって、免疫応答の適切な機能の監視に関与する。例えば、一部の癌では、免疫回避の過程で抗炎症性免疫チェックポイントと共抑制性免疫チェックポイントがそれぞれアップレギュレートされる。癌治療における確立されたバイオロジクスの例は、ニボルマブ(商品名:オプジーボ、メーカー:ブリストル・マイヤーズスクイブ社)、ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ、メーカー:メルク/MSD Sharp & Dohme社)、ピディリズマブ(CT-011、メーカー:CureTech社)、アベルマブ(MSB0010718C、メーカー:ファイザー社)、アテゾリズマブ(MPDL3280A、ロシュ社、ジェネンテック社)、イピリムマブ(MDX-010;商品名ヤーボイ、ブリストル・マイヤーズスクイブ社)、およびトレメリムマブ(イピリムマブ、CP-675,206、ファイザー社、メディミューン社、アストラゼネカ社)である。
【0005】
当技術分野では、例えば、メトトレキサートによる以前の単剤治療がうまくいかなかった場合に、メトトレキサートと免疫抑制性バイオロジクスとの様々な組み合わせ療法が示されている。例えば、ヒュミラとメトトレキサートの組み合わせは、メトトレキサート単剤療法を含む疾患修飾性抗リウマチ薬の効果が不十分な中等度から重度の関節リウマチの治療として、欧州医薬品庁から推奨されている。
【0006】
このような組み合わせ療法は、非常に長い期間にわたって投与しなければならないことが多く、そのためコスト高で複雑なものとなっている。さらに、高用量の有効成分を定期的に投与することは、対象にとって非常にストレスが多いと認識され、不耐性および副作用の増加につながる可能性がある。従来の組み合わせ療法に伴う別の問題は、バイオロジクスの一般的に敏感な物理化学的安定性であり得、これは、特にすぐに使用できる製剤において、活性剤の生物学的活性に関する品質の継続的な低下、したがって臨床効果の低下につながる。
【0007】
したがって、本発明の目的は、上記の問題を少なくとも部分的に解決しながら、炎症性自己免疫疾患の治療における医学的使用に適した改良された医薬組成物を提供することである。
【0008】
この目的は、独立請求項の主題によって解決される。本発明のさらなる利点および好ましい実施形態は、従属請求項、以下の説明および添付の図面から導き出すことができる。
【発明の説明】
【0009】
本発明は、治療有効量のメトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体と、薬学的に許容される溶媒とを含む医薬組成物を提供する。さらに、前記組成物は、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体と共に、少なくとも部分的に、好ましくは大部分または完全に前記溶媒に溶解する治療有効量の少なくとも1つの薬学的に活性なバイオ医薬品を含む。
【0010】
この点に関して、本発明は、本発明による組成物において、メトトレキサートが、薬学的に活性なバイオ医薬品の溶解性、熱力学的安定性および結合親和性の驚くべき改善をもたらすという発見に基づく。溶液中のメトトレキサートとバイオ医薬品のこの予想外の相互作用は、さらに以下の実施形態の詳細な説明で立証されており、ここで参照される。
【0011】
本発明者は、それにより、医薬組成物が、特に炎症性自己免疫疾患の長期治療のために、特定の利点を有することを認識した。バイオ医薬品の溶解性および熱力学的安定性が改善されたため、メトトレキサートとバイオ医薬品は、すぐに使用できる組み合わせ製剤として提供および投与され得る。これにより、必要な薬剤の数が大幅に減少し、特に非経口投与の場合に、治療の受け入れが改善され、対象の生活の質が向上する。さらに、必要な注射回数の減少により、シリンジからの感染のリスクも減少する。メトトレキサートは、その驚くべき安定化効果により、本発明による組成物中のバイオ医薬品の変性に効果的に反作用するので、液体製剤中のバイオ医薬品の生物学的活性が長期間にわたって維持されることが同時に保証される。これにより、本発明による組成物を、例えば、定期的な投与に適した便利な形態で、例えば、対象が有利に製剤を自己投与できるプレフィルドシリンジまたは注射ペンとして、長期間にわたる医薬品の品質および臨床効果を損なうことなく提供することが可能になる。
【0012】
さらに、特定の利点は、メトトレキサートによるバイオ医薬品の結合親和性の予想外の増強から生じる。これにより、本発明による組成物の有利な薬力学的用量反応関係が得られる。結果として、現在まで一般的に使用されている投与形態よりも低いレベルで、バイオ医薬品または両方の活性剤を投与することが原理的に可能である。一方で、これは、医薬組成物の忍容性の向上と副作用の減少につながり、他方では、従来の組み合わせ療法と比較して、特にバイオ医薬品の一般的に高いコストに関して、コストを大幅に削減することを可能にする。
【0013】
体内での有効性の改善効果は、特に治療の最初の数時間で明らかになる。したがって、本発明による組成物は、炎症組織、関節、または腫瘍への局所投与の場合に特に有利であり、これは、例えば、病巣内、関節内または腫瘍内注射によって行うことができる。さらに、本発明による組成物中のMTXは、いわゆる抗薬物抗体(ADA)産生を減少させる。ADA減少の効果は、バイオ医薬品の体内または炎症組織関節もしくは腫瘍の局所における安定性の向上につながり、ひいては治療効果の向上にもつながる。また、本組成物を繰り返し投与することにより、より高く安定した薬物レベルを達成することができ、その結果、対象からのより良い反応が得られると考えられる。
【0014】
この用語の通常の技術的理解によれば、メトトレキサートの誘導体は、メトトレキサートと同じ基本構造を有するが、水素原子または官能基の代わりに異なる原子および/または原子団を有する物質、または1つ以上の原子および/または原子団が除去された物質であり、MTXと治療的に同等である。例としては、メトトレキサートがポリエチレングリコール(PEG)に化学結合したペグ化、メトトレキサートの基本構造上の水素原子をアセチル基と交換したアセチル化が挙げられる。別の例はグリコシル化である。このような誘導体化は、MTXとバイオ医薬品の複合体の周りの水和物シェルを増加させ、バイオ医薬品の溶解度を高めるために使用され得る。メトトレキサートの他の適切な誘導体は、当業者に既知である。
【0015】
メトトレキサートの好ましい誘導体は、特に、薬学的に許容される溶媒中に双性イオンとして存在するか、または双性イオンを好ましくは生理学的溶液中で形成できるものである。この目的のために、メトトレキサートの基本構造を、薬学的に許容される溶媒中に双性イオンとして存在するか、または双性イオンを好ましくは生理学的溶液中で形成できる官能基とカップリングまたは置換することも可能である。
【0016】
メトトレキサートの薬学的に許容される塩は、例えば、ナトリウム塩、特に二ナトリウム塩(メトトレキサート二ナトリウム)、またはカルシウム塩、ならびにそれらの水和物である。
【0017】
