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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】空気式防舷材の管理システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/26 20060101AFI20241023BHJP
【FI】
E02B3/26 K
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023205287
(22)【出願日】2023-12-05
【審査請求日】2024-08-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】石橋 裕輔
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-178629(JP,A)
【文献】国際公開第99/020845(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/155265(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/053887(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/26
B63B 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の胴部の筒軸方向両側にボウル状端部が連接されている防舷材本体を有し、前記防舷材本体が筒軸心を中心にした回転が規制されて使用場所に設置される空気式防舷材の状態を把握する空気式防舷材の管理システムにおいて、
前記防舷材本体の周方向に間隔をあけて対向する位置に設置されたパッシブ型のICタグと、前記空気式防舷材の外部に配置されて、それぞれの前記ICタグと無線通信可能な通信機と、演算装置とを備えて、
それぞれの前記ICタグの識別情報、それぞれの前記ICタグの前記防舷材本体での周方向設置位置、前記使用場所でのそれぞれの前記ICタグの周方向配置位置が事前情報として把握されていて、
前記無線通信を用いて前記通信機により取得された少なくとも1つの前記ICタグの前記識別情報と、前記識別情報を取得した時のそのICタグの前記使用場所での周方向配置位置と、前記事前情報とに基づいて、前記演算装置により前記使用場所での前記防舷材本体の周方向に関する位置固定期間が特定される空気式防舷材の管理システム。
【請求項2】
前記防舷材本体の空気圧を検知する圧力センサを有し、前記圧力センサによる検知データが前記無線通信を用いて前記通信機により取得されて前記演算装置に入力される請求項1に記載の空気式防舷材の管理システム。
【請求項3】
前記空気式防舷材が一方の前記ボウル状端部に接続される重錘を有していて、一方の前記ボウル状端部が前記防舷材本体の下端部、他方の前記ボウル状端部が前記防舷材本体の上端部になって前記使用場所に設置される縦型空気式防舷材である請求項1または2に記載の空気式防舷材の管理システム。
【請求項4】
それぞれの前記ICタグが、他方の前記ボウル状端部に配置される請求項3に記載の空気式防舷材の管理システム。
【請求項5】
それぞれの前記ICタグが配置されている周方向位置を示す表示が、他方の前記ボウル状端部の外表面に付されている請求項4に記載の空気式防舷材の管理システム。
【請求項6】
円筒状の胴部の筒軸方向両側にボウル状端部が連接されている防舷材本体を有し、前記防舷材本体が筒軸心を中心にした回転が規制されて使用場所に設置されている空気式防舷材の状態を把握する空気式防舷材の管理方法において、
前記防舷材本体の周方向に間隔をあけて対向する位置にパッシブ型のICタグを設置し、前記空気式防舷材の外部にそれぞれの前記ICタグと無線通信可能な通信機を配置して、それぞれの前記ICタグの識別情報、それぞれの前記ICタグの前記防舷材本体での周方向設置位置、前記使用場所でのそれぞれの前記ICタグの周方向配置位置を事前情報として把握しておき、
