(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】測量用治具
(51)【国際特許分類】
G01C 15/06 20060101AFI20241022BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
G01C15/06 T
E01D22/00 Z
(21)【出願番号】P 2024089069
(22)【出願日】2024-05-31
【審査請求日】2024-08-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508036743
【氏名又は名称】株式会社横河ブリッジ
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 優介
(72)【発明者】
【氏名】向台 茂
(72)【発明者】
【氏名】中村 智昭
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-179651(JP,A)
【文献】実開平05-082632(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 15/06
E01D 21/00
E01D 22/00
E02D 27/00-27/52
E02D 5/22-5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートに埋設されたアンカーボルトの先端に設置される治具であって、
筒状の外挿体と、該外挿体から張り出すフランジと、からなるアンカー側部材と、
台座体と、壁体と、からなる標識側部材と、を備え、
前記アンカー側部材は、軸方向に貫通する挿通孔が形成され、
前記台座体の上面には鋼製板が取り付けられるとともに、前記台座体の下面には磁石が取り付けられ、
前記標識側部材には、前記台座体の下面と、前記壁体の内面と、に囲まれる収容孔が形成され、
前記外挿体を前記収容孔に収容することによって前記アンカー側部材を前記標識側部材に取り付けるとともに、前記アンカーボルトの先端が前記磁石に当接するまで該アンカーボルトを前記挿通孔に挿通すると、該標識側部材が該アンカーボルトに固定され、前記鋼製板に磁着されたマグネット式の測量標識を用いて該アンカーボルトの先端座標を測量することができる、
ことを特徴とする測量用治具。
【請求項2】
1の前記標識側部材と、2以上の前記アンカー側部材と、の組み合わせからなり、
2以上の前記アンカー側部材には、それぞれ同一又は略同一の外径の前記外挿体が形成されるとともに、それぞれ異なる内径の前記挿通孔が形成され、
前記アンカーボルトの径に応じて、前記標識側部材に取り付ける前記アンカー側部材を選択し得る、
ことを特徴とする請求項1記載の測量用治具。
【請求項3】
前記鋼製板を取り囲むように配置されたガイド壁を、さらに備え、
前記ガイド壁に案内されながら、前記測量標識を前記鋼製板に磁着することができる、
ことを特徴とする請求項1記載の測量用治具。
【請求項4】
前記壁体を貫通するボルト孔に螺合される締付ボルトを、さらに備え、
前記外挿体を前記収容孔に収容した状態で前記締付ボルトを締め付けると、前記アンカー側部材が前記標識側部材に固定される、
ことを特徴とする請求項1記載の測量用治具。
【請求項5】
前記標識側部材に取り付けられる吊環体を、さらに備え、
前記標識側部材が前記アンカーボルトに固定されたとき、前記吊環体を策材で吊り上げることによって、該標識側部材の落下を防止することができる、
ことを特徴とする請求項1記載の測量用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、測量用の治具に関する技術であり、より具体的には、コンクリートに埋設されたアンカーボルトの先端を測量することができる測量用治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁は、橋台や橋脚といった下部工と、主桁や床版といった上部工によって主に構成される。このうち上部工はコンクリート製や鋼製とされ、一方の下部工は内部に鉄筋を含む鉄筋コンクリート(RC:Reinforced Concrete)造とされるのが一般的である。
【0003】