薬学的に許容される溶媒は特に限定されない。原則として、この目的のために当業者に既知であり、医薬組成物の有効成分またはおそらく他の成分と不適合でない、任意の薬学的に許容される溶媒を使用することができる。好ましい溶媒は水であり、特に注射用の水であり、等張化添加剤を含んでいてもよい。別の適切な溶媒は、生理食塩水、特に等張生理食塩水である。適切な等張化添加剤は当業者に既知であり、例えば、塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウムなどの可溶性塩、グルコース、ラクトースおよび/またはトレハロースなどの糖、マンニトールおよび/またはソルビトールなどの糖アルコール、ならびにそれらの組み合わせを含み得る。
【0018】
さらに、医薬組成物は、医薬溶液の製剤化で一般的に使用される賦形剤または添加剤を含むことができる。特に、本発明による組成物は、以下の1つ以上を含有することができる:酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液などの緩衝液;アスコルビン酸、ブチル化ヒドロキシトルエン、α-トコフェロールなどの酸化防止剤;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリソルベート、シクロデキストリン、ポリビドン、レシチン、グリココール酸などの可溶化剤および/または乳化剤;酸;塩基。好ましくは、医薬組成物のpH値は、pH7.0とpH9.0の間である。医薬組成物が1つ以上の防腐剤を含有することも可能である。原則として、当業者に既知であり、医薬目的に適した任意の防腐剤、例えば、PHBエステル、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、フェニルアルコール、クレゾール、チオメルサール、およびそれらの組み合わせが考えられる。
【0019】
好ましい実施形態では、前記医薬組成物は、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体および前記少なくとも1つの薬学的に活性なバイオ医薬品以外の薬学的活性剤を含まない。
【0020】
好ましくは、前記医薬組成物は、皮下または筋肉内投与に適した形態である。
【0021】
一実施形態では、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体は、2.5ミリグラム/ミリリットル~100ミリグラム/ミリリットルの濃度で、または10ミリグラム/ミリリットル~50ミリグラム/ミリリットルの濃度で前記溶媒中に提供される。
【0022】
一実施形態では、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体は、5ミリグラム/ミリリットル~25ミリグラム/ミリリットルの濃度で前記溶媒中に提供される。
【0023】
一実施形態では、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体は、25ミリグラム/ミリリットル~50ミリグラム/ミリリットルの濃度で前記溶媒中に提供される。一実施形態では、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体は、15ミリグラム/ミリリットル~40ミリグラム/ミリリットルの濃度で、または20ミリグラム/ミリリットル~30ミリグラム/ミリリットルの濃度で前記溶媒中に提供される。
【0024】
好ましい実施形態では、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体は、5ミリグラム/ミリリットル~50ミリグラム/ミリリットルの濃度で前記溶媒中に提供される。
【0025】
別の実施形態では、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体は、前記溶媒中に、最大50ミリグラム/ミリリットル、最大40ミリグラム/ミリリットル、最大30ミリグラム/ミリリットル、または最大25ミリグラム/ミリリットルの濃度で存在する。
【0026】
前述の濃度のメトトレキサートは、バイオ医薬品の安定性および結合親和性に対して特に有益な効果を有するので、両方の物質の組み合わせは、本発明による組成物において特に有利な用量反応関係を展開することが見出された。
【0027】
特定の実施形態では、前記医薬組成物はまた、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体を、25ミリグラム/ミリリットル超の濃度で含み得る。
【0028】
一実施形態では、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体は、前記溶媒中に、25ミリグラム/ミリリットルと150ミリグラム/ミリリットルとの間の濃度で、好ましくは30ミリグラム/ミリリットル~100ミリグラム/ミリリットルの濃度で、より好ましくは40ミリグラム/ミリリットル~80ミリグラム/ミリリットルの濃度で存在する。
【0029】
好ましい実施形態では、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体は、前記溶媒中に50ミリグラム/ミリリットル~75ミリグラム/ミリリットルの濃度で、特に約50ミリグラム/ミリリットルの濃度で含まれる。
【0030】
一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、1ミリグラム/ミリリットル~150ミリグラム/ミリリットルの濃度で、または5ミリグラム/ミリリットル~100ミリグラム/ミリリットルの濃度で前記溶媒中に提供される。
【0031】
一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、10ミリグラム/ミリリットル~80ミリグラム/ミリリットルの濃度で、または15ミリグラム/ミリリットル~60ミリグラム/ミリリットルの濃度で前記溶媒中に提供される。
【0032】
一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、前記溶媒中に20ミリグラム/ミリリットル~50ミリグラム/ミリリットルの濃度で存在する。
【0033】
一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、前記溶媒中に25ミリグラム/ミリリットル~100ミリグラム/ミリリットルの濃度で存在する。特に、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、20ミリグラム/ミリリットル~50ミリグラム/ミリリットルの濃度で、または20ミリグラム/ミリリットル~30ミリグラム/ミリリットルの濃度で、前記溶媒中に含まれ得る。
【0034】
さらなる実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、最大80ミリグラム/ミリリットル、最大70ミリグラム/ミリリットル、最大60ミリグラム/ミリリットル、最大50ミリグラム/ミリリットル、最大40ミリグラム/ミリリットル、最大30ミリグラム/ミリリットル、または最大25ミリグラム/ミリリットルの濃度で前記溶媒中に提供される。
【0035】
本発明者は、前述の濃度において、メトトレキサートと組み合わせた前記バイオ医薬品の特に有益な用量反応効果を見出した。
【0036】
