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特許7575670ファインバブル洗浄方法及びファインバブル洗浄装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】ファインバブル洗浄方法及びファインバブル洗浄装置
(51)【国際特許分類】
   C23G 3/04 20060101AFI20241023BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20241023BHJP
   B08B 3/10 20060101ALI20241023BHJP
   B08B 9/032 20060101ALI20241023BHJP
   C23G 1/19 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
C23G3/04
B08B3/08 A
B08B3/10 Z
B08B9/032 328
C23G1/19
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020204788
(22)【出願日】2020-12-10
(65)【公開番号】P2022092162
(43)【公開日】2022-06-22
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】干場 英里
(72)【発明者】
【氏名】小西 佑一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 崇光
(72)【発明者】
【氏名】徳丸 慎司
(72)【発明者】
【氏名】小西 剛嗣
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/067227(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/071224(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G1/00-5/06
B08B1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部又は全てが長尺方向に延伸した鋼管を被洗浄物として洗浄するファインバブル洗浄方法であって、
前記被洗浄物を洗浄する洗浄液を保持し、1又は複数の前記被洗浄物が浸漬される処理槽と、
前記洗浄液を前記処理槽内で循環させるとともに、前記被洗浄物に対して前記洗浄液を吐出する洗浄液循環機構と、
前記洗浄液循環機構内の前記洗浄液に対してファインバブルを供給するファインバブル供給機構と、
を有し、
前記洗浄液循環機構は、前記洗浄液の流れ方向と鋼管の長尺方向とのなす角θの大きさが0°超過10.0°以下の範囲内となるように、前記洗浄液を吐出するファインバブル洗浄装置を用い、
前記被洗浄物の内径をDpi(単位:m)、管長をL(単位:m)とし、前記ファインバブルの平均気泡径をDb(単位:m)とし、前記鋼管の中空部の入側での前記洗浄液の流速をV(単位:m/s)としたときに、以下の式(1)で表される関係を満足するように、前記ファインバブルの平均気泡径Db及び前記洗浄液の流速Vを、前記平均気泡径Dbについては1~100μmの範囲内、前記流速Vについては0.2~5.0m/sの範囲内でそれぞれ制御する、ファインバブル洗浄方法。

L/Dpi<200の場合、3.2×10-10≦Db×V≦5.0×10-8
200≦L/Dpiの場合、6.0×10-13≦Db×V≦3.2×10-9
・・・式(1)
【請求項2】
前記洗浄液循環機構は、前記角θの大きさが0°超過10.0°以下の範囲内となり、かつ、前記洗浄液が前記鋼管の中空部を前記処理槽の底面側から液面側に向かって流れるように、前記洗浄液を吐出する、請求項1に記載のファインバブル洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄液は、親水基にエチレンオキサイドを付加した非イオン性界面活性剤を含有し、
前記界面活性剤のHLB値は、15.0~19.0の範囲内である、請求項1又は2に記載のファインバブル洗浄方法。
【請求項4】
前記洗浄剤における前記界面活性剤の濃度は、当該界面活性剤の臨界ミセル濃度の0.01倍以上2.00倍未満である、請求項に記載のファインバブル洗浄方法。
【請求項5】
前記界面活性剤の25℃における表面張力は、40mN/m以上である、請求項又はに記載のファインバブル洗浄方法。
【請求項6】
前記界面活性剤は、エーテル型非イオン性界面活性剤である、請求項3~5の何れか1項に記載のファインバブル洗浄方法。
【請求項7】
前記界面活性剤の疎水基は、炭素数が10~20の範囲内の直鎖状の炭素鎖である、請求項3~6の何れか1項に記載のファインバブル洗浄方法。
【請求項8】
前記洗浄液のアルカリ濃度は、1.0mol/L以下である、請求項1~の何れか1項に記載のファインバブル洗浄方法。
【請求項9】
前記ファインバブルの個数密度は、1×10~1×10個/mLの範囲内である、請求項1~の何れか1項に記載のファインバブル洗浄方法。
【請求項10】
前記洗浄液の液温は、20~60℃の範囲内である、請求項1~の何れか1項に記載のファインバブル洗浄方法。
【請求項11】
前記被洗浄物は、金属加工油の付着した鋼管である、請求項1~10の何れか1項に記載のファインバブル洗浄方法。
【請求項12】
一部又は全てが長尺方向に延伸した鋼管を被洗浄物として洗浄するファインバブル洗浄装置であって、
前記被洗浄物を洗浄する洗浄液を保持し、1又は複数の前記被洗浄物が浸漬される処理槽と、
前記洗浄液を前記処理槽内で循環させるとともに、前記被洗浄物に対して前記洗浄液を吐出する洗浄液循環機構と、
前記洗浄液循環機構内の前記洗浄液に対してファインバブルを供給するファインバブル供給機構と、
を有し、
前記洗浄液循環機構は、前記洗浄液の流れ方向と鋼管の長尺方向とのなす角θの大きさが0°超過10.0°以下の範囲内となるように、前記洗浄液を吐出する、ファインバブル洗浄装置。
【請求項13】
前記被洗浄物の内径をDpi(単位:m)、管長をL(単位:m)とし、前記ファインバブルの平均気泡径をDb(単位:m)とし、前記鋼管の中空部の入側での前記洗浄液の流速をV(単位:m/s)としたときに、以下の式(1)で表される関係を満足するように、前記ファインバブルの平均気泡径Db及び前記洗浄液の流速Vが、前記平均気泡径Dbについては1~100μmの範囲内、前記流速Vについては0.2~5.0m/sの範囲内でそれぞれ制御される、請求項12に記載のファインバブル洗浄装置。

L/Dpi<200の場合、3.2×10 -10 ≦Db ×V≦5.0×10 -8
200≦L/Dpiの場合、6.0×10 -13 ≦Db ×V≦3.2×10 -9
