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  • 特許-燃料電池に空気を供給するための装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】燃料電池に空気を供給するための装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04119 20160101AFI20241022BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20241022BHJP
   H01M 8/04014 20160101ALI20241022BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20241022BHJP
   B60L 50/70 20190101ALI20241022BHJP
【FI】
H01M8/04119
H01M8/04 N
H01M8/04014
H01M8/00 Z
B60L50/70
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023534106
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(86)【国際出願番号】 EP2021086357
(87)【国際公開番号】W WO2022129445
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】102020007745.5
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】522100316
【氏名又は名称】セルセントリック・ゲーエムベーハー・ウント・コー・カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100090583
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 清
(74)【代理人】
【識別番号】100098110
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 みどり
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・ハオスマン
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-317510(JP,A)
【文献】特開2007-294442(JP,A)
【文献】特表2022-535953(JP,A)
【文献】特開2007-103333(JP,A)
【文献】特開平05-054900(JP,A)
【文献】特開2005-032696(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0346111(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池(3)に空気を供給するための装置(10)であって、少なくとも一つの空気搬送機構(11)と、少なくとも一つのノズル(171~178)によって前記燃料電池(3)からの凝縮された生成水を圧縮された供給空気流に供給するように設けられる少なくとも一つの加湿機構とを備えた、前記装置(10)において、
前記少なくとも一つのノズル(171~178)として複数の二流体ノズルが設けられ、前記供給空気流の流通断面部に、水を供給するための前記複数の二流体ノズルの領域(15)が形成され、前記複数の二流体ノズルの各々に、別個の通流可能な断面部(161~168)が形成され、かつ、前記別個の通流可能な断面部(161~168)の各々が、弁座(24)と、復元力によって流れに反して前記弁座(24)の方向に押し付けられる弁体(23)とを有する弁(22)を備えることを特徴とする、前記装置(10)。
【請求項2】
前記復元力が、前記弁体(23)の領域または好適には前記弁座(24)の領域にある切替可能磁石および/または永久磁石と、前記弁座(24)または好適には前記弁体(23)の磁化可能な材料との間の磁力として形成されることを特徴とする、請求項1に記載の装置(10)。
【請求項3】
前記弁体(24)が、磁化可能な材料から作られた中空の球として形成されることを特徴とする、請求項2に記載の装置(10)。
【請求項4】
前記復元力が、前記別個の通流可能な断面部(161~168)の各々に対して規定され、前記別個の通流可能な断面部(161~168)の少なくとも二つが、異なる規定および/または断面部を有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項5】
前記水が、コンベアポンプ(18)を介して直接、またはマニホールドを介して、前記複数の二流体ノズルに搬送可能であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項6】
