IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オラクル・インターナショナル・コーポレイションの特許一覧

特許7575840ユーティリティシステムの負荷形状予測を容易にするためのインテリジェントデータ前処理技術
<>
  • 特許-ユーティリティシステムの負荷形状予測を容易にするためのインテリジェントデータ前処理技術 図1A
  • 特許-ユーティリティシステムの負荷形状予測を容易にするためのインテリジェントデータ前処理技術 図1B
  • 特許-ユーティリティシステムの負荷形状予測を容易にするためのインテリジェントデータ前処理技術 図1C
  • 特許-ユーティリティシステムの負荷形状予測を容易にするためのインテリジェントデータ前処理技術 図2A
  • 特許-ユーティリティシステムの負荷形状予測を容易にするためのインテリジェントデータ前処理技術 図2B
  • 特許-ユーティリティシステムの負荷形状予測を容易にするためのインテリジェントデータ前処理技術 図3
  • 特許-ユーティリティシステムの負荷形状予測を容易にするためのインテリジェントデータ前処理技術 図4
  • 特許-ユーティリティシステムの負荷形状予測を容易にするためのインテリジェントデータ前処理技術 図5
  • 特許-ユーティリティシステムの負荷形状予測を容易にするためのインテリジェントデータ前処理技術 図6
  • 特許-ユーティリティシステムの負荷形状予測を容易にするためのインテリジェントデータ前処理技術 図7
  • 特許-ユーティリティシステムの負荷形状予測を容易にするためのインテリジェントデータ前処理技術 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】ユーティリティシステムの負荷形状予測を容易にするためのインテリジェントデータ前処理技術
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20241023BHJP
   G06Q 50/06 20240101ALI20241023BHJP
【FI】
H02J3/00 130
H02J3/00 180
G06Q50/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021577148
(86)(22)【出願日】2020-05-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-07
(86)【国際出願番号】 US2020031474
(87)【国際公開番号】W WO2021002930
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-04-25
(31)【優先権主張番号】16/458,498
(32)【優先日】2019-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502303739
【氏名又は名称】オラクル・インターナショナル・コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エイフォード,コーネル・トーマス,ザ・サード
(72)【発明者】
【氏名】グロース,ケニー・シィ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,グアン・シィ
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-023227(JP,A)
【文献】特開平10-224990(JP,A)
【文献】特開2019-032807(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0156322(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
G06Q 50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーティリティシステムの電力需要を予測するための方法であって、
前記ユーティリティシステムに電力を分配する電力網全体の様々な場所で収集された負荷情報の履歴を含むアーカイブから負荷信号のセットを受信することと、
負荷信号の前記セットを前処理することとを備え、
負荷信号の前記セットを前処理することは、
第1の差分関数を負荷信号の前記セットに適用して差分信号のセットを生成することと、
差分信号の前記セットに対してスパイク検出動作を実行し、ネットワークの中断期間に関連する負荷信号の前記セット内のギャップを識別する、正-負のスパイクと負-正のスパイクとのペアを識別することと、
