(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】結合体、及び癌治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 47/64 20170101AFI20241023BHJP
A61K 31/16 20060101ALI20241023BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
A61K47/64
A61K31/16
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2021516187
(86)(22)【出願日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2020017421
(87)【国際公開番号】W WO2020218390
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019083250
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム、COI拠点「スマートライフケア社会への変革を先導するものづくりオープンイノベーション拠点」産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】508123858
【氏名又は名称】SBIファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】西山 伸宏
(72)【発明者】
【氏名】野本 貴大
(72)【発明者】
【氏名】河本 花奈
(72)【発明者】
【氏名】武元 宏泰
(72)【発明者】
【氏名】松井 誠
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-162569(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170845(WO,A1)
【文献】横山「高分子ナノメディカル」プロジェクト研究概要集,平成20年度終了プロジェクト報告会 資料 2009.2.26
【文献】New England Journal of Medicine,2011年,365(6):576-578
【文献】Cancer Research,1990年,50(16):4929-4930
【文献】Macromolecular Bioscience,2017年,17, 1600244
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/64
A61P 35/00
A61K 31/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デフェロキサミン又はそのイオン若しくは塩、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種の化合物であるデフェロキサミン類と、生体適合性高分子と、が結合し、
前記誘導体は
、デフェロキサミン又はそのイオン若しくは塩において、水素原子が付加または脱離されたものであり、
前記生体適合性高分子が、第1の生体適合性高分子鎖と、前記第1の生体適合性高分子鎖とは異なる第2の生体適合性高分子鎖とを含み、
前記第1の生体適合性高分子鎖がポリエチレングリコールであり、
下記一般式(1-2)で表される構造を含む、結合体:
【化1】
(式(1-2)中、
lは、1~1500の整数であり、
Bは、前記第2の生体適合性高分子鎖を表し、下記(b2-1)で表される繰り返し構造、又は(b1-1)で表される繰り返し構造及び(b2-1)で表される繰り返し構造を含む。)
【化2】
(式(b1-1)~(b2-1)中、
R
11は、アスパラギン酸側鎖を表し、
R
12は、-CH
2-COOHで表されるアスパラギン酸側鎖におけるカルボキシル基と、前記デフェロキサミン類とが結合したものであり、
n
1は(b1-1)及び(b2-1)の合計数を表し、n
1は1~1000の整数であり、m
1は1~1000の整数である(ただしm
1≦n
1))。
【請求項2】
前記結合体は、数平均分子量が2,000~200,000である、請求項1に記載の結合体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の結合体を有効成分として含有する癌治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デフェロキサミン類との結合体、及び癌治療剤に関する。
本願は、2019年4月24日に、日本に出願された特願2019-083250号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
がん細胞は増殖するうえで必須である鉄の要求量が高く、鉄キレート剤をがん治療薬へと応用する鉄キレート療法は、がん治療への新たなアプローチとして注目を集めている。多数ある鉄キレート剤の中でも、鉄(III)イオンに対して特異的なキレート作用を示すデフェロキサミン(DFO)は、鉄過剰症の治療薬として広く使用されていることから、これまでに最も盛んに研究され、種々のがん細胞株に対して、細胞周期停止を介した細胞増殖抑制効果を示すことが報告されている(非特許文献1-3)。また、臨床研究も進められており、一定の抗腫瘍効果が示されている(非特許文献4及び5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Becton DL., Bryles P. Deferoxamine Inhibition of Human Neuroblastoma Viability and Proliferation. Cancer Research 48, 7189-7192, (1988).
【文献】Yang Y., Xu Y., Su A., Yang D., Zhang X. Effects of Deferoxamine on Leukemia In Vitro and Its Related Mechanism. Med Sci Monit. 24, 6735-6741, (2018).
【文献】Bajbouj K., Shafarin J., Hamad M. High-Dose Deferoxamine Treatment Disrupts Intracellular Iron Homeostasis, Reduces Growth, and Induces Apoptosis in Metastatic and Nonmetastatic Breast Cancer Cell Lines. Technol Cancer Res Treat 17, 1-11, (2018).
【文献】Yamasaki T., Terai S., Sakaida I. Deferoxamine for Advanced Hepatocellular Carcinoma. The New England Journal of Medicine 365, 576-578, (2011).
【文献】Donfrancesco A., Deb G., Dominici C., Pileggi D., Castello MA., Helson L. Effects of a Single Course of Deferoxamine in Neuroblastoma Patients. Cancer Research 50, 4929-4930, (1990).
【文献】Hamilton JL., Kizhakkedathu JN. Polymeric nanocarriers for the treatment of systemic iron overload. Mol. Cell. Ther. 3, 3, (2015).
【文献】Hallaway PE., Eaton JW., Panter SS., Hedlund BE. Modulation of deferoxamine toxicity and clearance by covalent attachment to biocompatible polymers. Proc Natl Acad Sci USA 86, 10108-10112, (1989).
【文献】Blatt J., Boegel F., Hedlund BE., Arena VC., Shadduck RK. Failure to alter the course of acute myelogenous leukemia in the rat with subcutaneous deferoxamine. Leukemia Research 15, 391-394, (1991).
【文献】Wang W., Tabu K., Hagiya Y., Sugiyama Y., Kokubu Y., Murota Y., Ogura S., Taga T. Enhancement of 5-aminolevulinic acid-based fluorescence detection of side population-defined glioma stem cells by iron chelation. Scientific Reports 7:42070, (2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、DFOの血中濃度半減期は20分以下と極めて短く、十分な治療効果を得るには、点滴により長時間(8h~)にわたって投与する必要がある(非特許文献4-6)。また、腫瘍への選択的な集積性を持たないため、全身への副作用も懸念される。
前者の早期消失性の問題は、DFOをデキストランやヒドロキシエチルスターチ(HES)といった高分子に結合させることで改善され(非特許文献7)、HESに結合させたDFO(HES-DFO)を投与された白血病ラットでは生存期間の延長が報告されている(非特許文献8)。しかし、HES-DFOの腫瘍集積性は検討されておらず、高分子修飾されたDFOが固形がんに対して抗腫瘍効果を示したという例は、いまだ報告されていない。
【0005】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、血中滞留性に優れ、更には腫瘍集積性を有し、優れた抗腫瘍効果を発揮する、結合体及び癌治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
【0007】
<1>デフェロキサミン又はそのイオン若しくは塩、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種の化合物であるデフェロキサミン類と、生体適合性高分子と、が結合し、前記生体適合性高分子が、第1の生体適合性高分子鎖と、前記第1の生体適合性高分子鎖とは異なる第2の生体適合性高分子鎖とを含む、結合体。
<2>前記デフェロキサミン類が、前記第2の生体適合性高分子鎖に結合した、前記<1>に記載の結合体。
<3>前記第2の生体適合性高分子鎖がポリアミノ酸である、前記<1>又は<2>に記載の結合体。
<4> 前記第1の生体適合性高分子鎖がポリエチレングリコールである、前記<1>~<3>のいずれか一つに記載の結合体。
<5>下記一般式(1)又は(1-1)で表される構造を含む、前記<1>~<4>のいずれか一つに記載の結合体:
【化1】
(式(1)~(1-1)中、
Aは、前記第1の生体適合性高分子鎖を表し、
Lは、リンカー部を表し、
Bは、前記第2の生体適合性高分子鎖を表し、下記(b2)で表される繰り返し構造、又は(b1)で表される繰り返し構造及び(b2)で表される繰り返し構造を含む。)
【化2】
(式(b1)~(b2)中、
R
1は、アミノ酸側鎖を表し、
R
2は、アミノ酸側鎖と前記デフェロキサミン類とが結合したものであり、
nは(b1)及び(b2)の合計数を表し、nは1~1000の整数であり、mは1~1000の整数であり(ただしm≦n)、n-mが2以上である場合、複数個のR
1は互いに同一でも異なっていてもよく、mが2以上である場合、複数個のR
2は互いに同一でも異なっていてもよい。)。
<6>下記一般式(1-2)で表される構造を含む、前記<5>に記載の結合体:
【化3】
(式(1-2)中、
Bは、前記第2の生体適合性高分子鎖を表し、下記(b2-1)表される繰り返し構造、又は(b1-1)表される繰り返し構造及び(b2-1)表される繰り返し構造を含む。)
【化4】
(式(b1-1)~(b2-1)中、
R
11は、アミノ酸側鎖を表し、
R
12は、-CH
2-COOHで表されるアスパラギン酸側鎖、又は-CH
2-CH
2-COOHで表されるグルタミン酸側鎖におけるカルボキシル基と、前記デフェロキサミン類とが結合したものであり、
n
1は(b1-1)及び(b2-1)の合計数を表し、n
1は1~1000の整数であり、m
1は1~1000の整数であり(ただしm
1≦n
1)、n
1-m
1が2以上である場合、複数個のR
11は互いに同一でも異なっていてもよく、m
1が2以上である場合、複数個のR
12は互いに同一でも異なっていてもよい。)。
<7>数平均分子量が2,000~200,000である、前記<1>~<6>のいずれか一つに記載の結合体。
<8>前記<1>~<7>のいずれか一つに記載の結合体を有効成分として含有する癌治療剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、血中滞留性に優れ、更には腫瘍集積性を有し、優れた抗腫瘍効果を発揮する、結合体及び癌治療剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例で作製したPEG-PBLA
35の
1H NMRスペクトルである。
【
図2】PEG-PBLA
35のGPCカーブである。
【
図3】実施例で作製したPEG-PBLA
78の
1H NMRスペクトルである。
【
図4】PEG-PBLA
78のGPCカーブである。
【
図5】実施例で作製したPEG-PAsp
35の
1H NMRスペクトルである。
【
図6】PEG-PAsp
35のGPCカーブである。
【
図7】実施例で作製したPEG-PAsp
78の
1H NMRスペクトルである。
【
図8】PEG-PAsp
78のGPCカーブである。
【
図9】実施例で作製したPEG-P[Asp(DFO)
10]
35の
1H NMRスペクトルである。
【
図10】PEG-P[Asp(DFO)
10]
35のGPCカーブである。
【
図11】実施例で作製したPEG-P[Asp(DFO)
26]
78の
1H NMRスペクトルである。
【
図12】PEG-P[Asp(DFO)
26]
78のGPCカーブである。
【
図13】Calcein-AM 法の原理を説明する概要図である。
【
図14】DFO/Fe及びPEG-P[Asp(DFO)
m]
n (n=35, 78)/FeのUV-Visスペクトルである。
【
図15A】フローサイトメトリーにより取得した、calcein 蛍光の蛍光強度を示すグラフである。
【
図15B】フローサイトメトリーにより取得した、calcein 蛍光の蛍光強度を示すグラフである。
【
図16】Cy5-PEG-PAsp(DFO)を加えて24時間インキュベーションした後のDLD-1細胞の様子を示す共焦点顕微鏡の観察画像である。
【
図17A】DFO 及び PEG-P[Asp(DFO)
10]
35の細胞取り込み量を示すグラフである。
【
図17B】DFO 及び PEG-P[Asp(DFO)
10]
35の細胞取り込み量を示すグラフである。
【
図18A】DFO及びPEG-P[Asp(DFO)
10]
35を加えてインキュベーションした後のDLD-1細胞の、細胞周期を解析した結果を示すグラフである。
【
図18B】DFO及びPEG-P[Asp(DFO)
10]
35を加えてインキュベーションした後のDLD-1細胞の、細胞周期を解析した結果を示すグラフである。
【
図19】PEG-P[Asp(DFO)
m]
n (n=35, 78) を加えてインキュベーションした後のDLD-1細胞において、細胞増殖が抑制されたことを示すグラフである。
【
図20】CT26皮下腫瘍マウスモデルにおいて、DFOと PEG-P[Asp(DFO)
m]
n (n=35, 78)とでの、血中滞留性を比較した結果を示すグラフである。
【
図21】CT26皮下腫瘍マウスモデルにおいて、DFOと PEG-P[Asp(DFO)
m]
n (n=35, 78)とでの、腫瘍集積性を比較した結果を示すグラフである。
【
図22】DLD-1皮下腫瘍マウスモデルにおける、DFO又は PEG-P[Asp(DFO)
m]
n (n=35, 78)の投与による、腫瘍サイズの経時変化を示すグラフである。
【
図23】DLD-1皮下腫瘍マウスモデルの、DFO又は PEG-P[Asp(DFO)
m]
n (n=35, 78)の投与による、体重の経時変化を示すグラフである。
【
図24】CT26皮下腫瘍マウスモデルにおける、DFO又は PEG-P[Asp(DFO)
m]
n (n=35, 78)の投与による、腫瘍サイズの経時変化を示すグラフである。
【
図25】CT26皮下腫瘍マウスモデルの、DFO又は PEG-P[Asp(DFO)
m]
n (n=35, 78)の投与による、体重の経時変化を示すグラフである。
【
図26】5-アミノレブリン酸を用いた光線力学診断及び/又は治療の原理を説明する概要図である。
【
図27A】DFO又はPEG-P[Asp(DFO)
10]
35、及びFerroOrangeを加えてインキュベーションした後のDLD-1細胞の様子を示す共焦点顕微鏡の観察画像である。
【
図27B】DFO又はPEG-P[Asp(DFO)
10]
35を加えてインキュベーションした後のDLD-1細胞質内自由鉄の量を解析した結果を示すグラフである。
【
図28A】DFO又はPEG-P[Asp(DFO)
10]
35、及びFITC-抗BrdU 抗体を加えてインキュベーションした後のDLD-1細胞の様子を示す共焦点顕微鏡の観察画像である。
【
図28B】DFO又はPEG-P[Asp(DFO)
10]
35を加えてインキュベーションした後のDLD-1細胞の、細胞周期を解析した結果を示すグラフである。
【
図29A】DFO又はPEG-P[Asp(DFO)
10]
35を加えてインキュベーションした後のDLD-1細胞におけるアポトーシス誘導の状況を、FCMにより解析した結果を示すグラフである。
【
図29B】DFO又はPEG-P[Asp(DFO)
10]
35を加えてインキュベーションした後のDLD-1細胞を、生細胞、アポトーシス初期細胞、又はアポトーシス後期・ネクローシス細胞に換算した結果を示すグラフである。
【
図30】CT26皮下腫瘍マウスモデルにおける、DFO又はPEG-P[Asp(DFO)
10]
35の投与による、腫瘍中のプロトポルフィリンIX蓄積の経時変化を示すグラフである。
【
図31】CT26細胞の培養液にビタミンC及びPEG-P[Asp(DFO)
36]
76を添加し、がん細胞の殺傷効果が確認されたことを示すグラフである。
【
図32】CT26皮下腫瘍マウスモデルにおける、ビタミンC、又はビタミンC及びPEG-P[Asp(DFO)
36]
