(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】導電部の製造方法、導電部を含む電子部品の製造方法、導電部を含む電子部品を組み立てた製品の製造方法、導電部、導電部を有する電子部品、導電部を含む電子部品を組み込んだ製品
(51)【国際特許分類】
H05K 3/08 20060101AFI20241023BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
H05K3/08 D
H05K1/09 C
(21)【出願番号】P 2020199675
(22)【出願日】2020-12-01
【審査請求日】2023-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】500171707
【氏名又は名称】株式会社ブイ・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田ノ岡 大輔
【審査官】沼生 泰伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-314745(JP,A)
【文献】特開昭63-183481(JP,A)
【文献】特開2005-354009(JP,A)
【文献】特開2000-022306(JP,A)
【文献】特開平01-096954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/08
H05K 1/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層を表面に有する第1の導電体の上に、第2の導電体を積層する第1工程と、
前記絶縁層を含め前記第1の導電体と前記第2の導電体を溶融し溶融領域を作ると共に、前記溶融領域の中心に前記溶融領域で周囲を囲まれた穴を形成する第2工程を含
み、
前記第2工程に続いて、
前記第2工程で形成された前記溶融領域と異なる位置に、前記溶融領域の深さが異なる別の溶融領域を作る第3工程を含む導電部の製造方法。
【請求項2】
絶縁層を表面に有する第1の導電体の上に、第2の導電体を積層する第1工程と、
前記絶縁層を含め前記第1の導電体と前記第2の導電体を溶融し溶融領域を作ると共に、前記溶融領域の中心に前記溶融領域で周囲を囲まれた穴を形成する第2工程を含
み、
前記絶縁層が、前記第1の導電体の金属が酸化された自然酸化層であり、
前記第2の導電体が、メタルインクを焼成した焼成メタルインク導線である導電部の製造方法。
【請求項3】
前記第1の導電体は、基板上に配置され、請求項
1又は2に記載の導電部を前記基板上で作成することを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項4】
請求項
3の電子部品を他の電子部品と組み立てて製品を作る、製品の製造方法。
【請求項5】
第1の導電体と第2の導電体と溶融領域を備え、
第1の導電体は、表面に絶縁層を有し、
前記第2の導電体は、前記第1の導電体に積層されており、
前記溶融領域は、前記絶縁層を含め前記第1の導電体と前記第2の導電体が溶融した領域であり、前記溶融領域の中心に前記溶融領域で周囲を囲まれた穴を有して
おり、
前記溶融領域は2箇所以上設けられ、前記溶融領域の深さが、それぞれ異なっていることを特徴とする導電部。
【請求項6】
第1の導電体と第2の導電体と溶融領域を備え、
第1の導電体は、表面に絶縁層を有し、
前記第2の導電体は、前記第1の導電体に積層されており、
前記溶融領域は、前記絶縁層を含め前記第1の導電体と前記第2の導電体が溶融した領域であり、前記溶融領域の中心に前記溶融領域で周囲を囲まれた穴を有して
おり、
前記絶縁層が、前記第1の導電体の金属に由来する自然酸化層であり、
前記第2の導電体が、メタルインクを焼成した焼成メタルインク導線である導電部。
【請求項7】
前記第1の導電体は、基板上に配置され、請求項
5又は6に記載の導電部を有する電子部品。
【請求項8】
請求項7記載の電子部品を組み込んだ製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタルインクを用いた焼成メタルインクを用いた導電構造の製造方法および導電構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基板上に導電体を導線とした電子部品が作られている。導電体の材料は多種多様あるが、導電体の表面にナノメートルオーダーの自然酸化層を形成する例えばチタンやアルミニウムおよびその合金が導電体材料として用いられることがある。これらの金属は大気中できわめて酸化しやすく、自然酸化層を形成する。自然酸化層は、絶縁体であり、大気と接触する部分はすべて自然酸化層で覆われてしまう。また、自然酸化層に代えてアルミニウムなどの配線層の上に、SiO、SiN、SiONなどの絶縁層をプラズマCVD法に形成することも特許文献2のように行われることもある。自然酸化層や絶縁層を表面に有する配線や電極の上に、別の配線を重ねて両者の間を通電させようとしても、単に重ねるだけでは、自然酸化層や絶縁層に阻まれて通電させることができない(導電部とならない)。
