(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】還元鉄の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21B 13/02 20060101AFI20241023BHJP
【FI】
C21B13/02
(21)【出願番号】P 2022522188
(86)(22)【出願日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2021018156
(87)【国際公開番号】W WO2021230307
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2020085078
(32)【優先日】2020-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】稲田 隆信
(72)【発明者】
【氏名】水谷 守利
(72)【発明者】
【氏名】宇治澤 優
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-529383(JP,A)
【文献】米国特許第02862808(US,A)
【文献】特開昭55-144402(JP,A)
【文献】特開昭49-047208(JP,A)
【文献】米国特許第04363654(US,A)
【文献】中国特許出願公開第101787406(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0075201(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 13/02
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト炉に装入された酸化鉄を還元することで還元鉄を製造する還元鉄の製造方法であって、
水素ガスを90体積%以上含有する還元ガスと窒素ガスとを個別に加熱する工程と、
加熱された前記還元ガスと前記窒素ガスとを混合することで、混合ガスを作製する工程と、
前記混合ガスをシャフト炉に吹き込む工程と、を含み、
前記窒素ガスの加熱温度を前記還元ガスの加熱温度よりも高くすることを特徴とする、還元鉄の製造方法。
【請求項2】
前記シャフト炉の炉頂ガスから少なくとも未反応の前記水素ガス及び前記窒素ガスを個別に分離回収する工程と、
分離回収された前記水素ガス及び前記窒素ガスを加熱対象の前記還元ガス及び前記窒素ガスとして再使用する工程と、を含むことを特徴とする、請求項
1に記載の還元鉄の製造方法。
【請求項3】
前記混合ガスは、前記窒素ガスを前記還元ガスの90体積%以下の割合で含有することを特徴とする、請求項1
または2に記載の還元鉄の製造方法。
【請求項4】
前記シャフト炉に吹き込まれる際の前記混合ガスの温度は900℃以下であることを特徴とする、請求項1~
3の何れか1項に記載の還元鉄の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元鉄の製造方法に関する。
本願は、2020年5月14日に、日本に出願された特願2020-85078号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
シャフト炉を用いた還元鉄の製造方法(シャフト炉操業)は、酸化鉄原料から還元鉄を製造する直接還元プロセスの代表格であり、主に天然ガスを安価に入手できる地域(産油国)で広まっている。ここで、
図14に基づいて、既存のシャフト炉操業の概要を説明する。
図14の例では、シャフト炉100の上方から酸化鉄原料(例えば酸化鉄ペレット)200を装入し、シャフト炉100の下方から還元ガス300を吹き込む。ここで、還元ガスは所定温度(例えば900~950℃程度)まで加熱された後、シャフト炉100に吹き込まれる。そして、シャフト炉100に吹き込まれた還元ガス300がシャフト炉内の酸化鉄原料200を還元する。このような直接還元プロセスにより、還元鉄210が製造される。還元鉄210はシャフト炉100の下方から排出され、冷却される。シャフト炉100の炉頂からは、水素ガス、COガス、水蒸気、及びCO
2ガスを含む炉頂ガス400が排出される。
【0003】
シャフト炉100で使用する還元ガス300は、炭素分を含む原料ガス(例えば天然ガス、コークス炉ガス等)310を水蒸気や酸素などを用いて改質することで得られ、主成分は水素ガス(H2)300aとCOガス(CO)300bである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】「DIRECT FROM MIDREX 3RD QUARTER 2017」(https://www.midrex.com/dfm-newsletter/3q-2017-direct-from-midrex/)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
既存のシャフト炉操業では、還元ガスのH2/CO体積比が概ね1.5~4.0の範囲となっている。したがって、シャフト炉操業は、既存のものであっても、CO2排出量削減の観点からは高炉-転炉法より優れた鉄鋼製造プロセスとされている。しかし、今後迫られるであろうCO2ゼロ・エミッションの鉄鋼製造を目指すには、還元ガスに含まれる水素ガスの体積割合をさらに高めることが求められる。
