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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/13 20060101AFI20241023BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
B60C11/13 B
B60C11/12 D
B60C11/12 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020165320
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057194
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増山 達也
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-504801(JP,A)
【文献】特表2018-529565(JP,A)
【文献】国際公開第2020/128235(WO,A1)
【文献】特表2013-505874(JP,A)
【文献】特開2002-211211(JP,A)
【文献】特開2009-255765(JP,A)
【文献】特開2001-130227(JP,A)
【文献】特表2017-505261(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0227883(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0001478(US,A1)
【文献】国際公開第2022/043508(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/13
B60C 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部にタイヤ周方向に延在する周方向溝を有し、
前記周方向溝は、前記トレッド部の表面に開口する細溝部と、溝底に前記細溝部よりも溝幅が拡幅した拡幅部とを備え、
前記細溝部の溝幅W1と前記拡幅部の最大溝幅W2との溝幅比(W2/W1)が1.5≦(W2/W1)≦4.0の範囲にあり、
前記周方向溝の最大溝深さの50%の深さ位置で該周方向溝を二分割した際に、タイヤ子午断面における溝底側断面積A2と溝開口側断面積A1との断面積比(A2/A1)が1.2≦(A2/A1)≦4.0の範囲内にあり、かつ、前記拡幅部の拡幅開始点の高さ位置を変化させるとともに該拡幅部の高さを変化させることで前記断面積比(A2/A1)が前記タイヤ周方向に沿って変化することを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
前記周方向溝は、前記トレッド部の表面からの溝深さが前記最大溝深さの30%未満の領域で、前記細溝部の溝幅W1が1.0mm≦W1≦4.0mmの範囲にある請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記周方向溝は、前記拡幅部の最大溝幅W2が3.0mm≦W2≦8.0mmの範囲にある請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項4】
複数の前記周方向溝により区画された陸部を備え、前記陸部は、前記周方向溝と交差する複数のラグ溝またはサイプにより分断されたブロックを有し、
前記周方向溝は、タイヤ周方向における前記ブロックのピッチ長さの範囲内に、前記断面積比(A2/A1)が変化する際の極大値及び極小値を少なくとも1つずつ有する請求項1~3のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記トレッド部に前記周方向溝に開口する複数のラグ溝またはサイプを有し、
前記ラグ溝または前記サイプが開口する開口部における前記拡幅部をタイヤ子午断面で切った第1断面積S1は、隣接する一対の前記開口部のタイヤ周方向の中間部における前記拡幅部を該タイヤ子午断面で切った第2断面積S2よりも小さい請求項1~4のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記第2断面積S2と前記第1断面積S1との比(S2/S1)が1.2≦(S2/S1)≦2.5である請求項5に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記第1断面積S1は前記拡幅部の最小断面積であり、複数の前記第2断面積S2のうち少なくとも1つが前記拡幅部の最大断面積である請求項5または6に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記周方向溝は、前記拡幅部の拡幅開始位置が前記最大溝深さの30%以上65%以下の範囲内で変位する請求項1~7のいずれか一項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝底に溝幅が拡幅した拡幅部を有する周方向溝を備えるタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、トレッド部表面の溝開口よりも溝底の溝幅を拡幅して円筒状または球状の拡幅部(空間部)が形成された溝を有するタイヤが知られている(例えば、特許文献1参照)。