そこで、特許文献1のように研磨針で引っ掻き自然酸化層を物理的に破壊し、別の導線を重ねて導電部とすることも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-22306号公報
【文献】特許第6711614号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、研磨針で引っ掻くなどの物理的な操作は、導線が細くなるにつれて難しくなり作業性が悪化する。しかも、自然酸化層が破壊され金属が露出しても、チタンやアルミニウムは大気中で酸化しやすく、きわめて短時間で再び自然酸化層が形成されてしまう。そのため、確実に導電性のある導電部を形成することが難しかった。
また、金属配線の表面に被覆される絶縁層についても同様であり、別の配線を重ねる場合、事前に絶縁層を除去する必要があった。
【0005】
本発明は、絶縁層を表面に有する導電体と別の導電体との間に、簡略に導電部を作る製造方法の提供および新たな導電部の提供を目的(課題)とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は絶縁層を表面に有する第1の導電体の上に、第2の導電体を積層する第1工程と、前記絶縁層を含め前記第1の導電体と前記第2の導電体を溶融し溶融領域を作ると共に、前記溶融領域の中心に前記溶融領域で周囲を囲まれた穴を形成する第2工程を含む、導電部の製造方法とすることで課題を解決した。
【0007】
また、本発明の別の態様は、第1の導電体と第2の導電体と溶融領域を備え、第1の導電体は、表面に絶縁層を有し、前記第2の導電体は、前記第1の導電体に積層されており、前記溶融領域は、前記絶縁層を含め前記第1の導電体と前記第2の導電体が溶融した領域であり、前記溶融領域の中心に前記溶融領域で周囲を囲まれた穴を有していることを特徴とする導電部とすることで課題を解決した。
【発明の効果】
【0008】
絶縁層を表面に有する導電体とその上に重ねた別の導電体との間に、簡略に導電性のある導電部を作ることが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】メタルインクの焼成工程の説明図。(A)焼成用レーザの走査による焼成メタルインク導線の焼成工程概念図。(B)メタルインクの拡大図。(C)焼成メタルインクの拡大図。
【
図2】溶融工程の説明図。(A)メタルインクを焼成した焼成メタルインク導線の断面図。(B)溶融用レーザで溶融領域を作成した状態の断面図。(C)は溶融用レーザのパルスエネルギーを変えて3箇所に当て、溶融用レーザの影響の及ぶ深度を変えた場合の断面図。
【
図3】穴を形成しない溶接用レーザを用いてレーザ照射した場合に、照射過程の進行とともに熱の影響が及ぶ範囲の説明図。(B)溶融領域が自然酸化層に及んでいない状態図。(C)溶融領域が自然酸化層を越えた状態図。
【
図5】導電部の写真。(A)導電部の断面の走査電子顕微鏡写真。(B)
図5(A)の走査電子顕微鏡写真の説明図。
【
図6】実施例2の説明図。(A)TFT液晶パネルの平面図。(B)
図6(A)の迂回回路の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。また、一部の図面は、説明のため意図的にデフォルメされており、正確な縮尺で描かれているものではない。
【0011】
[メタルインクの焼成前後の区別]
以下、焼成前のメタルインクは単に「メタルインク」といい、焼成後のメタルインクは「焼成メタルインク」とすることで区別する。
【0012】
[導電体]
「導電体」という言葉には、配線や電極が含まれる。
【0013】
[用語に付けられる括弧の意味]
また、「焼成メタルインク導線(第2の導電体)」などと表記されることがあるが、括弧内の(第2の導電体)は、対応する特許請求の範囲で使用されている用語を示す。
【0014】
[絶縁層の意味]
絶縁層は、アルミニウムなどを主原料とする金属導線(第1の導電体)の表面に自然酸化して形成された自然酸化層(絶縁層)を含む。
絶縁層には、自然酸化だけでなく人為的処理により作られたものも含まれる。例えば、金属導線(第1の導電体)の上に別の材料からなる絶縁層を被覆したものも本発明に包含される。
また、本発明において、絶縁層には、金属導線(第1の導電体)の表面に汚れが付いているなどのように、金属導線(第1の導電体)より電気抵抗の高い層も含まれる。
