(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】梁の耐震性能の評価方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/24 20060101AFI20241023BHJP
E04C 3/04 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
E04B1/24 Z ESW
E04C3/04
(21)【出願番号】P 2021006248
(22)【出願日】2021-01-19
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】桑田 涼平
(72)【発明者】
【氏名】北岡 聡
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】連成座屈を考慮したH形断面梁部材構成板要素の幅厚比制限値評価法,日本建築学会構造系論文集,第73巻第629号,日本,2008年07月,1177-1184
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00-1/61
E04C 3/00-3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブ及び一対のフランジを有するH形鋼からなる梁の耐震性能における種別を評価するにあたって、
前記梁が有する前記ウェブ及び前記一対のフランジの連成座屈を考慮した弾性局部座屈耐力式を構築することによって、前記梁の前記種別を評価
し、
前記梁にせん断力が作用して座屈するときの前記連成座屈を考慮した第1座屈応力度τ
cr
、及び前記梁に等曲げモーメントが作用して座屈するときの前記連成座屈を考慮した第2座屈応力度σ
cr
を指標として、前記梁の前記種別を評価し、
前記第1座屈応力度τ
cr
及び前記第2座屈応力度σ
cr
を、前記ウェブにおける面外変位及び前記一対のフランジにおける面外変位からエネルギー法に基づいて求め、
前記梁の材軸を、x軸と規定し、
前記一対のフランジが前記ウェブを挟む方向に延びる軸を、y軸と規定し、
前記ウェブの板厚方向に延びる軸を、z軸と規定し、
前記ウェブの前記x軸に沿う方向の第1端に向かうに従い、前記z軸に沿う方向に交互に波状に変位する前記ウェブの前記x軸に沿う方向における半波長をaと規定したときに、
前記梁にせん断力が作用するときには、
前記ウェブにおける前記y軸に沿う方向の中心の位置を、前記y軸の原点と規定し、 前記y軸の原点から、前記一対のフランジのうちの片側に向かう向きを、前記y軸の正の向きと規定し、
前記第1座屈応力度τ
cr
を、(1)式から(6)式を用いて、(7)式による前記第1座屈応力度τ
cr
に最小の正の値を与える実数である前記a
n
,b
n
,λ及び前記半波長aに基づいて求め、
前記梁に等曲げモーメントが作用するときには、
前記一対のフランジのうちの一方における前記y軸に沿う方向の中心の位置を、前記y軸の原点と規定し、
前記y軸の原点から、前記一対のフランジのうちの他方に向かう向きを、前記y軸の正の向きと規定し、
前記第2座屈応力度σ
cr
を、(8)式から(14)式を用いて、(15)式による前記第2座屈応力度σ
cr
に最小の正の値を与える実数である前記a
n
,b
n
及び前記半波長aに基づいて求める梁の耐震性能の評価方法。
ただし、Nは2以上の自然数であり、a
0
,a
n
,b
n
,λは未定係数であり、Eは前記H形鋼のヤング係数であり、νは前記H形鋼のポアソン比であり、t
w
は前記ウェブの厚さであり、t
f
は前記一対のフランジそれぞれの厚さであり、b
w
は前記一対のフランジの板厚中心間距離であり、b
f
は前記一対のフランジそれぞれの幅の半分の値であり、W
w
は前記ウェブにおける前記z軸に沿う方向に向けた前記面外変位であり、W
f1
,W
f2
は前記一対のフランジにおける前記y軸に沿う方向に向けた前記面外変位である。
【数1】
【請求項2】
前記梁を構成する前記H形鋼のせいH及び前記一対のフランジの幅Wは、それぞれ予め定められた値であり、
前記H形鋼の基準強度を、Fと規定し、
(16)式及び(17)式によって与えられる前記梁のFAの前記種別の前記H形鋼において、(16)式及び(17)式の等号成立時の前記梁における前記一対のフランジおよび前記ウェブの幅厚比の条件を、基準条件と規定し、
前記基準条件での前記H形鋼の前記第2座屈応力度σ
crを、前記FAの前記種別における第2基準座屈応力度と規定し、
前記基準強度Fに対する前記FAの前記種別における前記第2基準座屈応力度の比を、前記FAの前記種別における第2基準座屈応力度比と規定したとき、
前記基準強度Fに対する前記第2座屈応力度σ
crの比が、前記FAの前記種別における前記第2基準座屈応力度比以上であり、
かつ(16)式を満足する前記梁を、前記FAの前記種別における前記梁として評価する
請求項1に記載の梁の耐震性能の評価方法。
ただし、t
fは前記一対のフランジそれぞれの厚さであり、t
wは前記ウェブの厚さである。また、前記第2座屈応力度σ
crを算出する際の前記一対のフランジの板厚中心間距離、前記フランジの幅Wは、前記第2基準座屈応力度を算出する前記H形鋼の前記一対のフランジの板厚中心間距離、前記フランジの幅Wとそれぞれ等しいとする。
【数2】
【請求項3】
前記梁を構成する前記H形鋼のせいH及び前記一対のフランジ幅のWは、それぞれ予め定められた値であり、
前記H形鋼の基準強度を、Fと規定し、
(18)式及び(19)式によって与えられる前記梁のFBの前記種別の前記H形鋼において、(18)式及び(19)式の等号成立時の前記梁における前記一対のフランジおよび前記ウェブの幅厚比の条件を、基準条件と規定し、
前記基準条件での前記H形鋼の前記第2座屈応力度σ
crを、前記FBの前記種別における第2基準座屈応力度と規定し、
前記基準強度Fに対する、前記FBの前記種別における前記第2基準座屈応力度の比を前記FBの前記種別における第2基準座屈応力度比と規定したとき、
前記基準強度Fに対する前記第2座屈応力度σ
crの比が、前記FBの前記種別における前記第2基準座屈応力度比以上であり、
かつ(18)式を満足する前記梁を、前記FBの前記種別における前記梁として評価する請求項
1又は2に記載の梁の耐震性能の評価方法。
ただし、t
fは前記一対のフランジそれぞれの厚さであり、t
wは前記ウェブの厚さである。また、前記第2座屈応力度σ
crを算出する際の前記一対のフランジの板厚中心間距離、前記フランジの幅Wは、前記第2基準座屈応力度を算出する前記H形鋼の前記一対のフランジの板厚中心間距離、前記フランジの幅Wとそれぞれ等しいとする。
【数3】
【請求項4】
前記H形鋼の降伏せん断強度を、F′と規定し、
前記降伏せん断強度F′に対する前記第1座屈応力度τ
crの比が、(20)式を満足し、
かつ(21)式を満足する前記梁を、FCの前記種別における前記梁として評価する請求項
1から3のいずれか一項に記載の梁の耐震性能の評価方法。
ただし、F′はF/√3である。
【数4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梁の耐震性能の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、昭和55年建設省告示第1792号において、建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第82条の3第二号の規定(以下、告示と言う)にもとづき、H形鋼からなる梁は、前記H形鋼を構成するウェブ及びフランジの幅厚比区分がそれぞれ構築されている。そして、ウェブ及びフランジの幅厚比区分にもとづいて、梁の種別が定められている。なお、前記幅厚比区分は、前記ウェブ及びフランジそれぞれに対して導出された幅厚比に基づいて規定されている。