この種の拡幅部が形成された溝を有するタイヤは、溝容積を確保することで排水性に優れるため、雨天時のような濡れた路面走行時のウエットトラクション性能に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3110847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、転がり抵抗係数(RRC;Rolling Resistance Coefficient)を改善するために、複数の周方向溝により区画されたリブ列をラグ細溝やサイプで分断したリブ基調のブロックパターンとし、さらには、周方向溝を細溝としてセンター部にブロック列を集中して配置するトレッド部の構成が模索されている。一方で、周方向溝を細溝とした構成では溝容積が減少して排水性が悪化するため、特許文献1のような拡幅部を周方向溝の溝底に設けて排水性を向上させる構成が想定される。
【0005】
しかし、この構成ではトレッド部の摩耗が進行すると、摩耗中期で周方向溝の拡幅部がタイヤ周方向に亘って、一気に露出するためにウエットトラクション性能が急激に変化してしまう問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、転がり抵抗を低減しつつ、安定したウエットトラクション性能を発揮できるタイヤの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るタイヤは、トレッド部にタイヤ周方向に延在する周方向溝を有し、周方向溝は、トレッド部の表面に開口する細溝部と、溝底に該細溝部よりも溝幅が拡幅した拡幅部とを備え、細溝部の溝幅W1と拡幅部の最大溝幅W2との溝幅比(W2/W1)が1.5≦(W2/W1)≦4.0の範囲にあり、周方向溝の最大溝深さの50%の深さ位置で該周方向溝を二分割した際に、タイヤ子午断面における溝底側断面積A2と溝開口側断面積A1との断面積比(A2/A1)が1.2≦(A2/A1)≦4.0の範囲内にあり、かつ、断面積比(A2/A1)がタイヤ周方向に沿って変化することを特徴とする。
【0008】
上記したタイヤにおいて、周方向溝は、トレッド部の表面からの溝深さが最大溝深さの30%未満の領域で、細溝部の溝幅W1が1.0mm≦W1≦4.0mmの範囲にあることが好ましい。
【0009】
また、上記したタイヤにおいて、周方向溝は、拡幅部の最大溝幅W2が3.0mm≦W2≦8.0mmの範囲にあることが好ましい。
【0010】
また、上記したタイヤにおいて、複数の周方向溝により区画された陸部を備え、陸部は、周方向溝と交差する複数のラグ溝またはサイプにより分断されたブロックを有し、周方向溝は、タイヤ周方向におけるブロックのピッチ長さの範囲内に、断面積比(A2/A1)が変化する際の極大値及び極小値を少なくとも1つずつ有することが好ましい。
【0011】
また、上記したタイヤにおいて、トレッド部に周方向溝に開口する複数のラグ溝またはサイプを有し、ラグ溝またはサイプが開口する開口部近傍における拡幅部をタイヤ子午断面で切った第1断面積S1は、隣接する一対の開口部のタイヤ周方向の中間部における拡幅部を該タイヤ子午断面で切った第2断面積S2よりも小さいことが好ましい。
【0012】
また、上記したタイヤにおいて、第2断面積S2と第1断面積S1との比(S2/S1)が1.2≦(S2/S1)≦2.5であることが好ましい。
【0013】
また、上記したタイヤにおいて、第1断面積S1は拡幅部の最小断面積であり、複数の第2断面積S2のうち少なくとも1つが拡幅部の最大断面積であることが好ましい。
【0014】
また、上記したタイヤにおいて、周方向溝は、拡幅部の拡幅開始位置が最大溝深さの30%以上65%以下の範囲内で変位することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るタイヤは、周方向溝の溝底側断面積A2と溝開口側断面積A1との断面積比(A2/A1)をタイヤ周方向に沿って変化させることにより、トレッド部の摩耗が進行した際に周方向溝の拡幅部を段階的に露出させることができるため、転がり抵抗を低減しつつ、安定したウエットトラクション性能を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本実施形態に係る空気入りタイヤの要部を示す子午断面図である。
図2図2は、空気入りタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。
図3図3は、トレッド部に形成された周方向細主溝の断面形状を示す模式図である。
図4図4は、トレッド部に形成された周方向細主溝と周方向主溝との断面形状を示す模式図である。
