(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】核酸封入AAV中空粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/864 20060101AFI20241023BHJP
C12N 15/35 20060101ALI20241023BHJP
C12N 15/87 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/35 ZNA
C12N15/87 Z
(21)【出願番号】P 2021529175
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2020025961
(87)【国際公開番号】W WO2021002412
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2019124647
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 産学連携医療イノベーション創出プログラム「AAV中空粒子を活用した核酸医薬のDDS」委託研究開発 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】500557048
【氏名又は名称】学校法人日本医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】302019245
【氏名又は名称】タカラバイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】岡田 尚巳
(72)【発明者】
【氏名】峰野 純一
(72)【発明者】
【氏名】蝶野 英人
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/139637(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/144446(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/033407(WO,A2)
【文献】Scientific Reports,2017年,Vol.7, No.1:5432,pp.1-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)の核酸封入中空粒子の製造方法;
(1)AAV逆位末端反復配列(ITR)のA領域の配列及びD’領域の配列(AD配列)又はAD配列の相補配列、及び目的の遺伝子配列を含む直鎖状核酸断片を調製する工程、
ここで、該AD配列又はAD配列の相補配列は分子内のアニーリングを生じない、
(2)AAVの中空粒子を産生する細胞に(1)の核酸断片を導入する工程、及び
(3)(2)の細胞を培養する工程。
【請求項2】
核酸断片が、5’末端から3’末端に向かって、AD配列又はAD配列の相補配列、及び目的の遺伝子配列を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
核酸断片が、5’末端から3’末端に向かって、目的の遺伝子配列及び、AD配列又はAD配列の相補配列を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
核酸断片が、AAV ITRのA’領域の配列を含まない、請求項1記載の方法。
【請求項5】
核酸断片を調製する工程が、核酸増幅反応による核酸断片の増幅を含む工程である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
中空粒子を産生する細胞が、AAVのCap遺伝子、Rep遺伝子及びAAVのヘルパー機能が導入された細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
核酸断片が2本鎖の核酸又は1本鎖の核酸である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
核酸断片のAD配列領域が2本鎖で、目的の遺伝子配列領域が1本鎖の核酸である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
AAV逆位末端反復配列(ITR)のA領域の配列及びD’領域の配列(AD配列)又はAD配列の相補配列、及び目的の遺伝子配列を含
み、ここで、該AD配列又はAD配列の相補配列は分子内のアニーリングを生じない、直鎖状核酸断片。
【請求項10】
5’末端から3’末端に向かって、AD配列又はAD配列の相補配列、及び目的の遺伝子配列を含む、請求項9記載の核酸断片。
【請求項11】
5’末端から3’末端に向かって、目的の遺伝子配列及び、AD配列又はAD配列の相補配列を含む、請求項9記載の核酸断片。
【請求項12】
AAV ITRのA’領域の配列を含まない、請求項9記載の核酸断片。
【請求項13】
2本鎖の核酸又は1本鎖の核酸である、請求項9記載の核酸断片。
【請求項14】
核酸断片のAD配列領域が2本鎖で、目的の遺伝子配列領域が1本鎖の核酸である、請求項9記載の核酸断片。
【請求項15】
請求項9~14いずれか1項記載の直鎖
状核酸断片を包含する、AAVの核酸封入中空粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸が封入されたAAV中空粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトを含む哺乳動物細胞、組織又は個体に目的の遺伝子を導入し、発現させるために、様々な遺伝子導入技術が開発されている。ウイルスベクターも、その一つであり、レンチウイルス、オンコレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等に由来する種々のベクターが知られている。