ここで、H形鋼の局部座屈は、ウェブ及びフランジが相互に作用し合うため、前記ウェブ及びフランジともに複雑な周期的挙動を示す。このため、前記弾性局部座屈耐力式等の既往の知見では、前記ウェブ及びフランジを個々の板要素に分けて考え、(1)式であらわされるフーリエ級数を用いることで、前記ウェブ及びフランジの局部座屈による面外変位Wwを推定しており、前記面外変位Wwに基づいて板要素の弾性局部座屈耐力を導出している(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Stephen P. Timoshenko and James M. Gere、「Theory of Elastic Stability」 Second Edition
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、H形鋼の局部座屈変形は、前記ウェブ及びフランジが相互に局部座屈変形を拘束し、前記ウェブ及びフランジが一体となって生じるため、前記板要素の弾性座屈耐力式では、H形鋼の弾性座屈耐力を過小評価している。それゆえ、前記板要素の弾性座屈耐力式に基づいて構築される前記幅厚比区分によって評価される前記梁の耐震性能も過小評価されている。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、相互に作用するウェブ及びフランジを考慮した弾性局部座屈耐力式を導出することによって、種別をより適切に評価することができる梁の耐震性能の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の梁の耐震性能の評価方法は、ウェブ及び一対のフランジを有するH形鋼からなる梁の耐震性能における種別を評価するにあたって、前記梁が有する前記ウェブ及び前記一対のフランジの連成座屈を考慮した弾性局部座屈耐力式を構築することによって、前記梁の前記種別を評価することを特徴としている。
この発明によれば、発明者らは、鋭意検討の結果、H形鋼では、ウェブ及び一対のフランジがそれぞれ独立して座屈するのではなく、相互に作用しながら連成座屈することを見出し、梁が有するウェブ及び一対のフランジの連成座屈を精度良く予測可能な弾性局部座屈耐力式を導出した。この弾性局部座屈耐力式により梁の種別を評価することによって、梁の種別をより適切に評価することができる。
【0008】
また、前記梁の耐震性能の評価方法において、前記梁にせん断力が作用して座屈するときの前記連成座屈を考慮した第1座屈応力度τcr、及び前記梁に等曲げモーメントが作用して座屈するときの前記連成座屈を考慮した第2座屈応力度σcrを指標として、前記梁の前記種別を評価してもよい。
また、前記梁の耐震性能の評価方法において、前記第1座屈応力度τcr及び前記第2座屈応力度σcrを、前記ウェブにおける面外変位及び前記一対のフランジにおける面外変位からエネルギー法に基づいて求めてもよい。
【0009】
また、前記梁の耐震性能の評価方法において、前記梁の材軸を、x軸と規定し、前記一対のフランジが前記ウェブを挟む方向に延びる軸を、y軸と規定し、前記ウェブの板厚方向に延びる軸を、z軸と規定し、前記y軸に沿う方向における前記一対のフランジの中心間の距離を、bwと規定し、前記ウェブの前記x軸に沿う方向の第1端に向かうに従い、前記z軸に沿う方向に交互に波状に変位する前記ウェブの前記x軸に沿う方向における半波長をaと規定したときに、前記梁にせん断力が作用するときには、前記ウェブにおける前記y軸に沿う方向の中心の位置を、前記y軸の原点と規定し、前記y軸の原点から、前記一対のフランジのうちの片側に向かう向きを、前記y軸の正の向きと規定し、前記第1座屈応力度τcrを、(11)式から(16)式を用いて、(17)式による前記第1座屈応力度τcrに最小の正の値を与える実数である前記an,bn,λ及び前記半波長aに基づいて求め、前記梁に等曲げモーメントが作用するときには、前記一対のフランジのうちの一方における前記y軸に沿う方向の中心の位置を、前記y軸の原点と規定し、前記y軸の原点から、前記一対のフランジのうちの他方に向かう向きを、前記y軸の正の向きと規定し、前記第2座屈応力度σcrを、(18)式から(24)式を用いて、(25)式による前記第2座屈応力度σcrに最小の正の値を与える実数である前記an,bn及び前記半波長aに基づいて求めてもよい。
ただし、Nは2以上の自然数であり、a0,an,bn,λは未定係数であり、Eは前記H形鋼のヤング係数であり、νは前記H形鋼のポアソン比であり、twは前記ウェブの厚さであり、tfは前記一対のフランジそれぞれの厚さであり、bwは前記一対のフランジの板厚中心間距離であり、bfは前記一対のフランジそれぞれの幅の半分の値であり、Wwは前記ウェブにおける前記z軸に沿う方向に向けた前記面外変位であり、Wf1,Wf2は前記一対のフランジにおける前記y軸に沿う方向に向けた前記面外変位である。
【0010】
【0011】
この発明によれば、梁にせん断力が作用するときの第1座屈応力度τcr、及び梁に等曲げモーメントが作用するときの第2座屈応力度σcrを、式を用いてそれぞれ正確に求めることができる。
【0012】
また、前記梁の耐震性能の評価方法において、前記梁を構成する前記H形鋼のせいH及び前記一対のフランジの幅Wは、それぞれ予め定められた値であり、前記H形鋼の基準強度を、Fと規定し、(26)式及び(27)式によって与えられる前記梁のFAの前記種別の前記H形鋼において、(26)式及び(27)式の等号成立時の前記梁における前記一対のフランジおよび前記ウェブの幅厚比の条件を、基準条件と規定し、前記基準条件での前記H形鋼の前記第2座屈応力度σcrを、前記FAの前記種別における第2基準座屈応力度と規定し、前記基準強度Fに対する前記FAの前記種別における前記第2基準座屈応力度の比を、前記FAの前記種別における第2基準座屈応力度比と規定したとき、前記基準強度Fに対する前記第2座屈応力度σcrの比が、前記FAの前記種別における前記第2基準座屈応力度比以上であり、かつ(26)式を満足する前記梁を、前記FAの前記種別における前記梁として評価してもよい。
ただし、tfは前記一対のフランジそれぞれの厚さであり、twは前記ウェブの厚さである。また、前記第2座屈応力度σcrを算出する際の前記一対のフランジの板厚中心間距離、前記フランジの幅Wは、前記第2基準座屈応力度を算出する前記H形鋼の前記一対のフランジの板厚中心間距離、前記フランジの幅Wとそれぞれ等しいとする。
【0013】
【0014】
この発明によれば、種別がFAである梁の場合に、ウェブ及び一対のフランジの連成座屈を考慮して、梁の耐震性能を評価する。これにより、耐震性能がFAの種別と評価され得る梁の断面形状を、基準強度Fに対する第2座屈応力度σcrの比が第2基準座屈応力度比以上であって、(26)式を満足する梁に、広げることができる。従って、例えば、現行の評価方法におけるFAの種別よりもウェブの幅厚比が大きい梁を、FAの種別の耐震性能を有する梁として評価することができる。
【0015】
また、前記梁の耐震性能の評価方法において、前記梁を構成する前記H形鋼のせいH及び前記一対のフランジ幅のWは、それぞれ予め定められた値であり、前記H形鋼の基準強度を、Fと規定し、(28)式及び(29)式によって与えられる前記梁のFBの前記種別の前記H形鋼において、(28)式及び(29)式の等号成立時の前記梁における前記一対のフランジおよび前記ウェブの幅厚比の条件を、基準条件と規定し、前記基準条件での前記H形鋼の前記第2座屈応力度σcrを、前記FBの前記種別における第2基準座屈応力度と規定し、前記基準強度Fに対する、前記FBの前記種別における前記第2基準座屈応力度の比を前記FBの前記種別における第2基準座屈応力度比と規定したとき、前記基準強度Fに対する前記第2座屈応力度σcrの比が、前記FBの前記種別における前記第2基準座屈応力度比以上であり、かつ(28)式を満足する前記梁を、前記FBの前記種別における前記梁として評価してもよい。
