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  • 特許-焼結鉱の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】焼結鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/16 20060101AFI20241023BHJP
【FI】
C22B1/16 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021028474
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2022129696
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢部 英昭
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-085324(JP,A)
【文献】国際公開第2010/087468(WO,A1)
【文献】特開2021-031749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00 - 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数銘柄の鉄鉱石を所定の構成比率で配合したものを全鉄鉱石として、前記全鉄鉱石を新原料に対して所定割合で配合する焼結鉱の製造方法において、
前記全鉄鉱石における2以上の銘柄の鉄鉱石の構成比率を変更するに際して、変更後の全鉄鉱石の結晶水含有量が変更前より増加する場合には、排ガス中のNOx濃度が構成比率を変更する前より増加することのないように、結晶水含有量の増加量に応じて低窒素無煙炭の配合割合を増加させる、焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
予め前記全鉄鉱石の結晶水含有量の増加量に対するNOx濃度の増加係数Ccw(dNOx/dCW)を求め、
予め前記低窒素無煙炭の配合割合の増加量に対するNOx濃度の低減係数Cans(dNOx/dAns)を求め、
前記全鉄鉱石の結晶水含有量の増加量がΔxのとき、前記低窒素無煙炭の配合割合の増加量を、(Ccw/Cans)×Δx以上とする、請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。
ただし、
NOx:焼結排ガス中のNOxの増加量
dCW:鉄鉱石の結晶水の増加量
NOx:焼結排ガス中のNOxの低減量
dAns:無煙炭の配合割合の増加量
【請求項3】
前記全鉄鉱石の結晶水含有量の増加量Δxの単位が質量%であり、Ccw/Cansを0.5とする、請求項2に記載の焼結鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高炉製銑法の主原料は、焼結鉱である。焼結鉱の原料は、鉄鉱石(複数銘柄の鉄鉱石)、雑原料(スケール、製鋼ダストなどの鉄分を含有するリサイクル原料)、および副原料(石灰石、橄欖岩などの焼結鉱中のCaO、MgO成分を調整するための原料)から成る新原料と、炭材(凝結材ともいい、粉コークス、無煙炭などの焼結反応の熱源となる原料)と、返鉱(成品の篩下を循環使用するもの)である。
【0003】
焼結鉱は、通常、次のように製造される。まず、原料を所定の割合で混合して配合原料とし、さらに、配合原料を、造粒して原料造粒物とする。次に、原料造粒物を、ホッパより、下方吸引式のドワイトロイド(DL)式焼結機のパレット上に搭載して、原料充填層を形成する。形成した原料充填層の上部(表面層)から、原料充填層中の炭材に点火する。そして、パレットを連続的に移動させながらパレットの下方から空気を吸引して酸素を供給し、原料充填層中の炭材を上部から下部に向けて燃焼させることにより、炭材の燃焼熱により順次焼結させる。得られた焼結部(シンターケーキ)は、所定の粒度に粉砕、篩分け等により整粒して高炉の原料である焼結鉱となる。
【0004】
焼結機から排出される焼結排ガス(以下、単に排ガスともいう)には、窒素酸化物NOx(NOおよびNO)が含有される。排ガス中の窒素酸化物NOxの大半は、燃料の炭材が焼結層内で燃焼する際に発生するフューエル(Fuel)NOxであり、フューエルNOxは、炭材に含有される窒素分が酸素と反応することで発生する。