好ましくは、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、前記医薬組成物中の前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体の質量濃度とは200%未満、100%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、または5%未満異なる質量濃度で前記医薬組成物中に存在する。
【0037】
特に好ましくは、前記薬学的に活性なバイオ医薬品と、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体とは、同じまたは実質的に同じ質量濃度で前記医薬組成物中に存在する。一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品と、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体とは、前記組成物中に10:1~1:10の質量比で存在する。
【0038】
別の実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品と、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体とは、前記組成物中に6:1~1:3または5:1~1:2の質量比で存在する。
【0039】
好ましい実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品と、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体とは、前記組成物中に3:1~約1:1の質量比で存在する。
【0040】
特定の実施形態では、前記組成物中の前記薬学的に活性なバイオ医薬品の質量割合は、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体の質量割合よりも大きい。
【0041】
好ましくは、前記医薬組成物は、2.5ミリグラム/ミリリットル~100ミリグラム/ミリリットルのメトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体と、1ミリグラム/ミリリットル~150ミリグラム/ミリリットルのバイオ医薬品とを含む。好ましい実施形態では、前記医薬組成物は、25ミリグラム/ミリリットル~50ミリグラム/ミリリットルのメトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体と、20ミリグラム/ミリリットル~50ミリグラム/ミリリットルのバイオ医薬品とを含む。別の実施形態では、前記医薬組成物は、5ミリグラム/ミリリットル~25ミリグラム/ミリリットルのメトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体と、25ミリグラム/ミリリットル~100ミリグラム/ミリリットルのバイオ医薬品とを含む。これらの濃度範囲において、本発明者は、MTXとバイオ医薬品との間に相乗的な相互作用を見出したが、これは、とりわけ、MTXがバイオロジクスの薬物レベルおよび活性を増加させるという事実に起因するものであった。
【0042】
一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、免疫抑制剤、すなわち免疫系の機能を低下させる生物学的物質である。例えば、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、リガンドまたは抗原の結合のための結合ドメインを有するポリペプチドまたはタンパク質であり得、該リガンドまたは抗原は、特に、腫瘍壊死因子-アルファ(略して:TNF-α)、Bリンパ球抗原CD20(略して:CD20)、リンパ球活性化抗原CD80(略して:CD80)またはcluster of differentiation 86(略して:CD86)、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択され得る。
【0043】
さらに別の実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、免疫チェックポイント阻害剤、すなわち免疫チェックポイントの受容体-リガンド結合を遮断するバイオロジクスである。免疫チェックポイントは、例えば、B7タンパク質またはB7タンパク質の受容体、MHC:ペプチド複合体結合共受容体、TNFRSF9(腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー9)、CD40(Cluster of Differentiation 40)、TNFRSF4(腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー4)、TNFRSF18(腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー18)、CD27(Cluster of Differentiation 27)、TIGIT(T-cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)、BTLA(B and T lymphocyte associated)、またはHAVCR2(A型肝炎ウイルス細胞受容体2)であり得る。特に、免疫チェックポイントは、CD274(Cluster of Differentiation 274)、PDCD1LG2(Programmed Cell Death 1 Ligand 2)、PDCD1(Programmed Cell Death 1)、CD80(Cluster of Differentiation 80)、CTLA4(細胞傷害性Tリンパ球抗原4)、ICOS(Inducible T-cell Co-Stimulator)、CD276(Cluster of Differentiation 276)、C10orf54(Chromosome 10 Open Reading Frame 54)、HHLA2(HERV-H LTR-associating 2)、LAG3(リンパ球活性化遺伝子3)、CD160(Cluster of Differentiation 160)、KIR2DL4(Killer cell Immunoglobulin-like Receptor, two domains, long cytoplasmic tail, 4)、およびKIR3DL1(Killer cell Immunoglobulin-like receptor, three domains, long cytoplasmic tail, 1)からなる群から選択され得る。
【0044】