76の投与による、腫瘍サイズの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態における、結合体及び癌治療剤を説明する。
【0011】
≪結合体≫
実施形態の結合体は、デフェロキサミン類と、生体適合性高分子と、が結合し、前記生体適合性高分子が、第1の生体適合性高分子鎖と、前記第1の生体適合性高分子鎖とは異なる第2の生体適合性高分子鎖とを含むものである。
実施形態の結合体は、デフェロキサミン類に由来する鉄キレート作用を有するものであり、鉄(III)イオンに対して特異的なキレート作用を有することが好ましい。
【0012】
実施形態の結合体は、デフェロキサミン類と、高分子と、が結合し、前記高分子が、第1の高分子鎖と、前記第1の高分子鎖とは異なる第2の高分子鎖とを含むものであってよく、前記高分子は生体適合性高分子であってよい。
【0013】
<デフェロキサミン類>
本明細書において「デフェロキサミン類」とは、デフェロキサミン又はそのイオン若しくは塩、及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を意味する。
【0014】
デフェロキサミンは、下記式(I)で表される化合物(以下、「化合物(I)」という」として知られている。デフェロキサミンは、多数ある鉄キレート剤の中でも鉄(III)イオンに対して特異的なキレート作用を示し、鉄過剰症の治療薬としても広く使用されている。
【0015】
【0016】
デフェロキサミンは、イオン若しくは塩の形態で提供され得る。上記化合物(I)のデフェロキサミンのイオンとしては、化合物(I)がカチオンとなったものでもよく、化合物(I)がアニオンとなったものでもよい。
化合物(I)がカチオンとなったものとしては、化合物(I)において「-NH2」で表される基にプロトンが付加して、「―NH3
+」で表されるカチオン部となったものが挙げられる。
【0017】
化合物(I)のイオンとしては、例えば下記式(I-1)で表される化合物が挙げられる。
【0018】
【0019】
デフェロキサミンの塩としては、例えば、薬理学的に許容される塩が挙げられ、下記式(I-2)で表されるデフェロキサミンメシル酸塩が好ましい。
【0020】
【0021】
薬理学的に許容される塩としては、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等を挙げることができる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の各無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の各有機酸付加塩を例示することができる。金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の各アルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム塩等の各アルカリ土類金属塩、アルミニウム、亜鉛等の各金属塩を例示することができる。アンモニウム塩としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩等を例示することができる。有機アミン塩としては、トリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩、トルイジン塩等の各塩を例示することができる。なお、これらの塩は使用時において溶液としても用いることができる。
【0022】
デフェロキサミンの誘導体としては、上記鉄キレート作用を有するものであれば特に制限されない。デフェロキサミンの誘導体としては、デフェロキサミン又はそのイオン若しくは塩において、1個以上の水素原子又は基が、それ以外の基(置換基)で置換されたものが挙げられる。また、デフェロキサミン又はそのイオン若しくは塩において、水素原子が付加または脱離されたものであってもよい。ここで置換基としては、水酸基、アミノ基、炭素数1~4の1価の鎖状飽和炭化水素基、ハロゲン原子等が挙げられる。炭素数1~4の1価の鎖状飽和炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子等が挙げられる。
【0023】
デフェロキサミンの鉄キレート作用は、下記式(I-3)中に示す、3つのヒドロキサム酸構造部分により発揮されるとされる。したがって、鉄キレート作用に影響を及ぼし難いことから、例えば、上記の化合物(I)においては、末端の「-NH2」で表される基(上記の化合物(I-1)においては、末端の「-NH3
+」で表される基)を構成する水素原子の1個以上がそれ以外の基(前記置換基)で置換されたものが好ましい。
【0024】
【0025】
<生体適合性高分子>
本実施形態の結合体において、生体適合性高分子とは、生体に投与した場合に、強い炎症反応や傷害等の著しい有害作用や悪影響を、及ぼさない又は及ぼしにくいポリマーを意味する。
【0026】
生体適合性高分子としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、アクリル系樹脂((メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含む樹脂)、ポリアミノ酸、ポリヌクレオチド、ポリアクリルアミド、ポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタン、多糖類、これらのコポリマー等が挙げられる。生体適合性ポリマーは、一部にその合成過程で導入された任意の基を有していてもよい。このような基としては、例えば重合開始剤の一部等が挙げられる。
【0027】
本実施形態に係る生体適合性高分子は、第1の生体適合性高分子鎖と、第2の生体適合性高分子鎖とを含む。なお、前記第1の生体適合性高分子鎖と第2の生体適合性高分子鎖とは異なるものであり、本実施形態の生体適合性高分子は、第1の生体適合性高分子鎖のブロックと第2の生体適合性高分子鎖のブロックを含むブロック共重合体として提供できる。また、本実施形態に係る生体適合性高分子は、第1の生体適合性高分子鎖及び第2の生体適合性高分子鎖の他に、さらに別の高分子鎖を含むことができる。
【0028】
本実施形態において、「ブロック共重合体」とは、複数種類のブロック(同種の構成単位が繰り返し結合した部分構成成分)が結合した高分子である。ブロック共重合体を構成するブロックは、2種類であってもよく、3種類以上であってもよい。
【0029】
生体適合性高分子の数平均分子量(Mn)は、本実施形態の結合体の分子量に応じても適宜定めることができるが、
第1の生体適合性高分子鎖の1H NMRにより算出された数平均分子量は、700~100,000が好ましく、2,000~50,000がより好ましく、7,000~30,000がさらに好ましい。
第2の生体適合性高分子鎖の1H NMRにより算出された数平均分子量は、700~100,000が好ましく、2,000~50,000がより好ましく、7,000~30,000がさらに好ましい。
第1の生体適合性高分子鎖と第2の生体適合性高分子鎖との数平均分子量比(第1の生体適合性高分子鎖:第2の生体適合性高分子鎖)は、例えば、10:1~1:10であってよく、10:3~3:10であってよい。
【0030】
生体適合性高分子の分散度(Mw/Mn)は、1.0以上2.0未満が好ましく、1.0~1.5がより好ましく、1.0~1.3がさらに好ましく、1.0~1.2が特に好ましい。実施形態の結合体が、優れた腫瘍集積性をより効果的に発揮可能との観点からは、生体適合性高分子の分散度が上記範囲内にあることが好ましい。
【0031】
本明細書において、高分子の数平均分子量は、1H NMRスペクトルによるピーク積分値の比から算出した値を採用できる。算出方法としては、例えば後述の実施例で示すように、高分子鎖末端に存在する開始剤由来の構造のピーク積分値と、算出対象部分のモノマー由来の構造のピーク積分値との比から、モノマーの重合度を算出し、重合したモノマー由来の構造の合計分子量を開始剤由来の構造の分子量に加算することで数平均分子量を算出可能である。
【0032】
後述する結合体の数平均分子量についても、1H NMRスペクトルによるピーク積分値の比から算出した値を一部採用できる。算出方法としては、例えば後述の実施例で示すように、高分子鎖末端に存在する開始剤由来の構造のピーク積分値と、算出対象部分のDFO由来の構造のピーク積分値との比から、DFOの結合数を算出し、結合したDFO由来の構造の合計分子量を高分子鎖の数平均分子量に加算することで算出可能である。
【0033】
第1の生体適合性高分子鎖又は第2の生体適合性高分子鎖は、生体適合性及び汎用性に優れるとの観点から、ポリエチレングリコールであることが好ましい。
【0034】
第1の生体適合性高分子鎖又は第2の生体適合性高分子鎖は、生体適合性及び生体安定性と生体分解性とのバランスに優れるとの観点から、ポリアミノ酸であることが好ましい。
【0035】
生体適合性高分子が含む第1の生体適合性高分子鎖と、第2の生体適合性高分子鎖との組み合わせとしては、例えば、第1の生体適合性高分子鎖がポリエチレングリコール(PEG)であり、第2の生体適合性高分子鎖がポリアミノ酸である組み合わせが好ましい。
【0036】
本実施形態の結合体において、生体適合性高分子は生体分解性であることが好ましい。
【0037】
生体分解性とは、生体内で吸収又は分解され得る性質を意味する。生体分解性である生体適合性ポリマーとしては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、ポリアミノ酸、ポリエステル、ポリヌクレオチド、多糖類等が挙げられる。
【0038】
本明細書において、生体適合性高分子が生体分解性であるとは、生体適合性高分子の少なくとも一部が生体分解性であることを意味する。したがって、ポリアミノ酸、ポリエステル、ポリヌクレオチド、多糖類等と、PEG、アクリル系樹脂((メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含む樹脂)、ポリアクリルアミド、ポリエーテル、ポリウレタン等とのブロックコポリマー等も生体分解性の生体適合性高分子に該当する。
【0039】
生体分解性であるポリマーを用いることにより、結合体の生体内への蓄積を抑制することができ、副作用を低減させることができる。
【0040】
本明細書において、生体安定性とは、生体内で即時に吸収又は即時に分解されることなく、存在可能であることを意味する。生体適合性高分子が生体分解性且つ生体安定性を有する場合には、生体内で吸収又は分解されるまでの間、生体内で存在可能であることを意味する。
【0041】
本明細書において、生体適合性高分子が生体安定性であるとは、生体適合性高分子の少なくとも一部が生体安定性であることを意味する。したがって、ポリアミノ酸、ポリエステル、ポリヌクレオチド、多糖類等と、PEG、アクリル系樹脂((メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含む樹脂)、ポリアクリルアミド、ポリエーテル、ポリウレタン等とのブロックコポリマー等も生体安定性の生体適合性高分子に該当する。
【0042】
第1の生体適合性高分子鎖と第2の生体適合性高分子鎖とを含む生体適合性高分子の製造方法は、特に制限されない。例えば、第1の生体適合性高分子鎖を公知の重合反応により合成した後、第1の生体適合性高分子鎖に、第2の生体適合性高分子鎖の単量体を重合させる方法により製造することができる。重合反応によって得られた前記高分子鎖は、それぞれ前駆体(例えば保護基を有するもの)の状態であってもよく、重合反応によって得られた前駆体に対して当業者により選択された通常の処理を行い、第1の生体適合性高分子鎖及び第2の生体適合性高分子鎖を製造してもよい。
或いは、予め重合体として提供された、第1の生体適合性高分子鎖又はその前駆体と、第2の生体適合性高分子鎖又はその前駆体とを、公知の反応によって結合させることができる。その際、反応性の官能基同士の結合を利用して、両者を結合させてもよい。前駆体を用いる場合には、同様に適宜処理を行い、第1の生体適合性高分子鎖及び第2の生体適合性高分子鎖を製造することができる。
【0043】
<結合体>
本実施形態の結合体は、デフェロキサミン類と、生体適合性高分子とが結合したものである。
なお、生体適合性高分子とデフェロキサミン類との結合は、生体適合性高分子とデフェロキサミン類とが直接結合してもよく、任意のリンカーを介して結合してもよく、本発明の効果が得られる限り、その結合様式は特に制限されない。
【0044】
生体適合性高分子とデフェロキサミン類とは、体内での結合の安定性を保つため、共有結合により結合されていることが好ましい。
例えば、生体適合性高分子とデフェロキサミン類との互いの反応性の官能基同士の結合を利用して結合させてもよい。反応性の官能基は、生体適合性高分子及び/又はデフェロキサミン類が元から有しているものでもよく、改変又は導入されたものであってもよい。
【0045】
生体適合性高分子とデフェロキサミン類との結合においては、デフェロキサミン類及び生体適合性高分子は、それぞれ、本発明の効果が得られる限り、それらが結合するのに必要な構造の変化を受けてもよい。
【0046】
実施形態の結合体において、デフェロキサミン類は、生体適合性高分子に1つのみ結合してもよく、2つ以上結合してもよい。
本実施形態の結合体における、デフェロキサミン類の個数は、1以上の整数であればよく、1~1000の整数であってよく、3~100の整数であってよく、5~50の整数であってよい。
上記個数が上記下限値以上であることで、デフェロキサミン類の鉄キレート作用が良好に発揮され、上記個数が上記上限値以下であることで、結合体の親水性が適度に向上し好ましい。
【0047】
本実施形態の結合体において、デフェロキサミン類は、生体適合性高分子のうちのいずれの箇所とも結合可能である。デフェロキサミン類は、第1の生体適合性高分子鎖及び/又は第2の生体適合性高分子鎖に結合してもよい。
例えば、デフェロキサミン類は、第1の生体適合性高分子鎖及び/又は第2の生体適合性高分子鎖の有する官能基と結合してもよい。
【0048】
当該結合様式は、特に限定されるものではないが、例えば、上記の化合物(I)のデフェロキサミンにおいては、「-NH2」で表される基(アミノ基)との結合であると、デフェロキサミンの鉄キレート作用に影響を及ぼし難く、またデフェロキサミンを改変したり誘導体化したりする必要が生じない。このことから、例えば、デフェロキサミン類は、デフェロキサミン類のアミノ基と、第1の生体適合性高分子鎖及び/又は第2の生体適合性高分子鎖の有する“アミノ基と結合可能な基”とが結合してもよい。
アミノ基と結合可能な基としては、カルボキシル基、水酸基、アルデヒド基又はカルボニル基が挙げられる。これらの基は、前記高分子鎖の側鎖が有するものであってよい。
【0049】
なかでも、アミノ基との結合安定性および合成容易性の観点からは、アミノ基と結合可能な基としては、カルボキシル基が好ましい。第1の生体適合性高分子鎖及び/又は第2の生体適合性高分子鎖はカルボキシル基を有するものであってよい。第1の生体適合性高分子鎖及び/又は第2の生体適合性高分子鎖のカルボキシル基と、デフェロキサミン類のアミノ基と、でアミド結合を形成させて、第1の生体適合性高分子鎖及び/又は第2の生体適合性高分子鎖とデフェロキサミン類とを結合させることができる。
【0050】
分子内にカルボキシル基を有する生体適合性高分子鎖としては、ポリアミノ酸や、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸等が挙げられる。
【0051】
カルボシキル基は、保護基で保護されたカルボキシル基であってもよい。
【0052】
カルボキシル基又は保護基で保護されたカルボキシル基を有しない生体適合性高分子鎖の場合、クロロ酢酸、無水コハク酸、クロロギ酸-p-ニトロフェニル等を用いた公知の方法によりカルボキシル基を導入することができる。
【0053】
例えば、生体適合性ポリマーがポリアクリルアミドである場合、アクリル酸又はアクリル酸ベンジルを原料として、フリーラジカル重合又はリビングラジカル重合等の公知の製造方法により、カルボキシル基、又は保護基で保護されたカルボキシル基を有する生体適合性高分子を製造することができる。
【0054】
カルボキシル基とアミノ基とでアミド結合を形成させる方法としては、例えば、カルボキシル基を有する生体適合性高分子鎖とアミノ基を有するデフェロキサミン類とを、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド等の縮合剤の存在下で縮合反応させることが挙げられる。また、保護基で保護されたカルボキシル基を有する生体適合性高分子鎖の場合、公知の反応で保護基を脱保護し、カルボキシル基を有する生体適合性高分子鎖を得た後、同様に縮合反応させることができる。
【0055】
また、デフェロキサミン類は、第1の生体適合性高分子鎖又は第2の生体適合性高分子鎖のいずれか一方のみに結合してもよい。例えば、デフェロキサミン類は、第2の生体適合性高分子鎖に結合することができる。例えば、第2の生体適合性高分子鎖が側鎖を有するものであり、デフェロキサミン類が、第2の生体適合性高分子鎖の側鎖と結合したものであってよい。
【0056】
本実施形態の結合体の一例として、下記一般式(1)又は(1-1)で表される構造を含むものが挙げられる。
【0057】
【0058】
(式(1)~(1-1)中、Aは、前記第1の生体適合性高分子鎖を表し、Lはリンカー部を表し、Bは、前記デフェロキサミン類と結合した前記第2の生体適合性高分子鎖を表す。)
【0059】
前記リンカー部は、炭素原子数1~20のアルキレン基であることが好ましく、炭素原子数1~20の直鎖状のアルキレン基であることが好ましく、炭素原子数1~5の直鎖状のアルキレン基であることがより好ましい。該アルキレン基中の1個又は2個以上の-CH2-は、それぞれ独立して-CH=CH-、-O-、-CO-、-S-、-NH-、又は-CONH-によって置換されていてもよい。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基等を例示できる。
【0060】
本実施形態の結合体において、デフェロキサミン類が結合した第2の生体適合性高分子鎖は、ポリアミノ酸であることが好ましい。
【0061】
第2の生体適合性高分子鎖がポリアミノ酸である場合、上記一般式(1)又は(1-1)におけるBとしては、以下が好ましい。
【0062】
Bは、前記デフェロキサミン類と結合した前記第2の生体適合性高分子鎖を表し、第2の生体適合性高分子鎖は、下記(b2)で表される繰り返し構造、又は(b1)で表される繰り返し構造及び(b2)で表される繰り返し構造を含むことが好ましい。
【0063】
【0064】
(式(b1)~(b2)中、
R1は、アミノ酸側鎖を表し、
R2は、アミノ酸側鎖と前記デフェロキサミン類とが結合したものであり、
nは(b1)及び(b2)の合計数を表し、nは1~1000の整数であり、mは1~1000の整数であり(ただしm≦n)、n-mが2以上である場合、複数個のR1は互いに同一でも異なっていてもよく、mが2以上である場合、複数個のR2は互いに同一でも異なっていてもよい。)。
【0065】
