(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】サツマイモの連続栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01G 22/25 20180101AFI20241023BHJP
A01G 2/10 20180101ALI20241023BHJP
A01G 31/00 20180101ALI20241023BHJP
【FI】
A01G22/25 Z
A01G2/10
A01G31/00 601A
(21)【出願番号】P 2021033217
(22)【出願日】2021-03-03
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【氏名又は名称】河野 生吾
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】上野 誠
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-14295(JP,A)
【文献】特開2012-60973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 22/25
A01G 2/10
A01G 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
養液栽培用の栽培ベッドにサツマイモの脇芽を苗として定植する定植工程と、
前記栽培ベッドに所定濃度の養液を供給することによりサツマイモを栽培する生育工程と、
生育したサツマイモから次回の栽培サイクルで定植する苗として脇芽を取得する苗取得工程とを有し、
前記苗取得工程で取得された脇芽を
そのまま苗として次の栽培サイクルの定植工程を開始する
ことを特徴とするサツマイモの連続栽培方法。
【請求項2】
養液栽培用の栽培ベッドにサツマイモの脇芽を苗として定植する定植工程と、
前記栽培ベッドに所定濃度の養液を供給することによりサツマイモを栽培する生育工程と、
生育したサツマイモから次回の栽培サイクルで定植する苗として脇芽を取得する苗取得工程とを有し、
前記苗取得工程で取得された脇芽を苗として次の栽培サイクルの定植工程を開始し、
前記生育工程では、養液の濃度を低く設定した低濃度養液を用い
、
前記低濃度養液は、園試処方培養液の濃度を20~30%にしたものを用いた
ことを特徴とするサツマイモの連続栽培方法。
【請求項3】
苗の定植から3~4か月経過後にサツマイモを収穫した
請求項1
又は2の何れかに記載のサツマイモの連続栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養液栽培によるサツマイモの連続栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サツマイモは、通常5月頃に苗を定植して10月頃に収穫する土耕による栽培が一般的であるが、土耕によるサツマイモの栽培は、栽培地の土壌の状態や気候、災害や病気による影響を受けるだけでなく、比較的影響が少ないとはいえ同じ土壌で栽培を繰返すことによる連作障害が発生することもあり得るため、常に収穫量や品質を一定以上に保つことは容易ではない。
【0003】
これに対し、無機質農業用資材を生育培地として使用し、培養液を供給することによってサツマイモを含む根菜類を養液栽培することによって、土壌条件や天候条件によらずに安定した収穫量と品質でサツマイモを栽培することができる特許文献1に記載の養液栽培方法が従来公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の栽培方法によれば、育成培地に無機質農業用資材を用いたことで培地が腐敗する心配がないだけでなく、ハウス等によって室内栽培することによって、通常は年1回しか栽培することができないサツマイモを年に複数回栽培することもできるものであるが、その一方で、サツマイモの場合、収穫後に次回の栽培を開始するまでに、収穫した種芋から芋づるを採取するために1か月程度の育苗期間が必要になる他、育苗後に苗を定植した場合でも、苗の大きさや水分状態の違い定植後に苗が枯れてしまう場合もあるため、養液栽培によってサツマイモを季節によらずに連続栽培したとしても単位面積当たりの収量が十分に向上しない場合があるという課題があった。
【0006】
本発明は、従来よりも短期間でサツマイモを養栽培することによって、単位面積当たりの収量をより向上させることのできる養液栽培によるサツマイモの連続栽培方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願発明は、養液栽培用の栽培ベッドにサツマイモの脇芽を苗として定植する定植工程と、前記栽培ベッドに所定濃度の養液を供給することによりサツマイモを栽培する生育工程と、生育したサツマイモから次回の栽培サイクルで定植する苗として脇芽を取得する苗取得工程とを有し、前記苗取得工程で取得された脇芽をそのまま苗として次の栽培サイクルの定植工程を開始することを特徴とする。