【0015】
[電子部品]
本発明において、何らかの素子と別の素子の間が導線で接続されているものであれば、本発明の「電子部品」に含まれる。例えば、本発明の「電子部品」には、プリント基板などの回路基板も含まれる。
【0016】
(実施例1)
図1~
図5に示す実施例1は、自然酸化層(絶縁層B)721を表面に有する第1の導電体Aを金属導線72とし、第2の導電体Cを焼成メタルインク導線27としたときに、両導電体の間に導電部9を形成する例である。第1の導電体Aも第2の導電体Cもその素材について限定されるものではないが、第2の導電体Cにメタルインク2を用いる例を実施例1とした。断線等の修復にメタルインク2が使われる態様を説明するためである。例えば、フラットパネルディスプレイの回路基板の配線が製造工程中に基板に付着したゴミや塵などにより断線することがある。このような時、断線した前後の第1の導電体Aの間に第2の導電体Cとしてメタルインク2の迂回回路を作ることにより、修復できる。
実施例1は一例を示すものであり、本発明は、メタルインクとは異なる素材から成る第2の導電体Cとしたものを用いることを排除するものではない。
【0017】
[絶縁層]
金属導線(第1の導電体A)72は、アルミニウムやチタンなどの大気中で自然酸化し表面に自然酸化層(絶縁層B)721を形成する金属が主成分となっている。
【0018】
[メタルインク塗布工程]
図1はメタルインク2の焼成工程の説明図である。
図1(A)は焼成用レーザ3の走査による焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27の焼成工程概念図である。基板7は、上に金属導線(第1の導電体A)72が配設されている。金属導線(第1の導電体A)72は、アルミニウムを主成分とする導線であり、その表面に数ナノメートルのオーダーの自然酸化層(絶縁層B)721が形成されている。次いで、金属導線(第1の導電体A)の自然酸化層(絶縁層B)721の上にメタルインク2が塗布される。
【0019】
[メタルインク焼成工程]
図1(B)はメタルインク2の拡大図である。メタルインク2は、金、銀、銅などの導電性の高い金属をナノ粒子化し、有機溶媒26中に分散させたものである。金属はナノ粒子化することにより融点が劇的に下がる。金属ナノ粒子24の表面には、有機物25が吸着しており、この有機物25により、金属ナノ粒子24同志が凝集することなく有機溶媒26中に分散される。
【0020】
メタルインク2に焼成用レーザ3や赤外線を照射して加熱すると、有機溶媒26が蒸発するとともに、金属ナノ粒子24表面の有機物25が脱離し、金属ナノ粒子24同志が凝集し、溶融することで金属塊となり導電性を持つようになる。焼成のための加熱手段は適宜である。
実施例1では焼成に、焼成用レーザ3を使用した。メタルインク2の吸収波長は、金属の種類と粒径によって異なるが実施例1で用いる20nm粒径の銀を主成分とする金属ナノ粒子24を含むメタルインク2では、400nm付近である。実施例1で用いた焼成用レーザ3は、当該吸収波長付近の波長を有する連続発振半導体レーザを使用した。
【0021】
図1(C)は焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27の拡大図であり、金属ナノ粒子24が互いに融着し金属塊となっていることが分かる。焼成用レーザ3が照射された部位のみが、焼成され焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27となり、導電性を有する焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27となる。
図1(A)のように焼成用レーザ3は、矢印で示すようにメタルインク2に沿って左右に走査され、メタルインク2を焼成し、下層の金属導線(第1の導電体A)72上に焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27が積層される。
【0022】
[メタルインク塗布工程]と[メタルインク焼成工程]とは、併せて、(第1工程)自然酸化層(絶縁層B)721を表面に有する金属導線(第1の導電体A)721に焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27を積層とする工程となる。
【0023】
構造としてみると、積層構造体は、金属導線(第1の導電体A)72と焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27を備え、金属導線(第1の導電体A)72は、表面に自然酸化層(絶縁層B)721を有し、焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27は、金属導線(第1の導電体A)72の自然酸化層(絶縁層B)721上に積層されているものとなる。