前記水が、流れ方向において前記複数の二流体ノズルの前で、好適には前記燃料電池(3)を含む燃料電池システム(2)の廃熱によって作動可能な熱交換器(21)を通流することを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項7】
前記別個の通流可能な断面部(161~168)が、空気搬送機構(11)として使用されるフローコンプレッサの出口に直接配置されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項8】
少なくとも二つの空気搬送機構(11)および/または加湿機構が、連続したカスケードとして設けられることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項9】
前記供給空気流が、インタークーラおよび膜式加湿器を介さないことを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項10】
燃料電池(3)と、請求項1から9のいずれか1項に記載の装置(10)とを備えた燃料電池システム(2)であって、特に、その電気駆動出力の少なくとも一部を車両(1)に供給するための、前記燃料電池システム(2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルにおいて詳細に定義された方式による、燃料電池に空気を供給するための装置に関する。それ以外に、本発明は、このような装置を備えた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池への空気供給は、典型的には空気搬送機構、例えば、電動駆動されて、場合によっては排気タービンの助けを借りるようにして駆動させることもできるフローマシンを介して行われる。この構成は、一般的には電気ターボチャージャまたはETC乃至はエンジン支持ターボチャージャという概念の下で知られている。その際、圧縮後、燃料電池への供給空気が相応に加熱されているようになっている。低温燃料電池、特にPEM燃料電池の場合、これは重大な欠点であり、多くの従来の構成では、インタークーラが設けられている。このインタークーラは、空気を、その空気が加湿器を通過して燃料電池での使用のために相応に加湿される前に冷却する。この構成は大型かつ複雑であるばかりか、供給空気流に圧力損失をもたらす。その際、特にインタークーラは、燃料電池システムの冷却回路に更なる負荷をかけるという欠点を有する。燃料電池システムから廃熱を放散させることが、その排熱温度が殆どの場合100から120℃以下という相対的に低い温度レベル故に、どちらにせよ難しいため、インタークーラによる追加の入熱は大きな欠点となる。
【0003】
そこで、特許文献1は、燃料電池システムの凝縮物を、インジェクタを介して、インタークーラとして使用される熱交換器に注入することで空気の加湿を実現することを提案する。そのようにすることで、一方では、燃料電池の生成水を使い切ることになり、他方では、加湿器、例えば、ガス/ガス加湿器として形成されている膜式加湿器を省略できる。しかしながら、冷却回路に負荷がかかることに変わりはない。
【文献】DE102004038633B4
【0004】
特許文献2は、燃料電池への供給空気流を、燃料電池システムから凝縮されて注入弁を介してコンプレッサ後の体積流に注入される水によって加湿する。これにより加湿が実現され、従来の加湿器を省略できる。供給空気冷却に係る話題はここでは重要ではないので、言及しない。
【文献】DE102017214312A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の課題は、請求項1のプリアンブルにおいて詳細に定義された方式による、改良された、燃料電池に空気を供給するための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、この課題は、請求項1に記載された特徴、およびここでは特に、請求項1の特徴部に記載の特徴による装置によって解決される。本装置における有利な態様および発展させた態様は、これに依拠する従属請求項から見出される。請求項10では、それ以外に、上述したような装置を備えた燃料電池システムが示されている。
【0007】
本発明による装置では、従来の技術と同様に、供給空気流を加湿するためにノズルを使用する。その際、本発明では、凝縮された水を供給するための二流体ノズルの領域が、供給空気流の断面部に形成されている。その際、それらの二流体ノズルのそれぞれに、別個の通流可能な断面部が用意されているので、そのノズルのいずれにも、自身の空気流による、的を射た流れが届くようになっている。そのため、二流体ノズルが加湿すべき空気体積流に応じた二流体ノズルの適切な設計を容易かつ非常に効率的に行うことができる。その際、それらの、別個の通流可能な断面部のいずれもが、弁座と、例えばバネや他の復元素子によって流れに反して弁座の方向に復元力を受ける弁体とを含む。
【0008】
その際、本発明による装置を特段に好ましく発展させた態様では、別個の通流可能な断面部の各々に対して、個々の復元力を構成時に個別に規定することができるので、空気搬送機構が構築する圧力および体積流に応じて、一方または他方または特定の数の弁体のみが弁座から持ち上げられて、夫々の二流体ノズルを通流して、その二流体ノズルに供給された水を霧化するようになっている。すべての、別個の通流可能な断面部におけるすべての弁体が自身の弁座から持ち上げられている場合、最大の空気体積流に対応するように設計されており、かつ、すべての二流体ノズルが二流体ノズルの領域において水の供給を受けて体積流を加湿することに対応する相応の断面部を用意する必要がある。