ところで、供用中の橋梁に対していわば事後的に設備を取り付けることがある。例えば、上部工の変位を抑制するための「変位制限装置」を設置したり、上部工の落下を防ぐ「落橋防止装置」を設置したり、あるいは支承取替工事などで床版をジャッキアップするための反力架台を設置したりすることがある。通常、このような工事では、例えば鉄筋コンクリート造の橋脚にいわゆる「あと施工アンカーボルト」を埋め込み、そのあと施工アンカーボルトを利用してブラケットを取り付け、そのうえで変位制限装置などを設置している。
【0004】
橋脚などに取り付けるブラケットは工場で製作され、このときあと施工アンカーボルトに挿通するためのボルト孔が設けられる。他方、あと施工アンカーボルトは当然ながら現地で施工され、基本的には計画された位置であと施工アンカーボルトを橋脚等に埋設していく。ところが、あと施工アンカーボルトのために鉄筋コンクリート造(例えば橋脚)を削孔していくと、思わぬ位置に主筋や配力筋が配置されていることがあり、その場合は主筋等と干渉しないように位置を変更したうえで削孔することになる。このように、あと施工アンカーボルトが埋設される位置は必ずしも計画どおりとならないことが多く、そのため埋設されたあと施工アンカーボルトを測量してその先端座標を取得したうえでブラケットのボルト孔を設けているのが現状である。
【0005】
従来、あと施工アンカーボルトの測量は、測量者による手作業によって行われていた。具体的には、鉄筋コンクリートの壁面にあと施工アンカーボルトの計画位置を十字墨で示し、その十字墨の交点から実際のあと施工アンカーボルトの位置までの較差を差し金などによって計測していくわけである。しかしながらこのような手計測による手法は、その測量者の経験や技能によって計測精度が異なるうえ、差し金などを用いて現地で測定した結果を野帳などに記録する際に転記ミスが生じることもあり、そもそもすべてのあと施工アンカーボルトを手計測するには長い計測時間と相当の労力を要するといった問題を抱えていた。
【0006】
そこで、あと施工アンカーボルトの位置を測量するための種々の改良技術がこれまでにも提案されてきた。例えば特許文献1では、あと施工アンカーボルトの先端に計測用治具を設置し、その計測用治具のマーカープレートを利用した写真測量を行うことによって、あと施工アンカーボルトの位置座標を取得する技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示される技術は、計測用治具に設けられた雌ネジ部とアンカーボルト先端の雄ネジ部を螺合することによって計測用治具をアンカーボルトに取り付け、計測用治具に設置されたマーカープレートを撮影することでアンカーボルトの位置座標を取得するものである。この技術によれば、従来の手計測に比べ計測精度が安定し、転記ミスなどのヒューマンエラーを防止することができるとともに、その計測にかかる時間や労力を低減することができる。
【0009】
しかしながらアンカーボルト先端に計測用治具を螺合する作業は、やはり手作業であって一定の時間と労力を要し、すべてのアンカーボルトに対してこの作業を行うとある程度まとまった作業時間と作業労力がかかることとなる。また、アンカーボルトの雄ネジ部が養生されていないケースでは、モルタルやゴミなどが雄ネジ部に詰まっていることも考えられ、この場合はモルタル等を除去する作業を強いられ、場合によっては螺合することが難しいこともある。一方、アンカーボルトの雄ネジ部が養生されているケースでは、計測用治具を螺合するためにその養生を一旦取り除く作業や、計測後に改めて養生を行う作業が必要となり、その分だけ作業時間と作業労力がかかることとなる。
【0010】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来技術に比して容易にアンカーボルトの先端に設置することができる測量用治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、アンカーボルトの先端を収容する「収容孔」の頂面に取り付けられた磁石とアンカーボルトを磁着することによって測量用治具をアンカーボルトに固定する、という点に着目してなされたものであり、従来にはない発想に基づいて行われた発明である。
【0012】