【0006】
これまで、シャフト炉操業に関する様々な技術が提案されてきたが、ほとんどの技術において、還元ガスの原料となる原料ガスとして炭素分を含む天然ガスやコークス炉ガス等を使用している。しかし、最近になって、CO2ゼロ・エミッションを謳って、還元ガスの主要な原料ガスである天然ガスを水素ガスに置き換えたプロセス(つまり、水素ガスを100体積%に近い高濃度で含む還元ガスを用いた操業)を提案する還元鉄メーカーが現れてきた(非特許文献1参照)。
【0007】
水素ガスを高濃度で含む還元ガスを用いる操業は、熱・物質収支に基づいた化学量論的議論では可能であっても、必ずしも実用上問題がないとは限られない。そこで、本発明者は、水素ガスを高濃度で含む還元ガスを用いる操業が既存のシャフト炉操業の延長上で実用上問題なく達成できるかを検討した。この結果、解決すべき技術的課題が存在することが明らかになった。詳細は後述するが、既存のシャフト炉操業において単に水素ガスを高濃度で含む還元ガスを使用しただけでは、大量の水素ガスが還元に使用されずに炉頂より排出され、還元ガス原単位(還元鉄1トンの製造に必要な水素ガスの炉内吹込み量)が過剰に上昇するという問題が発生することが明らかになった。このような問題は非特許文献1では何ら考慮されていない。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、水素ガスを高濃度で含む還元ガスを使用する場合であっても、還元ガス原単位を減少させることが可能な、新規かつ改良された還元鉄の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、水素ガスを高濃度で含む還元ガスを用いる操業が既存のシャフト炉操業の延長上で実用上問題なく達成できるかを検討した。検討方法は、シャフト炉の数学的モデルを用いたシミュレーションとした。該モデルは非特許文献(例えば、原ほか:鉄と鋼,62巻(1976),3号,p.315;山岡ほか:鉄と鋼、74巻(1988),12号,p.2254)に記載された化学工学的手法に基づいて構築されたものであり、還元ガスによる酸化鉄の還元反応をはじめとする化学反応や伝熱現象等、シャフト炉内の熱・物質移動を理論的に解析・推定できるものである。本数学的モデルを用いて、水素ガスを高濃度で含む還元ガスを用いたシャフト炉操業をシミュレーションし、マクロな熱・物質移動を評価した。
【0010】
表1はケーススタディーのために設けた前提条件(計算条件)を示す。マクロな熱・物質移動を評価する目的に照らして、結果の一般性が損なわれないよう、本計算条件は代表的な操業条件を踏まえて設定した。また、数学的モデルの計算対象はシャフト炉の還元反応帯に相当する空間とした。
【0011】
【0012】
図10は、900℃の還元ガスを用いて還元鉄1トン(還元率100%)を製造するのに最低限必要な熱量(以下「熱量原単位」とも称する)(MJ/t-Fe)を還元ガスのH
2/CO体積比毎に示すグラフである。なお、本明細書において、「/t-Fe」は、「還元鉄1トン(還元率100%)あたりの値」を示す。
図10において、「成品DRI持出し顕熱」は、成品である還元鉄によって炉外に持ち出される顕熱であり、「炉頂ガス持出し顕熱」は、炉頂ガスによって炉外に持ち出される顕熱であり、「還元反応熱」は、酸化鉄の還元反応に要する熱である。
図10から明らかな通り、還元ガスのH
2/CO体積比が高くなるに伴って熱量原単位は増加する。ここで、同比80/20~66/33は既存のシャフト炉操業の代表的な還元ガス組成に対応している。また、
図11は、900℃の還元ガスを用いて還元鉄1トン(還元率100%)を製造するのに最低限必要な還元ガス量(すなわち還元ガス原単位)(Nm
3/t-Fe)を還元ガスのH
2/CO体積比毎に示すグラフである。
図11から明らかな通り、還元ガスのH
2/CO体積比が高くなるに伴って還元ガス原単位は増加する。
【0013】
図10及び
図11のような結果になる理由は、以下の(1)式と(2)式で示す通り、COガスによる還元反応は発熱反応であるのに対して、水素ガスによる還元反応は吸熱反応となる点にある。
Fe
2O
3+3H
2→2Fe+3H
2O -854MJ/t-Fe ・・・・・(1)
Fe
2O
3+3CO→2Fe+3CO
2 +246MJ/t-Fe ・・・・(2)
【0014】
すなわち、還元ガス中に占める水素ガスの体積割合が増加するほど、水素ガスによる還元反応熱を賄うための熱量投入量(還元反応熱)が増加する。そして、還元ガスの送風温度を変えない場合は、
図11に示すように、還元ガス原単位を増やさざるを得なくなる。
【0015】
ここで注目すべきは、還元ガス原単位の増加に伴って生ずる還元ガスの利用率の悪化である。炉頂ガス組成から計算される還元ガスの利用率を
図12に示す。ここで、
図12は、還元ガスの利用率(%)を還元ガスのH
2/CO体積比毎に示すグラフである。還元ガスの利用率は、炉頂ガスに含まれる水蒸気及びCO
2ガスの総体積を、炉頂ガスに含まれる水素ガス、水蒸気、COガス、及びCO