【0005】
窒素酸化物NOxは大気汚染の一原因物質であり、その排出量の削減は重要である。排ガス中のNOx濃度は、配合原料の配合割合の変更など、日常的な焼結機の操業変化等によって変動するため、製鉄所ではNOx濃度を常時監視し、管理値を超過することのないように操業を行っている。この管理値は、製鉄所毎に、各操業地域のNOx排出量の規制値(条例の基準値など)よりも低い値に設定されている。
【0006】
NOx濃度の監視は、一般的に「NOx濃度(O=15%補正値)」の値を用いて行う。NOx濃度(O=15%補正値)は、排ガス中に残留する標準酸素濃度が15%となるように補正した酸素濃度補正後のNOx濃度Cである。NOx濃度C(O=15%補正値)は、測定されたNOx濃度(実測値Cs)と酸素濃度Osに基づいて、下記式(1)を用いて算出される。なお、排ガス中のNOx濃度(実測値)および酸素濃度(実測値)は、例えば、下方吸引を行うメインブロアから煙突までの間に設置された分析計(NOx分析計(化学発光法)、ジルコニア式分析計等)によって連続的に測定される。
C=(21-On)/(21-Os)×Cs ・・・(1)
C : 酸素濃度補正後のNOx濃度(ppm)
Os : 排出ガス中の酸素濃度(当該濃度が20%を超える場合は20%)
On : 標準酸素濃度(%) ※焼結機の場合は15%
Cs : 排出ガス中のNOx実測値(ppm)
【0007】
製鉄所では、算出されたNOx濃度C(O=15%補正値)の値を常時監視し、管理値を超えた場合には、NOx排出量を低減する措置をとる。低減措置としては、例えば、炭材の銘柄を変更する対策が取られている。また、以下のような技術が提案されている。
【0008】
特許文献1には、造粒水分を4.0~6.0%として焼結原料を造粒し、焼結原料を連続下方吸引式焼結機に供給し、コークス燃焼反応進行中の焼結ベッド表面へ5.0~90.0l/t-原料の水分を供給する焼結鉱の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、焼結原料として、4.0mass%以上の結晶水を含有する高結晶水鉄鉱石を含む鉄鉱石と、副原料と、燃焼反応の開始温度が450℃未満である低温燃焼固体燃料を10mass%以上含む固体燃料とを前記高結晶水鉄鉱石が前記焼結原料中に30mass%以上含まれるように配合する焼結鉱の製造方法が開示されている。
【0009】
特許文献1に記載の技術は、焼結層表層へ水を散布して配合原料中の水分量と散水量との配分を適正化することによりNOx発生量の低減するものであり、特許文献2に記載の技術は、高結晶水鉱石と固体燃料(チャー)とを組み合わせ、固体燃料(チャー)と高結晶水鉱石の配合割合を所定量以上とすることにより、NOx発生量を低下させるものである。なお、特許文献2に記載の技術は、仮焼ゾーン内でHが生成してそこでNOが還元することを前提としたものであるが、NOの還元は仮焼ゾーン(低温)で起こるのではなく、コークスガス境膜内(燃焼帯)で起こることがわかっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開昭61-204342号公報
【文献】国際公開第2010/106756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、小型鍋試験装置を用いた焼結実験を重ねることによって、焼結の燃料として使用する炭材の配合割合が一定であっても、異なる銘柄の鉄鉱石を用いた場合にはその焼成時に発生するNOx量が大幅に異なることを見出した。そして、本発明者らは、焼結原料中の鉄鉱石の結晶水含有量(平均値)とNOx生成量とには相関関係があるとの知見を得た。この知見は、高結晶水鉱石の割合を所定量以上使用してNOx発生量を低減させる特許文献2に開示された技術とは逆の結果を示している。
【0012】
本発明は、かかる知見に基づいて創作されたものであり、焼結排ガスに含まれるNOx量の増加を抑制することができる新たな焼結鉱の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
(1)複数銘柄の鉄鉱石を所定の構成比率で配合したものを全鉄鉱石として、前記全鉄鉱石を新原料に対して所定割合で配合する焼結鉱の製造方法において、