アミノ酸側鎖とは、当分野における通常の意味で用いられ、ポリペプチドのアミド結合に関与するアミノ基とカルボキシ基以外の構造を指し、例えば、グリシンであれば水素原子であり、アラニンであればメチル基であり、バリンであればイソプロピル基である。
【0066】
第2の生体適合性高分子鎖が、(b1)で表される繰り返し構造及び(b2)で表される繰り返し構造を含む場合、(b1)と(b2)の配列はランダムであってよい。mは第2の生体適合性高分子鎖における(b2)の合計数を表し、n-mは第2の生体適合性高分子鎖における(b1)の合計数を表す。n-mは0であってもよい(すなわち、第2の生体適合性高分子鎖は(b1)及び(b2)のうち、デフェロキサミン類と結合した(b2)のみを有していてもよい。)。
【0067】
第2の生体適合性高分子鎖は、上記(b2)で表される繰り返し構造、又は(b1)で表される繰り返し構造及び(b2)で表される繰り返し構造からなるものであってもよい。
【0068】
また、R1のアミノ酸側鎖とR2のアミノ酸側鎖とは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0069】
式(b1)~(b2)中、nは1~1000の整数であり、10~500の整数であってよく、20~100の整数であってよい。上記nの値が上記範囲内であることで、第2の生体適合性高分子鎖の分子量の値が好適なものとなり好ましい。
式(b1)~(b2)中、mは1~1000の整数であり、3~100の整数であってよく、5~50の整数であってよい。上記mの値が上記下限値以上であることで、デフェロキサミン類の鉄キレート作用が良好に発揮され、上記mの値が上記上限値以下であることで、結合体の親水性が良好となり好ましい。
なお、ここでは、nがmよりも大きい場合の数値範囲も例示しているが、nとmとは同一の数であってもよい。
【0070】
ポリアミノ酸とデフェロキサミン類との結合様式は、特に限定されるものではないが、ポリアミノ酸のアミノ酸側鎖とデフェロキサミン類との結合が好ましい。ポリアミノ酸のアミノ酸側鎖にデフェロキサミン類を結合させる方法としては、リジンの側鎖のアミノ基とのアミド結合、システインの側鎖のチオール基とのジスルフィド結合を形成させる方法などが挙げられる。上述のとおり、例えば、上記の化合物(I)のデフェロキサミンにおいては、「-NH2」で表される基(アミノ基)との結合であると、デフェロキサミンの鉄キレート作用に影響を及ぼし難く、またデフェロキサミンを誘導体化する必要が生じないことから、アスパラギン酸側鎖又はグルタミン酸側鎖のカルボキシル基と、デフェロキサミン類のアミノ基とのアミド結合を形成させる方法が好ましい。
【0071】
第2の生体適合性高分子鎖がポリアミノ酸であり、アスパラギン酸及び/又はグルタミン酸を構成単位として含む場合、上記一般式(1)又は(1-1)におけるBとしては、以下が好ましい。
【0072】
Bは、前記デフェロキサミン類と結合した前記第2の生体適合性高分子鎖を表し、第2の生体適合性高分子鎖は、下記(b2-1)表される繰り返し構造、又は(b1-1)表される繰り返し構造及び(b2-1)表される繰り返し構造を含むことが好ましい。
【0073】
【0074】
(式(b1-1)~(b2-1)中、
R11は、アミノ酸側鎖を表し、
R12は、-CH2-COOHで表されるアスパラギン酸側鎖、又は-CH2-CH2-COOHで表されるグルタミン酸側鎖におけるカルボキシル基と、前記デフェロキサミン類とが結合したものであり、
n1は(b1-1)及び(b2-1)の合計数を表し、n1は1~1000の整数であり、m1は1~1000の整数であり(ただしm1≦n1)、n1-m1が2以上である場合、複数個のR11は互いに同一でも異なっていてもよく、m1が2以上である場合、複数個のR12は互いに同一でも異なっていてもよい。)。
【0075】
第2の生体適合性高分子鎖が、(b1-1)で表される繰り返し構造及び(b2-1)で表される繰り返し構造を含む場合、(b1-1)と(b2-1)の配列はランダムであってよい。n1及びm1は、上記n及びmの関係と同じであり、n及びmとして説明した数値等をn1及びm1にも適用できる。
【0076】
第2の生体適合性高分子鎖は、上記(b2-1)で表される繰り返し構造、又は(b1-1)で表される繰り返し構造及び(b2-1)で表される繰り返し構造からなるものであってもよい。
【0077】
また、R11のアミノ酸側鎖とR12のアミノ酸側鎖とは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0078】
第1の生体適合性高分子鎖は、ポリエチレングリコールであることが好ましい。
【0079】
第1の生体適合性高分子鎖が、ポリエチレングリコールであり、第2の生体適合性高分子鎖がポリアミノ酸であって、アスパラギン酸及び/又はグルタミン酸を構成単位として含む場合、上記一般式(1)で表される構造としては、下記一般式(1-2)で表される構造が好ましい。
【0080】
【0081】
(式(1-2)中、
lは1~1500の整数であり、Bは、前記デフェロキサミン類と結合した前記第2の生体適合性高分子鎖を表し、第2の生体適合性高分子鎖は、下記(b2-1)表される繰り返し構造、又は(b1-1)表される繰り返し構造及び(b2-1)表される繰り返し構造を含む。)
【0082】
式(1-2)中、lは1~1500の整数であり、10~1000の整数であってよく、100~500の整数であってよい。
【0083】
【0084】
(式(b1-1)~(b2-1)中、R11、R12、n1、及びm1は前記と同一の意味を表す)。
【0085】
本実施形態の結合体は、数平均分子量(Mn)が2,000~200,000であることが好ましく、例えば5,000~100,000であってもよく、10,000~50,000であってもよく、17,000~45,000であってもよく、20,000~40,000であってもよい。
【0086】
結合体の数平均分子量が上記の範囲であることにより、結合体の血中滞留性、腫瘍組織への集積性を適度に向上させ、また、肝臓等の正常組織への集積を防止できる。この結果、デフェロキサミン類を効率よく腫瘍組織に送達することが可能になる。
結合体の腫瘍集積性は、腫瘍の亢進した血管漏出性を利用した腫瘍への選択的な集積、すなわちenhanced permeability and retention効果(EPR効果)により発揮されるものと考えられ、腫瘍内での選択的な除鉄により、より優れた抗腫瘍効果を達成する。
【0087】
また、結合体は、高分子ミセルを形成していてもよく、高分子ベシクルの形態であってもよい。
【0088】
本実施形態の結合体は、血中滞留性に優れ、更には腫瘍集積性を有し、優れた抗腫瘍効果を発揮する、非常に優れたものである。
従来、DFOは血中滞留性に乏しいため、点滴により連続投与する必要があった。一方で、本実施形態の結合体は、優れた血中滞留性を有するので、より間隔を空けた投与形態とでき、容易に処方可能である。
本実施形態の結合体は、優れた腫瘍集積性を有するので、正常組織への薬物の集積を誘導することなく、腫瘍組織への薬物の集積のみを向上させることができる。この結果、本実施形態の結合体によれば、高い薬効と低い副作用を達成することができる。
【0089】
従来、DFOをデキストランやヒドロキシエチルスターチ(HES)といった高分子に結合させることが行われていたが、高分子修飾されたDFOが固形がんに対して抗腫瘍効果を示したという例は、いまだ報告されていない。
本実施形態の結合体が、優れた血中滞留性及び腫瘍集積性を有するのは、生体適合性高分子が、第1の生体適合性高分子鎖と、前記第1の生体適合性高分子鎖とは異なる第2の生体適合性高分子鎖とを含むことに起因するものと考えられる。結合体が異なる種類の高分子鎖を含むことで、これを生体内に投与すると、異なる種類の鎖同士が互いに混在しないよう、生体内の他の分子と結合し、安定化することが考えられる。実施形態の結合体は、例えば、本実施形態の結合体と、がん集積性タンパク質である血清アルブミン等との親和性が向上し、より優れた腫瘍集積性と抗腫瘍効果を発揮すると考えられる。
【0090】
≪癌治療剤≫
本発明の一実施形態として、実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物を提供する。
本発明の一実施形態として、実施形態の結合体を有効成分として含有する癌治療剤を提供する。
【0091】
上記実施形態の結合体は、鉄キレート作用を有することから、鉄キレート作用を利用して、種々の疾患に対する治療効果が期待される。
治療効果が期待される対象疾患としては、鉄過剰症の他、鉄要求性のがんを挙げることができ、例えば固形がん等が挙げられる。ヒトの固形がんとしては、例えば、脳がん、頭頸部がん、食道がん、甲状腺がん、小細胞がん、非小細胞がん、乳がん、胃がん、胆のう・胆管がん、肺がん、肝がん、肝細胞がん、膵がん、結腸がん、直腸がん、卵巣がん、絨毛上皮がん、子宮体がん、子宮頸がん、腎盂・尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、陰茎がん、睾丸がん、胎児性がん、ウイルムスがん、皮膚がん、悪性黒色腫、神経芽細胞腫、骨肉腫、ユ-イング腫、軟部肉腫などが挙げられる。
【0092】
実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤は、さらに他の抗がん剤等を含んでいてもよい。かかる構成により、がん治療に対する相乗効果が期待できる。
【0093】
実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤は、5-アミノレブリン酸またはその誘導体、塩もしくはエステル(以下、単に「ALA類」とも称する。ALA類の詳細については後述する。)を用いた光線力学診断及び/又は治療に使用することができる。以下、5-アミノレブリン酸を用いた光線力学診断及び/又は治療の原理について説明する。
図26に示すように、5-アミノレブリン酸(5-ALA)は細胞に取りこまれた後、ヘム生合成経路に使われる。その代謝中間体であるプロトポルフィリンIXは、がん細胞選択的に蓄積することが知られている。プロトポルフィリンIXは光感受性物質であるため、特定波長の光を照射することにより、傷害を与える活性酸素を癌細胞内で発生させ、がん細胞を殺傷できる(光線力学治療)。また、プロトポルフィリンIXに特定波長(例えば400-410nm)の光を照射することにより赤色蛍光が発せられ、癌細胞を効果的に可視化できる(光線力学診断)。
しかし、例えば、がんの再発にも深く関わるとされるがん幹細胞は、鉄の取り込み量が特に高いため、プロトポルフィリンIXの代謝が亢進している。がん幹細胞においては、プロトポルフィリンIXが蓄積しないため、治療効果の低減が懸念される。
そこで、非特許文献9に示す通り、実施形態の癌治療剤を用いてがん細胞内の鉄イオンをキレートすることで、がん細胞選択的にプロトポルフィリンIX蓄積性を高め、光線力学診断及び/又は治療の効果を向上させることができると考えられる。
【0094】
実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤は、光線力学診断及び/又は治療に使用されるものとして、単独で提供されてもよく、前記ALA類との合剤や組み合わせ製剤等の剤型で提供されてもよい。
【0095】
一実施形態として、前記ALA類と、実施形態の結合体とを、治療を必要とする対象に投与することを含む方法を提供する。
一実施形態として、前記ALA類と、実施形態の結合体とを、治療を必要とする対象に投与することを含む癌の治療方法を提供する。
【0096】
一実施形態として、前記ALA類が投与されるまたは投与されている対象に投与するための、実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤を提供する。
一実施形態として、実施形態の結合体が投与されるまたは投与されている対象に投与するための、前記ALA類を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤を提供する。
【0097】
一実施形態として、癌に対する光線力学診断及び/又は治療のための、実施形態の結合体を提供する。
一実施形態として、癌に対する光線力学診断及び/又は治療のための、前記ALA類及び実施形態の結合体を提供する。
【0098】
一実施形態として、癌に対する光線力学診断及び/又は治療のための、実施形態の結合体の使用を提供する。
一実施形態として、癌に対する光線力学診断及び/又は治療のための、前記ALA類及び実施形態の結合体の使用を提供する。
【0099】
一実施形態として、癌に対する光線力学診断及び/又は治療に使用するための、実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤を提供する。
一実施形態として、癌に対する光線力学診断及び/又は治療に使用するための、前記ALA類及び実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤を提供する。
【0100】
一実施形態として、癌に対する光線力学診断及び/又は治療に使用するための、実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤と、前記ALA類を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤と、を備えたキットを提供する。
【0101】
一実施形態として、癌に対する光線力学診断及び/又は治療に使用するための医薬の製造における、実施形態の結合体の使用を提供する。
一実施形態として、癌に対する光線力学診断及び/又は治療に使用するための医薬の製造における、前記ALA類及び実施形態の結合体の使用を提供する。
【0102】
上記対象としては、癌患者を例示する。
【0103】
上記の癌に対する光線力学診断及び/又は治療は、前記ALA類及び/又は実施形態の結合体が投与された対象の有する細胞に、光線を照射することを含む。前記細胞は、腫瘍を含む概念である。前記光線の波長は公知であり、癌細胞内で活性酸素を発生可能なものであればよい。
【0104】
本明細書において、ALAは、5-アミノレブリン酸を意味する。ALAは、δ-アミノレブリン酸ともいい、アミノ酸の1種である。
【0105】
ALAの誘導体としては、下記式(II)で表される化合物を例示することができる。式(II)において、R
21は、水素原子またはアシル基を表し、R
22は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表す。なお、式(II)において、ALAは、R
21およびR
22が水素原子の場合に相当する。
【化14】
【0106】
ALA類は、生体内で式(II)のALAまたはその誘導体の状態で有効成分として作用すればよく、生体内の酵素で分解されるプロドラッグ(前駆体)として投与することもできる。
【0107】
式(II)のR21におけるアシル基としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ベンジルカルボニル基等の直鎖または分岐状の炭素数1~8のアルカノイル基や、ベンゾイル、1-ナフトイル、2-ナフトイル基等の炭素数7~14のアロイル基を挙げることができる。
【0108】
式(II)のR22におけるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等の直鎖または分岐状の炭素数1~8のアルキル基を挙げることができる。
【0109】
式(II)のR22におけるシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロドデシル、1-シクロヘキセニル基等の飽和、または一部不飽和結合が存在してもよい、炭素数3~8のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0110】
式(II)のR22におけるアリール基としては、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル基等の炭素数6~14のアリール基を挙げることができる。
【0111】
式(II)のR22におけるアラルキル基としては、アリール部分は上記アリール基と同じ例示ができ、アルキル部分は上記アルキル基と同じ例示ができ、具体的には、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、ベンズヒドリル、トリチル、ナフチルメチル、ナフチルエチル基等の炭素数7~15のアラルキル基を挙げることができる。
【0112】
好ましいALA誘導体としては、R21が、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル基等である化合物が挙げられる。また、好ましいALA誘導体としては、上記R22が、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル基等である化合物が挙げられる。また、好ましいALA誘導体としては、上記R21とR22の組合せが、(ホルミルとメチル)、(アセチルとメチル)、(プロピオニルとメチル)、(ブチリルとメチル)、(ホルミルとエチル)、(アセチルとエチル)、(プロピオニルとエチル)、(ブチリルとエチル)の各組合せである化合物が挙げられる。
【0113】
ALA類のうち、ALAまたはその誘導体の塩としては、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等を挙げることができる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の各無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の各有機酸付加塩を例示することができる。金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の各アルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム塩等の各アルカリ土類金属塩、アルミニウム、亜鉛等の各金属塩を例示することができる。アンモニウム塩としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩等を例示することができる。有機アミン塩としては、トリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩、トルイジン塩等の各塩を例示することができる。なお、これらの塩は使用時において溶液としても用いることができる。
【0114】
ALA類のエステルとしては、これに限定されるものではないが、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル等を挙げることができる。
【0115】
以上のALA類のうち、もっとも望ましいものは、ALA、および、ALAメチルエステル、ALAエチルエステル、ALAプロピルエステル、ALAブチルエステル、ALAペンチルエステル等の各種エステル類、並びに、これらの塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩である。とりわけ、ALA塩酸塩、ALAリン酸塩を特に好適なものとして例示することができる。
