IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人信州大学の特許一覧

特許7575649ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体
<>
  • 特許-ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体 図1
  • 特許-ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体 図2
  • 特許-ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体 図3
  • 特許-ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体 図4
  • 特許-ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体 図5
  • 特許-ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体 図6
  • 特許-ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体 図7
  • 特許-ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体 図8
  • 特許-ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体 図9
  • 特許-ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体 図10
  • 特許-ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体 図11
  • 特許-ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体 図12
  • 特許-ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体 図13
  • 特許-ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体 図14
  • 特許-ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体 図15
  • 特許-ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体 図16
  • 特許-ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体 図17
  • 特許-ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体 図18
  • 特許-ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/153 20060101AFI20241023BHJP
   B22F 1/08 20220101ALI20241023BHJP
   B22F 1/10 20220101ALI20241023BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20241023BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
H01F1/153 158
H01F1/153 108
H01F1/153 133
B22F1/08
B22F1/10
B22F3/00 D
B22F3/24 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021130828
(22)【出願日】2021-08-10
(65)【公開番号】P2023025528
(43)【公開日】2023-02-22
【審査請求日】2022-07-14
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「超高周波電力用磁心材料の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】曽根原 誠
(72)【発明者】
【氏名】小池 航太
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】岩間 直純
【審判官】須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-059816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/153
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化熱処理されていないFeSiBNbCuのアモルファス合金の粉末とマトリックス材とを含む混合物を調製する調製工程と、
前記混合物を成形して前記混合物の成形体を作製する成形工程と、
前記成形体を加熱して前記アモルファス合金の粉末を結晶化させる結晶化工程と、を有する、
ナノ結晶磁性材料の製造方法。
【請求項2】
前記結晶化工程における加熱温度が450℃以上600℃以下である、
請求項1に記載のナノ結晶磁性材料の製造方法。
【請求項3】
前記成形工程では、前記混合物をシート状に成形する、
請求項1又は2に記載のナノ結晶磁性材料の製造方法。
【請求項4】
前記成形工程は、前記混合物を塗工する塗工工程を含む、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のナノ結晶磁性材料の製造方法。
【請求項5】
前記成形工程は、前記成形体を厚み方向に加圧する加圧工程を含む、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のナノ結晶磁性材料の製造方法。
【請求項6】
前記成形工程は、複数の前記成形体を積層する積層工程を含む、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のナノ結晶磁性材料の製造方法。
【請求項7】
前記結晶化工程の後に、結晶化した前記成形体に含浸樹脂を含侵させる含浸工程を有する、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のナノ結晶磁性材料の製造方法。
【請求項8】
前記粉末が扁平加工されている、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のナノ結晶磁性材料の製造方法。
【請求項9】
結晶化熱処理されていないFeSiBNbCuのアモルファス合金の粉末とマトリックス材とを含む成形体を結晶化した、
ナノ結晶磁性材料。
【請求項10】
保磁力が2Oe以下である、
請求項9に記載のナノ結晶磁性材料。
【請求項11】
ナノ結晶磁性材料に用いられるナノ結晶磁性材料用成形体であって、
結晶化熱処理されていないFeSiBNbCuのアモルファス合金の粉末とマトリックス材とを含む混合物を成形した、
ナノ結晶磁性材料用成形体
【請求項12】
前記ナノ結晶磁性材料の保磁力が2Oe以下である、
請求項11に記載のナノ結晶磁性材料用成形体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ結晶磁性材料の製造方法、ナノ結晶磁性材料およびナノ結晶磁性材料用成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スイッチング電源の小型化や高効率化に対して磁気部品がボトルネックとなっている。GaNやSiC等のパワー半導体を採用したMHz以上の高周波スイッチング電源の磁心材料として、Ni-Znフェライトが利用されている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
Ni-Znフェライトは、電気抵抗率が高い利点がある一方、熱暴走のリスクや飽和磁束密度が低い欠点を有する。これに対して、飽和磁束密度が高く、高温動作が可能な磁心材料として、扁平金属結晶の圧粉材料を用いる技術がある(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-155055号公報
【文献】特開2017-073447号公報
【文献】特開2017-59816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、扁平金属結晶を用いた磁心材料は、作製工程における扁平加工や圧粉成形の際に粉末の内部に歪みが残留し、保磁力が大きくなる。保磁力の増大はヒステリシス損失の増大や透磁率の低下に繋がるため、保磁力を低減する必要がある。
【0006】
本発明の課題は、飽和磁束密度が高く、保磁力が低い磁性材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るナノ結晶磁性材料の製造方法は、結晶化熱処理されていないFeSiBNbCuのアモルファス合金の粉末とマトリックス材とを含む混合物を調製する調製工程と、前記混合物を成形して前記混合物の成形体を作製する成形工程と、前記成形体を加熱して前記アモルファス合金の粉末を結晶化させる結晶化工程と、を有する。