前記無線通信を用いて前記通信機により取得した少なくとも1つの前記ICタグの前記識別情報と、前記識別情報を取得した時のそのICタグの前記使用場所での周方向配置位置と、前記事前情報とに基づいて、演算装置により前記使用場所での前記防舷材本体の周方向に関する位置固定期間を特定する空気式防舷材の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気式防舷材の管理システムおよび方法に関し、さらに詳しくは、船舶の接触による防舷材での偏った範囲の損耗を抑制して防舷材をより有効に使用できる空気式防舷材の管理システムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気式防舷材には、下側に重錘が接続されて使用される縦型空気式防舷材がある(例えば、特許文献1参照)。縦型空気式防舷材は、円筒状の防舷材本体が筒軸心を中心にして回転することが規制されて岸壁などの使用場所に設置されることが多い。このように設置された防舷材では、防舷材本体の同じ範囲に船舶が繰り返し接触して損耗する。
【0003】
そのため、筒軸心を中心にして防舷材本体を適宜、周方向にずらして設置し直す作業をしなければ、防舷材本体の周方向では特定の範囲が著しく損耗する。防舷材本体の大部分は健全であっても、特定の範囲が著しく損耗していると防舷材を交換しなければならないので、防舷材を有効に使用できないという問題が生じる。いわゆる横型空気式防舷材でも、防舷材本体が筒軸心を中心にして回転することが規制されて設置されることがあり、この場合も上述した同様の問題が生じる。それ故、船舶の接触による防舷材での偏った範囲の損耗を抑制して、防舷材をより有効に使用するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-117261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、船舶の接触による防舷材での偏った範囲の損耗を抑制して防舷材をより有効に使用できる空気式防舷材の管理システムおよび方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の空気式防舷材の管理システムは、円筒状の胴部の筒軸方向両側にボウル状端部が連接されている防舷材本体を有し、前記防舷材本体が筒軸心を中心にした回転が規制されて使用場所に設置される空気式防舷材の状態を把握する空気式防舷材の管理システムにおいて、前記防舷材本体の周方向に間隔をあけて対向する位置に設置されたパッシブ型のICタグと、前記空気式防舷材の外部に配置されて、それぞれの前記ICタグと無線通信可能な通信機と、演算装置とを備えて、それぞれの前記ICタグの識別情報、それぞれの前記ICタグの前記防舷材本体での周方向設置位置、前記使用場所でのそれぞれの前記ICタグの周方向配置位置が事前情報として把握されていて、前記無線通信を用いて前記通信機により取得された少なくとも1つの前記ICタグの前記識別情報と、前記識別情報を取得した時のそのICタグの前記使用場所での周方向配置位置と、前記事前情報とに基づいて、前記演算装置により前記使用場所での前記防舷材本体の周方向に関する位置固定期間が特定されることを特徴とする。
【0007】
本発明の空気式防舷材の管理方法は、円筒状の胴部の筒軸方向両側にボウル状端部が連接されている防舷材本体を有し、前記防舷材本体が筒軸心を中心にした回転が規制されて使用場所に設置されている空気式防舷材の状態を把握する空気式防舷材の管理方法において、前記防舷材本体の周方向に間隔をあけて対向する位置にパッシブ型のICタグを設置し、前記空気式防舷材の外部にそれぞれの前記ICタグと無線通信可能な通信機を配置して、それぞれの前記ICタグの識別情報、それぞれの前記ICタグの前記防舷材本体での周方向設置位置、前記使用場所でのそれぞれの前記ICタグの周方向配置位置を事前情報として把握しておき、前記無線通信を用いて前記通信機により取得した少なくとも1つの前記ICタグの前記識別情報と、前記識別情報を取得した時のそのICタグの前記使用場所での周方向配置位置と、前記事前情報とに基づいて、演算装置により前記使用場所での前記防舷材本体の周方向に関する位置固定期間を特定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記無線通信を通じて前記通信機により取得した少なくとも1つの前記ICタグの前記識別情報と、前記識別情報を取得した時のそのICタグの前記使用場所での周方向配置位置と、前記事前情報とに基づいて、前記防舷材本体が周方向位置を変えずに前記使用場所に設置されていた期間(前記位置固定期間)が前記演算装置により特定される。したがって、特定された前記位置固定期間を指標にして、前記防舷材本体を適時、筒軸心を中心にして周方向にずらして前記空気式防舷材を前記使用場所に設置し直すことが可能になる。その結果、船舶の接触による前記空気式防舷材での偏った範囲の損耗が抑制されるので、前記空気式防舷材をより有効に使用するには有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】縦型空気式防舷材に適用されている空気式防舷材の管理システムの実施形態を上面視で例示する説明図である。
