(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】抵抗スポット溶接における打角測定方法、抵抗スポット溶接継手の製造方法及び抵抗スポット溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 11/11 20060101AFI20241023BHJP
B23K 11/24 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
B23K11/11 540
B23K11/24 336
(21)【出願番号】P 2021004894
(22)【出願日】2021-01-15
【審査請求日】2023-09-19
(31)【優先権主張番号】P 2020004731
(32)【優先日】2020-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 直明
(72)【発明者】
【氏名】児玉 真二
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-155103(JP,A)
【文献】特開2002-035952(JP,A)
【文献】特開2018-039019(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033455(WO,A1)
【文献】特開2018-176184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/11
B23K 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して配置された第一電極及び第二電極のうちの前記第一電極に周方向に複数のひずみゲージを取り付けた状態で、重ね合わされた複数の金属材を有する溶接対象を前記第一電極及び前記第二電極で挟み、
前記複数のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線に対する前記第一電極の軸線の傾きである打角の方向θと大きさφを算出する、
ことを含み
、
前記複数のひずみゲージは、等間隔に配置された3つ以上のひずみゲージであり、
前記3つ以上のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εから前記打角がない場合のひずみ測定値ε
φ=0
をそれぞれ減算して複数のひずみ変化量Δεを算出し、前記複数のひずみ変化量Δεに基づいて前記打角の方向θと大きさφを算出する、
抵抗スポット溶接における打角測定方法。
【請求項2】
対向して配置された第一電極及び第二電極のうちの前記第一電極に周方向に複数のひずみゲージを取り付けた状態で、重ね合わされた複数の金属材を有する溶接対象を前記第一電極及び前記第二電極で挟み、
前記複数のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線に対する前記第一電極の軸線の傾きである打角の方向θと大きさφを算出する、
ことを含み、
前記複数のひずみゲージは、等間隔に配置された3つ以上のひずみゲージであり、
前記3つ以上のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εから前記複数のひずみ測定値εの平均値ε
m
をそれぞれ減算して複数の偏差ひずみε’を算出し、前記複数の偏差ひずみε’に基づいて前記打角の方向θと大きさφを算出する、
抵抗スポット溶接における打角測定方法。
【請求項3】
前記3つ以上のひずみゲージで測定されたひずみ測定値εの平均値を用いて、前記第一電極と前記溶接対象との間の加圧力をさらに算出する、
請求項1
又は請求項2に記載の抵抗スポット溶接における打角測定方法。
【請求項4】
前記第一電極は固定電極である、
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接における打角測定方法。
【請求項5】
前記第一電極に前記複数のひずみゲージとしての複数の第一ひずみゲージを取り付け、
前記第二電極に周方向に複数の第二ひずみゲージを取り付け、
前記複数の第二ひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εを用いて、前記打角の方向θ及び大きさφ、並びに/又は、前記第二電極と前記溶接対象との間の加圧力を算出する、
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接における打角測定方法。
【請求項6】
前記複数の偏差ひずみε’から前記打角がない場合の前記複数の偏差ひずみε’である複数の基準偏差ひずみε
φ=0
’をそれぞれ減算して複数の偏差ひずみ変化量Δε’を算出し、前記複数の偏差ひずみ変化量Δε’に基づいて前記打角の方向θと大きさφを算出する、
請求項2、又は、請求項2に従属する請求項3~請求項5のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接における打角測定方法。
【請求項7】
前記複数のひずみゲージとして4つのひずみゲージを前記第一電極における周方向に90°間隔で離れた位置に取り付けた状態とし、
前記複数の偏差ひずみ変化量としての4つの偏差ひずみ変化量Δε’のうち、値がマイナス側に最も大きい第一偏差ひずみ変化量Δε1’を特定すると共に、前記第一偏差ひずみ変化量Δε1’が検出された位置から前記第一電極の周方向に±90°離れた2つの位置でそれぞれ検出された偏差ひずみ変化量のうち値がマイナス側に大きい方の第二偏差ひずみ変化量Δε2’を特定し、
前記第一偏差ひずみ変化量Δε1’及び前記第二偏差ひずみ変化量Δε2’に基づいて前記打角の方向θと大きさφを算出する、
請求項6に記載の抵抗スポット溶接における打角測定方法。
【請求項8】
式(10)で定義される合成偏差ひずみ変化量Δε
N
’と前記打角の大きさφとの関係から比例係数αを予め算出し、
Δε
N
’=√{(Δε1’)
2
+(Δε2’)
2
}・・・(10)
前記第一電極の軸線に垂直な平面で切った場合の前記第一電極の断面上に予め設定され、前記第一電極の断面の中心から前記第一電極の径方向外側に延びる線を基準線とし、
前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線から前記第一電極の軸線に向かって降ろした垂線と前記基準線とが前記第一電極の断面上においてなす角度を前記打角の方向θ[°]とし、
前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線と前記第一電極の軸線とのなす角度を前記打角の大きさφ[°]とし、
前記基準線上の位置、前記基準線から前記第一電極の周方向に90°離れた位置、前記基準線から前記第一電極の周方向に180°離れた位置、及び、前記基準線から前記第一電極の周方向に270°離れた位置に、前記4つのひずみゲージをそれぞれ配置した状態とし、
前記基準線上の位置で検出された偏差ひずみ変化量Δε’をΔε
0
’とし、
前記基準線から前記第一電極の周方向に90°離れた位置で検出された偏差ひずみ変化量Δε’をΔε
90
’とし、
前記基準線から前記第一電極の周方向に180°離れた位置で検出された偏差ひずみ変化量Δε’をΔε
180
’とし、
前記基準線から前記第一電極の周方向に270°離れた位置で検出された偏差ひずみ変化量Δε’をΔε
270
’とした場合に、
Δε1’=Δε
0
’(<0)、Δε2’=Δε
90
’(<0)であるときには、前記打角の方向θと大きさφを次式(A-1)~(A-3)により算出し、
θ=arctan(|Δε2’|/|Δε1’|)×180/π・・・(A-1)
φ=α×Δε
N
’・・・(A-2)
Δε
N
’=√{(Δε1’)
2
+(Δε2’)
2
}・・・(A-3)
Δε1’=Δε
90
’(<0)、Δε2’=Δε
0
’(<0)であるときには、前記打角の方向θと大きさφを次式(B-1)~(B-3)により算出し、
θ=arctan(|Δε1’|/|Δε2’|)×180/π・・・(B-1)
φ=α×Δε
N
’・・・(B-2)
Δε
N
’=√{(Δε1’)
2
+(Δε2’)
2
}・・・(B-3)
Δε1’=Δε
90
’(<0)、Δε2’=Δε
180
’(<0)であるときには、前記打角の方向θと大きさφを次式(C-1)~(C-3)により算出し、
θ={π/2+arctan(|Δε2’|/|Δε1’|)}×180/π・・・(C-1)
φ=α×Δε
N
’・・・(C-2)
Δε
N
’=√{(Δε1’)
2
+(Δε2’)
2
}・・・(C-3)
Δε1’=Δε
180
’(<0)、εΔ2’=Δε
90
’(<0)であるときには、前記打角の方向θと大きさφを次式(D-1)~(D-3)により算出し、
θ={π/2+arctan(|Δε1’|/|Δε2’|)}×180/π・・・(D-1)
φ=α×Δε
N
’・・・(D-2)
Δε
N
’=√{(Δε1’)
2
+(Δε2’)
2
}・・・(D-3)
Δε1’=Δε
180
’(<0)、Δε2’=Δε
270
’(<0)であるときには、前記打角の方向θと大きさφを次式(E-1)~(E-3)により算出し、
θ={π+arctan(|Δε2|’/|Δε1’|)}×180/π・・・(E-1)
φ=α×Δε
N
’・・・(E-2)
Δε
N
’=√{(Δε1’)
2
+(Δε2’)
2
}・・・(E-3)
Δε1’=Δε
270
’(<0)、Δε2’=Δε
180
’(<0)であるときには、前記打角の方向θと大きさφを次式(F-1)~(F-3)により算出し、
θ={π+arctan(|Δε1|’/|Δε2’|)}×180/π・・・(F-1)
φ=α×Δε
N
’・・・(F-2)
Δε
N
’=√{(Δε1’)
2
+(Δε2’)
2
}・・・(F-3)
Δε1’=Δε
270
’(<0)、Δε2’=Δε
0
’(<0)であるときには、前記打角の方向θと大きさφを次式(G-1)~(G-3)により算出し、
θ={3π/2+arctan(|Δε2’|/|Δε1’|)×180/π・・・(G-1)
φ=α×Δε
N
’・・・(G-2)
Δε
N
’=√{(Δε1’)
2
+(Δε2’)
2
}・・・(G-3)
Δε1’=Δε
0
’(<0)、Δε2’=Δε
270
’(<0)であるときには、前記打角の方向θと大きさφを次式(H-1)~(H-3)により算出し、
θ={3π/2+arctan(|Δε1’|/|Δε2’|)×180/π・・・(H-1)
φ=α×Δε
N
’・・・(H-2)
Δε
N
’=√{(Δε1’)
2
+(Δε2’)
2
}・・・(H-3)
Δε1’=Δε
0
’(<0)、Δε2’=0であるときには、前記打角の方向θと大きさφを次式(I-1)~(I-3)により算出し、
θ=0・・・(I-1)
φ=α×Δε
N
’・・・(I-2)
Δε
N
’=√{(Δε1’)
2
+(Δε2’)
2
}・・・(I-3)
Δε1’=Δε
90
’(<0)、Δε2’=0であるときには、前記打角の方向θと大きさφを次式(J-1)~(J-3)により算出し、
θ=90・・・(J-1)
φ=α×Δε
N
’・・・(J-2)
Δε
N
’=√{(Δε1’)
2
+(Δε2’)
2
}・・・(J-3)
Δε1’=Δε
180
’(<0)、Δε2’=0であるときには、前記打角の方向θと大きさφを次式(K-1)~(K-3)により算出し、
θ=180・・・(K-1)
φ=α×Δε
N
’・・・(K-2)
Δε
N
’=√{(Δε1’)
2
+(Δε2’)
2
}・・・(K-3)
Δε1’=Δε
270
’(<0)、Δε2’=0であるときには、前記打角の方向θと大きさφを次式(L-1)~(L-3)により算出し、
θ=270・・・(L-1)
φ=α×Δε
N
’・・・(L-2)
Δε
N
’=√{(Δε1’)
2
+(Δε2’)
2
}・・・(L-3)
Δε1’=0、Δε2’=0であるときには、前記打角の方向θは算出せず、大きさφを次式(M-1)により算出する、
φ=0・・・(M-1)
請求項7に記載の抵抗スポット溶接における打角測定方法。
【請求項9】
前記第一電極に前記複数のひずみゲージとしての複数の第一ひずみゲージを取り付け、
前記第二電極に周方向に等間隔で複数の第二ひずみゲージを取り付け、
前記複数の第一ひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて前記打角の方向θと大きさφを算出する手法と同一の手法により、前記複数の第二ひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて前記溶接対象における前記第二電極との接触面の法線に対する前記第二電極の軸線の傾きである打角の方向θと大きさφを算出する、
請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接における打角測定方法。
【請求項10】
対向して配置された第一電極及び第二電極のうちの前記第一電極に周方向に電気的な複数のひずみゲージを取り付けた状態で、重ね合わされた複数の金属材を有する溶接対象を前記第一電極及び前記第二電極で挟み、
前記複数のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線に対する前記第一電極の軸線の傾きである打角の方向θと大きさφを算出し、
その後、前記第一電極及び前記第二電極に通電して前記溶接対象をスポット溶接し、前記溶接対象から抵抗スポット溶接継手を得る、
ことを含む抵抗スポット溶接継手の製造方法。
【請求項11】
前記打角の方向θと大きさφを算出し、前記打角の大きさφが予め定められた規定値以上である場合には、前記打角の大きさφを前記規定値未満に修正し、
その後、前記第一電極及び前記第二電極に通電して前記溶接対象をスポット溶接する、
請求項10に記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法。
【請求項12】
前記第一電極及び前記第二電極の一方は、固定電極であり、
前記第一電極及び前記第二電極のうち少なくとも前記固定電極には、前記複数のひずみゲージが取り付けられており、
前記第一電極及び前記第二電極のうち少なくとも前記固定電極の加圧力を、前記複数のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εの平均値ε
m
に基づいて算出し、
前記加圧力に基づいて、溶接ガンの位置を調整する、
請求項10又は請求項11に記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法。
【請求項13】
前記複数の金属材は、複数の鋼板であり、
前記複数の鋼板は、重ね合わせ面に亜鉛系めっきが被覆された鋼板を1枚以上含み、
重ね合わされた前記複数の鋼板の溶接箇所の総板厚をt[mm]とした場合に、
前記第一電極及び前記第二電極への通電時間を(5t+2.8φ+2)/50[sec]以上とする、
請求項10~請求項12のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法。
【請求項14】
前記複数の金属材は、複数の鋼板であり、
前記複数の鋼板のうち少なくとも1枚は、金属めっき層を有する表面処理鋼板であり、
前記第一電極及び前記第二電極への通電終了後の加圧力保持時間をH[msec]、前記複数の鋼板のうち最も板厚が大きい鋼板の板厚をt[mm]、前記複数の鋼板のうち最も引張強度が大きい鋼板の引張強度をT[MPa]、前記第一電極及び前記第二電極の加圧力をF[N]とした場合に、
0≦φ<1であるときには、2・φ・(t・T/F)
1/2
≦Hを満たし、
1≦φ<10であるときには、(3・φ-1)・(t・T/F)
1/2
≦Hを満たし、
10≦φ<20であるときには、(φ+19)・(t・T/F)
1/2
≦Hを満たす、
