(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】光線治療器
(51)【国際特許分類】
A61N 5/06 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
A61N5/06 Z
(21)【出願番号】P 2024155080
(22)【出願日】2024-09-09
【審査請求日】2024-09-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591125393
【氏名又は名称】東京医研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥 啓之
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕和
【審査官】鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-103598(JP,A)
【文献】特開2016-73342(JP,A)
【文献】特開2022-93806(JP,A)
【文献】特開2001-338781(JP,A)
【文献】特開2011-70153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療光を出力する光源と、
前記治療光の設定照射量を入力するための設定入力部と、
前記光源の温度を測定する温度測定部と、
前記治療光の照射開始から所定時間おきにタイミング信号を出力する基準タイマーと、
前記タイミング信号に応じて、前記光源の温度を取得し、前記光源の温度と前記温度における前記光源の光線出力値との対応関係に従って、前記温度測定部が測定した前記光源の温度である測定温度に対応する前記光線出力値である温度補正光線出力値を算出する温度補正光線出力値算出部と、
前記タイミング信号に応じて、前記温度補正光線出力値と前記所定時間との積を累積加算することにより、前記治療光の照射開始からの累積照射量を算出する累積照射量算出部と、
前記タイミング信号に応じて、前記設定照射量と前記累積照射量との差である残り照射量を算出し、前記残り照射量を前記温度補正光線出力値で割ることにより残り照射時間を算出する残り照射時間算出部と、
前記治療光の出力を停止する出力停止部と、を備え、
前記温度補正光線出力値算出部、前記累積照射量算出部、及び前記残り照射時間算出部は、前記所定時間間隔で、一連の算出処理を繰り返し、
前記出力停止部は、前記残り照射時間が前記所定時間よりも短くなった場合に前記治療光の出力を停止する、
光線治療器。
【請求項2】
予め測定した、前記光源の光線出力値の測定値である基準光線出力値と、前記基準光線出力値を測定した時の光源温度である基準温度と、を対応付けて記憶する記憶部を備え、
前記温度補正光線出力値算出部は、前記基準光線出力値を加味して、前記温度補正光線出力値を算出する、
請求項1に記載の光線治療器。
【請求項3】
治療器本体と、
把持可能に構成され、前記治療器本体と電気的に接続される照射プローブと、を備え、
前記治療器本体は、前記設定入力部と、前記基準タイマーと、前記温度補正光線出力値算出部と、前記累積照射量算出部と、前記照射時間算出部と、前記出力停止部と、を有し、
前記照射プローブは、前記光源と、前記温度測定部と、を有する、
請求項1又は2に記載の光線治療器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光線治療器に関する。
【背景技術】
【0002】
近赤外線等の光線を照射することにより、疼痛の緩和等の治療を行う光線治療器が知られている。従来の光線治療器には、光線の照射前や途中において可視光の光量を繰り返し変化させて目に対する安全性を向上させたり、複数の光源から複数の異なる波長を有する光を照射して治療効果を高めようとするもの等、種々のものが知られている。
【0003】
特許文献1は、従来のフィードフォワード方式による制御方法よりも少ないデータ量でありながらも、光源装置毎の個体差を考慮した光出力の制御システムを開示している。特許文献2は、適切な温度下での光線治療をなし得る光線治療器を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2024-034762号公報
【文献】特開2020-130325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に、光線治療器においてLED(Light Emitting Diode)を光源とする場合、LEDは環境温度が上昇すると光量が低下する特性を有する点に注意を要する。LEDの光線出力値は、例えば、常温25℃での出力を100%基準とした場合、60℃では約90%に減衰する。このため、所定の照射量となるよう理論値通りに照射時間を設定した場合であっても、環境温度が高い場合には実際の照射量が所定の照射量よりも少なくなってしまう。