ただし、tfは前記一対のフランジそれぞれの厚さであり、twは前記ウェブの厚さである。また、前記第2座屈応力度σcrを算出する際の前記一対のフランジの板厚中心間距離、前記フランジの幅Wは、前記第2基準座屈応力度を算出する前記H形鋼の前記一対のフランジの板厚中心間距離、前記フランジの幅Wとそれぞれ等しいとする。
【0016】
【0017】
この発明によれば、種別がFBである梁の場合に、ウェブ及び一対のフランジの連成座屈を考慮して、梁の耐震性能を評価する。これにより、耐震性能がFBの種別と評価され得る梁の断面形状を、基準強度Fに対する第2座屈応力度σcrの比が第2基準座屈応力度比以上であって、(28)式を満足する梁に、広げることができる。従って、例えば、現行の評価方法におけるFBの種別よりもウェブの幅厚比が大きい梁を、FBの種別の耐震性能を有する梁として評価することができる。
【0018】
また、前記梁の耐震性能の評価方法において、前記H形鋼の降伏せん断強度を、F′と規定し、前記降伏せん断強度F′に対する前記第1座屈応力度τcrの比が、(30)式を満足し、かつ(31)式を満足する前記梁を、FCの前記種別における前記梁として評価してもよい。
ただし、F′はF/√3である。
【0019】
【0020】
この発明によれば、種別がFCである梁の場合に、ウェブ及び一対のフランジの連成座屈を考慮して、梁の耐震性能を評価する。これにより、耐震性能がFCの種別と評価され得る梁の断面形状を、降伏せん断強度F′に対する第1座屈応力度τcrの比が(30)式を満足し、(31)式を満足する梁に、広げることができる。従って、例えば、現行の評価方法におけるFCの種別よりもウェブの幅厚比が大きい梁を、FCの種別の耐震性能を有する梁として評価することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の梁の耐震性能の評価方法によれば、相互に作用するウェブ及びフランジを考慮した弾性局部座屈耐力式を導出することによって、種別をより適切に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態の梁の耐震性能の評価方法が適用される梁を備える建築物の斜視図である。
【
図2】同梁がx軸に沿う方向に十分長い場合に、せん断力が作用した梁が座屈している状態を模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図2の梁におけるx軸に沿う方向の半波長分を拡大した斜視図である。
【
図6】同梁がx軸に沿う方向に十分長い場合に、等曲げモーメントが作用した梁が座屈している状態を模式的に示す斜視図である。
【
図8】
図6の梁におけるx軸に沿う方向の半波長分を拡大した斜視図である。
【
図10】建築基準法の告示に基づいた梁の幅厚比区分を説明する図である。
【
図11】FAの種別を区画するウェブの弾性座屈耐力を説明する図である。
【
図13】梁の新幅厚比区分うちFAの種別に対応する部分を説明する図である。
【
図14】梁の新幅厚比区分うちFBの種別に対応する部分を説明する図である。
【
図15】梁の新幅厚比区分うちFCの種別に対応する部分を説明する図である。
【
図16】実施形態の梁の耐震性能の評価方法が適用される梁の解析モデルを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る梁の耐震性能の評価方法の一実施形態を、
図1から
図17を参照しながら説明する。
【0024】
〔1.梁の構成〕
本実施形態の梁の耐震性能の評価方法(以下、評価方法と略して言う)は、例えば
図1に示す建築物1に用いられる、H形鋼からなる梁10を評価するのに用いられる。梁10は、ウェブ11、第1フランジ(フランジ)12、及び第2フランジ(フランジ)13を有する。なお、
図1では、後述する床スラブ20を二点鎖線で示している。
【0025】
梁10は、例えば水平面に沿う方向に延びている。第1フランジ12は、平板状に形成され、第1フランジ12の厚さ方向が上下方向に沿うように配置されている。第2フランジ13は、平板状に形成され、第2フランジ13よりも下方に配置されている。第2フランジ13は、第2フランジ13の厚さ方向が上下方向に沿うように配置されている。
ウェブ11は、ウェブ11の厚さ方向に見たときに矩形を呈する平板状に形成されている。ウェブ11は、ウェブ11の厚さ方向が水平面に沿うように配置されている。ウェブ11は、第1フランジ12の下面における幅方向の中心と、第2フランジ13の上面における幅方向の中心とを連結している。
【0026】
梁10の長手方向の端部は、柱15等に固定されている。梁10は、床スラブ20を床スラブ20の下方から支持している。梁10の第1フランジ12には、頭付きスタッド等のシヤコネクタ21が設けられている。シヤコネクタ21は、床スラブ20に埋設されている。
建築物1は、床スラブ20上に図示しない設備を設置する等して用いられる。
以下では、本評価方法に用いられる第1座屈応力度及び第2座屈応力度について説明する。なお、前記第1座屈応力度及び第2座屈応力度を導出する際、梁10が有するウェブ11、フランジ12、13は弾性要素である鋼板で形成されているとする。弾性要素は、材料非線形を考慮しない要素である。
【0027】
〔2.梁にせん断力が作用する場合の第1座屈応力度〕
梁10にせん断力が作用する場合の評価方法では、
図2に示すように、梁10の位置座標を、x軸、y軸、及びz軸で構成する右手系の直交座標系に基づいて認識する。
図2では、梁10が座屈している状態を示している。
梁10の材軸(梁10が延びる方向に延びる軸)を、x軸と規定する。フランジ12,13がウェブ11を挟む方向に延びる軸を、y軸と規定する。ウェブ11の板厚方向に延びる軸を、z軸と規定する。x軸、y軸、及びz軸は、互いに直交する。z軸に沿う方向(以下、z軸方向と言う)に見て、ウェブ11は、x軸に沿う方向(以下、x軸方向と言う)に延びる辺、及びy軸に沿う方向(以下、y軸方向と言う)に延びる辺をそれぞれ有する。ウェブ11の面外変位は、ウェブ11のz軸方向に向けた変位である。
フランジ12,13の面外変位は、y軸方向に向けた変位である。
【0028】
梁10は、x軸方向に十分長いとする。ここで言う梁10がx軸方向に十分長いとは、梁10のx軸方向の各端に配置されy軸方向に延びる表面(以下、x軸方向の端面と言う)10aの境界条件が、座屈変形に与える影響を無視できる程度の長さを梁10が有していることを意味する。
【0029】
梁10のx軸方向の端面10aにそれぞれy軸方向にせん断力F1が作用すると、梁10が座屈する場合がある。なお、せん断力F1は、梁10のx軸方向の全長さにわたって伝達される。
梁10のx軸方向の各端面10aに作用するせん断力F1は、互い等しい大きさの、向きが反対となる外力である。例えば、x軸方向の負の向き側の端面10aにy軸方向の正の向きのせん断力F1が作用し、x軸方向の正の向き側の端面10aにy軸方向の負の向きのせん断力F1が作用する。なお、x軸方向の負の向き側の端面10aにy軸方向の負の向きのせん断力F1が作用し、x軸方向の正の向き側の端面10aにy軸方向の正の向きのせん断力F1が作用してもよい。
【0030】