請求項10~請求項13のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法。
【請求項15】
前記複数の金属材は、複数の鋼板であり、
前記複数の鋼板は、重ね合わせ面に亜鉛系めっきが被覆された鋼板を1枚以上含む、
請求項10~請求項14のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法。
【請求項16】
前記複数のひずみゲージを前記第一電極に取り付けたまま、前記第一電極及び前記第二電極に通電して前記溶接対象を溶接する、
請求項10~請求項15のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法。
【請求項17】
対向して配置された第一電極及び第二電極と、
前記第一電極に周方向に取り付けられた複数のひずみゲージと、
重ね合わされた複数の金属材を有する溶接対象を前記第一電極及び前記第二電極で挟んだ状態で前記複数のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線に対する前記第一電極の軸線の傾きである打角の方向θと大きさφを算出し、その後、前記第一電極及び前記第二電極に通電して前記溶接対象をスポット溶接する制御を行う制御部と、
を備え、
前記複数のひずみゲージは、等間隔に配置された3つ以上のひずみゲージであり、
前記制御部は、前記3つ以上のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εから前記打角がない場合のひずみ測定値ε
φ=0
をそれぞれ減算して複数のひずみ変化量Δεを算出し、前記複数のひずみ変化量Δεに基づいて前記打角の方向θと大きさφを算出する、
抵抗スポット溶接装置。
【請求項18】
対向して配置された第一電極及び第二電極と、
前記第一電極に周方向に取り付けられた複数のひずみゲージと、
重ね合わされた複数の金属材を有する溶接対象を前記第一電極及び前記第二電極で挟んだ状態で前記複数のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線に対する前記第一電極の軸線の傾きである打角の方向θと大きさφを算出し、その後、前記第一電極及び前記第二電極に通電して前記溶接対象をスポット溶接する制御を行う制御部と、
を備え、
前記複数のひずみゲージは、等間隔に配置された3つ以上のひずみゲージであり、
前記制御部は、前記3つ以上のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εから前記複数のひずみ測定値εの平均値ε
m
をそれぞれ減算して複数の偏差ひずみε’を算出し、前記複数の偏差ひずみε’に基づいて前記打角の方向θと大きさφを算出する、
抵抗スポット溶接装置。
【請求項19】
前記制御部は、前記打角の方向θと大きさφを算出し、前記打角の大きさφが予め定められた規定値以上である場合には、前記打角の大きさφを前記規定値未満に修正し、その後、前記第一電極及び前記第二電極に通電して前記溶接対象をスポット溶接する制御を行う、
請求項17又は請求項18に記載の抵抗スポット溶接装置。
【請求項20】
対向して配置された第一電極及び第二電極と、
前記第一電極に周方向に取り付けられた複数のひずみゲージと、
重ね合わされた複数の金属材を有する溶接対象を前記第一電極及び前記第二電極で挟んだ状態で前記複数のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線に対する前記第一電極の軸線の傾きである打角の方向θと大きさφを算出し、その後、前記第一電極及び前記第二電極に通電して前記溶接対象をスポット溶接する制御を行う制御部と、
を備え、
前記第一電極及び前記第二電極の一方は、固定電極であり、
前記第一電極及び前記第二電極のうち少なくとも前記固定電極には、前記複数のひずみゲージが取り付けられており、
前記制御部は、
前記第一電極及び前記第二電極のうち少なくとも前記固定電極の加圧力を、前記複数のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εの平均値ε
m
に基づいて算出し、
前記加圧力に基づいて、溶接ガンの位置を調整する制御を行う、
抵抗スポット溶接装置。
【請求項21】
前記第一電極には、前記複数のひずみゲージとしての複数の第一ひずみゲージが取り付けられ、
前記第二電極には、周方向に等間隔で複数の第二ひずみゲージが取り付けられ、
前記制御部は、前記複数の第一ひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて前記打角の方向θと大きさφを算出する手法と同一の手法により、前記複数の第二ひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて前記溶接対象における前記第二電極との接触面の法線に対する前記第二電極の軸線の傾きである打角の方向θと大きさφを算出する、
請求項17~請求項20のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗スポット溶接における打角測定方法、抵抗スポット溶接継手の製造方法及び抵抗スポット溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車部品の溶接組立工程には、量産性に優れた抵抗スポット溶接が広く適用されている。一般的に、抵抗スポット溶接機としては、産業用ロボットに抵抗スポット溶接用の一対の電極を有する溶接ガンを組み合わせた抵抗スポット溶接ロボットが用いられている。
【0003】
実際の溶接組立工程で生じる代表的な外乱の一つに、電極の打角が挙げられる。打角とは、溶接対象における電極との接触面の法線に対して電極の軸線が傾くことである。打角がある状態でスポット溶接した場合には、溶接品質への悪影響が生じる虞がある。特に、溶接対象として亜鉛めっき鋼板を用いた場合には、溶融亜鉛に起因した液体金属脆化割れ(以下、LME割れと呼ぶ。LME:Liquid Metal Embrittlement)が発生し問題になる。
【0004】
ここで、例えば、特許文献1~特許文献6には、打角検出手段を用いて打角を検出する技術が記載されている。また、特許文献7には、電極に光学的なひずみゲージを取り付け、通電開始後にひずみゲージから出力された信号に基づいて電極に加わる荷重の方向と大きさを検出する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-35952号公報
【文献】特開2002-45976号公報
【文献】特開平10-143212号公報
【文献】特許第3359012号公報
【文献】特許第5101466号公報
【文献】特許第3982603号公報
【文献】特開2015-155103号公報
【文献】特開2011-156564号公報
【文献】特開2018-39019号公報
【文献】国際公開第2017/033455号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、打角の方向と大きさを検出することができれば、例えば、スポット溶接の打点毎に溶接可否の判断や溶接条件の変更等が可能になり、溶接品質を安定させることができると考えた。
【0007】
また、発明者らは、特許文献1~特許文献6に記載されている打角検出手段に対しては、電極の周辺部品と干渉しない省スペース性や、イニシャルコスト及びランニングコスト等の経済性が同時に要求されると考えた。
【0008】
さらに、発明者らは、打角の方向と大きさを検出することに着目して検討したが、特許文献7には、打角の方向と大きさを検出することは記載されていなかった。
【0009】
そこで、本発明の第一の目的は、電極の周辺部品と干渉しない省スペース性や、イニシャルコスト及びランニングコスト等の経済性の課題を解決しつつ、打角の方向と大きさを精度よく検出できる抵抗スポット溶接における打角測定方法を提供することとする。
【0010】
また、発明の第二の目的は、溶接品質を安定させることができる抵抗スポット溶接継手の製造方法を提供することとする。
【0011】
さらに、発明の第三の目的は、溶接品質を安定させることができる抵抗スポット溶接装置を提供することとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一態様に係る抵抗スポット溶接における打角測定方法は、対向して配置された第一電極及び第二電極のうちの前記第一電極に周方向に複数のひずみゲージを取り付けた状態で、重ね合わされた複数の金属材を有する溶接対象を前記第一電極及び前記第二電極で挟み、前記複数のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線に対する前記第一電極の軸線の傾きである打角の方向θと大きさφを算出する、ことを含み、前記複数のひずみゲージは、等間隔に配置された3つ以上のひずみゲージであり、前記3つ以上のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εから前記打角がない場合のひずみ測定値ε
φ=0
をそれぞれ減算して複数のひずみ変化量Δεを算出し、前記複数のひずみ変化量Δεに基づいて前記打角の方向θと大きさφを算出する。
本発明の第二態様に係る抵抗スポット溶接における打角測定方法は、対向して配置された第一電極及び第二電極のうちの前記第一電極に周方向に複数のひずみゲージを取り付けた状態で、重ね合わされた複数の金属材を有する溶接対象を前記第一電極及び前記第二電極で挟み、前記複数のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線に対する前記第一電極の軸線の傾きである打角の方向θと大きさφを算出する、ことを含み、前記複数のひずみゲージは、等間隔に配置された3つ以上のひずみゲージであり、前記3つ以上のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εから前記複数のひずみ測定値εの平均値ε
m
をそれぞれ減算して複数の偏差ひずみε’を算出し、前記複数の偏差ひずみε’に基づいて前記打角の方向θと大きさφを算出する。
【0013】
本発明の第三態様に係る抵抗スポット溶接継手の製造方法は、対向して配置された第一電極及び第二電極のうちの前記第一電極に周方向に電気的な複数のひずみゲージを取り付けた状態で、重ね合わされた複数の金属材を有する溶接対象を前記第一電極及び前記第二電極で挟み、前記複数のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線に対する前記第一電極の軸線の傾きである打角の方向θと大きさφを算出し、その後、前記第一電極及び前記第二電極に通電して前記溶接対象をスポット溶接し、前記溶接対象から抵抗スポット溶接継手を得る、ことを含む。
【0014】
本発明の第四態様に係る抵抗スポット溶接装置は、対向して配置された第一電極及び第二電極と、前記第一電極に周方向に取り付けられた複数のひずみゲージと、重ね合わされた複数の金属材を有する溶接対象を前記第一電極及び前記第二電極で挟んだ状態で前記複数のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線に対する前記第一電極の軸線の傾きである打角の方向θと大きさφを算出し、その後、前記第一電極及び前記第二電極に通電して前記溶接対象をスポット溶接する制御を行う制御部と、を備え、前記複数のひずみゲージは、等間隔に配置された3つ以上のひずみゲージであり、前記制御部は、前記3つ以上のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εから前記打角がない場合のひずみ測定値ε
φ=0
をそれぞれ減算して複数のひずみ変化量Δεを算出し、前記複数のひずみ変化量Δεに基づいて前記打角の方向θと大きさφを算出する。
本発明の第五態様に係る抵抗スポット溶接装置は、対向して配置された第一電極及び第二電極と、前記第一電極に周方向に取り付けられた複数のひずみゲージと、重ね合わされた複数の金属材を有する溶接対象を前記第一電極及び前記第二電極で挟んだ状態で前記複数のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線に対する前記第一電極の軸線の傾きである打角の方向θと大きさφを算出し、その後、前記第一電極及び前記第二電極に通電して前記溶接対象をスポット溶接する制御を行う制御部と、を備え、前記複数のひずみゲージは、等間隔に配置された3つ以上のひずみゲージであり、前記制御部は、前記3つ以上のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εから前記複数のひずみ測定値εの平均値ε
m
をそれぞれ減算して複数の偏差ひずみε’を算出し、前記複数の偏差ひずみε’に基づいて前記打角の方向θと大きさφを算出する。
本発明の第六態様に係る抵抗スポット溶接装置は、対向して配置された第一電極及び第二電極と、前記第一電極に周方向に取り付けられた複数のひずみゲージと、
重ね合わされた複数の金属材を有する溶接対象を前記第一電極及び前記第二電極で挟んだ状態で前記複数のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εに基づいて前記溶接対象における前記第一電極との接触面の法線に対する前記第一電極の軸線の傾きである打角の方向θと大きさφを算出し、その後、前記第一電極及び前記第二電極に通電して前記溶接対象をスポット溶接する制御を行う制御部と、を備え、前記第一電極及び前記第二電極の一方は、固定電極であり、前記第一電極及び前記第二電極のうち少なくとも前記固定電極には、前記複数のひずみゲージが取り付けられており、前記制御部は、前記第一電極及び前記第二電極のうち少なくとも前記固定電極の加圧力を、前記複数のひずみゲージで測定された複数のひずみ測定値εの平均値ε
m
に基づいて算出し、前記加圧力に基づいて、溶接ガンの位置を調整する制御を行う。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第一態様又は第二態様に係る抵抗スポット溶接における打角測定方法によれば、第一電極及び第二電極の周辺部品と干渉しない省スペース性や、イニシャルコスト及びランニングコスト等の経済性の課題を解決しつつ、打角の方向と大きさを精度よく検出できる。
【0016】
本発明の第三態様に係る抵抗スポット溶接継手の製造方法によれば、溶接品質を安定させることができる。
【0017】
本発明の第四態様、第五態様、又は第六態様に係る抵抗スポット溶接装置によれば、溶接品質を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る抵抗スポット溶接装置を示す図である。
【
図2】
図1の抵抗スポット溶接装置における上電極の打角の方向θと大きさφを説明する図である。
【
図3】
図1の抵抗スポット溶接装置における上電極及び下電極の各加圧力と上電極及び下電極へ供給される電流のタイムチャートを示す図である。
【
図4】
図3の加圧工程において4つのひずみゲージで測定されたひずみ測定値εを打角の大きさφ毎に示したグラフである。
【
図5】
図4のグラフに基づいて算出された偏差ひずみε’を打角の大きさφ毎に示したグラフである。
【
図6】
図5のグラフに基づいて算出された偏差ひずみ変化量Δε’を打角の大きさφ毎に示したグラフである。
【
図7】一例として打角の方向θ=120°である場合の偏差ひずみ変化量Δε’を打角の大きさφ毎に示したグラフである。
【
図8】合成偏差ひずみ変化量Δε
N’を模式的に説明する平面図である。
【
図9】合成偏差ひずみ変化量Δε
N’と打角の大きさφとの関係を複数の条件毎に示すグラフである。
【
図10】打角の方向θの変形の一例を示す図である。
【