図2図1の一部拡大図である。
図3図2の縦型空気式防舷材を側面視で例示する説明図である。
図4図3の縦型空気式防舷材の内部を縦断面視で例示する底面図である。
図5図4のICタグを平面視で例示する説明図である。
図6図5のICタグを正面視で例示する説明図である。
図7】図のICタグと通信機との間で無線通信をしている状態を拡大して例示する説明図である。
図8図2の防舷材本体の周方向位置をずらして使用場所に設置し直した縦型空気式防舷材を例示する説明図である。
図9】通信網を通じて演算装置と端末機器とが接続されている管理システムの構成を例示する説明図である。
図10】横型空気式防舷材に適用されている管理システムの実施形態を上面視で例示する説明図である。
図11図10の空気式防舷材を側面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の空気式防舷材の管理システムおよび方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1図4に例示する空気式防舷材の管理システム1の実施形態は、使用場所である岸壁10での空気式防舷材11Aの状態を把握するために使用される。この実施形態では、管理対象が縦型空気式防舷材11A(以下、防舷材11A)である。
【0012】
この管理システム1は、防舷材11Aに設置されるパッシブ型のICタグ2(2a、2b、2c、2d)と、通信機7と、演算装置8とを備えている。通信機7は防舷材11Aの外部に配置されていて、それぞれのICタグ2と無線通信する。通信機7と演算装置8とは有線または無線によって通信可能に接続されている。
【0013】
防舷材11Aは、円筒状の胴部13の筒軸方向両側にボウル状端部14a、14bが連接された防舷材本体12を有している。一方のボウル状端部14aにはチェーン17を介して重錘16が接続されている。他方のボウル状端部14bはバルブ類が設置された口金部15を有している。図中の二点鎖線は、胴部13とそれぞれのボウル状端部14a、14bとの境界線を示しているが、実際の防舷材本体12にはこの境界線は存在しない。図中の一点鎖線CLは、胴部13(防舷材11A)の筒軸心を示している。筒軸心CLは、胴部13およびそれぞれのボウル状端部14a、14bの横断面中心を通過して延在している。筒軸心CLが延在している方向が筒軸方向である。
【0014】
防舷材本体12の構造を詳述すると、胴部13は内層ゴムと外層ゴムとの間に複数の補強層が積層されて構成されている。それぞれの補強層は、多数のコードが平行に引き揃えられて形成されたコード層である。胴部13は積層されて隣り合う補強層どうしのコードが交差したバイアス構造になっていて、それぞれのコードは筒軸心CLに対して所定のコード角度で配置されている。
【0015】
それぞれのボウル状端部14a、14bは、内層ゴムと外層ゴムとの間に複数の補強層が積層されて構成されている。この複数の補強層は、ボウル状端部14a、14bのボウル頂点を中心にして放射状に延設されたコードで形成された補強層と、円周方向に延設されたコードで形成された補強層とが交互に積層されていて、それぞれのボウル状端部14a、14bはいわゆるラジアル構造になっている。ボウル状端部14a、14bのコードの仕様は、基本的に胴部13の補強層のコードと同じである。
【0016】
図4に例示するように、防舷材本体12の内部空間には空気aと所定量のバラスト水Wとが収容されている。防舷材本体12の使用時の内部空間の規制内圧は、例えば50kPa以上100kPa以下程度である。防舷材本体12には、バラスト水Wと重錘16によって鉛直下向きの力が加わり、この鉛直下向きの力と防舷材本体12に作用する浮力とがバランスして、一方のボウル状端部14aが防舷材本体12の下端部、他方のボウル状端部14bが防舷材本体12の上端部になっている。
【0017】
複数の防舷材11Aは、筒軸心CLの延在方向を上下方向に維持して岸壁10に互いに間隔をあけて配置されている。それぞれの防舷材11Aの口金部15には、岸壁10に一端部が固定された固定ロープ18が複数本接続されている。そして、それぞれの防舷材11Aは、筒軸心CLを中心にした回転が規制されて岸壁10に設置されている。したがって、それぞれの防舷材11Aは、筒軸心CLを中心にして周方向には殆どずれることなく岸壁10に固定れている。図1に例示するように、それぞれの防舷材11Aには岸壁10に係留される船舶19が近接し、その後接触する。