好ましい実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、抗体、特にモノクローナル抗体、または抗体の少なくとも一部、特にFabフラグメント(fragment antigen binding)とも呼ばれるFab部分、および/またはFcフラグメント(fragment crystallizable)とも呼ばれるFc部分を含む。メトトレキサートは、これらのバイオロジクスの熱力学的安定性および結合親和性に対して特に有益な効果を有することが明らかになっている。これに関して、以下の実施形態の詳細な説明も参照される。理論的考察に限定されるものではないが、本発明者は、メトトレキサートがそれぞれFc部分またはFab部分との物理化学的相互作用によって構造変化を引き起こすことができ、それが本明細書で初めて特定されたMTXによるこれらのバイオロジクスの熱力学的安定性および結合親和性の改善につながると推定する。
【0045】
さらなる実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、二重特異性抗体、すなわち2つの異なるモノクローナル抗体の成分から構成される人工免疫複合体である。特に癌免疫療法において、不十分な血漿半減期による低い有効性および免疫原性の増大などの二重特異性抗体の既知の問題は、本発明による組成物を用いて打ち消すか、または少なくとも部分的に改善することができる。
【0046】
好ましい実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、炎症誘発性サイトカインTNF-αに特異的に結合する、TNF-α遮断薬とも呼ばれるTNF-α阻害剤である。
【0047】
一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、アダリムマブ(基準製品の商品名:ヒュミラ)である。本明細書で使用される場合、用語「アダリムマブ」には、基準製品のバイオシミラーも含まれる(バイオシミラーの商品名:例えば、Amsparity、Idacio、Imraldi、Halimatoz、Hefiya、Hyrimoz、Hulio、Amgevita)。当該技術分野における用語の通常の理解によれば、バイオシミラーは、基準製品との臨床的に関連する差異がなく、基準製品と同等の安全性および有効性を有するバイオ医薬品である。
【0048】
一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、エタネルセプト(基準製品の商品名:エンブレル)である。本明細書で使用される場合、用語「エタネルセプト」には、基準製品のバイオシミラーも含まれる(バイオシミラーの商品名:例えば、Nepexto、Benepali、Erelzi)。
【0049】
一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、アバタセプト(基準製品の商品名:オレンシア)である。本明細書で使用される場合、用語「アバタセプト」には、基準製品のバイオシミラーも含まれる。一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、インフリキシマブ(基準製品の商品名:レミケード)である。本明細書で使用される場合、用語「インフリキシマブ」には、基準製品のバイオシミラーも含まれる(バイオシミラーの商品名:例えば、Zessly、Flixabi、Inflectra、Remsima)。
【0050】
一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、ゴリムマブ(基準製品の商品名:シンポニー)である。本明細書で使用される場合、用語「ゴリムマブ」には、基準製品のバイオシミラーも含まれる。
【0051】
一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、リツキシマブ(基準製品の商品名:マブセラ)である。本明細書で使用される場合、用語「リツキシマブ」には、基準製品のバイオシミラーも含まれる(バイオシミラーの商品名:例えば、Ruxience、Blitzima、Ritemvia、Truxima、Rixathon、Riximyo)。
【0052】
一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、ニボルマブ(基準製品の商品名:オプジーボ)または当該基準製品のバイオシミラーである。
【0053】
一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、ペムブロリズマブ(基準製品の商品名:キイトルーダ)または当該基準製品のバイオシミラーである。
【0054】
一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、ピディリズマブまたはそのバイオシミラーである。
【0055】
一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、アベルマブ(基準製品の商品名:バベンチオ)または当該基準製品のバイオシミラーである。一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、アテゾリズマブ(基準製品の商品名:テセントリク)または当該基準製品のバイオシミラーである。
【0056】
一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、イピリムマブ(基準製品の商品名:ヤーボイ)または当該基準製品のバイオシミラーである。
【0057】
一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、トレメリムマブ、エノブリツズマブ、リリルマブ、ダセツズマブ、ルカツムマブ、ウレルマブ、バルリルマブ、ウロクプルマブ、またはそれらの対応するバイオシミラーである。
【0058】
もちろん、前述の薬学的に活性なバイオロジクスの任意の組み合わせも可能である。好ましい実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、アダリムマブを含む。
【0059】
本発明はさらに、対象の自己免疫炎症性疾患または癌疾患の治療における、上記の医薬組成物の医学的使用に関する。
【0060】
原則として、前記医薬組成物は、経口または非経口で投与され得る。好ましくは、投与は非経口的に、特に、注射により病巣内、関節内、静脈内、腫瘍内、髄腔内、脳内、腹腔内、胸膜内、腰椎内、リンパ内、眼内、筋肉内および/または皮下で行われる。一実施形態では、投与は病巣内である。一実施形態では、投与は関節内である。一実施形態では、投与は静脈内である。一実施形態では、投与は腫瘍内である。一実施形態では、投与は髄腔内である。一実施形態では、投与は脳内である。一実施形態では、投与は腹腔内である。一実施形態では、投与は胸膜内である。一実施形態では、投与は腰椎内である。一実施形態では、投与はリンパ内である。一実施形態では、投与は眼内である。一実施形態では、投与は筋肉内である。一実施形態では、投与は皮下である。
【0061】
好ましい実施形態では、前記治療は、前記医薬組成物の皮下または筋肉内投与を含む。この点に関して、特別な利点は、医師または薬剤師による活性化合物の別個の調製が必要ないことである。したがって、投与が対象自身によって行われる可能性があり、以下、「自己投与」とも称する。本発明による組成物は、活性化合物が別々に適用される従来の組み合わせ療法と比較して、自己投与の有意な促進をもたらす。このようにして、自己適用によって行われる治療のより高い安全性が達成され、治療の成功を改善することもできる。
【0062】