本願発明の測量用治具は、コンクリートに埋設されたアンカーボルトの先端に設置される治具であって、アンカー側部材と標識側部材を備えたものである。このアンカー側部材は筒状の外挿体と外挿体から張り出すフランジからなり、一方の標識側部材は台座体と壁体からなるものである。なお、アンカー側部材には軸方向に貫通する挿通孔が形成され、台座体の上面には鋼製板が取り付けられるとともにその下面には磁石が取り付けられる。また、標識側部材には台座体の下面と壁体の内面に囲まれる収容孔が形成される。そして、外挿体を収容孔に収容することによってアンカー側部材を標識側部材に取り付けるとともに、アンカーボルトの先端が磁石に当接するまでアンカーボルトを挿通孔に挿通すると、標識側部材がアンカーボルトに固定され、これにより鋼製板に磁着されたマグネット式の測量標識を用いてアンカーボルトの先端座標を測量することができる。
【0013】
本願発明の測量用治具は、1の標識側部材と2以上のアンカー側部材の組み合わせからなるものとすることもできる。ただし、2以上のアンカー側部材には、それぞれ略同一(同一を含む)の外径の外挿体が形成されるとともに、それぞれ異なる内径の挿通孔が形成される。これにより、アンカーボルトの径に応じて、標識側部材に取り付ける適当なアンカー側部材を選択することができる。
【0014】
本願発明の測量用治具は、鋼製板を取り囲むように配置されたガイド壁をさらに備えたものとすることもできる。この場合、ガイド壁に案内されながら、測量標識を鋼製板に磁着することができる。
【0015】
本願発明の測量用治具は、壁体を貫通するボルト孔に螺合される締付ボルトをさらに備えたものとすることもできる。この場合、外挿体を収容孔に収容した状態で締付ボルトを締め付けることによって、アンカー側部材を標識側部材に固定することができる。
【0016】
本願発明の測量用治具は、標識側部材に取り付けられる吊環体をさらに備えたものとすることもできる。この場合、標識側部材がアンカーボルトに固定されたとき、吊環体を策材で吊り上げることによって、標識側部材の落下を防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本願発明の測量用治具には、次のような効果がある。
(1)従来の手計測に比して、計測精度が安定し、転記ミスといったヒューマンエラーを防止することができる。
(2)また従来の手計測に比べると、その計測にかかる時間や労力を低減することができる。
(3)さらに特許文献1に開示される技術と比べると、アンカーボルト先端に螺合する手作業を必要としないため、その作業時間と作業労力を低減することができる。
(4)養生手法によってはその養生を取り除くことなくアンカーボルトに固定することができ、少なくともアンカーボルト測量のためにモルタルなどをネジ部から除去する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(a)はアンカーボルトに取り付ける前の分解された状態の測量用治具を模式的に示す断面図、(b)はアンカーボルトに固定された状態の測量用治具を模式的に示す断面図。
【
図3】(a)はアンカー側部材を模式的に示す平面図、(b)はアンカー側部材を模式的に示すA-A矢視の断面図。
【
図4】(a)は標識側部材を模式的に示す平面図、(b)は標識側部材を模式的に示すB-B矢視の断面図。
【
図5】(a)は締付ボルトとボルト孔、標識側部材を模式的に示す断面図、(b)は締付ボルトを用いて標識側部材に取り付けられたアンカー側部材を模式的に示す断面図。
【
図6】(a)は標識側部材に吊環体が取り付けられた測量用治具を模式的に示す断面図、(b)は策材が吊環体を介して吊上げた測量用治具を模式的に示す断面図。
【
図7】1つの標識側部材と3種類のアンカー側部材の組み合わせからなる「測量用治具セット」を模式的に示す断面図。
【
図8】(a)は標識側部材のみからなる「単独式測量用治具」を模式的に示す平面図、(b)は標識側部材のみからなる「単独式測量用治具」を模式的に示すC-C矢視の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本願発明の測量用治具の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0020】
図1は、本願発明の測量用治具100の概要を説明するための図であり、(a)はアンカーボルトABに取り付ける前の分解された状態の測量用治具100を模式的に示す断面図、(b)はアンカーボルトABに固定された状態の測量用治具100を模式的に示す断面図である。この図に示すように本願発明の測量用治具100は、コンクリート構造物COに埋設されたアンカーボルトABの先端に固定するものであり、そのため対象となるアンカーボルトABはコンクリート構造物COの表面からその一部が突出している。
【0021】