【0018】
ICタグ2は、防舷材本体12の周方向に間隔をあけて対向する位置に設置されている。この実施形態では、上側のボウル状端部14bに4個のICタグ2が筒軸心CLを中心にして周方向に等間隔(90°)の位置に配置されている。それぞれのICタグ2は水上の位置に配置される。ICタグ2は4個に限らず、例えば2個のICタグ2を周方向に等間隔(180°)の位置に配置することもできる。
【0019】
防舷材本体12の外表面には、それぞれのICタグ2が配置されている周方向位置を示す表示Sが付されている。この実施形態では、上下方向に延在する4本の表示Sが、上側のボウル状端部14bに筒軸心CLを中心にして周方向に等間隔(90°)の位置に付されている。そして、周方向に隣り合うそれぞれの表示Sの間の範囲に1個のICタグ2が配置された状態になっている。表示Sは、防舷材本体12の表面色(黒色)とは異なる色のゴム片(例えば白色ゴム片)を接合して形成することも、塗料などを塗布して形成することもできる。
【0020】
詳述すると、それぞれの表示Sは、上側のボウル状端部14bの上下方向中央部から胴部13の上端部に渡って延在している。周方向に隣り合うそれぞれの表示Sの周方向間隔の中間位置付近には、1個のICタグ2が配置されている。したがって、周方向に隣り合う表示Sは、これら表示Sどうしの間の周方向位置にICタグ2が配置されていることを示している。
【0021】
表示Sは、それぞれのICタグ2が配置されている周方向位置を防舷材11Aの外観から示すことができればよいので、他の形態を採用することもできる。例えば、それぞれのICタグ2が配置されている周方向位置と一致する位置の防舷材本体12の外表面に表示Sが付された形態にすることもできる。表示Sは、岸壁10や船舶19と接触して摩滅することを回避するために、少なくとも、上側のボウル状端部14bの外表面に付すことが好ましい。
【0022】
図5図6に例示するようにICタグ2は、ICチップ3と、ICチップ3に接続されたアンテナ部4とを有している。この実施形態では、圧力センサ6aおよび温度センサ6bが一体化して装備されているICタグ2が使用されている。圧力センサ6aおよび温度センサ6bは任意でICタグ2に備えることができる。防舷材11Aには、圧力センサ6aおよび温度センサ6bの両方またはいずれか一方が設置されていなくてもよい。圧力センサ6aおよび温度センサ6bが一体化して装備されていないICタグ2に、独立した圧力センサ6aや温度センサ6bを接続してもよい。
【0023】
ICチップ3のサイズは非常に小さく、例えば、縦寸法および横寸法がそれぞれ50mm以下(外径相当で50mm以下)、厚みが5mm以下である。アンテナ部4のサイズも非常に小さい。この実施形態では、アンテナ部4はICチップ3から左右対称に延在する金属単線からなるダイポール型が採用されている。それぞれの金属単線の長さは10mm以上200mm以下程度である。
【0024】
ICチップ3には、そのICタグ2の識別番号Aなどのタグ固有情報、その他に必要な情報を任意で記憶することができる。ICタグ2には一般に流通している仕様が採用され、例えばRFIDタグを用いることができる。
【0025】
ICチップ3は、基板5の表面に配置されている。ICチップ3に接続されている圧力センサ6aおよび温度センサ6bは、基板5の裏面に配置されている。アンテナ部4(金属単線)は、基板5から突出して延在している。尚、アンテナ部4はダイポール型に限らず、公知の種々のタイプを採用することができ、例えば基板5に形成されたセラミックアンテナを採用することもできる。
【0026】
ICタグ2は絶縁層5aによって覆われていて、ICタグ2の全体は外部と電気的に絶縁されている。ただし、圧力センサ6aおよび温度センサ6bの検知部は絶縁層5aによって被覆されずに絶縁層5aの表面から露出状態になっている。絶縁層5aとしては、ABS、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネイト、ポリイミド、エポキシなどの樹脂を用いることができる。長く延在するアンテナ部4(金属単線)を被覆するには、ポリ塩化ビニルが柔軟性に優れているので非常に適している。
【0027】