この場合、ウェブ11のx軸方向の第1端(x軸方向の端面10aの一方)に向かうに従い、ウェブ11がz軸方向のz軸の正の向き及びz軸の負の向きに交互に変位して、ウェブ11が全体として複数の波長分の波状(以下、x軸方向に波状と言う)に変位する。ウェブ11に対応して、フランジ12,13が波状に変位する。
x軸に沿って変位したウェブ11の1波長分において、x軸方向の第1端とは反対の第2端をx軸の原点とし、この第2端からx軸方向の第1端に向かう向きをx軸の正の向きとする。
【0031】
図2及び
図3に示すように、ウェブ11におけるy軸方向の中心の位置を、y軸の原点と規定する。y軸の原点から、第1フランジ12(フランジ12,13のうちの片側)に向かう向きを、y軸の正の向きと規定する。
z軸の原点を、ウェブ11のz軸方向の中心(厚さ方向の中心)とする。z軸の正の向きを、x軸の正の向き及びy軸の正の向きに対して、右手系の直交座標系を構成する向きとする。
【0032】
ここで
図3に示すように、梁10の長手方向に直交する断面における寸法を規定する。なお、以下に説明する長さ等の単位には、長さに対しては「m」といった、SI単位が好ましく用いられる。
ウェブ11の厚さ(z軸方向の長さ)を、t
wと規定する。y軸方向における第1フランジ12及び第2フランジ13の板厚中心間の距離を、b
wと規定する。梁10のせいを、Hと規定する。
第1フランジ12の幅(z軸方向の長さ)及び第2フランジ13の幅は互いに等しく、第1フランジ12及び第2フランジ13それぞれの幅の半分の値を、b
fと規定する。なお、第1フランジ12及び第2フランジ13それぞれの幅を、Wとする。
第1フランジ12の厚さ及び第2フランジ13の厚さは互いに等しく、第1フランジ12及び第2フランジ13それぞれの厚さを、t
fとする。
梁10(H形鋼。ウェブ11及びフランジ12,13)のヤング係数をEと規定し、梁10のポアソン比をνと規定する。
【0033】
本実施形態の評価方法では、梁10にせん断力F1が作用して座屈したときの、梁10の第1座屈応力度(座屈応力度)を推定する。評価方法では、梁10の第1座屈応力度を推定する際に、以下の1から6の仮定を行っている。
1.ウェブ11の厚さは薄く、ウェブ11の厚さはウェブ11のx軸方向の長さ及びy軸方向の長さに比べて短い。
2.ウェブ11のたわみ(座屈による面外変位)は小さく、ウェブ11の厚さよりも小さい。
3.ウェブ11の厚さ方向の中央面は、ウェブ11の曲げによって伸縮することなく、中立面を保つ。
4.梁10の断面では、曲げに対して平面保持の仮定が成立する。
5.梁10の材料は、均質であり、等方性を有する。
6.梁10に外力が作用したときの変位は、フックの法則に従う。
【0034】
図2に示すように、梁10にせん断力F1が作用すると、梁10のウェブ11等がx軸方向に波状に変位する場合がある。x軸方向に波状に変位したウェブ11における、y軸の座標がある値であったとき、x軸のある座標におけるz軸方向に向けたウェブ11の面外変位がsin(π(x+λsin(πy/b
w))/a)の式で表されると仮定する。このとき、ウェブ11のx軸方向に波状に変位したウェブ11のx軸方向の波長は、2aになる。ウェブ11のx軸方向の半波長(波長の半分の長さ)は、aになる。
図4は、梁10のx軸方向の長さが半波長aである部分の梁10の全領域における面外変位W
wを示す図である。
【0035】
図5に、梁10にせん断力F1が作用したときの状態を実線で示す。
図5中に点線で示すのは、梁10にせん断力F1が作用していないときの状態である。
【0036】
ウェブ11にせん断力F1が作用している場合、従来はフーリエ級数を用いてウェブ11の面外変位を推定していた。
発明者らは、三角関数を用いつつも、フーリエ級数よりも少ない項数で、x軸の座標がある値であったとき、y軸のある座標におけるz軸方向に向けたウェブ11の面外変位(第1面外変位)wwを推定できる関数を複数検討した。なお、面外変位wwは、y軸の座標の関数であり、x軸の座標の関数ではない(x軸上のある座標における関数である)。
その結果、梁10にせん断力F1が作用する場合、x軸の座標がある値であったとき、y軸のある座標におけるz軸方向に向けたウェブ11の面外変位wwは(40)式により、フーリエ級数よりも少ない項数で推定されることを見出した。ただし、Nは2以上の自然数であり、a0,an,bnは未定係数である。
(40)式は、y軸の座標の累乗関数を用いた三角関数による項を含む。cosπ(2y/bw)n及びcos(π/2)(2y/bw)nは、基底となる。(40)式は、ウェブ11等の板要素の面外変位の推定に好ましく用いることができる。
【0037】
【0038】
一方で、x軸の座標が任意の値であったとき、y軸のある座標におけるz軸方向に向けたウェブ11の面外変位(第2面外変位)W
wは、(41)式により推定される。(41)式は、前述のように、ウェブ11における、y軸の座標がある値であったとき、x軸のある座標におけるz軸方向に向けたウェブ11の面外変位がsin(π(x+λsin(πy/b
w))/a)の式で表される、という仮定に基づく。ただし、(41)式における未定係数λは、y軸方向の位相のずれを表す実数である。
なお、
図2の面外変位W
wは、
図4の面外変位W
wをx軸方向に繰り返したものである。
図2のウェブ11の面外変位W
wを推定することと
図4のウェブ11の面外変位W
wを推定することは同義であることから、前記(41)式は
図4の面外変位W
wを推定したものである。面外変位W
wは、y軸の座標及びx軸の座標それぞれの関数であり、ウェブ11の第1座屈応力度を推定する際に用いられる。
なお、(41)式に(40)式を代入すると、(42)式が得られる。(42)式においてNが2である場合には、(43)式のように変形できる。
【0039】
【0040】
また、前記仮定から、第1フランジ12のz軸の所定の座標における面外変位Wf1は(44)式により推定され、第2フランジ13のz軸の所定の座標における面外変位Wf2は(45)式により推定される。
(44)式及び(45)式は、y軸の座標の累乗関数を用いた三角関数による項を含む。
【0041】
【0042】
例えば、
図4の梁10にせん断力F1が作用する前における、ウェブ11においてx軸の座標がx
0、y軸の座標がy
0の部分(以下、第1推定対象部分と言う)のz軸の座標は0である。この第1推定対象部分における面外変位W
wは、(42-1)式により推定される。
図4の梁10にせん断力F1が作用した後における第1推定対象部分のz軸の座標は、0に(42-1)式により推定した面外変位W
wを足した値となる。すなわち、せん断力F1が作用した後では、第1推定対象部分は、x軸の座標がx
0、y軸の座標がy
0、z軸の座標がW
wとなる位置に配置されていると推定される。
例えば、
図4の梁10にせん断力F1が作用する前における、第2フランジ13においてx軸の座標がx
0、z軸の座標がz
0の部分(以下、第2推定対象部分と言う)のy軸の座標はb
w/2である。この第2推定対象部分における面外変位W
f2は、(45-1)式により推定される。
図4の梁10にせん断力F1が作用した後における第2推定対象部分のz軸の座標は、b
w/2に(45-1)式により推定した面外変位W
f2を足した値となる。すなわち、せん断力F1が作用した後では、第2推定対象部分は、x軸の座標がx
0、y軸の座標が(b
w+W
f2)、z軸の座標がz
0となる位置に配置されていると推定される。
【0043】
【0044】
評価方法では、梁10にせん断力F1が作用する場合において、ウェブ11の面外変位Wwを(42)式により推定し、第1フランジ12の面外変位Wf1を(44)式により推定し、第2フランジ13の面外変位Wf2を(45)式により推定する。
ここで、エネルギー法に基づいて、座屈変形によりウェブ11内で生じる歪エネルギーUwは(47)式のように表され、フランジ12,13の歪エネルギーUfは(48)式のように表される。