【0006】
具体的には、治療にあたって照射量を1000mJ/cm2に決定した場合であって、LEDの光線出力値が常温25℃で100mW/cm2なら、照射時間は1000/10=10.0秒となる。しかしながら、理論通りに照射時間を10.0秒に設定しても、LEDの環境温度が60℃の場合、光線出力値が90%に減少するため、照射時間10.0秒では実際の照射量は900mJ/cm2となり、当初設定した照射量の90%になってしまうおそれがある。
【0007】
特許文献1の光出力制御システムは、温度に応じた発光量の変動に対処すべく、現時点の環境温度下で目標値に対応する光出力を得るために必要な電流量を決定するが、照射中の温度上昇の影響については考慮されていない。特許文献2の光線治療器においては、光源がLEDである場合については言及がない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、設定照射量を精密に照射できる光線治療器を提供する。
【0009】
本発明は、
治療光を出力する光源と、
前記治療光の設定照射量を入力するための設定入力部と、
前記光源の温度を測定する温度測定部と、
前記治療光の照射開始から所定時間おきにタイミング信号を出力する基準タイマーと、
前記タイミング信号に応じて、前記光源の温度を取得し、前記光源の温度と前記温度における前記光源の光線出力値との対応関係に従って、前記温度測定部が測定した前記光源の温度である測定温度に対応する前記光線出力値である温度補正光線出力値を算出する温度補正光線出力値算出部と、
前記タイミング信号に応じて、前記温度補正光線出力値と前記所定時間との積を累積加算することにより、前記治療光の照射開始からの累積照射量を算出する累積照射量算出部と、
前記タイミング信号に応じて、前記設定照射量と前記累積照射量との差である残り照射量を算出し、前記残り照射量を前記温度補正光線出力値で割ることにより残り照射時間を算出する残り照射時間算出部と、
前記治療光の出力を停止する出力停止部と、を備え、
前記温度補正光線出力値算出部、前記累積照射量算出部、及び前記残り照射時間算出部は、前記所定時間間隔で、一連の算出処理を繰り返し、
前記出力停止部は、前記残り照射時間が前記所定時間よりも短くなった場合に前記治療光の出力を停止する、
光線治療器である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、所定時間ごとに光源の測定温度を取得し、最新の測定温度に対応する温度補正光線出力値を用いて、累積照射量を算出し、残り照射時間を算出することにより、精密に照射停止時間を算定できる。したがって、照射中に光源の温度が変化し光線出力値が変動した場合であっても、リアルタイムで温度補正を行えるので、設定照射量を精密に照射できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る光線治療器の機能ブロック図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る光線治療器の一の製品における、LEDの温度とLEDの光線出力値との対応関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施形態に係る光線治療器が実行する光治療の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施形態に係る光線治療器の三つの製品におけるLEDの温度とLEDの光線出力値との対応関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施形態に係る光線治療器が実行する光治療の具体的な制御の実施例1を示すタイムチャートである。
【
図6】
図6は、実施形態に係る光線治療器が実行する光治療の具体的な制御の実施例2を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて、本発明に係る光線治療器の具体的な実施の形態について詳述する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る光線治療器1の機能ブロック図である。光線治療器1は、各種操作を可能とする治療器本体10と、操作者(ユーザ)が把持可能に構成され、ケーブルによって治療器本体10と電気的に接続される照射プローブ20と、を備える。光線治療器1は、治療光を人体の所定の領域に照射することにより、炎症性鎮痛等各種の疼痛の緩和やその他の治療を行う、いわゆる光線治療を行う装置である。治療光は、治療に用いられる光であり、紫外線及び赤外線を含む。なお、ユーザの例としては、医師、看護師等の専門家が想定される。