図5図5は、周方向細主溝のタイヤ周方向長さに対する断面積比(A2/A1)の変化を示す図である。
図6図6は、トレッドパターンを示す部分拡大図である。
図7図7は、周方向細主溝の位置による断面形状の違いを示す模式図である。
図8図8は、本実施形態に係る空気入りタイヤの性能試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施形態に係る空気入りタイヤは、例えば、トラック等の長距離走行する車両用の空気入りタイヤである。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易に想到できるもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0018】
図1は、本実施形態に係る空気入りタイヤの要部を示す子午断面図である。図1では、空気入りタイヤ1(以下、単にタイヤ1と称することがある)のタイヤ径方向の片側領域の断面図を示している。図2は、空気入りタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。図3は、トレッド部に形成された周方向細主溝と周方向主溝との断面形状を示す模式図である。図4は、トレッド部に形成された周方向細主溝のタイヤ周方向への断面形状変化を示す模式図である。図5は、周方向細主溝のタイヤ周方向長さに対する断面積比(A2/A1)の変化を示す図である。図6は、トレッドパターンを示す部分拡大図である。図7は、周方向細主溝の位置による断面形状の違いを示す模式図である。以下の説明において、子午断面とは、タイヤ回転軸(図示省略)を含む平面でタイヤを切断したときの断面をいう。また、符号CLは、タイヤ赤道面であり、タイヤ回転軸方向に係るタイヤの中心点を通りタイヤ回転軸に垂直な平面をいう。また、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸に平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に垂直な方向をいい、さらに、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。
【0019】
図1に示すように、空気入りタイヤ1は、一対のビードコア11、11と、カーカス層13と、ベルト層14と、トレッド部20を構成するトレッドゴム15と、左右のサイドウォール部を構成するサイドウォールゴム16、16と、左右のビード部を構成するリムクッションゴム17、17とを備える。トレッド部20の表面は、空気入りタイヤ1の輪郭の一部を構成し、車両走行時に路面と接触する踏面200として形成される。ベルト層14は、複数のベルトプライを積層した構成である。ベルト層14は、図1では、高角度ベルト141、一対の交差ベルトプライ142、143およびベルトカバー144を積層した構成である。ビードコア11のタイヤ径方向外側にビードフィラーが設けられていてもよい。なお、上述したタイヤ内部構造は空気入りタイヤにおける代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。
【0020】
図2に示すように、トレッド部20の踏面200には、タイヤ赤道面CLの位置でタイヤ周方向に延在する第1周方向細主溝(周方向溝)21Aと、タイヤ赤道面CLの両側において、第1周方向細主溝21Aよりもタイヤ幅方向外側の位置でタイヤ周方向に延びる一対の第2周方向細主溝(周方向溝)21Bと、第2周方向細主溝21Bよりもタイヤ幅方向外側の位置でタイヤ周方向に延びる一対の周方向主溝22とが設けられている。これら第2周方向細主溝21B及び周方向主溝22は、タイヤ赤道面CLを中心として左右対称の位置に配置されることが好ましい。なお、第1周方向細主溝21Aと第2周方向細主溝21Bとを区別しない場合には、単に周方向細主溝21と称する。
【0021】
第1周方向細主溝21A、第2周方向細主溝21B、及び周方向主溝22は、それぞれタイヤ周方向に延在する5本の周方向主溝であり、溝底にJATMAに規定されるウェアインジケータを有する。一対の周方向主溝22は、それぞれタイヤ幅方向の最も外側に位置するショルダー主溝であり、これら周方向主溝22,22の間に配置される3本の周方向細主溝21よりも溝幅が広く(大きく)形成されている。溝幅は、溝の対向する壁面同士の距離であり、溝の開口部に面取り加工が施されている場合には、踏面200の延長線と溝の壁面の延長線との交点をそれぞれ想定し、これら交点間の距離を溝幅とする。周方向細主溝21は、タイヤ新品時に踏面200に開口する溝幅W1が1.0mm以上4.0mm以下とすることが好ましく、さらには、1.5mm以上3.0mm以下とすることがより好ましい。また、周方向主溝22は、トレッド部20に形成された周方向溝の中で最も溝幅が大きな溝である。周方向主溝22は、タイヤ新品時における溝幅W4が8.0mm以上15.0mm以下とすることが好ましく、さらには、10mm以上13mm以下とすることがより好ましい。本実施形態では、周方向細主溝21を3本備えた構成としたが、周方向主溝22,22の間に少なくとも1本の周方向細主溝21を備えていればよい。この場合、1本の周方向細主溝21は、タイヤ赤道面CLの位置(タイヤ幅方向のセンター)、もしくはタイヤ赤道面CLの位置の近傍に設けられることが好ましい。