この実施形態では、ICタグ2は防舷材本体12の内層ゴムに埋設された状態になっている。ICタグ2は、防舷材本体12の内表面に接合してその表面をゴム部材で被覆して取り付けることもできる。防舷材本体12に設置されたICタグ2では、圧力センサ6aおよび温度センサ6bの検知部だけは防舷材11Aの内部空間に露出状態になる。
【0028】
防舷材本体12の中では、ボウル状端部14bは変形が少なく、また外力を受け難いので、ICタグ2はボウル状端部14bに設置にすることが好ましい。また、金属単線からなるダイポール型のアンテナ部4は優れた屈曲耐久性を有しているので、防舷材本体12の繰り返しの変形に起因して損傷することを回避するには有利になる。
【0029】
圧力センサ6aは防舷材11Aの内圧を検知する。圧力センサ6aは、ICタグ2に装備できれば公知の種々のタイプを採用することができる。圧力センサ6aにより検知された検知データD1は、ICタグ2から通信機7に送信される。
【0030】
温度センサ6bは防舷材11Aの内部空間の温度を検知する。温度センサ6bは、ICタグ2に装備できれば公知の種々のタイプを採用することができる。温度センサ6bにより検知された検知データD2は、ICタグ2から通信機7に送信される。
【0031】
通信機7は、それぞれのICタグ2と無線通信する。詳述すると、図7に例示するように、通信機7は電波発信部7aおよび電波受信部7bを備えている。電波発信部7aからICタグ2に対して発信電波R1が送信される。アンテナ部4が受信した発信電波R1によって、ICタグ2には電力が発生してICタグ2が起動する。起動したICタグ2はこの電力によってアンテナ部4を通じて返信電波R2を送信し、この返信電波R2が電波受信部7bにより受信される。このように、発信電波R1に応じて返信電波R2が送信されることによりICタグ2と通信機7との間で無線通信が行われる。この無線通信(返信電波R2)によって、識別情報A、検知データD1、D2などがICタグ2から通信機7に送信されて取得される。
【0032】
通信機7としては、パッシブ型のICタグ2(RFIDタグ)との間で無線通信を行うことができる一般に流通している仕様が採用される。これにより、ICタグ2と通信機7とがRFID(RadioFrequencyIDentification)システムを構成する。この実施形態では、持ち運び自在のハンディタイプの通信機7が用いられている。パッシブ型のICタグ2を使用するので、ICタグ2と通信機7との間の通信距離の上限は例えば1m程度になる。
【0033】
演算装置8には、通信機7により取得された識別情報Aや検知データD1、D2が入力される。演算装置8は入力されたデータを用いて様々な演算処理を行う。演算装置8としては、公知のコンピュータが用いられる。この実施形態では、通信機7と演算装置8とが別体になっているが、通信機7に演算装置8の機能を具備させた構成にして、独立した演算装置8を省略することもできる。
【0034】
以下、この管理システム1を使用して防舷材11Aの状態を把握する手順の一例を説明する。
【0035】
図1図2に例示するように、防舷材11Aを、筒軸心CLを中心にした回転を規制して岸壁10に設置する。この実施形態では、図2に例示する上面視で防舷材本体12のICタグ2aが配置されている側が岸壁10に接触するように防舷材本体12が配置されている。上面視で防舷材本体12のこのICタグ2aと対向するICタグ2cが配置されている側には、岸壁10に係留される船舶19が接触することになる。
【0036】
まず、事前情報として、それぞれのICタグ2の識別情報A、それぞれのICタグ2の防舷材本体12での周方向設置位置、使用場所の岸壁10でのそれぞれのICタグ2の周方向配置位置を把握して演算装置8に入力、記憶する。図2の防舷材11Aでは、ICタグ2a、2b、2c、2dの識別情報Aが演算装置8に記憶される。また、ICタグ2a、2b、2c、2dの防舷材本体12での周方向設置位置として、それぞれのICタグ2a、2b、2c、2dが周方向に等間隔(90°)で配置されていて、表示Sに対して周方向にどの程度ずれた位置に設置されているかを示す位置データが演算装置8に記憶される。例えば、1つの表示Sを基準として設定しておき、その基準の表示Sに対するそれぞれのICタグ2a、2b、2c、2dの周方向位置を示す位置データを演算装置8に記憶する。この位置データにより、防舷材11Aを目視して基準となる表示Sを確認すれば、防舷材本体12でのそれぞれのICタグ2a、2b、2c、2dの周方向設置位置が把握できる。
【0037】