【0014】
光線治療において重要な事項は、光線の照射量である。すなわち、どれだけのエネルギーが患部に照射されるかが重要である。照射量は、治療による治療科目(疾患)ごとに定められた作用機序、及び患者の状態により厳密に管理される必要がある。例えば、照射量が過剰になると、副作用によるリスクが脅威となる。一方で、照射量が少ないと、治療効果が得られない可能性がある。
【0015】
本実施形態に係る光線治療器1は、照射量を厳密に管理することにより、当初設定した設定照射量に則した照射を行い、適切な治療効果を患者にもたらす様にすることを図っている。
【0016】
治療器本体10は、例えば樹脂により構成された筐体と、未使用時に照射プローブ20を収納可能な収納部と、各種の操作入力が可能な各種のスイッチ、ボタン、つまみ等を含む操作パネルを有する。照射プローブ20は、操作者が把持し、患者の患部といった所定の領域に当てて光線(治療光)を照射するための装置である。
【0017】
治療器本体10は、設定入力部11と、表示部12と、LED制御部13と、基準タイマー14と、温度補正光線出力値算出部15と、累積照射量算出部16と、残り照射時間算出部17と、照射終了タイマー18(出力停止部)と、記憶部19と、を備える。
【0018】
設定入力部11は、後述するLED21が出力する治療光の設定照射量を入力するために、ユーザが操作可能な部分である。設定入力部11は、例えば、ボタン、スイッチ、つまみ、タッチパネル等、各種のインターフェースを含んでよい。一例として、設定入力部11は、電源ボタンと、操作つまみとを含む。表示部12は、各種の情報を表示し得る表示装置であり、例えば液晶パネルにより構成される。表示部12は、一例として、設定入力部11により入力された治療光の設定照射量、設定照射量に基づいて算出した照射時間、等を表示する。
【0019】
LED制御部13は、設定入力部11からの操作入力を受け付けて、LED21の光出力を制御する制御装置である。LED制御部13は、後述する照射終了タイマー18からLED21に停止信号をも受け付けるとともに、後述する照射プローブ20の照射開始ボタン22からLED21の起動信号をも受け付ける。
【0020】
基準タイマー14は、LED21による治療光の照射開始から所定時間(例えば0.5秒)おきに、操作の基準となるタイミング信号を出力する。
【0021】
温度補正光線出力値算出部15は、基準タイマー14が出力したタイミング信号に応じて、後述する温度測定部23からLED21の温度を取得する。そして、温度補正光線出力値算出部15は、LED21の温度とこの温度におけるLED21の光線出力値との対応関係に従って、温度測定部23が測定したLED21の温度である測定温度に対応する光線出力値である温度補正光線出力値を算出する。LED21の温度とLED21の光線出力値との対応関係は後述する(
図2)。
【0022】
累積照射量算出部16は、基準タイマー14が出力したタイミング信号に応じて、温度補正光線出力値算出部15が算出した温度補正光線出力値と、タイミング信号の間隔である所定時間との積を累積加算することにより、LED21によるの照射開始からの累積照射量を算出する。
【0023】
残り照射時間算出部17は、基準タイマー14が出力したタイミング信号に応じて、設定入力部11から入力された設定照射量と、累積照射量算出部16が算出した累積照射量との差である残り照射量を算出する。更に残り照射時間算出部17は、残り照射量を温度補正光線出力値算出部15が算出した温度補正光線出力値で割ることにより、残り照射時間を算出する。
【0024】
照射終了タイマー18は、残り照射時間算出部17が算出した残り照射時間が、所定時間よりも短くなった場合に、LED21によるの出力を停止する出力停止部として機能する。
【0025】
温度補正光線出力値算出部15、累積照射量算出部16、及び残り照射時間算出部は、所定時間間隔で、一連の算出処理を繰り返し、照射終了タイマー18は、残り照射時間が所定時間よりも短くなった場合にLED21によるの出力を停止する。処理の詳細は後述する(
図3)。
【0026】
記憶部19は、予め測定した、LED21の光線出力値の測定値である基準光線出力値と、基準光線出力値を測定した時の光源温度である基準温度と、を対応付けて記憶するメモリ等の記憶装置である。温度補正光線出力値算出部15は、基準光線出力値を加味して、温度補正光線出力値を算出することができる。
【0027】
照射プローブ20は、LED21と、照射開始ボタン22と、温度測定部23と、を備える。上述した様に、LED21は治療光を出力可能な光源である。本例のLED21は、治療のための紫外線を出力可能な光源である。照射開始ボタン22は、ユーザが治療を開始するにあたって操作可能なボタンであり、ボタンを押圧することにより起動信号を出力し、LED制御部13が起動信号を受け付け、LED21が紫外線を出力するように制御する。