【0003】
中でも、アデノ随伴ウイルス(AAV:Adeno-Associated Virus)ベクターは、近年、遺伝子治療において有用な遺伝子導入ベクターとして期待されている。AAVは、パルボウイルスに属する非病原性のウイルスで、自己複製能を欠損しているため自律的増殖ができず、増殖にはアデノウイルスやヘルペスウイルスの共感染を必要とするため伝搬性が低いとされている。また宿主において免疫原性が低い性質も有する。そのような特徴から遺伝子導入ベクターとして、安全性が高いという利点を有している。加えて、宿主域が広いことから種々の細胞に感染可能であり、各血清型AAV(例えば、AAV1~AAV9)に由来するベクターも開発されていることから、それぞれの血清型における感染標的細胞の特異性を応用して、神経細胞、筋細胞、肝細胞等、特定の細胞、組織及び器官への遺伝子導入に利用されている。しかし、AAVをはじめとする従来のウイルスベクターは、自己複製能の獲得や、野生型ウイルス混入等の様々な問題点があった。
【0004】
上記問題点を解決するため、Samulskiらは、AAVの外殻タンパク質を構成するキャプシドを調製し、これを薬剤の送達担体として利用することを提唱した(特許文献1)。キャプシドで形成され、内部にAAVウイルスゲノムを含まないAAV中空粒子は、標的細胞の特異的認識、細胞への吸着と侵入、脱穀等のウイルスの初期感染活性は有するが、自己複製に必要なウイルス由来の遺伝子を有さないためウイルスの増殖活性はない。したがって、中空粒子は、タンパク質や核酸等の薬剤を標的細胞に特異的に送達させることが可能であり、投与個体に対する安全性を兼ね備えた理想的な薬剤送達系(DDS:Drug Delivery System)の担体である。
【0005】
Samulskiらは、中空粒子を尿素、熱やpHの条件によって一旦変性させ、薬剤を内部に取り込ませた後に再構成させる導入方法を提示している(特許文献1)。しかし、尿素等の変性剤を中空粒子に作用させると、キャプシドが有する初期感染活性が低下し、送達担体としての機能が損なわれる問題があった。また、Okadaらは、界面活性剤を用いて中空粒子にタンパク質や核酸を導入する方法を開示している(特許文献2)。
【0006】
AAVの複製過程において、DNAゲノムが環状の2本鎖DNA(cAAV)の形態を取りうることが知られている。この2本鎖DNAは、逆位末端反復(ITR)配列を1つ有している。Musatovらは、AAVのゲノムDNAの複製及び封入には、ITRのA領域の配列及びD’領域の配列からなる配列(AD配列)が必要であることを報告している(非特許文献1)。Musatovらは、AD配列を含む環状2本鎖DNAを細胞に導入させて、DNAが封入されたAAV中空粒子を製造することを開示する。また、Okadaらは、AD配列及びその相補的な配列(A’領域の配列及びD領域の配列)を含む核酸断片を細胞に導入させて、核酸が封入されたAAV中空粒子を製造すること開示している(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第5,863,541号公報
【文献】国際公開第2012/144446号パンフレット
【文献】国際公開第2018/139637号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【文献】Musatov,et al.,2002,vol.76,No.24, p.12792-12802
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、より簡便で効率的な中空粒子内への核酸封入方法を開発し、それを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、より簡便かつ効率的な方法で、ウイルスの初期感染活性を維持したまま核酸が封入された中空粒子を製造することに成功した。また、この核酸封入中空粒子と標的細胞を混合することにより、中空粒子に内包された核酸を該標的細胞内に効果的に導入できることも確認した。本発明は、これらの知見と結果に基づくものであり、以下を提供するものである。
【0011】
すなわち、本発明は、
[1]以下の工程を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)の核酸封入中空粒子の製造方法;
(1)AAV逆位末端反復配列(ITR)のA領域の配列及びD’領域の配列(AD配列)及び/又はAD配列の相補配列、及び目的の遺伝子配列を含む直鎖状核酸断片を調製する工程、
(2)AAVの中空粒子を産生する細胞に(1)の核酸断片を導入する工程、及び
(3)(2)の細胞を培養する工程、
[2]核酸断片が、5’末端から3’末端に向かって、AD配列及び/又はAD配列の相補配列、及び目的の遺伝子配列を含む、[1]記載の方法、
[3]核酸断片が、5’末端から3’末端に向かって、目的の遺伝子配列、及びAD配列及び/又はAD配列の相補配列を含む、[1]記載の方法、
[4]核酸断片が、AAV ITRのA’領域の配列を含まない、[1]記載の方法、
[5]核酸断片を調製する工程が、核酸増幅反応による核酸断片の増幅を含む工程である、[1]記載の方法、
[6]中空粒子を産生する細胞が、AAVのCap遺伝子、Rep遺伝子及びAAVのヘルパー機能が導入された細胞である、[1]記載の方法、
[7] 核酸断片が2本鎖の核酸又は1本鎖の核酸である、[1]記載の方法、
[8] 核酸断片のAD配列領域が2本鎖で、目的の遺伝子配列領域が1本鎖の核酸である、[1]記載の方法、
[9] AAV逆位末端反復配列(ITR)のA領域の配列及びD’領域の配列(AD配列)又はAD配列の相補配列、及び目的の遺伝子配列を含む直鎖状核酸断片、
[10] 5’末端から3’末端に向かって、AD配列又はAD配列の相補配列、及び目的の遺伝子配列を含む、[9]記載の核酸断片、