【0008】
本願発明は、養液栽培用の栽培ベッドにサツマイモの脇芽を苗として定植する定植工程と、前記栽培ベッドに所定濃度の養液を供給することによりサツマイモを栽培する生育工程と、生育したサツマイモから次回の栽培サイクルで定植する苗として脇芽を取得する苗取得工程とを有し、前記苗取得工程で取得された脇芽を苗として次の栽培サイクルの定植工程を開始し、前記生育工程では、養液の濃度を低く設定した低濃度養液を用いたことを特徴とする。
【0009】
前記低濃度養液は、園試処方培養液の濃度を20~30%にしたものを用いたことを特徴とする。
【0010】
苗の定植から3~4か月経過後にサツマイモを収穫したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
生育したサツマイモから次回の栽培サイクルで定植する苗として脇芽を取得し、該脇芽を次回サイクルで定植する苗としてサツマイモの栽培を繰返すことにより、種芋から苗を育てる育苗期間が必要なくなるため、サツマイモを年に3~4回のサイクルで連続栽培することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る養液栽培方法を行うための養液栽培装置を示した図である。
【
図2】本発明のサツマイモの養液栽培方法の手順の一例を示したフローチャートである。
【
図3】収穫されたサツマイモの収量とカリウム含量を示した表図である。
【
図4】(A)は、定植した状態を示した写真であり、(B)及び(C)は、定植から9週後・15週後の生育状態を示した写真である。
【
図5】(A)乃至(D)は、定植から17週後に収穫したベニアズマ・ベニハルカ・金時・安納を示した写真である。
【
図6】(A)及び(B)は、1回目の栽培サイクルで育てたサツマイモから取得した脇芽と、その脇芽を定植した状態を示した写真であり、(C)は、2回目の栽培サイクルで定植した脇芽が定着した状態を示した写真である。
【
図7】定植から13週で収穫したサツマイモを示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願発明者は鋭意検討の結果、サツマイモを養液栽培するにあたり、サツマイモの収穫時(収穫前後)に取得した脇芽を次の栽培サイクルの苗として用いることにより、サツマイモの栽培サイクルを3~4カ月程度に短縮しつつ連続栽培することができることと、サツマイモを養液栽培するにあたり、主に茎葉が成長する生育前期ではカリウムを含む養液として園試処方培養液の濃度を薄めた低濃度養液を用いて養液栽培し、主に塊根が成長する生育後期では低濃度養液に含まれるカリウム肥料の量を制御することによって、収穫量を維持しつつサツマイモに含まれるカリウム量を制御できることを見出した。
【0014】
以下、図面を参照しながら上記サツマイモの養液栽培方法について説明する。
図1は、本発明に係る養液栽培方法を行うための養液栽培装置を示した図である。
図1に示すように、養液栽培装置1は、栽培ベッド2と、前記栽培ベッド2内に設けられる養液栽培用の固形培地3と、培地の表面を覆うマルチ4と、培地へ所定の養液を供給する養液供給装置5とを備えている。
【0015】
前記栽培ベッド2は、前記固形培地が形成される上方が開放された箱状の部材であって、通気性を有する部材で形成されている。本実施例では長手方向に1m程度延設されて容量(固形培地)が25L程度となるものを用いた。
【0016】
前記固形培地3は、前記栽培ベッド2内に無機質の培土として用いられるパーライト、ロックウール、砂、礫等を敷詰めることにより形成されている。なお、固形培土としては、無機質培土に代えて、ヤシ殻、杉バーク、ピートモス等の有機質培土を用いても良い。
【0017】
前記マルチ4は、前記栽培ベッド内に設けた固形培地の表面全体を覆うように設置され、所定間隔(約30cm)で詳しくは後述するサツマイモの苗(脇芽)を固形培地に定植するとともに、前記養液供給装置を設置するための孔が形成されている。
【0018】
該マルチ4を設置することにより、強い直射日光を防ぐことができるため苗を定植した後の発根・活着を促進する効果を期待できる他、サツマイモの蔓返し作業も容易になる。
【0019】
前記養液供給装置5は、前記栽培ベッド2内の固形培地3内に挿通することにより、サツマイモの株元側へ養液を供給する供給ノズル5aと、養液を貯留するタンク(図示しない)と、タンク内の養液を供給ノズル側へ送出すポンプ(図示しない)と、ポンプの駆動を制御する制御部(図示しない)とを有し、前記制御部は、前記供給ノズル5aを介して栽培ベッド側に供給される養液の量と、供給するタイミングとを自由に設定することができるように構成されている。