本願発明の測量用治具100は、別体として形成される「アンカー側部材200」と「標識側部材300」を含んで構成され、アンカー側部材200を標識側部材300に取り付けたうえでアンカーボルトABの先端に固定される。標識側部材300にはアンカー側部材200の一部(後述する外挿体210)を収容する有底の収容孔330が形成されており、一方のアンカー側部材200には軸方向(つまり、孔軸方向)に貫通する挿通孔230が形成されている。これにより、アンカー側部材200の一部を収容孔330に収容することでアンカー側部材200は標識側部材300に取り付けられ、挿通孔230にアンカーボルトABを挿通することによって測量用治具100(アンカー側部材200と標識側部材300)をアンカーボルトABの先端に嵌め込むことができる。そして、収容孔330内に取り付けられた磁石312とアンカーボルトABの先端が磁着することによって、測量用治具100(特に、標識側部材300)がアンカーボルトABに固定される。
【0022】
図1に示すように標識側部材300の表面には、例えば接着剤などによって鋼製板311が取り付けられており、この鋼製板311を利用して
図2に示すような板状のマグネット式の測量標識TGを磁着することができる。測量標識TGとしては、従来の写真測量に用いられるいわゆるターゲットを利用することができ、これをデジタルカメラ等で撮影することによって、その測量標識TGを特定し得る情報(識別子など)や、中心位置を把握することができる。そして、測量標識TGを用いた写真測量を行うことにより、測量標識TGの中心の3次元座標を求めることができ、すなわちアンカーボルトAB先端の3次元座標を得ることができる。
【0023】
以下、本願発明の測量用治具100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0024】
(アンカー側部材)
図3は、アンカー側部材200を模式的に示す図であり、(a)は上方から見た平面図、(b)はA-A矢視の断面図である。この図に示すようにアンカー側部材200は、筒状の外挿体210と板状のフランジ220を含んで構成され、外挿体210のうちアンカーボルトAB側(
図3(b)では下側)の端部で外側に張り出すようにフランジ220が設置されたものである。外挿体210と板状のフランジ220は一体のものとして形成され、例えばポリ塩化ビニルなどの樹脂製とすることができる。なお
図3に示すフランジ220はその平面形状が八角形とされているが、これに限らず円形や六角形など任意の平面形状とすることができる。
【0025】
アンカー側部材200には、その軸方向に貫通する挿通孔230が形成される。この挿通孔230にはアンカーボルトABが挿通されることから、対象とするアンカーボルトABの外径より若干大きな内径で挿通孔230を形成するとよい。また外挿体210の外周面には、他の表面よりやや窪んだ帯状の外周溝211を形成することができ、この外周溝211に後述する締付ボルト351の先端を当接させることができる。
【0026】
(標識側部材)
図4は、標識側部材300を模式的に示す図であり、(a)は上方から見た平面図、(b)はB-B矢視の断面図である。この図に示すように標識側部材300は、主に盤状の台座体310と筒状の壁体320を含んで構成され、さらにガイド壁340を含んで構成することもできる。台座体310と壁体320、ガイド壁340は一体のものとして形成され、アンカー側部材200と同様、例えばポリ塩化ビニルなどの樹脂製とすることができる。
【0027】
台座体310は、その外形が例えば中実の概ね円筒状とされ、表裏面のうち一方の面(以下、「下面」という。)にはアンカーボルトAB先端が当接されるとともに、他方の面(以下、「上面」という。)には鋼製の板材である鋼製板311が取り付けられる。既述したとおりこの鋼製板311を利用することによって、
図2に示すようなマグネット式の測量標識TGを磁着により設置することができるわけである。写真測量を行うことによって測量標識TGの中心の3次元座標を求め、これによりアンカーボルトAB先端の3次元座標を取得することになるが、そのためにはアンカーボルトABの中心と測量標識TGの中心が概ね一致するように測量標識TGを配置することが望ましい。そこで台座体310には、その上面から立ち上がるように、しかも鋼製板311を取り囲むように、複数(図では4つ)のガイド壁340を配置するとよい。これらガイド壁340に案内されて配置される測量標識TGは、その位置が強制的に決定され、すなわちアンカーボルトABと測量標識TGの中心が概ね一致するように測量標識TGが配置されることとなる。