【0022】
トレッド部20は、第1周方向細主溝21A、第2周方向細主溝21B及び周方向主溝22が形成されることで、複数の陸部に区画される。具体的には、トレッド部20において、第1周方向細主溝21Aと第2周方向細主溝21Bとの間に、タイヤ周方向に延在する第1陸部31が形成される。第1陸部31は、タイヤ幅方向に延在するラグ細溝(ラグ溝)24によって、複数のブロック31Bに分断される。つまり、第1陸部31は、ラグ細溝24によって分断されてタイヤ周方向に並ぶ、複数のブロック31Bによって構成される。このラグ細溝24は、隣接する第1周方向細主溝21Aと第2周方向細主溝21B、もしくは、隣接する第2周方向細主溝21Bと周方向主溝22とに開口してこれらを連結するものであり、周方向細主溝21と同等以下の溝幅に形成される。具体的には、ラグ細溝24は、タイヤ新品時における溝幅W5が0.5mm以上3.0mm以下とすることが好ましく、さらには、1.0mm以上2.0mm以下とすることがより好ましい。なお、このラグ細溝24はサイプとして構成してもよい。
【0023】
また、トレッド部20において、第2周方向細主溝21Bと周方向主溝22との間に、タイヤ周方向に延在する第2陸部32が形成される。第2陸部32は、タイヤ幅方向に延在する上記したラグ細溝24によって、複数のブロック32Bに分断される。つまり、第2陸部32は、ラグ細溝24によって分断されてタイヤ周方向に並ぶ、複数のブロック32Bによって構成される。
【0024】
また、トレッド部20において、周方向主溝22のタイヤ幅方向外側には、タイヤ周方向に延在するショルダー陸部33が形成される。このショルダー陸部33は、トレッド部20のうちショルダー部に位置している。ショルダー陸部33は、一端が周方向主溝22に連結されてタイヤ幅方向に延在する複数のショルダーラグ溝(図示省略)を有し、これらショルダーラグ溝によって複数のブロックに分断される構成としてもよい。この場合、ショルダーラグ溝の溝幅は、ラグ細溝24の溝幅W5よりも広く(大きく)、例えば2.0mm以上5.0mm以下であることが好ましい。
【0025】
また、トレッド部20は、すべてのラグ細溝24がタイヤ幅方向に延在して矩形状の複数のブロック31B,32Bを備え、これら複数のブロック31B,32Bが千鳥状に配置されたブロックパターンを形成している。図2の例では、第1周方向細主溝21Aを挟んで隣接するブロック31B,31Bは、タイヤ周方向に1/4ピッチ(P/4)変位させて(ずらして)配置され、第2周方向細主溝21Bを挟んで隣接するブロック31B,32Bもタイヤ周方向に1/4ピッチ(P/4)ずらして配置されている。ここで、ピッチPは、ブロック31B,32Bがタイヤ周方向に繰り返し配置される際の距離をいい、タイヤ周方向におけるブロック31B,32Bの距離とラグ細溝24の溝幅との和である。なお、トレッド部20のブロックパターンは、図2に記載のものに限るものではなく、例えば、周方向細主溝21を挟んで隣接するブロック同士を変位させる距離は適宜変更してもよい。また、ラグ細溝24は、周方向細主溝21及び周方向主溝22と交差する方向であれば、タイヤ幅方向に延在するだけでなく、タイヤ幅方向に対して傾斜した方向に延在する構成としてもよい。例えば、タイヤ赤道面CLを挟んで両側の第1陸部31及び第2陸部32において、ラグ細溝24の傾斜方向がV字基調になるよう、タイヤ幅方向に対してそれぞれ傾斜した構成としてもよい。
【0026】
本構成では、トレッド部20は、周方向主溝22の溝幅W4よりも狭い溝幅W1の第1周方向細主溝21A及び第2周方向細主溝21Bによって第1陸部31及び第2陸部32を区画している。このため、タイヤ1が接地する際に第1周方向細主溝21A及び第2周方向細主溝21Bが閉じて、隣接するブロック31B,32Bが幅広のブロックとして作用することにより、転がり抵抗を低減できる。さらに、隣接する第1陸部31同士、または隣接する第1陸部31と第2陸部32については、各ブロック31B,32Bがタイヤ周方向に位置をずらして配置されている。このため、ラグ細溝24同士が連通することが防止されてタイヤ1が接地する際の騒音を低減することができる。また、ラグ細溝24は、溝幅W5が周方向細主溝21の溝幅W1と同等以下に形成されているため、転がり抵抗を低減しつつ、トラクション性能の向上を図ることができる。また、周方向主溝22は、タイヤ幅方向の最も外側に位置する主溝であるため、中央側に配置される周方向細主溝21よりも転がり抵抗への影響は少ない。本構成では、周方向主溝22の溝幅W4を8.0mm以上15.0mm以下とすることにより、転がり抵抗を悪化させることなく、ウエットトラクション性能を向上させることができる。
【0027】
