(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】作動ガスとしておよび蓄熱材料としてヘリウムを用いるクライオクーラのための蓄冷器、そのような蓄冷器の製造方法、ならびにそのような蓄冷器を備えたクライオクーラ
(51)【国際特許分類】
F25B 9/00 20060101AFI20241022BHJP
F25B 9/14 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
F25B9/00 D
F25B9/14 Z
F25B9/14 530Z
F25B9/00 311
(21)【出願番号】P 2023541267
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 EP2021087409
(87)【国際公開番号】W WO2022148666
(87)【国際公開日】2022-07-14
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】202021100084.8
(32)【優先日】2021-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】514025672
【氏名又は名称】プレッシャー・ウェーブ・システムズ・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】PRESSURE WAVE SYSTEMS GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ヘーヘン イェンス
【審査官】森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-536972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 9/00
F25B 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動ガスおよび蓄熱手段としてヘリウムを用いるクライオクーラのための蓄冷器(1)であって、
複数の部分中空空間(6-i)を有する中空空間(6)を包囲しているセル壁(4)を具備する少なくとも1つのセル(2)であって、
前記部分中空空間(6-i)が、少なくとも1つの連通路(12)を介して相互に連通されており、かつ他の部分中空空間(6-i)への前記少なくとも1つの連通路(12)を除いて、前記セル壁(4)によって包囲されており、
前記少なくとも1つのセル(2)の前記中空空間(6)が蓄熱材料としてのヘリウムガスで満たされている、セル(2)と、
個々の部分中空空間(6-i)の間に形成されている、前記作動ガスであるヘリウムのための流路(10)と、
前記セル壁(4)を貫通し、かつ中空空間(6)の外の前記作動ガスであるヘリウムと前記中空空間(6)の中の前記蓄熱材料であるヘリウムとの間の永続的に開いている連通部を形作る毛細管(8)の形態の均圧口と
を備えた、蓄冷器(1)において、
前記部分中空空間(6-i)がその内部に支持要素(14)を有し、前記支持要素(14)が、1つの部分中空空間(6-i)を画定している前記セル壁(4)を互いに支え
、
前記部分中空空間(6-i)が、前記支持要素(14)の配置および形状ならびに前記セル壁の形状により、屈曲して形成されていることを特徴とする、蓄冷器(1)。
【請求項2】
前記部分中空空間が、前記支持要素の配置および形状により、ならびに前記セル壁の形状により、管状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の蓄冷器(1)。
【請求項3】
前記支持要素(14)が細長く形成されており、かつ前記セル壁から離れて前記部分中空空間(6-i)内へと延びていることを特徴とする請求項
1に記載の蓄冷器(1)。
【請求項4】
前記細長い支持要素(14)が、前記作動ガスであるヘリウムが出入可能な止まり穴状スリットを付与されていることを特徴とする請求項
3に記載の蓄冷器(1)。
【請求項5】
前記部分中空空間(6-i)が長方形の断面を有することを特徴とする請求項
2に記載の蓄冷器(1)。
【請求項6】
前記部分中空空間(6-i)が丸みを帯びた断面を有することを特徴とする請求項
2に記載の蓄冷器(1)。
【請求項7】
前記部分中空空間(6-i)の間の前記流路(10)が長方形の断面を有することを特徴とする請求項
5に記載の蓄冷器(1)。
【請求項8】
前記少なくとも1つのセル(2)が丸い断面をもつ円板として形成されていること、および前記部分中空空間(6-i)を連通させている前記連通路(12)が、円板状の前記セル(2)の周縁領域に配置されていることを特徴とする請求項
1に記載の蓄冷器(1)。
【請求項9】
前記毛細管(8)が、前記蓄冷器(1)の製造中の非密着性に基づいて生じていることを特徴とする請求項
1に記載の蓄冷器(1)。
【請求項10】
前記蓄冷器(1)が3D印刷によって製造されることを特徴とする、請求項
1に記載の蓄冷器(1)の製造方法。
【請求項11】
前記部分中空空間(6-i)が前記3D印刷後に開口部を有し、前記開口部がその後で閉じられることを特徴とする請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの蓄冷器を備えたスターリング冷凍機、ギフォード・マクマホン冷凍機、またはパルスチューブ冷凍機の形態のクライオクーラにおいて、請求項