[11] 5’末端から3’末端に向かって、目的の遺伝子配列及び、AD配列又はAD配列の相補配列を含む、[9]記載の核酸断片、
[12] AAV ITRのA’領域の配列を含まない、[9]記載の核酸断片、
[13] 2本鎖の核酸又は1本鎖の核酸である、[9]記載の核酸断片、
[14] 核酸断片のAD配列領域が2本鎖で、目的の遺伝子配列領域が1本鎖の核酸である、[9]記載の核酸断片、
[15] [9]~[14]いずれか1項記載の直鎖上核酸断片を包含する、AAVの核酸封入中空粒子、に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、より簡便で効率的に、核酸が封入された中空粒子を製造する方法が提供される。本発明における「核酸が封入されたAAV中空粒子」は、直鎖状の核酸断片が封入された、完全なAAVゲノムを保持していないAAV様粒子であり、通常のAAVとは相違する。
【0013】
本発明の中空粒子の製造方法によれば、ウイルスに由来する配列を少なくして安全性及び細胞毒性を低減させ、従来の方法に比べて簡便かつ高効率に目的の核酸を中空粒子に封入することができる。それによって安全性が高く、かつ標的細胞特異性を有する中空粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】AD配列を含む直鎖状核酸断片を用いて調製したAAV中空粒子の力価を測定した結果を示す図である。
【
図2】AD配列を含む直鎖状核酸断片を用いて調製したAAV中空粒子の力価を測定した結果を示す図である。
【
図3】AD配列を含む直鎖状核酸断片を用いて調製したAAV中空粒子による遺伝子導入を測定した結果を示す図である。
【
図6】実施例4でAAV中空粒子に封入した直鎖状核酸断片を示す図である。
【
図7】AD配列を含む直鎖状核酸断片を用いて調製したAAV中空粒子による遺伝子導入を測定した結果を示す図である。
【
図8】実施例5でAAV中空粒子に封入した直鎖状核酸断片を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において「逆方向末端反復(ITR:inverted terminal repeat)」は、AAVのゲノムDNAの両端に存在するシス要素を意味する。ITRはAAVゲノムDNAの複製、増幅、封入に必須である。ITRにはRep結合部位(RBS、RBEとも記載される)及び末端分離部位(TRS)並びにヘアピン形成を可能にする回文配列が含まれる。ITRは末端から順に、A領域、B領域、B’領域、C領域、C’領域、A’領域を含む。A領域とA’領域、B領域とB’領域、C領域とC’領域はそれぞれ逆方向の相補配列であり、それぞれの領域がアニーリングして2本鎖となり
図4に示すようなハンマーヘッド構造を形成する。A’領域の末端のうち、C’領域の反対側(3’末端側又は5’末端側)にD領域が存在する。
【0016】
本明細書において「3’末端側」とは、ある配列(領域)の3’末端部分の、さらに3’末端の方向に位置することを意味する。同様に、「5’末端側」とは、ある配列(領域)の5’末端部分の、さらに5’末端の方向に位置することを意味する。したがって、本明細書において「3’末端側」又は「5’末端側」と記載されている場合、ある配列(領域)の3’末端部分又は5’末端部分に接して目的の配列等が配置されること、及びある配列(領域)の3’末端部分又は5’末端部分に接しないで目的の配列等が配置される(すなわち、ある配列(領域)の3’末端部分又は5’末端部分と目的の配列等の間に任意の配列が介在する)ことの両方を包含する。
【0017】
本発明において「キャプシド(capsid)」は、ウイルス粒子(virion)を構成する要素の1つで、ゲノムDNA又はコアを取り囲む複数の単位タンパク質(カプソメア:capsomere)からなる外皮(coat)又は殻(shell)を意味する。キャプシドの内部にウイルス核酸、コア又は他の物質を何も含まないキャプシドタンパク質のみから構成された粒子を、本明細書では「中空粒子(empty particle)」と呼び、「中空キャプシド粒子(empty capsid particle)」と呼ぶ場合もある。
【0018】
本発明において「目的の遺伝子」は、中空粒子に封入され標的細胞に導入されることが望まれる任意の遺伝子を意味する。目的の遺伝子は、構造遺伝子(例えば、酵素、転写因子、レポーター分子、増殖因子、抗原タンパク質等の機能性タンパク質の遺伝子及びその断片)及び調節遺伝子(例えば、アンチセンスDNA、機能性RNA(アンチセンスRNA、siRNA、miRNA、リボザイム等)をコードする遺伝子等)を含む。さらに、目的の遺伝子は、転写や翻訳を制御する調節エレメント、例えばプロモーター配列、エンハンサー配列、ポリA付加シグナル配列、ターミネーター配列等を含んでいてもよい。すなわち、細胞内においてタンパク質や機能性核酸を発現しうる配列を目的の遺伝子とすることができる。
【0019】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0020】
1つの態様として、本発明は以下の工程を含むAAVの核酸封入中空粒子の製造方法である;
(1)AAV逆位末端反復配列(ITR)のA領域の配列及びD’領域の配列(AD配列)又はAD配列の相補配列、及び目的の遺伝子配列を含む直鎖状核酸断片を調製する工程、
(2)AAVの中空粒子を産生する細胞に(1)の核酸断片を導入する工程、及び
(3)(2)の細胞を培養する工程。
【0021】
(A)核酸を調製する工程