各識別されたギャップを、前記識別されたギャップの直前の連続的な負荷値に基づいて局所的な負荷形状予測動作を実行することによって決定される予測される負荷値で埋めることによって負荷信号の前記セットを修正することとを含み、
前記方法は、前処理された負荷信号の前記セットに基づいて、前記ユーティリティシステムの電力需要を予測することをさらに備える、方法。
【請求項2】
前記方法は、前記電力需要の前記予測を使用して、前記ユーティリティシステムによって提供される電力の供給を制御することをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ユーティリティシステムによって提供される電力の前記供給を制御することは、
前記ユーティリティシステム内の1つ以上の発電所によって生成される電力の量を制御することと、
前記ユーティリティシステムの電力を電力網を介して購入することと、
前記ユーティリティシステムによって生成された電力を前記電力網を介して販売することと、
前記ユーティリティシステムによる将来の使用のために電力を貯蔵することと、
前記ユーティリティシステム用の新しい発電所を建設する計画を立てることとのうち1つ以上を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ユーティリティシステムの前記電力需要を予測することは、
負荷信号の前記セットおよび他の入力信号を含む入力信号のセットを使用して、入力信号の前記セット間の相関関係を学習する推論モデルをトレーニングすることと、
入力信号の前記セット内の各入力信号に対する推論信号を生成する前記推論モデルを使用して、推論信号のセットを生成することと、
推論信号の前記セット内の各信号を決定論的および確率論的成分に分解し、前記決定論的および確率論的成分を使用して、前記推論信号と統計的に区別できない合成信号のセットを生成する、フーリエベースの分解および再構成技術を使用することと、
合成信号の前記セットを将来分として見積もり、前記ユーティリティシステムの前記電力需要の予測を生成することとを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記推論モデルは、多変量状態推定技術(MSET)を使用してトレーニングされる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
合成信号の前記セットを生成するために前記フーリエベースの分解および再構成技術を使用することは、合成信号の前記セットを生成するために使用される精度の高い合成方程式を生成するテレメトリパラメータ合成(TPSS)技術を使用することを含む、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
合成信号の前記セットを生成することは、
正規化されていない信号のセットを生成することと、
正規化されていない信号の前記セットに対して周囲気象正規化動作を実行して合成信号の前記セットを生成することとを含み、
前記周囲気象正規化動作は、過去の、現在の、および予測される気象測定値ならびに過去の電力使用量データを使用して、電力需要の前記予測に対する気象の影響の原因となる、正規化されていない信号の前記セットを調整する、請求項4~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記他の入力信号は、スマートメータのセットからの電力使用量データを含み、
前記セット内の各スマートメータは、前記ユーティリティシステムの顧客から電力使用量データを収集する、請求項4~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記識別されたギャップ内の前記負荷値を前記予測される負荷値で置き換えることは、最適値補完技術を使用することを伴い、
前記最適値補完技術は、負荷信号の前記セット内の欠落した負荷値を、前記負荷信号間の相関関係に基づいて決定される補完された負荷値で置き換える、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
コンピュータによって実行された場合に、前記コンピュータに、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法を実行させる、コンピュータプログラム。
【請求項11】
ユーティリティシステムの電力需要を予測するシステムであって、
少なくとも1つのプロセッサおよび少なくとも1つの関連するメモリと、
前記少なくとも1つのプロセッサ上で請求項1~9のいずれかに記載の方法を実行する予測機構とを備える、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
分野