図11】
図1の制御部における処理の流れを示すフローチャートである。
【
図12】実施例における打角の方向θの測定結果を示すグラフである。
【
図13】実施例における打角の大きさφの測定結果を示すグラフである。
【
図14】本発明の第一実施形態に係る抵抗スポット溶接装置の第一変形例を示す図である。
【
図15】
図14の抵抗スポット溶接装置における下電極の打角の方向θと大きさφを説明する図である。
【
図16】本発明の第一実施形態に係る抵抗スポット溶接装置の第二変形例を示す図である。
【
図17】
図16の抵抗スポット溶接装置における上電極の打角の方向θ1と大きさφ1及び下電極の打角の方向θ2と大きさφ2を説明する図である。
【
図18】上電極及び下電極の各加圧力と上電極及び下電極に取り付けられた各4つのひずみゲージのひずみ測定値の平均値ε
mとの関係の一例を示すグラフである。
【
図19】ひずみゲージの数が1つ、2つ、4つの場合の、打角の方向θとひずみ測定値の平均値ε
mとの関係の一例を示す図である。
【
図20】打角なしの条件で測定した上電極及び下電極の各加圧力とひずみ測定値の平均値ε
mとの関係の一例を示す図である。
【
図21】上電極及び下電極の各々の実績加圧力と溶接ガンの高さ方向の位置との関係の一例を示すグラフである。
【
図22】ひずみゲージの数が2つ、3つ、4つの場合の、打角及び加圧力の検出項目とその計算方法の一例を示す図である。
【
図23】上電極に周方向に等間隔に配置した4つのひずみゲージのひずみ測定値εに基づいて偏差ひずみ変化量Δε’を計算した際のデータの一例を示す図である。
【
図24】第二実施形態に係る抵抗スポット溶接継手の製造方法の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図25】打角度補正を行う前後の溶接ガンの一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
はじめに、本発明の第一実施形態について説明する。
【0020】
[抵抗スポット溶接装置10の説明]
図1は、本発明の第一実施形態に係る抵抗スポット溶接装置10を示す図である。
図1において、(A)はブロック図を含む抵抗スポット溶接装置10の側面図、(B)はF1-F1線断面図である。
図1に示されるように、抵抗スポット溶接装置10は、溶接ガン12と、複数のひずみゲージ14と、電源16と、アクチュエータ18と、ロボット20と、制御部22とを備える。この抵抗スポット溶接装置10は、重ね合わされた複数の鋼板30を有する溶接対象32をスポット溶接するものである。
【0021】
溶接対象32を構成する複数の鋼板30の枚数は、二枚に限らず、例えば、三枚でもよい。溶接対象32は、複数の鋼板30に限らず、複数の金属材を有していてもよい。この金属材の材料は、鋼に限らず、鋼以外の金属でもよい。さらに、金属材の形態は、板状に限らず、板状以外でもよい。第一実施形態では、一例として、複数の鋼板30の枚数が二枚である場合について説明する。この複数の鋼板30は、「複数の金属材」の一例である。
【0022】
溶接ガン12は、対向して配置された上電極40及び下電極42を有する。上電極40及び下電極42は、シャンク44と、電極チップ46とをそれぞれ有する。電極チップ46は、シャンク44の先端に取り付けられている。溶接ガン12の形態は、特に限定されないが、溶接ガン12には、例えば、側面視でC字状のC字ガン又は側面視でX字状のX字ガン等を用いることが可能である。
【0023】
複数のひずみゲージ14の数は、3以上であれば、いくつでもよいが、第一実施形態では、一例として、4つのひずみゲージ14を用いる場合について説明する。この4つのひずみゲージ14は、一例として、上電極40及び下電極42のうちの上電極40に周方向に等間隔で取り付けられている。つまり、この4つのひずみゲージ14は、上電極40における周方向に90°間隔で離れた位置に取り付けられている。この4つのひずみゲージ14の間隔は、90°±5°以内が望ましく、より望ましくは90°±3°以内である。
【0024】
また、4つのひずみゲージ14の取り付け位置は、一例として、シャンク44の電極チップ46側の位置とされている。4つのひずみゲージ14が取り付けられた上電極40は、「第一電極」の一例であり、下電極42は、「第二電極」の一例である。
【0025】
4つのひずみゲージ14には、同じ構成のものが用いられる。この4つのひずみゲージ14には、例えば、光学式などの非電気的な構成のものや、抵抗式などの電気的な構成のものを用いることができる。第一実施形態では、一例として、4つのひずみゲージ14に電気的な構成のものを用いることとする。4つのひずみゲージ14は、ひずみゲージ14の測定方向(伸縮方向)を上電極40の軸方向に一致させた状態で上電極40にそれぞれ取り付けられている。
【0026】
電源16は、上電極40及び下電極42の各電極チップ46と電気的に接続されている。上電極40及び下電極42で溶接対象32を挟み、上電極40及び下電極42に加圧力を加えた状態で、電源16によって上電極40及び下電極42の電極チップ46間に電圧が印加されると、電極チップ46間に電流が流れる。電極チップ46間に電流が流れると、溶接対象32の重ね合わせ部に接触抵抗によるジュール熱によってナゲット(溶融部)が形成され、このナゲットが冷却固化することにより、重ね合わせ部が溶接接合される。
【0027】
アクチュエータ18は、例えば、電動式直動アクチュエータ、油圧式直動アクチュエータ、又は、空圧式直動アクチュエータである。このアクチュエータ18は、上電極40及び下電極42の一方又は両方と機械的に接続されており、上電極40及び下電極42の一方又は両方を互いに接離する方向に移動させるように作動する。上電極40及び下電極42が溶接対象32を挟んだ状態で、アクチュエータ18によって上電極40及び下電極42の一方又は両方が互いに近づく側に押圧されると、上電極40及び下電極42に加圧力が加えられる。
【0028】
ロボット20は、例えば、六軸垂直多関節ロボット等である。このロボット20は、溶接ガン12を水平方向及び鉛直方向に移動させると共に、溶接ガン12を任意の回転軸を中心に回転させるように作動する。このようにロボット20が作動することにより、溶接対象32が任意の方向に傾いていても、この溶接対象32の傾きに溶接ガン12が追従し、上電極40及び下電極42で溶接対象32を挟むことが可能となっている。
【0029】
制御部22は、電源16、アクチュエータ18、及び、ロボット20を制御するものであり、電源16、アクチュエータ18、及び、ロボット20と電気的に接続されている。この制御部22は、例えば、プロセッサ50とメモリ52とを有するコンピュータによって実現される。プロセッサ50は、例えば、CPU(Central Processing Unit)によって構成され、メモリ52は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び、ストレージによって構成される。
【0030】
メモリ52は、不揮発性記憶部を有しており、この不揮発性記憶部には、プログラム54が記憶されている。このプログラム54をプロセッサ50が実行することにより、後述する種々の機能が実行される。この機能には、後述する抵抗スポット溶接継手の製造方法におけるステップS1~ステップS8(
図11参照)を実行するための機能が含まれる。
【0031】
[打角の方向と大きさの説明]
図2は、
図1の抵抗スポット溶接装置10における上電極40の打角の方向θと大きさφを説明する図である。
図2において、(A)は上電極40の打角の大きさφを説明する溶接ガン12の側面図、(B)は上電極40の打角の方向θを模式的に説明する平面図である。
【0032】
実際の溶接組立工程では、製品の形状により溶接対象32が任意の方向に傾いていることがある。溶接対象32の傾きに溶接ガン12が完全に追従できれば、溶接対象32における上電極40及び下電極42との接触面の法線と、上電極40及び下電極42の軸線Bとを一致させることができる。
【0033】
しかしながら、現実には、例えば、溶接対象32の傾斜角度に誤差が生じていたり、ロボット20の動作に誤差が生じたりすることにより、溶接対象32の法線に対して上電極40及び下電極42の軸線が傾くことがある。また、例えば、溶接対象32を構成する複数の鋼板30の間に隙間が生じたり、複数の鋼板30に加工誤差が生じたりしている場合には、上電極40の軸線の傾斜角度と、下電極42の軸線Bの傾斜角度とが異なる場合がある。上電極40の軸線の傾斜角度と下電極42の軸線の傾斜角度とは、異なっていてもよいが、第一実施形態では、一例として、上電極40の軸線の傾斜角度と下電極42の軸線の傾斜角度とが同じである場合について説明する。
【0034】
また、第一実施形態では、上電極40を対象にし、溶接対象32における上電極40との接触面32Aの法線Aに対して上電極40の軸線Bが傾くことを打角と称する。さらに、上電極40の軸線Bに垂直な平面で切った場合の上電極40の断面を、
図2(B)に示される通り、断面40Aとした場合に、この断面40A上に予め設定され、この断面40Aの中心から上電極40の径方向外側に延びる線を、基準線Cと定義する。4つのひずみゲージ14は、基準線C上の位置、基準線Cから上電極40の周方向に90°離れた位置、基準線Cから上電極40の周方向に180°離れた位置、及び、基準線Cから上電極40の周方向に270°離れた位置にそれぞれ配置されている。
【0035】
また、法線Aから軸線Bに向かって降ろした垂線Dと基準線Cとが上電極40の断面40A上においてなす角度を打角の方向θ[°](0°≦θ<360°)と定義する。さらに、同一平面上で溶接対象32の接触面32Aの法線Aと上電極40の軸線Bとのなす角度を打角の大きさφ[°](0°≦φ<90°)と定義する。
【0036】
[課題解決の着想について]
発明者らは、打角の方向θと大きさφを検出することができれば、スポット溶接の打点毎に溶接可否の判断や溶接条件の変更等が可能になり、溶接品質を安定させることができると考えた。
【0037】
そこで、先ずは、対向して配置された上電極40及び下電極42のうちの上電極40の周方向の4箇所に90°間隔で4つのひずみゲージ14を取り付けた状態で、溶接対象32を上電極40及び下電極42で挟み、この上電極40及び下電極42で溶接対象32を加圧したときの上電極40のひずみを4つのひずみゲージ14で測定した。この結果、打角の方向θと大きさφに応じたひずみ測定値が得られるという特性があることが分かった。そして、この特性を利用することによって、打角の方向θと大きさφを検出することを着想した。
【0038】
[課題解決のポイント及びメカニズム]
発明者らは、鋭意検討した結果、4つのひずみゲージ14を用いた場合に、以下の要領で打角の方向θと大きさφを定量的に算出できることを見出した。以下、4つのひずみゲージ14を用いた場合の打角の方向θと大きさφを定量的に算出するまでに至る検討内容と共に、課題解決のポイント及びメカニズムを具体的に説明する。
【0039】
図3は、
図1の抵抗スポット溶接装置10における上電極40及び下電極42の各加圧力と上電極40及び下電極42へ供給される電流のタイムチャートを示す図である。なお、第一実施形態において加圧力とは、従来の抵抗スポット溶接装置において設定される設定加圧力を主に意味する。
【0040】
抵抗スポット溶接は、一般的には、
図3に示すようなタイムチャートに沿って実施される。すなわち、上電極40及び下電極42で溶接対象32を挟んだ状態で、上電極40及び下電極42の加圧が開始され、その後に、上電極40及び下電極42への電流の供給が開始される。また、上電極40及び下電極42への電流の供給が停止された後に、上電極40及び下電極42の加圧が終了する。
図3の加圧工程とは、上電極40及び下電極42の加圧が開始されてから、上電極40及び下電極42への電流の供給が開始されるまでの間の期間に相当し、
図3の一定加圧期間とは、上電極40及び下電極42の加圧が開始されて上電極40及び下電極42の各加圧力が上昇し、この加圧力が一定に保持される期間に相当する。
【0041】
発明者らは、
図3の一定加圧期間において4つのひずみゲージ14を用いて上電極40のひずみを測定した。
図4は、
図3の加圧工程において4つのひずみゲージ14で測定されたひずみ測定値ε
0、ε
90、ε
180、ε
270を打角の大きさφ(φ=0°、3°、6°、9°)毎に示したグラフである。このグラフは、一例として、打角の方向θ=90°の場合のグラフである。
【0042】
図4の縦軸は、ひずみ測定値を示し、
図4の横軸は、4つのひずみゲージ14の取付位置[°]を示している。
図4において、グラフG1は、打角の大きさφ=0°の場合、グラフG2は、打角の大きさφ=3°の場合、グラフG3は、打角の大きさφ=6°の場合、グラフG4は、打角の大きさφ=9°の場合をそれぞれ示している。
【0043】
ひずみ測定値ε0、ε90、ε180、ε270は、上電極40に周方向に90°間隔で取り付けられた4つのひずみゲージ14でそれぞれ測定された値である。すなわち、ひずみ測定値ε0は、基準線C上に位置するひずみゲージ14で測定された値であり、ひずみ測定値ε90は、基準線Cから上電極40の周方向に90°離れた位置にあるひずみゲージ14で測定された値であり、ひずみ測定値ε180は、基準線Cから上電極40の周方向に180°離れた位置にあるひずみゲージ14で測定された値であり、ひずみ測定値ε270は、基準線Cから上電極40の周方向に270°離れた位置にあるひずみゲージ14で測定された値である。
【0044】
図4に示されるように、打角がある場合、発明者らは、ひずみ測定値ε
0、ε
90、ε
180、ε
270が互いに異なる値を示すと考えた。そこで、発明者らは、打角によるひずみ測定値の変化量を取り出すために、式(1)の通り、ひずみ測定値ε
0、ε
90、ε
180、ε
270の平均値ε
mを算出し、式(2)~式(5)の通り、ひずみ測定値ε
0、ε
90、ε
180、ε
270から平均値ε
mをそれぞれ減算して偏差ひずみε
0’、ε
90’、ε
180’、ε
270’を算出した。
【0045】
εm=(ε0+ε90+ε180+ε270)/4・・・(1)
ε0’=ε0-εm ・・・(2)
ε90’=ε90-εm ・・・(3)
ε180’=ε180-εm ・・・(4)
ε270’=ε270-εm ・・・(5)
【0046】
図5は、
図4のグラフに基づいて算出された偏差ひずみε
0’、ε
90’、ε
180’、ε
270’を打角の大きさφ(φ=0°、3°、6°、9°)毎に示したグラフである。このグラフは、一例として、打角の方向θ=90°の場合のグラフである。
【0047】
図5の縦軸は、偏差ひずみを示し、
図5の横軸は、4つのひずみゲージ14の取付位置[°]を示している。
図5において、グラフG1は、打角の大きさφ=0°の場合、グラフG2は、打角の大きさφ=3°の場合、グラフG3は、打角の大きさφ=6°の場合、グラフG4は、打角の大きさφ=9°の場合をそれぞれ示している。
【0048】
ここで、発明者らは、偏差ひずみε
0’、ε
90’、ε
180’、ε
270’には、打角に起因した偏差成分に加えて、上電極40の剛性が周方向に不均一であることに起因した偏差成分も含まれると考えた。また、発明者らは、打角がない場合、すなわち、打角の大きさφ=0の場合でも、
図5に示される通り、偏差ひずみε
0’、ε
90’、ε
180’、ε
270’が0にならないことに気が付いた。
【0049】
そして、発明者らは、打角に起因した偏差成分のみを抽出するためには、偏差ひずみε0’、ε90’、ε180’、ε270’から上電極40の剛性の影響分を除去することが好ましい。
【0050】
そこで、発明者らは、打角がない場合の偏差ひずみε0’、ε90’、ε180’、ε270’を基準偏差ひずみε0,φ=0’、ε90,φ=0’、ε180,φ=0’、ε270,φ=0’と定義した。