【0009】
その際、150から200℃という等級の温度を有し得るフローコンプレッサ後の高温体積流を加湿するのが理想的であることが判明した。この着想を有利に発展させた態様では、熱交換器を介して、特に燃料電池システムからの廃熱によって予熱することができる、供給された水は、その後、体積流の中で理想的に蒸発させることができる。それにより、一方では、供給空気流の加湿が保証され、他方では、その供給空気流が空気搬送機構の後に冷却される。必要な供給空気流に応じて、この体積流に見合う、通流されている、別個の通流可能な断面部の数に基づいて、適切な加湿が保証される。それにより、適切な調整を実現できる。特に、このように形成された、空気を供給するための装置では、インタークーラと加湿器の両方を省略できるので、供給空気流で発生する圧力損失を効率的に低減できる。それにも増して、構成部品および構成部品に必要とされる設置スペースも節約できるので、更なる有利性が得られる。
【0010】
上記で既に説明した形態の変形例で、凝縮された水を、しかも燃料電池システム自体の廃熱によって相応に予熱する形態の変形例では、本構成によって、更に燃料電池の冷却回路の負荷を軽減することが可能である。斯くて、この冷却回路の負荷はインタークーラを省略できることで軽減されるだけでなく、それにも増して、燃料電池の冷却回路からの熱を、凝縮された水を霧化に先立って予熱するために使用することでも軽減される。このことは、低温燃料電池の場合、廃熱の放散の観点からそうでなくても厳しい冷却回路の配列を更に最適化する大きな助けとなる。
【0011】
本構成に見られる更なる決定的な利点は、空気搬送機構により搬送された体積流によって、必要に合わせて開かれる弁体と弁座が起用されることである。この体積流が決められた限界値を下回るか、もしくは完全に停止すると、それらの弁体は弁座に押し付けられるか引っ張られるかして、本構成は密閉される。斯くて、このようにして、本発明による装置の付加的な利点として、空気搬送機構が作動しておらず、それに応じて燃料電池における空気の通流が望まれないときはいつでも、そのような燃料電池における空気の通流を効率的に妨げる受動的な、カソードを遮断する弁が生成される点が挙げられる。
【0012】
この種の、圧力で自動的に開く一般的な弁は、例えばスプリングを介して動作させることができる。ここに見られる欠点は、体積流が増え、弁座と弁体の間の開口断面部が大きくなると、バネの復元力も大きくなるという点である。これは弁体が振動し、それに伴って流れが不均一になることにつながり、発生する圧力変動が後続の構成部品および/または配量精度に不利をもたらす可能性がある。本発明による装置を特段に好ましく発展させた態様では、上記故に、復元力として磁力を起用する。そして、その磁力は、例えば弁体の領域、但し、好適には弁座の領域にある切替可能磁石および/または永久磁石と、弁座の領域、または好適には弁体の領域にある鋼合金または鉄合金といった磁化可能な材料との間で作用する。斯くて、弁体は、例えば、中空の鉄球または鋼球の形で、好適には、プラスチックから成る耐薬品性被覆を施して形成されている。そして、その弁体は永久磁石および/または電磁石により、弁座に保持される。体積流の増加に伴って、中空の球の形をとっている故に質量が小さく、かつ、相応に動的に反応する弁体が弁座から浮き上がり、通流可能な断面部を開放する。体積流の増加に伴って、この通流可能な断面部が大きさを増す。その際、バネによる負荷がかかっている球とは違って、磁気による復元力の場合、弁座からの弁体の距離に応じて復元力は減少するので、各々の弁の力-変位特性曲線は逓減的なものとなるが、それは先に述べた用途に関して言うと、一方では各々の二流体ノズルへの供給空気流を制御する上で、他方ではカソードを遮断する弁として、理想的である。
【0013】
本発明による装置の特段に好ましい更なる形態では、水が、コンベアを介して直接またはマニホールドを介して二流体ノズルに搬送可能であることを企図し得る。搬送圧力と搬送体積流に応じて、加湿用の水の量を調節できる。特に、マニホールドを起用することで、本装置を取り巻くシステムの他の領域、特に、本装置を取り巻く燃料電池システムの領域において、その水を起用することも可能になる。そのような形で水をマニホールドと併せて使用することについては、例えば、本出願人のDE102020206156A1に基本的に説明されている。
【0014】
その際、回収した水は、例えば、不純物を機械的にせき止め、かつ、水中に溜まったイオンを除去するために、相応の洗浄設備およびフィルタを通過するようになっていることが望ましく、かつ、そのようになっていることが求められる。例えば、水フィルタとイオン交換体カートリッジを組み合わせたものを設けるようにしてよく、それを、例えば、マニホールドの領域に、またはそのようなシステムに属する個々の水分離器と、好適には加熱されていて、特に上述した熱交換器を含む収集槽の間に配置するようにしてよい。