【0028】
壁体320の内部には、アンカー側部材200の外挿体210を収容する収容孔330が形成されている。より詳しくは、壁体320の内面に囲まれるとともに、台座体310の下面を底部とする有底の空間が収容孔330である。この収容孔330には外挿体210が収容されることから、外挿体210の外径より若干大きな内径で収容孔330を形成するとよい。
【0029】
台座体310の下面の中央にはやや窪んだ凹部形成されており、この凹部に収容された状態で磁石312が壁体320に取り付けられる。この磁石312としては、例えばネオジム磁石を利用することができるが、アンカーボルトABが磁着するものであれば従来用いられている種々のものを利用することができる。また磁石312を台座体310の下面に取り付けるにあたっては、
図4(b)に示すようにビス313を利用することもできるし、接着剤によって接着固定するなど従来用いられている種々の手法で取り付けることができる。
【0030】
既述したとおり、外挿体210を収容孔330に収容することによって、アンカー側部材200は標識側部材300に取り付けられる。このとき、標識側部材300から外れないようにアンカー側部材200を堅固に取り付ける構成にすることが望ましい。そこで
図5に示すように、締付ボルト351を利用してアンカー側部材200を標識側部材300に取り付けるとよい。
図5(a)は締付ボルト351とボルト孔352、標識側部材300を模式的に示す断面図であり、
図5(b)は締付ボルト351を用いて標識側部材300に取り付けられたアンカー側部材200を模式的に示す断面図である。
【0031】
締付ボルト351は、標識側部材300の壁体320を貫通するボルト孔352に螺合される。そのためボルト孔352の内周面には、ネジが刻設されている。そして、外挿体210を収容孔330に収容した状態で締付ボルト351を締め付けていくと、外挿体210外面が締付ボルト351に押し付けられ、すなわちアンカー側部材200は堅固に標識側部材300に取り付けられる。このとき、外挿体210に外周溝211が形成されているときは、この外周溝211に締付ボルト351の先端を当接させるとよい。締付ボルト351の軸方向の力によって外挿体210が押さえ付けられるとともに、締付ボルト351の軸直角方向(
図5(b)では上下方向)における外挿体210のズレが抑制されて好適となる。なお
図5では、1つの締付ボルト351がボルト孔352に螺合される標識側部材300を示しているが、これに限らず2以上の締付ボルト351がボルト孔352に螺合される標識側部材300とすることもできる。
【0032】
標識側部材300にアンカー側部材200が取り付けられた測量用治具100は、アンカーボルトABの先端が磁石312に磁着することによってアンカーボルトABに固定される。ところが、強風など不測の事態によって測量用治具100がアンカーボルトABから抜け落ちることも考えられる。このとき、人の手が届くような低所であれば、改めて測量用治具100をアンカーボルトABに固定することはそれほど難しくない。一方、高所に設置されたアンカーボルトABを対象とする場合、高所作業車を用意したり、新たに足場を組んだりする必要があり、改めて測量用治具100をアンカーボルトABに固定するには相当のコストと時間を要することとなる。
【0033】
そこで
図6に示すように、落下防止用の吊環体360を標識側部材300に取り付けておくとよい。
図6(a)は標識側部材300に吊環体360が取り付けられた測量用治具100を模式的に示す断面図であり、
図6(b)は策材WRが吊環体360を介して吊上げた測量用治具100を模式的に示す断面図である。この図に示すように吊環体360は、ワイヤーロープなどの策材WRを連結するためのリング部が形成されており、例えば台座体310に取り付けることができる。
図6(b)に示すように、測量用治具100がアンカーボルトABに磁着固定されると、上方から垂下した策材WRの下端を吊環体360に連結する。これにより、不測の事態によってアンカーボルトABから抜け落ちたとしても、測量用治具100が地面まで落下することが回避され、容易に測量用治具100をアンカーボルトABに再固定することができるわけである。
【0034】
(測量用治具セット)