1に記載の蓄冷器(1)によって特徴付けられるクライオクーラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、請求項1に基づく、作動ガスとしてヘリウムを用いるクライオクーラのための蓄冷器(regenerator)、その他の独立請求項に基づく、そのような蓄冷器の製造方法およびそのような蓄冷器を付与されたクライオクーラに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリウムは、クライオクーラの作動ガスとしてしばしば用いられる。ヘリウムは、2K~20Kの温度範囲内で比較的高い熱容量を有し、この熱容量は、この温度範囲内の希土類化合物の熱容量と同じである。したがって、ヘリウムを蓄冷器の材料として用いることが提案された。特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、および特許文献6から、蓄冷器の構造として、ヘリウムで満たされたガラス製または金属製の閉じた中空体が既知である。この基本的アイデアはこれまで完成した製品には至っていない。それだけでなく、ヘリウムで満たされた小球もまた、摩耗することでクライオクーラの使用期間を減少させる。この既知の、ヘリウムを有する閉じた中空体の基本的問題は、正圧下でヘリウムを中空体に充填するのに費用がかかることである。この正圧の故に中空体の壁厚を増大させなければならず、これが熱伝達抵抗を悪化させる。
【0003】
非特許文献1では、クライオクーラのための蓄冷器として、ヘリウムを吸収し得る吸着材を備えた構造が提案されている。この蓄冷器の構造は、複雑で、費用がかかり、かつ吸着材の一部が作動ガス流によって流し去られる危険がある。流し去られた吸着材粒子により、このような蓄冷器を備えたクライオクーラの寿命が大幅に短くなるかもしれない。
【0004】
特許文献7から、ヘリウムで満たされた中空体が熱収縮によって閉じられる蓄冷器が既知である。特許文献4から、蓄熱材料としてのヘリウムで満たされた直方体形のセルを備えた蓄冷器が既知である。これらのセルは、充填後に閉じられ、したがって均圧口を有さない。特許文献8から、蓄熱のために金属を蓄熱材料として有する蓄冷器が既知であり、すなわちヘリウムを蓄熱材料として使用していない。
【0005】
特許文献9から、2つの側で開いている小管を備えた蓄冷器が既知であり、この小管がヘリウムを蓄熱材料として内包している。これにより、ヘリウムで満たされたこの小管は均圧口を有しており、したがってクーラまたは蓄冷器の動作中に小管の内部と作動ガスであるヘリウムとの間の均圧化を行うことができる。この蓄冷器の欠点は、熱媒体材料としてのヘリウムで満たされた隣接するセルが重なり合っており、セル壁の重なり合った部分が熱交換に寄与できないことである。これにより、この既知の蓄冷器の機能性は制限されている。
【0006】
特許文献10から、作動ガスおよび蓄熱材料としてのヘリウムのために設計された蓄冷器が既知である。この既知の蓄冷器は、複数の部分中空空間を有する中空空間を含んでおり、これらの部分中空空間は管状に形成されており、かつ相互に連通している。これらの部分中空空間の間には、作動ガスであるヘリウムのための流路が形成されている。セル壁を貫通している毛細管の形態での均圧口が、中空空間の外の作動ガスであるヘリウムと中空空間の中の蓄熱材料であるヘリウムとの間の永続的に開いている連通部をもたらしている。セル壁が薄ければ薄いほど、作動ガスであるヘリウムと蓄熱材料であるヘリウムとの間のセル壁を通した熱伝達がより良くなる。ただし、蓄冷器の動作中の圧力変動の際に割れないまたは裂けない程度のセル壁の厚さは必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2012/0304668(A1)号
【文献】DE10319510A1
【文献】DE102005007627A1
【文献】CN104197591A
【文献】DE19924184A1
【文献】米国特許第4359872(A)号
【文献】JPH07318181
【文献】特開昭62-233688
【文献】特開2011190953
【文献】WO2018/104410A1
【非特許文献】
【0008】
【文献】「Heat Capacity Characterization of a 4K Regenerator with Non-Rare Earth Material」Cryocoolers19、International Cryocooler Conference,Inc.、Boulder,CO、2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって特許文献10を出発点とし、本開示の課題は、特許文献10に比べ、セル壁を通したより効果的な熱伝達が可能な、作動ガスおよび蓄熱材料としてヘリウムを用いる蓄冷器を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題の解決は請求項1の特徴によって行われる。
【0011】