トレッド部20において、ブロック31B,32Bの配置範囲のタイヤ幅方向の長さTWcのトレッド展開幅TWに対する比(TWc/TW)は0.55以上0.70以下の範囲であることが好ましく、さらには0.60以上0.65以下であることがより好ましい。上記した比(TWc/TW)を0.55以上0.70以下の範囲とすることにより、トレッド部20のセンター部にブロック列を集中配列したトレッドパターンを形成することができる。このため、トレッド部20の剛性を高めることができ、転がり抵抗の低減効果の向上を図ることができる。
【0028】
ここで、長さTWcは、一対の周方向主溝22,22の間のタイヤ幅方向の長さであり、4つのブロック列(第1陸部31及び第2陸部32)の幅と3つの周方向細主溝21の溝幅W1との和である。言い換えれば、長さTWcとは、タイヤ1を規定リムにリム組みして規定内圧を充填した状態で、荷重を加えないときの、タイヤ1のトレッド部20の展開図における一対の周方向主溝22,22の間のタイヤ幅方向の直線距離をいう。トレッド展開幅TWは、2つのショルダー陸部33におけるタイヤ幅方向外側の両端間のタイヤ幅方向の距離である。トレッド展開幅TWとは、タイヤ1を規定リムにリム組みして規定内圧を充填した状態で、荷重を加えないときの、タイヤ1のトレッド部20の展開図における両端の直線距離をいう。また、規定リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、規定内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。また、規定荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。
【0029】
ところで、上述したように、本構成では、タイヤ1の転がり抵抗の低減を図るために、トレッド部20は、周方向主溝22の溝幅W4よりも狭い溝幅W1の第1周方向細主溝21A及び第2周方向細主溝21Bによって第1陸部31及び第2陸部32を区画する構成としている。一方で、上記した構成では、周方向細主溝21の溝容積が減少して、排水性が悪化することにより、ブロックパターン本来のウエットトラクション性能が低下する懸念があった。このため、周方向細主溝21は、図3に示すように、細溝部211と、この細溝部211よりも溝底側(タイヤ径方向内側)に該細溝部211よりも溝幅を拡幅した拡幅部212とを備えた段付き溝形状となっている。
【0030】
周方向細主溝21の細溝部211は、トレッド部20の踏面200に開口し、該踏面200から最大溝深さH1の30%(0.3H1)未満の領域にある部位である。この最大溝深さH1は、タイヤ新品時における周方向細主溝21の溝深さをいう。細溝部211の溝幅W1は、1.0mm以上4.0mm以下とすることが好ましい。溝幅W1が1.0mm未満の場合には、排水性が悪化するため、ウエットトラクション性能が低下する。一方、溝幅W1が4.0mmよりも大きいと、周方向細主溝21を挟んで隣接するブロック列の剛性が低下するため、転がり抵抗が悪化する。本構成では、細溝部211の溝幅W1を1.0mm以上4.0mm以下とすることにより、タイヤ1が接地する際に周方向細主溝21が閉じて溝壁同士が支え合うため、ブロック剛性が向上して溝底部のエネルギーロスが低減し転がり抵抗を低減することができる。細溝部211の溝幅W1は、1.5mm以上3.0mm以下とすることがより好ましい。
【0031】
拡幅部212は、タイヤ径方向外側に細溝部211に連なる拡幅開始点212Aを有し、最大溝深さH1のトレッド部20の表面から30%以上の領域にある部位である。拡幅部212は、細溝部211の溝幅W1よりも拡幅された最大溝幅W2を有する。拡幅開始点212Aは、溝幅が拡幅されて所定値(例えば、細溝部211の溝幅W1の1.2倍、もしくは該溝幅W1+0.5mmのいずれか小さい方の値)以上となる高さ位置をいう。本構成では、周方向細主溝21は、最大溝深さH1のトレッド部20の表面から30%以上の領域に、細溝部211よりも拡幅された拡幅部212を備えるため、この拡幅部212内に水が進入することで排水性が向上し、ウエットトラクション性能の低下を抑制することができる。
【0032】
拡幅部212の最大溝幅W2は、具体的には3.0mm以上8.0mm以下とすることが好ましい。最大溝幅W2が3.0mm未満の場合には、ウエットトラクション性能の低下を十分に抑制することができない。一方、最大溝幅W2が8.0mmよりも大きいと、周方向細主溝21を挟んで隣接するブロック列の剛性が低下するため、転がり抵抗が悪化する。また、最大溝幅W2が8.0mmよりも大きい場合には、細溝部211の溝幅W1に対する拡幅度合が過剰に大きくなるため、周方向細主溝21の加工が難しく生産性が悪化するといった問題もある。拡幅部212の最大溝幅W2を3.0mm以上8.0mm以下とすることにより、転がり抵抗の低下とウエットトラクション性能の低下の抑制との両立を図ることができる。また、拡幅部212の最大溝幅W2は、4.0mm以上6.5mm以下とすることがより好ましい。
【0033】