【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、飽和磁束密度が高く、保磁力が低い磁性材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る磁性材料の製造方法を示す工程図である。
図2】鉄系アモルファス合金の具体例の一覧である。
図3】鉄系アモルファス合金の粉末を作製する工程図である。
図4】鉄系アモルファス合金の粉末のSEM画像である。
図5】結晶化熱処理における加熱時間と加熱温度の関係を示すグラフである。
図6】第2実施形態に係る磁性材料の製造方法を示す工程図である。
図7】結晶化熱処理後のシート成形体に樹脂を含侵する工程図である。
図8】磁性材料の加熱時間と保磁力の関係を示すグラフである。
図9】実施例と参考例の飽和磁化、体積充填率、保磁力、及び透磁率を示す表である。
図10】実施例と参考例の透磁率を示すグラフである。
図11】結晶化熱処理の前後のX線回折強度である。
図12】実施例の結晶化熱処理後のシート成形体のSEM画像である。
図13図12のマトリックス材の部分を拡大したSEM画像である。
図14】参考例のシート成形体のSEM画像である。
図15図13のマトリックス材の部分を拡大したSEM画像である。
図16】シリコーンゴムの化学構造である。
図17】シリコーンゴムの焼成前の質量スペクトルである。
図18】シリコーンゴムの焼成後の質量スペクトルである。
図19】結晶化熱処理後の成形体の質量スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分については、同一のまたは対応する符号を付して説明を省略する場合がある。
【0011】
図1は、第1実施形態に係る磁性材料の製造方法を示す工程図である。本実施形態に係る磁性材料の製造方法は、鉄系アモルファス合金の粉末とマトリックス材とを含む混合物を調製する調製工程を有する。
【0012】
本明細書において、鉄系アモルファス合金は、合金組成に鉄(Fe)を主成分として含む非晶質(元素の配列に規則性がなく無秩序な性質)の合金を示す。マトリックス材は、分散相に対して連続相(母組織)を形成する樹脂成分を示す。
【0013】
調製工程では、図1(A)に示すように、容器Cに、鉄系アモルファス合金の粉末10、マトリックス材20、及び溶剤30を入れ、撹拌(または混練)して混合物40を作製する。混合物の態様は、特に限定されず、例えば、粉体にマトリックス材が含侵した粉末の状態、粉体がマトリックス材に分散したスラリー(ペースト)の状態などである。
【0014】
鉄系アモルファス合金に含まれる鉄(Fe)以外の元素としては、Cr、Co、Ni、Zr、Nb、Hf、Pd、Cu、希土類元素及びこれらの合金が挙げられる。これらの中でも、一軸磁気異方性を誘導しやすくする点で、Pd、Co、Ni、希土類元素及びこれらの合金が好ましい。また、アモルファスを形成する点で、Si、B、Pが好ましい。
【0015】
これらの鉄(Fe)以外の元素は、1種でもよく、また2種以上が含まれていてよい。
【0016】
図2は、鉄系アモルファス合金の具体例の一覧である。本実施形態では、図2に示されるFe73.5Si13.5NbCuなど鉄系アモルファス合金が低保磁力であることから好適に用いられる。
【0017】
鉄系アモルファス合金の粉末10を作製する態様は、特に限定されない。鉄系アモルファス合金の粉末10は、例えば、図3に示す工程で作製することができる。
【0018】
図3に示す鉄系アモルファス合金の作製工程では、まず、鉄系アモルファス合金の薄帯11を用意する(図3(A))。鉄系アモルファス合金の薄帯11は、例えば、組成がFe-Si-B-Nb-Cu、厚みが5μm~30μm(本実施形態では、厚み18μm)のものを用いる。
【0019】
この薄帯11を約400℃で3時間加熱して薄帯11の脆化処理を行うと、鉄系アモルファス合金の薄片12が得られる(図3(B))。次に、この薄片12を粉砕して、150μm未満(本実施形態では、約18μm)の粉末13にする(図3(C))。なお、鉄系アモルファス合金の粉末13は、本実施形態における鉄系アモルファス合金の粉末の一例である。
【0020】
粉末13は、さらに扁平加工を施し、鉄系アモルファス合金の扁平粉末14にするのが好ましい(図3(D))。扁平粉末14は、厚みが約2~3μmである。扁平粉末14は、図4のSEM画像に示されるように、サブミクロンの厚みで薄い平板状に扁平加工されている。扁平粉末14は、鉄系アモルファス合金の粉末の他の一例である。