前記(1)工程の直鎖状核酸断片は、AD配列又はAD配列の相補配列、及び目的の遺伝子配列を含む。AD配列は、公知の天然AAV血清型のゲノムDNAの配列(例えば、血清型1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11)が使用できる。各血清型のITRにおいて、A領域、B領域、B’領域、C領域、C’領域、A’領域が特定されている。D領域は、ITRのA’領域の末端のうち、C’領域の反対側(3’末端側又は5’末端側)に存在する。各血清型のD領域の配列及びそのD領域の配列に相補的で逆方向の配列であるD’領域の配列も特定されている。A領域、A’領域、D領域、及びD’領域は、異なる血清型に由来してもよい。さらに、Repとの結合能及びヘアピン形成能を保持する範囲内において、天然のA領域の配列の変異体も使用でき、その場合のA’領域の配列は変異体のA領域の配列と相補的である。また、本発明は天然のD領域の配列の変異体も使用でき、その場合のD’領域の配列は変異体のD領域の配列と相補的である。
【0022】
本発明で使用する直鎖状核酸断片は、A’領域の配列(配列番号8)を含まない。すなわち、直鎖状核酸断片に含まれるA領域の配列との分子内のアニーリングは生じず、A領域の配列の2次構造を形成しない。さらに、直鎖状核酸断片は、5’末端から3’末端に向かって、D領域の配列-A’領域の配列である配列を含まない。すなわち、直鎖状核酸断片に含まれるAD配列との分子内のアニーリングは生じず、AD配列の2次構造を形成しない。さらに前記核酸断片は、B領域、B’領域、C領域及びC’領域からなる群より選択される少なくとも1つの領域の配列を欠損している。より好適には、前記核酸断片はB領域、B’領域、C領域及びC’領域の配列を欠損している。
【0023】
本発明の一態様として、前記(1)工程の直鎖状核酸断片は、5’末端から3’末端に向かって、AD配列又はAD配列の相補配列、及び目的の遺伝子配列を含む。また、別の態様の直鎖状核酸断片は、5’末端から3’末端に向かって、目的の遺伝子配列及び、AD配列又はAD配列の相補配列を含む。
【0024】
前記(1)工程の直鎖状核酸断片は、目的の遺伝子配列を含む。目的の遺伝子はAAVに対して外来性であり得る。
【0025】
前記(1)工程の直鎖状核酸断片は、少なくとも1つのAD配列又はAD配列の相補配列を含む。本発明は、AD配列又はAD配列の相補配列を1つ含む核酸断片、2つ含む核酸断片、3つ含む核酸断片、4つ含む核酸断片又は5つ以上含む核酸断片、例えば、1~3つ含む核酸断片が使用できる。
【0026】
前記(1)工程の直鎖状核酸断片は、DNA又はRNAであり、好ましくはDNAである。さらに当該核酸断片は、相補的な2分子の核酸がアニールした2本鎖の核酸でもよく、1分子の1本鎖の核酸でもよい。なお、直鎖状の核酸とは、核酸の両端が共有結合により結合していないことを意味する。また、核酸断片は全ての配列が2本鎖の核酸でもよく、配列の一部が1本鎖で残部が2本鎖の核酸でもよい。例えば、核酸断片は、AD配列の領域が2本鎖で、目的の遺伝子配列の領域が1本鎖の核酸としてもよい。なお、核酸断片の2本鎖の部分において、1ヶ所、2ヶ所又は複数ヶ所にリン酸結合(ヌクレオチド結合)を有しない核酸断片でもよい。本発明の一態様として、直鎖状核酸断片は、目的の遺伝子配列を含む1本鎖の核酸、AD配列を含む1本鎖の核酸、及び目的の遺伝子配列とAD配列に相補的な1本鎖の核酸の3分子をアニールさせた2本鎖の核酸である。なお、AD配列を含む2本鎖の核酸がAD配列の相補鎖を含み、また、AD配列の相補鎖を含む2本鎖核酸がAD配列を含むことは当然である。
【0027】
前記(1)工程の直鎖状核酸断片は、公知の核酸調製方法により調製することができる。当該核酸断片は、PCR等の核酸増幅反応、化学合成によりインビトロで調製することができる。また当該核酸は、真核細胞内、原核細胞内などのインビボで、ポリメラーゼ反応、複製及び/又は転写により生成した核酸を細胞から精製して調製することができる。なお、この直鎖状核酸断片も一つの態様として本発明に包含される。
【0028】
本発明の一態様として、前記(1)工程の直鎖状核酸断片に含まれるAD配列は、AAV2由来の配列であり、そのA領域の配列を配列番号9に、D’領域の配列を配列番号10に示す。また、AAV2のA’領域の配列を配列番号8に、D領域の配列を配列番号11に示す。また、AAV2のAD配列を配列番号1に、AD配列の相補配列を配列番号18に示す。
【0029】
前記(1)工程の核酸断片は、天然型核酸、化学修飾核酸、人工核酸、核酸類似体及びそれらの組合せを含む。天然型核酸は、自然界に存在する天然型ヌクレオチドのみが連結してなるDNA及びRNAである。化学修飾核酸は、人工的に化学修飾をされた核酸であり、例えば、メチルホスホネート型DNA/RNA、ホスホロチオエート型DNA/RNA(PS化DNA/RNA)、ホスホルアミデート型DNA/RNA、2’-O-メチル型DNA/RNA等が例示される。人工核酸は、天然型核酸の一部に非天然型ヌクレオチドを含む核酸又は非天然型ヌクレオチドのみが連結してなる核酸である。ここでいう「非天然型ヌクレオチド」とは、前記天然型ヌクレオチドに類似の性質及び/又は構造を有する人工的に構築された又は人工的に化学修飾された自然界に存在しないヌクレオチドをいう。核酸類似体は、天然型核酸に類似の構造及び/又は性質を有する人工的に構築された高分子化合物である。例えば、ペプチド核酸(PNA:Peptide Nucleic Acid)、ホスフェート基を有するペプチド核酸(PHONA)、2’-F、2’-O-Methyl(2’-OMe)、2’-O-Methoxyethyl(2’-MOE)、架橋化核酸、モルフォリノ核酸(ホルフォリノオリゴを含む)等が例示される。架橋化核酸は、BNA/LNA(Bridged Nucleic Acid/Locked Nucleic Acid)、ENA(2’-O,4’-C-Ethylene-BNA)が例示される。本発明の一態様として、核酸断片はAD配列又はAD配列の相補配列の領域が天然型核酸で、目的の遺伝子配列の領域が人工核酸である。
【0030】
前記核酸は、必要に応じて、リン酸基、糖及び/又は塩基が標識されていてもよい。標識には、当該分野で公知の標識物質を利用することができる。例えば、放射性同位元素(例えば、32P、3H、14C)、DIG、ビオチン、蛍光色素(例えば、FITC、Texas、cy3、cy5、cy7、FAM、HEX、VIC、JOE、Rox、TET、Bodipy493、NBD、TAMRA)、又は発光物質(例えば、アクリジニウムエステル)が挙げられる。