【0020】
また、該養液供給装置5によって栽培ベッド側に供給される養液は、一般的に用いられる汎用的な園試処方培養液の濃度を薄めた低濃度養液と、該低濃度養液に含まれるカリウム肥料の量を調整したカリウム調整養液とが用いられる。該低濃度養液は、具体的には、園試処方培養液の濃度を10~50%、より好ましくは20~30%になるまで薄めたものである。
【0021】
なお、該養液供給装置5は、前記タンクごと取り換えることによって、栽培ベッド側に供給される養液の種類をスムーズ且つ容易に交換することができるように構成しても良い。また、予め養液の種類ごとに別のタンクを用意することにより、作業者による切換操作具の操作によって供給される養液を切換える構成や、前記制御部によって所定の日時やタイミングで自動的に切換えられる構成としても良い。
【0022】
上述の構成の前記養液栽培装置1は、温度や湿度設定可能な室内や、ビニールハウス内に設置されることにより、通常の土耕栽培では5~6月頃に定植されて10~11月頃に収穫することで年1回しか収穫できないサツマイモを、季節に関係なく年中連続栽培することができるように構成されている。
【0023】
以下、該構成の養液栽培装置を用いて、サツマイモを養液栽培するにあたり、収穫されるサツマイモに含有されるカリウム量を通常よりも少なくする低カリウムサツマイモや、カリウム量を通常よりも多くする高カリウムサツマイモを栽培する方法と、通常の土耕栽培では年1回しか収穫できないサツマイモを年3~4回収穫可能にする養液栽培によるサツマイモの連続栽培方法とを同時に行う工程について説明する。
【0024】
次に、
図2に基づいて、本発明のサツマイモの養液栽培方法の工程について説明する。
図2は、本発明のサツマイモの養液栽培方法の手順の一例を示したフローチャートである。
図2に示すように、まず、前記養液栽培装置1(固形培地3)にサツマイモの苗を定植する定植工程を行う(S101)。
【0025】
この定植工程では、サツマイモの苗として、前回の栽培サイクルでサツマイモを収穫する際(又は前後)に取得した脇芽を定植することを特徴としている。これにより、定植するサツマイモの苗を種芋から育てる場合と比較して、1カ月以上の時間と手間を大きく省くことができる。
【0026】
次に、主に、サツマイモの茎葉が成長する生育前期については、定植した苗に養液栽培で一般的に用いられる園試処方培養液の濃度を薄めた低濃度養液を供給する生育前期工程を行う(S102)。この生育前期工程は、主にサツマイモの茎葉が成長する時期に実行されるため、サツマイモの苗(脇芽)を定植してから2~3カ月の範囲で実行される。
【0027】
該生育前期工程で用いられる低濃度養液は、園試処方培養液の濃度を10~50%、さらに好ましくは20~30%に薄めたものを用いた。該低濃度養液は、園試処方培養液を薄めたものであり、通常よりも薄い濃度ではあるがカリウム肥料も含まれている。
【0028】
次に、主に、サツマイモの塊根が成長する生育後期については、供給する低濃度養液に含まれるカリウム肥料の量を調整したカリウム調整養液を供給する生育後期工程を行う(S103)。
【0029】
具体的に説明すると、ここで供給されるカリウム調整養液として、低濃度養液からカリウム肥料を除去した(又は減少させた)養液を用いることにより、通常よりも含有されるカリウム量を減らした低カリウムサツマイモを栽培することができる。その一方で、カリウム調整養液として、生育前期工程と同様の低濃度養液、又は低濃度養液にカリウム肥料を追加した養液を用いることにより、通常よりも含有されるカリウム量を増やした高カリウムサツマイモを栽培することができる。
【0030】
次に、収穫前に次回の栽培サイクルの定植工程で栽培ベッドに定植される苗として脇芽を取得する苗取得工程を行う(S104)。ここでは、サツマイモの収穫前に苗(脇芽)を取得する手順が記載されているが、苗(脇芽)を取得する工程は、サツマイモを収穫する収穫工程と同時、又はその後に行っても良い。
【0031】
次に、定植から13~17週(約3~4カ月)で成長したサツマイモを収穫する収穫工程を行う(S105)。本発明の養液栽培方法によれば、定植から13週(約3カ月)程度で収穫可能な大きさにサツマイモを成長させることができる。具体的な実施(実験)例については後述する。
【0032】
次に、N回目の栽培サイクルにおける前記苗取得工程によって取得された脇芽を用いて、N+1回目(次回)の栽培サイクルでの定植工程を行うことにより、サツマイモの栽培サイクルをスムーズに再開することができる。
【0033】