開示される実施形態は、概して、電力需要予測を実行して、ユーティリティシステムの進行中の動作を促進するための技術に関する。より具体的には、開示される実施形態は、ユーティリティシステムの改善された電力負荷形状予測を容易にするインテリジェント負荷データ前処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術
電力ユーティリティシステムは、典型的には、非常に限られた電力貯蔵を提供し、これは、供給および需要が連続的に整合されなければならないことを意味する。需要が供給を突然超えると、地域的な停電が発生し得る。そのような停電を回避するために、ユーティリティは、局所的な電力網および全国的な電力網を介して継続的に電力を購入および販売する。電力網上で電力を購入および販売するためのリアルタイムスポット市場レートが10から20倍まで変動し得るため、2時間以上先の需要を予測するための正確な負荷形状予測が不可欠である。この理由から、ほとんどのユーティリティシステムは、多年データ履歴アーカイブおよび長期履歴気象パターンからの情報を分析して、現在および短期予測の気象条件に基づいて短期的な負荷形状予測を作成する機械学習技術を使用し始めている。これらの短期的な予測は、供給および需要の決定を最適化して、スポット市場での購入のコストを最小限に抑え、スポット市場での販売からの収益を時間ベースで最大にすることを可能にする。
【0003】
ユーティリティシステムはまた、数週間および数ヶ月先の需要を予測するための長期的な負荷形状予測に関係がある。当該需要は、時間ごとまたは日々の気象変動によってあまり影響されないが、そのユーティリティによって提供される地理的領域にわたって予測される人口増加(または減少)パターン、季節的な気象パターン、および住宅/ビジネス需要の増加パターンによってより影響される。そのような長期的な需要予測は、電力ユーティリティによって、以下のような重要なオペレーションを実行するために使用される。重要なオペレーションとは、たとえば、需要側管理、ストレージの保守及びスケジューリング、再生可能エネルギー源の統合、エネルギー交換などの代替手段を介してより安価な電力の利用可能性を調整すること、および、近隣のユーティリティ及びコジェネレーション施設との互恵的な電力供給契約を作成することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
短期的および長期的な予測の両方の精度は、データ履歴アーカイブにおけるアーカイブされた信号の精度によって強く影響される。しかしながら、そのようなアーカイブされた信号の精度は、変圧器故障または定期メンテナンスなどのネットワーク中断事象によって悪影響を受けることが多い。そのようなネットワーク中断事象中に生成されたアーカイブされたデータは、ユーティリティシステムの通常動作と一致せず、短期的および長期的な需要予測の両方において著しい不正確さにつながり得る。
【0005】
したがって、そのようなネットワーク中断事象中に生成されたアーカイブされたデータ履歴信号に対する異常な摂動の悪影響を軽減するための技術が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
開示される実施形態は、ユーティリティシステムの電力需要を予測するシステムに関する。動作中、当該システムは、まず、ユーティリティシステムに電力を分配する電力網全体の様々な場所で収集された負荷情報の履歴を含むアーカイブから負荷信号のセットを受信する。次いで、当該システムは、負荷信号のセットを前処理する。この前処理動作中において、当該システムは、第1の差分関数を負荷信号のセットに適用して差分信号のセットを生成する。当該システムは、次いで、差分信号のセットに対してスパイク検出動作を実行し、ネットワークの中断期間に関連する負荷信号のセット内のギャップを識別する、正-負のスパイクと負-正のスパイクとのペアを識別する。次いで、当該システムは、各識別されたギャップを、識別されたギャップの直前の連続的な負荷値に基づいて局所的な負荷形状予測動作を実行することによって決定される予測される負荷値で埋めることによって負荷信号のセットを修正する。当該前処理動作が完了した後、当該システムは、前処理された負荷信号のセットに基づいて、ユーティリティシステムの電力需要を予測する。
【0007】
ある実施形態では、当該システムは、電力需要の予測を使用して、ユーティリティシステムによって提供される電力の供給を制御する。
【0008】
ある実施形態では、ユーティリティシステムによって提供される電力の供給を制御することは、ユーティリティシステム内の1つ以上の発電所によって生成される電力の量を制御すること、ユーティリティシステムの電力を電力網を介して購入すること、ユーティリティシステムによって生成された電力を電力網を介して販売すること、ユーティリティシステムによる将来の使用のために電力を貯蔵すること、および、ユーティリティシステム用の新しい発電所を建設する計画を立てるかまたはユーティリティシステム用の他の生成資産(例えば、風力タービン、ガス燃焼タービン、ソーラーファーム、または地熱資産)を追加すること、のうち1つ以上を含む。