・・・式(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファインバブル洗浄方法及びファインバブル洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の工業部品は、その製造の過程で、表面に加工油や潤滑剤等の油分が付着することが多い。そのため、工業部品の表面に付着したこれらの油分を除去することが求められ、従来、各種の洗浄装置が提案されている。
【0003】
例えば、以下の特許文献1には、微細気泡を含む洗浄液と超音波とを併用して、被洗浄物の表面に付着している油分を洗浄する洗浄装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/147995号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鋼管の製造工程においても、製造した鋼管の外表面や内表面に、鉱物油等の金属加工油(例えば、圧延加工油)が付着する。そのため、鋼管の製造工程において、かかる金属加工油を洗浄する洗浄工程(脱脂工程とも呼ばれる。)が設けられることが一般的である。
【0006】
かかる鋼管の洗浄工程(脱脂工程)では、アルカリ洗浄液による鹸化作用によって油分を加水分解し、更に、アルカリ洗浄液の液温を80℃以上として加水分解反応を促進することで、油分を可溶化している。
【0007】
しかしながら、80℃以上という高温の液体を得るためには、洗浄液を加熱するための熱源が必要であり、コストがかかってしまう。また、洗浄液の化学反応による薬液処理量の増加や、発生する蒸気による作業環境の低下等、様々な問題点が生じる。そのため、洗浄液の更なる低温化とあわせて、薬剤処理量及びコストの削減や作業環境の向上という、作業者の利便性の更なる向上とが希求されている。
【0008】
鋼管製造工程における洗浄工程(脱脂工程)では、例えば、短くても2~30m程度の長さを有する長尺管が洗浄対象となる。しかしながら、このような長尺管を被洗浄物とする場合、鋼管内表面の脱脂性能が低下してしまう。そのため、洗浄性能を低下させることなく、洗浄に用いる洗浄液の更なる低温化と作業者の利便性の更なる向上を実現することが重要となる。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、洗浄性能を低下させることなく、洗浄液の更なる低温化と作業者の利便性の更なる向上を実現することが可能な、ファインバブル洗浄方法及びファインバブル洗浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記のような長尺管における脱脂性能の低下について鋭意検討した結果、鋼管を製造する際の熱処理におけるスケールの付着状況、圧延時の金属加工油の付着のバラつき等が主な原因ではなく、長尺であるが故に中空部に入った洗浄液の流れの変化が主な原因であることを知見した。
【0011】
すなわち、長尺管の中空部に洗浄液が入った際に、洗浄液に流れがなくなってしまうこと、又は、流れがあったとしても層流化して液交換が失われてしまうことが主な原因であり、これにより、流れの下流になるに従って油分の可溶化性能が低下してしまうことを知見した。
【0012】
本発明者らは、かかる知見に基づき更なる検討を行った結果、洗浄液にファインバブルと呼ばれる気泡を供給し、かかる気泡によって洗浄液の液攪拌を維持することを着想し、以下で説明する本発明を完成するに至った。
かかる着想に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0013】
[1]一部又は全てが長尺方向に延伸した鋼管を被洗浄物として洗浄するファインバブル洗浄方法であって、前記被洗浄物を洗浄する洗浄液を保持し、1又は複数の前記被洗浄物が浸漬される処理槽と、前記洗浄液を前記処理槽内で循環させるとともに、前記被洗浄物に対して前記洗浄液を吐出する洗浄液循環機構と、前記洗浄液循環機構内の前記洗浄液に対してファインバブルを供給するファインバブル供給機構と、を有し、前記洗浄液循環機構は、前記洗浄液の流れ方向と鋼管の長尺方向とのなす角θの大きさが0°超過10.0°以下の範囲内となるように、前記洗浄液を吐出するファインバブル洗浄装置を用い、前記被洗浄物の内径をDpi(単位:m)、管長をL(単位:m)とし、前記ファインバブルの平均気泡径をDb(単位:m)とし、前記鋼管の中空部の入側での前記洗浄液の流速をV(単位:m/s)としたときに、以下の式(1)で表される関係を満足するように、前記ファインバブルの平均気泡径Db及び前記洗浄液の流速Vを、前記平均気泡径Dbについては1~100μmの範囲内、前記流速Vについては0.2~5.0m/sの範囲内でそれぞれ制御する、ファインバブル洗浄方法。
L/Dpi<200の場合、3.2×10-10≦Db×V≦5.0×10-8
200≦L/Dpiの場合、6.0×10-13≦Db×V≦3.2×10-9
・・・式(1)
[2]前記洗浄液循環機構は、前記角θの大きさが0°超過10.0°以下の範囲内となり、かつ、前記洗浄液が前記鋼管の中空部を前記処理槽の底面側から液面側に向かって流れるように、前記洗浄液を吐出する、[1]に記載のファインバブル洗浄方法。
]前記洗浄液は、親水基にエチレンオキサイドを付加した非イオン性界面活性剤を含有し、前記界面活性剤のHLB値は、15.0~19.0の範囲内である、[1]又は]の何れか1つに記載のファインバブル洗浄方法。
]前記洗浄剤における前記界面活性剤の濃度は、当該界面活性剤の臨界ミセル濃度の0.01倍以上2.00倍未満である、[]に記載のファインバブル洗浄方法。
]前記界面活性剤の25℃における表面張力は、40mN/m以上である、[]又は[]に記載のファインバブル洗浄方法。
]前記界面活性剤は、エーテル型非イオン性界面活性剤である、[]~[]の何れか1つに記載のファインバブル洗浄方法。
]前記界面活性剤の疎水基は、炭素数が10~20の範囲内の直鎖状の炭素鎖である、[]~[]の何れか1つに記載のファインバブル洗浄方法。
]前記洗浄液のアルカリ濃度は、1.0mol/L以下である、[1]~[]の何れか1つに記載のファインバブル洗浄方法。
]前記ファインバブルの個数密度は、1×10~1×10個/mLの範囲内である、[1]~[]の何れか1つに記載のファインバブル洗浄方法。
10]前記洗浄液の液温は、20~60℃の範囲内である、[1]~[]の何れか1つに記載のファインバブル洗浄方法。
11]前記被洗浄物は、金属加工油の付着した鋼管である、[1]~[10]の何れか1つに記載のファインバブル洗浄方法。
12]一部又は全てが長尺方向に延伸した鋼管を被洗浄物として洗浄するファインバブル洗浄装置であって、前記被洗浄物を洗浄する洗浄液を保持し、1又は複数の前記被洗浄物が浸漬される処理槽と、前記洗浄液を前記処理槽内で循環させるとともに、前記被洗浄物に対して前記洗浄液を吐出する洗浄液循環機構と、前記洗浄液循環機構内の前記洗浄液に対してファインバブルを供給するファインバブル供給機構と、を有し、前記洗浄液循環機構は、前記洗浄液の流れ方向と鋼管の長尺方向とのなす角θの大きさが0°超過10.0°以下の範囲内となるように、前記洗浄液を吐出する、ファインバブル洗浄装置。