【0028】
温度測定部23は、LED21の温度を測定し、温度補正光線出力値算出部15に出力するセンサである。温度測定部23は、例えばLED21が搭載された基板の温度を検出することにより、LED21の温度を測定する。
【0029】
なお、上述した治療器本体10の機能の一部を照射プローブ20に設けてもよく、照射プローブ20の機能の一部を治療器本体10に設けてもよい。但し、上述したように照射プローブ20がLED21及び温度測定部23を有し、他の機能を治療器本体10が有する構成の光線治療器1によれば、照射プローブ20の軽量化が図れ、ユーザの操作性を向上できる。
【0030】
図2は、実施形態に係る光線治療器1の一の製品Aにおける、LED21の温度(℃)とLED21の光線出力値(mW/cm
2)との対応関係を示すグラフである。LEDの光線出力値は、一般的に、LEDに流れるLED電流と、LEDの温度により、一義的に決定される。LED電流は、製品が出力する電流(実施形態ではLED制御部13により制御された電流)により予め決定されているため、特定の製品においては、LEDの温度に対するLEDの光線出力値は一義的に決定される。
【0031】
また、LEDの温度変化に対する光線出力値の温度変化特性、すなわち、
図2のグラフでの傾きは、特定のLED製品の中ではほぼばらつきが存在しない。そこで、
図2に示す様に、特定の一製品Aについて、予め、所定の基準温度においてLEDの光線出力値を測定し、測定値を基準光線出力値として決定するとともに、基準光線出力値と、基準光線出力値を測定した時の光源温度である基準温度とを対応付ける。
【0032】
点P
Aは基準温度とこの基準温度に対応した基準光線出力値を示す基準点であり、本例では、基準温度20℃、基準光線出力値100mW/cm
2である。基準点と傾き(温度変化特性)より、
図2に示す様な温度と光線出力値の関数が導き出される。温度補正光線出力値算出部15は、この関数により、特定のLEDの温度における、LEDの光線出力値を導き出すことができる。
【0033】
例えば、製品Aの上記関数は、温度が1度上昇するとLEDの光線出力値は0.3%減少することを示す。よって、製品Aの使用により、温度が点PAから点QA、すなわち20℃から30℃に上昇した場合、光線出力値は、点PAの基準光線出力値100mW/cm2でから点QAの97mW/cm2まで減少することが導き出せる。この様な関係は、例えば製品の出荷時に記憶部19に記憶することができる。
【0034】
図3は、実施形態に係る光線治療器1が実行する光治療の手順を示すフローチャートである。ユーザが、設定入力部11を操作して、LED21が出力する紫外線の設定照射量を入力する(ステップS1)。温度補正光線出力値算出部15は、記憶部19に記憶された基準温度、基準光線出力値を含むLED21の温度と光線出力値との対応関係(
図2)を読み出す(ステップS2)。続いて、ユーザが、照射開始ボタン22を操作すると起動信号を出力し、LED制御部13が起動信号を受け付け、LED21が紫外線の出力を開始する(ステップS3)。
【0035】
基準タイマー14は、照射開始ボタン22の操作によりLED21が紫外線の照射開始を検知すると、所定時間(例えば0.5秒)おきに発せられるタイミング信号の出力を開始する(ステップS4)。温度測定部23は、例えばLED21の温度としてLED21の基板の温度を測定する(ステップS5)。
【0036】
温度補正光線出力値算出部15は、記憶部19から読み出した、
図2のLED21の温度と光線出力値との対応関係に基づき、測定温度に対応する温度補正光線出力値を算出する(ステップS6)。すなわち、温度補正光線出力値算出部15は、基準タイマー14が出力したタイミング信号に応じて、温度測定部23が測定したLED21の温度を取得する。そして、温度補正光線出力値算出部15は、
図2の対応関係に従って、温度測定部23が測定したLED21の温度である測定温度に対応する光線出力値である温度補正光線出力値を算出する。
【0037】
累積照射量算出部16は、累積照射量算出部16は、基準タイマー14が出力したタイミング信号に応じて、温度補正光線出力値算出部15が算出した温度補正光線出力値を取得する。更に累積照射量算出部16は、取得した温度補正光線出力値とタイミング信号の間隔である所定時間との積から、単位時間(所定時間)の照射量を算出する(ステップS7)。
【0038】
そして、累積照射量算出部16は、算出した単位時間の照射量を累積加算していくことにより、LED21による紫外線の照射開始からの累積照射量を算出する(ステップS8)。
【0039】