【0021】
扁平粉末14の厚さは、粉末13をボールミル、振動ミル等で扁平加工する際の条件で調整できる。扁平加工の条件としては、例えば、ボールミルの場合は、ポット回転速度、加工時間等であり、振動ミルの場合は、振動周波数、振動変位、加工時間等である。なお、扁平粉末の厚さは薄い方がうず電流損を小さくできるので、最終の圧粉磁心の使用周波数によって、適宜、扁平粉末の厚さを選択すればよい。
【0022】
なお、扁平粉末14は、面内方向の反磁界効果を低減でき高い透磁率を有することから、10MHz~数百MHz、1GHzといった高周波帯域において使用することができる。そのため、本実施形態における鉄系アモルファス合金の粉末は、高周波領域で使用することができるリアクトルやトランス用の磁性材料(磁心材料)が得られる点で、扁平加工が施された後の粉末(扁平粉末14)を用いるのが好ましい。
【0023】
鉄系アモルファス合金の粉末10(扁平粉末14)の配合量は、特に限定されず、用途に応じて定められる。本実施形態では、鉄系アモルファス合金の配合量としては、例えば、60~90質量%であり、好ましくは65~85質量%、より好ましくは70~80質量%である。
【0024】
マトリックス材20の成分は、特に限定されないが、例えば、シリコーン、エポキシ等の樹脂材料、水ガラス等の無機材料を用いることができる。これらの中でも、機械的強度を向上させる点で、樹脂材料が好ましく、シリコーンがより好ましく、主剤と硬化剤とを混合する二液型のシリコーンゴムがさらに好ましい。
【0025】
マトリックス材20の配合量は、鉄系アモルファス合金の粉末10とマトリックス材とを含む混合物を作製できるものであれば、特に限定されない。マトリックス材の配合量としては、例えば、10~40質量%にすることができ、より好ましくは15~35質量%さらに好ましくは20~30質量%である。
【0026】
溶剤30は、目的に応じて任意に添加される。本実施形態では、マトリックス材20の希釈剤として溶剤30が添加される。溶剤30の成分は、特に限定されず、例えば、有機溶剤であり、好ましくは、マトリックス材20と相溶性のあるトルエン等が用いられる。
【0027】
溶剤30の添加量は、特に限定されず、例えば、マトリックス材の配合量に対して5~15倍の量であり、好ましくは7~13倍の量、より好ましくは9~11倍の量である。
【0028】
本実施形態では、マトリックス材20として液状のシリコーンゴムの主剤と硬化剤を1:1で混合し、1000rpmで2分、真空で撹拌し、これに溶剤(希釈剤)30としてトルエンを添加し、撹拌しながら、鉄系アモルファス合金の粉末10を加え、1000rpmで2分、撹拌して、混合物40を作製した。
【0029】
本実施形態に係る磁性材料の製造方法は、鉄系アモルファス合金の粉末とマトリックス材とを含む混合物を成形して混合物の成形体を作製する成形工程を有する。
【0030】
成形工程は、図1(B)に示すように、混合物40をシート状に成形する。具体的には、混合物を塗工する塗工工程を含む。塗工工程では、印刷機51を用いて、メタルマスク52上に混合物40をシート状に印刷してシート50を作製する。本実施形態では、寸法が縦約6cm、横約7cmのシート50を作製した。作製したシート50は、約40℃で20分、乾燥して、シート50に含まれる余分な溶剤30を揮発させる。
【0031】
また、成形工程は、図1(C)に示すように、成形体を厚み方向に加圧する加圧工程を含む。加圧工程では、プレス機61を用いて、シート50を厚み方向に加圧し、シート状の成形体60を得る。本実施形態では、シート50をプレス機61に挟み、40℃、2t/分で15tまで昇圧し、40℃、15tで10分保持し、その後100℃まで昇温し、80℃、15tで2時間保持して、シート状の成形体60を得た。
【0032】
さらに、成形工程は、複数の成形体を積層する積層工程を含むことが好ましい。積層工程では、複数のシート50を積層した積層体を、プレス機61を用いて、積層体の積層方向に加圧し、成形体60の積層体を得る。
【0033】
なお、複数のシート50は、図1(B)に示す塗工工程を繰り返すことで得られる。
【0034】
また、成形体60の積層体は、複数のシート状の成形体60を積層して加圧したものでもよい。この場合は、複数のシート状の成形体60は、図1(B)に示す塗工工程と、図1(C)に示す加圧工程を繰り返すことで得られる。
【0035】