このとき、N+1回目の栽培サイクルは、直前のサツマイモの収穫完了後、栽培ベッド2を空にした後に同じ養液栽培装置1を使いまわして連続栽培を実行する方法でも良いし、直前のサツマイモの収穫前に取得した脇芽を用いて、別途に用意した養液栽培装置1を用いて連続栽培を実行しても良い。
【0034】
上述の(カリウム量が制御可能な)サツマイモの養液栽培方法によれば、主に茎葉が成長する生長前期では園試処方培養液の濃度を所定濃度まで薄めた低濃度養液を供給し、主に塊根が成長する生長後期で、用途・目的に応じてカリウム肥料の量を変えたカリウム調整養液を供給することによって、低カリウムサツマイモ又は、高カリウムサツマイモを収穫することができる。
【0035】
また、上述のサツマイモの(連続)養液栽培方法によれば、定植工程によって前記養液栽培装置(栽培ベッド)に定植する苗として、前回の栽培サイクルで栽培されたサツマイモから取得した脇芽を使用し、生育(生育前期・生育後期)工程にて、園試処方培養液の濃度を薄めた低濃度養液を供給することによって、栽培サイクルを3~4カ月程度まで短縮することができる。すなわち、通常の土耕栽培では年1回しか収穫できないサツマイモを、上述の養液栽培を行うことによって年に3~4回収穫することができるようになる。
【0036】
このとき、前記定植工程において、前記養液栽培装置に定植される苗として直前の栽培サイクルで栽培されたサツマイモから取得された脇芽を用いたことにより、定植する苗を種芋から1カ月程度かけて育苗する必要がなくなるため、栽培サイクルを1カ月あまり短縮することができる。
【0037】
以上の養液栽培方法によれば、栽培されるサツマイモに含有されるカリウム量を制御しつつ、このサツマイモを年に3~4回収穫することができる。
【実施例1】
【0038】
次に、
図3乃至5に基づいて、上述のカリウムの含有量が制御可能なサツマイモの養液栽培方法の具体的な実施例について説明する。
図3は、収穫されたサツマイモの収量とカリウム含量を示した表図であり、
図4(A)は、定植した状態を示した写真であり、
図4(B)及び(C)は、定植から9週後・15週後の生育状態を示した写真であり、
図5(A)乃至(D)は、定植から17週後に収穫したベニアズマ・ベニハルカ・金時・安納を示した写真である。
【0039】
本実施例では、前記養液栽培装置を用いて上述のサツマイモの養液栽培を行う対象(品種)として、ベニアズマ、ベニハルカ、金時、安納の計4つを用いた。
【0040】
まず、長手方向が1mほど延設された前記栽培ベッド2に、25Lのパーライトを敷詰めることにより固形培土を形成し、一つの前記栽培ベッド2に、2~3株のサツマイモの苗(脇芽)を長手方向に並べて定植した。さらに、定植した各株元に養液が供給されるようにパーライト内に前記養液供給装置5の供給ノズル5aを埋設した(定植工程(5月27日)、
図4(A)参照)。
【0041】
次に、前記養液供給装置5によって、定植した株元に向けて園試処方培養液の濃度を25%に薄めたカリウムを含む低濃度養液を、1回あたり200ml、1日あたり13回というタイミングで供給し続けながらサツマイモの苗を生長させた(生育前期工程、
図4(B)参照)。
【0042】
次に、定植後9週目(7月29日)に低濃度養液からカリウム肥料を除去したカリウム調整養液(カリウム除去養液)に切換えることで、カリウム肥料の供給停止を行った区(以下、2カ月供給区)と、定植後13週目(8月25日)に低濃度養液からカリウム肥料を除去したカリウム調整養液(カリウム除去養液)に切換えることで、カリウム肥料の供給停止を行った区(以下、3カ月供給区)と、定植から収穫まで低濃度養液を供給し続けることでカリウム肥料の供給を継続する区(以下、連続供給区)とを設けた(生育後期工程、
図4(C)参照)。
【0043】
次に、定植後17週目(9月23日)に一斉にサツマイモの収穫を行った(収穫工程、
図5(A)乃至(D))。その後、各供給区で収穫された各品種のサツマイモの収量を調べるとともに、各供給区で収穫された各品種のサツマイモのカリウム含量を、生イモカリウム標準値と比較した(
図3参照)。以下、結果について説明する。
【0044】
図3に示されるように、サツマイモの1株毎の収量は、生育後期からカリウム肥料の供給を停止した場合であっても、大きく減少することはなく、品種(ベニハルカや安納)によっては収量が多くなるものもあった。なお、生育前期からカリウムの少ない低濃度養液を供給して生育したが、サツマイモの葉色に大きな変化はなく、カリウム欠乏症のように葉が黄化することはなかった(
図4(B)及び(C)参照)。
【0045】