【0009】
ある実施形態では、当該システムは、ユーティリティシステムの電力需要を予測する際に、負荷信号のセットおよび他の入力信号を含む入力信号のセットを使用して、入力信号のセット間の相関関係を学習する推論モデルをトレーニングする。次いで、当該システムは、入力信号のセット内の各入力信号に対する推論信号を生成する推論モデルを使用して、推論信号のセットを生成する。次いで、当該システムは、推論信号のセット内の各信号を決定論的および確率論的成分に分解し、決定論的および確率論的成分を使用して、推論信号と統計的に区別できない合成信号のセットを生成するフーリエベースの分解および再構成技術を使用する。最後に、当該システムは、合成信号のセットを将来分として見積もり、ユーティリティシステムの電力需要の予測を生成する。
【0010】
ある実施形態では、推論モデルは、多変量状態推定技術(Multivariate State Estimation Technique: MSET)を使用してトレーニングされる。
【0011】
ある実施形態では、当該システムは、合成信号のセットを生成するためにフーリエベースの分解および再構成技術を使用する際に、合成信号のセットを生成するために使用される精度の高い合成方程式を生成するテレメトリパラメータ合成(Telemetry Parameter Synthesis: TPSS)技術を使用する。
【0012】
ある実施形態では、当該システムは、合成信号のセットを生成する際に、まず、正規化されていない信号のセットを生成する。当該システムは、次いで、正規化されていない信号のセットに対して周囲気象正規化動作を実行して合成信号のセットを生成する。周囲気象正規化動作は、過去の、現在の、および予測される気象測定値ならびに過去の電力使用量データを使用して、電力需要の予測に対する気象の影響の原因となる、正規化されていない信号のセットを調整する。
【0013】
ある実施形態では、他の入力信号は、スマートメータのセットからの電力使用量データを含む。セット内の各スマートメータは、ユーティリティシステムの住宅およびビジネスの顧客から電力使用量データを収集する。
【0014】
ある実施形態では、当該システムは、識別されたギャップ内の負荷値を予測される負荷値で置き換える際に、最適値補完技術を使用する。最適値補完技術は、負荷信号のセット内の欠落した負荷値を、負荷信号間の相関関係に基づいて決定される補完された負荷値で置き換える。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】開示される実施形態に従う、左の回路および右の回路を含む例示的な電力網回路を示す図である。
図1B】開示される実施形態に従う、変圧器が右の回路から左の回路に移動した同じ電力網回路を示す図である。
図1C】開示される実施形態に従う、変圧器付近に絶縁障害(isolated fault)を有する同じ電力網回路を示す図である。
図2A】開示される実施形態に従う、負荷転送ケースの負荷パターンを示すグラフを提示する図である。
図2B】開示される実施形態に従う、停止ケースの負荷パターンを示すグラフを提示する図である。
図3】開示される実施形態に従う、電力網を介して家庭および企業に接続された発電所のセットを備える電力ユーティリティシステムを示す図である。
図4】開示される実施形態に従う、負荷形状予測がどのように計算されるかを示すフロー図である。
図5】開示される実施形態に従う、負荷データを前処理し、次いで、前処理された負荷データを使用して電力需要を予測する技術のフローチャートである。
図6】開示される実施形態に従う、プリプロセッサを示す図である。
図7】開示される実施形態に従う、電力需要を予測するためのプロセスを示すフローチャートである。
図8】開示される実施形態に従う、ネットワークの中断期間に関連するギャップ内の負荷値を、予測される負荷値で置き換えるためのプロセスを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
以下の説明は、当業者が本実施形態を作成および使用することを可能にするために提示され、特定の用途およびその要件との関連で提供される。開示された実施形態に対する様々な修正は、当業者には容易に明らかであり、本明細書で定義された一般的な原理は、本実施形態の精神および範囲から逸脱することなく他の実施形態および用途に適用され得る。したがって、本実施形態は、示される実施形態に限定されず、本明細書で開示される原理および特徴と合致する最も広い範囲を与えられるべきである。
【0017】