【0031】
前記(1)工程の核酸断片は、公知の精製方法や市販の製品を使用して精製・抽出した核酸を使用することができる。公知の精製方法としては、フェノール/クロロホルム混合液による抽出、アルコール沈澱、カラム精製、フィルター濾過、アガロースゲル電気泳動等による精製方法が例示される。
【0032】
前記核酸断片のサイズは、AAV中空粒子に包含可能なサイズであれば限定はされないが、通常は5kb以下である。また、前記(1)工程の核酸断片は天然の完全なAAVゲノムの配列を含まず、AAVのRep遺伝子及び/又はAAVのCap遺伝子の配列を欠損している。また、前記核酸断片は天然の完全なITRの配列を保持していない。
【0033】
(B)核酸を細胞に導入する工程
前記(1)工程の核酸断片を、AAVの中空粒子を産生する細胞に導入する。核酸断片を導入する細胞は、例えば、マウス細胞、及び霊長類細胞(例えば、ヒト細胞)などを含む哺乳類細胞、昆虫細胞などの様々な真核細胞が使用できる。本明細書において、AAVや核酸封入中空粒子を産生する細胞をパッケージング細胞又はプロデューサー細胞ともいうことがある。適当な哺乳類細胞は、初代細胞及び細胞株を含むがこれらに限定されるものではなく、適当な細胞株として、HEK293細胞、293EB細胞、COS細胞、HeLa細胞、Vero細胞、3T3マウス線維芽細胞、C3H10T1/2線維芽細胞、CHO細胞やこれらの細胞から派生した細胞などが挙げられる。適当な昆虫細胞は、初代細胞及び細胞株を含むがこれらに限定されるものではなく、適当な細胞株として、Sf9細胞やこれらの細胞から派生した細胞などが挙げられる。
【0034】
中空粒子を産生する細胞は、AAV rep遺伝子産物及びcap遺伝子産物を発現する細胞が使用される。これらの遺伝子産物は、細胞のゲノムに安定に組み込まれたAAV rep遺伝子及びcap遺伝子によりコードされていてもよく、前記核酸断片の導入前、導入と同時に、又は導入後に細胞中に導入されるベクターによりコードされてもよい。rep遺伝子及びcap遺伝子がベクターによりコードされている場合、rep遺伝子及びcap遺伝子は同一のベクターにコードされていてもよく、それぞれが別のベクターにコードされていてもよい。rep遺伝子及びcap遺伝子はいずれの血清型のAAVの配列(例えば、血清型1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11)であっても使用できる。さらに、rep遺伝子及びcap遺伝子は同じ血清型由来の配列であってもよく、異なる血清型由来の配列であってもよい。
【0035】
rep遺伝子及びcap遺伝子をコードするベクターには、中空粒子を産生し得る限りにおいて導入する細胞に適した発現ベクターを用いることができ、ウイルスベクター、プラスミドベクター、コスミドベクター、及び人工染色体が例示される。プラスミドベクターは、必要に応じて、エピソーマルで維持され得るものを使用できる。さらに、ベクターは、rep遺伝子及びcap遺伝子が細胞内で発現可能なように、適当な発現システム内のプロモーターとターミネーターの制御下に配置してもよい。核酸発現システムとは、遺伝子の発現に必要な発現調節エレメントを、機能可能な状態で少なくとも1組有する系である。発現調節エレメントには、プロモーター及びターミネーターの他、必要に応じてエンハンサー及びポリA付加シグナルが含まれる。
【0036】
中空粒子を産生する細胞には、さらにヘルパー機能が導入され得る。ヘルパー機能は、ヘルパーウイルス機能、アクセサリー機能とも呼ばれる。ヘルパー機能の導入には一般にアデノウイルスが使用されるが、例えば1型又は2型単純ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルスなどのウイルスも使用することができる。ウイルスを使用する場合は、細胞にウイルスをヘルパーウイルスとして感染させる。例えば、アデノウイルスの初期遺伝子の発現のみがAAV粒子のパッケージングに必要なので、後期遺伝子発現を呈さないアデノウイルスを用いてもよい。後期遺伝子発現を欠損するアデノウイルス変異体(例えばts100K又はts149アデノウイルス変異体)を使用することができる。あるいは、ヘルパーウイルスから単離したヘルパーウイルス機能に必要な核酸を使用し、ヘルパーウイルス機能を提供する核酸構築物を作製して細胞に導入することができる。ヘルパーウイルス機能を提供する構築物はE1遺伝子領域、E2A遺伝子領域、E4orf6遺伝子及びVA RNAをコードする遺伝子を含む、1種又は複数種のヘルパーウイルス機能を提供するヌクレオチド配列を含み、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド又は他のウイルスの形で宿主細胞に提供される。
【0037】
前記(1)工程の核酸断片を細胞に導入する方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法、ポリエチレンイミン法、エレクトロポレーション法、直接的微量注入法、高速微粒子銃などが使用可能である。また市販の試薬、例えばTransIT(登録商標)-293 Reagent、TransIT(登録商標)-2020(以上、Mirus社製)、Lipofectamine 2000 Reagent、Lipofectamine 2000CD Reagent(以上、ライフテクノロジーズ社製)、FuGene(登録商標)Transfection Reagent(プロメガ社製)、PEI max(コスモバイオ社製)などを用いてもよい。
【0038】
前記(1)工程の核酸断片は、106細胞あたり、1ng~10μg、好ましくは5ng~1μg、より好ましくは10ng~500ng導入する。
【0039】