[13]前記被洗浄物の内径をDpi(単位:m)、管長をL(単位:m)とし、前記ファインバブルの平均気泡径をDb(単位:m)とし、前記鋼管の中空部の入側での前記洗浄液の流速をV(単位:m/s)としたときに、以下の式(1)で表される関係を満足するように、前記ファインバブルの平均気泡径Db及び前記洗浄液の流速Vが、前記平均気泡径Dbについては1~100μmの範囲内、前記流速Vについては0.2~5.0m/sの範囲内でそれぞれ制御される、[12]に記載のファインバブル洗浄装置。

L/Dpi<200の場合、3.2×10 -10 ≦Db ×V≦5.0×10 -8
200≦L/Dpiの場合、6.0×10 -13 ≦Db ×V≦3.2×10 -9
・・・式(1)
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、洗浄性能を低下させることなく、洗浄液の更なる低温化と作業者の利便性の更なる向上を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】本発明の実施形態にファインバブル洗浄装置を説明するための模式図である。
図1B】同実施形態にファインバブル洗浄装置を説明するための模式図である。
図2】同実施形態にファインバブル洗浄装置を説明するための模式図である。
図3】同実施形態に係るファインバブル洗浄方法を説明するための模式図である。
図4A】実験例で使用したファインバブル洗浄装置を説明するための模式図である。
図4B】実験例で使用したファインバブル洗浄装置を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
(本発明者らが行った検討について)
本発明の実施形態に係るファインバブル洗浄方法及びファインバブル洗浄装置について説明するに先立ち、本発明者らが上記課題を解決するために行った検討の内容と、かかる検討により得られた知見について、簡単に説明する。
【0018】
本発明者らは、上記のような長尺管における脱脂性能の低下について鋭意検討した結果、先だって言及したように、鋼管を製造する際の熱処理におけるスケールの付着状況、圧延時の金属加工油の付着のバラつき等が主な原因ではなく、長尺であるが故に中空部に入った洗浄液の流れの変化が主な原因であることを知見した。
【0019】
すなわち、長尺管の中空部に洗浄液が入った際に、洗浄液に流れがなくなってしまうこと、又は、流れがあったとしても層流化して液交換が失われてしまうことが主な原因であり、これにより、流れの下流になるに従って油分の可溶化性能が低下してしまうことを知見した。
【0020】
本発明者らは、かかる知見に基づき更なる検討を行った結果、洗浄液にファインバブル(以下、「FB」と略記することがある。)と呼ばれる気泡を供給し、かかる気泡によって洗浄液の液攪拌を維持することを着想した。ファインバブルによって洗浄液の液攪拌を維持することで、洗浄液による油分の可溶化に加えて、ファインバブルによる油分の吸着効果及び油分の剥離効果を利用して、より効率的に油分の除去を実現することが可能となる。
【0021】
より詳細には、油分の鹸化反応だけに依存することなく、ファインバブルによる油分吸着・剥離効果を利用するために、洗浄性能を維持しつつ鹸化反応を十分に反応させるための洗浄液の高温化を抑制することができ、洗浄液の低温化を図ることができる。また、洗浄液の高温化を抑制することができるために、加熱により発生する蒸気による作業環境の低下を抑制することができる。更に、ファインバブルによる油分の吸着・剥離効果を利用するため、洗浄液の性質が無視できない程度に低下するまでは、洗浄液に対してファインバブルを供給することで、洗浄性能を保持することができるため、薬液(洗浄液)の使用量を抑制することができる。このように、ファインバブルを用いることで、洗浄性能を低下させることなく、洗浄液の更なる低温化と作業者の利便性の更なる向上を実現することが可能となる。
【0022】
ここで、本発明の実施形態で着目するファインバブルには、小さいながらも浮力が作用するために、洗浄液中においてファインバブルの浮上が生じる。ここで、処理槽内に保持されている洗浄液の流速が低い場合には、処理槽内に浸漬された鋼管の内部(中空部)においてファインバブル同士が凝集してしまい、ファインバブルによる油分の吸着・剥離効果が得られない上に、鋼管の中空部において、洗浄状態にムラが生じてしまうことが予想される。
【0023】
上記のような知見に基づき、まず、本発明者らは、上記引用文献1に記載されているように、微細気泡と超音波との併用を行うのではなく、超音波を用いずにファインバブルだけを用いることとした。なぜなら、超音波は、微細気泡(ファインバブル)を凝集させる方向に作用するために、ファインバブルの凝集を抑制したい本発明の実施形態においては、超音波は好ましくない影響を与える可能性が高いためである。
【0024】
また、本発明者らは、本発明の実施形態でポイントとなるファインバブルについて、洗浄液中でのファインバブルの浮上はある程度許容するものの、ファインバブルの凝集は生じない方が良いと志向した。そのためには、ファインバブルに作用する浮力について、検討を行う必要が生じた。
【0025】
ここで、本発明者らが着目したのが、以下の式(a)に示したストークスの式である。ストークスの式は、粒子の浮上速度を算出するときに用いられる式であるが、ファインバブルのような気泡の浮上速度に着目する場合にも適用可能であることが証明されている。
【0026】
【数1】
【0027】
ここで、上記式(a)において、
v:粒子の水中沈降速度(cm/s)
d:粒子の直径(cm)
ρ:粒子の密度(g/cm
ρ:水の密度(g/cm
η:水の粘度(g/cm・s)
:重力加速度(cm/s
である。
【0028】
本発明の実施形態で着目するような、管長が短くても2~30m程度の長尺鋼管において、鋼管の内径が小さくとも管長が短い場合には、ファインバブルの平均気泡径が大きく、かつ、洗浄液の流速が遅かったとしても、気泡が鋼管の下端(相対的に処理槽の底面側に近い方の端部)から抜けていくために、十分な洗浄効果は得られると推測される。一方、鋼管の内径が小さく、かつ、管長も長い場合には、ファインバブルが鋼管の中空部の上方で凝集していき、下端側から外部に抜けなくなってくると推測される。このような観点から、本発明者らは、鋼管の内径及び管長、ファインバブルの平均気泡径、並びに、洗浄液の流速の関係が、重要な因子となり、ファインバブルの平均気泡径を小さくし、かつ、洗浄液の流速を上げることが重要であることを知見した。
【0029】
特に、ファインバブルの平均気泡径は、上記式(a)に示したように、気泡の浮上速度に2乗で効いてくるため、ファインバブルの平均気泡径は、影響の大きい因子であることが予想された。