【0024】
[溶融工程]
図2は、溶融工程の説明図である。
図2(A)は、メタルインク2を焼成した焼成メタルインク導線27の断面図である。上述の[メタルインク焼成工程]で焼成を終えた状態が
図2(A)である。
この時点では、金属導線(第1の導電体A)72と焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27との間に、自然酸化層(絶縁層B)721が間に挟まっているため、導電部9として機能するのに十分な導電性がない。
【0025】
図2(B)は溶融用レーザ4で溶融領域8を作成した状態の断面図である。溶融用レーザ4の出力は、金属導線(第1の導電体A)72と焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27の厚さや金属の種類などで変わり得る。溶融用レーザ4の影響が基板7まで及ぶと好ましくなく、また、少なくとも自然酸化層(絶縁層B)721にまで影響を及ぶ出力であることが好ましい。より好ましくは、自然酸化層(絶縁層B)721を超えて金属導線(第1の導電体A)72まで影響が及ぶ出力であることが好ましい。
【0026】
溶融用レーザ4は、自然酸化層(絶縁層B)721を破壊し、焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27由来の銀と金属導線(第1の導電体A)72由来のアルミニウムに加え、自然酸化層(絶縁層B)721由来の酸化アルミニウムが混ざった溶融領域8を作る。
【0027】
溶融用レーザ4が当たった中央部には、図示されるように金属が蒸発した跡となる穴74が開く。ハッチングで示される溶融領域8は、穴74の内壁部に形成される。溶融領域8には、導電性の高いアルミニウムや銀が多く含まれており、高々数ナノメートル分の自然酸化層(絶縁層B)721が混ざっているだけなので、導電性が顕著に高い領域となる。結果的に、溶融用レーザ4の照射により、(第2工程)自然酸化層(絶縁層B)721を含めと金属導線(第1の導電体A)72と焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27を溶融し溶融領域を作ると共に、溶融領域8の中心に溶融領域8で周囲を囲まれた穴74を形成する工程が行われたこととなる。
【0028】
以上のように、自然酸化層(絶縁層B)721と焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27と金属導線(第1の導電体A)72が溶融した溶融領域8が形成され、溶融領域8の中心に溶融領域8で周囲を囲まれた穴74を有しているものとなる。
【0029】
[溶融工程の別態様]
図2(C)は溶融用レーザ4のパルスエネルギーを変えて3箇所に当て、溶融用レーザ4の影響の及ぶ深さを変えた場合の断面図である。(なお、
図2は概念図であり、低出力、中出力、高出力とは、この図のパルスエネルギーを比較したものである。)
【0030】
図2(C)(a)では、低出力のパルスエネルギーの溶融用レーザ4を照射している。溶融領域8が、焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27の範囲にとどまっており、金属導線(第1の導電体A)72と焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27の間の導電性向上は期待できない。
【0031】
また、
図2(C)(b)では、中出力のパルスエネルギーの溶融用レーザ4を照射している。自然酸化層(絶縁層B)721付近まで溶融用レーザ4の影響が及んでおり、金属導線(第1の導電体A)72と焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27の間の導電性向上は期待できるものの、焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27の厚さが均一でないため、導電性が期待したほど向上しない場合がある。
【0032】
図2(C)(c)では、高出力のパルスエネルギーの溶融用レーザ4を照射している。溶融領域8は、金属導線(第1の導電体A)72の自然酸化層(絶縁層B)721を超えて形成されており、金属導線(第1の導電体A)72と焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27の間の導電性が確実に向上する。
【0033】