さらに好ましい実施形態では、前記治療は、医薬組成物の局所投与を含む。好ましくは、投与は、それぞれ、病巣内(すなわち、炎症組織の局所)、関節内(すなわち、膝関節、手首関節、または指関節などの炎症関節の局所)、腫瘍内(すなわち、腫瘍の局所)、および/または髄腔内(すなわち、脳または脊髄の周りの脳脊髄液腔)である。局所的に適用される場合、本発明による組成物の有効性の増大は、活性剤の別々の全身適用と比較して特に際立っている。
【0063】
あるいは、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物、もしくは誘導体と、前記バイオ医薬品を局所的に別々に、例えば別々のシリンジで適用し、2つの活性化合物の混合を炎症組織または関節のすぐ近くで行うことも一般に可能である。したがって、本発明の変形例は、対象の炎症性自己免疫疾患または癌疾患の治療におけるメトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体とバイオ医薬品の医学的使用であって、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体は1回目の注射で、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は2回目の注射で、それぞれ炎症組織に病巣内投与または炎症関節に関節内投与または腫瘍に腫瘍内投与または脳脊髄液腔内に髄腔内投与され、前記組織または関節または腫瘍または脳脊髄液腔内で、前記バイオ医薬品が、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体と接触または混合されることを特徴とする、使用に関する。この点に関して、前記1回目および2回目の注射の順番は限定されない;例えば、前記バイオ医薬品を最初に適用し、続いて前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体を適用することもできる。同時適用も可能である。好ましくは、前記1回目の注射と前記2回目の注射は、5時間未満、4時間未満、3時間未満、2時間未満、または1時間未満の時間間隔内で投与される。好ましくは、前記1回目の注射と前記2回目の注射は、50分未満、40分未満、30分未満、20分未満、または15分未満の時間間隔内で実施される。特に好ましくは、前記1回目の注射と前記2回目の注射は、10分未満、5分未満、2分未満、または1分未満の時間間隔内で実施される。最も好ましくは、前記1回目の注射と前記2回目の注射は実質的に同時に実施される。このようにして、本発明者によって確立されたMTXとバイオ医薬品とのコンビナトリアル相互作用は、特に本発明に従ってin situで生成された活性化合物の混合物の形態で有利に展開することも可能である。本発明は、さらに、前述した医学的使用の変形例のためのキットを提供する。前記キットは、メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体を含有する流体リザーを有する第1の注射器具と、薬学的に活性なバイオ医薬品を含有する流体リザーバを有する第2の注射器具とを含む。好ましくは、前記第1の注射器具と前記第2の注射器具は、単回注射用に構成されるか、または各々がそれぞれの活性化合物の単回用量を含有する。好ましくは、前記キットはその使用説明書を含む。
【0064】
他のすべての点で、この医学的使用およびキットの好ましい実施形態、例えば、それぞれの活性化合物の好ましい濃度または投与量は、既に上述した本発明の態様のものだけでなく、以下に説明するものに対応する。
【0065】
本発明による組成物におけるバイオ医薬品の改善された溶解性および安定性により、長期治療に適した使い勝手の良い、すぐに使用できる形態の組み合わせ製剤を提供することが可能である。好ましい実施形態では、投与は、単回投与用のプレフィルドシリンジによって、または単回用量の複数回投与用に構成されたペン型注射器によって行われる。このようにして、対象は従来の組み合わせ療法よりも簡単かつ安全に自己治療でき、これは、特にリウマチ性自己免疫疾患の患者および細かい運動能力が制限されている患者にとって大きな利点である。
【0066】
単回投与用のプレフィルドシリンジは、当技術分野におけるこの用語の通常の理解によれば、医薬組成物を含有する流体リザーバと、該組成物が対象に適用される注射針(カニューレ)を含む、好ましくは無菌の器具である。さらに、プレフィルドシリンジは、医薬組成物を注射針を通して流体リザーバから押し出すための機械的手段を含む。単回投与用のプレフィルドシリンジは、さらに、所定の単回投与量の医薬組成物を含有し、投与中に、その所定の投与量を投与するために流体リザーバが完全に排出されなければならないようにすることを特徴とする。
【0067】
単回用量の複数回投与用のペン型注射器も、当該分野で知られている。適切なペン型注射器は、通常、ペン型のハウジングを有し、このハウジングには、医薬組成物を含有する任意に交換可能なカートリッジと、短いカニューレを有するキャップが備えられている。所望の個別投与量は、回転可能なリングなどの調整装置を介して調整することができ、カニューレを通してプッシュボタンなどのトリガー装置を介して対象に適用することができる。
【0068】
好ましくは、前記プレフィルドシリンジまたはペン型注射器は、前記医薬組成物を皮下投与するように構成される。例えば、前記カニューレは、12ミリメートル以下、好ましくは8ミリメートル以下の長さを有することができる。さらに好ましい実施形態では、前記プレフィルドシリンジは、前記医薬組成物を関節内投与するように構成される。例えば、前記カニューレは、少なくとも30ミリメートル、好ましくは少なくとも40ミリメートルの長さを有することができる。
【0069】
経口投与の場合、前記医薬組成物は好ましくはカプセル化される。
【0070】
一実施形態では、前記治療は、前記医薬組成物を毎週1回投与する投与計画を含む。別の実施形態では、前記医薬組成物の2週間ごとの1回の投与、すなわち隔週投与が提供される。
【0071】
本発明による組成物の有利な薬力学的特性により、前記医薬組成物が、最大で7日に1回、最大で8日に1回、最大で9日に1回、最大で10日に1回、最大で11日に1回、最大で12日に1回、最大で13日に1回、または最大で14日に1回投与される投与計画も可能である。
【0072】
一実施形態では、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体は、少なくとも2.5ミリグラム、少なくとも5.0ミリグラム、少なくとも7.5ミリグラム、少なくとも10.0ミリグラム、少なくとも12.5ミリグラム、少なくとも15.0ミリグラム、少なくとも17.5ミリグラム、少なくとも20.0ミリグラム、少なくとも22.5ミリグラム、少なくとも25.0ミリグラム、少なくとも27.5ミリグラム、または少なくとも30.0ミリグラムの用量または各単回用量で投与される。
【0073】
一実施形態では、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物、もしくは誘導体は、1週間あたり、最大50.0ミリグラム、最大45.0ミリグラム、最大40.0ミリグラム、最大37.5ミリグラム、最大35ミリグラム、最大30ミリグラム、最大25ミリグラム、最大20ミリグラム、最大15ミリグラム、最大10ミリグラム、または最大7.5ミリグラムの用量で投与される。