前記全鉄鉱石における2以上の銘柄の鉄鉱石の構成比率を変更するに際して、変更後の全鉄鉱石の結晶水含有量が変更前より増加する場合には、排ガス中のNOx濃度が構成比率を変更する前より増加することのないように、結晶水含有量の増加量に応じて低窒素無煙炭の配合割合を増加させる、焼結鉱の製造方法。
(2)予め前記全鉄鉱石の結晶水含有量の増加量に対するNOx濃度の増加係数Ccw(dNOx/dCW)を求め、
予め前記低窒素無煙炭の配合割合の増加量に対するNOx濃度の低減係数Cans(dNOx/dAns)を求め、
前記全鉄鉱石の結晶水含有量の増加量がΔxのとき、前記低窒素無煙炭の配合割合の増加量を、(Ccw/Cans)×Δx以上とする、(1)に記載の焼結鉱の製造方法。
(3)前記全鉄鉱石の結晶水含有量の増加量Δxの単位が質量%であり、Ccw/Cansを0.5とする、(2)に記載の焼結鉱の製造方法。
ここで、低窒素無煙炭とは、窒素含有量が一般的な焼結用炭材である粉コークスよりも少ない無煙炭である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、全鉄鉱石における2以上の銘柄の鉄鉱石の構成比率を変える操業アクションに際して、全鉄鉱石の結晶水含有量が増加する場合、その増加量に応じて低窒素無煙炭の配合割合を増加させることにより、焼結機排ガス中のNOx量の上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】各銘柄の鉄鉱石の結晶水含有量と焼結排ガス中のNOx濃度(O=15%補正値)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、NOx排出量を低減するべく鋭意検討を重ねた結果、新原料における鉄鉱石の配合割合が一定でも、結晶水含有量が多い鉄鉱石を用いた場合には発生するNOx量が多く、結晶水含有量が少ない鉄鉱石を用いた場合には発生するNOx量が少なくなるという相関関係を見出した。この知見に基づいて、本発明者らは、焼結鉱を製造するにあたり、配合原料中の全鉄鉱石に含まれる平均結晶水量(全鉄鉱石の結晶水含有量)を、焼結排ガス中のNOx排出量を管理する指標とすることを考案した。以下に、まず、上記知見を裏付ける実験とその結果について説明する。
【0017】
<発明に至った基礎的検討>
鉄鉱石の銘柄毎に特有のNOx排出傾向を確認するため、5種の銘柄の鉄鉱石(鉄鉱石A~鉄鉱石E)を単味で配合した配合原料を用いた5つの実験(実験1~実験5)を実施した。実験1~実験5は、焼結機での焼結現象を模した小型(直径100mm)の焼結鍋試験により行った。
【0018】
(原料配合)
表1は、実験1~実験5で用いた焼結用の各原料の配合割合を示す。表1に示すように、返鉱および炭材を除いた新原料(鉄鉱石、石灰石、生石灰、および橄欖岩)を100質量%として、返鉱、炭材の配合割合を、それぞれ外数で、15.0質量%、4.5質量%とした。
【0019】
【表1】
【0020】
表2は、実験1~実験5において使用した各鉄鉱石A~鉄鉱石Eの主な成分量(質量%)を示す。実験1~実験5の各実験においては、表1に示す原料の鉄鉱石として、1つの鉄鉱石種(1銘柄)を、単味で使用した。例えば、実験1においては、原料の鉄鉱石として鉄鉱石Aのみを使用した。表2に示すように、鉄鉱石Aおよび鉄鉱石Bは、結晶水(CW:combined water)の含有量が多いピソライト系鉄鉱石であり、鉄鉱石Dおよび鉄鉱石Eは、結晶水の含有量が少ないヘマタイト系鉱石である。また、鉄鉱石Cは、結晶水含有量が鉄鉱石Aおよび鉄鉱石Bよりも少なく、鉄鉱石Dおよび鉄鉱石Eよりも多いマラマンバ系鉄鉱石である。
【0021】
【表2】
【0022】
表3は、原料として使用した鉄鉱石および炭材の粒度分布を示す。この粒度分布は、目開き寸法が5.0mm、3.0mm、1.0mm、0.5mm、0.25mmの篩で分級したものである。例えば、粒度区分「1mm-0.5mm」とは、0.5mmの篩目の篩で篩分けた際に篩上であり、1mmの篩目の篩で篩分けた際に篩下である。実験1~実験5の各実験において粒度条件を同一とし、表3に示す粒度分布の鉄鉱石および炭材を使用した。
【0023】
【表3】
【0024】
(実験条件)
各焼結用原料を、表1に示す配合割合で混合した配合原料を造粒し、造粒した原料造粒物を焼成した。主要な実験装置は表4に示す通りである。
【0025】
【表4】
【0026】