【0045】
【0046】
ただし、ウェブ11の板剛性Dwは(49)式のように表される。フランジ12,13の板剛性Dfは(50)式のように表される。梁10の第1座屈応力度を、τcrとする。
関数δwは、座屈が発生した時のウェブ11のx軸方向の変形を表現した関数であり、第2フランジ13の中心に対する第1フランジ12の中心に生じるx軸方向変位をδとして(51)式のように表される。
【0047】
【0048】
また、ウェブ11の外力ポテンシャルエネルギーVwは(58)式のように表され、フランジ12,13の外力ポテンシャルエネルギーVfは(59)式のように表される。
【0049】
【0050】
梁10の全ポテンシャルエネルギーΠは、ひずみエネルギー及び外力ポテンシャルエネルギーの和として、(60)式のように表される。
【0051】
【0052】
評価方法では、梁10の第1座屈応力度τcrを、ウェブ11の面外変位Ww及びフランジ12,13の面外変位Wf1、Wf2からエネルギー法に基づいて求める。すなわち、評価方法では、(61)式から(63)式を用いて、(64)式による第1座屈応力度τcrに最小の正の値を与える実数であるan,bn,λ及び半波長aに基づいて、第1座屈応力度τcrを求める。
なお、(61)式から(64)式が、梁10にせん断力F1が作用したときの弾性局部座屈耐力式である。
【0053】
【0054】
具体的には、半波長a及び未定係数λを定数として扱った状態で、前記全ポテンシャルエネルギーΠを未定係数an,bnで偏微分した関数が0に等しいことを表す方程式を連立させて、実数であるan,bnを求める。連立方程式の解となるan,bnの組が複数ある場合には、an,bnの複数の組のうち、(64)式による第1座屈応力度τcrに最小の正の値を与えるan,bnの組に基づいて(an,bnの組を(64)式に代入して)第1座屈応力度τcrを求める。次に、半波長a及び未定係数λを変数として扱い、前記an,bnの組が求められた全ポテンシャルエネルギーΠを半波長a、未定係数λで偏微分した関数が0に等しいことを表す方程式から、半波長a及び未定係数λを求める。以上のように求められた前記an,bnの組及び半波長a及び未定係数λに基づいて求められた第1座屈応力度τcrが、求める第1座屈応力度τcrとなる。
連立方程式の解となる未定係数an,bnの組が1つのみの場合には、an,bnの組が(64)式による第1座屈応力度τcrに最小の正の値を与える場合に、an,bnの組に基づいて第1座屈応力度τcrを求める。次に、半波長a及び未定係数λを変数として扱い、前述のように第1座屈応力度τcrを求める。
第1座屈応力度τcrは、梁10にせん断力が作用して座屈するときの連成座屈を考慮した指標である。
【0055】
〔3.梁に等曲げモーメントが作用する場合の第2座屈応力度〕
次に、梁10に等曲げモーメントが作用する場合の第2座屈応力度の求め方(評価方法)について、梁10にせん断力が作用する場合の第1座屈応力度の求め方とは異なる点について説明する。この場合の評価方法では、
図6に示すように、梁10の位置座標を、x軸、y軸、及びz軸で構成する右手系の直交座標系に基づいて認識する。
この場合、
図6及び
図7に示すように、第2フランジ13(一対のフランジのうちの一方)におけるy軸方向の中心の位置を、y軸の原点と規定する。y軸の原点から第1フランジ12(一対のフランジのうちの他方)に向かう向きを、y軸の正の向きと規定する。
【0056】
図6に示すように、梁10のx軸方向の端面10aにそれぞれz軸回りの曲げモーメントF2が作用すると、梁10が座屈する場合がある。なお、曲げモーメントF2は、梁10のx軸方向の全長さにわたって伝達される。伝達された曲げモーメントF2は、梁10の中立軸を通りz軸に平行な軸線(以下、曲げモーメントF2の回転軸と言う)回りに作用する。
梁10のx軸方向の各端面10aに作用する曲げモーメントF2は、互い等しい大きさの外力である。互いに等しい大きさの一対の曲げモーメントF2が、等曲げモーメントを構成する。
この例では、第2フランジ13が曲げモーメントF2により引張力を受け、第1フランジ12が曲げモーメントF2により圧縮力を受け、梁10が下方に向かって凸となって曲がるように、梁10に曲げモーメントF2が作用している。
【0057】
この場合、ウェブ11のx軸方向の第1端(x軸方向の端面10aの一方)に向かうに従い、ウェブ11がz軸の正の向き及びz軸の負の向きに交互に変位して、ウェブ11が全体としてx軸方向に波状に変位する。ウェブ11に対応して、圧縮力を受ける第2フランジ13が波状に変位するが、引張力を受ける第2フランジ13はほとんど変位しない。
【0058】
本実施形態の評価方法では、梁10に等曲げモーメントが作用する場合の第2座屈応力度(座屈応力度)を推定する際に、前記1から6の仮定を行っている。
【0059】
図6に示すように、梁10に曲げモーメントF2が作用すると、梁10のウェブ11等がx軸方向に波状に変位する場合がある。x軸方向に波状に変位したウェブ11における、y軸の座標がある値であったとき、x軸のある座標におけるz軸方向に向けたウェブ11の面外変位がsin(πx/a)の式で表されると仮定する。このとき、ウェブ11のx軸方向に波状に変位したウェブ11のx軸方向の波長は、2aになる。ウェブ11のx軸方向の半波長(波長の半分の長さ)は、aになる。
図8は、梁10のx軸方向の長さが半波長aである部分の梁10の全領域における面外変位W
wを示す図である。
【0060】
図9に、梁10に曲げモーメントF2が作用したときの状態を実線で示す。
図9中に点線で示すのは、梁10に曲げモーメントF2が作用していないときの状態である。
【0061】
ウェブ11に曲げモーメントF2が作用している場合、従来はフーリエ級数を用いてウェブ11の面外変位を推定していた。
発明者らは、三角関数を用いつつも、フーリエ級数よりも少ない項数で、x軸の座標がある値であったとき、y軸のある座標におけるz軸方向に向けたウェブ11の面外変位(第1面外変位)wwを推定できる関数を複数検討した。
その結果、梁10に曲げモーメントF2が作用する場合、x軸の座標がある値であったとき、y軸のある座標におけるz軸方向に向けたウェブ11の面外変位wwは(80)式により、フーリエ級数よりも少ない項数で推定されることを見出した。ただし、Nは2以上の自然数であり、a0,an,bnは未定係数である。
(80)式は、y軸の座標の累乗関数を用いた三角関数による項を含む。cos(2πyn/bw
n)及びsin(πyn/bw
n)は、基底となる。(80)式は、ウェブ11等の板要素の面外変位の推定に好ましく用いることができる。
【0062】
【0063】
一方で、x軸の座標が任意の値であったとき、y軸のある座標におけるz軸方向に向けたウェブ11の面外変位(第2面外変位)W
wは、(81)式により推定される。(81)式は、前述のように、ウェブ11における、y軸の座標がある値であったとき、x軸のある座標におけるz軸方向に向けたウェブ11の面外変位がsin(πx/a)の式で表される、という仮定に基づく。
なお、
図6の面外変位W
wは、
図8の面外変位W
wをx軸方向に繰り返したものである。面外変位W
wは、y軸の座標及びx軸の座標それぞれの関数であり、ウェブ11の第2座屈応力度を推定する際に用いられる。
なお、(81)式に(80)式を代入すると、(82)式が得られる。(82)式においてNが2である場合には、(83)式のように変形できる。
【0064】
【0065】
また、前記仮定から、第1フランジ12のz軸の所定の座標における面外変位Wf1は(84)式により推定され、第2フランジ13のz軸の所定の座標における面外変位Wf2は(85)式により推定される。