【0116】
上記ALA類は、例えば、化学合成、微生物による生産、酵素による生産など公知の方法によって製造することができる。また、上記ALA類は、水和物または溶媒和物を形成していてもよく、またALA類を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることもできる。
【0117】
上記ALA類を水溶液として調製する場合には、ALA類の分解を防ぐため、水溶液がアルカリ性とならないように留意する必要がある。アルカリ性となってしまう場合は、酸素を除去することによって分解を防ぐことができる。
【0118】
実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤は、アスコルビン酸若しくはその誘導体又はその塩(以下、単に「アスコルビン酸類」とも称する。アスコルビン酸類の詳細については後述する。)を用いたビタミンC療法に使用することができる。以下、アスコルビン酸を用いたビタミンC療法の原理について説明する。
薬理学的濃度のビタミンC(アスコルビン酸)を静脈注射すると、腫瘍内の細胞外領域で過酸化水素(H2O2)を産生し、この過酸化水素が腫瘍細胞に浸透して抗腫瘍効果をもたらすことが知られている(ビタミンC療法) [Q. Chen, M. G. Espey, M. C. Krishna, J. B. Mitchell, C. P. Corpe, G. R. Buettner, E. Shacter, M. Levine, Pharmacologic ascorbic acid concentrations selectively kill cancer cells: action as a pro-drug to deliver hydrogen peroxide to tissues. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 102, 13604-13609 (2005)., Q. Chen, M. G. Espey, A. Y. Sun, J. H. Lee, M. C. Krishna, E. Shacter, P. L. Choyke, C. Pooput, K. L. Kirk, G. R. Buettner, M. Levine, Ascorbate in pharmacologic concentrations selectively generates ascorbate radical and hydrogen peroxide in extracellular fluid in vivo. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 104, 8749-8754 (2007)., Q. Chen, M. G. Espey, A. Y. Sun, C. Pooput, K. L. Kirk, M. C. Krishna, D. S. Khosh, J. Drisko, M. Levine, Pharmacologic doses of ascorbate act as a prooxidant and decrease growth of aggressive tumor xenografts in mice. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 105, 11105-11109 (2008).]。
【0119】
一方、最近の研究 [M. Mojic, J. Bogdanovic Pristov, D. Maksimovic-Ivanic, D. R. Jones, M. Stanic, S. Mijatovic, I. Spasojevic, Extracellular iron diminishes anticancer effects of vitamin C: an in vitro study. Sci. Rep. 4, 5955 (2014).]によると、腫瘍内細胞外領域の過剰な鉄イオンが、フェントン反応により過酸化水素をヒドロキシラジカルに変換すること、そのヒドロキシラジカルは細胞内浸透性が低いために殺細胞効果が低下してしまうことが報告されている。したがって腫瘍内の過剰な鉄イオンを不活性化することができれば、ビタミンCによる抗腫瘍効果を向上できるものと期待される。
【0120】
本明細書において、「アスコルビン酸類」とは、アスコルビン酸若しくはその誘導体又はその塩を含む概念であり、ビタミンCともいう。また、天然に存在するのはL-アスコルビン酸であるが、L-アスコルビン酸、化学合成にて得られるD-アスコルビン酸のどちらでも好適に使用できる。
アスコルビン酸の塩としては、上記のALA類の塩として例示した種類の塩が挙げられる。
【0121】
実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤は、ビタミンC療法に使用されるものとして、単独で提供されてもよく、前記アスコルビン酸類との合剤や組み合わせ製剤等の剤型で提供されてもよい。
【0122】
一実施形態として、前記アスコルビン酸類と、実施形態の結合体とを、治療を必要とする対象に投与することを含む方法を提供する。
一実施形態として、前記アスコルビン酸類と、実施形態の結合体とを、治療を必要とする対象に投与することを含む癌の治療方法を提供する。
【0123】
一実施形態として、前記アスコルビン酸類が投与されるまたは投与されている対象に投与するための、実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤を提供する。
一実施形態として、実施形態の結合体が投与されるまたは投与されている対象に投与するための、前記アスコルビン酸類を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤を提供する。
【0124】
一実施形態として、癌に対するビタミンC療法のための、実施形態の結合体を提供する。
一実施形態として、癌に対するビタミンC療法のための、前記アスコルビン酸類及び実施形態の結合体を提供する。
【0125】
一実施形態として、癌に対するビタミンC療法のための、実施形態の結合体の使用を提供する。
一実施形態として、癌に対するビタミンC療法のための、前記アスコルビン酸類及び実施形態の結合体の使用を提供する。
【0126】
一実施形態として、癌に対するビタミンC療法に使用するための、実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤を提供する。
一実施形態として、癌に対するビタミンC療法に使用するための、前記アスコルビン酸類及び実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤を提供する。
【0127】
一実施形態として、癌に対するビタミンC療法に使用するための、実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤と、前記アスコルビン酸類を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤と、を備えたキットを提供する。
【0128】
一実施形態として、癌に対するビタミンC療法に使用するための医薬の製造における、実施形態の結合体の使用を提供する。
一実施形態として、癌に対するビタミンC療法に使用するための医薬の製造における、前記アスコルビン酸類及び実施形態の結合体の使用を提供する。
【0129】
上記対象としては、癌患者を例示する。
【0130】
上記のビタミンC療法は、アスコルビン酸類を対象に投与することを含み、好ましくは静脈注射することを含む。前記対象は、腫瘍を有する患者を含む概念である。
ビタミンC療法における、腫瘍内のアスコルビン酸類の濃度は、抗腫瘍効果を有する限り特に制限されず、一例として、1mM以上であってよく、2mM以上であってよく、3mM以上であってよい。ビタミンC療法における、腫瘍内のアスコルビン酸類の濃度の上限値としては、特に制限されるものではないが、一例として、20mM以下であってよく、15mM以下であってよく、10mM以下であってよい。腫瘍内のアスコルビン酸類の濃度の上記数値範囲の一例としては、例えば、1mM以上20mM以下であってよく、2mM以上15mM以下であってよく、3mM以上10mM以下であってよい。
【0131】
実施形態の医薬組成物又は癌治療剤の対象への投与、患者への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などのほか、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に当業者に公知の方法により行いうる。投与量は、患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。投与量、投与方法は、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0132】
実施形態の医薬組成物又は癌治療剤の剤型は、前記投与経路に応じて適宜決定してよく、限定はされないが、注射剤、点滴剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ等に溶解した水剤、貼付剤、座薬剤等を挙げることができる。
実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤の剤型は、経口剤、注射剤又は点滴剤が好ましい。
前記ALA類を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤の剤型は、経口剤、注射剤又は点滴剤が好ましい。
前記アスコルビン酸類を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤の剤型は、注射剤又は点滴剤が好ましく、静脈注射のための注射剤又は点滴剤がより好ましい。
【0133】
医薬組成物又は癌治療剤は、必要に応じて他の薬効成分、栄養剤、担体等の他の任意成分を加えることができる。任意成分として、例えば結晶性セルロース、ゼラチン、乳糖、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、タルク、植物性および動物性脂肪、油脂、ガム、ポリアルキレングリコール等の、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、溶剤、分散媒、増量剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分を添加することができる。
【0134】
実施形態の医薬組成物又は癌治療剤における製剤化の例としては、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤として使用される経口剤が挙げられる。
または、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用されるものが挙げられる。更には、薬理学上許容される担体若しくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化されたものが挙げられる。
【0135】
錠剤、カプセル剤に混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤が用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記の材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0136】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50と併用してもよい。
【0137】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0138】
医薬組成物又は癌治療剤によって投与されるべき結合体の投与量は、対象の身長、体重、年齢、および症状に応じて、対象の体重1kgあたり、DFO換算で、0.1mg~1,000mg、好ましくは0.1mg~200mg、より好ましくは0.5mg~50mg、さらに好ましくは1mg~20mgの範囲で投与することができる。
【0139】
医薬組成物又は癌治療剤によって投与されるべきALA類の投与量は、対象の身長、体重、年齢、および症状に応じて、対象の体重1kgあたり、ALA換算(すなわち、式(II)において、R21およびR22が水素原子の場合の質量換算)で、好ましくは1mg~1,000mg、好ましくは5mg~100mg、より好ましくは10mg~30mg、さらに好ましくは15mg~25mgの範囲で投与することができる。
【0140】
医薬組成物又は癌治療剤によって投与されるべきアスコルビン酸類の投与量は、対象の身長、体重、年齢、および症状に応じて、対象の体重1kgあたり、アスコルビン酸換算で、5mg以上であってもよく、20mg以上であってもよく、例えば、5mg~1,000mgであってもよく、20mg~1,000mgであってもよい。より高濃度でのアスコルビン酸類の投与量を検討する場合には、アスコルビン酸類の投与量は、対象の体重1kgあたり、アスコルビン酸換算で50mg~1,000mgであってもよく、250mg~1000mgであってもよく、400mg~1,000mgであってもよく、500mg~800mgであってもよい。
【0141】
前記ALA類又はアスコルビン酸類と、実施形態の結合体とを、対象に投与する場合の投与回数および投与頻度は、併用される前記ALA類又はアスコルビン酸類と、結合体のそれぞれの投与状況(投与間隔、投与回数、および投与期間)に鑑み、当業者は適宜、適切な投与回数および投与頻度を決定することができる。本発明の一実施形態において、実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤は、前記ALA類又はアスコルビン酸類の投与前、投与時、または投与後から投与されてよい。
【0142】
実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤と、前記ALA類又はアスコルビン酸類とは、それぞれの有効量を、対象に対して同時または異時に、連続的にまたは間隔をあけて投与することができる。実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤と前記ALA類又はアスコルビン酸類とは、同じ投与サイクルで腫瘍患者に投与されてもよいし、それぞれ別の投与サイクルで投与されてもよい。
【0143】
本発明の一実施形態において、前記ALA類又はアスコルビン酸類の対象への投与は、実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤の投与が開始される前に開始される。例えば、前記ALA類又はアスコルビン酸類は、実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤の投与開始の1週間前から当日までの間に、一回以上投与してもよく、連日投与してもよい。実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤の投与開始時点は特に制限されないが、実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤の投与は、前記ALA類又はアスコルビン酸類の投与開始時点から1週間以内が好ましく、3日以内がより好ましく、1日以内がさらに好ましい。
【0144】
本発明の別の実施形態において、前記ALA類又はアスコルビン酸類の対象への投与は、実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤の投与と同日に開始される。例えば、前記ALA類又はアスコルビン酸類は、実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤の投与開始日から投与することができる。前記ALA類又はアスコルビン酸類と、実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤とを同時に投与する場合、それらを単一の製剤に調製して投与してもよいし、別個の投与経路で同時に投与してもよい。
【0145】
本発明のさらに別の実施形態において、前記ALA類又はアスコルビン酸類の対象への投与は、実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤の投与後に開始される。例えば、実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤は、前記ALA類又はアスコルビン酸類の投与開始の1週間前から当日までの間に、一回以上投与してもよく、連日投与してもよい。前記ALA類又はアスコルビン酸類の投与開始時点は特に制限されないが、前記ALA類又はアスコルビン酸類の投与は、実施形態の結合体を有効成分として含有する医薬組成物又は癌治療剤の投与開始時点から1週間以内が好ましく、3日以内がより好ましく、1日以内がさらに好ましい。
【0146】
本明細書において用いられる用語は、特に定義されたものを除き、特定の実施態様を説明するために用いられるのであり、発明を限定する意図ではない。
【0147】
また、本明細書において用いられる「含む」との用語は、文脈上明らかに異なる理解をすべき場合を除き、記述された事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを意図するものであり、それ以外の事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを排除しない。
【実施例】
【0148】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0149】
1.PEG10k-Poly[Aspartic acid(Deferoxamine)m]nの合成
<1.1. 概要>
実施例で製造した鉄キレート剤PEG10k-Poly[Aspartic acid(Deferoxamine)m]n (以下PEG-P[Asp(DFO)m]nと略す。) の合成法を記す。nはAspの重合度を表し、mはDFOの導入数を表す。
【0150】
【0151】
開始剤をPEG10k-NH2、モノマーをBLA-NCAとするN-carboxyanhydride(NCA)重合によりPEG-PBLAnを合成した。塩基性条件下で側鎖のカルボキシ基を脱保護し、PEG-PAspnを得た。その後、Deferoxamineのアミノ基をPEG-PAspnのカルボキシ基に結合し、PEG-P[Asp(DFO)m]nを得た。
【0152】
<1.2. 試薬>
特に記述のない試薬・溶媒は市販品をそのまま使用した。
・α-Methoxy-ω-amino-poly(ethylene glycol) (PEG-NH2) [Mw : 10K]:NOF Co., Inc.・Benzene:Nacalai Tesque Inc.