さらに、周方向細主溝21は、細溝部211の溝幅W1と拡幅部212の最大溝幅W2との比(W2/W1)が1.5以上4.0以下の範囲内にあることが好ましい。この比(W2/W1)が1.5未満の場合には、ウエットトラクション性能の低下を十分に抑制することができない。一方、比(W2/W1)が4.0よりも大きいと、周方向細主溝21を挟んで隣接するブロック列の剛性が低下するため、転がり抵抗が悪化する。また、比(W2/W1)が4.0よりも大きい場合には、細溝部211の溝幅W1に対する拡幅部212の最大溝幅W2の拡幅度合が過剰に大きくなるため、周方向細主溝21の加工が難しく生産性が悪化するといった問題もある。本構成では、比(W2/W1)を1.5以上4.0以下とすることにより、転がり抵抗の低下とウエットトラクション性能の低下の抑制との両立を図ることができる。また、比(W2/W1)は、1.5以上3.0以下とすることがより好ましい。
【0034】
また、上記したタイヤ1において、周方向細主溝21の最大溝深さH1は、周方向主溝22の溝深さH4と同等に形成され、具体的には、最大溝深さH1と溝深さH4との比(H1/H4)が0.95以上1.05以下となっている。このため、周方向細主溝21は、摩耗末期においても周方向主溝22とともに排水性を確保することにより、ウエットトラクション性能の低下を抑制できる。また、上記したラグ細溝24の溝深さH5と周方向細主溝21の最大溝深さH1との比(H5/H1)は0.45以上0.90以下となっている。この範囲に溝幅の狭いラグ細溝24を設けることにより、ある程度摩耗した状態であっても、転がり抵抗を悪化させることなく、ウエットトラクション性能の低下を抑制できる。
【0035】
さて、上記したように周方向細主溝21の溝底に拡幅部212を設けることにより、溝幅の小さな周方向細主溝21によって第1陸部31及び第2陸部32を区画する構成であっても、ウエットトラクション性能の低下を抑制することができる。一方、拡幅部212の断面積(高さ)をタイヤ周方向に一様に形成した場合には、トレッド部20の摩耗が進行した摩耗中期に拡幅部212がタイヤ周方向に亘って、一気に露出することでウエットトラクション性能が急激に変化してしまうという問題が想定される。
【0036】
このため、本構成では、周方向細主溝21は、図4に示すように、踏面200からの最大溝深さH1と拡幅部212の最大溝幅W2とをほぼ同一に保持した状態で、拡幅部212の拡幅開始点212Aの高さ位置を変化させることで該拡幅部212の断面積(高さ)をタイヤ周方向に沿って変化させた構成となっている。この図4には、拡幅部212の高さ(断面積)を最大とした周方向細主溝21mx(AA断面)と該拡幅部212の断面積を最小とした周方向細主溝21mn(BB断面)との2種類を例示している。
【0037】
ここで、拡幅部212の拡幅開始点212Aは、踏面200から最大溝深さH1の30%(0.3H1)以上65%(0.65H1)以下の範囲内を変位することが好ましい。即ち、拡幅部212の断面積は、拡幅開始点212Aが踏面200から最大溝深さH1の30%の位置で最大となり、踏面200から最大溝深さH1の65%の位置で最小となる。拡幅部212の拡幅開始点212Aが踏面200から最大溝深さH1の30%未満の浅い位置にある場合、タイヤ1が接地する際に周方向細主溝21が閉じて溝壁(陸部)同士の支え合いが不十分となり、転がり抵抗を低減することができない。また、拡幅部212の拡幅開始点212Aが踏面200から最大溝深さH1の65%よりも深い位置にある場合、摩耗末期での十分なウエットトラクション性能が見込めない。本構成では、拡幅部212の拡幅開始点212Aは、踏面200から最大溝深さH1の30%以上65%以下の範囲内を変位するため、転がり抵抗の低下と摩耗末期における十分なウエットトラクション性能の向上との両立を図ることができる。
【0038】
また、上記したタイヤ1において、周方向細主溝21は、トレッド部20の踏面200から最大溝深さH1の50%(0.5H1)の位置で、該周方向細主溝21をタイヤ径方向に二分割した場合、周方向細主溝21のタイヤ子午断面における溝底側断面積A2と溝開口側断面積A1との断面積比(A2/A1)が、1.2以上4.0以下となっていることが好ましい。溝開口側断面積A1は、主として細溝部211の断面積であり、溝底側断面積A2は、主として拡幅部212の断面積である。上記した断面積比(A2/A1)が1.2未満の場合には、溝底側断面積A2、すなわち拡幅部212の断面積(容積)が相対的に小さくなるため、ウエットトラクション性能の低下を十分に抑制することができない。一方、断面積比(A2/A1)が4.0よりも大きいと、拡幅部212の断面積(容積)が相対的に大きくなるため、周方向細主溝21を挟んで隣接するブロック列の剛性が低下し、転がり抵抗が悪化する。このように、断面積比(A2/A1)を1.2以上4.0以下とすることにより、転がり抵抗の低下とウエットトラクション性能の低下の抑制との両立を図ることができる。また、断面積比(A2/A1)は、1.6以上2.7以下の範囲内とすることがより好ましく、さらには、2.1以上2.7以下の範囲内とすることがより好ましい。
【0039】