そして、防舷材11Aが岸壁10に設置された状態での岸壁10に対するそれぞれのICタグ2a、2b、2c、2dの周方向配置位置を把握する。この周方向配置位置は、上述したそれぞれのICタグ2a、2b、2c、2dの防舷材本体12での周方向設置位置と、防舷材11Aを目視して確認した基準となる表示Sの位置とに基づいて把握できる。具体的には図2では、ICタグ2aは岸壁10に隣接した配置位置、ICタグ2cは岸壁10とは反対側の配置位置、ICタグ2bはICタグ2aとICタグ2cとの間でICタグ2aに対して時計回り側の配置位置、ICタグ2dはICタグ2aとICタグ2cとの間でICタグ2aに対して反時計回り側の配置位置であるとして、岸壁10でのそれぞれのICタグ2a、2b、2c、2dの周方向配置位置が演算装置8に記憶される。或いは、防舷材11Aが岸壁10に設置された状態で、岸壁10の上の通信機7と岸壁10に隣接した配置位置にあるICタグ2とを無線通信させて、そのICタグ2の識別情報Aを取得する。取得した識別情報Aから岸壁10に隣接した配置位置にあるICタグ2は、ICタグ2aであることが判明する。そして、防舷材本体12でのそれぞれのICタグ2の周方向設置位置は把握されているので、その他のICタグ2b、2c、2dの岸壁10での周方向配置位置が把握できる。
【0038】
上記のように事前情報を予め把握してから防舷材11Aの状態を把握する管理作業が開始される。それぞれの防舷材11Aに対して、定期時期、或いは、定期期間経過毎に、図7に例示するように岸壁10の上の通信機7と岸壁10に隣接した配置位置にあるICタグ2とを無線通信させて、そのICタグ2の識別情報Aを取得し、その結果を演算装置8に記憶する。例えば、1週間毎や1か月毎にこの無線通信を行い、それぞれ防舷材11Aについて時系列で岸壁10に隣接した配置位置にあるICタグ2を把握する。
【0039】
この無線通信を行って取得した識別情報Aに変化がなければ、岸壁10に隣接した配置位置にあるICタグ2の位置が不変であるので、その防舷材11Aの防舷材本体12は周方向位置を変えずに岸壁10に設置されていたと判断することができる。したがって、時系列で取得されるICタグ2の識別情報Aに変化がない期間が、防舷材本体12が周方向位置を変えずに岸壁10に設置されていた期間(位置固定期間X)として演算装置8により特定される。
【0040】
図2に例示する防舷材11Aの設置状態では、防舷材本体12のICタグ2cが配置されている側に、岸壁10に係留される船舶19が頻繁に接触するので、その接触部分が局部的に損耗する。位置固定期間Xが長すぎると、その接触部分の損耗が大きくなるので位置固定期間Xの上限値を設定しておく。
【0041】
そして、位置固定期間Xが上限値を超えた場合は、筒軸心CLを中心にして防舷材本体12を周方向にずらして岸壁10に設置し直す。これにより、図2の設置状態の防舷材11Aを図8に例示する設置状態にする。
【0042】
図8に例示する防舷材11Aは、図2の設置状態から筒軸心CLを中心にして防舷材本体12を時計回りに90°ずらして設置し直されている。上側のボウル状端部14bの外表面に90°間隔で表示Sが付されているので、この表示Sを参照して防舷材本体12を時計回りに90°ずらした位置にセットすることできる。
【0043】
筒軸心CLを中心にして防舷材本体12を周方向にずらして岸壁10に防舷材11Aを設置し直した時は、設置し直したことが演算装置8に記憶される。岸壁10でのそれぞれのICタグ2の周方向配置位置が更新されて演算装置8に記憶される。そして、この設置し直した状態で、防舷材11Aの状態を把握する新たな管理作業が開始される。新たな管理作業は図2の設置状態の場合の管理作業と同様である。以後、同様に筒軸心CLを中心にして防舷材本体12を時計回りに90°ずらして防舷材11Aを設置し直すことで、防舷材本体12のそれぞれのICタグ2a、2b、2c、2dが配置されている側を、船舶19に接触させるようにローテーションして防舷材11Aを使用する。
【0044】
この管理システム1によれば、上記のように特定された位置固定期間Xを指標にして、防舷材本体12を適時、筒軸心CLを中心にして周方向にずらして岸壁10に設置し直すことが可能になる。これにより、船舶19の接触による防舷材11Aでの偏った範囲の損耗が抑制される。その結果、防舷材本体12の大部分が健全であるが一部分が著しく損耗しているために防舷材11Aを交換する必要があるという事態が回避できるので、防舷材11Aをより有効に使用するには有利になる。
【0045】