2ガスの総体積で除算することで得られる。還元鉄1トン(還元率100%)を製造するのに必要な還元反応量(換言すれば、脱酸素量)は同じであるから、還元ガス原単位を増せば還元反応に与らない還元ガスが増えてしまうのは当然であり、熱供給のために還元ガス、すなわち水素ガスを無駄遣いしていることになる。すなわち、還元ガス中に占める水素ガスの体積割合が増加するほど、水素ガスによる還元反応熱を賄うために、熱供給源としての水素ガスを大量にシャフト炉内に供給する必要がある。さらには、大量の水素ガスをシャフト炉内に吹き込む結果、多くの水素ガスがシャフト炉内で反応せず、炉頂ガスとして排出される。したがって、還元ガスの利用率が下がる。このように、既存のシャフト炉操業において単に水素ガスを高濃度で含む還元ガスを使用しただけでは、大量の水素ガスが還元に使用されずに消費され、水素ガス原単位が過剰に上昇するという技術的課題が発生する。
【0016】
一方、還元ガスの送風温度を高めて水素ガスによる還元反応熱を賄うことも理論上は可能である。
図13は、還元ガス原単位(Nm
3/t-Fe)と還元ガスの送風温度(℃)との関係を還元ガスのH
2/CO体積比毎に示すグラフである。
図13に示される通り、水素ガスを90体積%以上の高濃度で含む還元ガスを使用する場合、既存のシャフト炉操業と同程度の還元ガス原単位で操業を行うためには、大雑把ではあるが送風温度を既存のシャフト炉操業よりも少なくとも100℃以上(H
2/CO体積比が100/0の時は200℃以上)と大幅に高める必要がある。しかし、水素ガスを高濃度で含む還元ガスの送風温度を大幅に高める場合、炉内の還元鉄粒子が相互に固着する所謂スティッキング現象の発生が懸念される。さらに、高温の水素ガスを扱うことになるため、操業の安全性の確保及び水素脆化への対応のために設備コストが上昇するといった問題も生じうる。
【0017】
要するに、水素ガスを高濃度で含む還元ガスを用いたシャフト炉操業を行う場合の根源的問題は、水素ガスによる還元反応熱を如何にして賄うか、という点に帰する。本発明者は、このような根源的問題を解決する方法として、シャフト炉内での還元反応に影響を与えない窒素ガスを還元ガスとともにシャフト炉内に吹き込むことに想到した。そして、本発明者は、水素ガスによる還元反応に必要な熱の少なくとも一部を窒素ガスに賄わせることにした。この結果、還元ガス原単位を削減することができ、かつ、還元ガスの送風温度も低減することができた。本発明は、このような知見によってなされたものである。
【0018】
すなわち、本発明のある観点によれば、シャフト炉に装入された酸化鉄を還元することで還元鉄を製造する還元鉄の製造方法であって、水素ガスを90体積%以上含有する還元ガスと還元ガスとは別に導入される窒素ガスとを含み、かつ加熱された混合ガスをシャフト炉に吹き込み、シャフト炉への混合ガスの送風温度に応じて、窒素ガスの添加量を調整することを特徴とする還元鉄の製造方法が提供される。
【0019】
本発明の他の観点によれば、シャフト炉に装入された酸化鉄を還元することで還元鉄を製造する還元鉄の製造方法であって、水素ガスを90体積%以上含有する還元ガスと還元ガスとは別に導入された窒素ガスとを含む混合ガスを加熱する工程と、加熱された混合ガスをシャフト炉に吹き込む工程と、を含み、シャフト炉への混合ガスの送風温度に応じて、窒素ガスの添加量を調整することを特徴とする、還元鉄の製造方法が提供される。
【0020】
ここで、シャフト炉の炉頂ガスから少なくとも未反応の水素ガス及び窒素ガスを分離回収する工程と、分離回収された水素ガス及び窒素ガスを混合ガスの一部として再使用する工程と、を含んでいてもよい。
【0021】
また、分離回収された水素ガス及び窒素ガスの一部を、混合ガスを加熱する際の燃料用ガスとして使用してもよい。
【0022】
本発明の他の観点によれば、シャフト炉に装入された酸化鉄を還元することで還元鉄を製造する還元鉄の製造方法であって、水素ガスを90体積%以上含有する還元ガスと窒素ガスとを個別に加熱する工程と、加熱された還元ガスと窒素ガスとを混合することで、混合ガスを作製する工程と、混合ガスをシャフト炉に吹き込む工程と、を含み、シャフト炉への混合ガスの送風温度に応じて、窒素ガスの添加量を調整することを特徴とする、還元鉄の製造方法が提供される。
【0023】
本発明の他の観点によれば、シャフト炉に装入された酸化鉄を還元することで還元鉄を製造する還元鉄の製造方法であって、水素ガスを90体積%以上含有する還元ガスと窒素ガスとを個別に加熱する工程と、加熱された還元ガスと窒素ガスとを混合することで、混合ガスを作製する工程と、混合ガスをシャフト炉に吹き込む工程と、を含み、窒素ガスの加熱温度を還元ガスの加熱温度よりも高くすることを特徴とする、還元鉄の製造方法が提供される。
【0024】
また、シャフト炉の炉頂ガスから少なくとも未反応の水素ガス及び窒素ガスを個別に分離回収する工程と、分離回収された水素ガス及び窒素ガスを加熱対象の還元ガス及び窒素ガスとして再使用する工程と、を含んでいてもよい。
【0025】
また、混合ガスは、窒素ガスを水素ガスの90体積%以下の割合で含有していてもよい。
【0026】
また、シャフト炉に吹き込まれる際の混合ガスの温度は900℃以下であってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の上記観点によれば、水素ガスを高濃度で含む還元ガスを使用する場合であっても、還元ガス原単位を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1の実施形態に係る還元鉄の製造方法のプロセスフローを示す説明図である。