アンカー側部材200の挿通孔230は、対象とするアンカーボルトABの外径より若干大きな内径で形成される。ところが、一般的に用いられるアンカーボルトABの外径は27mmや29mm、33mm、36mm、39mm、48mmなど多様である。そのためアンカー側部材200も、アンカーボルトABに応じた複数種類のものを用意しておくことが望ましく、つまりアンカーボルトABの外径に応じた挿通孔230を有する複数種類のアンカー側部材200を用意しておくことが望ましい。
【0035】
これに対して標識側部材300の収容孔330は、外挿体210を収容する内径とすれば足り、アンカーボルトABの外径に応じた内径とする必要はない。そこで、1つの標識側部材300と2以上のアンカー側部材200の組み合わせからなる測量用治具100のセット(以下、単に「測量用治具セット」という。)を用意しておくとよい。ただし、測量用治具セットを構成する2以上のアンカー側部材200には、それぞれ略同一(同一を含む)の外径の外挿体210が形成されるとともに、それぞれ異なる内径の挿通孔230が形成される。もちろん、標識側部材300の収容孔330は、2以上のアンカー側部材200の外挿体210の外径より若干大きな内径で形成される。例えば
図7では、1つの標識側部材300と、挿通孔230の内径が異なる3種類のアンカー側部材200A~200Cの組み合わせからなる測量用治具セットを示している。これにより、対象とするアンカーボルトABの外径に応じて、標識側部材300に取り付けるアンカー側部材200を適宜選択することができるわけである。
【0036】
(単独式測量用治具)
ここまで、アンカー側部材200と標識側部材300からなる測量用治具100について説明してきたが、本願発明の測量用治具100は標識側部材300のみから構成されるもの(以下、「単独式測量用治具」という。)とすることもできる。
図8は、単独式測量用治具を模式的に示す図であり、(a)は上方から見た平面図、(b)はC-C矢視の断面図である。この図に示すように単独式測量用治具は、標識側部材300と概ね同じ構成とされる。ただしその収容孔330には、アンカー側部材200の外挿体210に代えて、アンカーボルトABが直接挿通される。そのため収容孔330は、対象とするアンカーボルトABの外径より若干大きな内径で挿通孔230を形成するとよい。なお単独式測量用治具は、アンカー側部材200を備えていないため締付ボルト351やボルト孔352を備えることはないが、吊環体360を備えたものとすることはできる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本願発明の測量用治具は、橋梁のほか、コンクリート擁壁やコンクリートダム、トンネルの覆工コンクリートなど様々なコンクリート構造物に利用することができる。本願発明が、落橋防止装置といった設備を効率的に設置することができ、ひいては社会資本(インフラストラクチャー)の長寿命化を図ることができることを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0038】
100 本願発明の測量用治具
200 (測量用治具の)アンカー側部材
210 (アンカー側部材の)外挿体
211 (外挿体の)外周溝
220 (アンカー側部材の)フランジ
230 (アンカー側部材の)挿通孔
300 (測量用治具の)標識側部材
310 (標識側部材の)台座体
311 (台座体の)鋼製板
312 (台座体の)磁石
313 (台座体の)ビス
320 (標識側部材の)壁体
330 (標識側部材の)収容孔
340 (標識側部材の)ガイド壁
351 (測量用治具の)締付ボルト
352 (測量用治具の)ボルト孔
360 (測量用治具の)吊環体
AB アンカーボルト
CO コンクリート構造物
TG 測量標識
WR 策材
【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来技術に比して容易にアンカーボルトの先端に設置することができる測量用治具を提供することにある。
【解決手段】本願発明の測量用治具は、コンクリートに埋設されたアンカーボルトの先端に設置される治具であって、アンカー側部材と標識側部材を備えたものである。アンカー側部材には軸方向に貫通する挿通孔が形成され、標識側部材には台座体の下面と壁体の内面に囲まれる収容孔が形成される。外挿体を収容孔に収容することによってアンカー側部材を標識側部材に取り付け、アンカーボルトの先端が磁石に当接するまでアンカーボルトを挿通孔に挿通すると、標識側部材がアンカーボルトに固定される。
【選択図】
図1