上記焼結実験においては、配合原料を、ドラムミキサーによって32rpmで1分間混合(乾燥混合)した。混合後、配合原料に対して、水分を7.0質量%添加して4分間造粒し、原料造粒物を製造した。焼結鍋内には、まず、カオウールをロストル上に敷設した。次に、原料造粒物を層厚が445mmとなるように焼結鍋に装入した。装入後、原料表面に点火炉で60[sec]加熱して点火し、風箱内の風量(一定)0.08[Nm/min]で焼成した。
【0027】
(測定)
ガス分析には堀場製作所ポータブルガス分析計PG-350を用いた。NOx濃度は、化学発光式分析ユニット、酸素濃度はジルコニア式分析ユニットを用いて測定を行った。
【0028】
(実験結果)
表5の最右欄に、測定したNOx濃度および酸素濃度から算出したNOx濃度(O=15%補正値)を示す。また、図1は、表5の結晶水含有量と、NOx濃度(O=15%補正値)との関係を示すグラフである。図1に示すように、結晶水含有量とNOx濃度(O=15%補正値)とには相関関係があり、鉄鉱石中の結晶水含有量が低くなるほど、焼成により発生するNOx濃度(NOx排出量)は低減する傾向があることが確認された。
【0029】
【表5】
【0030】
図1より導かれる、結晶水含有量とNOx濃度(O=15%補正値)との相関関係を示すNOx濃度の増加係数Ccwを、下記の(2)式に示す。(2)式に示すように、鉄鉱石中の結晶水含有量が1%(質量%)増加すると、NOx濃度(O=15%補正値)が約5ppm上昇することが分かった。
NOx濃度の増加係数Ccw=5ppm/結晶水含有量の増加量1質量%・・・(2)
【0031】
<実施形態>
(本発明とその特徴)
本発明は、以上の知見に、低窒素無煙炭を使用したNOx量低減方法(詳細は後述)を組み合わせて創案されたものである。本発明は、複数銘柄の鉄鉱石を所定の構成比率で配合したものを全鉄鉱石として、全鉄鉱石を新原料に対して所定割合で配合する焼結鉱の製造方法において、全鉄鉱石における2以上の銘柄の鉄鉱石の構成比率を変更するに際して、変更後の全鉄鉱石の結晶水含有量が変更前より増加する場合には、排ガス中のNOx量(NOx濃度)が構成比率変更操作前より増加することのないように、その増加量に応じて低窒素無煙炭の配合割合を増加させることを特徴とする。
【0032】
(鉄鉱石の配合変更)
配合原料の鉄鉱石は、通常、複数銘柄の鉄鉱石が所定の割合で配合される。各銘柄の鉄鉱石の入荷量や価格は一定でなく変動するため、各銘柄の鉄鉱石の配合割合は、適宜変更される。具体的には、新原料における全鉄鉱石(所定の割合で配合される複数銘柄の鉄鉱石全体)の配合割合(質量%)は変更せず、全鉄鉱石における各銘柄の鉄鉱石の構成比率の一部または全部を変更する操業アクションをとる。この操業アクションを鉄鉱石の構成比率変更操作という。また、所定の割合で配合された複数銘柄の鉄鉱石全体を、以下の説明において、全鉄鉱石または均鉱という。
【0033】
(均鉱の結晶水含有量)
均鉱の結晶水含有量は、以下の式(3)により算出される。式(3)は、均鉱の結晶水含有量CWを、全銘柄の鉄鉱石の平均結晶水含有量として、各銘柄別の結晶水含有量CWiを均鉱中の各銘柄の構成比率で加重平均して求めることを示す。
CW=Σ(Xi×CWi)/100 ・・・(3)
CW:均鉱の結晶水含有量(質量%)
Xi:均鉱における鉄鉱石銘柄iの構成比率(質量%)
CWi:鉄鉱石銘柄iの結晶水含有量(質量%)
【0034】
(低窒素無煙炭)
次に、低窒素無煙炭とそれを使用したNOx量低減方法について、順に説明する。
本発明において、低窒素無煙炭とは、窒素含有量が一般的な焼結用炭材である粉コークス(窒素含有量は約1質量%)よりも少ない無煙炭であると定義される。低窒素無煙炭は、窒素含有量が少ないので、燃焼時に発生するNOx量が粉コークスよりも少ない。なお、大きなNOx量低減効果を得るためには、窒素含有量が0.6質量%以下の無煙炭を用いることが望ましい。表6に、粉コークスおよび低窒素無煙炭の性状の一例を示す。
【0035】
【表6】
【0036】
銘柄毎の鉄鉱石の構成比率の変更により全鉄鉱石の結晶水含有量が増加すると、焼結排ガス中のNOx量も増加する。本発明では、結晶水含有量の増加量に応じて、低窒素無煙炭の配合割合を増加させることにより、焼結排ガス中のNOx量の増加を抑制する。
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0037】