残り照射時間算出部17は、基準タイマー14が出力したタイミング信号に応じて、当初、設定入力部11から入力された設定照射量から累積照射量算出部16が算出した累積照射量を差し引くことにより、残り照射量(=設定照射量-累積照射量)を算出する(ステップS9)。残り照射時間算出部17は、残り照射量を温度補正光線出力値算出部15が算出した温度補正光線出力値、ここでは算出処理の直近の温度補正光線出力値で割ることにより、残り照射時間を算出する(
図3のステップS10)。
【0040】
更に残り照射時間算出部17は、算出した残り照射時間が、基準タイマー14が出力するタイミング信号の間隔である所定時間よりも短いか否かを判定する(ステップS11)。残り照射時間が、所定時間と同じ場合又は所定時間よりも長い場合(ステップS11;No)、基準タイマー14が完了するのを待ち、基準タイマー14による次のタイミング信号の出力を待つ(ステップS12)。そして、温度補正光線出力値算出部15、累積照射量算出部16、及び残り照射時間算出部17は、所定時間間隔で、ステップS4からステップS11の一連の算出処理を繰り返す。
【0041】
一連の算出処理を繰り返すことにより、残り照射時間が所定時間よりも短くなると(ステップS11;Yes)、照射終了タイマー18が起動する(ステップS13)。照射終了タイマー18のタイマー値は、残り照射時間算出部17により算出した残り照射時間に設定する。照射終了タイマー18は、設定した時間の経過を待ち(ステップS14)、タイマーが完了した時点(残り照射時間が0となった時点)でLED21による紫外線の出力を停止する(ステップS15)。すなわち、ステップS11において残り照射時間が所定時間(基準タイマー14の設定値)よりも短い場合、LED21による残り照射時間分の照射を行い、照射を停止することで、紫外線が過剰に照射されることを防止する。
【0042】
本実施形態によれば、所定時間ごとにLED21の測定温度を取得し、最新の測定温度に対応する温度補正光線出力値を用いて、累積照射量を算出し、残り照射時間を算出することにより、精密に照射停止時間を算定できる。したがって、照射中にLED21の温度が変化し光線出力値が変動した場合であっても、リアルタイムで温度補正を行えるので、設定照射量を精密に照射できる。
【0043】
光線治療において、どれだけのエネルギーの光線量が皮膚に照射されるかが重要であり、治療時の「照射量」は、治験による治療科目(疾患)ごとに定められた作用機序、及び、患者の状態により、厳密に管理されなければならない。「照射量」が過剰な場合、副作用が懸念される。一方、「照射量」が少ない場合、治療効果が少なくなる、又は、なくなる可能性がある。
【0044】
このような光線治療において、実施形態に係る光線治療器1を用いることで、設定照射量を精密に照射できるため、光線治療において有効である。
【0045】
図4は、実施形態に係る光線治療器1の三つの製品A、B、Cにおける、LED21の温度(℃)とLED21の光線出力値(mW/cm
2)との対応関係を示すグラフである。製品Aの出荷時において、
図2に示したLED温度とLED光線出力値とを対応付ける関数が、記憶部19は、に記憶される。一方、製品B及び製品Cは、製品Aとは仕様、商品特性等が共通のLED、すなわちグラフの傾き(温度変化特性)が共通するLEDを採用しているが、製品自体が異なるため(具体的にはLED電流が異なるため)、同じ温度であってもLED光線出力値は異なる。
【0046】
そこで、製品B、Cについても、製品Aと同様に、予め、光源の光線出力値の測定値である基準光線出力値と、基準光線出力値を測定した時の光源温度である基準温度とを対応付けた基準点PB、PCを取得するとともに、LED温度とLED光線出力値とを対応付ける関数を取得しておく。それぞれの製品出荷時に、記憶部19が、この関数を記憶しておくことにより、温度補正光線出力値算出部15は、それぞれの製品に応じた温度補正光線出力値を算出することができる。本例では、製品Bの基準点PBは基準温度27℃、基準光線出力値102mW/cm2であり、製品CのPCは基準温度23℃、基準光線出力値96mW/cm2である。
【0047】
これにより、製品個体ごとに、基準光線出力値と基準温度との対応付けが記憶され、基準光線出力値を加味して温度補正光線出力値を算出するので、LED21の光線出力値に個体バラツキが存在する場合であっても、照射量を精密に照射できる。
【0048】
図5は、実施形態に係る光線治療器が実行する光治療の具体的な制御の実施例1を示すタイムチャートである。ユーザは、設定入力部11を操作して、LED21が出力する紫外線の設定照射量を、本例では1000mJ/cm
2に設定する(
図3のステップS1)。温度補正光線出力値算出部15は、記憶部19に記憶された基準温度27℃、基準光線出力値97.0mW/cm