この詳細な説明で説明されるデータ構造およびコードは、典型的には、コンピュータ可読記憶媒体上に記憶される。コンピュータ可読記憶媒体は、コンピュータシステムによる使用のためのコードおよび/またはデータを記憶することができる任意のデバイスまたは媒体であり得る。コンピュータ可読記憶媒体は、限定はしないが、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、ディスクドライブ、磁気テープ、CD(コンパクトディスク)、DVD(デジタル多用途ディスクまたはデジタルビデオディスク)などの磁気および光学記憶デバイス、または現在知られているかもしくは後に開発される、コンピュータが読取可能な媒体を記憶することが可能な他の媒体を含む。
【0018】
詳細な説明のセクションで説明される方法およびプロセスは、コードおよび/またはデータとして具現化され得る。コードおよび/またはデータは、上述のようなコンピュータ可読記憶媒体に記憶され得る。コンピュータシステムがコンピュータ可読記憶媒体に記憶されたコードおよび/またはデータを読み取り、実行するとき、コンピュータシステムは、データ構造およびコードとして具現化され、コンピュータ可読記憶媒体内に記憶された方法およびプロセスを実行する。さらに、以下で説明される方法およびプロセスは、ハードウェアモジュールに含まれ得る。例えば、ハードウェアモジュールは、特定用途向け集積回路(ASIC)チップ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、および現在知られているまたは後に開発される他のプログラマブルロジックデバイスを含むことができるが、これらに限定されない。ハードウェアモジュールが起動されると、ハードウェアモジュールは、ハードウェアモジュール内に含まれる方法およびプロセスを実行する。
【0019】
概要
電気的負荷が中断され得る方法を理解するために、まず、我々は、2つの共通のシナリオを検討する。図1Aを参照して、図の左側および右側から生じる2つの回路が共通の接続スイッチ102を共有する。これらの回路は両方とも、通常、200kVAの負荷を支持する(carry)。ここで、右の回路内の閉じた中点スイッチ104は維持される必要が
あると仮定するなら、図1Bに示すように、接続スイッチ102を閉じるとともに接続スイッチ104を開くことによって、変圧器106は、右の回路から左の回路に振り替えられる。この時点で、左の回路は300kVAを支持している(is carrying)が、右の回
路は100kVAだけ支持している(is carrying)。さらに、すべてが適切に動作して
おり、停止はない。しかしながら、2つの丸で囲まれたスイッチ102および104は、異常な状態にある(「無効な状態」ではなく、「通常構成の状態にない」)。これは、両方の回路の負荷レベルを負荷予測の目的において無効な状態にする。左の回路は、永久的な50%の負荷増加を示しておらず、我々はこの負荷増加を将来に予測すべきでもない。同様に、の回路はその負荷の半分が永久的に消失したことを示しておらず、その負荷の半分は一時的に別の回路に転送され、おそらく1日または2日で戻される。左右両方の回路の負荷転送ケースに対応する負荷パターンを図2Aに示す。我々は、成長速度および他の変化を決定するために、実際には「定常状態」の負荷を使用することだけを望むので、これらの異常を自律的に選別できることを望む。
【0020】
図1Cに示されるように、停電時に同様のことが起こる。この場合、絶縁障害が変圧器106の近くに存在し、これはもはや電力を受け取っていない。左の回路は正常に動作しているが、右の回路は、停電の復旧中には、100kVAの負荷しか供給していない。左右両方の回路の、この停電のケースに対応する負荷パターンを図2Bに示す。停電のケースにおいて、データの履歴によってピックアップされるものに応じて、負荷信号内にいくつかのノイズがあり得ることに留意されたい。例えば、短絡の存在を示す電流の大きなスパイクがあり得、短絡は回路遮断器によって中断され、電流を一時的にゼロに低下させる。しかしながら、スパイクは、ユーティリティのアナログシステム制御およびデータ取得(System Control And Data Acquisition: SCADA)システムがそれを拾い上げるほど長くは持続しない可能性がある。したがって、回路は、通常、アークを消滅させるために障害を中断した後、数秒間はトリップされた(tripped)オフラインのままである。これは、センサによって見られるゼロ電流の少なくとも数個のインターバルがあることを意味する。障害が発見され、第1の区分スイッチが開かれると、回路の第1の半分を迅速に復元することができ、残りは障害が修復された後にオンラインに戻される。再び、回路は、予測の観点から負荷の「真の」低下を経験せず、回路は、停電により一時的に負荷値を欠いているだけである。
【0021】