【0015】
その際、この着想を特段に好ましく発展させた態様では、別個の通流可能な個々の断面部は各々の二流体ノズルと弁とともに、空気搬送機構の役目をするフローコンプレッサの出口に直に配置されていてよい。この関連で言う「直に」とは、間に他の構成部品が接続されていないという意味である。特に、本発明による装置では、別個の断面部が、自身の弁と二流体ノズルとともにフローコンプレッサの出口に直にフランジ接続され、そして、冷却されて加湿された供給空気が直に、もしくは短い配管を介して燃料電池のカソード室に持って行かれるようになっていてよい。その際、この、フローコンプレッサの出口のすぐ後に続く領域では供給空気の温度が最も高くなっているので、予熱した水を理想的に蒸発させることができ、斯くて、一方ではこの供給空気が加湿され、他方ではこの供給空気が燃料電池にとって適切な温度レベルに冷却される。
【0016】
その際、本装置を特段に好ましく発展させた態様では、少なくとも二つの空気搬送機構および/または加湿機構が連続したカスケードとして設けられていることが企図されていてもよい。そのような、連続する二つの加湿ノズルおよび/またはチャージ段階は、斯くて、それ自体公知である調風器チャージに使用できる。これにより、本構成の可変性を高め、様々に異なる物質流を効率的に加湿できる。
【0017】
その際、各々の空気搬送機構は、空気搬送機構、排気タービンおよび電気機械を備えた電動アシスト・ターボチャージャの一部とすることができる。そのような、ETC(Electric Turbo Charger)もしくはモータアシスト・ターボチャージャという概念において一般的に知られている構成は、燃料電池の空気供給を効率的に実現するのに理想的に適している。典型的に必要とされる電気機械からの駆動力に加え、補足的に、排気から回収したエネルギーを、タービンを介して圧縮に起用することも可能である。タービンの領域に存在するエネルギーが、空気搬送機構を駆動するために必要なエネルギーよりも大きい場合、そのエネルギーを電気エネルギーの形で回収して一時的に蓄えるために、電気機械を回生運転してもよい。このことは、空気搬送機構を二つ起用する場合にも、一つ起用する場合にも当てはまる。
【0018】
その際、本装置の構成全体が、燃料電池、特に、いわゆる燃料電池スタックと言われる個別セルのスタックを備えた燃料電池システムに一体化されていてよい。その際、その燃料電池システム自体は、様々な静止もしくは移動用途に使用できる。その燃料電池システムは、特に、車両の電気駆動エネルギーを提供する役目を果たすことができる。特に、そのような車両用途では、回収された生成水を道路上に排出しないよう再利用することに利点がある一方で、他方では、構成容積、重量、エネルギー効率および本発明の装置による構成部品の節約に鑑みた決定的な利点が、ここでは特に大きな利点となっている。
【0019】
本発明による装置における更なる有効的な態様は、図を参照して下記で詳細に説明する実施例からも見出される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明による装置を搭載した車両における燃料電池システムを概略的に示した図である。
図2図1のII-II線による、本装置の一部の断面図である。
図3図2のIII-III線による断面を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1の描写では、車両1、例えば商用車または乗用車を非常に概略的に示したものが見られる。車両1の電気駆動出力の少なくとも一部が、ここでは部分的にかつ簡略化した形でしか示されていない燃料電池システム2からその車両に供給される。その燃料電池システムは、コアとして、例えば、PEM技術において個別セルのスタック、いわゆる燃料電池スタックとして構成されている燃料電池3を含む。ここでは、純粋に一例として共通のカソード室4と、共通のアノード室5が例示的に示されている。アノード室5には水素貯蔵システム6から水素が供給され、残存水素は水分離器8を備えた排気管7を介してシステムから排出される。その際、当然のことながら、アノード側では別の変形例も可能である。これらの変形例は、本発明においては二次的な重要性しか持たないので、これ以上説明しない。しかしながら、当業者にとって、水素のための様々な貯蔵システム、様々な配量設備ならびに一つまたは複数の再循環コンベア設備を備えたアノード回路といったものがここでは考えられ、可能であることは自明である。
【0022】
カソード室4には、酸素供給を担うべく、空気を供給するための装置10を介して、空気が供給される。この装置10の一部を成すのが、例えば、いわゆる電気ターボチャージャ12の一部として形成されていてもよい空気搬送機構11である。それ自体公知である電気ターボチャージャ12は、好適にはフローコンプレッサとして形成されている空気搬送機構11と併せて排気タービン13と電気機械14を含む。そのターボチャージャの機能性は基本的に知られているので、ここではあえて説明することは必要ない。
【0023】