2を含むLED21の温度と光線出力値との対応関係を読み出す(
図3のステップS2)。なお、本例で用いる製品は上述した製品A、B、Cと異なるため、LED21の温度と光線出力値との対応関係は、
図4に示したものとは異なるが、例えば、
図4に示したグラフの傾きと、予め測定された基準温度及び基準光線出力値とを用いて、対応関係を求めることができる。続いて、ユーザが、照射開始ボタン22を操作すると起動信号が出力され、LED制御部13が起動信号を受け付け、LED21が紫外線の出力を開始する(
図3のステップS3)。
【0049】
基準タイマー14は、照射開始ボタン22の操作によりLED21が紫外線の照射開始を検知すると、所定時間、本例では0.5秒おきに発せられるタイミング信号の出力を開始する(
図3のステップS4)。温度測定部23は、例えばLED21の温度としてLED21の基板の温度、本例では24℃を測定する(
図3のステップS5)。
【0050】
温度補正光線出力値算出部15は、記憶部19から読み出した、
図2の様なLED21の温度と光線出力値との対応関係に基づき、測定温度に対応する温度補正光線出力値を算出する(
図3のステップS6)。すなわち、温度補正光線出力値算出部15は、基準タイマー14が出力した0.5秒ごとのタイミング信号に応じて、温度測定部23が測定したLED21の温度を取得する。そして、温度補正光線出力値算出部15は、
図2の様な対応関係に従って、温度測定部23が測定したLED21の温度である測定温度に対応する光線出力値である温度補正光線出力値、本例では97.9mW/cm
2を算出する。
【0051】
累積照射量算出部16は、累積照射量算出部16は、基準タイマー14が出力したタイミング信号に応じて、温度補正光線出力値算出部15が算出した温度補正光線出力値を取得する。更に累積照射量算出部16は、取得した温度補正光線出力値とタイミング信号の間隔である所定時間との積から、単位時間の照射量、本例では、97.9mW/cm
2×0.5秒=49.0mJ/cm
2を算出する(
図3のステップS7)。
【0052】
そして、累積照射量算出部16は、算出した単位時間の照射量を累積加算していくことにより、LED21による紫外線の照射開始からの累積照射量を算出する(
図3のステップS8)。本例では、LED21の照射開始から2.0秒において、累積照射量を算出すると仮定すれば、累積照射量は、0秒~2.0秒までの単位時間の照射量の累積値である49.0+48.8+48.5+48.2=194.5mJ/cm
2である。
【0053】
残り照射時間算出部17は、基準タイマー14が出力したタイミング信号に応じて、当初、設定入力部11から入力された設定照射量から累積照射量算出部16が算出した累積照射量を差し引くことにより、残り照射量(=設定照射量-累積照射量)を算出する(
図3のステップS9)。本例では、1000mJ/cm
2-194.5mJ/cm
2=805.5mJ/cm
2である。残り照射時間算出部17は、残り照射量を、温度補正光線出力値算出部15が算出した温度補正光線出力値、ここでは算出処理の直近の温度補正光線出力値である96.4mW/cm
2で割ることにより、残り照射時間を算出する(
図3のステップS10)。本例では、805.5/96.4=8.36秒である。
【0054】
更に残り照射時間算出部17は、算出した残り照射時間が、基準タイマー14が出力するタイミング信号の間隔である所定時間よりも短いか否かを判定する(
図3のステップS11)。本例では、残り照射時間8.36秒が所定時間0.5秒よりも長いため(
図3のステップS11;No)、基準タイマー14による次のタイミング信号の出力を待つ(
図3のステップS12)。温度補正光線出力値算出部15、累積照射量算出部16、及び残り照射時間算出部17は、所定時間0.5秒間隔で、ステップS4からステップS11の一連の算出処理を繰り返す。
【0055】
一連の算出処理を繰り返すことにより、残り照射時間が少なくなり、所定時間よりも短くなる(
図3のステップS11;Yes)。本例では、一連の算出処理を繰り返すことにより、残り照射時間が0.35秒となり、所定時間0.5秒よりも短くなる。残り照射時間算出部17は、基準タイマー14により照射開始後10.5秒後に出力されたタイミング信号の出力と同時に、照射終了タイマー18を起動する(
図3のステップS13)。照射終了タイマー18は、残り照射時間、本例では0.35秒をカウントしてタイマー完了を待ち(
図3のステップS14)、LED21による紫外線の出力を停止する(
図3のステップS15)。したがって、総照射時間は、10.5+0.35=10.85秒となり、総照射量は、969.7+30.3=1000mJ/cm
2となる。
【0056】