【
図2】混合ガスの送風温度と水素ガス原単位との関係を窒素ガスの添加量毎に示すグラフである。
【
図3】窒素ガスの添加量と水素ガス原単位との関係を混合ガスの送風温度毎に示すグラフである。
【
図4】窒素ガスの添加量と水素ガス原単位との関係を混合ガスの送風温度毎に示すグラフである。
【
図5】第1の実施形態の第1の変形例に係る還元鉄の製造方法のプロセスフローを示す説明図である。
【
図6】第1の実施形態の第2の変形例に係る還元鉄の製造方法のプロセスフローを示す説明図である。
【
図7】第2の実施形態に係る還元鉄の製造方法のプロセスフローを示す説明図である。
【
図8】水素ガスの加熱温度(℃)と窒素ガスの加熱温度(℃)との関係を示すグラフである。
【
図9】第2の実施形態の変形例に係る還元鉄の製造方法のプロセスフローを示す説明図である。
【
図10】900℃の還元ガスを用いて還元鉄1トンを製造する際の熱量原単位(MJ/t-Fe)を還元ガスのH
2/CO体積比毎に試算した結果を示すグラフである。
【
図11】900℃の還元ガスを用いて還元鉄1トンを製造する際の還元ガス原単位(Nm
3/t-Fe)を還元ガスのH
2/CO体積比毎に試算した結果を示すグラフである。
【
図12】還元ガスの利用率(%)を還元ガスのH
2/CO体積比毎に示すグラフである。
【
図13】還元ガス原単位(Nm
3/t-Fe)と還元ガスの送風温度(℃)との関係を還元ガスのH
2/CO体積比毎に示すグラフである。
【
図14】既存のシャフト炉操業のプロセスフローを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、「~」を用いて表される数値限定範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。「超」または「未満」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。
【0030】
<1.第1の実施形態>
まず、
図1に基づいて第1の実施形態に係る還元鉄の製造方法(シャフト炉操業)のプロセスフローを説明する。第1の実施形態は、概略的には、水素ガスを90体積%以上含有する還元ガス31と窒素ガス32とを含み、かつ加熱された混合ガス30をシャフト炉10に吹き込む、というものである。
【0031】
より詳細に説明すると、第1の実施形態に係る還元鉄の製造方法は、還元ガス31と窒素ガス32とを含む混合ガス30を加熱する工程と、加熱された混合ガス30をシャフト炉10に吹き込む工程と、を含む。これら以外の工程は既存のシャフト炉操業と同様であればよい。
【0032】
例えば、
図1に示すように、還元ガス31と窒素ガス32とを加熱炉50に導入し、加熱炉50内で還元ガス31及び窒素ガス32をまとめて加熱する。これにより、還元ガス31及び窒素ガス32が加熱炉50内で混合されて混合ガス30となり、混合ガス30が所定温度まで加熱される。
【0033】
ここで、上述したように、還元ガス31は水素ガスを90体積%以上(還元ガス31の総体積に対する質量%)含む。つまり、還元ガス31の水素ガス濃度は90体積%以上となる。CO2ゼロ・エミッションの観点からは、還元ガス31の水素ガス濃度は90体積%以上の範囲内でなるべく高いことが好ましく、100体積%であることが好ましい。加えて、還元ガスを加熱する方法も電気的ヒーターによるのが好ましく、燃焼加熱による場合においては燃料ガスを水素主体にするのが好ましい。
【0034】
還元ガス31の水素ガス濃度が90体積%以上100体積%未満となる場合、還元ガス31には水素ガス以外の還元ガスが含まれてもよい。このような還元ガスとしては、例えばCOガスの他、炭化水素ガス等も含まれる。炭化水素ガスは、シャフト炉内でCOガスを生成する。
【0035】
窒素ガス32はシャフト炉内における還元反応に直接関与しない不活性ガスであり、単に顕熱をシャフト炉10内に運ぶキャリアとして機能する。したがって、第1の実施形態によれば、水素ガスだけに加熱負荷をかける必要がないため、適正な送風温度(所定温度)でシャフト炉操業を行うことが可能になる。
【0036】
還元ガス31に対する窒素ガス32の添加量についての詳細は後述するが、窒素ガス32を還元ガス31にわずかに添加するだけでも本実施形態の効果(水素ガス原単位の低減及び水素ガスの送風温度の低減)が得られる。一方、窒素ガス32を過剰に添加すると、混合ガス30中の水素濃度が低下することによる酸化鉄の還元反応速度の減速が、窒素ガス32からの熱供給による還元反応熱の補填効果を上回る。この場合、本実施形態の効果が飽和する。このような観点から、窒素ガス32の添加量は、還元ガス31の90体積%以下であることが好ましい。
【0037】
混合ガス30は、上述した還元ガス31及び窒素ガス32のみで構成されることが好ましいが、本実施形態の効果に影響を与えない範囲で還元ガス31及び窒素ガス32以外のガスが含まれていてもよい。
【0038】
加熱炉50内では、混合ガス30が所定温度(シャフト炉に吹き込まれる際の混合ガスの温度、すなわち送風温度)まで加熱される。所定温度はシャフト炉操業の状況等に応じて適宜調整されればよいが、後述するように、窒素ガス32を添加しない場合よりも所定温度を低減することができる。窒素ガス32が顕熱のキャリアとして機能するからである。所定温度は好ましくは900℃以下である。所定温度の下限値は第1の実施形態によるシャフト炉操業が可能な範囲であれば特に制限されないが、例えば750℃程度であってもよい。