【0030】
本発明者らは、上記知見に基づき、ファインバブルによる洗浄作用の強さを示す因子として、「(ファインバブルの平均気泡径)×洗浄液の流速」というパラメータを着想し、長尺鋼管の内径及び管長、並びに、ファインバブルの平均気泡径を変えながら、気泡の凝集が生じない流速を実験により導き出した。その上で、実験により得られた知見を、上記パラメータに基づき整理したところ、「(ファインバブルの平均気泡径)×洗浄液の流速」で表されるパラメータが、ある特定の範囲内となるときに、優れた洗浄効果が得られることに想到した。
【0031】
以下では、かかる知見に基づきなされた本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0032】
(鋼管について)
まず、本発明の実施形態で着目する鋼管について、簡単に説明する。
本発明の実施形態では、先程から言及しているように、短くても2~30m程度の長さを有する長尺の鋼管に着目する。また、かかる長尺管の表面(外表面や内表面)には、鉱物油を主成分とする金属加工油が付着しているものとする。なお、鋼管を構成する鋼の化学成分や用途については、特に限定されるものではなく、各種の鋼管を被洗浄物とすることができる。
【0033】
また、長尺の鋼管の全てが、長尺方向に延伸している必要はなく、その一部に公知の各種の金属加工処理が施されていてもよい。
【0034】
鉱物油を主成分とする金属加工油には、粘度の幅が広く多様な油が存在し、不純物も含有している。ファインバブルの表面は負に帯電しているため、金属加工油に含まれる不純物を容易に除去することができ、不純物の浮上分離も可能となる。また、粘度の幅が広くとも、ファインバブルによる接触吸着・剥離効果を利用した洗浄であるため、鋼管をリフトアップすることで行われる一般的な洗浄と比較して、ファインバブルの接触を繰り返し発生させることが可能となり、効率的な洗浄が可能となる。
【0035】
(ファインバブル洗浄装置について)
続いて、本発明の実施形態に係るファインバブル洗浄方法で用いる、ファインバブル洗浄装置について、図1A図2を参照しながら、簡単に説明する。図1A図2は、本発明の実施形態にファインバブル洗浄装置を説明するための模式図である。
【0036】
図1A及び図1Bに模式的に示したように、本実施形態に係るファインバブル洗浄方法で用いられるファインバブル洗浄装置1は、処理槽10と、洗浄液循環機構20と、ファインバブル供給機構30と、を主に有している。
【0037】
処理槽10は、被洗浄物(すなわち、油の付着した長尺管)Sを洗浄する洗浄液3を保持しており、1又は複数の被洗浄物が、その中空部が洗浄液3で満たされるように浸漬される。ここで、被洗浄物Sは、例えばワイヤ等で纏められて、クレーン(図示せず。)等の吊り下げ装置によって吊り下げられることで、処理槽10に保持されている洗浄液3中に浸漬される。
【0038】
ここで、処理槽10の材質は特に限定されるものではなく、鉄、鋼、ステンレス鋼板等といった各種の金属材料で形成された処理槽であってもよいし、繊維強化プラスチック(FRP)やポリプロピレン(PP)等といった各種のプラスチック樹脂で形成された処理槽であってもよいし、各種のレンガで形成された処理槽であってもよい。すなわち、本実施形態に係るファインバブル洗浄装置1を構成する処理槽10として、既設の処理槽を利用することができる。
【0039】
また、処理槽10の大きさについても、着目する被洗浄物の大きさや数に応じて適宜設定すればよく、各種形状の大型処理槽であっても、本実施形態に係るファインバブル洗浄装置1の処理槽10として利用可能である。
【0040】
かかる処理槽10には、洗浄液3を処理槽10内で循環させるとともに、被洗浄物Sに対して洗浄液3を吐出する洗浄液循環機構20が設けられる。かかる洗浄液循環機構20は、洗浄液3を循環させるための循環配管21と、洗浄液3を循環させるための循環ポンプ23と、を有している。循環ポンプ23が、処理槽10内の洗浄液3を循環配管21へと引き抜いた上で、循環配管21の引き抜き側とは逆側の端部から、洗浄液3を処理槽10内の被洗浄物Sに向かって吐出させる。
【0041】
ここで、循環配管21及び循環ポンプ23については、特に限定されるものではなく、各種の配管及び循環ポンプを用いて、洗浄液循環機構20を実現することが可能である。また、1つの処理槽10に対する、循環配管21及び循環ポンプ23の設置個数については、特に限定されるものではなく、処理槽10の大きさ等に応じて、適宜設定すればよい。
【0042】
また、洗浄液循環機構20によって実現される、処理槽10の内部における洗浄液3の平均流速は、0.2m/s~5.0m/sの範囲内であることが好ましい。かかる範囲内の平均流速が実現されることで、以下で詳述するようなファインバブルの洗浄効果をより確実に享受することが可能となる。
【0043】
かかる循環配管21に対して、洗浄液循環機構20内の洗浄液3に対してファインバブルを供給するファインバブル供給機構30が設けられる。図1Aでは、ファインバブル供給機構30が、各循環配管21に対して直列に設けられる場合について図示しているが、ファインバブル供給機構30は、循環配管21に対して並列になるように設けられていてもよい。また、ファインバブル供給機構30の設置個数については、特に限定されるものではなく、処理槽10の大きさ等に応じて、適宜設定すればよい。
【0044】
ここで、ファインバブル発生の基本方式には、気泡のせん断、気泡の微細孔通過、気体の加圧溶解、液体の高速旋回、超音波、電気分解、化学反応等といった様々な方式が存在する。本実施形態に係るファインバブル供給機構30として、上記のような各種の発生方式を利用したガス取り込み機構を有する装置を用いることが可能である。ただし、ファインバブルを発生させる吐出ノズルにガスを取り込む方式を用いたファインバブル発生機構を用いることで、ファインバブルの平均気泡径をより確実に制御可能となるため、より好ましい。
【0045】
本実施形態に係るファインバブル供給機構30において、発生させるファインバブルの平均気泡径は、1~100μmの範囲内とすることが好ましい。ファインバブルの平均気泡径が1μm未満である場合には、油分との接触回数が少なくなる結果、油分の剥離量が減少し、得られる洗浄効果が小さくなる可能性がある。ファインバブルの平均気泡径を1μm以上とすることで、所望の洗浄効果をより確実に発現させることが可能となる。ファインバブルの平均気泡径は、より好ましくは5μm以上であり、更に好ましくは10μm以上である。一方、ファインバブルの平均気泡径が100μmを超える場合には、油分の吸着効果が発現しない可能性がある。ファインバブルの平均気泡径を100μm以下とすることで、ファインバブルによる油分の吸着効果を、より確実に発現させることが可能となる。ファインバブルの平均気泡径は、より好ましくは80μm以下であり、更に好ましくは60μm以下である。
【0046】