図6は、実施形態に係る光線治療器が実行する光治療の具体的な制御の実施例2を示すタイムチャートである。ユーザは、設定入力部11を操作して、LED21が出力する紫外線の設定照射量を、本例では1000mJ/cm
2に設定する(
図3のステップS1)。温度補正光線出力値算出部15は、記憶部19に記憶された基準温度23℃、基準光線出力値112.6mW/cm
2を含むLED21の温度と光線出力値との対応関係を読み出す(
図3のステップS2)。なお、本例で用いる製品は上述した製品A、B、Cと異なるため、LED21の温度と光線出力値との対応関係は、
図4に示したものとは異なるが、例えば、
図4に示したグラフの傾きと、予め測定された基準温度及び基準光線出力値とを用いて、対応関係を求めることができる。続いて、ユーザが、照射開始ボタン22を操作すると起動信号が出力され、LED制御部13が起動信号を受け付け、LED21が紫外線の出力を開始する(
図3のステップS3)。
【0057】
基準タイマー14は、照射開始ボタン22の操作によりLED21が紫外線の照射開始を検知すると、所定時間、本例では0.5秒おきに発せられるタイミング信号の出力を開始する(
図3のステップS4)。温度測定部23は、例えばLED21の温度としてLED21の基板の温度、本例では30℃を測定する(
図3のステップS5)。
【0058】
温度補正光線出力値算出部15は、記憶部19から読み出した、
図2の様なLED21の温度と光線出力値との対応関係に基づき、測定温度に対応する温度補正光線出力値を算出する(
図3のステップS6)。すなわち、温度補正光線出力値算出部15は、基準タイマー14が出力した0.5秒ごとのタイミング信号に応じて、温度測定部23が測定したLED21の温度を取得する。そして、温度補正光線出力値算出部15は、
図2の様な対応関係に従って、温度測定部23が測定したLED21の温度である測定温度に対応する光線出力値である温度補正光線出力値、本例では110.5mW/cm
2を算出する。
【0059】
累積照射量算出部16は、累積照射量算出部16は、基準タイマー14が出力したタイミング信号に応じて、温度補正光線出力値算出部15が算出した温度補正光線出力値を取得する。更に累積照射量算出部16は、取得した温度補正光線出力値とタイミング信号の間隔である所定時間との積から、単位時間の照射量、本例では、110.5mW/cm
2×0.5秒=55.3mJ/cm
2を算出する(
図3のステップS7)。
【0060】
そして、累積照射量算出部16は、算出した単位時間の照射量を累積加算していくことにより、LED21による紫外線の照射開始からの累積照射量を算出する(
図3のステップS8)。本例では、LED21の照射開始から2.0秒において、累積照射量を算出すると仮定すれば、累積照射量は、0秒~2.0秒までの単位時間の照射量の累積値である55.3+55.1+54.8+54.5=219.7mJ/cm
2である。
【0061】
残り照射時間算出部17は、基準タイマー14が出力したタイミング信号に応じて、当初、設定入力部11から入力された設定照射量から累積照射量算出部16が算出した累積照射量を差し引くことにより、残り照射量(=設定照射量-累積照射量)を算出する(
図3のステップS9)。本例では、1000mJ/cm
2-219.7mJ/cm
2=780.3mJ/cm
2である。残り照射時間算出部17は、残り照射量を、温度補正光線出力値算出部15が算出した温度補正光線出力値、ここでは算出処理の直近の温度補正光線出力値である96.4mW/cm
2で割ることにより、残り照射時間を算出する(
図3のステップS10)。本例では、780.3/109.0=7.16秒である。
【0062】
更に残り照射時間算出部17は、算出した残り照射時間が、基準タイマー14が出力するタイミング信号の間隔である所定時間よりも短いか否かを判定する(
図3のステップS11)。本例では、残り照射時間7.16秒が所定時間0.5秒よりも長いため(
図3のステップS11;No)、基準タイマー14による次のタイミング信号の出力を待つ(
図3のステップS12)。温度補正光線出力値算出部15、累積照射量算出部16、及び残り照射時間算出部17は、所定時間0.5秒間隔で、ステップS4からステップS11の一連の算出処理を繰り返す。
【0063】
一連の算出処理を繰り返すことにより、残り照射時間が少なくなり、所定時間よりも短くなる(
図3のステップS11;Yes)。本例では、一連の算出処理を繰り返すことにより、残り照射時間が0.02秒となり、所定時間0.5秒よりも短くなる。残り照射時間算出部17は、基準タイマー14によるり照射開始後9.5秒後に出力されたタイミング信号の出力と同時に、照射終了タイマー18を起動する(
図3のステップS13)。照射終了タイマー18は、残り照射時間、本例では0.02秒をカウントしてタイマー完了を待ち(
図3のステップS14)、LED21による紫外線の出力を停止する(