本実施形態に係る磁性材料の製造方法は、成形体を加熱して成形体に含まれる鉄系アモルファス合金の粉末を結晶化させる結晶化工程を有する。本明細書において、結晶化は、成形体に含まれる鉄系アモルファス合金の粉末が、ナノ結晶に変化することを示す。ここで、ナノ結晶は、粒径が約数nm~数十nmの結晶体であり、結晶全体中で結晶粒界の体積が少なくとも10%の割合を占める結晶を示す。
【0036】
結晶化工程では、図1(D)に示すように、マッフル炉等の加熱炉(図示せず)内で、シート状の成形体60に含まれる鉄系アモルファス合金の粉末10が結晶化するまでシート状の成形体60(またはシート状の成形体60の積層体)を加熱する。
【0037】
結晶化工程における加熱温度は、シート状の成形体60に含まれる鉄系アモルファス合金の粉末10が結晶化する温度であれば、特に限定されない。結晶化工程における加熱温度としては、例えば、450℃以上600℃以下であることが好ましく、より好ましくは480℃以上570℃以下、さらに好ましくは500℃以上550℃以下である。
【0038】
本実施形態では、上述の加熱炉にシート状の成形体60(またはシート状の成形体60の積層体)を設置する。加熱炉内を、図5に示すように、室温から5℃/分で500~575℃(本実施形態では、515℃)まで昇温し、515℃で45分保持した後、室温まで炉冷(冷却)する。これにより、シート状の成形体60に含まれる鉄系アモルファス合金の粉末10が結晶化された結晶化成形体70が得られる(図1(D)参照)。
【0039】
なお、結晶化工程における加熱は、磁界中で行う磁界中熱処理であってもよい。鉄系アモルファス合金の粉末に一軸磁気異方性を付与できる合金組成を選択し、磁化困難軸方向に磁界を作用させることによって高周波でさらに高い透磁率を得ることができるからである。加熱時に印加する磁界の強さは、鉄系アモルファス合金の粉末の保磁力の5倍以上あればよい。
【0040】
また、鉄系アモルファス合金の粉末は、上述のように扁平粉末にするのが好ましいが、扁平粉末であることに限定されない。加熱して結晶化することができれば形状は何でもあってよく、例えば、アトマイズ法等によって作製した球形状の鉄系アモルファス合金の粉末を用いてもよい。
【0041】
このようにして得られた結晶化成形体70は、本実施形態の磁性材料の一例である。すなわち、本実施形態に係る磁性材料は、上述の第1実施形態に係る製造方法により得られ、鉄系アモルファス合金の粉末とマトリックス材とを含む成形体において鉄系アモルファス合金の粉末を結晶化した磁性材料である。
【0042】
言い換えると、本実施形態に係る磁性材料は、鉄系アモルファス合金の粉末とマトリックス材とを含む混合物を成形した結晶磁性材料である。このように結晶化された磁性材料(結晶磁性材料)は、保磁力が2Oe以下となる。
【0043】
同様の方法は、樹脂バインダと潤滑剤で混錬して表面処理した扁平または球形のFe系アモルファス粉末を金型プレス成形して作製される圧粉磁心にも適用できる。図6は、第2実施形態に係る磁性材料の製造方法を示す工程図である。図6において、図1と共通する部分については、図1に付した符号の数に100を加えた数の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0044】
第2実施形態に係る磁性材料の製造方法では、図6(A)に示すように、鉄系アモルファス合金の粉末110、マトリックス材120、及び溶剤130を混練して得られた混合物140を作製する。マトリックス材120としては、エポキシ樹脂を用いる。エポキシ樹脂の配合量は、鉄系アモルファス合金粉末100質量%に対して、0.05~10質量%であり、好ましくは0.1~6質量%である。溶剤130としては、潤滑剤を用いる。
【0045】
得られた混合物140を、図6(B)に示すように、プレス成形用の金型150を用いてプレス成形する。具体的には、金型150の成形容器152に充填した混合物140を押圧子151で押圧する(図6(B))。
【0046】
得られたプレス成形体を80℃で2時間、加熱(焼成)してドーナツ型の成形体160を得る(図6(C))。得られた成形体160は、マッフル炉等の加熱炉(図示せず)内で、成形体160に含まれる鉄系アモルファス合金の粉末110が結晶化するまで成形体160を加熱すると、成形体160に含まれる鉄系アモルファス合金の粉末110が結晶化された結晶化成形体170が得られる(図6(D)参照)。
【0047】
このようにして得られた結晶化成形体170は、本実施形態の磁性材料の他の一例である。すなわち、本実施形態に係る磁性材料は、上述の第2実施形態に係る製造方法により得られ、鉄系アモルファス合金の粉末とマトリックス材とを含む成形体において鉄系アモルファス合金の粉末を結晶化した磁性材料である。このようにして得られた磁性材料も、鉄系アモルファス合金の粉末とマトリックス材とを含む混合物を成形した結晶磁性材料であり、保磁力が2Oe以下となる。