さらに、本構成では、断面積比(A2/A1)は、拡幅部212の断面積変化に伴い、周方向細主溝21の延在方向であるタイヤ周方向に沿って変化するようになっている。この断面積比(A2/A1)が上記した範囲内でタイヤ周方向に沿って変化することにより、トレッド部20の摩耗が進行した際に拡幅部212を段階的に露出させることができる。従って、摩耗進行に伴って拡幅部212が一気に露出することを抑制し、周方向細主溝21の溝面積の変化を緩やかにすることができ、タイヤ新品から摩耗末期まで安定したウエットトラクション性能を確保できる。また、上記した断面積比(A2/A1)の変化は、正弦波形状や三角波形状のように連続的であることが好ましいが、矩形波形状のように断続的(変化しない部分を含む構成)であってもよい。また、本構成では、断面積比(A2/A1)を変化させる際に、拡幅部212の高さ(拡幅開始点212Aの位置)を変化させているが、これに限るものではなく、拡幅部212の高さと溝幅との両方を変化させてもよい。
【0040】
また、上記したタイヤ1において、周方向細主溝21の断面積比(A2/A1)を変化させた場合、この変化に伴う極大値と極小値とが生じることとなる。本構成では、図5に示すように、周方向細主溝21は、上記したブロック31B、32BのピッチPの範囲内に、断面積比(A2/A1)の極大値N1及び極小値N2を少なくとも1つずつ有することが好ましい。この構成によれば、タイヤ周方向に並ぶブロック31B、32Bが摩耗した際に、各ブロック31B、32BのピッチPの範囲内でそれぞれ拡幅部212を部分的に露出させることができる。このため、拡幅部212が露出する領域がタイヤ周方向の一部に偏ることを防止することができ、タイヤ新品から摩耗末期まで安定したウエットトラクション性能を確保できる。
【0041】
また、上記したように、第1陸部31及び第2陸部32を区画する周方向細主溝21には、該第1陸部31及び第2陸部32を複数のブロック31B及び32Bに区画するための複数のラグ細溝24がそれぞれ接続されている。このため、周方向細主溝21は、図6に示すように、複数のラグ細溝24にそれぞれ開口する開口部213を有する。ここで、開口部213における周方向細主溝21をタイヤ子午断面で切った際の拡幅部212の断面積を第1断面積S1とする。この場合、ラグ細溝24が周方向細主溝21に実際に開口した部分では、拡幅部212がラグ細溝24に連結されることによって、拡幅部212の輪郭、即ち第1断面積S1を定めることができない。このため、開口部213は、拡幅部212の輪郭を定めるために、周方向細主溝21におけるラグ細溝24との連結部分の近傍を含む。具体的には、開口部213は、周方向細主溝21を挟んで配置される一方のブロック31B、32Bのエッジ部31B1、32B1を含むものとし、第1断面積S1は、これらエッジ部31B1、32B1におけるタイヤ子午断面(図6中CC断面)にて測定される。
【0042】
また、周方向細主溝21上で隣接する一対の開口部213,213からタイヤ周方向にほぼ等距離にある位置を中間部214とし、この中間部214における周方向細主溝21をタイヤ子午断面(図6中DD断面)で切った際の拡幅部212の断面積を第2断面積S2とする。この場合、開口部213における拡幅部212の第1断面積S1は、図7に示すように、中間部214における拡幅部212の第2断面積S2よりも小さく形成されている。この構成によれば、開口部213、即ちブロック31B、32Bのエッジ部31B1、32B1における溝容積を小さくすることでブロック剛性が向上して転がり抵抗の低減を図ることができる。
【0043】
また、第2断面積S2と第1断面積S1との比(S2/S1)が1.2≦(S2/S1)≦2.5であることが好ましい。この比(S2/S1)が1.2未満の場合には、第2断面積S2が第1断面積S1と比べて小さく、ウエットトラクション性能の低下を十分に抑制することができない。また、比(S2/S1)が2.5よりも大きい場合には、第2断面積S2が第1断面積S1と比べて過剰に大きいため、周方向細主溝21を挟んで隣接するブロック列の剛性が低下するため、転がり抵抗が悪化する。比(S2/S1)が1.2≦(S2/S1)≦2.5の範囲を満たすため、転がり抵抗の低下とウエットトラクション性能の低下の抑制との両立を図ることができる。
【0044】
さらに、本実施形態では、開口部213における拡幅部212の第1断面積S1は、タイヤ周方向に沿って変化する拡幅部212の最小断面積であることが好ましい。この構成によれば、最小断面積を有する拡幅部212が開口部213に位置しているため、摩耗末期までブロック剛性を保持することができ、転がり抵抗の低減を図ることができる。また、中間部214における拡幅部212の第2断面積S2のうち、少なくとも1つが、タイヤ周方向に沿って変化する拡幅部212の最大断面積であることが好ましい。ここで、隣接する一対の開口部213間の距離が異なる場合には、該距離の最も長い開口部213間に位置する中間部214の拡幅部212の第2断面積S2を最大断面積とすることが好ましい。この構成によれば、最大断面積を有する拡幅部が中間部214に位置するため、摩耗がある程度進行した際に、中間部214に露出した拡幅部212内に水が進入することで排水性が向上し、ウエットトラクション性能の向上を図ることができる。