空気搬送機構11の後には、燃料電池3のカソード室4に至る高温の乾燥し圧縮された供給空気流が存在する。その供給空気流は、斯くて、好適には空気搬送機構11との直接のつながりの中で、夫々が一つの二流体ノズルを持ち、通流可能な個々の断面部に到達する。図2の概略断面ではこのことが、図1では符号15を付した領域により再度示されている。上記した通流可能な個々の断面部には、ここでは符号161~168を付した。それらの断面部は、例えば、円形であってよく、供給空気の通流断面部内に配置されていてよい。別個の通流可能な個々の断面部161~168の中心には、一方では、通流可能な断面部161~168を通流する空気搬送機構11後の高温で乾燥した空気による体積流が通流し、他方では、図1の描写から見出されるように、コンベア18を介して水の供給を受ける二流体ノズル171~178がある。その際、この水は、燃料電池システム2の中で凝縮されて回収される脱イオン水である。図1の描写では、純粋に一例として二つの水分離器が示されている。一方では、これは既に言及した水分離器8であり、他方では、これはカソード室4を排気タービン13と接続する排気管19においては、ここに符号9を付したカソード側の水分離器である。こうして回収された生成水は、例えば、ここでは例示的に示した上で符号20を付したタンクに到達し、そのタンクの中で、もしくは流れ方向でそのタンク後に熱交換器21を介して予熱され、それからコンベアポンプ18に達し、そのようにして、発生した搬送圧力および発生した体積流に応じて各々の二流体ノズル171~178に供給される。このことは、例えば、二流体ノズル171~178の一つ一つに対して直接、かつ、場合によっては、弁を介して切り替え式に実行してもよいし、あるいは、相応の二流体ノズルへの流入をもたらすマニホールドを介して実行してもよい。
【0024】
装置10の構成では、空気搬送機構の二つ、あるいは、場合によってはそれ以上を、連続したカスケードとして直列接続するという変形例も可能である。その場合、それらの空気搬送機構には、その都度一つの相応の二流体ノズル171~178が続き、相応する供給空気流を加湿し、かつ、ここに説明したその他の機能性を提供することになる。
【0025】
斯くて、図3の描写は、上記別個の通流可能な断面部、ここでは一例として断面部164をもう一度断面図で示す。その断面部は二流体ノズル174、ならびに弁体23と弁座24から成る弁22を含む。弁体23は、好適には、プラスチック被覆を備えた中空の鋼球として構成されていてよい。弁座24の領域には、例えば、周回するリングの形をとる永久磁石25がある。その永久磁石は、弁体23に対して引付力を行使するので、弁22を介した体積流が僅かなとき、あるいは全くないとき、対応する通流可能な断面部161~168は閉じられている。特に、空気搬送機構11が稼動していないときに、そのようなことが起こる。これにより、例えば、車両1の純粋な電気運転時や駐車時に、外部における風の作用によってカソード室4を空気、例えば乱気流が通流する事態が阻止される。このことは、後の再始動時にいわゆる空気/空気スタートを引き起こして燃料電池3を損傷させる要因となる、新鮮な酸素が燃料電池3に入るのを防ぐ上で決定的な利点である。
【0026】
ここで、空気搬送機構11からの体積流が増すにつれて、通流可能な断面部161~168の夫々にある弁22のうち、先ず一つ、次に複数が相応に開くようになっている。特に、復元力は、空気搬送機構11からの夫々の体積流に合わせて、通流可能な断面部161~168の適切な数が自身の弁22によって開かれるように、例えば、最初は中央にある通流可能な断面部161が開かれて、次いで、それに加えてその断面部の周りに配置された通流可能な断面部161~168が開かれて、空気搬送機構11からの体積流が最大に達するまでにすべての通流可能な断面部161~168が自身の夫々の弁22によって開かれるように、設定できる。弁22を介して夫々の通流可能な断面部161~168が開かれるや否や、それらの断面部から空気が流れる。そこで同時に水を加えれば、その水は二流体ノズル171~178を介して空気搬送機構11の後の高温かつ乾燥した空気流の中で相応に霧化されるので、微細な滴に霧化された水粒子は体積流の中で蒸発できる。これにより、供給空気流が非常に効率的に冷却される一方で、他方ではその供給空気流が非常に良好に加湿される。その際、二流体ノズル171~178は、夫々の体積流に適合するように構成されてよく、それにより、水が常に理想的に霧化され、ひいては理想的な加湿と冷却が生じることになる。このことは、供給される空気の如何なる体積流についても当てはまるが、それは、常に、その都度の体積流に適した数の上記通流可能な断面部が弁22によって受動的に開放されるからである。同時に、弁22は、空気搬送機構が切られたとき、一斉にカソード室4を環境から遮断する。
【0027】
そのようにして、一方では空気搬送機構11の搬送圧力と体積流を介しての、それとともにコンベアポンプ18の搬送圧力と体積流を介しての相応の調整を可能とする繊細なステップ状の特性曲線が得られ、ここから、温かい圧縮空気の中で予熱した燃料電池システム1からの水を、供給空気流を加湿するために使用できることになる。その際、予熱は、特に、熱交換器21において、燃料電池3自体からの廃熱によって実施することができるので、廃熱を追加的に利用することで、燃料電池システム2、ひいては車両1の冷却システムの負荷を和らげることになる。

図1
図2
図3