(C)細胞を培養する工程
前記(B)で核酸断片を導入した細胞の培養は、細胞の種類に応じて公知の培養条件で行うことができる。例えば温度30~37℃、湿度95%、CO2濃度5~10%での培養が例示されるが、本発明はこのような条件に限定されるものではない。所望の細胞の増殖、核酸封入中空粒子の産生が達成できるのであれば前記の範囲以外の温度、湿度、CO2濃度で実施してもよい。
【0040】
培養用培地は公知の培地を使用することができ、例えばDMEM、IMDM、ハムF12、RPMI-1640などを使用してもよく、これらはLonza社、サーモフィッシャー社、シグマ・アルドリッチ社などから市販品として入手することができる。培地は無血清培地でもよく、ウシ胎児血清(FBS)やヒト血清由来のアルブミン等を添加した培地でもよい。
【0041】
培養器材としてシャーレ、フラスコ、バッグ、大型培養槽又はバイオリアクター等の細胞培養用器材(容器)を使用することができる。なお、バッグとしては、細胞培養用CO2ガス透過性バッグが好適である。大量の細胞を必要とする場合には大型培養槽を使用してもよい。
【0042】
培養期間は特に限定はなく、例えば12時間~10日間、好適には24時間~7日間が好ましい。培養中に、細胞内及び/又は培養上清に核酸封入中空粒子、すなわち内部に核酸を保持するAAV様の粒子が産生される。
【0043】
さらに本発明では、細胞の培養上清や回収した細胞を適当な緩衝液に再懸濁して破砕したもの(細胞破砕液)の遠心上清から、核酸が封入された中空粒子を取得する工程を実施し得る。本発明では、こうして得られた培養上清や細胞破砕液上清は、そのまま、あるいはさらに、例えばフィルター濾過、CsCl密度勾配遠心分離など公知の方法や市販の製品により中空粒子の濃縮、精製等を実施した後、適切な方法、例えば凍結して所望の用途に使用するまで保存することができる。
【0044】
(D)核酸封入中空粒子及び組成物
本発明は、前記(1)工程の核酸断片が封入された中空粒子(AAV様粒子)を提供する。本発明の核酸封入中空粒子は天然の完全なAAVゲノムを保持しておらず、AAVのRep遺伝子及び/又はAAVのCap遺伝子の配列を含む核酸を保持していない。好適には、本発明の核酸封入中空粒子はさらに、天然の完全なITRを保持しておらず、A’領域及びD領域を保持していない。さらにB領域、B’領域、C領域、C’領域からなる群より選択される少なくとも1つの領域の配列を保持していなくても良い。さらに、本発明は前記の核酸封入中空粒子を含む組成物を提供する。本発明の組成物は、本発明の方法で得られる核酸封入中空粒子の少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0045】
本発明の組成物は、核酸封入中空粒子を有効成分として含む他、担体、及び/又は他の薬剤を含むことができる。組成物中に含まれる核酸封入中空粒子は、異なる2以上のものであってもよい。この場合、異なる2以上の核酸封入中空粒子は、キャプシド等が互いに異なるウイルス由来であってもよいし、及び/又は封入された核酸が互いに異なる種類であってもよい。例えば、標的細胞の異なる複数の核酸封入中空粒子を含んでいてもよい。担体は、組成物の製剤化や生体への適用を容易にし、その作用を阻害又は抑制しない範囲で添加される物質であり、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤又は潤滑沢剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好適には、本発明の組成物には薬学的に許容される担体が使用される。
【0046】
本発明の組成物における核酸封入中空粒子の含有量には特に限定はない。その粒子に包含される核酸の種類及び/又はその有効量、適用される細胞又は個体、適用の方法・経路、適用の目的、組成物の形態(形態、大きさを含む)、並びに前記の担体の種類などを勘案し、適宜定められる。
【0047】
前記の、本発明の核酸封入中空粒子並びに当該中空粒子を含む組成物を使用することにより、細胞や動物個体に遺伝子を導入することができる。このような遺伝子導入方法も本発明の一態様である。細胞への遺伝子導入は、インビトロで組成物と細胞を接触することにより実施することができる。また、ヒトを含む動物個体への遺伝子導入は本発明の組成物を、組織内(例えば筋肉内)、静脈内、皮下及び腹腔内投与等の経路で投与することにより実施される。
【実施例】
【0048】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0049】
実施例1 DNA断片の導入によるAAV中空粒子へのパッケージング1
(1)AD配列を含むDNA断片の調製
目的の遺伝子として、ヒトATP5b遺伝子を標的とするshRNAをコードする配列番号2に記載する一本鎖のDNAオリゴヌクレオチドと、その相補鎖を化学合成した。それぞれアニーリングさせることにより二本鎖DNAオリゴヌクレオチドを調製した。前記二本鎖DNAオリゴヌクレオチドをpENTR(商標)/U6ベクター(ThermoFisher社製)のクローニングサイトにクローニングして組換えプラスミドを作製した。さらに、AAV2ゲノムDNAのITRに存在するAD配列(A領域-D’領域にわたる61bp:配列番号1)を含み、その両端に制限酵素SalI及びKpnIの認識配列を有する二本鎖DNAオリゴヌクレオチドを、それぞれ化学合成した両鎖をアニーリングさせることにより調製した。この二本鎖DNA断片を前記の組換えプラスミドのU6プロモーター上流のSalIサイト-KpnIサイト間に挿入し、ATP5b shRNAプラスミドDNA(プラスミドAD+)を調製した。このプラスミドは5’末端から順に、AD配列、U6プロモーター配列、shRNA配列、Pol IIIターミネーター配列を含む。なお、AD配列を含まないコントロールプラスミドDNA(プラスミドAD-)も調製した。これらのプラスミドDNAをシーケンス解析し、意図した配列であることを確認した。