【0048】
本実施形態に係る磁性材料の製造方法は、結晶化工程の後に、鉄系アモルファス合金の粉末が結晶化した成形体に含浸樹脂を含侵させる含浸工程を有することが好ましい。以下、図1に示す第1実施形態に係る製造方法で得られた磁性材料(結晶化成形体70)を用いる場合の含浸工程について説明する。
【0049】
含浸工程では、図7(A)、(B)に示すように、結晶化工程で結晶化熱処理された結晶化成形体70を、1/3気圧まで減圧した容器T中で含浸樹脂80に60分浸し、結晶化成形体70に含浸樹脂80を含侵させる。含浸樹脂80が含侵した結晶化成形体70は、マッフル炉等の加熱炉(図示せず)に入れ、80℃で2時間焼成し、図7(C)に示すように、樹脂含浸成形体90が得られる。
【0050】
含浸樹脂の成分は、特に限定されないが、例えば、シリコーン、エポキシ等の樹脂材料、水ガラス等の無機材料を用いることができる。これらの中でも、機械的強度を向上させる点で、樹脂材料が好ましく、シリコーンがより好ましく、主剤と硬化剤との二液型のシリコーンゴムがさらに好ましい。このようにして得られた樹脂含浸成形体90は、本実施形態の磁性材料の他の一例である。
【0051】
なお、含浸工程で用いられる磁性材料は、第1実施形態の製造方法で得られた磁性材料(結晶化成形体70)に限定されず、図6に示す第2実施形態の製造方法で得られた磁性材料(結晶化成形体170)を用いてもよい。含浸工程で用いられる磁性材料として第2実施形態の製造方法で得られた磁性材料(結晶化成形体170)を用いる場合は、例えば、含浸樹脂80が含侵した結晶化成形体170は、60℃で5時間加熱(焼成)する。
【0052】
本実施形態の製造方法により得られた磁性材料として結晶化成形体70の加熱温度と保磁力の関係を確認した。図8に示すように、結晶化工程における加熱温度を500℃~545℃のとき、得られた結晶化成形体70の保磁力は1.0Oe(80A/m)~1.3Oeであった。
【0053】
この保磁力は、上述の鉄系アモルファス合金の粉末10(扁平粉末14)を、本実施形態における結晶化熱処理の加熱温度と同じ温度(515℃)で加熱して得られたナノ結晶合金扁平粉末の保磁力(0.7Oe)と同じレベルであった。
【0054】
本実施形態に係る磁性材料の製造方法では、上述のように、鉄系アモルファス合金の粉末とマトリックス材とを含む混合物を成形した成形体を加熱して鉄系アモルファス合金の粉末を結晶化させることで、成形時の鉄系アモルファス合金の粉末内部の歪みを最後の結晶化熱処理で除去することができる。これにより、得られる磁性材料では、ヒステリシス損が低下し、保磁力を低減させることができる。
【0055】
そのため、本実施形態の製造方法によれば、得られた磁性材料が、高飽和磁束密度であっても、保磁力を低減することができる。これにより、得られた磁性材料では、リアクトルやトランスに利用することができる。
【0056】
また、本実施形態に係る磁性材料の製造方法では、上述のように、結晶化工程における加熱温度を450℃以上600℃以下にすることで、成形体に含まれる鉄系アモルファス合金の粉末が十分に結晶化される。そのため、本実施形態によれば、得られた磁性材料の保磁力を高い精度で低減することができる。
【0057】
本実施形態に係る磁性材料の製造方法では、上述のように、成形工程で混合物をシート状に成形することで、シート状に成形された磁性材料の端面に生じた磁極が、隣り合った磁性粉末の対向する磁極と打ち消し合い、反磁界を小さくするように作用することができる。そのため、得られる磁性材料では、反磁界の減少によって集合状態にある磁性粉末の実効透磁率は単体状態の実効透磁率より高くなり、保磁力を低減させることができる。
【0058】
本実施形態に係る磁性材料の製造方法では、上述のように、成形工程に、混合物を塗工する塗工工程が含まれることで、鉄系アモルファス合金の粉末とマトリックス材とを混合した混合物をシート状に形成することが容易になる。
【0059】
なお、塗工工程では、混合物に含まれる鉄系アモルファス合金の粉末内部に歪みが生じ、得られた磁性材料の保磁力が上昇する可能性があるが、上述の結晶化工程により、この歪みは解消され、保磁力の上昇を抑制することができる。
【0060】
本実施形態に係る磁性材料の製造方法では、上述のように、成形工程に、成形体を厚み方向に加圧する加圧工程が含まれることで、鉄系アモルファス合金の粉末が緻密に含まれる成形体を成形することができる。また、加圧工程が含まれる成形工程の後の結晶化熱処理により、加圧工程で生じた鉄系アモルファス合金の粉末内部の歪みを除去することができる。そのため、保磁力を低減しながら、飽和磁束密度を高くすることができる。