また、本実施形態に係るファインバブル供給機構30において、発生させるファインバブルの個数密度を、1×10~1×10個/mLの範囲内とすることが好ましい。ファインバブルの個数密度が1×10個/mL未満である場合には、油分との接触回数が少なくなる結果、油分の剥離量が減少し、得られる洗浄効果が小さくなる可能性がある。ファインバブルの個数密度を1×10個/mL以上とすることで、所望の洗浄効果をより確実に発現させることが可能となる。ファインバブルの個数密度は、より好ましくは3×10個/mL以上であり、更に好ましくは5×10個/mL以上である。一方、ファインバブルの個数密度の上限は、特に規定するものではなく、多ければ多いほどよいが、個数密度が1×10個/mLを超える場合には、洗浄剤に添加する界面活性剤の消費が大きくなり、コストが増加する可能性がある。ファインバブルの個数密度を1×10個/mLとすることで、コストの増加を招くことなく、所望の洗浄性能を発現させることが可能となる。
【0047】
なお、ファインバブルの平均気泡径及び濃度(密度)は、液中パーティクルカウンターや気泡径分布計測装置等といった、公知の機器により測定することが可能である。
【0048】
なお、処理槽10内における洗浄液3の平均流速をより確実に制御するために、ファインバブル供給機構30が設けられる上記循環配管21とは別に、処理液3を循環させるための第2の循環配管(図示せず。)を、別途設置してもよい。この場合、第2の循環配管には、別途循環ポンプ(図示せず。)が設けられることとなる。第2の循環配管の一方の端部は、処理槽10に接続されることが好ましい。また、第2の循環配管の他方の端部は、処理槽10に接続されていてもよいし、ファインバブル供給機構30よりも下流側の上記循環配管21に接続されていてもよい。
【0049】
以上説明したような、本実施形態に係るファインバブル洗浄装置1において、洗浄液循環機構20は、図2に模式的に示したように、洗浄液3の流れ方向と鋼管の長尺方向とのなす角θの大きさが0°超過10.0°以下の範囲内となるように、洗浄液3を吐出するようにする。被洗浄物Sの中空部が洗浄液3で満たされるように浸漬されている上で、更に、このような条件が満たされることにより、被洗浄物Sの下端に行くほど液が汚れて排出されることから、被洗浄物Sを洗浄液3の中から取り上げる際に、汚れた液が逆流して鋼管の内表面に再付着させないようにすることができる。
【0050】
また、洗浄液循環機構20は、洗浄液3の流れ方向と鋼管の長尺方向とのなす角θの大きさが0°超過10.0°以下の範囲内となり、かつ、洗浄液3が鋼管の中空部を処理槽10の底面側から液面側に向かって流れるように、洗浄液3を吐出するようにすることが、より好ましい。このようにすることで、汚れた液が逆流して鋼管の内表面に再付着することを、より確実に防止することが可能となる。
【0051】
このような鋼管の長尺方向とのなす角θの調整は、洗浄液循環機構20における洗浄液3の吐出ノズルのノズル軸の向きを調整することで実現してもよいし、浸漬される被洗浄物Sである長尺管の吊り下げ位置を調整して一方の端部が鉛直方向下向きに傾斜するように吊り下げたり、処理槽10に設けた緩衝材の高さを変更したりして、上記のような角θが実現されるようにしてもよいし、吐出ノズルのノズル軸の向きと、長尺管の吊り下げ位置や緩衝材の高さの双方を調整することで実現してもよい。ただし、吐出ノズルのノズル軸を調整する前に長尺管の吊り下げ位置や緩衝材の高さを調整し、吊り下げ位置や緩衝材の高さの調整だけでは上記の条件が満たされない場合に吐出ノズルのノズル軸の調整をする方が、より簡便である。また、吊り下げ位置や緩衝材の高さを調整する場合には、被洗浄物Sの中空部が洗浄液3で満たされるという状況を、より簡便に実現することができる。
【0052】
図2に示したような鋼管長尺方向とのなす角θが10.0°を超える場合には、洗浄液3の抵抗が大きくなり、ファインバブルが中空部において上方に凝集してしまい、ファインバブルによる洗浄効果を十分に得ることができない。図2に示したなす角θは、好ましくは0.1°以上であり、より好ましくは0.2°以上である。また、図2に示したなす角θは、好ましくは6.0°以下であり、より好ましくは5.0°以下である。
【0053】
また、流れの方向と水平面とのなす角θ’は、0~10.0°であることが好ましい。水平面とのなす角θ’が10.0°を越える場合には、処理槽10内でファインバブルが凝集したり水面に浮上したりしてしまうことで、処理槽10内下流側でのファインバブルの個数密度が低下してしまう可能性がある。水平面とのなす角θ’を上記の範囲内とすることで、ファインバブルの個数密度の低下を、より確実に抑制することが可能となる。
【0054】
以上、図1A図2を参照しながら、本実施形態に係るファインバブル洗浄装置1について説明した。
【0055】
(ファインバブル洗浄方法について)
以下では、図3を参照しながら、以上説明したようなファインバブル洗浄装置1を用いたファインバブル洗浄方法について、詳細に説明する。図3は、本実施形態に係るファインバブル洗浄方法を説明するための模式図である。
【0056】
先だって説明したように、本発明者らは、「(ファインバブルの平均気泡径)×洗浄液の流速」で表されるパラメータが、ある特定の範囲内となるときに、優れた洗浄効果が得られることを知見し、以下で詳述するようなファインバブル洗浄方法に想到した。
【0057】
上記知見に基づき、本実施形態に係るファインバブル洗浄方法では、図3に示したように、被洗浄物の内径をDpi(単位:m)、管長をL(単位:m)とし、ファインバブルの平均気泡径をDb(単位:m)とし、被洗浄物Sの中空部の入側での洗浄液の流速をV(単位:m/s)としたときに、以下の式(1)で表される関係を満足するように、ファインバブルの平均気泡径Dbと、洗浄液の流速Vと、を制御する。
【0058】

L/Dpi<200の場合、3.2×10-10≦Db×V≦5.0×10-8
200≦L/Dpiの場合、6.0×10-13≦Db×V≦3.2×10-9
・・・式(1)
【0059】
上記式(1)で表される条件が満たされることで、被洗浄物の管内径Dpiが小さく、かつ、管長Lが短い場合において、ファインバブルの平均気泡径Dbが大きくて流速Vが遅かったとしても、気泡が被洗浄物の下端から抜けていくようになる。これにより、ファインバブルによる洗浄効果を享受することが可能となる。
【0060】
一方、被洗浄物の管内径Dpiが小さく、かつ、管長Lが長い場合においては、ファインバブルが被洗浄物の中空部の上方で凝集していき、下端側から抜けなくなってくる。しかしながら、上記式(1)で表される条件が満たされるように、ファインバブルの平均気泡径Dbを小さくし、かつ、流速Vを上げることで、ファインバブルの浮上速度を上回る洗浄液の循環を確保することができるため、ファインバブルによる洗浄効果を享受することが可能となる。上記式(a)から示唆されるように、ファインバブルの平均気泡径は、ストークスの式に則った浮上速度において2乗で効いてくるため、平均気泡径Dbを小さくすることは、効果として大きなものとなる。