【0051】
そして、発明者らは、式(6)~(9)の通り、偏差ひずみε0’、ε90’、ε180’、ε270’から基準偏差ひずみε0,φ=0’、ε90,φ=0’、ε180,φ=0’、ε270,φ=0’をそれぞれ減算して偏差ひずみ変化量Δε0’、Δε90’、Δε180’、Δε270’を算出した。
【0052】
偏差ひずみ変化量Δε0’は、基準線C上の位置で検出された偏差ひずみ変化量であり、偏差ひずみ変化量Δε90’は、基準線Cから上電極40の周方向に90°離れた位置で検出された偏差ひずみ変化量であり、偏差ひずみ変化量Δε180’は、基準線Cから上電極40の周方向に180°離れた位置で検出された偏差ひずみ変化量であり、偏差ひずみ変化量Δε270’は、基準線Cから上電極40の周方向に270°離れた位置で検出された偏差ひずみ変化量である。
【0053】
Δε0’=ε0’-ε0,φ=0’・・・(6)
Δε90’=ε90’-ε90,φ=0’・・・(7)
Δε180’=ε180’-ε180,φ=0’・・・(8)
Δε270’=ε270’-ε270,φ=0’・・・(9)
【0054】
図6は、
図5のグラフに基づいて算出された偏差ひずみ変化量Δε
0’、Δε
90’、Δε
180’、Δε
270’を打角の大きさφ(φ=0°、3°、6°、9°)毎に示したグラフである。このグラフは、一例として、打角の方向θ=90°の場合のグラフである。
【0055】
図6の縦軸は、偏差ひずみ変化量を示し、
図6の横軸は、4つのひずみゲージ14の取付位置[°]を示している。
図6において、グラフG1は、打角の大きさφ=0°の場合、グラフG2は、打角の大きさφ=3°の場合、グラフG3は、打角の大きさφ=6°の場合、グラフG4は、打角の大きさφ=9°の場合をそれぞれ示している。
【0056】
図6に示されるように、打角がない場合、すなわち、打角の大きさφ=0°の場合に、偏差ひずみ変化量Δε
0’、Δε
90’、Δε
180’、Δε
270’は、いずれも0となった。
【0057】
一方、打角がある場合に、偏差ひずみ変化量Δε0’、Δε90’、Δε180’、Δε270’のうち、打角の方向における偏差ひずみ変化量はマイナス値となり、打角の方向と反対方向における偏差ひずみ変化量はプラス値となり、打角の方向と直交する方向の偏差ひずみ変化量はほぼ0となった。
【0058】
この
図6に示される例では、一例として、打角の方向θ=90°であり、打角の大きさφ=3°、6°、9°のいずれの場合にも、打角の方向における偏差ひずみ変化量Δε
90’はマイナス値となり、打角の方向と反対方向における偏差ひずみ変化量Δε
270’はプラス値となり、打角の方向と直交する方向の偏差ひずみ変化量Δε
180’はほぼ0となった。なお、打角の方向θ=90°以外についても検討した結果、同様の傾向があることが分かった。
【0059】
このように、発明者らは、偏差ひずみ変化量Δε0’、Δε90’、Δε180’、Δε270’を算出することで、打角の方向θを検出できることを見出した。
【0060】
また、
図6に示される結果から、打角の大きさφの増大に伴って、偏差ひずみ変化量Δε
0’、Δε
90’、Δε
180’、Δε
270’の絶対値も増加することが明らかになった。そして、発明者らは、偏差ひずみ変化量Δε
0’、Δε
90’、Δε
180’、Δε
270’を算出することで、打角の大きさφを検出できることを見出した。
【0061】
ここで、発明者らは、打角の方向θによっては、打角の方向θとひずみゲージ14の取付位置が一致しない場合があると考えた。そこで、発明者らは、一例として、打角の方向θ=120°である場合について検討した。
【0062】
図7は、打角の方向θ=120°である場合の偏差ひずみ変化量Δε
0’、Δε
90’、Δε
180’、Δε
270’を打角の大きさφ(φ=0°、3°、6°、9°)毎に示したグラフである。
【0063】
図7の縦軸は、偏差ひずみ変化量を示し、
図7の横軸は、4つのひずみゲージ14の取付位置[°]を示している。
図7において、グラフG1は、打角の大きさφ=0°の場合、グラフG2は、打角の大きさφ=3°の場合、グラフG3は、打角の大きさφ=6°の場合、グラフG4は、打角の大きさφ=9°の場合をそれぞれ示している。
【0064】
このように、打角の方向θ=120°である場合に、打角の方向θ=120°の両側に位置するひずみゲージ14、すなわち、90°の位置にあるひずみゲージ14及び180°の位置にあるひずみゲージ14では、偏差ひずみ変化量Δε90’、Δε180’がマイナス値になった。また、打角の大きさφが増加するに伴って、偏差ひずみ変化量Δε90’、Δε180’の絶対値が増加した。
【0065】
この
図7に示される結果から、発明者らは、打角の方向θとひずみゲージ14の取付位置が一致しない場合でも、偏差ひずみ変化量Δε
0’、Δε
90’、Δε
180’、Δε
270’を検出することで、任意の打角の方向θと大きさφを推定できると考えた。
【0066】
そして、発明者らは、打角の方向θとひずみゲージ14の取付位置が一致しない場合でも、任意の打角の方向θと大きさφを推定する手法を考え出した。以下、打角の方向θとひずみゲージ14の取付位置が一致しない場合に、任意の打角の方向θと大きさφを推定する手法を説明する。
【0067】
先ず、式(10)により、合成偏差ひずみ変化量ΔεN’を定義する。
ΔεN’=√{(Δε1’)2+(Δε2’)2}・・・(10)
【0068】
図8は、合成偏差ひずみ変化量Δε
N’を模式的に説明する平面図である。第一偏差ひずみ変化量Δε1’は、偏差ひずみ変化量Δε
0’、Δε
90’、Δε
180’、Δε
270’のうち、値がマイナス側に最も大きい偏差ひずみ変化量である。第二偏差ひずみ変化量Δε2’は、第一偏差ひずみ変化量Δε1’が検出された位置から上電極40の周方向に±90°離れた2つの位置でそれぞれ検出された偏差ひずみ変化量のうち値がマイナス側に大きい方の第二偏差ひずみ変化量である。
【0069】
図8では、一例として、打角の方向θ=120°である場合が示されている。
図8に示される例において、第一偏差ひずみ変化量Δε1’は、偏差ひずみ変化量Δε
0’、Δε
90’、Δε
180’、Δε
270’のうち、値がマイナス側に最も大きい偏差ひずみ変化量Δε
90’である。また、第二偏差ひずみ変化量Δε2’は、偏差ひずみ変化量Δε
90’が検出された位置から上電極40の周方向に±90°離れた2つの位置(0°の位置及び180°の位置)でそれぞれ検出された偏差ひずみ変化量Δε
0’、Δε
180’のうち値がマイナス側に大きい方の偏差ひずみ変化量Δε
180’である。
【0070】
本手法では、合成偏差ひずみ変化量ΔεN’をベクトルとしてとらえた場合の向きから、打角の方向θを算出する。また、合成偏差ひずみ変化量ΔεN’の大きさから打角の大きさφを算出する。
【0071】
図9は、合成偏差ひずみ変化量ε
N’と打角の大きさφとの関係を複数の条件毎に示すグラフである。
図9の縦軸は、合成偏差ひずみ変化量ε
N’を示し、
図9の横軸は、打角の大きさφを示している。
図9において、グラフG1は、基準条件である場合、グラフG2は、基準条件に対して上電極40及び下電極42の各加圧力が増加した場合、グラフG3は、基準条件に対して上電極40及び下電極42の剛性が増加した場合をそれぞれ示している。
【0072】
図9に示されるように、合成偏差ひずみ変化量ε
N’と打角の大きさφとの間には、直線関係が成り立つ。このため、合成偏差ひずみ変化量ε
N’と打角の大きさφから実験的に比例係数αを求めることにより、打角の大きさφの定量予測が可能と考えられる。なお、比例係数αは、上電極40及び下電極42の各加圧力及び上電極40及び下電極42の剛性の影響を主に受けるため、実際の溶接組立工程の開始前に、この溶接組立工程の条件で比例係数αを実験的に求めておく必要がある。
【0073】
そして、本手法では、打角の方向θと大きさφを次のように算出する。
図10は、打角の方向θの変形の一例を示す図である。
【0074】
図10(A)に示されるように、例えば、打角の方向θが0°<θ<45°である場合に、Δε1’=Δε
0’(<0)、Δε2’=Δε
90’(<0)になる。このように、Δε1’=Δε
0’(<0)、Δε2’=Δε
90’(<0)であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(A-1)~(A-3)により算出する。
θ=arctan(|Δε2’|/|Δε1’|)×180/π・・・(A-1)
φ=α×Δε
N’・・・(A-2)
Δε
N’=√{(Δε1’)
2+(Δε2’)
2}・・・(A-3)
【0075】
一方、
図10(B)に示されるように、例えば、打角の方向θが45°<θ<90°である場合に、Δε1’=Δε
90’(<0)、Δε2’=Δε
0’(<0)になる。このように、Δε1’=Δε
90’(<0)、Δε2’=Δε
0’(<0)であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(B-1)~(B-3)により算出する。
θ=arctan(|Δε1’|/|Δε2’|)×180/π・・・(B-1)
φ=α×Δε
N’・・・(B-2)
Δε
N’=√{(Δε1’)
2+(Δε2’)
2}・・・(B-3)
【0076】
また、
図10(C)に示されるように、例えば、打角の方向θが90°<θ<135°である場合に、Δε1’=Δε
90’(<0)、Δε2’=Δε
180’(<0)になる。このように、Δε1’=Δε
90’(<0)、Δε2’=Δε
180’(<0)であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(C-1)~(C-3)により算出する。
θ={π/2+arctan(|Δε2’|/|Δε1’|)}×180/π・・・(C-1)
φ=α×Δε
N’・・・(C-2)
Δε
N’=√{(Δε1’)
2+(Δε2’)
2}・・・(C-3)
【0077】
また、
図10(D)に示されるように、例えば、打角の方向θが135°<θ<180°である場合に、Δε1’=Δε
180’(<0)、εΔ2’=Δε
90’(<0)になる。このように、Δε1’=Δε
180’(<0)、εΔ2’=Δε
90’(<0)であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(D-1)~(D-3)により算出する。
θ={π/2+arctan(|Δε1’|/|Δε2’|)}×180/π・・・(D-1)
φ=α×Δε
N’・・・(D-2)
Δε
N’=√{(Δε1’)
2+(Δε2’)
2}・・・(D-3)
【0078】
また、
図10(E)に示されるように、例えば、打角の方向θが180°<θ<225°である場合に、Δε1’=Δε
180’(<0)、Δε2’=Δε
270’(<0)になる。このように、Δε1’=Δε
180’(<0)、Δε2’=Δε
270’(<0)であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(E-1)~(E-3)により算出する。
θ={π+arctan(|Δε2|’/|Δε1’|)}×180/π・・・(E-1)
φ=α×Δε
N’・・・(E-2)
Δε
N’=√{(Δε1’)
2+(Δε2’)
2}・・・(E-3)
【0079】
また、
図10(F)に示されるように、例えば、打角の方向θが225°<θ<270°である場合に、Δε1’=Δε
270’(<0)、Δε2’=Δε
180’(<0)になる。このように、Δε1’=Δε
270’(<0)、Δε2’=Δε
180’(<0)であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(F-1)~(F-3)により算出する。
θ={π+arctan(|Δε1|’/|Δε2’|)}×180/π・・・(F-1)
φ=α×Δε
N’・・・(F-2)
Δε
N’=√{(Δε1’)
2+(Δε2’)
2}・・・(F-3)
【0080】
また、
図10(G)に示されるように、例えば、打角の方向θが270°<θ<315°である場合に、Δε1’=Δε
270’(<0)、Δε2’=Δε
0’(<0)になる。このように、Δε1’=Δε
270’(<0)、Δε2’=Δε
0’(<0)であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(G-1)~(G-3)により算出する。
θ={3π/2+arctan(|Δε2’|/|Δε1’|)×180/π・・・(G-1)
φ=α×Δε
N’・・・(G-2)
Δε
N’=√{(Δε1’)
2+(Δε2’)
2}・・・(G-3)
【0081】
また、
図10(H)に示されるように、例えば、打角の方向θが315°<θ<360°である場合に、Δε1’=Δε
0’(<0)、Δε2’=Δε
270’(<0)になる。このように、Δε1’=Δε
0’(<0)、Δε2’=Δε
270’(<0)であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(H-1)~(H-3)により算出する。
θ={3π/2+arctan(|Δε1’|/|Δε2’|)×180/π・・・(H-1)
φ=α×Δε
N’・・・(H-2)
Δε
N’=√{(Δε1’)
2+(Δε2’)
2}・・・(H-3)
【0082】
なお、打角の方向θによっては、値がマイナス側に最も大きい偏差ひずみ変化量が二つ存在する可能性がある。この場合には、二つの偏差ひずみ変化量のうち一方を選択して第一偏差ひずみ変化量Δε1’とすればよい。
【0083】
例えば、打角の方向θ=45°の場合に、値がマイナス側に最も大きい偏差ひずみ変化量は、偏差ひずみ変化量Δε0’と偏差ひずみ変化量Δε90’である可能性がある。この場合には、偏差ひずみ変化量Δε0’及び偏差ひずみ変化量Δε90’のうち一方を選択して第一偏差ひずみ変化量Δε1’とすればよい。
【0084】
また、打角の方向θ=135°の場合に、値がマイナス側に最も大きい偏差ひずみ変化量は、偏差ひずみ変化量Δε90’と偏差ひずみ変化量Δε180’である可能性がある。この場合には、偏差ひずみ変化量Δε90’及び偏差ひずみ変化量Δε180’のうち一方を選択して第一偏差ひずみ変化量Δε1’とすればよい。
【0085】
また、打角の方向θ=225°の場合に、値がマイナス側に最も大きい偏差ひずみ変化量は、偏差ひずみ変化量Δε180’と偏差ひずみ変化量Δε270’である可能性がある。この場合には、偏差ひずみ変化量Δε180’及び偏差ひずみ変化量Δε270’のうち一方を選択して第一偏差ひずみ変化量Δε1’とすればよい。
【0086】
また、打角の方向θ=315°の場合に、値がマイナス側に最も大きい偏差ひずみ変化量は、偏差ひずみ変化量Δε270’と偏差ひずみ変化量Δε0’である可能性がある。この場合には、偏差ひずみ変化量Δε270’及び偏差ひずみ変化量Δε0’のうち一方を選択して第一偏差ひずみ変化量Δε1’とすればよい。
【0087】
同様に、打角の方向θによっては、第二偏差ひずみ変化量Δε2’の候補となる偏差ひずみ変化量が二つ存在する可能性がある。この場合には、二つの偏差ひずみ変化量のうち一方を選択して第二偏差ひずみ変化量Δε2’とすればよい。
【0088】
例えば、第二偏差ひずみ変化量Δε2’の候補となる偏差ひずみ変化量が偏差ひずみ変化量Δε0’及び偏差ひずみ変化量Δε90’である場合には、偏差ひずみ変化量Δε0’及び偏差ひずみ変化量Δε90’のうち一方を選択して第二偏差ひずみ変化量Δε2’とすればよい。
【0089】
また、第二偏差ひずみ変化量Δε2’の候補となる偏差ひずみ変化量が偏差ひずみ変化量Δε90’及び偏差ひずみ変化量Δε180’である場合には、偏差ひずみ変化量Δε90’及び偏差ひずみ変化量Δε180’のうち一方を選択して第二偏差ひずみ変化量Δε2’とすればよい。