図3のステップS15)。したがって、総照射時間は、9.5+0.02=9.52秒となり、総照射量は、997.6+2.4=1000mJ/cm
2となる。
【0064】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0065】
以上により、本開示には少なくとも以下の事項が記載されている。なお、括弧内には、上記した実施形態において対応する構成要素などを示しているが、これに限定されるものではない。
【0066】
(1) 治療光を出力する光源(LED21)と、
前記治療光の設定照射量を入力するための設定入力部(11)と、
前記光源の温度を測定する温度測定部(23)と、
前記治療光の照射開始から所定時間おきにタイミング信号を出力する基準タイマー(14)と、
前記タイミング信号に応じて、前記光源の温度を取得し、前記光源の温度と前記温度における前記光源の光線出力値との対応関係に従って、前記温度測定部が測定した前記光源の温度である測定温度に対応する前記光線出力値である温度補正光線出力値を算出する温度補正光線出力値算出部(15)と、
前記タイミング信号に応じて、前記温度補正光線出力値と前記所定時間との積を累積加算することにより、前記治療光の照射開始からの累積照射量を算出する累積照射量算出部(16)と、
前記タイミング信号に応じて、前記設定照射量と前記累積照射量との差である残り照射量を算出し、前記残り照射量を前記温度補正光線出力値で割ることにより残り照射時間を算出する残り照射時間算出部(17)と、
前記治療光の出力を停止する出力停止部(照射終了タイマー18)と、を備え、
前記温度補正光線出力値算出部、前記累積照射量算出部、及び前記残り照射時間算出部は、前記所定時間間隔で、一連の算出処理を繰り返し、
前記出力停止部は、前記残り照射時間が前記所定時間よりも短くなった場合に前記治療光の出力を停止する、
光線治療器(1)。
【0067】
上記構成によれば、所定時間ごとに光源の測定温度を取得し、最新の測定温度に対応する温度補正光線出力値を用いて、累積照射量を算出し、残り照射時間を算出することにより、精密に照射停止時間を算定できる。したがって、照射中に光源の温度が変化し光線出力値が変動した場合であっても、リアルタイムで温度補正を行えるので、設定照射量を精密に照射できる。
【0068】
(2) 予め測定した、前記光源の光線出力値の測定値である基準光線出力値と、前記基準光線出力値を測定した時の光源温度である基準温度と、を対応付けて記憶する記憶部(19)を備え、
前記温度補正光線出力値算出部は、前記基準光線出力値を加味して、前記温度補正光線出力値を算出する、
(1)に記載の光線治療器。
【0069】
上記構成によれば、製品個体ごとに、基準光線出力値と基準温度との対応付けが記憶され、基準光線出力値を加味して温度補正光線出力値を算出するので、光源の光線出力値に個体バラツキが存在する場合であっても、照射量を精密に照射できる。
【0070】
(3) 治療器本体と、
把持可能に構成され、前記治療器本体と電気的に接続される照射プローブと、を備え、
前記治療器本体は、前記設定入力部と、前記基準タイマーと、前記温度補正光線出力値算出部と、前記累積照射量算出部と、前記照射時間算出部と、前記出力停止部と、を有し、
前記照射プローブは、前記光源と、前記温度測定部と、を有する、
(1)又は(2)に記載の光線治療器。
【0071】
上記構成によれば、照射プローブの軽量化が図れ、ユーザの操作性を向上できる。
【符号の説明】
【0072】
1 光線治療器
10 治療器本体
11 設定入力部
12 表示部
13 LED制御部
14 基準タイマー
15 温度補正光線出力値算出部
16 累積照射量算出部
17 残り照射時間算出部
18 照射終了タイマー(出力停止部)
19 記憶部
20 照射プローブ
21 LED(光源)
22 照射開始ボタン
23 温度測定部
【要約】
【課題】照射中に光源の温度が変化し光線出力値が変動した場合であっても、設定照射量を精密に照射できる。
【解決手段】光線治療器1は、治療光を出力するLED21と、治療光の設定照射量を入力するための設定入力部11と、LED21の温度を測定する温度測定部23と、LED21の温度を取得し、温度測定部23が測定した測定温度に対応する温度補正光線出力値を算出する温度補正光線出力値算出部15と、温度補正光線出力値と所定時間との積を累積加算することにより、累積照射量を算出する累積照射量算出部16と、残り照射量を算出し、残り照射時間を算出する残り照射時間算出部17と、治療光の出力を停止する照射終了タイマー18と、を備える。温度補正光線出力値算出部15、累積照射量算出部16、及び残り照射時間算出部17は、基準タイマー14からのタイミング信号に応じて、所定時間間隔で、算出処理を繰り返す。
【選択図】
図1