上記のシナリオの各々について、我々は、短期的および長期的な負荷形状予測のためのトレーニングプロセスを開始する前にデータ履歴データベースから異常パターンを「分析的に離調」することができるように、当該データ履歴データベースにおいてこれらの異常がどこで発生するかを識別することを望む。この予測プロセス中に、我々は、根底にある長期的な傾向を計算することを望むが、これらは、通常、1年にわたって数パーセント以下の変化しかもたらさないものの、短期的な異常は桁違いに大きくなり得て、長期的な傾向を容易に不明瞭にし得る。
【0022】
上記の例では、単純な直線のグラフを有する2つのデータクレンジングシナリオの単純な図を提供したが、実際には、実際のデータ履歴時系列グラフは非常に動的であり、大部分の大都市では、日中(夜間)の負荷変動は30%である。次いで、国の最も暑い地域と国の最も寒い地域とでは、これらの日中の負荷変動は、さらに80%の長期的な季節変動(最も寒い冬の日から最も暑い夏の日)に重ね合わせられる。したがって、負荷形状予測のためのトレーニングデータの前処理を容易にする自動異常発見プロセスは、単に閾値を設定し、次いで、負荷が閾値を超えた場合にネットワーク異常を推論することによっては、効果的に機能しない。必要とされるのは、いわゆる「ボックスの不規則性」を効率的に検出するための高度な統計的パターン認識に基づく技術である。「ボックスの不規則性」は、上方または下方の方形波偏差を意味し、複雑で動的な負荷形状パターンに重ね合わせられる。
【0023】
インテリジェントな自律的前処理のための我々の新しい技術は、長期的なデータ履歴信号をふるいにかけ、定常状態の時系列信号以外のボックスの不規則性を識別する。我々の新しい技術は、データ履歴内の各信号について第1の差分関数を計算することによって始まる。第1の差分関数は、時系列信号の一次導関数の数値近似である。第1の差分関数は、それらの大きさにかかわらず、すべてのプラトー領域を強調することに留意されたい。次いで、第1の差分関数において、スパイクに単純な基準を課すことによって、我々は、「方形波」偏差を識別および特徴付けることができる。例えば、負荷信号における上方の矩形は、正のスパイクと、それに続く、第1の差分関数における負のスパイクとを含み、負荷信号における下方の矩形は、負のスパイクと、それに続く、第1の差分関数における正のスパイクとを含む。
【0024】
我々は、そのような正のスパイクと負のスパイクとを検出するために「スパイク検出」技術を使用することに留意されたい(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、2018年12月10日に出願された発明者Guang C. WangおよびKenny C. Grossによる「Synthesizing High-Fidelity Signals with Spikes for Prognostic-Surveillance Applications」と題された米国特許出願16/215,345に記載されているスパイク検出技術を参照されたい。)。このスパイク検出技術は、正-負のスパイクと負-正のスパイクとのペアを検出するために第1の差分関数に適用され、データ履歴信号からボックスの不規則性を除去することを可能にし、短期的および長期的な負荷形状予測を容易にする。
【0025】
全てのボックスの不規則性がデータ履歴信号において識別された後、それらのボックスの不規則性を単に切り取り、破棄する代わりに、我々は、ボックスの不規則性によって生成されたギャップを、先行する負荷値から推論される負荷値で埋める。各ボックスの不規則性について、(1)我々は、まず、ボックスの不規則性の前に生じた「正常」データの可能な限り長いセグメントを抽出する。(2)我々は、次に、抽出されたセグメントを使用して、負荷形状予測技術のための「小型予測モデル」をトレーニングする。(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、2017年9月26日に出願された発明者Kenny C. Gross, Mengying LiおよびGuang C. Wangによる「Electric Loadshape Forecasting Based on Smartmeter Signals」と題された米国特許出願15/715,692に記載されている負荷形状予測モデルを参照されたい。)(3)我々は、最後に、この小型予測モデルを使用して、ボックスの不規則性の期間にわたる負荷値を予測する。
【0026】
例えば、もし、18ヶ月間ネットワークに異常がなく、次いで修復に2週間かかる停止が生じた場合、データ履歴アーカイブ内のデータストリームには、2週間のボックスの不規則性が存在するであろう。この場合、我々は、ネットワークが停止する前の連続する18ヶ月からの負荷値を使用して、2週間の停止期間にわたる負荷値を予測する。これは、単純にボックスの不規則性のデータを破棄して負荷形状予測のためのトレーニングデータを生成するよりも優れている。ボックスの不規則性に関連する負荷データにおけるすべてのギャップが、推論された負荷値で埋められた後、我々は、将来の電力負荷を予測するために負荷形状予測モデルをトレーニングする。