・β-benzyl L-aspartate N-carboxyanhydride (BLA-NCA):Chuo Kaseihin Co., Inc.
・dichloromethane (DCM):Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
アルゴン雰囲気下で蒸留して使用した。(b.p. 40 ℃)
・N,N-dimethylformamide (DMF):Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
アルゴン雰囲気下で蒸留して使用した。(b.p. 135 ℃)
・hexane:Kanto Chemical CO.,Inc.
・ethyl acetate:Kanto Chemical CO.,Inc.
・5 mol/L HCl: Nacalai Tesque Inc.
・5 mol/L NaOH:Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・Dimethyl sulfoxide (DMSO):Nacalai Tesque Inc.
・Deferoxamine mesylate (DFO):Sigma Aldrich Co., llc.
・N,N'-Dicyclohexylcarbodiimide (DCC) :Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.・N,N-dimethyl-4-aminopyridine (DMAP):Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.・Sodium chloride (NaCl):Nacalai Tesque Inc.
・Sodium dihydrogen phosphate (NaH2PO3):Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
【0153】
<1.3. 測定機器>
・NMR (Nuclear Magnetic Resonance):BRUKER AVANCEIII400 (400 MHz, BRUKER BioSpin)
スピニング:オフ
積算回数:24回
温度:25℃
・GPC (Gel Permeation Chromatography):Jasco International Co., Ltd.
カラム:TSK-gel superAW3000 (Tosoh Corporation),
Superdex 200 Increase 10/300 GL (GE Healthcare)
検出器:RI-2031
【0154】
<1.4. 合成手法>
[PEG-PBLA
nの合成]
300 mL二口ナスフラスコにPEG-NH
2 1.00 g (0.100 mmol)を量り取り、ベンゼン10.0 mLに溶解させた後、凍結乾燥した。アルゴン雰囲気下で100 mL二口ナスフラスコにBLA-NCAを1.20 g (4.81 mmol) (n=35)および2.40 g (9.62 mmol) (n=78)量り取った。PEG-NH
2にDMFを1.36 mL、DCMを13.6 mL加えた。また、BLA-NCAにDMFを1.63 mL (n=35)および3.26 mL (n=78)、DCMを16.3 mL (n=35)および32.6 mL (n=78)加え、溶解させた。BLA-NCA溶液をPEG-NH
2溶液に加え、アルゴン雰囲気下のもと室温で48時間攪拌した。反応溶液をそれぞれヘキサン、酢酸エチル混合溶媒(ヘキサン:酢酸エチル = 3:2)600 mL (n=35)および750 mL (n=78)に滴下し、再沈殿により精製した。その後、減圧乾燥させ、白色固体PEG-PBLA
nを収量1.71 g(n=35)および 2.54 g (n=78)、収率97 % (n=35)および98 % (n=78)で得た。
1H-NMR スペクトルを
図1および
図3に、GPCカーブ(カラム:TSK-gel superAW3000, 溶離液:NMP (50 mM LiBr), 流速:0.30 mL/min, 測定温度:40 ℃にて取得)を
図2および
図4に示す。
【0155】
・1H NMR spectrum of PEG-PBLA35
1H NMR (400MHz, DMSO-d6):δ 2.53-2.69, 2.76-2.92 (br, -CH2-C=O-O-), 3.42-3.67 (br, -CH2- CH2-O-), 4.95-5.13 (br, -O-CH2-Ph), 7.20-7.39 (br, Ph).
【0156】
・1H NMR spectrum of PEG-PBLA78
1H NMR (400MHz, DMSO-d6):帰属は上記1H NMR spectrum of PEG-PBLA35と同じ
【0157】
[PEG-PBLA
nの脱保護]
50 mLナスフラスコにPEG-PBLA
35 500 mg(0.0284 mmol)およびPEG-PBLA
78 500 mg (0.0194 mmol)をそれぞれ量り取り、5 mLの0.1 M NaOHを加えて室温で一晩攪拌した。反応溶液を透析膜 (MWCO=6~8 kDa)に入れ、2 Lの0.01 M HCl、続いて2 Lの純水でそれぞれ2回ずつ透析した。溶液を凍結乾燥させ、白色固体PEG-PAsp
nを収量367 mg (n=35)および331 mg(n=78)、収率 92 % (n=35)および90 % (n=78)で得た。
1H-NMR スペクトルを
図5および
図7に、GPCカーブ(カラム:Superdex 200 increase 10/300 GL, 溶離液:10 mM NaH
2PO
4, 140 mM NaCl (pH 7.4), 流速:0.75 mL/min, 測定温度:室温により取得)を
図6および
図8に示す。
【0158】
・1H NMR spectrum of PEG-PAsp35
1H NMR (400MHz, D2O):δ 2.73-2.97 (br, -CH2-COOH), 3.62-3.82 (br, -CH2-CH2-O-).
【0159】
・1H NMR spectrum of PEG-PAsp78
1H NMR (400MHz, D2O):帰属は上記1H NMR spectrum of PEG-PAsp35と同じ
【0160】
[DFOのPEG-PAsp
nへの結合]
50 mLナスフラスコにPEG-Asp
35 100 mg (7.14 μmol)およびPEG-Asp
78 100 mg (5.26 μmol)をそれぞれ量り取り、DMSO 30 mLに溶解させた。そこに、DCC 256 mg (1.24 mmol) (n=35)および 407 mg (1.91 mmol) (n=78)、DMAP 30.3 mg (0. 248 mmol) (n=35)および48.1 mg (0.394 mmol) (n=78)、DFO 163 mg (0.248 mmol) (n=35)および259 mg (0.394 mmol) (n=78)を加え、室温で一晩攪拌した。反応溶液を透析膜 (MWCO=3.5 kD)に入れ、300 mLのacetoneで透析を3回行った後、2 Lの0.01 M NaOH、続いて2 Lの純水でそれぞれ2回ずつ透析した。得られた溶液を0.45 μmのフィルターで濾過した後に、凍結乾燥し、白色固体PEG-P[Asp(DFO)
m]
nを収量 120 mg (n=35)および139 g (n=78)、収率 87 % (n=35)および80 % (n=78)で得た。
1H-NMR スペクトルを
図9および
図11に、GPCカーブを
図10および
図12に示す。
【0161】
・1H NMR spectrum of PEG-P[Asp(DFO)10]35
1H NMR (400MHz, D2O, NaOD):δ1.13-1.96 (br, -CH2-CH2-CH2-), 1.98-2.09 (br, -C=O-CH3), 2.43-2.55 (br, -CH2-C=O-NH-), 3.08-3.33 (br, -C=O-NH-CH2-), 3.52-3.62 (br, -CH2-NOH-), 3.66-3.90 (br, -CH2-CH2-O-).
【0162】
・1H NMR spectrum of PEG-P[Asp(DFO)26]78
1H NMR (400MHz, D2O, NaOD):帰属は上記1H NMR spectrum of PEG-P[Asp(DFO)10]35と同じ
【0163】
<1.5. 解析>
[PEG-PBLAn]
1H NMRスペクトルの開始剤由来のピーク[3.42-3.67 ppm (-CH2- CH2-O-)]とBLA-NCA由来のピーク[2.53-2.69, 2.76-2.92 ppm -CH2-C=O-O-), 4.95-5.13 (, -O-CH2-Ph), 7.20-7.39 ppm (Ph)]の積分値の比からPBLAの重合度DP=35(n=35)およびDP=77(n=78)、数平均分子量Mn=17,600 (PEG:PBLA=10,000:7,600)(n=35)およびMn=25,800(PEG:PBLA=10,000:15,800)(n=78)と求まった。また、GPCカーブから、得られたポリマーの分子量分散度はMw/Mn=1.12 (n=35)およびMw/Mn=1.11 (n=78)と求まり、狭い分子量分布を持つことを確認した。
【0164】
[PEG-PAspn]
1H NMRスペクトルの開始剤由来のピーク[3.62-3.82 ppm (-CH2-CH2-O-)]とアスパラギン酸のβ水素のピーク(2.73-2.97 ppm)の積分値の比からAspの重合度DP=35(n=35)およびDP=78 (n=78)、数平均分子量Mn=14,000 (PEG:PAsp=10,000:4,000)(n=35)およびMn=19,000 (PEG:PBLA=10,000:9,000)(n=78)と求まった。また、GPCカーブから、得られたポリマーは単峰性の狭い分子量分布を持つことを確認した。
【0165】
[PEG-P[Asp(DFO)m]n]
1H NMRスペクトルの開始剤由来のピーク[3.66-3.90 ppm (-CH2-CH2-O-)]およびDFO由来のピーク[1.13-1.96 ppm (-CH2-CH2-CH2-), 1.98-2.09 ppm (-C=O-CH3), 2.43-2.55 ppm (-CH2-C=O-NH-), 3.08-3.33 ppm (-C=O-NH-CH2-), 3.52-3.62 ppm (-CH2-NOH-)]の積分値の比からDFOの導入数は10 (n=35) および26(n=78)、数平均分子量はMn=19,300 (n=35) およびMn=32,900 (n=78)と求まった。また、GPCカーブから、得られたポリマーは単峰性の狭い分子量分布を持つことを確認した。
【0166】
また更に、上記の合成手法と同様にして、PEG-P[Asp(DFO)36]76(Mn = 45,000)を得た。
1H NMR (400MHz, D2O, NaOD)で解析し、帰属は上記1H NMR spectrum of PEG-P[Asp(DFO)10]35と同じであることを確認した。
【0167】
2.PEG-P[Asp(DFO)
m]
nの鉄キレート能の評価
<2.1. 概要>
DFO/Fe(III)錯体は420 nm付近に特徴的な吸収ピークを持つ。そこで、PEG-P[Asp(DFO)
m]
nの鉄キレート能を吸光スペクトル測定により評価した。また、生体環境におけるPEG-P[Asp(DFO)
m]
nの鉄キレート能を、細胞内の鉄イオン量を間接的に定量する方法として確立されているcalcein-AM法により評価した。
図13にcalcein -AM法の原理を簡単に示す。
【0168】
[calcein -AM法の原理]
calcein -AMは細胞膜透過性の化合物で、それ自体は蛍光を示さないが、細胞内のエステラ-ゼにより加水分解を受けてcalceinとなる。このcalceinは、強い黄緑色の蛍光を示す化合物で、膜不透過性であるため細胞内に保持される。また、calceinは鉄キレート能を有し、鉄と錯体を形成すると蛍光が消失するため、calceinの蛍光を測定することにより、間接的に細胞内の鉄イオン濃度が測定できる。
【0169】
<2.2. 試薬>
特に記述のない試薬・溶媒は市販品をそのまま使用した。
・Deferoxamine mesylate (DFO):Sigma Aldrich Co., llc.