【0050】
前記プラスミドDNAを鋳型に、M13 Forward(-20)プライマー及びM13 Reverseプライマー(ThermoFisher社製)を用いたPCRをそれぞれ実施し、DNA断片(PCR産物AD+)及びDNA断片(PCR産物AD-)の増幅を行った。PCR反応液をPCR Purification kit(QIAGEN)にて精製し、シーケンス解析にて配列を確認した。
【0051】
(2)293EB細胞への導入
実施例1-(1)で得たそれぞれのプラスミドDNA及びDNA断片を、AAV9のCapとAAV2のRepを発現するプラスミドであるpAAV2/9(配列番号3)及びヘルパープラスミドであるpAd5N(Agilent Technologies)とともに、Polyethyleneimine”Max”(コスモバイオ社製)を用いて293EB細胞(国際公開第2012/144446号パンフレット)1×108Cellsにトランスフェクションした。トランスフェクションしたプラスミドDNAの重量は44.8μg、DNA断片の重量はモル比で10.9μgに合わせた。トランスフェクション時の培地はDMEM(無血清)に、1/100容量のGlutaMaxを加えたもので、トランスフェクション後は37℃、5%CO2で5日間培養した。
【0052】
(3)AAV様粒子の回収
実施例1-(2)で培養した293EB細胞の培養上清を回収後、上清にDNaseIを添加し、遊離DNAの分解を行った。分解後、核酸封入AAV中空粒子(AAV様粒子)を含む前記の上清にAL buffer (Qiagen社製)を加えて、AAVキャプシドを溶解し、パッケージングされたDNAの抽出を行った。AAV様粒子に含まれるプラスミドDNAとDNA断片のコピー数を、U6-Fプライマー(配列番号4)とU6-Rプライマー(配列番号5)を使用した定量PCRにより解析した(
図1)。
図1に示すように、AD配列を含むDNA断片では、AD配列を含むプラスミドDNAよりAAV中空粒子へのパッケージングが高効率で起こることが示された(約15.2倍)。このようなDNA断片はPCRにより大量に調製することができ、AAV様粒子をより簡便に調製することができることが示された。
【0053】
実施例2 DNA断片の導入によるAAV中空粒子へのパッケージング2
(1)293EB細胞への導入
実施例1-(1)で調製したプラスミドDNA及びDNA断片を、モル濃度を合わせて293EB細胞に導入した。すなわち、ATP5b shRNAプラスミドDNA(2974bp)とDNA断片(PCR産物AD+)(724bp)の塩基長より、プラスミドDNAの1/4.1重量(724/2074)のDNA断片を使用した以外は、実施例1-(2)と同様の方法で293EB細胞にトランスフェクションし、細胞を培養した。
【0054】
(3)AAV様粒子の回収
実施例2-(1)で培養した293EB細胞の培養上清を回収後、上清にBenzonaseを添加し、遊離DNAの分解を行った。その後、上清を50℃で20分間加熱処理した後、遠心分離して沈殿を除去した。さらに塩化セシウム密度勾配遠心法にて上清中のAAV様粒子を精製した。実施例1-(3)と同様の方法により、得られたAAV様粒子に含まれるプラスミドDNAとDNA断片のコピー数を、定量PCRにより解析した(
図2)。
図2に示すように、モル濃度を合わせてトランスフェクションした場合でも、AD配列を含むDNA断片では、AD配列を含むプラスミドDNAより高い効率でAAV中空粒子へのパッケージングが起こることが示された(約4.6倍)。
【0055】
実施例3 AAV様粒子による細胞へのトランスダクション
実施例1-(3)で調製したプラスミド(AD+)又はDNA断片(PCR産物AD+)を含むAAV様粒子を、HEK293細胞に1.0×10
6v.g./cellで感染させた。感染3日後にHEK293細胞からRNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を使用してRNAを抽出した。プライマーhATP5b-F(配列番号6)及びプライマーhATP5b-R(配列番号7)を使用してATP5bの発現量をRT-PCR法により解析した(
図3)。
図3に示すように、DNA断片を含むAAV様粒子を感染させた細胞は、プラスミドDNAを含むAAV様粒子を感染させた細胞より、ATP5b遺伝子の発現の高いノックダウンが確認された。
【0056】
実施例4 AD配列を付加した修飾核酸のパッケージング1
(1)オリゴヌクレオチドの作製
蛍光タンパク質ZsGreen遺伝子配列を標的とし、修飾核酸を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドのパッケージングを行った。まず、ZsGreen遺伝子のアンチセンス配列AO(配列番号12)の3’末端にAD配列(配列番号1)を結合させたオリゴヌクレオチドを合成した。アンチセンス配列の各塩基間のそれぞれ及びアンチセンス配列とAD配列の間の結合はホスホロチオエート結合とし(PS化)、1、2、3、13及び14位のヌクレオチドはLNAとした。このオリゴヌクレオチドに別に合成したAD配列に相補的で天然型のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド(Complement-AD、配列番号18)をアニールさせ、修飾オリゴヌクレオチド(No.1)を作製した。さらに、アンチセンス配列の5’末端にAD配列を結合させた修飾オリゴヌクレオチド(No.2)を作製した。また、オリゴヌクレオチドNo.1及び2のアンチセンス配列を陰性コントロール配列AO-c(配列番号13)に代えたアンチセンスオリゴヌクレオチド(No.3及び4)、AD配列をスクランブルAD配列(配列番号14)に代えたアンチセンスオリゴヌクレオチド(No.5及び6)を作製した。さらに、アンチセンス配列AOのみの配列からなる1本鎖オリゴヌクレオチド(No.7)及び陰性コントロール配列AO-cのみの配列からなる1本鎖オリゴヌクレオチド(No.8)を作製した。これらのオリゴヌクレオチドの構造を