【0074】
好ましくは、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体は、2.5ミリグラム~25ミリグラム、5ミリグラム~50ミリグラム、10ミリグラム~30ミリグラム、または10ミリグラム~20ミリグラムの用量または単回用量で投与される。特定の実施形態では、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体は、それぞれ2.5ミリグラム~10ミリグラムまたは5ミリグラム~7.5ミリグラムの用量または単回用量で投与される。特に、前述の値は、1週間あたりの用量または2週間あたりの用量を指す場合がある。
【0075】
一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、少なくとも2.5ミリグラム、少なくとも5.0ミリグラム、少なくとも7.5ミリグラム、少なくとも10.0ミリグラム、少なくとも12.5ミリグラム、少なくとも15.0ミリグラム、少なくとも17.5ミリグラム、少なくとも20.0ミリグラム、少なくとも22.5ミリグラム、少なくとも25.0ミリグラム、少なくとも27.5ミリグラム、または少なくとも30.0ミリグラムの用量または単回用量で投与される。
【0076】
一実施形態では、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、1週間または2週間あたり、最大150.0ミリグラム、最大125.0ミリグラム、最大100.0ミリグラム、最大80ミリグラム、最大60ミリグラム、最大50ミリグラム、最大40ミリグラム、最大37.5ミリグラム、最大35ミリグラム、最大30ミリグラム、最大25ミリグラム、最大20ミリグラム、最大15ミリグラム、最大10ミリグラム、または最大7.5ミリグラムの用量で投与される。
【0077】
好ましくは、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、2.5ミリグラム~80ミリグラム、5ミリグラム~50ミリグラム、10ミリグラム~30ミリグラム、または10ミリグラム~20ミリグラムの用量または単回用量で投与される。特に、前述の値は、1週間あたりの用量を指す場合もある。
【0078】
好ましい実施形態では、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体は、2.5ミリグラム~25ミリグラム、10ミリグラム~20ミリグラム、または5ミリグラム~50ミリグラムの用量または単回用量で、特に毎週または隔週で投与され、前記薬学的に活性なバイオ医薬品は、5ミリグラム~50ミリグラムで投与される。
【0079】
好ましくは、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体は、2.5ミリグラム~25ミリグラムの用量または単回用量で毎週投与されるか、または5ミリグラム~50ミリグラムの用量または単回用量で隔週投与される。前記バイオ医薬品は、対象の体重に基づいて薬学的に有効な量で投与することもできる。
【0080】
本発明による組成物におけるMTXとバイオ医薬品の組み合わせ効果により、両方の有効成分が従来通りに(すなわち、別々に)投与された場合においてMTXの隔週10ミリグラム~20ミリグラムの用量でのみ達成されるのと同じ治療効果を達成するには、MTXの隔週5ミリグラム~7.5ミリグラムという少量の用量で十分であり得る。同時に、有効性が高いほど、非応答者が少なくなる。本発明による組成物は、従来の組み合わせ療法と比較して、対象が全体として著しく少量の液体を投与または注射されなければならないという利点を有する。好ましい実施形態では、1用量または個別用量あたり、0.5ミリリットル~3.0ミリリットル、特に1.0ミリリットル~2.0ミリリットルの前記医薬組成物が投与される。特に皮下注射の場合、このような小容量は適用を簡略化し、対象が許容しやすくなる。
【0081】
一般に、医薬組成物は、メトトレキサートまたは薬学的に活性なバイオ医薬品でも合理的に治療できる任意の炎症性自己免疫疾患の治療に使用され得る。非限定的な例としては、関節リウマチ、若年性関節炎、乾癬または乾癬性関節炎、全身性エリテマトーデス、全身性硬化症、多発性硬化症、クローン病、強直性脊椎炎、潰瘍性大腸炎、リウマチ性多発筋痛症、血管炎、非感染性ブドウ膜炎、反対型ざ瘡、アルツハイマー病、および関節症が挙げられる。他の例には、多関節型若年性特発性関節炎、活動性付着部関連関節炎、化膿性汗腺炎、およびデュピュイトラン病が含まれる。特定の実施形態では、本発明による組成物の医学的使用は、関節リウマチの治療のためである。
【0082】
医薬組成物は、原則として、それぞれの薬学的に活性なバイオ医薬品も適応される任意の癌の治療に使用することができる。非限定的な例としては、黒色腫、癌腫、肉腫、膠芽腫、リンパ腫、および/または白血病が挙げられる。癌種には、例えば、腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌、神経内分泌癌、腎細胞癌、尿路上皮癌、肝細胞癌、肛門癌、気管支癌、子宮内膜癌、胆管細胞癌、肝細胞癌、精巣癌、結腸直腸癌、頭頸部癌、食道癌、胃癌、乳腺癌、腎癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、甲状腺癌、および/または子宮頸癌が含まれる。肉腫には、例えば、血管肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、線維肉腫、カポジ肉腫、脂肪肉腫、平滑筋肉腫、悪性線維性組織球腫、神経原性肉腫、骨肉腫、または横紋筋肉腫が含まれる。例えば、白血病は、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、または慢性骨髄性白血病(CML)であり得る。リンパ腫は、ホジキンリンパ腫または非ホジキンリンパ腫であり得る。非ホジキンリンパ腫は、B細胞リンパ腫またはT細胞リンパ腫であり得る。特に、悪性腫瘍は悪性黒色腫であり、転移性であり得る。
【0083】
本発明の別の態様は、医薬組成物の皮下または筋肉内投与用の注射器具に関する。ここで、注射器具は、上記の医薬組成物を含有する流体リザーバを含む。
【0084】
注射器具の好ましい実施形態は、本発明による医薬組成物の単回用量を含有するプレフィルドシリンジである。
【0085】
前記注射器具の別の好ましい実施形態は、前記医薬組成物の複数の単回用量を送達するように構成されたペン型注射器である。上記の説明によれば、本発明による組成物は、特にメトトレキサートと組み合わせたバイオ医薬品の改善された安定性により、対象による自己適用のためのすぐに使用できる組み合わせ製剤の提供に特に適しており有利である。
【0086】