メタルインク2は、導電部9を形成する箇所ごとに塗られ、それぞれの箇所の塗布条件が全く同一というわけではないため、焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27の条件(厚さ等)が一定しない。そこで、パルスエネルギーを変えて2箇所以上、好ましくは3箇所に溶融用レーザ4を照射することにより、条件に適した出力を決めるための実験を導電部形成箇所ごとに行わなくても、確実に導電性を確保することが出来る。なお、パルス幅や照射回数を変えてもよい。
【0034】
まとめると、
図2(c)では、溶融用レーザ4のパルスエネルギーを変えて3箇所に当てたが、2箇所以上であればよい。2箇所以上に溶融領域8の深さの異なる溶融領域8を作るには、第2工程に続いて、第2工程で形成された溶融領域と異なる位置に、溶融領域の深さが異なる別の溶融領域を作る第3工程を追加すればよい。
【0035】
また、溶融領域は2箇所以上設けられ、溶融領域の深さが、それぞれ異なっていることにより、確実に導電性を確保することが出来る。
【0036】
実施例では、パルスエネルギーにより穴74が形成されるように設定された溶融用レーザ4を用いる。溶融領域8の中心に溶融領域8で周囲を囲まれた穴74が形成されることで、溶融領域8が形成された深さを知ることができる。また、穴74が形成されることで、熱が穴74を通って放出され、素早く溶融領域8を冷却できる。一般に熱エネルギーは溶融領域8付近の部材に影響を与え、特に有機層などが溶融領域8に近接している基板7にレーザ照射を行った場合、有機層が変質することもあり得る。しかし、本発明のようなナノ秒パルスレーザを高出力照射して穴74が形成されるように設定した溶融用レーザ4は、自然酸化層(絶縁層B)721を貫く微小な穴74を形成する。溶融領域8の熱は、穴74からも放熱し冷却速度を速め、熱の影響を溶融領域8の周辺のきわめて小さい領域のみに留めることができる。
【0037】
他方、穴74を形成しない溶接用レーザ41を用いる場合、溶融領域8が大きくなるとともに熱の影響が及ぶ範囲も大きくなる。
【0038】
比較実験に相当する
図3は、穴74を形成しない溶接用レーザ41を用いてレーザ照射した場合に、照射過程の進行とともに熱の影響が及ぶ範囲の説明図である。
図3(A)は照射直後の状態図であり、
図3(B)は溶融領域8が自然酸化層(絶縁層B)721に及んでいない状態図であり、
図3(C)は溶融領域8が自然酸化層(絶縁層B)721を越えた状態図である。
【0039】
図3(A)のように、照射直後の溶融領域8は小さいものであるが、穴74を形成しない溶接用レーザ41の照射領域から熱伝導により熱が拡散する。照射を続けると、徐々に
図3(B)のように溶融領域8が広がって行く。さらに照射を続けると、熱伝導は続き、次第に溶融領域8は拡大し、
図3(C)のように穴74を形成しない溶接用レーザ41の照射領域より大きな溶融領域8ができ、自然酸化層(絶縁層B)721を溶かす。溶融領域8の温度は金属の融点に達し非常に高温であり、溶融領域8の周囲は熱伝導により熱の影響が及ぶ領域412となる。この際、放熱は、焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27の表面からのみであり、溶融領域8の体積が大きくなればなるほど、表面積に比例する放熱は追い付かなくなる。熱の影響が及ぶ領域412は、体積を増した溶融領域8に溜まった高温の金属により大きく広がって行く。
【0040】
実施例1では、
図2のように溶融領域8の中心に穴74を開けるようにしたため、溶融領域8の金属は素早く冷める。
このように穴74を形成する溶融用レーザ4を用いた方が、穴74を形成しない溶接用レーザ41を用いるよりも、熱の影響が及ぶ領域412を著しく小さくすることができる。
【0041】
以下、本発明の実験例を説明する。
(実験1:電気抵抗とパルスエネルギーの関係を示す実験)
実験1は溶融領域8の深さを変えることにより、自然酸化層(絶縁層B)721が破壊される前後で電気抵抗がどのように変化するかを調べる実験である。実験1では、溶接レーザ4の照射用の試料として、基板上7の金属導線72上にメタルインク2を塗布し、焼成して、焼成メタルインク導線27を形成したものを、用意した。その後、条件を変えて試料に溶融用レーザ4を照射した。溶融用レーザ4で形成される溶融領域8の深さを変えるために、溶融用レーザ4のパルスエネルギーを100、200、250、300μJの4条件で変えている。また、パルスエネルギー以外の条件は同一で条件としている。
【0042】
実験1の条件を述べておく。
(1)溶融用レーザ4
波長 532nm
パルス幅 10ns
パルス回数 1回
溶融加工設定サイズ 1μm×1μm
パルスエネルギー 100、200、250、300μJで実験(
図4参照)
(2)金属導線(第1の導電体A)72
金属の種類 アルミニウム