【0039】
混合ガス30は、所定温度まで加熱された後、シャフト炉10に吹き込まれる。一方、シャフト炉10の上方から酸化鉄原料20が装入される。酸化鉄原料20の種類は特に問われず、既存のシャフト炉操業と同様であればよい。酸化鉄原料20としては、例えば酸化鉄ペレットが挙げられる。シャフト炉10に吹き込まれた混合ガス30は、シャフト炉10内で上昇する。混合ガス30中の還元ガス31は、シャフト炉10内の酸化鉄原料20を還元し、還元鉄21を作製する。水素ガスによる還元反応は吸熱反応であるが、還元反応熱は還元ガス31が有する顕熱の他、窒素ガス32が有する顕熱によって賄われる。還元鉄21はシャフト炉10の下方から排出され、冷却される。一方、シャフト炉10の炉頂からは炉頂ガス40が排出される。炉頂ガス40には、未反応の水素ガスの他、水蒸気、窒素ガス32が含まれる。
【0040】
次に、第1の実施形態による効果について説明する。本発明者は、上述した数学的モデルを用いて第1の実施形態に係るシャフト炉操業をシミュレーションした。また、比較のために窒素ガス32を添加しないシャフト炉操業もシミュレーションした。なお、本シミュレーションは第1の実施形態の実施例及び比較例に相当するものである。結果を
図2及び
図3に示す。なお、計算条件は表1と同様とした。また、還元ガス31の水素ガス濃度は100体積%とした。
【0041】
図2は混合ガス30の送風温度(℃)と水素ガス原単位(Nm
3/t-Fe)との関係を窒素ガス32の添加量毎に示す。グラフL1は窒素ガスを添加しなかった時の上記関係、グラフL2は窒素ガスを還元ガス31に250Nm
3/t-Fe添加した時の上記関係、グラフL3は窒素ガスを還元ガス31に500Nm
3/t-Fe添加した時の上記関係を示す。したがって、グラフL2、L3が第1の実施形態に係るシャフト炉操業に対応する。なお、ここでは還元ガス31の水素ガス濃度が100体積%なので、水素ガス原単位は還元ガス原単位と読み替えられる。
図2のグラフL2、L3によれば、送風温度が900℃となる際の還元ガス原単位は、概ね1500~1700Nm
3/t-Fe程度となっている。一方、
図11を見ると、既存のシャフト炉操業(還元ガスのH
2/CO体積比=80/20~66/33)では、送風温度が900℃となる際の還元ガス原単位は、概ね1200~1400Nm
3/t-Fe程度となっている。したがって、還元ガス31に窒素ガス32を添加することで、還元ガス31の水素ガス濃度が高濃度(ここでは100体積%)であっても、既存のシャフト炉操業と同程度の送風温度レベル(例えば900℃)、かつ還元ガス原単位レベル(例えば1500~1700Nm
3/t-Fe程度)での還元鉄製造が可能となる。
【0042】
したがって、水素ガスを高濃度で含む還元ガスを使用する場合であっても、還元ガス原単位を減少させることができ、かつ、混合ガス30の送風温度(すなわち、還元ガス31の送風温度)を低減することができる。さらに、窒素ガス32の添加量が多いほど、還元ガス原単位が減少し、還元ガス31の送風温度も低減することもわかる。還元ガス31の送風温度が低減することで、例えばスティッキング等が抑制される。
【0043】
図3は、
図2の関係を窒素ガス32の添加量(Nm
3/t-Fe)と水素ガス原単位(Nm
3/t-Fe)との関係に整理しなおした図である。つまり、
図3は、窒素ガス32の添加量(Nm
3/t-Fe)と水素ガス原単位(Nm
3/t-Fe)との関係を混合ガス30の送風温度(℃)毎に示す。グラフL4は送風温度が800℃となる時の上記関係、グラフL5は送風温度が900℃となる時の上記関係、グラフL6は送風温度が1000℃となる時の上記関係を示す。グラフL4~L6によれば、いずれの送風温度においても、窒素ガス32をわずかに添加するだけで水素ガス原単位が減少していることがわかる。
【0044】
さらに、グラフL5、L6に着目すると、330Nm3/tの窒素ガスを還元ガス31に添加すれば、水素ガス原単位を維持しつつ混合ガス30の送風温度を1000℃→900℃に下げることができる。したがって、窒素ガス32を還元ガス31に添加することで、送風温度を低減し、ひいてはスティッキングの抑制を図ることもできる。
【0045】
さらに、グラフL5(送風温度900℃)に着目すると、窒素ガス32を還元ガス31に330Nm3/t-Fe付加することで水素ガス原単位を300Nm3/t-Fe程度削減することができる。これは、330Nm3/t-Feの窒素ガス32と300Nm3/t-Feの水素ガスとは熱及び反応操作の観点で概ね等価であることを意味する。さらに見方を変えれば、送風温度一定の条件下で窒素ガス32の添加量を調整することで、還元鉄の生産量も制御することができる。例えば、送風温度及び水素ガスの単位時間当たりの吹込み量を変えずに窒素ガス32の添加量(Nm3/t-Fe)を増やせば還元鉄の単位時間当たりの生産量は増加する。
【0046】