尚、位置固定期間Xが上限値を超えた場合は、筒軸心CLを中心にして防舷材本体12を周方向に180°ずらして防舷材11Aを設置し直すことも、反時計回りに90°ずらして防舷材11Aを設置し直すこともできる。筒軸心CLを中心にした防舷材本体12の周方向のずらし量や方向(時計回り、反時計回り)は適宜設置することができるが、防舷材本体12の周方向での船舶19の接触に起因する損耗の偏りが抑制されるように、防舷材本体12を筒軸心CLを中心にして周方向にずらすローテーションを行う。
【0046】
この実施形態では、ICタグ2と通信機7との間で無線通信する度に、圧力センサ6aおよび温度センサ6bによる検知データD1、D2も取得できる。即ち、通信機7を用いてICタグ2と無線通信をすることで、防舷材11Aの内圧、内部温度を容易に把握できる。そのため、防舷材11Aの経時的な内圧変化、内部温度変化に基づいて防舷材11Aの状態(異常の有無など)をより詳細に把握するには有利になる。
【0047】
図9に例示するように、管理システム1は演算装置8を所望の端末機器9とインターネットなどの通信網を介して接続された構成にするとよい。例えば、防舷材11Aの使用場所に対して遠隔地にある防舷材11Aの運用会社(ユーザ)の管理室、防舷材11Aの販売会社、製造会社などの関係者の端末機器9に対して、所望の情報(設置状態、内圧データ、内部温度データなど)を演算装置8から送信する。この構成によれば、これら端末機器9を有する関係者は防舷材11Aの使用場所に対して遠隔地に居ながら防舷材11Aの状態を把握、管理することができる。
【0048】
図10図11に例示するように、この管理システム1はいわゆる横型空気式防舷材11B(以下、防舷材11Bという)に適用することもできる。防舷材11Bは、一方のボウル状端部14aを左側、他方のボウル状端部14bを右側にして横倒し状態で岸壁10に設置されている。それぞれのボウル状端部14a、14bにある口金部15には、岸壁10に一端部が固定された固定ロープ18が接続されている。そして、防舷材11Bは、筒軸心CLを中心にした回転が規制されて岸壁10に設置されている。
【0049】
右側のボウル状端部14bには、4個のICタグ2が筒軸心CLを中心にして周方向に等間隔(90°)の位置に配置されている。また、左右方向に延在する4本の表示Sが、右側のボウル状端部14bに筒軸心CLを中心にして周方向に等間隔(90°)の位置に付されている。そして、周方向に隣り合うそれぞれの表示Sの間に1個のICタグ2が配置された状態になっている。
【0050】
この実施形態では、図11に例示する側面視で防舷材本体12のICタグ2dが配置されている側が岸壁10に接触するように防舷材本体12が配置されている。側面視で防舷材本体12のこのICタグ2dと対向するICタグ2bが配置されている側には船舶19が接触することになる。
【0051】
この防舷材11Bに管理システム1を適用する際も、上述した防舷材11Aと同様の管理作業を行う。この防舷材11Bに管理システム1を適用する場合も、防舷材11Aの場合で説明した様々なアレンジをすることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 管理システム
2 ICタグ
3 ICチップ
4 アンテナ部
5 基板
5a 絶縁層
6a 圧力センサ
6b 温度センサ
7 通信機
7a 電波発信部
7b 電波受信部
8 演算装置
9 端末機器
10 岸壁
11A、11B 空気式防舷材
12 防舷材本体
13 胴部
14a、14b ボウル状端部
15 口金部
16 重錘
17 チェーン
18 固定ロープ
19 船舶
W バラスト水
A 識別情報
D1、D2 検知データ
S 表示
【要約】
【課題】船舶の接触による防舷材での偏った範囲の損耗を抑制して防舷材をより有効に使用できる空気式防舷材の管理システムおよび方法を提供する。
【解決手段】筒軸心CLを中心にした回転を規制して空気式防舷材11Aを岸壁10に設置し、防舷材本体12の周方向に間隔をあけて対向する位置にパッシブ型のICタグ2を設置し、空気式防舷材11Aの外部に各ICタグ2と無線通信可能な通信機7を配置して、各ICタグ2の識別情報、各ICタグ2の防舷材本体12での周方向設置位置、岸壁10での各ICタグ2の周方向配置位置を事前情報として把握し、無線通信を用いて通信機7により取得したICタグ2の識別情報と、識別情報を取得した時のそのICタグ2の岸壁10での周方向配置位置と、事前情報とに基づいて、岸壁10での防舷材本体12の周方向に関する位置固定期間を演算装置8により特定する。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11