【0090】
また、第二偏差ひずみ変化量Δε2’の候補となる偏差ひずみ変化量が偏差ひずみ変化量Δε180’及び偏差ひずみ変化量Δε270’である場合には、偏差ひずみ変化量Δε180’及び偏差ひずみ変化量Δε270’のうち一方を選択して第二偏差ひずみ変化量Δε2’とすればよい。
【0091】
また、第二偏差ひずみ変化量Δε2’の候補となる偏差ひずみ変化量が偏差ひずみ変化量Δε270’及び偏差ひずみ変化量Δε0’である場合には、偏差ひずみ変化量Δε270’及び偏差ひずみ変化量Δε0’のうち一方を選択して第二偏差ひずみ変化量Δε2’とすればよい。
【0092】
また、特にΔε1’及びΔε2’のどちらか一方もしくは両方が0の場合、以下の式を用いればよい。
【0093】
例えば、打角の方向θが0°である場合に、Δε1’=Δε0’(<0)、Δε2’=0になる。このように、Δε1’=Δε0’(<0)、Δε2’=0であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(I-1)~(I-3)により算出する。
θ=0°・・・(I-1)
φ=α×ΔεN’・・・(I-2)
ΔεN’=√{(Δε1’)2+(Δε2’)2}・・・(I-3)
【0094】
また、例えば、打角の方向θが90°である場合に、Δε1’=Δε90’(<0)、Δε2’=0になる。このように、Δε1’=Δε90’(<0)、Δε2’=0であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(J-1)~(J-3)により算出する。
θ=90°・・・(J-1)
φ=α×ΔεN’・・・(J-2)
ΔεN’=√{(Δε1’)2+(Δε2’)2}・・・(J-3)
【0095】
また、例えば、打角の方向θが180°である場合に、Δε1’=Δε180’(<0)、Δε2’=0になる。このように、Δε1’=Δε180’(<0)、Δε2’=0であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(K-1)~(K-3)により算出する。
θ=180°・・・(K-1)
φ=α×ΔεN’・・・(K-2)
ΔεN’=√{(Δε1’)2+(Δε2’)2}・・・(K-3)
【0096】
また、例えば、打角の方向θが270°である場合に、Δε1’=Δε270’(<0)、Δε2’=0になる。このように、Δε1’=Δε270’(<0)、Δε2’=0であるときには、打角の方向θと大きさφを次式(L-1)~(L-3)により算出する。
θ=270°・・・(L-1)
φ=α×ΔεN’・・・(L-2)
ΔεN’=√{(Δε1’)2+(Δε2’)2}・・・(L-3)
【0097】
また、例えば、打角の大きさφが0°である場合に、Δε1’=0、Δε2’=0になる。このように、Δε1’=0、Δε2’=0であるときには、打角の大きさφを(M-1)により算出する。打角の方向θは定義することができないため、算出しない。
φ=0・・・(M-1)
【0098】
以上の手法により、打角の方向θと大きさφを定量的に求めることができる。
【0099】
[抵抗スポット溶接継手の製造方法]
次に、本発明の第一実施形態に係る抵抗スポット溶接継手の製造方法を実際の溶接組立工程に適用する場合について説明する。
【0100】
本発明の第一実施形態に係る抵抗スポット溶接継手の製造方法は、
図1に示される抵抗スポット溶接装置10によって実行される。制御部22のプログラム54には、上述の4つのひずみゲージ14で測定されたひずみ測定値ε
0、ε
90、ε
180、ε
270から上電極40の打角の方向θと大きさφを算出する複数のプロセスが含まれる。
【0101】
なお、実際の溶接組立工程の開始前に、制御部22は、上記式(10)で定義される合成偏差ひずみ変化量ΔεN’と打角の大きさφとの関係から予め算出された比例係数αをメモリ52に記憶する。この比例係数αは、実際の溶接組立工程の開始前に、この溶接組立工程の条件で実験的に算出されたものである。また、打角がない場合の条件で算出された基準偏差ひずみε0,φ=0’、ε90,φ=0’、ε180,φ=0’、ε270,φ=0’をメモリ52に記憶する。
【0102】
図11は、
図1の制御部22における処理の流れを示すフローチャートである。
図11に示されるように、制御部22は、ステップS1~ステップS8を実行する。このステップS1~ステップS8のうちのステップS1~ステップS5は、上電極40の打角の方向θと大きさφを算出する処理であり、本発明の第一実施形態に係る抵抗スポット溶接における打角測定方法に相当する。
【0103】
先ず、ステップS1では、制御部22によってロボット20及びアクチュエータ18が制御され、溶接対象32が上電極40及び下電極42に挟まれる。このとき、上電極40及び下電極42で溶接対象32が加圧されるように、上電極40及び下電極42の各加圧力が調整される。そして、上電極40及び下電極42で溶接対象32を加圧したときの上電極40のひずみが4つのひずみゲージ14で測定される。この4つのひずみゲージ14で測定されたひずみ測定値ε0、ε90、ε180、ε270は、制御部22に出力される。このひずみ測定値ε0、ε90、ε180、ε270は、「複数のひずみ測定値ε」の一例である。
【0104】
続いて、ステップS2において、制御部22は、4つのひずみゲージ14から出力されたひずみ測定値ε0、ε90、ε180、ε270を取得し、上記式(1)の通り、ひずみ測定値ε0、ε90、ε180、ε270の平均値εmを算出する。また、制御部22は、上記式(2)~式(5)の通り、ひずみ測定値ε0、ε90、ε180、ε270から平均値εmをそれぞれ減算して偏差ひずみε0’、ε90’、ε180’、ε270’を算出する。この偏差ひずみε0’、ε90’、ε180’、ε270’は、「複数の偏差ひずみε’」の一例である。
【0105】
続いて、ステップS3において、制御部22は、式(6)~(9)の通り、偏差ひずみε0’、ε90’、ε180’、ε270’から予めメモリ52に記憶した基準偏差ひずみε0,φ=0’、ε90,φ=0’、ε180,φ=0’、ε270,φ=0’をそれぞれ減算して偏差ひずみ変化量Δε0’、Δε90’、Δε180’、Δε270’を算出する。基準偏差ひずみε0,φ=0’、ε90,φ=0’、ε180,φ=0’、ε270,φ=0’は、「複数の基準偏差ひずみεφ=0’」の一例であり、偏差ひずみ変化量Δε0’、Δε90’、Δε180’、Δε270’は、「複数の偏差ひずみ変化量Δε’」の一例である。
【0106】
続いて、ステップS4において、制御部22は、偏差ひずみ変化量Δε0’、Δε90’、Δε180’、Δε270’のうち、値がマイナス側に最も大きい第一偏差ひずみ変化量Δε1’を特定すると共に、第一偏差ひずみ変化量Δε1’が検出された位置から上電極40の周方向に±90°離れた2つの位置でそれぞれ検出された偏差ひずみ変化量のうち値がマイナス側に大きい方の第二偏差ひずみ変化量Δε2’を特定する。
【0107】
そして、ステップS5において、制御部22は、第一偏差ひずみ変化量Δε1’及び第二偏差ひずみ変化量Δε2’に基づいて上電極40の打角の方向θと大きさφを算出する。
【0108】
ここで、
図10(A)に示されるように、例えば、打角の方向θが0°<θ<45°である場合に、制御部22は、Δε1’=Δε
0’(<0)、Δε2’=Δε
90’(<0)と特定する。そして、制御部22は、打角の方向θと大きさφを上記式(A-1)~(A-3)により算出する。
【0109】
一方、
図10(B)に示されるように、例えば、打角の方向θが45°<θ<90°である場合に、制御部22は、Δε1’=Δε
90’(<0)、Δε2’=Δε
0’(<0)と特定する。そして、制御部22は、打角の方向θと大きさφを上記式(B-1)~(B-3)により算出する。
【0110】
また、
図10(C)に示されるように、例えば、打角の方向θが90°<θ<135°である場合に、制御部22は、Δε1’=Δε
90’(<0)、Δε2’=Δε
180’(<0)と特定する。そして、制御部22は、打角の方向θと大きさφを上記式(C-1)~(C-3)により算出する。
【0111】
また、
図10(D)に示されるように、例えば、打角の方向θが135°<θ<180°である場合に、制御部22は、Δε1’=Δε
180’(<0)、εΔ2’=Δε
90’(<0)と特定する。そして、制御部22は、打角の方向θと大きさφを上記式(D-1)~(D-3)により算出する。
【0112】
また、
図10(E)に示されるように、例えば、打角の方向θが180°<θ<225°である場合に、制御部22は、Δε1’=Δε
180’(<0)、Δε2’=Δε
270’(<0)と特定する。そして、制御部22は、打角の方向θと大きさφを上記式(E-1)~(E-3)により算出する。
【0113】
また、
図10(F)に示されるように、例えば、打角の方向θが225°<θ<270°である場合に、制御部22は、Δε1’=Δε
270’(<0)、Δε2’=Δε
180’(<0)と特定する。そして、制御部22は、打角の方向θと大きさφを上記式(F-1)~(F-3)により算出する。
【0114】
また、
図10(G)に示されるように、例えば、打角の方向θが270°<θ<315°である場合に、制御部22は、Δε1’=Δε
270’(<0)、Δε2’=Δε
0’(<0)と特定する。そして、制御部22は、打角の方向θと大きさφを上記式(G-1)~(G-3)により算出する。
【0115】
また、
図10(H)に示されるように、例えば、打角の方向θが315°<θ<360°である場合に、制御部22は、Δε1’=Δε
0’(<0)、Δε2’=Δε
270’(<0)と特定する。そして、制御部22は、打角の方向θと大きさφを上記式(H-1)~(H-3)により算出する。
【0116】
なお、上述の通り、打角の方向θによっては、値がマイナス側に最も大きい偏差ひずみ変化量が二つ存在する可能性がある。この場合に、制御部22は、二つの偏差ひずみ変化量のうち一方を選択して第一偏差ひずみ変化量Δε1’とする。
【0117】
同様に、打角の方向θによっては、第二偏差ひずみ変化量Δε2’の候補となる偏差ひずみ変化量が二つ存在する可能性がある。この場合に、制御部22は、二つの偏差ひずみ変化量のうち一方を選択して第二偏差ひずみ変化量Δε2’とする。
【0118】
また、特にΔε1’及びΔε2’のどちらか一方もしくは両方が0の場合、次式を用いて算出する。
【0119】
例えば、Δε1’=Δε0’(<0)、Δε2’=0の場合、上記式(I-1)~(I-3)により算出する。
【0120】
また、例えば、Δε1’=Δε90’(<0)、Δε2’=0の場合、上記式(J-1)~(J-3)により算出する。
【0121】
また、例えば、Δε1’=Δε180’(<0)、Δε2’=0の場合、上記式(K-1)~(K-3)により算出する。
【0122】
また、例えば、Δε1’=Δε270’(<0)、Δε2’=0の場合、上記式(L-1)~(L-3)により算出する。
【0123】
また、Δε1’=0、Δε2’=0の場合、打角の大きさφを上記式(M-1)により算出する。打角の方向θは定義することができないため、算出しない。
【0124】
このように、制御部22は、以上のステップS1~ステップS5によって、上電極40の打角の方向θと大きさφを定量的に求める。
【0125】
続いて、ステップS6において、制御部22は、打角の大きさφが予め定められた規定値以上であるか否かを判断する。規定値は、任意の値に設定される。例えば、規定値は、1°である。
【0126】
ここで、制御部22は、打角の大きさφが規定値未満であると判断した場合には、後述するステップS8に移行する。一方、制御部22は、打角の大きさφが規定値以上であると判断した場合には、ステップS7に移行する。ステップS7において、制御部22は、打角の大きさφが規定値未満に修正されるように、ロボット20を制御し、上電極40及び下電極42の位置を変更する。そして、制御部22は、ステップS8に移行する。
【0127】
続いて、ステップS8において、制御部22は、電源16を制御し、上電極40及び下電極42に通電させる。このようにして上電極40及び下電極42に通電されると、溶接対象32が抵抗スポット溶接され、これにより、溶接対象32から抵抗スポット溶接継手が得られる。
【0128】
なお、複数の鋼板30が、重ね合わせ面に亜鉛系めっきが被覆された鋼板を1枚以上含む場合に、制御部22は、次のようにしてもよい。すなわち、重ね合わされた複数の鋼板30の溶接箇所の総板厚をt[mm]とした場合に、制御部22は、上電極40及び下電極42への通電時間を(5t+2.8φ+2)/50[sec]以上としてもよい。この式を用いて通電時間を算出すること自体は、特開2018-39019号公報に記載されている。
【0129】
また、複数の鋼板30のうち少なくとも1枚が、金属めっき層を有する表面処理鋼板である場合に、制御部22は、次のようにしてもよい。すなわち、上電極40及び下電極42への通電終了後の加圧力保持時間をH[msec]、複数の鋼板30のうち最も板厚が大きい鋼板の板厚をt[mm]、複数の鋼板30のうち最も引張強度が大きい鋼板の引張強度をT[MPa]、上電極40及び下電極42の各加圧力をF[N]とした場合に、制御部22は、0≦φ<1であるときには、2・φ・(t・T/F)1/2≦Hを満たし、1≦φ<10であるときには、(3・φ-1)・(t・T/F)1/2≦Hを満たし、10≦φ<20であるときには、(φ+19)・(t・T/F)1/2≦Hを満たすように、上電極40及び下電極42への通電終了後の加圧力保持時間及び上電極40及び下電極42の各加圧力を制御してもよい。これらの式を用いて加圧力保持時間及び加圧力を算出すること自体は、国際公開第2017/033455号パンフレットに記載されている。
【0130】
[作用及び効果]
次に、本発明の第一実施形態の作用及び効果について説明する。
【0131】
以上詳述した通り、第一実施形態によれば、打角の方向θと大きさφを算出する際に、ひずみ測定値ε0、ε90、ε180、ε270からひずみ測定値ε0、ε90、ε180、ε270の平均値εmをそれぞれ減算して偏差ひずみε0’、ε90’、ε180’、ε270’を算出する。これにより、打角によるひずみ測定値の変化量を取り出すことができるので、例えば、ひずみ測定値ε0、ε90、ε180、ε270をそのまま用いる場合に比して、打角の方向θと大きさφを精度よく検出できる。
【0132】
また、第一実施形態によれば、打角の方向θと大きさφを算出する際に、偏差ひずみε0’、ε90’、ε180’、ε270’から打角がない場合の偏差ひずみε0’、ε90’、ε180’、ε270’である基準偏差ひずみε0,φ=0’、ε90,φ=0’、ε180,φ=0’、ε270,φ=0’をそれぞれ減算して偏差ひずみ変化量Δε0’、Δε90’、Δε180’、Δε270’を算出する。これにより、上電極40の剛性が周方向に不均一であることに起因した偏差成分を除去でき、打角に起因した偏差成分のみを抽出できるので、例えば、偏差ひずみε0’、ε90’、ε180’、ε270’をそのまま用いる場合に比して、打角の方向θと大きさφの検出精度を向上させることができる。
【0133】
また、第一実施形態によれば、偏差ひずみ変化量Δε0’、Δε90’、Δε180’、Δε270’のうち、値がマイナス側に最も大きい第一偏差ひずみ変化量Δε1’を特定すると共に、第一偏差ひずみ変化量Δε1’が検出された位置から上電極40の周方向に±90°離れた2つの位置でそれぞれ検出された偏差ひずみ変化量のうち値がマイナス側に大きい方の第二偏差ひずみ変化量Δε2’を特定し、第一偏差ひずみ変化量Δε1’及び第二偏差ひずみ変化量Δε2’に基づいて打角の方向θと大きさφを算出する。したがって、打角の方向θと大きさφに応じて感度よく増減する第一偏差ひずみ変化量Δε1’及び第二偏差ひずみ変化量Δε2’に基づいて打角の方向θと大きさφを算出するので、打角の方向θと大きさφの検出精度を向上させることができる。