【0061】
本実施形態に係る磁性材料の製造方法では、上述のように、成形工程に、複数の成形体を積層する積層工程が含まれることで、シート状に成形された磁性材料の厚みを増加させることができる。これにより、保磁力を低減しながら、飽和磁束密度を高くすることができる。また、シート状に成形された磁性材料の厚みを調整することができるため、磁性材料の実装が容易になる。
【0062】
本実施形態に係る磁性材料の製造方法では、上述のように、結晶化工程の後に、鉄系アモルファス合金の粉末が結晶化した成形体に含浸樹脂を含侵させる含浸工程を有することで、成形体として得られた磁性材料の機械的強度を高めることができる。
【0063】
実施形態に係る磁性材料の製造方法では、一軸磁気異方性の誘導に有効な元素組成を持つ鉄系アモルファス合金の粉末のナノ結晶化の熱処理の際に磁界を印加することで、得られた磁性材料に一軸磁気異方性を付与することができる。一軸磁気異方性が付与された磁性材料は、ナノ結晶化熱処理の印加磁界と平行な方向が磁化容易軸方向、磁化容易軸方向と直交する方向が磁化困難軸方向となる。
【0064】
このような一軸磁気異方性が付与された磁性材料では、磁化困難軸方向に磁界を作用させることで、高周波帯域(例えば、10MHz~数百MHz)でも透磁率が劣化しにくい。そのため、実施形態の製造方法で得られた磁性材料は、保磁力を低減しながら、高飽和磁束密度で、しかもMHz以上の高周波帯域で使用することができる。
【0065】
本実施形態の磁性材料は、上述のように、鉄系アモルファス合金の粉末が混合したマトリックス材をシート状に成形した成形体に含まれる鉄系アモルファス合金の粉末を結晶化してなる磁性材料であり、上述の製造方法によって得られるため、上述の磁性材料の製造方法で得られる効果がそのまま得られる。
【0066】
すなわち、本実施形態の磁性材料は、結晶化された磁性材料(結晶磁性材料)であり、高飽和磁束密度であっても、ヒステリシス損が低く、透磁率が高いことで、保磁力が2Oe以下と低いものとなる。そのため、本実施形態の磁性材料は、リアクトルやトランスに好適に利用することができる。
【実施例
【0067】
以下、本実施形態について、さらに実施例を用いて説明する。また、各種の試験及び評価は、下記の方法に従う。
【0068】
[実施例]
マトリックス材として二液型シリコーンゴム(信越化学工業社製、KE-1031、主剤と硬化剤を1:1の割合で配合)を混合し、1000rpmで2分、真空で撹拌し、これに溶剤(希釈剤)30としてトルエンを添加し、撹拌しながら、鉄系アモルファス合金の粉末として扁平加工されたFe73.5Si13.5NbCuの粉末を加えて混練し、混合物を調製した。
【0069】
調製した混合物を、印刷機(ミタニマイクロニクス社製、MEC-2400E15A)を用いてシート状に印刷し、複数のシートを作製した。作製した複数のシートを厚み方向に重ね(積層し)た。これをプレス機(アズワン社製、1t-15t HC300-15)に挟み、40℃、2t/分で15tまで昇圧し、40℃、15tで10分保持し、その後100℃まで昇温し、80℃、15tで2時間保持してシート成形体を得た。
【0070】
シート成形体をマッフル炉(デジタルハイデンタル社製、KDF-009G)に入れ、炉内を室温から5℃/分で515℃まで昇温し、515℃で45分保持した後、室温まで炉冷(冷却)して、成形体を得た。
【0071】
[参考例]
実施例と同じ扁平加工された鉄系アモルファス合金の粉末をマッフル炉(デジタルハイデンタル社製、KDF-009G)に入れ、炉内を室温から5℃/分で515℃まで昇温し、515℃で45分保持した後、室温まで炉冷(冷却)して、扁平加工された鉄系結晶合金の粉末を得た。
【0072】
この粉末とマトリックス材として二液型シリコーンゴム(信越化学工業社製、KE-1031、主剤と硬化剤を1:1の割合で配合)を混合して混合物を調製した。調整した混合物を、印刷機(ミタニマイクロニクス社製、MEC-2400E15A)を用いて、フィルム上にシート状に印刷して複数のシートを作製した。
【0073】
複数のシートを積層し、プレス機(アズワン社製、1t-15t HC300-15)に挟み、40℃、2t/分で15tまで昇圧し、40℃、15tで10分保持し、その後100℃まで昇温し、80℃、15tで2時間保持して成形体を得た。
【0074】
<飽和磁化Ms>
振動試料型磁力計(理研電子社製、BHV-55)を用い、10kOeの磁界を印加して、静磁化特性として飽和磁化(飽和磁束密度)Msを測定した。実施例、参考例ともに、0.45T以上の飽和磁化を示した(図9参照)。