・PEG-P[Asp(DFO)10]35 (Mn=19,300)
・PEG-P[Asp(DFO)26]78 (Mn=32,900)
・FeCl3・6H2O:Wako Pure Chemical IndustriesCo., Ltd.
・D-PBS(-):Wako Pure Chemical IndustriesCo., Ltd.
・Roswell Park Memorial Institute medium (RPMI):Sigma Aldrich Co., llc.
・Fetal bovine serum (FBS):BioseraInc.
・Trypsin-EDTA solution:Sigma life scienceCo., Ltd.
・Penicillin / streptomycin:Sigma life scienceCo., Ltd.
・Calcein-AM:Dojindo Molecular Technologies Inc.
・CT26細胞 (mouse colon carcinoma cell line):American Type Culture Collection.・DLD-1細胞 (human colon adenocarcinoma cell line):American Type Culture Collection.
【0170】
<2.3. 測定機器>
・NanoDrop One:Thermo Fisher ScientificInc..
・Countess:Thermo Fischer Scientific Inc.
・LSM710:Carl Zeiss Co., Ltd.
・Guava(登録商標) easyCyte Flow Cytometry (FCM):Merck Millipore
【0171】
<2.4. 吸収スペクトル測定による評価>
[DFO溶液、PEG-P[Asp(DFO)10]35溶液、PEG-P[Asp(DFO)26]78、FeCl3溶液の調製]
・DFO/D-PBS溶液:0.625 mM
・PEG-P[Asp(DFO)10]35/D-PBS溶液:0.0635 mM (DFO濃度=0.625 mM)
・PEG-P[Asp(DFO)26]78/D-PBS溶液:0.0245 mM (DFO濃度=0.625 mM)
・FeCl3/D-PBS溶液:2.50 mM
【0172】
800 μLのDFO溶液、PEG-P[Asp(DFO)
10]
35溶液およびPEG-P[Asp(DFO)
26]
78溶液にそれぞれ200 μLのFeCl
3溶液を加えた。D-PBSで2倍希釈した後、十分に攪拌し、Nanodropにより吸収スペクトルを測定した。その結果を
図14に示す。
【0173】
PEG-P[Asp(DFO)10]35/FeおよびPEG-P[Asp(DFO)26]78/FeもDFO/Feの特徴的な吸収ピークを示したことから、優れた鉄キレート能を有することを確認した。
【0174】
<2.5. Calcein-AM法による評価>
[DFO溶液、PEG-P[Asp(DFO)10]35溶液、PEG-P[Asp(DFO)26]78溶液の調製]
・DFO/D-PBS溶液:2.00 mM
・PEG-P[Asp(DFO)10]35/D-PBS溶液:0.203 mM (DFO濃度=2.00 mM)
・PEG-P[Asp(DFO)26]78/D-PBS溶液:0.0714 mM (DFO濃度=2.00 mM)
【0175】
24-wellプレートにDLD-1またはCT26細胞を 5.0 × 10
4 cell / well となるよう播種し、37 ℃, 5 % CO
2下で24時間前培養した。上記の調製溶液をRPMIで10倍希釈したのちに、各ウェルに500 μLずつ加え、24時間インキュベートした。D-PBS 500 μLで洗浄後、0.100 μM calcein-AM溶液を加え、暗所でDLD-1細胞では30 min、CT26 細胞では 15 minインキュベートした。D-PBS 500 μLで2回洗浄後、150 μL Trypsin-EDTA溶液を加え、DLD-1細胞では10 min、CT 26 細胞では 3 minインキュベートした。光学顕微鏡で細胞が剥れたのを確認した後、10 % FBSを含むD-PBSを300 μLを加え、十分に懸濁した。懸濁液をセルストレイナーによって濾過し、FCMによりcalcein蛍光を測定した。得られた結果を
図15に示す。
図15AがDLD-1細胞、
図15BがCT26細胞の測定結果である。結果は、mean ± S.D. (n=3)の値を示し、統計的有意差は t-testにより評価した(*p<0.05, **p<0.01)。
【0176】
PEG-P[Asp(DFO)10]35およびPEG-P[Asp(DFO)26]78によりcalceinの蛍光強度が高まったことから、細胞内の鉄イオン濃度が減少したことが示され、PEG-P[Asp(DFO)10]35およびPEG-P[Asp(DFO)26]78は生態環境においても鉄キレート能を有することを確認した。
【0177】
3.培養細胞に対する評価
<3.1. 概要>
蛍光色素(Cy5)でラベルしたPEG-P[Asp(DFO)m]n(Cy5-PEG-P[Asp(DFO)m]n)の細胞内分布を共焦点顕微鏡により観察した。次に、DFOとPEG-P[Asp(DFO)m]nの細胞取り込み量を比較した。続いて、PEG-P[Asp(DFO)m]nのがん細胞増殖抑制メカニズムを調べるべく、細胞周期への影響を評価した。最後に、がん細胞増殖抑制作用をCCK-8 assayにより評価した。
【0178】
<3.2. 試薬及び細胞株>
特に記述のない試薬は市販品をそのまま使用した。
・PEG-P[Asp(DFO)10]35 (Mn=19,300)
・PEG-P[Asp(DFO)26]78 (Mn=32,900)
・Cy5-NHS:Thermo Fisher Scientific Inc.
10 mg/mL Cy5-NHS/DMSO として使用した。
・Dimethyl sulfoxide (DMSO):Nacalai Tesque Inc.
・GaCl3:Tokyo Chemical Industry Co., Ltd.
・5 mol/L NaOH:Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・HNO3:Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・Roswell Park Memorial Institute medium (RPMI):Sigma AldrichCo., llc.
・D-PBS(-):Wako Pure Chemical IndustriesCo., Ltd.
・Fetal bovine serum (FBS):BioseraInc.
・Trypsin-EDTA solution:Sigma life scienceCo., Ltd.
・Penicillin / streptomycin:Sigma life scienceCo., Ltd.
・LysoTracker(登録商標)red DND - 99:Thermo Fisher Scientific Inc.
・Hoechst 33342:Thermo Fisher Scientific Inc.
・RNase A:Macherey nagel Inc.
・Propidium Iodide:Dojindo Molecular Technologies Inc.
・Cell Counting Kit-8:Dojindo Molecular Technologies Inc.
・CT26細胞 (mouse colon carcinoma cell line):American Type Culture Collection.・DLD-1細胞 (human colon adenocarcinoma cell line):American Type Culture Collection.
【0179】
<3.3. 測定機器>
・Countess:Thermo Fischer Scientific Inc.
・LSM710:Carl Zeiss Co., Ltd.
・Guava(登録商標) easyCyte Flow Cytometry (FCM):Merck Millipore
・Agilent 7900 ICP-MS:Agilent Technology Co., Ltd.
【0180】
<3.4. 共焦点顕微鏡によるPEG-P[Asp(DFO)m]nの細胞内分布の観察>
蛍光色素(Cy5)をPEG-P[Asp(DFO)m]nに導入し、共焦点顕微鏡を用いてCy5-PEG-P[Asp(DFO)m]nの細胞内分布を観察した。
【0181】
[Cy5-PEG-P[Asp(DFO)10]35の合成]
PEG-P[Asp(DFO)m]nの末端のアミノ基にCy5-NHSを結合した。PEG-P[Asp(DFO)10]35 20.0 mg ( 0.99 μmol) を6 mLバイアルに量り取り、 2.00 mLの純水に溶解させた。次に、PEG-P[Asp(DFO)10]35に対して1等量のCy5-NHS(10.0 mg/mL Cy5-NHS/DMSO 溶液 107 μL)を0.200 mLの純水に溶解させた後、PEG-P[Asp(DFO)10]35溶液に加え、室温で一晩攪拌した。反応溶液を限外濾過膜 (MWCO=10 kD) に入れ、限外ろ過を5回行った。その後、PD-10 カラムを用いてさらに精製し、ポリマー溶液を凍結乾燥させ、青色固体Cy5-PEG-P[Asp(DFO)10]35を18.0 mg得た。
【0182】
[共焦点顕微鏡による観察]
35 mm
2 Glass base dishにDLD-1細胞を 5.0 × 10
4 cell / dishとなるよう播種し、37 ℃, 5 % CO
2下で24時間前培養した。23.3 μM Cy5-PEG-P[Asp(DFO)
10]
35/D-PBS溶液(DFO濃度=200 μM)をRPMIで10倍希釈したのちに、各ディッシュに1 mLずつ加え、24時間インキュベートした。D-PBS 1 mL で洗浄後、100 nM LysoTracker (登録商標)red DND-99/(D-PBS:RPMI=1:9) 溶液1 mLを加え、30 min インキュベートした。D-PBS 1 mLで洗浄後、5.0 μg/mL Hoechst / D-PBS 溶液 1 mLを加え、5 min インキュベートした。D-PBS 1 mL で2回洗浄後、RPMI 2 mLを加え、CLSMで観察した。得られた結果を
図16に示す。
【0183】
本実施例で用いた鉄キレート剤はエンドソーム/リソソームに局在していることから、エンドサイトーシスにより細胞に取り込まれることが示唆された。
【0184】
<3.5. PEG-P[Asp(DFO)m]nの細胞取り込み量の評価>
DFOとPEG-P[Asp(DFO)m]nの細胞取り込み量を比較するべく、DFO/Ga(III)錯体およびPEG-P[Asp(DFO)10]35/Ga(III)錯体を細胞に添加したのちに、細胞内のGa含有量をICP-MSにより測定した。
【0185】
[DFO/Ga溶液、PEG-P[Asp(DFO)10]35/Ga溶液の調製]
・DFO/Ga溶液
2.22 mM DFO/D-PBS溶液 9 mLに19.9 mM GaCl3/D-PBS溶液を1 mL加え、一晩攪拌した。NaOHを用いて、pHを7.4に調整したのちに、フィルターで濾過した。最後にRPMI培地を90 mLを加えた(DFO濃度=200 μM)。
・PEG-P[Asp(DFO)10]35/Ga溶液
0.226 mM PEG-P[Asp(DFO)10]35/D-PBS溶液 (DFO濃度=2.22 mM) 9 mLに19.9 mM GaCl3/D-PBS溶液を1 mL加え、一晩攪拌した。反応溶液を限外濾過膜 (MWCO=10 kD) に入れ、限外ろ過を5回行った。精製した溶液にD-PBS 10 mLを加え、フィルターで濾過した。最後にRPMI培地を90 mL加えた(DFO濃度=200 μM)。
【0186】
[細胞内Ga含有量の測定]
75 mm
2 フラスコにDLD-1またはCT-26細胞を 5.0 × 10
6 cell / flask となるよう播種し、37 ℃, 5 % CO
2下で24時間前培養した。上記の調製溶液を各フラスコに10 mLずつ加え、3時間または24時間インキュベートした。D-PBS 5 mLで2回洗浄後、2.5 mL Trypsin-EDTA溶液を加え、DLD-1細胞では10 min、CT -26 細胞では 5 minインキュベートした。光学顕微鏡で細胞が剥れたのを確認した後、RPMI培地を2.5 mL加え、懸濁した。1200 rpmで3 min遠心し、上清を除いた。RPMI培地を5 mL加え、十分に懸濁し、細胞数を計測した。再び同じ条件で遠心し、上清を除いた。その後、HNO
3を200 μL加え、90℃で1 時間インキュベートした。純水で2 mLまでメスアップし、疎水性フィルターで濾過した後に、ICP-MSにより細胞のGa含有量を測定した。得られた結果を
図17に示す。
図17AがDLD-1細胞、
図17BがCT26細胞の測定結果である。結果は、mean ± S.D. (n=3)の値であり、統計的有意差は t-testにより評価した(**p<0.01)。
【0187】
高分子であるPEG-P[Asp(DFO)10]35と低分子であるDFOの取り込み量に大きな差は見られなかった。PEG-P[Asp(DFO)10]35はエンドサイトーシスにより効率的に細胞内に取りこまれたことが示唆された。
【0188】
<3.6. PEG-P[Asp(DFO)m]nによる細胞周期停止>
DFOおよびPEG-P[Asp(DFO)m]nのがん細胞増殖抑制メカニズムを調べるべく、Propidium Iodide (PI)染色により細胞周期を解析した。
【0189】
[DFO溶液、PEG-P[Asp(DFO)10]35溶液の調製]
・DFO/D-PBS溶液:45.0 μM
・PEG-P[Asp(DFO)10]35/D-PBS溶液:61.0 μM (DFO濃度=600 μM)
【0190】
6-wellプレートにDLD-1細胞を2.0 × 10
5 cell / well となるよう播種し、37 ℃、 5 % CO
2下で24時間前培養した。上記の調製溶液をRPMIで10倍希釈したのち、各ウェルに3 mLずつを加え、72時間インキュベートした。D-PBS 3 mLで洗浄後、700 μLのTrypsin-EDTA溶液を加え、10 minインキュベートした。光学顕微鏡で細胞が剥れたのを確認した後、10 % FBSを含むD-PBSを700 μLを加え、十分に懸濁した。懸濁液を1200 rpm、 3 min遠心し、上清を除いた。細胞ペレットにD-PBSを500 μL加え、懸濁した。懸濁液を4.5 mLの70 %エタノールに滴下し、-20℃の冷凍庫で一晩固定した。10.0 μg/mL Propidium Iodide, 100 μg/mL RNase を含むD-PBS 500 mLを加え、暗所で30 minインキュベートした。最後に懸濁液をセルストレイナーによって濾過し、FCMを用いてPropidium Iodideの蛍光を測定した。測定データはModFit LTにより解析した。得られた結果を
図18に示す。
図18AはFCMにより取得された蛍光の分布を示すグラフであり、
図18Bはそれを細胞周期に換算した結果を示す。結果は、mean ± S.D. (n=3)の値を示す。
【0191】
DFOおよびPEG-P[Asp(DFO)10]35は、S期へ細胞周期停止を誘導した。
【0192】
<3.7. PEG-P[Asp(DFO)m]nの細胞増殖抑制作用>
PEG-P[Asp(DFO)m]nのがん細胞増殖抑制作用をCCK-8 assayにより評価した。
【0193】
[DFO溶液、PEG-P[Asp(DFO)10]35溶液、PEG-P[Asp(DFO)26]78溶液の調製]
・DFO/D-PBS溶液:3.00 mM
・PEG-P[Asp(DFO)10]35/D-PBS溶液:0.305 mM (DFO濃度=3.00 mM)
・PEG-P[Asp(DFO)26]78/D-PBS溶液:0.118 mM (DFO濃度=3.00 mM)
【0194】
96-wellプレートにDLD-1細胞を 1.0 × 10
3 cell / well となるよう播種し、37 ℃, 5 % CO
2下で24時間前培養した。上記の調製溶液を各ウェルに10 μLずつ加え、72時間インキュベートした。CCK-8溶液を各ウェルに10 μLずつ加え、2時間インキュベートした後、450 nmの吸光度を測定した。得られた結果を
図19に示す。結果は、mean ± S.D. (n=5)の値を示し、統計的有意差は t-testにより評価した(****p<0.0001)。
【0195】
DFO、PEG-P[Asp(DFO)10]35およびPEG-P[Asp(DFO)26]78は有意にDLD-1細胞の増殖を抑制した。
【0196】
4.皮下腫瘍マウスモデルに対する効果(血中滞留性・腫瘍集積性・抗腫瘍効果)
<4.1. 概要>
CT26(マウス大腸がん細胞)皮下腫瘍マウスモデルにおけるDFOおよびPEG-P[Asp(DFO)m]nの体内動態を評価した。DLD-1(ヒト大腸がん細胞)およびCT26皮下腫瘍マウスモデルにおけるDFOおよびPEG-P[Asp(DFO)m]nの抗腫瘍効果を評価した。
【0197】
<4.2. 試薬、細胞及び動物>
・Deferoxamine mesylate (DFO):Sigma Aldrich Co., llc.