【0061】
ここで、ファインバブルの平均気泡径Dbは、ファインバブル供給機構30に供給されるガス(空気)の圧力や、ファインバブル供給機構30に供給される洗浄液の圧力や、空気と洗浄液との流量比等を制御することで、所望の値に調整することが可能である。また、洗浄液の流速Vは、循環ポンプ23の出力を調整することで、所望の値に調整することが可能である。
【0062】
なお、本実施形態においては、管長L:2m~30m、内径Dpi:10mm~300mmを想定しているが、上記式(1)を満足するものであれば、かかる範囲に限定されるものではない。
【0063】
本実施形態に係るファインバブル洗浄方法では、洗浄液は、親水基にエチレンオキサイドを付加した非イオン性界面活性剤を含有し、かつ、かかる界面活性剤のHLB値は、15~19の範囲内であることが好ましい。
【0064】
従来の一般的な油分洗浄では、洗浄液の表面張力を下げて油分と被洗浄物との間に界面活性剤を入り込ませ、リフトアップ効果にて油分の周囲を界面活性剤で覆うことでミセル化し、油分を浮上させる。このリフトアップ効果を効率的に行うためには、油の比重があることから、界面活性剤のミセル化のための臨界濃度である臨界ミセル濃度よりも、更に多くの界面活性剤の量を必要とした。
【0065】
一方、本実施形態で着目しているファインバブルによる洗浄では、ファインバブルの吸着効果を利用して油分を被洗浄物から剥離し、ファインバブルの周囲に油分を吸着させることで、被洗浄物の洗浄を行う。このように、本実施形態で着目しているファインバブルによる洗浄は、従来の油分洗浄とは、その機構が大きく異なっている。
【0066】
ここで、洗浄液に、親水基としてエチレンオキサイドを付加した非イオン性界面活性剤を含有させることで、界面活性剤の分散性・乳化性を高め、ファインバブルの周囲に界面活性剤が保持される条件を、より確実かつ簡便に実現することが可能となる。
【0067】
「非イオン性界面活性剤」とは、界面活性剤のうち、イオンに解離する基を持たない物質の総称である。アニオン性界面活性剤やカチオン性界面活性剤といったイオン性界面活性剤ではなく、非イオン性界面活性剤を用いると好ましいとしている理由は、今般着目している油分(鉱物油由来の金属加工油)は、イオン化している物質として除去するわけではないために、イオン特性を強く持つアニオン・カチオン性界面活性剤である必要がないためである。また、イオン特性の影響を受けないものを用いる方が、ファインバブルの特性に対して、意図しない影響を及ぼすことがない。
【0068】
また、イオン性界面活性剤は、洗浄に必要な臨界濃度である臨界ミセル濃度cmcに到達するための量が必要であり、薬液コストとしても高くなる。しかしながら、本実施形態で着目する非イオン性界面活性剤は、少量で界面活性作用を有する臨界ミセル濃度cmcに到達し、更に、ファインバブルとの組み合わせによって、ファインバブルなしで必要な臨界ミセル濃度cmcに到達せずとも、洗浄効果をもたらすことができる。これにより、更なる薬液コスト削減が可能となる。
【0069】
ここで、洗浄剤における非イオン性界面活性剤の濃度は、当該界面活性剤の臨界ミセル濃度cmcの0.01倍以上2.00倍未満であることが好ましい。本実施形態に係るファインバブル洗浄方法では、上記のような非イオン性界面活性剤を、界面活性剤自体をミセル化させるよりも、ファインバブルの安定化のために利用している。そのため、本実施形態において、非イオン性界面活性剤の濃度は、臨界ミセル濃度cmcの0.01倍以上2.00倍未満であればよい。これにより、界面活性剤の成分がファインバブルの周囲を取り囲み、油分吸着と、所望の平均気泡径を有するファインバブルの保持と、をより確実に実現することが可能となる。
【0070】
非イオン性界面活性剤の濃度が、臨界ミセル濃度cmcの0.01倍未満である場合には、上記のようなファインバブルの保持効果が十分に発現しない可能性がある。非イオン型界面活性剤の濃度は、より好ましくは臨界ミセル濃度cmcの0.05倍以上であり、更に好ましくは臨界ミセル濃度cmcの0.20倍以上である。
【0071】
一方、非イオン性界面活性剤の濃度が、臨界ミセル濃度cmcの2.00倍以上となる場合には、界面活性剤を多く使用するのみで、ファインバブルの洗浄効果に与える効果は飽和した状態となる。非イオン性界面活性剤の濃度は、より好ましくは臨界ミセル濃度cmcの1.50倍以下であり、更に好ましくは臨界ミセル濃度cmcの1.00倍以下であり、より一層好ましくは臨界ミセル濃度cmcの1.00倍未満である。
【0072】
なお、着目する非イオン性界面活性剤の臨界ミセル濃度cmcは、常圧下25℃における値とする。また、かかる臨界ミセル濃度cmcは、表面張力法により測定することが可能である。
【0073】
特に、ファインバブルでの洗浄をより効率的に行うためには、液中に界面活性剤が存在することが重要である。そのため、本実施形態に係るファインバブル洗浄方法では、かかる非イオン性界面活性剤のHLB値を、15.0~19.0の範囲内とすることが好ましい。
【0074】
HLB(Hydrophile Lipophile Balance)値とは、親水性と親油性とのバランスの度合いを数値で示したものである。かかるHLB値は、親水基を持たない物質(例えば、パラフィン等)を、HLB値=0とし、親油基を持たずに親水基のみを持つ物質(例えば、ポリエチレングリコール等)を、HLB=20として、0~20の間を等分したものである。非イオン性界面活性剤においては、Griffin法の式(HLB値=20×親水部の式量の総和/分子量)が、一般的に適用されている。親水部の式量と分子量を液体クロマトグラフィー/質量分析法により測定することで、着目する非イオン性界面活性剤のHLB値を特定することが可能である。
【0075】
従来の油分洗浄では、表面張力を下げて、一定の起泡力と泡膜を保持させること等を考慮して、13~15の範囲内のHLB値を示す界面活性剤が用いられていた。しかしながら、本発明者らは、ファインバブルによる洗浄においては、15.0~19.0の範囲内のHLB値を示す非イオン性界面活性剤を用いることが好ましいことに想到した。かかる範囲内のHLB値は、着目する界面活性剤が親水性側に近づいた特徴を示すことを意味している。
【0076】
非イオン性界面活性剤がこのような範囲内のHLB値を示すことで、液中に存在する界面活性剤を増加させ、ファインバブルの周囲に界面活性剤を吸着させ、ミセル化することが可能となる。これにより、ファインバブルの更なる安定化を図ることが可能となるとともに、油分との吸着をより確実に保持できるようになる。すなわち、ファインバブルの安定化に寄与する界面活性剤が、洗浄性にも効果を示すことが判明した。
【0077】