【0134】
また、第一実施形態によれば、第一偏差ひずみ変化量Δε1’及び第二偏差ひずみ変化量Δε2’の合成値である合成偏差ひずみ変化量ΔεN’と打角の大きさφとの関係から比例係数αを予め算出し、実際の打角の測定では、上記式(A-2)等の通り、合成偏差ひずみ変化量ΔεN’に比例係数αを乗算して打角の大きさφを算出する。これにより、上電極40及び下電極42の各加圧力及び上電極40及び下電極42の剛性の影響を排除して打角の大きさφを検出できる。
【0135】
また、第一実施形態によれば、特定された第一偏差ひずみ変化量Δε1’及び第二偏差ひずみ変化量Δε2’に応じて予め定められた上記式(A-1)~(H-3)により打角の方向θと大きさφを算出する。したがって、打角の方向θと大きさφを幾何学的に算出するので、打角の方向θと大きさφの検出精度を向上させることができる。
【0136】
また、第一実施形態によれば、一例として、打角の方向θと大きさφを算出し、その後、上電極40及び下電極42に通電して溶接対象32をスポット溶接する工程に移行する。したがって、例えば、溶接対象32をスポット溶接する工程の前に、打角の大きさφを修正したり、スポット溶接する工程への移行を中止したりすることができる。
【0137】
また、第一実施形態によれば、打角の方向θと大きさφを算出し、打角の大きさφが予め定められた規定値以上である場合には、打角の大きさφを規定値未満に修正し、その後、上電極40及び下電極42に通電して溶接対象32をスポット溶接する。したがって、打角の大きさφが規定値以上である状態で溶接対象32が抵抗スポット溶接されることを抑制できるので、溶接品質を安定させることができる。これにより、例えば、溶接対象32として亜鉛めっき鋼板を用いた場合には、LME割れの発生を抑制できる。
【0138】
また、第一実施形態によれば、打角の方向θと大きさφを算出するために、安価で小型であるひずみゲージ14を用いるので、上電極40及び下電極42の周辺部品と干渉しない省スペース性や、イニシャルコスト及びランニングコスト等の経済性の課題を解決できる。
【0139】
また、第一実施形態によれば、4つのひずみゲージ14を上電極40に取り付けたまま、上電極40及び下電極42に通電して溶接対象32を溶接する。したがって、例えば、打角を検出するための打角検出手段を取り外してから、上電極40及び下電極42に通電して溶接対象32を溶接する場合に比して、工数を削減できるので、溶接コストを低減できる。
【0140】
[特許文献に記載された技術との相違点]
次に、第一実施形態について、特許文献に記載された技術との相違点を説明する。
【0141】
(1)特許文献1について
特許文献1には、電極に着脱可能な面直度検知治具が記載されている。この面直度検知治具には、鋼板と接触する検知棒が3つ以上備わり、検知棒に連結された板ばねのひずみをひずみゲージ14により検知する。
【0142】
特許文献1では、接触棒に連結された板ばねのひずみをひずみゲージ14で測定するのに対して、第一実施形態は、上電極40自体のひずみをひずみゲージ14で直接測定している点が異なる。特許文献1では、溶接時に面直度検知治具を取り外す必要があるが、第一実施形態では、溶接時にひずみゲージ14の取り外しが不要である。
【0143】
(2)特許文献2について
特許文献2には、電極に多軸振動センサを取り付け、多軸振動センサで検出された振動(加速度)から電極の3次元的な変位を算出し、打角を検出することが記載されている。
【0144】
特許文献2では、振動(加速度)から算出される電極の変位情報を使用するのに対して、第一実施形態は、上電極40のひずみをひずみゲージ14で測定して打角を検出する点が異なる。
【0145】
(3)特許文献3について
特許文献3には、溶接材を加圧した際の電極間の距離を求め、この値から打角を検出する溶接ロボットが記載されている。
【0146】
特許文献3では、溶接ロボットの基本機能を活用するため、電極にセンサを設置しないのに対して、第一実施形態は、電極にひずみゲージ14をセンサとして取り付ける点が異なる。
【0147】
(4)特許文献4について
特許文献4には、溶接の打点近傍の複数個所に電極を移動させ、このときの反力の大きさから打角を検出する溶接ロボットが記載されている。
【0148】
特許文献4では、溶接ロボットの基本機能を活用するため、電極にセンサを設置しないのに対して、第一実施形態は、電極にひずみゲージ14をセンサとして取り付ける点が異なる。
【0149】
(5)特許文献5について
特許文献5には、目視式のインジケータを用いて、電極の傾斜角度を測定する方法が記載されている。
【0150】
特許文献5では、目視式のインジケータを用いるのに対し、第一実施形態は、電極に取り付けたひずみゲージ14をセンサとして用いる点が異なる。
【0151】
(6)特許文献6について
特許文献6には、電極に代えて電極ホルダに取り付けられるヘッドに感圧素子を取り付けて、電極の面直度を疑似的に測定する方法が記載されている。
【0152】
特許文献6では、感圧センサを用いるのに対し、本発明は、ひずみゲージ14を用いる点で異なる。また、特許文献6では、電極に代えて電極ホルダにヘッドを取り付けるため、そのままでは、溶接できないのに対し、第一実施形態は、上電極40にひずみゲージ14を取り付けるため、そのまま溶接できる点で異なる。
【0153】
(7)特許文献7について
特許文献7には、非電気的ひずみゲージ14を電極に取り付けて、電極にかかる荷重の方向と大きさを検出する技術が記載されている。
【0154】
特許文献7では、電極にかかる荷重の方向と大きさを検出するのに対し、第一実施形態は、打角の方向と大きさを検出する点で異なる。また、特許文献7では、電極に通電してから電極のひずみを検出するのに対し、第一実施形態では、上電極40及び下電極42に通電する前に上電極40のひずみを検出する点が異なる。
【0155】
[実施例]
次に、本発明の第一実施形態の実施例について説明する。
【0156】
表1は、本発明の第一実施形態の実施例における測定条件を示す表である。
図12は、実施例における打角の方向θの測定結果を示すグラフである。
図12の縦軸は、上述の制御部22で算出された打角の方向θを示し、
図12の横軸は、実際に設定された打角の方向θを示している。
図12において、◇マークは、打角の大きさφ=3°の場合、□マークは、打角の大きさφ=6°の場合、△マークは、打角の大きさφ=9°の場合をそれぞれ示している。
【0157】
また、
図13は、実施例における打角の大きさφの測定結果を示すグラフである。
図13の縦軸は、上述の制御部22で算出された打角の大きさφを示し、
図13の横軸は、実際に設定された打角の大きさφを示している。
図13において、◇マークは、打角がない場合、□マークは、打角の方向θ=90°の場合、△マークは、打角の方向θ=105°の場合、×マークは、打角の方向θ=120°の場合、*マークは、打角の方向θ=135°の場合、○マークは、打角の方向θ=150°の場合、+マークは、打角の方向θ=165°の場合、▽マークは、打角の方向θ=180°の場合をそれぞれ示している。
【0158】
図12、
図13に示される測定結果より、実用上十分な精度で打角の方向θと大きさφを予測できることが確認された。
【表1】
【0159】
また、重ね合わされた上下一対の合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA鋼板)を溶接対象32にして、第一実施形態を適用した抵抗スポット溶接を行った。溶接対象32の溶接箇所の中央部を観察し、LME割れの有無を調査した結果を表2に示す。
【0160】
なお、試験番号1は、重ね合わされた一対の鋼板の溶接箇所の総板厚をt[mm]とした場合に、上電極40及び下電極42への通電時間を(5t+2.8φ+2)/50[sec]以上とした例である。
【0161】
また、試験番号2は、上電極40及び下電極42への通電終了後の加圧力保持時間をH[msec]、一対の鋼板のそれぞれの板厚をt[mm]、一対の鋼板のそれぞれの引張強度をT[MPa]、上電極40及び下電極42の各加圧力をF[N]、打角の大きさφ=6°とした場合に、(3・φ-1)・(t・T/F)1/2≦Hを満たすようにした例である。
【0162】
また、試験番号3は、加圧時に打角の大きさφ=6°に設定されており、その後、溶接開始前に打角の大きさφ=0°に修正した例である。
【表2】
【0163】
表2に示される通り、試験番号1では、第一実施形態を適用し、さらに、打角の大きさφに応じた通電時間を適用した結果、LME割れは観察されなかった。また、試験番号2では、打角の大きさφに応じた保持時間を適用した結果、LME割れは観察されなかった。さらに、試験番号3では、加圧時の打角の大きさφ=6°を検出し、その後、溶接開始前に打角の大きさφ=0°に修正した結果、LME割れ観察されなかった。このように、実施例から、第一実施形態がLME割れの抑制に有効であることを確認できた。
【0164】
[変形例]
次に、本発明の第一実施形態の変形例について説明する。
【0165】
(第一変形例)
図14は、本発明の第一実施形態に係る抵抗スポット溶接装置10の第一変形例を示す図である。
図14において、(A)はブロック図を含む抵抗スポット溶接装置10の側面図、(B)はF14-F14線断面図である。また、
図15は、
図14の抵抗スポット溶接装置10における下電極42の打角の方向θと大きさφを説明する図である。
図15において、(A)は下電極42の打角の大きさφを説明する溶接ガン12の側面図、(B)は下電極42の打角の方向θを模式的に説明する底面図である。
【0166】
第一実施形態では、4つのひずみゲージ14が、上電極40に取り付けられているが、
図14、
図15に示される第一変形例では、4つのひずみゲージ14が、下電極42に取り付けられている。4つのひずみゲージ14が取り付けられた下電極42は、「第一電極」の一例であり、上電極40は、「第二電極」の一例である。
【0167】
図15(B)に示されるように、この第一変形例では、基準線Cを次のように定義する。すなわち、下電極42の軸線Bに垂直な平面で切った場合の下電極42の断面を、
図15(B)に示される通り、断面42Aとした場合に、この断面42A上に予め設定され、この断面42Aの中心から下電極42の径方向外側に延びる線を、基準線Cと定義する。4つのひずみゲージ14は、基準線C上の位置、基準線Cから上電極40の周方向に90°離れた位置、基準線Cから上電極40の周方向に180°離れた位置、及び、基準線Cから上電極40の周方向に270°離れた位置にそれぞれ配置されている。
【0168】
また、溶接対象32の接触面32Bの法線Aに対する下電極42の軸線Bの傾きは、下電極42の打角である。第一変形例では、法線Aから軸線Bに向かって降ろした垂線Dと基準線Cとが下電極42の断面42A上においてなす角度を打角の方向θ[°](0°≦θ<360°)と定義する。さらに、
図15(A)に示されるように、同一平面上で溶接対象32の接触面32Bの法線Aと下電極42の軸線Bとのなす角度を打角の大きさφ[°](0°≦φ<90°)と定義する。
【0169】
そして、この第一変形例では、第一実施形態と同一の手法により、下電極42の打角の方向θと大きさφが算出される。すなわち、下電極42に取り付けられた4つのひずみゲージ14で測定された4つのひずみ測定値ε0、ε90、ε180、ε270に基づいて下電極42の打角の方向θと大きさφが算出される。
【0170】
このような第一変形例によっても、上記第一実施形態と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0171】
(第二変形例)
図16は、本発明の第一実施形態に係る抵抗スポット溶接装置10の第二変形例を示す図である。
図16において、(A)はブロック図を含む抵抗スポット溶接装置10の側面図、(B)はF16A-F16A線断面図、(C)はF16B-F16B線断面図である。
【0172】
また、
図17は、
図16の抵抗スポット溶接装置10における上電極40の打角の方向θ1と大きさφ1及び下電極42の打角の方向θ2と大きさφ2を説明する図である。
図17において、(A)は上電極40の打角の大きさφ1及び下電極42の打角の大きさφ2を説明する溶接ガン12の側面図、(B)は上電極40の打角の方向θ1を模式的に説明する平面図、(C)は下電極42の打角の方向θ2を模式的に説明する底面図である。
【0173】
この第二変形例は、第一実施形態と第一変形例を組み合わせたものである。すなわち、第二変形例において、上電極40には、4つのひずみゲージ14Aが取り付けられており、下電極42には、4つのひずみゲージ14Bが取り付けられている。上電極40に取り付けられた4つのひずみゲージ14Aは、第一実施形態における4つのひずみゲージ14(
図1、
図2参照)に相当し、下電極42に取り付けられた4つのひずみゲージ14Bは、第一変形例における4つのひずみゲージ14(
図14、
図15参照)に相当する。
【0174】
この第二変形例において、上電極40は、「第一電極」の一例であり、下電極42は、「第二電極」の一例である。上電極40に取り付けられた4つのひずみゲージ14Aは、「複数の第一ひずみゲージ」の一例であり、下電極42に取り付けられた4つのひずみゲージ14Bは、「複数の第二ひずみゲージ」の一例である。
【0175】
この第二変形例において、上電極40の打角の方向θ1と大きさφ1は、第一実施形態と同一の手法により算出される。同様に、下電極42の打角の方向θ2と大きさφ2は、第一変形例と同一の手法により算出される。
【0176】
この第二変形例によれば、上電極40の打角の方向θ1と大きさφ1、及び、下電極42の打角の方向θ2と大きさφ2を個別に算出できる。これにより、例えば、溶接対象32を構成する複数の鋼板30の間に生じた隙間の影響等により、上電極40及び下電極42のどちらか一方にのみ打角がある場合でも対応することができる。
【0177】
なお、下記式(11)で算出される打角の方向θ2’を下電極42の打角の方向としてもよい。このようにすると、下電極42の打角の方向θ2’を上電極40の打角の方向θ1に合わせた状態で下電極42の打角の方向θ2’と上電極40の打角の方向θ1とを比較できる。
θ2’=θ2-180[°]・・・(11)
【0178】
(その他の変形例)
第一実施形態では、複数のひずみゲージ14の一例として、4つのひずみゲージ14が上電極40に取り付けられているが、上電極40に周方向に等間隔で取り付けられる複数のひずみゲージ14の数は、3つ以上であれば、いくつでもよい。
【0179】
また、上記第一変形例において、下電極42に周方向に等間隔で3つ以上の複数のひずみゲージ14が取り付けられてもよく、同様に、上記第二変形例において、上電極40に周方向に等間隔で3つ以上の複数のひずみゲージ14Aが取り付けられ、下電極42に周方向に等間隔で3つ以上の複数のひずみゲージ14Bが取り付けられてもよい。
【0180】
また、第一実施形態、第一変形例及び第二変形例では、一例として、上電極40の軸線の傾斜角度と下電極42の軸線の傾斜角度とが同じである図を用いて説明がされているが、第一実施形態、第一変形例及び第二変形例において、抵抗スポット溶接における打角測定方法は、上電極40の軸線の傾斜角度と下電極42の軸線の傾斜角度とが異なる場合、上電極40の軸線が鋼板と垂直で下電極42の軸線が鋼板の法線に対して傾斜する場合、及び、上電極40の軸線が鋼板の法線に対して傾斜し下電極42の軸線が鋼板と垂直である場合に適用されてもよい。
【0181】
次に、本発明の第二実施形態について説明する。
【0182】
[新たな課題解決の着想について]