まず、焼結排ガス中のNOx量(NOx)と鉄鉱石の結晶水含有量(CW)との相関関係を実験、操業データの回帰分析などによって求め、鉄鉱石の結晶水の増加量(dCW)に対する焼結排ガス中のNOxの増加量(dNOx)を示す増加係数Ccw(dNOx/dCW)を求める。また、焼結排ガス中のNOx量と無煙炭の使用量(Ans)との相関関係を実験、操業データの回帰分析などによって求め、無煙炭の配合割合の増加量(dAns)に対する焼結排ガス中のNOxの低減量(dNOx)を示す低減係数Cans(dNOx/dAns)も求めておく。
そして、鉄鉱石の構成比率変更操作にともない、全鉄鉱石(均鉱)の結晶水含有量(全銘柄の鉄鉱石の平均結晶水含有量)が増加(ΔCW)する場合、排ガス中のNOx量(NOx濃度)が構成比率変更操作前より増加することのないように、結晶水含有量の増加量に応じて、低窒素無煙炭の配合割合を増加(ΔAns)させる。
すなわち、低窒素無煙炭の配合割合の増加量(ΔAns)は、下記の式(4)を満たせばよい。
ΔAns≧ΔCW×((dNOx/dCW)/(dNOx/dAns))
=ΔCW×(Ccw/Cans)・・・(4)
【0038】
上述の実施形態において、鉄鉱石の結晶水の増加量に対する焼結排ガス中のNOxの増加量を示す増加係数Ccw(dNOx/dCW)の具体例は、(2)式としてすでに示した。以下に、無煙炭の使用量の増加量に対する焼結排ガス中のNOxの減少量を示す低減係数Cans(dNOx/dAns)の具体例を示す。
【0039】
(低窒素無煙炭を使用したNOx量低減方法)
本発明では、焼結排ガス中のNOx量(NOx濃度)低減策として、炭材として、粉コークスの代わりに上述した低窒素無煙炭を多く使用する。
本発明者らは、新たに、上述の小型焼結鍋試験と同様の実験を行い、低窒素無煙炭を使用した際のNOx量低減効果を確認した。具体的には、上述の小型焼結鍋試験において、最初に外数4.5質量%で配合される炭材として粉コークス単独使用時におけるNOx量を確認後、段階的に粉コークスを低窒素無煙炭に等量ずつ置換した場合のNOx量を記録し、低窒素無煙炭への置換量とNOx濃度低減量についての関係を定量化した。その結果、下記の式(5)に示すように、低窒素無煙炭への置換量1質量%あたり、NOx発生量は10ppm低減した。なお、表1の鉄鉱石には、表7に示すように複数銘柄の鉄鉱石を配合したものを使用した。
NOx濃度の低減係数Cans=10ppm/低窒素無煙炭置換量1質量%・・・(5)
【0040】
【表7】
【0041】
(全鉄鉱石の結晶水含有量の増加量に基づく排ガス中のNOx量の調整)
上述の(2)式より、結晶水含有量の増加量1質量%であると、NOx濃度は5ppm増加する。また、上述の(4)式および(5)式より、NOx濃度の増加を抑制するためには、低窒素無煙炭置換量を0.5質量%とすればよい。すなわち、鉄鉱石の構成比率変更操作後にNOx濃度を増加させないためには、結晶水含有量の増加量Δx質量%に対し、低窒素無煙炭置換量は、(0.5×Δx)質量%以上とすればよく、NOx濃度の増加を抑制する抑制効果係数は0.5である。
【実施例
【0042】
表8に示す配合割合の配合原料を用いて、上述の小型焼結鍋試験と同様の実験を行い、上記発明の効果を検証した。
表8に示すように、複数銘柄の鉄鉱石の構成比率を変更する前と、変更した後とについて、焼結排ガス中のNOx濃度を測定した。複数銘柄の鉄鉱石の構成比率の変更前よりも変更後の方が、全鉄鉱石中の結晶水含有量が増加したため、炭材である低窒素無煙炭の配合割合を増加させた。具体的には、変更前よりも全鉄鉱石中の結晶水含有量が1.5質量%増加したため、上述の抑制効果係数の値(0.5)に基づき、粉コークスを、新原料に対して外数で0.75質量%、低窒素無煙炭に置換した。
【0043】
【表8】
【0044】
表8の最右欄に示すように、鉄鉱石の構成比率の変更後においても、焼結排ガス中のNOx濃度が増加しないことが確認された。
【0045】
なお、本実施例では表6に示す低窒素無煙炭および粉コークスについて低窒素無煙炭への置換量とNOx濃度低減量との関係を求めたが、窒素含有量の異なる他の低窒素無煙炭または/および窒素含有量の異なる他の粉コークスを利用する場合には新たに焼結鍋試験を実施し、低窒素無煙炭への置換量とNOx濃度低減量との関係(NOx濃度の低減係数Cans)を求めることが望ましい。
図1