HLB値が15.0未満である場合には、ファインバブルの周囲に界面活性剤が存在するよりも、気液界面(液面)に向かう界面活性剤が増加してしまい、更には、界面活性剤の起泡力が高くなる。その結果、ファインバブル同士が凝集して、油分へのファインバブルの吸着効果が弱くなる可能性がある。かかる観点から、HLB値は、15.0以上とすることが好ましい。非イオン性界面活性剤のHLB値は、より好ましくは16.0以上であり、更に好ましくは16.5以上である。
【0078】
一方、HLB値が19.0を超える場合には、疎水基が少なくなりすぎてファインバブルの周囲に界面活性剤を存在させることができず、ファインバブルの安定化に寄与しなくなる可能性が高くなってしまう。かかる観点から、HLB値は、19.0以下とすることが好ましい。非イオン性界面活性剤のHLB値は、より好ましくは18.5以下であり、更に好ましくは18.0以下である。
【0079】
また、非イオン性界面活性剤としては、エーテル型(例:RO-(CHCHO)-H)、エステル型(例:RCOO-(CHCHO)-H)、エーテルエステル型、含窒素型(RCON-(CHCHOH))等が知られている。ここで、本実施形態に係るファインバブル洗浄方法では、エーテル型の非イオン性界面活性剤(AE:ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルコールエトキシレート)を用いることが好ましい。
【0080】
エーテル型の非イオン性界面活性剤は、1)水の硬度や電解質の影響を受けにくく、他のすべての界面活性剤と併用できる、2)中性や酸性、アルカリ性でも洗浄力を発揮する、3)他の界面活性剤に比べ、合成繊維に対する洗浄力が優れており、冷水でも洗浄力を発揮する、4)低濃度でも洗浄力が高い、5)生分解されやすく、生態毒性が低く、皮膚刺激性も低い、6)吸湿性があるため、AEを主成分とした洗浄剤は液体化しやすい、等の多くのメリットがある。
【0081】
また、本発明者らによる検証によれば、ファインバブルの周囲に非イオン性界面活性剤が吸着する上で、複雑な構造は必要なく、あくまでもファインバブルを安定化させるための物質として存在することが重要であることが判明した。そのため、本実施形態に係るファインバブル洗浄方法に用いる、エーテル型の非イオン性界面活性剤は、疎水基として、炭素数が10~20の範囲内の直鎖状の炭素鎖を有することが好ましい。炭素数が10~20の範囲内の直鎖状の炭素鎖を疎水基として有することで、所望の平均気泡径を有するファインバブルの保持と、をより確実に実現することが可能となる。
【0082】
ここで、直鎖構造以外の複雑な構造が疎水基として存在する場合、ファインバブル同士の凝集が起こり、ファインバブルの個数が少なくなる可能性があり、ファインバブルの管理が困難となる可能性がある。
【0083】
また、炭素数が20を超える場合には、所望のHLB値を実現するために親水基の炭素数も大きくする必要が生じ、その結果分子量が大きくなって、固体としての特性が強く発現するようになるため、利便性が低下する可能性がある。また、炭素数が20を超えると、ファインバブル同士の凝集が起こりやすくなり、油分の剥離が行えずに洗浄性が低下する可能性がある。一方、炭素数が10未満である場合には、脂肪酸誘導体として合成製造することが難しくなり、製造コストが増加してしまう可能性がある。
【0084】
疎水基の炭素数は、より好ましくは12~18の範囲内である。
【0085】
なお、上記説明では、直鎖疎水基を有するエーテル型の非イオン性界面活性剤について着目しているが、本実施形態に係るファインバブル洗浄方法では、親水基・疎水基のバランスが優先的に着目すべき点であり、他の構造であっても、かかるバランスが成り立つ領域であれば、界面活性剤として用いることが可能である。
【0086】
また、本実施形態に係るファインバブル洗浄方法において、かかる界面活性剤の25℃における表面張力は、40mN/m以上であることが好ましい。従来着目されてきた一般的な洗浄では、表面張力を低下させることで洗浄性を向上させることが志向されてきたが、本実施形態で着目しているファインバブルを用いた洗浄では、表面張力を低下させる必要性が低い。更には、本実施形態で着目しているような、非イオン性界面活性剤は、ファインバブルを取り囲むための表面状態を必要としている。かかる観点から、気液界面(液面)に集まる界面活性剤よりも液中に存在する界面活性剤が多くなる、表面張力低下があまり生じない界面活性剤であることが好ましい。
【0087】
25℃における表面張力が40mN/m未満である場合には、液面に界面活性剤が集まってしまい、ファインバブルの周囲に集まりにくくなる可能性がある。そのため、25℃における表面張力は、40mN/m以上とすることが好ましい。表面張力が40mN/m以上であれば、ファインバブルの周囲を取り囲むだけの界面活性剤を液中に保持することができ、ファインバブルをより安定化することが可能となる。25℃における表面張力は、より好ましくは45mN/m以上である。なお、表面張力の上限は特に規定するものではないが、界面活性剤として作用する範囲として、65mN/m以下であることが好ましい。なお、かかる表面張力は、リング法を用いて測定することが可能である。
【0088】
また、本実施形態に係るファインバブル洗浄方法において、洗浄液として、アルカリ液を用いることが好ましく、そのアルカリ濃度は1.0mol/L以下であることが好ましい。アルカリ液を用いることで、油分を効果的に可溶化させることが可能となる。なお、油分の可溶化という観点では、洗浄液を高温にすれば化学反応を促進できるため、より効果を発揮させることができる。しかしながら、本実施形態で着目するファインバブルを用いた洗浄では、アルカリにすることにより、ファインバブルの表面により確実に負の電荷を帯びさせることが可能となり、油分の吸着性をより向上させることが可能となる。また、アルカリ液を用いることで、油の大きさが徐々に小さくなって微粒子化していき、ファインバブルの表面により吸着しやすくなる。
【0089】
本実施形態に係るファインバブル洗浄方法において、アルカリ濃度は1mol/L以下とすることが好ましい。アルカリ濃度が1.0mol/Lを超える場合には、作業環境が低下するだけでなく、薬液の管理が大変になる可能性があり、加えて、薬液コストが増加するために、利便性が低下する。洗浄液のアルカリ濃度は、より好ましくは0.9mol/L以下であり、更に好ましくは0.8mol/L以下である。
【0090】
以上説明したような洗浄液において、洗浄液の温度は、非イオン性界面活性剤の溶解性に影響を与える因子となる。洗浄液の温度が低すぎる場合には、非イオン性界面活性剤が固体化してしまい、溶け残った界面活性剤が後段の製造工程等で悪影響を及ぼす可能性が生じうる他、界面活性剤として機能しなくなる可能性がある。一方、洗浄液の温度が高すぎる場合には、作業環境の改善が得られないばかりでなく、非イオン性界面活性剤の溶解度が低下するとともに、ファインバブルの表面へのミセル化の度合いが低下する可能性がある。かかる観点から、本実施形態に係るファインバブル洗浄方法では、洗浄液の温度を、20~60℃の範囲内とすることが好ましい。洗浄液の温度は、より好ましくは20~55℃の範囲内であり、更に好ましくは30~50℃の範囲内である。