配線幅・5μm
(3)焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27
金属の種類 銀(ナノ粒子)
配線の厚さ 0.4μm
以上の実験条件で、溶融用レーザ4のパルスエネルギーを変えたサンプルを作成し、金属導線(第1の導電体A)72と焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27間の電気抵抗を測定した。その結果が、
図4である。
【0043】
パルスエネルギー100μJでは、電気抵抗が平均で340Ωあり溶融用レーザ4の照射前と比較して導電性の向上はなかった。溶融用レーザ4の影響は、
図2(C)(a)のように焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27の範囲にとどまっていると推測される。
【0044】
パルスエネルギー200μJでは、電気抵抗が平均で50Ωあり著しく導電性の向上が観察された。溶融用レーザ4の影響は、
図2(C)(b)のように、自然酸化層(絶縁層B)721付近でとどまっているものと推測される。
【0045】
パルスエネルギー250μJと300μJでは、電気抵抗の平均が0Ω近くまで激減している。自然酸化層(絶縁層B)721は、溶融されていると推測され、溶融用レーザ4の影響は、
図2(C)(c)のように金属導線(第1の導電体A)72に及んでいると推測される。そして、パルスエネルギー200μJではエラーバー(3σ)が片側30Ω、両側60Ω程度残っており、観察される電気抵抗に大きなばらつきが存在したが、パルスエネルギー250μJと300μJでは、エラーバー(3σ)が2~3Ωとなっている。
【0046】
これは、確実に導電性を確保できるところまで溶融用レーザ4の影響が及んでいることを示している。そして電気抵抗が充分小さく、導電部9が、ばらつきが少なく安定して形成されていることを示している。
【0047】
(実験2:溶融領域の確認)
溶融領域8の存在を確認すべく、導電部9の走査電子顕微鏡撮影を行う実験2を行った。
図5は導電部9の走査電子顕微鏡写真であり、
図5(A)は導電部9の走査電子顕微鏡写真、そして、
図5(B)は
図5(A)の走査電子顕微鏡写真の説明図である。
【0048】
撮影試料を次のように調製し撮影した。
(1)上述のように作られた導電部9を有する基板7を試料とし、次の電子線ビーム切断を行うための前処理として保護膜73で被覆した。
(2)電子線ビームで、基板7ごと切断し、断面を切り出した。
(3)以上のように調製した試料を、断面が分かるような角度から走査電子顕微鏡で撮影した。
【0049】
図5(B)のハッチングを施した保護膜73は、試料の調製時に被覆されたものであり、本来の導電部9には存在しないものである。
金属導線(第1の導電体A)72の表面には、自然酸化層(絶縁層B)721があるが、数ナノメートルの厚さであり、この倍率では写っていない。
【0050】
溶融用レーザ4が照射された領域には、穴74が形成されている。穴74の側方には、本来存在すべき焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27と金属導線(第1の導電体A)72との境界がぼやけるか完全に消失している。このことから、自然酸化層(絶縁層B)721を含め金属導線(第1の導電体A)72と焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27が溶融し、溶融領域8となっていることが分かる。
【0051】
(実験1と実験2のまとめ)
以上の実験から、溶融用レーザ4の照射により、自然酸化層(絶縁層B)721を含め金属導線(第1の導電体A)72と焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27が溶融し溶融領域8が形成されることが確認された。そして、溶融用レーザ4の照射により、金属導線(第1の導電体A)72と焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27間の電気抵抗が著しく低下し、電気抵抗値にばらつきの少ない結果が得られることが確認された。本発明は、電気抵抗値にばらつきが少ないことから、実用に供し得るものといえる。
【0052】
(実施例2)
実施例2は、本発明の応用例である。
図6は実施例2の説明図であり、
図6(A)はTFT液晶パネルの基板7の平面図、
図6(B)は
図6(A)中に設けられた迂回回路の拡大図である。
【0053】
LCD(液晶ディスプレイ)のTFT液晶パネルの基板7は、電界効果型トランジスタ12が実装されており、アルミニウムを主成分とする金属導線(第1の導電体A)72が配線されている。その配線の一つに欠陥(断線)722があり、通例なら不良品として廃棄されてしまう。