【0027】
我々の前処理技術をさらに説明する前に、我々は、まず、それが動作するユーティリティシステムについて説明する。
【0028】
例示的なユーティリティシステム
図3は、開示される実施形態に従う、電力網306を介して家庭および企業310に接続された発電所302~304のセットを備える例示的なユーティリティシステムを示す。発電所302~304は、概して、原子力発電所、太陽光発電所、風車もしくは風車農場、または、石炭火力発電所、天然ガス発電所もしくは石油燃焼発電所などの、電力を生成する任意のタイプの設備を含むことができることに留意されたい。発電所302~304は、電力網306に接続する。当該電力網306は、ユーティリティシステム300によるサービスを受ける地域内の家庭及び企業310に電力を転送し、また、他のユーティリティシステムとの間で電力を転送する。電力網306は、個々のスマートメータ308を介して家庭および企業310に電力を転送することに留意されたい。個々のスマートメータ308は、キロワット測定値とキロワットアワー測定値とを含む電力使用量データを格納するAMI信号をデータセンタ320に定期的に送信する。
【0029】
データセンタ320内の制御システムは、気象データ312と共にスマートメータ308からAMI信号を受信し、負荷予測を生成する。気象データ312は、過去の、現在の、および予測される気象情報を含む。負荷予測は、制御信号325を発電所302~304及び電力網306に送信するために使用される。このシステムの動作中、電力網306からの負荷データ327は、データセンタ320によって受信され、データ履歴アーカイブ330に保存される。この負荷データは、続いて、以下でより詳細に説明されるように、負荷予測を最適化するために使用される。
【0030】
負荷形状予測の生成
図4は、開示される実施形態に従う、上記のシステムが最適な負荷形状予測418をどのように計算するかを示すフロー図を提示する。当該システムは、ユーティリティシステム内の多数のスマートメータから得られるAMIメータ信号402から開始する。図4に示すように、これらのAMIメータ信号402は、過去のAMI信号403と最近のAMI信号404との両方を含む。当該システムは、最近のAMI信号404を推論的MSETモジュール405に供給する。推論的MSETモジュール405は、推論モデルをトレーニングして、最近のAMI信号404間の相関関係を学習する。次いで、当該システムは、トレーニングされた推論モデルを使用して、推論信号406のセットを生成する。次に、当該システムは、推論信号406をTPSS合成モジュール408に供給する。TPSS合成モジュール408は、TPSSトレーニング動作410を実行する。TPSSトレーニング動作410は、推論信号406のセット内の各信号を決定論的および確率論的成分に分解する。次いで、当該システムは、決定論的および確率論的成分を使用して、推論信号と統計的に区別できない合成信号の対応するセットを生成する。最後に、当該システムは、合成信号のセットを将来分として見積もり、ユーティリティの顧客のセットの電力需要について正規化されていないTPSS予測412を生成する。
【0031】
次に、当該システムは、正規化されていないTPSS予測412を周囲気象正規化モジュール416に供給する。周囲気象正規化モジュール416は、周囲気象の予測される変化によって引き起こされる電力使用量の変動の原因となる、正規化されていないTPSS予測412を正規化する。この正規化プロセスは、AMIメータ信号402が異なる気象パターンに対してどのように変化するかを決定するために、過去の気象測定値414に関して過去のAMI信号403を分析することを含む。次いで、正規化プロセスは、現在の、および、予測される気象測定値415を使用して、予測される気象条件の原因となる、正規化されていないTPSS予測412を修正する。これは、最終的な負荷形状予測418を生成する。最終的な負荷形状予測418は、ユーティリティシステムによって提供される電力の供給を制御するための上述したような様々な動作を実行するためにユーティリティシステムによって使用され得る。
【0032】
電力需要の予測