・PEG-P[Asp(DFO)10]35 (Mn=19,300)
・PEG-P[Asp(DFO)26]78 (Mn=32,900)
・D-PBS (-):Nacalai Tesque Inc.
・GaCl3:Tokyo Chemical Industry Co., Ltd.
・5 mol/l NaOH:Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・HNO3:Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd.
・CT-26細胞 (mouse colon carcinoma cell line):American Type Culture Collection.・DLD-1細胞 (human colon adenocarcinoma cell line):American Type Culture Collection.
・BALB/c nude mice:Charles River Japan Inc.
・BALB/c mice : Charles River Japan Inc.
【0198】
<4.3. 機器・設備>
・Countess:Thermo Fischer Scientific Inc.
・Agilent 7900 ICP-MS:Agilent Technology Co., Ltd.
【0199】
<4.4. DFOとPEG-PAsp(DFO)の体内動態>
DFOおよびPEG-P[Asp(DFO)m]nの血中滞留性および腫瘍集積性を評価するべく、DFO/Ga(III)錯体およびPEG-P[Asp(DFO)m]n/Ga(III)錯体をCT26皮下腫瘍マウスモデルに静脈注射し、一定時間経過後の血液および腫瘍のGa含有量をICP-MSにより測定した。
【0200】
[DFO/Ga、PEG-P[Asp(DFO)10]35/Ga、PEG-P[Asp(DFO)26]78/Ga溶液の調製]
・DFO/Ga溶液
16.9 mM DFO/D-PBS溶液 2.70 mLに26.8 mM GaCl3/D-PBS溶液を300 μL加え、一晩攪拌した。NaOHを用いて、pHを7.4に調整したのちに、フィルターで濾過した。(DFO濃度=15.2 mM)
・PEG-P[Asp(DFO)10]35/Ga溶液
1.71 mM PEG-P[Asp(DFO)10]35/D-PBS溶液 (DFO濃度=16.9 mM) 2.70 mLに26.8 mM GaCl3/D-PBS溶液を300 μL加え、一晩攪拌した。反応溶液を限外濾過膜 (MWCO=10 kD) に入れ、限外ろ過を5回行った。精製した溶液にD-PBS 3 mlを加え、フィルターで濾過した。(DFO濃度=15.2 mM)
・PEG-P[Asp(DFO)26]78/Ga溶液
0.662 mM PEG-P[Asp(DFO)26]78/D-PBS溶液 (DFO濃度=16.9 mM) 2.70 mLに26.8 mM GaCl3/D-PBS溶液を300 μL加え、一晩攪拌した。反応溶液を限外濾過膜 (MWCO=10 kD) に入れ、限外ろ過を5回行った。精製した溶液にD-PBS 3 mlを加え、フィルターで濾過した。(DFO濃度=15.2 mM)
【0201】
[CT26皮下腫瘍マウスモデルの作製]
CT26細胞懸濁液(1.0×106 cells/ml)をBALB/cマウスに対して100 μl皮下注射した。
【0202】
[体内動態の評価]
腫瘍サイズがおよそ200 mm
3に達したモデルマウスに対して、上記の調製溶液100 μlを尾静脈投与した(DFO 1.52 μmol/mouse)。試料投与から1, 3, 6, 24時間後に解剖し、血液及び各種臓器を10mLファルコンチューブに回収した。HNO
3を1 mL加え、50℃で15 min、70℃で15min、90℃で1 時間それぞれインキュベートした。純水で10 mlまでメスアップし、疎水性フィルターで濾過した後に、ICP-MSにより血液、各種臓器のガリウム含有量を測定した。その結果を
図20及び
図21に示す。結果は、mean ± S.D. (n=3)の値を示す。
【0203】
投与から1時間後におけるDFOの血中濃度は0.25 % dose/mLと血中からの速やかな消失を示した一方で、PEG-P[Asp(DFO)10]35およびPEG-P[Asp(DFO)26]78は投与から6時間後においてそれぞれ10 % dose/mL、8.6 % dose/mLの血中濃度を示した。さらに、PEG-P[Asp(DFO)10]35およびPEG-P[Asp(DFO)26]78はEPR効果により腫瘍に集積し、投与から6時間後の時点でそれぞれ3.9 % dose/g、4.1 % dose/gの腫瘍内濃度を示した。また、投与から24時間後においてもそれぞれ2.0 % dose/g、3.4 % dose/gの腫瘍内濃度を維持した。これらの結果から、PEG-P[Asp(DFO)10]35およびPEG-P[Asp(DFO)26]78はDFOの血中滞留性の向上に加えて、腫瘍集積性および滞留性の付与を達成したことが示された。
【0204】
<4.5. 抗腫瘍効果>
DLD-1およびCT26皮下腫瘍マウスモデルに対して、DFOおよびPEG-P[Asp(DFO)m]nを静脈注射し、抗腫瘍効果を評価した。
【0205】
[DFO溶液、PEG-P[Asp(DFO)10]35溶液、PEG-P[Asp(DFO)26]78溶液の調製]
・DFO/D-PBS溶液:15.2 mM
・PEG-P[Asp(DFO)10]35/D-PBS溶液:1.54 mM (DFO濃度=15.2 mM)
・PEG-P[Asp(DFO)26]78/D-PBS溶液:0.596 mM (DFO濃度=15.2 mM)
【0206】
[DLD-1およびCT26皮下腫瘍マウスモデルの作製]
DLD-1細胞懸濁液(1.0×107 cells/ml)、CT26細胞懸濁液(1.0×106 cells/ml)をそれぞれBALB/cマウス、BALB/c nudeマウスに100 μl皮下注射した。
【0207】
[抗腫瘍効果の評価]
腫瘍サイズが50~100 mm
3に達したマウスに対して、上記の調製溶液100 μlを尾静脈投与した(DFO 1.52 μmol / mouse)。Control群はPBSを治療群と等量尾静脈注射した。投与スケジュールを以下に示す。
DLD-1皮下腫瘍マウスモデル:1日1回週5回投与、全15回
CT26皮下腫瘍マウスモデル:1日1回連日投与、全14回
投与期間中は1~2日おきに腫瘍径及び体重を測定した。測定した腫瘍径は、楕円体積近似式 (ab
2 × 1/2、a:長辺、b:短辺)に代入し腫瘍体積とした。腫瘍サイズおよび体重の経時変化をそれぞれ
図22および
図24、
図23および
図25に示す。
図22および
図23がDLD-1皮下腫瘍マウスモデル、
図24および
図25がCT26皮下腫瘍マウスモデルの測定結果である。結果は、mean ± S.D.の値を示す。
【0208】
DLD-1およびCT26皮下腫瘍マウスモデルにおいて、PEG-P[Asp(DFO)10]35およびPEG-P[Asp(DFO)26]78はDFOと比較して優れた抗腫瘍効果をもたらすことが示された。PEG-P[Asp(DFO)10]35およびPEG-P[Asp(DFO)26]78が、腫瘍集積性を達成したことによるものと考えられる。また、治療期間中に体重の減少は確認されなかったことから、重篤な副作用は発現しなかったと考えられる。
【0209】
5.培養細胞に対する評価
<5.1. 概要>
吸光スペクトル測定およびcalcein-AM法により、PEG-P[Asp(DFO)m]nが鉄キレート能を有することが確認され、その結果として、PEG-P[Asp(DFO)m]nで処理した細胞の細胞質内自由鉄が減少するかを調べるべく、細胞質内自由鉄をFerroOrangeにより検出した。また、PEG-P[Asp(DFO)m]nの細胞増殖抑制のメカニズムとしてS期への細胞周期停止が明らかとなり、それはDNA合成阻害によるものと考え、BrdU染色によりDNA合成阻害を評価した。さらに、PEG-P[Asp(DFO)m]nがアポトーシスを誘導するかを調べるために、アポトーシス細胞をPI、AnnexinV染色により検出した。
【0210】
<5.2. 試薬及び細胞株>
特に記述のない試薬は市販品をそのまま使用した。
・DFO:Sigma AldrichCo., llc.
・PEG-P[Asp(DFO)10]35 (Mn=19,300)
・Roswell Park Memorial Institute medium (RPMI):Sigma AldrichCo., llc.
・D-PBS(-):Nacalai Tesque Inc.
・Fetal bovine serum (FBS):BioseraInc.
・Trypsin-EDTA solution:Sigma life scienceCo., Ltd.
・Penicillin / streptomycin:Sigma life scienceCo., Ltd.
・FerroOrange:Goryo Chemical, Inc.
・BrdU:Sigma AldrichCo., llc.
・5 M HCl:Nacalai Tesque Inc.
・Sodium borate:Nacalai Tesque Inc.
・Paraformaldehyde (PFA):Nacalai Tesque Inc.
・TritonX-100:Tokyo Chemical Industry Co., Ltd.
・Bovine serum albumin (BSA):Nacalai Tesque Inc.
・FITC-抗BrdU 抗体:Thermo Fisher Scientific, Inc.
・Hoechst 33342:Thermo Fisher Scientific Inc.
・Tween20:Sigma life scienceCo., Ltd.
・Apoptosis Kit (Annexin V-FITC kit):Medical & Biological Laboratories Co., Ltd
・DLD-1細胞 (human colon adenocarcinoma cell line):American Type Culture Collection
【0211】
<5.3. 測定機器>
・Countess:Thermo Fischer Scientific Inc.
・LSM710:Carl Zeiss Co., Ltd.