【0054】
欠陥(断線)722の存在する基板7は、焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27で作成した迂回回路76で修復され、これにより製品歩留まりが良くなる。
【0055】
欠陥(断線)722が生じた原因は色々とあり得るが、主な原因はゴミの付着である。欠陥(断線)722を直接、直線的に最短距離で繋ぐこともできるが、ゴミ等が残っている可能性があるため、あえて迂回回路76としている。もちろん、欠陥(断線)722を直接、直線的に最短距離で繋いで修復してもよい。
【0056】
銀のメタルインク2を用いた迂回回路76は、図示していない焼成用レーザ3で焼成され焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27となっている。
これにより、導電部9の部分では、基板7、金属導線(第1の導電体A)72、自然酸化層(絶縁層B)721、焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27の順に下から積層される構造となる。
【0057】
溶融用レーザ4は、各導電部9に対して3か所、それぞれパルスエネルギーの強度を変えて照射される。(
図2(C)参照)
【0058】
導電部9は、3か所の穴74の周囲に形成された溶融領域8に形成される。パルスエネルギーの強度を変えた3か所の溶融領域8のいずれか一つでも自然酸化層(絶縁層B)721まで届けば金属導線(第1の導電体A)72と焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27間の電気抵抗が、TFT液晶パネルの作動に影響しない程度に低減する。
また、溶融領域8の中心に溶融領域8で周囲を囲まれた穴74が形成されるため、溶融領域8で溶融した金属は、穴74から熱を放出して素早く冷却され、溶融領域8の周辺に熱の影響を与えることが低減される。
【0059】
本発明は、実施例2のようにTFT液晶パネルの基板(電子部品)を製造方法に使用することができる。
さらに、本発明は、自然酸化層(絶縁層B)721を含め金属導線(第1の導電体A)72と焼成メタルインク導線(第2の導電体C)27が溶融した溶融領域8が設けられた導電部9を有するTFT液晶パネルの基板(電子部品)を提供できる。
【0060】
さらに、前述のように提供されたTFT液晶パネルの基板(電子部品)を他の部品と組み立ててTFT液晶パネルという製品の製造方法としても使える。
さらに、前述のように提供されたTFT液晶パネル(電子部品)を他の部品と組み立てて液晶ディスプレイという製品も提供できる。
なお、TFT液晶パネルおよび液晶ディスプレイ技術の詳細と製造方法は、広く知られているので、ここでは説明しない。
【0061】
(実施例3)
図7は、実施例3の導電部9の断面図である。
実施例1および実施例2は、自然酸化層721を絶縁層Bとした例であった。実施例3は金属導線(第1の導電体A)の表面に人為的に絶縁層Bを作る態様である。また、第2の導電体Cは焼成メタルインク導線でなくてもよい。さらに、第1の導電体Aと第2の導電体Cは同じ金属素材を用いてもよい。
【0062】
例の一つとして、積層回路基板5の例を示す。積層回路基板5には、第1の導電体A、絶縁層B、第2の導電体C、絶縁層B、第1の導電体A、絶縁層B、第2の導電体Cのように、絶縁層Bを挟んで多数の導電体が積層されている。
【0063】
この積層した導電体に対して、溶融用レーザ4を照射することで、導電部9が、第1の導電体Aと第2の導電体Cと絶縁層Bを溶融した溶融領域8に形成される。溶融領域8が導電部9となり、積層した導電体すべてを導通させることができる。
【0064】
以上、本発明に係る実施例1から実施例3を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成は、これらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
また、前述の各実施例は、その目的および構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
A 第1の導電体
B 絶縁層
C 第2の導電体
2 メタルインク
24 金属ナノ粒子
25 有機物
26 有機溶媒
27 焼成メタルインク導線(第2の導電体)
3 焼成用レーザ
4 溶融用レーザ
41 溶接用レーザ
412 熱の影響が及ぶ領域
5 積層回路基板
7 基板
72 金属導線(第1の導電体)
721 自然酸化層(絶縁層)
722 欠陥(断線)
73 保護膜
74 穴
75 電界効果型トランジスタ
76 迂回回路
8 溶融領域
9 導電部