好ましい実施形態では、単回用量は、約2.5ミリグラム~約25ミリグラム、約10ミリグラム~約20ミリグラム、または約5ミリグラム~約50ミリグラムの前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体、および/または、約5ミリグラム~約50ミリグラムの前記薬学的に活性なバイオ医薬品を含む。この文脈において、特にコスト高なバイオ医薬品は、本発明による組成物における熱力学的安定性および薬力学的特性の改善により、同じ効果を維持しながら、従来の組み合わせ療法よりも低い用量で投与することができることが有利である。このようにして、免疫学的副作用だけでなく、治療費も大幅に削減することができる。
【0087】
本発明による組成物は、その驚くべき特性により、他のタイプの薬剤容器中のすぐに使用できる製剤にも適しており有利であることが理解される。そのような薬剤容器は、例えば、上記の実施形態による医薬組成物を含有する、ペン型注射器用のカートリッジ、ピアスバイアル、バイアル、輸液バッグ、アンプルまたはカートリッジであり得る。好ましい実施形態では、前記医薬組成物容器は、無菌および/または密封される。
【0088】
好ましくは、本発明による医薬組成物は、そのような注射器具および/または薬剤容器を充填または提供するために使用される。
【0089】
特に好ましい実施形態では、本発明による医薬組成物は、ナノ粒子またはマイクロ粒子に含まれる。したがって、本発明はまた、本発明による組成物を含むナノ粒子および/またはマイクロ粒子、ならびに本発明の医薬組成物の上述の実施形態による対象の炎症性自己免疫疾患または癌疾患を治療するためのその医学的使用に関する。
【0090】
ナノ粒子またはマイクロ粒子における本発明による組成物の提供または投与は、活性化合物の放出が持続的であるか、または時間的に実質的に遅延されるという大きな利点を有する。その結果、本発明による組成物の増大した有効性は、粒子中に「保存」され、放出の瞬間、従来の全身適用と比較してこの時点で希釈効果が生じないかほとんど生じないので、局所的に、例えば腫瘍または炎症関節において、直接かつ本質的に減少せずに展開され得る。
【0091】
例えば、ナノ粒子またはマイクロ粒子からの医薬組成物の放出は、少なくとも24時間、少なくとも48時間、少なくとも72時間、少なくとも96時間、少なくとも7日間、少なくとも14日間、少なくとも21日間にわたって起こり得る。少なくとも28日、少なくとも40日、少なくとも50日、少なくとも60日、少なくとも80日、またはそれ以上にわたって起こり得る。このようにして、特に局所投与した場合に、炎症性自己免疫疾患および癌の特に安全で効果的な治療を達成することができる。
【0092】
適切なナノ粒子およびマイクロ粒子は、例えば、貧溶媒沈殿法によって、ポリアミドアミンとオリゴエチレングリコールデンドロンの両親媒性コデンドリマーPGDから得ることができる。そのようなPGD粒子は、有利な親水性のために特に効率的に組成物を担持させることができ、例えば、最大50%、最大60%、最大70%、最大80%または最大85%(w/w)の担持が可能である。他の適切なナノ粒子およびマイクロ粒子は、当業者に既知であるか、または本明細書の記載に基づいて容易に決定することができる。
【0093】
最後に、本発明は、上記による医薬組成物の調製方法に関する。前記方法は、メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体を提供するステップと、少なくとも1つの薬学的に活性なバイオ医薬品を提供するステップと、前記メトトレキサートまたはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは誘導体を、前記少なくとも1つの薬学的に活性なバイオ医薬品と共に、薬学的に許容される溶媒に少なくとも部分的に溶解するステップとを含む。
【0094】
本発明による医薬組成物の好ましく有利な実施形態は、適用可能な範囲で、医薬組成物、注射器具および薬剤容器の医学的使用、ならびに製造方法にも関連し得ることが理解される。したがって、医薬組成物に関連して上記および以下に開示される特徴は、医薬組成物、注射器具および薬剤容器の医学的使用、ならびに製造方法にも関連し得るし、その逆もまた然りである。
【図面の簡単な説明】
【0095】
以下、添付の図面を参照しながら、例示的な実施形態により本発明をより詳細に説明する。
図1図1は、MTXを含む本発明による組成物(A)およびMTXを含まないレファレンス組成物(B)における20日間のインキュベーション後のアダリムマブ(ヒュミラ)の温度依存性アンフォールディングプロファイルを示す。
図2図2は、MTXを含まないレファレンス組成物と比較した、MTXを含む本発明による組成物中のアダリムマブ(A)、エタネルセプト(B)、アバタセプト(C)、インフリキシマブ(D)およびゴリムマブ(E)それぞれの温度安定性を示す。
図3図3は、MTXを含まないレファレンス組成物(B)と比較した、MTXを含む本発明による組成物(A)中のリガンドTNF-αに対するアダリムマブの結合親和性を決定するための用量反応曲線を示す。
【実施形態の詳細な説明】
【0096】
品質管理と本発明による医薬組成物中のバイオ医薬品の温度安定性に対するメトトレキサートの影響の決定のために、本発明による組成物中の種々のバイオロジクスの熱アンフォールディングプロファイルを決定し、MTXを含まない対応するコントロール組成物の熱アンフォールディングプロファイルと比較した。
【0097】
以下のバイオロジクスを試験した:濃度25ミリグラム/ミリリットルのアダリムマブ(ヒュミラ);濃度25ミリグラム/ミリリットルのエタネルセプト(エンブレル);濃度62.5ミリグラム/ミリリットルのアバタセプト(オレンシア);濃度16.5ミリグラム/ミリリットルのインフリキシマブ(レミケード);および濃度33ミリグラム/ミリリットルのゴリムマブ(シンポニー)。
【0098】
本発明による組成物を調製するために、上記バイオロジクスは、それぞれ25ミリグラム/ミリリットル、16.6ミリグラム/ミリリットル、10.0ミリグラム/ミリリットル、7.14ミリグラム/ミリリットル、および5.0ミリグラム/ミリリットルの濃度でメトトレキサート二ナトリウムと組み合わされた。リン酸緩衝食塩水(PBS緩衝液)pH7.5を溶媒として使用した。それぞれの場合におけるレファレンス組成物として、メトトレキサート二ナトリウムを添加していないPBS緩衝液pH7.5中の等濃度のバイオ医薬品を使用した。
【0099】
それぞれの場合において、上記の濃度は、医薬組成物中のバイオ医薬品またはメトトレキサートの最終濃度であった。
【0100】
20日間のインキュベーション後、Tycho NT.6蛍光光度計(NanoTemper Technologies社、ミュンヘン、ドイツ)を製造元の指示に従って使用して組成物を測定し、バイオロジクスの熱アンフォールディングプロファイルを決定した。
【0101】
図1は、25ミリグラム/ミリリットルのアダリムマブを25ミリグラム/ミリリットルのメトトレキサート二ナトリウムと組み合わせた本発明による組成物について、温度の関数としてのアンフォールディングプロファイルの例を、MTXを含まないレファレンスと比較して示す。各曲線の変曲点は、組成物中のバイオ医薬品の変性温度を示す。本発明による組成物中のアダリムマブの変性温度は約84℃であったのに対し、MTXを含まないレファレンス組成物中の変性温度は約74℃であった。したがって、アダリムマブの温度安定性は、本発明による組成物によって約10℃上昇した。これは約13.5%の増加に相当する。