このように、一見不可解に見える等価関係が成立し、あるいは一見不可思議な操業操作が可能なのは、水素ガスを高濃度で含む還元ガスを用いたシャフト炉操業を行う場合、シャフト炉10内で熱が律速する還元反応が生じる(すなわち、シャフト炉10に持ち込まれる熱量によって炉内温度が適正に保たれて還元反応が円滑に進行する)からである。
【0047】
以上説明したように、第1の実施形態によれば、還元ガス31と窒素ガス32との混合ガス30をシャフト炉10に吹き込むので、窒素ガス32を顕熱のキャリアとして使用することができる。これにより、例えば
図2及び
図3に示すように、水素ガスを高濃度で含む還元ガス31を用いてシャフト炉操業を行う場合であっても、還元ガス原単位を減少させることができ、混合ガス30の送風温度を低減することができる。
【0048】
ここで、
図4に基づいて、窒素ガス32の過剰投入による効果の飽和について説明する。
図4の縦軸、横軸の定義は
図3と同様である。ただし、
図4の横軸は
図3よりも多くの窒素ガス添加量を示す。すなわち、
図4の横軸は
図3の横軸を延長したものである。
図4に描かれるグラフは
図3のグラフL4~L6と同様のものである。これらのグラフの送風温度は、上から800℃、840℃、860℃、880℃、900℃、920℃、940℃、960℃、980℃、1000℃、1020℃、1050℃、1100℃となっている。
【0049】
図4及び[0036]に記載されているように、窒素ガス32を過剰に還元ガス31に添加すると、本実施形態の効果は飽和する。送風温度の条件によって飽和に達する条件は変化するが、概ね窒素ガス32の体積流量(添加量)を還元ガス31の体積流量の90体積%以下にするという条件(すなわち、混合ガス30が窒素ガス32を還元ガス31の90体積%以下の割合で含有するという条件)を満たせば、本実施形態の効果を享受することができると言える。
【0050】
<1-1.第1の変形例>
つぎに、
図5に基づいて第1の実施形態の第1の変形例を説明する。実際のシャフト炉操業では、還元ガス31及び窒素ガス32を有効利用することも重要である。そこで、第1の変形例では、炉頂ガス40から未反応の水素ガス31a及び窒素ガス32を分離回収し、混合ガス30の一部として再利用する。
【0051】
具体的には、炉頂ガス40を分離回収装置60に導入し、分離回収装置60において炉頂ガス40を冷却する。好ましくはさら炉頂ガス40を除塵する。これにより、炉頂ガス40から水蒸気を水65として除去し、未反応の水素ガス31a及び窒素ガス32を循環ガス70として分離回収する。なお、還元ガス31が水素ガス以外の還元ガス(CO等)を含む場合、循環ガス70には未反応の当該還元ガスの他、当該還元ガスの酸化物(CO2等)が含まれる場合もあるが、循環ガス70にこれらのガスが含まれていても操業上問題はない。分離回収装置60としては、例えば高炉の炉頂ガスから未反応の還元ガスを分離回収する装置等を利用することができる。そして、循環ガス70を混合ガス30の一部として再利用する。すなわち、循環ガス70を再度加熱炉50に導入し、加熱する。
【0052】
なお、上述したように、窒素ガス32は、顕熱をシャフト炉10内に運ぶキャリアとして機能するため、シャフト炉10内で消費されない。したがって、窒素ガス32は、加熱炉50、シャフト炉10、及び分離回収装置60を連結する循環系内を循環することになる。したがって、所望量の還元鉄の生産に必要な分の窒素ガス32を一旦この循環系に導入すれば、その後は理想的には外部から窒素ガス32を導入しなくてもよいことになる。もちろん、外部からさらに窒素ガス32を供給してもよい。
【0053】
一方で、還元ガス31はシャフト炉10内で消費されるので、循環された水素ガス31aだけでは還元ガス31が不足する。そこで、還元ガス31については不足分だけ外部から供給すればよい。これにより、理想的には、化学量論的に最小量の還元ガス31で還元鉄21を製造することができる。もちろん、化学量論的な量を超えて外部から還元ガス31を供給してもよい。
【0054】
以上説明したように、第1の変形例によれば、還元ガス31及び窒素ガス32を有効利用することができる。
【0055】
<1-2.第2の変形例>
つぎに、
図6に基づいて第1の実施形態の第2の変形例を説明する。第2の変形例も第1の変形例と同様に炉頂ガス40から未反応の水素ガス31a及び窒素ガス32を分離回収し、混合ガス30の一部として再利用する。第2の変形例では、第1の変形例と同様の処理を行うほか、循環系内を循環する窒素ガス32の量を調整することができる。
【0056】
より具体的に説明すると、第2の変形例では、分離回収装置60で分離回収された循環ガス70を分岐管80に導入する。分岐管80では、循環ガス70の一部を加熱炉50の燃料用ガス85として加熱炉50に供給する。加熱炉50は、燃料用ガス85を燃焼させることで熱を発生させ、この熱によって加熱炉50内のガスを加熱する。燃焼後の排ガス85a(水蒸気、窒素ガス32を含む)は外部に放散される。残りの循環ガス70は、第1の変形例と同様に、混合ガス30の一部として再利用する。すなわち、循環ガス70を再度加熱炉50に導入する。他の処理は第1の変形例と同様である。なお、外部から窒素ガス32を導入しない場合、循環系(循環ガス70が循環する循環系)を循環する窒素ガス32は徐々に減少していくことになる。逆に、外部から窒素ガス32を導入することで、循環系を循環する窒素ガス32の量を維持または増加させることができる。
【0057】