図6に示す。
【0057】
(2)293EB細胞への導入とAAV様粒子の回収
実施例4-(1)で得たオリゴヌクレオチドNo.1~8を、実施例1-(2)と同様にプラスミドpAAV2/9及びプラスミドpAd5Nとともに、Polyethyleneimine”Max”を用いて293EB細胞1×108Cellsにトランスフェクションした。トランスフェクションしたオリゴヌクレオチドは、0.1、1及び10nMの濃度とした。トランスフェクション時の培地はDMEM(無血清)に、1/100容量のGlutaMaxを加えたもので、トランスフェクション後は37℃、5%CO2で5日間培養した。
【0058】
293EB細胞の培養上清を回収後、上清にDNaseIを添加し、遊離DNAの分解を行った。分解後、核酸封入AAV中空粒子(AAV様粒子)を含む前記の上清にAL buffer (Qiagen社製)を加えて、AAVキャプシドを溶解し、パッケージングされたDNAの抽出を行った。AAV様粒子に含まれるオリゴヌクレオチドのコピー数を、ITR-Fプライマー(配列番号15)とITR-Rプライマー(配列番号16)を使用した定量PCRにより解析した(
図7)。
図7に示すように、AD配列を含むオリゴヌクレオチドはオリゴヌクレオチドの濃度依存的にAAV中空粒子へパッケージングされることが示された。なお、AD配列はオリゴヌクレオチドの3’に結合させた方が高効率であることが示された。
【0059】
実施例5 DNA断片の導入によるAAV中空粒子へのパッケージング3
(1)オリゴヌクレオチドの作製
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のエクソンスキップ治療を想定し、DMDモデルマウスのジストロフィン遺伝子エクソン23のエクソンスキップを誘導するアンチセンスオリゴヌクレオチドのAAV中空粒子へのパッケージングを行った。まず、マウスジストロフィン遺伝子のアンチセンス配列AO4(配列番号17)の3’末端にAD配列(配列番号1)を結合させた1本鎖のオリゴヌクレオチドを合成した(SeqA-AD-F)。また、アンチセンス配列AO4(配列番号17)の3’末端にAD配列に相補的な配列(Complement-AD、配列番号18)を結合させた1本鎖のオリゴヌクレオチド(SeqA-asAD)を合成した。アンチセンス配列AO4(配列番号17)の3’末端にスクランブルAD配列(配列番号14)を結合させた1本鎖のオリゴヌクレオチド(SeqA-scrAD)を合成した。さらに、別に合成したAD配列に相補的オリゴヌクレオチド(Complement-AD、配列番号18)をオリゴヌクレオチドSeqA-AD-Fにアニールさせ、AD配列の領域が2本鎖でアンチセンス配列の領域が1本鎖のオリゴヌクレオチドを調製した(AD)。これらのオリゴヌクレオチドの構造を
図8に示す。
【0060】
(2)293EB細胞への導入とAAV様粒子の回収
実施例5-(1)で得たオリゴヌクレオチドを、実施例1-(2)と同様にプラスミドpAAV2/9及びプラスミドpAd5Nとともに、Polyethyleneimine”Max”を用いて293EB細胞1.25×108Cellsにトランスフェクションした。トランスフェクションしたオリゴヌクレオチドは、30nMの濃度とした。トランスフェクション時の培地はDMEM(無血清)に、1/100容量のGlutaMaxを加えたもので、トランスフェクション後は37℃、5%CO2で5日間培養した。
【0061】
293EB細胞の培養上清を回収後、AAVpro(登録商標) Concentrator(タカラバイオ社製)を用いてAAV様粒子を精製した。AAV様粒子に含まれるオリゴヌクレオチドのコピー数を、ITR-Fプライマー(配列番号15)とITR-Rプライマー(配列番号16)を使用した定量PCRにより解析した(
図8)。
図8に示すように、AD配列及び/又はAD配列の相補配列を含む1本鎖のオリゴヌクレオチドがAAV中空粒子へパッケージングされることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明により、より簡便で効率的な中空粒子内への核酸封入方法が提供される。本発明の方法を用いて製造された核酸封入中空粒子や当該核酸封入中空粒子を有効成分とする組成物は、遺伝子治療の研究又は臨床の分野における遺伝子導入方法として有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0063】
SEQ ID NO: 1: AD’ region sequence
SEQ ID NO: 2: ATP5b shRNA sequence
SEQ ID NO: 3: pAAV2/9 Vector sequence
SEQ ID NO: 4: U6-F primer
SEQ ID NO: 5: U6-R primer
SEQ ID NO: 6: hATP5b-F
SEQ ID NO: 7: hATP5b-R
SEQ ID NO: 8: A’ region sequence
SEQ ID NO: 9: A region sequence
SEQ ID NO: 10: D’ region sequence
SEQ ID NO: 11: D region sequence
SEQ ID NO: 12: Antisense sequence AO
SEQ ID NO: 13: Antisense sequence AO-c
SEQ ID NO: 14: Scrambled AD sequence
SEQ ID NO: 15: ITR primer-F
SEQ ID NO: 16: ITR primer-R
SEQ ID NO: 17: Antisense sequence AO4
SEQ ID NO: 18: Compliment AD sequence
【配列表】