また、サツマイモのカリウム含量について、定植から収穫までの栽培期間約4カ月中、後半2カ月でカリウム肥料の供給を停止した2カ月供給区では、カリウム含量が生イモ標準値と比較して5割近く削減できた。また、後半1カ月でカリウム肥料の供給を停止した3カ月供給区では、カリウム含量が生イモ標準値と比較して1~2割程度削減できた。なお、安納に限っては3カ月供給でも標準よりもカリウム含量が増えた(
図3参照)。
【0046】
さらに、定植から収穫まで低濃度養液によってカリウム肥料の供給を続けた連続供給区では、品種によって増加量に差はあったものの、全ての品種でカリウム含量が生イモ標準値と比較して多くなった(
図3参照)。
【0047】
以上によれば、養液栽培(パーライト耕)で養液を介して供給される(特に生育後期での)カリウム肥料の量を調整することによって、収穫されるサツマイモに含まれるカリウム量が制御可能であることが示された。
【0048】
具体的に説明すると、本発明のサツマイモの養液栽培方法は、前記生育後期工程で養液を介したカリウム肥料の供給を停止することによって、人工透析患者用の低カリウムサツマイモが栽培可能となり、カリウム肥料の供給を停止するタイミングを(定植から2~3カ月の範囲で)制御することでサツマイモ中のカリウムの削減量もコントロールすることができる。
【0049】
その一方で、本発明のサツマイモの養液栽培方法は、生育(生育前期・生育後期)工程でカリウムを含む低濃度肥料の供給を続けた場合、土耕栽培によって普通に育てたサツマイモよりもカリウム量が増える傾向にあるため、アスリートや宇宙飛行士用の高カリウムサツマイモを生産可能することができる。なお、上記の品種の中では安納が供給する養液中のカリウム肥料の量を制御することによる影響を受けやすいものと考えられる。
【実施例2】
【0050】
次に、
図3乃至7に基づき、養液栽培によるサツマイモの連続栽培方法の具体的な実施例について、上述の例と異なる点について説明する。
図6(A)及び(B)は、1回目の栽培サイクルで育てたサツマイモから取得した脇芽と、その脇芽を定植した状態を示した写真であり、
図6(C)は、2回目の栽培サイクルで定植した脇芽が定着した状態を示した写真であり、
図7(A)及び(B)は、定植から13週で収穫したサツマイモを示した写真である。
【0051】
実施例1と同様の条件の養液栽培装置1を用いて、上述の養液栽培によるサツマイモの連続栽培を行う。まず、栽培ベッド2に実施例1と同様に、サツマイモの苗(脇芽)の定植を行う(定植工程)。
【0052】
実施例1と同様に、前記養液供給装置5によって、定植した株元に向けて園試処方培養液の濃度を25%に薄めたカリウムを含む低濃度養液を、1回あたり200ml、1日あたり13回というタイミングで供給し続けながらサツマイモの苗を生長させた(生育前期・生育後期工程、
図4(B)及び(C)参照)。
【0053】
次に、定植後17週目(9月23日)で一斉にサツマイモの収穫を行う直前に、サツマイモの蔓から、次回の栽培サイクルでの定植する苗として、脇芽を取得した(
図6(A)参照)。
【0054】
次に、通常は水分を飛ばした苗を定植するところ、脇芽から水分を飛ばすことなくすぐに脇芽(苗)を定植することによって、2回目の栽培サイクルを開始した(
図6(B)参照)。
【0055】
その結果、
図6(C)に示されるように、実験を行った全ての品種(ベニアズマ、ベニハルカ、金時、安納)で苗(脇芽)が活着し、良好な生育が見られた。これは、土耕とは違い、養液栽培は固形培地(パーライト)に適度な水分が常時保たれ、園試処方培養液を薄めた低濃度養液を用いたことで、脇芽から順調に発根したものと考えられる。
【0056】
一般的には、養液栽培で養液濃度が高い場合は夏場の高温で根腐れが起きやすいため、通常は養液を水に代えて発根を促すことが多いが、本発明の栽培方法によれば、生育工程で低濃度養液として園試処方培養液の濃度を25%に薄めたものを用いたため、そのまま根腐れすることなく発根したものと考えられる。
【0057】
これにより、前記養液栽培装置を用いて、サツマイモを連続栽培する場合、定植する苗として、直前の栽培サイクルでの成長したサツマイモから取得した脇芽を用いることで、種芋から苗を育苗する手間と時間が必要ないため、サツマイモの栽培をスムーズに再開することができる。
【0058】
ちなみに、定植後13週(約3カ月)でサツマイモを収穫した場合であっても、
図7(A)及び(B)に示されるように、定植後17週で収穫したサツマイモよりも一回り小さいもの、1株から7本のサツマイモ(最大重量が688g)が収穫された。
【0059】
以上によれば、上述のサツマイモの養液連続栽培方法をビニールハウス(室)内で行うことにより、苗(脇芽)の定植からサツマイモの収穫までの栽培サイクルを3~4カ月で行いつつ、この栽培サイクルをシームレスに連続して行うことができる。このため、本発明のサツマイモの連続栽培方法によれば、1年に3~4回サツマイモを収穫することができる。