【0075】
<体積充填率>
成形体における鉄系アモルファス合金の粉末の体積充填率(vol.%)を確認した。実施例、参考例ともに約40体積%であった。
【0076】
<保磁力Hc>
保磁力計(電子磁気工業社製、HC-1031)を用い、3kOe磁界を印加して、静磁化特性としてシートの面内方向の保磁力Hcを測定した。保磁力Hcは、十分に磁気飽和するだけの大きな磁界を印加した後にゆっくりと(準静的)磁界を減じ、磁化がゼロとなる時の負方向の磁界の値である。参考例の保磁力が5.8Oeであるのに対して、実施例の保磁力は1.0Oeと低いものであった(図9参照)。
【0077】
<透磁率μ'>
インピーダンス分析装置(アジレントテクノロジー社製、プレジョン・インピーダンス・アナライザ4294A)を用いて、透磁率μ'を測定した。
【0078】
図10は、実施例と参考例の透磁率を示すグラフである。図10において、Aは、実施例の透磁率の実部μ'、Bは、参考例の透磁率の実部μ'、Cは実施例の透磁率の虚部μ"、Dは参考例の透磁率の虚部μ"を示す。1MHz当たりの透磁率μ'を比較すると、参考例の透磁率が59であるのに対して、実施例の透磁率は209と高いものであった(図9、10参照)。
【0079】
<X線回折強度>
X線回折装置(Rigaku社製、RINT(登録商標))を用いて、実施例における結晶化熱処理前の成形体と結晶化熱処理後の成形体のX線回折(XRD)強度を測定した。
【0080】
図11より、結晶化熱処理前の成形体(図11下段)では、α鉄の110面にピークが確認されなかった。一方、結晶化熱処理後の成形体(図11上段)では、α鉄の110面にピークが確認された。すなわち、実施例の成形体は、熱処理により鉄系アモルファス合金の粉末が結晶化された成形体であることが確認された。
【0081】
<SEM画像>
電界放射走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、SU8000)を用いて、SEM画像を撮影した。図12は、実施例の成形体のSEM画像、図13は、実施例の成形体(マトリックス材の部分)のSEM画像、図14は、参考例の成形体のSEM画像、図15は、参考例の成形体(マトリックス材の部分)のSEM画像である。
【0082】
実施例、参考例ともに、鉄系アモルファス合金の粉末は結晶化されているが、参考例では、マトリックス材が非晶質の状態であるのに対して、実施例では、マトリックス材が結晶化されていることが確認された。
【0083】
<質量分析>
飛行時間型二次イオン質量分析装置(ION-TOF社、5-ADSD-100)を用いて、質量分析を行った。図16は、標準試料として用いたシリコーンゴムの化学構造(コイル状のヘリックス構造)である。図17は、図16の標準試料の硬化後(焼成前)のスペクトル、図18は、図17の標準試料を515℃で45分焼成した後のスペクトル、図19は、実施例のスペクトルを示す。
【0084】
図17図18を示すように、焼成後の標準試料では、環状シロキサンの大部分が開裂し、低分子環状シロキサンが生成され、焼成前の環状シロキサンが一部残っている。また、図18図19に示すように、実施例の組成には、焼成後の標準試料の組成が含まれることが確認された。なお、参考例のスペクトルは示していないが、参考例の組成は、図17の焼成前の標準試料の組成が含まれるものであった。
【0085】
これらの結果から、実施例では、鉄系アモルファス合金の粉末とマトリックス材とを混合した混合物を成形した成形体を加熱して鉄系アモルファス合金の粉末を結晶化させることで、得られた磁性材料が、高飽和磁束密度であっても、保磁力を低減できることが判る。
【0086】
また、実施例では、鉄系アモルファス合金の粉末が扁平加工されていることで、得られた磁性材料は、保磁力を低減しながら、高飽和磁束密度で、しかもMHz以上の高周波帯域で使用できることが判る。
【0087】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0088】
10、110 鉄系アモルファス合金の粉末
11 薄帯
12 薄片
13 粉末
14 扁平粉末
20、120 マトリックス材
30、130 溶剤
40、140 混合物
C 容器
50 シート
51 印刷機
52 メタルマスク
60、160 成形体
61 プレス機
70、170 結晶化成形体
T 容器
80 含浸樹脂
90 樹脂含浸成形体
150 金型
151 押圧子
152 成形容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19