【0102】
温度安定性の分析結果のまとめを図2に示す。明確にするために、レファレンス組成物と比較して温度安定性の最大の増加が測定された本発明による組成物についての結果のみをそれぞれの場合に示す。図2Aは、アダリムマブの温度安定性が、25ミリグラム/ミリリットルの濃度のMTXと組み合わせることにより、74.2℃から84.4℃に増加したことを示す。図2Bは、エタネルセプトの温度安定性が、5ミリグラム/ミリリットルの濃度のMTXと組み合わせることにより、73.9℃から74.3℃に増加したことを示す。図2Cは、アバタセプトの温度安定性が、10ミリグラム/ミリリットルの濃度のMTXと組み合わせることにより、85.9℃から91.5℃に増加したことを示す。図2Dは、インフリキシマブの温度安定性が、10ミリグラム/ミリリットルの濃度のMTXと組み合わせることにより、89.6℃から89.9℃に増加したことを示す。図2Eは、ゴリムマブの温度安定性が、7.14ミリグラム/ミリリットルの濃度のMTXと組み合わせることにより、81.4℃から89.9℃に増加したことを示す。
【0103】
したがって、試験したすべてのバイオロジクスは、レファレンス組成物と比較して、本発明による組成物において温度安定性の向上を示した。高温での安定性の向上から、本発明による組成物中のバイオロジクスの半減期は、中温または低温で、従来の組成物と比較して有意に延長されると直接結論付けることができる。換言すれば、本発明による組成物中のバイオ医薬品は、従来の液体製剤よりも永続的により良好に分解から保護される。結果として、本発明による組成物は、例えば、すぐに使用できるシリンジまたはペン型注射器の形態で、長期保管期間後でも安全かつ効果的な適用を保証する、すぐに使用できる組み合わせ製剤として利用することが特に有利である。
【0104】
熱力学的安定性に加えて、本発明による組成物中のバイオ医薬品の結合親和性を測定し、対応するレファレンス組成物中の結合親和性と比較した。
【0105】
結合研究は、Monolith NT.115デバイス(NanoTemper Technologies社、ミュンヘン、ドイツ)を用いたマイクロスケール熱泳動(MST)を使用して実施された。
【0106】
組換えTNF-α、CD20、およびCD80(Acrobiosystems社、米国)は、製造業者の指示に従って、蛍光色素Cy5(Thermo Fisher Scientific社、ドイツ)を使用してMST測定のために標識された。標識後の組換えタンパク質の濃度をUV-Vis分光光度計で測定し、標識効率80%と決定した。
【0107】
MST測定のために、16~27ミリモル/リットルの濃度のバイオ医薬品各10マイクロリットルを、PBS緩衝液(pH7.5)中のメトトレキサート二ナトリウムの連続希釈液各10マイクロリットルと混合して、本発明による組成物を調製した。すべてのサンプルにおけるMTXの最終濃度は55マイクロモル/リットルであり、それぞれのリガンドの濃度は1.5マイクロモル/リットル~25ミリモル/リットルの範囲であった。
【0108】
製造元の指示に従ってサンプルをコーティングされたキャピラリー(NanoTemper Technologies社)にロードし、蛍光を100%レーザーパワーおよび40%MSTパワーで20秒間記録した。機器の温度は、すべての測定で25℃に設定した。MST時間トレースの記録後、データを分析した。平衡解離定数(KD)は、MOアフィニティー分析ソフトウェア(NanoTemper Technologies社)を使用して、14秒間の熱泳動後の対応リガンド濃度の関数としての正規化蛍光の変化に基づいて決定された。
【0109】
図3は、MTXを含む本発明による組成物(A)におけるアダリムマブのリガンドTNF-αへの結合親和性を、MTXを含まないコントロール(B)と比較して分析した用量反応曲線の例を示す。ここで、抗体アダリムマブのその抗原TNF-αへの結合親和性の尺度としての平衡解離定数KDは、アダリムマブとTNF-αとの間の半最大抗体:抗原複合体形成が達成されるTNF-αの濃度に対応する。本発明による組成物におけるこの半最大複合体形成は、コントロールと比較して有意に低い抗原濃度で起こり、本発明による組成物におけるアダリムマブのKD値がより低く、したがってTNF-αへのより高い結合親和性に相当することは明らかである。以下の表は、アダリムマブ、ゴリムマブ、インフリキシマブおよびエタネルセプトのTNF-αに対する結合親和性と、アバタセプトおよびリツキシマブのそれぞれCD20およびCD80に対する結合親和性をまとめたものである。表示されている値は、それぞれの場合で6つの独立した試験シリーズからの算術平均値である。
【0110】
【表1】
【0111】
結果は、MTXを含まないレファレンス組成物と比較した、本発明による医薬組成物中の試験されたバイオ医薬品の結合強度の有意な向上を示している。
【0112】
バイオ医薬品の改善された結合親和性は、医療用途における本発明による組成物の特定の利点にもつながることが理解される。特に、より高い結合親和性は、バイオ医薬品の薬力学の向上をもたらし、それは、例えば、in vivoでのTNF-αのより効率的な遮断に現れ、それにより、バイオ医薬品とMTXとの組み合わせ療法は、より高い全体的な有効性と信頼性を生み出すことができる。その結果、治療に反応しないまたは治療に不十分な反応を示す対象が少なくなるか、あるいは反応した対象で治療がより成功する可能性がある。さらに、バイオ医薬品の有効性の向上と安定性の向上により、本発明による組成物は、治療効果を損なうことなく、従来の分離投与と比較してバイオ医薬品の投与量を減らすことが可能となる。その結果、抗薬物抗体による有害な免疫反応と、ADAに起因するバイオ医薬品の毒性、薬物動態、または効能の有害な変化、例えば二次不適合または二次非応答を低減または回避することができる。さらに、本発明による組成物は、このようにして、炎症性自己免疫疾患の治療における大幅なコスト削減にもつながる可能性がある。
【0113】
これらの利点は、局所治療、例えば、少関節炎の約20%の症例のように、本発明による組成物が炎症または腫脹した関節に対して直接関節内投与される場合において特に有効である。
【0114】
上記の結果は、本発明によるMTXとバイオ医薬品との間の系統的な相互作用を示している。この点で、代表例として本明細書で実施した試験は、本発明による組成物の有利な特性が、癌治療における免疫チェックポイント阻害剤または抗体-薬物コンジュゲートのような、ここで別途試験していない他のバイオロジクスでも生じるという十分な示唆を与える。
【0115】
物質の安定性および有効性に関して本発明者が本発明による組成物中に見いだしたMTXおよびバイオ医薬品の組み合わせ効果、ならびにそれから得られる炎症性自己免疫疾患および癌疾患の治療に対する利点は、当業者の観点からは予想できなかったものである。
【0116】
本発明は、例示的な実施形態の説明によって限定されるものではない。むしろ、本発明は、任意の新しい特徴だけでなく、特徴の任意の組み合わせを包含し、特に、この特徴または特徴の組み合わせ自体が特許請求の範囲または実施形態例で明示されていない場合でも、特許請求の範囲における特徴の任意の組み合わせが含まれる。
図1
図2
図3