(84)式及び(85)式は、y軸の座標の累乗関数を用いた三角関数による項を含む。
【0066】
【0067】
評価方法では、梁10に等曲げモーメントが作用する場合において、ウェブ11の面外変位Wwを(82)式により推定し、第1フランジ12の面外変位Wf1を(84)式により推定し、第2フランジ13の面外変位Wf2を(85)式により推定する。
ここで、エネルギー法に基づいて、座屈変形によりウェブ11内で生じる歪エネルギーUwは(87)式のように表され、フランジ12,13の歪エネルギーUfは(88)式のように表される。
【0068】
【0069】
ただし、ウェブ11の板剛性Dwは(89)式のように表される。フランジ12,13の板剛性Dfは(90)式のように表される。曲げモーメントF2が作用するウェブ11の応力関数σwは、梁10の第2座屈応力度をσcrとして(91)式のように表される。ただし、応力関数σwは圧縮を正とする。
関数δwは、座屈が発生した時のウェブ11のy軸のある座標におけるx軸方向の変位であり、第2フランジ13の中心に生じるx軸方向変位をδとして(92)式のように表される。
【0070】
【0071】
応力関数σf1,σf2は、曲げモーメントF2が作用するフランジ12,13それぞれの応力関数である。応力関数σf1は-σcrに等しく、応力関数σf2はσcrに等しい。ただし、応力関数σf1,σf2は圧縮を正とする。
関数δf1,δf2は、座屈が発生した時のフランジ12,13のx軸方向の変位を表現した関数である。関数δf1は-δに等しく、関数δf2はδに等しい。
【0072】
また、ウェブ11の外力ポテンシャルエネルギーVwは(98)式のように表され、フランジ12,13の外力ポテンシャルエネルギーVfは(99)式のように表される。
【0073】
【0074】
梁10の全ポテンシャルエネルギーΠは、ひずみエネルギー及び外力ポテンシャルエネルギーの和として、(100)式のように表される。
【0075】
【0076】
評価方法では、梁10の第2座屈応力度σcrを、ウェブ11の面外変位Ww及びフランジ12,13の面外変位Wf1、Wf2からエネルギー法に基づいて求める。すなわち、評価方法では、(101)式から(104)式を用いて、(105)式による第2座屈応力度σcrに最小の正の値を与える実数であるan,bn及び半波長aに基づいて、第2座屈応力度σcrを求める。
なお、(101)式から(104)式が、梁10に曲げモーメントF2が作用したときの弾性局部座屈耐力式である。
【0077】
【0078】
具体的には、半波長aを定数として扱った状態で、前記全ポテンシャルエネルギーΠを未定係数an,bnで偏微分した関数が0に等しいことを表す方程式を連立させて、実数であるan,bnを求める。連立方程式の解となるan,bnの組が複数ある場合には、an,bnの複数の組のうち、(105)式による第2座屈応力度σcrに最小の正の値を与えるan,bnの組に基づいて(an,bnの組を(105)式に代入して)第2座屈応力度σcrを求める。次に、半波長aを変数として扱い、前記an,bnの組が求められた全ポテンシャルエネルギーΠを半波長aで偏微分した関数が0に等しいことを表す方程式から、半波長aを求める。以上のように求められた前記an,bnの組及び半波長aに基づいて求められた第2座屈応力度σcrが、求める第2座屈応力度σcrとなる。
連立方程式の解となる未定係数an,bnの組が1つのみの場合には、an,bnの組が(105)式による第2座屈応力度σcrに最小の正の値を与える場合に、an,bnの組に基づいて第2座屈応力度σcrを求める。次に、半波長aを変数として扱い、前述のように第2座屈応力度σcrを求める。
第2座屈応力度σcrは、梁10に等曲げモーメントが作用して座屈するときの連成座屈を考慮した指標である。
【0079】
〔4.連成座屈を考慮した幅厚比区分〕
図10に前記告示にもとづいた、梁の幅厚比区分を示す。
図10において、横軸は、((H-2t
f)/t
w)で規定されるウェブの幅厚比を表し、縦軸は(W/(2t
f))で規定されるフランジの幅厚比を表す。ウェブの幅厚比は右側に向かうほど大きくなり、フランジの幅厚比は上側に向かうほど大きくなる。告示にもとづく梁の耐震性能としては、FA,FB,FC,FDの4つの種別(等級)がある。これらの耐震性能の種別は、
図10に示すグラフ上にそれぞれ領域として表示される。原点Oに近い領域から、種別がFA,FB,FC,FDとなる。
FA,FBの種別のH形鋼は、塑性化しても、地震外力に対して抵抗して、充分にエネルギー吸収できるH形鋼を意味する。FCの種別のH形鋼は、断面が全塑性状態になるまでは、局部座屈が発生しないH形鋼を意味する。FDの種別のH形鋼は、弾性座屈するH形鋼を意味する。
【0080】
例えば、FA~FCの種別を区画するウェブの幅厚比が一定の値の線L1~L3は、梁10を構成するウェブ11のみの弾性座屈耐力に基づいて定められる。すなわち、梁10が備えるフランジ12,13の影響は考慮されずに、線L1~L3が定められる。
具体的には、
図11に示すように、ウェブ11からフランジ12,13を取外し、ウェブ11におけるフランジ12,13が接合されていた部分を、単純支持する。このウェブ11に、せん断力F1が作用したときのウェブ11の弾性座屈耐力に基づいて、線L1~L3が定められる。このため、フランジの幅厚比が変化しても、ウェブの幅厚比は変化せず、ウェブ11のFA~FCの種別はフランジの幅厚比から独立に評価される。
【0081】
FAの種別は、フランジ12,13については不等式である(120)式で規定され、ウェブ11については不等式である(121)式で規定される。FBの種別は、フランジ12,13については不等式である(122)式で規定され、ウェブ11については不等式である(123)式で規定される。FCの種別は、フランジ12,13については不等式である(124)式で規定され、ウェブ11については不等式である(125)式で規定される。
【0082】
【0083】
ただし、Fは梁10の基準強度である。ここで、基準強度とは、平成12年建設省告示第2464号に規定されている鋼材の強度である。
すなわち、(120)式及び(121)式によって、梁10のFAの種別のH形鋼が与えられる。(122)式及び(123)式によって、梁10のFBの種別のH形鋼が与えられる。(124)式及び(125)式によって、梁10のFCの種別のH形鋼が与えられる。いずれの種別にも該当しない梁10のH形鋼が、FDの種別を与えられる。
【0084】
これに対して、本実施形態で提案する連成座屈を考慮した梁の幅厚比区分(以下、新幅厚比区分と言う)を、
図12から
図15を用いて説明する。なお、
図13から
図15中の曲線L4、L6、L8の形状が(H-t
f)/Wの値に応じて変化するため、これらの図は(H-t
f)/Wが一定のH形鋼に対する一例を示している。
図12に示すように、新幅厚比区分では、縦軸は
図10の縦軸と同じ値を、横軸は((H-t
f)/t
w)で規定されたウェブの幅厚比を用いて表す。ここで、上述のとおり曲線L4、L6、L8の形状が(H-t
f)/Wの値に応じて変化するため、(H-2t
f)ではなく(H-t
f)を指標として横軸を読み替えることとした。
なお、((H-t
f)/t
w)の値は、(b
w/t
w)の値に等しい。
図12は、
図10に対して、横軸のウェブの幅厚比の規定が少し異なるが、
図12中の各実線は
図10中の各実線を規定する際に用いられる(120)式から(125)式にもとづいて規定されるため、実際のH形鋼の断面形状は同一となっている。
【0085】
本実施形態の評価方法では、梁10の耐震性能における種別を評価するにあたって、梁10が有するウェブ11及び一対のフランジ12,13の連成座屈を考慮して、梁10の種別を評価する。評価方法では、第1座屈応力度τcr及び第2座屈応力度σcrを指標として、梁10の種別を評価する。