以上説明したように、第2の変形例によれば、還元ガス31及び窒素ガス32を有効利用することができる他、循環系を循環する窒素ガス32の量を調整することができる。
【0058】
<2.第2の実施形態>
つぎに、
図7に基づいて第2の実施形態に係る還元鉄の製造方法(シャフト炉操業)のプロセスフローを説明する。第2の実施形態も、第1の実施形態と同様に、水素ガスを90体積%以上含有する還元ガス31と窒素ガス32とを含み、かつ所定温度の混合ガス30をシャフト炉100に吹き込む、というものである。ただし、第2の実施形態に係る還元鉄の製造方法は、還元ガス31と窒素ガス32とを個別に加熱した後に混合するという点で第1の実施形態と異なる。
【0059】
より具体的に説明すると、第2の実施形態に係る還元鉄の製造方法は、還元ガス31と窒素ガス32とを個別に加熱する工程と、加熱された還元ガス31と窒素ガス32とを混合することで、所定温度の混合ガス30を作製する工程と、所定温度の混合ガス30をシャフト炉10に吹き込む工程と、を含む。これら以外の工程は既存のシャフト炉操業と同様であればよい。
【0060】
例えば、
図7に示すように、還元ガス31を還元ガス用加熱炉51に導入して加熱し、窒素ガス32を窒素ガス用加熱炉52に導入して加熱する。これにより、還元ガス31と窒素ガス32とを個別に加熱する。なお、還元ガス31及び窒素ガス32の特性は第1の実施形態と同様である。例えば、還元ガス31は水素ガスを90体積%以上(還元ガス31の総体積に対する質量%)含む。つまり、還元ガス31の水素ガス濃度は90体積%以上となる。還元ガス31の水素ガス濃度は90体積%以上の範囲内でなるべく高いことが好ましく、100体積%であることが好ましい。還元ガス31の水素ガス濃度が90体積%以上100体積%未満となる場合、還元ガス31には水素ガス以外の還元ガスが含まれてもよい。このような還元ガスとしては、例えばCOガスの他、炭化水素ガス等も含まれる。混合ガス30は、上述した還元ガス31及び窒素ガス32のみで構成されることが好ましいが、本実施形態の効果に影響を与えない範囲で還元ガス31及び窒素ガス32以外のガスが含まれていてもよい。
【0061】
ついで、加熱された還元ガス31と窒素ガス32とを混合部55(例えば還元ガス31の配管と窒素ガス32の配管との合流部分)で混合する。すなわち、加熱された還元ガス31に加熱された窒素ガス32を添加する。これにより、所定温度の混合ガス30を作製する。ついで、混合ガス30をシャフト炉10に吹き込む。その後の工程は第1の実施形態と同様である。したがって、還元ガス31及び窒素ガス32の加熱温度は、混合後の混合ガス30の温度が所定温度となるように調整される。ここで、所定温度は上述した通り、好ましくは900℃以下である。所定温度の下限値は第2の実施形態によるシャフト炉操業が可能な範囲であれば特に制限されないが、例えば750℃程度であってもよい。
【0062】
還元ガス31の加熱温度及び窒素ガス32の加熱温度は、混合ガス30の温度が所定温度となる範囲であれば特に制限されないが、窒素ガス32の加熱温度を還元ガス31の加熱温度よりも高くすることが好ましい。これにより、還元ガス31の加熱温度を低減することができるので、還元ガス31への加熱負荷をより低減することができる。ここで、第1の実施形態で説明した通り、窒素ガス32の添加量が多いほど、混合ガス30の送風温度(すなわち所定温度)を低減することができる。したがって、窒素ガス32の添加量が多いほど、還元ガス31への加熱負荷をより低減することができる。さらに、詳細は後述するが、窒素ガス32の添加量が多いほど、窒素ガス32の加熱温度の上昇量に対する還元ガス31の加熱温度の低減量が増加する。すなわち、窒素ガス32の添加量が多いほど、窒素ガス32の加熱温度をわずかに上昇させるだけで還元ガス31の加熱温度を大きく低減させることができる。したがって、窒素ガス32の添加量が多いほど、分離加熱の効果が大きくなる。もちろん、第1の実施形態で説明したように、窒素ガス32の添加量は、還元ガス31の総体積に対して90体積%以下であることが好ましい。
【0063】
次に、第2の実施形態による効果について詳細に説明する。本発明者は、上述した数学的モデルを用いて第2の実施形態に係るシャフト炉操業をシミュレーションした。また、比較のために第1の実施形態と同様のシャフト炉操業、及び窒素ガス32を添加しないシャフト炉操業もシミュレーションした。なお、本シミュレーションは第2の実施形態の実施例及び比較例に相当するものである。結果を
図8に示す。なお、計算条件は表1と同様とした。また、還元ガス31の水素ガス濃度は100体積%とした。
【0064】
図8は、水素ガスの加熱温度(すなわち還元ガス31の加熱温度)(℃)と窒素ガスの加熱温度(℃)との関係を示すグラフである。なお、
図8では、水素ガス原単位(還元ガス原単位)は1620Nm
3/t-Feで一定とされている。グラフL10は還元ガス31と窒素ガス32とを混合して加熱した(つまり第1の実施形態と同様の加熱処理を行った)場合の上記関係を示す。なお、水素ガス原単位が一定であることから、グラフL10上の各点では、窒素ガス32の添加量が異なっている(
図2及び
図3参照)。グラフL10上の点P1では窒素ガスの添加量がゼロとなっている。グラフL11、L12はいずれも還元ガス31と窒素ガス32とを個別に加熱した場合の水素ガスの加熱温度(すなわち還元ガス31の加熱温度)(℃)と窒素ガスの加熱温度(℃)との関係を示す。ただし、グラフL11では窒素ガス32の添加量が330Nm