・Guava(登録商標) easyCyte Flow Cytometry (FCM):Merck Millipore
・Spark(登録商標): Tecan Japan Co., Ltd,
【0212】
<5.4. PEG-P[Asp(DFO)m]nの鉄キレート能の評価>
DFOおよびPEG-P[Asp(DFO)m]nが細胞質内の自由鉄を減少させるかを調べるべく、DFOおよびPEG-P[Asp(DFO)m]n処理した細胞の細胞質内自由鉄をFerroOrangeにより検出した。
【0213】
[DFO溶液、PEG-P[Asp(DFO)10]35溶液の調製]
・DFO/D-PBS溶液:2.00 mM
・PEG-P[Asp(DFO)10]35/D-PBS溶液:200 μM (DFO濃度=2.00 mM)
【0214】
[共焦点顕微鏡による観察]
35 mm
2 Glass base dishにDLD-1細胞を3.0 × 10
5 cell / wellとなるよう播種し、37 ℃、5 % CO
2下で24時間前培養した。溶液を除いた後、RPMIで10倍希釈した上記の調製溶液を各ディッシュに2 mLずつを加え、24時間インキュベートした。無血清RPMI 2 mLで洗浄後、1 μM FerroOrangeを含む無血清RPMI 1 mLを加え、暗所で30 minインキュベートした。その後、FerroOrangeの蛍光をCLSMで観察した。得られた結果を
図27Aに示す。
【0215】
[プレートリーダーによる測定]
96-wellプレートにDLD-1細胞を1.0 × 10
4 cell / wellとなるよう播種し、37 ℃、5 % CO
2下で24時間前培養した。溶液を除いた後、RPMIで10倍希釈した上記の調製溶液を各ウェルに100 μLずつ加え、24 hインキュベートした。無血清RPMI 100 μLで洗浄後、1 μM FerroOrangeを含む無血清RPMI 100 μLを加え、暗所で30 minインキュベートした。その後、プレートリーダーによりFerroOrangeの蛍光強度を測定した。得られた結果を
図27Bに示す。結果はmean ± S.D. (n=5)の値を示す。統計的有意差はTukey's multiple comparison testにより評価した(****p<0.0001)。
【0216】
DFOおよびPEG-P[Asp(DFO)10]35は、細胞質内の自由鉄を顕著に減少させた。
【0217】
<5.5. PEG-P[Asp(DFO)m]nによるDNA合成阻害>
DFOおよびPEG-P[Asp(DFO)m]nのS期への細胞周期停止のメカニズムを調べるべく、BrdU染色によりDNA合成阻害を評価した。
【0218】
[DFO溶液、PEG-P[Asp(DFO)10]35溶液の調製]
・DFO/D-PBS溶液:450 μM
・PEG-P[Asp(DFO)10]35/D-PBS溶液:60.0 μM (DFO濃度=600 μM)
【0219】
[共焦点顕微鏡による観察]
35 mm
2 Glass base dishにDLD-1細胞を1.0 × 10
5 cell / well となるよう播種し、37 ℃、5 % CO
2下で24時間前培養した。溶液を除いた後、RPMIで10倍希釈した上記の調製溶液を各ウェルに3 mLずつを加え、72時間インキュベートした。その後、10 mM BrdU / D-PBS溶液を330 μL加え、1時間インキュベートした。溶液を除いた後、1.0 M HCl溶液を1 mL加え、10 minインキュベートした。溶液を除いた後、0.1 M 四ホウ酸ナトリウムバッファー (pH 8.5)を1 mL加え、30 minインキュベートした。D-PBS 2 mLで洗浄後、4 % PFA / D-PBS溶液を1 mL加えて10 minインキュベートした。溶液を除いた後、0.2 % TritonX-100 / D-PBS溶液を1 mL加えて5 minインキュベートした。D-PBS 2 mLで洗浄後、5 % BSA / D-PBS溶液を2 mL加えて1時間インキュベートした。溶液を除いた後、FITC-抗BrdU 抗体/ 1 % BSA溶液を加え暗所で30 minインキュベートした。D-PBS 2 mLで洗浄後、5.0 μg/mL Hoechst/ D-PBS 溶液 1 mLを加え、暗所で5 minインキュベートした。D-PBS 2 mLで洗浄後、CLSMで観察した。得られた結果を
図28Aに示す。
【0220】
[フローサイトメーターによる測定]
6-wellプレートにDLD-1細胞を2.0 × 10
5 cell / wellとなるよう播種し、37 ℃、5 % CO
2下で24時間前培養した。溶液を除いた後、RPMIで10倍希釈した上記の調製溶液を、各ウェルに3 mLずつを加え、72 hインキュベートした。その後、10 mM BrdU / D-PBS溶液を330 μL加え、1時間インキュベートした。D-PBS 3 mLで洗浄後、700 μLのTrypsin-EDTA溶液を加え、10 minインキュベートした。光学顕微鏡で細胞が剥れたのを確認した後、RPMIを700 μL加え、十分に懸濁した。懸濁液を1200 rpm、 3 min遠心し、上清を除いた。細胞ペレットにD-PBSを500 μL加え、懸濁した。細胞数を計測し、各サンプルの細胞数を揃えた。懸濁液を4.5 mLの70 %エタノールに滴下し、-20℃の冷凍庫で一晩固定した。懸濁液を1200 rpm、 3 min遠心し、上清を除いた。2.0 M HCl / 0.5 %TritonX-100溶液を500 μL加え、30 minインキュベートした。懸濁液を1200 rpm、 3 min遠心し、上清を除いた。0.1 M 四ホウ酸ナトリウムバッファー (pH 8.5)を500 μL加え、2 minインキュベートした。懸濁液を1200 rpm、 3 min遠心し、上清を除いた。1 % BSA / 0.5 % Tween20 / D-PBS溶液 1 mLで洗浄したのちに、1 % BSA / 0.5 % Tween20 / D-PBS溶液を95 μL加えた。FITC-抗BrdU 抗体を5 μL加え、1時間インキュベートした。1 % BSA / 0.5 % Tween20 / D-PBS溶液 1 mLで洗浄したのちに、1 % BSA / 0.5 % Tween20 / D-PBS溶液を 500 μLを加えた。最後に懸濁液をセルストレイナーによって濾過し、FCMを用いてBrdUの蛍光を測定した。得られた結果を
図28Bに示す。
【0221】
DFOおよびPEG-P[Asp(DFO)10]35は、BrdUの取り込みを顕著に抑制したことからDNA合成阻害を誘導したことが示され、その結果、細胞周期をS期へ停止させたものと考えられた。
【0222】
<5.6. PEG-P[Asp(DFO)m]nのアポトーシス誘導の評価>
DFOおよびPEG-P[Asp(DFO)m]nがアポトーシスを誘導するかを調べるために、アポトーシス細胞をPI、AnnexinV染色により検出した。
【0223】
[DFO溶液、PEG-P[Asp(DFO)10]35溶液の調製]
・DFO/D-PBS溶液:1.00 mM
・PEG-P[Asp(DFO)10]35/D-PBS溶液:100 μM (DFO濃度=1.00 mM)
【0224】
6-wellプレートにDLD-1細胞を1.0 × 10
5 cell / wellとなるよう播種し、37 ℃、5 % CO
2下で24時間前培養した。溶液を除いた後、RPMIで10倍希釈した上記の調製溶液を各ウェルに3 mLずつ加え、24時間インキュベートした。D-PBS 3 mLで洗浄後、700 μLのTrypsin-EDTA溶液を加え、10 minインキュベートした。光学顕微鏡で細胞が剥れたのを確認した後、RPMIを700 μL加え、十分に懸濁した。懸濁液を1200 rpm、 3 min遠心し、上清を除いた。RPMIを500 μL加え、細胞数を計測して、各サンプルの細胞数を揃えた。懸濁液を1200 rpm、 3 min遠心し、上清を除いた。Apoptosis Kit付属のbinding buffer 85 μLと、annexinV溶液 10 μL、PI溶液 5 μLを加え、暗所で15 minインキュベートした。Binding buffer 400 μLを加えたのちに、懸濁液をセルストレイナーによって濾過し、FCMを用いてPI、AnnexinVの蛍光を測定した。得られた結果を
図29に示す。
図29AはFCMにより取得された蛍光の分布を示すグラフであり、
図29Bはそれを生細胞、アポトーシス初期細胞、アポトーシス後期・ネクローシス細胞に換算した結果を示す。結果はmean ± S.D. (n=3)の値を示す。統計的有意差はTukey's multiple comparison testにより評価した(****p<0.0001)。
【0225】
DFOおよびPEG-P[Asp(DFO)10]35は、アポトーシス細胞およびネクローシス細胞の割合を顕著に増加させた。
【0226】
6.皮下腫瘍モデルマウスの腫瘍中プロトポルフィリンIX蓄積性に対する効果
<6.1. 概要>
CT26(マウス大腸がん細胞)皮下腫瘍マウスモデルに5-アミノレブリン酸塩酸塩とDFOまたはPEG-P[Asp(DFO)m]nを投与したときの腫瘍中プロトポルフィリンIX蓄積性を評価した。
【0227】
<6.2. 試薬、細胞および動物>
・Deferoxamine mesylate(DFO):Sigma Aldrich Co., llc.
・PEG-P[Asp(DFO)10]35 (Mn=19,300)
・5-アミノレブリン酸塩酸塩:COSMO OIL Co., Ltd.
・D-PBS(-):Nacalai Tesque Inc.
・PBS(-):Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd
・N,N-Dimethylformamide (DMF):Wako Pure Chemical Industries Co., Ltd
・Protoporphyrin IX:Frontier Scientific, Inc.
・CT-26細胞(mouse colon carcinoma cell line):American Type Culture Collection.
・BALB/c mice:Charles River Japan Inc.
【0228】
<6.3. 機器・設備>
・infinite M200 PRO:Tecan Group Ltd.
【0229】
<6.4. 腫瘍中プロトポルフィリンIX蓄積性の評価>
[DFO溶液、PEG-P[Asp(DFO)10]35溶液の調製]
・DFO/D-PBS溶液:15.2 mM
・PEG-P[Asp(DFO)10]35/D-PBS溶液:1.54 mM (DFO濃度=15.2 mM)
【0230】
[5-アミノレブリン酸塩酸塩溶液の調製]
5-アミノレブリン酸塩酸塩を25 mg/mlとなるよう生理食塩水に溶解させた。
【0231】
[CT26皮下腫瘍マウスモデルの作製]
CT26細胞懸濁液(1.0×106 cells/ml)をBALB/cマウスに対して100 μl皮下注射した。
【0232】
[腫瘍中プロトポルフィリンIXの評価]
腫瘍サイズがおよそ200 mm
3に達したモデルマウスに対して、DFOまたはPEG-P[Asp(DFO)
10]
35溶液100 μlを尾静脈注射した(DFO 1.52 μmol/mouse)。Control群はDFO投与群と同様に生理食塩水 100 μlを尾静脈注射した。その直後に5-アミノレブリン酸塩酸塩溶液100 μlを経口投与した (250 mg/kg body weight, ALA換算で195.6 mg/kg body weight)。5-アミノレブリン酸塩酸塩溶液投与から0、1、2、3、5時間後に解剖し、腫瘍を回収した。腫瘍重量の9倍量のPBS(-)を加え、ホモジナイズし、超音波破砕した。この破砕液300 μlとDMF 700 μlを混合して遠心分離した。遠心上清の蛍光強度 (励起波長 405 nm) を測定したところ、635 nmにピークを持つ蛍光スペクトルが得られた。プロトポルフィリンIX量は励起波長405 nm、蛍光波長630 nmの蛍光強度を用いて算出した。
図30に腫瘍中プロトポルフィリンIXの測定結果を示す。結果は、mean ± S.D.(n=3)の値を示す。
【0233】
CT26皮下腫瘍マウスモデルにおいて、PEG-P[Asp(DFO)10]35はControlおよびDFOと比較して、優れた腫瘍中プロトポルフィリン蓄積性をもたらすことが示された。
【0234】
7.ビタミンC療法に対する効果
<7.1. 背景>
本実施例で用いた鉄キレート剤とビタミンCとを併用することにより、ビタミンC療法による治療効果が向上されるかを検討した。
【0235】
<7.2. in vitroの活性評価>
[実験材料]
・PEG-P[Asp(DFO)36]76 (Mn = 45,000)
・L-Ascorbic acid sodium salt (和光純薬株式会社)
・FeCl3 (和光純薬株式会社)
・CT26細胞(ATCC)
・RPMI培地(Sigma-Aldrich), 10%FBS + 1%ペニシリン・ストレプトマイシンを加えて細胞培養用培地として使用
・Cell Counting Kit-8(同仁化学)
【0236】
[実験方法]
・CT26細胞を96ウェルプレートに5 x 103 cells/wellで24時間培養した。
・細胞を各濃度のPEG-P[Asp(DFO)36]76及び5 mMのL-ascorbic acid sodium saltと15 μMのFe3+を含有する培地中で2時間培養した。
・培地交換した後、24時間培養した。
・培地を除去した後、10%のCell Counting Kit-8を含有する100 μL培地を加えて1.5時間培養した。
・450 nmの吸光度を測定し、細胞生存率を算出した。
【0237】
得られた結果を
図31に示す。
図31は、In vitroにおけるPEG-P[Asp(DFO)
36]
76のビタミンC治療への影響を示すグラフである。グラフ中の濃度は、PEG-P[Asp(DFO)
36]
76中のDFO相当の濃度を示す。結果は平均値±標準偏差(n=9)で示されている。
【0238】
[結果]
ビタミンCの殺細胞効果はPEG-P[Asp(DFO)
36]
76を加えることにより癌細胞殺傷効果が大幅に向上した(
図31)。
【0239】
<7.3. in vivoの活性評価>
[実験材料]
・PEG-P[Asp(DFO)36]76 (Mn = 45,000)
・L-Ascorbic acid sodium salt (和光純薬株式会社)
・CT26細胞(ATCC)
・RPMI培地(Sigma-Aldrich), 10%FBS + 1%ペニシリン・ストレプトマイシンを加えて細胞培養用培地として使用
・BALB/cマウス(メス、日本SLCより購入)
【0240】
[実験方法]
・CT26細胞をBALB/cマウスの皮下に3 x 105 cells/mouseで注射し皮下腫瘍モデルを作成した。
・腫瘍の大きさが50 mm3に達した時点でPEG-P[Asp(DFO)36]76を静脈注射した(PEG-P[Asp(DFO)36]76投与量: 0.9 mg/mouse=45 mg/体重kgまたは1.8 mg/mouse=90 mg/体重kg)。
・PEG-P[Asp(DFO)36]76の投与から6時間後に、純水に溶解したL-ascorbic acid sodium saltを10 mg/mouse=500 mg/体重kgで静脈注射した。
・5日間連続で上記の注射を行い、腫瘍サイズの経時変化を調べた。
【0241】
得られた結果を
図32に示す。
図32は、In vivoにおけるPEG-P[Asp(DFO)
36]
76のビタミンC治療への影響を示すグラフである。結果は平均値±標準偏差で示されている。
【0242】
[結果]
PEG-P[Asp(DFO)36]76はと高濃度ビタミンCとを併用することにより、高い治療効果を示した。また、PEG-P[Asp(DFO)36]76投与量が0.9 mg/mouseの場合と1.8 mg/mouseの場合とでは、投与量が0.9 mg/mouseの場合のほうが、その効果が高い傾向にあることが示された。
【0243】
8. まとめ
以上、本実施例の内容をまとめると、本実施例では、DFOが鉄をキレートするうえで関与しない末端のアミノ基を、多価カルボン酸構造を有する生体適合性高分子に結合した鉄キレート剤送達システムを構築した。吸収スペクトル測定により、本実施例で用いた鉄キレート剤の側鎖のDFOはフリーのDFOと同等の鉄キレート能を有することを確認した。生体環境においても本実施例で用いた鉄キレート剤のキレート能は維持され、培養大腸がん細胞内の鉄イオンをキレートすること、培養結腸腺がん細胞質内での自由鉄の減少を確認した。また、同細胞において細胞周期への影響を調べたところ、本実施例で用いた鉄キレート剤の投与によるDNA合成阻害が認められ、本実施例で用いた鉄キレート剤は、細胞周期をS期で停止させ、細胞増殖アッセイより増殖抑制作用やアポトーシス誘導作用等を有することを確認した。
【0244】
皮下腫瘍マウスモデルに対してDFOと本実施例で用いた鉄キレート剤を静脈注射して、血中滞留性を比較した結果、DFOは早期に血中から消失したが、本実施例で用いた鉄キレート剤は投与から6時間後においても極めて高い血中濃度を維持した。さらに、本実施例で用いた鉄キレート剤は腫瘍に集積し、時間経過に伴いその集積量は増加した。この皮下腫瘍モデルを用いて抗腫瘍効果を検討したところ、DFOと比較して有意な治療効果をもたらすことが示された。
【0245】
また、本実施例で用いた鉄キレート剤及び5-アミノレブリン酸の投与により、腫瘍中のプロトポルフィリンIXの蓄積量の向上が認められた。本実施例で用いた鉄キレート剤が、5-アミノレブリン酸を用いた光線力学診断及び/又は治療での使用に好適であることが示された。
更には、本実施例で用いた鉄キレート剤及びビタミンCの投与により、優れた抗腫瘍効果が発揮され、本実施例で用いた鉄キレート剤が、ビタミンC療法における使用に好適であることが示された。
【0246】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。