蓄冷器の動作開始時に、セル壁にある毛細管により、部分中空空間の内部が蓄熱手段としてのヘリウムで満たされる。動作中、中空空間または部分中空空間の中も同等の圧力比が存在しているため、比較的薄くセル壁を作製することができる。ただし、蓄冷器の動作中の圧力変動の際に割れないまたは裂けない程度のセル壁の厚さは必要である。部分中空空間がその内部に支持要素を有することにより、薄いセル壁が支持要素に支えられるため、セル壁をさらに薄く作製することが可能である。この比較的薄いセル壁により、セル壁を通した熱伝達が改善される。中空空間体積と毛細管の開口面積または流出抵抗との関係は、クーラ動作の作動周波数範囲(約1~60Hz)内では中空空間内または部分中空空間内の圧力がほとんどまたは少なくとも少ししか変化しないように選択されている。この機能方式は、高い周波数の場合のコンデンサと同等であり、すなわちコンデンサは、容量が十分に高くて電圧変化が少ない場合、電圧の変化からほとんど何も受け取らない。典型的な適用例では、セル内の圧力は常に、この冷却システムの平均圧力、典型的には約16barの辺りで変動するであろう。この安定した圧力は大事である。というのもそうでなければ、1つまたは複数の中空空間の体積は、例えばその圧力がそれぞれの周期ごとに8~24barの間を変動する場合、「デッドボリューム」に大きく寄与し、冷却に寄与しないであろうからである。均圧口の開口面積または流出抵抗は、蓄冷器の動作開始前および始動段階中に、支配的な圧力比に基づいてヘリウムが1つまたは複数の中空空間に入り込むように選択されている。均圧口の高い流出抵抗により、クーラの作動周波数での、蓄冷器の領域内の圧力変動中に、上で解説した「コンデンサ効果」が生じる。始動段階では、作動ガスであるヘリウムの温度も蓄冷器の中空空間内のヘリウムの温度も低下する。したがってヘリウムの体積が減少し、均圧口を介して蓄冷器の中空空間にさらにヘリウムが流れ込む。つまり始動段階中は、作動温度および作動圧力になるまで追加的にヘリウムが満たされることになる。
【0012】
セルは流路によって貫通されており、流路はセル壁によって画定されている。これにより、熱交換面積の拡大が、したがって中空空間内のヘリウムと外の作動ガスとの間の熱伝達の改善が生じる。これらの流路はスリットとして形成されることが好ましい。作動ガスのためのこれらのスリット状流路は、一つには流動抵抗を最小限に抑えるため、もう一つにはその間の管状の中空空間を一様に形作るため、真っすぐで互いに平行に走っていることが好ましい。真っすぐで平行なことにより、2つの流路の間に簡単に同じ間隔が生じる。
【0013】
任意で、部分中空空間の間のこれらの流路が互いに平行に配置されている。
【0014】
均圧口は、セルの製造時に発生する非密着性によってもたらされてもよい。
【0015】
作動ガスであるヘリウムと中空体内にあって蓄熱するヘリウムとの間の熱交換を改善するため、流路の表面は渦構造を付与されている。
【0016】
3D印刷方法では、直方体形の中空空間または丸みを帯びた中空空間を、全体として製造することができ、または2つのステップで2つのコンポーネントから製造することができる。3D印刷後に材料を吹き出すために必要な、部分中空空間での開口部は、吹き出した後で閉じることができる。これらの開口部は小さな断面積を有し、このために、溶接方法が提案される。
【0017】
支持要素は、作動ガスであるヘリウムが出入可能な止まり穴状スリットを付与されていることが好ましい。これによりアコーディオンの形式で、3D印刷中に発生する熱応力を吸収でき、これにより材料内に亀裂が生じない。
【0018】
本開示に基づく蓄冷器は、とりわけスターリング冷凍機、ギフォード・マクマホン冷凍機、またはパルスチューブ冷凍機に特に適している。
【0019】
蓄冷器全体は、作動ガスの流動方向に5mm~100mmの厚さを有することが好ましい。
【0020】
従属請求項は本開示のさらなる有利な形態に関する。
【0021】
以下に、本開示の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】蓄冷器の第1の実施形態の断面透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1および
図2は、丸い断面をもつ柱状の蓄冷器2の形態での本開示の2つの実施形態を示しており、それぞれ蓄冷器2の半分だけを図示している。蓄冷器2は、セル壁4を備えたセル2を含んでおり、セル壁4は、部分中空空間6-iを有する中空空間6を包囲している。セル壁4は、毛細管8の形態の均圧口によって貫通されている。セル2は、円環状の断面を有し、かつ作動ガスであるヘリウムのための管状流路内に配置されている。動作中、中空空間6の内部は蓄熱材料としてのヘリウムで満たされている。部分中空空間6-iは、セル2の縦軸に平行な平たい構造になっている。これらの平たい部分中空空間6-iの間に、作動ガスとしてのヘリウムのための平行なスリット状流路10が形成されている。これらの部分中空空間6-iは、柱状の蓄冷器2の周縁領域で、連通路12によって相互に連通しており、部分中空空間6-iと一緒に中空空間6を形作る。個々の平たくて互いに平行に配置された部分中空空間6-iは、柱状のセル2の全高または全長にわたって延びており、2つの互いに間隔をあけて配置された平たいセル壁4-1によって形作られており、周縁領域では細長いセル壁4-2によって密閉されている。個々の部分中空空間6-1の間には、セル2を完全に貫通しているスリット状流路10が配置されている。
【0024】
部分中空空間6-1の内部には支持要素14が設けられており、これらの支持要素14は平たいセル壁4-1を互いに支えている。
図1に基づく第1の実施形態では、支持要素14は、部分中空空間6-iの内部全域に分散している小さな直方体として形成されている。支持要素14は、柱状にまたは丸みを帯びておよび球状に形成されてもよい。
【0025】
図2に基づく第2の実施形態では、支持要素は細長い形をしており、かつ細長いセル壁4-2から離れて延びており、これにより屈曲した流路が生じている。細長い支持要素14は、作動ガスであるヘリウムが出入可能な不図示の止まり穴状スリットを付与されている。これによりアコーディオンの形式で、3D印刷中に発生する熱応力を吸収でき、これにより材料内に亀裂が生じない。
【符号の説明】
【0026】
1 蓄冷器
2 セル
4 セル壁
4-1 平たいセル壁
4-2 細長いセル壁
6 中空空間
6-i 部分中空空間
8 毛細管
10 作動ガスのための流路
12 一周している連通路
14 支持要素