【0091】
なお、本実施形態に係るファインバブル洗浄方法で用いる洗浄液としては、頑固な油汚れ、熱処理によって焼き付いた油汚れ等を除去可能なものであることが重要である。そのため、洗浄液として、有機物汚れに優れた効果を発揮するものが好ましく、水性洗浄剤や有機溶剤を使用して汚れを浮き上がらせて除去する、又は、汚れを溶解・分解して除去するものであることが好ましい。かかる観点から、洗浄液の粘性は、水に近いもの、又は、低い粘性のものを使用することが好ましい。これにより、上記のような除去効果を十分に発現させることが可能となる。より詳細には、洗浄液は、上記のような液温において、0.1mPa・s以上10mPa・s未満の粘度を有していることが好ましい。
【0092】
なお、上記に挙げた洗浄物対象以外の無機物汚れ、金属粉、錆等の固体汚れに関しては、洗浄液よりも物理的な剥離を行うファインバブルの吸着・剥離によって、洗浄効果を更に付与することが可能となる。
【0093】
本実施形態に係るファインバブル洗浄方法において、洗浄液は、洗浄液成分として、界面活性剤の他に、キレート剤、防錆剤、消泡剤等を含有していてもよい。
【0094】
以上、本実施形態に係るファインバブル洗浄方法について、詳細に説明した。
【実施例
【0095】
以下では、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係るファインバブル洗浄方法及びファインバブル洗浄装置について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明に係るファインバブル洗浄方法及びファインバブル洗浄装置の一例にすぎず、本発明に係るファインバブル洗浄方法及びファインバブル洗浄装置が、下記の例に限定されるものではない。
【0096】
図4A及び図4Bは、本実験例で用いたファインバブル洗浄装置を説明するための模式図である。
本実験例では、図4A及び図4Bに示したような構成を有するファインバブル洗浄装置1を用いて、検証を行った。なお、循環ポンプ23としては、吸引量が600m/hであるポンプを2台用いた。また、ファインバブル供給機構30として、関西オートメ機器株式会社製の旋回流方式のファインバブル発生装置(関西オートメ機器株式会社製 MBelif)を2台用い、循環ポンプ23の吐出配管の途中に設置した。また、洗浄液3の吐出ノズルは、水平面と平行となるように設置した(すなわち、上記角度θ’=0°)。
【0097】
洗浄液3としては、4質量%苛性ソーダ液を用い、以下に示す6種類の非イオン性界面活性剤を含有させて、検証を行った。なお、洗浄液の液温は、20~80℃で変化させた。かかる液温の範囲内において、洗浄液の粘度は、0.1mPa・s以上10mPa・s未満の範囲内を示した。
【0098】
一般的な鋼管の製造工程を経た、鉱物油由来の金属加工油の付着した各種の鋼管を、被洗浄物として利用し、上記のような洗浄液の保持された処理槽10に30分間浸漬させた。なお、鋼管の設置角度θは、処理槽10に設置されている緩衝材(図示せず。)の高さを変更することで調整した。
【0099】
なお、以下に示す表1では、洗浄液3の流れ方向に対し、下流側に位置する鋼管の端部が図4Bに示したように上向きとなるように鋼管を浸漬させた場合を、正の値を有する角度θで示し、流れ方向の下流側に位置する鋼管の端部が下向きとなるように鋼管を浸漬させた場合を、負の値を有する角度θで示している。
【0100】
<非イオン性界面活性剤>
a-1:(エーテル型)ポリオキシエチレンモノドデシルエーテル(C1225(CO)25OH)
a-2:(エーテル型)ポリオキシエチレンモノセチルエーテル(C1633(CO)23OH)
a-3:(エーテル型)ポリオキシエチレンモノオレイルエーテル(C1835(CO)20OH)
a-4:(エーテル型)ポリオキシエチレンモノノニルフェニルエーテル(C19(CO)20OH)
b:(エステル型)ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート
c:(含窒素型)ポリオキシエチレンアルキルアミン
【0101】
以下の表1に示す鋼管の設置角度θと、管内径Dpiと流量条件で試験を行った。また、流速Vについては、COMSOLMaltiphysicsのCFDモジュール(乱流)にて複数鋼管の入側での流速分布を算出し、得られた値の平均値を示した。
【0102】
ファインバブルの平均気泡径及び個数濃度は、画像解析法(マイクロトラック・ベル製MicrotracPartAnSI)を用い、循環配管の出口に測定チューブを差し込み、測定した。表面張力は、25℃の状態にある界面活性剤のみを、リング法によって事前に測定した結果を示している。
【0103】
本実験例では、処理した鋼管の洗浄性評価として、油成分として管内面に残存している内面付着炭素量の測定を実施した。炭素量は、市販の測定装置(LECOジャパン合同会社製、形態別炭素・水素/水分分析装置RC612型)を使用して測定した。より詳細には、脱脂洗浄後の内面付着炭素量を洗浄前の値を除することで、残存した炭素量の割合を算出し、油成分除去量の割合を洗浄率とした。
【0104】
なお、下記脱脂性能の評価基準は、以下の通りである。
管内面付着炭素量(油成分)の除去率
A:100%以下~95%以上
B: 95%未満~90%以上
C: 90%未満~80%以上
D: 80%未満~60%以上
E: 60%未満~40%以上
F: 40%未満
【0105】
すなわち、評点「A」、「B」は、脱脂性能が非常に良好であったことを意味し、評点「C」は、脱脂性能が良好であったことを意味し、評点「D」は、脱脂性能にやや難があったことを意味し、評点「E」、「F」は、脱脂性能が不良であったことを意味する。
【0106】
得られた結果を、以下の表1にまとめて示した。
【0107】
【表1】
【0108】
まず、比較例を見ると、鋼管が適切な角度に設置されなかった場合、及び、適切な流速を満たさなかった場合には、脱脂性能が不良であったことが分かる。
【0109】
一方、適切な角度に設置された条件で管内径及び流量を変化させて、与えた流速とファインバブルの平均気泡径の関係式(1)が満たされた場合には、脱脂性能が良好であったことが確認された。また、界面活性剤がHLB値として15を超えた場合や、直鎖疎水基、エーテル型成分を用いた場合には、更に優れた脱脂性能が確認された事が分かる。
【0110】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0111】
1 ファインバブル洗浄装置
3 洗浄液
10 処理槽
20 洗浄液循環機構
21 循環配管
23 循環ポンプ
30 ファインバブル供給機構
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B