新幅厚比区分を、FA,FBの種別と、FCの種別とに、分けて説明する。FA,FBの種別については、FAの種別を中心に説明する。
【0086】
まず、FAの種別を説明する。
図13は、
図12中からFAの種別を抜粋した図である。以下での説明において、梁10を構成するH形鋼のせいH及びフランジ12,13の幅Wを、それぞれ既知の値とする。
ここで、(120)式及び(121)式の等号成立時には、(120-1)式及び(121-1)式が得られる。
【0087】
【0088】
ここで、幾つかの規定を行う。梁10の現行のFAの種別のH形鋼において、(120-1)式及び(121-1)式を満たす時の、梁10における一対のフランジ12,13およびウェブ11の幅厚比の条件を、基準条件と規定する。
図13中に、基準条件P
FAを示す。
基準条件P
FAでのH形鋼の第2座屈応力度σ
crを、現行のFAの種別における第2基準座屈応力度と規定する。
基準強度Fに対する現行のFAの種別における第2基準座屈応力度の比を、現行のFAの種別における第2基準座屈応力度比と規定する。
図13中の曲線L4は、第2座屈応力度σ
crと基準強度Fの比が前記第2基準座屈応力度比と同じ値となるH形鋼に対応する
図13中の点をつないだ曲線である。なお、第2座屈応力度σ
crを算出する際のフランジ12,13の板厚中心間距離b
w、とフランジ12,13の幅Wの比である(b
w/W)の値は、第2基準座屈応力度を算出するH形鋼における(b
w/W)の値と等しいとする。
【0089】
このとき、基準強度Fに対する第2座屈応力度σ
crの比が、現行のFAの種別における第2基準座屈応力度比以上であり、かつ(120)式を満足する梁10(以下では、FA種別の拡張領域に属する梁10、とも言う)を、現行のFAの種別における梁10として評価する。言い換えれば、第2座屈応力度σ
crが第2基準座屈応力度以上であり、かつ(120)式を満足する梁10を、FAの種別における梁10として評価する。
基準強度Fに対する第2座屈応力度σ
crの比が、現行のFAの種別における第2基準座屈応力度比以上であることは、H形鋼の第2座屈応力度σ
crが基準条件P
FAでのH形鋼の第2座屈応力度σ
cr以上であることを意味する。(120)式を満足することは、線L5上か線L5よりも原点Oに近い領域に、梁10の各幅厚比が該当することを意味する。このため、前記条件を満足する梁10は、
図13中にハッチングで示した領域R
FAに各幅厚比が該当する梁10のことを意味する。
【0090】
なお、横軸方向に原点Oから離れた領域は、フランジ12,13が厚く、ウェブ11が薄い領域であり、そのようなH形鋼は、重量に対する断面性能が優れている。一方、線L5よりも原点Oから離れた領域は、フランジ12,13が薄くて、ウェブ11が厚い領域であり、そのようなH形鋼は、重量に対する断面性能が悪い。
【0091】
次に、FBの種別について、FAの種別とは異なる点を説明する。
図14は、
図12中からFBの種別を抜粋した図である。
(122)式及び(123)式の等号成立時には、(122-1)式及び(123-1)式が得られる。
【0092】
【0093】
ここで、幾つかの規定を行う。梁10の現行のFBの種別のH形鋼において、(122-1)式及び(123-1)式を満たす時の、梁10における一対のフランジ12,13およびウェブ11の幅厚比の条件を、基準条件と規定する。
図14中に、基準条件P
FBを示す。
基準条件P
FBでのH形鋼の第2座屈応力度σ
crを、現行のFBの種別における第2基準座屈応力度と規定する。
基準強度Fに対する現行のFBの種別における第2基準座屈応力度の比を、現行のFBの種別における第2基準座屈応力度比と規定する。
図14中の曲線L6は、第2座屈応力度σ
crと基準強度Fの比が前記第2基準座屈応力度比と同じ値となるH形鋼に対応する
図14中の点をつないだ曲線である。なお、第2座屈応力度σ
crを算出する際のフランジ12,13の板厚中心間距離b
w、とフランジ12,13の幅Wの比であるb
w/Wは、第2基準座屈応力度を算出するH形鋼の値と等しいとする。
【0094】
このとき、基準強度Fに対する第2座屈応力度σ
crの比が、現行のFBの種別における第2基準座屈応力度比以上であり、かつ(122)式を満足する梁10(以下では、FB種別の拡張領域に属する梁10、とも言う)を、現行のFBの種別における梁10として評価する。言い換えれば、第2座屈応力度σ
crが第2基準座屈応力度以上であり、かつ(122)式を満足する梁10を、現行のFBの種別における梁10として評価する。
(122)式を満足することは、線L7上か線L7よりも原点Oに近い領域に、梁10の各幅厚比が該当することを意味する。このため、前記条件を満足する梁10は、
図14中にハッチングで示した領域R
FBに各幅厚比が該当する梁10のことを意味する。
【0095】
次に、FCの種別について説明する。
図15は、
図12中からFCの種別を抜粋した図である。
【0096】
【0097】
H形鋼の降伏せん断強度を、F′と規定する。
このとき、降伏せん断強度F′に対する第1座屈応力度τcrの比が、(128)式を満足し、かつ(124)式を満足する梁10(以下では、FC種別の拡張領域に属する梁10、とも言う)を、現行のFCの種別における梁10として評価する。
【0098】
【0099】
図15中の曲線L8は、(τ
cr/F′)が1.0の線である。曲線L8は、従来のFC種別の領域の図中右上の角よりも右側の(ウェブの幅厚比が大きい)領域を通る。
降伏せん断強度F′に対する第1座屈応力度τ
crの比が(128)式を満足することは、第1座屈応力度τ
crが降伏せん断強度F′以上であることを意味する。(128)式を満足することは、線L9上か線L9よりも原点Oに近い領域に、梁10の各幅厚比が該当することを意味する。このため、前記条件を満足する梁10は、
図15中にハッチングで示した領域R
FCに各幅厚比が該当する梁10のことを意味する。
【0100】
以上説明したように、本実施形態の評価方法によれば、発明者らは、鋭意検討の結果、H形鋼では、ウェブ11及びフランジ12,13がそれぞれ独立して座屈するのではなく、相互に作用しながら連成座屈することを見出した。従って、梁10が有するウェブ11及びフランジ12,13の連成座屈を考慮した弾性局部座屈耐力式である(61)式から(64)式及び(101)式から(104)式を構築することによって梁10の種別を評価することにより、種別をより適切に評価することができる。
梁10にせん断力が作用するときには(61)式から(64)式を用いて第1座屈応力度τcrを求め、梁10に等曲げモーメントが作用するときには(101)式から(105)式を用いて第2座屈応力度σcrを求める。このため、梁10にせん断力が作用するときの第1座屈応力度τcr、及び梁10に等曲げモーメントが作用するときの第2座屈応力度σcrを、式を用いてそれぞれ正確に求めることができる。
【0101】
基準強度Fに対する第2座屈応力度σcrの比が、FAの種別における第2基準座屈応力度比以上であり、かつ(120)式を満足する梁10を、FAの種別における梁10として評価する。種別がFAである梁10の場合に、ウェブ11及びフランジ12,13の連成座屈を考慮して、梁10の耐震性能を評価する。これにより、耐震性能がFAの種別と評価され得る梁10の断面形状を、基準強度Fに対する第2座屈応力度σcrの比が第2基準座屈応力度比以上であって、(120)式を満足する梁10に、広げることができる。従って、例えば、現行の評価方法におけるFAの種別よりもウェブ11の幅厚比が大きい梁10を、FAの種別の耐震性能を有する梁10として評価することができる。