図5は、開示される実施形態に従う、負荷データを前処理し、次いで、前処理された負荷データを使用して電力需要を予測する技術のフローチャートを提示する。当該システムは、まず、ユーティリティシステムに電力を分配する電力網全体の様々な場所で収集された負荷情報の履歴を含むアーカイブから負荷信号のセットを受信する(ステップ502)。次に、当該システムは、第1の差分関数を負荷信号のセットに適用して、差分信号のセットを生成する(ステップ504)。次いで、当該システムは、差分信号のセットに対してスパイク検出動作を実行し、正-負のスパイクと負-正のスパイクとのペアを識別する。正-負のスパイクと負-正のスパイクとのペアは、ネットワークの中断期間に関連する負荷信号のセット内のギャップを識別する(ステップ506)。次いで、当該システムは、識別されたギャップの直前の連続的な負荷値に基づいて局所的な負荷形状予測動作を実行することによって決定される予測される負荷値で各識別されたギャップを埋めることによって、負荷信号のセットを修正する(ステップ508)。次いで、当該システムは、修正された負荷信号のセットに基づいて、ユーティリティシステムの電力需要を予測する(ステップ510)。最後に、当該システムは、電力需要の予測を使用して、ユーティリティシステムによって提供される電力の供給を制御する(ステップ512)。ステップ504,506、および508は、図6に示すように、プリプロセッサ604によって実行されることに留意されたい。プリプロセッサ604は、データ履歴負荷信号602を前処理して、前処理されたデータ履歴負荷信号606を生成する。
【0033】
図7は、開示される実施形態に従う、電力需要を予測するためのプロセスを示すフローチャートを提示する。(このフローチャートは、図5のフローチャートのステップ510において実行される動作をより詳細に示す。)まず、当該システムは、負荷信号のセットおよび他の入力信号を含む入力信号のセットを使用して、入力信号のセット間の相関関係を学習する推論モデルをトレーニングする(ステップ702)。次いで、当該システムは、入力信号のセット内の各入力信号に対する推論信号を生成する推論モデルを使用して、推論信号のセットを生成する(ステップ704)。次いで、当該システムは、フーリエベースの分解および再構成技術を使用する。フーリエベースの分解および再構成技術は、推論信号のセット内の各信号を決定論的および確率論的成分に分解し、決定論的および確率論的成分を使用して、推論信号と統計的に区別できない、正規化されていない合成信号のセットを生成する(ステップ706)。次いで、当該システムは、周囲気象正規化動作を、正規化されていない合成信号のセットに対して実行し、合成信号のセットを生成する。周囲気象正規化動作は、過去の、現在の、および予測される気象測定値ならびに過去の電力使用量データを使用して、電力需要の予測に対する気象の影響の原因となる、正規化されていない信号のセットを調整する(ステップ708)。最後に、当該システムは、合成信号のセットを将来分として見積もり、ユーティリティシステムの電力需要の予測を生成する(ステップ710)。
【0034】
図8は、開示される実施形態に従う、ネットワークの中断期間に関連するギャップ内の負荷値を、予測される負荷値で置き換えるためのプロセスを示すフローチャートを提示する。(このフローチャートは、図5のフローチャートのステップ508で実行される動作をより詳細に示す。)まず、当該システムは、ループカウンタiを初期化して1にする(ステップ802)。次いで、当該システムは、ループカウンタi<Nであるかどうかを判定する(ステップ804)。そうでない場合(ステップ804でNO)、プロセスは完了する。そうである場合(ステップ804でYES)、当該システムは、gapi-1とgapとの間の連続負荷値を収集する(ステップ806)。次いで、当該システムは、収集された負荷値に基づいて、ギャップの負荷値を生成するために小型の負荷形状予測モデルを構築する(ステップ808)。次いで、当該システムは、小型の負荷形状予測モデルを使用して、gapの負荷値を生成する(ステップ810)。最後に、当該システムは生成された負荷値を使用して、gapを埋め(ステップ812)、ループカウンタiをi+1にインクリメントし(ステップ814)、その後ステップ804に戻る。
【0035】
開示された実施形態に対する様々な修正は、当業者には容易に明らかであり、本明細書で定義された一般的な原理は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく他の実施形態および用途に適用され得る。したがって、本発明は、示される実施形態に限定されず、本明細書で開示される原理および特徴に合致する最も広い範囲を与えられるべきである。
【0036】
実施形態の前述の説明は、例示および説明のみを目的として提示されている。これらは、網羅的であること、または、本説明を開示された形態に限定することを意図するものではない。したがって、多くの修正および変形が当業者には明らかであろう。加えて、上記の開示は、本説明を限定することを意図するものではない。本説明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義される。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8