発明者らは、第一実施形態に対して鋭意検討した結果、上電極40及び下電極42の少なくとも一方の周方向に等間隔で取り付けられる複数のひずみゲージ14の数は、3つ以上でなくてもよいことを見出した。また、複数のひずみゲージ14が不等間隔に配置された場合でも、打角の方向θと大きさφを検出する新たな手法を見出した。
【0183】
さらに、発明者らは、打角の方向θと大きさφを検出することについて検討している際に、上電極40及び下電極42の各加圧力を検出することができれば、溶接ガン12の高さ方向の位置ずれを検出することができ、溶接ガン12の高さ方向の位置ずれを補正すれば、溶接品質をさらに安定させることができると考えた。なお、第二実施形態において加圧力とは、本実形態に係る抵抗スポット溶接装置において算出される実績加圧力を主に意味する。
【0184】
そこで、試しに上電極40及び下電極42の各周方向の4箇所に90°間隔で4つのひずみゲージ14を取り付けた状態で、溶接対象32を上電極40及び下電極42で挟み、この上電極40及び下電極42で溶接対象32を加圧したときの上電極40のひずみ及び下電極42のひずみを各4つのひずみゲージ14で測定した。この結果、上電極40及び下電極42の各加圧力に応じたひずみ測定値が得られるという特性があることが分かった。そして、この特性を利用することによって、上電極40及び下電極42の各加圧力を検出することを着想した。
【0185】
[新たな課題解決のポイント及びメカニズム]
以下、上電極40及び下電極42の各加圧力を定量的に算出するまでに至る検討内容、上電極40及び下電極42の少なくとも一方の周方向に等間隔で取り付けられる複数のひずみゲージ14の数が3つ以上でなくてもよいことの検討内容、及び、複数のひずみゲージ14が不等間隔に配置された場合でも、打角の方向θと大きさφを検出する新たな手法をそれぞれ具体的に説明する。
【0186】
本発明者らは、溶接ガン12の位置ずれと打角が複合した外乱条件を想定している。したがって、打角がある状態でも、上電極40及び下電極42の各加圧力を高精度に検出する必要がある。そこで、発明者らは、上電極40及び下電極42の各周方向の4箇所に90°間隔で4つのひずみゲージ14を取り付けて、各4つのひずみゲージ14のひずみ測定値を、上電極40及び下電極42の各加圧力を変化させて測定した。
【0187】
図18は、上記測定により得られた上電極40及び下電極42の各加圧力と上電極40及び下電極42に取り付けられた各4つのひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
m(4点平均値)との関係を示すグラフである。
図18の縦軸は、加圧力[N]を示しており、
図18の横軸は、ひずみ測定値の平均値ε
mを示している。また、◇印は、上電極40に取り付けられた4つのひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
mを表しており、□印は、下電極42に取り付けられた4つのひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
mを表している。
【0188】
図18に示されるように、上電極40に取り付けられた4つのひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
m、及び、下電極42に取り付けられた4つのひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
mは、いずれも上電極40及び下電極42の各加圧力と比例することが分かった。また、上電極40に取り付けられた4つのひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
mと、下電極42に取り付けられた4つのひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
mとは、上電極40及び下電極42の各加圧力が変化しても、同様の値であることが分かった。
【0189】
上記測定結果より、発明者らは、等間隔に配置された複数のひずみゲージ14から得られたひずみ測定値の平均値εmは打角の影響を受けにくく、また、加圧力と相関があると考えた。以下に、このような加圧力測定方法を考案するに至った根拠となるデータをさらに示す。なお、等間隔に配置された複数のひずみゲージ14は、「等間隔配置ひずみゲージ」の一例である。
【0190】
図19は、ひずみゲージ14の数が1つ、2つ、4つの場合の、打角の方向θ[°]とひずみ測定値の平均値ε
mとの関係を示す。
図19に示す測定では、上電極40及び下電極42の各加圧力を一定に設定した条件とした。
図19(A)はひずみゲージ14の数が1つの場合の測定結果を示し、
図19(B)はひずみゲージ14の数が2つの場合の測定結果を示し、
図19(C)はひずみゲージ14の数が4つの場合の測定結果を示している。
図19(A)~(C)において、縦軸はひずみ測定値の平均値ε
mを示し、横軸は打角の方向θ[°]を示している。
図19に示す測定では、加圧力を4000Nとし、打角の大きさφを3°とした。
【0191】
図19(A)において、□印は基準線C上の位置(0°の位置)にひずみゲージ14を配置した場合の測定結果を表し、△印は基準線Cから90°離れた位置にひずみゲージ14を配置した場合の測定結果を表し、×印は基準線Cから180°離れた位置にひずみゲージ14を配置した場合の測定結果を表し、*印は基準線Cから270°離れた位置にひずみゲージ14を配置した場合の測定結果を表す。
図19(A)に示す測定では、ひずみゲージ14の数が1つであるので、ひずみ測定値の平均値ε
mは、1つのひずみゲージ14のひずみ測定値そのものである。
【0192】
図19(B)において、グラフG1は基準線C上の位置(0°の位置)に配置されたひずみゲージ14のひずみ測定値と基準線Cから180°離れた位置に配置されたひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
mを示し、グラフG2は基準線C上の位置(0°の位置)に配置されたひずみゲージ14のひずみ測定値と基準線Cから90°離れた位置に配置されたひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
mを示している。
【0193】
図19(C)において、グラフG1は基準線C上の位置に配置されたひずみゲージ14のひずみ測定値と、基準線Cから90°離れた位置に配置されたひずみゲージ14のひずみ測定値と、基準線Cから180°離れた位置に配置されたひずみゲージ14のひずみ測定値と、基準線Cから270°離れた位置に配置されたひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
m(4点平均値)を示している。
【0194】
また、
図20は、打角なしの条件で測定した上電極40及び下電極42の各加圧力[N]とひずみ測定値の平均値ε
mとの関係を示す。
図20(A)はひずみゲージ14の数が2つの場合の測定結果を示し、
図20(B)はひずみゲージ14の数が4つの場合の測定結果を示している。
図20(A)、(B)において、縦軸はひずみ測定値の平均値ε
mを示し、横軸は加圧力[N]を示している。
【0195】
図20(A)において、△印は上電極40の基準線C上の位置(0°の位置)に配置されたひずみゲージ14のひずみ測定値と基準線Cから180°離れた位置に配置されたひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
mを示し、×印は下電極42の基準線C上の位置(0°の位置)に配置されたひずみゲージ14のひずみ測定値と基準線Cから180°離れた位置に配置されたひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
mを示し、◇印は上電極40の基準線Cから90°離れた位置に配置されたひずみゲージ14のひずみ測定値と基準線Cから270°離れた位置に配置されたひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
mを示し、□印は下電極42の基準線Cから90°離れた位置に配置されたひずみゲージ14のひずみ測定値と基準線Cから270°離れた位置に配置されたひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
mを示している。
【0196】
図20(B)において、◇印は上電極40に取り付けられた4つのひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
m(4点平均値)を示し、□印は下電極42に取り付けられた4つのひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
m(4点平均値)を示している。
【0197】
図19(A)に示される測定結果より、ひずみゲージの数が1つの場合、ひずみ測定値の平均値ε
mは、打角の方向θによって変化しており、ひずみゲージが加圧力検出手段として適さないことが分かった。
【0198】
図19(B)に示される測定結果より、ひずみゲージの数が2つの場合、グラフG2で示されるように、互いに90°離れた位置に配置された2つのひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
mは、打角の方向θによって変化しており、ひずみゲージが加圧力検出手段として適さないことが分かった。一方、グラフG1で示されるように、互いに180°離れた位置に配置された2つのひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
mは、打角の方向θによってほとんど変化していない。また、
図20(A)に示されるように、互いに180°離れた位置に配置された2つのひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
mは、上電極40及び下電極42の各加圧力と相関を示すことが分かった。
【0199】
図19(C)に示される測定結果より、ひずみゲージの数が4つの場合、グラフG1で示されるように、4つのひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
mは、打角の方向θによってほとんど変化していない。また、
図20(B)に示されるように、4つのひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値ε
mは、上電極40及び下電極42の各加圧力と相関を示すことが分かった。
【0200】
以上の測定結果より、等間隔に配置された複数のひずみゲージ14のひずみ測定値から算出した平均値εmは、打角がある状況下でも高精度な加圧力検出を可能とする検出値であることが分かった。
【0201】
また、発明者らは、上電極40及び下電極42の各々の実績加圧力を溶接ガン12の高さ方向の位置を変化させて測定した。
【0202】
図21は、上電極40及び下電極42の各々の実績加圧力と溶接ガン12の高さ方向の位置との関係を示すグラフである。
図21の縦軸は、実績加圧力[N]を示しており、
図21の横軸は、溶接ガン12の高さ方向の位置[mm]を示している。また、グラフG1は、上電極40の実績加圧力を表しており、グラフG2は、下電極42の実績加圧力を表している。
【0203】
図21に示されるように、溶接ガン12の位置がずれると、上電極40の実績加圧力が一定のまま、下電極42の実績加圧力が変化する。例えば、下電極42と溶接対象32がジャストタッチする位置関係に対して、溶接ガン12の位置が下電極42側にずれた場合、下電極42と溶接対象32との間にクリアランス(すなわち隙間)が生じるため、下電極42の実績加圧力は上電極40の実績加圧力に比べて低下する。反対に、下電極42と溶接対象32がジャストタッチする位置関係に対して、溶接ガン12の位置が上電極40側にずれた場合、下電極42が溶接対象32を押し上げるため、下電極42の実績加圧力は上電極40の実績加圧力に対して増加する。したがって、発明者らは、上電極40及び下電極42の各加圧力差を利用することにより、溶接ガン12の位置ずれを検出することができると考えた。
【0204】
なお、これらの変化は、溶接ガン12と溶接対象32との相対的な位置関係に起因するものであり、溶接ガン12の位置が変化しなくても溶接対象32の位置が変化した場合においても、上記と同様の変化が生じると考えられる。
【0205】
ところで、
図21に示されるように、上電極40の実績加圧力が溶接ガン12の位置に関係なく一定であるのは、上電極40の実績加圧力が一定となるように、ロボット20に備えられたモータのトルクが制御されているからである。また、下電極42の実績加圧力が溶接ガン12の位置によって変化するのは、溶接ガン12に作用する力のつり合いから解釈できる。上電極40及び下電極42で溶接対象32を加圧したときに溶接ガン12に作用する力は、(1)上電極40が溶接対象32の接触面から受ける反力、(2)溶接ガン12を把持するロボット20のアームから作用する力、(3)下電極42が溶接対象32との接触面から受ける反力の3つである。このうち、(1)の反力は、前述の通り、溶接ガン12の位置ずれに関係なしに一定である。一方、(2)の力は、溶接ガン12の位置ずれによって変化すると考えられる。例えば、上電極40及び下電極42と溶接対象32との間にクリアランスが無い場合、上電極40及び下電極42は溶接対象32にほぼ同時に接触するが、クリアランスがある場合、下電極42が溶接対象32に先に接触し、その次に上電極40が溶接対象32に接触するようになる。この結果、ロボット20のアームの関節部に外部負荷が作用するが、ロボット20のアームはその姿勢を維持するように位置制御されるため、外部負荷分、関節部のモータトルクを変化させる。すなわち、溶接ガン12に作用する(2)の力が変化することになる。以上を整理すると、溶接ガン12の位置ずれにより、(1)の反力は変化せず、(2)の力が変化すると考えられる。また、上電極40及び下電極42で溶接対象32を加圧したときに溶接ガン12に作用している力はバランスする必要があるので、(2)の力が変化した分、下電極42に作用する(3)の反力が変化すると考えられる。
【0206】
このように、溶接ガン12の高さ方向の位置が変化しても、上電極40の実績加圧力が略一定となるように溶接ガン12の高さ方向の位置が調整される制御がロボット20に対して行われる場合、下電極42の実績加圧力は、溶接ガン12の高さ方向の位置と比例することが分かった。
【0207】
以上より、発明者らは、例えば、上電極40の実績加圧力が略一定となるように溶接ガン12の高さ方向の位置が調整される制御がロボット20に対して行われる場合には、下電極42に等間隔に複数のひずみゲージ14を取り付けて、この複数のひずみゲージ14のひずみ測定値の平均値εmを算出すれば、溶接ガン12の高さ方向の位置を推定できると考えた。
【0208】
また、発明者らは、C字ガン又はX字ガンへの適用について検討した。先ず、C字ガンについて説明する。C字ガンは、一般に、上電極及び下電極のうち一方が可動電極であり他方が固定電極である片側駆動である。可動電極については、可動電極を駆動するモータのトルクから加圧力を算出できるが、固定電極には加圧力の検出手段がない。よって、少なくとも固定電極にひずみゲージを配置する必要がある。一方、打角については、可動電極及び固定電極のうち少なくともいずれか一方にひずみゲージを取り付けて測定すればよい。したがって、C字ガンでは、打角の測定と上電極及び下電極の各加圧力の検出とを行うには、表3のパターン1~6とすればよいと考えられる。
【0209】