【0045】
[実施例]
図8は、本実施形態に係る空気入りタイヤの性能試験の結果を示す表である。この性能試験では、複数種類の試験タイヤについて、転がり抵抗性能とウエットトラクション性能に関する評価を行った。また、ウエットトラクション性能については、周方向細主溝21の新品時(0%摩耗時)及び80%摩耗時における評価を行った。評価に用いられた空気入りタイヤ1のサイズは、315/70R22.5である。評価に用いた車両は、6×4トラクターにトレーラーを接続した車両である。
【0046】
転がり抵抗性能の評価には、室内ドラム試験機が用いられた。転がり抵抗性能の評価では、上記試験タイヤに正規内圧を充填し、荷重31.26kNおよび速度80km/h時における抵抗力を測定した。この測定結果に基づいて従来例のタイヤを基準(100)とした指数評価が行われた。この評価は、指数が大きいほど転がり抵抗が小さく、転がり抵抗性能が優れていることを示している。
【0047】
ウエットトラクション性能に関する評価は、上記試験タイヤを22.5×9.00のリムに装着して空気圧を900kPaとし、トラクターヘッドの駆動軸に装着して、ウエット制動性能を評価した。ウエット制動性能の評価では、テストコースにおいて、撒水して水深約1mmとした路面を、上記試験タイヤを装着した評価車両で初速60km/hから20km/hまで減速したときの減速Gを測定した。この測定した減速Gに基づいて従来例のタイヤを基準(100)とした指数評価が行われた。この評価は、数値が大きいほど、制動に要する距離が短く、ウエット制動性能、すなわちウエットトラクション性能が優れていることを示している。また、新品時の減速Gと80%摩耗時の減速Gとからウエット制動性能の変化を評価した。このウエット制動性能の変化の評価では、新品時の減速Gに対する80%摩耗時の減速Gの変化率を算出し、この変化率の逆数に基づいて従来例のタイヤを基準(100)とした指数評価が行われた。この評価は、数値が大きいほど、ウエット制動性能の変化が小さく、安定したウエットトラクション性能を発揮する点が優れていることを示している。なお、従来例のタイヤは、周方向細主溝が拡幅部を備えるものの、踏面200から最大溝深さH1の50%の位置で周方向細主溝をタイヤ径方向に二分割した場合、周方向細主溝のタイヤ子午断面における溝底側断面積A2と溝開口側断面積A1との断面積比(A2/A1)が変化しないトレッド部を有するものである。
【0048】
図8に示すように、従来例、比較例1~4、及び実施例1~10の試験タイヤは、溝底側断面積A2と溝開口側断面積A1との断面積比(A2/A1)の変化の有無、この断面積比(A2/A1)の下限値及び上限値、細溝部211の溝幅W1、拡幅部212の最大溝幅W2、溝幅W1と最大溝幅W2との比(W2/W1)、拡幅開始点212Aの深さ範囲、拡幅部の第1断面積S1と第2断面積S2の大きさ、第1断面積S1と第2断面積S2との比(S2/S1)が、それぞれ異なっている。なお、従来例の試験タイヤは、周方向細主溝が拡幅部を備えるものの、断面積比(A2/A1)が変化しないトレッド部を有するものである。
【0049】
これらの試験タイヤを用いて性能評価試験を行った結果、図8に示すように、実施例1~10の試験タイヤは、従来例との対比において、転がり抵抗の低減、新品時及び80%摩耗時のウエット制動性能の向上を実現することができた。特に、ウエット制動性能の変化が小さく、安定したウエットトラクション性能を発揮することができた。一方、比較例1~4の試験タイヤは、所定の条件を満たしていないため、転がり抵抗の低減、及び安定したウエットトラクション性能を両立させる効果が十分に得られなかった。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態では、タイヤとして空気入りタイヤを例示して説明したが、これに限るものではなく、エアレスタイヤのような空気が充填されていないタイヤにも適用することもできることは勿論である。また、本実施形態で例示した空気入りタイヤに充填される気体としては、通常の又は酸素分圧を調整した空気の他にも、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを用いることができる。
【符号の説明】
【0051】
20 トレッド部
21 周方向細主溝(周方向溝)
22 周方向主溝
24 ラグ細溝(ラグ溝)
31 第1陸部(陸部)
31B、32B ブロック
31B1、32B1 エッジ部
32 第2陸部(陸部)
33 ショルダー陸部
211 細溝部
212 拡幅部
212A 拡幅開始点
213 開口部
CL タイヤ赤道面
P ピッチ
A1 溝開口側断面積
A2 溝底側断面積
S1 第1断面積
S2 第2断面積
W1 溝幅
W2 最大溝幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8