【0102】
基準強度Fに対する第2座屈応力度σcrの比が、FBの種別における第2基準座屈応力度比以上であり、かつ(122)式を満足する梁10を、FBの種別における梁10として評価する。種別がFBである梁10の場合に、ウェブ11及びフランジ12,13の連成座屈を考慮して、梁10の耐震性能を評価する。これにより、耐震性能がFBの種別と評価され得る梁10の断面形状を、基準強度Fに対する第2座屈応力度σcrの比が第2基準座屈応力度比以上であって、(122)式を満足する梁10に、広げることができる。従って、例えば、現行の評価方法におけるFBの種別よりもウェブ11の幅厚比が大きい梁10を、FBの種別の耐震性能を有する梁10として評価することができる。
【0103】
降伏せん断強度F′に対する第1座屈応力度τcrの比が、(128)式を満足し、かつ(124)式を満足する梁10を、FCの種別における梁10として評価する。種別がFCである梁10の場合に、ウェブ11及びフランジ12,13の連成座屈を考慮して、梁の耐震性能を評価する。これにより、耐震性能がFCの種別と評価され得る梁10の断面形状を、降伏せん断強度F′に対する第1座屈応力度τcrの比が(128)式を満足し、(124)式を満足する梁10に、広げることができる。従って、例えば、現行の評価方法におけるFCの種別よりもウェブの幅厚比が大きい梁10を、FCの種別の耐震性能を有する梁10として評価することができる。
【0104】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態の評価方法では、第1座屈応力度τcr及び第2座屈応力度σcrを指標として梁10の種別を評価しなくてもよい。
第1座屈応力度τcr及び第2座屈応力度σcrを求める際に、ウェブ11における面外変位Ww及びフランジ12,13における面外変位Wf1、Wf2からエネルギー法に基づいて求めなくてもよい。
第1座屈応力度τcrを求める際に(61)式から(64)式を用いなくてもよいし、第2座屈応力度σcrを求める際に(101)式から(105)式を用いなくてもよい。
例えば、梁10をFAあるいはFBの種別における梁と判定する際に、基準強度Fに対する第2座屈応力度σcrの比と大小関係を比較する第2基準座屈応力度比は、第2基準座屈応力度比に係数α(>1.0)を掛け合わせた値としてもよい。
【0105】
(実施例)
以下では、本発明の実施例を具体的に示してより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
図16及び
図17に示すFEMの解析モデルを用いて、FEM解析を行った。
梁10の長手方向の第1端部は、柱等の支持部材15Aに固定されている。梁10は、水平面に沿う方向に延び、片持梁形式で支持される。梁10の長手方向の第2端部(自由端)には、下方に向かって強制変位F4を与える。
【0106】
なお、解析条件は、以下のようである。
(1)解析モデルは、シェル要素でモデル化した。
(2)応力ひずみ関係は、引張強さを490MPaに固定した。基準強度Fを、基準強度1(357.5MPa)、基準強度2(380MPa)の2通りで設定した。そして、応力ひずみ関係を、マルチリニア型でモデル化した。
(3)梁10の長手方向の長さL11は、フランジの板厚中心間距離bwの4倍とした。
(4)面外変形量の最大値が(bw/2000)となるように、初期不整として、座屈固有値解析の1次モードを与えた。
【0107】
以下では、(bw/W)の値が同一の物に対して、基準条件の梁10、及び拡張領域に属する梁10の比較を行った。今回は、より分かりやすくするため、板厚中心間距離bw、フランジの幅Wのそれぞれも、互いに同一の値になるように設定した。
また、FA,FBの種別を評価するにあたり、性能の優劣を決める指標ηを用いた。指標ηは、解析モデルの荷重変形関係において、全塑性モーメントを保持できる塑性変形倍率として定義した。
なお、塑性変形倍率は、全塑性モーメントを保持できる塑性変形角を、θpで割った値として規定される。θpは、全塑性モーメントMpに対応する弾性回転角である。
まず、FA種別の拡張領域に属する梁10を試算して評価した結果を、表1及び表2に示す。表1は基準強度1の場合の結果であり、表2は基準強度2の場合の結果である。
【0108】
【0109】
【0110】
例えば表1のケース1の梁10は、
図13に示すように、現行のFAの種別における基準条件P
FAでのH形鋼である。ケース1の梁10に対して、(b
w/W)の値が同一のケース2の梁10は、現行の告示による評価方法では、それぞれFBの種別になる。
本実施形態の評価方法では、(101)式から(104)式を用いて第2座屈応力度σ
crを求める。そして、降伏強度σ
yに対する第2座屈応力度σ
crの比が、FAの種別における第2基準座屈応力度比以上であり、かつ(120)式を満足するか否かを評価する。
【0111】
表1では、ケース2の指標ηが、(bw/W)の値が同一の基準条件PFAのH形鋼の指標η(ケース1の指標η)以上であれば、本実施形態の評価方法を行った結果、ケース2の梁10が現行の評価方法におけるFAの種別の耐震性能を有する梁10として評価できる。表1から分かるように、現行の評価方法におけるFBの種別であるケース2の梁10は、現行の評価方法におけるFAの種別の耐震性能を有する梁として評価することができる。
ケース2の梁10では、従来、塑性化しても、地震外力に対して抵抗して、充分にエネルギー吸収できるH形鋼ではあるが、その中でも下位のFBの種別であると評価されていた梁を、その中でも上位のFAの種別である梁として評価することができる。
【0112】
ケース4,5,7,9,11,13,14,15,17,18,20,22,24,26の梁10も同様に、現行の評価方法におけるFAの種別の耐震性能を有する梁として評価することができる。
例えば、ケース4の梁10では、従来、弾性座屈するH形鋼であるFDの種別であると評価されていた梁を、塑性化しても、地震外力に対して抵抗して、充分にエネルギー吸収できるH形鋼であるFAの種別である梁として評価することができる。これにより、ケース4の梁10が本来有している耐震性能を、告示よりも格段に引き出している。
【0113】
次に、FB種別の拡張領域に属する梁10を試算して評価した結果を、表3及び表4に示す。表3は基準強度1の場合の結果であり、表4は基準強度2の場合の結果である。
【0114】
【0115】
【0116】
この場合も、FA種別の拡張領域に属する梁10と同様に、ケース28,30,32,33,35,37,39,41,43,44,46,48の梁10を、現行の評価方法におけるFBの種別の耐震性能を有する梁として評価することができる。
【0117】
次に、FC種別の拡張領域に属する梁10を試算して評価した結果を、表5及び表6に示す。表5は基準強度1の場合の結果であり、表6は基準強度2の場合の結果である。
【0118】
【0119】
【0120】
本実施形態の評価方法では、(61)式から(64)式を用いて第1座屈応力度τcrを求め、降伏せん断強度F′に対する第1座屈応力度τcrの比が、(128)式を満足し、かつフランジ12,13の幅厚比が(124)式を満足するか否かを評価する。
表5及び表6に示すように、(128)式を満たして、(τcr/F′)の値が1以上のケースにおける梁10が、全塑性モーメントMp以上の最大耐力Mmaxを発揮している((Mmax/Mp)の値が1以上)ことが分かる。
表3から表6の場合にも、梁10が本来有している耐震性能を、告示よりも格段に引き出している場合があることが分かる。
【符号の説明】
【0121】
10 梁
11 ウェブ
12 第1フランジ(フランジ)
13 第2フランジ(フランジ)