すなわち、パターン1は、可動電極を駆動するモータのトルクから加圧力を算出し、固定電極に取り付けたひずみゲージで加圧力の検出と打角の測定の両方を行うパターンである。また、パターン2は、可動電極及び固定電極の両方に取り付けたひずみゲージで加圧力を検出し、固定電極に取り付けたひずみゲージで打角を測定するパターンである。パターン3は、可動電極を駆動するモータのトルクから加圧力を算出し、可動電極に取り付けたひずみゲージで打角を測定し、固定電極に取り付けたひずみゲージで加圧力を検出するパターンである。パターン4は、可動電極及び固定電極の両方に取り付けたひずみゲージで加圧力を検出し、可動電極に取り付けたひずみゲージで打角を測定するパターンである。パターン5は、可動電極を駆動するモータのトルクから加圧力を算出し、可動電極及び固定電極の両方に取り付けたひずみゲージで打角を測定し、さらに固定電極に取り付けたひずみゲージで加圧力を検出するパターンである。パターン6は、可動電極及び固定電極の両方に取り付けたひずみゲージで加圧力の検出と打角の測定の両方を行うパターンである。
【0210】
なお、加圧力は溶接品質に影響を及ぼすパラメータのため、加圧力を一定に制御しない溶接ガンは無いと考えられるが、仮に、加圧力を一定に制御しない場合においても、配置パターンに関しては、「加圧力一定制御あり」と同様に、パターン1~6を採用可能であると考えられる。
【0211】
続いて、X字ガンについて説明する。上電極及び下電極のうち一方が可動電極であり他方が固定電極である片側駆動のX字ガンは、配置パターンに関しては、C字ガンと同様に、パターン1~6を採用可能であると考えられる。また、上電極及び下電極の両方が可動電極であり、かつ、2個のモータで上電極及び下電極を個別に駆動できる両側駆動のX字ガンは、配置パターンに関しては、パターン1~6に加えて、各可動電極を駆動するモータのトルクから加圧力を算出し、可動電極及び固定電極のいずれか一方に取り付けたひずみゲージで打角を測定するパターンを採用可能であると考えられる。また、1個のモータで上電極及び下電極を駆動でき、かつ、上電極の加圧力及び下電極の加圧力を1個のモータから算出できる両側駆動のX字ガンは、上述の2個のモータで上電極及び下電極を個別に駆動できる両側駆動のX字ガンと同様の配置パターンを採用可能であると考えられる。
また、1個のモータで上電極及び下電極を駆動できるが、上電極の加圧力及び下電極の加圧力を1個のモータから算出できない両側駆動のX字ガンは、上電極及び下電極の両方に取り付けたひずみゲージで加圧力を検出し、可動電極及び固定電極のいずれか一方に取り付けたひずみゲージで打角を測定するパターンを採用すればよいと考えられる。
【0212】
【0213】
また、発明者らは、先ず、上述の通り4つのひずみゲージ14を等間隔に配置した場合の具体的な打角算出方法を考案したが、
図22に示すように、90°離れて隣り合う2つのひずみゲージのひずみ測定値からでも、打角を計算できることを見出した。
図22には、打角、加圧力、及び、打角と加圧力をそれぞれ検出するのに適したひずみゲージの数と配置が示されている。
図22において黒点はひずみゲージを表している。
【0214】
図23は、一例として、上電極40のシャンク部に等間隔(90°間隔)で配置した4つのひずみゲージ14のひずみ測定値εから,偏差ひずみε’(ε’=ε-ε
m)を計算し、続いて偏差ひずみ変化量Δε’(Δε’=ε’-ε
φ=0’)を計算した際のデータを示している。
図23(A)~(C)は、上述の
図4~
図6に対応し、
図23(D)は、上述の
図7に対応する。
図23の計算式に示すように、ε
m≒ε
m,φ=0の関係を前提とすると、Δε’≒Δεの関係が成り立つ。すなわち、ひずみ測定値の平均値ε
mが基準偏差ひずみε
m,φ=0に略等しいことを利用すると、偏差ひずみ変化量Δε’(Δε’=ε’-ε
φ=0’)は、ひずみ変化量Δε(Δε=ε-ε
φ=0)に置き換えることができる。90°離れて隣り合う2つのひずみゲージのひずみ測定値のみしか得られない場合など、周方向に等間隔で配置された複数のひずみゲージ(等間隔配置ひずみゲージ)が無く、ひずみ測定値の平均値ε
mが算出できない場合であっても、偏差ひずみε’を用いず、偏差ひずみ変化量Δε’の代わりにひずみ変化量Δεを用いることにより、打角の大きさφと打角の方向θを推定することが可能である。
【0215】
図中には示していないが、ひずみ変化量Δεの計算結果から、第一ひずみ変化量Δε1及び第二ひずみ変化量Δε2を選び、式(12)より、合成ひずみ変化量ΔεNを計算することにより、打角の大きさφと打角の方向θを推定することが可能である。
ΔεN=√{(Δε1)2+(Δε2)2}・・・(12)
【0216】
なお、第一ひずみ変化量Δε1は、ひずみ変化量Δε0、Δε90、Δε180、Δε270のうち、値がマイナス側に最も大きいひずみ変化量である。第二ひずみ変化量Δε2は、第一ひずみ変化量Δε1が検出された位置から上電極40の周方向に±90°離れた2つの位置でそれぞれ検出されたひずみ変化量のうち値がマイナス側に大きい方の第二ひずみ変化量である。ひずみ変化量Δε0、Δε90、Δε180、Δε270は、式(13)~式(16)で算出される。
Δε0=ε0-ε0,φ=0 ・・・(13)
Δε90=ε90-ε90,φ=0 ・・・(14)
Δε180=ε180-ε180,φ=0 ・・・(15)
Δε270=ε270-ε270,φ=0
・・・(16)
【0217】
ここで、
図23(C)の偏差ひずみ変化量Δε’のグラフ(ひずみ変化量Δεのグラフと略等しい)に着目すると、取付位置90°のひずみ測定値と、取付位置90°から180°離れた取付位置270°のひずみ測定値は、大きさがほぼ同じで符号が反対である。また、
図23(D)に示す打角方向が120°の場合の偏差ひずみ変化量Δε’の値(ひずみ変化量Δεの値と略等しい)からも、取付位置0°のひずみ測定値と取付位置180°のひずみ測定値の関係、並びに、取付位置90°のひずみ測定値と取付位置270°のひずみ測定値の関係は、大きさが同じで、符号が反対になっている。したがって、取付位置が90°離れて隣り合う2点の偏差ひずみ変化量Δε’から、周方向4箇所の偏差ひずみ変化量Δε’の分布を推定することが可能であり、取付位置が90°離れて隣り合う2点のひずみ変化量Δεから、周方向4箇所の偏差ひずみ変化量Δε’の分布を推定することが可能である。すなわち、取付位置が90°離れて隣り合う2点のひずみ変化量Δεから、打角の大きさφと方向θを推定することができる。
【0218】
以上をまとめると、
図22に示されるように、ひずみゲージの数は4つに限定されるものではなく、2つ以上であればよい。ひずみゲージ数が3つの場合、120°の等間隔に配置してもよい。この場合、加圧力は3つのひずみ測定値の平均値ε
mから算出し、打角は偏差ひずみ変化量Δε’又は、ひずみ変化量Δεから算出すればよい。また、3つのひずみゲージは、90°、90°、180°の不等間隔に配置してもよい。この場合、加圧力は180°離れた2つ(向かい合う2つ)のひずみゲージから得られるひずみ測定値の平均値ε
mから算出し、打角はひずみ変化量Δεから算出すればよい。なお、この場合、偏差ひずみ変化量Δε’は使用できない。ひずみゲージが4つ以上の場合、等間隔(つまり360°/ひずみゲージの個数で得られる間隔)でひずみゲージを配置してもよい。この場合、加圧力は、ひずみ測定値の平均値ε
mから算出し、打角は偏差ひずみ変化量Δε’又はひずみ変化量Δεから算出すればよい。
【0219】
[抵抗スポット溶接継手の製造方法]
次に、本発明の第二実施形態に係る抵抗スポット溶接継手の製造方法を実際の溶接組立工程に適用する場合について説明する。
【0220】
本発明の第二実施形態に係る抵抗スポット溶接継手の製造方法では、一例として、
図16に示される抵抗スポット溶接装置10を用いることとする。なお、上電極40に取り付けられた複数のひずみゲージ14Aと、下電極42に取り付けられた複数のひずみゲージ14Bとを区別しない場合には、複数のひずみゲージ14A及び複数のひずみゲージ14Bをそれぞれ複数のひずみゲージ14と称する。また、第二実施形態では、一例として、上電極40を可動電極とし、下電極42を固定電極として説明する。
【0221】
第二実施形態に係る抵抗スポット溶接継手の製造方法は、
図24に示すステップS10~ステップS12を備える。ステップS10は、加圧力及び打角検出工程であり、ステップS11は、加圧力及び打角補正工程であり、ステップS12は、通電工程である。
【0222】
ステップS10のうちの加圧力検出工程では、上電極40に取り付けられた複数のひずみゲージ14Aによって得られたひずみ測定値の平均値ε
m、及び、下電極42に取り付けられた複数のひずみゲージ14Bによって得られたひずみ測定値の平均値ε
mを算出し、予め求めておいた平均値ε
mと加圧力の大きさの関係(
図18参照)から、上電極40及び下電極42の各加圧力に換算する。溶接対象32とのクリアランスを含む溶接ガン12の位置ずれは、上電極40の加圧力に対する下電極42の加圧力の大小関係から推定する。すなわち、下電極42の加圧力の値が上電極40の加圧力の値と等しければ、溶接ガン12の位置ずれが無いと判断し、下電極42の加圧力の値が上電極40の加圧力の値よりも小さければ、クリアランスがあると判断し、下電極42の加圧力の値が上電極40の加圧力の値よりも大きければ、溶接ガン12が理想的な接触位置から上電極40側にずれている(すなわち下電極42によって溶接対象32を押し上げる方向にずれている)と判断する。
【0223】
また、ステップS10のうちの打角測定工程では、上電極40に取り付けられた複数のひずみゲージ14A、及び、下電極42に取り付けられた複数のひずみゲージ14Bの少なくとも一方を用いて偏差ひずみ変化量Δε’を計算し、この値のシャンクの周囲の分布状況から打角を計算する。なお、
図22に示されるように、偏差ひずみ変化量Δε’の代わりに、ひずみ変化量Δεを用いてもよい。打角の詳細な算出方法については、第一実施形態と同様である。
【0224】
続いて、ステップS11では、溶接ガン12の位置を高さ方向(すなわち溶接対象32の板厚方向)に変えて、上電極40の加圧力と下電極42の加圧力が均等になるようにする。具体的には、下電極42の加圧力の値が上電極40の加圧力の値よりも小さい場合、溶接ガン12による加圧位置を、初期の加圧位置から上電極40側に移動させる。反対に、下電極42の加圧力の値が上電極40の加圧力の値よりも大きい場合、溶接ガン12による加圧位置を、初期の加圧位置から下電極42側に移動させる。また、打角に関しては、溶接ガン12の溶接対象32に対する姿勢を変えることにより、打角の大きさφが規定値未満になるよう補正する。
【0225】
続いて、ステップS12では、上電極40及び下電極42に通電させ、一定時間保持する。これにより、溶接対象32が抵抗スポット溶接され、これにより、溶接対象32から抵抗スポット溶接継手が得られる。
【0226】
なお、ステップS11の補正工程では、加圧力補正及び打角補正の順、又は、打角補正及び加圧力補正の順に行うことができるが、打角補正及び加圧力補正の順であることがより好ましい。以下に詳細を説明する。すなわち、
図25は打角度補正を行う前後の溶接ガン12(C字ガン)を模式的に示している。仮に、図中の制御点Pで示すロボットの制御点と下電極42の先端位置に若干の位置ずれがあった場合、回転中心の不一致により、打角を補正した後に、溶接対象32の板厚方向への位置ずれが同時に生じ、結果として上電極40及び下電極42の加圧力にアンバランスが生じることが予測される。したがって、最初に打角補正を行い、続いて加圧力補正を行うことが望ましい。なお、一般的にロボットは制御点Pを中心に姿勢制御が行われる。制御点Pの位置はユーザが任意に設定可能であり、溶接ガン12においては、通常、固定電極(この場合、下電極42)の先端部分に設定される。
【0227】
[作用及び効果]
以上詳述したように、本発明の第二実施形態によれば、溶接ガン12の位置ずれの検出と打角の測定を同時に行うことができる。したがって、例えば、亜鉛めっき鋼板の抵抗スポット溶接において、本発明の第二実施形態を活用した溶接方法により、溶接ガン12の位置ずれと打角が組み合わさった条件下で生じるLME割れを低減することができる。すなわち、LME割れは、溶接対象32と下電極42間の隙間であるクリアランスや、溶接対象32の鋼板表面に対する上電極40及び下電極42の傾きである打角といった外乱がある場合に発生しやすい傾向があり、特に、クリアランスと打角が同時に作用する場合に起こりやすい。しかしながら、クリアランスを含む溶接ガン12の位置ずれに打角が組み合わさった場合でも、本発明の第二実施形態によれば、これら外乱を定量的に検出し、検出した外乱に基づいて溶接ガン12の位置及び姿勢を補正して、LME割れを低減することができる。
【0228】
[特許文献に記載された技術との相違点]
次に、第二実施形態について、特許文献に記載された技術との相違点を説明する。特許文献8には、溶接ガンの上電極及び下電極にひずみゲージを貼り付けて、上電極及び下電極の各加圧力を検出し、各加圧力が均等になるように溶接ガンの位置を補正する溶接方法が記載されている。
【0229】
特許文献8に記載の溶接方法では、ひずみゲージの個数、配置方法が規定されていない。また、第二実施形態は、加圧力を検出することに加えて打角を同時に測定する点が異なる。
【0230】
[実施例]
第二実施形態に基づいて行った実施例を説明する。鋼板には、板厚1.6mm、引張強さ980MPaの亜鉛めっき鋼板を使用し、これを2枚重ね合わせて溶接対象である板組を構成した。溶接ガンにはC字ガンを使用した。ひずみゲージは、上電極のシャンクと下電極のシャンクの周囲に各4つずつ、90°の等間隔に配置した。また、上電極及び下電極の加圧力は4000Nに設定した。
【0231】
以下、表4を用いて説明する。本発明の実施例である本発明例では、初期の打角とクリアランスは、それぞれ4°と0.3mmに設定した。加圧力及び打角検出工程では、上電極の加圧力4000Nに対して、下電極で3500Nの加圧力が検出され、3.8°の打角が検出された。加圧力及び打角補正工程では、上電極と下電極の加圧力がともに4000Nを示すように溶接ガンの位置を鋼板の板厚方向に変更した。なお、このときの溶接ガンの移動量は、結果的に0.28mmであった。また、打角の検出結果に基づいて、打角が0に近づく方向に、溶接ガンの姿勢を3.8°変更した。通電条件では、前述の板組を表中に示した条件で通電した。溶接後の板組を研磨し、腐食させた後、光学顕微鏡を用いて溶接部の断面を観察した結果、本発明例の溶接部からはLME割れが観察されなかった。
一方、比較例では、本発明例と同様の外乱条件を設定し、加圧力及び打角検出工程並びに加圧力及び打角補正工程を実施しなかった。比較例では、通電条件を本発明例と同一とした。溶接部の断面を観察した結果、比較例の溶接部からはLME割れが観察された。
【0232】
【0233】
[変形例]
次に、第二実施形態の変形例について説明する。
【0234】
第二実施形態の「新たな課題解決のポイント及びメカニズム」(
図22参照)で説明した通り、第二実施形態では、上電極40及び下電極42に取り付けるひずみゲージ14の数は、2以上でもよい。
【0235】
また、第二実施形態の「新たな課題解決のポイント及びメカニズム」(表3参照)で説明した通り、溶接ガン12は、C字ガン以外に、X字ガンでもよい。さらに、X字ガンは、片側駆動又は両側駆動でもよい。
【0236】
また、ひずみゲージ14による検出形態は、表3に示される複数のパターンのいずれかでもよい。
【0237】
以上、本発明の第一及び第二実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0238】
10 抵抗スポット溶接装置
12 溶接ガン
14 ひずみゲージ
14A ひずみゲージ(第一ひずみゲージの一例)
14B ひずみゲージ(第二ひずみゲージの一例)
22 制御部
30 鋼板
32 溶接対象
40 上電極(第一電極又は第二電極の一例)
42 下電極(第二電極又は第一電極の一例)
44 シャンク
46 電極チップ