3/t-Feとなっており、グラフL12では窒素ガス32の添加量が500Nm
3/t-Feとなっている。
【0065】
水素ガス原単位が1620Nm
3/t-Feとなり、かつ窒素ガス32の添加量が330Nm
3/t-Feとなる場合、
図3で示したように、混合ガス30の送風温度は900℃程度となる。したがって、還元ガス31と窒素ガス32とを混合して加熱する場合、還元ガス31及び窒素ガス32の加熱温度は混合ガス30の送風温度と同じ900℃となる(点P2)。
【0066】
水素ガス原単位が1620Nm
3/t-Feとなり、かつ窒素ガス32の添加量が500Nm
3/t-Feとなる場合、
図3で示したように、混合ガス30の送風温度は900℃以下(数学的モデルによる計算値は872℃)となる。したがって、還元ガス31と窒素ガス32とを混合して加熱する場合、還元ガス31及び窒素ガス32の加熱温度は混合ガス30の送風温度と同じ872℃となる(点P4)。
【0067】
したがって、送風温度1000℃の100体積%水素ガスをシャフト炉10に吹き込む場合(点P1)を起点に考えると、窒素ガス32の添加量を330Nm3/t-Feとすることで、水素ガス原単位を増やすことなく、混合ガス30の送風温度を900℃まで低減することができる(点P2)。さらに、グラフL11が示すように、還元ガス31と窒素ガス32とを個別に加熱するとともに、窒素ガス32の加熱温度を1350℃程度まで高めることで、還元ガス31の加熱温度を800℃程度まで低減することができる(点P3)。
【0068】
さらに、窒素ガス32の添加量を500Nm3/t-Feとすることで、水素ガス原単位を増やすことなく、混合ガス30の送風温度を900℃以下の872℃まで低減することができる(点P4)。さらに、グラフL12が示すように、還元ガス31と窒素ガス32とを個別に加熱するとともに、窒素ガス32の加熱温度を1080℃程度まで高めることで、還元ガス31の加熱温度を800℃程度まで低減することができる(点P5)。
【0069】
さらに、グラフL11とグラフL12とを対比すると、グラフL12の傾きはグラフL11の傾きより小さい。これは、窒素ガス32の添加量が多いほど、窒素ガス32の加熱温度の上昇量に対する還元ガス31の加熱温度の低減量が増加することを意味する。
【0070】
以上説明した通り、第2の実施形態によれば、還元ガス31と窒素ガス32とを個別に加熱するので、還元ガス31の加熱負荷をより低減することができる。このような分離加熱の効果は、窒素ガス32の加熱温度を還元ガス31の加熱温度よりも高めることで大きくなる。さらに、分離加熱の効果は、窒素ガス32の添加量が多いほど大きくなる。
【0071】
<2-1.変形例>
つぎに、
図9に基づいて第2の実施形態の変形例を説明する。本変形例は、概略的には、第1の実施形態の第1の変形例を第2の実施形態に適用したものである。つまり、本変形例では、炉頂ガス40から未反応の水素ガス31a及び窒素ガス32を個別に分離回収し、加熱対象の還元ガス31及び窒素ガス32として再利用する。
【0072】
具体的には、炉頂ガス40を分離回収装置60に導入し、分離回収装置60において炉頂ガス40を冷却する。好ましくはさら炉頂ガス40を除塵する。これにより、炉頂ガス40から水蒸気を水65として除去し、未反応の水素ガス31a及び窒素ガス32を分離回収する。分離回収されたガスは未反応の水素ガス31a及び窒素ガス32の混合ガスとなっているので、この混合ガスに対して水素ガス分離処理、または窒素ガス分離処理を行う。これにより、未反応の水素ガス31a及び窒素ガス32を個別に分離回収する。ここで、水素ガス分離処理及び窒素ガス分離処理としては、例えば圧力変動吸着法(PSA法)(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvsj1958/43/12/43_12_1088/_pdf)が挙げられる。分離回収された未反応の水素ガス31aは、還元ガス用加熱炉51に導入され、分離回収された窒素ガス32は、窒素ガス用加熱炉52に導入される。これにより、未反応の水素ガス31a及び窒素ガス32が再利用される。
【0073】
なお、第1の実施形態の第1の変形例と同様に、窒素ガス32は循環系(ここでは窒素ガス用加熱炉52、シャフト炉10、及び分離回収装置60を連結する循環系)で消費されない。したがって、所望量の還元鉄の生産に必要な分の窒素ガス32を一旦この循環系に導入すれば、その後は理想的には外部から窒素ガス32を導入しなくてもよい。一方で、還元ガス31は高炉内で消費されるので、循環された水素ガス31aだけでは還元ガス31が不足する。そこで、還元ガス31については不足分だけ外部から供給すればよい。
【0074】
以上説明したように、本変形例によれば、還元ガス31及び窒素ガス32を有効利用することができる。
【0075】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0076】
10 シャフト炉
20 酸化鉄原料
30 混合ガス
31 還元ガス
32 窒素ガス
40 炉頂ガス
50 加熱炉
60 分離回収装置
70 循環ガス
80 分岐管
85 燃料用ガス